(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、安定して基材の視認性を損なわない撥水撥油膜を形成することができる含フッ素コーティング剤及び該コーティング剤で表面処理された物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述したように、先に加水分解性基を有する
パーフルオロポリエーテ
ル変性シランを提案している(特開2003−238577号公報:特許文献1)が、該ポリ
エーテル変性シランを主成分とするコーティング剤から形成される膜は、処理剤同士が凝集し易く、処理条件を制御しなければ平滑な膜を得ることは難しい。
【0010】
また、本発明者らは、特許文献2(特開2013−136833号公報)において、フルオロポリエーテル基含有シランに無官能のフルオロポリエーテルを混合することで、ガラス基板上に平均で約10nmとなるように処理剤を塗布した場合、塗工表面の凹凸を数nmに抑えられることを提案している。しかし、塗布膜を厚くすると、基材の種類や塗工方法によっては、表面の凹凸を抑えることができず、ヘーズが上昇し、視認性が悪くなってしまうことがある。
【0011】
即ち、主鎖にフルオロポリエーテル構造を有し、分子鎖の末端に加水分解性基を含有するポリマーは、アルコキシシリル基同士が相互作用し、ポリマー同士が凝集することがある。塗工後の表面を原子間力顕微鏡で観察すると、単分子膜厚(10nm)以上の凹凸が観測される場合がある。片末端官能性処理剤を用いても同様の現象は引き起こされる。これらの処理剤に、無官能のフルオロポリエーテルを混合することで改善されるが、特に、膜を10nm以上に塗工した場合には、その効果が小さい傾向にある。
【0012】
そこで、本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意検討した結果、末端に加水分解性基を有し、主鎖にフルオロポリエーテル構造を有するポリマーを含有する含フッ素コーティング剤中に、フルオロポリエーテル−ポリシロキサン共重合体で変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物を添加することで、上述した凝集の問題を解決できることを見出し、本発明をなすに至った。
なお、特許文献3、4(特開2008−88412号公報、特開2009−30039号公報)において、パーフルオロポリエーテルとポリシロキサンの共重合体変性シランが開示されているが、単独で用いた場合、表面の凹凸は小さいが、油拭き取り性が十分とは言えない。
【0013】
従って、本発明は、下記含フッ素コーティング剤及び該コーティング剤で処理された物品を提供する。
〔1〕
(A)
下記一般式(3)〜(6)
A−Rf−QZ(W)α (3)
Rf−(QZ(W)α)2 (4)
A−Rf−Q−(Y)βB (5)
Rf−(Q−(Y)βB)2 (6)
〔式中、Rfは−(CF2)d−O−(CF2O)p(CF2CF2O)q(CF2CF2CF2O)r(CF2CF2CF2CF2O)s(CF(CF3)CF2O)t−(CF2)d−であり、dは独立に0〜5の整数であり、p、q、r、s、tはそれぞれ独立に0〜200の整数であり、かつ、p+q+r+s+t=10〜200の整数であり、括弧内に示される各単位はランダムに結合されていてよい。Aはフッ素原子、水素原子、又は末端が−CF3基、−CF2H基もしくは−CH2F基である1価のフッ素含有基であり、Qはアミド結合、エーテル結合、エステル結合及びジオルガノシリレン基からなる群より選ばれる1種又は2種以上の構造を含んでよい非置換又は置換の炭素数2〜12の2価の炭化水素基であり、Zは単結合、−JC=〔Jはアルキル基、ヒドロキシル基もしくはK3SiO−(Kは独立に水素原子、アルキル基、アリール基又はアルコキシ基)で示されるシリルエーテル基〕で示される3価の基、−LSi=(Lはアルキル基)で示される3価の基、−C≡で示される4価の基、−Si≡で示される4価の基、及び2〜8価のシロキサン残基から選ばれる基であり、Wは下記一般式(7)
【化2】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、Xは加水分解性基であり、aは2又は3であり、lは0〜10の整数である。)
で表される加水分解性基を有する基であり、αは1〜7の整数である。Yは下記一般式(8)〜(10’)
【化3】
【化4】
(式中、R、X、aは上記と同じであり、Dは単結合又は炭素数1〜20のフッ素置換されていてもよい2価の有機基であり、D’は炭素数1〜10のフッ素置換されていてもよい2価の有機基であり、R1は炭素数1〜20の1価炭化水素基であり、R2は水素原子又はメチル基であり、eは1又は2である。)
で表される加水分解性基を有する2価の基であり、βは1〜10の整数であり、Bは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又はハロゲン基である。〕
で表される少なくとも1種で、重量平均分子量が1,000〜5,500のフルオロポリエーテル基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物と、(B)
下記一般式(11)及び/又は(12)
A−Rf’−QZWα (11)
Rf’−(QZWα)2 (12)
〔式中、Rf’は2価のフルオロポリエーテル−ポリシロキサン共重合体含有基であり、Aはフッ素原子、水素原子、又は末端が−CF3基、−CF2H基もしくは−CH2F基である1価のフッ素含有基であり、Qはアミド結合、エーテル結合、エステル結合及びジオルガノシリレン基からなる群より選ばれる1種又は2種以上の構造を含んでよい非置換又は置換の炭素数2〜12の2価の炭化水素基であり、Zは単結合、−JC=〔Jはアルキル基、ヒドロキシル基もしくはK3SiO−(Kは独立に水素原子、アルキル基、アリール基又はアルコキシ基)で示されるシリルエーテル基〕で示される3価の基、−LSi=(Lはアルキル基)で示される3価の基、−C≡で示される4価の基、−Si≡で示される4価の基、及び2〜8価のシロキサン残基から選ばれる基であり、Wは下記一般式(7)
【化5】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、Xは加水分解性基であり、aは2又は3であり、lは0〜10の整数である。)
で表される加水分解性基を有する基であり、αは1〜7の整数である。〕
で表される重量平均分子量が14,000〜50,000のフルオロポリエーテル−ポリシロキサン共重合体で変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物とを含み、(A)成分と(B)成分との混合質量比が40:60〜95:5である含フッ素コーティング剤。
〔2〕
(B)成分が、フルオロポリエーテル部分として、
下記一般式(1)
−CgF2gO− (1)
(式中、gは単位毎に独立に1〜6の整数である。)
で表される繰り返し単位を10〜200個含み、ポリシロキサン部分として、3〜200個のシロキサン結合を含むものであることを特徴とする〔1〕記載の含フッ素コーティング剤。
〔
3〕
式(11)、(12)中のRf’が、下記一般式(13)又は(14)で示される基であることを特徴とする〔
1〕
又は〔2〕記載の含フッ素コーティング剤。
−(Z’−Q)
h−Rf−(Q−Z’)
h− (13)
−Rf−(Q−Z’−Q−Rf)
i− (14)
(式中、Qは上記と同じであり、Rfは−(CF
2)
d−O−(CF
2O)
p(CF
2CF
2O)
q(CF
2CF
2CF
2O)
r(CF
2CF
2CF
2CF
2O)
s(CF(CF
3)CF
2O)
t−(CF
2)
d−であり、dは独立に0〜5の整数であり、p、q、r、s、tはそれぞれ独立に0〜200の整数であり、かつ、p+q+r+s+t=10〜200の整数であり、括弧内に示される各単位はランダムに結合されていてよい。Z’は2価のポリシロキサン鎖で、それぞれ同じでも異なってもよい。hは独立に0又は1であり、iは1〜3の整数である。)
〔4〕
式(11)、(12)中のRf’が、上記一般式(13)で示される基である〔3〕記載の含フッ素コーティング剤。
〔
5〕
式(13)、(14)中のZ’が、下記一般式(15)又は(16)で示されるポリシロキサン鎖であることを特徴とする〔
3〕
又は〔4〕記載の含フッ素コーティング剤。
【化6】
(式中、R’は同一又は異なってもよい炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基又はフェニルエチル基である。jは10〜200の整数であり、yは1〜5の整数であり、u及びvは1〜200の整数で、同一又は異なっていてもよい。)
〔
6〕
更に、下記一般式(17)で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマー(C)を含有することを特徴とする〔1〕〜〔
5〕のいずれかに記載の含フッ素コーティング剤。
【化7】
(式中、Rfは−(CF
2)
d−O−(CF
2O)
p(CF
2CF
2O)
q(CF
2CF
2CF
2O)
r(CF
2CF
2CF
2CF
2O)
s(CF(CF
3)CF
2O)
t−(CF
2)
d−であり、dは独立に0〜5の整数であり、p、q、r、s、tはそれぞれ独立に0〜200の整数であり、かつ、p+q+r+s+t=10〜200の整数であり、括弧内に示される各単位はランダムに結合されていてよい。Aはフッ素原子、水素原子、又は末端が−CF
3基、−CF
2H基もしくは−CH
2F基である1価のフッ素含有基である。)
〔
7〕
更に、含フッ素溶剤を含有する〔1〕〜〔
6〕のいずれかに記載の含フッ素コーティング剤。
〔
8〕
〔1〕〜〔
7〕のいずれかに記載の含フッ素コーティング剤で処理された物品。
〔
9〕
〔1〕〜〔
7〕のいずれかに記載の含フッ素コーティング剤で処理されたタッチパネル。
〔
10〕
〔1〕〜〔
7〕のいずれかに記載の含フッ素コーティング剤で処理された反射防止処理物品。
〔
11〕
〔1〕〜〔
7〕のいずれかに記載の含フッ素コーティング剤で処理されたガラス。
〔
12〕
〔1〕〜〔
7〕のいずれかに記載の含フッ素コーティング剤で処理された強化ガラス。
〔
13〕
〔1〕〜〔
7〕のいずれかに記載の含フッ素コーティング剤で処理されたサファイヤガラス。
〔
14〕
〔1〕〜〔
7〕のいずれかに記載の含フッ素コーティング剤で処理された石英ガラス。
〔
15〕
〔1〕〜〔
7〕のいずれかに記載の含フッ素コーティング剤で処理されたSiO
2処理基板。
【発明の効果】
【0014】
本発明の含フッ素コーティング剤を基材に処理することにより形成される被膜は、平滑な撥水撥油性表面となる。本発明の含フッ素コーティング剤で処理することによって、各種物品の透明性や質感を損なうことなく、優れた防汚性能を付与することができ、薬品等の侵入から基材を守り、長期に防汚性能を保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の含フッ素コーティング剤は、フルオロポリエーテル基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物(A)と、フルオロポリエーテル−ポリシロキサン共重合体で変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物(B)とを含み、(A)成分と(B)成分との混合質量比が40:60〜95:5である組成物である。
【0016】
本発明の含フッ素コーティング剤は、(A)成分と(B)成分とを含む組成物であり、本発明のコーティング剤をガラスやSiO
2処理された基板(SiO
2をあらかじめ蒸着又はスパッタした基板)にスプレー塗工、インクジェット塗工、スピン塗工、浸漬塗工あるいは真空蒸着塗工した防汚処理基板は、(A)成分のみを塗工した防汚処理物品と比較して、安定して表面が平滑な撥水撥油膜を形成できる点で優れている。
【0017】
(A)成分は、フルオロポリエーテル基として、下記一般式(1)
−C
gF
2gO− (1)
(式中、gは単位毎に独立に1〜6の整数である。)
で表される繰り返し単位を10〜200個、好ましくは20〜100個含み、かつ少なくとも1つの末端、好ましくは1つの末端に下記一般式(2)
【化9】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、Xは加水分解性基であり、aは2又は3である。)
で示される加水分解性シリル基を少なくとも1つ有するものが好適に用いられる。
更に、(A)成分は、上記式(2)で示される加水分解性基含有シリル基を少なくとも1個、好ましくは1〜12個有するものであり、更にXで示される加水分解性基を複数、好ましくは2〜36個、より好ましくは2〜18個有するものであることが望ましい。
【0018】
フルオロポリエーテル基である上記一般式(1)で示される繰り返し単位としては、例えば、下記の単位等が挙げられる。なお、フルオロポリエーテル基は、これらの繰り返し単位の1種単独で構成されていてもよいし、2種以上の組み合わせであってもよく、それぞれの繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。
−CF
2O−
−CF
2CF
2O−
−CF
2CF
2CF
2O−
−CF(CF
3)CF
2O−
−CF
2CF
2CF
2CF
2O−
−CF
2CF
2CF
2CF
2CF
2O−
−CF
2CF
2CF
2CF
2CF
2CF
2O−
−C(CF
3)
2O−
【0019】
上記式(2)において、Rは炭素数1〜4のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基又はフェニル基である。
Xは加水分解性基であり、加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基、トリフルオロメトキシ基、トリフルオロエトキシ基、トリクロロエトキシ基等の炭素数1〜6のハロゲン化アルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基等の炭素数2〜10のアルコキシアルコキシ基、アセトキシ基等の炭素数1〜10のアシロキシ基、イソプロペノキシ基等の炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基等のハロゲン基などが挙げられる。中でもメトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、クロル基が好適である。
【0020】
(A)成分のフルオロポリエーテル基で変性された加水分解性基含有シランとしては、下記一般式(3)、(4)、(5)及び(6)で表わされるフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランから選ばれる少なくとも1種からなる組成物が更に好適である。
A−Rf−QZ(W)
α (3)
Rf−(QZ(W)
α)
2 (4)
A−Rf−Q−(Y)
βB (5)
Rf−(Q−(Y)
βB)
2 (6)
〔式中、Rfは−(CF
2)
d−O−(CF
2O)
p(CF
2CF
2O)
q(CF
2CF
2CF
2O)
r(CF
2CF
2CF
2CF
2O)
s(CF(CF
3)CF
2O)
t−(CF
2)
d−であり、dは独立に0〜5の整数であり、p、q、r、s、tはそれぞれ独立に0〜200の整数であり、かつ、p+q+r+s+t=10〜200の整数であり、括弧内に示される各単位はランダムに結合されていてよい。Aはフッ素原子、水素原子、又は末端が−CF
3基、−CF
2H基もしくは
−CH
2F基である1価のフッ素含有基であり、Qは単結合、又はフッ素置換されていてもよい2価の有機基であり、Zは単結合、−JC=〔Jはアルキル基、ヒドロキシル基もしくはK
3SiO−(Kは独立に水素原子、アルキル基、アリール基又はアルコキシ基)で示されるシリルエーテル基〕で示される3価の基、−LSi=(Lはアルキル基)で示される3価の基、−C≡で示される4価の基、−Si≡で示される4価の基、及び2〜8価のシロキサン残基から選ばれる基であり、Wは下記一般式(7)
【化10】
(式中、R、X、aは上記と同じであり、lは0〜10の整数である。)
で表わされる加水分解性基を有する基であり、αは1〜7の整数である。Yは下記一般式(8)〜(10’)
【化11】
【化12】
(式中、R、X、aは上記と同じであり、Dは単結合又は炭素数1〜20のフッ素置換されていてもよい2価の有機基であり、D’は炭素数1〜10のフッ素置換されていてもよい2価の有機基であり、R
1は炭素数1〜20の1価炭化水素基であり、R
2は水素原子又はメチル基であり、eは1又は2である。)
で表わされる加水分解性基を有する2価の基であり、βは1〜10の整数であり、Bは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又はハロゲン基である。〕
【0021】
上記式(3)〜(6)において、Rfは−(CF
2)
d−O−(CF
2O)
p(CF
2CF
2O)
q(CF
2CF
2CF
2O)
r(CF
2CF
2CF
2CF
2O)
s(CF(CF
3)CF
2O)
t−(CF
2)
d−である。
ここで、dは独立に0〜5の整数、好ましくは0〜2の整数、更に好ましくは1又は2であり、p、q、r、s、tはそれぞれ独立に0〜200の整数、好ましくはpは5〜100の整数、qは5〜100の整数、rは0〜100の整数、sは0〜50の整数、tは0〜100の整数であり、かつ、p+q+r+s+tは10〜200の整数、好ましくは20〜100の整数であり、括弧内に示される各単位はランダムに結合されていてよい。
【0022】
Rfとして、具体的には、下記に示すものが例示できる。
【化13】
(式中、d’は0〜5、好ましくは0〜2の整数、更に好ましくは1又は2、p’は10〜200、好ましくは20〜100の整数、q’は10〜200、好ましくは20〜100の整数、r’は10〜200、好ましくは20〜100の整数、s’は0〜50、好ましくは0〜30、更に好ましくは1〜30の整数、t’は10〜200、好ましくは20〜100の整数で、p’、q’、r’、s’、t’の合計は10〜200、好ましくは20〜100の整数である。)
【0023】
上記式(3)、(5)において、Aはフッ素原子、水素原子、又は末端が−CF
3基、−CF
2H基もしくは
−CH
2F基である1価のフッ素含有基であり、1価のフッ素含有基として、具体的には、下記に示すものが例示できる。
−CF
3
−CF
2CF
3
−CF
2CF
2CF
3
−CF
2H
−CH
2F
【0024】
上記式(3)〜(6)において、Qは単結合、又はフッ素置換されてもよい2価の有機基であり、Rf基と末端基との連結基である。Qとして、好ましくは、アミド結合、エーテル結合、エステル結合又はジメチルシリレン基等のジオルガノシリレン基からなる群より選ばれる1種又は2種以上の構造を含んでよい非置換又は置換の炭素数2〜12の2価の有機基、好ましくは前記構造を含んでよい非置換又は置換の炭素数2〜12の2価の炭化水素基である。
【0025】
ここで、非置換又は置換の炭素数2〜12の2価の炭化水素基としては、エチレン基、プロピレン基(トリメチレン基、メチルエチレン基)、ブチレン基(テトラメチレン基、メチルプロピレン基)、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等のアルキレン基、フェニレン基等のアリーレン基、又はこれらの基の2種以上の組み合わせ(アルキレン・アリーレン基等)であってよく、更に、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素等のハロゲン原子で置換したものなどが挙げられ、中でも非置換又は置換の炭素数2〜4のアルキ
レン基、フェニ
レン基が好ましい。
【0026】
このようなQとしては、例えば、下記の基が挙げられる。
【化14】
【0027】
【化15】
(式中、bは2〜4の整数であり、cは0〜4の整数であり、Meはメチル基である。)
【0028】
上記式(3)、(4)において、Zは、単結合、−JC=〔Jは好ましくは炭素数1〜3のアルキル基、ヒドロキシル基もしくはK
3SiO−(Kは独立に水素原子、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基、フェニル基等のアリール基又は好ましくは炭素数1〜3のアルコキシ基)で示されるシリルエーテル基〕で示される3価の基、−LSi=(Lは好ましくは炭素数1〜3のアルキル基)で示される3価の基、−C≡で示される4価の基、−Si≡で示される4価の基、及び2〜8価、好ましくは2〜4価のシロキサン残基から選ばれる基であり、シロキサン結合を含む場合には、ケイ素原子数2〜13個、好ましくはケイ素原子数2〜5個の鎖状又は環状オルガノポリシロキサン残基であることが好ましい。また、2つのケイ素原子がアルキレン基で結合されたシルアルキレン構造、即ちSi−(CH
2)
n−Siを含んでいてもよい(前記式においてnは2〜6の整数)。
該オルガノポリシロキサン残基は、炭素数1〜8、より好ましくは1〜4のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基又はフェニル基を有するものがよい。また、シルアルキレン結合におけるアルキレン基は、炭素数2〜6、好ましくは2〜4のものがよい。
【0029】
このようなZとしては、下記に示すものが挙げられる。
【化16】
【0033】
【化20】
(式中、Meはメチル基である。)
【0034】
上記式(3)、(4)において、Wは下記一般式(7)で表わされる加水分解性基を有する基である。
【化21】
ここで、R、X、aは上記と同じであり、lは0〜10の整数、好ましくは2〜8の整数である。
Wとして、具体的には、下記に示すものが例示できる。
【化22】
(式中、lは上記と同じである。)
【0035】
上記式(3)、(4)において、αは1〜7の整数、好ましくは1〜3の整数である。
【0036】
上記式(5)、(6)において、Yは下記一般式(8)、(9)、(10)又は(10’)で表わされる加水分解性基Xを有する2価の基である。
【化23】
【化24】
(式中、R、X、aは上記と同じであり、Dは単結合又は炭素数1〜20のフッ素置換されていてもよい2価の有機基であり、D’は炭素数1〜10のフッ素置換されていてもよい2価の有機基であり、R
1は炭素数1〜20の1価炭化水素基であり、R
2は水素原子又はメチル基であり、eは1又は2である。)
【0037】
ここで、R、X、aは上記と同じである。
Dは単結合、又は炭素数1〜20、好ましくは炭素数2〜8のフッ素置換されていてもよい2価の有機基、好ましくは2価炭化水素基であり、D’は炭素数1〜10、好ましくは炭素数2〜8のフッ素置換されていてもよい2価の有機基、好ましくは2価炭化水素基であり、これらD、D’の2価炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基(トリメチレン基、メチルエチレン基)、ブチレン基(テトラメチレン基、メチルプロピレン基)、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等のアルキレン基、フェニレン基等のアリーレン基、又はこれらの基の2種以上の組み合わせ(アルキレン・アリーレン基等)などや、これらの基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたもの等が挙げられる。Dとしては、エチレン基、プロピレン基、フェニレン基が好ましく、D’としてはエチレン基、プロピレン基が好ましい。
【0038】
また、R
1は炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられる。これらの中でも、メチル基が好ましい。
R
2は水素原子又はメチル基である。
【0039】
Yとして、具体的には、下記の基が挙げられる。
【化25】
【0040】
【化26】
(式中、Xは上記と同じであり、Meはメチル基である。)
【0041】
上記式(5)、(6)において、βは1〜10の整数、好ましくは1〜4の整数である。
また、上記式(5)、(6)において、Bは水素原子、炭素数1〜4のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、又はハロゲン基である。
【0042】
上記式(3)、(4)で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランとして、連結基Qを
【化27】
とし、Z基を
【化28】
とし、加水分解性基を含むW基を
【化29】
として表されるものを下記に例示する。これらQ、Z、Wの組み合わせは、これらに限られたものではなく、単純にQ、Z、Wを変更することで、数通りのフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランが得られる。いずれのフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランでも本発明の効果は発揮できる。
【0047】
また、上記Q、Z、W以外のものを使用し、これらを組み合わせた上記式(3)、(4)で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランとしては、更に下記の構造のものが挙げられる。
【化34】
【0048】
【化35】
(q1/p1=0.9、p1+q1≒45)
【化36】
(q1/p1=0.9、p1+q1≒45)
【化37】
(q1/p1=0.9、p1+q1≒45)
【化38】
(q1/p1=0.9、p1+q1≒23)
【0049】
【化39】
(q1/p1=1.1、p1+q1≒45)
【0050】
【化40】
(q1/p1=0.9、p1+q1≒45)
【0051】
【化41】
(q1/p1=0.9、p1+q1≒45)
【0052】
上記式(5)、(6)で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランとしては、下記構造のものが挙げられる。
【化42】
(q1/p1=0.9、p1+q1≒60)
【0053】
【化43】
(q1/p1=1.2、p1+q1≒45)
【0054】
【化44】
(q1/p1=0.9、p1+q1≒45)
【0055】
【化45】
(q1/p1=0.9、p1+q1≒45)
【0056】
【化46】
(q1/p1=1.0、p1+q1≒40)
【0057】
本発明の含フッ素コーティング剤には、(A)成分として、上記フルオロポリエーテル基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シランの末端加水分解性基を、予め公知の方法により部分的に加水分解し、縮合させて得られる部分加水分解縮合物を含んでいてもよい。
【0058】
なお、(A)成分の重量平均分子量は、1,000〜20,000であることが好ましく、2,000〜10,000であることがより好ましい。重量平均分子量が小さすぎるとフルオロポリエーテル基の撥水撥油性や低動摩擦性を発揮できない場合があり、大きすぎると基板との密着性が悪くなる場合がある。なお、本発明において、重量平均分子量は、AK−225(旭硝子製)を展開溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の標準ポリスチレン換算値として測定できる。
【0059】
また、本発明の含フッ素コーティング剤には、フルオロポリエーテル−ポリシロキサン共重合体で変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物(B)を含有する。
(A)成分はポリマー同士が凝集しやすいが、(B)成分は凝集し難いという特徴を有する。(A)成分と(B)成分は、ともにフルオロポリエーテル部分を有するため混合可能であり、(A)成分に(B)成分を混合すると、上述した(B)成分の特徴から、ポリマー成分の凝集を防ぐことができる。
【0060】
(B)成分は、フルオロポリエーテル部分として、下記一般式(1)
−C
gF
2gO− (1)
(式中、gは単位毎に独立に1〜6の整数である。)
で表される繰り返し単位を10〜200個、特に20〜100個含み、ポリシロキサン部分として、3〜200個、特に10〜100個のシロキサン結合を含むものであることが好ましい。
【0061】
フルオロポリエーテル部分である上記式(1)で示される繰り返し単位としては、下記の単位等が挙げられる。なお、フルオロポリエーテル部分は、これらの繰り返し単位の1種単独で構成されていてもよいし、2種以上の組み合わせであってもよく、それぞれの繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。
−CF
2O−
−CF
2CF
2O−
−CF
2CF
2CF
2O−
−CF(CF
3)CF
2O−
−CF
2CF
2CF
2CF
2O−
−CF
2CF
2CF
2CF
2CF
2O−
−CF
2CF
2CF
2CF
2CF
2CF
2O−
−C(CF
3)
2O−
【0062】
ポリシロキサン部分としては、3〜200個、特に10〜100個のシロキサン結合を含むものであることが好ましい。シロキサン結合が少なすぎると表面を平滑にするレベリング効果が小さく、ヘーズを低減できない場合があり、多すぎると成分(A)と相溶させることができなくなる場合がある。ポリシロキサン部分として、具体的には、下記に示すものが挙げられる。
【化47】
(式中、Meはメチル基、Etはエチル基、Phはフェニル基を示す。)
【0063】
(B)成分のフルオロポリエーテル−ポリシロキサン共重合体で変性された加水分解性基含有シランとしては、下記一般式(11)及び/又は(12)で表されるフルオロポリエーテル−ポリシロキサン共重合体変性シランであることが好ましい。
A−Rf’−QZW
α (11)
Rf’−(QZW
α)
2 (12)
(式中、Rf’は2価のフルオロポリエーテル−ポリシロキサン共重合体含有基であり、A、Q、Z、W及びαは前記と同じである。)
【0064】
上記式(11)、(12)において、A、Q、Z、W及びαは上記で例示したA、Q、Z、W及びαと同様のものを例示することができ、Aとしては、
−CF
3
−CF
2CF
3
−CF
2CF
2CF
3
−CF
2H
−CH
2F
が好ましく、Qとしては、
【化48】
(式中、bは上記と同じである。)
が好ましく、Zとしては、
【化49】
(式中、Meはメチル基であり、fは1〜200、好ましくは10〜100の整数である。)
が好ましく、Wとしては、
【化50】
(式中、lは上記と同じである。)
が好ましい。
【0065】
上記式(11)、(12)において、Rf’は下記一般式(13)又は(14)で示される基であることが好ましい。
−(Z’−Q)
h−Rf−(Q−Z’)
h− (13)
−Rf−(Q−Z’−Q−Rf)
i− (14)
(式中、Rf及びQは上記と同じであり、Z’は2価のポリシロキサン鎖で、それぞれ同じでも異なってもよい。hは独立に0又は1であり、iは1〜3の整数である。)
【0066】
上記式(13)、(14)において、Rf及びQは上記で例示したRf及びQと同様のものを例示することができ、Rfとしては、
−CF
2−O−(CF
2O)
p2(CF
2CF
2O)
q2−CF
2−
(式中、p2は5〜100、好ましくは10〜50の整数、q2は5〜100、好ましくは10〜50の整数である。)
が好ましく、Qとしては、単結合、
【化51】
(式中、bは上記と同じである。)
が好ましい。
【0067】
上記式(13)、(14)において、Z’はポリシロキサンを含む2価の基であり、直鎖型であるか、分岐型であるかは問わない。該ポリシロキサン構造としては、下記一般式(15)又は(16)で示される、例えばポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン鎖が挙げられる。ここで、R’は同一又は異なってもよい炭素数1〜4のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、フェニル基又はフェニルエチル基である。
【0068】
【化52】
ここで、jは10〜200、好ましくは15〜100、より好ましくは20〜80の整数である。
【0069】
【化53】
ここで、yは1〜5の整数、u及びvは1〜200、好ましくは1〜100、より好ましくは10〜60の同じ又は異なってもよい整数であり、u+vは10〜201、好ましくは20〜80の整数である。
【0070】
Z’として、具体的には、下記のものが挙げられる。
【化54】
【0072】
【化56】
ここで、Meはメチル基、Etはエチル基、Phはフェニル基を示す。
【0073】
上記式(11)、(12)において、Rf’として、具体的には、下記に示す基が挙げられる。
【化57】
【0076】
上記式(11)、(12)で表されるフルオロポリエーテル−ポリシロキサン共重合体変性シランとしては、下記構造のものが挙げられる。
【化60】
【0079】
本発明の含フッ素コーティング剤には、(B)成分として、上記フルオロポリエーテル−ポリシロキサン共重合体で変性された加水分解性基含有シランの末端加水分解性基を予め公知の方法により部分的に加水分解し、縮合させて得られる部分加水分解縮合物を含んでいてもよい。
【0080】
なお、(B)成分の重量平均分子量は、1,000〜50,000であることが好ましく、2,000〜20,000であることがより好ましい。重量平均分子量が小さすぎると(A)成分の優れた滑り性を損なう場合があり、大きすぎると基材との密着性が悪くなる場合がある。
【0081】
本発明の含フッ素コーティング剤は、上記フルオロポリエーテル基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物(A)と、フルオロポリエーテル−ポリシロキサン共重合体で変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物(B)との混合質量比が、40:60〜95:5であり、好ましくは
50:50〜95:5である。(B)成分が多すぎると(A)成分の特徴である優れた防汚特性が損なわれ、(B)成分が少なすぎると凝集を抑えることができず、視認性が悪くなるなど、基材の質感を損なうことになる。
【0082】
本発明の含フッ素コーティング剤には、更に(C)成分として、下記一般式(17)
【化63】
(式中、Rf及びAは前記と同じ。)
で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマー(以下、無官能性ポリマーと称することもある)を含有してもよい。
【0083】
上記式(17)において、Rf及びAは上記で例示したRf及びAと同様のものを例示することができ、Rfは上述した(A)、(B)成分中のRfと同一でも異なっていてもよく、Rfとしては、
【化64】
(式中、p3は5〜200、好ましくは10〜100の整数、q3は5〜200、好ましくは10〜100の整数、r3は10〜200、好ましくは20〜100の整数、t3は5〜200、好ましくは10〜100の整数で、t3+p3は10〜200、好ましくは20〜100の整数、q3+p3は10〜200、好ましくは20〜100の整数、t4は10〜200、好ましくは20〜100の整数である。)
が好ましく、またAとしては、
−F
−CF
3
−CF
2CF
3
−CF
2CF
2CF
3
が好ましい。
【0084】
式(17)で表される無官能性ポリマーとしては、下記のものが挙げられる。
【化65】
(式中、p3、q3、r3、t3、t4は、上記と同じであり、フルオロポリエーテル基含有ポリマーの繰り返し単位数を10〜100とする数である。)
【0085】
(C)成分の重量平均分子量は、1,000〜50,000であることが好ましく、2,000〜15,000であることがより好ましい。重量平均分子量が小さすぎると(A)成分の優れた滑り性を損なう場合があり、大きすぎると(A)成分と(B)成分との相溶性が悪くなり、ヘーズが上昇する場合がある。
なお、(C)成分の重量平均分子量は、(B)成分に含まれるフルオロポリエーテル鎖の長さと、非フッ素部分との組み合わせによって異なるが、(B)成分に含まれるフルオロポリエーテル鎖の重量平均分子量の0.25〜4倍が好ましい。(B)成分に含まれるフルオロポリエーテル鎖の重量平均分子量が大き過ぎると、(B)成分と(C)成分が相溶しなくなる場合がある。
【0086】
なお、(C)成分の無官能性ポリマーは、市販品を使用することができ、例えば、FOMBLIN、DEMNUM、KRYTOXという商標名で販売されているため、容易に手に入れることができる。このようなポリマーとしては、例えば、下記構造のものが挙げられる。
【0087】
FOMBLIN Y(Solvay Solexis社製商品名、FOMBLIN Y25(重量平均分子量:3,200)、FOMBLIN Y45(重量平均分子量:4,100))
【化66】
(式中、t3、p3は上記重量平均分子量を満足する数である。)
【0088】
FOMBLIN Z(Solvay Solexis社製商品名、FOMBLIN Z03(重量平均分子量:4,000)、FOMBLIN Z15(重量平均分子量:8,000)、FOMBLIN Z25(重量平均分子量:9,500))
【化67】
(式中、q3、p3は上記重量平均分子量を満足する数である。)
【0089】
DEMNUM(ダイキン工業社製商品名、DEMNUM S20(重量平均分子量:2,700)、DEMNUM S65(重量平均分子量:4,500)、DEMNUM S100(重量平均分子量:5,600))
【化68】
(式中、r3は上記重量平均分子量を満足する数である。)
【0090】
KRYTOX(DuPont社製商品名、KRYTOX 143AB(重量平均分子量:3,500)、KRYTOX 143AX(重量平均分子量:4,700)、KRYTOX 143AC(重量平均分子量:5,500)、KRYTOX 143AD(重量平均分子量:7,000))
【化69】
(式中、t4は上記重量平均分子量を満足する数である。)
【0091】
(C)成分を配合する場合の使用量は問わないが、(A)、(B)成分の合計質量に対して0〜50質量%の範囲が好ましく、多すぎると、密着性の問題が生じる場合がある。なお、配合する場合の下限は、(C)成分の効果を有効に発揮させる点から5質量%以上とすることが好ましい。
【0092】
本発明の含フッ素コーティング剤は、適当な溶剤を含んで、各種塗工方法に適した濃度とすることができる。このような溶剤としては、フッ素変性脂肪族炭化水素系溶剤(パーフルオロヘキサン、パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタン、ペンタフルオロブタンなど)、フッ素変性芳香族炭化水素系溶剤(m−キシレンヘキサフルオライド、ベンゾトリフルオライド、1,3−トリフルオロメチルベンゼンなど)、フッ素変性エーテル系溶剤(メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)など)、フッ素変性アルキルアミン系溶剤(パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミンなど)、炭化水素系溶剤(石油ベンジン、ミネラルスピリッツ、トルエン、キシレンなど)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)を例示することができる。これらの中では、溶解性、濡れ性などの点で、フッ素変性された溶剤が望ましく、特にはエチルパーフルオロブチルエーテルやデカフルオロペンタンがより好ましい。上記溶剤は1種を単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
【0093】
上記溶剤はその2種以上を混合してもよく、(A)〜(C)成分を均一に溶解させるものであることが好ましい。なお、溶剤に溶解させる(A)〜(C)成分の最適濃度は処理方法により異なるが、0.01〜50質量%、特に0.05〜20質量%であることが好ましい。
【0094】
また、本発明の含フッ素コーティング剤には、必要に応じて、本発明を損なわない範囲で他の添加剤を配合することができる。具体的には、加水分解縮合触媒、例えば、有機錫化合物(ジブチル錫ジメトキシド、ジラウリン酸ジブチル錫等)、有機チタン化合物(テトラn−ブチルチタネート等)、有機酸(フッ素系カルボン酸、酢酸、メタンスルホン酸等)、無機酸(塩酸、硫酸等)などが挙げられる。これらの中では、特にフッ素系カルボン酸、酢酸、テトラn−ブチルチタネート、ジラウリン酸ジブチル錫が望ましい。加水分解縮合触媒の添加量は触媒量であるが、通常、上記(A)成分100質量部に対して0.01〜5質量部、特に0.1〜1質量部である。
【0095】
本発明の含フッ素コーティング剤は、刷毛塗り、ディッピング塗工、スプレー塗工、インクジェット塗工、蒸着処理塗工など、公知の塗工方法で基材に施与することができる。また、硬化温度は、硬化方法によって異なるが、例えば、スプレー法、インクジェット法、ディッピング法、刷毛塗り、真空蒸着法で施与した場合は、室温〜200℃、特に50〜150℃の範囲が望ましい。硬化湿度としては、加湿下で行うことが反応を促進する上で望ましい。また、硬化被膜の膜厚は、基材の種類により適宜選定されるが、通常0.1〜100nm、特に3〜30nmである。
なお、含フッ素コーティング剤が加水分解性基を有する場合、基板にSiO
2層をプライマーとして設け、その上に該含フッ素コーティング剤を塗工するが、ガラス基板等の加水分解性基が基板と直接密着できるような場合には、SiO
2層を設ける必要はない。密着性が悪い場合には、プライマー層として、SiO
2層を設けるか、真空プラズマ処理、大気圧プラズマ処理、アルカリ処理することによって密着性を向上することができる。
【0096】
本発明の含フッ素コーティング剤で処理される基材は特に制限されず、紙、布、金属及びその酸化物、ガラス、プラスチック、セラミック、石英など、各種材質のものであってよい。本発明の含フッ素コーティング剤は、これら基材に撥水撥油性、耐薬品性、離型性、低動摩擦性、防汚性を付与することができる。本発明の含フッ素コーティング剤で処理された物品として、具体的には、タッチパネル、反射防止処理物品、ガラス、強化ガラス、サファイヤガラス、石英ガラス、SiO
2処理された基板が挙げられる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記実施例によって限定されるものではない。
【0098】
フルオロポリエーテル基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シランとして、下記の化合物1〜3を準備した。
化合物1
【化70】
(重量平均分子量:4,600)
【0099】
化合物2
【化71】
Rfa:−CF
2O−(C
2F
4O)
q1(CF
2O)
p1−CF
2−
(p1/q1=1.1)
l=3
(重量平均分子量:5,500)
【0100】
化合物3
【化72】
Rfb:−CF
2O−(C
2F
4O)
q1(CF
2O)
p1−CF
2−
(p1/q1=0.9)
l=3
(重量平均分子量:4,800)
【0101】
フルオロポリエーテル−ポリシロキサン共重合体で変性された加水分解性基含有シランとして、下記の化合物4,5を準備した。
化合物4
【化73】
(重量平均分子量:14,000)
【0102】
化合物5
【化74】
(重量平均分子量:15,000)
【0103】
コーティング剤の調製及び硬化被膜の形成
表1に示す化合物の混合割合で(A)、(B)成分を混合し、固形分濃度0.5質量%になるようにNovec 7200(エチルパーフルオロブチルエーテル、3M社製)に溶解させてコーティング剤を調製した。ガラス(コーニング社製 GorillaII)を、コーティング剤の処理浴に60秒浸漬後300mm/min.の速度で引き上げ、80℃、湿度80%の雰囲気下で1時間硬化させて硬化被膜(膜厚:約20nm)を形成し、試験体を作製した。
【0104】
【表1】
【0105】
得られた硬化被膜を下記の方法により評価した。いずれの試験も、25℃、湿度50%で実施した。結果を表2に併記する。
【0106】
[撥水撥油性の評価]
上記にて作製した試験体を用い、接触角計DropMaster(協和界面科学社製)を用いて、硬化被膜の水(液滴:2μl)に対する接触角(撥水性)及びオレイン酸(液滴:5μl)に対する接触角(撥油性)を測定した。
【0107】
[ヘーズの評価]
上記にて作製した試験体のヘーズをJIS K 7136に従い測定した。
装置名:NDH−5000(日本電色社製)
【0108】
[動摩擦係数の評価]
ベンコット(旭化成社製)に対する動摩擦係数を、表面性試験機14FW(新東科学社製)を用いて下記条件で測定した。
接触面積:10mm×35mm
荷重:200g
【0109】
[油拭き取り性の評価]
サンプル表面に、オレイン酸を5μl垂らし、ベンコットで、250g/cm
2の荷重で10回拭き取った後のヘーズを評価した。拭き取り作業には、表面性試験機14FWを用いた。
【0110】
【表2】
【0111】
上記の結果より、(A)成分を単独で用いた比較例1〜3のコーティング剤では、ポリマー同士が凝集してしまい、ヘーズが0.5を超え、視認性が悪くなった。また、(B)成分を単独で用いた比較例6のコーティング剤では、サンプル表面にオレイン酸を付着させた後の油拭き取り性が十分でない。
(B)成分を、(A)成分と(B)成分の合計中5〜50質量%混合させた実施例1〜9のコーティング剤は、ポリマー同士の凝集を抑えることができ、ヘーズの上昇を抑えることができた。また、比較例1,3のように、(A)成分単独のコーティング剤では動摩擦係数が高い場合も、これらの(A)成分を(B)成分と特定割合で混合した実施例1,3,9では、表面の動摩擦係数を0.05以下に低減できた。
比較例4のコーティング剤にみられるように、(B)成分の混合割合が
60質量%を超えると、オレイン酸接触角が60度未満に低下してしまう。一方、比較例5のコーティング剤にみられるように、(B)成分の混合割合が5質量%を下回ると、ヘーズの上昇を抑えることができない。