(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記粒子状バインダーが、脂肪族共役ジエン単量体単位及びエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を含む共重合体からなる、請求項1又は2記載のリチウムイオン二次電池。
前記水溶性重合体におけるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合が、20重量%〜50重量%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
前記水溶性重合体におけるフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合が、1重量%〜30重量%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
前記粒子状バインダー及び前記水溶性重合体の重量比が、水溶性重合体/粒子状バインダー=0.5/99.5〜40/60である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
前記水溶性重合体が、架橋性単量体単位を含有し、その含有割合が、0.1重量%以上2重量%以下である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
前記水溶性重合体が、前記フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体以外の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含有し、その含有割合が、30重量%以上70重量%以下である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
前記粒子状バインダーの量が、負極活物質100重量部に対して、0.1重量部以上10重量部以下である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
前記粒子状バインダーにおける、前記脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合が20重量%以上60重量%以下であり、前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合が0.1重量%以上15重量%以下である、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
【0014】
以下の説明において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸を含む。また、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートを含む。
さらに、ある物質が水溶性であるとは、25℃において、その物質0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が0.5重量%未満であることをいう。一方、ある物質が非水溶性であるとは、25℃において、その物質0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が90重量%以上であることをいう。
【0015】
[1.概要]
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、電解液及びセパレータを備える。負極は、負極活物質、粒子状バインダー及び水溶性重合体を含む組成物で形成された負極活物質層を備える。また、負極活物質の比表面積は2m
2/g〜15m
2/gである。さらに、水溶性重合体はエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位及びフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む共重合体である。また、電解液の溶媒は、プロピレンカーボネート50体積%〜80体積%及びビニレンカーボネート0.05体積%〜1体積%を含む。
【0016】
このような構成により、本発明のリチウムイオン二次電池は、低温特性及びサイクル特性の両方に優れる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、通常は高温保存特性に優れ、また、通常は充放電による電池セルの膨らみの抑制が可能である。このような優れた利点が得られる理由は定かでは無いが、本発明者の検討によれば、以下のような理由によるものと推察される。
【0017】
i.低温特性
プロピレンカーボネートは、低温における粘度が低い溶媒である。本発明のリチウムイオン二次電池は、プロピレンカーボネートを電解液の溶媒として多く含むので、低温における電解液の粘度を低くできる。よって、溶媒において電解液の溶媒成分の析出が生じ難いので、内部抵抗を低くできる。したがって、低温におけるリチウムイオン二次電池の出力特性を向上させることが可能となり、低温特性の改善が可能となっている。
【0018】
また、本発明のリチウムイオン二次電池においては、電解液におけるビニレンカーボネートの量を少なくしている。このため、ビニレンカーボネートによる低温での出力の低下を抑制できるので、これによっても、低温特性の改善が可能となっている。
【0019】
さらに、本発明のリチウムイオン二次電池においては、比表面積が大きい負極活物質を用いても、サイクル特性を高くすることができる。このため、比表面積の大きい負極活物質の使用が可能であるので、出力特性を向上させることが可能である。したがって、低温特性を向上させることができる。
【0020】
また、後述のように、水溶性重合体は負極活物質層において被膜を形成して負極活物質を覆っているものと考えられる。そのため、本発明のリチウムイオン二次電池においては、一見すると、水溶性重合体の被膜の分だけ抵抗が上昇し、低温特性が低下しているようにも思われる。ところが、水溶性重合体がフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含むために、水溶性重合体の被膜は、イオン伝導性に優れる。よって、実際には、本発明のリチウムイオン二次電池においては水溶性重合体の被膜による抵抗の大幅な上昇は無い。
【0021】
ii.サイクル特性
本発明のリチウムイオン二次電池では、負極活物質層が、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位及びフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む共重合体を、水溶性重合体として含む。この水溶性重合体は、リチウムイオン二次電池の負極活物質層において被膜を形成しうる。この被膜によって負極活物質が覆われるので、負極において負極活物質とプロピレンカーボネートとは直接には接触し難くなっている。このため、本発明のリチウムイオン二次電池においてはプロピレンカーボネートの分解が抑制され、ガスが生じ難い。また、負極活物質としてグラファイト等の炭素質活物質を用いた場合でも、インターカレーション反応の際にプロピレンカーボネートによって黒鉛層間の結合が破壊され難い。したがって、充放電を繰り返してもリチウムイオン二次電池の容量が減少し難いので、サイクル特性を向上させることができる。
【0022】
また、本発明のリチウムイオン二次電池においては、電解液にビニレンカーボネートが含まれるので、このビニレンカーボネートの効果によってもサイクル特性は向上しているものと考えられる。このビニレンカーボネートの量は従来よりも少ないため、ビニレンカーボネートによる低温特性の劣化は無いか、小さい。また、ビニレンカーボネートが少なくても、前記のように水溶性重合体による効果が得られるので、サイクル特性を十分に高くすることができる。
【0023】
さらに、プロピレンカーボネートは、例えばエチレンカーボネート等の他の溶媒に比べて分解し難く、ガスを生じにくい。そのため、溶媒としてプロピレンカーボネートを多く用いることも、サイクル特性の向上に寄与しているものと考えられる。
【0024】
iii.低温特性及びサイクル特性の高いレベルでの両立について
上述したように、従来のリチウムイオン二次電池においては、例えば負極活物質の比表面積を大きくしたりビニレンカーボネートの量を少なくしたりして低温特性を良好にすると、サイクル特性は劣っていた。また、逆に、例えば負極活物質の比表面積を小さくしたりビニレンカーボネートの量を多くしたりしてサイクル特性を良好にすると、低温特性は劣っていた。そのため、従来は、低温特性とサイクル特性とを両立させようとすると、許容しうる性能が得られる範囲で負極活物質の比表面積とビニレンカーボネートの量を調整し、最適化を図ることがなされてきた。
これに対し、本発明のリチウムイオン二次電池においては、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位及びフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む共重合体を水溶性重合体として用いることにより、低温特性及びサイクル特性の両方を予想された程度以上に向上させることができ、単なる最適化を超える効果を得ることができる。
【0025】
低温特性及びサイクル特性の両方を予想された程度以上に向上させることができる理由としては、次のような点が考えられる。即ち、水溶性重合体が含むエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位が負極活物質との親和性に優れるので、負極活物質の表面への結着性に優れる被膜を形成できる。このため、充放電に伴って負極活物質が膨張及び収縮をしても、被膜が剥がれ難く、安定して被膜を維持することができる。さらに、被膜が剥がれ難いので、負極活物質の表面以外の場所に被膜が離散して、リチウムイオン二次電池の抵抗が上昇することを抑制できる。また、水溶性重合体が含むフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位が被膜のイオン伝導性を高めるので、被膜による抵抗上昇を抑制できる。これらの作用により、低温特性及びサイクル特性の両方を効果的に向上させることが可能となっていると推察される。
【0026】
さらに、本発明者の検討によれば、水溶性重合体を用いた場合でも、ビニレンカーボネートを用いない場合には、出力特性及びサイクル特性に劣ることが分かっている(比較例6参照)。このことに鑑みれば、本発明のリチウムイオン二次電池において低温特性及びサイクル特性の両方を予想された程度以上に向上させることができることは、単純に水溶性重合体を用いたことで得られる作用だけではなく、プロピレンカーボネート及びビニレンカーボネートを含む混合溶媒と、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位及びフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む水溶性重合体とを組み合わせたことにより発現する何らかの作用も関与して得られる効果と考えられる。
【0027】
iv.高温保存特性
本発明のリチウムイオン二次電池においては、前記のように、負極活物質が水溶性重合体の被膜により覆われる。このため、低温環境だけでなく、高温環境においても、電解液の分解が防止される。したがって、高温環境で保存した場合でも本発明のリチウムイオン二次電池の容量は低下し難くなっている。
【0028】
v.電池セルの膨らみの抑制
本発明のリチウムイオン二次電池においては、前記のように充放電による電解液の分解を防止できるので、ガスの発生を抑制できる。したがって、ガスの発生による電池セルの膨らみを抑制することが可能になっている。
また、水溶性重合体の被膜が負極活物質を覆っていることにより、負極活物質層の剛性を高めることが可能である。よって、充放電の繰り返しによる負極の膨張を抑制できる。したがって、これによっても、電池セルの膨らみを抑制することが可能になっている。
【0029】
[2.負極]
負極は、負極活物質層を備える。通常、負極は集電体を備え、この集電体の表面に負極活物質層が設けられる。この際、負極活物質層は、集電体の片面に設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。
【0030】
[2.1.集電体]
集電体としては、通常、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料で形成されたものを用いる。集電体の材料としては、耐熱性を有するため、金属材料が好ましい。例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などが挙げられる。中でも、負極用の集電体としては、銅が好ましい。
【0031】
集電体の形状は特に制限されず、厚さ0.001mm〜0.5mm程度のシート状のものが好ましい。
集電体は、負極活物質層との結着強度を高めるため、負極活物質層をその上に形成するのに先立ち、粗面化処理されたものを用いていてもよい。また、集電体と負極活物質層との間に介在する層が存在する場合は、その層を集電体上に形成するのに先立ち、集電体は粗面化処理されたものを用いてもよい。粗面化方法としては、例えば、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、例えば、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線を備えたワイヤーブラシ等が使用される。
また、集電体と負極活物質層との結着強度を高めたり、導電性を高めたりするために、集電体の表面に中間層を形成してもよい。
【0032】
[2.2.負極活物質層]
負極活物質層は、負極活物質、粒子状バインダー、及び、水溶性重合体を含む組成物で形成された層である。
【0033】
[2.2.1.負極活物質]
負極活物質は、負極用の電極活物質であり、二次電池の負極において電子の受け渡しをしうる物質である。
【0034】
負極活物質の比表面積は、通常2m
2/g以上であり、通常15m
2/g以下、好ましくは13m
2/g以下、より好ましくは10m
2/g以下である。負極活物質として前記範囲の下限値以上の比表面積を有するものを用いることにより、リチウムイオン二次電池の出力特性を向上させることができる。また、負極活物質として前記範囲の上限値以下の比表面積を有するものを用いることにより、サイクル特性を改善し、リチウムイオン二次電池の寿命を長くできる。
【0035】
負極活物質の比表面積は、窒素ガス吸着によるBET法(装置;トライスターII3020シリーズ、島津製作所社製)により測定しうる。
【0036】
負極活物質としては、通常、リチウムを吸蔵及び放出しうる物質を用いる。負極活物質の例としては、炭素質活物質、金属系活物質などが挙げられる。
【0037】
炭素質活物質とは、リチウムイオンを挿入(ドープともいう。)及び脱離(脱ドープともいう。)可能な炭素を主骨格とする負極活物質をいう。炭素質活物質としては、具体的には、炭素質材料及び黒鉛質材料が挙げられる。
【0038】
炭素質材料とは、一般的には、炭素前駆体を2000℃以下で熱処理して炭素化させた、黒鉛化の低い(即ち、結晶性の低い)材料を示す。前記の熱処理温度の下限は特に限定されないが、例えば500℃以上としてもよい。炭素質材料としては、例えば、熱処理温度によって炭素の構造を容易に変える易黒鉛性炭素、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素、などが挙げられる。
【0039】
易黒鉛性炭素としては、例えば、石油又は石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられる。具体例を挙げると、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。ここでMCMBとは、ピッチ類を400℃前後で加熱する過程で生成したメソフェーズ小球体を分離抽出した炭素微粒子である。また、メソフェーズピッチ系炭素繊維とは、前記メソフェーズ小球体が成長、合体して得られるメソフェーズピッチを原料とする炭素繊維である。さらに、熱分解気相成長炭素繊維とは、(1)アクリル高分子繊維などを熱分解する方法、(2)ピッチを紡糸して熱分解する方法、又は(3)鉄などのナノ粒子を触媒として用いて炭化水素を気相熱分解する触媒気相成長(触媒CVD)法により得られた炭素繊維である。
【0040】
難黒鉛性炭素としては、例えば、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、ハードカーボンなどが挙げられる。
【0041】
黒鉛質材料とは易黒鉛性炭素を2000℃以上で熱処理することによって得られた黒鉛に近い高い結晶性を有する黒鉛質材料を示す。前記の熱処理温度の上限は、特に限定されないが、例えば5000℃以下としてもよい。黒鉛質材料の例を挙げると、天然黒鉛、人造黒鉛等が挙げられる。人造黒鉛としては、例えば、主に2800℃以上で熱処理した人造黒鉛、MCMBを2000℃以上で熱処理した黒鉛化MCMB、メソフェーズピッチ系炭素繊維を2000℃以上で熱処理した黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
【0042】
また、炭素質活物質の黒鉛層間距離は、0.340nm以上が好ましく、0.345nm以上がより好ましく、0.350nm以上が特に好ましく、また、0.370nm以下が好ましく、0.365nm以下がより好ましく、0.360nm以下が特に好ましい。ここで黒鉛層間距離は、X線回折法による(002)面の面間隔(d値)を示す。いわゆるソフトカーボンと呼ばれるこのような炭素質活物質を用いることで、体積当たりの容量を下げすぎることなく、出力特性に優れるリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0043】
これらの炭素質活物質の中でも、黒鉛質材料が好ましい。さらにその中でも、表面を炭素質材料で被覆された黒鉛質材料が特に好ましい。例えば、表面をアモルファスの炭素質材料で被覆されたグラファイトは、リチウムイオン二次電池の出力特性を向上させることが可能であるので、好適である。また、従来は、表面を炭素質材料で被覆された黒鉛質材料を用いるとガスの発生が顕著であった。しかし、本発明のリチウムイオン二次電池においては、ガスの発生を抑制しうるので、従来のようなガスの発生による性能低下を抑制することが可能である。
【0044】
金属系活物質とは、金属を含む活物質をいう。通常、金属系活物質とは、リチウムの挿入が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の重量あたりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいう。当該理論電気容量の上限は、特に限定されないが、例えば5000mAh/g以下でもよい。金属系活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成する単体金属及びその合金、並びにそれらの化合物(例えば、酸化物、硫化物、窒化物、珪化物、炭化物、燐化物等)が用いられる。
【0045】
リチウム合金を形成する単体金属としては、例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Ti等の単体金属が挙げられる。また、リチウム合金を形成する単体金属の合金としては、例えば、上記単体金属を含有する化合物が挙げられる。これらの中でもケイ素(Si)、スズ(Sn)、鉛(Pb)及びチタン(Ti)が好ましく、ケイ素、スズ及びチタンがより好ましい。したがって、金属系活物質としては、ケイ素(Si)、スズ(Sn)又はチタン(Ti)の単体金属若しくはこれら単体金属を含む合金、または、それらの化合物が好ましい。
【0046】
金属系活物質は、一つ以上の非金属元素を含有していてもよい。例えば、SiC、SiO
xC
y(0<x≦3、0<y≦5)、Si
3N
4、Si
2N
2O、SiO
x(0<x≦2)、SnO
x(0<x≦2)、LiSiO、LiSnO等が挙げられる。中でも、低電位でリチウムの挿入及び脱離が可能なSiO
x、SiC及びSiO
xC
yが好ましい。例えば、SiO
xC
yは、ケイ素を含む高分子材料を焼成して得ることができる。SiO
xC
yの中でも、容量とサイクル特性の兼ね合いから、0.8≦x≦3、2≦y≦4の範囲が好ましい。
【0047】
リチウム金属、リチウム合金を形成する単体金属及びその合金の酸化物、硫化物、窒化物、珪化物、炭化物、燐化物としては、例えば、リチウムの挿入可能な元素の酸化物、硫化物、窒化物、珪化物、炭化物、燐化物等が挙げられる。その中でも、酸化物が特に好ましい。例えば、酸化スズ、酸化マンガン、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化バナジウム等の酸化物と、Si、Sn、PbおよびTi原子よりなる群から選ばれる金属元素とを含むリチウム含有金属複合酸化物が用いられる。
【0048】
リチウム含有金属複合酸化物としては、更にLi
xTi
yM
zO
4で示されるリチウムチタン複合酸化物(0.7≦x≦1.5、1.5≦y≦2.3、0≦z≦1.6であり、Mは、Na、K、Co、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、Zn及びNbからなる群より選ばれる元素を表す。)、Li
xMn
yM
zO
4で示されるリチウムマンガン複合酸化物(x、y、z及びMは、リチウムチタン複合酸化物における定義と同様である。)が挙げられる。中でも、Li
4/3Ti
5/3O
4、Li
1Ti
2O
4、Li
4/5Ti
11/5O
4、Li
4/3Mn
5/3O
4が好ましい。
【0049】
これらの中でも、金属系活物質としては、Si化合物が好ましい。ここでSi化合物とは、ケイ素を含有する化合物をいう。Si化合物を用いることにより、二次電池の電気容量を大きくすることが可能となる。Si化合物の中でも、SiC、SiO
x及びSiO
xC
yが好ましい。これらのSi及びCを組み合わせて含む活物質においては、高電位でSi(ケイ素)へのLiの挿入及び脱離が起こり、低電位でC(炭素)へのLiの挿入及び脱離が起こると推測される。このため、他の金属系活物質よりも膨張及び収縮が抑制されるので、二次電池の充放電サイクル特性を向上させることができる。
【0050】
また、負極活物質は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせてもよい。例えば、炭素質活物質と金属系活物質とを組み合わせて用いてもよい。
上述した負極活物質の中でも、サイクル特性と出力特性のバランスを良好にする観点では、炭素質活物質及びSi化合物の一方又は両方を用いることが、好ましい。その中でも、(i)炭素質活物質のみを用いること、及び、(ii)炭素質活物質とSi化合物とを組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0051】
負極活物質は、粒子状に整粒されたものが好ましい。粒子の形状が球形であると、電極成形時に、より高密度な電極が形成できる。負極活物質が粒子である場合、その体積平均粒子径は、リチウムイオン二次電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択される。負極活物質の具体的な体積平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは1μm以上、更に好ましくは2μm以上、特に好ましくは5μm以上であり、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、特に好ましくは25μm以下である。負極活物質としての炭素質活物質の体積平均粒子径が上記範囲にあることにより、負極用のスラリー組成物を調製する際に粒子状バインダーの量を少なくすることができる。このため、リチウムイオン二次電池の容量の低下を抑制でき、また、スラリー組成物の粘度を適切な範囲に容易に調整することができる。ここで体積平均粒子径は、レーザー回折法によって粒径分布を測定し、測定された粒径分布において小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径である。
【0052】
[2.2.2.粒子状バインダー]
粒子状バインダーは、電極活物質同士を結着させたり、電極活物質と集電体とを結着させたりしうる成分である。負極では、粒子状バインダーが負極活物質を結着することにより、負極活物質層からの負極活物質の脱離が抑制される。また、粒子状バインダーは通常は負極活物質層に含まれる負極活物質以外の粒子をも結着し、負極活物質層の強度を維持する役割も果たしている。
【0053】
粒子状バインダーとしては、負極活物質を保持する性能に優れ、集電体に対する結着性が高いものを用いることが好ましい。通常、粒子状バインダーの材料としては重合体を用いる。粒子状バインダーの材料としての重合体は、単独重合体でもよく、共重合体でもよい。中でも、脂肪族共役ジエン単量体単位及びエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を含む共重合体が好ましい。
【0054】
脂肪族共役ジエン単量体単位は、脂肪族共役ジエン単量体を重合して得られる構造単位である。脂肪族共役ジエン単量体単位は剛性が低く柔軟な構造単位であるので、脂肪族共役ジエン単量体単位を含む重合体で粒子状バインダーを形成することにより、粒子状バインダーの柔軟性を高めることができる。したがって、負極活物質層と集電体との十分な結着性を得ることができる。
【0055】
脂肪族共役ジエン単量体の例としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、並びに置換および側鎖共役ヘキサジエン類が挙げられる。中でも、1,3−ブタジエン及び2−メチル−1,3−ブタジエンが好ましく、1,3−ブタジエンが特に好ましい。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0056】
粒子状バインダーを形成する重合体において、脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合は、好ましくは20重量%以上、より好ましくは25重量%以上であり、好ましくは60重量%以下、より好ましくは50重量%以下である。脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合を前記範囲の下限以上とすることにより結着性の向上ができ、上限以下とすることにより負極の柔軟性の確保ができる。通常、重合体における脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合は、重合体を製造する際に用いる全単量体における脂肪族共役ジエン単量体の比率(仕込み比)と一致する。
【0057】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を重合して得られる構造単位である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位は、酸性官能基であるカルボキシ基(−COOH基)を含むので、粒子状バインダーの負極活物質及び集電体への吸着性を高めることができる。また、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位は強度が高い構造単位である。これらにより、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を含む共重合体で粒子状バインダーを形成すれば、負極活物質層からの負極活物質の脱離を安定して防止でき、また、負極の強度を向上させることができる。
【0058】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのモノカルボン酸及びジカルボン酸並びにその無水物が挙げられる。中でも負極用のスラリー組成物の安定性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸及びイタコン酸が好ましく、イタコン酸が特に好ましい。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0059】
粒子状バインダーを形成する重合体において、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは1重量%以上であり、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合を前記範囲の下限以上とすることにより結着性を向上させることができ、上限以下とすることにより負極の電気化学的安定性を向上させることができる。通常、重合体におけるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は、重合体を製造する際に用いる全単量体におけるエチレン性不飽和カルボン酸単量体の比率(仕込み比)と一致する。
【0060】
粒子状バインダーを形成する重合体は、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した脂肪族共役ジエン単量体単位及びエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位以外にも任意の構造単位を含んでいてもよい。前記の任意の構造単位に対応する任意の単量体の例としては、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、及び不飽和カルボン酸アミド単量体などが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0061】
芳香族ビニル系単量体の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、及びジビニルベンゼンが挙げられる。中でも、スチレンが好ましい。
シアン化ビニル系単量体の例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、及びα−エチルアクリロニトリルが挙げられる。中でも、アクリロニトリル、及びメタクリロニトリルが好ましい。
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体の例としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、及び2−エチルヘキシルアクリレートが挙げられる。中でも、メチルメタクリレートが好ましい。
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体の例としては、β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、及び2−ヒドロキシエチルメチルフマレートが挙げられる。中でも、β−ヒドロキシエチルアクリレートが好ましい。
不飽和カルボン酸アミド単量体の例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、及びN,N−ジメチルアクリルアミドが挙げられる。中でも、アクリルアミド、及びメタクリルアミドが好ましい。
これらの任意の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0062】
さらに、粒子状バインダーを形成する重合体は、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等、通常の乳化重合において使用される単量体を重合して形成される構造を有する構造単位を含んでもよい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0063】
粒子状バインダーを形成する重合体において、任意の構造単位の含有割合は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.2重量%以上、特に好ましくは0.5重量%以上であり、好ましくは75重量%以下、より好ましくは70重量%以下、特に好ましくは65重量%以下である。通常、重合体における任意の構造単位の含有割合は、重合体を製造する際に用いる全単量体における任意の単量体の比率(仕込み比)と一致する。
【0064】
粒子状バインダーを形成する重合体の重量平均分子量は、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上であり、好ましくは5,000,000以下、より好ましくは1000,000以下である。重量平均分子量が上記範囲にあると、本発明の負極の強度及び負極活物質の分散性を良好にし易い。
粒子状バインダーの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって、テトラヒドロフランを展開溶媒としたポリスチレン換算の値として求めうる。
【0065】
粒子状バインダーのガラス転移温度は、好ましくは−40℃以上であり、好ましくは50℃以下、より好ましくは0℃以下である。粒子状バインダーのガラス転移温度が上記範囲であることにより、結着性及び電極強度を高めることができる。
【0066】
粒子状バインダーの数平均粒子径は、好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上であり、好ましくは500nm以下、より好ましくは400nm以下である。粒子状バインダーの数平均粒子径が上記範囲にあることで、負極の強度および柔軟性を良好にできる。粒子の存在は、透過型電子顕微鏡法やコールターカウンター、レーザー回折散乱法などによって容易に測定することができる。
【0067】
粒子状バインダーは、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合し、重合体の粒子とすることにより製造しうる。水系溶媒中で重合した粒子状バインダーを用いることにより、リチウムイオン二次電池に有機溶媒が残留することを防ぐことができ、その結果、リチウムイオン二次電池の使用における残留有機溶媒の分解ガスの発生によるセルの変形を避けることができる。
【0068】
単量体組成物中の各単量体の比率は、通常、製造する重合体における構造単位(例えば、脂肪族共役ジエン単量体単位及びエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位)の含有割合と同様にする。
【0069】
水系溶媒としては、粒子状バインダーの分散が可能なものであれば格別限定されることはない。水系溶媒は、通常、常圧における沸点が好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であり、好ましくは350℃以下、より好ましくは300℃以下の水系溶媒から選ばれる。以下、その水系溶媒の例を挙げる。以下の例示において、溶媒名の後のカッコ内の数字は常圧での沸点(単位℃)であり、小数点以下は四捨五入または切り捨てられた値である。
【0070】
水系溶媒の例としては、水(100);ダイアセトンアルコール(169)、γ−ブチロラクトン(204)等のケトン類;エチルアルコール(78)、イソプロピルアルコール(82)、ノルマルプロピルアルコール(97)等のアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル(120)、メチルセロソルブ(124)、エチルセロソルブ(136)、エチレングリコールターシャリーブチルエーテル(152)、ブチルセロソルブ(171)、3−メトキシー3メチル−1−ブタノール(174)、エチレングリコールモノプロピルエーテル(150)、ジエチレングリコールモノブチルピルエーテル(230)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(271)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(188)等のグリコールエーテル類;並びに1,3−ジオキソラン(75)、1,4−ジオキソラン(101)、テトラヒドロフラン(66)等のエーテル類が挙げられる。中でも水は、可燃性がなく、粒子状バインダーの分散体が容易に得られやすいという観点から特に好ましい。また、主溶媒として水を使用して、粒子状バインダーの分散状態が確保可能な範囲において、水以外の水系溶媒を混合して用いてもよい。
【0071】
重合方法は、特に限定されず、例えば溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いてもよい。重合方法としては、例えばイオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの方法も用いてもよい。高分子量体が得やすいこと、並びに、重合物がそのまま水に分散した状態で得られるので再分散化の処理が不要であり、そのまま負極用のスラリー組成物の製造に供することができることなど、製造効率の観点から、中でも乳化重合法が特に好ましい。
【0072】
乳化重合法は、通常は常法により行う。例えば、「実験化学講座」第28巻、(発行元:丸善(株)、日本化学会編)に記載された方法で行う。すなわち、攪拌機および加熱装置付きの密閉容器に水と、分散剤、架橋剤などの添加剤と、重合開始剤と、単量体とを所定の組成になるように混合し、容器中の組成物を攪拌して単量体等を水に乳化させ、攪拌しながら温度を上昇させて重合を開始する方法である。あるいは、上記組成物を乳化させた後に密閉容器に入れ、同様に反応を開始させる方法である。
【0073】
重合開始剤の例としては、過酸化ラウロイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等の有機過酸化物;α,α’−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;過硫酸アンモニウム;並びに過硫酸カリウムが挙げられる。重合開始剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。重合開始剤の量は、単量体100重量部に対して0.01重量部〜5重量部としてもよい。
【0074】
分散剤の例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム等のベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、テトラドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩;ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテルサルフェートナトリウム塩、ポリオキシエチレンノニルフェニルエ−テルサルフェートナトリウム塩等のエトキシサルフェート塩;アルカンスルホン酸塩;アルキルエーテルリン酸エステルナトリウム塩;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリルエステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等の非イオン性乳化剤;ゼラチン、無水マレイン酸−スチレン共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、重合度700以上かつケン化度75%以上のポリビニルアルコール等の水溶性高分子などが挙げられる。これらの中でも好ましくは、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム等のベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、テトラドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩である。更に好ましくは、耐酸化性に優れるという点から、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム等のベンゼンスルホン酸塩である。分散剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。分散剤の量は、単量体100重量部に対して0.01重量部〜10重量部としてもよい。
【0075】
重合温度及び重合時間は、重合方法及び重合開始剤の種類などにより任意に選択しうる。重合温度は、好ましくは0℃以上、より好ましくは25℃以上、特に好ましくは30℃以上であり、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下である。また、重合時間は、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上、特に好ましくは5時間以上であり、好ましくは50時間以下、より好ましくは30時間以下、特に好ましくは20時間以下である。
【0076】
重合に際しては、シード粒子を採用してシード重合を行ってもよい。
また、アミン類などの添加剤を重合助剤として用いてもよい。
【0077】
さらに、これらの方法によって得られる粒子状バインダーを含む水系分散液のpHを、好ましくは5〜10、より好ましくは5〜9の範囲になるように調整してもよい。この際、pHの調整方法としては、例えば、アルカリ金属(例えば、Li、Na、K、Rb、Cs)の水酸化物、アンモニア、無機アンモニウム化合物(例えばNH
4Clなど)、有機アミン化合物(例えばエタノールアミン、ジエチルアミンなど)などを含む塩基性水溶液を水系分散液と混合する方法が挙げられる。なかでも、アルカリ金属水酸化物によるpH調整は、集電体と負極活物質との結着性(ピール強度)を向上させるので、好ましい。
【0078】
粒子状バインダーは、2種類以上の重合体からなる複合重合体粒子であってもよい。複合重合体粒子は、少なくとも1種類の単量体成分を常法により重合し、引き続き、他の少なくとも1種の単量体成分を重合し、常法により重合させる方法(二段重合法)などによっても得ることができる。このように単量体を段階的に重合することにより、粒子の内部に存在するコア層と、当該コア層を覆うシェル層とを有するコアシェル構造の粒子を得ることができる。
【0079】
粒子状バインダーの量は、負極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上、特に好ましくは0.8重量部以上であり、好ましくは10重量部以下、より好ましくは8重量部以下、特に好ましくは5重量部以下である。粒子状バインダーの量を前記範囲の下限値以上にすることにより、負極活物質の負極活物質層からの脱離を防ぎ、リチウムイオン二次電池のショートの発生を低減することができる。また、上限値以下とすることにより、内部抵抗を低く保ち出力特性を向上させることができる。
【0080】
[2.2.3.水溶性重合体]
本発明に係る水溶性重合体は、リチウムイオン二次電池において負極活物質を覆う被膜を形成し、この被膜の作用によって電解液の分解が抑制されているものと考えられる。
【0081】
水溶性重合体は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を含む。このため、水溶性重合体は、通常は酸性官能基としてカルボキシ基(−COOH基)を有する。このカルボキシ基が酸性官能基として機能することにより、水溶性重合体は優れた結着性を発現しうる。すなわち、負極活物質の表面に存在する極性基と水溶性重合体が有する酸性官能基とが相互作用することにより、水溶性重合体は負極活物質の表面に保持され、安定した被膜を形成しうるようになっている。
【0082】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体の例としては、エチレン性不飽和モノカルボン酸及びその誘導体、エチレン性不飽和ジカルボン酸及びその酸無水物並びにそれらの誘導体が挙げられる。エチレン性不飽和モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、及びクロトン酸が挙げられる。エチレン性不飽和モノカルボン酸の誘導体の例としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、及びβ−ジアミノアクリル酸が挙げられる。エチレン性不飽和ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、及びイタコン酸が挙げられる。エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、及びジメチル無水マレイン酸が挙げられる。エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体の例としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸等のマレイン酸メチルアリル;並びにマレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキル等のマレイン酸エステルが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましい。得られる水溶性重合体の水に対する
溶解性がより高めることができるからである。
【0083】
水溶性重合体において、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は、好ましくは20重量%以上、より好ましくは25重量%以上、特に好ましくは30重量%以上であり、好ましくは50重量%以下、より好ましくは45重量%以下、特に好ましくは40重量%以下である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合を前記範囲の下限以上とすることにより負極の結着性(即ち、負極活物質層と集電体との結着性)を向上させることとリチウムイオン二次電池の寿命特性を向上させることができ、上限以下とすることにより負極の柔軟性を確保することができる。通常、水溶性重合体におけるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は、水溶性重合体を製造する際に用いる全単量体におけるエチレン性不飽和カルボン酸単量体の比率(仕込み比)と一致する。
【0084】
水溶性重合体は、前記のエチレン性不飽和カルボン酸単量体に加えて、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む共重合体である。ここで、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合して得られる構造単位である。フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は高いイオン伝導性を有するので、水溶性重合体の被膜による抵抗上昇を抑制し、リチウムイオン二次電池の出力特性及びサイクル特性の両方を向上させる作用を発揮しうる。
【0085】
フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、下記の式(I)で表される単量体が挙げられる。
【0087】
前記の式(I)において、R
1は、水素原子またはメチル基を表す。
前記の式(I)において、R
2は、フッ素原子を含有する炭化水素基を表す。炭化水素基の炭素数は、好ましくは1以上であり、好ましくは18以下である。また、R
2が含有するフッ素原子の数は、1個でもよく、2個以上でもよい。
【0088】
式(I)で表されるフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、(メタ)アクリル酸フッ化アルキル、(メタ)アクリル酸フッ化アリール、及び(メタ)アクリル酸フッ化アラルキルが挙げられる。なかでも(メタ)アクリル酸フッ化アルキルが好ましい。このような単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸β−(パーフルオロオクチル)エチル、(メタ)アクリル酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル、(メタ)アクリル酸1H,1H,9H−パーフルオロ−1−ノニル、(メタ)アクリル酸1H,1H,11H−パーフルオロウンデシル、(メタ)アクリル酸パーフルオロオクチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチル、(メタ)アクリル酸3[4〔1−トリフルオロメチル−2、2−ビス〔ビス(トリフルオロメチル)フルオロメチル〕エチニルオキシ〕ベンゾオキシ]2−ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸パーフルオロアルキルエステルが挙げられる。中でも、サイクル特性と出力特性のバランスの観点から、メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルが好ましい。また、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0089】
水溶性重合体において、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは1.5重量%以上、特に好ましくは2重量%以上であり、好ましくは30重量%以下、より好ましくは25重量%以下、特に好ましくは20重量%以下である。フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合を前記範囲の下限値以上とすることにより、リチウムイオン二次電池の出力特性を向上させることができ、ひいては低温特性を改善することができる。また、上限値以下とすることにより電気化学的な安定性を確保できる。通常、水溶性重合体におけるフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、水溶性重合体を製造する際に用いる全単量体におけるフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の比率(仕込み比)と一致する。
【0090】
水溶性重合体は、架橋性単量体単位を含んでいてもよい。架橋性単量体単位は、架橋性単量体を重合して得られる構造単位である。架橋性単量体単位を含むことにより、水溶性重合体を架橋させることができるので、水溶性重合体で形成される被膜の強度及び安定性を高めることができる。
【0091】
架橋性単量体としては、重合した際に架橋構造を形成しうる単量体を用いうる。架橋性単量体の例としては、1分子あたり2以上の反応性基を有する単量体を挙げることができる。より具体的には、熱架橋性の架橋性基及び1分子あたり1つのオレフィン性二重結合を有する単官能性単量体、及び1分子あたり2つ以上のオレフィン性二重結合を有する多官能性単量体が挙げられる。
【0092】
単官能性単量体に含まれる熱架橋性の架橋性基の例としては、エポキシ基、N−メチロールアミド基、オキセタニル基、オキサゾリン基、及びこれらの組み合わせが挙げられる。これらの中でも、エポキシ基が、架橋及び架橋密度の調節が容易な点でより好ましい。
【0093】
熱架橋性の架橋性基としてエポキシ基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテル、o−アリルフェニルグリシジルエーテル等の不飽和グリシジルエーテル;ブタジエンモノエポキシド、クロロプレンモノエポキシド、4,5−エポキシ−2−ペンテン、3,4−エポキシ−1−ビニルシクロヘキセン、1,2−エポキシ−5,9−シクロドデカジエン等のジエンまたはポリエンのモノエポキシド;3,4−エポキシ−1−ブテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−9−デセン等のアルケニルエポキシド;並びにグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルクロトネート、グリシジル−4−ヘプテノエート、グリシジルソルベート、グリシジルリノレート、グリシジル−4−メチル−3−ペンテノエート、3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル、4−メチル−3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル等の不飽和カルボン酸のグリシジルエステル類;などが挙げられる。
【0094】
熱架橋性の架橋性基としてN−メチロールアミド基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド類などが挙げられる。
【0095】
熱架橋性の架橋性基としてオキセタニル基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−トリフロロメチルオキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−フェニルオキセタン、2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、及び2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−4−トリフロロメチルオキセタンなどが挙げられる。
【0096】
熱架橋性の架橋性基としてオキサゾリン基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、及び2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンなどが挙げられる。
【0097】
2つ以上のオレフィン性二重結合を有する多官能性単量体の例としては、アリル(メタ)アクリレート、エチレンジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン−トリ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジアリルエーテル、ポリグリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ヒドロキノンジアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン、トリメチロールプロパン−ジアリルエーテル、前記以外の多官能性アルコールのアリルまたはビニルエーテル、トリアリルアミン、メチレンビスアクリルアミド、及びジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0098】
中でも特に、架橋性単量体としては、エチレンジメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、及びグリシジルメタクリレートが好ましい。
【0099】
水溶性重合体において、架橋性単量体単位の含有割合は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.2重量%以上、特に好ましくは0.5重量%以上であり、好ましくは2重量%以下、より好ましくは1.5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。架橋性単量体単位の含有割合を前記範囲内とすることにより、膨潤度を抑制し、電極の耐久性を高めることができる。通常、水溶性重合体における架橋性単量体単位の含有割合は、水溶性重合体を製造する際に用いる全単量体における架橋性単量体の比率(仕込み比)と一致する。
【0100】
水溶性重合体は、反応性界面活性剤単位を含んでいてもよい。反応性界面活性剤単位は、反応性界面活性剤単量体を重合して得られる構造単位である。反応性界面活性剤単位は、水溶性重合体の一部を構成し、且つ界面活性剤として機能しうる。
【0101】
反応性界面活性剤単量体は、他の単量体と共重合しうる重合性の基を有し、且つ、界面活性基(親水性基及び疎水性基)を有する単量体である。通常、反応性界面活性剤単量体は重合性不飽和基を有し、この基が重合後に疎水性基としても作用する。反応性界面活性剤単量体が有する重合性不飽和基の例としては、ビニル基、アリル基、ビニリデン基、プロペニル基、イソプロペニル基、及びイソブチリデン基が挙げられる。かかる重合性不飽和基の種類は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0102】
反応性界面活性剤単量体は、親水性を発現する部分として、通常は親水性基を有する。反応性界面活性剤単量体は、親水性基の種類により、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に分類される。
【0103】
アニオン系の親水性基の例としては、−SO
3M、−COOM、及び−PO(OH)
2が挙げられる。ここでMは、水素原子又はカチオンを示す。カチオンの例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属イオン;アンモニウムイオン;モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミンのアンモニウムイオン;並びにモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンのアンモニウムイオン;などが挙げられる。
カチオン系の親水基の例としては、−Cl、−Br、−I、及び−SO
3OR
Xなどが挙げられる。ここでR
Xは、アルキル基を示す。R
Xの例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、及びイソプロピル基が挙げられる。
ノニオン系の親水基の例としては、−OHが挙げられる。
【0104】
好適な反応性界面活性剤単量体の例としては、下記の式(II)で表される化合物が挙げられる。
【0106】
式(II)において、Rは2価の結合基を表す。Rの例としては、−Si−O−基、メチレン基及びフェニレン基が挙げられる。
式(II)において、R
3は親水性基を表す。R
3の例としては、−SO
3NH
4が挙げられる。
式(II)において、nは1以上100以下の整数を表す。
【0107】
好適な反応性界面活性剤単量体の別の例としては、エチレンオキシドに基づく重合単位及びブチレンオキシドに基づく重合単位を有し、さらに末端に、末端二重結合を有するアルケニル基及び−SO
3NH
4を有する化合物(例えば、商品名「ラテムルPD−104」及び「ラテムルPD−105」、花王株式会社製)を挙げることができる。
反応性界面活性剤単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0108】
水溶性重合体において、反応性界面活性剤単位の含有割合は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.2重量%以上、特に好ましくは0.5重量%以上であり、好ましくは5重量%以下、より好ましくは4重量%以下、特に好ましくは2重量%以下である。反応性界面活性剤単位の含有割合を前記範囲の下限値以上とすることにより、負極用のスラリー組成物の分散性を向上させることができる。また、上限値以下とすることにより、負極の耐久性を向上させることができる。
【0109】
水溶性重合体は、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位以外の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含んでいてもよい。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合して得られる構造単位である。ただし、(メタ)アクリル酸エステル単量体の中でもフッ素を含有するものは、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体として、(メタ)アクリル酸エステル単量体とは区別する。
【0110】
(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;並びにメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0111】
水溶性重合体において、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは35重量%以上、特に好ましくは40重量%以上であり、また、好ましくは70重量%以下である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の量を上記範囲の下限値以上とすることにより負極活物質の集電体への結着性を高くすることができ、上記範囲の上限値以下とすることにより負極の柔軟性を高めることができる。
【0112】
水溶性重合体は、上述した構造単位の他に、任意の構造単位を含んでいてもよい。任意の構造単位の例としては、下記の任意の単量体を重合して得られる構造単位が挙げられる。また、任意の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
任意の単量体としては、例えば、スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;アクリルアミド等のアミド系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル化合物単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン類単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類単量体;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類単量体;並びにN−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物単量体などが挙げられる。また、任意の単量体としては、例えばリン酸基及びアリロキシ基を含む化合物、及びリン酸基含有(メタ)アクリル酸エステルなどの、リン酸基を含有する単量体を挙げることができる。リン酸基及びアリロキシ基を含む化合物としては、例えば、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンリン酸を挙げることができる。また、リン酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、ジオクチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、モノメチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジメチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、モノエチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジエチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、モノイソプロピル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジイソプロピル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、モノn−ブチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジn−ブチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、モノブトキシエチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブトキシエチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、モノ(2−エチルヘキシル)−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジ(2−エチルヘキシル)−2−メタクリロイロキシエチルホスフェートなどが挙げられる。さらに、任意の単量体としては、例えばスルホン酸基を含有する単量体を挙げることができる。スルホン酸基を含有する単量体としては、例えば、イソプレン及びブタジエン等のジエン化合物の共役二重結合の1つをスルホン化した単量体、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホエチルメタクリレート、スルホプロピルメタクリレート等の、スルホン酸基含有単量体またはその塩;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)等の、アミド基とスルホン酸基とを含有する単量体またはその塩;3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(HAPS)等の、ヒドロキシル基とスルホン酸基を含有する単量体またはその塩;などが挙げられる。
【0113】
水溶性重合体において、任意の構造単位の含有割合は、好ましくは20重量%以上、より好ましくは25重量%以上、特に好ましくは30重量%以上であり、好ましくは70重量%以下、より好ましくは65重量%以下、特に好ましくは60重量%以下である。通常、重合体における任意の構造単位の含有割合は、重合体を製造する際に用いる全単量体における任意の単量体の比率(仕込み比)と一致する。
【0114】
水溶性重合体の重量平均分子量は、通常は粒子状バインダーを形成する重合体よりも小さい。水溶性重合体の重量平均分子量は、好ましくは500以上、より好ましくは1000以上、特に好ましくは5000以上であり、好ましくは500000以下、より好ましくは250000以下、特に好ましくは100000以下である。水溶性重合体の重量平均分子量を上記範囲の下限値以上とすることにより、水溶性重合体の強度を高くして、負極活物質を覆う被膜を安定させることができる。このため、リチウムイオン二次電池のサイクル特性及び出力特性を改善できる。また、上限値以下とすることにより、水溶性重合体を柔らかくできる。このため、例えば負極の膨らみの抑制、負極活物質層の集電体への結着性の改善などが可能となる。
水溶性重合体の重量平均分子量は、GPCによって、ジメチルホルムアミドの10体積%水溶液に0.85g/mlの硝酸ナトリウムを溶解させた溶液を展開溶媒としたポリスチレン換算の値として求めうる。
【0115】
水溶性重合体のガラス転移温度は、好ましくは0℃以上、より好ましくは5℃以上であり、好ましくは100℃以下、より好ましくは70℃以下である。水溶性重合体のガラス転移温度が上記範囲であることにより、負極の結着性と柔軟性とを両立させることができる。水溶性重合体のガラス転移温度は、様々な単量体を組み合わせることによって調整可能である。
【0116】
水溶性重合体は、1重量%水溶液とした場合の粘度が、好ましくは0.1mPa・s以上、より好ましくは0.5mPa・s以上、特に好ましくは1mPa・s以上であり、好ましくは20000mPa・s以下、より好ましくは15000mPa・s以下、特に好ましくは10000mPa・s以下である。前記の粘度を上記範囲の下限値以上とすることにより水溶性重合体の強度を高くして負極の耐久性を向上させることができる。また、上限値以下とすることにより負極用のスラリー組成物の塗工性を良好にして、集電体と負極活物質層との結着強度を向上させることができる。前記の粘度は、例えば、水溶性重合体の分子量によって調整できる。なお、前記の粘度は、E型粘度計を用いて25℃、回転数60rpmで測定した時の値である。また、粘度の測定時の水溶液のpHは、8とする。
【0117】
水溶性重合体の製造方法に特段の制限は無い。例えば、エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体を含み、且つ、必要に応じてそれ以外の単量体を含む単量体組成物を、水系溶媒中で重合して、水溶性重合体を製造してもよい。
単量体組成物中の各単量体の比率は、通常、水溶性重合体における構造単位(例えば、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、架橋性単量体単位、反応性界面活性剤単位など)の含有割合と同様にする。
【0118】
重合反応に用いる水系溶媒は、例えば、粒子状バインダーの製造と同様にしうる。また、重合反応の手順は、粒子状バインダーの製造における手順と同様にしうる。これにより、通常は、水溶性重合体を含む反応液が得られる。得られた反応液は通常は酸性であり、水溶性重合体は水系溶媒に分散していることが多い。このように水溶性溶媒に分散した水溶性重合体は、通常、その反応液のpHを、例えば7〜13に調整にすることにより、水系溶媒に可溶にできる。こうして得られた反応液から水溶性重合体を取り出してもよい。しかし、通常は、水系媒体として水を用い、この水に溶解した状態の水溶性重合体を用いて負極用のスラリー組成物を製造し、そのスラリー組成物を用いて負極を製造しうる。
【0119】
前記pHを7〜13にアルカリ化する方法は、例えば、水酸化リチウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ金属水溶液;水酸化カルシウム水溶液、水酸化マグネシウム水溶液等のアルカリ土類金属水溶液;アンモニア水溶液などのアルカリ水溶液を反応液と混合する方法が挙げられる。前記のアルカリ水溶液は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0120】
水溶性重合体の量は、負極活物質100重量部に対して、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.03重量部以上、特に好ましくは0.05重量部以上であり、好ましくは20重量部以下、より好ましくは15重量部以下、特に好ましくは10重量部以下である。水溶性重合体の量を前記範囲の下限値以上にすることにより、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を改善することができる。また、上限値以下とすることにより、リチウムイオン二次電池の低温特性を改善することができる。
【0121】
粒子状バインダー及び水溶性重合体の重量比は、「水溶性重合体/粒子状バインダー」で、好ましくは0.5/99.5以上、より好ましくは1.0/99.0以上、特に好ましくは1.5/98.5以上であり、好ましくは40/60以下、より好ましくは30/70以下、特に好ましくは20/80以下である。粒子状バインダー及び水溶性重合体の含有割合を前記範囲の下限値以上とすることにより、負極の結着性とリチウムイオン二次電池の寿命特性の向上ができる。また、上限値以下とすることにより、負極の柔軟性とリチウムイオン二次電池の低温特性の向上ができる。
【0122】
[2.2.4.任意の成分]
負極活物質層を形成する組成物は、負極活物質、粒子状バインダー及び水溶性重合体以外にも、本発明の効果を著しく損なわない限り任意の成分を含んでいてもよい。その例を挙げると、導電付与材(導電材ともいう。)、補強材、分散剤、レベリング剤、酸化防止剤などが挙げられる。
【0123】
導電付与材は、負極活物質同士の電気的接触を向上させうる成分である。導電付与材を含むことにより、リチウムイオン二次電池の放電負荷特性を改善することができる。
導電性付与材としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、気相成長カーボン繊維、カーボンナノチューブ等の導電性カーボンなどが挙げられる。また、黒鉛などの炭素粉末、各種金属のファイバーや箔などを用いてもよい。導電付与材は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
導電付与材の量は、負極活物質の量100重量部に対して、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは1重量部以上であり、好ましくは20重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。
【0124】
補強材としては、例えば、各種の無機及び有機の球状、板状、棒状又は繊維状のフィラーを使用してもよい。また、補強材は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。補強材を用いることにより、強靭で柔軟な電極を得ることができ、優れた長期サイクル特性を得ることができる。
補強材の量は、負極活物質100重量部に対して、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは1重量部以上であり、好ましくは20重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。補強材の量を前記範囲にすることにより、高い容量と高い負荷特性を得ることができる。
【0125】
分散剤としては、例えば、アニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン性化合物、高分子化合物が挙げられる。具体的な分散剤の種類は、用いる負極活物質及び導電付与材に応じて選択しうる。また、分散剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
分散剤の量は、負極活物質層において、好ましくは0.01重量%〜10重量%である。分散剤の量が上記範囲であることにより、負極用のスラリー組成物の安定性を高め、平滑な電極を得ることができ、高い電池容量を実現することが可能となる。
【0126】
レベリング剤としては、例えば、アルキル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。レベリング剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。レベリング剤を用いることにより、塗工時に発生するはじきを防止したり、負極の平滑性を向上させたりすることができる。
レベリング剤の量は、負極活物質層において、好ましくは0.01重量%〜10重量%である。レベリング剤の量が上記範囲であることにより、電極作製時の生産性、平滑性及び電池特性に優れる。
【0127】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール化合物、ハイドロキノン化合物、有機リン化合物、硫黄化合物、フェニレンジアミン化合物、ポリマー型フェノール化合物等が挙げられる。このうちポリマー型フェノール化合物は、分子内にフェノール構造を有する重合体である。このポリマー型フェノール化合物としては、重量平均分子量が、好ましくは200以上、より好ましくは600以上であり、また、好ましくは1000以下、より好ましくは700以下のものが特に望ましい。
酸化防止剤の量は、負極活物質層において、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上であり、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。これにより、スラリー組成物の安定性、電池容量及びサイクル特性に優れる。
【0128】
さらに、負極活物質層を形成する組成物は、負極活物質層の製造に用いる負極用のスラリー組成物が含む成分を含んでいてもよい。
【0129】
[2.2.5.負極活物質層の厚み]
負極活物質層の厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、特に好ましくは30μm以上であり、好ましくは300μm以下、より好ましくは250μm以下、更に好ましくは200μm以下、特に好ましくは100μm以下である。負極活物質層の厚みが上記範囲にあることにより、出力密度とエネルギー密度のバランス化を図ることができる。
【0130】
[2.3.負極の製造方法]
負極の製造方法は特に制限されない。例えば、負極用のスラリー組成物を用意し、そのスラリー組成物を集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより、集電体の表面に負極活物質層を形成して負極を得てもよい。
【0131】
負極用のスラリー組成物は、負極活物質、粒子状バインダー、水溶性重合体及び水系溶媒を含むスラリー状の組成物である。また、スラリー組成物は、必要に応じて負極活物質、バインダー、水溶性重合体及び水系溶媒以外の成分を含んでいてもよい。負極活物質、バインダー及び水溶性重合体、並びに必要に応じて含まれる成分の量は、通常は負極活物質層に含まれる各成分の量と同様にする。このようなスラリー組成物では、通常、一部の水溶性重合体は水系溶媒に溶解しているが、別の一部の水溶性重合体が負極活物質の表面に吸着することによって、負極活物質が水溶性重合体の安定な層(被膜)で覆われて、負極活物質の溶媒中での分散性が向上している。このため、負極用のスラリー組成物は、集電体に塗布する際の塗工性が良好である。
【0132】
負極用のスラリー組成物の水系溶媒としては、粒子状バインダー及び水溶性重合体の重合に際して用いた水系溶媒と同様のものを用いうる。中でも、水系溶媒として水を用いることが好ましい。
水系溶媒の量は、スラリー組成物がその後の工程に適した性状となるよう、適宜調整することが好ましい。具体的には、スラリー組成物の固形分の濃度が、好ましくは30重量%以上、より好ましくは40重量%以上であり、好ましくは70重量%以下、より好ましくは60重量%以下となる量に調整して用いられる。ここでスラリー組成物の固形分とは、スラリー組成物の乾燥、加熱を経て負極活物質層の構成成分として残留する物質を示す。
【0133】
また、負極用のスラリー組成物は、例えば、防腐剤、増粘剤などの配合剤を含んでいてもよい。
防腐剤としては、下記の式(III)で表わされるベンゾイソチアゾリン系化合物、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、又はこれらの混合物を用いることが好ましく、特にこれらの混合物であることがより好ましい。
【化3】
【0134】
式(III)中、R
4は、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表わす。前記式(III)で表されるベンゾイソチアゾリン系化合物と2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンとを組み合わせて用いる場合、これらの割合は、重量比で1:10〜10:1とすることが好ましい。また、スラリー組成物中の防腐剤の量は、粒子状バインダー及び水溶性重合体の合計100重量部に対して、0.001重量部〜0.1重量部が好ましく、0.001重量部〜0.05重量部がより好ましく、0.001重量部〜0.01重量部が特に好ましい。
【0135】
粒子状バインダー及び水溶性重合体は、前記のように、好ましくは水系溶媒中で重合して得られる。そのため、粒子状バインダ
ーは、通常、水系の分散
液として保存される。
また、水溶性重合体は、通常、水系の溶液として保存される。そのため、一般的には微生物の繁殖により品質が劣化しやすい。これに対し、防腐剤を用いることにより、そのような品質の劣化を防止することができる。
【0136】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系ポリマー及びこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリ(メタ)アクリル酸及びこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸又はマレイン酸若しくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体等のポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体水素化物;などが挙げられる。中でも、セルロース系ポリマー及びこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリ(メタ)アクリル酸及びこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩が好ましい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。ここで、「(変性)ポリ」は「未変性ポリ」又は「変性ポリ」を意味する。スラリー組成物中の増粘剤の量は、好ましくは0.1重量%〜10重量%である。増粘剤が上記範囲であることにより、スラリー組成物中の負極活物質の分散性を高めることができるので、平滑な電極を得ることができる。このため、優れた負荷特性及びサイクル特性を実現することが可能である。
【0137】
負極用のスラリー組成物は、上記の負極活物質、粒子状バインダー、水溶性重合体、水系溶媒、並びに、必要に応じて用いられる任意の成分を混合して製造してもよい。
混合のために用いる装置は、上記成分を均一に混合しうる任意の装置を使用しうる。例を挙げると、ビーズミル、ボールミル、ロールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどが挙げられる。中でも、高濃度での分散が可能なことから、ボールミル、ロールミル、顔料分散機、擂潰機、プラネタリーミキサーを使用することが特に好ましい。
【0138】
スラリー組成物の粘度は、均一塗工性、並びに、スラリー組成物の経時安定性の観点から、好ましくは10mPa・s以上、より好ましくは100mPa・s以上であり、好ましくは100,000mPa・s以下、より好ましくは50,000mPa・s以下である。ここで、粘度は、B型粘度計を用いて25℃、回転数60rpmで測定した時の値である。
また、スラリー組成物の固形分濃度は、塗布、浸漬が可能な程度でかつ、流動性を有する粘度になる限り特に限定はされないが、一般的には10重量%〜80重量%である。
【0139】
負極用のスラリー組成物を、集電体等の部材上に塗布し、さらに必要に応じて乾燥及び加熱することにより、負極活物質層を形成することができる。また、リチウムイオン二次電池において集電体と負極活物質層との間に介在する層が存在する場合には、その層上にスラリー組成物を塗布してもよい。塗布の方法は特に制限されない。例えば、ドクターブレード法、ジップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。
【0140】
集電体に形成されたスラリー組成物の層の乾燥の条件は、特に制限されない。例えば120℃以上で1時間以上としてもよい。また、乾燥方法としては、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥;真空乾燥:赤外線、遠赤外線、電子線などのエネルギー線の照射による乾燥法;が挙げられる。
【0141】
スラリー組成物の層を乾燥させた後、必要に応じて、例えば金型プレス又はロールプレスなどを用いて、加圧処理を施すことが好ましい。加圧処理により、空隙率の低い負極活物質層を得ることができる。空隙率は、好ましくは5%以上、より好ましくは7%以上であり、好ましくは15%以下、より好ましくは13%以下である。空隙率を前記範囲の下限値以上とすることにより、高い体積容量が得易くなり、負極活物質層を集電体から剥がれ難くすることができる。また、上限値以下とすることにより高い充電効率及び放電効率が得られる。
さらに、負極活物質層が硬化性の重合体を含む場合は、負極活物質層の形成後に前記重合体を硬化させることが好ましい。
【0142】
[3.正極]
正極は、通常、集電体と、集電体の表面に形成された正極活物質層とを備える。正極活物質層は、正極活物質及び正極用のバインダーを含む。
【0143】
正極の集電体としては、通常、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料で形成されたものを用いる。正極の集電体としては、例えば、本発明の負極に使用される集電体と同様のものを用いてもよい。中でも、アルミニウムが特に好ましい。
【0144】
正極活物質としては、リチウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質が用いられる。このような正極活物質は、無機化合物と有機化合物とに大別される。
【0145】
無機化合物からなる正極活物質としては、例えば、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウムと遷移金属とのリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。
上記の遷移金属としては、例えばTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo等が挙げられる。
【0146】
遷移金属酸化物としては、例えば、MnO、MnO
2、V
2O
5、V
6O
13、TiO
2、Cu
2V
2O
3、非晶質V
2O−P
2O
5、MoO
3、V
2O
5、V
6O
13等が挙げられ、中でもサイクル安定性と容量からMnO、V
2O
5、V
6O
13、TiO
2が好ましい。
遷移金属硫化物としては、例えば、TiS
2、TiS
3、非晶質MoS
2、FeS等が挙げられる。
【0147】
リチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。
層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO
2)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO
2)、Co−Ni−Mnのリチウム複合酸化物、Ni−Mn−Alのリチウム複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム複合酸化物等が挙げられる。
スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)又はMnの一部を他の遷移金属で置換したLi[Mn
3/2M
1/2]O
4(ここでMは、Cr、Fe、Co、Ni、Cu等)等が挙げられる。
オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、Li
XMPO
4(式中、Mは、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種を表し、Xは0≦X≦2を満たす数を表す。)で表されるオリビン型燐酸リチウム化合物が挙げられる。
【0148】
有機化合物からなる正極活物質としては、例えば、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性高分子化合物が挙げられる。
【0149】
また、無機化合物及び有機化合物を組み合わせた複合材料からなる正極活物質を用いてもよい。
また、例えば、鉄系酸化物を炭素源物質の存在下において還元焼成することで、炭素材料で覆われた複合材料を作製し、この複合材料を正極活物質として用いてもよい。鉄系酸化物は電気伝導性に乏しい傾向があるが、前記のような複合材料にすることにより、高性能な正極活物質として使用できる。
さらに、前記の化合物を部分的に元素置換したものを正極活物質として用いてもよい。
また、上記の無機化合物と有機化合物の混合物を正極活物質として用いてもよい。
正極活物質は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0150】
正極活物質の粒子の体積平均粒子径は、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上であり、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。正極活物質の粒子の体積平均粒子径を上記範囲にすることにより、正極活物質層を調製する際のバインダーの量を少なくすることができ、二次電池の容量の低下を抑制できる。また、正極活物質層を形成するためには、通常、正極活物質及びバインダーを含む正極用のスラリー組成物を用意するが、この正極用のスラリー組成物の粘度を塗布し易い適正な粘度に調整することが容易になり、均一な正極を得ることができる。
【0151】
正極活物質層における正極活物質の量は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上であり、好ましくは99.9重量%以下、より好ましくは99重量%以下である。正極活物質の含有量を上記範囲とすることにより、リチウムイオン二次電池の容量を高くでき、また、正極の柔軟性並びに集電体と正極活物質層との結着性を向上させることができる。
【0152】
正極用のバインダーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル誘導体などの樹脂;アクリル系軟質重合体、ジエン系軟質重合体、オレフィン系軟質重合体、ビニル系軟質重合体等の軟質重合体を用いることができる。バインダーは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0153】
また、正極活物質層には、必要に応じて、正極活物質及びバインダー以外の成分が含まれていてもよい。その例を挙げると、例えば、導電材、補強材、レベリング剤、酸化防止剤、増粘剤等が挙げられる。また、これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0154】
正極活物質層の厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、好ましくは300μm以下、より好ましくは250μm以下である。正極活物質層の厚みが上記範囲にあることにより、負荷特性及びエネルギー密度の両方で高い特性を実現できる。
【0155】
正極は、例えば、前述の負極と同様の要領で製造しうる。
【0156】
[4.電解液]
電解液は、溶媒と、その溶媒に溶解した支持電解質とを含む。
【0157】
電解液に含まれる電解質としては、通常、リチウム塩を用いる。リチウム塩としては、例えば、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、CF
3SO
3Li、C
4F
9SO
3Li、CF
3COOLi、(CF
3CO)
2NLi、(CF
3SO
2)
2NLi、(C
2F
5SO
2)NLiなどが挙げられる。中でも、特に溶媒に溶けやすく高い解離度を示すことから、LiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liは好適に用いられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。一般に、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0158】
電解液における支持電解質の濃度は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、また、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。支持電解質の量が少なすぎても多すぎてもイオン導電度は低下し、リチウムイオン二次電池の充電特性及び放電特性が低下する可能性がある。
【0159】
電解液に含まれる溶媒としては、プロピレンカーボネート及びビニレンカーボネートを含むものを用いる。
【0160】
溶媒におけるプロピレンカーボネートの量は、通常50体積%以上であり、通常80体積%以下、好ましくは75体積%以下、より好ましくは70体積%以下である。プロピレンカーボネートの量を前記範囲の下限値以上とすることにより、リチウムイオン二次電池の出力特性を向上させることができる。また、上限値以下とすることにより、サイクル特性を改善して電池の寿命を延ばすことができる。
【0161】
また、溶媒におけるビニレンカーボネートの量は、通常0.05体積%以上、好ましくは0.1体積%以上、より好ましくは0.15体積%以上であり、通常1.0体積%以下、好ましくは0.8体積%以下、より好ましくは0.6体積%以下である。ビニレンカーボネートを前記範囲の下限値以上用いることにより、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を改善することができる。また、本発明のリチウムイオン二次電池では水溶性重合体を用いているので、ビニレンカーボネートの量を少なくしてもサイクル特性を改善することが可能である。このため、ビニレンカーボネートの量を少なくして電解液の粘度上昇を抑制できるので、リチウムイオン二次電池の低温特性を改善することも可能である。
【0162】
また、電解液の溶媒としては、プロピレンカーボネート及びビニレンカーボネート以外の任意の溶媒を、プロピレンカーボネート及びビニレンカーボネートと組み合わせて用いてもよい。任意の溶媒の例を挙げると、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(MEC)等のアルキルカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが用いられる。特に高いイオン伝導性が得易く、使用温度範囲が広いため、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びメチルエチルカーボネート等のカーボネート類が好ましい。これらの溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。用いる溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなるので、溶媒の種類により、リチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0163】
さらに、電解液には、必要に応じて任意の配合剤を含ませてもよい。
【0164】
[5.セパレータ]
セパレータとしては、通常、気孔部を有する多孔性基材を用いる。セパレータの例を挙げると、(a)気孔部を有する多孔性セパレータ、(b)片面または両面に高分子コート層が形成された多孔性セパレータ、(c)無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート層が形成された多孔性セパレータ、などが挙げられる。これらの例としては、ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリオレフィン系、またはアラミド系多孔性セパレータ、ポリビニリデンフルオリド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルまたはポリビニリデンフルオリドヘキサフルオロプロピレン共重合体などの固体高分子電解質用またはゲル状高分子電解質用の高分子フィルム;ゲル化高分子コート層がコートされたセパレータ;無機フィラーと無機フィラー用分散剤とからなる多孔膜層がコートされたセパレータ;などが挙げられる。
【0165】
[6.リチウムイオン二次電池の製造方法]
リチウムイオン二次電池の製造方法は、特に限定されない。例えば、上述した負極と正極とをセパレーターを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口してもよい。さらに、必要に応じて、例えばエキスパンドメタル;ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子;リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をしてもよい。電池の形状は、例えば、ラミネートセル型、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、いずれであってもよい。
【実施例】
【0166】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。また、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。さらに、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
また、以下の実施例及び比較例において用いた人造黒鉛は、高い結晶性を有する黒鉛質材料で形成された部分の表面を、結晶性が低いアモルファスな炭素質材料が被覆した構造を有していた。
【0167】
[測定方法]
(1)高温保存特性の評価方法
ラミネート型セルのリチウムイオン二次電池を作製し、25℃の環境下で、24時間静置させた。その後に、25℃の環境下で、0.1Cの定電流法によって、4.2ボルトに充電し、3.0ボルトまで放電する充放電の操作を行い、初期容量C0を測定した。さらに、25℃の環境下で、4.2ボルトに充電し、60℃、30日間保存した。その後、0.1Cの定電流法によって4.2ボルトまで充電し、3.0ボルトまで放電する充放電の操作を行い、高温保存後の容量C1を測定した。高温保存特性は、ΔC1=C1/C0×100(%)で示す容量維持率ΔC1にて評価した。この値が高いほど、高温保存特性に優れることを示す。
【0168】
(2)高温サイクル特性の評価方法
ラミネート型セルのリチウムイオン二次電池を作製し、25℃の環境下で、24時間静置させた。その後に、25℃の環境下で、0.1Cの定電流法によって、4.2ボルトまで充電し、3.0ボルトまで放電する充放電の操作を行い、初期容量C0を測定した。さらに、60℃環境下で、1Cの定電流法によって、4.2ボルトに充電し、3.0ボルトまで放電する充放電の操作を1000回(1000サイクル)繰り返し、1000サイクル後の容量C2を測定した。高温サイクル特性は、ΔC2=C2/C0×100(%)で示す容量維持率ΔC2にて評価した。この値が高いほど、高温サイクル特性に優れることを示す。
【0169】
(3)低温特性の評価方法
ラミネート型セルのリチウムイオン二次電池を作製し、25℃の環境下で、24時間静置させた。その後に、0.1Cの定電流法によって、4.2ボルトまで充電の操作を行った。その後、−10℃環境下で、1Cの定電流法によって、放電の操作を行い、放電開始15秒後の電圧Vを測定した。低温特性は、ΔV=4.2ボルト−Vで示す電圧変化ΔVにて評価した。この値が小さいほど、低温特性に優れることを示す。
【0170】
(4)セルの膨らみ率の評価方法
ラミネート型セルのリチウムイオン二次電池を作製し、25℃の環境下で、24時間静置させた。その後に、25℃の環境下で、0.1Cの定電流法によって、4.2ボルトに充電し、3.0ボルトまで放電する充放電の操作を行い、初期セル体積M0を測定した。さらに、25℃の環境下で、4.2ボルトに充電し、60℃、30日間保存した。その後、25℃の環境下で、0.1Cの定電流法によって、4.2ボルトに充電し、3.0ボルトまで放電する充放電の操作を行い、高温保存後のセル体積M1を測定した。セルの膨らみ率ΔMは、ΔM=(M1−M0)/M0×100(%)で計算した。この値が低いほど、膨らみが小さく優れることを示す。
【0171】
(5)負極活物質の比表面積の測定方法
負極活物質の比表面積は、島津製作所社製の測定装置「トライスターII3020シリーズ」を用いて、窒素ガス吸着によるBET法により測定した。
【0172】
[実施例1]
(1−1.水溶性重合体の製造方法)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、メタクリル酸(エチレン性不飽和カルボン酸単量体)32.5部、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート(フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体)7.5部、エチレンジメタクリレート(架橋性単量体)0.8部、ブチルアクリレート(任意の単量体)58.0部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(反応性界面活性剤単量体、花王社製、商品名「ラテムルPD−104」)1.2部、t−ドデシルメルカプタン0.6部、イオン交換水150部、及び過硫酸カリウム(重合開始剤)0.5部を入れ、十分に攪拌した。その後、60℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、水溶性重合体を含む混合物を得た。この水溶性重合体を含む混合物に、10%アンモニア水を添加して、pH8に調整した。これにより、所望の水溶性重合体を含む水溶液を得た。
【0173】
(1−2.粒子状バインダーの製造方法)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、1,3−ブタジエン(脂肪族共役ジエン単量体)33.5部、イタコン酸(エチレン性不飽和カルボン酸単量体)3.5部、スチレン(任意の単量体)63部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(乳化剤)4部、イオン交換水150部、及び、過硫酸カリウム(重合開始剤)0.5部を入れ、十分に攪拌した。その後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状バインダーを含む混合物を得た。上記粒子状バインダーを含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。その後、30℃以下まで冷却した。これにより、所望の粒子状バインダーを含む水分散液を得た。
【0174】
(1−3.水溶性重合体及び粒子状バインダーを含むバインダー組成物の製造方法)
上記で得られた水溶性重合体を含む水溶液をイオン交換水で希釈して、濃度を5%に調整した。これを、上記で得られた粒子状バインダーを含む水分散液に、固形分相当で重量比が粒子状バインダー:水溶性重合体=95.0:5.0となるように混合して、バインダー組成物を得た。
【0175】
(1−4.負極用スラリー組成物の製造)
負極活物質として、比表面積5.5m
2/gの人造黒鉛(体積平均粒子径:24.5μm)を用意した。
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、前記の人造黒鉛100部、並びに、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースの1%水溶液(第一工業製薬株式会社製「BSH−12」)を固形分相当で1部を加えた。さらに、イオン交換水を加えて固形分濃度55%に調整した。その後、25℃で60分間混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度52%に調整した。その後、さらに25℃で15分間混合し、混合液を得た。
【0176】
上記混合液に、上記(1−3)で得られたバインダー組成物を固形分相当量で1.0部、及びイオン交換水を入れ、最終固形分濃度が50%となるように調整した。さらに、10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して、流動性の良い負極用スラリー組成物を得た。
【0177】
(1−5.負極の製造)
上記(1−4)で得られた負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して、負極原反を得た。この負極原反をロールプレスで圧延して、厚み80μmの負極活物質層を備える負極を得た。
【0178】
(1−6.正極の製造)
正極用のバインダーとして、ガラス転移温度Tgが−40℃で、数平均粒子径が0.20μmのアクリレート重合体を含む40%水分散体を用意した。前記のアクリレート重合体は、アクリル酸2−エチルヘキシル78%、アクリロニトリル20%、及びメタクリル酸2%を含む単量体混合物を乳化重合して得られた共重合体である。
【0179】
正極活物質として体積平均粒子径12μmのLiCoO
2を100部と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースの1%水溶液(第一工業製薬株式会社製「BSH−12」)を固形分相当で1部と、正極用のバインダーとして上記のアクリレート重合体の40%水分散体を固形分相当で5部と、イオン交換水とを混合した。イオン交換水の量は、全固形分濃度が40%となる量とした。これらをプラネタリーミキサーにより混合し、正極用スラリー組成物を調製した。
【0180】
上記の正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔の上に、乾燥後の膜厚が200μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、アルミニウム箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して、正極原反を得た。この正極原反をロールプレスで圧延して、正極を得た。
【0181】
(1−7.セパレータの用意)
単層のポリプロピレン製セパレータ(セルガード社製「セルガード2500」)を、5×5cm
2の正方形に切り抜いた。
【0182】
(1−8.リチウムイオン二次電池の製造)
電池の外装として、アルミニウム包材外装を用意した。上記(1−6)で得られた正極を、4×4cm
2の正方形に切り出し、集電体側の表面がアルミニウム包材外装に接するように配置した。正極の正極活物質層の面上に、上記(1−7)で得られた正方形のセパレータを配置した。さらに、上記(1−5)で得られた負極を、4.2×4.2cm
2の正方形に切り出し、これをセパレータ上に、負極活物質層側の表面がセパレータに向かい合うよう配置した。
【0183】
これに電解液を、空気が残らないように注入した。前記の電解液において、電解質としては濃度1MのLiPF
6を用いた。また、電解液の溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)及びビニレンカーボネート(VC)を、体積比EC:DEC:PC:VC=19.5:10:70:0.5で含む混合溶媒である。
【0184】
さらに、アルミニウム包材の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミニウム外装を閉口し、リチウムイオン二次電池を製造した。
得られたリチウムイオン二次電池について、高温保存特性、高温サイクル特性、低温特性、及び、セルの膨らみ率を評価した。
【0185】
[実施例2]
上記(1−1)において、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートの量を3部に変更し、さらにブチルアクリレートの量を62.5部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0186】
[実施例3]
上記(1−1)において、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートの量を18部に変更し、さらにブチルアクリレートの量を47.5部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0187】
[実施例4]
上記(1−3)において、水溶性重合体を含む水溶液と粒子状バインダーの水分散液との混合比を、重量基準の固形分相当で粒子状バインダー:水溶性重合体=98.0:2.0となるように変更したこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0188】
[実施例5]
上記(1−3)において、水溶性重合体を含む水溶液と粒子状バインダーの水分散液との混合比を、重量基準の固形分相当で粒子状バインダー:水溶性重合体=90.0:10.0となるように変更したこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0189】
[実施例6]
上記(1−8)において、電解液の溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)及びビニレンカーボネート(VC)を、体積比EC:DEC:PC:VC=19.8:10:70:0.2で含む混合溶媒を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0190】
[実施例7]
上記(1−8)において、電解液の溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)及びビニレンカーボネート(VC)を、体積比EC:DEC:PC:VC=19.2:10:70:0.8で含む混合溶媒を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0191】
[実施例8]
上記(1−8)において、電解液の溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)及びビニレンカーボネート(VC)を、体積比EC:DEC:PC:VC=24.5:20:55:0.5で含む混合溶媒を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0192】
[実施例9]
上記(1−8)において、電解液の溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)及びビニレンカーボネート(VC)を、体積比EC:DEC:PC:VC=14.5:10:75:0.5で含む混合溶媒を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0193】
[実施例10]
上記(1−1)において、メタクリル酸の量を22部に変更し、さらにブチルアクリレートの量を68.5部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0194】
[実施例11]
上記(1−1)において、メタクリル酸の量を48部に変更し、さらにブチルアクリレートの量を42.5部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0195】
[実施例12]
上記(1−4)において、負極活物質として比表面積2.5m
2/gの人造黒鉛(体積平均粒子径:12μm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0196】
[実施例13]
上記(1−4)において、負極活物質として比表面積8.9m
2/gの人造黒鉛(体積平均粒子径:13μm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0197】
[実施例14]
人造黒鉛及びSiOCを黒鉛/SiOC=85/15(重量比)で含む混合物を用意した。この混合物の比表面積は6.4m
2/gであった。
上記(1−4)において、負極活物質として前記の人造黒鉛及びSiOCを含む混合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0198】
[実施例15]
人造黒鉛及びSiCを黒鉛/SiC=85/15(重量比)で含む混合物を用意した。この混合物の比表面積は7.1m
2/gであった。
上記(1−4)において、負極活物質として前記の人造黒鉛及びSiCを含む混合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0199】
[比較例1]
1,3−ブタジエンの量を65.5部に変更し、さらにスチレンの量を31部に変更したこと以外は実施例1の上記(1−2)と同様にして、粒子状バインダーを含む水分散液を得た。
上記(1−3)で得られたバインダー組成物の代わりに比較例1で製造した前記の粒子状バインダーを含む水分散液を固形分相当で0.95重量部用いたこと以外は実施例1の上記(1−4)と同様にして、負極用スラリー組成物を製造した。
こうして得られた負極用スラリー組成物を用いて、上記(1−5)と同様にして負極を製造し、さらにこの負極を用いて上記(1−8)と同様にしてリチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0200】
[比較例2]
上記(1−3)で得られたバインダー組成物の代わりに上記(1−2)で製造した粒子状バインダーを含む水分散体を固形分相当で0.95重量部用いた。また、負極活物質として比表面積1.2m
2/gの人造黒鉛(体積平均粒子径:21μm)を用いた。これらの事項以外は実施例1の上記(1−4)と同様にして、負極用スラリー組成物を製造した。
こうして得られた負極用スラリー組成物を用いて、上記(1−5)と同様にして負極を製造し、さらにこの負極を用いて上記(1−8)と同様にしてリチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0201】
[比較例3]
上記(1−3)で得られたバインダー組成物の代わりに上記(1−2)で製造した粒子状バインダーを含む水分散体を固形分相当で0.95重量部用いた。また、負極活物質として比表面積18m
2/gの人造黒鉛(体積平均粒子径:3.2μm)を用いた。これらの事項以外は実施例1の上記(1−4)と同様にして、負極用スラリー組成物を製造した。
こうして得られた負極用スラリー組成物を用いて、上記(1−5)と同様にして負極を製造し、さらにこの負極を用いて上記(1−8)と同様にしてリチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0202】
[比較例4]
負極活物質として、比表面積5.5m
2/gの人造黒鉛(体積平均粒子径:24.5μm)を用意した。ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、前記の人造黒鉛100部、並びに、溶解型バインダーとしてポリフッ化ビニリデンの12%N−メチルピロリドン溶液(クレハ社製「7208」)を固形分相当で2部を加えた。さらに、N−メチルピロリドンを加えて固形分濃度55%に調整した。これを減圧下で脱泡処理して、流動性の良い負極用スラリー組成物を得た。
こうして得られた負極用スラリー組成物を用いて、実施例1の上記(1−5)と同様にして負極を製造し、さらにこの負極を用いて上記(1−8)と同様にしてリチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0203】
[比較例5]
2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートを用いず、さらにブチルアクリレートの量を65.5部に変更したこと以外は実施例1の上記(1−1)と同様にして、水溶性重合体を含む水溶液を得た。
また、1,3−ブタジエンの量を65.5部に変更し、さらにスチレンの量を31部に変更したこと以外は実施例1の上記(1−2)と同様にして、粒子状バインダーを含む水分散液を得た。
【0204】
こうして比較例5で製造した水溶性重合体を含む水溶液及び粒子状バインダーを含む水分散液を用いたこと以外は実施例1の上記(1−3)と同様にして、水溶性重合体及び粒子状バインダーを含むバインダー組成物を得た。このバインダー組成物を用いて上記(1−4)〜(1−8)と同様の要領でリチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0205】
[比較例6]
上記(1−8)において、電解液の溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)及びプロピレンカーボネート(PC)を、体積比EC:DEC:PC=20:10:70で含む混合溶媒を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0206】
[比較例7]
上記(1−8)において、電解液の溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)及びビニレンカーボネート(VC)を、体積比EC:DEC:PC:VC=18.8:10:70:1.2で含む混合溶媒を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0207】
[比較例8]
上記(1−8)において、電解液の溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)及びビニレンカーボネート(VC)を、体積比EC:DEC:PC:VC=39.5:30:40:0.5で含む混合溶媒を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0208】
[結果]
実施例及び比較例の結果を、表1〜表6に示す。ここで、表に記載の略称の意味は、以下のとおりである。また、下記の表1〜表6において、「VCの量」及び「PCの量」の欄における単位「%」は、体積基準である。
単量体A:脂肪族共役ジエン単量体
BD:1,3−ブタジエン
単量体B:エチレン性不飽和カルボン酸単量体
IA:イタコン酸
単量体I:フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体
TFEMA:2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート
単量体II:エチレン性不飽和カルボン酸単量体
MAA:メタクリル酸
VC:ビニレンカーボネート
PC:プロピレンカーボネート
EC:エチレンカーボネート
DEC:ジエチルカーボネート
PVDF:ポリフッ化ビニリデン
ΔC1:高温保存特性の評価結果を示す容量維持率
ΔC2:高温サイクル特性の評価結果を示す容量維持率
ΔV:電圧変化
ΔM:セルの膨らみ率
【0209】
【表1】
【0210】
【表2】
【0211】
【表3】
【0212】
【表4】
【0213】
【表5】
【0214】
【表6】
【0215】
[検討]
実施例においては、比較例に比べて、高温サイクル特性及び低温特性の両方で優れた結果が得られている。また、いずれの実施例においても、高温保存特性に優れたリチウムイオン二次電池を実現できていることがわかる。さらに、実施例においては比較例よりもセルの膨らみ率が小さいことから、実施例においてはガスの発生を抑制することが可能であったことが確認された。