(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定の送信周期で送信信号を生成する送信部と、前記送信部で生成された前記送信信号を電波として空中に放射する送信アンテナと、前記送信アンテナから放射された電波が対象物で反射された反射波を所定距離だけ離れて受信する2以上の受信アンテナと、前記2以上の受信アンテナの少なくとも1つから受信信号を入力してデジタル値の観測データを出力する受信部と、前記受信部から前記観測データを入力して少なくとも前記対象物の距離及び相対速度を含む位置情報を算出する演算処理部と、を備えるレーダ装置であって、
さらに、前記受信アンテナと前記受信部との間に接続された選択手段と、
前記選択手段を制御する選択制御手段と、を備え、
前記選択制御手段は、
通常は前記2以上の受信アンテナから前記受信部への前記受信信号の出力を第1の切替周期に従って所定の順序でオンとオフを切替える通常の切替制御を行うように前記選択手段を制御し、
少なくとも前記演算処理部から前記位置情報を入力して所定の判定条件が成立するか否かを判定し、前記判定条件のいずれかが成立すると判定されると、前記2以上の受信アンテナからの出力を前記第1の切替周期より長い第2の切替周期に従って所定の順序でオンにする第1の切替制御と、前記2以上の受信アンテナからの出力のいずれか1つ以上をオンにし他をオフにする第2の切替制御と、前記2以上の受信アンテナからの出力のすべてをオンにする第3の切替制御と、のいずれか1つの切替制御を選択して前記選択手段を制御する
ことを特徴とするパルスレーダ装置。
前記選択制御手段は、所定の距離より遠方のみに前記対象物が検出されるかまたは相対速度が所定の速度以下であるとの前記判定条件が成立したときは、前記第1の切替制御を選択する
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
前記選択制御手段は、第1の距離より近くに前記対象物が検出されずかつ相対速度が第2の速度より高い前記対象物が検出されないとの前記判定条件が成立したときは、前記第3の切替制御を選択する
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
前記選択制御手段は、前記第1の切替周期に従って行われる通常の前記選択手段の切替が所定回数に達したとの前記判定条件が成立する毎に、前記第3の切替制御を選択する
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
前記選択制御手段は、前記第1の距離より近くに前記対象物が検出され、かつ前記第2の距離より遠方にも別の対象物が検出されたときは、前記受信部において前記受信信号をサンプリングするときの距離に応じて前記通常の切替制御または前記第3の切替制御のいずれかを選択する
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【背景技術】
【0002】
対象物を検出するレーダ装置では、対象物との距離や相対速度に加えて、レーダ装置の放射面に垂直な方向を基準軸としたときの対象物の方向を示す角度(方位角)を測定(以下では、単に測角という。)するものが知られている。このようなレーダ装置では、測角を可能とするために、基準軸の左右に所定の距離だけ離して配置された2つの受信アンテナを備えている。また、各受信アンテナで受信された受信信号を処理するために、各受信アンテナにはゲインアンプやA/D変換器等が接続されている。しかしながら、受信アンテナのそれぞれにゲインアンプやA/D変換器等を接続すると、レーダ装置が大型化し、高コストになるといった問題が生じる。
【0003】
そこで、このような問題を解決するための技術が従来より提案されている。特許文献1に記載の測角レーダ装置では、2つの受信アンテナを切替スイッチを用いて一定時間毎に交互に切り替えて接続するようにしており、ゲインアンプやA/D変換器等を2つの受信アンテナで共用させる構成としている。これにより、ゲインアンプやA/D変換器等を増設することなく測角が可能となり、コスト低減を図ることができる。また、特許文献2にも、複数のアンテナを順次切り替えて受信に用いるレーダ装置の構成が開示されている。
【0004】
2つの受信アンテナを切替スイッチを用いて切り替えるようにしたとき、例えば車両に搭載される車載用レーダ装置では、受信アンテナを切り替える時間間隔(以下では切替周期という。)を短くする必要がある。車載用レーダ装置では、対象物との相対速度が比較的高くなることから、切替周期が長いと左右の受信アンテナで受信した受信信号のタイミングのずれが無視できなくなり、移動している対象物に対して測角の誤差が大きくなるといった問題が生じる。
【0005】
一例として、パルス信号を1μs毎に放射し、その反射波を受信して位相モノパルス方式で測角を行うレーダ装置において、1回の測角の情報を取得するのに1つの受信アンテナ当たりパルス信号をN回放射させるものとする。ここで、一方の受信アンテナでN回分のパルス信号を受信した後に、他方の受信アンテナに切り替えてN回分のパルス信号を受信させるようにしたときは、左右の受信アンテナでNμsだけタイミングのずれが生じることになり、Nμsのタイミングのずれを有する受信信号を用いて測角を算出することになる。
【0006】
その結果、対象物が高な速に移動している車両等の場合には、得られた測角に大きな誤差が含まれることになる。2つの受信アンテナ間でこのような受信タイミングの大きなずれが生じるのを回避するために、従来はパルス信号の放射周期(固定値)毎に受信アンテナの切替を行っていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、切替スイッチを用いて受信アンテナの切替を行うと、切替時にスイッチングノイズが発生し、これが受信信号に混入する。そのため、受信アンテナの切替を高頻度に行う従来のレーダ装置では、対象物の位置情報を算出するのに用いる観測データに、高頻度のスイッチ切替に伴うスイッチングノイズが含まれることになる。その結果、レーダ装置の受信感度(S/N)が劣化して位置情報の精度が低下するといった問題が生じる。
【0009】
このようなスイッチングノイズにより位置情報の検知精度が低下するのを防止する方法が、特許文献2に開示されている。特許文献2では、FM−CW方式で変調された送信信号が用いられており、送信信号の周波数の上昇区間と下降区間毎に、受信に用いるアンテナの組み合わせを順次切り替えるようにしている。しかし、特許文献2に開示されているスイッチングノイズによる検知精度の低下を防止する方法は、FM−CW方式で変調された送信信号を用いるレーダ装置のみに適用できるものであり、例えば送信信号としてパル信号を用いるレーダ装置では適用できない。受信アンテナの切替を対象物の状況等に応じて行わせるようにすることで、スイッチングノイズによる影響を低減して必要な位置情報を高精度に取得できるようにしたレーダ装置については、これまで知られていない。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、対象物の状況に応じて2つの受信アンテナを好適に切り替えることで、スイッチングノイズによる影響を低減して対象物の検出を高精度に行うことが可能なレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明のレーダ装置の第1の態様は、所定の送信周期で送信信号を生成する送信部と、前記送信部で生成された前記送信信号を電波として空中に放射する送信アンテナと、前記送信アンテナから放射された電波が対象物で反射された反射波を所定距離だけ離れて受信する2以上の受信アンテナと、前記2以上の受信アンテナの少なくとも1つから受信信号を入力してデジタル値の観測データを出力する受信部と、前記受信部から前記観測データを入力して少なくとも前記対象物の距離及び相対速度を含む位置情報を算出する演算処理部と、を備えるレーダ装置であって、さらに、前記受信アンテナと前記受信部との間に接続された選択手段と、前記選択手段を制御する選択制御手段と、を備え、前記選択制御手段は、通常は前記2以上の受信アンテナから前記受信部への前記受信信号の出力を第1の切替周期に従って所定の順序でオンとオフを切替える通常の切替制御を行うように前記選択手段を制御し、少なくとも前記演算処理部から前記位置情報を入力して所定の判定条件が成立するか否かを判定し、前記判定条件のいずれかが成立すると判定されると、前記2以上の受信アンテナからの出力を前記第1の切替周期より長い第2の切替周期に従って所定の順序でオンにする第1の切替制御と、前記2以上の受信アンテナからの出力のいずれか1つ以上をオンにし他をオフにする第2の切替制御と、前記2以上の受信アンテナからの出力のすべてをオンにする第3の切替制御と、のいずれか1つの切替制御を選択して前記選択手段を制御することを特徴とする。
【0012】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記選択制御手段は、所定の距離より遠方のみに前記対象物が検出されるかまたは相対速度が所定の速度以下であるとの前記判定条件が成立したときは、前記第1の切替制御を選択することを特徴とする。
【0013】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記選択制御手段は、起動直後であるとの前記判定条件が成立したときは、前記第2の切替制御を選択することを特徴とする。
【0014】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記選択制御手段は、前記対象物が検出されないとの前記判定条件が成立したときは、前記第2の切替制御を選択することを特徴とする。
【0015】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記選択制御手段は、前記対象物の相対速度が第1の速度より高いとの前記判定条件が成立したときは、前記第2の切替制御を選択することを特徴とする。
【0016】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記選択制御手段は、第1の距離より近くに前記対象物が検出されずかつ相対速度が第2の速度より高い前記対象物が検出されないとの前記判定条件が成立したときは、前記第3の切替制御を選択することを特徴とする。
【0017】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記選択制御手段は、前記第1の切替周期に従って行われる通常の前記選択手段の切替が所定回数に達したとの前記判定条件が成立する毎に、前記第3の切替制御を選択することを特徴とする。
【0018】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記選択制御手段は、検出された前記対象物までの距離がすべて第2の距離より遠方であるとの前記判定条件が成立したときは、前記第3の切替制御を選択することを特徴とする。
【0019】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記選択制御手段は、前記第1の距離より近くに前記対象物が検出され、かつ前記第2の距離より遠方にも別の対象物が検出されたときは、前記受信部において前記受信信号をサンプリングするときの距離に応じて前記通常の切替制御または前記第3の切替制御のいずれかを選択することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、対象物の状況に応じて2つの受信アンテナを好適に切り替えることで、スイッチングノイズによる影響を低減して対象物の検出を高精度に行うことが可能なレーダ装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の好ましい実施の形態におけるレーダ装置について、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。以下では、説明簡単のため、本発明のレーダ装置が車両に搭載されて車両前方の対象物を検出する車載用レーダ装置に用いられる場合を例に説明するが、これに限定されるものではない。
【0023】
(第1実施形態)
本発明の第1の実施の形態に係るレーダ装置を、
図1を用いて以下に説明する。
図1は、本実施形態のレーダ装置100の構成を示すブロック図である。レーダ装置100は、準ミリ波帯またはミリ波帯の所定周波数の高周波信号を生成する発振器(VCO)101、送信信号を生成する送信部110、送信信号を空間に放射する送信アンテナ111、対象物で反射された反射波を受信する受信アンテナ121、122、受信アンテナ121、122から出力される受信信号のいずれか一方を選択する切替スイッチ(選択手段)123、受信信号を処理する受信部130、対象物の位置情報を算出する演算処理部140、及び切替スイッチ123を制御するスイッチ制御部(選択制御手段)150を備えている。
【0024】
送信部110は、VCO101から入力した高周波信号でアップコンバートした送信信号を所定の送信周期で生成し、これを送信アンテナ111に出力する。送信部110は、例えばVCO101から入力した高周波信号を所定の時間幅だけ切り出してパルス信号を生成し、これを送信信号に用いることができる。このパルス信号を、例えば1μsの送信周期で生成して送信アンテナ111に出力するように構成することができる。送信アンテナ111は,送信部110から送信信号を入力すると、これを送信波として空間に放射する。なお、送信信号はパルス信号に限定されるものではなく、また送信周期も1μsに限定されるものではない。
【0025】
送信アンテナ111から放射された送信波は、放射方向に対象物があると該対象物で反射され、反射波の一部が受信アンテナ部121、122で受信される。受信アンテナ121、122で受信された受信波は、受信信号として受信部130に出力される。本実施形態のレーダ装置100では、対象物の方向である角度を検知可能とするために、2つの受信アンテナ121、122を備えている。また、受信アンテナ121、122から出力される受信信号のいずれか一方を選択して受信部130に出力するために、切替スイッチ123が設けられている。
【0026】
受信部130は、ミキサ131、増幅器132、及びA/D変換器133を有しており、受信アンテナ121、122から出力される受信信号のいずれか一方を切替スイッチ123から入力して所定の処理を行う。切替スイッチ123から入力された受信信号は、ミキサ131でVCO101から入力した高周波信号によりベースバンドの受信信号にダウンコンバートされる。ベースバンドの受信信号は、増幅器132で増幅され、A/D変換器133でデジタル値に変換される。受信部130は、受信アンテナ121、122から出力される受信信号のいずれか一方のみを切替スイッチ123から入力することから、受信信号の処理に必要なミキサ131、増幅器132、及びA/D変換器133を1系統のみ有しておればよく、低コスト化を図ることができる。
【0027】
演算処理部140は、受信部130から受信信号のデジタル値である観測データを入力し、これを基に対象物との距離、相対速度、及び対象物の方向である角度を算出する。対象物の角度は、レーダ装置100の左右に配置された受信アンテナ121、122のそれぞれの受信信号を用いて算出される。これに対し、受信部130から演算処理部140に出力される観測データは、受信アンテナ121、122から出力される受信信号のいずれか一方であることから、切替スイッチ123を適宜切り替えることで、受信アンテナ121、122の両方の受信信号を受信部130に出力させている。そのため、演算処理部140は、受信部130から出力される観測データが受信アンテナ121、122のいずれから出力された受信信号のものかを判定する必要がある。
【0028】
そこで、上記の判定を行うために、演算処理部140は、スイッチ制御部150から切替スイッチ123に出力される切替スイッチ制御信号を入力している。これにより演算処理部140は、受信部130から入力する観測データを、切替スイッチ制御信号に基づいて受信アンテナ121からのものと受信アンテナ122からのものとに識別して取得することができ、受信アンテナ121、122のそれぞれに対応する観測データを用いて対象物の角度を算出している。
【0029】
本実施形態のレーダ装置100では、スイッチ制御部150が切替スイッチ123を所定の周期で切り替えるだけでなく、切替スイッチ123の切替周期を対象物の位置情報等に基づいて好適に変更するように構成されている。以下では、スイッチ制御部150が切替スイッチ123の切替周期を、対象物の位置情報に基づいて好適な周期に変更する方法について説明する。
【0030】
対象物の角度を高精度に算出するためには、受信アンテナ121、122のそれぞれから得られる観測データが、できるだけ近いタイミングで受信された受信信号から算出したものである必要がある。そこで、対象物の角度を高精度に算出する必要があるときは、切替スイッチ123をできるだけ短い周期で切り替えるのがよく、スイッチ制御部150は、例えば送信周期毎に切替スイッチ123を切り替えるようにするのがよい。一方、切替スイッチ123の切替にともなってスイッチングノイズが発生することから、切替スイッチ123の切替周期を短くして高頻度に切替を行うと、受信感度(S/N)が劣化して距離や相対速度の精度が低下することになる。
【0031】
そこで、本実施形態のレーダ装置100では、対象物の角度を高精度に求める必要がないときは、スイッチ制御部150が切替スイッチ123を切り替える周期を長くすることで、スイッチングノイズの発生頻度を低減して受信感度を向上させるようにしている。これにより、対象物の角度の精度は低下するものの、対象物との距離及び相対速度を高精度に算出することが可能となる。
【0032】
切替スイッチ123の切替周期は、スイッチ制御部150で変更するようにすることができる。例えば、スイッチ制御部150は、対象物の角度の算出精度を優先するか、あるいは対象物との距離及び相対速度の算出精度を優先するか、の判定を、演算処理部140から対象物の位置情報を入力して行う。そして、対象物の角度の算出精度を優先するときは、切替スイッチ123の切替周期を短くする一方、対象物との距離及び相対速度の算出精度を優先するときは、切替スイッチ123の切替周期を長くする。一例として、スイッチ制御部150は、切替スイッチ123の切替周期を短くするときは送信周期と同じとし、切替周期を長くするときは送信周期の2倍、3倍、・・・のように送信周期の整数倍の周期とすることができる。
【0033】
スイッチ制御部150において、対象物の角度の算出精度より対象物との距離及び相対速度の算出精度を優先する条件として、例えば検出された対象物が遠方にある、あるいは対象物との相対速度が低い、と判定されるものがある。この判定条件が成立するときは、対象物がレーダ装置100を搭載した車両に接近するまでに時間的余裕があることから、対象物の角度が多少ずれていても直ちに衝突等の危険はない。むしろ、対象物との距離及び相対速度を高精度に算出して対象物が接近するまでの時間的余裕をより高精度に判定できるようにするのが望まれる。
【0034】
これに対し、検出された対象物が近距離にある、あるいは対象物との相対速度が高い、との判定条件が成立するときは、対象物と衝突するまでの時間的余裕が少ないことから、対象物の角度を高精度に算出して対象物と衝突するおそれがあるかを高精度に判定できるようにするのが望ましい。このように、スイッチ制御部150は、演算処理部140から入力した対象物の位置情報をもとに、対象物の角度の算出精度と距離及び相対速度の算出精度のいずれを優先するかを判定し、その判定結果に基づいて切替スイッチ123の切替周期を好適な周期に変更し、この好適な切替周期に従って切替スイッチ123を切替制御している。
【0035】
本実施形態のレーダ装置100において、主に演算処理部140及びスイッチ制御部150で行われる処理の流れを
図2に示す。ここでは、演算処理部140で対象物の位置情報が算出される毎に、スイッチ制御部150が演算処理部140から位置情報を入力し、これを基に切替スイッチ123の切替周期を変更するようにしている。
図2では、スイッチ制御部150で行われる処理を1点鎖線で囲んで示している。なお、レーダ装置100が起動された直後の対象物の位置情報が取得される前の状態では、切替スイッチ123の切替周期に所定の初期値が設定されているものとする。
【0036】
レーダ装置100が起動された後は、レーダ装置100が停止されるまで以下の処理を送信周期毎に行う。まずステップS1において、送信部110で送信信号(ここでは、パルス信号としている。)が生成されて送信アンテナ111から放射されると、ステップS2において、受信アンテナ121または122から入力した受信信号を、対象物との距離に相当する距離ゲート毎に積分する。
【0037】
ステップS3では、ステップS2における距離ゲート毎の積分が所定回数行われたかを判定し、所定回数分だけ積分が行われたと判定されたときは、距離ゲート毎の積分値を当該のFFTポイントにおける積分値として保存する。これに対し、所定の積分回数に達していないと判定されると、演算処理部140での処理を終了してスイッチ制御部150のステップS13に進む。
【0038】
FFTポイント数は、所定の積分回数の積分値が算出される毎に1が加算され、ステップS4でFFTポイント数が所定の規定数に達したかの判定が行われる。ステップS4では、FFTポイント数が所定の規定数に達したと判定されると次のステップS5に進み、規定数に達していないと判定されると演算処理部140での処理を終了してスイッチ制御部150のステップS13に進む。なお、FFTポイント数は、後述のステップS5のFFT処理が完了するとゼロに初期化される。
【0039】
ステップS5では、距離ゲート毎にFFTポイント規定数の積分値を用いてFFT処理が行われる。その後、FFTポイント数を初期化した後ステップS6に進む。ここでは、距離ゲート毎のサンプリングを等価サンプリングの手法を用いて行うものとしており、ステップS6では、等価サンプリングの回数が所定の等価サンプリング数に達したかを判定している。判定の結果、所定の等価サンプリング数に達しているときはステップS8に進み、所定の等価サンプリング数に達していないときはステップS7に進む。
【0040】
ステップS7では、サンプリングするタイミングを所定時間だけずらす等価サンプリング処理を行ったのち、演算処理部140での処理を終了してスイッチ制御部150のステップS13に進む。一方、ステップS8に進んだときは、すべての距離ゲートのデータを用いて対象物の有無を判定し、対象物が検出されたときは、該対象物との距離、相対速度、及び角度を算出する。算出されたデータは、対象物の位置情報として例えば所定の表示部等に出力するとともに、スイッチ制御部150に出力する。
【0041】
スイッチ制御部150では、演算処理部140から対象物の位置情報を入力すると、ステップS11において、該位置情報をもとに切替スイッチ123の切替周期の変更を行うための判定条件が成立するか否かを判定する。その結果、切替周期変更の判定条件が成立するときはステップS12に進み、成立しないときはステップS13に進む。ステップS12では、成立する切替周期変更の判定条件に従って切替周期を好適なものに変更する。その後、ステップS13に進む。
【0042】
ステップS13では、次の送信周期から切替スイッチ123を切り替える切替周期か否かを判定しており、この判定を送信周期毎に行っている。ステップS13で切替周期と判定されたときは、切替スイッチ123を切り替えて当該の送信周期における処理を終了する。これにより次回の送信周期からは、当該送信周期で受信信号を入力した受信アンテナとは別の受信アンテナから受信信号を入力することになる。これに対し、ステップS13で切替周期でないと判定されたときは、切替スイッチ123の切り替えを行わずに当該の送信周期における処理を終了する。これにより、次回の送信周期でも当該送信周期で受信信号を入力した受信アンテナと同じ受信アンテナから受信信号を入力させる。
【0043】
上記説明のように、本実施形態のレーダ装置100によれば、対象物の状況に応じて2つの受信アンテナ121、122の切替周期を好適に変更することで、スイッチングノイズによる影響を低減して対象物の検出を高精度に行うことが可能となる。
【0044】
(第2実施形態)
本発明の第2の実施の形態に係るレーダ装置を、
図3を用いて以下に説明する。
図3は、本実施形態のレーダ装置200の構成を示すブロック図である。第1実施形態のレーダ装置100では、受信アンテナ121、122から出力される受信信号を所定の切替周期で交互に切り替えるための切替スイッチ123が設けられていたのに対し、本実施形態のレーダ装置200では、受信アンテナ121、122のそれぞれに切替スイッチ223、224が接続されている。
【0045】
第1実施形態では、対象物の位置情報等に基づいて切替スイッチ123を切り替える切替周期を好適に変更するように構成されていたのに対し、本実施形態のレーダ装置200では、切替スイッチ223、224を用いて受信アンテナ121、122からの入力をそれぞれで独立して制御できるようにしている。切替スイッチ223、224の切替制御は、スイッチ制御部250により行われる。スイッチ制御部250による切替スイッチ223、224の切替制御の一例を以下に説明する。
【0046】
スイッチ制御部250は、演算処理部140から入力した対象物の位置情報を基に所定の判定条件が成立するか否かを判定することで、切替スイッチ223、224を以下のように切替制御することができる。
(1)切替スイッチ223、224のいずれか一方がオン、他方がオフの状態を継続さ せる。
(2)切替スイッチ223、224の両方がオンの状態を継続させる。
(3)切替スイッチ223、224を交互に切り替えるか、または両方をオンにするか を距離に応じて変更する。
【0047】
上記(1)〜(3)の切替制御を行うための判定条件の一例を以下に説明する。
まず、上記(1)の制御では、受信アンテナ121、122のいずれか一方の受信信号のみが演算処理部140に入力されるため、対象物の角度を算出することはできない。しかしながら、一方の受信信号のみを入力して対象物を検出するときは、2つの受信アンテナ121、122の受信信号を交互に入力して対象物を検出するときと比べて、半分の送信サイクル数で対象物との距離及び相対速度を算出することができる。すなわち、受信アンテナ121、122のいずれか一方の受信信号のみを入力するようにすることで、対象物の位置情報(角度を除く)を更新する更新レートを半分に短縮することが可能となる。
【0048】
対象物の位置情報の更新レートを短縮することが望まれる状況として、例えば、レーダ装置200を起動した直後の位置情報をいち早く取得する必要がある場合、相対速度が所定の速度(第1の速度)より高い場合、あるいは対象物が検出されていない場合、等が考えられる。そこで、本実施形態のレーダ装置200では、上記のような短い更新レートが要求される状況を判定条件としてあらかじめ設定しておき、スイッチ制御部250において該判定基準が成立するか否かを演算処理部140から入力した対象物の位置情報を基に判定する。そして、判定基準が成立するとき、切替スイッチ223、224のいずれか一方をオン、他方をオフに制御する。切替スイッチ223、224のいずれをオンにするかは、あらかじめ決めておくことができる。
【0049】
次に上記(2)の制御では、受信アンテナ121、122の両方の受信信号が同時に受信部130に入力され、両方の受信信号を加算してデジタル変換した値が演算処理部140に入力される。そのため、上記(1)の制御の場合と同様に、上記(2)の制御でも対象物の角度を算出することはできないが、2つの受信アンテナ121、122の受信信号を交互に入力して対象物を検出するときに比べて、半分の送信サイクル数で対象物との距離及び相対速度を算出することができる。すなわち、受信アンテナ121、122の両方の受信信号を同時に入力するようにすることで、対象物の位置情報(角度を除く)を更新する更新レートを半分に短縮することが可能となる。
【0050】
これに加えて上記(2)の制御では、受信アンテナ121、122の両方の受信信号を加算した信号が位置情報の算出に用いられることから、信号強度が略2倍になることで、より遠方までの対象物を検出することが可能となる。そこで、より遠方までの距離ゲートをあらかじめ用意しておき、上記(2)の制御が行われるときは、より遠方の距離ゲートも用いて遠方の対象物まで観測できるようにすることができる。
【0051】
上記(2)の制御が行われる状況として、例えば、所定の距離(第1の距離)より近傍に対象物がなく急速に近づいてくる(相対速度が第2の速度より高い)対象物もない場合には、より遠方まで対象物の検出が行えるようにしておくのが好ましい。また、送信波に対する反射強度が低い対象物を検出できるようにすることも考えられる。また、受信アンテナ121、122からの受信信号が交互に受信部130に入力される通常の動作を行っているとき、送信周期の例えば100回に1回程度の頻度でより遠方の対象物も検出できるようにすることが考えられる。このような頻度で上記(2)の制御を行うことで対象物の角度が検知できない周期が発生しても、通常の動作による角度検知には影響を与えない。
【0052】
さらに、レーダ装置200の通常の動作で対象物の角度を検知しているとき、遠方の対象物がいずれもほぼ正面(角度が略ゼロ)に検出される場合には道路がほぼ直線であると判定することができ、この場合にはより遠方までの対象物を検出できるように、上記(2)の制御を行うことが考えられる。上記の各状況を判定条件としてあらかじめ設定しておくことで、上記(2)の制御を適切に行わせることができる。
【0053】
次に上記(3)の制御では、対象物との距離に応じて、すなわち近距離にある対象物を検出するための距離ゲートと遠距離にある対象物を検出するための距離ゲートに応じて、切替スイッチ223、224を制御する。近距離にある対象物を検出するための距離ゲートに対しては、対象物の角度が検知できるように受信アンテナ121、122からの受信信号を交互に切り替えて入力する(通常の動作)。一方、遠距離にある対象物を検出するための距離ゲートに対しては、上記(2)の制御のように、切替スイッチ223、224を共にオンにして信号強度を高くすることで、遠方の対象物を高感度に検出できるようにする。距離ゲートは、送信信号が出力されてから所定時間(近距離と遠距離とを判別するための距離に相当)が経過するまでにサンプリングされるのが近距離にある対象物を検出するための距離ゲートであり、それ以降にサンプリングされるのが遠距離にある対象物を検出するための距離ゲートである。上記(3)の制御は、例えば近距離と遠距離の両方に対象物が検知されたときに行わせるようにすることができる。
【0054】
上記(1)〜(3)の制御を組み合わせることにより、状況に応じて2つの受信アンテナ223、224を好適に切り替える本実施形態のレーダ装置200の動作の一例を、
図4を用いて以下に説明する。
図4は、本実施形態のレーダ装置200において、主にスイッチ制御部250で行われる処理の流れを示しており、演算処理部140等における処理(ステップS1〜S8)は第1実施形態と同じとして詳細を省略している。また
図4でも、スイッチ制御部250で行われる処理を1点鎖線で囲んで示している。
【0055】
図4に示す本実施形態のレーダ装置200の動作の一例では、上記(1)〜(3)の切替制御を選択するための条件が成立するかを判定し、判定条件が成立する切替制御に対しては、判定条件の評価結果に基づいて優先度を算出するようにしている。これにより、(1)〜(3)の切替制御を選択するための判定条件が2以上成立するとき、優先度の最も高い切替制御を選択するようにしている。切替制御の優先度の一例として、対象物までの距離や相対速度等を用いて算出するようにすることができる。
【0056】
レーダ装置200では、起動直後のステップS20でまず切替スイッチ223、224のいずれか一方をオン、他方をオフにし(上記(1)の制御)、その後第1実施形態と同様のステップS1〜S8の処理を行う。ここで、ステップS3、S4及びS6のいずれかの判定が成立せずステップS8の処理が行われないときは、次にステップS32に進む。一方、ステップS3、S4及びS6のすべての判定が成立してステップS8で対象物情報の更新が行われると、次にステップS21に進む。
【0057】
なお、以降のスイッチ制御部250の処理で上記(3)の制御、すなわち後述のステップS30で「切替スイッチを距離ゲート毎に切替」が選択されたときは、次の送信周期のステップS2における距離ゲート毎の積分は、近距離の距離ゲートに対しては切替スイッチ223、224を交互にオンにして行われ、遠距離の距離ゲートに対しては両方ともオンにして行われる。
【0058】
ステップS21では、対象物情報の更新結果より対象物が検出されなかったかを判定する。その結果、対象物が検出されなかったときは、ステップS22で切替スイッチ223、224のいずれか一方をオンにし、他方をオフにする切替制御(上記(1)の制御)を選択し、それとともに該切替制御の優先度を算出する。その後、ステップS24に進む。
【0059】
これに対し、ステップS21で対象物が検出されたと判定されたときは、ステップS23で対象物の相対速度が高速であるかを判定する。その結果、高速と判定されたときにもステップS22に進む。なお、これに代えて、高速と判定されたときは通常の動作である切替スイッチ223、224を所定の切替周期で交互にオンにする制御を選択するようにしてもよい。一方、ステップS23で対象物の相対速度が高速でないと判定されたときは、次にステップS24に進む。
【0060】
ステップS24では、所定の距離より遠方のみに対象物が検出されたかを判定し、遠方のみに対象物が検出されたと判定されたときは、ステップS25において、切替スイッチ223、224の両方をオンにする切替制御(上記(2)の制御)を選択し、それとともに該切替制御の優先度を算出する。その後、ステップS26に進む。これに対し、ステップS24で所定の距離以内に対象物が検出されたと判定されたときは、ステップS26に進む。
【0061】
ステップS26では、近距離のみに対象物が検出されたかを判定し、近距離のみに対象物が検出されたと判定されたときは、ステップS27において、所定の切替周期で切替スイッチ223、224を交互にオンにする通常の切替制御を選択し、それとともに該切替制御の優先度を算出する。さらにステップS28において、通常の切替制御のサイクル数が所定の回数(たとえば100回)に達したかを判定し、所定の回数に達したと判定されたときは、ステップS29で切替スイッチ223、224の両方をオンにする切替制御(上記(2)の制御)を選択し、それとともに該切替制御の優先度を算出する。その後、ステップS31に進む。また、ステップS28において所定の回数に達していないと判定されたときは、ステップS31に進む。
【0062】
一方、ステップS26において近距離のみでなく遠方にも対象物が検出されたと判定されたときは、ステップ30で切替スイッチを距離ゲート毎に切替える切替制御(上記(3)の制御)を選択し、それとともに該切替制御の優先度を算出する。その後、ステップS31に進む。ステップS31では、ステップS22、S25、S27、S29、及びS30のそれぞれで選択された切替制御のうち、優先度の最も高いものを最終的に選択する。そして、ステップS32において、最終的に選択された切替制御に従って切替スイッチを制御する。なお、ステップS3、S4及びS6のいずれかの判定が成立せずステップS32に進んだときは、当該送信周期より以前に選択された切替制御に従って切替スイッチを制御する。
【0063】
図4に示す処理の流れでは、上記(1)〜(3)の切替スイッチ223、224の制御をすべて含むように組み合わせた一例を示したが、これに限定されず、一部の切替制御のみから選択するようにしてもよい。また、対象物の位置情報だけでなく、例えばGPS等の外部からの情報を用いた判定条件を設定しておき、これらの判定条件の成否に従って上記(1)〜(3)の切替制御を行わせるようにすることも可能である。
【0064】
上記説明のように、本実施形態のレーダ装置200によれば、対象物の状況に応じて2つの受信アンテナを好適に切り替えることで、スイッチングノイズによる影響を低減して対象物の検出を高精度に行うことが可能なレーダ装置を提供することができる。
【0065】
なお、上記実施形態の説明では、受信アンテナを2つとして説明したが、これに限定されずさらに多くの受信アンテナを備えていてもよい。さらに多くの受信アンテナを、所定の順序で切替スイッチを用いて適宜切り替えるようにすることができる。本実施の形態における記述は、本発明に係るレーダ装置の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態におけるレーダ装置の細部構成及び詳細な動作などに関しては送信部、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。