特許第6169432号(P6169432)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大阪瓦斯株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧 ▶ 日東電工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6169432-加湿器 図000002
  • 特許6169432-加湿器 図000003
  • 特許6169432-加湿器 図000004
  • 特許6169432-加湿器 図000005
  • 特許6169432-加湿器 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6169432
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】加湿器
(51)【国際特許分類】
   F24F 6/04 20060101AFI20170713BHJP
   F24F 6/14 20060101ALI20170713BHJP
   F24F 6/00 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   F24F6/04
   F24F6/14
   F24F6/00 E
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-155736(P2013-155736)
(22)【出願日】2013年7月26日
(65)【公開番号】特開2015-25619(P2015-25619A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年7月21日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名 大阪大学工学部機械工学科 平成24年度 卒業研究発表会 開催場所 大阪大学 吹田キャンパス M4棟−101講義室(大阪府吹田市山田丘2−1) 開催日 平成25年2月20日 〔刊行物等〕発行者名 一般社団法人日本機械学会 関西学生会 刊行物名 関西学生会 学生員卒業研究発表講演会 講演前刷集 発行年月日 平成25年3月15日 〔刊行物等〕集会名 日本機械学会 関西学生会 平成24年度学生員卒業研究発表講演会 開催場所 大阪工業大学 大宮キャンパス 1号館3階 講演室7(大阪府大阪市旭区大宮5−16−1) 開催日 平成25年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120352
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100128901
【弁理士】
【氏名又は名称】東 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】岸本 章
(72)【発明者】
【氏名】久角 喜徳
(72)【発明者】
【氏名】堀 司
(72)【発明者】
【氏名】後藤 稔
(72)【発明者】
【氏名】井上 健郎
(72)【発明者】
【氏名】福島 玉青
【審査官】 河内 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−121332(JP,A)
【文献】 実開昭63−137223(JP,U)
【文献】 特開平05−248689(JP,A)
【文献】 特開2006−162167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 6/00−6/18,11/00−11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加湿対象の空気を通過させ加湿する加湿エレメントと、当該加湿エレメントに水分を供給可能に構成された加湿器であって、
前記加湿エレメントが、親水性を有するシート状部材の複数を、シート面を全体として水平方向として、鉛直方向で互いに離間した状態で備えるとともに、当該複数の前記シート状部材間に前記加湿対象の空気が通流可能な空気通流路を形成して成り、
前記複数のシート状部材に対し拡散状態で水を噴霧する水噴霧手段と、
前記加湿対象の空気の通流方向で前記加湿エレメントの上流側及び下流側において、前記加湿対象の空気の温度を測定する温度測定手段と、
前記加湿対象の空気の通流方向で前記加湿エレメントの上流側において、前記加湿対象の空気の相対湿度を測定する湿度測定手段とを備え、
前記温度測定手段及び前記湿度測定手段の測定結果に基づいて、前記水噴霧手段による水噴霧状態を制御する水噴霧制御手段を備える加湿器。
【請求項2】
前記水噴霧制御手段は、前記水噴霧手段による水噴霧を間欠的に噴霧動作制御可能に構成され、
前記水噴霧制御手段は、前記温度測定手段により測定された前記加湿エレメントの上流側の温度、前記加湿エレメントの下流側の温度、及び前記湿度測定手段により測定された前記加湿エレメントの上流側の相対湿度に基づいて、前記加湿エレメントでの前記加湿対象の空気の飽和効率を導出すると共に、前記飽和効率が100%未満の目標飽和効率となるように、前記水噴霧手段による水噴霧の間欠時間間隔を制御する請求項1に記載の加湿器。
【請求項3】
前記水噴霧制御手段は、前記水噴霧手段による水噴霧を間欠的に噴霧動作制御可能に構成され、
前記水噴霧制御手段は、前記温度測定手段により測定される前記加湿エレメントの上流側の空気の温度が判定温度閾値より高く、前記湿度測定手段により測定される前記加湿エレメントの上流側の空気の相対湿度が判定湿度閾値より低い場合に、前記水噴霧手段による水噴霧を実行する請求項1又は2に記載の加湿器。
【請求項4】
前記水噴霧制御手段は、前記水噴霧手段による水の噴霧を間欠的に噴霧動作制御可能に構成され、
前記加湿エレメントを通過する加湿対象の空気の流量を測定する空気流量測定手段を備え、
前記水噴霧制御手段は、前記空気流量測定手段による空気の流量の測定結果、及び予め求められている空気の流量と前記水噴霧手段による水噴霧の間欠時間間隔との関係に基づいて、加湿後の空気の加湿状態が目標とする加湿状態となるように、前記間欠時間間隔を制御する請求項1〜3の何れか一項に記載の加湿器。
【請求項5】
前記水噴霧制御手段による前記噴霧動作制御は、単位噴霧当たりの前記水噴霧手段による水噴霧量を一定とするとともに、前記単位噴霧動作を行う時間間隔を前記間欠時間間隔として制御する請求項2又は4に記載の加湿器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加湿対象の空気を通過させ加湿する加湿エレメントと、当該加湿エレメントに水分を供給可能に構成された加湿器に関する。
【背景技術】
【0002】
加湿器は、家庭用・業務用の各所で利用されており、家庭用の加湿器の加湿方式には、スチーム式、ハイブリッド式、気化式、超音波式がある。
スチーム式は、水を加熱した蒸気によって加湿する方式である。当該方式では、加湿能力が高く急加湿できるが消費電力が大きい。当該スチーム式の加湿器としては、主に水タンク、蒸発布、加熱筒、送風ファン、フィルタ、プラズマイオン発生器などで構成され、加湿能力350mL/hの製品では、洋室10畳に対応でき、その消費電力は150W〜250W、タンク容量は約2.8Lで、連続加湿時間は約8時間以上、サイズは高さ245×幅202×奥行き250(容積12.4L)とコンパクト、湿度設定は40〜65%で可能な三菱重工業株式会社の製品が知られている。
気化式は、水を含んだ加湿フィルタに送風し加湿する方式で、当該方式では、風量が少ないと加湿能力が低く加湿に時間がかかるが消費電力が少ない。また、相対湿度が上がり飽和状態に達すると加湿量が自然に下がり、結露が起こりにくく、加熱しないので安全である。当該気化式の加湿器としては、主に水タンク、加湿フィルタ、送風ファン、イオン除菌ユニットなどで構成され、加湿能力強700mL/hの製品では、洋室19畳に対応でき、その消費電力は12W〜24W、タンク容量は約4.2Lで、連続加湿時間は約6時間、サイズは高さ350×幅383×奥行き230(容積30.8L)、湿度設定は3段階で、ファン風量設定による自動運転機能を有するPanasonic株式会社の製品が知られている。
ハイブリッド式は、ヒーターで水あるいは空気を温め、湿式フィルタに送風して加湿する方式であり、スチーム式と気化式の中間的な性能・特徴をもつ。当該ハイブリッド式の加湿器としては、加湿能力500mL/hで、洋室14畳に対応でき、その消費電力は25W〜168W、タンク容量は約4Lで、連続加湿時間は標準8時間、サイズは高さ375×幅375×奥行き190(容積34.6L)、湿度設定は50〜70%で可能なダイニチ工業株式会社の製品が知られている。
超音波式は、超音波振動で水を霧状の微粒子にして吐出口から拡散させる方式である。当該超音波式の加湿器の原理は、水等の液体に超音波の振動エネルギーを与え、液面や液内部に周波数固有のキャピラリ波やキャビテーションを発生させることにより、液面に無数の毛細表面波を作り、液体の表面張力を減少させ、規則的分裂を行うことで、水の霧化を行うというものである。当該超音波式の課題としては、噴霧能力は高いが、気化していないので周囲が濡れる場合がある。また、吐出口の温度は、タンクの水とほぼ同程度の低い温度であり、雑菌が繁殖し易いため、こまめなメインテナンスが必要である。当該超音波式の加湿器としては、加湿能力300ml/hで、送風ファンを内蔵し、洋室8畳に対応でき、その消費電力は38W、タンク容量は約3.3Lで、連続加湿時間は最大10時間、サイズは高さ355×幅246×奥行き246(容積21.5L)、水の霧化量は無段階で調整可能な、株式会社アピックスインターナショナルの製品が知られている。
【0003】
一方、業務用の加湿器としては、特許文献1の図10に示されるように、加湿前の空気を吸い込む吸込口と、加湿後の空気を吹出する吹出口とを有する筐体と、当該筐体の内部に空気を通過可能な状態で、そのシート面を鉛直方向に沿って設けられるシート状の複数の加湿エレメントと、当該加湿エレメントに対して水を噴霧する噴霧ノズルと、加湿エレメントの下方に流出するドレン水を筐体の外部に排出する排出口とを、備えたものが知られている(特許文献1を参照)。
このような業務用の加湿器においては、通常、厚生労働省の「建築物等におけるレジオネラ症防止対策について:非特許文献1」に示されるように、レジオネラ属菌等の雑菌の繁殖を抑制すべく、上記ドレン水は再度噴霧されることなくそのまま排水として処理される。
【0004】
また、加湿器に用いられる加湿エレメントとしては、特許文献2の図2に示されるように、平板状の加湿シートと波形状の加湿シートとをそのシート面を略水平状態として、上下の加湿エレメントが互いに接触する状態で、交互に積層されたものが知られている(特許文献2を参照)。
【0005】
さらに、夏場のピーク電力の低減を図るべく、環境省の「実証試験結果報告書:非特許文献2」に示されるように、エアコンの室外機の空気取入口に水を噴霧する装置(オーケー器材株式会社、スカイエネカット(登録商標))が知られている。
当該非特許文献2によれば、上記装置では、水道水を用いて高圧ポンプにて昇圧することなく、室外機の空気取入口の近傍に水を噴霧するため、微細水滴の気化による取り込み空気の温度低下は僅かで、室外機の冷媒凝縮器の伝熱フィンに付着した水滴の蒸発効果で3〜4℃冷媒の凝縮温度を下げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−102887号公報
【特許文献2】実開平05−010924号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1111/h1126−2_13.html#no1−2
【非特許文献2】http://www.env.go.jp/policy/etv/pdf/list/h16/02_e_3.pdf
【非特許文献3】http://home.osakagas.co.jp/search_buy/aircure/about/index.html#kaiteki
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した家庭用の加湿器では、所定の期間(例えば1日)ごとに、タンクに水を補給する必要があり、使用上の手間が大きいという問題がある。また、スチーム式、気化式、及びハイブリッド式では、常時水で濡れた加湿フィルタに雑菌等が繁殖することを防止するため、例えばクエン酸等で定期的に洗浄する必要がある。
さらに、気化式では、送風ファンの風量、導入空気(加湿器に吸い込む空気)の温度・相対湿度、及び加湿フィルタの仕様により加湿量が決まる。ここで、導入空気の温度・相対湿度は制御できず、加湿フィルタの仕様は予め決定したものであるため、加湿量を増加させるためには、送風ファンの風量を増やす必要があり、使用者の所望する風量を設定しながら、所望の加湿量の空気を得ることができなかった。
【0009】
また、上記特許文献1に示される加湿器では、加湿エレメントのシート状部材のシート面が、鉛直方向に沿って設けられているため、当該シート状部材に噴霧された水のうち多くが気化することなく、そのシート面に沿って下方に流下しドレンとして排出されており、水道代等を含む経済性の観点から好ましいとは言えなかった。
一方、特許文献2に示される加湿器では、加湿エレメントとしてのシート状部材が、そのシート面を略水平方向としているものの、平板状のシート状部材と波形状のシート状部材とが互いに接触する状態で交互に積層されたものであるから、これらのシート状部材に噴霧又は供給される水は、鉛直方向でシート状部材が接する部分を介して下方に流下し、その多くがドレン水として排出されるという課題があった。
また、非特許文献2に示される技術においても、フィンが垂直に配置されているため、伝熱フィンに付着した水滴は、おおよそ半分がドレンとなり、消費電力の削減メリットの約60%が水道代のコストに充てられると試算されており、経済性の観点で問題があった。
【0010】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、使用者に水補給や洗浄等の手間をとらせることなく、所望の空気風量において当該空気を十分に加湿することができながらも、ドレン水の発生を防止可能な加湿器を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための加湿器は、加湿対象の空気を通過させ加湿する加湿エレメントと、当該加湿エレメントに水分を供給可能に構成された加湿器であって、その特徴構成は、
前記加湿エレメントが、親水性を有するシート状部材の複数を、シート面を全体として水平方向として、鉛直方向で互いに離間した状態で備えるとともに、当該複数の前記シート状部材間に前記加湿対象の空気が通流可能な空気通流路を形成して成り、
前記複数のシート状部材に対し拡散状態で水を噴霧する水噴霧手段と、
前記加湿対象の空気の通流方向で前記加湿エレメントの上流側及び下流側において、前記加湿対象の空気の温度を測定する温度測定手段と、
前記加湿対象の空気の通流方向で前記加湿エレメントの上流側において、前記加湿対象の空気の相対湿度を測定する湿度測定手段とを備え、
前記温度測定手段及び前記湿度測定手段の測定結果に基づいて、前記水噴霧手段による水噴霧状態を制御する水噴霧制御手段を備える点にある。
【0012】
上記特徴構成によれば、加湿対象の空気を通過させ加湿する加湿エレメントを、親水性を有するシート状部材の複数を、シート面を全体として水平方向として備えて構成しているから、夫々のシート状部材に噴霧された水は、シート面を全体として水平方向に保たれたシート状部材の夫々にて保持され、鉛直方向で下方に流下し難くなる。
更に、複数のシート状部材は、鉛直方向で互いに離間した状態で設けられているから、各シート状部材に噴霧された水が、各シート状部材をつたって、鉛直方向で連続して流下することを、より一層良好に防止できる。
更に、複数のシート状部材の鉛直方向で形成された隙間を、加湿対象の空気が通流する空気通流路としているから、当該隙間において、鉛直方向で水がその表面張力によりブリッジを形成することを効果的に防止できる。このようにして、ドレン水の発生を効果的に防止しているのである。
一方、加湿対象の空気にあっては、シート面を全体として水平に保たれて十分な湿潤状態を保つシート状部材間に形成される空気流通路を通流することで、十分に加湿されることとなる。しかも、シート状部材は、親水性を有するため、シート面全体に亘って広く水を保持することができる。」
このように構成された加湿エレメントに対し、水噴霧制御手段は、当該加湿エレメントの上流側及び下流側の温度、及び上流側の相対湿度に基づいて水噴霧手段による水噴霧状態を制御するから、例えば、加湿前の空気(導入空気)の温度・相対湿度、及び加湿後の空気の温度から、ドレン水の発生を予測して、当該予測に基づいて水噴霧状態を制御することで、ドレン水の発生を良好に制御できる。
以上より、本発明によれば、使用者に水補給や洗浄等の手間をとらせることなく、所望の空気風量において当該空気を十分に加湿することができながらも、ドレン水の発生を防止可能な加湿器を実現できる。
【0013】
本発明の加湿器の更なる特徴構成は、
前記水噴霧制御手段は、前記水噴霧手段による水噴霧を間欠的に噴霧動作制御可能に構成され、
前記水噴霧制御手段は、前記温度測定手段により測定された前記加湿エレメントの上流側の温度、前記加湿エレメントの下流側の温度、及び前記湿度測定手段により測定された前記加湿エレメントの上流側の相対湿度に基づいて、前記加湿エレメントでの前記加湿対象の空気の飽和効率を導出すると共に、前記飽和効率が100未満の目標飽和効率となるように、前記水噴霧手段による水噴霧の間欠時間間隔を制御する点にある。
【0014】
上記特徴構成によれば、加湿器の加湿エレメントからドレン水が発生する状態か否かを判断する指標として、従来から加湿器の加湿性能を示す指標として用いられている飽和効率を採用している。
説明を追加すると、上記特徴構成によれば、水噴霧制御手段が、水噴霧手段による水噴霧の間欠時間間隔を制御する間欠動作制御を、加湿対象の空気の流れ方向で、加湿エレメントの上流側の温度、加湿エレメントの下流側の温度、及び加湿エレメントの上流側の相対湿度とから導出される飽和効率(加湿エレメントを通過前後での加湿程度を示す指標)に基づいて実行する。
ここで、飽和効率は、以下の式(1)により導出されるものである。
【0015】
〔数1〕
飽和効率〔%〕=(Tin−Tout)/(Tin−Tsat)×100・・式(1)
ただし、
Tin=加湿前の空気の温度(℃)
Tout=加湿後の空気の温度(℃)
Tsat=加湿前の空気と等エンタルピーの露点温度(℃)
【0016】
尚、本発明の如く、気化式の加湿器にあっては、図3の空気線図に示すように、加湿前の空気(1)、加湿後の空気(2)、及び加湿後の空気で露点まで加湿された空気(3)は、同一のエンタルピー(図3でh)となる。このため、加湿前の空気の温度及び相対湿度がわかれば、Tsatは、図3の空気線図から導出される。
当該飽和効率は、その値が高いほど、加湿器にて加湿され難い状態であることを示しており、加湿エレメントにてドレン水が発生する可能性が高くなると考えられる。少なくとも、飽和効率が100%となっている場合には、加湿エレメントからドレン水が発生している(又は、その後しばらくして発生する)と考えられる。
そこで、本発明にあっては、当該飽和効率が、100%未満の目標飽和効率(例えば、30〜90%程度)となるように、水噴霧手段による水噴霧の間欠時間間隔を制御することで、加湿エレメントからのドレン水の流出を適切に防止しているのである。
このように、従来から加湿器にて採用される飽和効率を、加湿エレメントでのドレン水の発生の有無の判断指標とすることにより、新たにドレン水を検知するセンサ等を設けることなく、従来からの簡易な構成を維持しながらも、ドレン水の発生を適切に防止できる。
【0017】
本発明の加湿器の更なる特徴構成は、
前記水噴霧制御手段は、前記水噴霧手段による水噴霧を間欠的に噴霧動作制御可能に構成され、
前記水噴霧制御手段は、前記温度測定手段により測定される前記加湿エレメントの上流側の空気の温度が判定温度閾値より高く、前記湿度測定手段により測定される前記加湿エレメントの上流側の空気の相対湿度が判定湿度閾値より低い場合に、前記水噴霧手段による水噴霧を実行する点にある。
【0018】
上記特徴構成によれば、加湿エレメントの上流側の空気の温度と相対湿度から求まる絶対湿度が、例えば、8.2g/kg乾燥空気より低い条件となる場合、即ち、加湿エレメントの上流側の空気の温度が判定温度閾値(例えば、温度15℃)より高く、加湿エレメントの上流側の空気の相対湿度が判定湿度閾値(例えば、相対湿度50%)よりも低い場合に、水噴霧手段による水噴霧を実行するように構成しているから、噴霧された水が加湿対象の空気の湿分として適切に蒸発する条件で水噴霧を実行することがで、ドレン水の発生をより効果的に防止できる。
尚、上述した絶対湿度8.2g/kgの乾燥空気は、室温22℃、相対湿度50%の状態に対応するものである。当該乾燥空気は、上述した非特許文献3によれば、冬季における乾燥を防ぎ、肌や喉に潤いをもたらすとともに、インフルエンザウイルス等の生存率が下がると言われている。
【0019】
本発明の加湿器の更なる特徴構成は、
前記水噴霧制御手段は、前記水噴霧手段による水の噴霧を間欠的に噴霧動作制御可能に構成され、
前記加湿エレメントを通過する加湿対象の空気の流量を測定する空気流量測定手段を備え、
前記水噴霧制御手段は、前記空気流量測定手段による空気の流量の測定結果、及び予め求められている空気の流量と前記水噴霧手段による水噴霧の間欠時間間隔との関係に基づいて、加湿後の空気の加湿状態が目標とする加湿状態となるように、前記間欠時間間隔を制御する点にある。
【0020】
上記特徴構成によれば、水噴霧制御手段は、空気流量測定手段による空気の流量の測定結果、及び予求められている空気の流量と水噴霧手段による水噴霧の間欠時間間隔との関係に基づいて、水噴霧手段による水噴霧の間欠時間間隔を制御するから、使用者により空気流量が変更される場合にも、当該変更に伴って水噴霧の間欠時間間隔を変更することで、加湿後の空気を目標の加湿状態へ近づけることができる。
尚、上記制御は、加湿対象の空気の温度及び相対湿度が略一定である場合を想定した制御であるが、本願の加湿器を、加湿対象の空気の温度及び相対湿度が大きく変動する環境で使用する場合、加湿対象の空気の温度及び相対湿度毎に、予め求められる空気の流量と水噴霧手段による水噴霧の間欠時間間隔との関係を保持しておき、これらに基づいて、水噴霧制御手段が水の噴霧を制御するように構成すれば良い。
【0021】
本発明の加湿器においては、
前記水噴霧制御手段による前記噴霧動作制御は、単位噴霧当たりの前記水噴霧手段による水噴霧量を一定とするとともに、前記単位噴霧動作を行う時間間隔を前記間欠時間間隔として制御することが好ましい。
当該噴霧動作制御により、単位噴霧動作を行う時間間隔である間欠時間間隔を制御するという比較的簡易な制御により、所定時間当たりの水の噴霧量を調整して、加湿エレメントからのドレン水の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】加湿器の概略構成図
図2】加湿器に設けられる加湿エレメントの斜視図
図3】空気線図
図4】所定の空気流量における水噴霧の間欠時間間隔と時間経過により到達する飽和効率の関係を示すグラフ図
図5】加湿器による噴霧動作制御の制御フロー図
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の加湿器100は、使用者に水補給や洗浄等の手間をとらせることなく、所望の空気風量において当該空気を十分に加湿することができながらも、ドレン水の発生を防止可能な加湿器100に関する。
【0024】
当該加湿器100は、図1に示すように、加湿対象の空気の流れ方向(図1で矢印X方向)で、上流側にパンチングメタル等からなる上流側仕切板11aが設けられる上流側開口を有すると共に下流側にパンチングメタル等からなる下流側仕切板11bが設けられる下流側開口を有する筐体11を備え、当該筐体11の内部に、加湿対象の空気を通過させ加湿する加湿エレメント12と、当該加湿エレメント12に対し加湿対象の空気を上流側から下流側へ向けて通過させる送風ファン13とを備える。筐体11の外部で空気通流方向の上流側には、加湿エレメント12に対し鉛直方向(図1で矢印Zに沿う方向)で拡散する状態で水を噴霧する水噴霧ノズル23(水噴霧手段の一例)を備えている。
【0025】
加湿エレメント12は、図1図2(a)に示すように、親水性を有するシート状部材12aの複数を、シート面12cを全体として水平方向(図2(a)で矢印X及び矢印Yに沿う方向)として、鉛直方向(図1、2(a)で矢印Zに沿う方向)で互いに離間した状態で備えるとともに、当該複数のシート状部材12a間に加湿対象の空気が通流可能な空気通流路12bを形成して成る。尚、複数のシート状部材12aの間には、互いの間の距離(図2でL4を略一定に保つため、スペーサー材(図示せず)が設けられている。
尚、本願にあっては、シート状部材12は、水の鉛直方向での流下を防止するべく、そのシート面12cが全体として水平方向であれば良く、その一部が水平面からわずかにずれた方向へ傾斜しているものも含むものとする。本実施例で言うと、シート状態部材12が、その長手方向の両端が、筐体11の端部等により支持される構成が採用されるが、当該構成により、シート状部材12が、その長手方向で中央部が鉛直方向の下方側へ撓むような状態も、シート面12cが全体として水平方向であるとする。
【0026】
シート状部材12aは、親水性を付与した超高分子量ポリエチレンから成る多孔質のフィルムである。当該シート状部材12aは、高い保水性を発揮するべく、当該ポリエチレンの粘度平均分子量が、好ましくは50万〜1500万であり、より好ましくは100万〜1200万とされる。これにより生成されたシート状部材12aは、気孔率が15〜55%程度となる。
尚、上記親水性を付与する方法、即ち、親水性官能基を導入する方法としては、上記基材を、放射線グラフト重合法、UVグラフト重合法、化学開始剤グラフト重合法等のグラフト重合法;プラズマ処理、大気圧プラズマ処理、コロナ処理、UV処理、UVオゾン処理等の表面処理法;重クロム酸カリウム溶液または過マンガン酸カリウム溶液等による酸化処理;ナトリウム処理液等による化学的なエッチング処理;親水性ポリマーまたは界面活性剤のコーティング等により処理する方法が挙げられる。
【0027】
シート状部材12aの厚み(図2でL1)は、複数のシート状部材12a間に配設されるスペーサー材のスパン間隔を長くしても、シート状部材12a同士が接触しない剛性を得るべく、0.5mm以上にすることが好ましく、空気通流路12bの流路断面積の確保等の観点から、1.0mm以下にすることが好ましい。
シート状部材12aの奥行き(図2でL2)は、一般に加湿器100として求められる目標飽和効率を達成する意味からは、50mm以上が望ましく、加湿エレメント12における圧力損失の増大を抑制する意味からは、100mm以下とすることが望ましい。
尚、当該加湿エレメント12は、使用に応じて水に含まれる不純物がその気孔に詰まることになるが、これらの影響を考慮する場合には、シート状部材12aの奥行き(図2でL2)は長めに設定することが好ましい。
複数のシート状部材12a間の間隔(図2でL4)、換言すると空気通流路12bの鉛直方向での幅は、シート状部材12aの含水による膨潤に基づく圧力損失の増大の抑制、及び、複数のシート状部材12a間での水のブリッジの形成を防止する観点から、1mm以上が好ましく、加湿器に求められる目標飽和効率を達成する観点から、3mm以下が好ましい。
以上の如く構成された加湿エレメント12では、噴霧された水を、シート面12cを全体として水平方向とされる複数のシート状部材12aにて保持しつつ、当該水を、複数のシート状部材12a間の間隙にて夫々のシート状部材12aに留め、鉛直方向(図2で矢印Zに沿う方向)で下方側へ流下することを抑制するから、ドレン水の発生を効果的に防止できる。
【0028】
当該加湿エレメント12に水を噴霧する水噴霧手段は、図1に示すように、水道水Wを通流する水通流路21と、当該水通流路21で水を通流する開放状態と水の通流を阻止する閉止状態とで切り換え可能な電磁開閉弁22と、電磁開閉弁22の下流側で水通流路21と接続し加湿エレメント12に水を噴霧する複数の水噴霧ノズル23とから構成されている。本実施形態では、複数の水噴霧ノズル23が、鉛直方向(図1で矢印Zに沿う方向)に分散して2つ設けられており、鉛直方向で複数設けられる加湿エレメント12のシート状部材12aに対して、略均等に水が噴霧される。
電磁開閉弁22の開放状態と閉止状態との切り替えは、制御装置30に水噴霧制御手段31として組み込まれるPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラー)により制御される。
【0029】
本発明にあっては、加湿エレメント12からのドレン水の発生を防止すべく、水噴霧制御手段31が、通常加湿器100の加湿性能の一指標として用いられる飽和効率を指標として、電磁開閉弁22の開放状態と閉止状態との切り替えを制御することで、水噴霧ノズル23から噴霧される間欠的な水噴霧の間欠時間間隔を制御する噴霧動作制御を実行に構成されている。当該噴霧動作制御は、上記電磁開閉弁22が開放状態となる時間を一定として単位噴霧当たりの水噴霧ノズル23からの水噴霧量を一定とするとともに、上記電磁開閉弁22が閉止状態となる時間を調整して完結時間間隔を制御するものである。
【0030】
説明を追加すると、水噴霧制御手段31は、加湿対象の空気の通流方向で加湿エレメント12の上流側で温度を測定する第1温度センサT1と、下流側で温度を測定する第2温度センサT2と、上流側で相対湿度を測定する湿度センサH1との測定結果から、飽和効率を導出し、当該飽和効率が100未満の目標飽和効率となるように、水噴霧ノズル23による水噴霧の間欠時間間隔を制御する。
ここで、飽和効率は、以下の式(1)により導出されるものである。
【0031】
〔数1〕
飽和効率〔%〕=(Tin−Tout)/(Tin−Tsat)×100・・式(1)
ただし、
Tin=加湿前の空気の温度(℃)
Tout=加湿後の空気の温度(℃)
Tsat=加湿前の空気と等エンタルピーの露点温度(℃)
【0032】
ここで、Tinは第1温度センサT1により測定されるものであり、Toutは第2温度センサT2により測定されるものである。
一方、Tsatは、図3の空気線図に示すように、加湿前の空気(1)と加湿後の空気で露点まで加湿された空気(3)とが同一のエンタルピー(図3でh)となる関係に基づいて、空気線図から導出されるものである。
以下、本発明の加湿器100での噴霧動作制御の一例を、図4のグラフ図、及び図5の制御フローに基づいて説明する。
【0033】
制御フローに示すように、加湿器100は、図示しないコントロールパネルの使用者の操作により、運転指示があると(♯01)、水噴霧制御手段31としてのPLCが、第1温度センサT1により測定される加湿エレメント12の上流側における加湿対象の空気の温度が、判定温度閾値(例えば、15℃程度の温度)よりも高く(♯02)、湿度センサH1により測定される加湿エレメント12の上流側における加湿対象の空気の相対湿度が、判定湿度閾値(例えば、50%程度の相対湿度)よりも低いか否かを判定する(♯03)。
即ち、水噴霧制御手段31は、当該判定を行うことで、加湿対象の空気の温度が、判定温度閾値以上で判定湿度閾値以下であり、適切に加湿実行可能であるかどうかを判定する。当該条件を満たさない場合は、加湿エレメント12に水噴霧を行った場合に、加湿エレメント12からドレン水が発生する可能性が高くなるため、水噴霧を行わない。
【0034】
水分制御手段31は、図4に例示すように、予め求められる加湿対象の空気の流量と水噴霧の間欠時間間隔との関係に基づいて、水噴霧ノズル23による水噴霧の間欠時間間隔を設定することにより、所定時間(例えば、1000秒)経過後の飽和効率(又は、加湿後の空気の温度)を、所望の値に制御できる。因みに、図4に示すグラフ図は、加湿対象の空気の温度が30℃、相対湿度が40%、流量が32m3/h、水噴霧ノズル23による単位噴霧当たりの水噴霧量を6gである場合において、水噴霧の間欠時間間隔を、150秒、210秒、300秒と変化させたときに到達する飽和効率を示している。
制御装置30は、加湿対象の空気(導入空気)の温度、相対湿度、及び流量毎に、上述の関係を記憶する記憶部32を備えており、当該記憶部32に記憶されている関係を、水噴霧制御手段31が適宜呼び出し可能に構成されている。
説明を追加すると、水噴霧制御手段31を自動化する構成では、第1温度センサT1により測定される加湿対象の空気(導入空気)の温度、及び湿度センサH1により測定される加湿対象の空気(導入空気)の相対湿度、及び加湿対象の空気の流れ方向(図1で矢印X方向)で流量センサF1にて測定される空気流量に対応する、空気の流量と水噴霧の間欠時間間隔との関係を記憶部32から呼び出し(♯04)、上記関係において、飽和効率が、100未満の目標飽和効率(例えば、40〜80%程度)となるように、水噴霧ノズル23による水噴霧の間欠時間間隔を設定する(♯05)。水噴霧制御手段31は、設定待機時間(例えば、10秒程度)だけ待機した後(♯06)、♯01〜♯05までの制御を繰り返す。
当該制御により、加湿エレメント12からドレン水が出ることを適切に防止できる。
【0035】
〔別実施形態〕
(1)本願の加湿器100は、例えば、ヒートポンプ装置の凝縮器として働く熱交換器を、加湿対象の空気の流れ方向で加湿エレメント11の下流側、換言すると、図1で加湿エレメント11と送風ファン14との間に設けても構わない。これにより、熱交換器を通過する熱媒を、加湿エレメント11にて加湿・冷却された空気との熱交換により、効果的に冷却することができる。
尚、当該熱交換器は、加湿対象の空気の流れ方向で、加湿エレメント11に接触する状態で設けられることが好ましい。これにより、熱交換器を通過する熱媒を、より一層効果的に冷却することができる。
【0036】
(2)上記実施形態では、加湿エレメント12を構成するシート状部材12aは、図2(a)に示すように、そのシート面12cを水平方向(図2で矢印X及び矢印Yに沿う方向)である例を示した。しかしながら、加湿エレメント12でのドレン水の発生を防止する、換言すると、鉛直方向(図2で矢印Zに沿う方向)に複数設けられるシート状部材12aに噴霧された水が上方から下方へ流下することを防止するという観点からは、シート状部材12aのシート面12cは、全体として水平方向を向いていれば良い。この意味で、シート状部材12aのシート面12cは、図2(b)のように、波板状であっても、本発明の目的を好適に達成できるものとなる。尚、シート状部材12は、波板状のものと平板状のものとを併用しても構わない。
【0037】
(3)上記実施形態において、水噴霧制御手段31は、飽和効率が100%未満の目標飽和効率となるように、水噴霧の間欠時間間隔を制御することで、加湿エレメント12におけるドレン水の発生を防止した。当該飽和効率は、図4に示すように、加湿後の空気の温度と対応する値であるので、水噴霧制御手段31は、加湿後の空気の温度に基づいて、水噴霧の間欠時間間隔を制御するように構成しても構わない。
【0038】
(4)また、加湿エレメント12におけるドレン水の発生を防止するという意味からは、水噴霧制御手段31は、加湿エレメント12にて加湿された後の空気の相対湿度を、100%未満の目標相対湿度となるように、水噴霧の間欠時間間隔を制御しても構わない。
この場合、加湿エレメント12にて加湿された後の空気の相対湿度は、第1温度センサT1により測定される加湿前の空気の温度と、湿度センサH1により測定される相対湿度と、第2温度センサT2により測定される加湿後の空気の温度とにより、図2に示す空気線図から導出可能であるので、加湿後の空気の相対湿度を測定する湿度センサ等を設けない簡易な構成を採用できる。
【0039】
(5)上記実施形態では、加湿対象の空気の流量は、流量センサF1により測定したが、例えば、送風ファン13の回転速度や、図示しないコントロールパネルにより設定される設定風量に基づいて、推定する構成を採用しても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の加湿器は、比較的簡易な構成で、加湿対象の空気を十分に加湿できながらも、ドレン水の発生を効果的に抑制可能な加湿器として、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0041】
12 :加湿エレメント
12a :シート状部材
12b :空気通流路
12c :シート面
23 :水噴霧ノズル
31 :水噴霧制御手段
100 :加湿器
F1 :流量センサ
H1 :湿度センサ
T1 :第1温度センサ
T2 :第2温度センサ
図1
図2
図3
図4
図5