【実施例】
【0023】
実施例−1 炭酸カルシウムへのリパーゼの固定
特許文献7に記載された方法を用いて、結晶相がバテライトである炭酸カルシウムのマイクロカプセルを合成した。
図1にSEM像と拡散反射紫外線スペクトルを示す。バテライト型炭酸カルシウムの典型的な粒子形状である球状粒子であり、拡散反射紫外線スペクトルより波長が250〜300nmには吸収はないことがわかった。この炭酸カルシウム・マイクロカプセルに、濃度5g/Lのリパーゼ(Amano Lipase PS, from from Burkholderia cepacia、アルドリッチ社製)水溶液(Tris・HCl緩衝液、pH=7.6、和光純薬製)を浸漬させた。炭酸カルシウムとリパーゼ水溶液の比は、25g(炭酸カルシウム)/L(水溶液)である。この液を室温で7日間振とう器を用いて撹拌した。その後、ろ別し、十分量のイオン交換水で洗浄した後、室温で風乾した。こうして得られたリパーゼ内包炭酸カルシウムの拡散反射紫外線スペクトル(
図2)に280nmをピークに持つ吸収が観測されたことにより、リパーゼは炭酸カルシウム中に内包・固定化されていることがわかった。また、当該炭酸カルシウムの粉末X線回折パターン(
図3)より、結晶相はバテライトのままであることが確認できた。
【0024】
実施例−2 リパーゼ固定炭酸カルシウムの亜鉛処理
実施例−1に記載された方法を用いて製造されたリパーゼ内包炭酸カルシウムを、濃度5g/Lの塩化亜鉛(和光純薬製)水溶液(Tris・HCl緩衝液、pH=7.6、和光純薬製)に浸漬させた。炭酸カルシウムとリパーゼ水溶液の比は、25g(炭酸カルシウム)/L(水溶液)である。この液を室温で1日間振とう機を用いて撹拌した。その後、ろ別し、十分量のイオン交換水で洗浄した後、室温で風乾した。こうして得られた拡散反射紫外線スペクトル(
図4)より、依然リパーゼは炭酸カルシウム中に内包・固定化されていることがわかった。また、当該炭酸カルシウムの粉末X線回折パターン(
図3)より、結晶相はバテライトのままであることが確認できた。
【0025】
実施例−3 炭酸カルシウムへのリパーゼの固定と同時亜鉛処理
特許文献7に記載された方法を用いて製造したバテライト型炭酸カルシウムに、リパーゼと塩化亜鉛のそれぞれの濃度が5g/Lである水溶液(Tris・HCl緩衝液、pH=7.6、和光純薬製)を浸漬させた。炭酸カルシウムと当該水溶液の比は、25g(炭酸カルシウム)/L(水溶液)である。この液を室温で7日間振とう機を用いて撹拌した。その後、ろ別し、十分量のイオン交換水で洗浄した後、室温で風乾した。こうして得られた亜鉛処理リパーゼ内包炭酸カルシウムの拡散反射紫外線スペクトル(
図5)より、炭酸カルシウム中に内包・固定化されていることがわかった。また、当該炭酸カルシウムの粉末X線回折パターン(
図5)より、結晶相はバテライトのままであることが確認できた。
【0026】
実施例4 リパーゼ固定炭酸カルシウムによる酵素反応(有機溶媒系での反応)
ラセミ体1-フェニルエタノール123mgを、20mLナス型フラスコに入れた後、酢酸ビニルを4mL加えた。さらに、リパーゼ固定炭酸カルシウム200mgを加え、30℃で24時間攪拌した。酢酸エチルで反応液を希釈した後に遠心管に移し、8500rpm、5分で遠心分離を行った。デカンテーションにより上澄みを100mLナス型フラスコに移した後、リパーゼ固定炭酸カルシウムが残る遠心管にさらに酢酸エチルを入れて懸濁し、再び遠心分離を行った。この操作を2回繰り返した後、集めた上澄み液を減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製することで、(R)-1-フェニルエチルアセタート60mg(収率35%)と(S)-1-フェニルエタノール49mg(収率33%)を得た。それらの光学純度は以下に示す条件でガスクロマトグラフィーを使用し、測定した。
【0027】
〔ガスクロマトグラフィー条件〕
カラム:Agilent Technologies,Inc.、CP−Cyclodextrin−B−236−M19(0.25mmx50m)
キャリアガス:ヘリウム、圧力2.4kg/cm
2
オーブン温度:120℃、インジェクション温度:140℃、ディテクター温度:140℃
【0028】
分析により、(R)-1-フェニルエチルアセタートの光学純度は99%e.e.、(S)-1-フェニルエタノールの光学純度は97%e.e.であった。この反応における原料転化率は49%であった。また、(R)-1−フェニルエタノールと(S)-1−フェニルエタノールの反応速度の比を表し、酵素反応のエナンチオ選択性の指標であるE値は200以上であった。
【0029】
一方、遠心分離により沈殿したリパーゼ固定炭酸カルシウムは、室温で1日乾燥した。回収量は、112mgであった。
【0030】
回収したリパーゼ固定炭酸カルシウムを用い、ラセミ体1-フェニルエタノールを基質とした反応を、上記と同様の手順で行った。リパーゼ固定炭酸カルシウムの再利用反応を合計4回行ったところ、酵素のエナンチオ選択性の低下は全くみられなかった。反応の変換率はそれぞれ46%、44%、38%、34%であり、十分実用的に繰り返し反応を行えた。
【0031】
実施例5 リパーゼ固定炭酸カルシウムによる酵素反応(水系での反応)
ラセミ体2−アセトキシヘキシルトシラート32mgを、50mL三角フラスコに入れた後、ジイソプロプルエーテルを1mL加えた。さらに、0.1M Tris・HCl緩衝液(pH7.6)9mLを加えた後、リパーゼ固定炭酸カルシウム75mgを加え、30℃で24時間振とうした。反応液を遠心管に移し、8500rpm、5分で遠心分離を行った。デカンテーションにより上澄みを分液ロートに移した後、リパーゼ固定炭酸カルシウムが残る遠心管にさらに0.1M Tris・HCl緩衝液(pH7.6)と酢酸エチルを入れて懸濁し、再び遠心分離を行った。この操作を2回繰り返した後、生成物を集めた上澄み液から酢酸エチルにより抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮後、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製することで、(R)-2-ヒドロキシヘキシルトシラート11mg(収率35%)と(S)-2−アセトキシヘキシルトシラート10mg(収率35%)を得た。それらの光学純度は以下に示す条件で高速液体クロマトグラフィーを使用し、測定した。
【0032】
〔高速液体クロマトグラフィー条件〕
カラム:DAICEL Corporation、CHIRALCEL AD−H(4.6×250mm)
キャリア:n−ヘキサン:IPA(90:10)、0.5mL/min
検出:UV(254nm)
【0033】
分析により、(R)-2-ヒドロキシヘキシルトシラートの光学純度は94%e.e.、(S)2−アセトキシヘキシルトシラートの光学純度は98%e.e.であった。この反応における原料転化率は49%であった。また、E値は200以上であった。
【0034】
一方、遠心分離により沈殿したリパーゼ固定炭酸カルシウムは、室温で2日乾燥した。回収量は、62mgであった。
【0035】
回収したリパーゼ固定炭酸カルシウムを用い、ラセミ体1-フェニルエタノールを基質とした反応を、上記の手順と同様に行った。リパーゼ固定炭酸カルシウムの再利用反応を行ったところ、変換率48%、E値は200以上であり、実用的であった。更に回収したリパーゼ固定炭酸カルシウムを利用した反応では、変換率4%、E値は27であった。
【0036】
実施例6 亜鉛処理リパーゼ固定炭酸カルシウムによる酵素反応
ラセミ体2−アセトキシヘキシルトシラート126mgを、200mL三角フラスコに入れた後、ジイソプロプルエーテルを4mL加えた。さらに、0.1M Tris・HCl緩衝液(pH7.6)36mLを加えた後、亜鉛処理リパーゼ固定炭酸カルシウム600mgを加え、30℃で24時間振とうした。反応液を遠心管に移し、8500rpm、5分で遠心分離を行った。デカンテーションにより上澄みを分液ロートに移した後、亜鉛処理リパーゼ固定炭酸カルシウムが残る遠心管にさらに0.1M Tris・HCl緩衝液(pH7.6)と酢酸エチルを入れて懸濁し、再び遠心分離を行った。この操作を2回繰り返した後、生成物を集めた上澄み液から酢酸エチルにより抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮後、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製することで、(R)-2-ヒドロキシヘキシルトシラート25mg(収率36%)と(S)-2−アセトキシヘキシルトシラート80mg(収率64%)を得た。分析により、(R)-2-ヒドロキシヘキシルトシラートの光学純度は99%e.e.以上、(S)2−アセトキシヘキシルトシラートの光学純度は46%e.e.以上であった。この反応における原料転化率は32%であった。また、E値は200以上であった。
【0037】
一方、遠心分離により沈殿した亜鉛処理リパーゼ固定炭酸カルシウムは、室温で1日乾燥した。回収量は、約600mgであった。
【0038】
回収したリパーゼ固定炭酸カルシウムを用い、ラセミ体1-フェニルエタノールを基質とした反応を、上記の手順と同様に行った。リパーゼ固定炭酸カルシウムの再利用反応を合計4回行ったところ、酵素のエナンチオ選択性の低下は殆どみられなかった。反応の変換率はそれぞれ27%、24%、25%、15%であり、十分実用的に繰り返し反応を行えた。