特許第6164617号(P6164617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6164617導電性薄膜の製造方法及び該方法により製造された導電性薄膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6164617
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】導電性薄膜の製造方法及び該方法により製造された導電性薄膜
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20170710BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20170710BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20170710BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20170710BHJP
   C09D 101/02 20060101ALI20170710BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20170710BHJP
   C01B 32/152 20170101ALI20170710BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20170710BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20170710BHJP
【FI】
   H01B13/00 503B
   H01B5/02 Z
   H01B5/14 A
   C09D5/24
   C09D101/02
   C09D1/00
   C01B32/152
   B82Y30/00
   B82Y40/00
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-528179(P2014-528179)
(86)(22)【出願日】2013年7月30日
(86)【国際出願番号】JP2013070654
(87)【国際公開番号】WO2014021344
(87)【国際公開日】20140206
【審査請求日】2015年2月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-168951(P2012-168951)
(32)【優先日】2012年7月30日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム エジ
(72)【発明者】
【氏名】近松 真之
(72)【発明者】
【氏名】阿澄 玲子
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 毅
(72)【発明者】
【氏名】南 信次
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/082775(WO,A1)
【文献】 特表2010−506824(JP,A)
【文献】 特表2014−510187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
B82Y 30/00
B82Y 40/00
C01B 32/152
C09D 1/00
C09D 5/24
C09D 101/02
H01B 5/02
H01B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース誘導体からなる非導電性マトリックス中にカーボンナノチューブが相互に分離した状態で分散しているカーボンナノチューブ含有薄膜から非導電性マトリックスを除去して導電性薄膜を製造する方法であって、
前記カーボンナノチューブ含有薄膜を貧溶媒で処理することにより非導電性マトリックスを除去し、シート抵抗が30〜1500Ω/sqである導電性薄膜とするのに、貧溶媒が2-プロパノールであることを特徴とする導電性薄膜の製造方法。
【請求項2】
セルロース誘導体からなる非導電性マトリックス中にカーボンナノチューブが相互に分離した状態で分散しているカーボンナノチューブ含有薄膜から非導電性マトリックスを除去して導電性薄膜を製造する方法であって、
前記カーボンナノチューブ含有薄膜に光焼成を行うことにより非導電性マトリックスを除去し、シート抵抗が30〜1500Ω/sqである導電性薄膜とすることを特徴とする導電性薄膜の製造方法。
【請求項3】
セルロース誘導体からなる非導電性マトリックス中にカーボンナノチューブが相互に分離した状態で分散しているカーボンナノチューブ含有薄膜から非導電性マトリックスを除去して導電性薄膜を製造する方法であって、
前記カーボンナノチューブ含有薄膜を酸素プラズマに晒すことにより非導電性マトリックスを分解除去し、シート抵抗が30〜1500Ω/sqである導電性薄膜とすることを特徴とする導電性薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記セルロース誘導体がヒドロキシプロピルセルロースであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の導電性薄膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1、2又は3に記載の方法を2つ以上組み合わせることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の導電性薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブ含有薄膜から非導電性マトリックスの一部を残して除去することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の導電性薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブ含有薄膜が、ドクターブレード法又はスクリーン印刷法を用いて形成された薄膜であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の導電性薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記導電性薄膜が、軟化点ないし分解点が300℃未満のプラスチックフィルムからなる基材の上に設けられていることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の導電性薄膜の製造方法。
【請求項9】
透明基材上に、請求項1〜のいずれか1項に記載の導電性薄膜を備えていることを特徴とする透明電極の製造方法。
【請求項10】
前記透明基材が、軟化点ないし分解点が300℃未満のプラスチックフィルムであることを特徴とする請求項に記載の透明電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性薄膜の製造方法、特に、非導電性マトリックス中にカーボンナノチューブが相互に分離した状態で分散しているカーボンナノチューブ含有薄膜から非導電性マトリックスを除去して導電性薄膜を製造する方法、及び該方法により得られた導電性薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、様々な新機能を発揮しうる新素材として大きな注目を集め世界中で活発な研究開発が行われている。今後、産業上の様々な用途に有効に使用するためには、カーボンナノチューブを均質な薄膜に成形することが必須の課題である。また、この薄膜を光学部品として活用する場合には、チューブが1本ずつ分離されていることが必要である(非特許文献1参照)。
【0003】
そこで、本発明者等は、このように1本ずつに分離されたチューブを均質な薄膜に成形する方法について検討を重ね、マトリックス高分子として、ゼラチンやセルロース誘導体を用いたものを用いて(特許文献1)複数のカーボンナノチューブが相互に分離した状態で分散してカーボンナノチューブ含有薄膜を提案した。
【0004】
このものは、カーボンナノチューブを直接これらの高分子と混合するか、もしくは、界面活性剤で分散した上で高分子と混合することにより、均質なカーボンナノチューブ含有薄膜を得ることができ、また、単層カーボンナノチューブ(以下SWNTということもある)を用いた場合、一本ずつに分離したSWNTの特徴である近赤外域の発光ピークを観測することができる。
【0005】
カーボンナノチューブ含有薄膜が、カーボンナノチューブのもつ高い導電性や半導体特性を発揮するためには、薄膜内の混合物が電気特性を妨げないようにする必要があるが、上記の方法では、マトリックス高分子が電気的に絶縁体であるため、薄膜に十分な量の電流を流すことが困難であり、従って、これまでのところ、これらの薄膜を用いて、十分な性能をもつ導電性薄膜若しくは透明電極などを作製することは困難であった。
【0006】
このため、薄膜作製後、これらの薄膜を加熱焼成し、非導電性マトリックスを分解除去する方法が知られている(非特許文献2)。
しかしながら、この方法では、薄膜を高温の炉に入れる必要があるため、ロールシート状の薄膜を逐次処理するには問題がある。また、高温で加熱するため、プラスチック基板など高温で軟化ないし分解する恐れのある基板を用いることができないという問題がある。
【0007】
また、カーボンナノチューブ含有薄膜の導電性を向上させるために、マトリックス高分子として、可溶性のポリフェニレンビニレン置換体又はこれらの共重合体、若しくは可溶性のポリチオフェン置換体のような導電性高分子を用いること(特許文献2)が提案されている。
しかしながら、膜の導電性や半導体特性は導電性高分子の電気的特性に規定されるため、カーボンナノチューブの本来もつ高い導電性や半導体特性が発揮されない。すなわち、このような薄膜では、カーボンナノチューブが本来有している電子機能を十分に生かすことができないことは明らかである。
【0008】
そこで、さらに、薄膜中に含まれる分散剤を、ドーパント溶液を用いてドープすること(特許文献3)も提案されているが、導電性高分子の導電率はドーピングを行ったとしてもカーボンナノチューブの電子機能に劣ることから、膜全体の導電性はより劣った導電性高分子の電気的特性に規定されるため十分な導電性を確保することはできない。また、ドーパント溶液に浸漬させる工程、残存ずるドーパントを洗浄する工程、及び洗浄したカーボンナノチューブ含有薄膜を乾燥する工程を必要とする。
【0009】
一方、単層カーボンナノチューブには、その合成過程において不可避的に金属性のもの(m−SWNTsとする)と半導体のもの(s−SWNTsとする)が混在しており、そのため、薄膜の導電性と光透過性の両立には限界があると報告されている。
そこで、m−SWNTsとs−SWNTsが混在する単層カーボンナノチューブを、アミンを分散剤としてアミン溶液に分散し、得られた分散液を遠心分離または濾過することでm−SWNTsを分離・濃縮し、得られたm−SWNTs含有の分散液を基材に、エアブラシなどを用いて塗布して薄膜を形成することが提案されている(特許文献4)。そして、この方法によれば、ポリマー分散剤やバインダーなどの高分子を実質的に含有せず、金属カーボンナノチューブのみを用い導電性を高めることができるとしている。
【0010】
しかしながら、この方法では、低い導電性の半導体ナノチューブを除去するために、金属カーボンナノチューブを分離・濃縮する工程を必要とするにも拘わらず、得られたシート抵抗は、4800Ω/sq(透過率96.1パーセント)程度であって、分離・濃縮せずにすべてのナノチューブから作成した本発明の導電性膜のシート抵抗よりも高い。
これは、特許文献4に記載されているように、ホットプレート上で85℃に加熱されたPET基板上にエアブラシ法を用い成膜した場合には、噴霧した順に乾燥されることから、ムラのない均一な薄膜を得ることは非常に困難であることによるものといえる。さらに産業用の大面積の電極を作成する場合、大面積での膜厚制御はさらに困難であり、すなわちシート抵抗の制御が難しいことを意味する。また、分散剤であるアミンは加熱及び洗浄により容易に完全に除去されるが、このことは基板との密着という点では不利であり、屈曲性を要するフレキシブルデバイスには適しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2005/082775号パンフレット
【特許文献2】特開2006−265035号公報
【特許文献3】特開2008−103329号公報
【特許文献4】国際公開第2009/008486号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Band gap fluorescence from individual single-walled carbonnanotubes, Science, vol. 297, pp 593-596 (2002)2002年7月26日
【非特許文献2】Highly sensitive, room-temperature gas sensors prepared from cellulose derivative assisted dispersions of single-wall carbon nanotubes, Japanese Journal of Applied Physics, vol. 47, pp 7440-7443 (2008) 2008年9月12日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のとおり、カーボンナノチューブを簡単な方法で、プラスチックをはじめとする柔軟な基板上に均質な薄膜状に大面積一括で成形し、その薄膜に十分な量の電流を流すことができるようになれば、カーボンナンチューブの柔軟性を利用して、タッチパネルなどの透明電極や、有機ELや有機太陽電池の電極などに利用することが可能となり、その産業的利用価値は極めて大きいが、まだそのような要請に応える薄膜が開発されていないのが現状である。
【0014】
本発明は、このような現状を鑑みてなされたものであって、カーボンナノチューブが均一に分散した状態で存在し、膜厚および光透過性が均一で、かつ高い導電性を有する導電性薄膜の作成法およびそのように作成された導電性薄膜の提供を目的とするものである。また、本発明は、必要に応じた膜厚、透過率、導電率を容易に制御でき、しかも転写などの工程を必要とせず、直接プラスチックをはじめとする柔軟な基板上に、均質な薄膜状に大面積一括に成形することができる方法を提供することをもう1つの目的とするものである。また、本発明は、主な材料であるナノチューブの分離や濃縮も必要なく、市販のナノチューブをそのまま用いることが出来、さらに、公知のスプレー法やスピンコート法では、基板以外の場所にもナノチューブが堆積されることで、材料を多量に無駄にしているが、これらの材料の無駄を最小限にし、また、真空蒸着や熱CVDなどの高消費エネルギーの成膜法とは異なる、材料、環境およびエネルギーにおいてコストパフォーマンスに優れた作成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、セルロース誘導体を分散剤としてカーボンナノチューブが相互に分離した状態で分散させ、ナノチューブの濃度、分散溶液の粘度、分散溶媒、基板の疎水性などを調整することで、ドクターブレード法やスクリーン印刷法などを用いカーボンナノチューブ含有薄膜の形成を可能にした。その後、前記セルロース系高分子からなる非導電性マトリックスを、特定の方法で除去することにより、カーボンナノチューブ本来の導電性ないし半導体特性(以下、両者をあわせて単に「導電性」ということとする)を回復させて、高い導電性を有する導電性薄膜を得ることができるという知見を得た。そして、該特定の方法が、貧溶媒による溶液処理、大気圧プラズマ法、及び光焼成法のいずれかであり、さらには、それぞれ用途や基板に応じて単独および複数の方法を組み合わせることで、膜の崩壊や凝集を起こさずナノチューブが個々に分散した状態の導電性薄膜を得ることができるという知見を得た。
【0016】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]セルロース誘導体からなる非導電性マトリックス中にカーボンナノチューブが相互に分離した状態で分散しているカーボンナノチューブ含有薄膜から非導電性マトリックスを除去して導電性薄膜を製造する方法であって、
前記カーボンナノチューブ含有薄膜を貧溶媒で処理することにより非導電性マトリックスを除去することを特徴とする導電性薄膜の製造方法。
[2]前記貧溶媒が2−プロパノールであることを特徴とする導電性薄膜の製造方法。
[3]セルロース誘導体からなる非導電性マトリックス中にカーボンナノチューブが相互に分離した状態で分散しているカーボンナノチューブ含有薄膜から非導電性マトリックスを除去して導電性薄膜を製造する方法であって、
前記カーボンナノチューブ含有薄膜に光焼成を行うことにより非導電性マトリックスを除去することを特徴とする導電性薄膜の製造方法。
[4]セルロース誘導体からなる非導電性マトリックス中にカーボンナノチューブが相互に分離した状態で分散しているカーボンナノチューブ含有薄膜から非導電性マトリックスを除去して導電性薄膜を製造する方法であって、
前記カーボンナノチューブ含有薄膜を酸素プラズマに晒すことにより非導電性マトリックスを分解除去することを特徴とする導電性薄膜の製造方法。
[5]前記セルロース誘導体がヒドロキシプロピルセルロースであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載の導電性薄膜の製造方法。
[6][1]、[3]又は[4]の除去方法を2つ以上組み合わせることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか1項に記載の導電性薄膜の製造方法。
[7]前記カーボンナノチューブ含有薄膜から非導電性マトリックスの一部を残して除去することを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載の導電性薄膜の製造方法。
[8]前記カーボンナノチューブ含有薄膜が、ドクターブレード法又はスクリーン印刷法を用いて形成された薄膜であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載の導電性薄膜の製造方法。
[9][1]〜[8]のいずれかに記載の方法で製造されたことを特徴とする、導電性薄膜。
[10]前記導電性薄膜が、軟化点ないし分解点が300℃未満のプラスチックフィルムからなる基材の上に設けられていることを特徴とする[9]に記載の導電性薄膜。
[11]透明基材上に、[9]に記載の導電性薄膜を備えていることを特徴とする透明電極。
[12]前記透明基材が、軟化点ないし分解点が300℃未満のプラスチックフィルムであることを特徴とする[11]に記載の透明電極。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、カーボンナノチューブ含有薄膜を、ドクターブレード法やスクリーン印刷法などで簡便にカーボンナノチューブが均一に分散した状態で存在した状態で作製することができ、膜厚および光透過性の調整が容易で、かつ分散剤を除去することによりカーボンナノチューブが本来有している高い導電性ないし半導体特性を十分に発揮させることができるという優れた効果を有する。そのため、透過率99%から不透明のものまでその用途に応じた導電性薄膜の作成が容易であり、透明導電膜から高い導電性を必要とする導線まで、応用が可能である。また、本発明で得られたカーボンナノチューブ含有薄膜は、濃硝酸水溶液に浸漬してドーピングした後のシート抵抗の変化が極めて小さい。さらに、本発明においては、半導体特性をもつカーボンナノチューブを用いることにより、薄膜トランジスタのチャネル層などへの応用も可能である。
【0018】
また、基板を選ばずガラスからフレキシブル基板、また紙まで様々な基板へ自由に作成できる。プラスチックをはじめとする柔軟な基板上に均質且つ大面積一括で成形できるため、カーボンナンチューブの柔軟性を利用して、タッチパネルなどの透明電極や、有機ELや有機太陽電池の電極などに利用することが可能となる。さらに、本発明の方法によれば、非導電性マトリックスを部分的に除去することができるために、ナノチューブと基板との密着性が優れ、基板からの剥離に起因する表面シート抵抗の上昇を防ぐことができ、必要に応じて、導電性薄膜の柔軟性・強度などを制御することができる。実際、フレキシブル基板上で作成したカーボンナノチューブ導電性薄膜の屈曲性試験を行った結果、20万回の屈曲試験を行ってもなお初期特性を保っているほどである。
【0019】
さらに、本発明のドクターブレード法などを用いたカーボンナノチューブ含有薄膜の作成は、市販のカーボンナノチューブを用いることができ、高価な真空装置やスパッタリング工程を用いないため、導電性薄膜生産過程の省材料および省エネルギープロセスであり、ロール・ツー・ロールプロセスで必要に応じた透過率の導電性薄膜の作成が可能であることから、スケールアップや量産性にも適している。また、一般的に電極のパターニングに用いられるフォトレジスト法に代わり、印刷法を用いることで容易に作成できることから、プリンテッドエレクトロニクスへの展開が可能である。
【0020】
また、これらの導電性薄膜は製造過程で酸処理などを用いていないことから、必要に応じたN型P型のドーピングが可能である。実際ドーピングを行うことで一桁以上の表面抵抗率の減少が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1で得たカーボンナノチューブ含有薄膜の、膜厚と透過率の関係を示す図
図2】実施例2で得たカーボンナノチューブ含有薄膜の、2−プロパノール浸漬前後の原子間力顕微鏡像
図3】実施例2で得たカーボンナノチューブ含有薄膜の、2−プロパノール浸漬前後の紫外―可視―近赤外透過スペクトル
図4】実施例3で得た導電性薄膜の原子間力顕微鏡像
図5】実施例3で得た導電性薄膜の紫外―可視―近赤外透過スペクトル
図6】実施例3で得た導電性薄膜の透過率とシート抵抗の関係を示す図
図7】実施例4で得た導電性薄膜の原子間力顕微鏡像
図8】実施例5で得た導電性薄膜の原子間力顕微鏡像
図9】屈曲性試験の概念図
図10】PEN基板上に導電性薄膜を作製した透明な導電性フィルムを、完全に山折り、谷折りした後、該導電性フィルムの両端に配線しLEDランプに繋げた状態を撮影した写真
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明において、カーボンナノチューブの種類は特に制限されず、従来公知のものを用いることができ、例えば、シングルウォールカーボンナノチューブ、ダブルウォールカーボンナノチューブ、マルチウォールカーボンナノチューブ、ロープ状、リボン状カーボンナノチューブのいずれでも用いられる。また、金属、半導体のナノチューブへの分離工程を経た金属または半導体単独カーボンナノチューブを用いることも可能である。
また、市販のシングルウォールカーボンナノチューブ(SWNT)を用いた場合、その長さや直径に特に制約されないが、直径0.4〜2.0nm、長さは0.5〜5.0μm程度のもので、結晶性が優れ、長さが長いものが好ましい。
【0023】
基材は、特に制限されないが、透明な導電性薄膜を作成する場合は、透明基材を必要に応じて選ぶことができる。ガラスや石英ガラスなどをはじめ、フレキシブル基板および透明でかつフレキシブルな基板を用いることができる。具体的にはポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)などからなるものを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
本発明のマトリックスポリマーは、セルロース系誘導体が好ましい。例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、アミノエチルセルロース、オキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロース、トリメチルセルロースなどが好ましい。
【0025】
本発明のカーボンナノチューブ含有薄膜を好ましく製造するには、先ず、セルロース誘導体の溶液を作り、その後カーボンナノチューブを入れ分散させる。セルロース誘導体の溶媒としては、水、エタノール、クロロホルム、プロピレングリコール、アセトンと水混合液などが好ましく用いられる。この場合、カーボンナノチューブの濃度は0.005〜1重量%、好ましくは0.01〜0.2重量%であり、セルロース誘導体の濃度は0.1〜30重量%、好ましくは2〜10重量%である。カーボンナノチューブの分散には、超音波処理などの分散促進手段を併用することができる。分散液の粘度としては、0.1〜1000cpsの範囲で、成膜方法に応じて適宜選択されるが、たとえば、ドクターブレードで製膜する場合、好ましくは6〜10cps、スクリーン印刷で製膜する場合は、好ましくは10〜400cps程度が良い。これらの粘度はセルロース誘導体の分子量を調整することで可能である。
【0026】
このようにして得た分散液を、遠心分離して、微細カーボンナノチューブを含む上澄液を回収し、この上澄液をカーボンナノチューブ分散液として用いるのがよい。この場合の遠心分離において、その回転数は2000〜60000rpm、好ましくは45,000rpm、遠心分離時間は2時間程度である。
なお、これらの製造条件も好ましい範囲を示すものであり、必要に応じて適宜変更できることはいうまでもない。
【0027】
このようにして得たカーボンナノチューブ分散液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体が有する優れた分散作用によって、カーボンナノチューブを、液中で相互に分離した状態を高濃度で保持したまま含有するものである。
【0028】
以上のようにして作製したカーボンナノチューブ分散液を、基板上にドクターブレード法やスクリーン印刷法にて成膜することにより本発明のカーボンナノチューブ含有薄膜が得られる。なお、成膜法は前記ドクターブレード法やスクリーン印刷法に限られず、キャスト法、ディップコート法、スピンコート法など種々の成膜法を用いることができるが、ドクターブレード法を用いると、基板とブレードの距離を変えることで、透過率99%から不透明な膜まで膜厚の制御が容易であり、大面積でも決められた膜厚の薄膜を均質に形成することができる。また、添加物なしでもマトリックスポリマーであるセルロース誘導体の分子量を調整することで適宜粘度の調整が可能であることから、スクリーン印刷法によるパターニングが可能である。
【0029】
次に、カーボンナノチューブ含有薄膜中の、セルロース誘導体からなる非導電性マトリックスを除去する方法について説明する。
その第1の方法は、カーボンナノチューブ含有薄膜を溶剤に浸漬してヒドロキシプロピルセルロースなどの非導電性マトリックスを除去することにより、カーボンナノチューブの本来もつ導電性を回復させ導電性薄膜とする方法である。
溶剤は、マトリックスである材料に対して貧溶媒が望ましい。溶解度が高い良溶媒の場合、急激な溶解により、膜が崩壊してしまうからである。貧溶媒は2−プロパノール、tert−ブチルアルコール、アセトン、シクロヘキサノール、メチルエチルケトン、メチルアセテート、塩化メチレン、ブチルアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸など、また混合溶液としてはキシレンと2−プロパノール(1:3)を用いることが可能である。セルロース誘導体に応じて適宜選択されるが、たとえば、ヒドロキシプロピルセルロースをマトリックスとする場合は2−プロパノールを用いるのが好ましい。
【0030】
このようにして得た導電性薄膜の膜厚は、溶液浸漬前に比べ10分の1程度に減少したことからマトリックスポリマーの除去が確認できた。また、シート抵抗は、大量のマトリックスポリマーの除去により、まったくの絶縁膜から数十〜2000Ω/sq程度となった。さらにこの薄膜を公知の方法により濃硝酸水溶液に浸漬したところ、ドーピングによりシート抵抗が10分の1程度に減少し、透明電極として用いるのに十分な導電性を得ることができた。
【0031】
または、第2の方法は、上述の方法で得たカーボンナノチューブ含有薄膜中の、ヒドロキシプロピルセルロースなどのマトリックスポリマーを、光焼成によって除去することにより、カーボンナノチューブの本来もつ導電性を回復させ導電性薄膜とする方法である。この方法は、光を吸収したカーボンナノチューブが発熱することにより、周囲のマトリックスを熱分解するものである。
光源としては、極短時間できわめて高強度な光を照射できることが必要であり、パルスレーザーやキセノンフラッシュランプなどを用いるのが好ましい。例えば、照射強度が弱い、ないし照射パルスが長く長時間照射となると、基板を含む周囲への熱の散逸の影響が大きくなり、カーボンナノチューブの発熱が、マトリックスを加熱分解するのに十分な温度に達することができなくなったり、プラスチック基板を用いた場合には基板自体の変形や分解を誘起するため、プロセスとして適当でない。ここで用いた高強度でかつ数十〜数千μsのパルス時間の調整が容易な光焼成装置を用いることにより材料表面に集中して加熱することができるため、従来の熱源と比べ、基板への熱影響を極めて小さくすることで透明フレキシブル基板上での光焼成が可能になった。
たとえば、PEN基板上に作成したカーボンナノチューブ含有薄膜を用い数百μsのパルス幅の光を数回当てることで、カーボンナノチューブの分解温度(500℃)以下までに加熱し、ナノチューブ周りのマトリックスポリマーを分解することができる。一方、基板であるPENは極短時間による光照射では十分な熱拡散は起こらず変形、分解は見られない。
【0032】
このようにして得た導電性薄膜のシート抵抗は、大量のマトリックスポリマーの除去により、まったくの絶縁膜から数十〜2000Ω/sq程度となった。さらにこの薄膜を公知の方法により濃硝酸水溶液に浸漬したところ、ドーピングによりシート抵抗が10分の1程度に減少し、透明電極として用いるのに十分な導電性を得ることができた。
【0033】
また、第3の方法は、上述の方法で得たカーボンナノチューブ含有薄膜中の、ヒドロキシプロピルセルロースなどのマトリックスを、酸素プラズマに晒すことによってカーボンナノチューブの本来もつ導電性を回復させ導電性薄膜とする方法である。この方法は、周囲のマトリックスを酸化分解するものである。
【0034】
本発明においては、上述の第1〜第3のいずれの方法においても、得られた導電性薄膜は、公知の方法により濃硝酸水溶液に浸漬することでドーピングすることが可能である。そして、このドーピング法による効果は通常は1週間程度で減少し、ドーピング後のシート抵抗が変化することが知られているが、本発明の導電性薄膜においては、後述する実施例に示すとおり、ドーピング後、数十日経過しても、シート抵抗の変化が極めて小さい。
【0035】
さらに、本発明では、上述の第1〜第3の方法を少なくとも2つ以上組み合わせることが可能である。たとえば、光焼成法ではナノチューブの近くに存在するマトリックスポリマーの除去は容易であるが、ナノチューブより少し離れた場所のポリマーはなかなか除去することが困難である。この場合はプラズマ法や浸漬法を組み合わせることで解決できる。また、透過率が低い85%以下の薄膜すなわち比較的厚い膜や面積の大きな膜において、浸漬法を用いると基板から膜が剥離することが多い。この場合は、酸素プラズマ法や光焼成法での処理を行うことにより、膜と基板との密着性を高めることで、浸漬による基板からの剥離を防ぐことができる。
【0036】
さらに、本発明においては、上述の第1〜第3のいずれの方法においても、除去するヒドロキシプロピルセルロースなどのマトリックスの一部を残すことにより、導電性薄膜の柔軟性・強度、また基板との密着性などを調整することができる。
具体的には、浸漬法の場合、カーボンナノチューブ含有薄膜を貧溶媒に浸漬すると表面からマトリックスポリマーが除去される。例えば、浸漬時間を短く調整すると、ポリマーが多く存在することで導電膜の柔軟性や密着性は向上するが、その反面、強度や導電性は悪くなる。応用に適した条件を見出し調整する。さらに、光焼成法では光の強度やパルス幅を調整することで、膜表面から深さ方向への反応範囲が決められる。したがって、膜表面のマトリックスポリマーは完全に除去し、基板表面に近いところはマトリックスを残すことで基板との密着性を維持することができる。この方法を用いることで膜表面では高い強度や導電性を保ちつつ、柔軟性や密着性が優れた導電性薄膜が作成できる。
【0037】
このように、本発明におけるカーボンナノチューブ含有薄膜は、真空や高温プロセスを用いることなく、室温で成膜可能な溶液プロセスにより、容易に均一な薄膜とすることができるとともに、膜厚の調整が可能であり、さらに該カーボンナノチューブ含有薄膜からマトリックスを除去することによりカーボンナノチューブが本来有している優れた電気特性を十分に発現させることができることから、透明導電膜、透明電極、フレキシブル電極、あるいは薄膜トランジスタの半導体層などとして有利に用いることができる。また、上述の光焼成法を用いれば、導電性を発現させたい部分のみに光を照射することによって、導電性部位のパターニングを行った導電性薄膜を得ることもできる。
【0038】
また、本発明では、基板上に成膜された導電性薄膜は、室温、大気中での安定性に優れており、また、カーボンナノチューブ特有の屈曲性や密着性により、耐屈曲性に優れ、折りたたむことができるので、フレキシブル電極として、タッチパネルだけでなく、太陽電池、有機ELディスプレイなどの幅広い用途に有用である。
【実施例】
【0039】
次に、本発明を実施例に基づいて、さらに詳述する。なお、以下の説明は、本願発明の理解を容易にするためのものであり、これに制限されるものではない。すなわち、本願発明の技術思想に基づく変形、実施態様、他の例は、本願発明に全て含まれるものである。
なお、以下の実施例においては、産業技術総合研究所の直噴熱分解合成(eDIPS)法により合成したSWNTを用いた。
【0040】
最初に、実施例に用いた測定方法・装置について記載する。
〈表面抵抗〉
カーボンナノチューブ導電膜の表面抵抗率は四深針法抵抗率測定装置(ロレスター、三菱化学(株)製)により室温、大気中で測定した。
〈膜厚〉
作成した薄膜の膜厚はAlphastep 500(KLA−Tencor社)で測定した。
〈紫外−可視−近赤外透過スペクトル〉
紫外−可視−近赤外透過スペクトルは、Cary500(Varian社)で測定した。
【0041】
(実施例1)
エタノール40mlにヒドロシキプロピルセルロース(HPC)2gを溶解し、次いでSWNTを10mg添加し混合した。この混合液を超音波処理によって分散した後、45,000rpmの回転数で遠心分離を行った。遠心分離後の上澄み液の吸収スペクトルや発光スペクトルを測定し、前記非特許文献1(Science,297,593−596(2002))のデータを参照することで、この上澄み液の中に孤立SWNTが含まれていることを確認した。
この分散溶液を、ドクターブレード法を用い、親水処理した石英ガラス基板上にブレードを自動装置により一定速度で動かすことで成膜を行った。室温に10分間放置し溶媒を少し乾燥した後、ホットプレート(100℃)で完全に乾燥させることによりカーボンナノチューブ含有薄膜を得た。
【0042】
膜厚は基板とブレードの距離で容易に制御可能であり、実際、基板とブレードとの距離を変えることで様々な膜厚の光学的に均質なカーボンナノチューブ含有薄膜が得られた。
膜厚と透過率の相関関係を図1に示す。該図のとおり、膜厚と透過率はほぼ直線関係を示すことから、薄膜中でカーボンナノチューブが均一に分散していることが証明される。
【0043】
(実施例2)
本実施例では、上記実施例1のようにして得たカーボンナノチューブ含有薄膜を2−プロパノールに浸漬してマトリックスであるヒドロキシプロピルセルロースを除去した。
具体的には、上記のようにして得た、550nmでの透過率93.5%、膜厚800nmのカーボンナノチューブ含有薄膜を形成させた石英ガラス基板を、2−プロパノールに30分間浸漬し、引き上げて100℃で乾燥させた。
得られた膜の膜厚は約80nmとなっており、550nmでの透過率にはほとんど変化はなかった。また、得られた膜のほぼ中央で測定したシート抵抗は1,500Ω/sqであった。
図2に、浸漬前後のカーボンナノチューブ含有薄膜の原子間力顕微鏡像を示す。図中、(A)は、浸漬前のものであり、(B)は、浸漬後、30分経過のものである。
図2から明らかなように、浸漬後のカーボンナノチューブ含有薄膜ではカーボンナノチューブの繊維が1本ずつ明瞭に観察できており、周囲のヒドロキシセルロースが除去されていることが証明された。
また図3に、浸漬前後のカーボンナノチューブ含有薄膜の紫外−可視−近赤外透過スペクトルを示す。なお、図中、700〜800nmの範囲に段差ノイズが見受けられ、後述する図5についても同様のノイズが見受けられるが、これらは分光器の受光部の切り替えによるノイズである。
図3に示すとおり、膜厚の減少がありながら透過率がほとんど変化していないことから、2−プロパノールへの浸漬により透明な高分子であるヒドロキシプロピルセルロースのみが効率的に除去され、カーボンナノチューブは基板上にとどまっていることが証明された。
【0044】
(実施例3)
本実施例では、以下のようにして、さらに公知の方法により濃硝酸に浸漬させることによりドーピングを行った。
実施例2で得られたマトリックスポリマー除去後の基板を、硝酸溶液に30分間浸し、ドーピングを行った。その後水で余分な硝酸を取り除き50℃のホットプレートで乾燥を行った。
図4に、本実施例で得られた膜の原子間力顕微鏡像を、図5に、同膜の紫外−可視−近赤外透過スペクトルを、それぞれ示す。図5に示すように、ナノチューブの半導体に基づく吸収がなくなり、硝酸イオンのナノチューブ膜へのドープが確認できた。また、硝酸処理後の膜のほぼ中央で測定したシート抵抗は170Ω/sq程度となり、硝酸処理前の約1/10となった。これは電極として用いるのに十分な導電性である。
【0045】
また、実施例1と同様にして、石英ガラス基板又はPEN基板上に作製された種々の膜厚のカーボンナノチューブ含有薄膜を、実施例2および実施例3と同様の方法で処理した導電性薄膜の透過率とシート抵抗の関係を調べた。図6に、得られた導電性薄膜の透過率とシート抵抗の関係を示す。
図6に示すように、製膜条件を制御することによって、種々の透過率とシート抵抗をもつ導電性薄膜を作り分けることができる。
【0046】
(実施例4)
本実施例では、上記実施例1と同様にして、PEN基板上の作製されたカーボンナノチューブ含有薄膜に、酸素プラズマ処理を行い、マトリックスであるヒドロキシプロピルセルロースを除去した。
酸素プラズマ処理は、Atmospheric Process Plasma(A・P・P CO.,LTD)大気圧プラズマ装置を用い、80Wで5分間行った。得られたシート抵抗は107Ω/sqであった。図7に、本実施例で得られた膜の原子間力顕微鏡像を示す。
本実施例で得られた膜は、シート抵抗はまだ高いものの、図7に示すとおり、マトリックスポリマーの除去によりナノチューブが一本ずつはっきり観察できる。
【0047】
(実施例5)
本実施例では、上記実施例1のようにして得たカーボンナノチューブ含有薄膜に、光照射を行い、マトリックスであるヒドロキシプロピルセルロースを除去した。
光焼成は、キセノンフラッシュランプ(NovaCentrix社PulseForge)により室温、大気中で行った。
PEN基板上に作成したカーボンナノチューブ含有薄膜に、330マイクロ秒の白色パルス光を、室温、大気中で3回照射した。シート抵抗は130Ω/sqであった。これは電極として用いるのに十分な導電性である。
図8に、光焼成後のカーボンナノチューブ含有薄膜の原子間力顕微鏡像を示す。なお、(B)は、(A)の部分拡大像である。
図8に示すように、カーボンナノチューブの繊維が1本ずつ明瞭に観察できており、光焼成により、カーボンナノチューブの周囲のヒドロキシプロピルセルロースが除去されていることが証明された。特に、この除去法は、カーボンナノチューブの発熱によるものであることから、ナノチューブまわりのマトリックスポリマーが完全に除去されていることが分かる。また、光のパルス幅を調整することでPEN基板の変形などはまったく見られなかった。
【0048】
(実施例6)
透過率80%以下の厚い膜や、面積の大きい膜については、溶剤への浸漬では膜が基板から剥離し、好ましい導電性薄膜を得ることができない。そこで、本実施例では、PEN基板上に作製した透過率70%と77%のカーボンナノチューブ含有薄膜に、300マイクロ秒の白色パルス光を5回、4回、1回それぞれ照射し、光焼成を行った。さらに、2−プロパノールに30分間浸漬させると、膜は剥離することなくシート抵抗140Ω/sq、118Ω/sq、210Ω/sqの導電性薄膜を得ることができた。
さらに、硝酸処理するとシート抵抗は37Ω/sq、30Ω/sq、37Ω/sqに非常に高い導電性膜を得ることができた。
下記の表1は、以上の結果をまとめたものである。
【0049】
【表1】
【0050】
(実施例7)
本実施例では、実施例6の方法でPEN基板上に作製した導電性薄膜を用い、屈曲性試験を行った。
屈曲性試験は、FPC(フレキシブルプリントサーキット)屈曲試験機(安田精機製作所(株))により室温、大気中で試験を行った。図9は、該屈曲性試験の概念図であり、試験片を平行する固定板と可動板の間に規定された屈曲半径になるように固定し、可動板を左右に往復運動させて屈曲性試験を行うものである。
本実施例では、導電性薄膜が作製されたPEN基板を、平行する固定板と可動板の間に規定された屈曲半径になるように固定し、可動板を左右に往復運動させて屈曲試験を行った。速度は70.5cpmで10段階の中で一番速い速度に、屈曲直径は20mmと4mmに設定した。
その結果、屈曲直径が20mmの場合は20万回まで導電性が維持されることを確認できた。それ以上は測定していないが、まだ十分に性能を保っている。また、屈曲直径が4mmの場合は5万回までは導電性薄膜へのダメージは確認できなかった。しかし、5万3千回程度でPENの基板が先に壊れてしまいそれ以上継続することができなかった。これは本来のカーボンナノチューブ導電性薄膜の屈曲に対する導電性への影響ではなく、基板であるPENの厚みの問題であり、より薄いPEN基板を用いることで屈曲直径がより小さい場合でも対応できる。
このように、本発明の導電性薄膜は耐屈曲性が優れているため、本発明の導電性薄膜をフレキシブルな基板に形成してタッチパネルを作製した場合には、タッチパネルを湾曲した状態で動作することが可能となる。
【0051】
(実施例8)
本実施例では、実施例6と同様にしてPEN基板上に導電性薄膜を作製した透明な導電性フィルムを、完全に山折り、谷折りをしたあと、該導電性フィルムの両端に配線しLEDランプに繋げた。その結果、図10に示すとおり、完全に折りたたんでいるにもかかわらず、LEDが点灯していることが分かる。これらはカーボンナノチューブ特有の屈曲性や密着性によるもので、非常に優れた耐屈曲性、耐衝撃性により、折りたたんでも電気を流すことができたものである。
【0052】
(実施例9)
本実施例では、実施例3と同様の方法でPEN基板上に作製した、厚さ及び面積のことなる2つの導電性薄膜1,2を得、それぞれの膜のシート抵抗を、導電性薄膜作製当日から、薄膜1については120日目、薄膜2については、90日目まで測定し、シート抵抗の経時変化を観察した。
表2に、結果を示す。なお、表中、薄膜1は、面積が大きいため、1枚につき、ほぼ中央部分と周辺の4か所を測定したときの最大値と最小値を示し、また、薄膜2は面積が小さいため、ほぼ中央で測定した値を示している。
以下の表2に示すように、作製後数十日以上経ってもシート抵抗値の変化は極めて小さいことがわかった。
【0053】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明におけるカーボンナノチューブ含有薄膜は、ドクターブレード法やスクリーン印刷法などで簡便にカーボンナノチューブが均一に分散した状態で存在した状態で作製することができ、膜厚および光透過性の調整が容易で、かつ、該カーボンナノチューブ含有薄膜からマトリックスを除去することにより、カーボンナノチューブが本来有している高い導電性ないし半導体特性、および優れた屈曲性を十分に発揮させることができることから、透明電極、フレキシブル電極として極めて有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10