(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る金属陽極用正孔輸送性ワニスは、金属陽極上に積層され、この金属陽極から受容した正孔を、金属陽極とは反対側に積層される層へと輸送する薄膜を形成するための金属陽極用正孔輸送性ワニスであり、電荷輸送性物質と、ヘテロポリ酸からなるドーパント物質と、有機溶媒とを含むものである。
本発明において、電荷輸送性とは、導電性と同義であり、正孔輸送性と同義である。電荷輸送性物質とは、それ自体に電荷輸送性があるものでもよく、ドーパント物質と共に用いた際に電荷輸送性があるものでもよい。
また、正孔輸送性ワニスとは、それ自体に電荷輸送性があるものでもよく、それから得られる固形膜が電荷輸送性を有するものでもよい。
【0011】
本発明において、金属陽極用とは、電子デバイス、特に有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極が金属である場合において、その陽極上に直接薄膜を形成するために用いられる正孔輸送性ワニスを意味する。
なお、ここでいう金属とは、金属単体または合金のことであり、ITO、IZO、IGZO等といった金属の大部分が意図的に酸化された金属酸化物やその合金は含まれないが、例えば空気中の酸素等の外部要因によって金属の表面の全部または一部が酸化されたものは含む。
【0012】
このような金属陽極を構成する金属としては、アルミニウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、カドニウム、インジウム、スカンジウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ハフニウム、タリウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、プラチナ、銀、金、チタン、鉛、ビスマス等やこれらの合金が挙げられ、上述したとおり、これらはそれぞれ単体で用いても、合金として用いてもよい。
これらの中でも、本発明の金属陽極用正孔輸送性ワニスは、ニオブ、タンタル、モリブデン、クロム、アルミニウム、銀、金、プラチナまたはアルミニウム−ネオジム(Al/Nd)合金からなる陽極に、正孔注入層を形成するのに適している。
特に、トップエミッション構造の有機EL素子の陽極として用いる場合、金属は光反射能に優れた反射性金属であることが好ましく、そのような金属としては、モリブデン、クロム、アルミニウム、銀、金、プラチナ等が挙げられる。
【0013】
本発明で用いる電荷輸送物質としては、特に限定されるわけではないが、有機溶媒への溶解性に優れ、平坦性に優れる薄膜を与えるワニスを調製し得ることから、電荷輸送性モノマーや電荷輸送性オリゴマーからなる電荷輸送性物質が好ましく、例えば、アニリン誘導体、チオフェン誘導体、ピロール誘導体等の各種正孔輸送性物質が挙げられる。なお、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
中でも、アニリン誘導体、チオフェン誘導体が好ましい。
アニリン誘導体からなる電荷輸送性物質としては、特に限定されるものではないが、式(1)で示されるものが好ましい。
【0015】
式(1)において、X
1は、−NY
1−、−O−、−S−、−(CR
7R
8)
l−または単結合を表すが、mまたはnが0であるときは、−NY
1−を表す。
Y
1は、互いに独立して、水素原子、Z
1で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基、またはZ
2で置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基を表す。
【0016】
炭素数1〜20のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等の炭素数1〜20の直鎖または分岐鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ビシクロブチル基、ビシクロペンチル基、ビシクロヘキシル基、ビシクロヘプチル基、ビシクロオクチル基、ビシクロノニル基、ビシクロデシル基等の炭素数3〜20の環状アルキル基などが挙げられる。
【0017】
炭素数2〜20のアルケニル基の具体例としては、エテニル基、n−1−プロペニル基、n−2−プロペニル基、1−メチルエテニル基、n−1−ブテニル基、n−2−ブテニル基、n−3−ブテニル基、2−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−エチルエテニル基、1−メチル−1−プロペニル基、1−メチル−2−プロペニル基、n−1−ペンテニル基、n−1−デセニル基、n−1−エイコセニル基等が挙げられる。
【0018】
炭素数2〜20のアルキニル基の具体例としては、エチニル基、n−1−プロピニル基、n−2−プロピニル基、n−1−ブチニル基、n−2−ブチニル基、n−3−ブチニル基、1−メチル−2−プロピニル基、n−1−ペンチニル基、n−2−ペンチニル基、n−3−ペンチニル基、n−4−ペンチニル基、1−メチル−n−ブチニル基、2−メチル−n−ブチニル基、3−メチル−n−ブチニル基、1,1−ジメチル−n−プロピニル基、n−1−ヘキシニル基、n−1−デシニル基、n−1−ペンタデシニル基、n−1−エイコシニル基等が挙げられる。
【0019】
炭素数6〜20のアリール基の具体例としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントリル基、2−アントリル基、9−アントリル基、1−フェナントリル基、2−フェナントリル基、3−フェナントリル基、4−フェナントリル基、9−フェナントリル基等が挙げられる。
【0020】
炭素数2〜20のヘテロアリール基の具体例としては、2−チエニル基、3−チエニル基、2−フラニル基、3−フラニル基、2−オキサゾリル基、4−オキサゾリル基、5−オキサゾリル基、3−イソオキサゾリル基、4−イソオキサゾリル基、5−イソオキサゾリル基、2−チアゾリル基、4−チアゾリル基、5−チアゾリル基、3−イソチアゾリル基、4−イソチアゾリル基、5−イソチアゾリル基、2−イミダゾリル基、4−イミダゾリル基、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基等が挙げられる。
【0021】
R
7およびR
8は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アルデヒド基、水酸基、チオール基、スルホン酸基、カルボン酸基、Z
1で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基、Z
2で置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基、−NHY
2、−NY
3Y
4、−C(O)Y
5、−OY
6、−SY
7、−SO
3Y
8、−C(O)OY
9、−OC(O)Y
10、−C(O)NHY
11、または−C(O)NY
12Y
13基を表し、Y
2〜Y
13は、互いに独立して、Z
1で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基、またはZ
2で置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基を表す。
【0022】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
その他、R
7〜R
8およびY
2〜Y
13のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基およびヘテロアリール基としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0023】
これらの中でも、R
7およびR
8としては、水素原子、またはZ
1で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、水素原子、またはZ
1で置換されていてもよいメチル基がより好ましく、共に水素原子が最適である。
【0024】
lは、−(CR
7R
8)−で表される2価のアルキレン基の繰り返し単位数を表し、1〜20の整数であるが、1〜10が好ましく、1〜5がより好ましく、1または2がより一層好ましく、1が最適である。
なお、lが2以上である場合、複数のR
7は、互いに同一であっても異なっていてもよく、複数のR
8も、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0025】
とりわけ、X
1としては、−NY
1−または単結合が好ましい。また、Y
1としては、水素原子、またはZ
1で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、水素原子、またはZ
1で置換されていてもよいメチル基がより好ましく、水素原子が最適である。
【0026】
R
1〜R
6は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アルデヒド基、水酸基、チオール基、スルホン酸基、カルボン酸基、Z
1で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基、Z
2で置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基、−NHY
2、−NY
3Y
4、−C(O)Y
5、−OY
6、−SY
7、−SO
3Y
8、−C(O)OY
9、−OC(O)Y
10、−C(O)NHY
11、または−C(O)NY
12Y
13基を表し(Y
2〜Y
13は、上記と同じ意味を表す。)、これらハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基およびヘテロアリール基としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0027】
特に、式(1)において、R
1〜R
4としては、水素原子、ハロゲン原子、Z
1で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、またはZ
2で置換されていてもよい炭素数6〜14のアリール基が好ましく、水素原子、フッ素原子、またはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基がより好ましく、全て水素原子が最適である。
また、R
5およびR
6としては、水素原子、ハロゲン原子、Z
1で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、Z
2で置換されていてもよい炭素数6〜14のアリール基、またはZ
2で置換されていてもよいジフェニルアミノ基(Y
3およびY
4がZ
2で置換されていてもよいフェニル基である−NY
3Y
4基)が好ましく、水素原子、フッ素原子、またはフッ素原子で置換されていてもよいジフェニルアミノ基がより好ましく、同時に水素原子またはジフェニルアミノ基がより一層好ましい。
【0028】
そして、これらの中でも、R
1〜R
4が、水素原子、フッ素原子、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、R
5およびR
6が、水素原子、フッ素原子、フッ素原子で置換されていてもよいジフェニルアミノ基、X
1が、−NY
1−または単結合、かつ、Y
1が、水素原子またはメチル基の組み合わせが好ましく、R
1〜R
4が、水素原子、R
5およびR
6が、同時に水素原子またはジフェニルアミノ基、X
1が、−NH−または単結合の組み合わせがより好ましい。
【0029】
式(1)において、mおよびnは、互いに独立して、0以上の整数を表し、1≦m+n≦20を満たすが、得られる薄膜の電荷輸送性とアニリン誘導体の溶解性とのバランスを考慮すると、2≦m+n≦8を満たすことが好ましく、2≦m+n≦6を満たすことがより好ましく、2≦m+n≦4を満たすことがより一層好ましい。
【0030】
なお、上記Y
1〜Y
13およびR
1〜R
8のアルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アルデヒド基、水酸基、チオール基、スルホン酸基、カルボン酸基、またはZ
3で置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基であるZ
1で置換されていてもよく、上記Y
1〜Y
13およびR
1〜R
8のアリール基およびヘテロアリール基は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アルデヒド基、水酸基、チオール基、スルホン酸基、カルボン酸基、またはZ
3で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基であるZ
2で置換されていてもよく、これらの基は、さらにハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アルデヒド基、水酸基、チオール基、スルホン酸基、またはカルボン酸基であるZ
3で置換されていてもよい(ハロゲン原子としては、上記と同様のものが挙げられる。)。
【0031】
特に、Y
1〜Y
13およびR
1〜R
8において、置換基Z
1は、ハロゲン原子、またはZ
3で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基が好ましく、ハロゲン原子、またはZ
3で置換されていてもよいフェニル基がより好ましく、存在しないこと(すなわち、非置換であること)が最適である。
また、置換基Z
2は、ハロゲン原子、またはZ
3で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、ハロゲン原子、またはZ
3で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、存在しないこと(すなわち、非置換であること)が最適である。
そして、Z
3は、ハロゲン原子が好ましく、フッ素原子がより好ましく、存在しないこと(すなわち、非置換であること)が最適である。
【0032】
また、チオフェン誘導体からなる電荷輸送性物質の一例としては、式(2)で表されるものが挙げられる。
【0034】
式(2)において、R
11〜R
16は、互いに独立して、水素原子、Z
9で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基、Z
10で置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基、または−OY
17、−SY
18、−NHY
19、−NY
20Y
21もしくはNHC(O)Y
22を表す。
なお、R
11〜R
16が水素原子でない場合、1つ上のチオフェン環上の2つの基(すなわち、R
11とR
12、R
13とR
14、および/またはR
15とR
16)が、互いに結合して2価の基を形成していてもよい。
【0035】
R
17およびR
18は、互いに独立して、水素原子、Z
9で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基、Z
11で置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基、または−OY
17、−SY
18、−NHY
19、−NY
20Y
21もしくはNHC(O)Y
22を表す。
【0036】
Y
17〜Y
22は、互いに独立して、Z
9で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基、またはZ
10で置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基を表す。
【0037】
Z
9は、炭素数6〜20のアリール基または炭素数2〜20のヘテロアリール基を表し、Z
10は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基または炭素数2〜20のアルキニル基を表し、Z
11は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、ジ炭素数1〜20アルキルアミノ基、またはジ炭素数6〜20アリールアミノ基を表す。
【0038】
ここで、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基の具体例としては、式(1)で例示した基と同様のものが挙げられる。
【0039】
式(2)において、R
11およびR
12としては、水素原子、またはZ
9で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数1〜20のアルコキシ基(すなわち、Y
17がZ
9で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基である−OY
17基)が好ましく、水素原子、またはZ
9で置換されていてもよい、炭素数1〜10のアルキル基もしくは炭素数1〜10のアルコキシ基がより好ましく、水素原子、またはZ
9で置換されていてもよい、炭素数1〜8のアルキル基もしくは炭素数1〜8のアルコキシ基がより一層好ましく、水素原子が最適である。
したがって、好適なチオフェン誘導体としては、例えば、式(3)で表されるものが挙げられる。
【0040】
【化5】
(式中、R
13〜R
18およびn
1〜n
3は、上記と同じ意味を表す。)
【0041】
一方、R
13〜R
16としては、水素原子、またはZ
9で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数1〜20のアルコキシ基(すなわち、Y
17がZ
9で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基である−OY
17)が好ましく、水素原子、またはZ
9で置換されていてもよい、炭素数1〜10のアルキル基もしくは炭素数1〜10のアルコキシ基がより好ましく、水素原子、またはZ
9で置換されていてもよい、炭素数1〜8のアルキル基もしくは炭素数1〜8のアルコキシ基がより一層好ましい。特に、R
13およびR
14のうち少なくとも一方が、Z
9で置換されていてもよい、炭素数1〜8のアルキル基または炭素数1〜8のアルコキシ基であるものが好適である。
【0042】
R
17およびR
18としては、水素原子、−NY
20Y
21、またはジ炭素数1〜20アルキルアミノ基もしくはジ炭素数6〜20アリールアミノ基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基が好ましい。このとき、Y
20およびY
21は、Z
9で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基またはZ
10で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基が好ましく、Z
9で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基またはZ
10で置換されていてもよい炭素数6〜10のアリール基がより好ましい。
【0043】
これらのうち、R
17およびR
18としては、特に、水素原子、各アリール基がZ
11で置換されていてもよい炭素数6〜10のアリール基であるジアリールアミノ基、またはジ炭素数6〜20アリールアミノ基で置換されたフェニル基が好ましく、水素原子または4−ジフェニルアミノフェニル基が最適である。
【0044】
なお、R
11〜R
18およびY
17〜Y
22において、置換基Z
9は、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、フェニル基がより好ましく、存在しないこと(すなわち、非置換であること)が最適である。
置換基Z
10は、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、炭素数1〜10のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより一層好ましく、炭素数1〜6のアルキル基がさらに好ましく、存在しないこと(すなわち、非置換であること)が最適である。
また、置換基Z
11は、炭素数1〜20のアルキル基、ジ炭素数1〜20アルキルアミノ基、またはジ炭素数6〜20アリールアミノ基が好ましく、炭素数1〜10のアルキル基、ジ炭素数1〜10アルキルアミノ基、またはジ炭素数6〜10アリールアミノ基がより好ましく、炭素数1〜8のアルキル基、ジ炭素数1〜8アルキルアミノ基またはジフェニルアミノ基がより一層好ましく、存在しない(すなわち、非置換であること)またはジフェニルアミノ基が最適である。
【0045】
式(2)および(3)において、n
1〜n
3は、互いに独立して、自然数を表し、かつ、4≦n
1+n
2+n
3≦20を満たす。n
1は、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜10、より一層好ましくは2〜5、さらに好ましくは2〜3である。一方、n
2およびn
3は、互いに独立して、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜10、より一層好ましくは1〜5、さらに好ましくは1〜3である。
また、オリゴチオフェン誘導体の有機溶媒への溶解性を向上させることを考慮すると、n
1+n
2+n
3は8以下が好ましく、7以下がより好ましく、6以下がより一層好ましく、5以下が最適である。
【0046】
上記式(1)〜(3)において、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基の炭素数は、好ましくは10以下であり、より好ましくは6以下であり、より一層好ましくは4以下である。
また、アリール基およびヘテロアリール基の炭素数は、好ましくは14以下であり、より好ましくは10以下であり、より一層好ましくは6以下である。
【0047】
本発明で用いる電荷輸送性モノマーや電荷輸送性オリゴマーの分子量は、通常300〜8000であるが、溶解性を高める観点から、好ましくは5000以下であり、より好ましくは4000以下であり、より一層好ましくは3000以下であり、さらに好ましくは2000以下である。
特に、本発明で用いるアニリン誘導体およびチオフェン誘導体の分子量は、通常300〜5000であるが、溶解性を高める観点から、好ましくは4000以下であり、より好ましくは3000以下であり、より一層好ましくは2000以下である。
【0048】
なお、本発明で用いられるアニリン誘導体の合成法としては、特に限定されるものではないが、ブレティン・オブ・ケミカル・ソサエティ・オブ・ジャパン(Bulletin of CHEMICAL Society of Japan)(1994年、第67巻、p.1749−1752)、シンセティック・メタルズ(Synthetic Metals)(1997年、第84巻、p.119−120)、Thin Solid Films(2012年、520(24)7157−7163)、国際公開第2008/032617号、国際公開第2008−032616号、国際公開第2008−129947号などに記載の方法が挙げられる。
また、チオフェン誘導体は、公知の方法(例えば、特開平02−250881号公報やChem.Eur.J.2005,11,pp.3742−3752に記載の方法)によって合成してもよく、または市販品を用いてもよい。
【0049】
以下、好適なアニリン誘導体の具体例を挙げるが、これらに限定されるわけではない。
【0052】
以下、好適なチオフェン誘導体の具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
【化8】
(式中、n−Hexはノルマルヘキシル基を表す。)
【0054】
本発明の正孔輸送性ワニスは、ヘテロポリ酸を含む。
ヘテロポリ酸とは、代表的に式(A)で示されるKeggin型あるいは式(B)で示されるDawson型の化学構造で示される、ヘテロ原子が分子の中心に位置する構造を有し、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等の酸素酸であるイソポリ酸と、異種元素の酸素酸とが縮合してなるポリ酸である。このような異種元素の酸素酸としては、主にケイ素(Si)、リン(P)、ヒ素(As)の酸素酸が挙げられる。
【0056】
ヘテロポリ酸の具体例としては、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、リンタングステン酸、ケイタングステン酸、リンタングストモリブデン酸等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なお、本発明で用いるヘテロポリ酸は、市販品として入手可能であり、また、公知の方法により合成することもできる。
特に、ドーパント物質が1種類のヘテロポリ酸単独からなる場合、その1種類のヘテロポリ酸は、リンタングステン酸またはリンモリブデン酸が好ましく、リンタングステン酸が最適である。また、ドーパント物質が2種類以上のヘテロポリ酸からなる場合、その2種類以上のヘテロポリ酸の1つは、リンタングステン酸またはリンモリブデン酸が好ましく、リンタングステン酸がより好ましい。
なお、ヘテロポリ酸は、元素分析等の定量分析において、一般式で示される構造から元素の数が多くまたは少ないものであっても、それが市販品として入手したもの、あるいは、公知の合成方法に従い適切に合成したものである限り、本発明において用いることができる。
すなわち、例えば、一般的には、リンタングステン酸は化学式H
3(PW
12O
40)・nH
2Oで、リンモリブデン酸は化学式H
3(PMo
12O
40)・nH
2Oでそれぞれ示されるが、定量分析において、この式中のP(リン)、O(酸素)またはW(タングステン)もしくはMo(モリブデン)の数が多く、または少ないものであっても、それが市販品として入手したもの、あるいは、公知の合成方法に従い適切に合成したものである限り、本発明において用いることができる。この場合、本発明に規定されるヘテロポリ酸の質量とは、合成物や市販品中における純粋なリンタングステン酸の質量(リンタングステン酸含量)ではなく、市販品として入手可能な形態および公知の合成法にて単離可能な形態において、水和水やその他の不純物等を含んだ状態での全質量を意味する。
【0057】
本発明においては、ヘテロポリ酸、好ましくはリンタングステン酸を、質量比で、電荷輸送性物質1に対して1.0〜11.0程度、好ましくは1.5〜10.0程度、より好ましくは2.0〜9.5程度、より一層好ましくは2.5〜6.5程度用いる。
すなわち、そのような正孔輸送性ワニスは、電荷輸送性物質の質量(W
H)に対するヘテロポリ酸の質量(W
D)の比が、1.0≦W
D/W
H≦11.0、好ましくは1.5≦W
D/W
H≦10.0、より好ましくは2.0≦W
D/W
H≦9.5、より一層好ましくは2.5≦W
D/W
H≦6.5を満たす。
【0058】
本発明の正孔輸送性ワニスには、上述したアニリン誘導体、チオフェン誘導体やヘテロポリ酸の他に、公知のその他の電荷輸送性物質やドーパント物質を用いることもできる。
【0059】
また、本発明の金属陽極用正孔輸送性ワニスには、有機シラン化合物を添加してもよい。有機シラン化合物を添加することで、正孔輸送層や発光層といった金属陽極とは反対側に正孔注入層に接するように積層される層への正孔注入能を高めることができる。
この有機シラン化合物としては、ジアルコキシシラン化合物、トリアルコキシシラン化合物またはテトラアルコキシシラン化合物が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
とりわけ、有機シラン化合物としては、ジアルコキシシラン化合物またはトリアルコキシシラン化合物が好ましく、トリアルコキシシラン化合物がより好ましい。
【0060】
テトラアルコキシシラン化合物、トリアルコキシシラン化合物およびジアルコキシシラン化合物としては、例えば、式(4)〜(6)で示されるものが挙げられる。
Si(OR
9)
4 (4)
SiR
10(OR
9)
3 (5)
Si(R
10)
2(OR
9)
2 (6)
【0061】
式中、R
9は、互いに独立して、Z
4で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基、またはZ
5で置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基を表し、R
10は、互いに独立して、Z
6で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基、またはZ
7で置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基を表す。
【0062】
Z
4は、ハロゲン原子、またはZ
8で置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基を表し、Z
5は、ハロゲン原子、またはZ
8で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基を表す。
【0063】
Z
6は、ハロゲン原子、Z
8で置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基、エポキシシクロヘキシル基、グリシドキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、ウレイド基(−NHCONH
2)、チオール基、イソシアネート基(−NCO)、アミノ基、−NHY
14基、または−NY
15Y
16基を表し、Z
7は、ハロゲン原子、Z
8で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基、エポキシシクロヘキシル基、グリシドキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、ウレイド基(−NHCONH
2)、チオール基、イソシアネート基(−NCO)、アミノ基、−NHY
14基、または−NY
15Y
16基を表し、Y
14〜Y
16は、互いに独立して、Z
8で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基、または炭素数2〜20のヘテロアリール基を表す。
Z
8は、ハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、またはチオール基を表す。
【0064】
式(4)〜(6)における、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基、および炭素数2〜20のヘテロアリール基としては、上記と同様のものが挙げられる。
R
9およびR
10において、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基の炭素数は、好ましくは10以下であり、より好ましくは6以下であり、より一層好ましくは4以下である。
また、アリール基およびヘテロアリール基の炭素数は、好ましくは14以下であり、より好ましくは10以下であり、より一層好ましくは6以下である。
【0065】
R
9としては、Z
4で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数2〜20のアルケニル基、またはZ
5で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基が好ましく、Z
4で置換されていてもよい、炭素数1〜6のアルキル基もしくは炭素数2〜6のアルケニル基、またはZ
5で置換されていてもよいフェニル基がより好ましく、Z
4で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、またはZ
5で置換されていてもよいフェニル基がより一層好ましく、Z
4で置換されていてもよい、メチル基またはエチル基がさらに好ましい。
また、R
10としては、Z
6で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基、またはZ
7で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基が好ましく、Z
6で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、またはZ
7で置換されていてもよい炭素数6〜14のアリール基がより好ましく、Z
6で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、またはZ
7で置換されていてもよい炭素数6〜10のアリール基がより一層好ましく、Z
6で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、またはZ
7で置換されていてもよいフェニル基がさらに好ましい。
なお、複数のR
9は、全て同一であっても異なっていてもよく、複数のR
10も、全て同一であっても異なっていてもよい。
【0066】
Z
4としては、ハロゲン原子、またはZ
8で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基が好ましく、フッ素原子、またはZ
8で置換されていてもよいフェニル基がより好ましく、存在しないこと(すなわち、非置換であること)が最適である。
また、Z
5としては、ハロゲン原子、またはZ
8で置換されていてもよい炭素数6〜20のアルキル基が好ましく、フッ素原子、またはZ
8で置換されていてもよい炭素数1〜10アルキル基がより好ましく、存在しないこと(すなわち、非置換であること)が最適である。
【0067】
一方、Z
6としては、ハロゲン原子、Z
8で置換されていてもよいフェニル基、Z
8で置換されていてもよいフラニル基、エポキシシクロヘキシル基、グリシドキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、ウレイド基、チオール基、イソシアネート基、アミノ基、Z
8で置換されていてもよいフェニルアミノ基、またはZ
8で置換されていてもよいジフェニルアミノ基が好ましく、ハロゲン原子がより好ましく、フッ素原子、または存在しないこと(すなわち、非置換であること)がより一層好ましい。
また、Z
7としては、ハロゲン原子、Z
8で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基、Z
8で置換されていてもよいフラニル基、エポキシシクロヘキシル基、グリシドキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、ウレイド基、チオール基、イソシアネート基、アミノ基、Z
8で置換されていてもよいフェニルアミノ基、またはZ
8で置換されていてもよいジフェニルアミノ基が好ましく、ハロゲン原子がより好ましく、フッ素原子、または存在しないこと(すなわち、非置換であること)がより一層好ましい。
そして、Z
8としては、ハロゲン原子が好ましく、フッ素原子または存在しないこと(すなわち、非置換であること)がより好ましい。
【0068】
以下、本発明で使用可能な有機シラン化合物の具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
ジアルコキシシラン化合物の具体例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、メチルプロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシシラン、3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0069】
トリアルコキシシラン化合物の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、トリエトキシ(4−(トリフルオロメチル)フェニル)シラン、ドデシルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、(トリエトキシシリル)シクロヘキサン、パーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン、トリエトキシフルオロシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリエトキシシラン、3−(ヘプタフルオロイソプロポキシ)プロピルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシルトリエトキシシラン、トリエトキシ−2−チエニルシラン、3−(トリエトキシシリル)フラン等が挙げられる。
【0070】
テトラアルコキシシラン化合物の具体例としては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラプロポキシシラン等が挙げられる。
【0071】
これらの中でも、3,3,3−トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、トリエトキシ(4−(トリフルオロメチル)フェニル)シラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリエトキシシランが好ましい。
【0072】
本発明の正孔輸送性ワニス中における有機シラン化合物の含有量は、得られる薄膜の高電荷輸送性を維持する点を考慮すると、電荷輸送性物質およびヘテロポリ酸の総質量に対して、通常0.1〜50質量%程度であるが、好ましくは0.5〜40質量%程度、より好ましくは0.8〜30質量%程度、より一層好ましくは1〜20質量%である。
【0073】
本発明の金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製する際に用いられる有機溶媒としては、電荷輸送性物質およびドーパント物質を良好に溶解し得る高溶解性溶媒を用いることができる。このような高溶解性溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等の有機溶媒を用いることができる。これらの溶媒は1種単独で、または2種以上混合して用いることができ、その使用量は、ワニスに使用する溶媒全体に対して5〜100質量%とすることができる。
なお、電荷輸送性物質およびドーパント物質は、いずれも上記溶媒に完全に溶解しているか、均一に分散している状態となっていることが好ましい。
【0074】
また、金属陽極用正孔輸送性ワニスに、25℃で10〜200mPa・s、特に35〜150mPa・sの粘度を有し、常圧(大気圧)で沸点50〜300℃、特に150〜250℃の高粘度有機溶媒を少なくとも一種類含有させることができる。このような溶媒を加えることで、ワニスの粘度の調整が容易になり、平坦性の高い薄膜を再現性良く与える、用いる塗布方法に応じたワニス調製が容易になる。
高粘度有機溶媒としては、特に限定されるものではなく、例えば、シクロヘキサノール、エチレングリコール、エチレングリコールジクリシジルエーテル、1,3−オクチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール、へキシレングリコール等が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、または2種以上混合して用いることができる。
本発明のワニスに用いられる溶媒全体に対する高粘度有機溶媒の添加割合は、固体が析出しない範囲内であることが好ましく、固体が析出しない限りにおいて、添加割合は、5〜80質量%であることが好ましい。
【0075】
さらに、金属陽極に対する濡れ性の向上、溶媒の表面張力の調整、極性の調整、沸点の調整等の目的で、その他の溶媒を、ワニスに使用する溶媒全体に対して1〜90質量%、好ましくは1〜50質量%の割合で混合することもできる。
このような溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジアセトンアルコール、γ−ブチロラクトン、エチルラクテート、n−ヘキシルアセテート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの溶媒は1種単独で、または2種以上混合して用いることができる。
【0076】
本発明のワニスの粘度は、作製する層の厚み等や固形分濃度に応じて適宜設定されるものではあるが、通常、25℃で1〜50mPa・sである。
また、本発明のワニスの固形分濃度は、ワニスの粘度および表面張力等や、作製する層の厚み等を勘案して適宜設定されるものではあるが、通常、0.1〜10.0質量%程度であり、ワニスの塗布性を向上させることを考慮すると、好ましくは0.5〜5.0質量%、より好ましくは1.0〜3.5質量%である。
【0077】
以上で説明した金属陽極用正孔輸送性ワニスを金属陽極上に塗布し、焼成することで金属陽極上に正孔輸送性薄膜を形成させることができる。
ワニスの塗布方法としては、特に限定されるものではなく、ディップ法、スピンコート法、スリットコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り、インクジェット法、スプレー法等が挙げられるが、塗布方法に応じてワニスの粘度および表面張力を調節することが好ましい。
【0078】
また、本発明のワニスを用いる場合、焼成雰囲気も特に限定されるものではなく、大気雰囲気だけでなく、窒素等の不活性ガスや真空中でも均一な成膜面を有する薄膜を得ることができるが、薄膜は金属陽極からの正孔受容能に優れる薄膜を再現性よく得るためには、大気雰囲気が好ましい。
【0079】
焼成温度は、得られる薄膜の用途、得られる薄膜に付与する電荷輸送性の程度等を勘案して、概ね100〜260℃の範囲内で適宜設定されるものではあるが、有機EL素子の正孔注入層として用いる場合、140〜250℃程度が好ましく、150〜230℃程度がより好ましい。この場合、より高い均一成膜性を発現させたり、陽極上で反応を進行させたりする目的で、2段階以上の温度変化をつけてもよく、加熱は、例えば、ホットプレートやオーブン等、適当な機器を用いて行えばよい。
【0080】
膜厚は、通常5〜200nm程度とすることができるが、有機EL素子の正孔注入層として用いる場合、10〜100nm程度が好ましい。膜厚を変化させる方法としては、ワニス中の固形分濃度を変化させたり、塗布時の溶液量を変化させたりする等の方法がある。
【0081】
本発明の金属陽極用正孔輸送性ワニスを用いてOLED素子を作製する場合の使用材料や、作製方法としては、下記のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
使用する金属陽極は、洗剤、アルコール、純水等による液体洗浄を予め行って浄化しておくことが好ましく、例えば、使用直前にUVオゾン処理、酸素−プラズマ処理等の表面処理を行うことが好ましい。
【0082】
本発明の金属陽極用正孔輸送性ワニスから得られる正孔注入層を有するOLED素子の作製方法の例は、以下の通りである。
金属陽極上に本発明の金属陽極用正孔輸送性ワニスを塗布し、上記の方法により焼成を行い、電極上に正孔注入層を作製する。これを真空蒸着装置内に導入し、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極金属を順次蒸着してOLED素子とする。発光領域をコントロールするために、金属陽極と正孔注入層との間以外の任意の層間にキャリアブロック層を設けてもよい。
陽極を構成する材料としては、アルミニウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、カドニウム、インジウム、スカンジウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ハフニウム、タリウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、プラチナ、金、チタン、鉛、ビスマス等といった金属やこれらの合金が挙げられ、平坦化処理を行ったものが好ましい。
【0083】
正孔輸送層を形成する材料としては、(トリフェニルアミン)ダイマー誘導体(TPD)、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(α−NPD)、[(トリフェニルアミン)ダイマー]スピロダイマー(Spiro−TAD)等のトリアリールアミン類、4,4’,4”−トリス[3−メチルフェニル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(m−MTDATA)、4,4’,4”−トリス[1−ナフチル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(1−TNATA)等のスターバーストアミン類、5,5”−ビス−{4−[ビス(4−メチルフェニル)アミノ]フェニル}−2,2’:5’,2”−ターチオフェン(BMA−3T)等のオリゴチオフェン類などが挙げられる。
【0084】
発光層を形成する材料としては、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム(III)(Alq
3)、ビス(8−キノリノラート)亜鉛(II)(Znq
2)、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム(III)(BAlq)および4,4’−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)等が挙げられ、電子輸送材料または正孔輸送材料と発光性ドーパントとを共蒸着することによって、発光層を形成してもよい。
電子輸送材料としては、Alq
3、BAlq、DPVBi、(2−(4−ビフェニル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール)(PBD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、バソクプロイン(BCP)、シロール誘導体等が挙げられる。
【0085】
発光性ドーパントとしては、キナクリドン、ルブレン、クマリン540、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy)
3)、(1,10−フェナントロリン)−トリス(4,4,4−トリフルオロ−1−(2−チエニル)−ブタン−1,3−ジオナート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)
3phen)等が挙げられる。
【0086】
キャリアブロック層を形成する材料としては、PBD、TAZ、BCP等が挙げられる。
電子注入層を形成する材料としては、酸化リチウム(Li
2O)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミナ(Al
2O
3)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF
2)、フッ化ストロンチウム(SrF
2)、Liq、Li(acac)、酢酸リチウム、安息香酸リチウム等が挙げられる。
陰極材料としては、アルミニウム、マグネシウム−銀合金、アルミニウム−リチウム合金、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等が挙げられる。
【0087】
本発明の金属陽極用正孔輸送性ワニスを用いたPLED素子の作製方法は、特に限定されないが、以下の方法が挙げられる。
上記OLED素子作製において、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の真空蒸着操作を行う代わりに、正孔輸送性高分子層、発光性高分子層を順次形成することによって本発明の金属陽極用正孔輸送性ワニスによって形成される正孔注入層を含むPLED素子を作製することができる。
具体的には、陽極上に本発明の金属陽極用正孔輸送性ワニスを塗布して上記の方法により正孔注入層を作製し、その上に正孔輸送性高分子層、発光性高分子層を順次形成し、さらに陰極電極を蒸着してPLED素子とする。
【0088】
使用する陰極および陽極材料としては、上記OLED素子作製時と同様のものが使用でき、同様の洗浄処理、表面処理を行うことができる。
正孔輸送性高分子層および発光性高分子層の形成法としては、正孔輸送性高分子材料もしくは発光性高分子材料、またはこれらにドーパント物質を加えた材料に溶媒を加えて溶解するか、均一に分散し、正孔注入層または正孔輸送性高分子層の上に塗布した後、それぞれ溶媒の蒸発により成膜する方法が挙げられる。
【0089】
正孔輸送性高分子材料としては、正孔輸送性高分子材料としては、ポリ[(9,9−ジヘキシルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(N,N’−ビス{p−ブチルフェニル}−1,4−ジアミノフェニレン)]、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(N,N’−ビス{p−ブチルフェニル}−1,1’−ビフェニレン−4,4−ジアミン)]、ポリ[(9,9−ビス{1’−ペンテン−5’−イル}フルオレニル−2,7−ジイル)−co−(N,N’−ビス{p−ブチルフェニル}−1,4−ジアミノフェニレン)]、ポリ[N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)−ベンジジン]−エンドキャップド ウィズ ポリシルシスキノキサン、ポリ[(9,9−ジジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(p−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)]等が挙げられる。
【0090】
発光性高分子材料としては、ポリ(9,9−ジアルキルフルオレン)(PDAF)等のポリフルオレン誘導体、ポリ(2−メトキシ−5−(2’−エチルヘキソキシ)−1,4−フェニレンビニレン)(MEH−PPV)等のポリフェニレンビニレン誘導体、ポリ(3−アルキルチオフェン)(PAT)などのポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0091】
溶媒としては、トルエン、キシレン、クロロホルム等を挙げることができ、溶解または均一分散法としては撹拌、加熱撹拌、超音波分散等の方法が挙げられる。
塗布方法としては、特に限定されるものではなく、インクジェット法、スプレー法、ディップ法、スピンコート法、スリットコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り等が挙げられる。なお、塗布は、窒素、アルゴン等の不活性ガス下で行うことが好ましい。
溶媒の蒸発法としては、不活性ガス下または真空中、オーブンまたはホットプレートで加熱する方法が挙げられる。
【実施例】
【0092】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、使用した装置は以下のとおりである。
(1)
1H−NMR測定:バリアン製高分解能核磁気共鳴装置
(2)陽極洗浄:長州産業(株)製 基板洗浄装置(減圧プラズマ方式)
(3)ワニスの塗布:ミカサ(株)製 スピンコーターMS−A100
(4)膜厚測定:(株)小坂研究所製 微細形状測定機サーフコーダET−4000
(5)素子の作製:長州産業(株)製 多機能蒸着装置システムC−E2L1G1−N
(6)素子の電流密度等の測定:(有)テック・ワールド製 I−V−L測定システム
【0093】
[1]電荷輸送性物質の合成
[合成例1]アニリン誘導体Aの合成
実施例において使用するアニリン誘導体Aを、下記反応式に従い合成した。
【化10】
【0094】
4,4’−ジアミノジフェニルアミン(10.00g,50.19mmol)と4−ブロモトリフェニルアミン(34.17g,105.40mmol)のキシレン(100g)の混合懸濁液に、金属錯体触媒としてPd(PPh
3)
4(0.5799g,0.5018mmol)および塩基としてt−BuONa(10.13g,105.40mmol)を入れ、窒素下130℃で14時間撹拌して反応させた。
冷却した反応混合液をろ過し、ろ液に飽和食塩水を加え、分液抽出した。その後、溶媒を減圧下で留去し、次いで1,4−ジオキサンから目的物を再結晶してアニリン誘導体Aを得た(収率65%)。
1H−NMR(CDCl
3):δ7.83(S,2H),7.68(S,1H),7.26−7.20(m,8H),7.01−6.89(m,28H).
【0095】
[合成例2]アニリン誘導体Bの合成
実施例において使用するアニリン誘導体Bを、下記反応式に従い合成した。
【化11】
【0096】
N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−p−フェニレンジアミン(5.00g,17.22mmol)と4−ブロモトリフェニルアミン(9.30g,28.70mmol)のキシレン(140g)の混合懸濁液に、金属錯体触媒としてPd(PPh
3)
4(0.33g,0.29mmol)および塩基としてt−BuONa(2.76g,28.70mmol)を入れ、窒素下135℃で8時間撹拌して反応させた。
冷却した反応混合液をろ過し、溶媒を減圧下で留去した。次いで1,4−ジオキサンから目的物を再結晶してアニリン誘導体Bを得た(収率53%)。
1H−NMR(DMSO−d
6):δ7.81(S,2H),7.61(S,2H),7.27−7.18(m,8H),7.05−6.65(m,32H).
【0097】
[合成例3]アリールスルホン酸Aの合成
実施例において使用するアリールスルホン酸Aを、国際公開第2006/025342号の記載に基づき、下記反応式に従い合成した。
【化12】
【0098】
よく乾燥させた1−ナフトール−3,6−ジスルホン酸ナトリウム11g(31.59mmol)に、窒素雰囲気下で、パーフルオロビフェニル4.797g(14.36mol)、炭酸カリウム4.167g(30.15mol)、およびN,N−ジメチルホルムアミド100mlを順次加え、反応系を窒素置換した後、内温100℃で6時間撹拌した。
室温まで放冷後、反応後に析出したアリールスルホン酸Aを再溶解させるために、N,N−ジメチルホルムアミドをさらに500ml加え、室温で90分撹拌した。室温撹拌後、この溶液をろ過して炭酸カリウム残渣を除去し、減圧濃縮した。さらに、残存している不純物を除去するために、残渣にメタノール100mlを加え、室温撹拌を行った。室温で30分間撹拌後、懸濁溶液をろ過し、ろ物を得た。ろ物に超純水300mlを加えて溶解し、陽イオン交換樹脂ダウエックス650C(ダウ・ケミカル社製、Hタイプ約200ml、留出溶媒:超純水)を用いたカラムクロマトグラフィーによりイオン交換した。
pH1以下の分画を減圧下で濃縮乾固し、残渣を減圧下で乾固して黄色粉末11gを得た(収率85%)。
1H−NMR(300MHz,DMSO−d6):δ7.18(1H,s,Ar−H),7.89(1H,d,Ar−H),8.01(1H,s,Ar−H),8.23(1H,s,Ar−H),8.28(1H,d,Ar−H).
【0099】
[合成例4]チオフェン誘導体Aの合成
実施例において使用するチオフェン誘導体Aを、下記反応式に従い合成した。
【化13】
【0100】
窒素雰囲気下、フラスコ内に、ターチオフェン2.01gおよびテトラヒドロフラン50mLを入れて−78℃に冷却した。そこへn−ブチルリチウムのノルマルへキサン溶液(1.64M)19.6mLを滴下し、−78℃のまま30分間撹拌し、次いで0℃まで昇温してさらに1時間撹拌した。
その後、再び−78℃に冷却して30分間撹拌した後、トリブチルクロロスタナン8.8mLを滴下して10分撹拌し、次いで0℃に昇温してさらに30分間撹拌した。
撹拌後、反応混合物から減圧下で溶媒を留去し、得られた残渣をトルエンに加え、ろ過によって不溶物を除去し、得られたろ液から減圧下で溶媒を留去し、ターチオフェンのビススタニル体を含むオイル状物12.88g(当該ビススタニル体の純度51.91%)得た。
次いで、窒素雰囲気下で、別のフラスコ内に、このターチオフェンビススタニル体を含むオイル状物6.44g、2−ブロモ−3−ノルマルヘキシルチオフェン2.41g、トルエン24mLおよびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.23gを順次入れて、還流条件下4.5時間撹拌した。
室温まで放冷し、溶媒を減圧留去した後、ろ過にて不溶物を除去した。得られたろ液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、チオフェン誘導体Aを得た(収量:1.29g 収率:55%、2段階通算収率)。
1H−NMR(CDCl
3):7.17(d,J=5.1Hz,2H),7.12(d,J=3.9Hz,2H),7.09(s,2H),7.01(d,J=3.9Hz,2H),6.93(d,J=5.1Hz,2H),2.78(t,J=7.7Hz,4H),1.54−1.70(m,4H),1.28−1.41(m,12H),0.89(t,J=7.0Hz,6H).
【0101】
[2]金属陽極用正孔輸送性ワニスの作製
[実施例1−1]
ブレンティン・オブ・ケミカル・ソサエティ・オブ・ジャパン(Bullentin of Chemical Society)、1994年、第67巻、pp.1749−1752記載の方法に従って製造した下記式で示されるアニリン誘導体C0.122gと、リンモリブデン酸(関東化学(株)製、以下同じ。)0.367gとを、窒素雰囲気下で1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(以下、DMIと略す。)8gに溶解させた。得られた溶液にシクロヘキサノール(以下、CHAと略す。)12g、プロピレングリコール(以下、PGと略す)4gを順次加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0102】
【化14】
【0103】
[実施例1−2]
アニリン誘導体A0.247gと、リンモリブデン酸0.495gとを、窒素雰囲気下でDMI8gに溶解させた。得られた溶液にCHA12g、PG4gを順次加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0104】
[実施例1−3]
アニリン誘導体A0.154gと、リンタングステン酸(関東化学(株)製、以下同じ。)0.423gと、アリールスルホン酸A0.038gとを、窒素雰囲気下でDMI8gに溶解させた。得られた溶液にCHA12g、PG4gを順次加えて撹拌し、さらにそこへ、有機シラン化合物A(トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)/フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)=1/2(w/w)の混合物、以下同じ。)0.025gを加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0105】
[実施例1−4]
アニリン誘導体A0.131gと、リンモリブデン酸0.261gと、アリールスルホン酸A0.098gとを、窒素雰囲気下でDMI8gに溶解させた。得られた溶液にCHA12g、PG4gを順次加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0106】
[実施例1−5]
アニリン誘導体A0.154gと、リンタングステン酸0.385gと、アリールスルホン酸A0.077gとを、窒素雰囲気下でDMI8gに溶解させた。得られた溶液にCHA12g、PG4gを順次加えて撹拌し、さらにそこへ、有機シラン化合物A0.025gを加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0107】
[実施例1−6]
アニリン誘導体A0.186gと、リンモリブデン酸0.557gとを、窒素雰囲気下でDMI8gに溶解させた。得られた溶液にCHA12g、PG4gを順次加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0108】
[実施例1−7]
アニリン誘導体A0.186gと、リンタングステン酸0.557gとを、窒素雰囲気下でDMI8gに溶解させた。得られた溶液にCHA12g、PG4gを順次加えて撹拌し、さらにそこへ、有機シラン化合物A0.03gを加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0109】
[実施例1−8]
アニリン誘導体A0.123gと、リンタングステン酸0.369gと、アリールスルホン酸A0.123gとを、窒素雰囲気下でDMI8gに溶解させた。得られた溶液にCHA12g、PG4gを順次加えて撹拌し、さらにそこへ、有機シラン化合物A0.025gを加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0110】
[実施例1−9]
アニリン誘導体B0.148gと、リンタングステン酸0.594gとを、窒素雰囲気下でDMI8gに溶解させた。得られた溶液にCHA12g、PG4gを順次加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0111】
[実施例1−10]
アニリン誘導体A0.124gと、リンタングステン酸0.619gとを、窒素雰囲気下でDMI8gに溶解させた。得られた溶液にCHA12g、PG4gを順次加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0112】
[実施例1−11]
アニリン誘導体B0.124gと、リンタングステン酸0.619gとを、窒素雰囲気下でDMI8gに溶解させた。得られた溶液にCHA12g、PG4gを順次加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0113】
[実施例1−12]
アニリン誘導体A0.088gと、リンタングステン酸0.440gと、アリールスルホン酸A0.088gとを、窒素雰囲気下で8gに溶解させた。得られた溶液にCHA12g、PG4gを順次加えて撹拌し、さらにそこへ、有機シラン化合物A0.062gを加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0114】
[実施例1−13]
アニリン誘導体A0.106gと、リンタングステン酸0.636gとを、窒素雰囲気下でDMI8gに溶解させた。得られた溶液にCHA12g、PG4gを順次加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0115】
[実施例1−14]
アニリン誘導体A0.186gと、リンタングステン酸0.557gとを、窒素雰囲気下でDMI8gに溶解させた。得られた溶液にCHA12g、PG4gを順次加えて撹拌し、さらにそこへ、有機シラン化合物A0.074gを加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0116】
[実施例1−15]
アニリン誘導体B0.106gと、リンタングステン酸0.636gとを、窒素雰囲気下でDMI8gに溶解させた。得られた溶液にCHA12g、PG4gを順次加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0117】
[実施1−16]
アニリン誘導体A0.088gと、リンタングステン酸0.484gと、アリールスルホン酸A0.044gとを、窒素雰囲気下でDMI8gに溶解させた。得られた溶液にCHA12g、PG4gを順次加えて撹拌し、さらにそこへ、有機シラン化合物A0.062gを加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0118】
[実施例1−17]
アニリン誘導体B0.093gと、リンタングステン酸0.649gとを、窒素雰囲気下でDMI8gに溶解させた。得られた溶液にCHA12g、PG4gを順次加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0119】
[実施例1−18]
N,N’−ジフェニルベンジジン(東京化成工業(株)製、以下同じ。)0.148gと、リンタングステン酸0.594gとを、窒素雰囲気下で、DMI8gに溶解させた。得られた溶液に、CHA12g、PG4gを順次加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
なお、N,N’−ジフェニルベンジジンは、1,4−ジオキサンを用いて再結晶し、その後、減圧下でよく乾燥してから用いた(以下、同様。)。
【0120】
[実施例1−19]
N,N’−ジフェニルベンジジン0.124gと、リンタングステン酸0.619gとを、窒素雰囲気下でDMI8gに溶解させた。得られた溶液に、CHA12g、PG4gを順次加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0121】
[実施例1−20]
アニリン誘導体A0.122gと、リンモリブデン酸0.103gと、リンタングステン酸0.154gと、アリールスルホン酸A0.11gとを、窒素雰囲気下でDMI8gに溶解させた。得られた溶液にCHA12g、PG4gを順次加えて撹拌し、さらにそこへ、有機シラン化合物A0.049gを加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0122】
[実施例1−21]
N,N’−ジフェニルベンジジン0.122gと、リンモリブデン酸0.103gと、リンタングステン酸0.154gと、アリールスルホン酸A0.11gとを、窒素雰囲気下でDMI8gに溶解させた。得られた溶液にCHA12g、PG4gを順次加えて撹拌し、さらにそこへ、有機シラン化合物A0.049gを加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0123】
[実施例1−22]
下記式で表されるチオフェン誘導体A0.116gと、リンタングステン酸0.348gとを、窒素雰囲気下でDMI10.5gに溶解させた。得られた溶液に2,3−ブタンジオール3g、プロピレングリコールモノメチルエーテル1.5gを順次加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0124】
【化15】
【0125】
[実施例1−23〜1−24]
チオフェン誘導体Aの使用量およびリンタングステン酸の使用量を、それぞれ0.093gおよび0.371g(実施例1−23)、0.077gおよび0.387g(実施例1−24)とした以外は、実施例1−22と同様の方法で金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0126】
[比較例1−1]
アニリン誘導体A0.154gと、5−サリチルスルホン酸二水和物(Sigma−Aldrich.Co製)0.685gとを、窒素雰囲気下でDMI8gに溶解させた。得られた溶液に、CHA12g、PG4gを順次加えて撹拌し、金属陽極用正孔輸送性ワニスを調製した。
【0127】
[3]素子の作製
[実施例2−1]
実施例1−1で得られたワニスを、スピンコーターを用いてAl/Nd陽極に塗布した後、50℃で5分間乾燥し、さらに230℃で15分間焼成することで、Al/Nd陽極上に30nmの均一な薄膜を形成した。なお、Al/Nd陽極は、ガラス基板にAlとNdをスパッタリングすることで作製した。
次いで、薄膜を形成したAl/Nd陽極に対し、蒸着装置を用いて、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(α−NPD))、アルミニウムの薄膜を順次積層し、二層素子を得た。膜厚はそれぞれ30nm,100nmとし、真空度は1.0×10
-5Pa、蒸着レートは0.2nm/秒の条件で蒸着を行った。
なお、空気中の酸素、水等の影響による特性劣化を防止するため、二層素子は封止基板により封止した後、その特性を評価した。封止は以下の手順で行った。
酸素濃度を2ppm以下、露点−85℃以下の窒素雰囲気中で、二層素子を封止基板の間に収め、封止基板を接着材にて貼り合わせた。この際、捕水剤としてダイニック(株)製HD−071010W−40を二層素子と共に封止基板内に収めた。接着材としては、ナガセケムテックス(株)製XNR5516Z−B1を使用した。貼り合わせした封止基板に対し、UV光を照射(波長:365nm、照射量:6000mJ/cm
2)した後、80℃で1時間、アニーリング処理して接着材を硬化させた。
【0128】
[実施例2−2〜2−24,比較例2−1]
実施例1−1で得られたワニスの代わりに、それぞれ実施例1−2〜1−24,比較例1−1で得られたワニスを用いた以外は、実施例2−1と同様の方法で素子を作製した。
【0129】
[比較例2−2]
実施例1−1で得られたワニスの代わりに、PEDOT/PSS(H.C.Starck社製AI4083)を用いた以外は、実施例2−1と同様の方法で素子を作製した。
【0130】
各素子について、電流密度の測定を行った。駆動電圧5Vにおける電流密度を表1に示す。
【0131】
【表1】
【0132】
表1に示されるように、ヘテロポリ酸を含む本発明の金属陽極用正孔輸送性ワニスを用いて作製した正孔注入層は、金属陽極からの高正孔受容能を示したのに対し、一般的に知られるアリールスルホン酸系のドーパント物質のみを用いた材料、例えばPEDOT/PSSから得られる薄膜は、金属陽極からの正孔受容能は低かった。
以上のことから、アニリン誘導体やチオフェン誘導体等の電荷輸送性物質とヘテロポリ酸とを含む本発明の金属陽極用正孔輸送性ワニスは、金属陽極上の正孔注入層の形成に特に適していることがわかる。