(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6163154
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】ケーブル、及び放射線測定装置
(51)【国際特許分類】
G01T 1/00 20060101AFI20170703BHJP
G01T 1/20 20060101ALI20170703BHJP
G01T 1/203 20060101ALI20170703BHJP
G02B 6/44 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
G01T1/00 A
G01T1/20 L
G01T1/203
G01T1/20 B
G02B6/44 381
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-518404(P2014-518404)
(86)(22)【出願日】2013年5月22日
(86)【国際出願番号】JP2013064211
(87)【国際公開番号】WO2013179970
(87)【国際公開日】20131205
【審査請求日】2016年1月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-124412(P2012-124412)
(32)【優先日】2012年5月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【弁理士】
【氏名又は名称】宇高 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 大吾
(72)【発明者】
【氏名】新治 修
(72)【発明者】
【氏名】植田 達也
【審査官】
鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−127246(JP,A)
【文献】
特開平03−092789(JP,A)
【文献】
特開昭54−012882(JP,A)
【文献】
特開平07−311269(JP,A)
【文献】
特開平09−015335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00− 7/12
G02B 6/00
G02B 6/04− 6/08
G02B 6/44− 6/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護管と、
前記保護管内に設けられたシンチレーションファイバと、
前記保護管内に設けられたオイル
とを具備してなり、
前記オイルが前記保護管と前記シンチレーションファイバとの間に設けられている
ことを特徴とするケーブル。
【請求項2】
前記保護管の内表面の構成材料と前記シンチレーションファイバの外表面の構成材料とが同種の材料の選定によって構成されてなる
ことを特徴とする請求項1のケーブル。
【請求項3】
前記保護管内に設けられたシンチレーションファイバがプラスチックシンチレーションファイバである
ことを特徴とする請求項1又は請求項2のケーブル。
【請求項4】
前記保護管内に設けられたシンチレーションファイバが2本以上である
ことを特徴とする請求項1〜請求項3いずれかのケーブル。
【請求項5】
請求項1〜請求項4いずれかのケーブルを具備する
ことを特徴とする放射線測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図8はシンチレーションファイバを用いた放射線検出器の概略図である。
図8中、1は放射線である。2a,2bは、螢光により発生した光パルスである。3は、シンチレーションファイバを含むケーブルである。4a,4bは、シンチレーションファイバ3に接続された受光素子である。5a,5bは、前置増幅器である。6a,6bは、コンスタントフラクションディスクリミネータ(波高弁別器)である。7は信号遅延回路である。8は時間波高変換器である。9はアナログデジタル変換器である。10はマルチチャンネル波高分析器(放射線分析器)である。動作が説明される。放射線1がシンチレーションファイバ3に入射すると、シンチレーションファイバ3内で蛍光が発生する。この結果、シンチレーションファイバ3の両端に光パルス2a,2bが伝搬する。受光素子4a,4bは、受光した光パルス2a,2bを、電気パルス信号に変換する。この電気パルス信号は、コンスタントフラクションデイスクリミネータ6a,6b、信号遅延回路7を介して、時間波高変換器8に入力される。受光素子4a,4bに到達する時間差に比例した波高を持った電気パルスが、時間波高変換器8から、出力される。このパルスはアナログデジタル変換器9に入力される。マルチチャンネル波高分析器10が波高ごとに弁別して計数することによって、放射線1の入射位置が判る。カウント数から放射線線量率が判る。上記にあっては、シンチレーションファイバ3の両端に受光素子4a,4bが設けられているので、放射線1の入射位置が判る。これは、タイムオブフライト(Time of Flight:TOF)法(飛行時間差測定法)と呼ばれている。この方法は、参考文献に掲げた一般的な放射線測定法である。放射線線量率を測定するのみであれば、受光素子は1個でも良い。
【0003】
シンチレーションファイバ3としてプラスチックシンチレーションファイバ(PSF)が知られている。PSFは、プラスチックシンチレータ(コア)に低屈折率高分子材がクラッドされたプラスチックファイバである。前記コアは、通常、芳香環を持った有機高分子(例えば、ポリスチレンやポリビニルトルエン)に有機蛍光体が溶解されたもので構成される。前記低屈折率高分子材は、例えばポリメチルメタクリレートや、フッ素含有のポリメチルメタクリレートである。PSFは放射線測定用途に用いることが出来る。PSFによる放射線測定の原理は次の通りである。放射線(X線やγ線などの高エネルギー電磁波;中性子線;電子線(β線);陽子などの荷電粒子線)が前記コアに照射されると、コア材料である芳香環の高分子から紫外線が放射される。その結果、含有有機蛍光体によって、紫外光の吸収、長波長への波長変換が起きる。光電子増倍管の最高感度である青色への変換が起きる。この青色光が、コア内を伝搬し、受光素子に到達し、検出される。
【0004】
図9はPSFの放射線照射による発光原理を示す概略図である。放射線がPSFを横切ると、コアを構成するポリスチレン(PS)が波長300nm付近の紫外光を発光する。PS製のコアには、例えば2種類の蛍光剤(第1蛍光剤および第2蛍光剤)が含まれている(
図10参照)。前記紫外光は第1蛍光剤によって波長350nm付近の光に変換され、該波長350nm付近の光は第2蛍光剤によって波長430nm付近の青色可視光に変換される。放射線が入射した位置から数mm以内の位置において、波長300nm付近の紫外光から波長430nm付近の青色可視光への波長変換は完了する(
図9参照)。かかる青色可視光の一部がPSFの長さ方向両側に伝搬する。これを受光した受光素子(光電子増倍管、PMT)は電気信号パルスを出力する。PSF端面に到達する青色可視光の強度は、通常、数〜数十フォトン(光子)で、微弱である。
図11は、PSFを用いた最も簡単な放射線検出装置の一例である。放射線1がPSFケーブル3を横切ると、PSFコア内部で青色波長の多数のフォトンが発生する。その一部の光パルス2がPSF内を右方(
図11中、右方)に伝搬する。数〜数十フォトンの青色光が、数ナノ秒の時間幅を持った光パルス2として、PSF右端面に設けられた光電子増倍管に到達する。放射線は時間的にランダムにPSFケーブル3を横切るので、受光素子(光電子増倍管など)4は時間的にランダムな電気パルス信号を出力する。この電気パルス信号は、前置増幅器5によって増幅される。コンスタントフラクションディスクリミネータ(波高弁別器)6によって、ノイズレベルより大きい信号のみが矩形パルスに変換される。この矩形パルス信号の単位時間当たりの個数がマルチチャンネルスケーラ11によってカウントされ、放射線強度が計測される。
図11の下部には、放射線のPSFへの入射から光パルス信号へ、さらに電気パルス信号を経てカウントされるまでの信号の変化が、横軸を時間に、縦軸を信号強度として、模式的に表現されている。
受光素子として光電子増倍管が用いられる場合、青色発光のシンチレーションファイバが用いられることが望ましい。受光素子としてシリコンフォトダイオードが用いられる場合、より長波長に受光感度が高いので、500nm付近の緑色、更には赤色の600nm付近に合わせたシンチレーションファイバが用いられることが望ましい。その為に、ポリスチレンに溶解させる蛍光体の種類と組み合わせを考慮した種々のシンチレーションファイバが用いられる。
【0005】
測定感度向上の観点から、直径2〜5mmのPSFを用いることが考えられる。
PSFの長さが3mを越えて数十mに達するものが使用される場合、PSFケーブルの収納を考えた場合、曲がった状態で測定したい場合など、PSFケーブルは曲がり易いことが重要である。測定感度とPSFの曲がり易さとの観点から、直径2mm未満の複数本のPSFを束にして、保護管の内側に配したケーブルが提案されている。このような場合、ケーブルの柔軟性の観点から、保護管とPSFとは、強固に連結・一体化しているのでは無く、拘束性は低い方が好ましいと考えられる。かつ、複数本のPSFも、一つに縛るのでは無く、拘束性は低い方が好ましいと考えられる。複数本のPSFが、保護管内に一定空間を保持して、単に、配置されているのが好ましいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−249247号公報
【特許文献2】特開平9−304536号公報
【特許文献3】特開平10−186034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の放射線検出器において、ケーブルの振動や摩擦などによって、ノイズ発生に気付くに至った。検出信号は、外部からの放射線由来とは考えられなかったことから、ノイズであろうと考えられた。
【0008】
このノイズが何に起因しているかは、当初、全く、判らなかった。この現象についての検討が、鋭意、推し進められて行った。その結果、ケーブルが曲げられていたり、ケーブルに振動が加わった時に、ノイズが発生していることが判った。すなわち、ケーブルに曲げ力や振動が加わると、シンチレーションファイバ同士の間で摩擦、シンチレーションファイバと保護管との間で摩擦が起こる。この摩擦に起因して静電気が発生する。この静電気によって、シンチレーションファイバの外側近傍で紫外線などが発生する。この結果、シンチレーションファイバのコア内に溶解させている蛍光体が励起して発光する。因みに、シンチレーションファイバをポリエチレンフィルムで挟み込んで摩擦することで、シンチレーションファイバは正に、ポリエチレンフィルムが負に帯電する。暗室内での同様な摩擦によって、シンチレーションファイバ端面に接続された光電子増倍管からパルス信号が観測された。従って、上記推論は正しいであろうと考えられた。粘着テープ等の剥離時において、摩擦や接触により、帯電が起きる。これにより、放電が起きる。ラジオ波、紫外線、可視光、X線まで含む幅広い波長の電磁波放射が起きることが、トライボルミネッセンス(triboluminescence、摩擦発光)現象として一般に知られている。
ケーブルの振動によって、放射線が照射された場合と同じ擬似信号ノイズが発生した。このことは、屋内や屋外において、移動を前提にして測定が行われる場合、車輛などに搭載して移動しながら測定が行われる場合などにおいて、測定時には振動等が避けられない。このような場合、特に、極めて、不都合を来たす。例えば、測定精度が低下し、測定の信頼性が低下する。
【0009】
従って、本発明が解決しようとする課題は、振動によるノイズが発生し難く、放射線検出精度が高い技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題は、
保護管と、
前記保護管内に設けられたシンチレーションファイバと、
前記保護管内に設けられた発光防止手段
とを具備することを特徴とするケーブルによって解決される。
或いは、保護管と、
前記保護管内に設けられたシンチレーションファイバと、
前記保護管内に設けられた発光防止部材
とを具備することを特徴とするケーブルによって解決される。
【0011】
前記の課題は、
保護管と、
前記保護管内に設けられたシンチレーションファイバと、
前記保護管内に設けられた発光防止手段
とを具備することを特徴とするケーブルによって解決される。
或いは、
保護管と、
前記保護管内に設けられたシンチレーションファイバと、
前記保護管内に設けられた発光防止部材
とを具備することを特徴とするケーブルによって解決される。
【0012】
前記ケーブルにおいて、前記保護管内に設けられた発光防止手段は、例えば、前記保護管と前記シンチレーションファイバとの間に設けられた帯電防止手段である。
【0013】
前記帯電防止手段は、例えば摩擦低減手段である。この摩擦低減手段は、例えば摩擦低減部材である。前記摩擦低減手段(摩擦低減部材)は、例えば潤滑剤である。保護管内に充填された潤滑剤である。或いは、前記ファイバ表面に設けられた潤滑剤である。前記潤滑剤は、例えばオイルである。オイルとしては各種のオイルを用いることが出来る。例えば、シリコーンオイルである。例えば、フッ素系のオイルである。
【0014】
前記帯電防止手段は、例えば導電手段である。前記導電手段は、例えば導電部材(導電材)である。例えば、電荷をシンチレーションファイバ外の他の部位に導く導電部材(導電材)である。前記導電手段(導電部材)はシンチレーションファイバ表面に設けられた導電膜である。前記導電手段(導電部材)は水、又は、電解質成分(又は界面活性剤)を含む水溶液である。例えば、保護管内に充填された水、又はイオン性水溶液である。
【0015】
前記帯電防止手段(例えば、導電部材(導電材))は、前記保護管の内表面の構成材料と前記シンチレーションファイバの外表面の構成材料との選定を考慮することでも実現できる。前記内表面の構成材料と前記外表面の構成材料との間の帯電列差が少ないように、材料選定が行われる。例えば、保護管の内表面の構成材料の帯電列位置と、前記シンチレーションファイバの外表面の構成材料の帯電列位置とが、同じであったとするならば、両者の間で摩擦が起きても、静電気は殆ど発生しない。
【0016】
前記の課題は、
保護管と、
前記保護管内に設けられたシンチレーションファイバと、
前記シンチレーションファイバ内に光が入るのを防止する入光防止手段
とを具備することを特徴とするケーブルによって解決される。
或いは、
保護管と、
前記保護管内に設けられたシンチレーションファイバと、
前記シンチレーションファイバ内に光が入るのを防止する入光防止部材
とを具備することを特徴とするケーブルによって解決される。
【0017】
前記の課題は、
保護管と、
前記保護管内に設けられたシンチレーションファイバと、
前記保護管内で発生した光が前記シンチレーションファイバ内に入るのを防止する入光防止手段
とを具備することを特徴とするケーブルによって解決される。
或いは、
保護管と、
前記保護管内に設けられたシンチレーションファイバと、
前記保護管内で発生した光が前記シンチレーションファイバ内に入るのを防止する入光防止部材
とを具備することを特徴とするケーブルによって解決される。
【0018】
前記入光防止手段は、例えば入光防止部材である。例えば、シンチレーションファイバの表面に設けられた黒色膜である。或いは、シンチレーションファイバの表面に設けられた反射膜である。
【0019】
前記シンチレーションファイバは、例えばプラスチックシンチレーションファイバである。
【0020】
前記保護管内に設けられたシンチレーションファイバは、好ましくは、2本以上(複数本)である。
【0021】
前記の課題は、前記のケーブルを具備することを特徴とする放射線測定装置によって解決される。
【発明の効果】
【0022】
放射線検出精度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1実施形態になるケーブルの断面図
【
図2】本発明の第2実施形態になるケーブルの断面図
【
図3】本発明の第3実施形態になるケーブルの断面図
【
図4】本発明の第4実施形態になるケーブルの断面図
【
図5】本発明の第5実施形態になるケーブルの断面図
【
図6】本発明の第6実施形態になるケーブルの断面図
【
図10】コア内部で紫外光から青色光に変換する概略図
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態が以下で説明される。第1の本発明はケーブルである。前記ケーブルは、特に、放射線検出装置に用いられるケーブルである。前記ケーブルは保護管を具備する。前記ケーブルはシンチレーションファイバ(特に、PSF)を具備する。前記シンチレーションファイバは前記保護管内に設けられている。前記シンチレーションファイバは、1本でも良い。好ましくは、2本以上である。本数の上限値は、前記シンチレーションファイバの外径と前記保護管の内径とによって決まる。前記ケーブルは発光防止手段を具備する。前記発光防止手段は前記保護管内に設けられている。前記発光防止手段は、例えば発光防止部材である。
【0025】
前記発光防止手段は、例えば、前記保護管と前記シンチレーションファイバとの間に設けられた帯電防止手段である。前記帯電防止手段は、例えば帯電防止部材である。
【0026】
前記帯電防止手段は、例えば摩擦低減手段である。この摩擦低減手段は、例えば摩擦低減部材である。前記摩擦低減部材は、例えば潤滑剤である。前記保護管内に充填された潤滑剤である。前記シンチレーションファイバ(特に、PSF)表面に設けられた潤滑剤である。前記潤滑剤は、例えばオイルである。オイルとしては、例えばジメチルポリシロキサン(ジメチルシリコーンオイル)、メチルフェニルシリコーンオイル、エステル変性メチルハイドロジェンシリコーン、フッ素変性メチルハイドロジェンシリコーン等のシリコーンオイル;クロロシラン系オイル;アルコキシシラン系オイル;クロロトリフルオロエチレン等のフッ素系オイル等が挙げられる。例えば、シリコーンオイルである。例えば、フッ素系のオイルである。
摩擦低減手段(例えば、摩擦低減部材)としてオイルをシンチレーションファイバに塗布する場合には、取扱い性の観点から、オイルは、動粘度(JIS K 2283、25℃)が、好ましくは、30〜3000mm
2/sであった。より好ましくは、100〜1000mm
2/sであった。更により好ましくは、200〜500mm
2/sであった。塗布方法は、柔らかいネル布などにオイルを浸み込ませて、布ごとシンチレーションファイバを挟み込んで、ファイバを移動させる手法が挙げられる。このような方法にてオンラインでオイルコートが可能である。オイルの動粘度が3000mm
2/sを越えたり、30mm
2/s未満であると、塗布ムラが起こり易い傾向が有った。
シンチレーションファイバ表面に塗布するオイルの厚さは、好ましくは、0.1〜300nmであった。より好ましくは、0.3〜10nmであった。0.1nm未満では、摩擦低減効果が不十分となる。300nmを越えると、オイルの液垂れなどの取扱い上の問題が生じる。斯かるオイルの厚さは次のようにして求められる。例えば、シリコーンオイルを用いる場合、該シリコーンオイルを塗布した1〜10mのシンチレーションファイバをヘキサンで洗浄する。この洗浄液が濃縮される。この濃縮液中のシリコーンオイルのメチル基の吸収が核磁気共鳴分光法(H−NMR法)によって測定される。測定の詳細は特開2006−312131号公報に記載されている。
【0027】
前記帯電防止手段は、例えば導電手段である。この導電手段により、電荷が、シンチレーションファイバや保護管などのケーブル内部材の局所領域に局在化しないようになる。前記導電手段は、例えば導電部材(導電材)である。前記導電手段はシンチレーションファイバ表面に設けられた導電膜である。例えば、導電性粉末(例えば、金属粉末、カーボンブラック、カーボンナノチューブなど)含有塗料の塗布によって構成された導電性塗膜である。塗布に限られないが、塗布手段が採用された場合、蒸着手段が採用された場合よりも、コストが低廉である。前記導電手段(例えば、導電部材)は水(純水では無い。)である。斯かる水は、好ましくは、導電性の成分を含む水溶液である。例えば、保護管内に水導電性の成分を含む水溶液を充填することにより、導電手段(導電部材(導電材))が構成される。保護管内に純水を充填し、別途保護管内に充填した導電性の成分を溶解することによっても、導電手段導電部材(導電材)が構成される。水溶液中に含まれる導電性の成分は、例えば電解質成分である。或いは、イオン性の界面活性剤である。
好ましい帯電性能は、処理された表面抵抗(JIS K 6911)が、好ましくは、10
12Ω以下の場合である。より好ましくは、10
8Ω以下の場合である。シンチレーションファイバや保護管の内壁の導電性の直接測定は困難である。従って、導電性能の評価は困難である。しかし、当該材料と同じ材料である平面上に同じ導電処理を行ったものを用いることによって、評価が可能になる。
【0028】
前記帯電防止手段(例えば、帯電防止部材)は、前記保護管の内表面の構成材料と前記シンチレーションファイバの外表面の構成材料との選定を考慮することでも実現できる。前記内表面の構成材料と前記外表面の構成材料との間の帯電列差が少ないように、材料選定が行われる。好ましくは、両者が同種(特に、同一)材料で構成されたものである。例えば、帯電列における位置が、保護管の内表面の構成材料も、前記シンチレーションファイバの外表面の構成材料も、同じであったならば、両者の間で摩擦が起きても、静電気は発生し難い。ここでは、各々の構成材料の50wt%以上が一致する場合、同種材料と考える。例えば、シンチレーションファイバの最表面がポリメチメメタクリレート90wt%以上含有、又はメチルメタクリレートモノマに由来する構造単位を90wt%以上含む共重合体である高分子材料であり、保護管内の内表面がポリメチメメタクリレートを60wt%含有する混合物の層である場合、同種材料で構成されていると考える。シンチレーションファイバがポリエチレン70wt%を含む高分子材料で厚み0.5mm被覆したものであり、保護管がポリエチレン90wt%を含有するものである場合、同種材料で構成されていると考える。
【0029】
前記発光防止手段に代わって、入光防止手段を採用することも出来る。前記入光防止手段は、例えば入光防止部材である。保護管内で光が発生しても、これが前記シンチレーションファイバ内に入らないようにする。前記入光防止部材は、例えばシンチレーションファイバの表面に設けられた黒色膜である。黒色膜としては、カーボンブラック含有塗膜や光吸収性染料を溶解させた塗膜などが挙げられる。黒色コートとしては、シンチレーションファイバを侵さない水性塗料などを黒色コート剤として用いることが出来る。膜厚は5〜20μm程度である。紫外線がシンチレーションファイバ内部に透過しない厚みであれば良い。コート方法としては、スプレー法、連続ディツプ法、ダイ方法などが任意に用いられる。別の黒色コートの方法として、黒色ポリエチレンを押出法によって、厚さ0.5mm程度にシンチレーションファイバを被覆する方法も挙げられる。
前記入光防止部材は、例えばシンチレーションファイバの表面に設けられた反射膜である。反射膜としては、Al蒸着膜、Ag蒸着膜などの金属膜を、厚み0.05〜0.2μm程度にコートすれば良い。更には、TiO
2等の光拡散性白色顔料、又はそれらを含有した白色塗膜、微小気泡を含んだ白色反射性塗膜などを、例えば膜厚5〜30μmに塗布することが挙げられる。シンチレーションファイバやコアに溶解された蛍光体を励起させる紫外線を透過しない材料と膜厚であれば良い。保護管内に複数のシンチレーションファイバが設けられる場合、該複数のシンチレーションファイバ全てが入光防止手段を具備することが好ましい。
【0030】
第2の本発明は放射線測定装置である。この放射線測定装置は、前記ケーブルを具備する。本発明の放射線測定装置としては、好ましくは、タイムオブフライト法を用いる装置である(例えば、特許文献1,2参照)。本装置は移動時の振動が避けられない可搬式の放射線測定装置に好適である。斯かる可搬式の放射線測定装置は、好ましくは、車輛などに搭載して、移動しながら測定する用途に用いられる。放射線測定装置に用いられるケーブルが3m以上の長さである場合、装置内にケーブルを曲げて収納する為に、好ましくは、許容最少曲げ直径が500mm以下のケーブルである。ケーブルに用いるシンチレーションファイバは、好ましくは、PSFである。
【0031】
以下、より具体的な実施形態を挙げて本発明が説明される。但し、本発明は以下の実施形態にのみ限定されるものでは無い。本発明の特長が大きく損なわれない限り、本発明が複数同時に適用されること、各種の変形例や応用例も本発明に含まれることは言うまでも無い。
例えば、保護管として黒色プラスチック被覆されたフレキシブルステンレス管を用いることで、曲げやすさを維持しながら、堅牢なケーブルとしたもの、外側の保護管の内側に内側の保護管を2重に設けたもの、シンチレーションファイバの外側に予め布状の柔軟材で保護した後に保護管に挿入したもの、ケーブルの引張応力に抗する為に補強材(テンションメンバ)を保護管内に付加したもの等も本発明に含まれる。
【0032】
図1は、本発明の第1実施形態になるケーブルの断面図である。本ケーブルは放射線測定装置に用いられるケーブルである。
【0033】
図1中、21は保護管である。保護管21は、例えばカーボンを含有する黒色ポリオレフィン系樹脂で構成されている。保護管21は、外径が9.5mm、内径が7.0mmの円筒体である。
【0034】
22はPSFである。PSF22は、そのコア22aがポリスチレン樹脂で構成され、そのクラッド22bがポリメチルメタクリレート樹脂で構成されたものである。PSF22の外径は1.5mmである。PSF22は保護管21に内蔵されている。PSF22は、保護管21に内蔵されているのみであり、その他には拘束を受けていない。本実施形態では、PSF22は4本である。PSF22は、互いに、縛られていない。すなわち、拘束を受けていない。
【0035】
PSF22の表面にはシリコーンオイルが塗布されている。PSF22の表面にはシリコーンオイル膜23が設けられている。このシリコーンオイル膜23の存在によって、滑りが良い。従って、PSF22同士やPSF22と保護管21とが擦れても、静電気が発生し難い。
【0036】
図2は、本発明の第2実施形態になるケーブルの断面図である。本ケーブルは放射線測定装置に用いられるケーブルである。
前記第1実施形態においては、PSF22の表面にシリコーンオイル膜23が設けられていた。本第2実施形態では、保護管21内にシリコーンオイル24が充填された例である。シリコーンオイル24が保護管21内に充填されていると言うことは、PSF22の表面にはシリコーンオイル膜が設けられていると言うことになる。
その他の構成については前記実施形態と同じである。同一個所には同一符号が付された。
【0037】
図3は、本発明の第3実施形態になるケーブルの断面図である。本ケーブルは放射線測定装置に用いられるケーブルである。
第2実施形態は、保護管21内にシリコーンオイル24が充填された例である。本実施形態では、シリコーンオイルの代わりに、電解質成分(ドデシル硫酸ナトリウム等のイオン性界面活性剤が0.1〜0.5wt%)含有水25が充填された例である。
その他の構成については前記実施形態と同じである。同一個所には同一符号が付された。
【0038】
図4は、本発明の第4実施形態になるケーブルの断面図である。本ケーブルは放射線測定装置に用いられるケーブルである。
第1実施形態は、PSF22の表面にシリコーンオイル膜23が設けられた例であった。本実施形態は、PSF22の表面に導電性塗膜(カーボンナノチューブ含有塗膜)26が設けられた例である。この導電性塗膜は導電性塗料(カーボンナノチューブ含有塗料)の塗布により設けられた。
その他の構成については前記実施形態と同じである。同一個所には同一符号が付された。
【0039】
図5は、本発明の第5実施形態になるケーブルの断面図である。本ケーブルは放射線測定装置に用いられるケーブルである。
第4実施形態は、PSF22の表面にカーボンナノチューブ含有塗膜26が設けられた例である。本第5実施形態は、PSF22の表面にカーボンブラック含有塗膜(黒色膜)27が設けられた例である。カーボンブラック含有塗膜27はカーボンブラック含有塗料の塗布により設けられた。
その他の構成については前記実施形態と同じである。同一個所には同一符号が付された。
反射膜(例えば、金属膜、白色塗膜など)が設けられた場合の構成は
図5と同様である。すなわち、
図5におけるカーボンブラック含有塗膜(黒色膜)27を、反射膜に変更した構成である。従って、図示は省略された。
【0040】
図6は、本発明の第6実施形態になるケーブルの断面図である。本ケーブルは放射線測定装置に用いられるケーブルである。
本実施形態では、PSF22の表面のクラッド22bの表面にポリエチレン被覆28が施されており、保護管21内面がポリエチレンで構成された例である。保護管21内面をポリエチレンで構成する為には、(1)保護管自体をポリエチレン製とする、(2)保護管の内面に図示していないポリエチレン被覆を別途施す等の方法が挙げられる。
【0041】
図7は、参考例になるケーブルの断面図である。本ケーブルは放射線測定装置に用いられるケーブルである。
第1実施形態のケーブルは、PSF22の表面にシリコーンオイル膜23が設けられた例である。これに対して、本参考例のケーブルはシリコーンオイル膜が設けられていない例である。
その他の構成については第1実施形態と同じである。同一個所には同一符号が付された。
【0042】
上記各例のケーブルが
図11の放射線測定装置に組み込まれた。ケーブルの長さは3mである。組み込まれた全てのケーブルに対して、PSFケーブルの受光素子から2mの位置(反対側から1mの位置)に、ボタン型標準γ線
137Scが近付けられた。これにより、一定の放射線測定感度が出ることが確認された。振動ノイズが調べられた。その結果が表−1に示される。PSFケーブルの受光素子から2mの位置が、バイブレータ(按摩器、振動数2500〜3000回/分)の振動部分に固定され、加振された。従来のケーブル(表−1の参考例のケーブル)では、加振によって、著しい擬似信号ノイズがカウントされた。
【0043】
表−1
ノイズ発生度
第1実施形態のケーブル 殆ど無し
第2実施形態のケーブル 殆ど無し
第3実施形態のケーブル 殆ど無し
第4実施形態のケーブル 殆ど無し
第5実施形態のケーブル 殆ど無し
第6実施形態のケーブル 激減
参考例のケーブル 著しい擬似信号ノイズ発生
これによれば、上記実施形態のケーブルが用いられた場合、振動などによるノイズが低減され、放射線検出精度が高いことが判る。特に、屋内外での移動を前提にした測定器、移動しながらの測定や可搬式測定器においては、安定した測定が可能になる。測定精度と信頼性が高い測定システムが可能となった。静電気が帯電(発生)し難いものであるから、取扱いが容易である。
【符号の説明】
【0044】
21 保護管
22 PSF
22a コア
22b クラッド
23 シリコーンオイル膜
24 シリコーンオイル
25 電解質成分含有水
26 カーボンナノチューブ含有塗膜
27 カーボンブラック含有塗膜
28 ポリエチレン被覆