特許第6168521号(P6168521)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6168521繊維強化樹脂積層体部品の切削加工による製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6168521
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂積層体部品の切削加工による製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23C 3/00 20060101AFI20170713BHJP
【FI】
   B23C3/00
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-203260(P2013-203260)
(22)【出願日】2013年9月30日
(65)【公開番号】特開2015-66639(P2015-66639A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(72)【発明者】
【氏名】糸魚川 文広
(72)【発明者】
【氏名】前川 覚
(72)【発明者】
【氏名】森川 裕太
【審査官】 永石 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−318218(JP,A)
【文献】 特開平04−105813(JP,A)
【文献】 特開2003−277529(JP,A)
【文献】 特開2009−036356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 3/00
B23C 5/10
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の繊維を一方向に配向した繊維強化樹脂積層体部品の、
逃げ面及びすくい面を有する切削工具を用いた切削加工による製造方法であって、
切削方向を、前記繊維の配向方向に対して平行方向と非平行方向とに、
定期的条件により交互に繰返す切削加工を行い、
前記非平行方向が前記繊維の配向方向に対して直交方向であることを特徴とする繊維強化樹脂積層体部品の切削加工による製造方法。
【請求項2】
前記定期的条件は切削距離又は切削時間であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂積層体部品の切削加工による製造方法。
【請求項3】
前記繊維強化樹脂積層体を複数枚、一定厚さで前記繊維配向方向および非平行方向に交互に積層した薄板部品の切削加工による製造方法おいて、
前記定期的条件に、
前記切削工具を前記繊維強化樹脂積層体の厚さ方向に、前記一定厚さ単位でシフトすることを加えたこと特徴とする請求項1または2記載の繊維強化樹脂積層体部品の切削加工による製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化樹脂等の繊維強化樹脂積層体部品の切削加工による製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化樹脂(CFRP)あるいは繊維強化アルミニウム等の繊維強化樹脂積層体の薄板(シート)は、固有の機械的特性を持つ繊維を複数配向しているため難加工材である。よって、繊維強化樹脂積層体の薄板を材料とした部品(以下:繊維強化樹脂積層体部品)の製造に用いる切削加工には、炭化タングステン(WC)基超硬合金で構成した基体の表面にダイヤモンド皮膜を被覆した切削工具が一般的に用いられる。この際、優れた耐摩耗性を長期にわたり維持するため、ダイヤモンド皮膜の膜質あるいは基体とダイヤモンド皮膜との中間膜の検討等がなされている(例えば特許文献1)。一方、切削工具の耐摩耗性以外に、複雑な加工形状あるいは良好な仕上げ面を得るため、エンドミル等の切削工具の切削刃の形状が検討されている(例えば特許文献2)。さらに、炭素繊維強化樹脂のように繊維配向による機械的特性に異方性がある場合、切削工具のすくい面の刃先の形状が一定の曲率半径を有する曲線状とする切削工具が検討されている(特許文献3参照)。
【0003】
上記のように、従来技術では、硬質皮膜の被覆あるいは複雑な刃形状の刃具を用いて繊維強化樹脂積層体の薄板の切削加工を行うため、切削工具のコストが高くなる。また、難加工材であるため加工時間とともに切削刃自体の形状変化が避けられず、切削工具の長寿命化も容易ではない。よって、刃の修復を要するという問題もあり、繊維強化樹脂積層体の部品は生産性が悪く高コストとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−121142号公報
【特許文献2】特開2009−196015号公報
【特許文献3】特開2012−210689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記点に鑑みて、繊維強化樹脂積層体の切削加工による部品の製造方法おいて、切削刃の摩耗をある程度許容しつつも、シャープな刃先形状(刃立性)を維持する切削加工方法を提供することである。すなわち、繊維強化樹脂積層体の切削と刃先摩耗による刃先の研磨を同時に実現するセルフシャープニングにより、刃先形状の長期的な維持を目的とする繊維強化樹脂積層体部品の製造方法である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、繊維配向による機械的特性の異方性がもたらす切削刃の摩耗特性の違いを利用することで、上記課題を解決しうることを見出した。すなわち、本発明によれば、以下の繊維強化樹脂積層体部品の切削加工による製造方法が提供される。
【0007】
請求項1に記載の発明は、複数の繊維を一方向に配向した繊維強化樹脂積層体部品の、逃げ面及びすくい面を有する切削工具を用いた切削加工による製造方法であって、切削方向を、前記繊維の配向方向に対して平行方向と非平行方向とに、定期的条件により交互に繰返す切削加工を行い、前記非平行方向が前記繊維の配向方向に対して直交方向であることを特徴とする繊維強化樹脂積層体部品の切削加工による製造方法。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記定期的条件が切削距離又は切削時間であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂積層体部品の切削加工による製造方法である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記繊維強化樹脂積層体を複数枚、一定厚さで前記繊維配向方向および非平行方向に交互に積層した薄板部品の切削加工による製造方法おいて、前記定期的条件に、前記切削工具を前記繊維強化樹脂積層体の厚さ方向に、前記一定厚さ単位でシフトすることを加えたこと特徴とする請求項1または2記載の繊維強化樹脂積層体部品の切削加工による製造方法である。
【0010】
請求項4に記載の発明は、前記非平行方向が繊維配向方向に対して概ね直交方向であることを特徴とする請求項1乃至3に記載の繊維強化樹脂積層体部品の切削加工による製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明において実施した切削加工を示す模式図である。
図2図2(a)は切削加工により摩耗した切削工具の刃先断面を示す模式図であり、図2(b)は摩耗した切削工具による被切削物の切削を示す模式図である。
図3】工具の送り方向に対する繊維の配向方向Θを模式的に示す図である。図3(a)はΘ:0°、図3(b)はΘ:90°の場合である。
図4】逃げ面側の摩耗量W、すくい面側の摩耗量W、および刃先後退高さHに及ぼす繊維の配向方向の影響を示す図である。
図5】所定切削距離毎に繊維の配向方向を90°変化させて切削加工を行った場合のすくい面側の摩耗量W、逃げ面側の摩耗量Wf、および刃先後退高さHに及ぼす繊維の配向方向の影響を示す図である。
図6】繊維を平行方向(Θ=0°)と非平行方向(Θ=90°)の一定厚さ(d)で積み重ねた繊維強化樹脂積層体をエンドミルで切削加工する場合、エンドミルを厚さ方向に一定厚さ(d)を基準にシフトする様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0013】
本発明において、切削工具の刃は炭化タングステン(WC)基超硬合金で構成されることが好ましい。図1に示すように、切削工具はすくい面および逃げ面を有し、この両面のなす角が刃先角である。すくい面の角度は5°〜10°、逃げ面の角度は15°〜30°、刃先角は50°〜70°が好ましい。そして、ある程度の摩耗を許容する逃げ面にはダイヤモンド皮膜を形成しないが、すくい面にはダイヤモンド皮膜を形成してもよい。被切削材は、炭素繊維強化樹脂あるいはガラス繊維強化樹脂等の繊維強化樹脂積層体であるが、炭素繊維強化樹脂が本発明の効果が顕著に現れるので特に好ましい。炭素繊維強化樹脂に使われる炭素繊維はPAN系、ピッチ系いずれでもよく、単繊維径は5〜20μmである。樹脂としてはエポキシ樹脂等が使用される。
【0014】
切削は、前記繊維の配向方向に対して平行方向と非平行方向に、予め設定した定期的条件毎に交互に繰返すことが好ましい。定期的条件は繊維強化樹脂積層体部品の許容加工精度より決定しる。非平行方向としては、配向方向に対して概ね90°が好ましい。繊維の機械的特性が最も異なるからである。但し、それ以外の配向方向に対する角度でもよい。本発明は、繊維の配向方向を基準として、機械的特性の異なる(異方性を有する)薄板の切削加工を、定期的条件毎(切削距離、切削時間等)に変更し、繰り返すことにより、刃先のセルフシャープニングを起こさせることだからである。即ち、繊維の配向方向(平行方向)に切削する場合、逃げ面はアブレシブ摩耗が支配的に生じる。一方、繊維の配向方向に直交する方向(非平行方向)に切削する場合、刃先近傍の逃げ面およびすくい面に発生する刃先のカケなどの脆性破壊や塑性変形が支配的に生じる。よって、この双方の加工を組み合わせることで、刃先がセルフシャープニングされシャープな刃先形状(刃立性)が維持されやすくなる。よって、定期的条件は、切削加工する部品の許容精度を基準とし、切削距離で設定する。また、繊維強化樹脂積層体の積層状態、切削加工する部品の形状等を考慮して切削時間で設定することもできる。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0016】
図1は本発明において実施した切削加工の模式図である。切削加工には立型マシニングセンターを使用した。表1に主な加工条件を示す。
【0017】
【表1】
【0018】
図2に本発明の工具刃先の形状および摩耗量を定義する。図2(a)は切削加工により摩耗した切削工具の刃先断面を示している。図4図5で使用したのは、逃げ角α:10°、すくい角β:20°、刃先角γ:60°、材質は炭化タングステン(WC)基超硬合金からなる単刃工具である。図2(b)は摩耗した切削工具の刃先により被切削物の切削を示す模式図である。刃先先端Aを起点として被切削材を切削し、上部に切りくずを排出する。Hは刃先後退高さを示し、これは加工精度に寄与する重要な因子である。即ち、刃先後退高さHが大きくなれば、刃先の鋭利さ(シャープさ)が失われるとともに、切残し部が増大して加工精度は悪化し加工性能が低下する。したがって、刃先後退高さHを大きな指標として、以下加工性能を評価する。
また、図4図5で使用した被切削材は、繊維強化樹脂積層体の薄板としてCFRPシートを用いた。CFRPシートは、厚み3mm、幅75mmである。炭素繊維に樹脂を浸透させた薄板(シート)であるプリプレグ(炭素繊維の単繊維径:約8μm)は、炭素繊維を一方向に配向に薄板の厚さ方向に積層している。図3に、CFRPシートのプリプレグ内部の炭素繊維の配向方向Θと工具の送り方向の関係を模式的に示す。図3(a)は、Θ=0°であり、刃先の移動方向とCFRPシートの積層された繊維の方向は一致している。また、図3(b)は、Θ=90°であり、刃先の移動方向とCFRPシートの積層された繊維の方向は直交している。繊維強化樹脂積層体の薄板の機械的特性は、Θ=0°に対して、Θ=90°が最も異なる。
工具の送り方向をx方向、それに垂直な方向をy方向、加工力のx方向成分(F)とy方向成分(F)を、CFRPシートの下方に設置した動力計により計測した。また、工具刃先の摩耗量の変化は、切削距離1.0m毎にマシニングセンター内に設置したカメラにより測定した。測定した摩耗量は図2(a)に示す、すくい面側の摩耗量W、逃げ面側の摩耗量W、および刃先後退高さHである。
【0019】
(実施例1)
繊維配向方向Θ=0°およびΘ=90°のCFRPシートの切削加工を行い、すくい面側の摩耗量Wr、逃げ面側の摩耗量W、および刃先後退高さHに及ぼす繊維配向方向の影響(実験結果)を図4に示す(実施例1)。同図(a)より、炭素繊維の配向方向Θ=0°の場合のほうが90°の場合に比較して、すくい面側の摩耗量Wは少ないことが分かる。これはΘ=0°の場合、工具刃先が炭素繊維に食い込むことが難しくなり、工具先端に加わる負荷が低減されたことに起因する。即ち、繊維方向(長手方向)に沿って、工具刃先を押し付けると炭素繊維が弾性により撓んで逃げることによる。一方、Θ=90°の場合、工具刃先は繊維の束に連続的に当ることになり、刃先近傍の逃げ面およびすくい面では,カケなどの脆性破壊や塑性変形などによって刃先が鈍化して鋭利さを失う。
同図(b)の逃げ面側の摩耗量Wは、Θ=0°の場合のほうがΘ=90°の場合より格段に大きい。前述したように、工具刃先が炭素繊維に食い込むことが難しく、繊維の切り残しが生じ、これらが工具逃げ面を激しく擦過することで、工具逃げ面に顕著なアブレシブ摩耗が生じたものと考えられる。このときの加工力を測定したところ、Θの減少に伴って工具に作用する背分力が増大したことからも上記の考察の妥当性が示される。同図(c)より、刃先後退高さHはΘ=90°の場合のほうがΘ=0°の場合よりも大きい。工具刃先のシャープな刃先形状(刃立性)を長期にわたり維持するには、炭素繊維の配向方向Θを小さくすることが有効であることが分かった。
【0020】
(実施例2)
以上結果を踏まえて、本発明を実証するために、切削距離1m毎に機械的特性が最も異なる組合せである炭素繊維の薄板の配向方向をΘ=0°とΘ=90°に定期的に変化を繰り返して切削加工を行った(実施例2)。
すくい面側の摩耗量W、逃げ面側の摩耗量Wf、および刃先後退高さHに及ぼす繊維の配向方向の影響を図5に示す。同図の白い部分がΘ=90°、灰色の部分がΘ=0°である。なお、被研削材に用いたCFRPシートのプリプレグは、その炭素繊維の配向はプリプレグ毎に90°異なる向きに積層されており、薄板(シート)の厚さや繊維直径は実施例1と同じである。
図5(a)より、すくい面側の摩耗量Wは、炭素繊維の配向を断続的に変化させなかった場合(図4(a)参照)と比較して、わずかに減少している。
図5(b)より、逃げ面側の摩耗量Wは、炭素繊維の配向を断続的に変化させなかった場合(図4(b)参照)は切削距離に対してほぼ一定値に収束する傾向があるのに対して、ほぼ直線的に増加している。
一方、刃先後退高さHに着目すると、図5(c)のHは、図4(c)のΘ=90°の場合だけでなく、Θ=0°の場合よりも減少しており、さらに切削距離10mまでは、Hは一定値であり、かつその値も小さい。これは、炭素繊維の配向方向Θ=90°のプリプレグを切削して鈍化した刃先が、次にΘ=0°のプリプレグを切削することにより、逃げ面側に顕著なアブレシブ摩耗を生じ、刃先後退高さHが減少したためと考えられる。
【0021】
以上の結果より、切削加工の方向を繊維の薄板の機械的特性の異なる配向方向Θ=0°とΘ=90°とを組み合わせることにより、刃先後退高さHはΘが一方のみの場合に比して小さく抑えることができ、シャープな刃先形状(刃立性)が長時間にわたり維持されることが分かった。即ち、Θ=90°の切削は、刃先近傍の逃げ面およびすくい面に発生する刃先のカケなどの脆性破壊や塑性変形が支配的に生じ、刃先後退高さHが大きくなる。一方、Θ=0°の切削は、刃先近傍の逃げ面はアブレシブ摩耗が支配的に生じ、刃先後退高さHが減少する。機械的特性の異なる材料の切削を定期的に繰り返すことで、切削工具のセルフシャープニングが実現できる。
【0022】
(実施例3)
実際の繊維強化樹脂積層体は、機械的強度を均一(異方性を緩和)にするため、繊維の配向方向を、平行方向(Θ=0°)と非平行方向(Θ=90°)の一定厚さ(d)の各層を積み重ねて1ユニットとし、それを更に積み重ねて薄板(シート)に成形されている。このような薄板の部品を切削加工する場合の本発明の実施例3を示す。
図6に示すようにNCフライス盤に切削刃としてエンドミルを用いた場合、定期的条件(例:切削距離=1m)切削加工を行った後、被切削物である繊維強化樹脂積層体に対してエンドミルとの当り面を繊維強化樹脂積層体の厚さ方向にシフトさせる。シフト量は、上記炭素繊維の配向方向が同じ一定厚さ(d)である。これにより、エンドミルの刃先は、配向方向0°が当たって部分には90°、90°が当たっていた部分には0°が当たって切削加工を行うことになり、本発明のセルフシャープニングが実現できる。図6に模式的に示す様に、エンドミルの高さ方向の位置aと位置bを、定期的条件(切削時間又は切削時間)毎に繰り返しながら、薄板(シート)の切削加工を行う。
シフト量は厚さdの奇数倍でも良い。定期的条件の切削加工後、同じシフト量を戻し一定距離の切削加工を行い、これを繰り返す。尚、偶数倍をシフトした場合、エンドミルの刃先に同じ配向方向が当たるのでセルフシャープニングは起こらない。
また、積層の配向方向は、更に薄板(シート)の機械的性質の異方性を緩和するために、Θ=45°を加えて、3層(Θ=45°)又は4層(Θ=45°、135°)の1ユニットを組合せて薄板に成形させる場合もある。この場合は、定期的条件の切削加工を行った後、3層の場合、シフト量は、d⇒2d⇒0を基本とした繰り返し(奇数倍でも良い)、4層の場合は、d⇒2d⇒3d⇒0を基本とした繰り返しにより(奇数倍でも良い)、エンドミルの刃先は、繊維強化樹脂積層体の各配向方向に、定期的条件にて、ほぼ均一に当たり切削することになり、本発明のセルフシャープニングが実現できる。
即ち、切削工具を繊維強化樹脂積層体の薄板に対して、同方向に配向した繊維の厚さ単位で、薄板の厚さ方向へのシフトを定期的に繰り返す。これにより切削工具は、ほぼ均一に機械的特性の異なる材料の切削を定期的に繰り返すことになり、セルフシャープニングされることになる。従って、定期的条件は、切削加工する部品の許容精度を基準とし、繊維強化樹脂積層体の積層状態、切削加工する部品の形状等を考慮して、切削距離又は切削時間とするが、加えて切削工具を繊維強化樹脂積層体の厚さ方向に、一定厚さdを基準とした単位のシフトすることで設定する。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、炭素繊維強化樹脂等の繊維強化樹脂積層体部品の切削加工による製造方法に利用することができる。自動車、航空機などには鉄、ステンレス、アルミ、ジュラルミンなどの薄板を切削加工した部品が大量に使われている。これらの代替え品として、繊維強化積層体の部品は、軽量で機械的特性が良いことから使用が開始されているが高コストである。本発明によれば、切削加工のコスト低減が図れるので、繊維強化樹脂積層体の部品の普及に寄与することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6