特許第6166925号(P6166925)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166925
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】食品被覆物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20170710BHJP
   A23L 17/30 20160101ALI20170710BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20170710BHJP
   A23L 5/41 20160101ALI20170710BHJP
【FI】
   A23L5/00 F
   A23L17/30 A
   A23L17/00 Z
   A23L5/41
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-62481(P2013-62481)
(22)【出願日】2013年3月25日
(65)【公開番号】特開2014-183792(P2014-183792A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2016年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】日本水産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】漆田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 明子
(72)【発明者】
【氏名】大嶺 啓介
(72)【発明者】
【氏名】日向 敏夫
【審査官】 厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−021576(JP,A)
【文献】 特開昭57−159469(JP,A)
【文献】 特開昭62−198368(JP,A)
【文献】 特開平01−123625(JP,A)
【文献】 特開昭58−016649(JP,A)
【文献】 特開2000−069928(JP,A)
【文献】 特開昭62−065647(JP,A)
【文献】 特開昭58−071878(JP,A)
【文献】 特開平04−027353(JP,A)
【文献】 特開2006−087395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00 − 5/30
A23L 29/00 − 29/10
A23L 13/00 − 17/50
A23L 21/00 − 21/25
A23L 29/20 − 29/206
A23L 29/231− 29/30
A22C 5/00 − 29/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/FROSTI/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品被覆物の製造方法であって、
(a)冷凍、又は冷凍及び粘着性物質との混合により、一定量の微小食品の集合物を成形する工程、
(b)(a)の工程で成形した微小食品の冷凍集合物に、水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩を付着させる工程、
(c)さらにその上に水溶性アルギン酸塩水溶液を付着させる工程、
(d)さらにその上に水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩を付着させる工程、
を(a)、(b)、(c)、(d)の順に行い、食品をアルギン酸カルシウム及び/又はアルギン酸マグネシウムを含む皮膜で被覆すること
を特徴とする、食品被覆物の製造方法。
【請求項2】
工程(b)及び/又は工程(d)の水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩が、水溶性カルシウム塩水溶液、及び/又は水溶性マグネシウム塩水溶液である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
水溶性カルシウム塩水溶液、及び/又は水溶性マグネシウム塩水溶液の濃度が1.0〜6.0重量%である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
水溶性アルギン酸塩水溶液の濃度が0.3〜2.0重量%である、請求項1ないし3いずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
工程(b)及び/又は工程(d)が、水溶性カルシウム塩水溶液、及び/又は水溶性マグネシウム塩水溶液に1〜300秒間浸すことにより、水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩を付着させる工程である、請求項1ないし4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
工程(c)が、水溶性アルギン酸塩水溶液に1〜120秒間浸すことにより、水溶性アルギン酸塩を付着させる工程である、請求項1ないし5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
アルギン酸カルシウム及び/又はアルギン酸マグネシウムを含む皮膜に還元糖を付着又は含有させる工程を含む、請求項1ないし6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
還元糖が、濃度が0.1〜30.0重量%の還元糖水溶液である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
食品が水産食品である、請求項1ないし8いずれかの食品被覆物の製造方法
【請求項10】
食品が魚卵、魚介類である請求項9の魚卵被覆物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵巣膜が破れたタラコのバラコのような小さい形状の食品から、一塊の新しい製品を製造する方法に関する。特に、タラコの卵巣膜のように極薄い膜で被覆する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タラコなどの魚卵は生食用、塩蔵品、加熱調理品、その他の加工品として賞用されている。魚卵は、卵粒と、卵粒や結合組織などを覆う最外膜である卵巣膜を基本構造としている。卵巣膜に覆われた魚卵は特に商品価値が高く、高価なものであるが、採卵時や加工時に卵巣膜が破れてしまったものは商品価値が低下してしまう。また、卵巣膜に覆われた魚卵であっても大きすぎたり小さすぎたりするものは、調味が均一にされにくく、低品質なものとなってしまう。従って、卵巣膜が破れてしまった魚卵や、大きさが適切でない卵巣から卵粒を取り出し、卵粒の集合を適度な大きさに成形することができれば商品価値を高めることができることから、魚卵を成形する技術の開発が望まれていた。
【0003】
魚卵を成形する技術として、アルギン酸カルシウム又はアルギン酸マグネシウムで魚卵を被覆する方法が知られている。この方法は、アルギン酸塩がカルシウム塩又はマグネシウム塩と接触した部分から水に難溶なアルギン酸カルシウム又はアルギン酸マグネシウムに変化する、という原理に基づくものであり、アルギン酸塩は海藻の成分である天然多糖類の一種であることから食品としてのイメージも良い。
【0004】
特許文献1や特許文献2には魚卵を成形する技術として、アルギン酸カルシウムでタラコを被覆する方法が記載されている。しかしながら、これらの文献に記載の方法でタラコを被覆すると、皮膜の食感がグミのような魚卵被覆物となるため、卵巣膜のようなタラコ特有の良好な食感を有する魚卵被覆物とはならないという問題があった。
【0005】
特許文献3には、辛子明太子、味噌などの塩類含有食品を、ジェランガムなどを加えた被覆溶液につけて被覆したあと乾燥することを特徴とする食品の製造方法が記載されている。
【0006】
特許文献4には、カラギーナンなどの天然起源系成膜剤と、フルクトースなどのC5〜C6還元糖と、グリシンなどのC2〜C6アミノ酸類との混合物を有効成分として含有する可食性フィルムを用いることにより、電子レンジを用いて食品に焦げ色、焼き色を鮮明、且つ容易に着色できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭57−159469
【特許文献2】特開昭62−198368
【特許文献3】特許第3282864号
【特許文献4】特開2000−41621
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、薄くて丈夫であり、且つ食品の味に影響を与えない膜で被覆された食品被覆物を提供することを課題とする。本発明は、特に魚卵特有の良好な食感を有する魚卵被覆物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは上記のごとき課題を解決するために鋭意研究を行い、薄くて丈夫であり、且つ食品の味に影響を与えない膜で被覆された食品被覆物について知見を得て、本発明を完成するに至った。本発明は以下の(1)〜(13)をその要旨とする。
(1)食品被覆物の製造方法であって、
(a)一定量の微小食品の集合物を成形する工程、
(b)(a)の工程で成形した微小食品の集合物に、水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩を付着させる工程、
(c)さらにその上に水溶性アルギン酸塩を付着させる工程、
(d)さらにその上に水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩を付着させる工程、
を(a)、(b)、(c)、(d)の順に行い、食品をアルギン酸カルシウム及び/又はアルギン酸マグネシウムを含む皮膜で被覆すること、
又は、
(a)一定量の微小食品の集合物を成形する工程、
(e)(a)の工程で成形した微小食品の集合物に、水溶性アルギン酸塩を付着させる工程、
(d)さらにその上に水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩を付着させる工程、
を(a)、(e)、(d)の順に行い、食品をアルギン酸カルシウム及び/又はアルギン酸マグネシウムを含む皮膜で被覆し、中心温度が40〜100℃となるまで加熱すること、
を特徴とする、食品被覆物の製造方法。
(2)工程(a)が、冷凍及び/又は粘着性物質との混合により、行うものである、(1)に記載の製造方法。
(3)工程(b)及び/又は工程(d)の水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩が、水溶性カルシウム塩水溶液、及び/又は水溶性マグネシウム塩水溶液である、(1)又は(2)のいずれかに記載の製造方法。
(4)工程(c)又は(e)の水溶性アルギン酸塩が、水溶性アルギン酸塩水溶液である、(1)から(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)水溶性カルシウム塩水溶液、及び/又は水溶性マグネシウム塩水溶液の濃度が1.0〜6.0重量%である、(3)に記載の製造方法。
(6)水溶性アルギン酸塩水溶液の濃度が0.3〜2.0重量%である、(4)に記載の製造方法。
(7)工程(b)及び/又は工程(d)が、水溶性カルシウム塩水溶液、及び/又は水溶性マグネシウム塩水溶液に1〜300秒間浸すことにより、水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩を付着させる工程である、(3)又は(5)のいずれかに記載の製造方法。
(8)工程(c)又は(e)が、水溶性アルギン酸塩水溶液に1〜120秒間浸すことにより、水溶性アルギン酸塩を付着させる工程である、(4)又は(6)のいずれかに記載の製造方法。
(9)アルギン酸カルシウム及び/又はアルギン酸マグネシウムを含む皮膜に還元糖を付着又は含有させる工程を含む、(1)から(8)のいずれかに記載の製造方法。
(10)還元糖が、濃度が0.1〜30.0重量%の還元糖水溶液である、請求項(9)に記載の製造方法。
(11)(1)ないし(10)いずれかの方法によって製造した食品被覆物。
(12)(1)ないし(10)いずれかの方法によって製造した魚卵被覆物。
(13)魚卵がタラコである(12)の魚卵被覆物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、薄くて丈夫であり、且つ食品の味に影響を与えない膜で被覆された食品被覆物を提供することができる。
本発明にかかる食品として魚卵を用いれば、魚卵特有の良好な食感を有する魚卵被覆物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、食品被覆物とは、食品をアルギン酸カルシウムやアルギン酸マグネシウムなどを含む皮膜で被覆したものをいう。本発明において、魚卵被覆物とは、魚卵をアルギン酸カルシウムやアルギン酸マグネシウムなどを含む皮膜で被覆したものをいう。
【0012】
(a)の工程における微小食品とは、微小な体積の食品をいい、体積が0.1mm3〜150cm3以内の大きさの食品であり、好ましくは0.2mm3〜50cm3以内の大きさの食品であり、より好ましくは0.5mm3〜10cm3以内の大きさの食品であり、特に好ましくは0.5mm3〜2cm3以内の大きさの食品である。微小食品は本来的に微小な体積であっても良いが、微小な体積に切断し、砕き、ほぐし、擂り潰し又は圧縮したものであっても良い。
微小食品の形状は特に限定されるものではなく、常温で一定の形体を有するものであれば球形、方形などどのような形状であっても良い。
本発明において食品として魚卵を用いる場合は、(a)の工程における微小食品は、魚卵粒(卵母細胞)である。
【0013】
本発明で用いることができる食品とは、特に限定されるものでないが、例えば魚卵;マグロ、カツオ、ブリなどの赤身魚、サケ、タラ、カレイ、タイなどの白身魚、エビ、タコ、イカ、貝類などの刺身;すり身、魚肉ソーセージ、魚肉ハム、蒲鉾、さつま揚げ、ちくわなどの水産練り製品;サケフレーク、カニやホタテのほぐし身、マグロやカツオのオイル漬、塩蔵品、干物などの魚介類の加工品;牛肉、豚肉、鶏肉などの肉類;枝豆、トウモロコシなどの野菜類;そぼろ、佃煮、卵、豆腐などが挙げられるが、好ましくは魚卵;マグロ、カツオ、ブリなどの赤身魚、サケ、タラ、カレイ、タイなどの白身魚、エビ、タコ、イカ、貝類などの刺身;すり身、魚肉ソーセージ、魚肉ハム、蒲鉾、さつま揚げ、ちくわなどの水産練り製品;サケフレーク、カニやホタテのほぐし身、マグロやカツオのオイル漬、塩蔵品、干物などの魚介類の加工品、などの水産食品であり、特に好ましくは魚卵である。これらの食品の1種又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0014】
本発明で使用することができる魚卵とは、魚の卵巣および/又は卵粒をいい、特に限定されるものではないが、スケトウダラ(Theragra chalcogramma)、マダラ(Gadus macrocephalus)、タイセイヨウダラ(Gadus morhua Linnaeus)、ホキ(Macruronus novaezelandiae)、ミナミダラ(Micromesistius australis)、ホンメルルーサ(Merluccius merluccius)、アルゼンチンヘイク(Merluccius hubbsi)、ニュージーランドヘイク(Merlussius australis)などのタラ目の魚卵であるタラコ;ホントビウオ(Cypselurus agoo agoo)、ホソトビウオ(Cypselurus hiraii)、ハマトビウオ(Cypselurus pinnatibarbatus japonicus)などのトビウオ科の魚卵であるトビッコ;カラフトシシャモ(Mallotus villosus)、シシャモ(Spirinchus lanceolatus)などのキュウリウオ科の魚卵であるシシャモコ;ニシン(Clupea pallasii)、タイセイヨウニシン(Clupea harengus)などのニシン科の魚卵である数の子;ボラ(Mugil cephalus)などのボラ科の魚卵であるカラスミ;シロザケ(Oncorhynchus keta)、ギンザケ(Oncorhynchus kisutsh)、カラフトマス(Oncorhynchus gorbuscha)、ベニザケ(Oncorhynchus nerka)、マスノスケ(Oncorhynchus tshawytscha)、ニジマス(Oncorhynchus mykiss)、カラフトマス(Oncorhynchus gorbuscha)、タイセイヨウサケ(Salmo salar)などのサケ目の魚卵であるイクラ又はすじこ;オオチョウザメ(Huso huso)などのチョウザメ科の魚卵であるキャビアのほか、エビ、カニの卵が挙げられるが、好ましくはタラコ、トビッコ、シシャモコであり、特に好ましくはタラコであり、これらの魚卵の1種又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0015】
魚卵は、卵巣のうち卵巣膜以外の部分を使用することが好ましく、卵巣膜が破れた卵巣又は卵巣膜を破いた卵巣から卵粒を取り出して使用することが特に好ましいが(以下、卵巣膜が破れた卵巣から取り出した卵粒又は卵巣膜を破いた卵巣から取り出した卵粒を「バラコ」と呼ぶ。)、卵巣のうち卵粒以外の部分が含まれていても良い。卵巣膜には血管があり、魚卵被覆物に混入すると外観が良好でなくなるため、卵巣膜は除外することが好ましい。魚卵は加熱されたものであってもよい。本発明においては、調味をしていない魚卵であっても、塩、砂糖、醤油、みりん、酒、唐辛子、かつおだし、昆布だし、食用油脂等の調味料であらかじめ調味した魚卵であっても使用することができる。
【0016】
本発明で使用することができる水溶性カルシウム塩は、食品として摂取することができる有機又は無機のものであればよく、好ましくは塩化カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウムであり、より好ましくは塩化カルシウムである。
【0017】
本発明で使用することができる水溶性マグネシウム塩は、食品として摂取することができる有機又は無機のものであればよく、好ましくは塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムである。
【0018】
本発明においては、水溶性カルシウム塩又は水溶性マグネシウム塩から選ばれる1種又は2種以上を使用することができるが、水溶性カルシウム塩と水溶性マグネシウム塩の1種又は2種以上とを混合して使用しても良い。
【0019】
本発明で使用することができる水溶性アルギン酸塩は、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸リチウム、アルギン酸セシウムが挙げられ、好ましくはアルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウムであり、より好ましくはアルギン酸ナトリウムである。2種以上の水溶性アルギン酸塩を混合して使用することもできる。
【0020】
(a)の食品を成形する工程においては、一定量の微小食品の集合物を成形する。微小食品の集合物とは、微小食品が複数個以上集まったものである。一定量とは、具体的には、小さじ1杯程度の量から、食品として許容できる任意の量である。重量で表現すれば、湿重量で0.5g〜200g程度、好ましくは湿重量が1g〜200g程度、より好ましくは湿重量が2g〜100g程度、特に好ましくは湿重量が3g〜50g程度の量である。食品として魚卵を用いる場合には、一定量とは、小さじ1杯程度の量から、自然の卵巣膜に包まれた魚卵くらいの量である。食品としてタラコを用いる場合は、碁石状に成形する場合は2〜50g程度、自然のタラコのような円筒に近い形状に成形する場合は10〜200g程度の量が好ましい。
【0021】
一定量の微小食品の集合物は、型にいれて冷凍したり、冷凍したものを切断したり、あるいは、粘着性物質と混合して一定の粘度を持たせてから型や切断することにより成形でき、これらの成形方法を複数組み合わせて用いても良い。(b)又は(e)の工程において水溶性アルギン酸塩、水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩が付着できる程度に微小食品の集合物は成形されれば良く、微小食品同士が分離しない程度に維持されていれば(b)又は(e)の工程において水溶性アルギン酸塩、水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩を微小食品の集合物に付着できる。成形された微小食品の集合物は、微小食品同士が固着又は凝固していても良いが、微小食品同士が分離しない程度のゾル状であればよい。食品として魚卵を用いる場合、成形された魚卵粒の集合物は、卵粒、卵粒間、又は卵巣と卵粒が固着又は凝固している必要はなく、卵巣や卵粒が分離しない程度のゾル状であればよい。また、成形の形状は定型でも不定形の形状でもよい。
【0022】
一定量の微小食品の集合物を冷凍により成形する場合、任意の形状にした微小食品の集合物を冷凍することで成形できる。冷凍された微小食品の集合物は、微小食品同士が分離しない程度に維持される任意の温度で使用できるが、集合物の表面温度は好ましくは−50〜−1℃であり、より好ましくは−30〜−4℃であり、特に好ましくは−30〜−10℃で使用できる。微小食品を粘着性物質と混合した後に冷凍して成形すると、より高い温度であっても微小食品同士が分離しない程度に集合物は維持される。
【0023】
一定量の微小食品の集合物を粘着性物質との混合により成形する場合、微小食品を粘着性物質と混合することで微小食品間の接着性を向上させ、任意の形状に成形することができる。粘着性物質としてはペクチン、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム、アルギン酸、ローカストビーンガム、グァーガム、プルラン、カルボキシメチルセルロース、キチン、キトサン、デンプンなどの多糖類、若しくは食品として許容されるこれらの塩若しくはエステル、又はゼラチンなどのたんぱく質が使用できる。これらの粘着性物質の1種又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0024】
混合する粘着性物質の量は任意に設定できるが、例えば80質量部の微小食品に対して1〜30質量部の粘着性物質を混合することができる。粘着性物質は粉末として混合することもできるが、水や溶媒に溶解してから混合してもよい。
【0025】
粘着性物質と微小食品は任意の方法により混合でき、特に限定されるものではないが、例えばミキサー、ブレンダー、ニーダー、サイレントカッター、フードカッター、へら、泡立て器などによって混合できる。
【0026】
粘着性物質と混合した微小食品同士が分離しない程度のゾル状である場合、粘着性物質と微小食品の混合物の粘度は、20℃での粘度が6.0×102〜3.0×105mPa・s程度であれば良い。
【0027】
本発明においては、成形した微小食品の集合物に、水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩を付着させ、さらにその上に水溶性アルギン酸塩を付着させ、さらにその上に水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩を付着させることにより、水溶性カルシウム塩又は水溶性マグネシウム塩と接触した水溶性アルギン酸塩からアルギン酸カルシウム又はアルギン酸マグネシウムが形成され、食品をアルギン酸カルシウム及び/又はアルギン酸マグネシウムを含む皮膜で被覆することができる。このような方法であれば、水溶性アルギン酸塩を付着させた面の上下から水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩が付着されるとなり、水溶性アルギン酸塩と水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩とが接触する機会が多くなることから、アルギン酸カルシウム又はアルギン酸マグネシウムが形成されやすくなり、薄くて丈夫であり、且つ食品の味に影響を与えない膜で被覆された食品被覆物を製造することができる。食品として魚卵を用いる場合には、魚卵特有の良好な食感を有し、膜表面が光沢のある魚卵被覆物を製造することができる。
【0028】
本発明においては、成形した微小食品の集合物に水溶性アルギン酸塩を付着させ、さらにその上に水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩を付着させることにより、食品をアルギン酸カルシウム及び/又はアルギン酸マグネシウムを含む皮膜で被覆することができる。このような方法で被覆した食品被覆物を加熱することにより、形成されたアルギン酸カルシウム又はアルギン酸マグネシウムを含む皮膜から余分な水分が抜け、薄くて丈夫であり、且つ食品の味に影響を与えない膜で被覆された食品被覆物を製造することができる。食品として魚卵を用いる場合には、魚卵特有の良好な食感を有する魚卵被覆物を製造することができる。アルギン酸カルシウムやアルギン酸マグネシウムは加熱調理をしても安定である。
【0029】
本発明において、成形した微小食品の集合物に水溶性アルギン酸塩を付着させ、さらにその上に水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩を付着させることにより、食品をアルギン酸カルシウム及び/又はアルギン酸マグネシウムを含む皮膜で被覆した後に加熱する際の、加熱方法は、特に限定されるものではなく、過熱水蒸気、直火、熱風、マイクロ波加熱、遠赤外線加熱などいずれであっても良いが、中心温度が40〜100℃、好ましくは中心温度が50〜90℃、より好ましくは中心温度が60〜85℃程度となるまで加熱する。中心温度とは、食品被覆物の表面から最も離れた内部位置周辺の温度をいう。加熱温度や加熱時間は任意に設定できるが、例えば魚卵被覆物の場合は180〜250℃程度の高温環境下で2〜15分程度加熱することが好ましい。高温環境下で加熱することにより、アルギン酸カルシウム及び/又はアルギン酸マグネシウムを含む皮膜に還元糖を付着又は含有させた場合に、魚卵被覆物に焦げ色、焼き色を着色しやすいという利点がある。
【0030】
工程を(a)、(b)、(c)、(d)の順に行い、食品をアルギン酸カルシウム及び/又はアルギン酸マグネシウムを含む皮膜で被覆する食品被覆物の製造方法では、製造された食品被覆物は、加熱しなくとも薄くて丈夫であり、且つ食品の味に影響を与えない膜で被覆される。一方、工程を(a)、(e)、(d)の順に行い、食品をアルギン酸カルシウム及び/又はアルギン酸マグネシウムを含む皮膜で被覆する食品被覆物の製造方法では、製造された食品被覆物は加熱されることによって、薄くて丈夫であり、且つ食品の味に影響を与えない膜で被覆されたものとなる。
【0031】
工程を(a)、(e)、(d)の順に行うと、水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩が微小食品の集合物表面より深部に浸透しにくいため、苦味やエグ味が発生しにくいという利点がある。
【0032】
本発明においては、食品の全体に水溶性アルギン酸塩と水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩が付着されていることが望ましいが、付着されていない表面があっても良い。また、本発明においては、食品の全体が皮膜によって被覆されていることが好ましいが、食品が被覆されていない表面があっても良い。食品が被覆されていない表面があることにより、カットされた食品のような食感を得ることもできる。
【0033】
水溶性カルシウム塩、水溶性マグネシウム塩、水溶性アルギン酸塩の粉末を微小食品の集合物に噴霧若しくは塗布するか、又は、水溶性カルシウム塩、水溶性マグネシウム塩、水溶性アルギン酸塩の水溶液に微小食品の集合物を浸す、水溶液を微小食品の集合物に噴霧若しくは滴下することにより、水溶性カルシウム塩、水溶性マグネシウム塩、水溶性アルギン酸塩を微小食品の集合物に付着させることができる。水溶性カルシウム塩、水溶性マグネシウム塩、水溶性アルギン酸塩は水溶液として使用することが好ましい。(b)の水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩を付着させる工程、又は(e)の水溶性アルギン酸塩を付着させる工程においては、成形した微小食品の集合物に直接付着させても良いが、成形後に小麦粉、片栗粉、カラギーナンやペクチン等の多糖類などで被覆した集合物に間接的に付着させても良い。
【0034】
水溶性カルシウム塩や水溶性マグネシウム塩を水溶液として使用する場合、水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩の水溶液中の濃度は任意に設定できるが、1.0重量%以上であることが好ましく、1.5重量%以上であることがより好ましく、2.0重量%以上であることが特に好ましい。水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩の濃度が高くなるにつれて膜の強度は増強される。また、水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩の水溶液中の濃度は6.0重量%以下であることが好ましく、5.0重量%以下であることがさらに好ましく、4.0重量%以下であることが特に好ましい。水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩の濃度が5.0重量%以下の場合はカルシウム塩やマグネシウム塩特有の苦味やエグ味の発生も抑えることができ、4.0重量%以下の場合は皮膜にゼリー様の食感が生じることを抑えることができるという点で優れている。水溶性カルシウム塩及び/又は水溶性マグネシウム塩の濃度が2.0〜4.0重量%の水溶液を用いると皮膜の食感が特に良好な食品被覆物となる。
【0035】
水溶性カルシウム塩や水溶性マグネシウム塩の水溶液に微小食品の集合物を浸して付着させる場合は、浸す時間を調整することによって集合物に付着させる水溶性カルシウム塩や水溶性マグネシウム塩の量と膜強度とを調整できるが、好ましくは1〜300秒であり、より好ましくは3〜200秒であり、特に好ましくは5〜100秒である。
【0036】
水溶性カルシウム塩や水溶性マグネシウム塩の水溶液に微小食品の集合物を浸して付着させる場合、冷凍した微小食品の集合物を用いることが好ましい。冷凍した食品を水溶液に浸すと、食品の周りに水溶液が瞬時に固まり付く(グレージングという。)。グレージングを利用すれば、浸す時間を調整することで微小食品の集合物に付着させる水溶性カルシウム塩や水溶性マグネシウム塩の量を調整することが容易となるので、水溶性カルシウム塩や水溶性マグネシウム塩が過剰に付着することを防止しやすくなる。また、微小食品の集合物が冷凍されていることにより、水溶性カルシウム塩や水溶性マグネシウム塩が集合物に浸透して苦味やエグ味が発生することを防止しやすくなる。付着の際に微小食品の集合物が解凍されないよう、中心まで冷凍した集合物を用いることが特に好ましく、水溶性カルシウム塩水溶液や水溶性マグネシウム塩水溶液を−1〜4℃程度に冷却して使用することが好ましい。
【0037】
水溶性アルギン酸塩を水溶液として使用する場合、水溶性アルギン酸塩の水溶液中の濃度は任意に設定できるが、0.3重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましく、1.0重量%以上であることが特に好ましい。水溶性アルギン酸塩の水溶液中の濃度が高くなるにつれて皮膜の強度は増強される。また、水溶性アルギン酸塩の水溶液中の濃度は2.0重量%以下であることが好ましく、1.8重量%以下であることがより好ましく、1.5重量%以下であることが特に好ましい。水溶性アルギン酸塩の濃度が1.8重量%以下の場合は皮膜にゼリー様の食感が強くなることを抑えることができ、1.5重量%以下の場合は味への影響を抑えることができるという点で優れている。水溶性アルギン酸塩の濃度が1.0〜1.5重量%の水溶液を用いると皮膜の食感が特に良好な食品被覆物となる。
【0038】
水溶性アルギン酸塩を水溶液として使用する場合、水溶性アルギン酸塩水溶液にペクチン、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グァーガム、プルラン、キチン、キトサン、カルボキシメチルセルロース、デンプン、食物繊維などの多糖類又は食品として許容されるこれらの塩若しくはエステル;グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチンなどの乳化剤;などを加え、水溶性アルギン酸塩水溶液の粘度を調整することができる。
【0039】
水溶性アルギン酸塩の水溶液に微小食品の集合物を浸して付着させる場合は、浸す時間を調整することによって集合物に付着させる水溶性アルギン酸塩の量と膜強度とを調整できるが、好ましくは1〜120秒であり、より好ましくは2〜60秒であり、特に好ましくは5〜30秒である。水溶性アルギン酸塩の水溶液へ微小食品の集合物を浸す時間が短いほうが、食品被覆物の皮膜が良好な食感となる。
【0040】
水溶性アルギン酸塩の水溶液に微小食品の集合物を浸して付着させる場合、グレージングを利用すれば集合物の周りに水溶液が瞬時に固まり付くため、食品を短時間で被覆することができ、水溶性アルギン酸塩が過剰に付着して味へ影響することやゼリー様食感が強くなることを防ぎやすくなるため、冷凍した微小食品の集合物を用いることが好ましい。冷凍した微小食品の集合物が解凍することを防ぐため、中心まで冷凍した集合物を用いることが特に好ましく、水溶性アルギン酸塩水溶液を−1〜4℃程度に冷却して使用することが好ましい。
【0041】
本発明における還元糖とは、単糖、二糖又はオリゴ糖であって、還元性のあるものをいい、例えばキシロース、フルクトース、グルコース、ガラクトース、マンノース、リボース、マルトース、ラクトース、アラビノース、セロビオースであり、好ましくはキシロース、フルクトース、グルコース、ガラクトースであり、特に好ましくはキシロースである。2種以上の還元糖を混合して使用することもできる。アルギン酸カルシウム及び/又はアルギン酸マグネシウムを含む皮膜に還元糖を付着又は含有させることにより、食品被覆物が加熱された場合にメイラード反応を起こし、好ましい焦げ色、焼き色に着色できる。
【0042】
還元糖の粉末を微小食品の集合物若しくは食品被覆物に噴霧若しくは塗布する、又は、還元糖の水溶液に微小食品の集合物若しくは食品被覆物を浸す、水溶液を微小食品の集合物若しくは食品被覆物に噴霧若しくは滴下することにより、アルギン酸カルシウム及び/又はアルギン酸マグネシウムを含む皮膜に還元糖を付着又は含有させることができる。還元糖は水溶液として使用することが好ましい。
【0043】
(a)、(b)、(c)、(d)、(e)のいずれか1つ又は2つ以上の工程において、微小食品、水溶性カルシウム塩、水溶性マグネシウム塩、及び/又は水溶性アルギン酸塩と還元糖を混合することにより、(a)、(b)、(c)、(d)、(e)のいずれか1つ又は2つ以上の工程が還元糖を付着又は含有させる工程としても行われても良いが、(a)、(b)、(c)、(d)又は(e)の工程とは別に還元糖を付着又は含有させる工程が行われても良い。(a)、(b)、(c)、(d)又は(e)の工程とは別に還元糖を付着又は含有させる工程が行われる場合、還元糖を付着又は含有させる工程は、(a)、(b)、(c)、(d)又は(e)のいずれの工程の前や後に行われても良いが、食品被覆物が加熱される前に行われる。
【0044】
還元糖を、還元糖水溶液として微小食品に付着又は含有させる場合、還元糖の水溶液中の濃度は任意に設定できるが、0.1〜30.0重量%であることが好ましく、0.1〜10.0重量%であることがより好ましく、0.5〜5.0重量%であることが特に好ましい。
【0045】
本発明において、食品と皮膜の割合は任意に設定できるが、皮膜の割合が小さすぎると膜強度が弱くなり、皮膜の割合が大きすぎると食感が良好ではなくなる。本発明においては、湿重量として、90質量部の食品被覆物に対して1〜25質量部の皮膜で被覆するとよい。また、本発明においては、皮膜の厚さは0.1〜2.0mmであることが好ましく、0.2〜1.0mmであることがより好ましい。
【0046】
本発明において、食品被覆物は、食品と、アルギン酸カルシウム及び/又はアルギン酸マグネシウムを含む皮膜のみによって構成されるものでも良いが、食品や皮膜に塩、砂糖、醤油、みりん、酒、唐辛子、かつおだし、昆布だし、食用油脂等の調味料や増粘剤、安定剤、ゲル化剤、糊料などの食品添加物が含まれても良く、さらに、本発明に係る食品被覆物にはこれらを冷凍したものも含まれる。食品被覆物を冷凍することにより、皮膜から不要な水分をドリップとして除くことができる。アルギン酸カルシウムやアルギン酸マグネシウムは加熱調理をしても安定であるため、本発明に係る食品被覆物は調理することもできる。従って、本発明に係る食品被覆物には、魚卵を皮膜で被覆した後に焼きタラコなどに調理したものも含まれ、さらには調理後に冷凍したものも含まれる。
【0047】
本発明に係る食品被覆物はそのまま喫食することもできるが、加工食品の材料として使用することもでき、例えば食品として魚卵を用いた場合には、おにぎり、焼きおにぎり、巻物、すし、炊き込みご飯、かやくご飯、お茶漬け、ピラフ、チャーハンなどの米飯類;パスタソース、ピザソースなどのソース類;漬物、煮物、焼きタラコ、あえ物などの惣菜類;ふりかけ、カナッペの具等の材料に使用できる。
【0048】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0049】
(碁石状に成形した魚卵での評価)
魚卵の調製
使用する魚卵は、バラコ80.0重量%に、塩や粉末唐辛子粉などの調味料を8.0重量%、みりん等の液体調味料を3.0重量%、粘着性物質としてデンプンを9.0重量%混合して調製した。
【0050】
皮膜による被覆方法
水溶性アルギン酸塩として濃度1.0重量%のアルギン酸ナトリウム水溶液を、水溶性カルシウム塩として濃度2.0重量%の塩化カルシウム水溶液を使用した。アルギン酸ナトリウム水溶液の粘性は温度によって変化するため、魚卵への付着量も温度によって変化してしまう。また、冷凍したバラコが解凍されると、調味料やドリップが漏れ出てしまう。これらの弊害が生じることを防止するため、調製後のアルギン酸ナトリウム水溶液や塩化カルシウム水溶液は氷冷状態で維持、使用した。
表1に記載の4通りの製造方法を比較した。調製した魚卵を7.0gずつ計量し、型にいれ、直径3cmほどの碁石状の形状に成形した後、サンプル1、2及びサンプル3は凍結した成形魚卵に対して被覆を行い、サンプル4は凍結しない成形魚卵に対して被覆を行った。また、サンプル1、2は、アルギン酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液に1回ずつ浸したのに対し、サンプル3、4では、アルギン酸ナトリウム水溶液に浸す前後に塩化カルシウム水溶液に浸した。このようにして、成形した魚卵の表面にアルギン酸カルシウムの皮膜を形成させて、魚卵被覆物を製造した。
実施例1では、アルギン酸ナトリウム水溶液又は塩化カルシウム水溶液に浸す時間は20秒以内に設定して付着させた。
【0051】
【表1】
【0052】
官能評価方法
上記の方法で製造した魚卵被覆物を冷凍保存後、チルド温度帯で完全解凍し、解凍により生じたドリップを除去した後、皮膜部分については膜強度、膜の硬さを、魚卵被覆物全体については保形性、光沢、味風味、総合評価について官能評価し、1〜4の4段階に判定した。膜強度や膜の硬さといった皮膜食感の評価判定指標を表2に、それ以外の項目の評価判定指標を表3に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
官能評価結果
官能評価結果を表4に示す。
サンプル3、4の魚卵被覆物の方が、サンプル1、2より、皮膜部分の評価や光沢の評価において優位である事が確認された。また、冷凍した魚卵を皮膜で被覆したサンプル3では、未冷凍の魚卵を皮膜で被覆したサンプル4と比較して、膜強度、膜の硬さ、保形性、味風味、総合評価が優れた結果となった。
冷凍した魚卵を用い、水溶性カルシウム塩、水溶性アルギン酸塩、さらにその上に水溶性カルシウム塩の順で付着させ、魚卵をアルギン酸カルシウムの皮膜で被覆する方法により、本物のタラコの卵巣膜に近い食感、外観の皮膜を製造することができることが示された。
【0056】
【表4】
【実施例2】
【0057】
(皮膜の物性解析と皮膜量の測定)
実施例1のサンプル1〜4とそれぞれ同様の付着工程で被覆したサンプル5〜8について、皮膜の調製方法による皮膜物性への影響をレオメーターにより解析し、その際の皮膜量を測定した。
皮膜物性の測定用の魚卵は、バラコ92.0重量%に対して、8.0重量%のα化した化工澱粉を配合して調製した。この魚卵を7.0gずつ計量し、実施例1と同様に成形して用いた。製造した魚卵被覆物を冷凍し、自然解凍ないし加熱によって完全解凍した後、レオメーターによる物性解析に供した。レオメーターによる測定は、YAMADEN RHEONER II CREEP MATER RE-2 3305S(株式会社山電)により、W13×D10×30°先端 1mm幅平面くさび形状のプランジャーを用いて行った。
また、同じサンプルを用いて皮膜量及び割合を求めた。すなわち、魚卵被覆物を完全解凍して重量を計量した後、冷水中で揺すりながら魚卵部分を溶解させ、皮膜部分を回収、水切りを行なった後、皮膜部分の重量を計量した。皮膜割合は、以下の式により算出した。
(皮膜部分の重量)÷(魚卵被覆物の重量)×100(%)
【0058】
レオメーターの測定結果と皮膜割合を表5に示す。レオメーターで物性分析を行う場合、加える力によって被測定物の形態が変化する。この変化の割合は、歪率として計測される。今回の分析では、歪率20%、50%、80%を示す場合の力を、それぞれ中間点1〜3の荷重として求めた。
冷凍した魚卵を被覆した中では、サンプル7の魚卵被覆物が、皮膜の強度が強いという結果となった。サンプル5とサンプル7の皮膜割合は同程度であるが、サンプル7の皮膜の方が強い強度であることが示された。また、サンプル7と8との結果より、冷凍した魚卵を用いるのか未冷凍の魚卵を用いるのかによって、付着回数が同じ3回であっても皮膜割合や皮膜の強度が異なる事が示された。
【0059】
【表5】
【実施例3】
【0060】
(自然のタラコ様形状に成形した魚卵での評価)
自然のタラコのような円筒に近い形状に成形した魚卵を被覆することで、タラコ様形状の魚卵被覆物を製造した。粘着性物質としてデンプンを12重量%添加したバラコを用いた。
調製した魚卵を30.0gずつ計量し、タラコ様の円筒型に成形した。実施例1のサンプル1〜4とそれぞれ同様の方法で魚卵被覆物のサンプル9〜12を得た。得られた魚卵被覆物を凍結後、自然解凍ないし加熱によって完全解凍した。解凍により生じるドリップを除去した後、皮膜部分については膜強度、膜の硬さを、魚卵被覆物全体については保形性、光沢、味風味、総合評価について官能評価し、4段階に判定した。評価判定指標は表2、表3に従った。
官能評価結果を表6に示した。
大きいサイズで製造した場合も、実施例1の結果と同様に、冷凍した魚卵を用い、水溶性カルシウム塩、水溶性アルギン酸塩、さらにその上に水溶性カルシウム塩の順で付着させ、魚卵をアルギン酸カルシウムを含む皮膜で被覆する方法に優位性があることが示された。
本結果より、本発明の方法で一口サイズから自然のタラコのようなサイズまで、魚卵特有の良好な食感を有する魚卵被覆物を製造できることが示された。
【0061】
【表6】
【実施例4】
【0062】
(水溶液の濃度の影響)
水溶性カルシウム塩、水溶性アルギン酸塩を水溶液により魚卵に付着させる場合の、水溶性カルシウム塩、水溶性アルギン酸塩の濃度について検討した。水溶性カルシウム塩として0.5重量%〜6.0重量%の範囲で塩化カルシウム水溶液を、水溶性アルギン酸塩として0.1重量%〜2.0重量%の範囲でアルギン酸ナトリウム水溶液を選択して試験に用いた。試験に供する魚卵は、実施例1と同様の方法により調製した。皮膜で被覆する工程については実施例1のサンプル3と同様の方法で製造した。
水溶性カルシウム塩濃度による影響を検討する試験では、濃度1.0重量%に調製したアルギン酸ナトリウム水溶液を使用し、また、水溶性アルギン酸塩濃度による影響を検討する試験では、濃度2.0重量%に調製した塩化カルシウム水溶液を使用した。いずれの場合においても、1回目の付着(工程(b))と3回目の付着(工程(d))に用いる塩化カルシウム水溶液の濃度は同一にした。
【0063】
官能評価方法
各条件で製造した魚卵被覆物を冷凍し、チルド温度帯で完全解凍を行い、官能評価を行った。皮膜の強度、魚卵被覆物の保形性、味への影響、ゼリー様の食感について、官能評価し、1〜4の4段階で判定した。評価判定指標は表7の通りとした。
【0064】
【表7】
【0065】
結果:水溶性カルシウム塩濃度による影響
水溶性カルシウム塩の濃度について検討した結果を表8に示す。
塩化カルシウム濃度が高過ぎると、特有の苦味、エグ味、ゼリー様の食感が生じてくる。また、逆に塩化カルシウム濃度が低過ぎと、良好な強度の皮膜にならない。以上の事から、適切な濃度を選択する必要がある。
魚卵被覆物の規格(大きさ、形状)により、最適な皮膜強度を水溶性カルシウム塩の濃度を調整することによって選択できる。1.0〜4.0重量%程度が好ましい。
水溶性カルシウム塩の濃度により皮膜の強度や食味が変化する事を見出し、魚卵被覆物の形態や重量によって、任意の濃度を選択できる事を示した。
【0066】
【表8】
【0067】
結果:水溶性アルギン酸塩濃度による影響
水溶性アルギン酸塩の濃度について検討した結果を表9に示す。
アルギン酸ナトリウム濃度が高過ぎると、ゼリー様食感が増強される事に加え、味への影響が大きくなる。また、アルギン酸ナトリウム濃度が低過ぎると、良好な強度の皮膜にならない。以上の事から、適切な濃度を選択する必要がある。0.5〜1.5重量%程度が好ましい。
魚卵被覆物の規格(大きさ、形状)により、最適な皮膜強度を水溶性アルギン酸塩の濃度を調整することによって選択できる。また、水溶性アルギン酸塩と共に増粘剤やデンプン、乳化剤などの副原料を併用する事により、皮膜の強度を調整できる。
水溶性アルギン酸の濃度により皮膜の強度や食味が変化する事を見出し、魚卵被覆物の形態や重量によって、任意の濃度を選択できる事を示した。
【0068】
【表9】
【実施例5】
【0069】
(水溶性アルギン酸塩濃度による皮膜物性と皮膜割合への影響)
表9に示すとおり、被覆する際に使用する水溶性アルギン酸塩の濃度は皮膜の強度に大きく影響する。濃度の異なるアルギン酸ナトリウム水溶液で被覆した魚卵の皮膜の物性をレオメーターにより解析し、その際の皮膜割合を求めた。なお、レオメーターによる測定条件と皮膜割合の測定は、実施例2と同様の方法で行った。
皮膜物性の測定用の魚卵は実施例2のサンプル7、8と同様の方法により調製した。1回目の付着(工程(b))と3回目の付着(工程(d))ともに濃度2.0重量%の塩化カルシウム水溶液を使用し、実施例1のサンプル3と同じ方法により被覆した。皮膜で被覆した魚卵被覆物を冷凍し、自然解凍ないし加熱によって完全解凍した後、皮膜の強度を評価した。結果を表10に示す。
アルギン酸ナトリウムの濃度が高いと皮膜の強度は強くなり、皮膜割合も増加する。一方、アルギン酸ナトリウム濃度が低い場合は皮膜の強度は弱くなり、皮膜割合は減少し、良好な皮膜が形成されない。以上の事から、適切な濃度を選択する必要がある。アルギン酸ナトリウム濃度は1.0〜1.5重量%が好ましい。
【0070】
【表10】
【実施例6】
【0071】
(水溶性アルギン酸塩水溶液へ浸す時間による影響)
アルギン酸ナトリウム水溶液は粘性があり、水溶液へ浸す時間は魚卵への付着量や皮膜割合に大きく影響する。水溶性アルギン酸塩水溶液へ魚卵を浸す時間が魚卵被覆物に与える影響について評価した。
魚卵は実施例1のサンプル3と同様に成形して用いた。水溶性カルシウム塩として2.0重量%の塩化カルシウム水溶液を、水溶性アルギン酸塩として1.0重量%のアルギン酸ナトリウム水溶液を用い、実施例1に示す方法に準じて魚卵被覆物を調製した。魚卵被覆物の調製は、2回目の付着(工程(c))の際にアルギン酸ナトリウム水溶液へ浸す時間を5秒〜120秒の間で任意に設定して行った。
官能評価方法
冷凍した魚卵被覆物をチルド温度帯で完全解凍し、解凍により生じたドリップを除去した後、皮膜の強度、魚卵被覆物の保形性、味への影響、ゼリー様の食感について、官能評価し、1〜4の4段階に判定した。評価判定指標は表7の通りとした。
ドリップ測定
冷凍状態の魚卵皮膜物の重量を計量後、吸水紙上で解凍し発生するドリップを除いた魚卵皮膜物の重量を計量し、ドリップ発生量を求めた。
結果
結果を表11に示す。浸す時間が長くなるにつれてゼリー様の食感が生じてくる事から、適切な時間を設定する必要がある。また、水溶性アルギン酸塩水溶液へ浸す時間が短い方が、魚卵被覆物を解凍した後に発生するドリップ量が少なくなる。
水溶性アルギン酸塩濃度の他、水溶性アルギン酸塩水溶液へ魚卵を浸す時間を調節する事によって、皮膜の強度や食味に与える影響を調整できることを確認した。
【0072】
【表11】
【実施例7】
【0073】
(魚卵以外の水産食品での評価)
魚卵以外の水産食品について、実施例1のサンプル3で示した方法に準じ、アルギン酸カルシウムの皮膜により被覆した。食品は、生食可能な魚の刺身の細切品、焼成しフレーク状にした鮭、ボイルしたカニ肉のほぐし身を用いた。皮膜は、魚卵で形成させた皮膜と同様、自然な食感、口解け感を有しており、微小食品への応用でも同質の皮膜が形成される事が確認された。
今回使用した微小食品は、水産食品を用いたものだが、これ以外に、畜肉、野菜などの具材を用いる事が可能で、単独の具材を被覆する以外に、1つないし2つ以上の具材を組み合わせて用いる事が出来る。
【実施例8】
【0074】
(加熱した食品被覆物の評価)
食品として魚卵を、水溶性アルギン酸塩として濃度1.0重量%のアルギン酸ナトリウム水溶液を、水溶性カルシウム塩として濃度2.0重量%の塩化カルシウム水溶液を、還元糖として3.0重量%のD-キシロース水溶液を使用し、加熱した食品被覆物を評価した。
バラコ80.0重量%に、塩や粉末唐辛子粉などの調味料を3.0重量%、みりん等の液体調味料を6.0重量%、粘着性物質としてデンプンを11.0重量%混合して魚卵を調製した。
調製した魚卵を7.0gずつ計量し、型にいれ、直径3cmほどの碁石状の形状に成形した。その後、魚卵をアルギン酸ナトリウム水溶液、塩化カルシウム水溶液の順にそれぞれ約5秒浸し、水溶性アルギン酸塩と水溶性カルシウム塩を付着させ、アルギン酸カルシウムの皮膜で被覆した。皮膜で被覆された魚卵にD-キシロース水溶液を噴霧し、220℃のコンベクションオーブンで4分30秒加熱して(中心温度は80℃であった。)加熱した魚卵被覆物を得た。
得られた魚卵被覆物は、好ましい焦げ色、焼き色に着色され、魚卵特有の良好な食感を有するものであった。