特許第6167560号(P6167560)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友大阪セメント株式会社の特許一覧

特許6167560絶縁性の平板状磁性粉体とそれを含む複合磁性体及びそれを備えたアンテナ及び通信装置並びに複合磁性体の製造方法
<>
  • 特許6167560-絶縁性の平板状磁性粉体とそれを含む複合磁性体及びそれを備えたアンテナ及び通信装置並びに複合磁性体の製造方法 図000003
  • 特許6167560-絶縁性の平板状磁性粉体とそれを含む複合磁性体及びそれを備えたアンテナ及び通信装置並びに複合磁性体の製造方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6167560
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】絶縁性の平板状磁性粉体とそれを含む複合磁性体及びそれを備えたアンテナ及び通信装置並びに複合磁性体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/26 20060101AFI20170713BHJP
【FI】
   H01F1/26
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-35833(P2013-35833)
(22)【出願日】2013年2月26日
(65)【公開番号】特開2014-165370(P2014-165370A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年8月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】国光 康徳
(72)【発明者】
【氏名】田野 道生
(72)【発明者】
【氏名】菊田 良
(72)【発明者】
【氏名】前田 佳祐
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−190164(JP,A)
【文献】 特開2001−006163(JP,A)
【文献】 特開2006−344334(JP,A)
【文献】 特開2008−021991(JP,A)
【文献】 特開2009−249673(JP,A)
【文献】 特開平09−305958(JP,A)
【文献】 特開2009−059752(JP,A)
【文献】 特開2007−208026(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/074024(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状磁性粉体の表面を有機分子鎖含有表面修飾剤により修飾されてなる絶縁性の平板状磁性粉体であって、
平均厚みは0.1μm以上かつ0.5μm以下、平均長径は0.2μm以上かつμm以下、かつ平均アスペクト比(長径/厚み)は2以上かつ以下であり、
前記有機分子鎖含有表面修飾剤は、脂肪酸、シランカップリング剤、変性シリコーン、シリコーンレジン及び界面活性剤の群から選択される1種または2種以上であることを特徴とする絶縁性の平板状磁性粉体。
【請求項2】
請求項1に記載の絶縁性の平板状磁性粉体と、絶縁材料とを含有してなることを特徴とする複合磁性体。
【請求項3】
請求項2に記載の複合磁性体を備えてなることを特徴とするアンテナ。
【請求項4】
請求項3に記載のアンテナを備えてなることを特徴とする通信装置。
【請求項5】
平板状磁性粉体と有機分子鎖含有表面修飾剤と有機溶媒を混合し、前記平板状磁性粉体の表面を前記有機分子鎖含有表面修飾剤により修飾して絶縁性の平板状磁性粉体とすることにより、前記絶縁性の平板状磁性粉体を含有する混合液とする第1の工程と、
前記混合液と絶縁材料を混合して成形材料とする第2の工程と、
前記成形材料を用いて成形体または塗布膜を作製し、この成形体または塗布膜を、乾燥し、熱処理、焼成または電磁波照射する第3の工程と、
を備え、
前記平板状磁性粉体は、平均厚みが0.1μm以上かつ0.5μm以下、平均長径が0.2μm以上かつ3μm以下、かつ平均アスペクト比(長径/厚み)が2以上かつ5以下であり、
前記有機分子鎖含有表面修飾剤は、脂肪酸、シランカップリング剤、変性シリコーン、シリコーンレジン及び界面活性剤の群から選択される1種または2種以上であることを特徴とする複合磁性体の製造方法。
【請求項6】
前記平板状磁性粉体の全質量に対する前記有機分子鎖含有表面修飾剤の添加量が、1質量%以上かつ10質量%以下である請求項5に記載の複合磁性体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性の平板状磁性粉体とそれを含む複合磁性体及びそれを備えたアンテナ及び通信装置並びに複合磁性体の製造方法に関し、特に詳しくは、高周波回路基板、高周波電子部品等の各種電子部品に好適に用いられ、これらの電子部品の小型化及び電力損失を抑制することが可能な絶縁性の平板状磁性粉体、この絶縁性の平板状磁性粉体を含む複合磁性体、及びこの複合磁性体を備えることで、小型で、電力損失を低減することが可能なアンテナ、及び、このアンテナを備えた携帯用電話機、携帯情報端末等の通信装置、並びに、複合磁性体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁性材料は、電磁波に対する特性や生産性、使い勝手の良さ等から、有機高分子材料等のような絶縁材料中に混合・分散させた複合磁性体として使用されることが知られている。
この磁性材料は、電子機器に搭載される高周波回路基板、高周波電子部品、磁性シート、電磁干渉抑制シート、電磁波遮蔽シート等の各種電子部品、モーター、トランス等の電気製品、ビデオテープやフロッピー(登録商標)ディスク等の磁気記録媒体に用いられている。
【0003】
近年、情報通信機器の高速化、高密度化に伴い、電子機器に搭載される電子部品においても、回路基板等の小型化や低消費電力化等が強く求められている。
一般に、物質内を伝播する電磁波の波長λは、真空中を伝播する電磁波の波長λと物質の複素誘電率の実部εr’(以下εr’と略記する場合がある)及び複素透磁率の実部μr’(以下、μr’と略記する場合がある)を用いて、
λ=λ/(εr’・μr’)1/2 ……(1)
と表すことができる。
この式(1)によれば、εr’及びμr’が大きいほど波長λの短縮率が大きくなる。したがって、上記の各種電子部品を構成する複合磁性体中の磁性粉体のεr’及びμr’を大きくすることで、波長λの短縮率が大きくなり、高周波を用いる電子部品や回路基板等の各種電子部品の小型化が可能になる。
そこで、波長λの短縮率を大きくすることで電子部品をさらに小型化するために、扁平状の磁性粉体を絶縁材料中に分散してなる複合磁性体が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再公表WO2012/074024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された複合磁性体では、反磁界が小さい扁平状の磁性粉体を用いているので、複合磁性体のμr’の値は大きくなるものの、絶縁材料中に扁平状の磁性粉体を分散させているために、この扁平状の磁性粉体と絶縁材料との界面が静電容量を有することとなり、誘電損失(複素誘電率の損失正接tanδε)を十分に低減することが難しいという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、電子部品や電子機器を小型化する際に、この小型化に合わせて、高透磁率と低誘電損失とを両立させることができる絶縁性の平板状磁性粉体とそれを含む複合磁性体及びそれを備えたアンテナ及び通信装置並びに複合磁性体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、平板状磁性粉体の表面を有機分子鎖含有表面修飾剤により修飾することで、表面が絶縁性を有する平板状の磁性粉体とし、この絶縁性の平板状磁性粉体の平均厚みを0.01μm以上かつ1μm以下、平均長径を0.05μm以上かつ5μm以下、かつ平均アスペクト比(長径/厚み)を2以上とすれば、高透磁率と低誘電損失とを両立させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の絶縁性の平板状磁性粉体は、平板状磁性粉体の表面を有機分子鎖含有表面修飾剤により修飾されてなる絶縁性の平板状磁性粉体であって、平均厚みは0.01μm以上かつ1μm以下、平均長径は0.05μm以上かつ5μm以下、かつ平均アスペクト比(長径/厚み)は2以上であることを特徴とする。
【0009】
前記有機分子鎖含有表面修飾剤は、脂肪酸、シランカップリング剤、変性シリコーン、シリコーンレジン及び界面活性剤の群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
前記平均アスペクト比(長径/厚み)は、2以上かつ7以下であることが好ましい。
【0010】
本発明の複合磁性体は、本発明の絶縁性の平板状磁性粉体と、絶縁材料とを含有してなることを特徴とする。
本発明のアンテナは、本発明の複合磁性体を備えてなることを特徴とする。
本発明の通信装置は、本発明のアンテナを備えてなることを特徴とする。
【0011】
本発明の複合磁性体の製造方法は、平板状磁性粉体と有機分子鎖含有表面修飾剤と有機溶媒を混合し、前記平板状磁性粉体の表面を前記有機分子鎖含有表面修飾剤により修飾して絶縁性の平板状磁性粉体とすることにより、前記絶縁性の平板状磁性粉体を含有する混合液とする第1の工程と、前記混合液と絶縁材料を混合して成形材料とする第2の工程と、前記成形材料を用いて成形体または塗布膜を作製し、この成形体または塗布膜を、乾燥し、熱処理、焼成または電磁波照射する第3の工程と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の絶縁性の平板状磁性粉体によれば、平板状磁性粉体の表面を有機分子鎖含有表面修飾剤により修飾されてなる絶縁性の平板状磁性粉体の平均厚みを0.01μm以上かつ1μm以下、平均長径を0.05μm以上かつ5μm以下、かつ平均アスペクト比(長径/厚み)を2以上としたので、絶縁材料と共に複合磁性体を形成した場合に、複素透磁率の実部μr’を大きく、かつ複素誘電率の損失正接tanδεを小さくすることができる。したがって、高透磁率と低誘電損失とを両立させることができる複合磁性体を提供することができる。
【0013】
本発明の複合磁性体によれば、本発明の絶縁性の平板状磁性粉体と、絶縁材料とを含有したので、高透磁率と低誘電損失とを両立させることができる。したがって、高透磁率かつ低誘電損失の複合磁性体を提供することができる。
【0014】
本発明のアンテナによれば、本発明の複合磁性体を備えたので、小型で、電力損失を低減することのできるアンテナを提供することができる。
【0015】
本発明の通信装置によれば、本発明のアンテナを備えたので、小型で、電力損失を低減することのできるアンテナを用いることにより、通信装置全体の小型化、電力損失の低減化を図ることができる。よって、さらに小型化され、電力損失が低減された通信装置を提供することができる。
【0016】
本発明の複合磁性体の製造方法によれば、平板状磁性粉体と有機分子鎖含有表面修飾剤と有機溶媒を混合し、有機溶媒中にて有機分子鎖含有表面修飾剤により平板状磁性粉体の表面処理を行うことにより、絶縁性の平板状磁性粉体を含有する混合液とするので、この混合液は、乾燥工程を経ることなく絶縁材料と混合することができる。よって、乾燥工程を省略することができ、絶縁性の平板状磁性粉体同士の融着を低減することができる。その結果、簡便な製造工程で高透磁率と低誘電損失とを両立させる複合磁性体を容易に得ることができ、製造コストも低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例1の複合磁性体の複素誘電率の実部εr’とtanδεを示す図である。
図2】本発明の実施例1の複合磁性体の複素透磁率の実部μr’とtanδμを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の絶縁性の平板状磁性粉体とそれを含む複合磁性体及びそれを備えたアンテナ及び通信装置並びに複合磁性体の製造方法を実施するための形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0019】
[絶縁性の平板状磁性粉体]
本実施形態の絶縁性の平板状磁性粉体は、平板状磁性粉体の表面を有機分子鎖含有表面修飾剤により修飾された絶縁性の平板状磁性粉体であり、この絶縁性の平板状磁性粉体の平均厚みは0.01μm以上かつ1μm以下、平均長径は0.05μm以上かつ5μm以下、かつ平均アスペクト比(長径/厚み)は2以上である。
本実施形態における「平板状」とは、扁平状、鱗片状、フレーク状、薄板状等、厚みが薄い板状のものを全て含む。
以下、「絶縁性の平板状磁性粉体」を単に「絶縁性平板状磁性粉体」と称することもある。
【0020】
この絶縁性平板状磁性粉体の平均厚み及び平均長径は、複数個の絶縁性平板状磁性粉体それぞれの厚み及び長径、例えば、100個以上の絶縁性平板状磁性粉体、好ましくは500個の絶縁性平板状磁性粉体それぞれの厚み及び長径を測定し、厚み及び長径各々の平均値を算出することで求めることができる。
【0021】
この絶縁性平板状磁性粉体の平均厚みは、0.01μm以上かつ1μm以下が好ましく、より好ましくは0.1μm以上かつ0.5μm以下である。
ここで、絶縁性平板状磁性粉体の平均厚みが0.01μm未満では、絶縁性平板状磁性粉体自体の製造が難しく、複合磁性体を製造する際の取り扱いも難しいので、好ましくない。一方、この絶縁性平板状磁性粉体の平均厚みが1μmを超えると、高周波を印加した際に渦電流等が生じ易くなり、得られる複合磁性体の複素透磁率の損失正接tanδμ(以下tanδμと略記する場合がある)及び複素誘電率の損失正接tanδε(以下tanδεと略記する場合がある)が増大するので好ましくない。
【0022】
この絶縁性平板状磁性粉体の平均長径は、0.05μm以上かつ5μm以下が好ましく、0.2μm以上かつ3μm以下がより好ましい。
ここで、平板状磁性粉体の平均長径が0.05μm未満では、絶縁性平板状磁性粉体自体の製造が難しく、複合磁性体を製造する際の取り扱いも難しいので、好ましくない。
一方、この絶縁性平板状磁性粉体の平均長径が5μmを超えると、得られる複合磁性体のtanδμ及びtanδεが増大するので好ましくない。
【0023】
この絶縁性平板状磁性粉体の平均アスペクト比(長径(粒子内における最大長さ)/厚み)も、上記の平均厚み及び平均長径と同様、複数個の絶縁性平板状磁性粉体それぞれの長径と厚み、例えば、100個以上の絶縁性平板状磁性粉体、好ましくは500個の絶縁性平板状磁性粉体それぞれの長径と厚みを測定することにより、個々の絶縁性平板状磁性粉体それぞれのアスペクト比(長径/厚み)を求め、これらのアスペクト比(長径/厚み)の平均値を算出することで求めることができる。
【0024】
この絶縁性平板状磁性粉体の平均アスペクト比(長径/厚み)は、2以上が好ましい。
ここで、この絶縁性平板状磁性粉体の平均アスペクト比(長径/厚み)が2未満では、粒子形状による反磁界係数が大きくなり、よって、複合磁性体を作製する際に印加される有効磁場が小さくなることで得られる複合磁性体のμr’が小さくなり、その結果、電子部品や電子機器を小型化させるために十分なμr’を得ることができない。
【0025】
一方、平均アスペクト比が大きくなりすぎると、得られる複合磁性体のμr’が大きくなることで波長λgの短縮率が大きくなり、よって、高周波を用いる電子部品や回路基板等の各種電子部品の小型化は可能になるものの、同様にεr’、tanδμ及びtanδεも大きくなる傾向があり、これらεr’、tanδμ及びtanδεの増大が、電力損失を増大させる要因となるので好ましくない。また、平均アスペクト比が大きくなりすぎると、絶縁性平板状磁性粉体自体の機械的強度が低下する虞がある。そこで、絶縁性平板状磁性粉体が所望の機械的強度を確保するためには、平均アスペクト比は20以下が好ましい。
【0026】
以上の点を勘案すれば、絶縁性平板状磁性粉体の高透磁率と低誘電損失を両立させ、かつ所望の機械的強度を確保するためには、平均アスペクト比(長径/厚み)は、2以上かつ7以下であることが好ましく、2以上かつ5以下であることがより好ましい。
【0027】
「平板状磁性粉体」
この平板状磁性粉体を構成する材料としては、磁性を有する材料であればよく、特に限定されないが、例えば、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)等の強磁性金属、モリブデン(Mo)等の常磁性金属のうちいずれか1種からなる金属、または、これらのうち少なくとも1種以上を含む合金を用いることができる。
これらの金属または合金は、反磁性金属である銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ビスマス(Bi)等を含んでいてもよい。
【0028】
これらの合金としては、二元素系合金、三元素系合金等が挙げられる。
二元素系合金としては、保磁力が70エルステッド(Oe)以下の軟磁性を示すパーマロイ(登録商標)等のFe−Ni合金、Fe−Si合金、Fe−Co合金、Fe−Cr合金等が挙げられる。
三元素系合金としては、スーパーマロイ(登録商標)等のFe−Ni−Mo合金、センダスト(登録商標)等のFe−Si−Al合金、Fe−Cr−Si合金等が挙げられる。
これらの合金の中でも、Fe−Ni合金としては、Ni78質量%−Fe22質量%の合金が、平均厚みが0.5μm以下かつ平均長径が3μm以下の平板状磁性粉体が得られ易く、その結果、高透磁率とともに低磁気損失の複合磁性体が得られ易いので好ましい。
【0029】
上記の合金に、その合金に含まれない金属元素で、その合金と性質が近い金属(合金に含まれている金属と周期律表で近接している金属)、例えば、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、インジウム(In)、すず(Sn)等の群から1種または2種以上を適宜選択して添加してもよい。
【0030】
「有機分子鎖含有表面修飾剤」
本実施形態の有機分子鎖含有表面修飾剤は、上記の平板状磁性粉体の表面を修飾することができ、かつ、後述する絶縁材料と混合が可能な有機分子鎖を有する表面修飾剤であればよく、特に限定されない。
【0031】
このような有機分子鎖含有表面修飾剤としては、例えば、脂肪酸、シランカップリング剤、変性シリコーン、シリコーンレジン、界面活性剤等が挙げられる。これらの有機分子鎖含有表面修飾剤は、1種のみを単独で用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
脂肪酸としては、炭素数が3〜30の直鎖型の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸、あるいは炭素数が3〜30の分岐型の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸が挙げられる。これらの脂肪酸の具体的な例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、アラキジン酸、アラキドン酸等が挙げられる。これらの脂肪酸は、1種のみを単独で用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
シランカップリング剤としては、下記の式(1)で表わされる化合物等が挙げられる。
−Si−OR’4−X ・・・(1)
この式(1)中、Rは、ビニル基、アリル基、3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチル基、3−アクリロキシプロピル基、3−メタクリロプロピル基、スチリル基、3−アミノプロピル基、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピル基、N−フェニル−3−アミノプロピル基、3−メルカプトプロピル基、3−イソシアネートプロピル基、炭素数が1以上かつ20以下のアルキル基、フェニル基の群から選択される1種または2種以上であり、R’は炭素数が1以上かつ20以下のアルキル基、フェニル基、メチルカルボキシ基の群から選択される1種または2種以上であり、Xは0、または1以上かつ4以下の整数である。
これらのシランカップリング剤は、1種のみを単独で用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
変性シリコーンとしては、エポキシ変性シリコーン、エポキシ・ポリエーテル変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メタクリル変性シリコーン、フェノール変性シリコーン、メチルスチリル変性シリコーン、アクリル変性シリコーン、メチルハイドロジェンシリコーン、片末端変性シリコーン等が挙げられる。
これらの変性シリコーンは、1種のみを単独で用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
シリコーンレジンとしては、メチルシリコーンレジン、メチルフェニルシリコーンレジン等が挙げられる。
これらのシリコーンレジンは、1種のみを単独で用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤が挙げられる。
陰イオン系界面活性剤としては、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、脂肪酸エステルスルフォン酸ナトリウム等の脂肪酸系、アルキルリン酸エステルナトリウム等のリン酸系、アルファオレインスルフォン酸ナトリウム等のオレフィン系、アルキル硫酸ナトリウム等のアルコール系、アルキルベンゼン系等が挙げられる。
これらの陰イオン系界面活性剤は、1種のみを単独で用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
陽イオン系界面活性剤としては、塩化アルキルメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム等が挙げられる。
これらの陽イオン系界面活性剤は、1種のみを単独で用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
両性イオン系界面活性剤としては、アルキルアミノカルボン酸塩等のカルボン酸系、フォスフォベタイン等のリン酸エステル系等が挙げられる。
非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラノリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド等の脂肪酸系、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられる。
【0039】
この有機分子鎖含有表面修飾剤の上記の平板状磁性粉体の全質量に対する添加量は、上記の平板状磁性粉体の表面を修飾することができる添加量であればよいので、この有機分子鎖含有表面修飾剤と上記の平板状磁性粉体とを所望の特性に応じて適宜混合させればよい。
例えば、この有機分子鎖含有表面修飾剤の上記の平板状磁性粉体の全質量に対する添加量は、この平板状磁性粉体の全質量に対して1質量%以上かつ10質量%以下とするのが好ましく、上記の平板状磁性粉体の表面修飾部分を、この平板状磁性粉体の質量の1質量%以上かつ10質量%以下とすることが好ましい。
【0040】
本実施形態の絶縁性平板状磁性粉体が、後述する複合磁性体のtanδεの増加を抑制することができる理由は、次のように考えられる。
複合磁性体のμr’を大きくするためには、複合磁性体中の絶縁性平板状磁性粉体の量をある一定量より多く含有されなければならない。
【0041】
しかしながら、この絶縁性平板状磁性粉体の主要部である平板状磁性粉体は、磁性を有する金属または合金で構成されるので、複合磁性体中の絶縁性平板状磁性粉体、すなわち平板状磁性粉体の含有量を増加させれば、これらの平板状磁性粉体同士が接触することで複合磁性体中に導電パスが形成され、tanδεが高くなる。
また、平板状磁性粉体による導電パスは、複合磁性体中の磁性粉体量が増大するほど、複合磁性体の位置により特性が変わり易くなり、複合磁性体の品質安定性が劣りやすくなる虞がある。
【0042】
一方、本実施形態の絶縁性平板状磁性粉体は、磁性を有する金属または合金からなる平板状磁性粉体の表面を有機分子鎖含有表面修飾剤により修飾することで、その表面が絶縁性となっているので、複合磁性体中にて磁性粉体同士が接触して導電パスが形成されるのを抑制することができる。したがって、tanδεの増大を抑制することができると考えられる。
したがって、本実施形態の絶縁性平板状磁性粉体は、少なくとも平板状磁性粉体の表面が絶縁性を有していればよい。
【0043】
[複合磁性体]
本実施形態の複合磁性体は、本実施形態の絶縁性平板状磁性粉体と、絶縁材料とを含有した磁性体である。
【0044】
上記の絶縁材料は、絶縁性の材料であればよく、特に制限されないが、本実施形態の複合磁性体を携帯電話機用アンテナや携帯情報端末用アンテナとして用いる場合には、機械的強度が高く、吸湿性が低く、しかも形状加工性に優れていることが好ましい。このような絶縁材料としては、例えば、ポリアクリレート樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリフェニレン樹脂、ポリベンゾシクロブテン樹脂、ポリアリーレンエーテル樹脂、ポリシロキサン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、シアネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ノルボルネン樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂等の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂が好適に用いられる。これらの樹脂は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
この複合磁性体の複素透磁率の損失正接tanδμは0.1以下が好ましく、より好ましくは0.06以下である。また、複素誘電率の損失正接tanδεは0.1以下が好ましく、より好ましくは0.05以下、さらに好ましくは0.02以下である。
ここで、tanδμ及びtanδεの値が、それぞれの値を超えた場合には、この複合磁性体内にて、高周波が複素透磁率の虚数部μr’’あるいは複素誘電率の虚数部εr’’に対応する部分だけ吸収されて熱に変わるので、高周波信号のエネルギーが減衰する上に、S/N比の低下や発熱等の問題が生じる虞があるので好ましくない。
【0046】
この複合磁性体の複素透磁率の実部μr’は5以上、複素誘電率の実部εr’は7以上であることが好ましい。
この複合磁性体では、tanδμ及びtanδεの値を上記範囲とすることに加えて、複素透磁率の実部μr’及び複素誘電率の実部εr’を上記範囲とすることにより、本実施形態の複合磁性体を備えた電子部品や電子機器は、小型化が可能となり、電力損失を低減させることができる。
【0047】
なお、上記のtanδμ、tanδε、μr’及びεr’は、マテリアルアナライザーにて測定した値であるが、測定装置としては、上記の各値がマテリアルアナライザーと同様の精度で測定することのできる装置であればよく、マテリアルアナライザーに限定されない。
【0048】
ところで、現状の電子部品や電子機器に用いられている70MHz以上かつ500MHz以下の周波数帯域では、電磁波の波長が長いことからアンテナの小型化が難しく、したがって、携帯用電話機、携帯情報端末、多機能型携帯用情報機器等のような特に小型化の要求される用途では、ホィップアンテナを筐体の数倍の長さに伸ばして使用したり、イヤホンコードをアンテナとして代用せざるを得ない。
【0049】
一方、本実施形態の複合磁性体では、所望の周波数帯域、特に70MHz以上かつ500MHz以下の周波数帯域にて、μr’及びtanδεが上記の範囲を満足すれば、その周波数帯域で使用される電子部品や電子機器、例えば、携帯用電話機、携帯情報端末、多機能型携帯用情報機器等の通信装置のアンテナにおいても、小型化と高利得化を両立させることができる。本実施形態の複合磁性体は、100MHz以上かつ500MHz以下の周波数帯域にて好適に用いることができる。
【0050】
この複合磁性体中の気孔率は、20%以下であることが好ましい。
その理由は、この複合磁性体中の気孔率を20%以下とした場合においても、εr’はほとんど変化しないからである。これにより、この複合磁性体が適用される電子部品や電子機器、例えば、携帯用電話機、携帯情報端末、多機能型携帯用情報機器等の通信装置のアンテナの電力損失をより抑制することができる。
【0051】
[複合磁性体の製造方法]
本実施形態の複合磁性体の製造方法は、平板状磁性粉体と有機分子鎖含有表面修飾剤と有機溶媒を混合し、前記平板状磁性粉体の表面を前記有機分子鎖含有表面修飾剤により修飾して絶縁性の平板状磁性粉体とすることにより、前記絶縁性の平板状磁性粉体を含有する混合液とする第1の工程と、前記混合液と絶縁材料を混合して成形材料とする第2の工程と、前記成形材料を用いて成形体または塗布膜を作製し、この成形体または塗布膜を、乾燥し、熱処理、焼成または電磁波照射する第3の工程と、を備えた製造方法である。
次に、この複合磁性体の製造方法について詳細に説明する。
【0052】
「第1の工程」
上記の平板状磁性粉体と有機分子鎖含有表面修飾剤と有機溶媒を混合し、この平板状磁性粉体の表面を有機分子鎖含有表面修飾剤により修飾して絶縁性の平板状磁性粉体とすることにより、この絶縁性の平板状磁性粉体を含有する混合液とする工程である。
【0053】
(平板状磁性粉体)
この平板状磁性粉体の製造方法としては、所望形状の平板状磁性粉体が得られる方法であればよく、特に限定されないが、例えば、液相還元法、アトマイズ法等で合成された球状の磁性粒子を有機溶媒中にて扁平化処理する方法が挙げられる。
ここで、「扁平化処理」とは、球状の磁性粒子に機械的応力(機械的なせん断エネルギー)を加えて、この球状の磁性粒子を塑性変形させるとともに、これら磁性粒子同士を凝着させることにより、平板状の磁性粉体とする方法である。
【0054】
この扁平化処理に用いられる扁平化処理装置としては、ニーダ、ロールミル、ピンミル、サンドミル(ビーズミル)、ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル等が挙げられ、これらの装置の中でも、扁平化処理を効率的に行うことができる点で、サンドミル、ボールミル、遊星ボールミルが好ましい。
【0055】
また、これらの装置で用いられるボール等の分散媒体(メディア)としては、球状の磁性粒子に対して不純物とならず、かつ剪断エネルギーを効果的に加えることができるものであればよく、アルミニウム、鉄鋼等の金属、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物、二酸化ケイ素等の無機酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、炭化ケイ素等の炭化物、ソーダガラス、鉛ガラス、高比重ガラス等の各種ガラスが挙げられる。
【0056】
これら分散媒体の大きさ(直径)は、0.03mm以上かつ3.0mm以下であることが好ましい。
これらの分散媒体の全体積は、扁平化処理装置の内容積の5体積%以上かつ50体積%以下とすることが好ましい。
この場合、扁平化処理の対象となる球状の磁性粒子の全質量は、これら分散媒体の全質
量に対して、1/100〜1/10の質量とすることが好ましい。
【0057】
この扁平化処理においては、分散媒体から球状の磁性粒子へのせん断エネルギーの付与を効果的に行うために、界面活性剤等を添加してもよい。
界面活性剤としては、球状の磁性粒子の表面と相性の良い窒素、リン、イオウ等の元素を含有している界面活性剤が好ましい。このような界面活性剤としては、例えば、窒素含有ブロックコポリマー、燐酸塩、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0058】
この扁平化処理に用いられる球状の磁性粒子の平均一次粒子径は、所望の形状が得られる大きさであればよく、特に限定されないが、液相還元法、水アトマイズ法等により作製された平均一次粒子径が10nm以上かつ500nm以下、好ましくは10nm以上かつ300nm以下の球状の磁性粒子を用いるのが好ましい。
ここで、球状の磁性粒子の平均一次粒子径を上記範囲とすれば、球状の磁性粒子の表面が高活性となり、粒子同士の親和性も高くなり、粒子同士の凝着を促進することができるので、好ましい。
【0059】
この扁平化処理に用いられる溶媒としては、特に限定されないが、球状の磁性粒子に含まれる金属元素の酸化を防止する必要がある点を考慮すると、有機溶媒が好ましい。
この有機溶媒としては、エステル類や炭化水素類、すなわち脂肪族炭化水素、脂環炭化水素、芳香族炭化水素が挙げられる。これらの溶媒を1種類で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0060】
ここで、上記のエステル類としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。
上記の脂肪族炭化水素としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、イソオクタン、ノナン、2−メチルブタン、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、2,2,3−トリメチルペンタン、2,2,5−トリメチルヘキサン、1−ヘキセン、1−オクテン、2−ペンテン、1−ヘプテン、1−リネン、1−デセンが挙げられる。
【0061】
脂環炭化水素としては、例えば、シクロペンタン、シクロブタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、P−メンタン、ビシクロヘキシル、シクロへキセン、2−ピネン、ジペンテン、メチルシクロペンタンが挙げられる。
【0062】
芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、キシレン、トルエン、メシチレン、ナフタレン、デカリン、テトラリン、エチルベンゼン、ブチルベンゼン、クメン、P−シメン、シクロへキシルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ジペンチルベンゼン、ドデシルベンゼン、ビフェニル、スチレンが挙げられる。
これらの中でも、特に、球状の磁性粒子との相性が良く、取り扱いが容易なキシレン、トルエン等の有機溶媒が好ましい。
【0063】
ここで、球状の磁性粒子を有機溶媒中にて扁平化処理する好ましい方法としては、例えば、平均粒子径が500nm以下の球状の磁性粒子を界面活性剤を含む溶液中に分散したスラリーと、分散媒体とを、密閉可能な容器内に、上記のスラリー及び分散媒体の合計の体積量が、密閉容器内の体積と等しくなるように充填し、このスラリーを分散媒体と共に密閉状態にて撹拌することにより、球状の磁性粒子に機械的応力(機械的なせん断エネルギー)を加えて塑性変形させるとともに、これら磁性粒子同士を凝着させることにより、複数個の球状の磁性粒子から1個の平板状磁性粒子を得る方法がある。
この方法により、平均厚みが0.01μm以上かつ1μm以下、平均長径が0.05μm以上かつ5μm以下、かつ平均アスペクト比(長径/厚み)が2以上かつ7以下であり、形状が略均一の平板状磁性粉体を容易に作製することができ、平板状磁性粉体の割れや欠けを抑制することができる。
【0064】
この扁平化処理にて分散媒体を用いた場合には、扁平化処理後の混合液から分散媒体を分離する。溶媒は、後述する絶縁材料との相溶性等を勘案し、必要に応じて適宜分離すればよい。
溶媒の分離方法としては、平板状磁性粉体を作製した後の混合液から溶媒を除去することができればよく、特に限定されないが、例えば、フィルタープレスや吸引ろ過等のろ過法、デカンターや遠心分離機による遠心分離法等、通常の固液分離法を用いればよい。
分離後の平板状磁性粉体は、酸化を抑制させるために乾燥工程を有しないことが好ましく、乾燥が必要な場合には、真空乾燥を用いるのが好ましい。
【0065】
(表面修飾)
上記の平板状磁性粉体と、有機分子鎖含有表面修飾剤と、有機溶媒とを混合することにより、この平板状磁性粉体の表面を有機分子鎖含有表面修飾剤により修飾する。
これにより、有機分子鎖含有表面修飾剤により表面が修飾された絶縁性の平板状磁性粉体を含有する混合液を得ることができる。
混合する際には、必要に応じて適宜、温度調整やpH調整を行うことが好ましい。
【0066】
上記の有機溶媒としては、平板状磁性粉体に含まれる金属元素の酸化を抑制することのできる有機溶媒であればよく、特に限定されない。
このような有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類が好適に用いられる。これらの中でも、沸点が高くかつ極性の低いトルエンやキシレン等の芳香族炭化水素が好ましい。
これらの有機溶媒は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0067】
この第1の工程により、平板状磁性粉体の表面を有機分子鎖含有表面修飾剤により修飾した絶縁性平板状磁性粉体を含有する混合液を得ることができる。
【0068】
「第2の工程」
第1の工程で得られた混合液と絶縁材料とを混合して成形材料とする工程である。
この工程では、第1の工程で得られた混合液と、絶縁材料と、必要に応じて硬化剤と溶媒とを混合して、本実施形態の絶縁性平板状磁性粉体を絶縁材料中に分散させた成形材料を作製する。
【0069】
絶縁材料については、上述した複合磁性体に用いられる絶縁材料を使用することができる。
このような絶縁材料としては、複合磁性体に用いられるエポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリスチレン樹脂等の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂が好適である。
ここで、絶縁材料として熱硬化性樹脂を用いる場合、硬化剤の種類や添加量については、使用する樹脂の種類や量に応じて適宜調整すればよい。
さらに、上記の熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合には、エポキシ基同士の縮合反応を促進させて、複合磁性体の成形体における硬化不良による気孔の発生を防止することができる点で第3アミンが好ましい。
【0070】
第3アミンとしては、例えば、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール等が挙げられる。
硬化剤の添加量としては、官能基の縮合反応を促進させる点を考慮すると、熱硬化性樹脂の全質量に対して0.5質量%以上かつ3質量%以下添加させればよい。
なお、絶縁材料として熱可塑性樹脂を用いる場合には、硬化剤は不要である。
【0071】
必要に応じて溶媒を使用する場合、この溶媒としては、上記の絶縁材料を溶解させることができるものであればよく、特に制限はされないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類が好適に用いられる。
これらの溶媒は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。 これらの溶媒の中でも、特に、シクロヘキサノンやキシレン等の沸点の高い溶媒は、溶媒の揮発によるスラリーの増粘を抑制することができるので好ましい。
【0072】
混合液及び絶縁材料に溶媒を添加して混合物とする場合、溶媒は、絶縁性の平板状磁性粉体の全体積量と絶縁材料の全体積量との合計体積量に対して、30体積%以上となるように混合させるのが好ましく、より好ましくは40体積%以上である。
絶縁性の平板状磁性粉体及び絶縁材料の全体積量に対して溶媒を30体積%以上混合させることにより、得られた混合物の粘度が低下するので、混合時に絶縁性の平板状磁性粉体同士が凝集していた場合においても、凝集がほぐれて絶縁材料中における分散性が向上する。これにより、複合磁性体の気孔率を低減させることができる。
【0073】
この混合物中の絶縁性の平板状磁性粉体の含有率は、本実施形態の複合磁性体の製造方法にて得られた複合磁性体中に10体積%以上かつ60体積%以下含有するように、調製することが好ましく、より好ましくは30体積%以上かつ50体積%以下含有するように、調製することが好ましい。
ここで、絶縁性の平板状磁性粉体の含有率が10体積%未満では、絶縁性の平板状磁性粉体が少なすぎてしまい、得られた複合磁性体の磁気特性が低下してしまうので好ましくない。一方、この絶縁性の平板状磁性粉体の含有率が60体積%を超えると、絶縁性の平板状磁性粉体が多すぎるために、得られた複合磁性体が脆くなる場合があるので好ましくない。
なお、この複合磁性体中には、絶縁性の平板状磁性粉体のみが含まれて、球状の磁性粒子は含まれていないことが好ましい。
【0074】
この混合物の粘度は0.1Pa・s以上かつ10Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは0.3Pa・s以上かつ10Pa・s以下である。
ここで、粘度が0.1Pa・s未満では、混合物の流動性が大きくなりすぎてしまい、次工程の乾燥工程での生産性が悪くなるので好ましくなく、一方、粘度が10Pa・sを超えると、混合物の粘性が高すぎてしまい、この混合物中の絶縁性の平板状磁性粉体の配向が生じ難くなり、その結果、次工程で得られた複合磁性体中における絶縁性の平板状磁性粉体の配向性が低下してしまうので、好ましくない。
【0075】
上記の絶縁性平板状磁性粉体と、絶縁材料と、必要に応じて硬化剤と溶媒とを混合し、成形材料を得る。
混合装置としては、これら絶縁性の平板状磁性粉体、絶縁材料、必要に応じて添加する硬化剤及び溶媒を均一に混合・分散させてスラリー状の混合物とすることができればよく、特に制限はされないが、例えば、ロールミル、自公転式ミキサー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、撹拌機等が挙げられる。これらの装置で混合する場合、絶縁性の平板状磁性粉体が凝集しすぎず、絶縁材料中に均一に分散させるように、混合条件を適宜調整すればよい。
【0076】
ここでは、第1の工程により、平板状磁性粉体の表面を有機分子鎖含有表面修飾剤により修飾した絶縁性平板状磁性粉体を含有する混合液を得、第2の工程により、この混合液と、絶縁材料と、必要に応じて硬化剤と溶媒とを混合して、絶縁性平板状磁性粉体を絶縁材料中に分散させた成形材料を作製することとしたが、上記の平板状磁性粉体と、絶縁材料と、必要に応じて硬化剤と溶媒とを混合して成形材料を得る工程にて、この平板状磁性粉体の表面を有機分子鎖含有表面修飾剤により修飾することを同時に行ってもよい。
【0077】
「第3の工程」
上記の工程で得られた成形材料を用いて成形体または塗布膜を作製し、この成形体または塗布膜を、乾燥し、熱処理、焼成または電磁波照射する工程である。
(成形体または塗布膜の作製)
成形体または塗布膜を作製する方法としては、混合物を一定の形状の成形体に成形、または一定の膜厚の塗布膜に形成することができ、かつこの成形体または塗布膜の形状を保持することができればよく、特に制限されない。
また、成形体の形状や大きさも特に制限はされず、例えば、シート状またはフィルム状に成形してもよく、直方体状等の厚みがある形状、例えばバルク状に成形してもよい。
【0078】
ここで、シート状またはフィルム状に成形する場合、シート状またはフィルム状の基体上に上記の混合物を塗布し、乾燥してシート状またはフィルム状とし、このシート状またはフィルム状のものを基体から剥離することで容易に得ることができる。この方法は、量産性に優れているので好ましい。
シート状またはフィルム状に成形する方法としては、ドクターブレード法、バーコート法、ダイコート法、プレス法等を挙げることができる。また、薄板状等の厚みがある形状に成形する場合、例えば、任意の形状の型に混合物を流し込む方法等が挙げられる。
また、複合磁性体を積層して積層構造体とする場合には、ドクターブレード法によりシート状またはフィルム状に成形した複合磁性体を積層することが好ましい。
【0079】
一方、塗布膜を作製する場合、基体上に上記の混合物を塗布し、乾燥することで、塗布膜を容易に得ることができる。この方法は、量産性に優れているので好ましい。
塗布膜を作製する方法としては、スクリーン印刷法、ロールコーター法等を挙げることができる。
また、この塗布膜を積層して積層構造体とする場合には、上記の混合物を塗布し乾燥して塗布膜とし、この塗布膜上に、上記の混合物を塗布し乾燥して第2の塗布膜とし、この第2の塗布膜上に、同様にして第3の塗布膜、第4の塗布膜…を順次成膜することにより、所定の層構造を有する積層構造体を得ることができる。
【0080】
(成形体または塗布膜の配向)
上記の工程で得られた成形体中または塗布膜中の絶縁性平板状磁性粉体を一方向に配向させる必要がある場合には、この成形体または塗布膜を乾燥する前に、成形体中または塗布膜中の絶縁性平板状磁性粉体を一方向に配向させる。
例えば、上記の工程で得られた成形体または塗布膜が、所望のμr’を有している場合には、この配向工程は不要である。しかしながら、よりμr’が高い複合磁性体を得るためには、得られた成形体または塗布膜に磁場を印加して、成形体中または塗布膜中の絶縁性平板状磁性粉体を一方向に配向させる配向工程を施す必要がある。
【0081】
成形体中または塗布膜中の絶縁性平板状磁性粉体を一方向に配向させる方法としては、成形体中または塗布膜中の絶縁性平板状磁性粉体を一方向に配向させることができるように磁場を印加すればよく、特に制限されない。
例えば、成形体中の絶縁性平板状磁性粉体に磁場を印加する場合、成形体中で磁力線が曲がると、絶縁性平板状磁性粉体を一方向に配向させることができない。したがって、磁場は発生する磁力線が成形体の表面に対して略平行となるように印加することが好ましい。
【0082】
印加する磁場の大きさは、100ガウス以上かつ3000ガウス以下であることが好ましい。磁場の大きさが100ガウス未満であると、磁場が小さすぎてしまい、成形体中の絶縁性平板状磁性粉体を十分に一方向に配向させることができない場合がある。一方、3000ガウスを超えると、磁場が大きすぎてしまい、この磁場により絶縁性平板状磁性粉体同士が凝集して絶縁材料である樹脂と分離してしまう虞があり、得られた複合磁性体の磁気特性に不均一が生じる虞があるので好ましくない。
【0083】
(乾燥、熱処理、焼成または電磁波照射)
上記の工程で得られた成形体または塗布膜を、乾燥し、熱処理、焼成または電磁波照射する工程である。
ここでは、絶縁性平板状磁性粉体が一方向に配向した成形体または塗布膜を、乾燥させ、次いで、加熱あるいは紫外線照射等の電磁波照射により絶縁材料である樹脂、例えば、熱硬化性樹脂を硬化させる。
この場合、熱硬化性樹脂の乾燥・硬化条件(処理温度、処理時間等)は、使用する樹脂や溶媒の種類に応じて適宜調整すればよい。
一方、熱可塑性樹脂の場合、乾燥により溶媒を除去することが好ましい。
【0084】
この熱処理、焼成または電磁波照射により所定形状の複合磁性体が得られる。
ところで、上記により所定形状の複合磁性体が得られない場合には、上記の工程で得られた成形体を乾燥した後にプレスする工程を施すことが好ましい。
プレス装置は公知のものを適宜用いればよい。
プレス装置で成形体に圧力を加える際に、絶縁材料として樹脂を用いる場合には、樹脂の軟化温度以上かつ硬化開始温度以下で圧力を加えることが好ましい。
プレス時の圧力は適宜調整すればよいが、1MPa〜20MPa程度の圧力を加えるのが好ましい。
以上により、本実施形態の複合磁性体を得ることができる。
【0085】
[アンテナ]
本実施形態のアンテナは、本実施形態の複合磁性体を備えたものである。
この複合磁性体を備えたアンテナの一形態として、本実施形態の複合磁性体を装荷したアンテナがある。
アンテナに本実施形態の複合磁性体を装荷させる方法としては、特に制限されず、アンテナを構成する銅線等の導体(以下、「アンテナ導体」と称する)に本実施形態の複合磁性体を被覆させる等、公知の方法で装荷させればよい。
ここで、「装荷」とは、電磁的な相互作用により波長短縮等の効果が得られるようにするために、アンテナ導体に複合磁性体を接触させたり、あるいは近づけたりすることを意味する。
【0086】
アンテナの種類及び形状は、特に制限されず、モノポールアンテナ、ダイポールアンテナ、ループアンテナ、ミアンダアンテナ、ヘリカルアンテナ、パッチアンテナ、F型アンテナ、L型アンテナ等が好適に用いられる。また、アンテナをより小型化させるために、整合回路を併用してもよい。
例えば、モノポールアンテナやL字アンテナは、アンテナ導体を中心として、上記の複合磁性体を棒状あるいは長尺の板状に加工したもので挟み込むように形成することで得ることができる。
また、ヘリカルアンテナは、上記の複合磁性体を棒状に加工した棒状複合磁性体の周囲に、銅線等からなる長尺かつ極細のアンテナ導体をコイル状に巻回することで得ることができる。
【0087】
[通信装置]
本実施形態の通信装置は、上記のアンテナを備えている。
この通信装置としては、電磁波を介して各種情報の送信、受信、送受信のいずれかを行う装置であればよく、特に限定されない。例えば、パーソナルコンピューター、携帯用電話機、携帯情報端末、スマートフォン等の多機能携帯用情報端末、PDA(Personal Digital Assistant)等の通信機器、オーディオ機器、ビデオ機器、カメラ機器等の各種電子機器等が挙げられる。
【0088】
本実施形態の通信装置には、上述した各種機器の他、これらの各種機器に付随する保護カバー等の各種アクセサリー(補助用具)に上記のアンテナを設けた補助アンテナを装着した通信装置も含まれる。
これらの通信装置においては、上記のアンテナは、通信装置の外部に設けられていてもよく、また、内蔵されていてもよく、いずれでもよい。
【0089】
以上説明したように、本実施形態の絶縁性平板状磁性粉体によれば、平板状磁性粉体の表面を有機分子鎖含有表面修飾剤により修飾して、この表面を絶縁性としたので、絶縁材料と共に複合磁性体を形成した場合に、複素透磁率の実部μr’を大きく、かつ複素誘電率の損失正接tanδεを小さくすることができる。したがって、高透磁率と低誘電損失とを両立させることができる複合磁性体を提供することができる。
【0090】
また、絶縁性平板状磁性粉体として、平均厚みが0.01μm以上かつ1μm以下、平均長径が0.05μm以上かつ5μm以下、かつ平均アスペクト比(長径/厚み)が2以上の粉体を用いたので、μr’をより高くすることができ、tanδεをより低くすることができる。
【0091】
さらに、上記の有機分子鎖含有表面修飾剤として、脂肪酸、シランカップリング剤、変性シリコーン、シリコーンレジン及び界面活性剤の群から選択される1種または2種以上を用いた場合には、得られた絶縁性平板状磁性粉体と絶縁性材料との相溶性も向上するので、得られる複合磁性体の品質安定性を向上させることができる。
【0092】
本実施形態のアンテナによれば、本実施形態の複合磁性体を備えたので、小型で、電力損失が低減されたアンテナを提供することができる。
【0093】
本実施形態の通信装置によれば、本実施形態の小型のアンテナを備えたので、小型で電力損失が低減されたアンテナを用いることにより、通信装置全体の小型化、電力損失が低減された通信装置を得ることができる。
【0094】
本実施形態の複合磁性体の製造方法によれば、平板状磁性粉体と有機分子鎖含有表面修飾剤と有機溶媒を混合し、この平板状磁性粉体の表面を有機分子鎖含有表面修飾剤により修飾して絶縁性平板状磁性粉体を含有する混合液とし、この混合液と絶縁材料を混合して成形材料とするので、平板状磁性粉体をわざわざ乾燥させる工程が不要となり、製造工程を簡素化することができる。また、乾燥による平板状磁性粉体同士の融着を抑制することができる。
したがって、透磁率が高く、かつ誘電損失の低い複合磁性体を、簡単な工程で製造することができ、かつ、製造コストも低減することができる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0096】
[実施例1]
「平板状磁性粉体の作製」
ニッケルと鉄のモル比を78:22に調整した塩化ニッケルと塩化第一鉄を含む水溶液を作製し、この水溶液を50℃に加温し、さらに水酸化ナトリウム水溶液及びヒドラジンを添加して反応させ、ニッケルを78モル%含む平均粒子径が160nmのFe−Ni合金の球状粒子を得た。
【0097】
次いで、このFe−Ni合金の球状粒子15g、直径が0.05mmのジルコニア製のボール300g、キシレン80g、及び潤滑剤としてアミン系界面活性剤0.15gを、内容積が400mLのジルコニア容器内に充填して、ビーズミルにて扁平化処理を行ない、平板状磁性粉体を含有する混合液を得た。
次いで、この混合液を固液分離して、平板状磁性粉体のスラリーを得た。
【0098】
「平板状磁性粉体の評価」
得られた平板状磁性粉体のスラリーの一部を乾燥し、平板状磁性粉体を得た。この平板状磁性粉体を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、平均長径は1μm、平均厚みは0.2μm、平均アスペクト比は5であった。
【0099】
「絶縁性平板状磁性粉体の作製」
(第1の工程)
得られた平板状磁性粉体のスラリー5.7g(平板状磁性粉体として4g)と、有機分子鎖含有表面修飾剤としてオレイン酸0.2gと、トルエン2.3gとを混合して、平板状磁性粉体の表面修飾を行い、絶縁性平板状磁性粉体を作製した。
【0100】
(第2の工程)
次いで、この絶縁性平板状磁性粉体を含む混合液と、絶縁材料としてポリスチレン樹脂と、トルエンとを、複合磁性体中に絶縁性平板状磁性粉体が30体積%となるように混合し、成形材料を得た。
【0101】
(第3の工程)
次いで、この成形材料を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にドクターブレードにて塗布した。
塗布後、90℃で20分加熱し、さらに100℃にて3MPaのプレス圧力を10分加えて、実施例1の複合磁性体を得た。
【0102】
「複合磁性体の評価」
この複合磁性体の電磁気特性を次の方法により評価した。
マテリアルアナライザー E4991A型(Agilent Technologies社製)を用いて、大気中、室温(25℃)にて、複合磁性体の200MHzと500MHzにおける複素透磁率の実部μr’、複素透磁率の虚部μr’’、複素誘電率の実部εr’、複素誘電率の実部εr’’、複素透磁率のtanδμ及び複素誘電率のtanδεを測定した。
得られた電磁気特性の測定結果を表1に示す。
また、100MHz〜1GHzまでの複素誘電率の実部εr’とtanδεを図1に、複素透磁率の実部μr’とtanδμを図2に、それぞれ示す。
【0103】
[実施例2]
実施例1の第1の工程にて、オレイン酸0.2g及びトルエン2.3gを、オレイン酸0.12g及びトルエン2.4gに変更した他は、実施例1と全く同様にして、実施例2の複合磁性体を得た。
この複合磁性体の電磁気特性を実施例1と同様にして測定した。実施例2の複合磁性体の電磁気特性の測定結果を表1に示す。
【0104】
[実施例3]
実施例1の第1の工程にて、オレイン酸の替わりにステアリン酸を用いた他は、実施例1と全く同様にして、実施例3の複合磁性体を得た。
この複合磁性体の電磁気特性を実施例1と同様にして測定した。実施例3の複合磁性体の電磁気特性の測定結果を表1に示す。
【0105】
[実施例4]
実施例1の第1の工程にて、オレイン酸の替わりにラウリン酸を用いた他は、実施例1と全く同様にして、実施例4の複合磁性体を得た。
この複合磁性体の電磁気特性を実施例1と同様にして測定した。実施例4の複合磁性体の電磁気特性の測定結果を表1に示す。
【0106】
[実施例5]
実施例1の第1の工程にて、オレイン酸の替わりにフェニルトリメトキシシランを用いた他は、実施例1と全く同様にして、実施例5の複合磁性体を得た。
この複合磁性体の電磁気特性を実施例1と同様にして測定した。実施例5の複合磁性体の電磁気特性の測定結果を表1に示す。
【0107】
[比較例1]
実施例1の「平板状磁性粉体の作製」の工程に準じて平板状磁性粉体を含有する混合液を作製した。
次いで、この平板状磁性粉体を含有する混合液を平板状磁性粉体の質量換算で4質量部と、ポリスチレン樹脂とを、複合磁性体中に平板状磁性粉体が30体積%となるように混合し、成形材料を得た。
【0108】
次いで、この成形材料を用いて、実施例1の第3の工程と同様にして、有機分子鎖含有表面修飾剤により表面が修飾されていない平板状磁性粉体を含有する比較例1の複合磁性体を得た。
この複合磁性体の電磁気特性を実施例1と同様にして測定した。比較例1の複合磁性体の電磁気特性の測定結果を表1に示す。
【0109】
[比較例2]
実施例1の「平板状磁性粉体の作製」の工程に準じて平板状磁性粉体のスラリーを作製した。
次いで、この平板状磁性粉体のスラリーを、140℃で8時間乾燥を行い、表面に酸化被膜を有する比較例2の平板状磁性粉体を得た。
【0110】
次いで、上記の平板状磁性粉体4質量部と、ポリスチレン樹脂とを、複合磁性体中に平板状磁性粉体が30体積%となるように混合し、成形材料を得た。
次いで、この成形材料を用いて、実施例1の第3の工程と同様にして、表面が酸化被膜により絶縁処理された平板状磁性粉体を含有する比較例2の複合磁性体を得た。
この複合磁性体の電磁気特性を実施例1と同様にして測定した。比較例2の複合磁性体の電磁気特性の測定結果を表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
実施例1〜5の複合磁性体は、平板状磁性粉体の表面が有機分子鎖含有表面修飾剤により修飾されて絶縁性とされているので、比較例1の複合磁性体と比べて、μr’が高く、tanδεが低いことが確認された。
実施例1〜5の複合磁性体は、酸化被膜により表面が絶縁性とされた平板状磁性粉体を用いた比較例2の複合磁性体と比べて、tanδεをより低くできることが確認された。
図1
図2