【実施例】
【0039】
次に、本発明を実施例に基づいて、さらに詳述する。なお、以下の説明は、本願発明の理解を容易にするためのものであり、これに制限されるものではない。すなわち、本願発明の技術思想に基づく変形、実施態様、他の例は、本願発明に全て含まれるものである。
なお、以下の実施例においては、産業技術総合研究所の直噴熱分解合成(eDIPS)法により合成したSWNTを用いた。
【0040】
最初に、実施例に用いた測定方法・装置について記載する。
〈表面抵抗〉
カーボンナノチューブ導電膜の表面抵抗率は四深針法抵抗率測定装置(ロレスター、三菱化学(株)製)により室温、大気中で測定した。
〈膜厚〉
作成した薄膜の膜厚はAlphastep 500(KLA−Tencor社)で測定した。
〈紫外−可視−近赤外透過スペクトル〉
紫外−可視−近赤外透過スペクトルは、Cary500(Varian社)で測定した。
【0041】
(実施例1)
エタノール40mlにヒドロシキプロピルセルロース(HPC)2gを溶解し、次いでSWNTを10mg添加し混合した。この混合液を超音波処理によって分散した後、45,000rpmの回転数で遠心分離を行った。遠心分離後の上澄み液の吸収スペクトルや発光スペクトルを測定し、前記非特許文献1(Science,297,593−596(2002))のデータを参照することで、この上澄み液の中に孤立SWNTが含まれていることを確認した。
この分散溶液を、ドクターブレード法を用い、親水処理した石英ガラス基板上にブレードを自動装置により一定速度で動かすことで成膜を行った。室温に10分間放置し溶媒を少し乾燥した後、ホットプレート(100℃)で完全に乾燥させることによりカーボンナノチューブ含有薄膜を得た。
【0042】
膜厚は基板とブレードの距離で容易に制御可能であり、実際、基板とブレードとの距離を変えることで様々な膜厚の光学的に均質なカーボンナノチューブ含有薄膜が得られた。
膜厚と透過率の相関関係を
図1に示す。該図のとおり、膜厚と透過率はほぼ直線関係を示すことから、薄膜中でカーボンナノチューブが均一に分散していることが証明される。
【0043】
(実施例2)
本実施例では、上記実施例1のようにして得たカーボンナノチューブ含有薄膜を2−プロパノールに浸漬してマトリックスであるヒドロキシプロピルセルロースを除去した。
具体的には、上記のようにして得た、550nmでの透過率93.5%、膜厚800nmのカーボンナノチューブ含有薄膜を形成させた石英ガラス基板を、2−プロパノールに30分間浸漬し、引き上げて100℃で乾燥させた。
得られた膜の膜厚は約80nmとなっており、550nmでの透過率にはほとんど変化はなかった。また、得られた膜のほぼ中央で測定したシート抵抗は1,500Ω/sqであった。
図2に、浸漬前後のカーボンナノチューブ含有薄膜の原子間力顕微鏡像を示す。図中、(A)は、浸漬前のものであり、(B)は、浸漬後、30分経過のものである。
図2から明らかなように、浸漬後のカーボンナノチューブ含有薄膜ではカーボンナノチューブの繊維が1本ずつ明瞭に観察できており、周囲のヒドロキシセルロースが除去されていることが証明された。
また
図3に、浸漬前後のカーボンナノチューブ含有薄膜の紫外−可視−近赤外透過スペクトルを示す。なお、図中、700〜800nmの範囲に段差ノイズが見受けられ、後述する
図5についても同様のノイズが見受けられるが、これらは分光器の受光部の切り替えによるノイズである。
図3に示すとおり、膜厚の減少がありながら透過率がほとんど変化していないことから、2−プロパノールへの浸漬により透明な高分子であるヒドロキシプロピルセルロースのみが効率的に除去され、カーボンナノチューブは基板上にとどまっていることが証明された。
【0044】
(実施例3)
本実施例では、以下のようにして、さらに公知の方法により濃硝酸に浸漬させることによりドーピングを行った。
実施例2で得られたマトリックスポリマー除去後の基板を、硝酸溶液に30分間浸し、ドーピングを行った。その後水で余分な硝酸を取り除き50℃のホットプレートで乾燥を行った。
図4に、本実施例で得られた膜の原子間力顕微鏡像を、
図5に、同膜の紫外−可視−近赤外透過スペクトルを、それぞれ示す。
図5に示すように、ナノチューブの半導体に基づく吸収がなくなり、硝酸イオンのナノチューブ膜へのドープが確認できた。また、硝酸処理後の膜のほぼ中央で測定したシート抵抗は170Ω/sq程度となり、硝酸処理前の約1/10となった。これは電極として用いるのに十分な導電性である。
【0045】
また、実施例1と同様にして、石英ガラス基板又はPEN基板上に作製された種々の膜厚のカーボンナノチューブ含有薄膜を、実施例2および実施例3と同様の方法で処理した導電性薄膜の透過率とシート抵抗の関係を調べた。
図6に、得られた導電性薄膜の透過率とシート抵抗の関係を示す。
図6に示すように、製膜条件を制御することによって、種々の透過率とシート抵抗をもつ導電性薄膜を作り分けることができる。
【0046】
(実施例4)
本実施例では、上記実施例1と同様にして、PEN基板上の作製されたカーボンナノチューブ含有薄膜に、酸素プラズマ処理を行い、マトリックスであるヒドロキシプロピルセルロースを除去した。
酸素プラズマ処理は、Atmospheric Process Plasma(A・P・P CO.,LTD)大気圧プラズマ装置を用い、80Wで5分間行った。得られたシート抵抗は10
7Ω/sqであった。
図7に、本実施例で得られた膜の原子間力顕微鏡像を示す。
本実施例で得られた膜は、シート抵抗はまだ高いものの、
図7に示すとおり、マトリックスポリマーの除去によりナノチューブが一本ずつはっきり観察できる。
【0047】
(実施例5)
本実施例では、上記実施例1のようにして得たカーボンナノチューブ含有薄膜に、光照射を行い、マトリックスであるヒドロキシプロピルセルロースを除去した。
光焼成は、キセノンフラッシュランプ(NovaCentrix社PulseForge)により室温、大気中で行った。
PEN基板上に作成したカーボンナノチューブ含有薄膜に、330マイクロ秒の白色パルス光を、室温、大気中で3回照射した。シート抵抗は130Ω/sqであった。これは電極として用いるのに十分な導電性である。
図8に、光焼成後のカーボンナノチューブ含有薄膜の原子間力顕微鏡像を示す。なお、(B)は、(A)の部分拡大像である。
図8に示すように、カーボンナノチューブの繊維が1本ずつ明瞭に観察できており、光焼成により、カーボンナノチューブの周囲のヒドロキシプロピルセルロースが除去されていることが証明された。特に、この除去法は、カーボンナノチューブの発熱によるものであることから、ナノチューブまわりのマトリックスポリマーが完全に除去されていることが分かる。また、光のパルス幅を調整することでPEN基板の変形などはまったく見られなかった。
【0048】
(実施例6)
透過率80%以下の厚い膜や、面積の大きい膜については、溶剤への浸漬では膜が基板から剥離し、好ましい導電性薄膜を得ることができない。そこで、本実施例では、PEN基板上に作製した透過率70%と77%のカーボンナノチューブ含有薄膜に、300マイクロ秒の白色パルス光を5回、4回、1回それぞれ照射し、光焼成を行った。さらに、2−プロパノールに30分間浸漬させると、膜は剥離することなくシート抵抗140Ω/sq、118Ω/sq、210Ω/sqの導電性薄膜を得ることができた。
さらに、硝酸処理するとシート抵抗は37Ω/sq、30Ω/sq、37Ω/sqに非常に高い導電性膜を得ることができた。
下記の表1は、以上の結果をまとめたものである。
【0049】
【表1】
【0050】
(実施例7)
本実施例では、実施例6の方法でPEN基板上に作製した導電性薄膜を用い、屈曲性試験を行った。
屈曲性試験は、FPC(フレキシブルプリントサーキット)屈曲試験機(安田精機製作所(株))により室温、大気中で試験を行った。
図9は、該屈曲性試験の概念図であり、試験片を平行する固定板と可動板の間に規定された屈曲半径になるように固定し、可動板を左右に往復運動させて屈曲性試験を行うものである。
本実施例では、導電性薄膜が作製されたPEN基板を、平行する固定板と可動板の間に規定された屈曲半径になるように固定し、可動板を左右に往復運動させて屈曲試験を行った。速度は70.5cpmで10段階の中で一番速い速度に、屈曲直径は20mmと4mmに設定した。
その結果、屈曲直径が20mmの場合は20万回まで導電性が維持されることを確認できた。それ以上は測定していないが、まだ十分に性能を保っている。また、屈曲直径が4mmの場合は5万回までは導電性薄膜へのダメージは確認できなかった。しかし、5万3千回程度でPENの基板が先に壊れてしまいそれ以上継続することができなかった。これは本来のカーボンナノチューブ導電性薄膜の屈曲に対する導電性への影響ではなく、基板であるPENの厚みの問題であり、より薄いPEN基板を用いることで屈曲直径がより小さい場合でも対応できる。
このように、本発明の導電性薄膜は耐屈曲性が優れているため、本発明の導電性薄膜をフレキシブルな基板に形成してタッチパネルを作製した場合には、タッチパネルを湾曲した状態で動作することが可能となる。
【0051】
(実施例8)
本実施例では、実施例6と同様にしてPEN基板上に導電性薄膜を作製した透明な導電性フィルムを、完全に山折り、谷折りをしたあと、該導電性フィルムの両端に配線しLEDランプに繋げた。その結果、
図10に示すとおり、完全に折りたたんでいるにもかかわらず、LEDが点灯していることが分かる。これらはカーボンナノチューブ特有の屈曲性や密着性によるもので、非常に優れた耐屈曲性、耐衝撃性により、折りたたんでも電気を流すことができたものである。
【0052】
(実施例9)
本実施例では、実施例3と同様の方法でPEN基板上に作製した、厚さ及び面積のことなる2つの導電性薄膜1,2を得、それぞれの膜のシート抵抗を、導電性薄膜作製当日から、薄膜1については120日目、薄膜2については、90日目まで測定し、シート抵抗の経時変化を観察した。
表2に、結果を示す。なお、表中、薄膜1は、面積が大きいため、1枚につき、ほぼ中央部分と周辺の4か所を測定したときの最大値と最小値を示し、また、薄膜2は面積が小さいため、ほぼ中央で測定した値を示している。
以下の表2に示すように、作製後数十日以上経ってもシート抵抗値の変化は極めて小さいことがわかった。
【0053】
【表2】