【実施例】
【0031】
本実施例では、水処理システムの一例として、RO膜を用いて海水を淡水化する海水淡水化システムについて説明する。本実施例による水処理システムは、RO膜を用いた海水淡水化システムに限定されるものではなく、例えば精密ろ過膜(以下、NF(Microfiltration)膜と言う)またはイオン交換膜を用いた海水淡水化システム、廃水を浄化して再利用水を生成する再利用水製造システム、並びに純水または超純水を生成する純水・超純水製造システムなどにも適用できることは言うまでもない。
【0032】
以下に、海水淡水化システムの構成、海水淡水化システムにおける水処理方法、RO膜モジュールのろ過方式、多孔質セラミックハニカム吸着材(吸着構造体、多孔質セラミックハニカム構造体、セラミックス構造体またはセラミックハニカム構造体などとも言う)を有する吸着モジュールの構造および多孔質セラミックハニカム吸着材の機能について説明する。
<海水淡水化システムの構成>
【0033】
本実施例による海水淡水化システムの構成を
図1を用いて説明する。
図1は、本実施例による海水淡水化システムの構成の一例を示す概略図である。
【0034】
図1に示すように、本実施例による海水淡水化システム1は、海水に含まれる塩分、有機物、微生物(菌類を含む)、ホウ素および固形浮遊物などを被分離物質として除去して淡水化する水処理システムであり、上流側から海水取水部10、前処理部20および脱塩部30の順に、主に3つの部分で構成される。
【0035】
海水取水部10は、取水管11、取水ポンプ12および原水タンク13で構成される。取水管11は、海中に設置されて原水となる海水を吸上げる構成のほか、沖まで伸ばして深層水を原水として吸上げる構成であってもよく、または海底に埋設して海底砂でろ過した後に原水となる海水を吸上げる構成であってもよい。取水ポンプ12は、陸上に設置される構成のほか、海中に設置される構成であってもよい。
【0036】
また、取水管11内で微生物、藻類および貝類などの生物が増殖して取水管11が閉塞することを防止するため、これら生物の増殖を防止する薬品(例えば殺菌剤など)が取水管11内に注入される構成としてもよい。
【0037】
前処理部20は、例えば砂ろ過槽21、多孔質セラミックハニカム吸着材22、送水ポンプ22aおよびRO膜供給水タンク23で構成され、微生物の殺菌およびその他の懸濁成分を除去する前処理を行う。さらに、前処理部20には、複数種類の薬品を原水に注入する薬注システム24が備わっている。薬注システム24は、原水に注入する薬品の種類に応じて構成される。なお、懸濁成分は有機物である場合が多い。また、無機物を有している場合もある。
【0038】
図1には、殺菌剤注入部24a、pH調整剤注入部24b、凝集剤注入部24cおよび中和還元剤注入部24dを示している。殺菌剤注入部24aは、微生物を殺菌する殺菌剤を注入する。pH調整剤注入部24bは、多価イオンによるスケールの発生防止および凝集効率の向上のためのpH調整剤を注入する。凝集剤注入部24cは、砂ろ過槽21で効率よく有機物を取り除くための凝集剤を注入する。中和還元剤注入部24dは、中和剤および還元剤を注入する。
【0039】
殺菌剤注入部24aからは微生物を殺菌する殺菌剤として、次亜塩素酸または塩素などが原水に注入される。殺菌剤注入部24aから注入される殺菌剤の間歇注入の間隔および濃度によって原水における微生物の死滅率または生存率が変化する。
【0040】
なお、殺菌剤として注入される次亜塩素酸または塩素は、脱塩部30のRO膜モジュール32に備わるRO膜の機能を低下させるため、RO膜モジュール32へ送水される前に、原水を還元する構成が好ましい。そのため、殺菌剤の過剰な注入は回避されることが好ましく、殺菌剤注入部24aには殺菌剤の注入量を調節する調節バルブVL1が備わっている。
【0041】
また、殺菌剤注入部24aから取水管11に殺菌剤を注入してもよい。この場合、取水管11に殺菌剤を注入する管路にも注入量を調節する調節バルブVL1を備えることが好ましい。
【0042】
また、多価イオンによるスケールの発生を防止し、かつ、凝集効率を向上させるため、海水淡水化システム1で処理される原水は酸性(pH3〜5)に調整されることが好ましい。そこで、pH調整剤注入部24bから硫酸などのpH調整剤が原水に注入されて好適にpHが調整される。pH調整剤注入部24bにはpH調整剤の注入量を調節する調節バルブVL2が備わっている。
【0043】
また、凝集剤注入部24cからポリ塩化アルミニウムまたは塩化第2鉄などの凝集剤が原水に注入される。原水に含まれる有機物は凝集剤によって成長が促進されるため、凝集剤の注入によって0.1μm以上の大きさの有機物の微粒子を1μm以上の大きさの有機物のフロックに成長させる。これにより、砂ろ過槽21における有機物の除去効率が向上する。
【0044】
凝集剤の注入量が過少の場合は、フロックが好適に成長せず、有機物が砂ろ過槽21を通り抜ける場合がある。また、凝集剤の注入量が過剰の場合は、フロックの成長に使用されない余剰分が、脱塩部30のRO膜モジュール32に備わるRO膜に負荷を与える。従って、凝集剤注入部24cには凝集剤の注入量を調節する調節バルブVL3が備わっている。
【0045】
中和還元剤注入部24dからは、pH3〜5の酸性に調節された原水を中和するための中和剤、および主に殺菌剤を還元するための還元剤が原水に注入される。中和還元剤注入部24dには中和剤および還元剤の注入量を調節する調節バルブVL4が備わっている。
【0046】
以上のように、前処理部20における前処理工程では、殺菌剤の注入によって微生物を殺菌する工程と、凝集剤を注入して有機物のフロックを成長させ、砂ろ過槽21で有機物を除去する工程と、が行われる。
【0047】
脱塩部30は、高圧ポンプ31、RO膜モジュール32および淡水タンク33で構成される主ラインLMと、RO膜モジュール32、エネルギ回収装置34および濃縮水タンク35で構成される副ラインLSとを備える。さらに、脱塩部30は、廃水タンク36と、測定部と、複数種類の薬液を原水に注入する薬注システム39とを備える。
【0048】
RO膜モジュール32に備わるRO膜には半透膜が用いられている。半透膜は、半透膜と水分子との相互作用と、半透膜と被分離物質との相互作用との違いによって水分子のみを透過させる膜であり、酢酸セルロース系のものと芳香族ポリアミド系のものとがある。本実施例では、芳香族ポリアミド系の半透膜からなるRO膜を使用するが、酢酸セルロース系の半透膜からなるRO膜を使用してもよい。
【0049】
RO膜モジュール32の構成は限定されない。例えば厚さが数100μm程度の微孔多孔質支持体の表面に、厚さが0.1μm以下のポリアミド膜(例えば芳香族ポリアミド系の半透膜)を形成した複合膜をスパイラルと呼ばれる形状に折り畳んだエレメント、または中空糸状膜を束ねたエレメントによってRO膜モジュール32を構成することができる。この場合のエレメントは、直径が4インチ(約10cm)、8インチ(約20cm)、または16インチ(約40cm)で、長さが1m程度の円筒形のものが多く、このようなエレメントをベッセルという耐圧容器内に直列に並べたRO膜モジュール32が用いられる。
【0050】
RO膜をスパイラル状に折り畳んだ形状のエレメントでは、RO膜同士の密着を防止するために、例えば膜間にポリエチレン製のスペーサが挟み込まれる。しかし、スペーサとRO膜との間隙は0.5μm程度と狭くなる。そこで、RO膜モジュール32の上流側には保安フィルタを取り付けてもよい。
【0051】
薬注システム39は、RO膜モジュール32の洗浄に用いる薬品の種類に応じて構成される。
図1には、微生物の繁殖を抑制する制菌剤を注入する制菌剤注入部39a、スケールを除去するための酸注入部39bおよび有機物を除去するためのアルカリ注入部39cを示している。
【0052】
制菌剤注入部39aからは微生物の繁殖を抑制する制菌剤として、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド(以下、DBNPAと言う)などが原水に注入される。制菌剤注入部39aから注入される制菌剤の間歇注入の間隔および濃度によって原水における微生物の死滅率または生存率が変化する。なお、制菌剤として注入されるDBNPAなどの過剰な注入は回避されることが好ましく、制菌剤注入部39aには制菌剤の注入量を調節する調節バルブVL5が備わっている。
【0053】
また、酸注入部39bからは発生したスケールを定期的に除去するため、硫酸などの酸が原水に注入される。酸注入部39bには酸の注入量を調節する調節バルブVL6が備わっている。
【0054】
また、アルカリ注入部39cからは苛性ソーダなどのアルカリが原水に注入される。アルカリ注入部39cにはアルカリの注入量を調節する調節バルブVL7が備わっている。
<海水淡水化システムにおける水処理方法>
【0055】
本実施例による海水淡水化システム1において、海水取水部10の取水ポンプ12によって取水管11を介して海から取水された原水は、原水タンク13に一時貯水され、原水に含まれる被分離物質の一部が沈殿除去された後に、前処理部20へ送られる。
【0056】
前処理部20では、殺菌剤注入部24aからの殺菌剤注入と、pH調整剤注入部24bからのpH調整剤注入と、凝集剤注入部24cからの凝集剤注入とがなされた原水が、砂ろ過槽21に流れ込む。砂ろ過槽21では、主に凝集剤によって1μm以上の大きさに成長した有機物のフロックがろ過されて除去され、砂ろ過槽21を透過した原水は送水ポンプ22aによって多孔質セラミックハニカム吸着材22へ送られる。砂ろ過槽21を通過した原水には凝集剤によってフロックを形成できなかった有機物が溶解しているが、多孔質セラミックハニカム吸着材22の表面との相互作用により、吸着して原水から分離除去される。
【0057】
原水は、例えば送水ポンプ22aなどの加圧手段によって0.1〜0.5MPa程度まで加圧されて多孔質セラミックハニカム吸着材22へ送水される(圧送)。多孔質セラミックハニカム吸着材22へ送水される原水は、高圧であるほど多孔質セラミックハニカム吸着材22を透過する速度が高くなるが、被分離物質を原水から分離する性能(いわゆる分離性能)は低下する。
【0058】
多孔質セラミックハニカム吸着材22を透過した原水には、中和還元剤注入部24dから中和剤および還元剤が注入され、pH調整剤で酸性に調整されている原水が中和されるとともに、注入されている殺菌剤が還元される。そして、原水はRO膜供給水タンク23に貯水される。
【0059】
RO膜供給水タンク23に貯水された原水は、脱塩部30の高圧ポンプ31で加圧されてRO膜モジュール32へ送られ(圧送)、RO膜モジュール32でろ過される。そして、RO膜モジュール32に備わるRO膜を透過して懸濁成分が除去された原水は、淡水として淡水タンク33に貯水される。一方、RO膜モジュール32に備わるRO膜を透過しない原水は、高圧ポンプ31で加圧された状態で懸濁成分を含む濃縮水となって濃縮水タンク35に貯水される。
【0060】
なお、濃縮水タンク35に貯水された濃縮水を、例えば海に戻す排水系が備わる場合もある。この場合、排水系では、塩分濃度を低下させる処理、並びに塩分および化学薬品の原料となりうる物質を取り出す処理が行われる。
【0061】
また、脱塩部30に備わるエネルギ回収装置34は、例えば濃縮水タンク35に貯水された高圧の濃縮水(高圧水)が排水されるときのエネルギで回転するタービンと、そのタービンの回転で発電する発電機とにより構成され、発電した電力は高圧ポンプ31などの駆動電力として利用することが可能である。
<RO膜モジュールのろ過方式>
【0062】
本実施例による海水淡水化システム1において、RO膜モジュール32には分離膜としてRO膜が備わっている。原水をRO膜でろ過するろ過方式には下記の2つの方式がある。
【0063】
ろ過方式の1つは「全量ろ過方式」であり、原水の全量をRO膜に通す方式である。この方式では、RO膜を透過しない被分離物質はRO膜の膜面に堆積する。そして、被分離物質の堆積によってRO膜の微孔が閉塞するため、透過水量が運転時間とともに低下する現象、すなわちファウリングが発生する。
【0064】
ろ過方式の他の1つは「クロスフローろ過方式」であり、RO膜の膜面に沿うように原水を流し、その一部がRO膜を透過する方式である。この方式では、RO膜を透過しない被分離物質は原水とともに排出されてRO膜の膜面に堆積しない。しかしながら、クロスフローろ過方式でも長時間の運転によって原水に含まれる被分離物質がRO膜に少しずつ吸着して微孔が閉塞し、RO膜の透過水量が次第に低下する現象、すなわちファウリングが発生する。本実施例では、クロスフローろ過方式としたが、全量ろ過方式としてもよい。
【0065】
RO膜に吸着する被分離物質としては、電解質がRO膜の膜面付近で高濃度となって析出するスケール、原水に含まれる微生物がRO膜の膜面で増殖するバイオファウリング、および原水に含まれる有機物が吸着する有機物ファウリングなどがある。
【0066】
例えば電解質濃度が高くなって析出するスケールについては、スケール防止剤またはpH調整剤の注入により電解質濃度が高くなってもスケールが析出しにくい条件に調整すること、または定期的にRO膜の膜面に清浄水を流してせん断力で除去することによって対応することができる。
【0067】
しかしながら、有機物ファウリングはせん断力で除去することができず、長時間の運転によって次第に蓄積する。例えば海水淡水化システム1の場合、前処理部20の構成および性能、海水の水質、並びに薬注システム24で注入される薬品の種類などによる変動はあるが、TOC(Total Organic Carbon:全有機炭素量)換算で、0.1〜10mg/L程度の有機物が、脱塩部30へ送られる原水に含まれる。
【0068】
また、有機物スケールがRO膜に吸着して蓄積すると、その有機物を培地として微生物が増殖し、バイオフィルムを形成してバイオファウリングの要因となる。
【0069】
海水淡水化システム1の場合、原水に含まれる微生物は、殺菌剤注入部24aから注入される殺菌剤によって死滅する。しかしながら、RO膜(特に、芳香族ポリアミド系のRO膜)は殺菌剤である次亜塩素酸または塩素とわずかずつ反応して分解し、劣化するため、殺菌剤が還元剤によって還元されて殺菌成分が含まれない状態の原水が脱塩部30に送水される。
【0070】
脱塩部30を構成する配管などの部材は施工後に充分洗浄され、さらに、使用開始後も定期的に薬品によって洗浄されるが、配管などの部材から完全に微生物を排除することは不可能である。
【0071】
また、殺菌剤注入部24aから注入される殺菌剤で殺菌しきれない微生物が脱塩部30に流れ込むこともあり、脱塩部30(より詳細には、RO膜供給水タンク23の下流)に微生物が存在する場合がある。そしてこの場合、脱塩部30に送水される原水には殺菌成分(殺菌力のある殺菌剤)が含まれていないため、脱塩部30に存在する微生物を除去できず、脱塩部30に存在する微生物によってバイオフィルムが形成される。
【0072】
このように、RO膜モジュール32に、有機物ファウリングまたはバイオファウリングが発生すると、RO膜における原水のろ過能力が低下するため、RO膜の交換が必要になる。海水淡水化システム1においては、RO膜モジュール32のエレメントの洗浄またはRO膜モジュール32の交換となる。
【0073】
このようなRO膜モジュール32のエレメントの洗浄時またはRO膜モジュール32の交換時には、海水淡水化システム1を長時間停止するため、海水淡水化システム1の稼動率が低下する。また、エレメントの部品代および交換の作業費用がランニングコストに加算されるため、海水淡水化システム1のランニングコストが上昇する。
従って、有機物を原水から可能な限り前処理部20において除去しておくことが望ましい。
<吸着モジュールの構造>
【0074】
本実施例による多孔質セラミックハニカム吸着材の構造、および多孔質セラミックハニカム吸着材を有する吸着モジュールの構造を
図2〜
図4を用いて説明する。
【0075】
図2は、本実施例による多孔質セラミックハニカム吸着材を有する吸着モジュールの一例を示す側面図である。
【0076】
図2に示すように、吸着モジュールMは、多孔質セラミックハニカム吸着材22、ハウジング(樹脂性収納容器)201およびフィルタ支持体202から構成され、多孔質セラミックハニカム吸着材22は、把持部材を介してハウジング201内のフィルタ支持体202によって収納されている。
【0077】
フィルタ支持体202は、処理前の水が流入する一端と、処理後の水が流出する他端とに固定されている。フィルタ支持体202は、水が抵抗なく通過可能で、水を0.1MPaで透過させたときに、固定端の長軸方向の長さに対して、長軸の中央部での位置変化が5%以内となる強度を持つように、その素材、厚さおよび保持方法が設定される。また、フィルタ支持体202は、水への溶出物がない材質であれば良く、例えば樹脂系では、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートまたはポリスチレンなどからなるメッシュスペーサ、金属系では、ステンレスまたはチタンなどからなるメッシュまたはパンチングメタルなどを用いることができる。本実施例では、フィルタ支持体202として、例えば厚さが1mm程度のパンチングメタルを使用した。
【0078】
図3は、本実施例による多孔質セラミックハニカム吸着材の一例を示す流入側の端面図であり、
図3(a)および(b)はそれぞれ、水が流れる方向と直交する方向の流路の断面が四角形の場合の端面図および水が流れる方向と直交する方向の流路の断面が三角形の場合の端面図である。水が流れる方向とは、多孔質セラミックハニカム吸着材の流入側である入口から出口へ向かう方向を指す。直交する方向とは、水が流れる方向に対して略直角に形成される角度を意味し、90度のみを指すものではない。ここで、端面とは、多孔質セラミックハニカム吸着材22のフィルタ支持体202との接触面を言い、処理水が流れる方向に対向して、処理前の水が流入する第1の面と、処理後の水が流出する第2の面とがある。なお、
図3(a)には、断面が正方形の流路を示し、
図3(b)には、断面が正三角形の流路を示しているが、これに限定されるものではない。例えば長方形または二等辺三角形などであってもよい。
【0079】
図3(a)および(b)に示すように、多孔質セラミックハニカム吸着材22は、外周壁209と、外周壁209の内側に設けられた複数の流路212と、隣り合う流路212の間を隔てる隔壁210とを有している。隔壁210は、例えばセラミックからなる。
【0080】
複数の流路212は、端面において互いに平行でない第1方向および第2方向に並んで配置されており、流入側の面から流出側の面まで貫通している貫通孔を、流入側の端面または流出側の端面を目封止することにより形成されている。具体的には、処理前の水の流入側が開口し、反対側の処理後の水の流出側が目封止部211によって目封止された第1の流路212aと、処理後の水の流出側が開口し、反対側の処理前の水の流入側が目封止部211によって目封止された第2の流路212bとを有する。第1の流路212aと第2の流路212bとは、第1方向および第2方向にそれぞれ交互に配置されている。流路212の径は、例えば0.5〜5mm程度である。
【0081】
また、外周壁209および隔壁210に形成される連通孔は、流路212の径よりも細い孔構造である平均細孔径(例えば20μm程度)で構成され、隣り合う流路212間(例えば第1の流路212aと第2の流路212bとの間)を連通する多数の連通孔(図示は省略)が形成されている。
【0082】
図4は、本実施例による多孔質セラミックハニカム吸着材の一例を示す水が流れる方向に沿った断面図である。
【0083】
図4に示すように、多孔質セラミックスハニカム吸着材22には、流入側が開口した第1の流路212aに処理前の水が流入する。第1の流路212aに流入した処理前の水は、隔壁210に形成された多数の連通孔を通じて、第1の流路212aと隣り合う第2の流路212bに流れる。隔壁210の表面または隔壁210に形成された連通孔の内面には吸着材料(図示は省略)が形成されており、水が隔壁210を通過するときに、吸着材料が水に含まれる有機物を吸着し、除去する。この後、第2の流路212bに流れ込んだ水は、第2の流路212bの開口した流出側から流出する。
<多孔質セラミックハニカム吸着材の機能>
【0084】
本実施例による多孔質セラミックハニカム吸着材を用いた有機物の除去のメカニズムについて
図5を用いて説明する。
図5は、本実施例による多孔質セラミックハニカム吸着材の隔壁の表面の一部を示す模式図である。
【0085】
海水淡水化システムで淡水化する海水には、多種類の有機物が含まれており、数種類に特定できるものではない。有機物には、その分子構造の違いから、電気的に分極し、水、イオンまたは分極した固体表面との親和性の高いものと、電気的な分極が小さく、水、イオンまたは分極した固体表面との親和性の低いものとがある。さらに、電気的な分極については、正に帯電するものと負に帯電するものがある。また、海水淡水化に用いられるRO膜のうち、本実施例で使用する芳香族ポリアミド膜は、芳香環、カルボニル基、アミノ基などを含むことから、親水性領域(主に芳香環によって形成される領域)と疎水性領域(主にカルボニル基、アミノ基によって形成される領域)とが存在する。また、カルボニル基の分極に比べてアミノ基の分極が強いことから、水中の水素イオンを誘引して親水性領域の一部が正に帯電する。このため、芳香族ポリアミド膜に吸着して造水性能を阻害する物質は、中性または負に帯電する親水性有機物(中性親水性有機物または陰イオン性有機物)と、疎水性有機物となる。このようなRO膜に吸着しやすい物質を原水から除去するためには、中性または正に帯電する親水性領域と、疎水性領域とが必要である。
【0086】
ここで、疎水性および親水性について簡単に説明する。親水性とは、固体表面に純水を滴下した際に自発的に濡れ拡がることを意味し、疎水性とは、固体表面に純水を滴下した際に自発的に濡れ拡がらないことを意味する。本発明者らの検討の結果、液体の表面の接線と固体・液体界面とのなす角である接触角を用いると、接触角が40度以下の状態を親水性、接触角が40度を超える場合を疎水性と考えると、観察される現象をよく説明できることが明らかとなった。
【0087】
図5に示すように、本実施例による多孔質セラミックハニカム吸着材22の隔壁210の表面(連通孔の内面も含む)には、親水性領域と疎水性領域とが形成されている。隔壁210の表面および連通孔の内面の両方に親水性領域と疎水性領域を形成することが望ましい。両者に親水性領域と疎水性領域を形成することで吸着に寄与する面積が増加するからである。
【0088】
なお、隔壁210の表面とは、単に原水と隔壁210とが接触する物理的な境界面のみを意味するのではなく、多孔質セラミックハニカム吸着材上に層状に形成された親水性領域と疎水性領域の層構造を表面と定義する。また、親水性領域と疎水性領域を粒状に形成し、バインダに混ぜ込んだものを塗布したものも含む。すなわち厚みを有する塗布されたバインダ構造も隔壁210の表面と呼ぶ。
また、連通孔の内面も隔壁210の表面同様に厚みを有するものとする。
【0089】
なお、隔壁210の表面および連通孔の内面に形成される親水性領域と疎水性領域は、いずれも必須構成ではなく、一方だけでも実施可能である。ただし、親水性領域と疎水性領域を形成することでより高い水処理能力となることは明らかである。
【0090】
また、原水に含まれる親水性有機物と疎水性有機物との比率に応じて親水性領域と疎水性領域との構成比率を変更すると水処理能力が向上する。例えば原水に含まれる親水性有機物:疎水性有機物が3:7程度の割合で存在する場合には、親水性領域:疎水性領域は7:3程度の比率で形成することが望ましい。また、親水性有機物:疎水性有機物が6:4程度の割合で存在する場合には、親水性領域:疎水性領域は4:6程度の比率で形成することが望ましい。
【0091】
従って、原水に含まれる親水性有機物および疎水性有機物は、RO膜モジュール32(
図1参照)に到達する前に、多孔質セラミックハニカム吸着材22によって効率的に除去されることになる。ここで、多孔質セラミックハニカム吸着材22の隔壁210の表面(連通孔の内面も含む)に形成される親水性領域は、中性または正に帯電することが望ましい。
【0092】
ここで、コーディエライトを用いて多孔質セラミックハニカム吸着材22を製作すると、ほぼ親水性領域のみからなる多孔質セラミックハニカム吸着材22が得られるが、アルミナを用いて多孔質セラミックハニカム吸着材22を製作すると、適度に親水性領域と疎水性領域が混在した表面が形成される。それらの比率は、多孔質セラミックハニカム吸着材22の製造条件によって一概には規定できない。従って、海水に含まれる有機物の捕捉性能も一概には規定できないが、例えば横浜港で採取した海水を空間速度120(1/h)で多孔質セラミックハニカム吸着材22に流通したところ、コーディエライト製では除去率が3〜7%であったのに対し、アルミナ製では除去率が10〜60%であった。
【0093】
さらに海水中の有機物の除去率を向上させたい場合には、次に記す方法により、親水性領域と疎水性領域を形成することができる。本実施例による多孔質セラミックハニカム吸着材の隔壁の表面および連通孔の内面に形成される吸着材料の親水性領域および疎水性領域の形成方法について
図6を用いて説明する。
図6は、本実施例による多孔質セラミックハニカム吸着材の隔壁の表面の一部を拡大して示す模式図であり、
図6(a)、(b)および(c)はそれぞれ、疎水性粒子と親水性粒子とがバインダを用いて固定された吸着材料の模式図、疎水性粒子が親水性バインダを用いて固定された吸着材料の模式図、および親水性粒子が疎水性バインダを用いて固定された吸着材料の模式図である。
図6(a)に示す吸着材料の第1の形成方法を説明する。
【0094】
まず、多孔質セラミックハニカム吸着材を準備する。多孔質セラミックハニカム吸着材の細孔径は、特に限定されるものではないが、一般に細孔径が小さいほど単位体積あたりの表面積(比表面積)が大きくなり、吸着容量が大きくなることから、小さい細孔径ほど望ましい。一方、ハーゲンポアズイユの式より、細孔径が小さいほど透過抵抗が大きくなるため、多孔質セラミックハニカム吸着材に水を通過させるのに動力を要することになる。また、細孔径が小さいほど微細な懸濁成分により閉塞が起こりやすくなる。そのため、多孔質セラミックハニカム吸着材に最適な細孔径には下限値が存在することになる。本発明者らの検討では、隔壁210の厚さが0.5mmで平均細孔径が20μmのもの、隔壁210の厚さが1mmで平均細孔径が10μmのもの、隔壁210の厚さが1mmで平均細孔径が1μmのものなどを主に使用した。多孔質セラミックハニカム吸着材に空間速度120(1/h)で海水を通過させたときに発生する差圧を測定したところ、いずれの多孔質セラミックハニカム吸着材においても最大で4kPaであり、通常の送水ポンプの能力と比べて十分小さい。すなわち平均細孔径1μm以上であれば、多孔質セラミックハニカム吸着材として好適である。
【0095】
続いて、多孔質セラミックハニカム吸着材の隔壁210に形成された流路と他の流路とを連通させる連通孔の孔径(例えば20μm程度)より小さい粒子(例えば10nm程度)であって、親水性を有する親水性微粒子と、疎水性を有する疎水性微粒子とを、適切なバインダを用いて、多孔質セラミックハニカム吸着材の隔壁210の表面および連通孔の内面に固定する。上記適切なバインダとは、例えばアクリル系ポリマーまたはメチルセルロースなどである。複数の親水性微粒子および複数の疎水性微粒子からなる層が複数層堆積される。その後、多孔質セラミックハニカム吸着材を乾燥させることにより、また必要に応じて熱処理を行うことにより、多孔質セラミックハニカム吸着材の隔壁210の表面および連通孔の内面に、親水性領域および疎水性領域を有し、厚さが、例えば1μm程度の吸着材料が形成する。この場合、一定の厚みで塗布することができ、層構造をとりやすくなる。複数回塗布を繰り返し、このような層構造をとることによって、原水に接触する層が劣化した場合に、最表面の一層を剥がすことが容易となる。一層を剥がすことにより、劣化していない面が原水と接触することとなり、水処理システムの処理能力を回復させることができる。
【0096】
ここで、親水性微粒子としては、シリカ(二酸化ケイ素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、チタニア(酸化チタン)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)またはマグネシア(酸化マグネシウム)などがある。また、疎水性微粒子としては、シリコンカーバイド(炭化ケイ素)、グラファイト、ダイヤモンド、ポリスチレン、ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのポリオレフィンなどがある。
図6(b)に示す吸着材料の第2の形成方法を説明する。
【0097】
まず、多孔質セラミックハニカム吸着材を準備する。続いて、多孔質セラミックハニカム吸着材の隔壁210に形成された流路と他の流路とを連通させる連通孔の孔径(例えば20μm程度)より小さい粒子(例えば10nm程度)であって、疎水性を有する疎水性微粒子を、親水性バインダを用いて、多孔質セラミックハニカム吸着材の隔壁210の表面および連通孔の内面に固定する。その後、多孔質セラミックハニカム吸着材を乾燥させることにより、また必要に応じて熱処理を行うことにより、多孔質セラミックハニカム吸着材の隔壁210の表面および連通孔の内面に、親水性領域および疎水性領域を有し、厚さが、例えば1μm程度の吸着材料を形成する。
【0098】
ここで、疎水性微粒子には、前記第1の形成方法に例示した疎水性微粒子を用いることができ、親水性バインダには、アルミナゾルまたはシリカゾルなどの無機ゾル系バインダを用いることができる。
図6(c)に示す吸着材料の第3の形成方法を説明する。
【0099】
まず、多孔質セラミックハニカム吸着材を準備する。続いて、多孔質セラミックハニカム吸着材の隔壁210に形成された流路と他の流路とを連通させる連通孔(例えば20μm程度)の孔径より小さい粒子(例えば10nm程度)であって、親水性を有する親水性微粒子を、疎水性バインダを用いて、多孔質セラミックハニカム吸着材の隔壁210の表面および連通孔の内面に固定する。その後、多孔質セラミックハニカム吸着材を乾燥させることにより、また必要に応じて熱処理を行うことにより、多孔質セラミックハニカム吸着材の隔壁210の表面および連通孔の内面に、親水性領域および疎水性領域を有し、厚さが、例えば1μm程度の吸着材料を形成する。
【0100】
ここで、親水性微粒子には、前記第1の形成方法に例示した親水性微粒子を用いることができ、疎水性バインダには、芳香族カルボン酸と芳香族アミンとの混合溶液などを用いることができる。
【0101】
次に、本実施例による多孔質セラミックハニカム吸着材の吸着性能を回復するメカニズムについて
図7を用いて説明する。
図7は、本実施例による多孔質セラミックハニカム吸着材の隔壁の表面の一部を拡大して示す模式図であり、(a)、(b)および(c)はそれぞれ、疎水性粒子と親水性粒子とがバインダを用いて固定された吸着材料の模式図、疎水性粒子が親水性バインダを用いて固定された吸着材料の模式図、および親水性粒子が疎水性バインダを用いて固定された吸着材料の模式図である。
【0102】
図7(a)に示すように、第1の形成方法によって形成された親水性領域および疎水性領域に対しては、それぞれを構成する粒子を溶解する溶液を用いて洗浄することにより、上層の粒子が溶解して下層の新たな粒子が表面に露出する。
【0103】
図7(b)に示すように、第2の形成方法によって形成された親水性領域および疎水性領域に対しては、親水性バインダを溶解する溶液(例えばpH=10以上のアルカリ性溶液、水酸化ナトリウム水溶液など)を用いて洗浄することにより、親水性バインダの表層が溶解する。これに伴い、表層に含まれていた疎水性粒子が脱落して、下層の疎水性粒子が新たに表面に露出する。
【0104】
図7(c)に示すように、第3の形成方法によって形成された親水性領域および疎水性領域に対しては、疎水性バインダを溶解する溶液(例えばpH=10以上のアルカリ性溶液、水酸化ナトリウム水溶液など)を用いて洗浄することにより、疎水性バインダの表層が溶解する。これに伴い、表層に含まれていた親水性粒子が脱落して、下層の親水性粒子が新たに表面に露出する。
【0105】
次に、多孔質セラミックハニカム吸着材の交換について述べる。前記第1、第2および第3のいずれの形成方法でも、一度の洗浄処理により、例えば0.1〜100nm程度の表層が溶解するが、その溶解量はあらかじめ知ることができる。そこで、吸着材料の厚さと洗浄処理の回数から吸着材料の残りの厚さを算出して、吸着モジュールの交換のタイミングをはかることができる。これにより、吸着材料が全て除去される前に、吸着モジュールを交換することができる。
【0106】
水処理システムは計算部を備えており、この計算部による計算は、吸着モジュールの運用開始時の処理能力と測定時の処理能力とを比較し、運用開始時よりも処理能力が落ちていることを確認または判定するものである。すなわち吸着モジュールの使用時間を測定するものである。
【0107】
吸着モジュールの水処理性能が運用当初よりも落ちている場合に、例えば水処理システムに備えられた表示部に交換を行うように表示される。また、判定結果を水処理システムの管理者またはメンテナンスを行うサービスメーカーにメール等で連絡し、吸着モジュールの交換を行うように知らせてもよい。この場合は、水処理システム以外からも吸着モジュールの交換時期(交換を推奨する時期)を知ることができる。
【0108】
また、吸着モジュールの交換のタイミングは、例えば水処理システムに備わる計算部によって管理されており、適切な交換時期を計算部からユーザーに通知してもよい。また、吸着モジュールの交換のタイミングは、例えば多孔質セラミックハニカム吸着材メーカーによって管理されており、適切な交換時期を多孔質セラミックハニカム吸着材メーカーからユーザーに通知してもよい。
【0109】
この交換時期の計算では、先に使用した吸着モジュールの運用開始から交換するまでの時間、すなわち使用時間を記憶する。また、現在使用されている吸着モジュールの運用時間を測定し、先に使用した吸着モジュールの交換時期との差を判定し、交換までの推奨時間を計算し、そして、適切な水処理性能が得られる状態の耐用期間の残り時間を通知してもよい。適切な水処理性能は使用する水処理システムによって適宜設定するものである。また、吸着モジュールの交換期間を測定し記憶することにより、その水処理システムに対応する交換頻度を求め、通知してもよい。この場合は、水処理システムで処理する被処理水と吸着モジュールの耐久性能との関係から吸着モジュールそのものの性能低下のみならず被処理水との関係からより適した交換の時期を提案することができる。
【0110】
これらの通知方法は、その他、先に述べたユーザー、システム管理者またはメールによる通知方法を用いてもよい。この場合は、吸着モジュールの処理能力が低下する前に事前に交換時期を知らせることができる。そのため、他の構成のメンテナンスと併せて水処理システム全体のメンテナンス計画を立てることに役立てられる。
【0111】
また、通知方法は複数備えてもよく、例えば水処理システムの管理者等に知らせるだけでなく、吸着モジュールを販売または供給するメーカーに併せて知らせることで、吸着モジュールの交換時期をそれぞれに事前に知らせることができる。この場合は、水処理システムのユーザーが、処理能力が低下した吸着モジュールの交換を望む際に前記メーカーは既に水処理システムに対応する交換用の吸着モジュールを事前に準備することができる。
【0112】
これらの通知方法は他の実施例でも同様に適用可能であり、水処理システムの効率的な運用を考慮すると実施することが望ましい。
なお、これらの通知方法は必須構成ではなく、水処理システムの実施形態の一例である。
【0113】
また、先に述べた通知においては、吸着モジュールの交換だけでなく、洗浄によって吸着モジュールの性能を回復させることができる場合には、洗浄頻度として洗浄する時期(洗浄を推奨する時期)を通知してもよい。この場合は、吸着モジュールを洗浄することによって長時間利用することを実現できる。
【0114】
また、洗浄頻度と交換頻度とを併せて通知してもよく、この場合は、洗浄による吸着モジュールの長寿命化、交換時期の適切な提案、およびメンテナンス計画の立案に貢献できる。他にも、全体として水処理システムの水処理性能の低減を防止することができる。
【0115】
また、吸着モジュールに形成されている親水性領域または疎水性領域の厚さの情報と、吸着モジュールの洗浄処理により親水性領域または疎水性領域の厚さの減少した量の情報と、減少した後の吸着モジュールの厚みの情報と、吸着モジュールの洗浄頻度または交換頻度の情報と、を測定してもよい。また、測定された各情報を参考として予測した情報を算出してもよい。
【0116】
これらの情報のうち少なくとも1つを用いて吸着モジュールの交換頻度または洗浄頻度を算出し、ユーザーに通知することもできる。さらに、測定された各情報を参考として統計的または経験的に交換頻度等を求めることもできる。
【0117】
前記
図2に示す吸着モジュールMは、必要に応じて並列および直列に配列することができ、各吸着モジュールMの入口および出口にはバルブが設けてある(図示は省略)。また、各吸着モジュールMの入口または出口には圧力開放口が設けてある(図示は省略)。吸着モジュールMの交換の際には、交換する吸着モジュールMの入口および出口のバルブを閉状態とした後、圧力開放口を開放してハウジング201の圧力を開放し、ハウジング201から多孔質セラミックハニカム吸着材22を取り出す。この後、新しい多孔質セラミックハニカム吸着材22をハウジング201に装填し、ハウジング201を組み立て、吸着モジュールMの圧力開放口を閉じたのち、吸着モジュールMの出口側バルブおよび入口側バルブを開けて通水を開始する。
【0118】
このように、本実施例による多孔質セラミックハニカム吸着材は、適切な洗浄処理を施すことによって、長期間にわたって透過性能を維持することが可能である。
【0119】
なお、第1、第2および第3の形成方法のいずれにおいても、前述した処理により新たな親水性領域または疎水性領域を形成した後、すぐに多孔質セラミックハニカム吸着材を海水淡水化処理に使用することも可能である。しかし、前述した処理により新たな親水性領域または疎水性領域を形成した後、さらに、その表層の洗浄を行い、その後、多孔質セラミックハニカム吸着材を海水淡水化処理に使用することが望ましい。これは、前述した処理により新たな親水性領域または疎水性領域を形成した直後は、親水性領域および疎水性領域の微粒子表面をバインダが覆っていることが多く、目的の比率の親水性領域および疎水性領域が形成されていない場合があるためである。
【0120】
次に、本実施例による多孔質セラミックハニカム吸着材の隔壁および流路の設計について
図8および
図9を用いて説明する。
図8は、本実施例による多孔質セラミックハニカム吸着材の流路の一部を拡大して示す断面図であり、(a)および(b)はそれぞれ、水が流れる方向と直交する方向の流路の断面が四角形の場合の断面図、および水が流れる方向と直交する方向の流路の断面が三角形の場合の断面図である。
図9は、本実施例による多孔質セラミックハニカム吸着材における水の通過時間係数と、流路の幅に対する隔壁の厚さの比との関係を説明するグラフ図であり、(a)および(b)はそれぞれ、水が流れる方向と直交する方向の流路の断面が四角形の場合のグラフ図、水が流れる方向と直交する方向の流路の断面が三角形の場合のグラフ図である。
【0121】
図8(a)および(b)に示す隔壁210および流路212の寸法は、隣り合う流路212の間の隔壁210を水が通過する時間を決定する因子となる。
【0122】
図8(a)に示す流路212の断面が四角形の場合は、隔壁210の厚さをd、流路212の幅をl、流路212の長さをL、多孔質セラミックハニカム吸着材の端面の面積をA、全流量をQとすると、隔壁210を水が通過する時間tは、次のように表される。ここでは、断面が正方形の流路212を例示する。
【0123】
【数1】
【0124】
ここで、通過時間tを(端面の面積A×流路長さL/全流量Q)で除したものを通過時間係数と定義し、
図9(a)に図示する。隔壁210の厚さdと流路212の幅lとが等しいときに、最大の通過時間係数が得られる。通過時間係数が最大ということは、吸着材料との相互作用が許される時間が最大であることを示しており、水の流量が同一であってもより多い吸着量が得られることを示す。本発明者らの検討によれば、通過時間係数≧0.3のときに良好な吸着性能が得られ、通過時間係数≧0.3を実現する条件は
図9(a)よりd/l≧0.23である。
【0125】
また、
図8(b)に示す流路212の断面が三角形の場合は、隔壁210の厚さをd、流路212の幅(三角形の底辺からの高さ)をlとすると、隔壁210を水が通過する時間tは、次のように表される。ここでは、断面が正三角形の流路212を例示する。
【0126】
【数2】
【0127】
ここで同様に、通過時間tを(端面の面積A×流路長さL/全流量Q)で除したものを通過時間係数と定義し、
図9(b)に図示する。流路212の幅lと隔壁210の厚さdとの比l/dが2/3(約0.67)のときに、最大の通過時間係数が得られる。通過時間係数が最大ということは、吸着材料との相互作用が許される時間が最大であることを示しており、水の流量が同一であってもより多い吸着量が得られることを示す。本発明者らの検討によれば、通過時間係数≧0.3のときに良好な吸着性能が得られ、通過時間係数≧0.3を実現する条件は
図9(b)よりd/l≧0.06である。
【0128】
またここで、本実施例における隔壁の気孔率および平均細孔径について説明する。隔壁の気孔率および平均細孔径は、マイクロメリティクス社製の水銀圧入式ポロシメータを用いて測定した。平均細孔径とは連通孔の孔径を意味する。
【0129】
水銀圧入式ポロシメータは、真空状態にした隔壁試料中に水銀を圧入し、圧入圧力と隔壁試料の細孔内に圧入された水銀の容積との関係を求めることにより、細孔径と細孔容積の関係(細孔径分布)を求める方法である。気孔率Pは、全細孔容積Vと隔壁材料の真比重ρとから、以下の式を用いて計算した。
P={V/(V+1/ρ)}×100
隔壁がコーディエライトの場合は、ρ=2.52g/cm
3となる。
【0130】
平均細孔径は、細孔径分布において全細孔容積の50%に相当する細孔直径であり、メディアン細孔径と表記してもよい。
【0131】
次に、本実施例における他の吸着部材の構造を、
図10を用いて説明する。本実施例による他の吸着部材22xを有する吸着モジュールの一例を示す側面図は、
図2と同様であるので、説明は省略する。
【0132】
図10(a)および(b)はそれぞれ、本実施例による吸着部材の一例を示す流入側の端面図および側面図である。ここで端面とは、
図2に示す多孔質セラミックハニカム吸着材22を、吸着部材22xに置き換えた際に、
図2に示すフィルタ支持体202との接触面を言い、処理水が流れる方向に対向して、処理前の水が流入する第1の面と、処理後の水が流出する第2の面とがある。
【0133】
図10(a)および(b)に示すように、吸着部材22xは、粒子501が外周壁209内部に充填された構造を有している。
【0134】
粒子501は、例えばセラミックからなり、その表面が吸着部を構成する。粒子501はまた、例えば
図10(c)に示すように、親水性表面を有する粒子511と、疎水性表面を有する粒子512からなる構成を用いるとなお吸着性が向上する。ここで、本実施例での吸着部とはセラミック表面に設けられた親水性表面を有する粒子511または疎水性表面を有する粒子512とを有する部分である。粒子501の径は、例えば10μm〜5mm程度である。粒径は同一である必要もなく、粒子間でばらつきを持っている。流路となる、粒子501間の空隙502を確保することを考慮するとできるだけ近い値の粒径であることが望ましい。
【0135】
この親水性表面を有する粒子511は親水性物質を吸着しやすいものであり、すなわち、親水性物質を吸着する部材である。また、疎水性表面を有する粒子512は疎水性物質を吸着しやすい部材、すなわち、疎水性物質を吸着する部材である。なお、親水性表面を有する粒子511であっても、疎水性物質の一部は吸着することができる部材である。また、疎水性表面を有する粒子512であっても、親水性物質の一部を吸着することができる部材である。
【0136】
図10(d)は、本実施例による他の吸着部材の一例を示す水が流れる方向に沿った断面図である。ここでは、異なる粒径の球で構成された例を示している。
【0137】
処理される水は、吸着部材22xの、粒子501間に存在する空隙502を流路として通過する。
【0138】
ここで、
図10(a)〜(c)には、粒子501の形状は球状として説明されているが、これに限定されるものではなく、例えば略回転楕円体(ラグビーボール状)、略直方体、略立方体、略三角錐などであってもよく、また金平糖のような突起を有する形状であってもよい。粒子501はまた、前記した例えば10μm〜5mm程度の粒子の表面に、例えば大きさ数10nmの粒子を結合させた形状であってもよい。このとき、結合させる例えば大きさ数10nmの粒子として、
図5〜
図7に示すような親水性粒子や疎水性粒子を用いてもよい。
【0139】
次に、本発明の他の実施例として吸着部材の構造を、
図11を用いて説明する。特に中空糸構造の部材を用いた例について説明する。
【0140】
図11(a)および(b)はそれぞれ、本実施例による吸着部材の一例を示す流入側の端面図および中空糸の方向に切断した断面図である。
【0141】
ここで端面とは、
図2に示す多孔質セラミックハニカム吸着材22を、吸着材22yに置き換えた際に、
図12に示すフィルタ支持体202a,202bとの接触面を言い、処理水が流れる方向に対向して、処理前の水が流入する第1の面と、処理後の水が流出する第2の面とがある。
【0142】
図11(a)および(b)に示すように、吸着部材22yは、複数の中空糸601が並んで配置され、固定部602によって互いの間に形成される空隙が封止された構造を有している。
【0143】
固定部602は、中空糸の第一の端部近傍を固定し、中空部603を封止しない第一の固定部602aと、第二の端部を固定し、中空部603を封止する第二の固定部602bの、少なくとも2つからなる。
【0144】
中空糸601の中空部603と外部604を隔離する隔壁605には、中空部603と外部604を連通する多数の連通孔が形成されている。隔壁605に形成される連通孔は、中空部603の径よりも細い孔構造である平均細孔径(例えば1μm程度)で構成される。中空糸601は、例えばセラミックからなる。つまり、部材がセラミックで構成されるものであっても本願発明においては、この構造であれば中空糸と呼ぶ。
【0145】
吸着部材22yはまた、例えば親水性物質を吸着する表面を有する中空糸611と、疎水性物質を吸着する表面を有する中空糸612を組み合わせてなる。中空糸601の径は、例えば1〜5mm程度である。それぞれの中空糸は、先説明した親水性粒子と疎水性粒子を構成する材料によって作ることが可能である。
【0146】
図12および
図13は、
図11に示す吸着部材を有する吸着モジュールの一例を示す断面図である。
【0147】
図12に示すように、吸着モジュールMは、吸着部材22y、ハウジング201およびフィルタ支持体202a,202bから構成され、吸着部材22yは、把持部材を介してハウジング201内のフィルタ支持体202によって収納されている。
【0148】
フィルタ支持体202は、ハウジング201の2つの開口部のうち一方の開口部203a側に位置する第一のフィルタ支持体202aと、他方の開口部203b側に位置する第二のフィルタ支持体202bの2つからなる。
【0149】
2つのフィルタ支持体のうち第一のフィルタ支持体202aは、吸着部材22yの2つの固定部602のうち第一の固定部602aと接触し、第一の固定部602aとハウジング201との間を、空隙なく充填するよう設置されている。
【0150】
また第二のフィルタ支持体202bは、吸着部材22yの2つの固定部602のうち第二の固定部602bと接触し、第二の固定部602bとハウジング201との間に、空隙700が形成されるよう設置されている。
【0151】
図12(b)は
図12(a)中のA−A断面、
図12(c)は
図12(a)中のB−B断面、
図12(d)は
図12(a)中のC−C断面をそれぞれ示している。
図12(c)にはフィルタ支持体202bはハウジング201と第二の固定部602bを3箇所で接続する例を示したが、3箇所に限定されるものではなく、第二の固定部602bとハウジング201との間に空隙700が形成されていればよい。
【0152】
フィルタ支持体202a,202bは、水を通過せず、水への溶出物がない材質で構成され、例えばふっ素ゴム、シリコンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレンゴムなどを用いることができる。
【0153】
図13(a)および(b)は、いずれも
図12のX−X断面を示したもので、本実施例による吸着部材の一例を示す水が流れる方向に沿った断面図である。
図13(a)は第一の開口部203a側から水を流す例を、
図13(b)は第二の開口部203b側から水を流す例を、それぞれ示す。
【0154】
図13(a)に示すように、吸着部材22yには、開口部203a側から流入した処理前の水が、開口した中空糸の中空部603に、流入する。中空部603に流入した処理前の水は、隔壁605に形成された多数の連通孔を通じて、中空糸の外部604に流れる。
【0155】
隔壁605の表面または隔壁605に形成された連通孔の内面には吸着材料(図示は省略)が形成されており、水が隔壁605を通過するときに、吸着材料が水に含まれる有機物を吸着し、除去する。
【0156】
この後、中空糸の外部604に流れ込んだ水は、ハウジング201と第二の固定部602bの間の空隙700を経由して、ハウジング201の開口部203bから流出する。
【0157】
また、
図13(b)に示すように、吸着部材22yには、開口部203b側から流入した処理前の水は、開口していない中空糸の中空部603には流入せず、第二のフィルタ支持体202bと第二の固定部602bの間の空隙700を経由して、中空糸の外部604に到達する。
【0158】
中空糸の外部604に到達した処理前の水は、隔壁605に形成された多数の連通孔を通じて、中空糸の中空部603に流れる。隔壁605の表面または隔壁605に形成された連通孔の内面には吸着材料(図示は省略)が形成されており、水が隔壁605を通過するときに、吸着材料が水に含まれる親水性物質または疎水性物質を吸着し、除去する。特に、親水性または疎水性の有機物を吸着する。
【0159】
この後、中空糸の中空部603に流れ込んだ水は、中空糸の開口した端部を経由して、ハウジング201の開口部203aから流出する。
【0160】
ここで、本発明の実施例において、
図5並びに
図6に記載した親水性粒子および疎水性粒子の大きさについて追記する。粒子の形状は必ずしも球形であるとは限らず、測定法も多岐にわたるため、粒子径についてもさまざまな定義がある。
【0161】
例えば日本工業規格(JIS Z 8901)には試験用粒子の粒子径について「ふるい分け法によって測定した試験用ふるいの目開きで表したもの、沈降法によるストークス相当径で表したもの、顕微鏡法による円相当径で表したものおよび光散乱法による球相当径、並びに電気的抵抗試験方法による球相当値で表したもの」のいずれかと定義されている。
【0162】
このうち光散乱法には、レーザー回折法や動的光散乱法などがあり、特に後者では数nmの微粒子の粒子径も測定することができる。本発明において粒子径と称する場合は、この動的光散乱法を用いた球相当径を指すものとする。
【0163】
本発明に使用する親水性粒子および疎水性粒子の粒子径は、セラミックスハニカムフィルタの場合は隔壁に形成された連通孔の平均細孔径より十分小さければよく、例えば平均細孔径が20μmのセラミックスハニカムフィルタに対しては、粒子径2μm以下の粒子、例えばシーアイ化成株式会社からNanoTek(登録商標)の商品名で販売されている平均粒子径31nmのアルミナ粒子などを使用することができる。
【0164】
なお、本発明でいう疎水性粒子や親水性粒子等の粒子とは、前出の微粒子をも包含する概念である。
【0165】
また
図10に示す粒子状セラミック吸着材の粒子501の粒子径は、前記したように10μm〜5mm程度の粒子を使用することができる。
【0166】
また、
図11に示す吸着部材22xの中空糸吸着材の母材がセラミックで構成される場合について説明する。このセラミックで構成される中空糸セラミック吸着材に対しては、中空糸壁面に開口された連通孔の平均細孔径より十分小さければよく、例えば平均細孔径が1μmの連通孔を有する中空糸に対しては、粒子径100nm以下の粒子、例えば前記した平均粒子径31nmのアルミナ粒子などを使用することができる。先に
図5および
図6等の例と同様に疎水性材料、親水性材料、疎水性物質を吸着する材料や親水性物質を吸着する材料によって中空糸セラミック吸着材の内部の表面を構成することもできる。
【0167】
また、
図6および
図10では簡単のために粒子径が単一である例を示したが、粉体を構成する粒子の粒径は単一ではなく分布を持っている。動的光散乱法を用いると、粒子径とともに粒子径の分布も計測することができる。本発明に使用する親水性粒子および疎水性粒子の粒子径分布は小さいほど望ましいが、粒子径の対数に対する体積基準の頻度分布を正規分布で近似した場合の標準偏差σが1程度であっても実用上問題はない。
【0168】
ここで、平均値m、標準偏差sなる標本がある場合、(m−s)以上(m+s)以下の値を有する要素の割合は、全体の68.3%であることが知られている。
【0169】
前記した粒子径の場合、粒子径の対数を正規分布で近似した場合の平均値がmであることから、平均粒子径をμとするとm=log(μ)となる。
【0170】
また、s=log(α)とおくと、粒子径の対数が(m−s)以上(m+s)以下の値を有する要素とは、粒子径の対数がlog(μ)−log(α)=log(μ/α)以上、(log(μ)+log(α)=log(μ・α))以下の値を有する要素、すなわち粒子径が(μ/α)以上(μ・α)以下なる粒子ということになる。
【0171】
前記した、粒子径の対数に対する体積基準の頻度分布を正規分布で近似した場合の標準偏差σが1程度ということは、粒子径が0.1μ以上10μ以下であることを意味し、そのような粒子が体積基準で全粒子の68.3%を占め、それ以上およびそれ以下の粒子径を有する粒子は全体の31.7%であることを意味する。
【0172】
このような多孔質セラミックハニカム吸着部材22や吸着部材22x等を用いて、被処理水を浄化することにより、大きな表面積で効率よく親水性有機物や疎水性有機物を代表とする親水性物質や疎水性物質を吸着して除去することが可能となる。
【0173】
また、流路212の断面を広くできることから、目詰まりは起こりにくいので、吸着モジュールの洗浄頻度および交換頻度が減少して、ランニングコストを低減することができる。
【0174】
また、吸着部材22xに投入された被処理水に含まれる有機物は、親水性有機物と疎水性有機物とがあり、これらを効率よく吸着させることが可能となる。
【0175】
例えば、
図10(c)に示される親水性表面を有する粒子511は親水性を有する有機物を吸着しやすく、疎水性表面を有する粒子512は疎水性を有する有機物を吸着するためである。これらの粒子を総称して吸着部と呼ぶ。
【0176】
図5、
図6および
図7では、親水性粒子、親水性バインダ、疎水性粒子、疎水性バインダ、という表現を用いて説明したが、前二者は親水性物質を吸着する部材、後二者は疎水性物質を吸着する部材ということである。
【0177】
図5では、親水性粒子、疎水性粒子が1層として形成された例を示しているが、これに最表面を模式的に示したものであって、前記したように、吸着性能を回復するためには積層して形成する方が望ましい。なお、この1層とは、製造時に層構造として明確に構成するものではなく、薬品等で除去した厚みを層とする概念を含むものである。すなわち、表面に現れる層を除去することで、除去された層とは異なる層が表面に現れることによって、吸着力が回復する。
【0178】
また、
図2では多孔質セラミックハニカム吸着材22を用いて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、
図10に示すような粒子充填型フィルタ(吸着部材22x)や、
図11〜
図13に示すような中空糸フィルタ(吸着部材22y)を用いてもよい。
【0179】
多孔質セラミックハニカム吸着材は、粒子充填型フィルタや中空糸フィルタと比較して、被処理水と接触する吸着部の面積を確保しつつ、被処理水が通過する際の抵抗が小さいという優れた点を有する。
【0180】
また、吸着に必要な平均径5〜40μmの孔で構成される薄壁を有し、かつ入口側および出口側に十分な流路を確保できる。
また、入口側と出口側が面対称構造であり、逆洗浄は小抵抗で実施可能である。
【0181】
図10に示される吸着部材22xを用いた粒子充填型フィルタでは、粒子の内部は吸着機能に寄与しないため、粒子の体積を小さくすることで、吸着部の面積を確保しなければならないが、このとき流路の幅も同時に小さくなるために被処理水の通過抵抗は大きくなる。
【0182】
中空糸フィルタでは、その製造工程において、中空糸を作製した後に整列させたのち固定するため、個々の中空糸の強度を確保するために隔壁が他の構造よりも厚くなりやすい。
【0183】
被処理水は隔壁に設けられた連通孔を通過するため、隔壁が厚いと通過抵抗が大きくなるため、隔壁は薄い方が好ましい。
【0184】
従って、多孔質セラミックハニカム構造は、他の粒子充填型フィルタと中空糸フィルタとよりも、隔壁を薄くし、流路の幅を確保しやすくなる。
【0185】
ここで、被処理水の浄化に好適な多孔質セラミックハニカム吸着材を用いる場合は、処理する水の水質にもよるが、おおよそ次のように規定することができる。
【0186】
すなわち、流路断面の形状は四角形または三角形であり、隔壁の気孔率は40%から80%であり、連通孔の平均細孔径は5μmから20μmである。流路の幅と隔壁の比は前記した通りである。
【0187】
多孔質セラミックハニカム吸着材において、流路の形状が四角形や三角形の場合には、前記した流路の径は
図8に示す流路の幅を意味する。
【0188】
流路の断面が正方形でなく長方形の場合は、長方形の長辺及び短辺の長さの算術平均をlとすることで、d/lの好適な範囲を規定する。流路の四角形の互いに接する2辺を構成する隔壁の厚さが異なる場合には、それらの算術平均をdとすることで、d/lの好適な範囲を規定する。
【0189】
流路の断面が三角形であり、かつ正三角形でない場合には、3辺の長さの算術平均をlとすることで、d/lの好適な範囲を規定する。流路の四角形の互いに接する2辺を構成する隔壁の厚さが異なる場合には、それらの算術平均をdとすることで、d/lの好適な範囲を規定する。
【0190】
d/lの下限値は前記したとおりであるが、d/lの上限値も同様に通過時間係数≧0.3を満たす条件として求めることができ、流路の断面が正方形並びに三角形それぞれについて、数1並びに数2より、4.4並びに7.4である。
【0191】
図10(c)においては、薬品等によって吸着部の表面を除去することによって、除去前には現れていなかった疎水性表面を有する粒子512と親水性表面を有する511とが露出し、新しい界面として現れる。つまり除去後には、疎水性表面を有する粒子512と親水性表面を有する粒子511とを有する吸着部の新しい表面が現れる。
【0192】
また、粒子のうち疎水性の性質を有する疎水性の固体バインダを用いた場合には、固体バインダの表面を除去し、新たな疎水性表面を有する粒子512が露出され、界面に現れる。
【0193】
そのため、新たな界面に現れる吸着部には、有機物が吸着されていないため、吸着性能を回復させることができる。これによって、吸着部材を交換する回数を減らすことが可能となる。さらに、水処理システム全体の水処理コストの低減を実現できる。
上記した界面の除去は本実施例のみならず他の実施例においても適用可能である。
【0194】
また、
図11(c)に示される親水性物質を吸着する表面を有する中空糸611と、疎水性物質を吸着する表面を有する中空糸612とは、それぞれ薬品等によって表面を除去することによって除去前には現れていなかった表面が新たな界面として露出することによって、吸着力を回復することができる。
【0195】
このように、本実施例によれば、前処理部において、あらかじめRO膜の性能を劣化させる原因となる有機物を多孔質セラミックハニカム吸着材によって選択的に原水から除去することができる。これにより、RO膜モジュールの交換頻度が減少し、海水淡水化システムのランニングコストを低減することができる。つまり、水処理システムの水処理コストを低減することができる。
【0196】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。