(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、自動車樹脂グレージング基材上のシリコーンハードコート被覆材上に起きた塗装損傷箇所を補修するための補修塗料に関するもので、より詳細には、プライマーの上にシリコーンハードコートを積層被覆した自動車樹脂グレージングに対する補修用塗料組成物及び補修塗装方法に関するものである。
【0015】
本発明を構成する自動車樹脂グレージング用補修塗料については、(I)中塗り塗料組成物とその上に塗装する(II)上塗り塗料組成物からなり、
(I)中塗り塗料組成物が、下記(A)成分及び(B)成分を含有する塗料であり、
(A)反応性シロキサン化合物 100質量部
(B)シリカ 1〜50質量部
(II)上塗り塗料組成物が、下記(C)〜(G)成分を含有することを特徴とする補修塗料である。
(C)成分:紫外線吸収性官能基を持つアルコキシシラン (C)〜(G)成分の合計100質量部中1〜25質量部
(D)成分:多官能アルコキシシラン (C)〜(G)成分の合計100質量部中20〜70質量部
(E)成分:反応性シロキサン化合物 (C)〜(G)成分の合計100質量部中20〜70質量部
(F)成分:コロイダルシリカ 不揮発分の量に換算して、(C)〜(G)成分の合計100質量部中1〜50質量部
(G)成分:リン酸 (C)〜(G)成分の合計100質量部中0.5〜20質量部
【0016】
当該補修塗料を用いた補修塗装方法においては、プラスチック基材上にプライマー層とシリコーンハードコート層とを積層被覆した塗膜の損傷箇所に、中塗り塗料組成物を塗装することで凹凸を埋めたのち、ハードコート層平坦部の余分な中塗り塗料組成物を取り除いた後、更に、上塗り塗料組成物を塗装する補修方法である。
【0017】
以下に、本発明の各成分を詳細に説明する。
(I)中塗り塗料組成物
中塗り塗料組成物は、(A)成分:反応性シロキサン化合物100質量部、(B)成分:シリカ1〜50質量部を含有する組成物から形成される。
(A)反応性シロキサン化合物
本発明の反応性シロキサン化合物としては、多官能アルコキシシロキサンが使用される。多官能アルコキシシランは、本中塗り塗料組成物におけるシリカの固定と上塗り塗料との密着性を向上させる成分で、下記平均組成式(1)で表される構造を持つアルコキシ基含有シロキサンである。
R
1b−Si(OR
2)
c(OH)
dO
(4-b-c-d)/2 (1)
(式中、R
1は、同一又は異なってもよい、炭素数1〜10の置換もしくは非置換のアルキル基及びアリール基を示す。R
2は、炭素数1〜6の1価炭化水素基を示す。b、c、dは、1≦b<2、0.1≦c≦3、0≦d<0.5、1.1≦b+c+d≦4を満たす数である。)
【0018】
R
1は炭素数1〜10の置換(特にハロゲン置換)もしくは非置換のアルキル基及びアリール基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基などが例示される。これらの中でも、特に耐擦傷性や耐候性が要求される用途に使用する場合にはアルキル基が好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0019】
R
2は炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基、フェニル基等の1価炭化水素基で、(OR
2)基は加水分解性基であり、炭素数1〜6の加水分解性基が挙げられる。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基、イソプロペノキシ基等のオルガノオキシ基を挙げることができる。この中で、特に反応速度、操作性、副産物の留去の容易さから炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましく、とりわけメトキシ基、エトキシ基が好ましい。
【0020】
bは1≦b<2を満たす数であり、1≦b<1.5の範囲が好ましい。bが1未満の場合、硬化の際に架橋密度が高くなるため塗膜にクラックが発生するおそれがあり、2以上の場合は十分な硬度が発現できないおそれがある。cは0.1≦c≦3を満たす数であり、0.5≦c≦2の範囲が好ましい。cが0.1未満の場合、硬化性や密着性が不十分となるおそれがあり、3より大きい場合は、硬化の際に架橋密度が高くなるため塗膜にクラックが発生するおそれがある。dは0≦d<0.5を満たす数であり、0≦d<0.2の範囲が好ましい。dが0.5以上の場合は保存安定性が悪くなり、経時で塗料のゲル化を引き起こしたり、粘度の上昇により、塗料の塗工性が悪化するおそれがある。
【0021】
(A)反応性シロキサン化合物は、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン又はそれらの縮合物の部分(共)加水分解縮合物により得ることができる。
【0022】
補修用塗料組成物としての硬化性、表面硬度、耐クラック性、基材との密着性といった観点からは、(A)成分中で、トリアルコキシシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の占める割合が30モル%以上であることが好ましく、更には40〜100モル%であることがより好ましい。また、テトラアルコキシシランのシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の占める割合は、(A)成分中0〜40モル%であることが好ましく、ジアルコキシシラ
ン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の占める割合は、(A)成分中0〜60モル%であることが好ましい。(A)成分として、トリアルコキシシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物に加えて、テトラアルコキシシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物を配合すると、硬化被膜の表面硬度をより高くすることができるが、配合量が多すぎるとクラックが発生するおそれがあり、ジアルコキシシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物を併用すると、硬化被膜に強靱性と可撓性が与えられるが、配合量が多すぎると十分な架橋密度が得られないために、表面硬度や硬化性が低下するおそれがある。
【0023】
具体的なシラン化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、トリルトリメトキシシラン、トリルトリエトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン、アリールアルコキシシランが挙げられ、また、それらの2量体、3量体といった縮合物が使用できる。これらのシラン化合物の中でも、汎用性、コスト面、シリコーン系コーティング剤組成物として使用した際の硬化性、被膜特性、機能性付与効果や組成物の保存安定性から、置換基としてアルキル基から選択され、加水分解性基としてメトキシ基、エトキシ基から選択されるシラン化合物を用いることが好ましい。この部分(共)加水分解縮合物としては、上記したようなシラン化合物に必要量の水と酢酸や塩酸等の触媒としての酸を作用させてアルコールを脱離させることができ、2種以上のシラン化合物を原料とする部分共加水分解縮合物を使用することも可能である。
【0024】
(共)加水分解に際し、加水分解触媒を使用してもよい。加水分解触媒としては、従来公知の触媒を使用することができ、特に酸性のハロゲン化水素、カルボン酸、スルホン酸、酸性或いは弱酸性の酸化物や無機塩、イオン交換樹脂等の固体酸等を使用することができる。これらの例としては、酢酸、マレイン酸に代表される有機酸、表面にスルホン酸基又はカルボン酸基を有するカチオン交換樹脂等を好適に用いることができる。加水分解触媒の量は、加水分解性基1モルに対して0.001〜10モルが好ましい。また、加水分解は弱酸性条件下で加水分解することが好ましく、特にpHが2〜7の範囲で反応させることが好ましい。加水分解を弱酸性下で行わない場合は生成するシラノール基が不安定となり、縮合反応が進み、分子量が大きくなりすぎることがある。
【0025】
加水分解の際に添加する水の量は、加水分解性基1モルに対して0.05〜0.8モルであり、好ましくは0.1〜0.5モルである。0.05モル未満の場合、重合が進行しないことがあり、0.8モルを超えるとSi−OH基が増加し、分子間での架橋によってゲル化が起こるおそれがある。
【0026】
本発明の(A)成分としては、上記したシラン化合物の部分(共)加水分解縮合物を単独で使用してもよいし、構造の異なる2種類以上のシラン化合物の部分(共)加水分解縮合物を使用することも、或いは、2種類以上の部分(共)加水分解縮合物を併用することも可能である。
また、(A)成分の25℃における粘度は5〜500mm
2/s、特に10〜200mm
2/sであることが好ましい。5mm
2/s未満の場合、流動性が高すぎて塗膜損傷部分の凹凸から流出することがあり、500mm
2/sを超えると塗膜損傷部分の凹凸部への浸透性に劣ることがある。なお、粘度はオストワルド粘度計を用いて測定し得る。
【0027】
(A)反応性シロキサン化合物の分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって測定することができる。本発明のシロキサン樹脂は、GPCにより測定したポリスチレン標準で換算した質量平均分子量が500〜10000、好ましくは1000〜5000である。分子量が500未満の場合、流動性が高すぎて塗膜損傷部分の凹凸から流出することがあり、10000を超えると粘度が高くなり塗膜損傷部分の凹凸部への浸透性に劣ることがある。
【0028】
本発明においては、(A)成分として、メチルトリメトキシシラン単位及び/又はメチルトリエトキシシラン単位からなる部分(共)加水分解縮合物を必須成分として使用することによって、特に常温における硬化性に優れ、特性バランスが良好な補修用塗料における中塗り塗料組成物とすることができる。
【0029】
(B)成分は、シリカ、つまり二酸化ケイ素の微細粒子である。本成分は、塗膜に硬度・耐摩耗性を与える充填剤の役割と、補修剤として損傷個所中のクラックを埋めることで傷隠蔽剤としての役割を果たすと考えられている。(A)成分との間で分散が可能である火炎加水分解法による微細シリカ(ヒュームドシリカ)を使用するのが好ましい。
【0030】
微細シリカの製造方法は、ガス状オルガノハロシランと、燃焼して水蒸気を発生する可燃性ガス、及び、遊離酸素を含有するガスを予混合し、これを反応室に供給し、火炎加水分解するものである。この場合、燃焼して水蒸気を発生する可燃性ガスの量と、バーナー形状と、予混合ガスのバーナー噴出速度が一定の条件を満たすことが必要であり、可燃性ガスに対する酸素の量、バーナー形状をある一定の範囲に調整することが好ましい。オルガノハロシランを原料とした微細シリカの製造にあたっては、かかる条件を満たすことにより、BET比表面積が100〜400m
2/gであり、1次粒子の粒度分布が狭い、透明性に優れたシリコーン成型物となり得る微細シリカが得られる。
【0031】
ここで、オルガノハロシランとしては、
R
4-mSiX
m
(式中、Rは水素原子、メチル基、エチル基、又はフェニル基を示し、Xは塩素等のハロゲン原子を示し、mは1〜3の整数を示すが、Rがフェニル基の場合、mは3である。また、Rの全てが水素原子となる場合を除く。)
で示されるものであれば特に制限はないが、ガス化してバーナーに供給する必要があるため、沸点が250℃以下のものが好ましく、具体的にはメチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン等のオルガノハロシランが例示される。
【0032】
また、燃焼して水蒸気(H
2O)を生成する可燃性ガスとしては、水素が好適に用いられるが、メタン、プロパン、及びガス状メタノールなども用いられる。一方、遊離酸素を含むガスとしては、空気が経済上から好ましい。上記ハロシランを火炎加水分解する方法としては、多重管バーナーが用いられる。上記オルガノハロシランのガスと、燃焼して水蒸気を発生する可燃性ガスと、遊離酸素を含有するガスとの混合ガスを、バーナーを通して反応室に供給し、上記オルガノハロシランを火炎加水分解して、更に酸化反応を経て、微細シリカを製造する。
【0033】
例えばオルガノハロシランからシリカを合成する場合の量論式として、メチルトリクロロシランの場合は次のように表すことができる。
CH
3SiCl
3+2O
2→SiO
2+CO
2+3HCl
この式ではメチルトリクロロシランからのシリカ合成において、量論上水蒸気は必要ないことを示している。事実シリカを合成するだけならば十分な水蒸気を発生させる可燃性ガスは必要ではない。しかし、1次粒子径のばらつきが少ない微細シリカを得るにはオルガノハロシランの加水分解を考慮した水蒸気量が必要である。これはオルガノハロシランの官能基である炭化水素等の燃焼によって発生する水蒸気は、この燃焼速度が遅いためオルガノハロシランの加水分解に寄与しづらい、逆に言うとバーナー出口近傍では加水分解に必要な水蒸気が欠乏するために粒子の粗大化が起こるのではないかと考えられる。従って、燃焼速度の速い水素が好適に使用される。また、この水蒸気はシリカ表面に活性なOH基を持たせることにも寄与している。可燃性ガスの存在は安定した火炎形成を助ける役目もする。
【0034】
好ましくは、R
4-kSiO
k/2からSiO
2を合成するのに必要な酸素等量と上記可燃性ガスの燃焼に必要な酸素等量の合計の1〜2倍の量となるだけの酸素を含んだ遊離酸素含有ガスを混合する。
【0035】
これは公知の通り、オルガノハロシランに由来するカーボンの残留を防止するのに十分な遊離酸素を含有するガスの量を、混合する必要があると共に、火炎温度を調節する役目を果たしている。特に、微細シリカの比表面積は火炎温度と相関があることは知られており、オルガノハロシランと可燃性ガスの燃焼によって発生する発熱量と、遊離酸素を含有するガス、一般的には空気の量によって火炎温度を調節し、目的とする比表面積の微細シリカを合成している。
【0036】
なお、上記の条件を満足する以外は、常法によりオルガノハロシランの火炎加水分解によって微細シリカを製造することができ、火炎加水分解の条件等については公知の条件を採用し得る。
【0037】
シリカ微粒子の粒径は、塗膜の透明性が維持できるほど小さいものであれば使用可能であるが、レーザー回折・散乱法で測定した体積基準の50%累積平均粒子径(d
50)において1〜300nm、特に1〜100nmの範囲にあるものが好ましい。粒子の分散安定性を増す目的でシランカップリング剤やテトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン、チタンカップリング剤、カルボキシル基含有有機ポリマー等で一部処理・被覆されたものを用いてもよい。但し、ここで言う(B)成分の主成分は、無機二酸化ケイ素であって、安定化のため添加し、被覆に使用される有機物含有量は10質量%以下であることが好ましい。
【0038】
(B)成分の配合量は、(A)成分中100質量部に対して、1〜50質量部、特に5〜30質量部が好ましい。1質量部
未満では隠蔽性が発現できなくなるおそれがあり、5質量部
を超えると塗工時の加工性が不良となるおそれがある。
【0039】
(I)中塗り塗料組成物の粘度は特に限定されないが、1000〜200000mPa・sの範囲が好ましい。上記範囲の粘度であれば、塗膜損傷部分の凹凸に浸透し、更に流れ出しにくくなるため、より効果的に塗膜の傷を隠蔽することができる。
【0040】
(II)上塗り塗料組成物
本発明に係る上塗り塗料組成物は、次の(C)〜(G)を必須成分として含有するコーティング組成物である。
(C)成分:紫外線吸収性官能基を持つアルコキシシラン、
(D)成分:多官能アルコキシシラン、
(E)成分:反応性シロキサン化合物、
(F)成分:コロイダルシリカ、
(G)成分:リン酸、
更に、必要に応じて
(H)成分:溶剤
を含有することも可能である。
【0041】
(C)成分は、紫外線吸収性官能基を持つアルコキシシランである。具体的には(C)成分が、下記式(2)で示される構造のベンゾフェノン基含有シランである。
【化2】
(式中、Zは、炭素数2〜6のアルキレン基を示す。R
3、R
4は、それぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基を示す。Yは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子である。aは、0又は1である。)
【0042】
紫外線吸収性のアルコキシシランは、分子内にベンゾフェノン骨格を持ち、これが紫外線の吸収に寄与する。また、分子端のアルコキシル基は加水分解して反応性の高いシラノールを生じ、これが縮合重合することによって自身で高分子化、或いは他のバインダー成分と結合することができる。
【0043】
(C)成分のベンゾフェノン基含有シランの前駆体は、2つ以上のヒドロキシ基を有するベンゾフェノンを原料として、アリル基を有するハロゲン類との反応により、アリロキシベンゾフェノン類として製造することができる。
【0044】
本発明において(C)成分として用いられる、前記一般式(2)で表される化合物は、上記アリロキシベンゾフェノン類と、ヒドロシラン化合物と、白金触媒の存在下に、必要に応じて、トルエン、テトラヒドロフラン等の反応に不活性な溶媒中で、又は無溶媒で反応させることにより合成することができる。ヒドロシラン化合物は、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、又はペントキシ基を、1分子中に1〜3個もつヒドロシラン化合物を用いることができる。より好ましくは、トリメトキシシラン、トリエトキシシランである。反応は、室温〜150℃の範囲で行い得るが、好ましくは、25〜約100℃で行われる。トリメトキシシランを用いる場合、反応は、常温〜60℃程度に加温することで、約30分〜2時間程度で完了する。
【0045】
本発明で使用する紫外線吸収性シランは、例えば次のようにして製造される。ジヒドロキシベンゾフェノンを、最初にケトン系有機溶剤中でハロゲン化アリル及び炭酸カリウムと反応させて、ヒドロキシ−アリロキシベンゾフェノンを生じさせる。このベンゾフェノンに白金触媒存在条件下でヒドロアルコキシシランを作用させて、ヒドロキシ−(アルコキシシリルアルコキシ)ベンゾフェノンを生成させる。
【0046】
(C)成分の混合比率は、(C)〜(G)成分の合計100質量部中、(C)成分を1〜25質量部の範囲とすることが必要であり、好ましくは5〜20質量部である。1質量部未満では紫外線吸収性に乏しいものとなり密着性も不足するおそれがある。25質量部より多い場合は紫外線遮蔽性の向上がみられないばかりか、組成物中の他の成分が少なくなるため、硬化膜の硬度等の特性が低下する場合がある。
【0047】
本発明の(D)成分としては、多官能アルコキシシランが使用される。(D)成分は本発明の上塗り塗料組成物から生成する膜の可撓性、膜強度を向上させる成分で、以下の式(3)で表される構造を持つアルコキシ基を有するシランである。
R
5eSi(OR
6)
f (3)
ここで、R
5は、同一又は異なってもよい、炭素数1〜10の非置換又は置換(特にハロゲン置換)の1価炭化水素基を示す。R
6は、同一又は異なってもよい、炭素数1〜5のアルキル基を示す。e及びfは、次の関係式:0≦e≦2、2≦f≦4、e+f=4を満たす数である。
この場合、R
5としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基等が挙げられ、eは1又は2、fは2又は3が好ましい。
【0048】
このようなシラン化合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、トリルトリメトキシシラン、トリルトリエトキシシラン、を挙げることができる。また、これらのうち2種以上のシラン化合物を原料とすることも可能である。
【0049】
これらのシラン化合物の中でも、汎用性、コスト面、シリコーン系コーティング剤組成物として使用した際の硬化性、被膜特性、機能性付与効果や組成物の保存安定性からは、式(3)におけるR
5は、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基から選択され、R
6がメチル基、エチル基から選択されるアルキル基であるシラン化合物を用いることが好ましい。中でも式(3)においてe=f=2となるジアルキルジアルコキシシラン、ジアリールジアルコキシシランが好ましく、最も好ましくはジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランである。
【0050】
(D)成分の混合比率は、(C)〜(G)成分の合計100質量部中、(D)成分を20〜70質量部の範囲とすることが必要である。20質量部未満では強度が低くなって実用性に乏しいものとなるおそれがあり、70質量部より多くしても硬度の向上がみられないばかりか、組成物中の他の成分が少なくなるため、硬化膜の密着性、紫外線遮蔽性等の特性が低下する場合がある。
【0051】
本発明の(E)成分としては、反応性シロキサン化合物が使用される。(E)成分は本発明組成物から生成する膜の強度を向上させる成分で、アルコキシシランの部分加水分解縮合物であり、以下の式(4)で表される構造を持つ。
R
7g−Si(OR
8)
h(OH)
iO
(4-g-h-i)/2 (4)
ここで、R
7は、同一又は異なってもよい、炭素数1〜10の置換(特にハロゲン置換)もしくは非置換のアルキル基又はアリール基を示す。R
8は、炭素数1〜6の1価炭化水素基を示す。g、h、iは、1≦g<2、0.1≦h≦3、0≦i<0.5、1.1≦g+h+i≦4を満たす数である。
【0052】
R
7は炭素数1〜10の置換もしくは非置換のアルキル基及びアリール基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基等が例示される。これらの中でも、特に耐擦傷性や耐候性が要求される用途に使用する場合にはアルキル基が好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0053】
R
8はアルキル基、アルケニル基、フェニル基等の炭素数1〜6の1価炭化水素基で、(OR
8)基は加水分解性基であり、炭素数1〜6の加水分解性基等が挙げられる。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基、イソプロペノキシ基等のオルガノオキシ基を挙げることができる。この中で、特に反応速度、操作性、副産物の留去の容易さから炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましく、とりわけメトキシ基、エトキシ基が好ましい。
【0054】
gは1≦g<2を満たす数であり、1≦g<1.5の範囲が好ましい。gが1未満の場合、硬化の際に架橋密度が高くなるため塗膜にクラックが発生するおそれがあり、2以上の場合は十分な硬度が発現できないおそれがある。hは0.1≦h≦3を満たす数であり、0.5≦h≦2の範囲が好ましい。hが0.1未満の場合、硬化性や密着性が不十分となるおそれがあり、3より大きい場合は、硬化の際に架橋密度が高くなるため塗膜にクラックが発生するおそれがある。iは0≦i<0.5を満たす数であり、0≦i<0.2の範囲が好ましい。iが0.5以上の場合は保存安定性が悪くなり、経時で塗料のゲル化を引き起こしたり、粘度の上昇により、塗料の塗工性が悪化するおそれがある。
【0055】
(E)反応性シロキサン化合物は、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン又はそれらの縮合物の部分(共)加水分解縮合物により得ることができる。
【0056】
補修用塗料組成物としての硬化性、表面硬度、耐クラック性、基材との密着性といった観点からは、(E)成分中で、トリアルコキシシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の占める割合が30モル%以上であることが好ましく、更には40〜100モル%であることがより好ましい。また、テトラアルコキシシランのシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の占める割合は、(E)成分中0〜40モル%であることが好ましく、ジアルコキシシラ
ン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の占める割合は、(E)成分中0〜60モル%であることが好ましい。(E)成分として、トリアルコキシシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物に加えて、テトラアルコキシシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物を配合すると、硬化被膜の表面硬度をより高くすることができるが、配合量が多すぎるとクラックが発生するおそれがあり、ジアルコキシシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物を併用すると、硬化被膜に強靱性と可撓性が与えられるが、配合量が多すぎると十分な架橋密度が得られないために、表面硬度や硬化性が低下するおそれがある。
【0057】
具体的なシラン化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、トリルトリメトキシシラン、トリルトリエトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン、アリールアルコキシシランが挙げられ、また、それらの2量体、3量体といった縮合物が使用できる。これらのシラン化合物の中でも、汎用性、コスト面、シリコーン系コーティング剤組成物として使用した際の硬化性、被膜特性、機能性付与効果や組成物の保存安定性から、置換基としてアルキル基から選択され、加水分解性基としてメトキシ基、エトキシ基から選択されるシラン化合物を用いることが好ましい。この部分(共)加水分解縮合物としては、上記したようなシラン化合物に必要量の水と酢酸や塩酸等の触媒としての酸を作用させてアルコールを脱離させることができ、2種以上のシラン化合物を原料とする部分共加水分解縮合物を使用することも可能である。
【0058】
(共)加水分解に際し、加水分解触媒を使用してもよい。加水分解触媒としては、従来公知の触媒を使用することができ、特に酸性のハロゲン化水素、カルボン酸、スルホン酸、酸性或いは弱酸性の酸化物や無機塩、イオン交換樹脂等の固体酸等を使用することができる。これらの例としては、酢酸、マレイン酸に代表される有機酸、表面にスルホン酸基又はカルボン酸基を有するカチオン交換樹脂等を好適に用いることができる。加水分解触媒の量は、加水分解性基1モルに対して0.001〜10モルが好ましい。また、加水分解は弱酸性条件下で加水分解することが好ましく、特にpHが2〜7の範囲で反応させることが好ましい。加水分解を弱酸性下で行わない場合は生成するシラノール基が不安定となり、縮合反応が進み、分子量が大きくなりすぎることがある。
【0059】
加水分解の際に添加する水の量は、加水分解性基1モルに対して0.05〜0.8モルであり、好ましくは0.1〜0.5モルである。0.05モル未満の場合、重合が進行しないことがあり、0.8モルを超えるとSi−OH基が増加し、分子間での架橋によってゲル化が起こるおそれがある。
【0060】
(E)成分の例としては、上記したようなシラン化合物を部分(共)加水分解縮合させたものが使用でき、好ましくは2量体〜11量体である。単量体では硬化に時間がかかり、粘度が低いため塗料が流れてしまい良好な膜が形成できないおそれがあり、12量体以上では高粘度となり塗工性や密着性悪化のおそれがある。(E)成分の25℃における粘度は0.05〜20mm
2/s、特に0.5〜10mm
2/sであることが好ましい。粘度が0.05mm
2/sより低い場合は、塗料が硬化前に流れてしまい良好な膜が形成できないことがあり、20mm
2/sより高い場合は塗工性や密着性悪化のおそれがある。なお、この場合の粘度はオストワルド粘度計を用いて測定し得る。
【0061】
本発明の(II)上塗り塗料組成物においては、(E)成分の反応性シロキサン化合物として、メチルトリメトキシシラン及び/又はメチルトリエトキシシランの(共)加水分解物2〜11量体を必須成分として使用することによって、特に常温における硬化性に優れ、硬化被膜における透明性、表面硬度、耐摩耗性、密着性、耐候性、防錆性、耐薬品性等の特性バランスが良好なシリコーン系コーティング剤組成物とすることができるため、各種物品の表面保護コーティング剤として非常に有用である。
【0062】
(E)成分の混合比率は、(C)〜(G)成分の合計100質量部中、(E)成分を20〜70質量部の範囲とすることが必要である。20質量部未満では強度が低くなって実用性に乏しいものとなるおそれがあり、多すぎても硬度の向上がみられないばかりか、組成物中の他の成分が少なくなるため、硬化膜の密着性、紫外線遮蔽性等の特性が低下する場合がある。
【0063】
(F)成分のコロイダルシリカは、液中に分散したシリカ微粒子であり、本発明組成物の硬化膜を高硬度化して耐擦傷性を向上させる成分である。(F)成分のコロイダルシリカは、本発明の目的を損なわない限り、シリカ表面が加水分解性ケイ素基やシラノール基により修飾されていてもよいし、未修飾のコロイダルシリカであってもよい。かかる未修飾のコロイダルシリカは酸性又は塩基性の分散体形態で入手できる。
【0064】
(F)成分の分散媒は特に限定されるものではないが、乾燥性などの面から比較的低沸点(例えば、1気圧で30〜200℃、特に40〜120℃)の液体、すなわち通常の塗料用溶剤に用いられる液体であることが好ましい。かかる分散媒として、具体的には、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−メチルプロパノール、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、エチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(PGMD)のようなアルコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;ジメチルアセトアミド、トルエン、キシレン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトンなどが例示される。特に、アルコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)を分散媒として用いることが好ましい。
【0065】
コロイダルシリカの平均粒子径は、その分散性の点から200nm以下であることが適当であり、平均粒子径が1〜100nmであることが好ましく、1〜50nmであることが特に好ましい。また、分散液中のコロイダルシリカの含有量、すなわち濃度は任意であるが、取り扱いの容易さから10〜70質量%であることが好ましい。
【0066】
(II)上塗り塗料組成物における(F)成分の配合量は、不揮発分の量に換算して、(C)〜(G)成分の合計100質量部中1〜50質量部、特に3〜30質量部とすることが好ましい。1質量部未満では膜硬度が低下する場合があり、50質量部を超えると保存安定性に乏しくなる場合がある。
【0067】
本発明においては、(G)成分としてリン酸が使用される。リン酸は、(II)上塗り塗料組成物を硬化させる成分で、具体的にはオルソリン酸、ポリリン酸を挙げることができるが、入手の容易さや硬化剤組成物として使用した際の硬化性から、特にオルソリン酸が好ましい。(G)成分は、本発明の目的を損なわない限り、水分を含んでいてもよく、かかる含水リン酸は、純度85%のものが市販されており、容易に入手できる。
【0068】
(G)成分の配合量は(C)〜(G)成分の合計100質量部中0.5〜20質量部であり、1〜10質量部であることが好ましい。0.5質量部未満では、室温での硬化が非常に遅い場合があり、20質量部を超えると、膜の耐水性が悪くなることがある。
【0069】
(II)上塗り塗料組成物には、上記以外に、塗工性を向上させるために(H)成分として溶剤を含有させることができる。希釈剤として、有機溶剤、特にアルコールを配合することができ、特に、アルコールを含む有機溶剤が好ましく使用される。(H)成分は、アルコール単独でもよく、アルコールと他の溶剤の混合物であってもよい。また、アルコール、他の溶剤ともに2種以上を併用してもよい。
【0070】
(H)成分は、具体的にはアルコールとして、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(PGMD)のようなアルコール類が挙げられる。また、アルコール以外の有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル類が挙げられる。
【0071】
(II)上塗り塗料組成物の製造方法は、前記の(C)〜(G)成分、任意で(H)成分を混合することにより調製することができる。好適には、各成分を混合して、15〜40℃で0.1〜5時間撹拌しながら配合することにより得ることができる。溶剤の添加量としては、本発明の組成物の固形分濃度を30〜90質量%、特に50〜80質量%とする量を用いることが好ましい。この範囲外では該組成物を塗布、硬化した塗膜に不具合が生じることがある。上記範囲外の濃度では塗膜にタレ、ヨリ、マダラ、白化やクラックが発生し易くなり、所望の均一な膜が得られない場合がある。
【0072】
(樹脂グレージング)
用いられる樹脂グレージングとしては、プライマー層及びハードコート層が積層されたプラスチック基材であって、
図1にその断面の模式図を一例として示すように、プラスチック基材(成形体)1と、プライマー層2と、シリコーンハードコート層3とからなる。
【0073】
プラスチック成形体としては、各種プラスチック材料が好適に使用され、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリル樹脂(ポリメタクリル酸メチル等)、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂等があり、自動車用途の樹脂グレージングとして用いる場合、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン等の透明性樹脂基板が使用できる。特に、ポリカーボネート樹脂は、十分な透明性と耐衝撃性を有するため、自動車用の窓ガラスやサンルーフ等として好適に用いることができる。
【0074】
プラスチック成形体を被覆するプライマー層2とハードコート層1は、
図2に示したように、湿度や気温の変化、光などに起因する経時変化等の影響によって、膨張・収縮することにより繰り返し応力が加わるため、被膜にクラック4が生じることがある。そこで、本発明の補修塗料である、中塗り塗膜層5と上塗り塗膜層6を適用することで、
図3のような積層構成となる。
【0075】
ハードコート層は、通常用いられるハードコート用塗料組成物を用いて形成されたものであれば特に限定はないが、ポリシロキサンに代表されるケイ素含有重合体からなる塗料組成物を硬化させて形成される酸化ケイ素を含む膜であるのが好ましい。具体的には、下記式(i)
R'
pSiX'
(4-p) (i)
(式中、R'は炭素数1〜18の1価有機基、X'はアルコキシ基等の加水分解性基を示し、pは0〜2の整数である。)
で表される少なくとも1種の加水分解性ケイ素化合物(但し、p=0のみの場合及びp=2のみの場合を除く)を加水分解性基(X')1モルに対し、1モル以上の水で加水分解・縮合させたポリシロキサン、もしくはこれらポリシロキサンとシリカゾルや酸化チタンなどの金属酸化物微粒子との混合物、或いは下記式(ii)
R''
qSiX''
(4-q) (ii)
(式中、R''はR'と、qはpと同じ意味を示し、X''はハロゲン原子で代表される加水分解性基を示す。)
表される少なくとも1種の加水分解性ハロゲノケイ素化合物(但し、q=0のみの場合及びq=2のみの場合を除く)をアンモニアと反応させたポリシラザン、もしくはこれらポリシラザンとシリカゾルや酸化チタンなどの金属酸化物微粒子との混合物等を挙げることができる。
【0076】
ハードコート層は、可撓性付与剤を含むことが好ましい。可撓性付与剤によりハードコート層に可撓性が付与されハードコート層の限界伸び量が大きくなるため、ハードコート層とプライマー層や樹脂製基材との線収縮率差により伸縮が繰り返される内部ひずみに起因して発生する被膜の割れや剥離が低減され、耐クラック性や密着性に優れた被覆部材となり、耐候性に優れる。
なお、上記式(i)、(ii)において、R'、R''の炭素数1〜18の有機基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル基などのアルキル基、フェニル基などのアリール基、ベンジル基などのアラルキル基などが挙げられ、なかでも耐擦傷性が要求される用途に使用する場合はアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。また、X'、X''の加水分解性基としては、炭素数1〜6のオルガノオキシ基、特にアルコキシ基や塩素原子等のハロゲン原子が挙げられる。この場合、X'としてはオルガノオキシ基、特にアルコキシ基が好ましく、X''としてはハロゲン原子、特に塩素原子が好ましい。
【0077】
可撓性付与剤は、通常用いられる各種可撓性付与剤を用いればよい。具体的には、
R'''
rSiX'''
(4-r)
(式中、R'''は上記R'、R''と同様の炭素数1〜18の有機基、X'''はX'、X''と同様の加水分解性基を示し、rは0〜2の整数である)で表される少なくとも1種の加水分解性ケイ素化合物(但し、r=0のみの場合及びr=2のみの場合を除く)を加水分解・縮合させたポリシロキサン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などの各種樹脂;末端が加水分解性シリル基もしくは重合性基含有有機基を含有するジオルガノシリコーンを一部或いは全部架橋させたシリコーンゴムの溶液又は微粒子、ポリウレタンゴム、アクリロニトリルゴムなどの各種ゴムの溶液又は微粒子などが挙げられる。特に、ポリシロキサン樹脂が好適である。
【0078】
可撓性付与剤の量は、形成されたハードコート層を100質量%としたとき3〜60質量%とすれば、耐擦傷性を保ちつつ被膜の割れや剥離の発生を低減できるため、密着性と耐クラック性に加え、耐擦傷性にも優れた被覆部材となる。更に好ましくは5〜60質量%、10〜60質量%である。
【0079】
また、ハードコート層は、紫外線吸収剤を含むものでもよい。紫外線吸収剤を含むハードコート層により、樹脂製基材の光劣化を抑制することができるため、その結果、樹脂製基材とプライマー層との耐候密着性が向上する。紫外線吸収剤としては、たとえば、ベンゾフェノンやベンゾトリアゾール基を有する有機系紫外線吸収剤や酸化チタン(TiO
2)、酸化セリウム(CeO
2)、酸化亜鉛(ZnO)などの無機酸化物微粒子等を用いることができる。紫外線吸収剤は、昇華性が低く、光や水による紫外線吸収剤の経時的な消失が少ないものが好ましく、樹脂基材の表面の紫外線劣化を低減し樹脂製基材と被膜(プライマー層)との密着性を長期にわたって保持することができ、耐候密着性に優れた被覆基材となる。更に、シリカの微粒子やコロイダルシリカを添加したオルガノポリシロキサン組成物を用いてハードコート層を形成すれば、高い耐擦傷性を有する被覆部材が得られる。
【0080】
ハードコート層の厚さは、ハードコート層の種類や紫外線吸収剤の種類にもよるが、その膜厚が1〜30μmであるのが好ましい。ハードコート層の厚さが上記範囲にあれば、割れや剥離の発生が効果的に低減され、耐擦傷性にも優れたハードコート層となる。更に好ましいハードコート層の厚さは、3〜15μmである。
【0081】
被覆基材は、プライマー層2を有する。プライマー層は、プラスチック基材とハードコート層との密着性を向上させる。プライマー層2を形成するプライマーは、一般的な樹脂プライマーであれば特に限定はないが、好ましい樹脂プライマーとして、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド、ケトン樹脂、ビニル樹脂、及び、熱硬化性アクリル樹脂、湿気硬化性アクリル樹脂、熱可塑性アクリル樹脂、シランやシロキサンで変性したアクリル樹脂などの各種アクリル樹脂を挙げることができる。また、これらは単独でも2種以上を併用して使用することもできる。これらの中でも特に好ましくは、主として各種アクリル樹脂を含むアクリル系プライマーである。
【0082】
具体的には、単量体成分として反応性基含有の(メタ)アクリル酸誘導体を含む共重合体である熱硬化性及び/又は湿気硬化性の(メタ)アクリル樹脂や非反応性の(メタ)アクリル酸エステル類からなる熱可塑性(メタ)アクリル樹脂が挙げられる。
【0083】
反応性基含有の(メタ)アクリル酸誘導体としては、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、1−〔3−(メタ)アクリロキシプロピル〕ペンタメトキシジシラン、1−〔3−(メタ)アクリロキシプロピル〕−1−メチル−テトラメトキシジシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルシランとテトラメトキシシランとの共加水分解縮合物、3−(メタ)アクリロキシプロピルシランとメチルトリメトキシシランとの共加水分解縮合物などのアルコキシシリル基含有(メタ)アクリル酸誘導体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(エチレングリコール単位数は、たとえば2〜20)、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート(プロピレングリコール単位数は、たとえば2〜20)等の多価アルコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸等の(メタ)アクリル酸類;(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、(メタ)アクリル酸2−(N−メチルアミノ)エチル等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類等を挙げることができる。
【0084】
非反応性の(メタ)アクリル酸エステル類としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の1価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類;環状ヒンダードアミン構造を有する(メタ)アクリル酸単量体類;2−(2′−ヒドロキシ−5′−(メタ)アクリロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2′−ヒドロキシ−5′−(2−(メタ)アクリロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2′−ヒドロキシ−3′−メチル−5′−(8−(メタ)アクリロキシオクチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(4−(メタ)アクリロキシブトキシ)ベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−4′−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2,2′,4−トリヒドロキシ−4′−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(3−(メタ)アクリロキシ−1−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン等の紫外線吸収性基含有(メタ)アクリル酸誘導体類を挙げることができる。
【0085】
また、アクリル系プライマーは熱硬化性アクリル樹脂と熱可塑性アクリル樹脂とを含み、熱硬化性アクリル樹脂と熱可塑性アクリル樹脂との質量比が95:5〜30:70であるのが好ましい。熱可塑性アクリル樹脂を上記質量比の範囲で使用することにより、プライマー層のプライマーとしての効果を維持しつつ、プライマー層の線膨張係数を小さくすることができる。その結果、経時的な温度変化で発生するプライマー層の膨張・収縮に起因する応力が減少するため、被膜に発生するクラックを低減できる。更に好ましい熱硬化性アクリル樹脂と熱可塑性アクリル樹脂との質量比は、90:10〜35:65、更には、80:20〜40:60である。
【0086】
プライマー層は、紫外線吸収剤を含むものでもよい。紫外線吸収剤を含むプライマー層により、樹脂製基材の光劣化を抑制することができ、その結果、樹脂製基材とプライマー層との耐候密着性が向上する。紫外線吸収剤としては、たとえば、一般的に用いられる無機系、有機系の各種紫外線吸収剤を用いることができるが、特に好ましくは、化学結合により樹脂プライマーに固定された固定化紫外線吸収剤である。固定化紫外線吸収剤は、昇華性が低いため、光や水による紫外線吸収剤の経時的な消失を抑制することができる。その結果、樹脂製基材の表面の紫外線劣化を低減し、樹脂製基材とプライマー層との密着性を保持することができる。特に、特開2001−214122号公報に開示されているような、紫外線吸収性ビニル系単量体と、アルコキシシリル基を含有するビニル系単量体と、共重合可能な他の単量体と、の共重合体であるアルコキシ基含有有機共重合体を下塗り剤組成物として用いたプライマー層を用いれば、更に密着性が高く、耐候性に優れた被覆部材となる。
【0087】
プライマー層中に固定化された紫外線吸収剤の量としては、プライマー全量を100質量%とした場合3〜25質量%となるのが好ましい。これより少なければ、紫外線吸収性能が十分でなく、耐候密着性が低下し、クラックや剥離が発生しやすくなる。これより多ければ、プライマー層とハードコート層との密着性が低下し、初期から密着し難くなる。更に好ましい紫外線吸収剤の量は、5〜20質量%である。
【0088】
プライマー層の厚さはプライマーとして用いる樹脂プライマーの種類や紫外線吸収剤の種類にもよるが、プライマー層が紫外線吸収剤を含む場合には膜厚が3μm以上であるのが好ましい。プライマー層の厚さが3μm以上であれば、プライマー層に添加できる紫外線吸収剤の上限が増加するので、樹脂製基材の光劣化を更に効果的に低減することができる。その結果、樹脂製基材とプライマー層との耐候密着性が更に向上する。また、プライマー層の膜厚は、更に好ましくは5〜15μmである。プライマー層の厚さがこの範囲にあれば、樹脂製基材とハードコート層とを十分に接着しつつ、被覆部材に良好な耐候性を付与することができる。
【0089】
(補修方法)
補修塗料を用いて自動車樹脂グレージング上のシリコーンハードコート層上に起きた塗装損傷箇所を塗装により補修する方法は、本発明の中塗り塗料組成物を塗装損傷箇所に塗装することで損傷個所の凹凸を埋めたのち、ハードコート層平坦部の余分な中塗り塗料組成物をふき取るなどの方法により取り除いた後、更に、本発明の上塗り塗料組成物を塗装することによって行う。基材への塗布方法としては、通常の塗布方法で基材上に塗装することができ、例えば、刷毛塗り、スプレー、浸漬、フローコート、ロールコート、カーテンコート、スピンコート、ナイフコート等の各種塗布方法を選択することができる。
【0090】
補修塗膜の形成方法は、中塗り塗料組成物を中塗り層として基材に塗布する工程、塗布した膜をいったんハードコート層の余分な中塗り塗料組成物をふき取ることでクラック等の傷以外の部分の塗料を除く工程、上塗り塗料組成物を中塗り塗膜上に塗布する工程、室温で乾燥・硬化、或いは加熱してハードコート層を形成させることによって上塗り層とする工程を順次行うことにより達成される。
【0091】
本発明の中塗り塗料組成物及び上塗り塗料組成物を塗布した後の硬化は、それぞれ空気中に放置して風乾させてもよいし、加熱してもよい。硬化温度、硬化時間は限定されるものではないが、加熱する場合であれば、基材の耐熱温度以下で10分〜2時間加熱するのが好ましい。加熱しない場合であれば、具体的には10〜35℃で2時間〜2日間放置するのがよい。最も好ましい硬化条件は、105℃で1時間、或いは25℃で1日である。
【0092】
各塗膜の厚みは特に制限はなく、0.1〜100μm、特に0.5〜60μmであればよいが、塗膜の硬さ、耐擦傷性、長期的に安定な密着性、及びクラックが発生しないことを満たすためには、1〜30μmが好ましい。なお、以上の操作を繰り返し、重ね塗りを行っても良い。0.1μm
未満では、硬さが十分でなく耐摩耗性が不十分となることがあり、100μm
を超えると発泡が起こりやすくトップ層との密着性が十分でない場合があり、クラックが起こりやすくなる。
【実施例】
【0093】
以下、合成例、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、各例中の「部」はいずれも質量部である。
【0094】
(原料)
シリカは、乾式表面処理シリカとしてMU−215(疎水性、BET比表面積120m
2/g)を信越化学工業(株)より入手した。フュームドシリカ アエロジル300(親水性、BET比表面積300m
2/g)は、日本アエロジル(株)より入手した。KBM−22(ジメチルジメトキシシラン)、KBM−13(メチルトリメトキシシラン)、KF96−30cs(ジメチルポリシロキサン)、ジメチルテトラメトキシジシロキサンを、信越化学工業(株)より入手した。シリカ微粒子分散液は、メタノールシリカゾル(メタノールに分散したコロイダルシリカ:不揮発分30%)を日産化学工業(株)より入手した。リン酸は、オルソリン酸(純度85%品)を和光純薬(株)より入手した。
【0095】
(A)反応性シロキサンの合成
〔合成例1〕
撹拌装置、冷却コンデンサー、温度計、滴下ロートを取り付けた容量300mlのフラスコに、ジメチルテトラメトキシジシロキサン141g(メチルトリメトキシシランの2量体、0.625モル。シロキサン質量83.7g)、メタノール20gを仕込み、内温20〜30℃でフラスコ内を撹拌しながら、ピューロライトC106(オルガノ社製カルボン酸型陽イオン交換樹脂)0.84g(シロキサン質量の1%)添加後、イオン交換水11.8g(0.66モル)を50℃以下の温度であるように30分間かけて滴下し、更に67℃に昇温してメタノール還流下で2時間熟成を行った。次いで、更に昇温して、メタノール61.2g(1.9モル)を常圧留去し、更にバス温度150℃下で1時間熟成して加水分解と重縮合反応させた。続けて、更に20mmHgの減圧条件下、内温80℃まで昇温して残存アルコール成分と低沸点成分を留去した後、濾過を行って無色透明液状の反応性シロキサン(A−1)を得た(収量:100g、収率:90%)。物性を表1に示した。ここで、不揮発分は、アルミシャーレに試料を入れ、オーブンで空気雰囲気下105℃、3時間加熱した前後の質量変化から求めた値である。粘度はオストワルド粘度計(25℃)を用いた測定値である。質量平均分子量はシロキサンの0.5%トルエン溶液における、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析による標準ポリスチレン換算の値である。平均重合度はGPC及びNMR分析により求めた。シラノール量はグリニャール法により求めた(以下、合成例2、3について同様)。
【0096】
〔合成例2〕
撹拌装置、冷却コンデンサー、温度計、滴下ロートを取り付けた容量500mlのフラスコに、ジメチルジメトキシシラン161g(0.71モル)、ジメチルテトラメトキシジシロキサン176.5g(1.47モル)、メタノール28.5gを仕込み、内温20〜30℃でフラスコ内を撹拌しながら、ピューロライトCT−169DR(オルガノ社製スルホン酸型陽イオン交換樹脂)2.4g(シロキサン質量の0.6%)添加後、イオン交換水41.6g(2.3モル)を50℃以下の温度であるように30分間かけて滴下し、更に67℃に昇温してメタノール還流下で2時間熟成を行った。次いで、更に昇温して、メタノール留去185g(5.8モル)を常圧留去し、更にバス温度150℃下で1時間熟成して加水分解と重縮合反応させた。続けて、更に20mmHgの減圧条件下、内温80℃まで昇温して残存アルコール成分と低沸点成分を留去した後、濾過を行って無色透明液状の反応性シロキサン(A−2)を得た(収量:210g、収率:91%)。物性を表1に示した。
【0097】
〔合成例3〕
撹拌装置、冷却コンデンサー、温度計、滴下ロートを取り付けた容量300mlのフラスコに、ジメチルテトラメトキシジシロキサン156.7g(0.6モル、シロキサン質量92.8g)、メタノール28gを仕込み、内温20〜30℃でフラスコ内を撹拌しながら、ピューロライトCT−169DR(オルガノ社製スルホン酸型陽イオン交換樹脂)0.56g(シロキサン質量の0.6%)添加後、イオン交換水15g(0.83モル)を50℃以下の温度であるように30分間かけて滴下し、更に67℃に昇温してメタノール還流下で2時間熟成を行った。次いで、更に昇温して、メタノール留去70g(2.2モル)を常圧留去し、更にバス温度150℃下で1時間熟成して加水分解と重縮合反応させた。続けて、更に20mmHgの減圧条件下、内温80℃まで昇温して残存アルコール成分と低沸点成分を留去した後、濾過を行って無色透明液状の反応性シロキサン(A−3)を得た(収量:106.6g、収率:90%)。物性を表1に示した。
【0098】
〔合成例4〕
(C)紫外線吸収性シランの合成
4−アリロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン(25.4g、0.1mol)を70mlのトルエン中に溶解した。これに白金触媒PL50−T(信越化学工業(株)製)を63.5mg加え、温度を65℃に上げた後、トリメトキシシラン(29.3g、0.24mol)を加えた。温度を約65〜85℃に約1〜2時間保ち、しかる後に反応物を室温まで冷却し、ワコーゲルC−100を5g加え白金触媒を吸着・ろ過することで除去させた後、トルエンを減圧ストリップにより除き、赤色オイル状のシラン34.8g(0.092mol、収率92%)を得た。主成物のNMRスペクトルは2−ヒドロキシ−4−トリメトキシシリルプロポキシベンゾフェノンの構造と一致した。この紫外線吸収性シランは、(C−1)と略記する。
【0099】
〔合成例5〕
(E)多官能アルコキシシラン部分加水分解縮合物の合成
撹拌装置、冷却装置、温度計と滴下ロートを取り付けた容量500mlのフラスコに、メチルトリメトキシシラン(KBM−13,信越化学工業(株)製)115.8g(0.85mol)を仕込み、25℃で撹拌下に0.05N塩酸18.8g(1.04mol)を滴下し、副生するメタノールの環流下に2時間加水分解反応させた。これを120℃まで加熱してメタノールを留去した後、室温まで冷却して濾過を行い、多官能アルコキシシラン部分加水分解縮合物(平均重合度5、粘度5mm
2/s)85gを得た。この多官能アルコキシシラン部分加水分解縮合物は、(E−1)と略記する。
【0100】
(I)中塗り塗料組成物の調製
〔調製例1〕
容量200mlのポリエチレン製カップ容器に合成例1で合成した反応性シロキサン(A−1
)100gを仕込み、ヘラで撹拌下にシリカ(MU−215)を15g添加し、十分均一なペースト状になるまで混合し、中塗り塗料組成物を調製した。物性を表2に示す。ここで、粘度は、回転粘度計(BM型、6rpm、25℃)を用いて測定した値である。不揮発分は、アルミシャーレに試料を入れ、オーブンで空気雰囲気下105℃、3時間加熱した前後の質量変化から求めた値である(以下、調製例2〜6についても同様)。
【0101】
〔調製例2〕
容量200mlのポリエチレン製カップ容器に合成例2で合成した反応性シロキサン(A−2
)100gを仕込み、ヘラで撹拌下にシリカ(MU−215)を15g添加し、十分均一なペースト状になるまで混合し、中塗り用塗料組成物を調製した。物性を表2に示す。
【0102】
〔調製例3〕
容量200mlのポリエチレン製カップ容器に合成例3で合成した反応性シロキサン(A−3
)100gを仕込み、ヘラで撹拌下にシリカ(MU−215)を15g添加し、十分均一なペースト状になるまで混合し、中塗り用塗料組成物を調製した。物性を表2に示す。
【0103】
〔調製例4〕
容量200mlのポリエチレン製カップ容器に合成例2で合成した反応性シロキサン(A−2
)100gを仕込み、ヘラで撹拌下にシリカ(アエロジル300)を4g添加し、十分均一なペースト状になるまで混合し、中塗り塗料組成物を調製した。物性を表2に示す。
【0104】
〔調製例5〕
容量200mlのポリエチレン製カップ容器にシリコーンオイル(KF96−30cs)100gを仕込み、ヘラで撹拌下にシリカ(MU−215)を15g添加し、十分均一なペースト状になるまで混合し、中塗り塗料組成物を調製した。物性を表2に示す。
【0105】
〔調製例6〕
容量200mlのポリエチレン製カップ容器に合成例1で合成した反応性シロキサン(A−1
)100gを仕込み、中塗り塗料組成物を調製した。物性を表2に示す。
【0106】
(II)上塗り塗料組成物の調製
〔調製例7〕
撹拌装置、冷却装置、温度計と滴下ロートを取り付けた容量300mlのフラスコにジメチルジメトキシシラン(KBM−22,信越化学工業(株)製)33.75gを仕込み、25℃以下で撹拌下に86%オルソリン酸4gを滴下し、30分撹拌した。続いて、メタノールシリカゾル(日産化学工業(株)製、コロイダルシリカ、SiO
2分30%)12.5gを添加後、合成例4で合成した紫外線吸収性シラン(C−1)5gと合成例5で合成した多官能アルコキシシラン部分加水分解縮合物(E−1)45gを添加し、室温で1時間混合して、上塗り用塗料組成物を調製した。
その液物性を下記の方法により評価した。液物性は、表3にまとめた。動粘度は、オストワルド粘度計を用いて測定した25℃の値である。不揮発分は、アルミシャーレに試料を入れ、オーブンで空気雰囲気下150℃、30分加熱した前後の質量変化から求めた値である。pHは、pHメーターを用いて測定した25℃の値である。
【0107】
〔調製例8〕
調製例7において、86%オルソリン酸4gをZn触媒(D−15,信越化学工業(株)製)4gに代えた以外は調製例7と同様の操作を行い、上塗り用塗料組成物を調製した。
【0108】
〔調製例9〕
調製例7において、86%オルソリン酸4gをTi触媒(D−25,信越化学工業(株)製)4gに代えた以外は調製例7と同様の操作を行い、上塗り用塗料組成物を調製したところ、塗料はゲル化した。
【0109】
〔調製例10〕
調製例7において、86%オルソリン酸4gをAl触媒(CAT−AC,信越化学工業(株)製)4gに代えた以外は調製例7と同様の操作を行い、上塗り用塗料組成物を調製したところ、塗料はゲル化した。
【0110】
【表1】
【0111】
【表2】
【0112】
【表3】
【0113】
〔調製例11〕プライマー塗料の調製
撹拌機、コンデンサー及び温度計を備えた2リットルフラスコに溶剤としてジアセトンアルコール248gを仕込み、窒素気流下にて80℃に加熱した。ここに予め調製しておいた単量体混合溶液(2−[2′−ヒドロキシ−5′−(2−メタクリロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール(RUVA−93と略記、大塚化学(株)製)72g、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−503、信越化学工業(株)製)80g、メチルメタクリレート(MMA)270g、ジアセトンアルコール(DAA)600gのうち400g及び予め調製しておいた重合開始剤としての2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)3gをジアセトンアルコール200gに溶解した溶液のうち150gを順次投入した。80℃で30分反応させた後、残りの単量体混合溶液と残りの重合開始剤溶液を同時に80〜90℃で1.5時間かけて滴下した。更に80〜90℃で5時間撹拌した。得られたアルコキシシリル基を含有する紫外線吸収性ビニル系共重合体溶液の粘度は(回転粘度計による25℃での粘度)5370mPa・s、また、その共重合体中の紫外線吸収性単位の含有量は18%、アルコキシシリル基単位の含有量は20%であった。また、標準ポリスチレンを基準とするGPC分析による質量平均分子量は27600であった。この溶液300g(ポリマーの含有量120g)に、溶剤[DAA(ジアセトンアルコール)430g、MFDG(ジ(プロピレングリコール)モノメチルエーテル)50g、PGMAC(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)30gオルソギ酸トリエチル70g加え、並びに有機溶剤に分散したシリカゾル溶液(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに分散したコロイダルシリカ(PMA−ST、固形分濃度30%、一次粒子径10〜15nm、日産化学工業(株)製)70g(シリカ固形分20g)を加え、プライマー塗料とした。得られたプライマー塗料の粘度は、17.3mm
2/s、また不揮発分(150℃,30分)の含有量は14.4%であった。
【0114】
〔調製例12〕シリコーンハードコート塗料の調製
温度計、撹拌機、冷却器を備えた2L三口フラスコに、メチルトリメトキシシラン408g、トルエン400gを仕込み、98%メタンスルホン酸11gを触媒として添加し、内温を30℃以下に保ちながら水146gを滴下し、メチルトリメトキシシランを加水分解した。滴下終了後、室温で2時間撹拌して反応を完結させた。その後、酸性成分を中和し、生成したメタノールを減圧留去した。2回水洗することにより完全に中和塩を除去した後、再び減圧にて105℃で3時間乾燥させ溶剤成分を除去することにより、無色透明固体のシロキサン樹脂210gを得た。この樹脂のGPCから得られた質量平均分子量は7500であった。また、この樹脂の
29Si−NMR、及びIRスペクトルの結果から、このシロキサン樹脂の平均組成式は、MeSi(OMe)
0.06(OH)
0.12(O)
1.41(式中、Meはメチル基を示す。)であった。この透明固体樹脂の軟化点をJIS K2207に準拠し、環球式自動軟化点試験機で測定したところ、73℃であった。このシロキサン樹脂283gにイソプロパノール717gを加えて溶解させることにより、固形分濃度28質量%の可とう性剤ポリシロキサン溶液とした。
撹拌機、コンデンサー及び温度計を備えた2リットルフラスコにメチルトリメトキシシラン(KBM−13)371g、合成例4で合成した紫外線吸収性シラン(C−1)13gを仕込み、撹拌しながら20℃に維持し、ここに水分散コロイダルシリカ(スノーテックスO(平均粒子径15〜20nm)、日産化学工業(株)製、SiO
220%含有品)108gと0.25Nの酢酸水溶液252gとの混合溶液を添加して高速撹拌した。
更に、60℃にて3時間撹拌後、シクロヘキサノン330gを添加したのち、常圧にて副生したメタノールと一部の水、計335gを留去した。次いで、イソプロパノール205g、上記可とう性剤ポリシロキサン溶液400g、レベリング剤としてポリエーテル変性シリコーンKP−341(信越化学工業(株)製)0.6gを添加し、硬化触媒として10%テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液3.7gを添加した。こうして得られたオルガノポリシロキサン溶液の粘度は6.98mm
2/s、GPC分析による質量平均分子量は2500であった。このものをシリコーンハードコート塗料とした。
【0115】
(積層膜の作成)
プラスチック基材は、幅15cm×長さ15cm×厚さ0.5mmのポリカーボネート樹脂シート(ユーピロンシート、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)を用いた。ハードコート被覆基材の膜形成については、ポリカーボネート樹脂フィルムの片面に、プライマー塗料をフロー塗工し、120℃の雰囲気下で1時間して硬化させた。硬化時の膜厚は10μmであった。次に、この上にシリコーンハードコート塗料をフロー塗工し、120℃の雰囲気下で1時間して硬化させた。硬化時の膜厚は10μmであった。
【0116】
(塗膜の評価)
上記ハードコート被覆ポリカーボネート基材(以下、基材と略記)に対して、基材のハードコート形成面に、調製例1〜6の中塗り塗料をヘラで塗工して、基材を垂直に立てかけて30分間静置した後の外観を目視で観察し中塗り塗膜外観(ふき取りなし後の状況)とした。次に、ワイパー(旭化成せんい(株)製 ベンコットM−3II)でふき取った後の外観を目視で観察し、中塗り塗膜外観(ふき取りあり後の状況)を評価した。
【0117】
更に、調製例7
、8の上塗り塗料組成物をフロー塗工し、25℃/相対湿度65%の雰囲気下で1日間放置して硬化させた。硬化時の膜厚は、約10μmであった。この膜を用いて、初期ヘイズ、テーバー摩耗Δヘイズ、密着性(初期、煮沸)を測定した。外観や凹凸隠蔽性については、基材に対して、スチールウール(ボンスターNo.0000、日本スチールウール(株))で基材のハードコート形成面に傷を形成し、中塗り塗料をヘラで塗工した後、ワイパー(旭化成せんい(株)製 ベンコットM−3II)でふき取り、更に、上塗り塗料組成物をフロー塗工し、25℃/相対湿度65%の雰囲気下で1日間放置して硬化させ、目視により、外観、及び傷の隠蔽性の評価を行った。得られた膜物性(膜外観、隠蔽性、密着性、耐擦傷性、総合評価)を下記の基準に従って評価した。結果を表4に示す。
【0118】
<凹凸隠蔽性>
PC上に形成したシリコーンハードコート膜の上にスチールウール(ボンスターNo.0000、日本スチールウール(株))でモデル的な傷を形成し、中塗り塗料組成物と上塗り塗料組成物により補修を行い、目視により傷の隠蔽性の評価を行った。
○:傷がまったく見えない
△:見る角度により傷が見える
×:傷がよく見える
【0119】
<膜硬度>
耐摩耗性をテーバー摩耗試験機(Abraser5130 東洋精機(株)製)で評価した。摩耗試験(摩耗輪CS−10F、荷重500g、500回転)後の硬化膜のヘイズ(%)をヘーズメーター(Haze Meter NDH 2000、日本電色(株)製)で測定し、初期の膜ヘイズとの差をΔヘイズ値として判定した。
○:10以下
△:10より大、20以下
×:20より大
【0120】
<密着性>
JIS K5400に準拠し、試験片をカミソリの刃で2mm間隔の縦横6本ずつ切れ目を入れて25個の碁盤目を作り、市販のセロハン粘着テープ(ニチバン社製)をよく密着させた後、90度手前方向に急激に剥がした時、被膜が剥離せずに残存したマス目数(x)をx/25で表示したものを密着性(初期)とした。試験片を沸騰水に2時間浸漬後、同様の操作をしたものを密着性(煮沸)とした。
○:25
△:10以上、25より小
×:10より小
【0121】
<総合評価>
◎:すべて○
○:△が1つ以下
△:△が2つ以下で×がなし
×:×が1つ以上
【0122】
表4の結果より、本発明の塗料系(実施例1〜4)は、透明性、密着性、耐擦傷性に優れ、かつ傷の隠蔽性の良好な硬化膜を与えることがわかった。
これに対して、本発明でない塗料系(比較例1〜2)は、硬化膜の耐擦傷性、密着性が良くない(比較例1)か、シリカを加えない系で隠蔽性が不良であった(比較例2)。以上の結果から、本発明の塗料系は、補修用として優れた硬化被膜の形成が可能であることが認められた。
【0123】
【表4】
*製膜条件:中塗り塗料組成物の塗装後余剰分をふき取り、上塗り塗料組成物をフロー塗装後、25℃、65%RH、1日硬化