(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の内容を詳細に述べる。なお、以下の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの形態に特定されるものではない。
ここで、本明細書において単に“ppm”と記載した場合は、“質量ppm”のことを示す。
【0028】
[非水系二次電池負極用活物質]
<活物質(A)>
本発明の非水系二次電池負極用活物質(以下、単に「本発明の活物質」ともいう。)はリチウムイオンの挿入・脱離が可能な活物質(A)を含有する。前記活物質(A)は、その骨格中にリチウムイオンを吸蔵・放出することができる材料であれば特に制限されない。
【0029】
その例としては、黒鉛、非晶質炭素、黒鉛化度の小さい炭素質物に代表される種々の炭素材料、シリコン系材料、スズ系材料が挙げられる。これらについては後述するが、中でも人造黒鉛、天然黒鉛、非晶質炭素、シリコン、及びシリコン酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることがリチウム貯蔵容量、サイクル特性、コストのバランスの点から好ましい。またこれらを炭素質物、例えば非晶質炭素や黒鉛化物で被覆したものを用いてもよい。
【0030】
本発明ではこれらを単独で、又は二種以上を組み合わせて使用することができる。また、上記材料は酸化物やその他金属を含んでいてもよい。
【0031】
前記活物質(A)の形状は特に制限されず、球状、薄片状、繊維状、不定形粒子などから適宜選択して用いることができるが、好ましくは球状である。
前記炭素材料の種類としては、人造黒鉛、天然黒鉛、非晶質炭素、黒鉛化度の小さい炭素質物等が挙げられるが、低コストと電極作製のし易さの点から、人造黒鉛または天然黒鉛が好ましく、天然黒鉛がより好ましい。
これら炭素材料は、不純物の少ないものが好ましく、必要に応じて種々の精製処理を施して用いる。
【0032】
前記天然黒鉛としては、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土壌黒鉛等が挙げられる。前記鱗状黒鉛の産地は、主にスリランカであり、前記鱗片状黒鉛の産地は、主にマダガスカル、中国、ブラジル、ウクライナ、カナダ等であり、前記土壌黒鉛の主な産地は、朝鮮半島、中国、メキシコ等である。
これらの天然黒鉛の中で、土壌黒鉛は一般に粒径が小さいうえ、純度が低い。これに対して、鱗片状黒鉛や鱗状黒鉛は、黒鉛化度が高く不純物量が低い等の長所があるため、本発明において好ましく使用することができる。
【0033】
前記天然黒鉛の形状は、本発明の効果を発揮する観点から、好ましくは球形であり、活物質(A)として特に好ましくは球形化天然黒鉛である。
更に具体的には、高純度化した鱗片状の天然黒鉛に球形化処理を施して得られた球形化天然黒鉛である。前記球形化処理の方法については後述する。
【0034】
前記人造黒鉛としては、例えば、コールタールピッチ、石炭系重質油、常圧残油、石油系重質油、芳香族炭化水素、窒素含有環状化合物、硫黄含有環状化合物、ポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、天然高分子、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド、フルフリルアルコール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂などの有機物を焼成し、黒鉛化したものが挙げられる。
焼成温度は、2500℃以上3200℃以下の範囲とすることができ、焼成の際、珪素含有化合物やホウ素含有化合物などを黒鉛化触媒として用いることもできる。
【0035】
前記非晶質炭素としては、例えば、バルクメソフェーズを焼成した粒子や、炭素前駆体を不融化処理し、焼成した粒子が挙げられる。
【0036】
前記黒鉛化度の小さい炭素質物としては、有機物を通常2500℃未満の温度で焼成したものが挙げられる。有機物としては、コールタールピッチ、乾留液化油などの石炭系重質油;常圧残油、減圧残油などの直留系重質油;原油、ナフサなどの熱分解時に副生するエチレンタール等の分解系重質油などの石油系重質油;アセナフチレン、デカシクレン、アントラセンなどの芳香族炭化水素;フェナジンやアクリジンなどの窒素含有環状化合物;チオフェンなどの硫黄含有環状化合物;アダマンタンなどの脂肪族環状化合物;ビフェニル、テルフェニルなどのポリフェニレン;ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラールなどのポリビニルエステル類;ポリビニルアルコールなどの熱可塑性高分子などが挙げられる。
【0037】
前記炭素質物の黒鉛化度の程度に応じて、焼成温度は通常600℃以上とすることができ、好ましくは900℃以上、より好ましくは950℃以上であり、通常2500℃未満とすることができ、好ましくは2000℃以下、より好ましくは1400℃以下の範囲である。
焼成の際、有機物にリン酸、ホウ酸、塩酸などの酸類や、水酸化ナトリウム等のアルカリ類などを混合することもできる。
【0038】
前記シリコン系材料としては、シリコン、シリコン酸化物等が挙げられる。具体的には、SiO
y、SiC
xO
y、(式中x及びyは任意の割合でも可)シリコン−酸化シリコン複合体、またはシリコンとその他金属との合金のうち何れを用いてもよい。中でもリチウム貯蔵容量とサイクル特性の点からシリコン(Si)及びシリコン酸化物が好ましい。
シリコン系材料としては、小粒径、薄膜、多孔質構造などリチウム挿入、脱離時の体積膨張収縮を緩和可能な形態のものが好ましく、必要に応じて炭素材料やその他活物質材料と複合化して用いる。
【0039】
前記スズ系材料としては、錫、酸化第一錫、酸化第二錫、または錫アモルファス合金のうち何れを用いてもよい。スズ系材料としては、小粒径、薄膜、多孔質構造などリチウム挿入、脱離時の体積膨張収縮を緩和可能な形態のものが好ましく、必要に応じて種々の炭素材料やその他、活物質材料と複合化して用いる。
【0040】
次に、活物質(A)の各種物性について説明する。活物質(A)は、下記物性のうち、少なくとも1つを満たすことが好ましい。
【0041】
(平均粒子径(d50))
活物質(A)の平均粒子径(d50)は、通常1μm以上、50μm以下である。この範囲であれば、負極製造時において極板化した際に、負極形成材料の筋引きなど、工程上の不都合が生ずることを防止することができる。
平均粒子径(d50)は、好ましくは4μm以上、より好ましくは10μm以上であり、また、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下である。
【0042】
なお、本願明細書において、平均粒子径(d50)とは、体積基準のメジアン径を意味する。具体的には、界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートの0.2質量%水溶液10mLに、試料0.01gを懸濁させ、市販のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置に導入し、28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、測定装置における体積基準のメジアン径として測定した値として得ることができる。
【0043】
(タップ密度)
活物質(A)のタップ密度は、通常0.7g/cm
3以上であり、1.0g/cm
3以上が好ましい。また、通常1.3g/cm
3以下であり、1.1g/cm
3以下が好ましい。
タップ密度が低すぎると、非水系二次電池用の負極に用いた場合に高速充放電特性に劣り、一方タップ密度が高すぎると、負極を構成する材料である粒子内における活物質(A)の密度が高く、負極形成材料の圧延性に欠け、高密度の負極シートを形成することが難しくなる場合がある。
本発明において、タップ密度は、粉体密度測定器を用い、直径1.6cm、体積容量20cm
3の円筒状タップセルに、目開き300μmの篩を通して試料を落下させてセルに満杯に充填した後、ストローク長10mmのタップを1000回行ない、該タップ後の体積と試料の重量から求めた密度をタップ密度として定義する。
【0044】
(BET法比表面積(SA))
活物質(A)のBET法で測定した比表面積(BET法比表面積)は、通常1m
2/g以上、11m
2/g以下である。この範囲であれば、Liイオンが出入りする部位が十分であるため、非水系二次電池用の負極に用いた場合でも良好な高速充放電特性・出力特性が得られ、活物質の電解液に対する活性を制御し、初期不可逆容量を小さくし、さらには高容量化を容易に図ることができる。
BET比表面積は、好ましくは1.2m
2/g以上、より好ましくは、1.5m
2/g以上であり、また、好ましくは10m
2/g以下、より好ましくは9m
2/g以下、さらに好ましくは8m
2/g以下である。
なお、本願明細書において、BET法比表面積は、比表面積測定装置を用いて、窒素ガス吸着流通法によりBET5点法にて測定した値とする。
【0045】
(X線パラメータ)
活物質(A)が炭素材料である場合、該炭素材のX線広角回折法による(002)面の面間隔d
002は、通常0.335nm以上、0.340nm未満、好ましくは0.339nm以下であり、より好ましくは0.337nm以下である。d
002値が0.340nm未満であれば、適切な結晶性が得られ、非水系二次電池用の負極に用いた場合に初期不可逆容量の増加が抑制できる。なお、0.335nmは黒鉛の理論値である。
【0046】
(ラマンR値)
活物質(A)が炭素材料である場合、該炭素材のラマンR値は、1580cm
−1付近のピークP
Aの強度I
Aと、1360cm
−1付近のピークP
Bの強度I
Bとを測定し、その強度比R(R=I
B/I
A)を算出して定義する。
R値は通常0.01以上、1以下であり、0.6以下が好ましい。ラマンR値がこの範囲を下回ると、粒子表面の結晶性が高くなり過ぎて、高密度化した場合に電極板と平行方向に結晶が配向し易くなり、負荷特性の低下を招く傾向がある。一方、この範囲を上回ると、粒子表面の結晶性が乱れ、電解液との反応性が増し、非水系二次電池用の負極に用いた場合に効率の低下やガス発生の増加を招く傾向がある。
【0047】
ラマンスペクトルはラマン分光器で測定できる。具体的には、測定対象粒子を測定セル内へ自然落下させることで試料を充填し、測定セル内にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、測定セルを照射したレーザー光と垂直な面内で回転させながら測定を行なう。
アルゴンイオンレーザー光の波長 :532nm
試料上のレーザーパワー :25mW
分解能 :4cm
−1
測定範囲 :1100cm
−1〜1730cm
−1
ピーク強度測定、ピーク半値幅測定:バックグラウンド処理、スムージング処理(単純平均によるコンボリューション5ポイント)
【0048】
(活物質(A)の製造方法)
以上説明した活物質(A)は種々の公知の方法により製造可能であり、その製造方法は特に制限されない。ここでは、本発明において活物質(A)として好ましく用いられる球形化天然黒鉛について、天然黒鉛からの製造方法について説明する。
【0049】
球形化天然黒鉛は天然黒鉛を球形化することで得られるものである。その球形化処理に用いる装置としては、例えば、衝撃力を主体に粒子の相互作用も含めた圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を繰り返し粒子に与える装置を用いることができる。
具体的には、ケーシング内部に多数のブレードを設置したローターを有し、そのローターが高速回転することによって、内部に導入された天然黒鉛原料に対して衝撃圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を与え、表面処理を行なう装置が好ましい。
【0050】
球形化処理を施すことにより、鱗片状の天然黒鉛が折りたたまれるか、もしくは周囲エッジ部分が球形粉砕されて、母体粒子は球状となる。その母体粒子に、粉砕により生じた主に5μm以下の微粉が付着する。なお、球形化処理後の天然黒鉛の表面官能基量O/C値が通常1%以上、4%以下となる条件で、球形化処理を行うことが好ましい。
この際には、機械的処理のエネルギーにより天然黒鉛表面の酸化反応を進行させ、天然黒鉛表面に酸性官能基を導入することができるよう、活性雰囲気下で球形化処理を行うことが好ましい。例えば前述の装置を用いて処理する場合には、回転するローターの周速度を通常30〜100m/秒とし、40〜100m/秒にすることが好ましく、50〜100m/秒にすることがより好ましい。
【0051】
(被覆処理)
本発明に使用される活物質(A)は、その表面の少なくとも一部が炭素質物によって被覆されていてもよい。この被覆の態様は走査型電子顕微鏡(SEM)写真等で確認することができる。
なお、被覆処理に用いる炭素質物としては非晶質炭素及び黒鉛化物が挙げられるが、それらは後述する被覆処理における焼成温度の相違によって、得られるものが異なる。
【0052】
具体的には、前記炭素質物の炭素前駆体として、以下の(1)又は(2)に記載の材料が好ましい。
(1)石炭系重質油、直流系重質油、分解系石油重質油、芳香族炭化水素、N環化合物、S環化合物、ポリフェニレン、有機合成高分子、天然高分子、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種の炭化可能な有機物。
(2)上記(1)に示した炭化可能な有機物を低分子有機溶媒に溶解させたもの。
上記(1)及び(2)の中でも石炭系重質油、直流系重質油、若しくは分解系石油重質油、またはこれらを低分子有機溶媒に溶解させたものが、焼成後の炭素質物が均一に被覆されるのでより好ましい。
【0053】
被覆処理においては、例えば活物質(A)として球形化天然黒鉛を用いて核黒鉛とした場合に、炭素質物を得るための炭素前駆体を被覆原料として、これらを混合、焼成することで、炭素質物が被覆された活物質(A)が得られる。
焼成温度を、通常600℃以上、好ましくは700℃以上、より好ましくは900℃以上、通常2000℃以下、好ましくは1500℃以下、より好ましくは1200℃以下とすると炭素質物として非晶質炭素が得られる。
また焼成温度を通常2000℃以上、好ましくは2500℃以上、通常3200℃以下で熱処理を行うと炭素質物として黒鉛化物が得られる。
前記非晶質炭素とは結晶性の低い炭素であり、前記黒鉛化物とは結晶性の高い炭素である。
【0054】
<有機化合物(B)>
次に、本発明の非水系二次電池負極用活物質の構成成分である有機化合物(B)について説明する。
有機化合物(B)は、ガスの発生を効果的に抑制する観点から、イオン性基及び芳香環を有する。
有機化合物(B)中のイオン性基は非水系電解液に難溶であり、芳香環はπ共役構造を有することから、有機化合物(B)を非水系二次電池用負極に用いた場合に、ガスの発生を抑制することができる。
【0055】
有機化合物(B)の有するイオン性基が非水系電解液に難溶であることによって、本発明の非水系二次電池負極用活物質の非水系電解液に対する耐性が向上し、活物質(A)に吸着されている有機化合物(B)が非水系電解液に溶出しにくくなる。
【0056】
なお、本明細書において、「非水系電解液に難溶」とは有機化合物(B)をエチルカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:7の体積比で混合した溶媒に24時間浸漬し、浸漬前後における乾燥重量減少率が10質量%以下であることと定義する。
【0057】
また有機化合物(B)の有する芳香環は、π共役構造を有するため、活物質(A)が有するπ平面構造部分と作用することによって、活物質(A)表面のπ平面構造部分を選択的に被覆するため、ガスの発生を効果的に抑制し、負極抵抗の上昇を抑制することが可能であると考えられる。
【0058】
なお本明細書において、前記有機化合物(B)が有する芳香環とは、π電子を持つ原子が環状に並んだ構造であって、ヒュッケル則を満たし、π電子が環上で非局在化した、平面構造の環と定義される。
【0059】
このような芳香環を有する有機化合物(B)として、具体的には、単環の5員環であるフラン、ピロール、イミダゾール、チオフェン、ホスホール、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール;単環の6員環であるベンゼン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン;二環の5員環+6員環であるベンゾフラン、イソベンゾフラン、インドール、イソインドール、ベンゾチオフェン、ベンゾホスホール、ベンゾイミダゾール、プリン、インダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、ベンゾチアゾール;二環の6員環+6員環であるナフタレン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン;多環のアントラセン、ピレン等が挙げられる。
【0060】
これらの中でも、非水系二次電池用の負極に用いた場合にガスの発生を抑制する観点から、ベンゼン又はナフタレンが好ましい。
【0061】
有機化合物(B)が有するイオン性基とは、水中でアニオン又はカチオンを生じうる基であり、その例としては、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基及びこれらの塩が挙げられる。前記塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
これらの中でも、非水系二次電池用の負極に用いた場合の初期不可逆容量の観点から、スルホン酸基又はそのリチウム塩もしくはナトリウム塩が好ましい。
【0062】
有機化合物(B)は一種の化合物がイオン性基と芳香環を共に有していてもよいし、イオン性基を有する化合物と芳香環を有する化合物の混合物であってもよい。
【0063】
また、有機化合物(B)は低分子化合物であっても、高分子化合物(ポリマー)であってもよいが、ガスの発生を効果的に抑制する観点からは、高分子化合物であることが好ましい。
【0064】
前記低分子化合物の例としては、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸リチウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、アニリンスルホン酸、アニリンスルホン酸ナトリウム、アニリンスルホン酸リチウム、アントラセンスルホン酸、アントラセンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
中でも活物質(A)への吸着特性が高い点から、ナフタレンスルホン酸リチウム又はナフタレンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0065】
また、有機化合物(B)が高分子化合物である場合、その重量平均分子量は特に制限されないが、通常500以上、好ましくは1000以上、より好ましくは2000以上、更に好ましくは2500以上である。一方前記重量平均分子量は、通常100万以下、好ましくは50万以下、より好ましくは30万以下、更に好ましくは20万以下である。
なお、本明細書において重量平均分子量とは、溶媒テトラヒドロフラン(THF)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量あるいは、溶媒が水系、ジメチルホルムアミド(DMF)又はジメチルスルホキシド(DMSO)のGPCにより測定した標準ポリエチレングリコール換算の重量平均分子量である。
【0066】
有機化合物(B)が高分子化合物(ポリマー)である場合、該高分子化合物はイオン性基と芳香環とを有することが好ましい。
当該ポリマーを構成する構造単位となるモノマーとしては、イオン性基を有するモノマーと芳香環を有するモノマーが挙げられる。また、イオン性基と芳香環とを共に有するモノマーであってもよい。
【0067】
この場合、前記ポリマーは、イオン性基を有し芳香環を有さないモノマーと、芳香環を有しイオン性基を有さないモノマーとの共重合体であってもよいし、イオン性基と芳香環を共に有するモノマーの重合体であってもよい。また、イオン性基を有するモノマーの重合体と芳香環を有するモノマーの重合体の混合物であってもよい。
中でも、電解液中における非水系二次電池負極用活物質において活物質(A)を被覆している有機化合物(B)の安定性の点から、有機化合物(B)はイオン性基と芳香環とを共に有するモノマーの重合体であることが好ましい。
【0068】
なお、前記モノマーが有するイオン性基としては、上述したイオン性基と同様であるが、中でもカルボン酸基、スルホン酸基又はそれらの塩が電池内での安定性と抵抗上昇抑制の点から好ましい。これに芳香環を有するモノマーを共重合させて得られた有機化合物(B)が、活物質(A)の表面(特に黒鉛においてはベーサル面)への吸着性向上の点から好ましい。
【0069】
イオン性基と芳香環とを有するモノマーの例としては、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸リチウム、スチレンスルホン酸ナトリウム、アニリン、アニリンスルホン酸、アニリンスルホン酸の塩、安息香酸ビニル及び安息香酸ビニルの塩等が挙げられる。
イオン性基を有し、芳香環を有さないモノマーの例としては、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸リチウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸リチウム、メタクリル酸、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸リチウム等が挙げられる。
芳香環を有し、イオン性基を有さないモノマーの例としては、スチレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート等が挙げられる。
【0070】
このようなモノマーに由来する構造単位を含むポリマーの具体的な例としては、スチレン−ビニルスルホン酸共重合体、スチレン−ビニルスルホン酸ナトリウム共重合体、スチレン−ビニルスルホン酸リチウム共重合体、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸リチウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリアニリンスルホン酸、ポリアニリンスルホン酸リチウム、ポリアニリンスルホン酸ナトリウム、スチレン−スチレンスルホン酸共重合体、スチレン−スチレンスルホン酸リチウム共重合体、スチレン−スチレンスルホン酸ナトリウム共重合体、ポリビニル安息香酸、ポリビニル安息香酸リチウム、ポリビニル安息香酸ナトリウム、スチレン−ビニル安息香酸共重合体、スチレン−ビニル安息香酸リチウム共重合体、スチレン−ビニル安息香酸ナトリウム共重合体等が挙げられる。
【0071】
ガスの発生を効果的に抑制する観点から、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸リチウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、スチレン−スチレンスルホン酸共重合体、スチレン−スチレンスルホン酸リチウム共重合体、スチレン−スチレンスルホン酸ナトリウム共重合体、ポリビニル安息香酸、ポリビニル安息香酸リチウム、ポリビニル安息香酸ナトリウム、スチレン−ビニル安息香酸共重合体、スチレン−ビニル安息香酸リチウム共重合体及びスチレン−ビニル安息香酸ナトリウム共重合体が好ましい。
さらに、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸リチウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、スチレン−スチレンスルホン酸リチウム共重合体及びスチレン−スチレンスルホン酸ナトリウム共重合体がより好ましい。
中でも、ポリスチレンスルホン酸リチウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、スチレン−スチレンスルホン酸リチウム共重合体及びスチレン−スチレンスルホン酸ナトリウム共重合体が活物質表面、特には黒鉛ベーサル面への吸着性が高いため特に好ましい。
【0072】
有機化合物(B)の電気伝導率は特に制限されないが、25℃において通常0S/cmより大きく、0.1S/cm以下が好ましく、0.01S/cm以下がより好ましく、0.001S/cm以下が更に好ましく、0.0001S/cmより小さいことが特に好ましい。有機化合物(B)の電気伝導率が0.1S/cm以下の低導電性材料であれば、有機化合物(B)表面上で電解液が還元分解されることを抑制することが出来る観点から好ましい。
【0073】
電気伝導率は、例えば、ガラス基板上にてスピンコータ成膜やドロップキャスト成膜などの成膜法によって、有機化合物(B)からフィルムを作製し、そのフィルム厚みと四端子法にて測定された表面抵抗値とを掛け合わせた値の逆数から算出することができる。
フィルム厚みはKLA製段差・表面粗さ・微細形状測定装置テンコールαステップ型で測定することができ、四端子法による表面抵抗値は三菱化学アナリテック製ロレスタGP MCP−T610型にて測定することができる。
【0074】
以上説明した有機化合物(B)は、市販されているものを使用してもよいし、公知の方法により合成することもできる。なお、本発明において有機化合物(B)は低分子化合物、高分子化合物に関わらず、1種の化合物を単独で又は2種以上の化合物を組み合わせて使用することができる。
【0075】
<その他の成分>
本発明に係る非水系二次電池負極用活物質には、負極の導電性を向上させるために、導電剤を含有させてもよい。
導電剤は、特に限定されず、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラックや、平均粒径1μm以下のCu、Ni又はこれらの合金からなる微粉末などを使用することができる。
前記導電剤の添加量は、本発明の非水系二次電池負極用活物質に対して、10質量%以下であることが好ましい。
【0076】
<非水系二次電池負極用活物質の製造方法>
本発明の非水系二次電池負極用活物質は、以上説明した活物質(A)と有機化合物(B)を混合することで得られる。なお、後述するように、有機化合物(B)は、負極作製時に負極形成材料であるスラリーを調製する際に、活物質(A)と混合してもよい。
【0077】
活物質(A)と有機化合物(B)との混合を容易にするため、有機化合物(B)を溶媒に溶解又は分散して溶液状態とし、これに活物質(A)を投入する。その後有機化合物(B)が活物質(A)と均一に混合され、また活物質(A)表面に有機化合物(B)が付着するようによく攪拌する。そして十分に混合した後、濾過または加熱により溶媒を除去することにより、本発明の活物質を得ることができる。
【0078】
前記溶媒としては、水や、エチルメチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、メタノール等の有機溶媒が挙げられるが、入手が容易でまた環境負荷も少ないことから、水が好ましい。
また前記加熱は、通常60〜120℃程度である。溶媒を除去した後、活物質を減圧下で乾燥する場合、その温度は通常300℃以下、50℃以上である。この範囲であれば、乾燥効率が十分であり、かつ溶媒残存による電池性能の低下が避けられ、かつ有機化合物(B)の分解防止や、活物質(A)と有機化合物(B)との相互作用が弱くなることによる効果の低減防止を容易に図ることができる。
乾燥温度は、好ましくは250℃以下であり、また、好ましくは100℃以上である。
【0079】
<非水系二次電池負極用活物質>
このようにして得られる本発明の非水系二次電池負極用活物質においては、有機化合物(B)が活物質(A)に効果的に吸着し、強固に被覆していると考えられる。
【0080】
本発明の非水系二次電池負極用活物質を非水系電解液に75℃で3日間浸漬した場合、その非水系電解液への有機化合物(B)の溶出量は、有機化合物(B)全体の通常30質量%以下であり、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、更に好ましくは5質量%以下である。また通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上である。
非水系二次電池負極用活物質中の有機化合物(B)の非水系電解液への溶出量を測定する際に用いる非水系電解液は、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/エチルメチルカーボネート=3/3/4の体積比で混合した溶媒である。溶出量の測定方法は、特に限定されないが、例えば非水系二次電池負極用活物質を非水系電解液に75℃で3日間浸漬した後、非水系二次電池負極用活物質を取り出して乾燥させ、浸漬処理の前後で非水系二次電池負極用活物質の質量を測ることで測定することができる。また、浸漬処理の前後での非水系二次電池負極用活物質のNMRスペクトルを測定することによっても前記溶出量を測定することができる。
【0081】
なお、前記溶出量が0.01質量%未満では活物質表面を十分に被覆できないために初期充放電効率の向上効果及び、ガス発生抑制効果が得られにくくなる傾向があり、一方30質量%を超えると、負極抵抗の上昇や、活物質割合が低下するため、単位重量あたりの容量が低下する場合がある。
【0082】
また、本発明の非水系二次電池負極用活物質において有機化合物(B)の含有割合は、活物質(A)100質量部に対して通常0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上であり、また通常10質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは2質量部以下、更に好ましくは1質量部以下、特に好ましくは0.75質量部以下、とりわけ好ましくは0.5質量部以下の割合で含有されている。
【0083】
有機化合物(B)の含有量が少なすぎると、活物質(A)を効果的に被覆することが困難な場合があり、一方有機化合物(B)の含有量が多すぎると、活物質(A)と有機化合物(B)による被覆層との界面抵抗が上がってしまう場合がある。
【0084】
非水系二次電池負極用活物質における有機化合物(B)の含有量は、非水系二次電池負極用活物質の製造時に有機化合物(B)を含んだ溶液を乾燥させる製造法を用いた場合には、原則として製造時における有機化合物(B)の添加量とすることができる。
一方で、例えば、溶媒を除去する際に濾過を行なう製造法を用いる場合は、得られた本発明の活物質のTG−DTA分析における重量減少、又は濾液に含まれる有機化合物(B)の量から算出することができる。
【0085】
また、本発明の非水系二次電池負極用活物質の平均粒子径(d50)は、通常50μm以下とすることができ、また、1μm以上とすることができる。この範囲であれば、負極製造の際に、極板化した際に、負極形成材料の筋引きなどの工程上の不都合が生ずることを防止することができる。
平均粒子径(d50)は、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下であり、また、好ましくは4μm以上、より好ましくは10μm以上である。なお、平均粒子径(d50)の測定方法は、前述した通りである。また、本発明の非水系二次電池負極用活物質の平均粒子径(d50)は、その原料である活物質(A)の平均粒子径(d50)を変更することによって、調整することができる。
【0086】
[非水系二次電池用負極]
本発明の非水系二次電池用負極は、集電体と、集電体上に形成された活物質層を備え、かつ前記活物質層が少なくとも本発明の非水系二次電池負極用活物質を含有するものである。前記活物質層は、好ましくは、さらにバインダを含有する。
前記バインダは、特に限定されないが、分子内にオレフィン性不飽和結合を有するものが好ましい。その具体例としては、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン・イソプレン・スチレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体などが挙げられる。
このようなオレフィン性不飽和結合を有するバインダを用いることにより、活物質層の電解液に対する膨潤性を低減することができる。中でも入手の容易性から、スチレン−ブタジエンゴムが好ましい。
【0087】
このような分子内にオレフィン性不飽和結合を有するバインダと、本発明の非水系二次電池負極用活物質とを組み合わせて用いることにより、負極板の機械的強度を高くすることができる。負極板の機械的強度が高いと、充放電による負極の劣化が抑制され、サイクル寿命を長くすることができる。
分子内にオレフィン性不飽和結合を有するバインダは、分子量が大きいもの及び/又は不飽和結合の割合が大きいものが好ましい。
バインダの分子量としては、重量平均分子量は通常1万以上、100万以下である。この範囲であれば、機械的強度及び可撓性の両面を良好な範囲に制御できる。重量平均分子量は、好ましくは5万以上であり、また、好ましくは30万以下の範囲である。
【0088】
バインダの分子内のオレフィン性不飽和結合の割合としては、全バインダ1g当たりのオレフィン性不飽和結合のモル数は通常2.5×10
−7モル以上、5×10
−6モル以下である。この範囲であれば、強度向上効果が十分に得られ、可撓性も良好である。前記モル数は、好ましくは8×10
−7以上であり、また、好ましくは1×10
−6以下である。
【0089】
また、オレフィン性不飽和結合を有するバインダについては、その不飽和度は通常15%以上、90%以下である。不飽和度は、好ましくは20%以上、より好ましくは40%以上であり、また、好ましくは80%以下である。本願明細書において、不飽和度とは、ポリマーの繰り返し単位数に対する二重結合の割合(%)を表す。
【0090】
バインダとして、オレフィン性不飽和結合を有さないバインダも、使用することができる。分子内にオレフィン性不飽和結合を有するバインダにオレフィン性不飽和結合を有さないバインダを併用することによって、本発明の活物質やバインダを含有する負極形成材料の塗布性等の向上が期待できる。
オレフィン性不飽和結合を有するバインダに対する、オレフィン性不飽和結合を有さないバインダの混合比率は、活物質層の強度が低下することを抑制するため、通常150質量%以下、好ましくは120質量%以下である。
【0091】
前記オレフィン性不飽和結合を有さないバインダの例としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、澱粉、カラギナン、プルラン、グアーガム、ザンサンガム(キサンタンガム)等の増粘多糖類;ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル類;ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のビニルアルコール類;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のポリ酸又はこれらポリマーの金属塩;ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのアルカン系ポリマー又はこれらの共重合体などが挙げられる。
【0092】
本発明に係る非水系二次電池用負極は、本発明の非水系二次電池負極用活物質と、場合によってバインダや導電剤を分散媒に分散させてスラリー(負極形成材料)とし、これを集電体に塗布、乾燥することにより形成することができる。前記分散媒としては、アルコールなどの有機溶媒や、水を用いることができる。
スラリー調製の際には、活物質(A)に、バインダ等とともに有機化合物(B)を添加・混合して、本発明の非水系二次電池負極用活物質の製造及び負極作製用スラリーの調製を同時に行ってもよい。
【0093】
前記バインダは、本発明の非水系二次電池負極用活物質に対して通常は0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上用いる。バインダの割合を本発明の活物質に対して0.1質量%以上とすることで、活物質相互間や活物質と集電体との結着力が十分となり、負極から本発明の活物質が剥離することによる電池容量の減少およびサイクル特性の悪化を防ぐことができる。
【0094】
また、バインダは本発明の非水系二次電池負極用活物質に対して通常10質量%以下、7質量%以下とすることが好ましい。バインダの割合を本発明の活物質に対して10質量%以下とすることにより、負極の容量の減少を防ぎ、かつ非水系二次電池がリチウムイオン電池であって場合のリチウムイオンの活物質への出入が妨げられるなどの問題を防ぐことができる。
これらの構成成分を混合した後、必要に応じて脱泡を行い、負極形成材料であるスラリーを得る。
【0095】
上記負極集電体としては、従来この用途に用い得ることが知られている公知の物を用いることができる。例えば、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、チタンおよび炭素などを用いることができる。
前記集電体の形状は通常はシート状であり、その表面に凹凸をつけたもの、ネット又はパンチングメタルなどを用いるものも好ましい。
【0096】
二次電池用の負極とした際の本発明の活物質層の密度は、用途により異なるが、車載用途やパワーツール用途などの入出力特性を重視する用途においては、通常1.1g/cm
3以上、1.65g/cm
3以下である。この範囲であれば、密度が低すぎることによる粒子同士の接触抵抗の増大を回避することができ、一方、密度が高すぎることによるレート特性の低下も抑制することができる。
前記密度は、好ましくは1.2g/cm
3以上、さらに好ましくは1.25g/cm
3以上である。
【0097】
一方携帯電話やパソコンといった携帯機器用途などの容量を重視する用途では、活物質層の密度は通常1.45g/cm
3以上、1.9g/cm
3以下である。この範囲であれば、密度が低すぎることによる単位体積あたりの電池の容量低下を回避することができ、一方、密度が高すぎることによるレート特性の低下も抑制することができる。
前記密度は、好ましくは1.55g/cm
3以上、さらに好ましくは1.65g/cm
3以上、特に好ましくは1.7g/cm
3以上である。
【0098】
[非水系二次電池]
以下、本発明に係る非水系二次電池に関する部材の詳細を例示するが、使用し得る材料やそれらの作製の方法等は以下の具体例に限定されるものではない。
本発明の非水系二次電池の基本的構成は、従来公知の非水系二次電池と同様とすることができ、通常、リチウムイオンを吸蔵・放出することができる正極及び負極、並びに電解質(「非水系電解液」と称することもある。)を備え、前記負極は本発明の非水系二次電池用負極である。
以下、非水系二次電池の各構成要素等について説明する。
【0099】
<正極>
正極は、正極用活物質及びバインダを含有する正極活物質層を、集電体上に形成したものである。
正極用活物質としては、リチウムイオンなどのアルカリ金属カチオンを充放電時に吸蔵、放出できる金属カルコゲン化合物などが挙げられる。中でもリチウムイオンを吸蔵・放出可能な金属カルコゲン化合物が好ましい。
金属カルコゲン化合物としては、バナジウム酸化物、モリブデン酸化物、マンガン酸化物、クロム酸化物、チタン酸化物、タングステン酸化物などの遷移金属酸化物;バナジウム硫化物、モリブデン硫化物、チタン硫化物、CuSなどの遷移金属硫化物;NiPS
3、FePS
3等の遷移金属のリン−硫黄化合物;、VSe
2、NbSe
3などの遷移金属のセレン化合物;Fe
0.25V
0.75S
2、Na
0.1CrS
2などの遷移金属の複合酸化物;LiCoS
2、LiNiS
2などの遷移金属の複合硫化物等が挙げられる。
【0100】
中でも、リチウムイオンの吸蔵・放出の観点から、V
2O
5、V
5O
13、VO
2、Cr
2O
5、MnO
2、TiO
2、MoV
2O
8、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMn
2O
4、TiS
2、V
2S
5、Cr
0.25V
0.75S
2、Cr
0.5V
0.5S
2などが好ましく、特に好ましいのはLiCoO
2、LiNiO
2、LiMn
2O
4や、これらの遷移金属の一部を他の金属で置換したリチウム遷移金属複合酸化物である。
これらの正極用活物質は、単独で用いても複数を混合して用いてもよい。
【0101】
正極用のバインダは、特に限定されず、公知のものを任意に選択して用いることができる。例としては、シリケート、水ガラス等の無機化合物や、テフロン(登録商標)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の不飽和結合を有さない樹脂などが挙げられる。中でも好ましいのは、酸化反応時に分解しにくいため、不飽和結合を有さない樹脂である。
バインダの重量平均分子量は、通常1万以上とすることができ、また、通常300万以下とすることができる。重量平均分子量は、好ましくは10万以上であり、また、好ましくは100万以下である。
【0102】
正極活物質層中には、正極の導電性を向上させるために、導電剤を含有させてもよい。導電剤は、特に限定されず、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛などの炭素粉末、各種の金属の繊維、粉末、箔などが挙げられる。
【0103】
本発明の正極は、上述したような負極の製造方法と同様にして、活物質と、場合によりバインダ及び/又は導電剤を分散媒に分散させてスラリーとし、これを集電体表面に塗布、乾燥することにより形成することができる。正極の集電体は、特に限定されず、その例としてアルミニウム、ニッケル、ステンレススチール(SUS)などが挙げられる。
【0104】
<電解質>
本発明の非水系二次電池における非水系電解液に用いられる電解質には制限はなく、電解質として用いられる公知のものを任意に採用して含有させることができる。また、なお、前記非水系電解液を有機高分子化合物等によりゲル状、ゴム状、固体シート状にしてもよい。
【0105】
電解質としてはリチウム塩が好ましい。電解質の具体例としては、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)フォスフェート、フルオロスルホン酸リチウム等が挙げられる。
これらの電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0106】
リチウム塩の非水系電解液中の濃度は任意であるが、通常0.5mol/L以上、好ましくは0.6mol/L以上、より好ましくは0.8mol/L以上、また、通常3mol/L以下、好ましくは2mol/L以下、より好ましくは1.5mol/L以下の範囲である。
リチウム塩の総モル濃度が上記範囲内にあることにより、非水系電解液の電気伝導率が十分となり、一方、塩過剰による粘度上昇のための電気伝導度の低下、電池性能の低下を防ぐことができる。
【0107】
<非水系溶媒>
非水系電解液が含有する非水系溶媒は、電池として使用した際に、電池特性に対して悪影響を及ぼさない溶媒であれば特に制限されない。
通常使用される非水系溶媒の例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートやエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネートなどのカーボネート化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の鎖状カルボン酸エステル;γ−ブチロラクトン等の環状カルボン酸エステル;ジメトキシエタン、ジエトキシエタン等の鎖状エーテル;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等の環状エーテル;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル等のニトリル;リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル;エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、メタンスルホン酸メチル、スルホラン、ジメチルスルホン等の含硫黄化合物等が挙げられる。
これら化合物においては、水素原子が一部ハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0108】
上記非水系溶媒は単独で用いても、2種類以上を併用してもよいが、2種以上の化合物を併用することが好ましい。例えば、環状カーボネートや環状カルボン酸エステル等の高誘電率溶媒と、鎖状カーボネートや鎖状カルボン酸エステル等の低粘度溶媒とを併用することが好ましい。
【0109】
<助剤>
非水系電解液には、上述の電解質、非水系溶媒以外に、目的に応じて適宜助剤を配合してもよい。負極表面に被膜を形成し、電池の寿命を向上させる効果を有する助剤としては、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート等の不飽和環状カーボネート;フルオロエチレンカーボネート等のフッ素原子を有する環状カーボネート;4−フルオロビニレンカーボネート等のフッ素化不飽和環状カーボネート;下記一般式(1)で表される化合物等のイソシアネート化合物が挙げられる。
中でも、ガス抑制の点から、ビニレンカーボネート又は下記一般式(1)で表されるイソシアネート化合物が好ましい。
【0111】
上記式中、Aは、水素原子、ハロゲン原子、ビニル基、イソシアネート基、C
1〜C
20の一価脂肪族炭化水素基(ヘテロ原子を有していてもよい。)又はC
6〜C
20の一価芳香族炭化水素基(ヘテロ原子を有していてもよい。)を表す。Bは、酸素原子、SO
2、C
1〜C
20の二価脂肪族炭化水素基(ヘテロ原子を有していてもよい。)、又はC
6〜C
20の二価芳香族炭化水素基(ヘテロ原子を有していてもよい。)を表す。
【0112】
一般式(1)で表されるイソシアネート化合物の例としては、次のような化合物などが挙げられる。
ジイソシアナトスルホン、ジイソシアナトエーテル、トリフルオロメタンイソシアネート、ペンタフルオロエタンイソシアネート、トリフルオロメタンスルホニルイソシアネート、ペンタフルオロエタンスルホニルイソシアネート、ベンゼンスルホニルイソシアネート、p−トルエンスルホニルイソシアネート、4−フルオロベンゼンスルホニルイソシアネート、1,3−ジイソシアナトプロパン、1,3−ジイソシアナト−2−フルオロプロパン、1,4−ジイソシアナトブタン、1,4−ジイソシアナト−2−ブテン、1,4−ジイソシアナト−2−フルオロブタン、1,4−ジイソシアナト−2,3−ジフルオロブタン、1,5−ジイソシアナトペンタン、1,5−ジイソシアナト−2−ペンテン、1,5−ジイソシアナト−2−メチルペンタン、1,6−ジイソシアナトヘキサン、1,6−ジイソシアナト−2−ヘキセン、1,6−ジイソシアナト−3−ヘキセン、1,6−ジイソシアナト−3−フルオロヘキサン、1,6−ジイソシアナト−3,4−ジフルオロヘキサン、1,7−ジイソシアナトヘプタン、1,8−ジイソシアナトオクタン、1,12−ジイソシアナトデカン、1−イソシアナトエチレン、イソシアナトメタン、1−イソシアナトエタン、1−イソシアナト−2−メトキシエタン、3−イソシアナト−1−プロペン、イソシアナトシクロプロパン、2−イソシアナトプロパン、1−イソシアナトプロパン、1−イソシアナト−3−メトキシプロパン、1−イソシアナト−3−エトキシプロパン、2−イソシアナト−2−メチルプロパン、1−イソシアナトブタン、2−イソシアナトブタン、1−イソシアナト−4−メトキシブタン、1−イソシアナト−4−エトキシブタン、メチルイソシナトホルメート、イソアナトシクロペンタン、1−イソシアナトペンタン、1−イソシアナト−5−メトキシペンタン、1−イソシアナト−5−エトキシペンタン、2−(イソシアナトメチル)フラン、イソシアナトシクロヘキサン、1−イソシアナトヘキサン、1−イソシアナト−6−メトキシヘキサン、1−イソシアナト−6−エトキシヘキサン、エチルイソシアナトアセテート、イソシアナトシクロペンタン、イソシアナトメチル(シクロヘキサン)、1−イソシアナトヘプタン、エチル3−イソシアナトプロパノエート、イソシアナトシクロオクタン、2−イソシアナトエチル−2−メチルアクリレート、1−イソシアナトオクタン、2−イソシアナト−2,4,4−トリメチルペンタン、ブチルイソシアナトアセテート、エチル4−イソシアナトブタノエート、1−イソシアナトノナン、1−イソシアナトアダマンタン、1−イソシアナトデカン、エチル6−イソシアナトヘキサノエート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1−イソシアナトウンデカン、ジイソシアナトベンゼン、トルエンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、エチルジイソシアナトベンゼン、トリメチルジイソシアナトベンゼン、ジイソシアナトナフタレン、ジイソシアナトビフェニル、ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2−ビス(イソシアナトフェニル)ヘキサフルオロプロパン、アリルイソシアネート、ビニルイソシアネート。
【0113】
中でも、下記式(2)で示される構造を有するジイソシアネート化合物が好ましい。
【0115】
式(2)で表される化合物であれば、充放電に伴う電極の膨張・収縮の物理的変形に対する耐性を効果的に高めることができる。これは鎖状のメチレン基が被膜及び/又は電極構造中に取り込まれることで、電極構造体に適度な弾性を付与する為である。
従って、この目的においてはメチレン基の長さが重要であって、式中、xは4〜12の整数が好ましく、さらに好ましくは4〜8の整数である。
具体的には、式(2)の化合物として1,4−ジイソシアナトブタン、1,5−ジイソシアナトペンタン、1,6−ジイソシアナトヘキサン、1,7−ジイソシアナトヘプタン、1,8−ジイソシアナトオクタン等が好ましい。
【0116】
本発明において、非水系電解液の組成中における上記助剤の濃度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、また、通常5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下の範囲である。
上記範囲であれば、電池内の化学的及び物理的安定性を十分に高めることができるとともに、被膜形成による過度な抵抗増加を抑制することができる。
【0117】
上記助剤の他に、電池が過充電等の状態になった際に電池の破裂・発火を効果的に抑制する過充電防止剤として、ビフェニル、シクロヘキシルベンゼン、ジフェニルエーテル、t−ブチルベンゼン、t−ペンチルベンゼン、ジフェニルカーボネート、メチルフェニルカーボネート等の芳香族化合物等が挙げられる。
また、電池のサイクル特性や低温放電特性を向上させる助剤としては、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム、フルオロスルホン酸リチウム、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)フォスフェート等のリチウム塩等が挙げられる。
【0118】
高温保存後の容量維持特性やサイクル特性を向上させることができる助剤としては、エチレンサルファイト、プロパンスルトン、プロペンスルトン等の含硫黄化合物;無水コハク酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸等のカルボン酸無水物;スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル等のニトリル化合物が挙げられる。
【0119】
<セパレータ>
非水系二次電池において、正極と負極との間には、短絡を防止するために、通常はセパレータを介在させる。この場合、上述の非水系電解液は、通常はこのセパレータに含浸させて用いる。
セパレータの材料や形状については特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。中でも、非水系電解液に対し安定な材料で形成された、樹脂、ガラス繊維、無機物等が用いられ、保液性に優れた多孔性シート又は不織布状の形態のもの等を用いることが好ましい。
【0120】
樹脂、ガラス繊維セパレータの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ガラスフィルター等を用いることができる。
好ましくはガラスフィルター又はポリオレフィンであり、さらに好ましくはポリオレフィンである。
これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0121】
セパレータの厚さは任意であるが、通常1μm以上であり、5μm以上が好ましく、10μm以上がさらに好ましく、また、通常50μm以下であり、40μm以下が好ましく、30μm以下がさらに好ましい。
セパレータが、上記範囲より薄過ぎると、絶縁性や機械的強度が低下する場合がある。また、上記範囲より厚過ぎると、レート特性等の電池性能が低下するおそれがあるばかりでなく、非水系二次電池全体としてのエネルギー密度が低下する場合がある。
【0122】
一方、無機物のセパレータとしては、例えば、アルミナや二酸化ケイ素等の酸化物、窒化アルミや窒化ケイ素等の窒化物、硫酸バリウムや硫酸カルシウム等の硫酸塩が用いられ、粒子形状もしくは繊維形状のものが用いられる。
【実施例】
【0123】
次に実施例により本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
実施例及び比較例において行った各種評価等の方法を下記に示す。
【0124】
<平均粒子径(d50)>
活物質(A)の平均粒子径(d50)は、界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートの0.2質量%水溶液10mLに、試料である活物質(A)0.01gを懸濁させ、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(商品名:HORIBA製LA−920)に導入し、28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、測定装置における体積基準のメジアン径として測定した。
【0125】
<タップ密度>
活物質(A)のタップ密度は、粉体密度測定器を用い、直径1.6cm、体積容量20cm
3の円筒状タップセルに、目開き300μmの篩を通して、試料である活物質(A)を落下させて、セルに満杯に充填した後、ストローク長10mmのタップを1000回行なって、その時の体積と試料の重量から求めた。
【0126】
<BET法比表面積(SA)>
活物質(A)のBET法比表面積は、比表面積測定装置を用いて、窒素ガス吸着流通法によりBET5点法にて測定した。
【0127】
<スラリー調製>
活物質20gとカルボキシメチルセルロース水溶液(1質量%)20gを混合し、混練機(あわとり練太郎,株式会社シンキー製)によって2000rpm、5分の条件にて混練した後、2200rpm、1分の条件にて脱泡をし、スチレン−ブタジエンゴム水性ディスパージョン(40質量%)0.5gを加え、再び上記と同様の条件で混練を行って活物質スラリーを調製した。
なお、活物質とは後述する実施例又は比較例で作製されたものである。
【0128】
<極板作製>
銅箔(厚さ18μm)をテスター産業製Auto Film Applicatorにのせ、陰圧により吸着させた。調製した活物質スラリーを銅箔上に適量のせ、テスター産業製フィルムアプリケータを10mm/secの速さで掃引させることにより、前記スラリーを塗布した。
【0129】
活物質スラリーを塗布した銅箔をイナートオーブン(EPEC−75,株式会社いすゞ製作所製)中で乾燥させて、銅箔上に活物質層を形成した極板を得た(90℃,50分,窒素気流10L/分)。
その後、極板をプレス機(3tメカ式精密ロールプレス)に通して活物質層を圧縮し、活物質層の密度が1.60±0.03g/cm
3になるよう調整し、電極シートを得た。
電極シート上における銅箔の活物質スラリーが塗布された部分を、打抜きパンチ(φ=12.5mm,SNG,株式会社野上技研製)によって打抜き、重量測定及び膜厚計(IDS−112,株式会社ミツトヨ製)による膜厚測定を行い、目付と前記活物質層の密度を算出した。
【0130】
<コインセル作製>
作製した電極シートを直径12.5mmの円板状に打ち抜いて電極とし、リチウム金属箔を直径14mmの円板状に打ち抜いて対極とした。両極の間には、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/エチルメチルカーボネート=15/80/5(体積比)の混合溶液に、LiPF
6を1.2mol/Lになるように溶解させた電解液を含浸させたセパレータ(多孔性ポリエチレンフィルム製)を置き、前記電解液を使用した2016コイン型電池を作製した。
【0131】
なお、全ての作業はグローブボックス(OMNI−LAB,Vacuum atmospheres社製,Arを充填,酸素濃度0.2ppm以下、水分濃度0.5ppm)の中で行った。また、コインセルの部材等は真空乾燥機(Vos−451SD,東京理化器械株式会社製)を用いて12時間以上乾燥させた後にグローブボックスに搬入した。
【0132】
<コインセルの充放電評価>
下記表1に示した充放電プログラムを用いて、作製したコインセル(2016コイン型多電池)の充放電評価を行った。
【0133】
【表1】
【0134】
表中“CC−CV充電”とは定電流で一定量充電した後に、定電圧で終止条件になるまで充電することを表す。また“CC放電”とは定電流で終止条件まで放電することを表す。
【0135】
初期充放電効率(%)及び容量ロス(mAh/g)を、下記式から算出した。
【0136】
初期充放電効率(%)=第4サイクルにおける放電容量/(第4サイクルにおける放電容量+第2・3・4サイクルにおける容量ロス)×100(%)
容量ロス(mAh/g)=第2サイクル(充電容量−放電容量)+第3サイクル(充電容量−放電容量)+第4サイクル(充電容量−放電容量)
【0137】
<ラミネートセル作製>
正極活物質としてニッケルマンガンコバルト酸リチウム(LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2)を用い、これに導電剤と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ15μmのアルミ箔に塗布して乾燥し、プレス機で圧延したものを、正極活物質層のサイズとして幅30mm、長さ40mm及び集電用の未塗工部を有する形状に切り出して正極とした。
正極活物質層の密度は2.6g/cm
3であった。
【0138】
負極は、上記<極板作製>記載の方法で作製した電極シートを、負極活物質層のサイズとして幅32mm、長さ42mm及び集電部タブ溶接部として未塗工部を有する形状に切り出して用いた。この時の負極活物質層の密度は1.6g/cm
3であった。
【0139】
正極1枚と負極1枚をそれぞれの活物質面が対向するように配置し、電極の間に多孔製ポリエチレンシートのセパレータが挟まれるようにした。この際、正極活物質面が負極活物質面内から外れないよう対面させた。
この正極と負極それぞれの未塗工部に集電タブを溶接して電極体としたものを、ポリプロピレンフィルム、厚さ0.04mmのアルミニウム箔、及びナイロンフィルムをこの順に積層したラミネートシート(合計厚さ0.1mm)を用いて、内面側に前記ポリプロピレンフィルムがくるようにして挟み、電解液を注入するための一辺を除いて、電極のない領域をヒートシールした。
【0140】
その後、活物質層に非水系電解液(エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/3/4(体積比)に1.0mol/Lの濃度でヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)を溶解させたもの)を200μL注入して、電極に充分浸透させた後密閉して、ラミネートセルを作製した。
この電池の定格容量は34mAhである。
【0141】
<有機化合物(質量% 対負極用活物質)の算出方法>
活物質(A)に対する有機化合物の割合は、非水系二次電池負極用活物質の調製時の有機化合物の添加量とした(実施例11を除く)。
【0142】
<ラミネートセルのコンディショニングと初期ガス量測定>
25℃環境下で、電圧範囲4.2〜3.0V、電流値0.2C(1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を1Cとする。)にて初期コンディショニングを行った。ラミネートセルのコンディショニング前後で体積測定を行い、その変化量を初期ガス量とみなした。なおラミネートセルの体積測定には、エタノールを浸漬液としてアルキメデス法を用いた。
【0143】
<ラミネートセルの保存ガス量測定>
85℃、1日の条件下でラミネートセルの高温保存を行い、保存後のガス発生量を評価した。ガスについては、保存前後のラミネートセルの体積変化量をガス発生量とみなし、体積測定には、エタノールを浸漬液としてアルキメデス法を用いた。
【0144】
〔実施例1〕
<非水系二次電池負極用活物質の調製>
活物質(A)として球形化天然黒鉛(平均粒子径(d50)=17μm、BET法比表面積(SA)=6.7m
2/g、タップ密度=1.02g/cm
3)50gと、有機化合物の水溶液1(アルドリッチ製ポリスチレンスルホン酸リチウム30質量%水溶液(重量平均分子量:75000)0.167gに蒸留水49.833gを添加したポリスチレンスルホン酸リチウム0.1質量%水溶液)50gとをフラスコ内で混合し、95℃に加温して攪拌しながら、溶媒を留去し、粉末状の非水系二次電池負極用活物質Aを得た。
【0145】
この活物質A240mgと、電解液(エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/3/4(体積比))400μLとをラミパックに入れた後、ヒートシーラーを用いて封止した。このセルを75℃の恒温層に入れ、3日間保存した。
保存試験を終えたラミパックを取り出した後、内容物を乾固し、残存固形分をNMR用重溶媒(d−DMSO)に溶かし、
1H−NMR測定を実施した。その結果より、溶出した有機化合物であるポリスチレンスルホン酸リチウムを定量したところ、2質量%以下であった。
【0146】
〔実施例2〕
有機化合物の水溶液1を、水溶液2(ポリスチレンスルホン酸リチウム0.2質量%水溶液)50gに代えた以外は、実施例1と同様にして粉末状の非水系二次電池負極用活物質Bを得た。
〔実施例3〕
有機化合物の水溶液1を、水溶液3(ポリスチレンスルホン酸リチウム0.5質量%水溶液)50gに代えた以外は、実施例1と同様にして粉末状の非水系二次電池負極用活物質Cを得た。
【0147】
〔実施例4〕
有機化合物の水溶液1を、水溶液4(ポリスチレンスルホン酸リチウム0.75質量%水溶液)50gに代えた以外は、実施例1と同様にして粉末状の非水系二次電池負極用活物質Dを得た。
〔実施例5〕
有機化合物の水溶液1を、水溶液5(ポリスチレンスルホン酸リチウム1.0質量%水溶液)50gに代えた以外は、実施例1と同様にして粉末状の非水系二次電池負極用活物質Eを得た。
【0148】
〔実施例6〕
有機化合物の水溶液1を、水溶液6(ポリスチレンスルホン酸リチウム3.0質量%水溶液)50gに代えた以外は、実施例1と同様にして粉末状の非水系二次電池負極用活物質Fを得た。
〔実施例7〕
有機化合物の水溶液1を、水溶液7(東ソー有機化学社製(PS−5)ポリスチレンスルホン酸ナトリウム0.5質量%水溶液)50gに代えた以外は、実施例1と同様にして粉末状の非水系二次電池負極用活物質Gを得た。
【0149】
〔実施例8〕
有機化合物の水溶液1を、水溶液8(東ソー有機化学社製スチレン‐スチレンスルホン酸ナトリウム共重合体、スチレン:スチレンスルホン酸ナトリウム=35:65(モル比)、重量平均分子量:74000の0.5質量%水溶液)50gに代えた以外は、実施例1と同様にして粉末状の非水系二次電池負極用活物質Hを得た。
【0150】
〔実施例9〕
有機化合物の水溶液1を、水溶液9(東ソー有機化学社製スチレン‐スチレンスルホン酸ナトリウム共重合体、スチレン:スチレンスルホン酸ナトリウム=50:50(モル比)、重量平均分子量:24000の0.5質量%水溶液)50gに代えた以外は、実施例1と同様にして粉末状の非水系二次電池負極用活物質Iを得た。
【0151】
〔
参考例10〕
活物質Aに有機化合物による被覆、乾燥を行わず、活物質スラリーを作製する時に、球形化天然黒鉛20gとカルボキシメチルセルロース水溶液(1質量%)20g、有機化合物の水溶液10(アルドリッチ製ポリスチレンスルホン酸リチウム30質量%水溶液(重量平均分子量:75000))0.333gを混合し、混練機(あわとり練太郎,株式会社シンキー製)によって2000rpm、5分の条件にて混練した後、2200rpm、1分の条件にて脱泡をし、スチレン−ブタジエンゴム水性ディスパージョン(40質量%)0.5gを加え、再び上記と同様の条件で混練を行うことにより、非水系二次電池負極用活物質Jを得た。
【0152】
〔実施例11〕
球形化天然黒鉛50gと有機化合物の水溶液11(東ソー有機化学社製(PS−5)ポリスチレンスルホン酸ナトリウム0.5質量%水溶液)50gをフラスコ内で一時間混合した後に、目開き1μmのろ紙と桐山漏斗を用いて、吸引ろ過することにより溶媒を除去した。その後、濾過物上に蒸留水25gを掛け流し、濾過物を洗浄した。洗浄後の濾過物を150℃、7時間乾燥することで非水系二次電池負極用活物質Kを得た。
なお、活物質(A)に対する有機化合物の割合は、濾液に含まれる有機化合物の量から算出した。
【0153】
〔実施例12〕
有機化合物の水溶液1を、有機化合物の水溶液12(低導電性ポリアニリンスルホン酸0.5質量%水溶液)50gに代えた以外は、実施例1と同様にして粉末状の非水系二次電池負極用活物質Lを得た。
【0154】
〔比較例1〕
有機化合物を含有せず、活物質(A)である球形化天然黒鉛(平均粒子径(d50)=17μm、BET法比表面積(SA)=6.7m
2/g、タップ密度=1.02g/cm
3)のみからなる黒鉛を非水系二次電池負極用活物質Zとした。ここで用いた球状化天然黒鉛は実施例1で用いたものと同じものである。なお、非水系二次電池負極用活物質Zとは、表1中で単に「球形化天然黒鉛」と記載している。
【0155】
〔比較例2〕
有機化合物の水溶液1を、水溶液13(Wako製ポリアクリル酸(重量平均分子量5000)5.1gに水50gを添加して攪拌した後、5質量%水酸化リチウム一水和物水溶液80gを添加した水溶液(pH=10付近)から6.6667gを秤り取った後、それに蒸留水43.3333gを添加して希釈した水溶液)50gに代えた以外は、実施例1と同様にして非水系二次電池負極用活物質Mを得た。
【0156】
〔比較例3〕
有機化合物の水溶液1を、水溶液14(アルドリッチ製ポリビニルスルホン酸ナトリウム25質量%水溶液10.0gに1mol/L塩酸水溶液0.64gを添加した後、1質量%水酸化リチウム水溶液を2.3g添加して攪拌したもの(pH=9)から1.2953gを秤り取った後、それに蒸留水48.7047gを添加して希釈した水溶液)50gに代えた以外は、実施例1と同様にして非水系二次電池負極用活物質Nを得た。
【0157】
〔比較例4〕
有機化合物の水溶液1を、水溶液15(アルドリッチ製ポリビニルスルホン酸ナトリウム25質量%水溶液1.000gに蒸留水49.000gを添加して溶解した水溶液)50gに代えた以外は、実施例1と同様にして非水系二次電池負極用活物質Oを得た。
〔比較例5〕
有機化合物の水溶液1を、水溶液16(日本合成化学製エチレン−ビニルアルコール(EVOH)共重合体ソアノール(品番:D2908)1.000gをエタノール/水混合溶媒(50質量%/50質量%)24.000gに溶解させた4%EVOH水溶液)12.5gに代えた以外は、実施例1と同様にして非水系二次電池負極用活物質Pを得た。
【0158】
以上調製した非水系二次電池負極用活物質A〜P及びZを使用して実施例1と同様に各々スラリーを調製し、コインセルの充放電評価、ラミネートセルの初期ガス量測定及び保存ガス量測定を行った。それらの結果と、有機化合物の電気伝導率を下記表2にまとめて示す。
【0159】
【表2】
【0160】
〔実施例13〕
活物質Cについて、ラミネートセルの保存ガス量測定の条件を70℃、3日に代えた以外は実施例3と同様にして、初期ガス量と保存ガス量の総量を求めた。
【0161】
〔実施例14〕
電解液に、電解液全体の1%(質量比)の1,6−ジイソシアナトヘキサンを添加した以外は、実施例13と同様にして、初期ガス量と保存ガス量の総量を求めた。
【0162】
〔比較例6〕
活物質Zについて、ラミネートセルの保存ガス量測定の条件を70℃、3日に代えた以外は、比較例1と同様にして、初期ガス量と保存ガス量の総量を求めた。
【0163】
〔比較例7〕
電解液に、電解液全体の1%(質量比)の1,6−ジイソシアナトヘキサンを添加した以外は、比較例6と同様にして、初期ガス量と保存ガス量の総量を求めた。
【0164】
以上の測定から、初期ガス量と保存ガス量の合計を算出した結果を下記表3に示す。
【0165】
【表3】
【0166】
活物質(A)と有機化合物(B)を含有した非水系二次電池負極用活物質(実施例1〜12)は、比較例1〜5の非水系二次電池負極用活物質と比較して、初期充放電効率(%)が向上し、また容量ロスが低減されていることが分かる。また、実施例13、14は、比較例6、7の非水系二次電池負極用活物質と比較して、長期間のガス発生も低減されていることが分かった。これより、有機化合物(B)の効果によって、活物質表面が被覆されることで電解液の還元分解を抑制し、容量ロスの低減及び、ガス発生抑制がなされていることが分かる。