【文献】
Agric. Biol. Chem.,1989年,Vol.53,p.1891-1899
【文献】
J. Agric. Food Chem.,1991年,Vol.39,p.760-763
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の胡麻含有酸性液状調味料を詳述する。なお、本発明において、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0015】
胡麻含有酸性液状調味料
本発明の胡麻含有酸性液状調味料は、胡麻と、酢酸と、酢酸1部に対し特定比率の2-methylthiophene及び2-((methyldithio)methyl)furanを含んでなるものである。
【0016】
胡麻含有酸性液状調味料は、酢酸を配合することで、pHが4.6以下となっている酸性胡麻含有酸性液状調味料である。胡麻を含有し、かつ酢酸を配合することで、作り立ては大変美味しいものの、長期保管後において胡麻特有の芳香が経時的に消失し易い問題があったが、2-methylthiophene及び2-((methyldithio)methyl)furanを酢酸に対し特定の比率で含有することでこの問題を解決することができた。
【0017】
なお、2-methylthiophene及び2-((methyldithio)methyl)furanは、いずれも天然の胡麻には元来含まれない成分であり、共にコーヒーに含まれることが知られている特徴香である。本発明は、天然の胡麻には元来含まれない成分である2-methylthiophene及び2-((methyldithio)methyl)furanを、酢酸と特定比率で組合せることにより、胡麻特有の芳香を増強保持する相乗効果が見られることを見出し、これらを、胡麻含有酸性液状調味料に含有させたものである。2-methylthiophene及び2-((methyldithio)methyl)furanを胡麻含有酸性液状調味料に含有させる方法は特に限定されないが、例えば、これらの成分が含まれる食品や食品添加物を配合する方法が挙げられる。
【0018】
本発明の胡麻含有酸性液状調味料は、香気成分を下記で詳述する固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法で測定した場合に、酢酸のピーク面積に対する、2-methylthiophene及び2-((methyldithio)methyl)furanの各ピーク面積の比が、下記の条件(a)、(b):
(a)2-methylthiophene:0.0001 〜0.01
(b)2-((methyldithio)methyl)furan:0.00001〜0.001
を満たし、
(a)2-methylthiophene:0.0002 〜0.005
(b)2-((methyldithio)methyl)furan:0.00002〜0.0005
を満たすことが好ましい。
酢酸のピーク面積に対する、2-methylthiophene及び2-((methyldithio)methyl)furanの各ピーク面積の比を前記範囲に制御することで、はじめて胡麻特有の芳香を強く感じることができる。
【0019】
本発明の胡麻含有酸性液状調味料に用いる胡麻の含有量は、胡麻特有の芳香を有すれば特に限定されないが、2〜20%が好ましく、3〜20%がより好ましい。前記範囲より少ないと、作り立ての時点から胡麻特有の芳香が不十分な場合がある。前記胡麻の含有量が、20%以下であれば、胡麻特有の芳香を増強保持する効果をより発揮することができる。
【0020】
本発明に用いる胡麻は、特に限定されないが、原料胡麻としては、白胡麻、金胡麻、黒胡麻、茶胡麻等が挙げられる。本発明で用いる胡麻の形態は、特に限定されず、ホール状でも、石臼、コロイドミル、フードカッター、マイルダー、ロール粉砕器等により粉砕処理されたものでもよい。
【0021】
本発明の胡麻含有酸性液状調味料に含有せしめる2-methylthiophene及び2-((methyldithio)methyl)furanは、pHを低下させて酸味を際立たせたとしても、胡麻特有の芳香の増強保持効果が得られ、4.6以下のpHで効果を発揮する。本発明のpHは、3〜4.6が好ましく、3.5〜4.6がより好ましく、3.8〜4.6が特に好ましい。pHが前記範囲より低いと、酸味が立ち、胡麻特有の芳香を感じ難い場合がある。pHが前記範囲より高いと、酢酸との相乗効果による胡麻特有の芳香の増強保持効果が得られ難い。
【0022】
本発明の胡麻含有酸性液状調味料の酢酸の含有量は、調味料の全量に対して0.1〜1%であり、0.2〜0.9%が好ましく、0.4〜0.8%がより好ましい。酢酸の配合量が前記範囲より少ないと、酢酸と2-methylthiophene及び2-((methyldithio)methyl)furanとの相乗効果が得られ難い。前記範囲より多いと、酸味が立ち、胡麻特有の芳香を感じ難い場合がある。
【0023】
本発明の胡麻含有酸性液状調味料に用いる酸材は、酢酸の他に特に限定されないが、例えば、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、ソルビン酸等の有機酸、燐酸、塩酸等の無機酸、レモン果汁、リンゴ果汁、オレンジ果汁、乳酸発酵乳等を用いることができる。また、種々の酸材のうち、酢酸とソルビン酸とを組合せることで、胡麻特有の芳香の増強保持効果が高まり非常に好ましかった。
【0024】
本発明の胡麻含有酸性液状調味料は、酢酸とソルビン酸とを特定の比率で含有することで、胡麻特有の芳香を増強保持する効果に優れる。酢酸とソルビン酸との質量比は、1:0.005〜1:1であることが好ましく、1:0.01〜1:0.5であることがより好ましく、1:0.02〜1:0.25が特に好ましい。
【0025】
本発明の胡麻含有酸性液状調味料中のソルビン酸の含有量は、酢酸との相互作用が得られる量であれば特に限定されないが、0.01〜1%が好ましく、0.03〜0.3%がより好ましい。
【0026】
酢酸及びソルビン酸の測定方法は、「栄養表示のための成分分析のポイント」(財団法人日本食品分析センター編、2007年10月20日発行)に開示されている、高速液体クロマトグラフ法(HPLC法)による有機酸分子の測定方法に基づいて行う。具体的には、例えば、水溶液中でソルビン酸及び/又はソルビン酸塩の状態で存在しているソルビン酸分子を、例えば、有機酸類を最終濃度が0.5%となるように加えた過塩素酸で抽出し、有機酸類の紫外部吸収を利用して高速液体クロマトグラフ法(HPLC法)で分別定量する。
【0027】
本発明の胡麻含有酸性液状調味料は、胡麻特有の芳香を保持するため水中油型乳化液状調味料であることが好ましい。食用油脂を乳化分散し、胡麻特有の芳香成分を油滴の中に封じ込めることで、さらに長期保管後における胡麻特有の芳香増強保持効果が発揮される。
【0028】
水中油型乳化液状調味料とは、例えば、清水に酢酸等の酸材と、澱粉、ガム類、卵黄、及びショ糖脂肪酸エステル等の乳化材とを混合した後、ミキサー等で攪拌しながら、油脂を注加して粗乳化し、次にせん断力に優れた処理機等で均質化したものである。
【0029】
本発明の胡麻含有酸性液状調味料に用いる食用油脂の配合量は、胡麻特有の芳香成分を油滴の中に封じ込められる量を配合すれば良く、1〜70%が好ましく、5〜50%がより好ましく、15〜50%が特に好ましい。
【0030】
本発明に用いる食用油脂は、特に限定されないが、具体的には、例えば、菜種油、大豆油、パーム油、綿実油、コーン油、ひまわり油、サフラワー油、胡麻油、オリーブ油、亜麻仁油、米油、椿油、荏胡麻油、グレープシードオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、魚油、牛脂、豚脂、鶏脂、又はMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油等のような化学的あるいは酵素的処理等を施して得られる油脂等を用いることができる。好ましくは、菜種油、大豆油又はパーム油を含有し、より好ましくはパーム油を含有する。
【0031】
食用油脂の測定方法は、「栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について」(平成11年4月26日衛新第13号)に開示されている、エーテル抽出法に基づいて行う。
【0032】
本発明の水中油型乳化胡麻含有酸性液状調味料に用いる乳化材は、胡麻特有の芳香を増強保持する効果があることから、卵黄を用いることが好ましい。卵黄の含有量は、0.1〜20%が好ましく、0.1〜5%がより好ましい。卵黄の含有量が前記範囲より少ないと、乳化状態を十分に維持できず、胡麻特有の芳香を増強保持する効果が得られない場合がある。前記範囲より多いと、卵黄の風味が強くなり過ぎ、胡麻特有の芳香を感じ難い場合がある。なお、卵黄の配合量は、鶏卵を割卵して得られる液卵黄で換算したものであり、液卵黄中のコレステロール含有量が1.4%であることから、日本国厚生労働省が平成11年4月26日付けで発行した衛新第13号「4コレステロール」の「(1)ガスクロマトグラフ法」に示されているコレステロール測定方法に準じて測定することができる。
【0033】
さらに、前記卵黄は、食用油脂を水中油型乳化胡麻含有酸性液状調味料中に分散させるにあたり、長期保管後の分離抑制効果が得られ易く、ひいては風味の増強保持効果も高いことから、ホスフォリパーゼA処理された卵黄を用いることがより好ましい。
【0034】
本発明の胡麻含有酸性液状調味料は、上述した原料以外に、本発明の効果を損なわない範囲で胡麻含有酸性液状調味料に通常用いられている各種原料を適宜選択し含有させることができる。例えば、醤油、みりん、食塩、グルタミン酸ナトリウム、ブイヨン等の調味料、ぶどう糖、果糖、蔗糖、麦芽糖、オリゴ糖、トレハロース等の糖類、からし粉、胡椒等の香辛料、レシチン、リゾレシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、オクテニルコハク酸化澱粉等の乳化材、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤、静菌剤等が挙げられる。
【0035】
本発明の胡麻含有酸性液状調味料の香気成分は、以下の条件に従って、固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法(SPME−GC−MS)で測定することができる。
(1)香気成分の分離濃縮方法
SPMEファイバーと揮発性成分抽出装置を用い、以下の条件に従って、固相マイクロ抽出法で香気成分の分離濃縮を行う。
<試料調整>
測定する胡麻含有酸性液状調味料を香気分析用の10mLバイアルに3.0g秤量し、セプタム付きの蓋で密封したものを試料として用いる。
<固相マイクロ抽出条件>
・SPMEファイバー StableFlex 50/30μm,DVB/Carboxen/PDMS(Sigma−Aldrich社製)
・揮発性成分抽出装置 Combi PAL、CTC Analitics製
・予備加温 40℃,15min
・攪拌速度 300rpm
・揮発性成分抽出 40℃,20min
・脱着時間 10min
(2)香気成分の測定方法
ガスクロマトグラフ法及び質量分析法を用い、以下の条件に従って、胡麻含有酸性液状調味料中の酢酸のピーク面積(定量イオンm/z60)に対する、2-methylthiophene(定量イオンm/z97)及び2-((methyldithio)methyl)furan(定量イオンm/z81)の各ピーク面積の比を測定する。
<ガスクロマトグラフ条件>
・測定機器 Agilent 6890N(Agilent Technologies社製)
・カラム SOLGEL−WAX(SGE社製)
長さ30m,口径0.25mm,膜厚0.25μm
・温度条件 35℃(5min)保持→120℃まで5℃/min昇温
→220℃まで15℃/min昇温→ 6min保持
・キャリアー Heガス、 ガス流量1.0mL/min
<質量分析条件>
・質量分析計 Agilent 5973N(Agilent Technologies社製)
・イオン化方式 EI(イオン化電圧70eV)
・スキャン質量 m/z 29.0〜350.0
・なお、信号強度が低い場合等は、スキャン測定ではなく、SIM(選択イオンモニタリング)測定を行っても良い。
・SIM測定条件 m/z 45、97、98(測定時間0〜15分)
m/z 43、45、60(測定時間15〜22分)
m/z 53、81、114(測定時間22〜35分)
【実施例】
【0036】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の内容に限定して解釈されるものではない。
【0037】
胡麻含有酸性液状調味料の製造
まず、撹拌タンクに、酢酸0.5%、すり胡麻20%、グラニュ糖5%、グルタミン酸ナトリウム0.5%、ホスフォリパーゼA処理された卵黄0.2%、キサンタンガム0.1%、及び清水53.7%を投入して均一に混合後、撹拌しながら大豆油10%及びパーム油10%を注加して乳化処理を施し、胡麻含有酸性液状調味料(水中油型乳化胡麻含有酸性液状調味料)を調製した。次に、2-methylthiophene及び2-((methyldithio)methyl)furanをそれぞれ添加混合し、例1〜6の6種類の胡麻含有酸性液状調味料(水中油型乳化胡麻含有酸性液状調味料)を調製した。各胡麻含有酸性液状調味料の香気成分を前記の固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法で測定し、酢酸、2-methylthiophene及び2-((methyldithio)methyl)furanのピーク面積、並びに、酢酸のピーク面積に対する、2-methylthiophene及び2-((methyldithio)methyl)furanの各ピーク面積の比を表1に示した。また、2-methylthiophene及び2-((methyldithio)methyl)furanのいずれも添加していない前記の胡麻含有酸性液状調味料を対照品とした。
【0038】
得られた胡麻含有酸性液状調味料は、30mL蓋付きガラス容器に20gずつ充填密封した。品温25℃で1ヵ月間保存した各胡麻含有酸性液状調味料について、下記の基準に従って官能評価を行った。なお、得られた胡麻含有酸性液状調味料のpHは4.2であった。
【0039】
〔評価基準〕
3:胡麻特有の芳香が、対照品に比べて非常に強い。
2:胡麻特有の芳香が、対照品に比べて強い。
1:対照品に比べ、有意な差を感じられない。
【0040】
【表1】
【0041】
表1の結果より、2-methylthiophene及び2-((methyldithio)methyl)furanを、酢酸に対し特定比率で含有させることで、胡麻特有の芳香を対照品に比べて強く感じられた。具体的には、酢酸のピーク面積に対する、2-methylthiophene及び2-((methyldithio)methyl)furanの各ピーク面積の比が、下記の条件(a)、(b):
(a)2-methylthiophene:0.0001 〜0.01
(b)2-((methyldithio)methyl)furan:0.00001〜0.001
を満たす場合、胡麻特有の芳香を対照品に比べて強く感じられ、確かな増強保持効果が得られた。
【0042】
また、例3、4では、胡麻特有の芳香を対照品に比べて非常に強い胡麻特有の芳香の増強保持効果が得られ、大変好ましかった。具体的には、酢酸のピーク面積に対する、2-methylthiophene及び2-((methyldithio)methyl)furanの各ピーク面積の比が、下記の条件(a)、(b):
(a)2-methylthiophene:0.0002 〜0.005
(b)2-((methyldithio)methyl)furan:0.00002〜0.0005
を満たす場合、胡麻特有の芳香を対照品に比べて非常に強く感じた。
【0043】
酢酸0.5%を酢酸0.47%及びソルビン酸0.03%に置換えた以外は、例3に準じて、本発明の胡麻含有酸性液状調味料(水中油型乳化胡麻含有酸性液状調味料)を調製した(例7)。前記と同様の方法で官能評価を行った結果、得られた胡麻含有酸性液状調味料は、例3と比べて胡麻特有の芳香にさらに優れており、もっとも好ましかった。
【0044】
酢酸0.5%を酢酸0.2%及びソルビン酸0.3%に置換えた以外は、例3に準じて、本発明の胡麻含有酸性液状調味料(水中油型乳化胡麻含有酸性液状調味料)を調製した(例8)。前記と同様の方法で官能評価を行った結果、得られた胡麻含有酸性液状調味料は、例3と比べて胡麻特有の芳香にさらに優れており、もっとも好ましかった。
【0045】
酢酸0.5%を、酢酸0.2%及びグルタミン酸ナトリウム0.3%に置換えた以外は、例3に準じて、本発明の胡麻含有酸性液状調味料(水中油型乳化胡麻含有酸性液状調味料)を調製した(例9)。前記と同様の方法で官能評価を行った結果、得られた胡麻含有酸性液状調味料は、胡麻特有の芳香を対照品に比べて非常に強く感じた(評価:3)。なお、得られた胡麻含有酸性液状調味料のpHは4.4であった。
【0046】
酢酸0.5%及び清水0.3%を酢酸0.8%に置換えた以外は、例3に準じて、本発明の胡麻含有酸性液状調味料(水中油型乳化胡麻含有酸性液状調味料)を調製した(例10)。前記と同様の方法で官能評価を行った結果、得られた胡麻含有酸性液状調味料は、例3と同様に、胡麻特有の芳香を対照品に比べて非常に強く感じた(評価:3)。
【0047】
酢酸0.5%及び清水0.4%を酢酸0.9%に置換えた以外は、例3に準じて、本発明の胡麻含有酸性液状調味料(水中油型乳化胡麻含有酸性液状調味料)を調製した(例11)。前記と同様の方法で官能評価を行った結果、得られた胡麻含有酸性液状調味料は、例3と同様に、胡麻特有の芳香を対照品に比べて非常に強く感じた(評価:3)。
【0048】
また、表には示していないが、前記試験例3、9、10及び11を比較した場合、試験例3及び10は、試験例9及び11より胡麻特有の芳香と酸味のバランスに優れており、もっとも好ましかった。
【0049】
ホスフォリパーゼA処理された卵黄をキサンタンガムに置換えた以外は、例3に準じて、本発明の胡麻含有酸性液状調味料(水中油型乳化胡麻含有酸性液状調味料)を調製した(例12)。得られた胡麻含有酸性液状調味料は、胡麻特有の芳香を対照品に比べて非常に強く感じた(評価:3)。また、試験例No.3及び12の芳香を比較した場合、試験例No.3の方がより優れていた。