特許第6168561号(P6168561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6168561
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】ピンチオフ部を有するブロー成形容器
(51)【国際特許分類】
   B65D 1/00 20060101AFI20170713BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20170713BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   B65D1/00 111
   C08L29/04 B
   C08L101/00
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-515577(P2014-515577)
(86)(22)【出願日】2013年5月8日
(86)【国際出願番号】JP2013062901
(87)【国際公開番号】WO2013172226
(87)【国際公開日】20131121
【審査請求日】2015年12月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-110160(P2012-110160)
(32)【優先日】2012年5月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100113181
【弁理士】
【氏名又は名称】中務 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100180600
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 航
【審査官】 家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−269725(JP,A)
【文献】 特開2011−213373(JP,A)
【文献】 特開2002−241546(JP,A)
【文献】 特開2010−095315(JP,A)
【文献】 特開平06−345876(JP,A)
【文献】 特開2001−277341(JP,A)
【文献】 特開2007−009171(JP,A)
【文献】 特開2007−211059(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/137659(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D1/00
C08L1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)及び柔軟樹脂(B)を含有する樹脂組成物層を最内層に有し、該樹脂組成物層同士が融着して形成されてなるピンチオフ部を有するブロー成形容器であって;
柔軟樹脂(B)がスチレン系熱可塑性エラストマー又はα−オレフィン共重合体であり、
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と柔軟樹脂(B)との質量比[(A)/(B)]が75/25〜90/10の範囲内であり、
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)がマトリックス相であり、柔軟樹脂(B)が分散相である海島構造を有し、かつ
前記分散相の粒子壁間距離が0.3μm以下であることを特徴とするブロー成形容器。
【請求項2】
210℃、2160g荷重下で測定した前記樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)がエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のメルトフローレート(MFR)の2/3以下である請求項1に記載のブロー成形容器。
【請求項3】
柔軟樹脂(B)が、酸変性柔軟樹脂(b1)と未変性柔軟樹脂(b2)との混合物である請求項1又2に記載のブロー成形容器。
【請求項4】
ISO 7619に従い測定された、柔軟樹脂(B)のデュロメータータイプA硬度が90以下である請求項1〜3のいずれかに記載のブロー成形容器。
【請求項5】
薬剤ボトルである請求項1〜4のいずれかに記載のブロー成形容器。
【請求項6】
前記薬剤が農薬である請求項5に記載のブロー成形容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する樹脂組成物層を最内層に有する、ピンチオフ部を有するブロー成形容器に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略記することもある)は酸素等のガスに対して優れたバリア性を示し、かつ溶融成形性にも優れることから、フィルムやボトル等に成形され、各種包装材料等として広く用いられている。EVOHは高い結晶性を有するために衝撃強度が低く、これを補うために、機械的特性等に優れた熱可塑性樹脂と積層して用いられることが多い。特に、ブロー成形容器等の分野においては、EVOHを含有する樹脂組成物層と、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂の層とを有する多層構造が広く採用されている。
【0003】
例えば、特開昭57−32952号公報には耐薬品性及び低ガス透過性を有する容器として、EVOH層を中間層とし内外層がポリオレフィン層である、多層共押出ブロー成形法により成形した多層容器が記載されている。しかし、当該多層容器では、最内層のポリオレフィン層が耐有機溶剤性に劣るため、有機溶剤などを内容物とすると劣化が生じ、長期保管後の容器の耐衝撃性が低下することがあった。
【0004】
最内層をEVOH層とすることにより容器の耐有機溶剤性を改善することができる。しかし、最内層にEVOHを用いた容器はEVOH層の片面のみにしかポリオレフィン層を積層することができないので、耐衝撃性が不十分となり、高い耐衝撃性が要求される用途では使用できないことがあった。そこで、特開2010−95315号公報には、最内層にEVOHとポリアルキレンエーテルユニットを有する重合体とを含有する樹脂組成物層を有する農薬用容器が提案されている。当該農薬容器は、低温における耐衝撃性に優れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−32952号公報
【特許文献2】特開2010−95315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ピンチオフ部を有するブロー成形容器においては、ブロー成形容器の実使用時の落下などの衝撃における耐性には、ノッチ付きアイゾット衝撃強度により評価される容器の側面・底面や角部の衝撃強度だけでなく、ピンチオフ部位の衝撃強度も必要とされる。特に、EVOH層を中間層とし内外層がポリオレフィン層であるブロー成形容器では、ピンチオフ部は最内層を形成するポリオレフィン同士が融着して形成されるのに対して、EVOHを含む樹脂組成物を最内層に用いたブロー成形容器では、ピンチオフ部位はEVOH同士が融着して形成されることとなる。本発明者らが検討したところ、特開2010−95315号公報に記載されているようにEVOHにポリアルキレンエーテルユニットを有する重合体を配合すると、ノッチ付きアイゾット衝撃強度により評価される耐衝撃性は改善されるものの、ピンチオフ部位での衝撃強度が低下しブロー成形容器としての耐衝撃性は不十分であることが分かった。
【0007】
本発明は、そのような事情を鑑みてなされたものであり、EVOHを含有する樹脂組成物を最内層に用いたブロー成形容器であって、側面・底面や角部の衝撃強度及びピンチオフ部分の衝撃強度のいずれにも優れ、実使用時の落下などの衝撃に対して高い耐性を有するブロー成形容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた発明は、
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)及び柔軟樹脂(B)を含有する樹脂組成物層を最内層に有し、該樹脂組成物層同士が融着して形成されるピンチオフ部を有するブロー成形容器であって;柔軟樹脂(B)がスチレン系熱可塑性エラストマー又はα−オレフィン共重合体であり、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と柔軟樹脂(B)との質量比[(A)/(B)]が75/25〜90/10の範囲内であり、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)がマトリックス相であり、柔軟樹脂(B)が分散相である海島構造を有し、かつ前記分散相の粒子壁間距離が0.3μm以下であることを特徴とするブロー成形容器である。
【0009】
当該樹脂組成物層が、EVOH(A)がマトリックス相であり柔軟樹脂(B)が分散相である海島構造であり、且つ上記分散相の粒子壁間距離が0.3μm以下の構造を有することにより、衝撃が加わった際のエネルギーが柔軟樹脂により効率的に分散され当該ブロー成形容器の側面・底面や角部において優れた衝撃強度を示す。また柔軟樹脂(B)として特定の樹脂が用いられ、更にEVOH(A)及び柔軟樹脂(B)が特定の割合で配合されていることにより、当該ブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度とピンチオフ部分の衝撃強度の両立が成し遂げられる。
【0010】
210℃、2160g荷重下で測定した前記樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)がエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のメルトフローレート(MFR)の2/3以下であることが好ましい。
【0011】
ISO 7619に従い測定された、柔軟樹脂(B)のデュロメータータイプA硬度が90以下であることが好ましい。柔軟樹脂(B)として上記条件を満たすことで、より効率的に衝撃エネルギーを分散できるようになり、当該ブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度をさらに高めることができる。
【0012】
柔軟樹脂(B)は、酸変性柔軟樹脂(b1)と未変性柔軟樹脂(b2)との混合物であることが好ましい。上記樹脂組成物が調製される際にEVOH(A)と柔軟樹脂(B)が反応し、上記条件を満たすことで、当該ブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度をさらに高めることができる。
【0013】
本発明のブロー成形容器は薬剤ボトルとして好ましく用いられる。当該薬剤ボトルは、酸素ガスバリア性、耐薬剤性に優れ、実使用時の落下などの衝撃に対して高い耐性を有する。
【0014】
上記薬剤としては農薬が好ましく用いられ、本発明のブロー成形容器は農薬ボトルとして好ましく用いられる。当該農薬ボトルは、酸素ガスバリア性、耐有機溶剤性に優れ、実使用時の落下などの衝撃に対して高い耐性を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、EVOHを含有する樹脂組成物を最内層に用いたブロー成形容器であって、側面・底面や角部の衝撃強度だけでなく、ピンチオフ部分の衝撃強度にも優れ、実使用時の落下などの衝撃に対して高い耐性を有するブロー成形容器を提供することができる。当該ブロー成形容器は、薬剤ボトル、特に農薬ボトルとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のブロー成形容器の実施の形態について説明する。なお、以下の説明において特定の機能を発現するものとして具体的な材料を例示する場合があるが、本発明に用いることができる材料はこれらに限定されない。また、例示される材料は、特に記載がない限り、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
[樹脂組成物]
本発明のブロー成形容器の最内層に用いられる樹脂組成物は、EVOH(A)、柔軟樹脂(B)を特定の質量比で含有する。当該樹脂組成物は、さらにその他の成分を含有していてもよい。
【0018】
[EVOH(A)]
EVOH(A)は、主にエチレン単位とビニルアルコール単位とを有する共重合体である。EVOH(A)は、例えば、エチレンとビニルエステルとからなる共重合体をアルカリ触媒等を用いてケン化して得られる。ビニルエステルとしては、酢酸ビニルが代表的なものとして挙げられるが、その他の脂肪酸ビニルエステル(プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなど)も使用できる。
【0019】
また、EVOH(A)は、共重合成分として、例えばビニルシラン化合物0.0002〜0.2モル%を含有することができる。ここで、ビニルシラン系化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリルオキシプロピルメトキシシランが挙げられる。これらのなかでも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好適に用いられる。さらに、EVOH(A)は、本発明の目的が阻害されない範囲で、他の共単量体、例えば、プロピレン、ブチレン、あるいは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、若しくは(メタ)アクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸又はそのエステル、及びN−ビニルピロリドンなどのビニルピロリドンを共重合することもできる。
【0020】
EVOH(A)のエチレン単位含有率は、20モル%以上60モル%以下であることが好ましく、25モル%以上55モル%以下であることがより好ましく、27モル%以上50モル%以下であることがさらに好ましい。エチレン単位含量率が20モル%未満では、当該樹脂組成物の溶融成形性が低下する。逆に、エチレン単位含有率が60モル%を超えると、得られるブロー成形容器のガスバリア性が低下する。
【0021】
また、EVOH(A)のケン化度は、特に限定されるものではないが、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましく、99モル%以上であることがさらに好ましい。EVOH(A)のケン化度を上記の範囲とすることが、得られるブロー成形容器のガスバリア性を維持する観点から好ましい。
【0022】
EVOH(A)の溶融粘度は、210℃、2160g荷重下におけるメルトフローレート(MFR)が1.0〜100g/10分であることが好ましく、2.0〜60g/10分であることがより好ましく、3.0〜30g/10分であることがさらに好ましい。このような溶融粘度のEVOH(A)を用いることで、当該樹脂組成物の溶融成形性等をより高めることができる。
【0023】
EVOH(A)は、単独で用いることもできるし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0024】
[変性EVOH(A’)]
EVOH(A)として、EVOHをエポキシ化合物(E)で変性して得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(A’)(以下、「変性EVOH(A’)」と略記することがある)を用いてもよい。変性EVOH(A’)は結晶化度が低く柔軟であるために、当該ブロー成形容器は側面・底面や角部の衝撃強度に優れる。
【0025】
変性EVOH(A’)は、EVOHをエポキシ化合物(E)で変性して得られるものであり、例えば、EVOHの水酸基にエポキシ化合物(E)が反応したものが挙げられる。
【0026】
このような変性EVOH(A’)は、EVOHとエポキシ化合物(E)とを押出機内で反応させることによって得ることができる。なお、その際に原料のEVOHが過剰にアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を含有していると、得られる変性EVOH(A’)が着色したり、粘度低下によって変性EVOH(A’)の溶融成形性が低下するおそれがある。また、後述するように、上記反応を触媒を用いて行う場合には、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩が上記触媒を失活させることがある。そのため、原料のEVOH中のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩の含有量はできるだけ少ないことが好ましい。
【0027】
上記エポキシ化合物(E)としては、分子中にエポキシ基を1個有するエポキシ化合物が好ましい。エポキシ化合物(E)の分子量は500以下であることが好ましい。分子内にエポキシ基を2個以上有する二価以上のエポキシ化合物は、EVOHと反応する際に架橋反応を引き起こす場合がある。
【0028】
エポキシ化合物(E)は、変性の際に過剰に添加したものを、得られた変性EVOH(A’)から容易に除去できるものであることが好ましい。このような除去方法の1つとしては、押出機のベントからエポキシ化合物(E)を揮発させる方法が挙げられるため、エポキシ化合物(E)の沸点は250℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましい。また、エポキシ化合物(E)の炭素数は2〜10であることが好ましい。このようなエポキシ化合物(E)の具体例としては、エポキシエタン、1,2−エポキシプロパン、1,2−エポキシブタン、グリシドール、1,2−エポキシ−3−ブテン、1,2−エポキシ−4−ペンテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン、アリルグリシジルエーテル、メタアリルグリシジルエーテル、エチレングリコールアリルグリシジルエーテルなどが挙げられ、1,2−エポキシプロパン、1,2−エポキシブタン、アリルグリシジルエーテルが好ましい。さらに、上記の除去方法の別の方法としては、押出機のベントから水洗除去する方法が挙げられ、この場合、エポキシ化合物(E)は水に可溶であることが好ましい。
【0029】
EVOH(A)とエポキシ化合物(E)との反応の条件は特に制限されないが、国際公開第02/092643号に記載された方法と同様に、押出機内で行うことが好ましい。このとき、触媒を添加することが好ましく、その場合には、反応後にカルボン酸塩等の触媒失活剤を添加することが好ましい。押出機内で溶融状態にあるEVOH樹脂に対してエポキシ化合物(E)を添加すると、エポキシ化合物(E)の揮散を防止することができるとともに反応量を制御しやすくなることから好ましい。
【0030】
変性EVOH(A’)におけるエポキシ化合物(E)の変性量は、EVOHのモノマー単位の全モル数に対して0.1〜10モル%であることが好ましく、0.3〜5モル%であることがより好ましく、0.5〜3モル%であることがさらに好ましい。変性量が0.1モル%未満である場合は変性による効果が得られないおそれがある。一方、変性量が10モル%を超える場合は熱安定性が低下するおそれがある。
【0031】
[柔軟樹脂(B)]
柔軟樹脂(B)としては、スチレン系熱可塑性エラストマー又はα−オレフィン共重合体が使用される。これらの樹脂を柔軟樹脂(B)として用いることにより、得られるブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度とピンチオフ部分の衝撃強度の両立が成し遂げられる。これらの中でも、低温での柔軟性に優れ、当該ブロー成形容器の低温における側面・底面や角部の衝撃強度が向上する観点から、α−オレフィン共重合体の使用が好ましい。
【0032】
(スチレン系熱可塑性エラストマー)
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。スチレン系熱可塑性エラストマーは、通常、ハードセグメントとなるスチレンモノマー重合体ブロック(Hb)と、ソフトセグメントとなる共役ジエン化合物重合体ブロック又はその水添ブロック(Sb)とを有する。このスチレン系熱可塑性エラストマーの構造としては、Hb−Sbで表されるジブロック構造、Hb−Sb−Hb若しくはSb−Hb−Sbで表されるトリブロック構造、Hb−Sb−Hb−Sbで表されるテトラブロック構造、又はHbとSbとが計5個以上直鎖状に結合しているポリブロック構造であってもよい。
【0033】
上記スチレンモノマー重合体ブロック(Hb)に使用されるスチレン系モノマーとしては、特に限定されるものではなく、スチレン及びその誘導体等を挙げることができる。具体的には、例えば、スチレン、α―メチルスチレン、2−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−t−ブチルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、モノフルオロスチレン、ジフルオロスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、メトキシスチレン、t−ブトキシスチレン等のスチレン類、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン等のビニルナフタレン類などのビニル基含有芳香族化合物;インデン、アセナフチレン等のビニレン基含有芳香族化合物などを挙げることができる。これらの中でも、スチレンが好ましい。スチレン系モノマーは1種のみでも良く、2種以上であっても良い。
【0034】
また、上記共役ジエン化合物重合体ブロック(Sb)に使用される共役ジエン化合物も、特に限定されるものではない。このような共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、ペンタジエン、ヘキサジエン等を挙げることができる。これらの中でも、ブタジエンが好ましい。共役ジエン化合物は1種のみでも良く、2種以上であっても良い。さらに、他の共単量体、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、スチレンを共重合することもできる。また、共役ジエン化合物重合体ブロック(b2)は、部分的又は完全に水素添加されている水素添加体であっても良い。
【0035】
スチレン系熱可塑性エラストマーのスチレンモノマー重合体ブロック単位(Hb)の含有率は、通常、5質量%以上80質量%以下であり、当該ブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度が向上する観点から、10質量%以上50質量%以下が好ましく、20質量%以上40質量%以下がより好ましい。
【0036】
スチレン系熱可塑性エラストマーの共役ジエン化合物重合体ブロック及び/又はその水添ブロック(Sb)の含有率は、通常、20質量%以上95質量%以下であり、当該ブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度が向上する観点から、50質量%以上90質量%以下が好ましく、60質量%以上80質量%以下がより好ましい。
【0037】
スチレン系熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン−イソプレンジブロック共重合体(SI)、スチレン−ブタジエンジブロック共重合体(SB)、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体(SIS)、スチレン−ブタジエン/イソプレン−スチレントリブロック共重合体(SB/IS)、及びスチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体(SBS)並びにその水素添加体が挙げられる。特に、耐候性等に優れる観点からスチレン−イソプレンジブロック共重合体の水素添加体(SEP)、スチレン−ブタジエンジブロック共重合体の水素添加体(SEB)、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体の水素添加体(SEPS)、スチレン−ブタジエン/イソプレン−スチレントリブロック共重合体の水素添加体(SEEPS)、及びスチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体の水素添加体(SEBS)が好ましく、当該ブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度が向上する観点から、スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体の水素添加体(SEBS)が特に好ましい。
【0038】
(α−オレフィン共重合体)
α−オレフィン共重合体としては、特に限定されるものではなく、エチレン−プロピレン共重合体(EP)、エチレン−ブテン共重合体(EB)、プロピレン−ブチレン共重合体(PB)、ブチレン−エチレン共重合体(BE)等を挙げることができる。これらの中でも、柔軟性に優れ、当該ブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度が向上する観点から、エチレン−プロピレン共重合体(EP)、エチレン−ブテン共重合体(EB)が好ましく、当該ブロー成形容器のピンチオフ部分の衝撃強度が向上する観点からエチレン−ブテン共重合体(EB)が特に好ましい。
【0039】
本発明に用いる柔軟樹脂(B)は、酸変性柔軟樹脂(b1)と未変性柔軟樹脂(b2)との混合物であることが、溶融成形性及び当該ブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度をさらに高めることができる観点から好ましい。
【0040】
本発明に用いる酸変性柔軟樹脂(b1)は、上記スチレン系熱可塑性エラストマー又は上記α−オレフィン共重合体を酸変性したものである。
【0041】
ここで酸変性とは、α−オレフィン共重合体或いはスチレン系熱可塑性エラストマーを構成するモノマーの一部を、α,β―不飽和カルボン酸又はその無水物モノマーに代えて共重合することにより、あるいはラジカル付加などのグラフト反応等により側鎖の一部にα,β―不飽和カルボン酸又はその無水物を導入することにより行われる。
【0042】
上記酸変性に用いられるα,β―不飽和カルボン酸又はその無水物としては、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。中でも無水マレイン酸が好適に用いられる。
【0043】
酸変性柔軟樹脂(b1)の酸価は、50mgKOH/g以下が好ましく、1mgKOH/g以上30mgKOH/g以下がより好ましく、2mgKOH/g以上20mgKOH/g以下がさらに好ましい。この範囲より酸価が高いとEVOH(A)中の水酸基との反応点が増し、溶融混練過程において高重合度化物が生成して、ブロー成形時の溶融成形性、熱安定性等が低下する傾向にある。一方、この範囲より酸価が低いとEVOH(A)との相容性が低下し、十分な耐衝撃性が得られないおそれがある。
【0044】
柔軟樹脂(B)の溶融粘度は、210℃、2160g荷重下におけるMFRが、1.0〜100g/10分であることが好ましく、2.0〜60g/10分であることがより好ましい。このような溶融粘度の柔軟樹脂(B)を用いることで、ブロー成形時の溶融成形性、当該ブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度をより高めることができる。
【0045】
EVOH(A)と柔軟樹脂(B)との210℃、2160g荷重下におけるMFRの差としては、30g/10分以下が好ましく、10g/10分以下がより好ましい。このように、EVOH(A)の溶融粘度と、柔軟樹脂(B)の溶融粘度とが近い程、溶融混練が容易となり、柔軟樹脂(B)がEVOH(A)中に微分散した状態となり易い。このようなEVOH(A)及び柔軟樹脂(B)を含有する樹脂組成物を用いれば、側面・底面や角部の衝撃強度に優れるブロー成形容器が得られやすい。
【0046】
本発明に用いる柔軟樹脂(B)のISO 7619に従い測定されたデュロメータータイプA硬度は、樹脂組成物中での衝撃エネルギーの分散効果が向上し、当該ブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度をより高めることができる観点から、90以下であることが好ましく、86以下であることがより好ましく、70以下であることがさらに好ましく、67以下であることが特に好ましい。
【0047】
[配合比]
本発明で用いられる樹脂組成物において、EVOH(A)と柔軟樹脂(B)の質量比[(A)/(B)]は、ブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度とピンチオフ部分の衝撃強度を両立するために、75/25〜90/10である必要がある。EVOH(A)の含有量がこの範囲より少ないと、ピンチオフ部分の衝撃強度が低下する。質量比[(A)/(B)]は80/20以上が好ましい。一方、EVOH(A)の含有量がこの範囲より多いと、得られるブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度が低下する。質量比[(A)/(B)]は85/15以下が好ましい。
【0048】
上記樹脂組成物において、柔軟樹脂(B)は、酸変性柔軟樹脂(b1)単体でもよいが、酸変性柔軟樹脂(b1)と未変性柔軟樹脂(b2)との混合物であることが好ましい。混合物として用いる場合は、酸変性柔軟樹脂(b1)と未変性柔軟樹脂(b2)の質量比[(b1)/(b2)]は、ブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度を向上させる観点から、1/99〜99/1であることが好ましい。酸変性柔軟樹脂(b1)の含有量がこの範囲より多いと、上記樹脂組成物の溶融成形性が低下し、ブロー成形時にフィッシュアイが生じやすくなる。また、当該フィッシュアイが起点となってブロー成形容器が割れやすくなる。質量比[(b1)/(b2)]は67/33以下がより好ましく、50/50以下がさらに好ましい。一方、酸変性柔軟樹脂(b1)の含有量がこの範囲より少ないと、EVOH(A)と柔軟樹脂(B)との相容性が不十分となり、微分散した海島構造が得られにくくなり、得られるブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度が低下する。質量比[(b1)/(b2)]は10/90以上がより好ましく、25/75以上であることがさらに好ましく、30/70以上であることが特に好ましい。
【0049】
当該樹脂組成物では、柔軟樹脂(B)として用いられる酸変性柔軟樹脂(b1)が、EVOH(A)と高い相容性を有するだけでなく、EVOH(A)と未変性柔軟樹脂(b2)の相容化剤の役割も果たしていると考えられる。当該樹脂組成物を二軸押出機で混練、調製する際に、酸変性柔軟樹脂(b1)に含まれる酸が、EVOH(A)中の水酸基と反応することによって、押出機中でEVOH(A)と酸変性柔軟樹脂(b1)のグラフト重合体が生成する。このグラフト重合体がEVOH(A)と相容性を有しており、さらにEVOH(A)と未変性柔軟樹脂(b2)と相容化効果を示す。これにより、柔軟樹脂(B)がEVOH(A)中に微分散し、当該ブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度が向上する。
【0050】
一方、グラフト重合体が生じることで、分子鎖の絡み合いが増すために、ベースとなるEVOH(A)のMFRと比較し、当該樹脂組成物のMFRは低下する傾向にある。相容化効果が十分となり、EVOH(A)中の柔軟樹脂(B)の分散性が良好となる観点から、当該樹脂組成物のMFRがEVOH(A)のMFRの2/3以下であることが好ましい。また、樹脂組成物のMFRがEVOH(A)のMFRの1/10以上3/5以下となることがより好ましく、1/5以上1/2以下であることがさらに好ましい。樹脂組成物のMFRがこの範囲を下回ると、当該樹脂組成物の溶融成形性が低下し、ブロー成形時にフィッシュアイを生じやすくなる。一方、樹脂組成物のMFRがこの範囲を超えると、グラフト重合体の生成が不十分であり、微分散した海島構造が得られにくくなり、当該ブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度が低下するおそれがある。
【0051】
EVOH(A)及び柔軟樹脂(B)を以上のような質量比で含有する当該樹脂組成物は、EVOHが本来有する溶融成形性を維持している。具体的には、当該樹脂組成物の210℃、2160gにおけるメルトフローレート(MFR)が、0.3〜100g/10分であることが好ましく、0.5〜60g/10分であることがより好ましい、1.0〜30g/10分であることがさらに好ましい。当該樹脂組成物としてのMFRが上記範囲となることにより、溶融成形加工時のトラブルが少なく、外観が良好なブロー成形容器を得ることができる。
【0052】
[粒子壁間距離]
本発明に用いられる樹脂組成物は、EVOH(A)がマトリックス相であり、柔軟樹脂(B)が分散相である海島構造を有する。このような海島構造を有することにより、得られるブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度とピンチオフ部分の衝撃強度の両立が成し遂げられる。
【0053】
当該樹脂組成物中の柔軟樹脂(B)の粒子壁間距離は、ブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度を発現させるために0.30μm以下である必要がある。粒子壁間距離は、0.20μm以下であることが好ましく、0.15μm以下であることがより好ましい。粒子壁間距離が0.30μmを超えると、耐衝撃性が不十分となる。粒子壁間距離は、例えばEVOH(A)および柔軟樹脂(B)の配合比率、もしくは柔軟樹脂(B)中の酸変性柔軟樹脂(b1)および未変性柔軟樹脂(b2)の配合比率を調整することによって制御することができる。
【0054】
当該樹脂組成物において、EVOH(A)中の柔軟樹脂(B)の分散粒子の粒子壁間距離dは、EVOH(A)と柔軟樹脂(B)の配合比率と、EVOH(A)中の柔軟樹脂(B)の分散粒子径から以下の式(I)により算出される。
【0055】
【数1】
【0056】
上記式(I)中、rは柔軟樹脂(B)の分散粒子の半径、Vは柔軟樹脂(B)の体積分率である。
【0057】
上記分散粒子の半径は、得られた樹脂組成物層を、キシレンなどの柔軟樹脂(B)が溶解する溶媒に浸し、柔軟樹脂(B)を溶出させた後に、走査型電子顕微鏡などによって観察される倍率3000倍の画面より確認できる。分散粒子の半径は、画面から定規等を用いた直接計測もしくは画像処理により算出された分散粒子の直径から求められる。
【0058】
[その他の成分]
当該樹脂組成物は、熱安定性や粘度調整の観点で種々の酸や金属塩等の化合物を含有していることが好ましい。この化合物としては、アルカリ金属塩、カルボン酸、リン酸化合物及びホウ素化合物などであり、具体的な例としては次のようなものが挙げられる。なお、これらの化合物は、あらかじめEVOH(A)と混合した状態のものが用いられる場合がある。
【0059】
アルカリ金属塩:酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩等
カルボン酸:シュウ酸、コハク酸、安息香酸、クエン酸、酢酸、乳酸等
リン酸化合物:リン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等
ホウ素化合物:ホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等
【0060】
また、当該樹脂組成物には、必要に応じて上記以外の各種添加剤が配合されていてもよい。このような添加剤の例としては、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、フィラー及び他の高分子化合物を挙げることができ、これらを本発明の作用効果が阻害されない範囲でブレンドすることができる。添加剤の具体的な例としては次のようなものが挙げられる。
【0061】
酸化防止剤:2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)等
可塑剤:フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステル等
紫外線吸収剤:エチレン−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)5−クロロベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等
帯電防止剤:ペンタエリスリトールモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化ポリオレフィン類、ポリエチレンオキシド等
滑剤:エチレンビスステアロアミド、ブチルステアレート
【0062】
また、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、当該樹脂組成物に、EVOH(A)、柔軟樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を配合していてもよい。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ポリスチレンなどが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、これら樹脂の変性物の単品又は混合物などが挙げられる。上記樹脂組成物に、EVOH(A)、柔軟樹脂(B)以外の樹脂を配合する場合、その配合量は50質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0063】
[樹脂組成物の調製]
当該樹脂組成物の調製方法は、特に限定されないが、EVOH(A)(又はEVOHを主成分として含む樹脂、以下同様)と柔軟樹脂(B)とをドライブレンドして溶融混練する方法、柔軟樹脂(B)をEVOH(A)の一部に高濃度で配合して造粒したマスターバッチを作製し、それを残りのEVOH(A)とドライブレンドして溶融混練する方法などが挙げられる。これらの中でも、EVOH(A)及び柔軟樹脂(B)をドライブレンドして溶融混練する方法が、各成分を均一にブレンドすることができるため好ましい。柔軟樹脂(B)が酸変性柔軟樹脂(b1)と未変性柔軟樹脂(b2)の混合物である場合、EVOH(A)に配合する柔軟樹脂(B)は、酸変性柔軟樹脂(b1)と未変性柔軟樹脂(b2)のドライブレンドでもよく、酸変性柔軟樹脂(b1)と未変性柔軟樹脂(b2)とを予め溶融混練し造粒したペレットであってもよい。当該樹脂組成物の調製方法としては、EVOH(A)、酸変性柔軟樹脂(b1)及び未変性柔軟樹脂(b2)をドライブレンドして溶融混練する方法が特に好ましい。
【0064】
当該樹脂組成物を調製するための溶融混練の手段としては、特に限定されないが、例えば、リボンブレンダー、高速ミキサーコニーダー、ミキシングロール、押出機(単軸又は二軸押出機等)、インテンシブミキサーなどが挙げられる。これらの中でも、単軸又は二軸押出機を用いる方法が好ましい。溶融混練の温度は、用いる樹脂の種類、分子量、組成物の配合割合又は成形機の種類などにより適宜選択されるが、通常、170〜350℃の範囲である。
【0065】
押出機を用い溶融混練する際は、混練度の高い押出機を使用し、ホッパー口を窒素シールし、低温で押出すことが好ましい。このようにすることで、分散状態を均一にし、ゲルや異物の発生や混入を抑制することができる。
【0066】
[ブロー成形容器]
本発明のブロー成形容器は、上記樹脂組成物層を最内層に有することで、EVOH(A)本来の酸素ガスバリア性、耐有機溶剤性を維持しつつ、側面・底面や角部の衝撃強度だけでなく、ピンチオフ部分の衝撃強度にも優れ、実使用時の落下などの衝撃に対して高い耐性を有する。
【0067】
本発明のブロー成形容器を作製する方法としては、共押出ブロー成形の方法を採用できる。共押出ブロー成形方法としては、少なくとも2台の押出機を有する多層押出機を用いて、上記樹脂組成物、他の熱可塑性樹脂及び必要に応じて接着性樹脂を別々の押出機に供給して別々に混練、溶融押出しを行い、各層を多層パリソン成形用ダイの内部またはダイより吐出直後の外部で密着合流させるように押出し、管状の多層パリソンを得、次いでこのパリソンを溶融状態でブロー成形して多層容器を得る、いわゆるダイレクトブロー成形法が適用される。すなわち、本発明のピンチオフ部を有するブロー成形容器はダイレクトブロー成形容器である。ダイレクトブロー成形法のブロー成形時には、パリソンを一対のブロー成形用金型で狭持し、パリソンの喰切を行うと共に対向する喰切部を融着させるため、ピンチオフ部が形成される。ブロー成形時の押出温度は、用いる樹脂の種類、分子量、組成物の配合割合又は成形機の種類などにより適宜選択されるが、通常、170〜350℃の範囲である。
【0068】
本発明のブロー成形容器の層構成は、機械的強度の向上等の点から、少なくとも上記樹脂組成物層を含む2層以上が積層された多層構造を有する。容器の最内層、すなわち容器の内容物が接触する層として上記樹脂組成物層を使用することで、内容物による容器の膨潤を防いでいる。内容物が接触する最内層よりも外側の層にはEVOH以外の熱可塑性樹脂層が存在することが好ましい。
【0069】
具体的に当該ブロー成形容器の層構成としては、上記樹脂組成物から得られる層をE、接着性樹脂から得られる層をAd、EVOH以外の熱可塑性樹脂から得られる層をTで表わした場合、以下の層構成が例示できる。左側が内層を表す。ここで、Adとしてはカルボン酸変性ポリオレフィン、特に無水マレイン酸変性ポリオレフィンが好適に使用される。Tとしては、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体(炭素数4〜20のα−オレフィン)、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又はその共重合体、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエステルエラストマー、ナイロン−6 、ナイロン− 6,6等のポリアミド樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリウレタンエラストマー、ポリカーボネート、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなどが挙げられ、高密度ポリエチレン、ポリプロピレンが好適に使用される。
2層 E/Ad
3層 E/Ad/T、E/Ad/E
4層 E/Ad/E/Ad
5層 E/Ad/T/Ad/E、E/Ad/E/Ad/T
【0070】
当該ブロー成形容器における各層の厚みは、層構成、用途、要求される物性などにより一概に言えないが、例えば下記の通りである。なお、下記の数値は、樹脂組成物層、接着性樹脂層、他の熱可塑性樹脂層のうち少なくとも1種の層が2層以上存在する場合には、同種の層の厚みを総計した値である。
【0071】
上記樹脂組成物層は10μm以上500μm以下であり、20μm以上300μm以下が好ましく、50μm以上200μm以下がより好ましい。樹脂組成物層が薄すぎる場合、本発明による効果が得られ難くなる傾向があり、樹脂組成物層が厚すぎる場合、溶融成形性が低下する傾向がある。他の熱可塑性樹脂層は100μm以上6000μm以下であり、200μm以上4000μm以下が好ましく、300μm以上2000μm以下がより好ましい。他の熱可塑性樹脂層が薄すぎる場合、当該ブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度耐が低下する傾向があり、他の熱可塑性樹脂層が厚すぎる場合、溶融成形性が低下する傾向がある。接着性樹脂層は通常2μm以上250μm以下であり、5μm以上150μm以下が好ましく、10μm以上100μm以下がより好ましい。
【0072】
また当該ブロー成形容器において、ブロー成形時に発生する多層構造体のスクラップを含む回収層を、熱可塑性樹脂層及び/又は接着性樹脂層として代用することもできる。また、他のポリオレフィン成形体のスクラップを混合して使用することもできる。
【0073】
[薬剤ボトル]
本発明のブロー成形容器は薬剤ボトルとして好ましく用いられる。当該薬剤ボトルは、液状の薬剤を収容するためのボトルである。本発明のブロー成形容器は、側面・底面や角部の衝撃強度だけでなく、ピンチオフ部分の衝撃強度にも優れ、実使用時の落下などの衝撃に対して高い耐性を有するため、薬剤ボトルや農薬ボトルとして有用である。ここで、液状の薬剤とは、各種の有機薬剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素を含有する溶液、分散液、懸濁液等の農薬を示す。農薬としては例えば有機リン系、ピレスロイド系化合物を含有する乳液剤等の農薬が挙げられる。
【0074】
当該薬剤ボトルは、農薬ボトル用の標準試験法であるUN規格に基づく落下衝撃テスト(−18℃において、高さ1.2mから落下)において優れた低温耐衝撃性効果を有する。本発明の薬剤容器は0.1〜100Lの容量であり、具体的には、0.5〜50Lの容量が好ましく、1〜25Lの容量がより好ましい。
【0075】
[衝撃強度]
本発明において、当該ブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度及びピンチオフ部分の衝撃強度には最内層に用いる上記樹脂組成物の物性が大きく影響を与える。そこで、以下の実施例においては、当該ブロー成形容器の側面・底面や角部の衝撃強度を表す指標として、上記樹脂組成物を射出成形により作製した射出片の23℃、−20℃におけるノッチ付きアイゾット衝撃強度により評価している。またピンチオフ部分はブロー成形のパリソンが溶融状態で接着される部分であるので、溶融時の樹脂同士の接着強度が影響する。そこで、以下の実施例においては、上記樹脂組成物を射出成形する際に射出片の中心にウェルド部位を設け、得られた射出片のウェルド部位のアイゾット衝撃強度によりピンチオフ強度を評価している。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。なお、得られた樹脂組成物等の評価は、以下の方法にて行った。
【0077】
[EVOH(A)のエチレン単位含有率及びケン化度]
DMSO−dを溶媒としたH−NMR測定(日本電子株式会社製「JNM−GX−500型」を使用)によりEVOH(A)のエチレン単位含有率及びケン化度を求めた。
【0078】
[溶融粘度(MFR)]
メルトインデクサ(株式会社宝工業製「L244」)を用い、温度210℃、荷重2160gの条件下で、試料の流出速度(g/10分)を測定しメルトフローレート(MFR)を求めた。
【0079】
[デュロメーター硬度]
デュロメーター硬度計を用い、ISO 7619に従い、試料のデュロメータータイプA硬度を測定した。
【0080】
[酸変性柔軟樹脂(b1)の酸価]
酸変性柔軟樹脂(b1)をキシレンに溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として用い、0.05mol/L水酸化カリウム−エタノール溶液を滴下することで酸価を算出した。
【0081】
[分散粒子直径及び粒子壁間距離]
実施例及び比較例で得られた射出片の中心付近をミクロトームを用いて断面出しをし、120℃のキシレンに数秒漬けることで柔軟樹脂(B)を溶出させた後に、走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 走査電子顕微鏡「S−2250N」)を用いて3000倍の倍率で分散状態の観察を行なった。その後、撮影した倍率3000倍のSEM写真を用い、画像解析ソフトImage−Pro Plus J(Media Cybernetics, Inc.製)を用いて分散粒子直径を見積った。また以下の計算式より粒子壁間距離dを算出した。
【0082】
【数2】
【0083】
上記式(I)中、rは柔軟樹脂(B)の分散粒子の半径、Vは柔軟樹脂(B)の体積分率である。
【0084】
[アイゾット衝撃強度]
デジタル衝撃試験機(株式会社東洋精機製作所製)を用い、JIS K7110に従い、実施例及び比較例で得られた射出片(80×10×4mm)にノッチを入れ、23℃/50%RH及び−20℃の条件でアイゾット衝撃強度を測定した。
【0085】
[ウェルド強度]
デジタル衝撃試験機(株式会社東洋精機製作所製)を用い、中心部にウェルドラインが存在する射出片(80×10×4mm)のウェルドラインから破壊が起こるように振り子を当て、23℃、50%RHの条件でアイゾット衝撃強度(ウェルド強度)を測定した。
【0086】
実施例1
EVOH(A)としてEVOH(A1)(株式会社クラレ製「エバールF171」)80質量部、柔軟樹脂(B)としてMAh−EB(b1−1)(無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体)(三井化学株式会社製「タフマーMH7010」)10質量部及びEB(b2−1)(エチレン−ブテン共重合体)(三井化学株式会社製「タフマーA4050」)10質量部をドライブレンドし、以下の溶融混練条件により、二軸押出機を使用して溶融混練、造粒し、熱風乾燥機にて80℃で6時間乾燥させ、樹脂組成物(1)を得た。続いて、樹脂組成物(1)を用い、以下の射出成形条件により、射出成形機を用いて、80×10×4mmの射出片を作製した。また、金型を変え、ゲートを2つ設けることで、80×10×4mmの中心にウェルドラインの存在する射出片を作製した。
【0087】
[溶融混練条件]
装置:26mmφ二軸押出機(株式会社東洋精機製作所製「ラボプラストミル15C300」)
L/D:25
スクリュー:同方向完全噛合型
ダイスホール数:2ホール(3mmφ)
押出温度:供給部/圧縮部/計量部/ダイ=200℃/230℃/230℃/230℃
回転数:100rpm
吐出量:約5kg/hr
乾燥:熱風乾燥80℃、6時間
【0088】
[射出成形条件]
装置:射出成形機(日精樹脂工業株式会社製「FS−80S 12AS」)
シリンダー温度:後部/中部/前部/ノズル=200℃/220℃/220℃/200℃
金型温度:60℃
【0089】
樹脂組成物(1)のMFR並びに得られた射出片の分散粒子直径、粒子壁間距離、アイゾット衝撃強度及びウェルド強度を上述の方法により評価した。得られた射出片は、EVOH(A)がマトリックス相であり柔軟樹脂(B)が分散相である海島構造を有していた。用いた樹脂の物性を表1及び表2に、評価結果を表3に示す。
【0090】
実施例2
EVOH(A)としてEVOH(A2)(株式会社クラレ製「エバールL171」)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、樹脂組成物(2)を得た。続いて、実施例1と同様の方法により、射出成形機を用いて、80×10×4mmの射出片及び80×10×4mmの中心にウェルドラインの存在する射出片を作製した。
【0091】
樹脂組成物(2)のMFR並びに得られた射出片の分散粒子径、粒子壁間距離、アイゾット衝撃強度及びウェルド強度を上述の方法により評価した。得られた射出片は、EVOH(A)がマトリックス相であり柔軟樹脂(B)が分散相である海島構造を有していた。用いた樹脂の物性を表1及び表2に、評価結果を表3に示す。
【0092】
実施例3
EVOH(A)としてEVOH(A1)80質量部、柔軟樹脂(B)としてMAh−EB(b1−2)(三井化学株式会社製「タフマーMA8510」)20質量部を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、樹脂組成物(3)を得た。続いて、実施例1と同様の方法により、射出成形機を用いて、80×10×4mmの射出片及び80×10×4mmの中心にウェルドラインの存在する射出片を作製した。
【0093】
樹脂組成物(3)のMFR並びに得られた射出片の分散粒子径、粒子壁間距離、アイゾット衝撃強度及びウェルド強度を上述の方法により評価した。得られた射出片は、EVOH(A)がマトリックス相であり柔軟樹脂(B)が分散相である海島構造を有していた。用いた樹脂の物性を表1及び表2に、評価結果を表3に示す。
【0094】
実施例4
EVOH(A)としてEVOH(A1)80質量部、柔軟樹脂(B)としてMAh−EB(b1−2)(三井化学株式会社製「タフマーMA8510」)10質量部、EB(b2−2)(三井化学株式会社製「タフマーA4085」)10質量部を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、樹脂組成物(4)を得た。続いて、実施例1と同様の方法により、射出成形機を用いて、80×10×4mmの射出片及び80×10×4mmの中心にウェルドラインの存在する射出片を作製した。
【0095】
樹脂組成物(4)のMFR並びに得られた射出片の分散粒子径、粒子壁間距離、アイゾット衝撃強度及びウェルド強度を上述の方法により評価した。得られた射出片は、EVOH(A)がマトリックス相であり柔軟樹脂(B)が分散相である海島構造を有していた。用いた樹脂の物性を表1及び表2に、評価結果を表3に示す。
【0096】
実施例5
EVOH(A)としてEVOH(A1)80質量部、柔軟樹脂(B)としてMAh−EB(b1−2)(三井化学株式会社製「タフマーMA8510」)5質量部、EB(b2−2)(三井化学株式会社製「タフマーA4085」)15質量部を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、樹脂組成物(5)を得た。続いて、実施例1と同様の方法により、射出成形機を用いて、80×10×4mmの射出片及び80×10×4mmの中心にウェルドラインの存在する射出片を作製した。
【0097】
樹脂組成物(5)のMFR並びに得られた射出片の分散粒子径、粒子壁間距離、アイゾット衝撃強度及びウェルド強度を上述の方法により評価した。得られた射出片は、EVOH(A)がマトリックス相であり柔軟樹脂(B)が分散相である海島構造を有していた。用いた樹脂の物性を表1及び表2に、評価結果を表3に示す。
【0098】
実施例6
EVOH(A)としてEVOH(A1)85質量部、柔軟樹脂(B)としてMAh−EB(b1−2)(三井化学株式会社製「タフマーMA8510」)10質量部、EB(b2−2)(三井化学株式会社製「タフマーA4085」)5質量部を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、樹脂組成物(6)を得た。続いて、実施例1と同様の方法により、射出成形機を用いて、80×10×4mmの射出片及び80×10×4mmの中心にウェルドラインの存在する射出片を作製した。
【0099】
得られた樹脂組成物(6)のMFR並びに得られた射出片の分散粒子径、粒子壁間距離、アイゾット衝撃強度及びウェルド強度を上述の方法により評価した。得られた射出片は、EVOH(A)がマトリックス相であり柔軟樹脂(B)が分散相である海島構造を有していた。用いた樹脂の物性を表1及び表2に、評価結果を表3に示す。
【0100】
実施例7
EVOH(A)としてEVOH(A1)90質量部、柔軟樹脂(B)としてMAh−EB(b1−2)(三井化学株式会社製「タフマーMA8510」)10質量部を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、樹脂組成物(7)を得た。続いて、実施例1と同様の方法により、射出成形機を用いて、80×10×4mmの射出片及び80×10×4mmの中心にウェルドラインの存在する射出片を作製した。
【0101】
樹脂組成物(7)のMFR並びに得られた射出片の分散粒子径、粒子壁間距離、アイゾット衝撃強度及びウェルド強度を上述の方法により評価した。得られた射出片は、EVOH(A)がマトリックス相であり柔軟樹脂(B)が分散相である海島構造を有していた。用いた樹脂の物性を表1及び表2に、評価結果を表3に示す。
【0102】
実施例8
EVOH(A)としてEVOH(A1)80質量部、柔軟樹脂(B)としてMAh−EP(b1−3)(無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体)(三井化学株式会社製「タフマーMP0610」)10質量部、EP(b2−3)(エチレン−プロピレン共重合体)(三井化学株式会社製「タフマーP0280」)10質量部を用いた以外は実施例1と同様の方法により、樹脂組成物(8)を得た。続いて、実施例1と同様の方法により、射出成形機を用いて、80×10×4mmの射出片及び80×10×4mmの中心にウェルドラインの存在する射出片を作製した。
【0103】
樹脂組成物(8)のMFR並びに得られた射出片の分散粒子径、粒子壁間距離、アイゾット衝撃強度及びウェルド強度を上述の方法により評価した。得られた射出片は、EVOH(A)がマトリックス相であり柔軟樹脂(B)が分散相である海島構造を有していた。用いた樹脂の物性を表1及び表2に、評価結果を表3に示す。
【0104】
実施例9
EVOH(A)としてEVOH(A1)80質量部、柔軟樹脂(B)としてMAh−SEBS(b1−4)(無水マレイン酸変性スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体)(旭化成株式会社製「タフテックM1911」)10質量部、SEBS(b2−4)(スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体)(旭化成株式会社製「タフテックH1041」)10質量部を用いた以外は実施例1と同様の方法により、樹脂組成物(9)を得た。続いて、実施例1と同様の方法により、射出成形機を用いて、80×10×4mmの射出片及び80×10×4mmの中心にウェルドラインの存在する射出片を作製した。
【0105】
樹脂組成物(9)のMFR並びに得られた射出片の分散粒子径、粒子壁間距離、アイゾット衝撃強度及びウェルド強度を上述の方法により評価した。得られた射出片は、EVOH(A)がマトリックス相であり柔軟樹脂(B)が分散相である海島構造を有していた。用いた樹脂の物性を表1及び表2に、評価結果を表3に示す。
【0106】
比較例1
EVOH(A)としてEVOH(A1)を用い、柔軟樹脂(B)を用いずに実施例1と同様の方法により、射出成形機を用いて、80×10×4mmの射出片及び80×10×4mmの中心にウェルドラインの存在する射出片を作製した。
【0107】
得られた射出片のアイゾット衝撃強度及びウェルド強度を上述の方法により評価した。用いた樹脂の物性を表1に、評価結果を表4に示す。
【0108】
比較例2
EVOH(A)としてEVOH(A1)95質量部、柔軟樹脂(B)としてMAh−EB(b1−2)(三井化学株式会社製「タフマーMA8510」)5質量部を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、樹脂組成物(10)を得た。続いて、実施例1と同様の方法により、射出成形機を用いて、80×10×4mmの射出片及び80×10×4mmの中心にウェルドラインの存在する射出片を作製した。
【0109】
樹脂組成物(10)のMFR並びに得られた射出片の分散粒子径、粒子壁間距離、アイゾット衝撃強度及びウェルド強度を上述の方法により評価した。得られた射出片は、EVOH(A)がマトリックス相であり柔軟樹脂(B)が分散相である海島構造を有していた。用いた樹脂の物性を表1及び表2に、評価結果を表4に示す。
【0110】
比較例3
EVOH(A)としてEVOH(A1)90質量部、柔軟樹脂(B)としてEB(b2−2)(三井化学株式会社製「タフマーA4085」)10質量部を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、樹脂組成物(11)を得た。続いて、実施例1と同様の方法により、射出成形機を用いて、80×10×4mmの射出片及び80×10×4mmの中心にウェルドラインの存在する射出片を作製した。
【0111】
樹脂組成物(11)のMFR並びに得られた射出片の分散粒子径、粒子壁間距離、アイゾット衝撃強度及びウェルド強度を上述の方法により評価した。得られた射出片は、EVOH(A)がマトリックス相であり柔軟樹脂(B)が分散相である海島構造を有していた。用いた樹脂の物性を表1及び表2に、評価結果を表4に示す。
【0112】
比較例4
EVOH(A)としてEVOH(A1)80質量部、柔軟樹脂(B)としてEB(b2−2)(三井化学株式会社製「タフマーA4085」)20質量部を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、樹脂組成物(12)を得た。続いて、実施例1と同様の方法により、射出成形機を用いて、80×10×4mmの射出片及び80×10×4mmの中心にウェルドラインの存在する射出片を作製した。
【0113】
樹脂組成物(12)のMFR並びに得られた射出片の分散粒子径、粒子壁間距離、アイゾット衝撃強度及びウェルド強度を上述の方法により評価した。得られた射出片は、EVOH(A)がマトリックス相であり柔軟樹脂(B)が分散相である海島構造を有していた。用いた樹脂の物性を表1及び表2に、評価結果を表4に示す。
【0114】
比較例5
EVOH(A)としてEVOH(A1)80質量部、柔軟樹脂(B)としてMAh−EB(b1−2)(三井化学株式会社製「タフマーMA8510」)1質量部、EB(b2−2)(三井化学株式会社製「タフマーA4085」)19質量部を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、樹脂組成物(13)を得た。続いて、実施例1と同様の方法により、射出成形機を用いて、80×10×4mmの射出片及び80×10×4mmの中心にウェルドラインの存在する射出片を作製した。
【0115】
樹脂組成物(13)のMFR並びに得られた射出片の分散粒子径、粒子壁間距離、アイゾット衝撃強度及びウェルド強度を上述の方法により評価した。得られた射出片は、EVOH(A)がマトリックス相であり柔軟樹脂(B)が分散相である海島構造を有していた。用いた樹脂の物性を表1及び表2に、評価結果を表4に示す。
【0116】
比較例6
EVOH(A)としてEVOH(A1)70質量部、柔軟樹脂(B)としてMAh−EB(b1−2)(三井化学株式会社製「タフマーMA8510」)10質量部、EB(b2−2)(三井化学株式会社製「タフマーA4085」)20質量部を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、樹脂組成物(14)を得た。続いて、実施例1と同様の方法により、射出成形機を用いて、80×10×4mmの射出片及び80×10×4mmの中心にウェルドラインの存在する射出片を作製した。
【0117】
樹脂組成物(14)のMFR並びに得られた射出片の分散粒子径、粒子壁間距離、アイゾット衝撃強度及びウェルド強度を上述の方法により評価した。得られた射出片は、EVOH(A)がマトリックス相であり柔軟樹脂(B)が分散相である海島構造を有していた。用いた樹脂の物性を表1及び表2に、評価結果を表4に示す。
【0118】
比較例7
EVOH(A)としてEVOH(A1)90質量部、柔軟樹脂(B)として特開2010−95315号公報に記載のポリアルキレンエーテルユニットを有する重合体であるMAh−TPEE(b1−5)(無水マレイン酸変性熱可塑性ポリエステルエラストマー)10質量部を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、樹脂組成物(15)を得た。続いて、実施例1と同様の方法により、射出成形機を用いて、80×10×4mmの射出片及び80×10×4mmの中心にウェルドラインの存在する射出片を作製した。
【0119】
得られた樹脂組成物(15)のMFR並びに得られた射出片の分散粒子径、粒子壁間距離、アイゾット衝撃強度及びウェルド強度を上述の方法により評価した。得られた射出片は、EVOH(A)がマトリックス相であり柔軟樹脂(B)が分散相である海島構造を有していた。用いた樹脂の物性を表1及び表2に、評価結果を表4に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
【表4】
【0124】
以上の実施例より、当該樹脂組成物は低温・室温において優れたアイゾット衝撃強度を示し、且つ優れたウェルド強度を示すことがわかる。これら樹脂組成物層を最内層に用いることで側面・底面や角部の衝撃強度及びピンチオフ部分の衝撃強度に優れるブロー成形容器を提供することができる。
【0125】
一方、比較例1のEVOH(A)そのものではアイゾット衝撃強度が弱く、EVOH(A)そのものを用いたブロー成形容器では側面・底面や角部の衝撃強度が不十分である。
【0126】
比較例2のように、EVOH(A)と柔軟樹脂(B)とを含有する樹脂組成物であっても、EVOH(A)と柔軟樹脂(B)との質量比[(A)/(B)]が75/25〜90/10の範囲外であって、EVOH(A)の割合が多いと、アイゾット衝撃強度が弱く、当該樹脂組成物を用いたブロー成形容器では側面・底面や角部の衝撃強度が不十分である。
【0127】
比較例3、4及び5のように、EVOH(A)と柔軟樹脂(B)とを含有する樹脂組成物であり、EVOH(A)と柔軟樹脂(B)との質量比[(A)/(B)]が75/25〜90/10の範囲内にあっても、分散相の粒子壁間距離が0.3μmを超えるとアイゾット衝撃強度及びウェルド強度が弱く、これら樹脂組成物を用いたブロー成形容器では側面・底面や角部の衝撃強度及びピンチオフ部分の衝撃強度が不十分である。
【0128】
比較例6のように、EVOH(A)と柔軟樹脂(B)とを含有する樹脂組成物であり、分散相の粒子壁間距離が0.3μm以下であっても、EVOH(A)と柔軟樹脂(B)との質量比[(A)/(B)]が75/25〜90/10の範囲外であって柔軟樹脂(B)の割合が多いと、低温・室温においてアイゾット衝撃強度は優れていても、ウェルド強度が弱く、これら樹脂組成物を用いたブロー成形容器ではピンチオフ部分の衝撃強度が不十分である。
【0129】
一方、比較例7のように、EVOH(A)と柔軟樹脂(B)とを含有する樹脂組成物であり、EVOH(A)と柔軟樹脂(B)との質量比[(A)/(B)]が75/25〜90/10の範囲内であり、分散相の粒子壁間距離が0.3μm以下であっても、柔軟樹脂(B)がスチレン系熱可塑性エラストマー又はα−オレフィン重合体以外であると、アイゾット衝撃強度は十分であっても、ウェルド強度が弱く、これら樹脂組成物を用いたブロー成形容器ではピンチオフ部分の衝撃強度が不十分である。
【0130】
実施例10
樹脂組成物として実施例1の樹脂組成物(1)、ポリプロピレン(PP)として日本ポリプロ株式会社製「ノバテックPP EA7A」、接着性樹脂(Tie)として三井化学株式会社製「アドマー QF500」を用い、層構成(左側が内層を表す):樹脂組成物(1)/Tie/PP=115μm/40μm/690μm、容量:1000mL、表面積:680cmのピンチオフ部を有するブロー成形容器を作成した。得られたブロー成形容器に容量の98%となるようにエチレングリコールを注入し、−18℃に冷却した。冷却後のブロー成形容器について、1.2mの高さから、側面が衝撃点となるように落下させる水平落下試験及び角部が衝撃点となるように落下させる対角落下試験を行なった。結果としてどちらの試験においても容器にクラックは生じず、液漏れは起きなかった。
【0131】
比較例8
EVOH(A1)、ポリプロピレン(PP)として日本ポリプロ株式会社製「ノバテックPP EA7A」、接着性樹脂(Tie)として三井化学株式会社製「アドマー QF500」を用い、層構成(左側が内層を表す):EVOH(A1)/Tie/PP=115μm/40μm/690μm、容量:1000mL、表面積:680cmのピンチオフ部を有するブロー成形容器を作成した。得られたブロー成形容器に容量の98%となるようにエチレングリコールを注入し、−18℃に冷却した。冷却後のブロー成形容器について、実施例10と同様にして水平落下試験及び対角落下試験を行なった。結果として水平落下試験において側面、対角落下試験において角部にクラックが生じ、液漏れが起きた。
【0132】
比較例9
樹脂組成物として比較例6の樹脂組成物(14)、ポリプロピレン(PP)として日本ポリプロ株式会社製「ノバテックPP EA7A」、接着性樹脂(Tie)として三井化学株式会社製「アドマー QF500」を用い、層構成(左側が内層を表す):樹脂組成物(14)/Tie/PP=115μm/40μm/690μm、容量:1000mL、表面積:680cmのピンチオフ部を有するブロー成形容器を作成した。得られたブロー成形容器に容量の98%となるようにエチレングリコールを注入し、−18℃に冷却した。冷却後のブロー成形容器について、実施例10と同様にして水平落下試験及び対角落下試験を行なった。結果としてどちらの試験においてもピンチオフ部にクラックが生じ、液漏れが起きた。