【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は
(1)酸素含有量10atm%以下である多結晶窒化ガリウム膜を表面に有する基材を含んでなることを特徴とするスパッタリングターゲット。
(2)多結晶窒化ガリウム膜の相対密度が80%以上であることを特徴とする(1)に記載のスパッタリングターゲット。
(3)多結晶窒化ガリウム膜の膜厚が100μm以上であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のスパッタリングターゲット。
(4)Ga
2O
3と還元性ガスとを反応させてGa
2Oを生成する還元工程と、Ga
2Oと窒素含有ガスを還元工程より低い温度で基材表面において反応させる窒化工程とを有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
に関する。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の多結晶窒化ガリウムスパッタリングターゲットは、酸素含有量10atm%以下である多結晶窒化ガリウム膜を表面に有する基材を含んでなることを特徴とする。基材としては窒化ガリウム、サファイアまたはシリコンなどの成形物を用いることができるが、これに限定されない。また、基板はGaNまたはAlN等のバッファ層を備えてもよい。多結晶窒化ガリウム膜を表面に有する基材膜は直接バッキングプレート又はバッキングチューブにボンディングすることによりスパッタリングターゲットとして用いることができる。
【0012】
多結晶窒化ガリウム膜は酸素含有量が10atm%以下であり、5atm%以下であることが好ましい。酸素含有量が10atm%より高いと、スパッタした窒化ガリウム膜が酸素を多く含む膜となり、結晶性が低下する。なお、酸素含有量はEPMA(電子線マイクロアナライザ)やEDS(エネルギー分散型X線分析)、ESCA(X線光電子分光法)などにより測定することができる。また、窒化ガリウムを熱分解させ、酸素量、窒素量を熱伝導度法により測定を行い(例えばLeco社製酸素、窒素分析装置)、さらにガリウムをICP発光分光測定などの元素分析で測定する方法は精度がより高く好ましい。
【0013】
また、多結晶窒化ガリウム膜は、相対密度が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることが特に好ましい。相対密度が80%未満であるとポアが多くスパッタ時の放電が安定しなくなる傾向にある。なお、相対密度は重量や体積から計算により算出することもできるが、膜の断面を観察し、画像解析により算出する方法が好ましい。
【0014】
また、多結晶窒化ガリウム膜は膜厚が100μm以上であることが好ましく、200μm以上であることがより好ましい。膜厚が100μm未満であると、均一な膜が得られず、膜中に空孔が存在することもある。なお、膜厚はノギスなどで反応前後の厚さを測定することにより算出することができるが、膜の断面を観察しても算出することができる。
【0015】
次に、本発明の多結晶窒化ガリウムスパッタリングターゲットの製造方法について詳細に説明する。
【0016】
本発明の多結晶窒化ガリウムスパッタリングターゲットは、Ga
2O
3と還元性ガスとを反応させてGa
2Oを生成する還元工程(以下、単に「還元工程」と称する場合がある)と、Ga
2Oと窒素含有ガスを還元工程より低い温度で基材表面において反応させる窒化工程(以下、単に「窒化工程」と称する場合がある)とを有することを特徴とする。
【0017】
ここで還元性ガスとしては、水素、一酸化炭素、メタン等の炭化水素、硫化水素、二酸化硫黄などが挙げられるが、この中でも特に水素ガスが好ましい。また、窒素含有ガスとしては、アンモニア、ヒドラジン、アルキルアミンなどが挙げられるが、この中でもアンモニアガスが特に好ましい。
【0018】
本発明の製造方法は、雰囲気制御管状炉等を用いて同一炉内で還元工程と窒化工程を行うことが好ましい。
【0019】
以下、還元性ガスを水素ガス、窒素含有ガスをアンモニアとして更に詳細に本発明を説明する。
【0020】
Ga
2O
3と水素による還元反応、及びGa
2Oとアンモニアによる窒化反応は下記の化学式で進行する。
【0021】
Ga
2O
3+H
2 → Ga
2O(g)+2H
2O
Ga
2O(g)+2NH
3 → 2GaN+H
2O+2H
2
還元工程で使用するGa
2O
3粉末としては、極力不純物を含まないことが好ましく、純度は99%以上であることが望ましい。またBETに関しては特に限定しないが、好ましくは4m
2/g以上である。さらに粒径は10μm以下であることが好ましい。原料粉末の粒径が大きくBETが小さいと、還元性ガスとの接触効率が悪く、反応の進行が遅くなる。
【0022】
還元工程は、1000℃以上であることが望ましく、より好ましくは1100℃以上、さらに好ましくは1200℃以上である。温度が高いほど還元反応が進行するためである。昇温速度は特に限定されないが、400〜600℃/hであることが好ましい。
【0023】
また、還元工程で使用する水素ガスは量が多いほど還元反応が進行するが、安全性から窒素などの不活性ガスと混合した窒素―水素などの混合ガスを用いてもよい。ここで混合ガスの組成としては水素を2wt%以上含むことが好ましい。またガス流量は特に規定はしないが100mL/minから2L/minの範囲であることが好ましい。なお、還元工程では特に加圧をする必要はなく、大気圧で行えば問題ない。
【0024】
還元反応は1000℃以上で進行するため、沸点が約700℃であるGa
2Oは気化した状態で生成される。気化したGa
2Oは還元性ガスと共に移動し、未反応のGa
2O
3粉末とは異なる場所へ移動して、別離される。
【0025】
窒化工程は、Ga
2O
3粉末から10cm以上離れた場所で行うことが好ましい。すなわち基材はGa
2O
3粉末から10cm以上離れた位置に設置することが好ましい。
【0026】
窒化工程では還元工程より低い温度で行うことにより、酸素含有量が少なく多結晶の窒化ガリウム粉末を効率的に製造できる。1000℃以上の高温では窒化ガリウム粉末は窒素とガリウムに分解してしまい、収量が低下する。また、アンモニアガスは600℃以上で分解が生じ、窒化工程を高い温度で行うほどアンモニアが分解するので、大量のアンモニアが必要となる。
【0027】
これらの点に鑑みて、窒化工程は600〜1100℃で行うことが好ましく、700〜1000℃で行うことがより好ましい。昇温速度は特に限定されないが、400〜600℃/hであることが好ましい。保持時間は窒化反応が十分進む時間であれば特に制限はないが、4〜10時間であることが好ましい。
【0028】
また、窒化工程で使用するアンモニアガスの流量は特に既定しないが100mL/minから2L/minの範囲であることが好ましい。なお、窒化工程では特に加圧をする必要はなく、大気圧で行えば問題ない。
【0029】
本発明においてアンモニアガスは窒化工程へ直接供給されることが望ましい。基材を置いた箇所にアンモニアを供給することにより基材表面に純度の高い多結晶窒化ガリウム膜を形成することができる。