(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6164538
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】気密封止用リッドおよびその製造方法、それを用いた電子部品収納パッケージ
(51)【国際特許分類】
H01L 23/02 20060101AFI20170710BHJP
H01L 23/00 20060101ALI20170710BHJP
H03H 3/02 20060101ALI20170710BHJP
H03H 9/02 20060101ALI20170710BHJP
H01L 23/10 20060101ALI20170710BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20170710BHJP
B23K 20/00 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
H01L23/02 J
H01L23/00 A
H03H3/02 B
H03H9/02 A
H03H9/02 H
H01L23/02 D
H01L23/10 A
B23K26/00 B
B23K20/00 360D
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-189775(P2015-189775)
(22)【出願日】2015年9月28日
(65)【公開番号】特開2017-45972(P2017-45972A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2016年4月5日
(31)【優先権主張番号】特願2014-221297(P2014-221297)
(32)【優先日】2014年10月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-169156(P2015-169156)
(32)【優先日】2015年8月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】横山 紳一郎
(72)【発明者】
【氏名】石尾 雅昭
【審査官】
秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/108083(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/073665(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/02
B23K 20/00
B23K 26/00
H01L 23/00
H01L 23/10
H03H 3/02
H03H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の第1金属層と、前記第1金属層の平板状の一方面に備わる第2金属層と、前記第1金属層の平板状の他方面に備わる酸化皮膜層とを有し、
前記第1金属層の断面はSEM−EDXによって2〜8質量%のCrが検出され、前記第2金属層の表面はSEM−EDXによって10質量%以下のCrが検出され、前記酸化皮膜層の表面はSEM−EDXによって10質量%を超えるCrが検出される、気密封止用リッド。
【請求項2】
前記酸化皮膜層が備わる面には環状の溝を有する、請求項1に記載の気密封止用リッド。
【請求項3】
前記環状の溝を複数有する、請求項2に記載の気密封止用リッド。
【請求項4】
前記第1金属層の厚さと前記第2金属層の厚さの合計が20〜100μmである、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の気密封止用リッド。
【請求項5】
断面のSEM−EDXによって検出されるCrが2〜8質量%である平板状の第1金属層の一方面に、表面のSEM−EDXによって検出されるCrが1質量%以下である第2金属層を結合した後、保持温度が800℃以上1150℃以下の選択酸化性雰囲気での熱処理を行い、前記第1金属層の平板状の他方面に表面のSEM−EDXによって検出されるCrが10質量%を超える酸化皮膜層を形成するとともに、SEM−EDXによって前記第2金属層の表面で検出されるCrが10質量%以下となるように形成する、気密封止用リッドの製造方法。
【請求項6】
前記第1金属層に対応する平板状の第1金属素材の一方面に、前記第2金属層に対応する平板状の第2金属素材をクラッド接合することにより、前記第1金属層の一方面に前記第2金属層が結合された構成にする、請求項5に記載の気密封止用リッドの製造方法。
【請求項7】
前記第1金属層の平板状の一方面を露出し、他方面をマスキングした状態で、前記第2金属層に対応する金属めっきを行うことにより、前記第1金属層の平板状の一方面に前記第2金属層が結合された構成にする、請求項5に記載の気密封止用リッドの製造方法。
【請求項8】
前記熱処理は、(露点+10)℃〜(露点+40)℃に制御されたウェット水素雰囲気で行われる、請求項5乃至7のいずれか1項に記載の気密封止用リッドの製造方法。
【請求項9】
前記酸化皮膜層が備わる表面の一部を除去することにより環状の溝を形成する、請求項5乃至8のいずれか1項に記載の気密封止用リッドの製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の気密封止用リッドと、電子部品が収納されたセラミック枠体とが、ガラス結合層を介して結合されている、電子部品収納パッケージ。
【請求項11】
前記ガラス結合層の熱膨張係数α1(/℃)と前記第1金属層の熱膨張係数α2(/℃)とが、30〜250℃の温度範囲において−15×10−7≦α2−α1≦5×10−7の関係を満たす、請求項10に記載の電子部品収納パッケージ。
【請求項12】
前記ガラス結合層の熱膨張係数α1(/℃)と前記セラミック枠体の熱膨張係数α3(/℃)とが、30〜250℃の温度範囲において0≦α1−α3≦10×10−7の関係を満たす、請求項10または11に記載の電子部品収納パッケージ。
【請求項13】
前記ガラス結合層はPbが1000ppm以下であるガラス材料である、請求項10乃至12のいずれか1項に記載の電子部品収納パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気密封止用リッドおよびその製造方法、それを用いた電子部品収納パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば水晶振動子などの電子部品は、その特性の劣化を防止するために気密容器に封入されて使用されている。例えば、
図1に示す構成の電子部品収納パッケ−ジ10は、リッド1と凹部形状の電子部品収納部11aが形成されたセラミック枠体14とをガラス結合層5を介して結合され、その内部にはバンプ13で支持された水晶振動子などの電子部品12が気密封止されている。この気密封止は、リッド1とセラミック枠体14とがガラス材料を溶融して再凝固させて形成されたガラス結合層5によって接着されることによる。この場合、リッド1とセラミック枠体14とが同じセラミック材料を用いて作製されていると、両者の熱膨張係数が等しいため、気密封止時の膨張や収縮に起因する割れなどの不具合が発生し難い。しかし、セラミック材料を用いたリッド1は、気密封止に耐え得る機械的強度を確保するために厚さを大きくする必要があったため、電子部品収納パッケ−ジ10の低背化が容易でなかった。
【0003】
上述した問題を解決し、電子部品収納パッケ−ジの低背化を可能とした金属材料を用いたリッドが、例えば特許文献1に開示されている。このリッド1は、基材である第1金属層の全表面がCrを含む酸化皮膜層によって覆われている。第1金属層は、気密封止に耐え得る高い機械的強度を有するとともに、熱膨張係数がセラミック枠体14に近いFe−42%Ni−6%Cr合金(金属材料)を用いて作製されている。第1金属層の表面を覆う酸化皮膜層は、第1金属層に含まれるCrを選択的に酸化させて形成したCrを含む黒色の酸化皮膜層であり、ガラス結合層5との濡れ性が良い。このリッド1により、気密封止性を損ねることなく、電子部品収納パッケ−ジ10の低背化ができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2012/108083号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近、個々の製品(電子部品収納パッケ−ジ)の識別を目的として、低出力のレーザーを照射することにより、
図1に示すリッド1の例えばガラス結合層5側でない外側の表面上にマーキング(以下、「レーザーマーキング」という。)が行われるようになった。しかし、レーザーマーキングは、レーザー照射によって焼かれたレーザー照射痕であって実質的に黒色である。そのため、上述した特許文献1に開示された全表面がCrを含む黒色の酸化皮膜層で覆われている構成のリッド1の場合、黒色の酸化皮膜層の表面上に残るレーザー照射痕(レーザーマーキング)の読み取りは容易でなく、レーザーマーキングのもつ識別情報の判別を高精度に行うことができなかった。
【0006】
本発明の目的は、レーザーマーキングの読み取りおよび識別情報の判別を可能にしながらも、気密封止の信頼性を高めることができ、更にはパッケ−ジの低背化も期待できる気密封止用リッドおよびその製造方法を提供するとともに、その気密封止用リッドを用いた電子部品収納パッケージを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、Crを含む酸化皮膜層の形成温度にあっても黒化が抑制され、元の色合いをある程度保持することができる第2金属層を新たに設けることにより、上述した課題が解決できることを見出し、本発明に想到した。
すなわち本発明に係る気密封止用リッドは、平板状の第1金属層と、前記第1金属層の平板状の一方面に備わる第2金属層と、前記第1金属層の平板状の他方面に備わる酸化皮膜層とを有し、前記第1金属層の断面はSEM−EDXによって10質量%以下のCrが検出され、前記第2金属層の表面はSEM−EDXによって10質量%以下のCrが検出され、前記酸化皮膜層の表面はSEM−EDXによって10質量%を超えるCrが検出される。なお、本発明に係る「SEM−EDX」は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)に付属するエネルギー分散型X線分光装置(EDX:Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)を意図する。
【0008】
本発明の気密封止用リッドにおいては、前記酸化皮膜層が備わる表面には環状の溝を有することが好ましい。
また、前記環状の溝を複数有することが好ましい。
【0009】
また、前記第1金属層の厚さと前記第2金属層の厚さの合計が20〜100μmであることが好ましい。
【0010】
上述した本発明に係る気密封止用リッドは、本発明の気密封止用リッドの製造方法によって形成することができる。
すなわち本発明に係る気密封止用リッドの製造方法は、断面のSEM−EDXによって検出されるCrが2〜8質量%である平板状の第1金属層の一方面に、表面のSEM−EDXによって検出されるCrが1質量%以下である第2金属層を結合した後、保持温度が800℃以上1150℃以下の選択酸化性雰囲気での熱処理を行い、前記第1金属層の平板状の他方面に表面のSEM−EDXによって検出されるCrが10質量%を超える酸化皮膜層を形成する。
【0011】
本発明の気密封止用リッドの製造方法においては、前記第1金属層に対応する平板状の第1金属素材の一方面に、前記第2金属層に対応する平板状の第2金属素材をクラッド接合することにより、前記第1金属層の一方面に前記第2金属層が結合された構成にすることができる。
【0012】
あるいは、前記第1金属層の平板状の一方面を露出し、他方面をマスキングした状態で、前記第2金属層に対応する金属めっきを行うことにより、前記第1金属層の平板状の一方面に前記第2金属層が結合された構成にすることができる。
【0013】
また、前記選択酸化性雰囲気は(露点+10)℃〜(露点+40)℃に制御されたウェット水素雰囲気であることが好ましい。
【0014】
また、前記酸化皮膜層が備わる表面の一部を除去することにより環状の溝を形成することが好ましい。
【0015】
上述した本発明に係る気密封止用リッドのいずれかと、電子部品が収納されているセラミック枠体とが、ガラス結合層を介して結合されている、電子部品収納パッケージを得ることができる。
【0016】
本発明の電子部品収納パッケージにおいては、前記ガラス結合層の熱膨張係数α1(/℃)と前記第1金属層の熱膨張係数α2(/℃)とが、30〜250℃の温度範囲において−15×10
−7≦α2−α1≦5×10
−7の関係を満たすことが好ましい。
また、前記ガラス結合層の熱膨張係数α1(/℃)と前記セラミック枠体の熱膨張係数α3(/℃)とが、30〜250℃の温度範囲において0≦α1−α3≦10×10
−7の関係を満たすことが好ましい。
【0017】
また、前記ガラス結合層はPbが1000ppm以下であるガラス材料を用いて形成されていることが好ましい。なお、前記ガラス材料は、一般に低融点ガラス材として知られているガラス材料が好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の気密封止用リッドによれば、黒色のレーザー照射痕からなるマーキングの識別および読取を容易かつ高精度にできるとともに、電子部品収納パッケージの気密封止性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】気密封止用リッドを用いた電子部品収納パッケージの概略の構成を示す図である。
【
図2】本発明の気密封止用リッドの一実施形態の断面を示す図である。
【
図3】本発明の気密封止用リッドの一実施形態の底面(酸化皮膜層が備わる側)を示す図である。
【
図4】本発明例であって、選択酸化雰囲気で熱処理された第1金属層の表面を示す図(写真)である。
【
図5】本発明例であって、選択酸化雰囲気で熱処理され、
図4に示す第1金属層の一方面に結合された第2金属層の表面を示す図(写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明における重要な特徴は、気密封止用リッドの一方面に、Crを含む酸化皮膜層の形成温度にあっても黒化が抑制され、元の色合いをある程度保持することができる金属層(第2金属層)を設けたことである。以下、本発明の気密封止用リッドの実施形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
図2に、本発明の気密封止用リッドの一実施形態の断面を示す。このリッド1は、平板状の第1金属層2と、第1金属層2の平板状の一方面に結合されている第2金属層3と、第1金属層2の第2金属層3が結合されていない表面を覆うCrを含む酸化皮膜層4とを有する。このようなリッド1は、第1金属層2の一方面に第2金属層3を結合した後、保持温度が800℃以上1150℃以下の選択酸化性雰囲気での熱処理を行い、これによって第1金属層2の第2金属層3が結合されていない表面上にCrを含む酸化皮膜層4を形成する方法によって作製することができる。
【0022】
(第1金属層と酸化皮膜層)
本発明において、第1金属層2は、断面のSEM−EDXによって2〜8質量%のCrが検出されるとともに、リッド1に好適な平板状に形成されている。第1金属層2の断面において2〜8質量%のCrが検出される金属材料を用いることにより、特定条件の熱処理を行うことによって第1金属層2の表面にガラス結合材料との濡れ性が良いCrを含む酸化皮膜層4を容易に形成することができる。このCrを含む酸化皮膜層4は、表面のSEM−EDXによって10質量%を超えるCrが検出される。かかる酸化被膜層4を有することにより、
図1に示すガラス結合層5が形成される前の溶融した状態のガラス材料(以下、「溶融ガラス」という。)を、リッド1に容易に付着させることができる。第1金属層2の表面に直接に溶融ガラスを接触させても濡れ拡がりが悪く、気密封止が容易でない。しかし、Crを含む酸化皮膜層4の表面に溶融ガラスを接触させることにより、酸化皮膜層4の表面上に溶融ガラスが好適に濡れ拡がることができるため、好適なガラス結合層5が形成されて気密封止の信頼性が向上する。
【0023】
なお、第1金属層2の断面で検出されるCrが2質量%未満であると、第1金属層2の表面上に10質量%を超えるCrを含む酸化皮膜層4が好適に形成されないことがある。また、第1金属層2の断面で検出されるCrが8質量%を超えると、ガラス結合層5やセラミック枠体14との熱膨張の差が大きくなる。そのため、気密封止時の膨張や収縮に起因する割れなどの不具合が発生しやすくなる。従って、第1金属層2は、断面のSEM−EDXによって2〜8質量%のCrが検出されるものとする。なお、酸化皮膜層4を好適に形成するとともに、上述した熱膨張の差をより小さくするためには、第1金属層2の断面で検出されるCrが3〜7質量%であることが好ましい。また、酸化皮膜層4を形成する際、第1金属層2に含まれるCrが選択的に酸化されやすいため、第1金属層2のCr量は変動を生じやすいが、第1金属層2の全体を平均的に評価してみると、Cr量は上記の範囲を維持している。
【0024】
第1金属層2は、本発明に係る作用効果を阻害しない限り、Cr以外の例えばFe、Ni、Co、Ti、Si、Mn、Cu、Al、C、P、S、N、Oなどの元素を1種以上含む金属材料であってよい。例えば、断面のSEM−EDXにより、第1金属層2は、Feおよび2〜8質量%のCrが検出されるFe−Cr系合金や、さらに35〜50質量%のNiが検出される、例えば、Fe−42%Ni−6%Cr合金、Fe−42%Ni−4%Cr合金、Fe−47%Ni−6%Cr合金などのFe―Ni―Cr系合金であってよい。2〜8質量%のCrが検出されるFe―Cr系合金は、800℃以上1150℃以下の温度範囲の選択酸化性雰囲気で熱処理を行うことにより、その表面上にCrを含む酸化皮膜層4を容易に形成することができる。また、さらに35〜50質量%のNiが検出されるFe−Ni−Cr系合金は、熱膨張係数が小さくなるので好ましい。
【0025】
(第2金属層)
本発明において、第2金属層3は、第1金属層2の平板状の一方面に結合され、表面のSEM−EDXによってCrが10質量%以下で検出される。Crを含む酸化皮膜層は上述したように黒色である。従来のリッド1は表面が黒色であるため、上述したようにレーザーマーキングを行ったとしてもその読み取りや識別情報の解析が容易でなかった。従って、リッド1の少なくともレーザーマーキングを行う表面領域は黒化していないことが重要であるため、図に示すように第1金属層2の平板状の一方面に対し、上述したCrが10質量%以下で検出される第2金属層3を形成する。これにより、第2金属層3を不黒化性をもつ第2金属層3とすることができる。かかるCr値は、小さい程好ましく、第2金属層3の表面の黒化がより抑制される。この不黒化性を奏した表面は、例えば、その表面に行ったレーザーマーキング(レーザー照射痕)の読み取りおよび識別情報の解析が可能な程度に、熱処理前の元の色合いが保持されている。換言すれば、第2金属層の表面のSEM−EDXによって検出されるCrが10質量%以下であれば、表面にレーザーマーキングを行い、そのレーザーマーキングされた文字等が画像処理装置等により識別が可能であり、その表面(第2金属層)は不黒化性をもつと言うことができる。
【0026】
ところで、表面のSEM−EDXによって検出されるCrが10質量%を超える酸化皮膜層4を形成する熱処理、すなわち保持温度が800℃以上1150℃以下の選択酸化性雰囲気による熱処理を行う際に、第1金属層2に含まれる元素(特にCr)が、第2金属層3の内部に拡散し、さらに第2金属層3の露出表面の近傍や表面にまで拡散することがある。第2金属層3の露出表面の近傍や表面に酸化されやすい元素(特にCr)が存在してしまうと、第2金属層3の露出表面においても酸化物が形成されることがある。そうした場合でも、第2金属層3の表面のSEM−EDXによって検出されるCrが10質量%以下であると、熱処理後の第2金属層3の露出表面が実用に耐えない程の黒化を呈することがない。かかる拡散に起因する第2金属層3の露出表面の酸化現象は、Crの含有量が増加するにともない進行しやすくなり、酸化の程度によっては上述したようなレーザーマーキング(レーザー照射痕)の読み取りや情報識別の解析が困難な程度までに黒化してしまう。こうした観点で、酸化皮膜層4が形成された後(熱処理後の状態)に、第2金属層3の表面のSEM−EDXによって検出されるCrを低減させたところ、Crが10質量%以下であるよりも8質量%以下である方が明確な不黒化性を有することが確認された。
【0027】
本発明において、第2金属層3の不黒化性は、保持温度が800℃以上1150℃以下の範囲の選択酸化性雰囲気で容易に黒化しないことを条件とする。保持温度を800℃以上1150℃以下の範囲とするのは、2〜8質量%のCrを含む金属材料の表面にCrを含む酸化皮膜層を形成しやすい温度であるとともに、リッド1を用いて気密封止を行うときの保持温度が1150℃以下であるためである。なお、1150℃を超える保持温度では、第1金属層2に含まれるCrが第2金属層3の露出表面やその近傍に多量に拡散してしまい、第2金属層3の露出表面が実用に耐えない程の黒化を呈することがある。
【0028】
また、第2金属層3の素材(金属)には、耐酸化性に優れつとともに、第1金属層2との結合に好適なものを選択することが好ましい。具体的には、酸化皮膜層4が形成された後、第2金属層3の表面のSEM−EDXによって検出されるCrが10質量%以下であるとともに、Niが65質量%以上であるとよい。かかるNiは、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、、更に好ましくは90質量%である。こうした第2金属層3の素材の材質は、理想的には純Niであり、他にはNi−Cu系合金やNi−P合金などが好ましく、他元素としてはTi、Co、Pd、Ag、Au、Ptなどを含む場合もある。また、第2金属層3を、純NiめっきやNiPめっきなどで形成してもよい。
【0029】
本発明でいう選択酸化性雰囲気とは、断面のSEM−EDXによって2〜8質量%のCrが検出される第1金属層2において、Cr以外の他元素(例えばFeやNiなど)よりも、Crが優先的に選択されて酸化される酸化性雰囲気を意図する。好ましい選択酸化性雰囲気は(露点+10)℃〜(露点+40)℃に制御されたウェット水素雰囲気である。このようなウェット水素雰囲気は酸素分圧が低いため、Cr以外の一般的な金属元素が酸化され難く、比較的に酸化されやすいCrを選択的に酸化させることができる。例えば、Fe―Ni―Cr系合金を用いた第1金属層2である場合、第1金属層2に含まれる主要な金属元素であるFe、Ni、Crのなかで、最も酸化されやすいCrが選択的に酸化される。従って、第1金属層2の第2金属層3が結合されていない表面をCrを含む酸化皮膜層4によって覆うことが容易にできる。
【0030】
(第1金属層と第2金属層の結合)
第1金属層2の平板状の一方面に第2金属層3が結合された構成は、例えば、第1金属層2に対応する平板状の第1金属素材の一方面に、第2金属層3に対応する平板状の第2金属素材をクラッド接合するクラッド圧延法や、第1金属層2の平板状の一方面を露出し、他方面をマスキングした状態で、第2金属層3に対応する金属めっきを行う片面めっき法等によって得ることができる。例えば、第2金属層3に純Niを用いる場合、クラッド圧延法および片面めっき法のいずれによっても、第2金属層3と第1金属層2とが好適に結合された構成を得ることができる。また、第2金属層3にNi−Cu合金を用いる場合、合金組成の調整が容易なNi−Cu溶解材を第2金属素材に用いて、第1金属素材とクラッド圧延する方法が適している。また、第2金属層3に延性が低いNi−P合金を用いる場合、塑性変形を伴うクラッド圧延法よりも片面めっき法が適している。
【0031】
(ガラス結合層)
本発明において、ガラス結合層5は、
図1に示すように、リッド1とセラミック枠体14とを結合して電子部品収納パッケージ10を気密封止するためのものである。従って、ガラス結合層5には、気密封止時に溶融ガラスとなってリッド1の酸化皮膜層4およびセラミック枠体14のいずれとも良好な濡れ性を示す接着剤としての作用効果を奏するガラス材料を使用する。ガラス材料は、一般的に割れやすいため、リッド1の第1金属層2およびセラミック枠体14のいずれとも熱膨張の差が小さいことが好ましい。
【0032】
例えば、ガラス結合層5の熱膨張係数α1(/℃)と第1金属層2の熱膨張係数α2(/℃)とが、30〜250℃の温度範囲において−15×10
−7≦α2−α1≦5×10
−7の関係を満たすことが好ましい。なお、ガラス結合層5の熱膨張係数は、これに用いるガラス材料の熱膨張係数と同意である。この構成により、ガラス結合層5と第1金属層2との結合において、ガラス材料が溶融した温度から溶融ガラスが凝固してガラス結合層5を形成する温度まで下げた際に、リッド1との結合によってガラス結合層5に発生する応力が小さくなるため、その応力に起因するガラス結合層5の割れを防止することができる。
【0033】
また、例えば、ガラス結合層5の熱膨張係数α1(/℃)とセラミック枠体14の熱膨張係数α3(/℃)とが、30〜250℃の温度範囲において0≦α1−α3≦10×10
−7の関係を満たすことが好ましい。この構成により、ガラス結合層5とセラミック枠体14との結合において、ガラス材料が溶融した温度から溶融ガラスが凝固してガラス結合層5を形成する温度まで下げた際に、セラミック枠体14との結合によってガラス結合層5に発生する応力が小さくなるため、その応力に起因するガラス結合層5やセラミック枠体14の割れを防止することができる。
【0034】
例えば、ガラス結合層5に用いるガラス材料をV
2O
5−P
2O
5−TeO−Fe
2O
3のV系のガラス材料(30〜250℃の熱膨張係数α1=70×10
−7/℃)とし、第1金属層2に用いる金属材料をFe−42%Ni−6%Cr合金(30〜250℃の熱膨張係数α2=74×10
−7/℃)とし、セラミック枠体14に用いるセラミック材料をAl
2O
3(30〜250℃の熱膨張係数α3=65×10
−7/℃)とした場合、上述したα2―α1は4×10
−7/℃となり、上述したα1―α3は5×10
−7/℃となり、いずれも本発明において好ましい構成となる。なお、上記のガラス材料は、一般に低融点ガラス材として知られているガラス材料である。
【0035】
次に、本発明の気密封止用リッドの好ましい実施形態について、説明する。
図3に、本発明の気密封止用リッドの一実施形態の底面を示す。ここでいう底面とは、
図2に示す酸化皮膜層4を図中の下側から見た第2金属層が備わる側とは反対側の面であり、セラミック枠体14と結合される面となる。なお、
図3では、説明を簡便にするために、
図1と
図2で使用している符号を同様に使用している。
【0036】
(環状の溝)
図3に示すリッド1は、酸化皮膜層4の表面上にガラス結合層5に結合される環状のガラス結合領域6を設定し、そのガラス結合領域6を囲むように、その内側および外側(外面6b側)に第1の環状の溝7および第2の環状の溝8を有し、2つの溝7および溝8が並行配置された構成である。第1の環状の溝7は、酸化皮膜層4の少なくとも一部が除去されて形成され、酸化皮膜層4の表面をガラス結合領域6とその内側6aとを不連続に区分することができる連続的な溝(凹みや窪みを含む)を意図する。このような第1の環状の溝7を設けることにより、気密封止の際に、溶融ガラスが、リッド1とセラミック枠体14との結合に寄与しない内側6aに濡れ拡がることを防止し、ガラス結合領域6内に十分に濡れ拡がるようにすることができる。
【0037】
また、第2の環状の溝8は、第1の環状の溝7と同様に、酸化皮膜層4の少なくとも一部が除去されて形成され、酸化皮膜層4の表面をガラス結合領域6とその外側(外面6b側)とを不連続に区分することができる連続的な溝(凹みや窪みを含む)を意図する。このような第2の環状の溝8を設けることにより、気密封止の際に、溶融ガラスが、リッド1とセラミック枠体14との結合に寄与しない外面6bに濡れ拡がることを防止し、ガラス結合領域6内に十分に濡れ拡がるようにすることができる。
【0038】
上述した第1の環状の溝7による溶融ガラスの内側6aへの濡れ拡がり防止効果により、電子部品収納パッケージ10の内部がガラス材料によって汚染されることによる水晶振動子などの電子部品12の誤作動などを防止することができる。さらに、上述した第2の環状の溝8による溶融ガラスの外面6bへの濡れ拡がり防止効果により、電子部品収納パッケージ10の外面がガラス材料によって汚染されることによる外観不良を防止することができる。なお、
図3に示すような第1の環状の溝7や第2の環状の溝8は、高出力のレーザー照射によって酸化皮膜層4の少なくとも一部を除去する(トリミング)方法により簡便に形成することができる。
【0039】
(リッドの厚さ)
本発明において、第1金属層2の厚さと第2金属層3の厚さの合計(以下、「金属層の厚さ」という。)は20〜100μmとすることが好ましい。かかる金属層の厚さは、電子部品収納パッケ−ジ10に求められている実用的な水準の低背化に寄与するために好適な範囲である。金属層の厚さが100μmを超える場合、電子部品収納パッケ−ジ10が大型化しやすいため実用的な水準の低背化に寄与できないことがある。金属層の厚さが20μm未満の場合、電子部品収納パッケ−ジ10の低背化の効果は奏するものの剛性が著しく低下するため、気密封止用リッドに求められる機械的強度が得られないことがある。低背化と機械的強度との関係を考慮した場合、より好ましい金属層の厚さは30〜90μmである。
【0040】
また、本発明の気密封止用リッドは、
図2に示すように酸化皮膜層4を有している。上述した保持温度が800〜1150℃の熱処理を行った場合、酸化皮膜層4の厚さは常識的には0.1〜2μm程度になる。従って、リッド1の全体の厚さに占める酸化皮膜層4の厚さの比率、すなわち「酸化被膜層の厚さ」/(「金属層の厚さ」+「酸化皮膜層の厚さ」)×100で求められる値(R
TO)は、例えば、金属層の厚さが20μmで酸化皮膜層4の厚さが2μmと大きい場合でも約9%(2μm/(20μm+2μm)×100%)である。そのため、常識的には、酸化皮膜層4が存在することによって電子部品収納パッケ−ジ10の低背化が妨げられるようなことはない。
【0041】
また、本発明の気密封止用リッドは、第1金属層2と第2金属層3との熱膨張の差に起因するリッド1の反りを抑制する観点から、上記の金属層の厚さに占める第2金属層3の厚さの比率、すなわち「第2金属層の厚さ」/「金属層の厚さ」×100%で求められる値(R
T2)は小さい方がよく、2〜35%であることが好ましい。例えば、金属層の厚さが100μmで第2金属層3の厚さは2μmであった場合のR
T2値は2%であり、金属層の厚さが20μmで第2金属層3の厚さは7μmであった場合のR
T2値は35%である。
【0042】
(電子部品収納パッケージ)
以上述べた本発明の気密封止用リッドのいずれかの実施形態を用いて、
図1に示すリッド1を
図2に示すリッド1に替えた構成を有する電子部品収納パッケ−ジ10を得ることができる。具体的には、リッド1(
図2に示すリッド1)と、電子部品12が収納されているセラミック枠体14とが、ガラス結合層5を介して結合されている電子部品収納パッケージ10である。また、リッド1のガラス結合層5側でない反対面には、不黒化性をもつ第2金属層3が設けられている。従って、不黒化性をもつ第2金属層3の表面にレーザーマーキングを行うことにより、黒色のレーザー照射痕であるレーザーマーキングの読み取りおよび識別を容易かつ高精度に行うことができる。
【0043】
電子部品収納パッケージ10の実施形態において、ガラス結合層5には例えばPb系、Bi系、V系などのガラス材料を使用することができる。かかるガラス材料は、環境保護の観点から、有害物質であるPbが1000ppm以下のものが好ましい。なお、Pbが1000ppm以下であるのは、RoHS指令による。また、気密封止時の封止温度を下げる観点から、V系の低融点ガラス材料を使用することがより好ましい。例えば、V系のV
2O
5−P
2O
5−TeO
2−Fe
2O
3の組成を有する例えば320〜400℃程度の低融点を有するガラス材料は、P
2O
5やP
2O
5−TeO
2の含有量を変化させることで350〜420℃程度の温度域での気密封止が可能である。また、気密封止方法としては、例えば、リッド1の酸化皮膜層4の表面上に設定したガラス結合領域6に、ガラス材料にバインダ等を配合して調製したガラスペ−ストを塗布し、そのリッド1をセラミック枠体14に接触させて適切な位置に配置し、保持温度を370〜420℃程度に設定してガラスペーストをリフロ−する方法を適用することができる。
【実施例】
【0044】
以下に本発明例を示し、詳細に説明する。ただし、本発明による実施形態は、ここに示す本発明例に限定されるものではない。
【0045】
本発明例であるリッド1は、材質がFe−42Ni−6Cr系合金(426合金)の第1金属層2に対し、材質が90質量%を超えるNiを含み、Crを実質的に含まない第2金属層3をクラッド接合し、プレス加工により個片化した。この個片化されたリッド1の第1金属層2の厚さは77μmであり、第2金属層3の厚さは3μmである。この個片化されたリッド1に対し、保持温度が850℃で、露点+23.5℃のウェット水素雰囲気とした炉内で30分間の熱処理を行い、Crを含む酸化皮膜層4を形成し、リッド1を作製した。
【0046】
作製したリッド1について、第1金属層2の表面の外観写真を
図4に示し、第2金属層3の表面の外観写真を
図5に示す。
図4に示すように第1金属層2の表面は上述した熱処理により黒化されているのに対し、
図5に示すように第2金属層3表面は不黒化性を奏して黒化が抑制され、熱処理前の元の色合いがある程度保持されていた。かかる第2金属層3の表面に対してレーザー照射を行ったところ、レーザーマーキング(レーザー照射痕)の読み取りや情報識別の解析が可能であった。
【0047】
次に、熱処理前後の第1金属層2の断面と、熱処理前後の第2金属層3の表面と、熱処理後に形成された酸化被膜層4の表面を測定対象とし、SEM−EDXによってそれぞれの分析を行った。SEM−EDXは、日立ハイテクノロジーズ社製のSEM(型式S−3400N)に付属する堀場製作所製のEDX(型式Emax xact)を用いた。SEMおよびEDXの諸条件は、加速電圧15kV、ワーキングディスタンス10mm、測定時間50sec、収集係数率2〜3kpcsとした。SEM−EDXでは、被検体において10μm四方の領域を3箇所測定し、算術的平均値を求め、それを検出値とした。第1金属層2の被検体は、サンプルの断面を研磨した後、酸化皮膜層4との概ね境界から第1金属層2の内部に向かって約15μm移動した箇所を中心として測定した。第2金属層3および酸化被膜層4の表面は、概ね中心付近を測定した。
【0048】
表1に、SEM−EDXによる測定結果を示す。それぞれにおいて、熱処理前後でCr、Fe、Ni、O以外の他元素の含有割合が変化しているが、これは熱処理炉内あるいは大気中の汚染物質に起因する表面汚染の影響が含まれると考えられる。また、熱処理後の第1金属層では他元素の含有割合が小さくなっているが、これは研磨後の研磨面を測定したことにより、上述した表面汚染の影響を受け難かったからと考えられる。なお、表1中に示す「―」は、測定限界以下であったことを意図する。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示すように、熱処理後のリッド1の第2金属層3の表面は、10質量%以下の4.44質量%のCrが検出されるとともに、65質量%以上であって、本発明者が好ましいとした70質量%以上のNiが検出された。かかる第2金属層3の表面にレーザー照射を行ってレーザーマーキング(レーザー照射痕)の読み取りやその情報の解析を行ったところ、情報識別を正常に行うことができた。
【0051】
また、熱処理後の第1金属層2の表面には、全体的に黒化した酸化皮膜層4が形成されており、10質量%を超えて、20.24質量%のCrが検出された。かかる酸化皮膜層4の表面にレーザー照射を行ってレーザーマーキング(レーザー照射痕)の読み取りやその情報の解析を試みたが、情報の判別が困難であった。なお、Crの含有割合が10質量%を超える酸化皮膜層4であっても、気密封止用ガラス材料を用いた溶融ガラスとの濡れ性は良好であった。
【0052】
上述のように作製したリッド1と、電子部品収納部材11とを、V
2O
5−P
2O
5−TeO
2−Fe
2O
3の組成を有するガラス材料(軟化点約320〜360℃)を用いて調製したガラスペーストを用いて、保持温度を約400℃に設定して前記ガラスペーストをリフローすることにより結合した。その結果、リッド1と電子部品収納部材11とがガラス結合層5を介して結合され、気密封止性が良好な状態であることが確認できた。
【符号の説明】
【0053】
1.リッド、2.第1金属層、3.第2金属層、4.酸化皮膜層、5.ガラス結合層、6.ガラス結合領域、6a.内側、6b.外面、7.第1の環状の溝、8.第2の環状の溝、10.電子部品収納パッケージ、11.電子部品収納部材、11a.電子部品収納部、12.電子部品、13.バンプ、14.セラミック枠体