特許第6165166号(P6165166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6165166スポット走査システムのための改善された高速対数光検出器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6165166
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】スポット走査システムのための改善された高速対数光検出器
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/88 20060101AFI20170710BHJP
   G01N 21/956 20060101ALI20170710BHJP
   G01B 11/30 20060101ALN20170710BHJP
【FI】
   G01N21/88 J
   G01N21/956 A
   !G01B11/30 A
【請求項の数】22
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-547519(P2014-547519)
(86)(22)【出願日】2012年12月14日
(65)【公表番号】特表2015-507180(P2015-507180A)
(43)【公表日】2015年3月5日
(86)【国際出願番号】US2012069906
(87)【国際公開番号】WO2013090815
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2015年12月10日
(31)【優先権主張番号】61/576,702
(32)【優先日】2011年12月16日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/700,527
(32)【優先日】2012年9月13日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/675,687
(32)【優先日】2012年11月13日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500049141
【氏名又は名称】ケーエルエー−テンカー コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウルフ ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】チェン グレイス
(72)【発明者】
【氏名】ツァオ カイ
(72)【発明者】
【氏名】サリバン ジェイミー
(72)【発明者】
【氏名】ドンデルス ポール
(72)【発明者】
【氏名】マッケイ デレク
【審査官】 佐々木 龍
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−201044(JP,A)
【文献】 特表2005−526239(JP,A)
【文献】 特開2002−244275(JP,A)
【文献】 特開昭63−247602(JP,A)
【文献】 米国特許第6909561(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84−21/958
G01B 11/00−11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象を検査または測定するための方法であって、
一つ以上の第一の走査線と、前記一つ以上の第一の走査線の後に走査される次の走査線と、を含む各走査線から出た出力ビームプロフィルが光電子増倍管(PMT)によって連続的に収集されるように、分析対象の複数の連続的な前記走査線にわたって入射ビームを導くこと、
前記入射ビームが前記分析対象の前記一つ以上の第一の走査線に導かれた後または導かれる間で、前記入射ビームが次の走査線に向けられる前に、前記一つ以上の第一の走査線の全てのデータを保持するラインバッファに、前記PMTからの前記一つ以上の第一の走査線の一つ以上の出力ビームプロフィルのデータを受信すること
前記入射ビームが次の走査線に向けられる前に、前記ラインバッファに受信された前記一つ以上の第一の走査線の前記一つ以上の出力ビームプロフィルに基づき、前記次の走査線における予期される出力ビームプロフィルを決定することであり、前記予期される出力ビームプロフィルは、前記一つ以上の第一の走査線の前記一つ以上の出力ビームプロフィルと実質的に同じゲイン増大またはゲイン減少の値または比率となるように決定され、
前記入射ビームが前記次の走査線の方に導かれたときに、そのような次の走査線におけるゲインの設定により、前記PMTにおける測定信号が、前記PMTまたは前記PMTから出る測定信号を受信する他のハードウェア部品の既定の仕様に入るように、前記予期された出力ビームプロフィルに基づき、前記次の走査線について前記PMTに入力される前記ゲインを設定すること、
を含む、方法。
【請求項2】
前記一つ以上の第一の走査される線のそれぞれが第一のダイ上にあり、前記次の走査線が各一つ以上の第一のダイとは異なる第二のダイ上にある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一つ以上の第一の走査される線が複数の第一の走査線を有し、前記次の走査線が前記第一の走査線に隣接する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記一つ以上の第一の走査線に関する前記出力ビームプロフィルのデータを解析して、そのような一つ以上の第一の走査線における欠陥を検出することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記入射ビームがその方に導かれる前記走査線が、第一の次の走査線に隣接する第二の次の走査線をさらに含み、前記方法が、
前記入射ビームが前記分析対象の前記第一の次の走査線に導かれた後または導かれる間に、そのような第一の次の走査線について、前記PMTからの前記一つ以上の第一の走査線の一つ以上の出力ビームプロフィルのデータを前記ラインバッファに受信すること、
前記ラインバッファに受信された、前記第一の次の走査線について前記出力ビームプロフィルのデータに基づき、前記第二の次の走査線における予期される出力ビームプロフィルを決定すること、
前記入射ビームが前記第二の次の走査線の方に導かれたときに、そのような第二の次の走査線におけるゲインにより、前記PMTにおける測定信号が、前記PMTの既定の仕様に入るように、前記第二の次の走査線における前記予期された出力ビームプロフィルに基づき、前記第二の次の走査線について前記PMTに入力される前記ゲインを設定すること、をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第一および第二の次の走査線について前記PMTに入力される前記ゲインが、特定の周波数レンジに制限されて設定される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記次の走査線における前記予期される出力ビームプロフィルが、前記第一の走査線のうちの最近走査された線における前記出力ビームプロフィル、または前記一つ以上の第一の走査線における前記出力ビームプロフィルの平均と略等しいと予測される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ゲインの入力はゲイン制御波形であり、前記一つ以上の第一の走査線が複数の第一の走査線を有し、前記次の走査線における前記予期される出力ビームプロフィルが、第一の走査線全体におけるゲイン増加率または減少率と略等しい、前記第一の走査線のうちの直前に走査された線におけるゲイン増加率または減少率を有すると予測される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記一つ以上の第一の走査線が複数の第一の走査線を有し、前記予期される出力ビームプロフィルが、前記第一の走査線におけるゲイン増加率または減少率に比例する、前記第一の走査線のうちの直前に走査された線におけるゲイン増加率または減少率を有すると予測される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ゲインのさらなる設定において、そのようなゲインが前記次の走査線の走査に適合するように調節され、前記次の走査線において前記PMTにより出力された測定信号から生成された画像におけるアーチファクトを最小限にするような所定の値の範囲内に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ゲインが、位相が互いに180度異なり、大きさが略等しい2つのゲイン信号を前記PMTに入力することにより、前記次の走査線について前記PMTに入力され、前記2つのゲイン信号のうちの一方が前記PMTのダイノードの半分により受信され、前記2つのゲイン信号のうちの他方が前記PMTのダイノードの残りの半分により受信される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
分析対象の方に導かれた入射ビームに反応してそのような分析対象から出た光を検出するための光電子増倍管(PMT)と、
一つ以上の第一の走査線と、前記一つ以上の第一の走査線の後に走査される次の走査線とを含む各走査線から出た出力ビームプロフィルが前記PMTによって連続的に収集されるように、前記分析対象の複数の連続的な走査線にわたって前記入射ビームを導くためのビーム発生器と、
前記入射ビームが走査線全体を走査したときにそのような各走査線における応答信号を生成する前記PMTおよび一つ以上の検出部品を含む検出モジュールと、
各走査線における前記応答信号のデータを前記検出モジュールから受信するラインバッファを有し、そのような応答信号に基づき前記PMTのゲインを設定するゲイン予測モジュールであって、前記分析対象の各走査線の前記ゲインの設定が、前記入射ビームにより最近走査された前記分析対象の一つ以上の以前の走査線の全てについて受信された前記応答信号のデータに基づいてそのような走査線から出ると予期される前記光の予測に基づきそのような走査線の走査前に行われる、ゲイン予測モジュールと、を備える、分析対象を検査または測定するためのシステム。
【請求項13】
各走査線に入力される前記ゲインが、前記PMTにおける測定信号が、前記PMTまたは前記PMTから出る測定信号を受信する前記検出モジュールまたはゲイン予測モジュールの他のハードウェア部品の既定の仕様に入る、ゲイン制御波形である、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
各走査線における前記応答信号を解析してそのような走査線における欠陥を検出するためのプロセッサをさらに備える、請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
特定の周波数レンジに制限するように、各走査線に関して前記PMTに入力する前記ゲインを設定する、請求項12に記載のシステム。
【請求項16】
各走査線から出る前記光が、そのような一つ以上の以前の走査線からの前記応答信号に基づき決定された、前記一つ以上の以前の走査線から出た前記光と略等しいと予測される、請求項12に記載のシステム。
【請求項17】
前記一つ以上の以前の走査線が複数の以前の走査線を有し、各走査線から出る前記光が、前記以前の走査線におけるゲイン増加率または減少率と略等しい、前記以前の走査線のうちの直前に走査された線におけるゲイン増加率または減少率を有すると予測される、請求項12に記載のシステム。
【請求項18】
前記一つ以上の以前の走査線が複数の以前の走査線を有し、各走査線から出る前記光が、前記以前の走査線におけるゲイン増加率または減少率に比例する、前記以前の走査線のうちの直前に走査された線におけるゲイン増加率または減少率を有すると予測される、請求項12に記載のシステム。
【請求項19】
各走査線に入力される前記ゲインのさらなる設定において、ゲイン入力が走査線の走査に適合するように調節され、走査線において前記PMTにより出力された測定信号から生成された画像におけるアーチファクトを最小限にするような所定の値の範囲内に維持される、請求項12に記載のシステム。
【請求項20】
各走査線に関して前記PMTに入力される前記ゲインが、位相が互いに180度異なり、大きさが略等しい2つのゲイン信号を前記PMTに入力することにより達成され、前記2つのゲイン信号のうちの一方が前記PMTのダイノードの半分により受信され、前記2つのゲイン信号のうちの他方が前記PMTのダイノードの残りの半分により受信される、請求項12に記載のシステム。
【請求項21】
検査または計測ツールに以下の工程を実行させるように設計された、コンピュータプログラム命令をその内部に保存する少なくとも一つのコンピュータ可読記憶媒体であって、前記工程が、
一つ以上の第一の走査線と、前記一つ以上の第一の走査線の後に走査される次の走査線とを含む各走査線から出た出力ビームプロフィルが光電子増倍管(PMT)によって連続的に収集されるように、分析対象の複数の連続的な走査線にわたって入射ビームを導くこと、
前記入射ビームが前記分析対象の前記一つ以上の第一の走査線に導かれた後または導かれる間で、前記入射ビームが次の走査線に向けられる前に、前記一つ以上の第一の走査線の全てのデータを保持するラインバッファに、前記PMTからの前記一つ以上の第一の走査線の一つ以上の出力ビームプロフィルのデータを受信すること
前記入射ビームが次の走査線に向けられる前に、前記ラインバッファに受信された前記一つ以上の第一の走査線の前記一つ以上の出力ビームプロフィルに基づき、前記次の走査線における予期される出力ビームプロフィルを決定することであり、前記予期される出力ビームプロフィルは、前記一つ以上の第一の走査線の前記一つ以上の出力ビームプロフィルと実質的に同じゲイン増大またはゲイン減少の値または比率となるように決定され、
前記入射ビームが前記次の走査線の方に導かれたときに、そのような次の走査線におけるゲインの設定により、前記PMTにおける測定信号が、前記PMTまたは前記PMTから出る測定信号を受信する他のハードウェア部品の既定の仕様に入るように、前記予期された出力ビームプロフィルに基づき、前記次の走査線について前記PMTに入力される前記ゲインを設定すること、を含む、コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項22】
各走査線に関して前記PMTに入力される前記ゲインが、位相が互いに180度異なり、大きさが略等しい2つのゲイン信号を前記PMTに入力することにより達成され、前記2つのゲイン信号のうちの一方が前記PMTのダイノードの半分により受信され、前記2つのゲイン信号のうちの他方が前記PMTのダイノードの残りの半分により受信される、請求項21に記載の少なくとも一つのコンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、Ralph C.Wolfらによって2011年12月16日に出願された先の出願である米国仮特許出願第61/576,702号、およびRalph C.Wolfらによって2012年9月13日に出願された米国仮特許出願第61/700,527号の利益を主張し、これらの出願は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、一般に検査および計測システムに関する。より詳細には、本発明は、半導体ウエハおよび他のタイプのパターニングされた試料を検査および測定するための集光メカニズムに関する。
【背景技術】
【0003】
従来の光学検査ツールの一部は、正確に焦点を合わせたレーザスポットを用いてウエハの表面を走査し、ウエハ上の照射されたスポットから散乱した光の量を測定することによってパターニングされたウエハ上の欠陥を見つける。隣接ダイにおける同様の位置同士の散乱強度が相違する箇所が、潜在的欠陥のある箇所として記録される。
【0004】
この光散乱のダイナミックレンジは、一般にかなり大きい。単一のダイ内で100万対1より大きい散乱強度の変化は、珍しいことではない。この高ダイナミックレンジは、機器の光学的構成、ウエハおよび対象となる欠陥の散乱特性に固有である。
【0005】
光検出とは、光信号(光子)を電気信号(電子)に変換するプロセスである。光信号が弱く、周波数が高いときには、通常、光電子増倍管が使用される。光電子増倍管は、一般的に、光電陰極、一つ以上のダイノード、および陽極を含む。光電陰極に突き当たる個々の光子は、一定の確率(例えば、25%)で電子を叩き出す。これらの光電子は、その後電界により第一ダイノードに向かって加速される。電子がダイノードに当たると追加の電子を叩き出し、このようにして信号が増幅される。これらの二次電子は、その後次のダイノードに移動し、そこでもまた増倍される。ダイノード鎖の終わりにおいて、電子は、光電子増倍管の外側に該電子を運ぶ陽極により収集される。この時点で、信号は十分に大きく、トランスインピーダンス増幅器、それに続くアナログデジタル変換器などの従来の電子工学を用いて容易に測定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−179947号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/0161534号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
各ダイノードにおけるゲインは、入ってくる電子エネルギーの関数であり、そのダイノードと前段階のダイノードとの間の電位に比例する。管の総ゲインは、すべてのダイノードからのゲインの積である。光電子増倍管のゲイン制御を向上するための継続的な取り組みが行われている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の特定の実施形態の基本的な理解を提供するために、本開示の簡易化した要約を以下に示す。この要約は、本開示の広範な概略ではなく、本発明の主要または重要な要素を特定するものでもなく、本発明の範囲を規定するものでもない。その唯一の目的は、後に提示するより詳細な説明の前置きとして、簡易化した形態において本明細書に開示する一部の概念を提示することにある。
【0009】
一実施形態では、分析対象を検査または測定するための方法が開示される。各走査部分から出る出力ビームプロフィルが光電子増倍管(PMT)によって連続的に収集されるように、入射ビームが分析対象の複数の連続的な走査部分にわたって導かれる。走査部分は、一つ以上の第一の走査部分と、一つ以上の第一の走査部分の後に走査される次の走査部分とを含む。入射ビームが分析対象の一つ以上の第一の走査部分に導かれた後または導かれる間に、第一の走査部分のそれぞれについてPMTにより収集された出力ビームプロフィルに基づき、各第一の走査部分における出力信号が得られる。一つ以上の第一の走査部分のそれぞれについて得られた出力信号に基づき、次の走査部分における予期される出力ビームプロフィルが決定される。入射ビームが次の走査部分の方に導かれると、予期された出力ビームプロフィルに基づき、次の走査部分についてPMTに入力されるゲインが設定される。そのような次の走査部分におけるゲインの設定により、PMTにおける測定信号が、PMTまたはPMTから出る測定信号を受信する他のハードウェア部品の既定の仕様に入るようになる。
【0010】
具体的な実施では、一つ以上の第一の走査される部分のそれぞれは第一のダイを有し、次の走査部分は、各一つ以上の第一のダイとは異なる第二のダイを有する。別の実施では、一つ以上の第一の走査される部分のそれぞれは一つ以上の第一の走査線を有し、次の走査部分は、一つ以上の第一の走査線に隣接する第二の走査線を有する。さらなる態様では、一つ以上の第一の走査部分における出力信号も、そのような一つ以上の第一の走査部分における欠陥を検出するために解析される。別のさらなる態様では、入射ビームがその方に導かれる走査部分は、第一の次の走査部分に隣接する第二の次の走査部分をさらに含む。方法は、(i)入射ビームが分析対象の第一の次の走査部分に導かれた後または導かれる間に、そのような第一の次の走査部分についてPMTにより収集された出力ビームプロフィルに基づき、第一の次の走査部分における出力信号を取得することと、(ii)第一の次の走査部分について得られた出力信号に基づき、第二の次の走査部分における予期される出力ビームプロフィルを決定することと、(iii)入射ビームが第二の次の走査部分の方に導かれたときに、そのような第二の次の走査部分におけるゲインにより、PMTにおける測定信号が、PMTの既定の仕様に入るように、第二の次の走査部分における予期される出力ビームプロフィルに基づき、第二の次の走査部分についてPMTに入力されるゲインを設定することと、をさらに含む。さらなる態様では、第一および第二の次の走査部分についてPMTに入力されるゲインは、特定の周波数レンジに制限されて設定される。
【0011】
別の具体的な実装では、次の走査部分における予期される出力ビームプロフィルが、第一の走査部分のうちの最近走査された部分における出力ビームプロフィル、または一つ以上の第一の走査部分における出力ビームプロフィルの平均と略等しいと予測される。別の実施では、一つ以上の第一の走査部分が複数の第一の走査部分を有し、次の走査部分における予期される出力ビームプロフィルが、第一の走査部分全体におけるゲイン増加率または減少率と略等しい、第一の走査部分のうちの直前に走査された部分におけるゲイン増加率または減少率を有すると予測される。なおも別の実施例では、一つ以上の第一の走査部分が複数の第一の走査部分を有し、予期される出力ビームプロフィルが、第一の走査部分全体におけるゲイン増加率または減少率に比例する、第一の走査部分のうちの直前に走査された部分におけるゲイン増加率または減少率を有すると予測される。
【0012】
一実施形態では、ゲインのさらなる設定が、そのようなゲインが次の走査部分の走査に適合するように調節され、この設定ではゲインが、次の走査部分においてPMTにより出力された測定信号から生成された画像におけるアーチファクトを最小限にするような所定の値の範囲内に維持される。別の態様では、ゲインは、位相が互いに180度異なり、大きさが略等しい2つのゲイン信号をPMTに入力することにより、次の走査部分についてPMTに入力される。2つのゲイン信号のうちの一方は、PMTのダイノードの半分により受信され、2つのゲイン信号のうちの他方は、PMTのダイノードの残りの半分により受信される。
【0013】
代替的な実施形態では、本発明は、分析対象を検査または測定するためのシステムに関する。このシステムは、分析対象の方に導かれた入射ビームに反応してそのような分析対象から出た光を検出するための光電子増倍管(PMT)と、分析対象の複数の連続的な走査部分にわたって入射ビームを導くためのビーム発生器と、を備える。これらの配置では、各走査部分から出た出力ビームプロフィルがPMTによって連続的に収集される。走査部分は、一つ以上の第一の走査部分と、一つ以上の第一の走査部分の後に走査される次の走査部分とを含む。システムは、PMTおよび入射ビームが走査部分全体を走査したときにそのような各走査部分における応答信号を生成する一つ以上の検出部品を含む検出モジュールと、各走査部分における応答信号を検出モジュールから受信し、そのような応答信号に基づきPMTのゲインを設定するゲイン予測モジュールと、をさらに備える。分析対象の各走査部分のゲインの設定は、入射ビームにより最近走査された分析対象の一つ以上の以前の走査部分から生成された応答信号に基づいてそのような走査部分から出ると予期される光の予測に基づき行われる。
【0014】
具体的な態様では、各走査部分に入力されるゲインの設定は、そのようなゲインにより、PMTにおける測定信号が、PMTまたはPMTから出る測定信号を受信する検出モジュールまたはゲイン予測モジュールの他のハードウェア部品の既定の仕様に入るように行われる。さらなる態様では、システムは、各走査部分における応答信号を解析してそのような走査部分における欠陥を検出するためのプロセッサを含む。さらなる実施形態では、システムは、前述の方法工程の一つ以上を実施する。
【0015】
別の実施形態では、本発明は、検査または計測ツールに前述の方法工程の一つ以上を実行させるように設計された、コンピュータプログラム命令をその内部に保存する少なくとも一つのコンピュータ可読記憶媒体に関する。
【0016】
本発明のこれらの態様および他の態様を、図面を参照して以下に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る光学検査システムの図表示である。
図2】本発明の一実施形態に係る、図1の照射および収集チャネルの平面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る、ウエハ表面上のスポットの走査パスを示す詳細図である。
図4】本発明の一実施形態に係る高速対数光検出器システムを示す概略図である。
図5】本発明の具体的な実装に係る、図4のゲイン予測および調整モジュールの図表示である。
図6A】光学帯域幅が検出システムの能力を上回るときの、特定のPMTゲイン調整の解決法により生み出された結果を示す。
図6B】本発明の具体的な実装に係る、PMTゲインがウエハ構造の予備知識から決定された「開ループ」の解決法により生み出された結果を示す。
図7】本発明の一実施形態に係るゲイン予測および調整手順を例示するフローチャートである。
図8A】本発明の具体的な実施形態に係る光電子増倍管(PMT)におけるバイアス回路を示す概略図である。
図8B】本発明の一実施形態に係る、図8Aの正確に適合する電流源を示す概略図である。
図8C図4および図8Aの増幅回路の一実装を示す概略図である。
図9A】本発明の代替的な実施形態に係る、2つのゲイン入力を有する、光電子増倍管(PMT)におけるバイアス回路を示す概略図である。
図9B図9Aの2つのゲイン増幅回路の一実装を示す概略図である。
図10】本発明の第二の実施形態に係る、2つのPMTゲイン信号を出力する高速対数光検出器システムを示す概略図である。
図11】サーキュラケージ型のPMTの図表示である。
図12】陽極において収集された電子であって、プロットされ収集された電子(ゲイン)の最大数に対する変調電圧の比を示す。
図13】種々のダイノード変調方式における種々のベンチゲインデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の記述では、本発明の完全な理解を提供するために多数の具体的な詳細を説明する。本発明は、これらの具体的な詳細の一部またはすべてがなくても実践できる。他の事例では、本発明を不必要に曖昧にしないため、周知のプロセス操作は詳細には記載しない。本発明を具体的な実施形態とともに記載したが、本発明をそれらの実施形態に限定することを意図しないことが理解される。
【0019】
高速対数光検出器システムの特定の実施形態は、任意の適切な光学検査または計測システムに利用できる。一つの一般的な例では、システムは、重大な画像アーチファクトを生じることなく、半導体ウエハなどの試料から出るビーム(例えば、散乱光、反射光、または二次電子)から、強度値が比較的広いダイナミックレンジを迅速に検出するように構成される。検出された出力信号は、その後試料に欠陥が存在するか否かを決定するために解析できる。例えば、ターゲットダイからの強度値が、参照ダイの対応する一部からの強度値と比較される。ここで、重大な強度差がある箇所を、欠陥のある箇所として定めることができる。これらの検査システムは、以下に記載する新規の検出器機構によって、任意の適切な検査技術を実施できる。例えば、明視野および/または暗視野光学検査機構を利用できる。本発明の機構は、走査型電子顕微鏡システム内でも実施できる。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る光学システム100の図表示である。光学システムは、任意の適切な数の検出器または収集チャネルを含み、これらは半導体表面などの試料から放出された光を検出する。検出器または収集チャネルは、検査または計測用途の特定の要件に応じて任意の適切な位置に配置できる。図の実施形態では、2つの集光器チャネルの2つの群である110a,bおよび111a,bを使用する。これらは、一対の各集光器チャネルが走査線の両側に同じ方位角で位置付けられるように、ウエハ表面112の周囲に対称的に配置される。これらの方位集光器チャネルが散乱光を検出する。
【0021】
集光器チャネルからの出力は、その後プロセッサ101に送られ、そこでデータ分析および/または画像生成を行うことができる。各チャネルから送られたデータは、さまざまなアルゴリズムおよび論理演算、例えば、OR、ANDおよびXORの実行により比較できる。
【0022】
光学システムはビーム発生器(例えば、部品113,115,116,117)も含み、これは入射ビームを生成し、該ビームを試料の方に導く。図1に示すように、光源113が通常はレーザであるビーム114を放出する。ビーム114は偏向器前オプティクス115の方に導かれ、これは2分の1波長板、空間フィルタ、およびいくつかの円柱レンズを含んでもよい。これらはスキャナ116に適合する所望の偏向を持つ楕円ビームを作り出す。偏向器前オプティクス115は、適当な開口数を得るためにビーム114を広げるように構成できる。偏向器後オプティクス117は、いくつかの円柱レンズおよび空気スリットを含んでもよい。最終的に、ビーム114は、ウエハ表面112に焦点を合わされ、ウエハ表面112の平面を走査できる。装置に採用される偏向器の種類は、用途に応じ、多面鏡または検流計を含んでもよい。一実施形態では、偏向器116は音響光学偏向器である。ウエハ表面112は、平坦118でも、パターニング119されていてもよい。前述の集光器チャネル110a,bおよび111a,bに加えて、反射性および/または自動位置決めチャネル120、ならびに垂直集光器チャネル121を含む検出器チャネルが提供されてもよい。
【0023】
ビーム114の波長は、用途の特定の要件に応じて決まる。例えば、ビーム114は、約488nmの波長を有することができ、アルゴンイオンレーザなどの任意の適切な光源により生成できる。ビーム114の光軸148は、角度θでウエハ表面112に方向づけられ得る。この角度θは、用途に応じて、ウエハ表面112の垂直線に対して55〜85度の範囲などの任意の適切な角度でもよい。
【0024】
走査機構は、偏向器116およびウエハを上に載せる平行移動ステージ124を含むことができる。ステージ124上のウエハの位置は、任意の便利な方法、例えば、真空吸引により保持される。ステージ124は、表面112を125,126,127に示すような細長い領域に分割するように移動できる。ここでは、偏向器116を用いて細長い領域の幅にわたってビームを移動させる。
【0025】
図3を参照すると、ビーム114のグレージング角により、ウエハ表面112上に、特定の実施において走査線と直角の主軸を有する楕円スポット323を作り出せる。偏向器116は、細長い領域125の幅と長さが等しい短い走査線にわたって移動するスポット323で走査するように動作し、これにより鏡面的な反射光および散乱光を生成できる。スポット323により、ステージ124が走査線と直角にウエハを移動すると、指し示す方向に走査できる。この走査では、図3に示すように、スポット323が細長い領域125内を移動する。図の実施形態では、スポット323は、走査パス328により指し示す方向に走査される。走査パス328は、329に効果的な開始位置を有し、スポット323は、細長い領域125の境界331に到達するまで、開始位置から右に移動する。スポット323は、境界331に到達すると、走査方向と直角にステージ124に対して移動し、その後新しい開始位置330に位置し、走査線328と平行の走査線332に沿って移動する。偏向器116は、細長い領域125の全長に沿ったこの方法によりスポット323で走査し続ける。細長い領域125の走査が完了すると、ステージ124がウエハに対して移動し、隣接する細長い領域126の走査が可能になる。効果的な開始位置333は、細長い領域125を走査したときと反対の方向において各走査線と直角にステージ124を移動し、それによって蛇行性の走査を形成する位置である。これは走査パス334,355により示される。実質的に反対方向において隣接する細長い領域を走査するようにステージ124を移動することにより、1時間当たりに走査するウエハの数を増加しつつ、ステージの装置的な運動量を減らせる。
【0026】
図1および図2を参照すると、ウエハ表面112から散乱した光は、集光器チャネル110a,bおよび111a,bなどの一つ以上の検出器により検出できる。集光器チャネルは、チャネルのとりわけ仰角および方位角に応じて、固定された立体角にわたる光を収集するように設計できる。各収集チャネルの光軸は、表面112の垂直線に対して0〜90度の範囲の仰角Ψに位置できる。先に論じたように、集光器チャネル110a,110bは、走査線の両側にビーム114に対して同じ方位角で対称的に位置できる。集光器チャネル110a,110bは、横方向に散乱した光を収集するように、ビーム114に対して約75〜約105度の範囲の方位角Ψ1に位置できる。横方向に散乱した光は、ビーム114に対して約75〜約105度の範囲の方位角で散乱した光として定義され得る。集光器チャネル110a,110bと同様に、チャネル111a,111bも走査線の両側に同じ方位角に位置できる。しかしながら、チャネル111a,111bの方位角Ψ2は、前方に散乱した光を収集するように、30〜60度の範囲に位置できる。前方に散乱した光は、30〜60度の範囲の方位角で散乱した光として定義され得る。当然ながら、集光器チャネルの数および位置、ならびに/またはそれらの立体角での収集は、本発明の範囲から逸することなく、さまざまな代替的な実施形態において変更してもよい。
【0027】
明視野反射性および/または自動位置決めチャネル120は、鏡面的な反射光を収集するように、ビーム114の前に位置してもよい。このチャネルから生じた明視野信号は、パターン、反射性および高さの局所変化に関する情報を伝える。このチャネルは、表面上のさまざまな欠陥の検出に敏感である。例えば、明視野信号は、膜厚の変化、変色、汚れ、および誘電率の局所的な変化を表すのに敏感である。明視野信号は、そのエラー信号に応じて高さを調整するためにz−ステージに供給される、ウエハ高さの変化に対応する高さエラー信号を生成するのにも使用できる。最終的に、明視野信号は、表面の反射率マップを作図するのに使用できる。このチャネルは、照射ビームと反射ビームとが共線的でないような反射モードで動作する、展開されるType I共焦点顕微鏡として配置できる。あるいは、照射ビームと反射ビームとは共線的でもよい。
【0028】
垂直集光器チャネル121は、ウエハの平面と大体直角の領域の上方における、固定された立体角にわたる光を収集するように配置できる。立体角での収集以外に、垂直集光器の実施は、他の集光器チャネル110a,bおよび111a,bと同様でもよい。垂直集光器は、上方向に光を散乱する欠陥の検出に加えて、ウエハ上の意図的なパターンから出た散乱光を収集するようにも使用できる。意図的なパターンから収集された信号は、ウエハパターンの調節、および機器における装置的なステージの座標系へのそれの記録を促進するのに使用できる。
【0029】
集光器チャネルの一つ以上は、検出された出力信号のダイナミックレンジを増大するための高速対数光検出器機構を含む。これらの光検出器機構は、集光器チャネル110a,b、111a,bおよび121の一つ以上の内部に提供できる。概略的には、光検出器集光器は、検出した光子から信号を生成するための光電子増倍管(PMT)などの光センサと、その光信号をデジタル光信号に変換するアナログデジタル変換器(ADC)とを含む。当然ながら、光を検出して、アナログ信号をデジタル信号に変換する他の適切な機構を用いることができる。
【0030】
光検出器集光器は、PMTのゲインを自動的に調整するための機構も含む。PMTのゲインを自動的に調整するための一部の実施形態は、2004年12月21日に公表された米国特許第6,833,913号、および2001年1月23日に公表された米国特許第6,177,665号にさらに記載される。これらの特許は、それらの全体が参照により本明細書に援用される。一つの記載された手法では、集光器は高速フィードバックまたは制御ループ機構を含み、これらは陽極の最新の検出した信号強度に応じてPMTのゲインを連続的に調整する。陽極出力が高いときには、高強度の光信号がPMTに過剰供給されないように、制御ループはPMTゲインを低くする。反対に、陽極出力が低いときには、低強度の光信号の感度を増大するように、制御ループはPMTゲインを上げる。ゲイン情報は、陽極電流とは別々に得られる。2つのデータストリームをデジタル的に再び組み合わせて単一の光情報データストリームを構成する。
【0031】
基本的なゲイン調整技術により、検査システムは非常に大きい強度範囲にわたる光信号を受信可能になるが、そのような手法は、アナログゲイン制御ループに特有の時間遅延を生じることがある。信号が迅速に変化する状況では、制御ループの伝搬遅延は応答システムにも影響する。露出したウエハ上の点欠陥の極端な例では、このタイプのシステムは、信号の最も明るい部分が既に通過した後にのみ応答する。その結果システムは、高ゲインにおいて検査すべき領域におけるゲインを低くする。制御ループ手法では、特定の画素におけるPMTゲインは、システムにより最後に走査された前の画素の陽極電流の大きさに応じて決定される。ゲインは、同じ走査線における直前の過去に反応しているため、常に、実際の検出信号に遅れて変化する。
【0032】
光信号帯域幅がシステムの能力を上回る場合には、大きな陽極電流の逸脱により、再構成された信号にアーチファクトが引き起こされることがある。図6Aは、光学帯域幅が検出システムの能力を上回る例を示す。この例では、陽極電流出力602、ゲイン信号604、および再構成された(分析対象の)画像信号606が、時間(nS)に関してグラフに示される。より高い値がより高い光信号に対応するように、ゲインは実際の値に反比例する値がプロットされることに留意されたい。ゲイン信号604が陽極電流602に遅れた動きをすることが明らかである。ゲイン604は、ピークを過ぎ、陽極電流602が下がり始めた後も、(逆向きの上昇信号として図示するように)なおも下がり続ける。この遅れにより、対数増幅器の能力を超えた、陽極電流602におけるスルーレートが生じ、これにより再構成された信号606が、トレーリング側において非対称のテールを示す(図表においてラベルされた「画像アーチファクト」)。アーチファクトの画像は、「涙形状」であり、図6Aにも二次元画像として示す。また、光信号の最も明るい部分を測定すると、ゲインは(逆向きのゲイン信号604における逆向きの最小値として示す)最大値付近に留まる。この結果、最大40mAの非常に大きい陽極電流が生じ、この値は0.1mAの仕様を有するPMTに定格の、標準的な最大平均陽極電流を遥かに上回る。
【0033】
本発明の特定の実施形態は、一つ以上の以前の走査線からの測定値に基づき各走査線に必要なゲインを予測する技術を用いて、この涙形のアーチファクトを実質的に除去する。画像の空間分解能がレーザスポットの点広がり関数(PSF)により制限されることが観測された。例えば、あるタイプの検査ツールは、各走査線がスポットの全出力に対して即座には露出しない3と1/2走査線に同時に及ぶレーザスポットを有することができる。試料の明るい部分では、各走査した線に関して試料から出る検出される光は、スポットが試料の明るい部分の方に移動するにつれて徐々に増大する。つまり、一つの走査線は完全には暗くならず、その後次の隣接する線が完全に明るくなる。また、1/e2直径ごとの試料の数に換算される試料レートが、X方向とY方向とで同じであることも観測された。これらの観測は、測定されない画素のおおよその強度を予測する場合に、X方向における先の画素がy方向における先の画素と全く同じであることを意味する。先の走査線から集められた情報に基づき、特定の走査線におけるゲイン制御波形を構成することによって、ゲインの最小値が陽極電流の最大値に適合するように、タイムラグを実質的に解消できる。
【0034】
本発明の特定の実施形態は、以前の走査線を保存および解析し、次にゲイン制御波形を検出器(例えば、PMT)に送るためのデジタル的な実施、例えば高速デジタルアナログ変換器(DAC)による実施を含む。2つの一般的な実装は、閉ループ手法および開ループ手法を本明細書に記載する。これらの2つの手法は、複雑性および先の走査情報を保持するタイムスケールが互いに異なる。
【0035】
閉ループ手法は、一般的に、ダイからダイまたはウエハからウエハへの光信号の再現性について全く想定しない。この手法では、最近の先の走査線からの情報のみを用いて次の走査線の明るさを予測する。具体的には、以前の走査線を、未来のデータ(例えば、次の走査線におけるデータ)の強度範囲の予想に用いることができる。次に、この予測を用いて、受信対数増幅器の動作範囲の略中間に陽極電流を維持するための、「最高の」中間ゲイン制御波形を構成する。
【0036】
代替的な「開ループ」解決法では、ダイの明るさは、方策学習段階期間に得られる。次に、受信対数増幅器の動作範囲の略中間に陽極電流を維持するための、完全なダイにおけるゲイン波形が決定される。この同じゲイン波形または画像は、その後の全てのダイの検査に使用できる。結果として、ゲインの伝搬遅延はほとんど生じず、測定した結果から「涙形のアーチファクト」が実質的に除去される。実装では、「方策」ダイの明るさは、製造および測定効果がダイの明るさをシミュレートしてモデルされた設計データに基づき決定される。概して、特定のダイの明るさは、ダイ構造についての既存の知識(例えば、ダイを設計した実在物からの情報)から決定される。あるいは、ダイは、初期には最小ゲインで走査される。この代替的なプロセスでは、低信号を依然として有するダイエリアは、その後再度わずかに高いゲインで走査される。ダイ全体が走査されるまで、低信号を有し続けるダイエリアにおいて走査が繰り返される。このプロセスは遅いことがあるが、そのような設定プロセスは、方策設定期間に一度のみ行われるであろう。
【0037】
これらの2つの解決法の特定の実施形態は、ゲインを設定するためのデータ(以前の走査線またはウエハダイのいずれかからのデータ)の保存を含む。PMTのゲインを設定するために、計算されたゲイン値を、その後例えばDAC(デジタルアナログ変換器)により再生し、伝搬遅延をほとんど生じないように制御ループによりPMTに送ることができる。図6Bは、本発明の具体的な実装に係る、PMTゲインがウエハ構造の予備知識から決定された「開ループ」解決法により生み出された結果を示す。図6Bは、陽極電流652、逆向きのゲイン信号654、および「開ループ」の実施形態から得られた再構成された信号656のグラフを含む。図表からゲインの伝搬遅延がほとんど生じず、画像658に示すように「涙形」のアーチファクトが除去されたことが明らかである。
【0038】
閉ループ手法を再度参照すると、図4は、本発明の一実施形態に係る、高速対数光検出器システム400を示す概略図である。図示のように、システム200は、検出ブロック450、ゲイン調整ブロック451、および欠陥プロセッサブロック412を含む。任意の適切なタイプおよび数の装置を、そのようなシステム400のブロックの実装に利用できる。これらのブロックは、単一装置に統合されてもよいし、複数の装置でもよい。例示の機構を以下にさらに記載する。
【0039】
検出ブロック450は、概して、試料から出た光を検出し、そのような検出した光に基づき応答信号を生成する。検出ブロック450は、ゲイン調整ブロック451によりセンサに入力されたゲインも検出し、そのような検出したゲインに基づきゲイン信号も生成する。検出ブロック450は、応答信号とゲイン信号とを組み合わせた信号を、ゲイン調整ブロック451および欠陥プロセッサブロック412に出力するようにも構成される。
【0040】
ゲイン調整モジュール451は、概して、ゲイン信号と応答信号とを組み合わせた信号を受信し、一つ以上の走査した線におけるそのような組み合わせの信号を保存し、次に保存した信号に基づき試料の特定の次の走査線に対するゲインを予測する。このゲイン予測は、その後、特定の走査線における、センサへのゲインを調整するのに使用される。ゲインは、増幅器464により受信され、増幅器464はゲインを増幅し、検出モジュール450のセンサ401に出力する。欠陥プロセッサ412は、通常、検出した信号を解析し、試料に欠陥があるか否かを決定する。
【0041】
検出ブロック450は、試料から出て収集された光、およびセンサまたはPMTに加えられるゲイン414の両方に対応する信号を生成する任意の適切な方法で実装され得る。図示のように、検出ブロック450は、ゲイン調整モジュール451の制御電圧増幅器464から送られたPMTゲイン信号414を受信する光電子増倍管(PMT)401の形態のセンサを含む。PMT401は、そこに衝突した光を測定信号468、例えば、光強度に比例する電流値に変換する。この測定信号468は、対数増幅器482に送ることができる。適切なPMTは、サーキュラケージ型のPMT、金属チャネル光電子増倍管などを含む。
【0042】
対数増幅器482は、PMT401の陽極電流の対数である信号を生成するように設計できる。任意の適切な基準値が対数増幅器482により利用され得る。一実装では、対数増幅器482は、40進(four-decade)対数増幅器(例えば、フロリダ州ロングウッドのAnalog Modules,Incから入手可能なモデル382対数増幅器)である。
【0043】
検出ブロック450は線形増幅器490も含むことができる。これは、ゲイン調整ブロック451により生成されたゲイン信号414を受信し、そのようなゲイン信号を検出ADC404およびPMT応答ルックアップテーブル(LUT)408を介してゲイン調整ブロック451にフィードバックする。
【0044】
概して、線形増幅器490および対数増幅器482の出力は、例えば、PMT401の実際のゲイン特性を計上するための、検出した信号およびゲインの理想対数表現にデジタル化および変換できる。この値は、標準的な応答曲線とは異なり、または対数増幅器482における誤差、もしくはPMTそれ自体などの他の箇所に生じる電流依存の誤差を原因として理想の値とは異なる。図の実施形態では、線形増幅器490および対数増幅器482の出力は、それぞれ、検出ADC404および電流ADC402により別々にデジタル化される。
【0045】
検出ADC404および電流ADC406の出力は、それぞれ、プログラム可能なPMT応答LUT408およびログアンプ応答LUT406に問い合わせを行うのに使用できる。LUT408,406は、各々、増幅器490,482の出力をゲイン452および陽極電流454の理想対数表現に変換する一般の較正を完全に実施するのに使用できる。これらは共通の既定の原理を有する。
【0046】
LUT406および408は、回路またはPMTにおける任意のオフセット、ゲイン誤差、または高次非線形を排除するように、本発明の個々の特定の実施形態に応じて経験的に決定できる。使用する特定のタイプのPMTの実際のゲイン特性に応じて、対数増幅器または指数法則(例えば、平方根、立方根など)などの一部の他の非線形伝達関数を持つ増幅器を、本発明の本質を変えることなく、増幅器490と置き換えることができる。
【0047】
次に、ゲイン信号452をPMT出力または電流信号454から減ずることにより、その後ゲイン調整モジュール451に入力される出力信号488を生じることができる。出力信号(例えば、測定信号468から減じたゲイン)も、欠陥(例えば、画像)プロセッサ412に入力できる。欠陥プロセッサ412は、バッファリング、圧縮、パッキング、ノイズフィルタリングなどにより受信データを処理し、入力信号に基づき画像を生成し、画像を解析して試料における欠陥を検出するなどの機構を含むことができる。大多数の欠陥の発見は、閾値よりはむしろ、互いの強度の差異として規定された、ターゲットおよび参照ダイにおける強度の比として規定された対比を検出することにより行うことができる。しかしながら、従来の検査システムでは、強度の比の決定に伴う計算コストが高い。対数表現を用いることにより、強度比の対数を得るための対数強度の差異を(例えば、プロセッサ412により)簡単に取得できる。次に線形比における所望の閾値に相当する閾値を値として対数比に適用することにより、欠陥があるか否かを決定できる。
【0048】
ゲイン調整部は、任意の適切な方法で実施できる。図5は、本発明の具体的な実装に係る、図4のゲイン予測および調整モジュール470の図表示である。図5に示すように、(PMTから送られたデジタル化された出力信号から、デジタル化されたゲイン信号を引いた、)電流応答信号とゲイン信号とを組み合わせた信号は、複数走査線バッファ502により受信され得る。ただし、バッファは、最後に走査された単一線のみに関わる組み合わせの信号を保持するようにも構成できる。バッファ502は、検査ツールにより走査される次回の線の直前に走査された1本以上の走査線を保持するように構成できる。
【0049】
バッファされた一つ以上の以前の走査線は、その後次の走査線に対するゲイン値を決定するゲイン予測モジュール504により受信され得る。このゲイン値は、リミッタでもあるルックアップテーブル(LUT)506にも入力され得る。これは、ゲインをさらに受信および/または処理するデジタルアナログ変換器(DAC)466などの他の信号処理ハードウェア部品の許容値内にゲイン値を確保する。例えば、LUT506は、ゲイン波形を処理ハードウェアの最小および最大限度内に確実に維持するように構成される。特定のゲイン制限を有し得るハードウェアは、DAC466を含む。つまり、LUT506は、ゲイン値をDAC466が読み出しできる形態に隠す。例証として、12ビットDACは、0〜4096の値のみを読み出しできる。例えば、DAC466が生成できない高ゲイン値は、DAC466から出力できるアナログゲイン範囲の最高値を生成するように、LUT506によりDAC466が読み出し可能な最大範囲の値に変換され得る。
【0050】
LUT506の出力は、マルチプレクサ508にも入力され得る。これは、出力信号を乗算するための他の入力を受信するようにも構成できる。具体的な実装では、MUX508は、デバッグモジュール510からのデバッグ信号を受信するように設計される。これは、デバッグ入力値を繰り返し増加させることにより、DAC466をデバッグするように構成され得る。制御レジスタ511が、MUX508がデバッグゲイン信号510または予測されたゲイン信号を出力するか否かを制御するように構成され得る。
【0051】
ゲイン信号は、ゲインLPF(低域フィルタ)512にも受信され得る。これは、ゲイン信号の周波数を特定の周波数レンジ、例えば、25MHz以下に制限することにより、例えば、誘導電流を最小化する。例証として、高周波のゲイン信号により、システムにおける望ましくないアーチファクトを招く高い誘導電流が生成されることがある。したがって、LPF512は、望ましくないアーチファクトを生み出さない周波数の高さに関する実験に基づき、ゲイン信号を特定の最大周波数未満に制限するように選択できる。
【0052】
ゲイン信号はゲイン遅延モジュール514にも受信され得る。これは、次の走査線に適合するようにゲイン信号の出力を調節する。例証として、ゲイン信号を通す配線および回路は、ゲイン信号を過度に早くPMTに出力することがある。それに応じて、次の走査線が検査ツールにより走査されている時にそのような次の走査線に対するゲインがPMTに加えられるように、次の走査線が走査されている時に基づきゲイン信号を遅延させることができる。例証として、次の走査線の第一の画素に関わるゲインは、以前の走査線の第一の画素に基づき予測されたゲインに設定され、次の走査線の第二の画素に関わるゲインなどは、以前の走査線の第二の画素に基づき予測されたゲインなどに設定される。
【0053】
ゲイン信号は、検出された応答信号と共に、PMT保護モジュール516にも入力され得、これはゲイン信号がPMTに損害を確実に与えないようにする。例証として、検出された光信号(例えば、検出されたPMT電流)が過度に高い場合には、ゲイン信号は、PMTを保護するようにクランプされ得る。
【0054】
一つの実装例では、次の走査線における応答は、以前の1本以上の走査線の応答と同じであると予測できる。2本以上の走査線を使用する場合には、複数の走査線(例えば、3本の走査線)からの応答を、次の走査線における応答を予測するために共に平均化できる。その後次の走査線に対するゲインを、結果生じる応答を指定範囲内の応答値に維持するように設定できる。具体的な例では、ダイノード電圧が約25V(±12.5V)だけ調整される場合には、ゲインは、約3.5桁分変化させることができる。
【0055】
次の走査線に対するゲインは、任意の適切な技術またはメカニズムを用いて予測および設定できる。図7は、本発明の一実施形態に係る、ゲイン予測および調整手順を例示するフローチャート700である。最初に、工程702において、試料の一組の一つ以上の第一の走査線の各々にわたり入射ビームで走査し、同時に特定のゲインを検査ツールの光電子増倍管(PMT)に入力する。工程704において、入射ビームが第一の走査線の各々にわたり走査した後または走査している間に、各第一の走査線からの、PMTにより収集された出力ビームプロフィル、および各第一の走査線に入力された特定のゲインに基づき、各第一の走査線における出力信号を取得する。例証として、各第一の走査線が入射ビームで走査されるときに、検査ツールのセンサが、光を収集し、そのような収集した光を測定信号に変換する。次にシステムの他の部品が、そのような測定信号を、そのような第一の走査線に関わる(特定のゲインを引いた)デジタル化された出力信号に変換する。工程706において、各第一の走査線における出力信号を、後のゲイン予測期間に使用するようにバッファおよび保存できる。
【0056】
工程708において、一つ以上の第一の走査線における出力信号に基づき、次に、次の走査線から収集される予期される出力ビームプロフィルを決定できる。例えば、予期される出力ビームプロフィルは、一つ以上の第一の走査線における出力ビームプロフィルと略等しいか、一つ以上の第一の走査線におけるゲイン増加率または減少率と略等しいゲイン増加率または減少率を有するものとして推測できる。工程710において、次の走査線における予期された出力ビームプロフィルをその後使用して、PMTにおける測定信号が、PMTの既定の仕様に入るように、次の走査線に対するゲインを決定および調整できる。示さないが、このプロセス700は、試料の任意の数の走査線(例えば、すべてまたはかなりの部分)において恐らく繰り返される。
【0057】
次の走査線の各部分に関して決定されたゲインに応じた、次の走査線に対するゲイン波形が生じる。各部分のゲインの調整は、センサまたはPMTの既定値の測定された信号(例えば、陽極電流)を保持するように行うことができる。センサ用の高い定値に対する低い定値を選択するためのトレードオフが存在する。例えば、定値を過度に低く設定すると、陽極電流を読み込む増幅器(例えば、対数増幅器482)の動作が非常に遅くなることがある。しかしながら、陽極電流を過度に低く設定すると、ノイズよりも過度に大きくなることがある。また、次の走査線に対するゲインの調整は、帯域幅を減らすことにより本明細書に記載するようなアーチファクトを最小限にするように行うことができる。ゲインの調整はまた、DAC466が読み出し可能な形態などの、ハードウェアシステムの制限を考慮しても行うことができる。ゲインは、例えば、DAC、ケーブルおよび光路の伝搬遅延を考慮して遅延させることもできる。
【0058】
実装では、次の走査における光の予期される値は、以前の走査から出た光の測定値と等しいと推測される。
Light(x,y)=Light(x−1,y) 式[1]
【0059】
式[1]において、試料は、y方向の高速掃引においてビームにより走査され、その後x方向の低速掃引においてビームに対して移動する。つまり、各走査線のx位置は同じである。しかしながら、試料の表面は任意の適切な方向に走査してもよい。概して、試料の第一の部分を走査し、その後試料の第二の部分を走査する。第二の部分におけるゲインは、以前に走査された第一の部分から出た光の測定値に基づき予測できる。
【0060】
複数の以前の走査線に基づくさまざまな外挿法も採用できる。直近の2本の走査線の、対数領域における幾何学的な線形外挿法では、次の走査線における予期される光は、以下の式により決定される。
Light(x,y)=Light(x−1,y)+(Light(x−1,y)−Light(x−2,y)) 式[2]
【0061】
この幾何学的な線形外挿法では、直近の2本の走査線間の差異を直近の走査線の光の値に追加して、ある線と他の線との間の増大分を得る。例えば、光が徐々に増大する場合には、次の走査線も直近の2本の走査線間の増大分と同じ量だけ増大すると推測され得る。
【0062】
代替的な幾何学的な部分的線形外挿法では、その外挿法が、光強度の増大および減少が幾何学的な線形外挿法よりもより少ない(または多い)という予期に従いバイアスされ得る。
Light(x,y)=Light(x−1,y)+α(Light(x−1,y)−Light(x−2,y)) 式[3]
【0063】
式[1]および[2]は、それぞれ、α=0および1である式[3]の幾何学的な部分的線形外挿法の特別な事例と見なすことができる。加重値αの選択は、走査線間のウエハの光強度が変化する速度の決定に応じて行うことができる。光強度が徐々に変化する場合には、ゼロに近い値を選択することができる。反対に、ウエハの光強度が迅速に変化する場合には、1に近い値を用いることにより、変化する光強度に遅れないことができる。
【0064】
図8Aは、本発明の具体的な実施形態に係る、光電子増倍管(PMT)におけるバイアス回路を示す概略図である。図示のように、例えば、10個のダイノードが取り付けられた、日本国浜松市のHamamatsu Corporationから入手可能な描写するPMT10が図示されているが、当業者は、別の製造業者が製造するPMT、または種々の数のダイノードを有するものに本発明を容易に適合させることができることを理解するであろう。
【0065】
この図の実施形態では、PMT10は、2つの別個のバイアスストリング16,18を駆動する2つの対等の定電流源12,14によりバイアスされる。バイアスストリングの一方は調整可能であり、他方は固定値の一組のダイノードである。偶数で番号付けされたダイノードD2,D4,D6,D8、D10およびD12に関わるバイアスツェナーダイオードストリング16は、直列接続されたツェナーダイオード30,32,34,36,37,38,40を含む。これらは定電流源12により駆動され、接地として参照される。これらのツェナーダイオードの定格電圧は、例えば、それぞれ、200V、100V、100V、100V、50V、50Vおよび50Vでもよい。
【0066】
偶数で番号付けされたダイノードD1、D3、D5および48に関わる他方のバイアスツェナーダイオードストリング18は、直列接続されたツェナーダイオード52,54,56,58,60を含む。これらは定電流源14により駆動される。バイアスツェナーダイオードストリング18は、増幅器464の出力における高速可変電圧源Vctrlを参照できる。これらのツェナーダイオードの定格電圧は、例えば、それぞれ、150V、100V、100V、100Vおよび125Vでもよい。Vctrlは急速に変動し得るが、バイアスストリングを駆動する定電流源には、動作させるための唯一の一定のDC電圧が必要となる。
【0067】
ツェナーダイオード30,40,52,60の値は、通常、隣接するダイノード間の電圧が陰極66における電圧よりも減少するように、隣接するダイノード間の電圧をオフセットするように選択することができる。さらに、VctrlがダイノードD12における電圧の1.5倍と等しい場合には、この電圧はVmax、最大ゲイン制御電圧と呼ばれる。
【0068】
2つのバイアスツェナーダイオードストリングの各々内のダイノード間電圧が一定であるため、コンデンサ70を、ツェナーダイオード52以外のすべてのバイアスツェナーダイオードと並列に設置することにより、バイアスストリングの動作インピーダンスを低くすることができる。これらのコンデンサは、本明細書に開示するゲイン制御回路の速度に影響を及ぼすことなく、適宜大きく(例えば、0.1μF)することができる。
【0069】
VctrlがVmaxと等しいとき、PMT10はその最大ゲインで動作する。Vctrlの負の値が大きくなると、ダイノード間電圧は、従来のバイアス回路におけるそれらの従来の値よりも大きくなり、小さくなることを繰り返してもよい。例えば、Vctrlの負の値が大きくなると、ダイノードD7とダイノードD8との間の電位は減少し、一方で、ダイノードD7とダイノードD6との間の電位は増大する。このため、各ダイノードにおけるゲインは、交互に増大または減少する。しかしながら、ゲインの増減速度は、奇数ダイノードにおける増大よりも、偶数ダイノードにおける減少がより速い。結果として、全体のPMTゲインが減少する。
【0070】
VctrlがダイノードD12にかかる電圧の0.5倍に近づくと、一対の奇数ダイノードおよび偶数ダイノードが互いに同じ電圧に近づき、管全体のゲインが最小になる。この電圧をVminと呼ぶ。VctrlがVminに近づくと、2つのバイアスストリングシステムにおける部品の不一致に起因して、システムの正確性が下がる。しかしながら、回路は、信号をなおも減衰し続ける。これにより、過負荷電流が停止したときに、高速回復により過負荷保護を作ることが可能になる。
【0071】
2つのバイアスストリングを駆動する図8Aの厳密に一致した電流源12,14は、各々、任意の適切な方法で実施できる。図8Bは、2つの一定電圧電源である高電圧(HV)電源802および低電圧(LV)電源804のみを使用する電流源回路を示す。従来のバイアスされたPMTを使用する電源とは異なり、HV電源は、電流源が直列調整器の機能を果たすため、特に安定的でなくてもよい。高電圧電源802は、カリフォルニア州サッタークリークのEMCO High Voltageから入手可能なModel E06などの市販されている高電圧電源でもよい。低電圧電源802は、マサチューセッツ州マンスフィールド のDATELから入手可能なModel UWR−12/250−D12などの、高い分離電圧を持つ市販されている12V DC−DC変換器でもよい。電圧調整器806は、9ボルトの調整電圧を供給する標準的な3端子線形電圧調整器でもよい。電圧調整器808は、4.096ボルトの電圧基準を提供する精密な3端子電圧基準のものでもよい。図8Bの残りの回路素子に電力を供給するために、通信線810,812,814が使用される。高圧電源802が、電流源に通じる通信線810に高電圧の「浮動」接地であるHVFGNDを形成する。低圧電源804および電圧調整器806,808が、この浮動接地として参照され、電流源に使用される通信線812に4.096Vの基準電圧を生成し、通信線814に9ボルト電源を生成する。
【0072】
増幅器816は、適度な速度、低オフセットの演算増幅器でもよく、MOSトランジスタ818は、高電圧低容量N−チャネルMOSFETでもよい。任意の適切な代替的なものが、Linear Technology、Analog Devices、Texas Instruments、Diodes Inc.などを含む多数の製造業者から入手可能である。
【0073】
レジスタ820は、正確に3000オームの、0.1%レジスタ(Panasonic)の形態であり、普通の1%の150オームレジスタであるレジスタ822に追加されてもよい。一実施形態では、増幅器816が、MOSトランジスタ818のゲートにおける電圧を調整し、HVFGNDに至る3150オームのレジスタ822,820の組み合わせにわたり、一定の4.096ボルトを保持する。これにより正確な1300mAの電流が、MOSトランジスタ818を流れる。MOSトランジスタ818のゲートが絶縁されているため、すべての電流がMOSトランジスタ818のドレインにおいて負荷から出る。
【0074】
レジスタ824,826およびコンデンサ828は、標準の設計実践に従い、部品における非理想的動作を是正するように使用される。レジスタ824は、図の実施形態では約50オームの値を有し得、増幅器816をMOSトランジスタ818のゲート静電容量から絶縁する。レジスタ826は、示す実施形態では約3160オームの値を有し得、増幅器816の入力バイアス電流を補正する。コンデンサ828は、示す実施形態では約1μFの値を有し得、減結合コンデンサである。
【0075】
図の実施形態では、図8Aの高電圧増幅器464は、約35のゲインを持つ高速線形増幅器である。図8Cは、図4および図8Aの増幅回路464の一実装を示す概略図である。図8Cの増幅回路は、3つの電源および1つの電圧基準(図示せず)を使用する。これらの名目出力電圧は、それぞれ、+5V、+2.50V、−5Vおよび−100Vである。出力は高電圧MOSトランジスタ192,194により駆動され、これらは高ゲインを持ち、共通ソース構成で配線される。ドレイン容量を最小限にするために、出力の通常動作範囲は、約−25V〜−75Vの範囲に制限される。増幅器196は、MOSトランジスタ192を直接制御するが、MOSトランジスタ194については高周波数部分のみを制御する。MOSトランジスタ194のDC成分は、トランジスタ130およびレジスタ132を通して増幅器198により制御される。増幅器198は、MOSトランジスタ194のバイアスを能動的に調整して、MOSトランジスタ192における一定のソース電流を保持する。トランジスタ192における一定のソース電流が負荷に供給される最大に可能な電流よりもわずかに多くなるように回路を構成することにより、確実に、トランジスタ194が常にわずかに順方向にバイアスされる。
【0076】
図8Cの回路の動作範囲の制限、およびアクティブバイアスの使用により、MOSトランジスタ192およびMOSトランジスタ194のいずれも、確実に、決して飽和状態にならず、完全に停止することもない。これにより非常に高速の増幅器を製造することが可能になる。
【0077】
アクティブバイアス回路の使用では、電源電圧の変化を注意深く追跡し、そして任意のMOSトランジスタの閾値電圧の変化を自動的に補正することにより、電力消費を最小限にする。従来のバイアス方式を使用する場合には、システムは、成分値と電源電圧との最悪の組み合わせを考慮して設計する必要があったであろう。これは、通常動作下では、電力消費が著しく大きいであろうことを意味する。
【0078】
レジスタ134,156が増幅器のDCゲインを設定し、一方で、コンデンサ135および137は、高周波において同じゲイン値を保持しつつ、フィードバックネットワークのインピーダンスを減少するように選択できる。レジスタ138が、増幅器196への入力バイアス電流を補正する。レジスタ140が、MOSトランジスタ192のDCバイアス電流を検出する。レジスタ142,144が、トランジスタ192のバイアス電流の設定に使用する基準電圧を設定する。レジスタ146が、コンデンサ148とともに、バイアス増幅器198の帯域幅を制限する。レジスタ132が、MOSトランジスタ194のゲートをMOSトランジスタ130の出力キャパシタンスから絶縁する。レジスタ150は、プルアップレジスタであり、コンデンサ152の充電を維持する。レジスタ154,156が、発振を防ぐようにバイアス増幅器198のループゲインを制限する。
【0079】
コンデンサ148,158は、図の実施形態では、それぞれ0.1μFおよび30pFの値を有し、安定性に要求される帯域幅制限帰還コンデンサである。コンデンサ152は、図の実施形態では0.1μFの公称値を有し、たとえ増幅器196の最大±5Vの動作範囲を超えても、増幅器196にMOSトランジスタ194を制御させるのに必要なDC阻止コンデンサである。コンデンサ160,162,164,166,168,170,172は、すべてバイパスコンデンサであり、図の実施形態では0.1μFの公称値を有する。
【0080】
図4図5および図8A図8Cに図の実施形態では、単一のゲイン入力を利用してPMTを制御する。代替的な実施形態では、2つのゲイン入力を用いてPMTを制御する。図9Aは、本発明の代替的な実施形態に係る、2つのゲイン入力を有する、光電子増倍管(PMT)におけるバイアス回路を示す概略図である。図示のように、2つの入力は、増幅器902aに入力するゲイン制御偶数信号、および増幅器902bに入力するゲイン制御奇数信号を含む。具体的な実装では、これらの2つの入力は、反対方向である2組のPMT10のダイノードの調整に使用できる。図示のように、一方の組のダイノードは、奇数で番号付けされたダイノードD1,D3,D5,D7であり、他方の組のダイノードは、偶数で番号付けされたダイノードD2,D4,D6,D8である。偶数で番号付けされたダイノードは、定電流源i1により駆動される偶数バイアスストリング918によりバイアスされ、奇数で番号付けされたダイノードは、定電流源i2により駆動される奇数バイアスストリング916によりバイアスされる。示すようなバイアスストリング918は、接地とも参照される。図8Bの電流源回路などの任意の適切な電流源を使用できる。
【0081】
増幅器902a,902bは、実質的に整合されており、35MHzまで均一の性能、および最小の高調波ひずみを有し得る。測定および数値モデリングにより、信号をゲイン制御偶数信号=(−1)×ゲイン制御奇数信号に印加したときに最適性能を達成できる(PMT帯域幅がゲインと無関係であり、PMTゲインを3.5桁分にわたり変化できる)ことが示された。
【0082】
各バイアスストリングにおけるレジスタおよびコンデンサの値の選択は、バイアス電流が各ダイノードにおける電子増倍電流よりも遥かに大きくなるように行うことができる。この選択をしないと、ダイノード電圧が変化し、これは安定的なPMT性能にとって望ましくない。図示のように、各レジスタR1〜R4,R7,R8の値は、60kΩであり、各コンデンサC1〜C8の値は約0.001uFである。コンデンサC9の値は、約1uFでもよい。
【0083】
レジスタR5およびR10の値は、最適ゲイン範囲および帯域幅を提供するように選択できる。一実装では、R5は約70kΩであり、R10は約130kΩである。R13、R14およびC10の値の選択は、電流を陽極回路に注入して、ゲイン制御信号により駆動されるD1〜D8における電圧の変調により陽極回路に誘導される電流を補正するように行うことができる。例えば、R13の値は1kΩであり、R14の値は1GΩであり、C10の値は0.2pFである。
【0084】
ゲイン制御増幅器の一つは、(例えば、コンデンサC10、ならびにレジスタR13,R14への)電荷注入を補正する回路を直接駆動するように構成できる。奇数ダイノードと陽極との間の容量結合が、偶数ダイノードと陽極との間の結合よりも大きくなり得るため、電荷注入を補正する回路は、ゲイン制御偶数信号により駆動される。陽極への到達時間を陽極に注入される電流の約1ナノ秒以内に間に合わすため、信号経路に固定遅延(例えば、遅延904,906,910)を挿入してもよい。この遅延の原因には、D2,D4,D6,D8の変調、1ナノ秒以内にゲイン補正回路により注入される電流、ならびにD1,D3,D5,D7の変調に従い陽極に注入される電流がある。例えば、遅延増幅器904,906,910は、ゲイン制御偶数信号がゲイン制御奇数信号と180度の位相の不一致であるときに、両方のゲイン制御信号により陽極A内に注入される残留電流を最小限するように構成できる。
【0085】
PMTゲイン制御の調整は、ゲイン変調に関連する任意の注入した陽極電流を無効である0.1uA未満にするように2段階で行うことができる。180度の位相差を持つ2つの25MHz信号を、ゲイン制御奇数信号経路およびゲイン制御偶数信号経路に注入できる。これらの経路は、それぞれ、略3桁分の範囲にわたってゲインを調整するのに十分な大きさを有する。レジスタR14の調整可能な値は繰り返し調整でき、そしてそれに伴うゲイン制御奇数信号とゲイン制御偶数信号との間の位相差を、両方のゲイン制御信号が互いに約180度の位相の不一致になるまで繰り返し調整できる。R14のこの調整は、PMT制御盤の製造時に行うことができる。
【0086】
図9Bは、図9Aの2つのゲイン増幅回路902a,902bの一実装を示す概略図である。図示のように、入力信号Vin1が増幅器U13に入力される。レジスタR62〜R67、コンデンサC42およびC43、ならびに誘導子L1の例示的な値を図9Bに示す。この実施形態では、レジスタR62,R63が、そのような増幅器U13のフィードバック経路に電流制御を提供できる。レジスタR64とR65配置の中間、コンデンサC42とC43配置の中間、そして誘導子L1が、第一の増幅器U13と第二の増幅器U12との間に低域フィルタを提供する。レジスタR66およびR67が、最終の(偶数または奇数の)ゲイン制御信号を出力する増幅器U12のゲインを設定する。電圧電源VPHVおよびVMHVが、各々、2つの増幅器U12およびU13に提供され、±15Vの値に設定され得る。増幅器U12およびU13として使用できる例示の部品は、テキサス州ダラスのTexas Instrumentsから入手可能なTHS3091である。
【0087】
図10は、本発明の第二の実施形態に係る、2つのPMTゲイン信号を出力する高速対数光検出器システム1000を示す概略図である。図示のように、検出器システム1000は、PMT偶数ゲイン信号を出力する偶数信号経路1001a、およびPMT奇数ゲイン信号を出力する奇数信号経路1001bの両方に流すゲイン予測データ1002を受信する。ゲイン予測データ1002は、以前の走査線から検出した信号に基づき予測された、次の走査線に使用されるゲインを含むことができる。予測ゲインは、前述のように決定できる。
【0088】
偶数経路1001aでは、乗算器1012が、ゲイン予測データ1002を受信し、ゲイン制御信号1010に基づきそれを増幅(または、減少)および反転するように設計される。乗算器1012は、ゲイン変調に起因する注入した陽極電流の無効化を促進するように、ゲイン制御信号1010に基づきゲイン予測データ1002をわずかに増幅するように設計できる。
【0089】
PMT奇数および偶数ゲイン信号を出力する前に、PMTにおける誘導電流を最小限にするように、両方のゲイン予測信号が低域フィルタ(LPF1およびLPF2)に受信される。ゲイン予測アルゴリズムは、非常に速く変化するゲインを予測できる。しかしながら、ゲインが過度に速く調整されると、大きな誘導電流がPMTに誘導され、検出されるPMT信号にアーチファクトが生じることがある。
【0090】
低域フィルタリングの実行後、奇数ダイノードのゲイン予測信号が奇数DAC1008に直接入力され、その後増幅器902bを介して奇数ダイノードに向けて送られ得る。対照的に、偶数ゲイン信号は、誘導電流を最小限にするようにわずかに調整され得る。偶数ダイノードと陽極との間の結合は、奇数ダイノードと陽極との間の結合とわずかに相違する傾向がある。両方の組のダイノードが同じ信号(互いに対して単に反転した信号)を受信した場合には、両方の組のダイノードからの陽極における誘導電流は、(誘導電流がその結合に比例して)厳密には相殺されないであろう。乗算器1012に入力されるゲイン制御信号は、偶数ダイノード信号を増加または低下させるように選択できる。遅延モジュール1016は、偶数ダイノード信号の時間をわずかにずらすことにより、2組のダイノードの誘導電流が厳密に相殺されるように構成できる。偶数ダイノードに関わる結合と奇数ダイノードに関わる結合とが等しい場合には、同じ(反転した)信号が各々のダイノードの組に送られ、ゲイン制御信号1010および遅延モジュール1016を取り除くことができる。
【0091】
LPFIおよびLPF2は、ゲイン制御増幅器902a,902bの非理想性を補正するような任意の適切な方法(例えば、ファームウェア)で実施できる。運転中定期的(例えば、20分毎)に、ゲイン制御信号1010および遅延モジュール1016は、ゲイン変調に起因する注入した陽極電流を無効にするように再較正できる。好ましくは、ゲインの適合は、約0.1%に保持され、遅延調整は、約20ピコ秒の決定に従い設定される。この再較正には数ミリ秒しかかからず、PMTが待機状態であるときに作動できる。要するに、この再較正は、長期にわたるPMTダイノード容量の差異の動向、PMTゲイン制御増幅器902a,902bのゲインの動向、ならびにPMTダイノードの時間遅延を是正するように構成できる。
【0092】
任意の適切な種類のPMTを利用できる。一例えば、基本的な手法を、「線形集束」形状またはサーキュラケージ形状などのさまざまな種類のPMT形状にも応用できる。図11は、サーキュラケージ型のPMT1100の図表示である。PMT動作のこの単純な例では、方向1104において受信され検出された光は、反射型光電陰極1102に反射され得、この反射により次に光電子がダイノード1106に反射する。
【0093】
製品のPMTでは、光電陰極、ダイノードおよび陽極の配置は、製造業者が規定するような標準動作条件下でPMT帯域幅を最大にするように設計できる。本発明の特定の実施形態では、PMTは、PMTゲインが減少してもPMT帯域幅が依然として高くなるように動作する。
【0094】
従来のバイアスされたPMTでは、電子は、一般に光電陰極から生じ、その後ほとんどの電子が、最終的に陽極に収集される。しかしながら、PMTのダイノードを前述のように調整すると、電子トレースは劇的に変化する。すなわち、より多くの電子がダイノードの表面に当たらず、故に陽極に到達する前に尽き果て、PMTのゲインを低くするように働く。
【0095】
図12は、陽極において収集された電子であって、プロットされ収集された電子(ゲイン)の最大数に対する変調電圧の比を示す。点線の縦の黒線は、最小の電圧変調においてゲインが最大変化した、ダイノード変調に関わる対象となる領域を示す。図示のように、電子光学シミュレーションに基づく実線の曲線1202が得られ、ベンチデータから一点鎖線の曲線1204が得られ、ゲインの算出により点線の曲線1106が得られる。この曲線は、ダイノードに当たらない電子によるゲイン損失がないことが仮定される(米国特許第6,177,665号に記載される二次電子放出原理のみを使用する)。見てわかるように、ゲイン低減のほとんどは、ダイノード電圧の変化に起因する二次電子放出特性の変化ではなく(曲線1106は、米国特許第6,177,665号に記載するゲイン変動の一つのメカニズムである)、ダイノードに当たらない電子に起因する(曲線1202)。
【0096】
前述のデータは、(奇数ダイノードおよび偶数ダイノードが、反対方向と等しい距離移動する)対称的なダイノードの変調に関する。データは、非対称の事例に関するテスト(ベンチデータ)期間にも得ることができた。このデータは、陽極の誘導電流を最小限にするために使用できる。図13は、種々のダイノード変調方式における種々のベンチデータ(ゲイン)を示す。実線の曲線1302は、ダイノード変調が対称的な場合を示し、一点鎖線の曲線1304は、奇数ダイノードよりも偶数ダイノードに大きい電圧をかけて調整した場合に対応し、点線の曲線1306は、偶数ダイノードよりも奇数ダイノードに大きい電圧をかけて調整した場合に対応する。対称的な事例は、最高性能(最小ダイノード変調で最大ゲイン変動)を生じるように見えるが、他の2つの事例も、理想的ではないが許容範囲にある。ここでもまた、点線の縦の線は、ダイノード変調に関わる対象となる領域を示す。
【0097】
種々の変調方式(図示せず)に関する帯域幅データも得られた。結果生じたデータは、対称的な事例が最高の選択であり、一方で、他の2つの非対称の事例もなおも許容範囲にあることを示すように見える。
【0098】
特定の実施形態は、制御増幅器の電圧振幅の減少を2倍促進できる。この結果、PMTゲインの最大スルーレートを倍増できる。また、制御増幅器の電圧振幅が約2倍減少することにより、高調波ひずみも実質的に減少できる。それ故、ゲインを制御するダイノードに対する寄生容量に従い陽極に注入される電流のより正確な相殺が可能になる。これにより高調波ひずみが低いゲイン変調増幅器の設計がかなり容易になる。出力トランジスタにおけるワット損も約4倍減少でき、信頼性が上がる。これらの比較は、米国特許第6,177,665号に記載される発明の実装に関連する。
【0099】
特定の設計の実施形態では、ゲイン変調に従い陽極に注入される正味電流は、陽極電流増幅器における目標のノイズレベルに近い値である0.5μA未満でもよい。対照的に、他のゲイン制御設計では、陽極電流ノイズレベルを遥かに上回る20uAを超える正味電流が注入されることがある。この大きな注入される正味電流は、陽極電流の以前の履歴に依存する複素電流を有し、信号からこの影響を数値的に取り除くためのファームウェアの使用が実用的ではないであろう。また、急激なゲイン変動の領域における欠陥に対する感度は、他のゲイン設計では弱いであろう。
【0100】
本明細書に記載する検査技術は、図1に概略的に図示するシステムなどのさまざまな特別に構成された検査または計測システムにおいて実施できる。特定の実施形態では、分析対象を検査または測定するためのシステムは、少なくとも一つのメモリと、本明細書に記載する技術を実行するように構成された少なくとも一つのプロセッサとを含む。メモリおよび/またはプロセッサは、プログラマブル素子またはフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)などのハードウェアおよび/またはソフトウェアの任意の適切な組み合わせにより実施できる。検出器(例えば、PMT)により獲得された信号は、コンピュータシステム、より一般的には信号処理装置により処理できる。コンピュータシステムは、結果生じた検査特性を(例えば、コンピュータ画面上に)表示するためのユーザインターフェースを提供するように(例えば、プログラミング命令により)構成できる。コンピュータシステムは、検出パラメータを変化させるなどのユーザ入力を提供する一つ以上の入力装置(例えば、キーボード、マウス、ジョイスティック)も含むことができる。特定の実施形態では、コンピュータシステムは、本明細書に詳述した検査技術を実行するように構成される。コンピュータシステムは、通常、入/出力ポートに結合する一つ以上のプロセッサ、および適当なバスまたは他の通信機構を通した一つ以上のメモリを有する。
【0101】
そのような情報およびプログラム命令が特別に構成されたコンピュータシステムにおいて実施できるため、そのようなシステムは、コンピュータ可読媒体に保存できる、本明細書に記載するさまざまな工程を実行するためのプログラム命令および/またはコンピュータコードを含む。機械可読媒体の例は、これらに限定されないが、ハードディスク、フロッピー(登録商標)ディスクおよび磁気テープなどの磁気媒体、CD−ROMディスクなどの光媒体、光ディスクなどの磁気光学媒体、ならびにプログラム命令を保存および実行するように特別に構成された、リードオンリーメモリデバイス(ROM)およびランダムアクセスメモリ(RAM)などのハードウェアデバイスを含む。プログラム命令の例は、コンパイラにより生成されるなどの機械コード、およびインタープリタを使用してコンピュータにより実行できるより高いレベルコードを含むファイルの両方を含む。
【0102】
前述の発明は理解の明確さのためある程度詳細に記載したが、添付の請求項の範囲内で特定の変更および変形を実施できることが明らかである。本発明のプロセス、システムおよび装置を実施する多くの代替的な方法があることに留意すべきである。従って、提示する実施形態は例示的なものと見なされ、限定するものではなく、本発明は、本明細書に提示された詳細に限定されるものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13