(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記近似式は、両エミッション電流値に対応するカソードの動作温度の測定結果をフィッティングして得られる1次多項式によって定義されることを特徴とする請求項2記載のカソードの動作温度調整方法。
【背景技術】
【0002】
電子ビーム装置では、ビーム源となる電子銃が用いられる。電子ビーム装置には、例えば、電子ビーム描画装置、電子顕微鏡といった種々も装置が存在する。例えば、電子ビーム描画について言えば、本質的に優れた解像性を有しており、高精度の原画パターンの生産に用いられる。
【0003】
半導体デバイスの微細化の進展を担うリソグラフィ技術は半導体製造プロセスのなかでも唯一パターンを生成する極めて重要なプロセスである。近年、LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。これらの半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、高精度の原画パターン(レチクル或いはマスクともいう。)が必要となる。電子ビーム描画装置は、かかる高精度の原画パターンの生産に用いられる。
【0004】
図7は、可変成形型電子線描画装置の動作を説明するための概念図である。
可変成形型電子線(EB:Electron beam)描画装置は、以下のように動作する。第1のアパーチャ410には、電子線330を成形するための矩形の開口411が形成されている。また、第2のアパーチャ420には、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330を所望の矩形形状に成形するための可変成形開口421が形成されている。荷電粒子ソース430から照射され、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330は、偏向器により偏向され、第2のアパーチャ420の可変成形開口421の一部を通過して、所定の一方向(例えば、X方向とする)に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340に照射される。すなわち、第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過できる矩形形状が、X方向に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340の描画領域に描画される。第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過させ、任意形状を作成する方式を可変成形方式(VSB方式)という。
【0005】
電子ビーム描画装置のスループットを向上させるためには、ビームの電流密度の増大が不可欠となっている。そして、その大電流密度を実現させるためには、電子銃のカソード温度を高温に設定する必要が生じる。しかし、カソードを高温に設定するとカソード材料の蒸発速度が大きくなるために、描画中にカソード先端形状が変化してしまう。よって、高温化するにも限界があった。
【0006】
一方、電流密度は、カソードから放出される電子によって流れるエミッション電流を調整することで調整される。よって、従来の電子ビーム描画装置では、当初設定したエミッション電流が常に一定になるように電子銃を制御していた。このような制御方法のまま大電流密度条件下で描画をおこなうと、カソード先端形状の変化等(カソードの劣化)によって、当初のエミッション電流に対するカソードの最適動作温度が変わってしまう。そのため、カソードの劣化後においては、当初のカソードの動作温度では、エミッション電流が不安定になってしまう。そのため、かかるカソードの状態で、安定なエミッション電流を得るためのカソードの最適動作温度を新たに求める必要が生じる。しかし、カソード温度を変化させると電流密度が変わってしまう。電流密度が変化してしまうと試料への照射量(Dose)が変化してしまうので、描画されているパターンの描画精度が劣化してしまうといった問題を引き起こす。よって、電流密度を維持することが必要となる。
【0007】
よって、所望の電流密度を維持するために、カソードの劣化状態に合わせてその都度エミッション電流を調整する必要がある。しかし、エミッション電流を調整するとカソードの最適動作温度が変わってしまうため、今度はカソード温度の最適化を行う必要がある。さらに、カソード温度を変化させるとまた電流密度が変わってしまう。そのため、カソードの劣化状態に合わせてその都度、エミッション電流の調整とカソード温度の調整を何度も繰り返し行いながら、所望の電流密度になるように、エミッション電流とカソード温度を最適化する必要が生じる。よって、調整に時間がかかるといった問題があった。特に、かかるエミッション電流を調整する際のカソード温度の最適化に時間がかかるといった問題があった。
【0008】
ここで、本願発明者は、装置立ち上げ時のまだカソードが劣化する前の段階で数多くのエミッション電流の各値におけるカソードの最適動作温度をそれぞれ測定によって求め、プロットしておくことで、装置立ち上げ時における所望の電流密度に対するエミッション電流とカソード温度の最適化を行う技術について提案している(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、かかるプロットデータはカソードが劣化した後では適合しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、上述した問題点を克服し、所望の電流密度を得るためにエミッション電流を調整する際の電子銃のカソード温度の最適化を短時間で実施することが可能な装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様のカソードの動作温度調整方法は、
カソードを用いた電子ビーム源におけるエミッション電流値と、かかるエミッション電流
値においてバイアス電圧が飽和するカソードの動作温度と、の相関関係を近似した近似式を取得する工程と、
第n番目(nは自然数)のエミッション電流値とカソードの第n番目の動作温度とが電子ビーム源に設定された状態で、カソードから放出された電子ビームの電流密度を測定する工程と、
測定された電流密度が許容範囲内かどうかを判定する工程と、
電流密度が許容範囲内でない場合に、設定された第n番目のエミッション電流値を第n+1番目のエミッション電流値に変更する工程と、
近似式を用いて、第n+1番目のエミッション電流値に対応するカソードの動作温度を演算し、カソードの第n+1番目の動作温度として、電子ビーム源に設定する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、許容される最大エミッション電流値においてバイアス電圧が飽和するカソードの動作温度を測定する工程と、
許容される最小エミッション電流値においてバイアス電圧が飽和するカソードの動作温度を測定する工程と、
をさらに備え、
近似式は、最大エミッション電流値に対応するカソードの動作温度と最小エミッション電流値に対応するカソードの動作温度とを用いて取得されると好適である。
【0013】
また、演算されたカソードの動作温度が許容値内かどうかを判定する工程をさらに備え、
カソードの動作温度は、許容値内の範囲で調整される。
【0014】
また、近似式は、両エミッション電流値に対応するカソードの動作温度の測定結果をフィッティングして得られる1次多項式によって定義されると好適である。
【0015】
本発明の一態様の電子ビーム描画装置は、
カソードを用いた電子ビーム源と、
電子ビーム源におけるエミッション電流値と、エミッション電流
値においてバイアス電圧が飽和するカソードの動作温度と、の相関関係を近似した近似式或いは近似式の係数を記憶する記憶部と、
第n番目のエミッション電流値とカソードの第n番目の動作温度とが電子ビーム源に設定された状態でカソードから放出された電子ビームの電流密度が許容範囲内かどうかを判定する判定部と、
電流密度が許容範囲内でない場合に、設定された第n番目のエミッション電流値を第n+1番目のエミッション電流値に変更するエミッション電流設定変更部と、
近似式を用いて、第n+1番目のエミッション電流値に対応するカソードの動作温度を取得する取得部と、
設定された第n番目の動作温度を、取得された動作温度に第n+1番目の動作温度として変更する動作温度設定変更部と、
許容範囲内の電流密度の電子ビームを用いて、試料にパターンを描画する描画部と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、エミッション電流を調整する際の電子銃のカソードの最適動作温度の最適化を短時間で実施できる。よって、所望の電流密度を得る際の調整時間を短縮できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
図1において、描画装置100は、描画部150と制御部160を備えている。描画装置100は、電子ビーム描画装置の一例となる。そして、描画装置100は、試料に所望するパターンを描画する。描画部150は、電子鏡筒102、描画室103を有している。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、第1の成形アパーチャ203、成形レンズ204、成形偏向器205、第2の成形アパーチャ206、対物レンズ207、副偏向器212、及び主偏向器214が配置されている。また、描画室103内には、移動可能に配置されたXYステージ105が配置されている。また、XYステージ105には、電子ビーム200の電流を測定するためのビーム吸収電極(ファラデーカップ209)が配置されている。電子銃201(電子ビーム源)は、カソード222、ウェネルト224(ウェネルト電極)及びアノード226(アノード電極)を有している。また、アノード226は、接地(地絡)されている。また、XYステージ105上には、描画対象となる試料が配置される。試料として、例えば、ウェハにパターンを転写する露光用のマスク基板が含まれる。マスク基板としては、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。
【0019】
制御部160は、電子銃電源装置110、描画制御回路120、及び制御回路130を有している。電子銃電源装置110、描画制御回路120、及び制御回路130は、図示しないバスによって互いに接続されている。
【0020】
電子銃電源装置110内では、制御計算機232、メモリ112、磁気ディスク装置等の記憶装置140、加速電圧電源回路236、バイアス電圧電源回路234、フィラメント電力供給回路231(フィラメント電力供給部)、及び電流計238が配置される。制御計算機232には、メモリ112、記憶装置140、加速電圧電源回路236、バイアス電圧電源回路234、フィラメント電力供給回路231、及び電流計238が、図示しないバスによって接続されている。
【0021】
制御計算機232内には、エミッション電流Ie設定部50、フィラメント電力W設定部52、近似演算部54、判定部56、エミッション電流Ie変更部58、判定部60、フィラメント電力W演算部62、判定部64、フィラメント電力W変更部66、加速電圧V
A制御部68、バイアス電圧V
B制御部69、及びフィラメント電力W制御部70が配置される。エミッション電流Ie設定部50、フィラメント電力W設定部52、近似演算部54、判定部56、エミッション電流Ie変更部58、判定部60、フィラメント電力W演算部62、判定部64、フィラメント電力W変更部66、加速電圧V
A制御部68、バイアス電圧V
B制御部69、及びフィラメント電力W制御部70といった各機能は、電気回路等のハードウェアで構成されてもよいし、これらの機能を実行するプログラム等のソフトウェアで構成されてもよい。或いは、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせにより構成されてもよい。エミッション電流Ie設定部50、フィラメント電力W設定部52、近似演算部54、判定部56、エミッション電流Ie変更部58、判定部60、フィラメント電力W演算部62、判定部64、フィラメント電力W変更部66、加速電圧V
A制御部68、バイアス電圧V
B制御部69、及びフィラメント電力W制御部70に入出力される情報および演算中の情報はメモリ112にその都度格納される。
【0022】
加速電圧電源回路236の陰極(−)側が電子鏡筒102内のカソード222の両極に接続される。加速電圧電源回路236の陽極(+)側は、直列に接続された電流計238を介して接地(グランド接続)されている。また、加速電圧電源回路236の陰極(−)は、バイアス電圧電源回路234の陽極(+)にも分岐して接続され、バイアス電圧電源回路234の陰極(−)は、カソード222とアノード226との間に配置されたウェネルト224に電気的に接続される。言い換えれば、バイアス電圧電源回路234は、加速電圧電源回路236の陰極(−)とウェネルト224との間に電気的に接続されるように配置される。そして、フィラメント電力W制御部70によって制御されたフィラメント電力供給回路231は、かかるカソード222の両極間に電流を流してカソード222を所定の温度に加熱する。言い換えれば、フィラメント電力供給回路231は、カソード222にフィラメント電力Wを供給することになる。フィラメント電力Wとカソード温度は一定の関係で定義可能であり、フィラメント電力Wによって、所望のカソード温度に加熱することができる。よって、カソード温度は、フィラメント電力Wによって制御される。フィラメント電力Wは、カソード222の両極間に流れる電流とカソード222の両極間にフィラメント電力供給回路231によって印加した電圧の積で定義される。加速電圧V
A制御部68によって制御された加速電圧電源回路236は、カソード222とアノード226間に加速電圧を印加することになる。バイアス電圧V
B制御部69によって制御されたバイアス電圧電源回路234は、ウェネルト224に負のバイアス電圧を印加することになる。
【0023】
描画制御回路120内には、描画データ処理部122、描画制御部124、及び電流密度測定部242が配置される。描画データ処理部122、描画制御部124、及び電流密度測定部242といった各機能は、電気回路等のハードウェアで構成されてもよいし、これらの機能を実行するプログラム等のソフトウェアで構成されてもよい。或いは、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせにより構成されてもよい。描画データ処理部122、描画制御部124、及び電流密度測定部242に入出力される情報および演算中の情報は図示しないメモリにその都度格納される。
【0024】
図1では、本実施の形態1を説明する上で必要な構成部分について記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成が含まれても構わない。
【0025】
図2は、実施の形態1におけるエミッション電流とフィラメント電力との関係を示すグラフである。上述したように、カソード温度は、フィラメント電力Wによって決定される。よって、制御系では、カソード温度をフィラメント電力Wによって制御する。エミッション電流Ieのカソード最適動作温度は、バイアス飽和特性によって求めることができる。エミッション電流Ieに対して、バイアス電圧とフィラメント電力W(カソード温度)を上げていくと、いずれバイアス電圧が飽和する。かかるエミッション電流Ieにおけるカソードの最適動作温度は、フィラメント電力を徐々に上げていったときの最大バイアス電圧の例えば99.6%の値の時点のフィラメント電力(カソード温度)で定義することができる。かかるカソード最適動作温度よりも低い温度に設定すると、エミッション電流Ieが不安定になってしまい、所望のエミッション電流Ieが得られなくなってしまう。
図2に示すように、エミッション電流Ieをエミッション電流Ie(1)からエミッション電流Ie(4)へと高くしていくと、それに伴い、最適フィラメント電力(カソード最適動作温度)が、W1からW4へと順に例えば高くなるように変化する。カソードの状態が同じ状態であれば、かかる関係は同視できる。カソードが劣化すると、各エミッション電流Ieにおけるバイアス飽和特性が変化する。例えば、エミッション電流Ie(1)について、
図2の実線のグラフから点線のグラフへとバイアス飽和特性が変化する。かかる変化に伴い、カソード最適動作温度も変化してしまうことになる。
【0026】
図3は、実施の形態1における電流密度とフィラメント電力との関係を示す概念図である。
図3において、電流密度Jは、フィラメント電力(カソード温度)が変化すると変化する関係にある。ここでは、右上がりの直線で示しているがこれは便宜上示したに過ぎず、これに限るものではない。
【0027】
以上のように、カソードが劣化すると、各エミッション電流Ieにおけるバイアス飽和特性が変化する。さらに、電流密度Jは、フィラメント電力(カソード温度)の変化に伴い変化する。よって、カソード222の劣化状態に合わせて、所望の電流密度Jが得られるエミッション電流Ieとその最適フィラメント電力(カソード最適動作温度)を求める必要が生じる。しかし、上述したように、所望の電流密度Jが得られるエミッション電流Ieとフィラメント電力(カソード動作温度)の最適化には時間がかかってしまう。そこで、実施の形態1では、以下のように各工程を実施することで、かかる時間を短縮する。
【0028】
図4は、実施の形態1における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。
図4において、実施の形態1における描画方法は、カソードの動作温度調整方法となる各工程と、描画工程(S130)とを実施する。カソードの動作温度調整方法は、その内部工程として、最大エミッション電流Ie
(max)と最小エミッション電流Ie
(min)入力工程(S102)と、最大エミッション電流Ie
(max)での動作温度測定工程(S104)と、最小エミッション電流Ie
(min)での動作温度測定工程(S106)と、エミッション電流Ie−動作温度相関式取得工程(S108)と、初期値設定工程(S110)と、電流密度J測定工程(S112)と、判定工程(S114)と、エミッション電流Ie変更(設定)工程(S116)と、判定工程(S118)と、動作温度(フィラメント電力W)取得工程(S120)と、判定工程(S122)と、動作温度(フィラメント電力W)変更(設定)工程(S124)と、光軸調整工程(S126)と、いう一連の工程を実施する。
【0029】
最大エミッション電流Ie
(max)と最小エミッション電流Ie
(min)入力工程(S102)として、エミッション電流Ie設定部50は、許容される最大エミッション電流Ie
(max)と最小エミッション電流Ie
(min)の値を入力する。
【0030】
最大エミッション電流Ie
(max)での動作温度測定工程(S104)として、エミッション電流Ie設定部50は、入力された最大エミッション電流Ie
(max)を目標値として設定する。そして、許容される最大エミッション電流値Ie
(max)においてバイアス電圧が飽和するカソードの動作温度(フィラメント電力W)を測定する。具体的には、加速電圧V
A制御部68によって制御された加速電圧電源回路236が、カソード222とアノード226間に加速電圧を印加する。そして、フィラメント電力W制御部70によって制御されたフィラメント電力供給回路231からカソード222にフィラメント電力Wを供給する。かかる状態で、バイアス電圧V
B制御部69によって制御されたバイアス電圧電源回路234は、電流計238で検出される電流値が最大エミッション電流Ie
(max)になるように、ウェネルト224に印加する負のバイアス電圧を調整する。フィラメント電力Wとバイアス電圧をそれぞれ可変にして、バイアス電圧が飽和するまで、電流計238で検出される電流値が最大エミッション電流Ie
(max)になるフィラメント電力Wとバイアス電圧の組を順次測定していく。
【0031】
図5は、実施の形態1における最大エミッション電流Ie
(max)と最小エミッション電流Ie
(min)でのバイアス電圧とカソード温度(フィラメント電力W)の関係を示すグラフである。フィラメント電力Wとバイアス電圧をそれぞれ可変にして、最大エミッション電流Ie
(max)になるフィラメント電力Wとバイアス電圧の組を順次測定していくと、
図5に示すように、カソード温度(フィラメント電力W)がある温度(電力)以上についてはカソード温度(フィラメント電力W)に関わらずバイアス電圧が飽和する。かかる最大エミッション電流Ie
(max)におけるカソードの最適動作温度(フィラメント電力W
I(max))は、フィラメント電力を徐々に上げていったときの最大バイアス電圧の例えば99.6%の値の時点のフィラメント電力(カソード温度)で定義することができる。
【0032】
最小エミッション電流Ie
(min)での動作温度測定工程(S106)として、エミッション電流Ie設定部50は、入力された最小エミッション電流Ie
(min)を目標値として設定する。そして、許容される最小エミッション電流値Ie
(min)においてバイアス電圧が飽和するカソードの動作温度(フィラメント電力W)を測定する。具体的には、加速電圧V
A制御部68によって制御された加速電圧電源回路236が、カソード222とアノード226間に加速電圧を印加する。そして、フィラメント電力W制御部70によって制御されたフィラメント電力供給回路231からカソード222にフィラメント電力Wを供給する。かかる状態で、バイアス電圧V
B制御部69によって制御されたバイアス電圧電源回路234は、電流計238で検出される電流値が最小エミッション電流Ie
(min)になるように、ウェネルト224に印加する負のバイアス電圧を調整する。フィラメント電力Wとバイアス電圧をそれぞれ可変にして、バイアス電圧が飽和するまで、電流計238で検出される電流値が最小エミッション電流Ie
(min)になるフィラメント電力Wとバイアス電圧の組を順次測定していく。
【0033】
図5に示すように、カソード温度(フィラメント電力W)がある温度(電力)以上についてはカソード温度(フィラメント電力W)に関わらずバイアス電圧が飽和する。かかる最小エミッション電流Ie
(min)におけるカソードの最適動作温度(フィラメント電力W
I(min))は、フィラメント電力を徐々に上げていったときの最大バイアス電圧の例えば99.6%の値の時点のフィラメント電力(カソード温度)で定義することができる。
【0034】
エミッション電流Ie−動作温度相関式取得工程(S108)として、近似演算部54は、エミッション電流値と、エミッション電流においてバイアス電圧が飽和するカソードの動作温度と、の相関関係を近似した近似式を取得する。近似式は、最大エミッション電流値に対応するカソードの動作温度と最小エミッション電流値に対応するカソードの動作温度とを用いて取得される。
【0035】
図6は、実施の形態1におけるエミッション電流Ieと動作温度との相関の一例を示すグラフである。
図6において、縦軸にカソード温度(フィラメント電力W)を示す。横軸にエミッション電流Ieを示す。実施の形態1では、
図6に示すように、最大エミッション電流Ie
(max)と最小エミッション電流Ie
(min)の2点の両エミッション電流値Ieに対応するカソードの動作温度(フィラメント電力W)の測定結果をフィッティングして得られる1次多項式によって近似式(1)を定義する。
(1) W=a・Ie+b
【0036】
得られた近似式(1)或いは近似式(1)の係数a,bは、記憶装置140(記憶部)に記憶される。実施の形態1では、最大エミッション電流Ie
(max)と最小エミッション電流Ie
(min)の2点で近似するので、数多くのエミッション電流Ieにおけるカソードの最適動作温度を測定することを回避できる。カソードの最適動作温度を最適化するエミッション電流Ieの数を減らすことで、測定時間を短縮できる。かかる近似式(1)をカソード222の劣化状態に応じて取得すれば、その時点でのエミッション電流Ieと動作温度との相関式をより短時間で取得できる。
【0037】
初期値設定工程(S110)として、エミッション電流Ie設定部50は、エミッション電流Ieの初期値(第1番目(n=1)のエミッション電流Ie)を設定する。エミッション電流Ieの初期値は、所望する電流密度Jに相当するであると経験的に予想される値にすると好適である。但し、これに限るものではなく、例えば、最小エミッション電流Ie
(min)或いは最大エミッション電流Ie
(max)に設定してもよい。同様に、フィラメント電力W設定部52は、エミッション電流Ieの初期値に対応するカソードの動作温度(フィラメント電力W)の初期値(第1番目(n=1)のフィラメント電力W)を設定する。カソードの動作温度(フィラメント電力W)の初期値は、上述した近似式(1)にエミッション電流Ieの初期値を代入して算出すればよい。
【0038】
電流密度J測定工程(S112)として、第n番目(nは自然数)のエミッション電流値とカソード222の第n番目の動作温度とが電子銃装置に設定された状態で、カソード222から放出された電子ビームの電流密度Jを測定する。ここでは、まず、エミッション電流値の初期値(n=1)とカソードの動作温度(フィラメント電力W)の初期値(n=1)とが電子銃装置に設定された状態で、カソード222から放出された電子ビームの電流密度Jを測定する。具体的には、加速電圧V
A制御部68によって制御された加速電圧電源回路236が、カソード222とアノード226間に加速電圧を印加する。そして、フィラメント電力W制御部70によって制御されたフィラメント電力供給回路231からカソード222にフィラメント電力Wの初期値(n=1)を供給する。かかる状態で、バイアス電圧V
B制御部69によって制御されたバイアス電圧電源回路234は、電流計238で検出される電流値がエミッション電流値の初期値(n=1)になるように、ウェネルト224に印加する負のバイアス電圧を調整する。以上のようにして、電子銃201から電子ビーム200を放出する。そして、電流密度測定部242は、電子ビーム200の電流密度Jを測定する。すなわち、開口サイズが定まっている第1の成形アパーチャ203を通過した全ビームをファラデーカップ209で受ける。具体的には、電子銃201から照射された電子ビーム200は、照明レンズ202によって、第1の成形アパーチャ203上に照明される。そして、第1の成形アパーチャ203を通過した第1の成形アパーチャ203像が第2の成形アパーチャ206に遮へいされないように成形偏向器205で電子ビーム200を偏向する。そして、第2の成形アパーチャ206を通過した全ビームのビーム電流をファラデーカップ209で測定する。そして、ファラデーカップ209の出力が電流密度測定部242に送信される。そして、電流密度測定部242で第1の成形アパーチャ電流値を第1の成形アパーチャ203の開口面積で割ることで電流密度Jを算出する。第1の成形アパーチャ電流を測定することで、成形レンズ204や成形偏向器205の変動(雑音)が電流密度算出精度に悪影響を及ぼすことを回避することができる。
【0039】
ここで、上述した例では、第1の成形アパーチャ203を通過した全ビームから電流密度Jを算出しているが、これに限るものではない。例えば、第1の成形アパーチャ203と第2の成形アパーチャ206とにより例えば1μm角のビームを成形する。そして、その成形されたビームをファラデーカップ209で測定するようにしてもよい。そして、成形された面積でビーム電流値を割れば電流密度Jを求めることができる。このように、成形される面積を予め決めておけば電流密度Jを測定することができる。
【0040】
判定工程(S114)として、判定部56は、測定された電流密度が許容範囲内かどうかを判定する。電流密度が許容範囲内でない場合に、エミッション電流Ie変更(設定)工程(S116)へと進む。電流密度が許容範囲内である場合に、描画工程(S130)へと進む。
【0041】
エミッション電流Ie変更(設定)工程(S116)として、電流密度が許容範囲内でない場合に、電流密度が許容範囲内でない場合に、設定された第n番目のエミッション電流値を第n+1番目のエミッション電流値に変更する。初期値(n=1)が設定されている場合には、第2番目のエミッション電流値に変更する。
【0042】
判定工程(S118)として、判定部60は、変更された第n+1番目のエミッション電流値が許容値内かどうかを判定する。通常、第2番目のエミッション電流値は許容値内に入るようにエミッション電流値を可変制御するが、繰り返し変更することで、いずれ変更されたエミッション電流値が許容値から外れる場合もあり得る。変更された第n+1番目のエミッション電流値が許容値内でない場合には、NGとして処理を終了する。そして、例えば、カソード222の交換を行う。変更された第n+1番目のエミッション電流値が許容値内の場合に、動作温度(フィラメント電力W)取得工程(S120)へと進む。
【0043】
動作温度(フィラメント電力W)取得工程(S120)として、フィラメント電力W演算部62は、近似式(1)を用いて、変更された第n+1番目のエミッション電流値に対応するカソードの第n+1番目の動作温度を演算する。フィラメント電力W演算部62は、記憶装置140から近似式(1)或いは係数a,bを読み出して、近似式(1)に変更された第n+1番目のエミッション電流値Ieを代入することでフィラメント電力Wを演算できる。以上のように、実施の形態1によれば、近似式(1)から直ちにフィラメント電力Wを演算できる。よって、従来のように、エミッション電流値Ieを変更する毎に、バイアス電圧とフィラメント電力Wの組を求める測定を繰り返し行い、バイアス電圧の飽和曲線を求める必要を無くすことができる。よって、エミッション電流値Ieを変更する毎に、短時間でフィラメント電力Wの最適化を図ることができる。
【0044】
判定工程(S122)として、判定部64は、演算されたカソードの動作温度(フィラメント電力W)が許容値内かどうかを判定する。通常、演算された第2番目のフィラメント電力Wは許容値内に入ると予想されるが、エミッション電流を繰り返し変更することで、いずれ対応する動作温度(フィラメント電力W)が許容値から外れる場合もあり得る。演算された動作温度(フィラメント電力W)が許容値内でない場合には、NGとして処理を終了する。カソード222の動作温度は、許容値内の範囲で調整される。そして、例えば、カソード222の交換を行う。演算された動作温度(フィラメント電力W)が許容値内の場合に、動作温度(フィラメント電力W)変更(設定)工程(S124)へと進む。
【0045】
動作温度(フィラメント電力W)変更(設定)工程(S124)として、フィラメント電力W変更部66(動作温度設定変更部)は、現在設定されている第n番目の動作温度(フィラメント電力W)を、演算されたカソード222の動作温度(フィラメント電力W)に変更し、カソード222の第n+1番目の動作温度(フィラメント電力W)として設定する。
【0046】
光軸調整工程(S126)として、エミッション電流と動作温度(フィラメント電力W)を変更したことに伴う光軸のずれを必要に応じて調整する。
【0047】
そして、電流密度J測定工程(S112)に戻り、判定工程(S114)において測定された電流密度が許容範囲内になるまで、電流密度J測定工程(S112)から光軸調整工程(S126)までの各工程を繰り返す。そして、電流密度が許容範囲内に入った後、描画工程(S130)に進む。
【0048】
描画工程(S130)として、描画部150は、許容範囲内の電流密度の電子ビームを用いて、試料101にパターンを描画する。具体的には、以下のように動作する。まず、描画データ処理部122によって、図示しない描画データを入力して、かかる描画データに対して、複数段のデータ変換処理を行って装置固有のショットデータを生成する。ここで、描画データには、通常、複数の図形パターンが定義される。描画装置100で図形パターンを描画するためには、1回のビームのショットで照射できるサイズに各図形パターンを分割する必要がある。そこで、描画データ処理部122内では、実際に描画するために、各図形パターンを1回のビームのショットで照射できるサイズに分割してショット図形を生成する。そして、ショット図形毎にショットデータを生成する。ショットデータには、例えば、図形種、図形サイズ、及び照射位置といった図形データが定義される。その他、照射量(照射時間)データ等が定義される。生成されたショットデータは、図示しない記憶装置に記憶される。描画制御部124に制御回路130を介して制御された描画部150は、かかるショットデータに従って、以下のように動作する。
【0049】
電子銃201内では、ウェネルト224に負のウェネルト電圧(バイアス電圧)が印加され、カソード222に一定の負の加速電圧が印加された状態で、カソード222を設定された動作温度(フィラメント電力W)で加熱すると、カソード222から電子(電子群)が放出され、放出電子(電子群)は加速電圧によって加速されて電子ビームとなってアノード226に向かって進む。これによって電子ビーム200が電子銃201から放出される。ウェネルト224に印加されるバイアス電圧は、設定されたエミッション電流が流れるようにバイアス電圧電源回路234によって可変制御される。
【0050】
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202により矩形の穴を持つ第1のアパーチャ203全体を照明する。ここで、電子ビーム200をまず矩形に成形する。そして、第1のアパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200は、投影レンズ204により第2のアパーチャ206上に投影される。成形偏向器205によって、かかる第2のアパーチャ206上での第1のアパーチャ像は偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させる(可変成形させる)ことができる。そして、第2のアパーチャ206を通過した第2のアパーチャ像の電子ビーム200は、対物レンズ207により焦点を合わせ、主偏向器214及び副偏向器212によって偏向され、連続的に移動するXYステージ105に配置された試料の所望する位置に照射される。
図1では、位置偏向に、主副2段の多段偏向を用いた場合を示している。かかる場合には、試料の描画領域が短冊上に分割されたストライプ領域をさらに仮想分割したサブフィールド(SF)の基準位置に主偏向器214によってステージ移動に追従しながら該当ショットの電子ビーム200を偏向し、副偏向器212でSF内の各照射位置にかかる該当ショットのビームを偏向すればよい。
【0051】
描画工程(S130)後は、定期的に電流密度J測定工程(S112)に戻り、判定工程(S114)において測定された電流密度が許容範囲内になるまで、電流密度J測定工程(S112)から光軸調整工程(S126)までの各工程を繰り返せばよい。そして、電流密度が許容範囲内に入った後、その後の描画工程(S130)に進めばよい。また、描画工程(S130)を複数回行っていった後に、電流密度調整を行った際、判定工程(S118)或いは判定工程(S122)において変更されたエミッション電流値或いはフィラメント電力が許容値から外れるまで判定工程(S114)において測定された電流密度が許容範囲内に収まらない場合もあり得る。かかる場合には、カソード222の劣化が進み近似式(1)が成立していない可能性がある。その場合には、改めて
図4の各工程を実施してもよい。このように、カソード222が使用不可になるまで、カソード222の劣化状態に合わせて、
図4の各工程を実施すればよい。
【0052】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。選別されたカソードを搭載する電子ビーム装置は、描画装置に限るものではなく、電子顕微鏡等のその他の電子ビーム装置にも適用できる。また、カソード材料として、六ホウ化ランタン(LaB
6)結晶を用いると好適である。LaB
6結晶の他にも、タングステン(W)、六ホウ化セリウム(CeB
6)等、その他の熱電子放出材料にも適用できる。
【0053】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0054】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての電子ビーム描画装置、電子ビーム描画方法、及びカソードの動作温度調整方法は、本発明の範囲に包含される。