(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を説明する。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
【0021】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る信号制御装置について、
図1ないし
図8を用いて説明する。本実施形態に係る信号制御装置は、超音波スピーカの指向の方向制御を位相を制御することで電気的に行うものであり、外部環境(例えば、反射、干渉、温度による音速の変化等)の影響を受けることなく、簡単な構成で正確な方向制御を安価に行うものである。
【0022】
図1は、本実施形態に係る信号制御装置の構成を示すブロック図である。本実施形態に係る信号制御装置は、1対(2個のトランスデューサからなる)の超音波スピーカと一体の構成となっており、各スピーカにおいては、配設されている複数のエレメントから共通の超音波信号が出力される。
【0023】
信号制御装置1は、任意の入力信号を入力する信号入力部2と、入力信号をキャリア発振器(例えば、30kHz)の信号で変調する変調部5と、入力信号のゼロクロスを検出するゼロクロスコンパレータ3と、ゼロクロスコンパレータ3の検出に応じてスイッチングを行う切替部6と、入力信号の正成分の位相を制御する第1遅延器7と、入力信号の負成分の位相を制御する第2遅延器8と、各遅延器から出力された信号を増幅する複数のアンプ9,10と、アンプ9,10で増幅された信号により駆動されて超音波を出力するトランスデューサ11,12と、各トランスデューサ11,12から出力された超音波を可聴音の音波信号として統合して検知するマイク13と、検知した音波信号を増幅するマイクアンプ14と、検知した音波信号の信号波形における正の音波の波形特性と負の音波の波形特性を検出する波形特性検出部15と、検出された波形特性から位相を制御するための遅延量を演算し、第2遅延器に入力して位相制御を行う遅延調整部18とを備える。
【0024】
本実施形態においては、分かり易くするために、
図2に示すようなサイン波を入力信号とした場合について説明するが、通常の音声のような複雑な信号波形であっても、本実施形態に係る信号制御を適用可能である。
【0025】
信号入力部2に入力された入力信号は、変調部5で変調される。この変調部5による変調処理は、AM変調、FM変調、SSB変調、DSB変調等のようにいずれの変調であってもよい。また、入力信号はゼロクロスコンパレータ3に入力され、そこで入力信号のゼロクロスが検出される(
図2を参照)。検出されたゼロクロスに同期して切替部6がスイッチングを行い、入力信号の正成分に相当する変調信号は第1遅延器7に入力され、入力信号の負成分に相当する変調信号は第2遅延器8に入力される。
【0026】
図3は、それぞれの遅延器に入力される変調信号を示す図である。ここでは、変調部5により入力信号がFM変調されたものとする。
図3(A)は入力信号、
図3(B)は変調信号、
図3(C)は第1遅延器7に入力された正成分の変調信号、
図3(D)は第2遅延器8に入力された負成分の変調信号である。
図3(C)、(D)に示すように、検出されたゼロクロスに同期してスイッチングが行われることで、第1遅延器7には正成分の変調信号、第2遅延器8には負成分の変調信号が入力される。
【0027】
それぞれの遅延器に入力された信号は、アンプ9,10を介してトランスデューサ11,12に入力され、超音波として出力される。各トランスデューサ11,12から出力された超音波は、マイク13で検知され、復調されて一つの波形に統合される。このとき、マイク13は、トランスデューサ11から出力された信号波形とトランスデューサ12から出力された信号波形の区別が付かないため、通常はそれぞれの位相を検知することはできず、マイク13の位置によって位相差に応じた信号の歪みが検知される。
【0028】
図4は、位相差とマイクとの位置関係を示す図、
図5は、マイク13で検知される直前(復調前)における各スピーカの統合された信号波形を模式的に示す図、
図6は、マイク13で検知された直後(復調後)の統合された信号波形を示す図である。
【0029】
図4(A)に示すように、各スピーカから出力された超音波信号の位相が揃った状態でマイクに入力された場合、すなわち、第1遅延器7側のスピーカ(以下、第1系統のスピーカとする)とマイク13との距離をd
1、第2遅延器8側のスピーカ(以下、第2系統のスピーカとする)とマイク13との距離をd
2とすると、d
1=d
2の場合は、
図5(A)に示すように入力信号と同様の変調された信号波形となり、復調すると
図6(A)に示すように入力信号と同形のサイン波が検出される。
【0030】
図4(B)に示すように、マイク13の位置関係がd
1<d
2の場合は、トランスデューサ11から出力された信号が強く、トランスデューサ12から出力された信号が弱くなり、各トランスデューサから出力された超音波信号の位相がずれてしまうため、
図5(B)に示すような状態の変調信号となり、復調されることで
図6(B)に示すような歪んだ波形として検出される。
【0031】
なお、この
図6(B)の信号波形は、DC成分が取り除かれた状態を示しており、負成分にするどいピークが現れている。つまり、このように、トランスデューサ11から出力された信号とトランスデューサ12から出力された信号の位相がずれていると、正確な入力信号の音波として捉えることができない。
【0032】
同様に、
図4(C)に示すように、マイク13の位置関係がd
1>d
2の場合は、トランスデューサ12から出力された信号が強く、トランスデューサ11から出力された信号が弱くなり、各トランスデューサから出力された超音波信号の位相がずれてしまうため、
図5(C)に示すような状態の変調信号となり、復調されることで
図6(C)に示すような歪んだ波形が検出され、
図6(B)の場合と同様に、正確な入力信号の音波として捉えることができない。
【0033】
すなわち、マイク13の位置に応じて、検出される波形が、
図6(A)の状態から
図6(B)や
図6(C)の状態に変化することとなる。
図4(B)及び
図4(C)に示したように、位相がずれた状態の場合に、遅延器(第1遅延器7又は第2遅延器8のいずれか一方又は双方)の遅延量を調整することで、位相のずれを解消し、揃えることができる。なお、
図5の信号波形は、説明のために模式的に示した波形であり、実際にマイク13で検出される波形ではない。
【0034】
以下に、本実施形態における遅延量の調整方法について具体的に説明する。ここでは、マイク13で検知された信号波形の正のピーク及び負のピークを用いて、調整する遅延量を求めるものである。
図7は、本実施形態に係る波形特性検出部の構成を示すブロック図、
図8は、本実施形態に係る遅延調整部の構成を示すブロック図である。
図7において、波形特性検出部15は、マイク13で検出された信号波形(
図6に示す信号波形)からプラスのピークを検出する+ピーク検出部16と、マイナスのピークを検出する−ピーク検出部17とを備える。ここで検出されたそれぞれのピークを用いて遅延調整部18が調整する遅延量を算出する。
【0035】
つまり、
図6(B)のように、マイナスのピークが大きく、プラスのピークが小さい場合は、マイナスのピークを小さく、プラスのピークを大きくするように遅延器(ここでは、第2遅延器8)の遅延量を算出する。また、
図6(C)のような場合は、逆に、マイナスのピークが小さく、プラスのピークが大きくなっているため、マイナスのピークを大きく、プラスのピークを小さくするように第2遅延器8の遅延量を算出する。算出された遅延量は、第2遅延器8に入力されて遅延量が調整される。プラスのピークとマイナスのピークとの割合が
図6(A)に示すように1:1になるまで、すなわちコヒレンシが0に近づくように調整を行うことで、指向の方向制御を正確に行うことが可能となる。
【0036】
こうすることで、各トランスデューサ11,12から出力される超音波信号の位相を時間関係で検出して詳細に解析するような複雑な処理を行うことなく、マイク13で検知された合成波形のピークの割合のみで簡単に且つ正確な位相制御が可能となる。
【0037】
次に、
図8に示す遅延調整部18の具体的な処理について説明する。
図8において、遅延調整部18は、+ピーク検出部16が検出したピーク値と−ピーク検出部17が検出したピーク値とを加算する加算部51と、加算された信号から低周波成分を抽出して位相を検出するローパスフィルタ52と、検出された波形のゼロクロスを検出するゼロクロスコンパレータ53と、検出されたゼロクロス及びサンプリングクロックに同期して、正又は負の値に応じたカウントを行うアップ/ダウンカウンタ54とを備える。
【0038】
つまり、
図6(B)のような波形の場合は、それぞれのピーク値を加算することにより負の値が検出され、アップ/ダウンカウンタ54がカウントダウンを行い、そのカウントダウンに応じて第2遅延器8の遅延量が遅く調整される。逆に、
図6(C)のような波形の場合は、それぞれのピーク値を加算することにより正の値が検出されてアップ/ダウンカウンタ54がカウントアップを行い、そのカウントアップに応じて第2遅延器8の遅延量が速く調整される。
【0039】
なお、上記のように第2遅延器8の遅延量を調節する場合に、第1遅延器7の遅延量がゼロの状態だと、第2遅延器8の遅延量を速く調整することが困難となる。したがって、第1遅延器7を所定の遅延量(例えば、100ms等)で遅延させておくことで、第2遅延器8の遅延量を調整して(例えば、70ms等)、第1遅延器7より相対的に速く設定することが可能となる。
【0040】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に係る信号制御装置について、
図9ないし
図12を用いて説明する。なお、本実施形態において、前記第1の実施形態と同様の説明は省略する。本実施形態に係る信号制御装置は、特に変調の種別を限定しない場合の処理について具体的に説明する。本実施形態の場合も最終的には第1の実施形態の場合と同様の波形を得る結果となる。
【0041】
図9は、本実施形態に係る信号制御装置において、トランスデューサ11及びトランスデューサ12から出力された信号の波形を示す図である。実線で示す正の波形がトランスデューサ11から出力された信号の波形を示し、長破線で示す負の波形がトランスデューサ12から出力された信号の波形を示している。マイク13の位置が、それぞれのトランスデューサ11及びトランスデューサ12から同じ距離、すなわち、
図4(A)のようなd
1=d
2における位置では、
図9に示すようにそれぞれの波形が同位相となり、きれいなサイン波が検出される。
【0042】
これに対して、マイク13の位置が
図4(C)のようなd
1>d
2における位置では、
図10(A)、(B)に示すようにそれぞれの波形(
図10(A)がトランスデューサ11から出力された信号の波形、
図10(B)がトランスデューサ12から出力された信号の波形)で位相差が生じ、すなわち位相がずれる。ここでは、d
1の距離が長いため、トランスデューサ11から出力された波形がトランスデューサ12から出力された波形に比べて遅れている。それぞれの波形は、マイク13において
図10(C)のように合成され、さらにローパスフィルタにより
図10(D)のような波形で検出される。
図10(D)は、プラス側に鋭いピークが現れ、マイナス側のピークが歪んで値が小さくなっている。これは、
図6(C)の波形に対応しており、FM変調した場合と同様の波形が得られている。
【0043】
一方、マイク13の位置が
図4(B)のようなd
1<d
2における位置では、
図11(A)、(B)に示すようにそれぞれの波形(
図11(A)がトランスデューサ11から出力された信号の波形、
図11(B)がトランスデューサ12から出力された信号の波形)で位相差が生じ、すなわち位相がずれる。ここでは、d
1の距離が短いため、トランスデューサ11から出力された波形がトランスデューサ12から出力された波形に比べて進んでいる。それぞれの波形は、マイク13において
図11(C)のように合成され、さらにローパスフィルタにより
図11(D)のような波形で検出される。
図11(D)に示すように、マイナス側に鋭いピークが現れ、プラス側のピークが歪んで値が小さくなっている。これは、
図6(B)の波形に対応しており、FM変調した場合と同様の波形が得られている。
【0044】
マイク13で得られた波形(
図10(D)、
図11(D))に対して、
図12に示すように、+ピーク検出部16と−ピーク検出部17とが、それぞれのピークを検出する。ピーク検出後は、上述した処理と同様の処理を行うことで、遅延を制御することができる。
【0045】
(本発明の第3の実施形態)
本実施形態に係る信号制御装置について、
図13を用いて説明する。本実施形態に係る信号制御装置は、遅延量の情報をピーク値の割合から算出して、その遅延量に応じて第2遅延器8を制御するものである。なお、本実施形態において、前記各実施形態と同様の説明は省略する。
【0046】
本実施形態においては、遅延調整部18を、
図13のような構成とする。すなわち、+ピーク検出部16が検出したピーク値と−ピーク検出部17が検出したピーク値(ピーク値の絶対値)との割合を算出する割合算出部61と、算出された割合に対応する遅延量の情報を遅延情報記憶部63から抽出する遅延量抽出部62とを備える。遅延情報記憶部63には、マイク13の位置に応じて予め測定されたピーク値の割合と、それに応じて位相を揃えるための遅延量とが対応付けて記憶されており、ピーク値の割合を算出することで、遅延量を取得することができる構成となっている。取得した遅延量の情報は、第2遅延器8に入力され位相が調整される。情報の記憶や演算を行う場合は、例えば、メモリやCPUを用いることができる。
【0047】
(その他の実施形態)
その他の実施形態について説明する。ここでは、遅延量の調整を行う第2の方法について説明する。第2の方法では、第1の実施形態の場合と異なり、マイク13で検知された信号波形のデューティ比を用いて、調整する遅延量を求める。すなわち、波形特性検出部15が、マイク13で検知された信号波形のデューティ比を算出し、算出されたデューティ比に応じて遅延調整部18が調整する遅延量を算出する。
【0048】
なお、この第2の方法における遅延調整部18の処理については、
図8で説明したように、プラスピークとマイナスピークとの差分からカウンタによる遅延量を演算した場合と同様に、デューティ比に応じたカウントアップ/カウントダウンを行い、そのカウントに応じて遅延器の遅延量が調整されるようにしてもよい。
【0049】
また、
図13で説明したように、プラスピークとマイナスピークとの割合から対応する遅延量の情報を抽出する場合と同様に、マイク13の位置に応じて予め測定されたデューティ比と、それに応じて位相を揃えるための遅延量とが対応付けて記憶された遅延情報記憶部63に基づいて、遅延器の遅延量が調整されるようにしてもよい。
【0050】
以上、各実施形態において説明したように、いずれの手法であっても、マイク13の位置に対応した位相調整を正確に行うことができる。また、回路構成も非常に簡素化され、低コストで高精度な位相調整を可能としている。
【0051】
なお、上記各実施形態の説明においては、入力信号としてサイン波を入力したが、音波信号であればどのような信号であっても本発明に係る信号制御を行うことが可能である。例えば、人の音声を入力信号とした場合であっても、サイン波を入力信号とした場合と全く同じ処理で、同様の効果が得られる信号制御を行うことが可能である。
【0052】
また、利用者(超音波スピーカから出力される音を聴く人)がマイク13(例えば、ワイヤレスマイク)を保持し、利用者の移動に伴ってマイク13も同時に移動する構成とすることで、超音波スピーカの指向性が常に利用者を追従することができる。つまり、利用者が移動した場合であっても、常に利用者にのみ音波を送信することができるものである。
【0053】
さらに、上記の説明では、スピーカとマイクの位置関係を二次元平面(地面に対して水平方向の二次元平面)に限定しているが、スピーカを縦方向(地面に対して垂直方向)に配置することで、高さ方向の位相制御も可能となる。また、水平方向に並列する1対のスピーカと垂直方向に並列する1対のスピーカとを組み合わせることで、3次元的に位相制御を行うことが可能となる。
【0054】
さらにまた、スピーカを3つ以上(直線上に配置しない)を配設し、各スピーカごとの遅延量を調整することでも3次元的に位相制御を行うことが可能となる。