【文献】
S. K. MUKHERJEE,Reliability of anodic vacuum arc in depositing thermoelectric alloy thin films,Journal of Alloys and Compounds,2011年 9月10日,511,pp. 14−21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
多孔質基板上に、2種以上の元素を含有する熱電半導体材料の薄膜が形成された熱電変換材料の製造方法において、アークプラズマ蒸着法を用いて、前記熱電半導体材料を前記多孔質基板上に成膜する工程、かつ該成膜工程時及び/又は該成膜工程後に熱処理を施す工程を含み、前記多孔質基板が、ブロックコポリマーの自己組織化により形成されてなり、該ブロックコポリマーが、親水性ユニットと疎水性ユニットとから構成されているブロックコポリマーであることを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
前記親水性ユニットが、メタクリレート、ブタジエン、ビニールアセテート、アクリレート、アクリルアミド、アクリロニトリル、アクリル酸から選ばれる少なくとも1種含み、且つ前記疎水性ユニットが、スチレン、キシリレン、エチレン、ヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン含有ポリメタクリレートから選ばれる少なくとも1種含む請求項1に記載の熱電変換材料の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の物理的蒸着による成膜方法では、形成する熱電変換材料の厚みをナノオーダーの薄膜にした場合に、スパッタリング等で用いられる原材料の組成比が、成膜後の薄膜の組成比として必ずしも精度良く反映されず、熱電変換効率が低下したり、また、基板と薄膜の界面で剥離しやすいという課題があった。加えて、実用化に向けて、熱電変換効率のさらなる向上(目安として、無次元熱電性能指数ZTが1以上;Tは絶対温度で通常300Kである。)が求められていた。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、多孔質基板上に原材料である熱電半導体材料の組成比が精度良く反映された熱電薄膜を形成し、前記多孔質基板と薄膜との密着性に優れ、かつ熱電変換効率に優れる熱電変換材料の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、熱電変換材料を構成する基板として、多孔質構造体からなる基板(多孔質基板)を用い、前記基板上に、2種以上の元素を含みかつ所定の組成比を有する熱電半導体材料を蒸着源として、アークプラズマ蒸着法により前記熱電半導体材料の薄膜を成膜することで、前記蒸着源の組成比が精度良く反映された熱電薄膜を基板上に形成し、かつ成膜工程時及び/又は成膜工程後に熱処理を施すことで、熱電変換効率の高い熱電変換材料が得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(10)を提供するものである。
(1)多孔質基板上に、2種以上の元素を含有する熱電半導体材料の薄膜が形成された熱電変換材料の製造方法において、アークプラズマ蒸着法を用いて、前記熱電半導体材料を前記多孔質基板上に成膜する工程、かつ該成膜工程時及び/又は該成膜工程後に熱処理を施す工程を含むことを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
(2)前記熱処理が、不活性ガスの大気圧雰囲気下又は真空条件下で施される上記(1)に記載の熱電変換材料の製造方法。
(3)前記多孔質基板が、ブロックコポリマーの自己組織化により形成されてなる上記(1)又は(2)に記載の熱電変換材料の製造方法。
(4)前記熱電半導体材料が、ビスマス−テルル系熱電半導体材料、シリサイド系熱電半導体材料、及びホイスラー系熱電半導体材料から選ばれるいずれかである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱電変換材料の製造方法。
(5)前記ブロックコポリマーが、親水性ユニットと疎水性ユニットとから構成されているブロックコポリマーである上記(3)に記載の熱電変換材料の製造方法。
(6)前記親水性ユニットが、メタクリレート、ブタジエン、ビニールアセテート、アクリレート、アクリルアミド、アクリロニトリル、アクリル酸から選ばれる少なくとも1種含み、且つ前記疎水性ユニットが、スチレン、キシリレン、エチレン、ヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン含有ポリメタクリレートから選ばれる少なくとも1種含む上記(5)に記載の熱電変換材料の製造方法。
(7)前記ビスマス−テルル系熱電半導体材料が、p型ビスマステルライド(Bi
XTe
3Sb
2-X(0<X≦0.6))、n型ビスマステルライド(Bi
2Te
3-YSe
Y(0<Y≦3))、Bi
2Te
3から選ばれる少なくとも1種含む上記(4)に記載の熱電変換材料の製造方法。
(8)前記シリサイド系熱電半導体材料が、β―FeSi
2、CrSi
2、MnSi
1.73、Mg
2Siから選ばれる少なくとも1種含む上記(4)に記載の熱電変換材料の製造方法。
(9)前記ホイスラー系熱電半導体材料が、Fe
2VAl、FeVAlSi、FeVTiAlから選ばれる少なくとも1種含む上記(4)に記載の熱電変換材料の製造方法。
(10)前記熱電半導体材料の薄膜を、前記多孔質基板上に10nm〜10μmの膜厚で成膜する上記(1)〜(9)のいずれかに記載の熱電変換材料の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アークプラズマ蒸着法を用いることで、原材料である熱電半導体材料を瞬時にプラズマにして、基板にイオン化した蒸着粒子が付着するため、熱電変換材料を構成する成膜された熱電半導体材料の薄膜(以下、単に「熱電薄膜」ということがある。)の組成と前記原材料の組成がほとんど変化することがなく、また、イオン化した蒸着粒子が高出力で成膜されるため、緻密な膜となり、熱電半導体材料の薄膜と基板との密着性も向上する。さらに、材料の飛散、未蒸発物の残留等も少ないため、熱電半導体材料を効率良く及び精度良く成膜することができ、かつ多孔質基板を用いることで、基板の熱伝導による熱損失が生じることを抑制でき、熱処理による熱電薄膜の結晶成長により熱電特性が向上し、熱電変換効率に優れる薄膜状の熱電変換材料を、簡便に低コストで製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[熱電変換材料の製造方法]
本発明の熱電変換材料の製造方法は、多孔質基板上に、2種以上の元素を含有する熱電半導体材料の薄膜が形成された熱電変換材料の製造方法において、アークプラズマ蒸着法を用いて、前記熱電半導体材料を前記多孔質基板上に成膜する工程、かつ該成膜工程時及び/又は該成膜工程後に熱処理を施す工程を含むことを特徴とする。
なお、本発明においては、熱電変換材料は、多孔質基板上に、原材料である熱電半導体材料が成膜されてなるものをいう。
【0011】
(多孔質基板)
本発明で用いる多孔質基板は、非常に微細な空孔を有し、前記微細な空孔が所定の形状、間隔で互いに独立して配列されている構造(以下、「ナノ構造」ということがある。)を有するものであり、ナノ構造が形成されていることにより、熱電変換材料の熱伝導率を低下させることができる。本発明で用いる多孔質基板の材質は、特に限定されないが、酸化アルミナ、シリカ,ジルコニア等のセラミックス基板、ガラス基板、シリコン基板、樹脂基板等が挙げられる。なかでも、柔軟性があり、熱伝導率が低いという点から樹脂基板であることが好ましい。
【0012】
前記樹脂基板としては、特に限定されず、例えば、熱硬化性樹脂;エネルギー線硬化型樹脂;ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、アクリル系樹脂、シクロオレフィン系ポリマー、芳香族系重合体等の熱可塑性樹脂、さらに、親水性ユニットと疎水性ユニットから構成されているブロックコポリマー等が挙げられる。
【0013】
前記ブロックコポリマーの親水性ユニットとしては、メタクリレート、ブタジエン、ビニールアセテート、アクリレート、アクリルアミド、アクリロニトリル、アクリル酸等が挙げられ、疎水性ユニットとしては、スチレン、キシリレン、エチレン、ヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン含有ポリメタクリレート等が挙げられる。
【0014】
前記多孔質基板は、公知の方法により作製すればよい。例えば、空孔を有さない基板をエッチング等により多孔質を形成する方法、また、アルミニウム基板等の陽極酸化により多孔質を形成する方法、さらに、インプリント法により多孔質を形成する方法等が挙げられる。特に、多孔質基板として樹脂基板を用いる場合は、前記ブロックコポリマーの自己組織化を利用した方法により多孔質を形成する方法が挙げられる。
【0015】
上記の多孔質基板の中で、ブロックコポリマーの自己組織化を利用した多孔質基板の形成方法を説明する。ブロックコポリマー多孔質基板は、ブロックコポリマー層を形成する工程、該ブロックコポリマー層を溶媒雰囲気下でアニーリングしミクロ相分離させる相分離工程、及びミクロ相分離したブロックコポリマー層の親水性ユニット相の一部又はすべてを除去してナノ構造を形成するエッチング工程を経ることにより形成することができる。ブロックコポリマー層形成工程では、親水性ユニットと疎水性ユニットとの組み合わせ及び各ユニットの分子量を、相分離工程では、溶媒及びアニーリング条件を、エッチング工程ではエッチング方法及びエッチング条件を適宜選択又は調整することにより、所望のナノ構造を有する多孔質基板を形成することができる。
【0016】
図1は、本発明で用いた多孔質基板の一例を示す断面図である。
図1において、1は支持体、2は多孔質基板、3はナノ構造である。なお、多孔質基板2がブロックコポリマーの自己組織化を利用して形成される場合は、
図1において、4は疎水性ユニット相、5は親水性ユニット相である。多孔質基板2が自立性を有していない場合は、
図1に示すように、支持体1に積層されていてもよい。なお、多孔質基板2が自立性を有していれば、支持体1は無くてもよい。本発明で用いる支持体1としては、電気伝導率や熱伝導率に悪影響を及ぼさないものであれば、特に制限されず、例えば、ガラス、シリコン、プラスチック基板等が挙げられる。
【0017】
多孔質基板2のナノ構造3の孔の平均孔径は、好ましくは5〜1000nm、より好ましくは10〜300nm、さらに好ましくは、30〜150nmである。平均孔径が5nm以上であると、例えば、後述する熱電半導体材料を前記多孔質基板上に成膜した後も、熱電半導体材料が孔を塞ぐことがなく、平均孔径が1000nm以下であると、熱電変換材料の機械的強度が確保でき、さらに熱伝導率が十分に低下するため好ましい。なお、孔の平均孔径は、測定倍率3万倍でのSEM写真から、視野内に存在する独立した孔の個々の孔径の最大径、最小径を読み取り、独立した孔の個々の孔径の中心値を求め、次いで、測定した全数にわたり単純平均することにより算出することができる。
【0018】
孔の深さは、好ましくは5〜1000nm、より好ましくは10〜300nmである。
また、孔の配列する平均間隔(隣接する孔と孔との中心間距離の平均値)は、好ましくは10〜1500nmであり、より好ましくは10〜300nmであり、さらに好ましくは10〜150nmである。平均間隔が10nm以上であると、電子の平均自由行程より長くなり、電子の散乱因子となりにくくなるため、電気伝導率が維持され好ましい。平均間隔が1500nm以下であると、フォノンの平均自由行程より短くなり、フォノンの散乱因子となりやすくなるため、熱伝導率が低減され好ましい。
ナノ構造3の孔の形状は、特に限定されず、例えば、円柱状、角柱状等の柱状;逆円錐、逆角錐等の逆錐状;逆角錐台、逆円錐台等の逆錐台状;溝状等が挙げられ、これらの組み合わせであってもよい。
多孔質基板2におけるナノ構造3の占有割合(多孔質基板2上のナノ構造3の孔の開口部面積の総和と孔の開口部以外の面積との和に対するナノ構造3の孔の開口部面積の総和)は、一般的には、5〜90%であり、10〜50%となることが好ましい。ナノ構造3の占有割合が上記範囲であれば、熱伝導率の十分な低減が期待されるため好ましい。
また、多孔質基板2の厚みは、好ましくは0.1〜500μm、より好ましくは0.1〜100μmである。厚みが上記範囲であれば、基板の熱伝導率が低く、熱損失を抑制でき、また、扱い易いため好ましい。
【0019】
(熱電半導体材料)
本発明で用いる熱電半導体材料は、熱電性能を有する2種以上の元素を含有するものである。このような熱電半導体材料としては、具体的には、p型ビスマステルライド(Bi
XTe
3Sb
2-X(0<X≦0.6))、n型ビスマステルライド(Bi
2Te
3-YSe
Y(0<Y≦3))、Bi
2Te
3等のビスマス−テルル系熱電半導体材料;GeTe、PbTe等のテルライド系熱電半導体材料;アンチモン−テルル系熱電半導体材料;ZnSb、Zn
3Sb
2、Zn
4Sb
3等の亜鉛−アンチモン系熱電半導体材料;SiGe等のシリコン−ゲルマニウム系熱電半導体材料;Bi
2Se
3等のビスマスセレナイド系熱電半導体材料;β―FeSi
2、CrSi
2、MnSi
1.73、Mg
2Si等のシリサイド系熱電半導体材料;酸化物系熱電半導体材料;Fe
2VAl、FeVAlSi、FeVTiAl等のホイスラー材料等が用いられる。
【0020】
次に、本発明の熱電変換材料の製造方法を図を用いて説明する。
図2は、本発明の製造方法に従い製造した熱電変換材料の一例を示し、
図1の多孔質基板にアークプラズマ蒸着法により成膜した薄膜(以下、熱電薄膜)を有する熱電変換材料の断面図である。
図2において、6は多孔質基板2のナノ構造3の上部に形成された熱電薄膜、7は多孔質基板2のナノ構造3の内底部に形成された熱電薄膜である。
【0021】
(1)熱電半導体材料成膜工程
成膜工程は、前述した多孔質基板上に、2種以上の元素を含有する熱電半導体材料をアークプラズマ蒸着法により成膜して熱電半導体材料の薄膜を形成する工程である。
【0022】
アークプラズマ蒸着法とは、詳細は後述するが、パルスのアーク放電により、蒸着源となる原材料を、瞬時にプラズマにしてイオン化された蒸着粒子を基板上に付着させる成膜方法である。
前記アークプラズマ蒸着法を用いることにより、熱電半導体材料を瞬時にプラズマにして、多孔質基板にイオン化した蒸着粒子が付着し、しかも、原材料の飛散や、未蒸発物の残留等も少ないため、従来より用いられているフラッシュ蒸着法と比べ、成膜された膜の組成の精度が良く、原材料の組成からほとんど変化することがない均一な薄膜が形成され、ゼーベック係数や電気伝導率の低下を抑制することができる。
また、前記アークプラズマ蒸着法は、プラズマを発生させるためにアルゴンガス等を使用する必要もなく、さらに、基板の温度上昇も殆どないため、樹脂基板やフィルムへの成膜方法として好適である。
さらに、アークプラズマ蒸着法においては、所定の範囲内では、蒸着時の材料の直進性が保たれるため、特に、多孔質基板へ成膜する場合、他の蒸着方法に比べてナノ構造内の壁面に材料が蒸着されにくく、熱電性能が低下しにくい。
【0023】
アークプラズマ蒸着装置について具体的に説明する。
図3は、本発明の実施例で用いた同軸型真空アークプラズマ蒸着装置の一例であり、(a)は蒸着装置の概略図であり、(b)はアークプラズマ蒸着源の動作を説明するための概念図である。
図3(a)、(b)において、11は多孔質基板、12は真空排気口、13はカソード電極(蒸着源;ターゲット)、14はトリガ電極、15は電源ユニット、16はアノード電極、17はトリガ電源、18はアーク電源、19はコンデンサー、20は絶縁碍子、21はアークプラズマである。
前記アークプラズマ蒸着装置内における同軸型真空アークプラズマ蒸着源は、
図3(b)に示すように、円筒状のトリガ電極14と、先端部が熱電半導体材料の原材料で構成された蒸着源である円柱状のカソード電極13とが、円板状の絶縁碍子20を挟んで隣接して配置されてなり、前記カソード電極13とトリガ電極14との周りに同軸状に円筒状のアノード電極16が配置されている。
なお、前記カソード電極13は、上述した熱電半導体材料をホットプレス法等の公知の方法により、円柱状に成形したものを用いる。
実際の蒸着は、前記同軸型真空アークプラズマ蒸着源を備えている同軸型真空アークプラズマ蒸着装置を用い、前記トリガ電極14とアノード電極16との間にアーク放電をパルス的に発生させて、熱電半導体材料を瞬時にプラズマにして、前記カソード電極13とアノード電極16との間にアークプラズマ21を断続的に誘起させ、アークプラズマ21の真上に配置した多孔質基板11上に、イオン化した蒸着粒子を付着させることにより、成膜が行われる。なお、多孔質基板11は、常温であっても加熱されていてもよい。
【0024】
本発明において、アークプラズマ21を発生させるアーク電圧、放電用のコンデンサー19の容量、及びアークプラズマ21の発生回数を制御することにより、粒子径が揃った蒸着粒子を得ることができ、これにより、多孔質基板と熱電薄膜の密着性が良好な膜を得ることが出来る。
アークプラズマ21を発生させるアーク電圧は、通常50〜400V、好ましくは70〜100Vであり、放電用のコンデンサー19の容量は、通常360〜8800μF、好ましくは360〜1080μFである。また、アークプラズマ21の発生回数は、通常50〜50000回である。
さらに、多孔質基板11とアークプラズマ21からの距離を適宜調整することで、蒸着範囲を制御することができる。例えば、後述する実施例においては、カソード電極(蒸着源;ターゲット)と多孔質基板との距離は150mmとした。チャンバ内の真空度は、10
-2Pa以下が好ましい。チャンバ内の多孔質基板11の温度は、成膜工程後に熱処理を施すのであれば、常温であってもよく、成膜工程時に熱処理を施す場合は、多孔質基板11を通常50〜1000℃、好ましくは50〜600℃、より好ましくは100〜250℃で加熱して、蒸着を行えばよい。成膜工程時に後述する熱処理を施すことより、多孔質基板11に熱電半導体材料を蒸着すると同時に、熱電半導体材料からなる薄膜を結晶成長させ安定化させることができるため、後述の熱処理を省略して製造時間を短縮することができる。温度が低すぎると熱処理効果が十分に得られず、温度が高すぎると構成元素の揮散により組成が変動したり、多孔質基板がプラスチック基板である場合には、熱変形するなどの問題が生じるため好ましくない。
【0025】
上記した方法によって形成される熱電半導体材料の膜厚は、多孔質基板11の孔を熱電半導体材料で埋めてしまうことがないように、通常10nm〜10μmであり、より好ましくは10nm〜1μm、さらに好ましくは50〜500nmである。膜厚が上記範囲であれば、熱電性能及び屈曲性に優れる薄膜が得られる。
【0026】
(2)熱電変換材料の熱処理工程
熱処理工程は、(1)における成膜工程時及び/又は成膜工程後、熱電変換材料を構成する熱電薄膜に熱処理を施すことにより該熱電薄膜を結晶成長させる工程である。熱電薄膜を結晶成長させ安定化させることで、熱電特性の高い熱電半導体材料の薄膜を得ることができる。
【0027】
成膜工程時に熱処理を施す場合は、上述したように、多孔質基板11を加熱して蒸着を行えばよく、成膜工程後に熱処理を施す場合、熱処理方法は、特に限定されず、公知の手法を用いることができる。また、成膜工程時および成膜工程後の両方で熱処理を施してもよいが、熱電薄膜の結晶成長を容易にできるという点から、成膜工程後に熱処理を施すことが好ましい。さらに、熱電半導体材料の組成の変動を限りなく少なく成膜し、熱電特性の高い熱電変換材料が得られるという点から、成膜工程後にのみ熱処理を施すことがより好ましい。
例えば、真空排気、ガス導入等可能な熱処理装置はもとより、半導体プロセスで使用される熱ストレスを抑えながら対象物を急速に昇降温でき、短時間の高温処理に適したランプ・アニール装置等を使用してもよい。
図4は、本発明の実施例及び比較例で用いた熱処理装置の一例を示す概略図である。
図4において、31は熱電変換材料、32はヒーター、33は熱電対、34は真空排気口、35は導入ガス排気口、36は水素ガス導入口、37はアルゴンガス導入口である。
前記熱処理は、用いる材料及び処理装置の種類によって、温度、時間等の処理条件が異なるが、通常、本発明で用いた熱処理装置では、組成変化が生じない温度範囲内、すなわち、通常、50〜1000℃で1〜2時間程度行うことが好ましい。好ましくは50〜600℃、より好ましくは100〜250℃である。温度が低すぎると熱処理効果が十分に得られず、温度が高すぎると熱電半導体材料の結晶状態が崩れたり、構成元素の揮散により組成が変動するなど問題が生じるため好ましくない。熱処理は、不活性ガスの大気圧雰囲気下又は真空条件下で行うことが好ましい。不活性ガス雰囲気下であれば、熱電半導体材料の酸化による組成の変動がなく、高性能な薄膜の作製が容易となる。
【0028】
本発明の製造方法によれば、多孔質構造体からなる基板に精度良く所望の組成を有する熱電薄膜を成膜することができる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0030】
実施例、比較例で作製した熱電変換材料の熱伝導率、電気伝導率及びゼーベック係数等に関する測定は以下の方法で実施した。
(a)熱伝導率
実施例、比較例で作製した熱電変換材料の熱伝導率の測定には3ω法を用いた。
(b)電気伝導率
表面抵抗測定装置(三菱化学社製、商品名:ロレスタGP MCP−T600)により、四端子法で試料の表面抵抗値を測定し、電気伝導率を算出した。
(c)ゼーベック係数
作製した試料の一端を加熱して、試料の両端に生じる温度差をクロメル−アルメル熱電対を使用し測定し、熱電対設置位置に隣接した電極から熱起電力を測定した。具体的には、温度差と起電力を測定する試料の両端間距離を25mmとし、一端を20℃に保ち、他端を25℃から50℃まで1℃刻みで加熱し、その際の熱起電力を測定して、傾きからゼーベック係数を算出した。熱電対及び電極の設置位置は、薄膜の中心線に対し、互いに対称の位置にあり、熱電対と電極の距離は1mmである。
なお、熱電性能指数Zは、上記で得られた、ゼーベック係数S、電気伝導率σ及び熱伝導率λの値を用いて、既述した関係式(Z=σS
2/λ)により算出した。
また、無次元熱電性能指数は、上記で算出した熱電性能指数Zと絶対温度Tとの積で定義され、本発明においては、常温(T:300K)での値として算出した。
(d)薄膜元素分析
作製した熱電薄膜の組成は、エネルギー分散型X線分析装置EDS(エリオニクス社製、EMR−8800)により分析を行い求めた。
(e)密着性試験(クロスカット法)
作製した熱電薄膜の密着性はJIS K5600クロスカット法により行い、評価は、剥がれたマス数に応じて、すなわち、剥がれが全く見られない場合を◎、剥がれた数が1%以上5%未満である場合を○、剥がれた数が5%以上50%未満である場合を△、剥がれた数が50%以上の場合を×として、行った。
【0031】
(実施例1)
(多孔質基板の作製)
ポリマーとして、親水性ユニット(メチルメタクリレート)と疎水性ユニット(ヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン含有ポリメタクリレート)から構成されているブロックコポリマー(polymer source社製、製品名「P9695−MMAPOSSMA」メチルメタクリレートユニットの分子量(8000)、ヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン含有ポリメタクリレートの分子量(28000))を用い、まず、シクロペンタノン(東京化成工業株式会社製)に溶解し、溶液濃度3質量%のポリマー溶液を調製した。調製したポリマー溶液を、スピンコート法により、ガラス基板(支持体1)上に塗布し、厚さが200nmのブロックコポリマー層を作製した。作製した該ブロックコポリマー層を、硫化炭素溶媒雰囲気下で20時間かけアニーリングすることで、ヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン含有ポリメタクリレート相とポリメチルメタクリレート相にミクロ相分離させた。その後、反応性イオンエッチング装置(Samco社製、UV-Ozone dry stripper)を用いて、ポリメチルメタクリレート相をエッチングし、多孔質基板2(平均孔径:80nm、孔の深さ:120nm)を得た。
一方、2種以上の元素を含有する熱電半導体材料として、p型ビスマステルライド(Bi
0.4Te
3.0Sb
1.6、元素組成:Bi:Te:Sb=9:60:31)の原料粒子をステンレス製の金型に入れ、ホットプレス法により、焼結温度200℃で1時間保持し、同軸型真空アークプラズマ蒸着源となる熱電半導体材料の円柱状のカソード電極(蒸着源;ターゲット:φ10×17mm)を得た。
次いで、
図3(a)、(b)の同軸型真空アークプラズマ蒸着装置を用いて、チャンバ内の真空度が5.0×10
-3Pa以下に到達した時点で、アーク電圧を80V、成膜レート0.33nm/回(1秒につき1回の放電)で300回放電を行い、多孔質基板2(11)上に、p型ビスマステルライドの薄膜(100nm)を形成した。なお、チャンバ内の多孔質基板2(11)は加熱せずに、常温で蒸着を行った。
その後、得られた熱電変換材料を、
図4に示す熱処理装置の中央に設置し、ロータリポンプにより1.0Paまで排気し、アルゴンガスで3回パージを行った後、水素、アルゴン混合ガスを大気圧になるまで導入し、熱処理装置内が大気圧になった時点で、フロー弁を開き0.1L/minの流量で、水素とアルゴンの混合ガス(水素:アルゴン=5:95)を装置内に供給した。さらに、加温速度5℃/minで昇温し、熱処理温度230℃で1時間保持することで、熱電薄膜を結晶成長させた熱電変換材料を作製した。
【0032】
(比較例1)
フラッシュ蒸着法でp型ビスマステルライドを成膜した以外、実施例1と同様に、熱電変換材料を作製した。
実施例1及び比較例1で得られた熱電変換材料の熱伝導率、電気伝導率、ゼーベック係数、元素組成及び密着性試験の評価結果を表1に示す。
【0033】
(実施例2)
熱電半導体材料として、n型ビスマステルライド(Bi
2.0Te
2.7Se
0.3、元素組成:Bi:Te:Se=40:54:6)を使用した以外は、実施例1と同様にして、熱電変換材料を作製した。
【0034】
(比較例2)
熱電半導体材料として、n型ビスマステルライド(Bi
2.0Te
2.7Se
0.3、元素組成:Bi:Te:Se=40:54:6)を使用した以外は、比較例1と同様にして、熱電変換材料を作製した。
実施例2及び比較例2で得られた熱電変換材料の熱伝導率、電気伝導率、ゼーベック係数、元素組成及び密着性試験の結果を表1に示す。
【0035】
(実施例3)
熱電半導体材料として、p型Fe
2VAl(元素組成:Fe:V:Al=52.5:22.5:25)を使用した以外は、実施例1と同様にして、熱電変換材料を作製した。
【0036】
(比較例3)
熱電半導体材料として、p型Fe
2VAl(元素組成:Fe:V:Al=52.5:22.5:25)を使用した以外は、比較例1と同様にして、熱電変換材料を作製した。
実施例3及び比較例3で得られた熱電変換材料の熱伝導率、電気伝導率、ゼーベック係数、元素組成及び密着性試験の結果を表1に示す。
【0037】
(実施例4)
熱電半導体材料として、n型Fe
2VAl(元素組成:Fe:V:Al=52.5:22.5:25)を使用した以外は、実施例1と同様にして、熱電変換材料を作製した。
【0038】
(比較例4)
熱電半導体材料として、n型Fe
2VAl(元素組成:Fe:V:Al=52.5:22.5:25)を使用した以外は、比較例1と同様にして、熱電変換材料を作製した。
実施例4及び比較例4で得られた熱電変換材料の熱伝導率、電気伝導率、ゼーベック係数、元素組成及び密着性試験の結果を表1に示す。
【0039】
(実施例5)
熱電半導体材料として、p型MnSi
1.73(元素組成:Mn:Si=37:63)を使用した以外は、実施例1と同様にして、熱電変換材料を作製した。
【0040】
(比較例5)
熱電半導体材料として、p型MnSi
1.73(元素組成:Mn:Si=37:63)を使用した以外は、比較例1と同様にして、熱電変換素子を作製した。
実施例5及び比較例5で得られた熱電変換材料の熱伝導率、電気伝導率、ゼーベック係数、元素組成、及び密着性試験の結果を表1に示す。
【0041】
(実施例6)
熱電半導体材料として、n型Mg
2Si(元素組成:Mg:Si=67:33)を使用した以外は、実施例1と同様にして、熱電変換材料を作製した。
【0042】
(比較例6)
熱電半導体材料として、n型Mg
2Si(元素組成:Mg:Si=67:33)を使用した以外は、比較例1と同様にして、熱電変換材料を作製した。
実施例6及び比較例6で得られた熱電変換材料の熱伝導率、電気伝導率、ゼーベック係数、元素組成及び密着性試験の結果を表1に示す。
【0043】
(実施例7)
(多孔質基板の作製)
アルミニウム基体(株式会社ニラコ製、10×100×0.5mm、純度99.9%)を陽極酸化し、多孔質のアルミナ基板(多孔質基板、平均孔径:80nm、孔の深さ:120nm)を作製した。
得られた多孔質基板を用いた以外は、実施例1と同様にして、熱電変換材料を作製した。
【0044】
(比較例7)
上記多孔質基板を用いた以外は、比較例1と同様にして、熱電変換材料を作製した。
実施例7及び比較例7で得られた熱電変換材料の熱伝導率、電気伝導率、ゼーベック係数、元素組成及び密着性試験の結果を表1に示す。
【0045】
(実施例8)
実施例1において、成膜工程後の熱処理を施さず、代わりに成膜工程時に施した以外は、すなわち、真空チャンバ内の多孔質基板2(11)を230℃に加熱しながら、成膜レートを0.08nm/回(1秒につき1回の放電)で1200回放電を行った以外は、実施例1と同様にして、多孔質基板2(11)上に、p型ビスマステルライドの薄膜(100nm)を形成し、熱電変換材料を作製した。
実施例8で得られた熱電変換材料の熱伝導率、電気伝導率、ゼーベック係数、元素組成及び密着性試験の結果を表1に示す。
【0046】
(実施例9)
実施例1において、成膜工程時にも熱処理を施した以外は、すなわち、真空チャンバ内の多孔質基板2(11)を230℃に加熱しながら、成膜レートを0.08nm/回(1秒につき1回の放電)で1200回放電を行った以外は、実施例1と同様にして、多孔質基板2(11)上に、p型ビスマステルライドの薄膜(100nm)を形成し、熱電変換材料を作製した。
実施例9で得られた熱電変換材料の熱伝導率、電気伝導率、ゼーベック係数、元素組成及び密着性試験の結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
アークプラズマ蒸着法を用い熱電半導体材料を成膜し、熱処理を施した実施例1〜9の熱電変換材料は、熱電薄膜の組成比が、原材料からなる蒸着源とほぼ変わらぬ組成比に制御され、同一原材料を用いたフラッシュ蒸着法により成膜をした比較例1〜7の熱電変換材料に比べ、熱電性能が大きく向上した。特に、成膜後にのみ熱処理を施した実施例1の熱電変換材料は、無次元熱電性能指数の値が優れていた。
さらに、実施例1〜9のすべてにおいて、多孔質基板と熱電薄膜との密着性が優れていた。