(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6163183
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】植物栽培用ハウス
(51)【国際特許分類】
A01G 9/14 20060101AFI20170703BHJP
A01G 9/24 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
A01G9/14 S
A01G9/24 H
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-168041(P2015-168041)
(22)【出願日】2015年8月27日
(65)【公開番号】特開2017-42110(P2017-42110A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2016年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】515236189
【氏名又は名称】プランツラボラトリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河鰭 実之
(72)【発明者】
【氏名】湯川 敦之
(72)【発明者】
【氏名】清水 慎治
【審査官】
竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−020492(JP,A)
【文献】
実開昭57−136736(JP,U)
【文献】
実開昭63−007525(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/14 − 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプなどの骨格材を用いて組み付けられたハウス骨格と、ビニルシートなどのシートにより前記ハウス骨格の外周を覆うように被せたシート外面部材と、を備える植物栽培用ハウスであって、
シート状素材の両面に金属箔をコーティングしてなる折り曲げ自在の遮熱シートにより、前記シート外面部材の内側に前記シート外面部材に対して間隔をもって、床面、壁面、天井面のすべての面を密閉状に形成するシート内面部材と、
前記シート内面部材の内側の空気調和を行なう空気調和装置と、
を備え、
前記遮熱シートは、ガラスクロスの両面にアルミニウム箔をコーティングした状態として構成される、
植物栽培用ハウス。
【請求項2】
請求項1記載の植物栽培用ハウスであって、
前記シート内面部材は、床面については木材等により形成された床に前記遮熱シートを取り付けた状態として構成され、壁面および天井面については前記ハウス骨格に木材等により取り付けられた下地に前記遮熱シートを取り付けた状態として構成されてなる、
植物栽培用ハウス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物栽培用ハウスに関し、詳しくは、ビニルシートなどのシートによりハウス骨格の外周を覆った植物栽培用ハウスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の植物栽培用ハウスとしては、天井や壁を断熱板材を用いて形成したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。天井を構成する断熱板材は、厚さ10cm程の発泡材の板材の両面にアルミ箔を貼り付けて構成されており、壁を構成する断熱板材は、厚さ20cm程の発泡材の板材のハウス内側にアルミ箔を貼り付けて構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5595452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の植物栽培用ハウスでは、床が地面であり、熱が地面を介してハウス内と出入りするため、ハウスの断熱効果が低くなり、ハウス内の空気調和に比較的大きなエネルギを要してしまう。また、壁や天井に比較的厚くて重量のある断熱板材を用いるため、断熱板材を取り付けるための天井や壁を形成する必要も、重量も体格も大きくなってしまう。
【0005】
本発明の植物栽培用ハウスは、簡易な構成でエネルギ効率よく空気調和を行なうことができる植物栽培用ハウスを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の植物栽培用ハウスは、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の植物栽培用ハウスは、
パイプなどの骨格材を用いて組み付けられたハウス骨格と、ビニルシートなどのシートにより前記ハウス骨格の外周を覆うように被せたシート外面部材と、を備える植物栽培用ハウスであって、
シート状素材の両面に金属箔をコーティングしてなる折り曲げ自在の遮熱シートにより、前記シート外面部材の内側に前記シート外面部材に対して間隔をもって、床面、壁面、天井面のすべての面を略密閉状に形成するシート内面部材と、
前記シート内面部材の内側の空気調和を行なう空気調和装置と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の植物栽培用ハウスでは、パイプなどの骨格材を用いてハウス骨格を組み付け、ビニルシートなどのシートによりハウス骨格の外周を覆うように被せてシート外面部材を構成する。そして、シート状素材の両面に金属箔をコーティングしてなる折り曲げ自在の遮熱シートにより、シート外面部材の内側にシート外面部材に対して間隔をもって、床面、壁面、天井面のすべての面を密閉状にシート内面部材を形成する。ここで、「密閉状」とは、完全に密閉されている状態だけでなく、空気調和装置の取り付けの隙間や換気、人や機材を搬入出する扉の隙間など、若干の隙間を有している状態も含まれる。このように、シート外面部材とシート内面部材との二重構造とすることにより、ハウス内部をハウス外部から効果的に遮熱することができる。しかも、シート内面部材として遮熱シートを用いるから、ハウス内部をハウス外部からより効果的に遮熱することができる。これらの結果、シート内面部材の内側、即ちハウス内部の空気調和に必要なエネルギを小さくすることができる。また、シート内面部材は、シート状素材の両面に金属箔をコーティングしてなる折り曲げ自在の遮熱シートを用いているから、床や壁、天井を板材により形成する必要もない。このため、ハウスを軽量なものとすることができる。ここで「遮熱シート」としては、ガラスクロスの両面にアルミニウム箔をコーティングした状態として構成されるものとしてもよい。この場合、遮熱シートの厚みは0.3mm以下とするのが好ましい。
【0009】
こうした本発明の植物栽培用ハウスにおいて、前記シート内面部材は、床面については木材等により形成された床に前記遮熱シートを取り付けた状態として構成され、壁面および天井面については前記ハウス骨格に木材等により取り付けられた下地に前記遮熱シートを取り付けた状態として構成されてなるものとすることもできる。こうすれば、床における遮熱をより効果的にすることができると共に、容易に壁面や天井面を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態としての植物栽培用ハウス20の構成の概略を示す説明図である。
【
図2】実施形態の植物栽培用ハウス20のハウス骨格22の一例を示す外観構成図である。
【
図3】遮熱シートの断面構造の一例を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態としての植物栽培用ハウス20の構成の概略を示す説明図であり、
図2は実施形態の植物栽培用ハウス20の骨組みとしてのハウス骨格22の一例を示す外観構成図であり、
図3は遮熱シートの断面構造の一例を模式的に示す説明図である。
【0012】
図1,2に示すように、実施形態の植物栽培用ハウス20は、金属(例えばステンレスや鉄など)によるパイプや角材などの骨格材24を用いて地面10に組み付け固定されたハウス骨格22と、このハウス骨格22の外周をビニルシートによって覆うようにして構成されたシート外面部材30と、ハウス骨格22の内側にシート外面部材30に対してある程度の間隔(1cm以上)をもって遮熱シートによって床面32a、壁面32b、天井面32cのすべての面を密閉状に構成するシート内面部材32と、シート内面部材32の内側の空気調和を行なう空調装置40と、人の出入りや植物栽培に必要な機材等の搬入および搬出のための図示しない扉と、を備える。
【0013】
骨格材24としては、通常のビニールハウスに用いる金属製のパイプや棒材などを用いることができるほか、建築現場などに用いられる足場を組むパイプなどを用いることができる。ビニルシートとしては、通常のビニールハウスに用いるビニルシートを用いることができる他、水を透過しない種々のシートを用いることができる。
【0014】
遮熱シートとしては、
図3に示すように、心材としてガラスクロスなどの種々のシート状素材34の両面に金属箔(例えばアルミニウム箔)36をコーティングし、更にその表面に電食防止剤をコーティングして折り曲げ自在のシート状としたものを用いることができる。
【0015】
床面32aは、
図1に示す実施形態では、地面に対して一般的な床構造により床26を作成し、その上面を遮熱シートによって覆うことにより構成する。四方の壁面32bは、骨格材24に対して木材等により図示しない間柱や胴縁などによる下地を取り付け、この下地に遮熱シートを取り付けて構成する。天井面32cは、壁面32bと同様に、骨格材24に対して木材等により図示しない下地を取り付け、この下地に遮熱シートを取り付けて構成する。
【0016】
空調装置40は、実施形態では、室内機と室外機とを有する一般家庭用のエアコンを用いることができる。このため、植物栽培用ハウス20には、室内機と室外機とを循環する冷媒用の図示しないパイプを通すためのパイプ用貫通孔42が形成されている。
【0017】
シート内面部材32は、床面32a、壁面32b、天井面32cのすべての面を密閉状に構成する。上述したように、実施形態の植物栽培用ハウス20には、空調装置20が取り付けられていたり、人の出入りや植物栽培用の機材等の搬入出のための扉が取り付けられているため、シート内面部材32には、ある程度の隙間が形成されるから、ある程度の密閉性は有するものの、完全密閉ではない。本明細書では、この状態を密閉状と称している。
【0018】
次に、実施形態の植物栽培用ハウス20の実験例について説明する。実験例の植物栽培用ハウスを以下のように構成した。ハウス骨格24は、骨格材24として一般建築部材の直径48.6mmで厚みが2.4mmの単管パイプを用い、棟の高さが3400mm、軒の高さが2500mm、柱の間隔が1820mm〜2000mmで床面積が8m×14.56mとなるよう組み付けた。シート外面部材30は、一般農業資材の厚み0.15mmの白ビニール(シーアイ化成製の白白コート)のビニルシートを用いてハウス骨格22を覆うことにより構成した。シート内面部材32は、ガラスクロスの心材の両面にアルミニウム箔をコーティングし、更にその表面に電食防止コートをコーティングして厚みを0.2mmとした折り曲げ自在の遮熱シートを用いて構成した。シート内面部材32の床面32aは、一般建築部材の幅が900mmで長さが1800mmで厚みが15mmの板材を用いて地面から10cm程度の位置に床を構成し、その上面に遮熱シートをタッカーにより取り付け、隣接する遮熱シートと遮熱シートとをアルミ箔テープにより貼り付けることにより構成した。シート内面部材32の壁面32bは、ハウス骨格22の骨格材24に木材による間柱や胴縁などの壁下地を取り付け、この壁下地に遮熱シートをタッカーにより取り付け、隣接する遮熱シートと遮熱シートとをアルミ箔テープにより貼り付けることにより構成した。シート内面部材32の天井面32cは、天井の高さが2250mmとなるように木材により梁などの天井下地を構成し、この天井下地に遮熱シートをタッカーにより取り付け、隣接する遮熱シートと遮熱シートとをアルミ箔テープにより貼り付けることにより構成した。なお、床面32aと壁面32bとの接合および壁面32bと天井面32cとの接合にもアルミ箔テープを用いた。空調装置40は、一般家庭用壁掛けエアコン(ダイキン工業株式会社製のAN56SEP−W(目安18畳≒29m
2))を2台取り付けた。また、実験例の植物栽培用ハウスには調湿機(ダイナエアー株式会社製MP300)も取り付けた。なお、実験例の植物栽培用ハウスと同容積の一般建築物の空気調和を行なう場合、その断熱設計にもよるが、一般的には上記の一般家庭用壁掛けエアコンより出力の大きな業務用エアコンが複数台必要となる。
【0019】
実験例の植物栽培用ハウスは、2015年6月に東京大学の附属生態調和農学機構圃場に建設し、同年8月20日まで実験運用したところ、ハウス内の温度を24℃〜26℃で安定してコントロールすることができ、良好に植物の栽培を行なうことができた。
【0020】
以上説明した実施形態の植物栽培用ハウス20では、一般的なパイプなどの骨格材24によりハウス骨格22を組み付け、ハウス骨格22の外周をビニルシートによるシート外面部材30で覆い、シート外面部材30に対してある程度の間隔を有するようにハウス骨格22の内側に遮熱シートにより床面32a、壁面32b、天井面32cのすべての面を略密閉状にシート内面部材32を構成する。これにより、ハウス内部のハウス外部に対する断熱性を良好なものとし、エネルギ効率よく空気調和を行なうことができる。即ち、簡易な構成でエネルギ効率よく空気調和を行なうことができる植物栽培用ハウスとすることができる。しかも、遮熱シートとして、シート状素材の両面に金属箔をコーティングしたものを用いるから、ハウス内部のハウス外部に対する断熱性をさらに良好にすることができる。さらに、地面に対してある程度の間隔を有するように床を形成し、床の上面に床面32aを構成するから、地面に対する断熱性を良好なものとすることができる。また、シート外面部材30とシート内面部材32との二重構造とすると共にシート内面部材32を床面32a、壁面32b、天井面32cのすべての面を略密閉状とするように構成することにより、高い防虫効果を果たすこともできる。
【0021】
ここで、実験例では、骨格材24として一般建築部材の直径48.6mmで厚みが2.4mmの単管パイプを用いたが、構成するパイプ骨格の強度を確保することができるものであれば、いかなるパイプ材や棒材などを用いてもよい。実験例では、シート外面部材30として、一般農業資材の厚み0.15mmの白ビニール(シーアイ化成製の白白コート)のビニルシートを用いたが、農業用に用いられる一般的なシートを用いたり、工業用に用いられる一般的なシートを用いることもできる。実験例では、シート内面部材32として、ガラスクロスの心材の両面にアルミニウム箔をコーティングし、更にその表面に電食防止コートをコーティングして厚みを0.2mmとした折り曲げ自在の遮熱シートを用いたが、コーティングする金属箔はアルミニウム箔に限定されるものではなく他の金属箔でもよいし、心材はガラスクロスに限定されるものではなく、布状素材などのシート状素材を用いるものとしてもよい。実験例では、床面32aについては地面から10cm程度の位置に構成した床の上面に遮熱シートを取り付けることにより構成したが、地面に直接遮熱シートを載置することにより構成するものとしてもよい。実験例では、壁面32bについては、ハウス骨格22の骨格材24に木材による壁下地を取り付け、この壁下地に遮熱シートを取り付けることにより構成したが、ハウス骨格22の骨格材24に壁を取り付け、この壁に遮熱シートを取り付けることにより構成してもよいし、ハウス骨格22の骨格材24に直接遮熱シートを取り付けることにより構成するものとしてもよい。実験例では、天井面32cについては、ハウス骨格22の骨格材24に木材による天井下地を取り付け、この天井下地に遮熱シートを取り付けることにより構成したが、ハウス骨格22の骨格材24に天井を取り付け、この天井の下面に遮熱シートを取り付けることにより構成してもよいし、ハウス骨格22の骨格材24に直接遮熱シートを取り付けることにより構成するものとしてもよい。実験例では、空調装置40として、一般家庭用壁掛けエアコンを2台用いたが、一般家庭用エアコンを3台以上用いるものとしたり、業務用エアコンを1台または複数台用いるものとしてもよい。
【0022】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、植物栽培用ハウスの製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0024】
10 地面、20 植物栽培用ハウス、22 ハウス骨格、24 骨格材、26 床、30 シート外面部材、32 シート内面部材、32a 床面、32b 壁面、32c 天井面、34 シート状素材、36 金属箔、40 空調装置、42 パイプ用貫通孔。