特許第6163325号(P6163325)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6163325製パン類用油脂組成物、及び、製パン類の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6163325
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】製パン類用油脂組成物、及び、製パン類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/18 20060101AFI20170703BHJP
   A23D 9/00 20060101ALN20170703BHJP
【FI】
   A21D2/18
   !A23D9/00 502
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-47431(P2013-47431)
(22)【出願日】2013年3月11日
(65)【公開番号】特開2014-171439(P2014-171439A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J−オイルミルズ
(72)【発明者】
【氏名】吉村 実奈
(72)【発明者】
【氏名】森田 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】志村 聡志
(72)【発明者】
【氏名】美藤 武敏
(72)【発明者】
【氏名】長澤 大輔
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−102588(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0119652(US,A1)
【文献】 特開2012−231756(JP,A)
【文献】 特開昭64−039942(JP,A)
【文献】 特開昭63−141556(JP,A)
【文献】 特開2012−019766(JP,A)
【文献】 特開2012−019767(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/008603(WO,A1)
【文献】 特開2011−234712(JP,A)
【文献】 特開2011−177056(JP,A)
【文献】 特開2009−189246(JP,A)
【文献】 特開2006−211969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00−17/00
A23D 7/00− 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キサンタンガムとグァーガムの含有重量比が3:1〜1:10である、キサンタンガム及びグァーガムを含有する油脂含量が70重量%以上の油脂組成物であって、前記キサンタンガムと前記グァーガムの含有量の合計が0.5〜2.8重量%である前記油脂組成物を製パン類の生地に配合することを特徴とする製パン類の食感改良方法であって、前記食感がもっちり感である前記方法
【請求項2】
前記油脂がパーム油を40〜80重量%配合したものである請求項1に記載の食感改良方法。
【請求項3】
前記キサンタンガムと前記グァーガムの含有量の合計が0.6〜2.5重量%である請求項1または2に記載の食感改良方法。
【請求項4】
前記食感がさらに口どけ感を含み、前記キサンタンガムと前記グァーガムの含有量の合計が0.6〜1.2重量%である請求項1または2に記載の食感改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製パン類用油脂組成物、及び、当該油脂組成物を使用する製パン類の製造方法に関するものである。更に詳しくは、パン類、ドーナツ、スポンジケーキ等に配合される油脂組成物であり、生地を焼成した際に食感(特にもっちり感)に優れた製パン類の製造をすることができる油脂組成物、及び、当該油脂組成物を使用する製パン類の製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
製パン類においては、その食感に流行性があり、製パン類のもっちりした食感が好まれるようになってきている。
【0003】
従来、製パン類において、多糖類は製品保存中の老化抑制の観点から添加されている。
【0004】
特許文献1には、ガム質・デンプン質・蛋白質からなる組成物に一部食用油脂を加えたものを用いた技術が提案されている。しかし、これら技術ではパン生地調製中に増粘剤自身が吸水・凝集してしまい、分散効率が低下することにより老化防止効果が低下する上、増粘剤の凝集物自身が食感に悪影響を及ぼし、ねとつき等を生じてしまい、口どけ感の低下が認められた。
【0005】
特許文献2には、食用油脂(A)50〜85重量部、乳化剤(B)10〜30重量部、保湿剤(C)としての増粘多糖類(0.1〜10重量部)を含有する油脂組成物が開示されている。その実施例では、乳化剤と増粘多糖類が所定範囲であり、多量の乳化剤を含有することが、課題解決のための効果を得るために必須であることが示されている。一方で、当該範囲外では、増粘多糖類として、キサンタンガム単独使用したものは、しっとり感や口どけ感等十分ではないことが開示されている(比較例1、2、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−160833号公報
【特許文献2】特開2005−48号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、口どけ感を損なうことなく、製パン類にもっちりとした食感を付与する製パン用油脂組成物は見出されていない。従って、本発明は、このような問題点に鑑み、製パン類の生地に配合した際に、口どけ感を損なうことなく、もっちりとした食感に優れた製パン類を製造することができる油脂組成物、及び、当該油脂組成物を使用した製パン類の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究の結果、2種類の増粘多糖類を所定量含有することにより、口どけ感を損なうことなく、もっちりとした食感に優れた製パン類を製造することができる油脂組成物を見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、キサンタンガムとグァーガムの含有重量比が3:1〜1:10であることを特徴とする、キサンタンガム及びグァーガムを含有する油脂組成物である。
【0010】
また、前記キサンタンガムと前記グァーガムの含有量の合計が0.3〜4重量%であることが好ましい。
【0011】
前記油脂組成物には、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1種または2種以上の乳化剤を含有することが好ましい。
【0012】
また、本発明は、キサンタンガムとグァーガムの含有重量比が3:1〜1:10である、キサンタンガム及びグァーガムを含有する油脂組成物を配合することを特徴とする製パン類の製造方法である。
【0013】
また、本発明は、キサンタンガムとグァーガムの含有重量比が3:1〜1:10である、キサンタンガム及びグァーガムを含有する油脂組成物を製パン類の生地に配合することを特徴とする製パン類の食感改良方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の油脂組成物は、パン類、ドーナツ、スポンジケーキ、ベーグル等に配合した際に、口どけ感を損なうことなく、もっちりとした食感に優れた製パン類を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、キサンタンガムとグァーガムの含有重量比が3:1〜1:10であることを特徴とする、キサンタンガム及びグァーガムを含有する油脂組成物である。
【0016】
本発明の製パン類とは、例えば、パン類、ドーナツ、スポンジケーキ、ベーグル等である。
【0017】
本発明で使用するキサンタンガム及びグァーガムは、一般に食用に用いられているものを使用することができる。油脂組成物中のキサンタンガムとグァーガムの含有重量比は、2:1〜1:5が好ましい。また、油脂組成物中のキサンタンガム及びグァーガムの合計の含有量(重量%)は、好ましくは0.3〜4重量%であり、より好ましくは0.5〜2.8重量%であり、さらに好ましくは0.6〜2.5重量%であり、最も好ましくは0.6〜1.2重量%である。
【0018】
本発明の油脂組成物の油脂含量は、好ましくは70重量%以上であり、より好ましくは80重量%以上であり、さらに好ましくは90重量%以上である。
【0019】
本発明において、乳化剤を併用することができる。乳化剤として、モノグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。好ましくは、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1種または2種以上の乳化剤である。また、有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルとしてグリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルが好ましい。
【0020】
また、上記乳化剤のHLBは、好ましくは3〜16であり、より好ましくは3〜12であり、さらに好ましくは4〜10である。そうすることにより、もっちり感をより高めることができる。
【0021】
また、上記乳化剤の含量は、0.5重量%以上6重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以上5重量%以下であることがより好ましい。
【0022】
本発明で使用する油脂としては、通常食用として使用することのできる油脂である。例えば、大豆油、菜種油、コーン油、パーム油、パームオレイン、綿実油、落花生油、紅花油、ひまわり油、米油、小麦胚芽油、オリーブオイル、グレープシードオイル、ゴマ油、シソ油、パーム核油、やし油、カカオ脂、えごま油、牛脂、ラード、鶏油、魚油、乳脂、MCT及びこれらの水添油、分別油、エステル交換油、さらにはこれらの油を1種あるいは2種以上配合した油脂である。好ましくはパーム油を30重量%以上配合したものであり、より好ましくは40〜80重量%、さらに好ましくは45〜60重量%配合したものである。
【0023】
本発明の油脂組成物には、機能を阻害しない限り、通常の油脂に用いられる添加剤を適宜配合することができる。具体的には、ビタミン類、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ、γ-オリザノール等が挙げられる。
【0024】
本発明は、キサンタンガムとグァーガムの含有重量比が3:1〜1:10である、キサンタンガム及びグァーガムを含有する油脂組成物を配合することで食感の良い製パン類を製造することができる
【0025】
前記油脂組成物の添加量は、製パン類の生地の小麦粉100重量部に対し、1〜20重量部であることが好ましく、2〜16重量部であることがより好ましく、3〜10重量部であることがさらに好ましい。キサンタンガム及びグァーガムを油脂組成物に配合した後、生地に添加することで、生地に直接キサンタンガム等を添加した場合に比べ、非常に少量のキサンタンガム等で、優れた食感を得ることができる。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明の実施例および比較例を示すが、本発明の主旨はこれらに限定されるものではない。
【0027】
実施に際しては、以下のものを使用した。

キサンタンガム(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、型番:サンエースNXG−S)
グァーガム(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、型番:ビストップD−20)
モノグリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン株式会社製、型番:エマルジー P−100:HLB 4.3)
グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル(理研ビタミン株式会社製、型番:ポエム W−60:HLB 9.5)
ポリグリセリン脂肪酸エステル(阪本薬品工業株式会社製、型番:SYグリスター ML−750:HLB 14.8)
パーム油 (株式会社J−オイルミルズ社製、ヨウ素価:50)
分別パーム油A (株式会社J−オイルミルズ社製、ヨウ素価:56)
分別パーム油B (株式会社J−オイルミルズ社製、ヨウ素価: 67)
エステル交換油A (株式会社J−オイルミルズ社製)
化学的エステル交換油、飽和脂肪酸含量:95.2%、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量:24.8%、上昇融点:47.2℃
エステル交換油B (株式会社J−オイルミルズ社製)
化学的エステル交換油、飽和脂肪酸含量:95.0%、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量:35.0%、上昇融点:40.1℃
【0028】
〔増粘多糖類の油脂への投入方法〕
油脂A(あるいは、油脂B〜D)を60℃で攪拌し、必要に応じ乳化剤を添加し、ボテーターパイロット機により急冷捏和してショートニングサンプルを得た。直後、カントーミキサーによりホイッパーを使用して攪拌しながら増粘多糖類を分散させた油脂A(あるいは、油脂B〜D)を投入して混合し、テスト油脂を得た。
【0029】
〔食パンの製造方法〕
得られたテスト油脂を用いて、下記に示す配合及び製法によりプルマン型食パンを製造し、焼成1日後の食感(もっちり感・口どけ感)について、下記評価基準に従って4段階で評価した。
【0030】
(もっちり感)
◎:極めて弾力感が強い
○:弾力感が強い
△:やや弾力感が弱い
×:弱い

(口どけ感)
◎:対照より極めて良い
○:対照より良い
△:対照と同等
×:対照より悪い
【0031】
[食パンの配合]
強力粉(日清製粉社製) 100重量部
製パン改良材(株式会社J−オイルミルズ社製、製品名:マックスパワー) 0.5重量部
生イースト(オリエンタル酵母社製) 3.0重量部
上白糖(三井製糖社製) 6.0重量部
食塩(財団法人 塩事業センター製) 1.8重量部
脱脂粉乳(森永乳業株式会社製) 2.0重量部
水 68.0重量部
無塩マーガリン(株式会社J-オイルミルズ社製、製品名:マイスターゴールドスーパー無塩) 2.0重量部
テスト油脂 6.0重量部
【0032】
[食パンの製法]
油脂以外の材料をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で3分、中低速で4分混合した後に油脂(無塩マーガリンとテスト油脂)を投入した。その後、更に低速で3分、中低速で4分混合し、生地を得た。捏ね上げ温度は28℃であった。この生地をボックスに入れ、温度25℃の恒温室で、60分発酵を行った。終点温度は31℃であった。この醗酵した生地を250gに分割し、ガス抜き、丸めを行った。次いで、ベンチタイムを30分とった後、成型し、2斤型プルマン型に入れた。温度30℃、湿度85%で50分間ホイロをとった後、上火190℃、下火210℃に設定したオーブンに入れ40分焼成してプルマン型食パンを得た。
【0033】
〔増粘多糖類の比較〕
表1に記載のテスト油脂を調製した。食パンを製造し、もっちり感と口どけ感の評価をおこなった。その結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表1に示すように、キサンタンガムとグァーガムを所定量添加することで、対照に比べて口どけ感を損なうことなく、もっちり感を得ることができた。一方、キサンタンガム、グァーガム単独では、十分なもっちり感を得ることはできない(比較例1−1、1−2)。また、キサンタンガムの比率が多いともっちり感を得ることができるが、口どけ感が充分ではなかった。また、グァーガムとジェラガムの組み合わせでは、もっちり感を得ることはできなかった。
【0036】
〔乳化剤の添加〕
表2に記載のテスト油脂を調製した。食パンを製造し、もっちり感と口どけ感の評価をおこなった。その結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
実施例2-1、2-2に示すように、乳化剤を添加することでもっちり感を向上することができた。特に、モノグリセリン脂肪酸エステルと有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルを添加した際にもっちり感をさらに向上することができた。
【0039】
〔油脂の比較〕
表3に記載のテスト油脂を調製した。食パンを製造し、もっちり感と口どけ感の評価をおこなった。その結果を表3に示す。なお、テスト油脂として油脂Aを配合したものを対照とした。
【0040】
【表3】
【0041】
油脂によらず、所定量のキサンタンガムとグァーガムを含有することで、もっちり感と口どけ感を得ることができた。特に、パーム油を50重量%含む油脂でその効果は顕著であった。
【0042】
〔増粘多糖類を油脂に配合しない場合〕
食パンの製造方法に従い、増粘多糖類はテスト油脂(油脂Aを使用)に添加せず、生地に配合して、食パンを製造した。食パンを食し、もっちり感と口どけ感の評価をおこなった。その結果を表4に示す。
【0043】
【表4】
【0044】
増粘多糖類を油脂に分散せずに食パン生地に直接配合すると、油脂に配合したときよりも5〜10倍量添加してはじめてもっちり感が得られた。しかしながら、その配合量では、口どけ感が損なわれていた。