【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した家庭用の加湿器では、所定の期間(例えば1日)ごとに、タンクに水を補給する必要があり、使用上の手間が大きいという問題がある。また、スチーム式、気化式、及びハイブリッド式では、常時水で濡れた加湿フィルタに雑菌等が繁殖することを防止するため、例えばクエン酸等で定期的に洗浄する必要がある。
さらに、気化式では、送風ファンの風量、導入空気(加湿器に吸い込む空気)の温度・相対湿度、及び加湿フィルタの仕様により加湿量が決まる。ここで、導入空気の温度・相対湿度は制御できず、加湿フィルタの仕様は予め決定したものであるため、加湿量を増加させるためには、送風ファンの風量を増やす必要があり、使用者の所望する風量を設定しながら、所望の加湿量の空気を得ることができなかった。
【0009】
また、上記特許文献1に示される加湿器では、加湿エレメントのシート状部材のシート面が、鉛直方向に沿って設けられているため、当該シート状部材に噴霧された水のうち多くが気化することなく、そのシート面に沿って下方に流下しドレンとして排出されており、水道代等を含む経済性の観点から好ましいとは言えなかった。
一方、特許文献2に示される加湿器では、加湿エレメントとしてのシート状部材が、そのシート面を略水平方向としているものの、平板状のシート状部材と波形状のシート状部材とが互いに接触する状態で交互に積層されたものであるから、これらのシート状部材に噴霧又は供給される水は、鉛直方向でシート状部材が接する部分を介して下方に流下し、その多くがドレン水として排出されるという課題があった。
また、非特許文献2に示される技術においても、フィンが垂直に配置されているため、伝熱フィンに付着した水滴は、おおよそ半分がドレンとなり、消費電力の削減メリットの約60%が水道代のコストに充てられると試算されており、経済性の観点で問題があった。
【0010】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、使用者に水補給や洗浄等の手間をとらせることなく、所望の空気風量において当該空気を十分に加湿することができながらも、ドレン水の発生を防止可能な加湿器を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための加湿器は、加湿対象の空気を通過させ加湿する加湿エレメントと、当該加湿エレメントに水分を供給可能に構成された加湿器であって、その特徴構成は、
前記加湿エレメントが、親水性を有するシート状部材の複数を、シート面を全体として水平方向として、鉛直方向で互いに離間した状態で備えるとともに、当該複数の前記シート状部材間に前記加湿対象の空気が通流可能な空気通流路を形成して成り、
前記複数のシート状部材に対し拡散状態で水を噴霧する水噴霧手段と、
前記加湿対象の空気の通流方向で前記加湿エレメントの上流側及び下流側において、前記加湿対象の空気の温度を測定する温度測定手段と、
前記加湿対象の空気の通流方向で前記加湿エレメントの上流側において、前記加湿対象の空気の相対湿度を測定する湿度測定手段とを備え、
前記温度測定手段及び前記湿度測定手段の測定結果に基づいて、前記水噴霧手段による水噴霧状態を制御する水噴霧制御手段を備える点にある。
【0012】
上記特徴構成によれば、加湿対象の空気を通過させ加湿する加湿エレメントを、親水性を有するシート状部材の複数を、シート面を全体として水平方向として備えて構成しているから、夫々のシート状部材に噴霧された水は、シート面を全体として水平方向に保たれたシート状部材の夫々にて保持され、鉛直方向で下方に流下し難くなる。
更に、複数のシート状部材は、鉛直方向で互いに離間した状態で設けられているから、各シート状部材に噴霧された水が、各シート状部材をつたって、鉛直方向で連続して流下することを、より一層良好に防止できる。
更に、複数のシート状部材の鉛直方向で形成された隙間を、加湿対象の空気が通流する空気通流路としているから、当該隙間において、鉛直方向で水がその表面張力によりブリッジを形成することを効果的に防止できる。このようにして、ドレン水の発生を効果的に防止しているのである。
一方、加湿対象の空気にあっては、シート面を全体として水平に保たれて十分な湿潤状態を保つシート状部材間に形成される空気流通路を通流することで、十分に加湿されることとなる。しかも、シート状部材は、親水性を有するため、シート面全体に亘って広く水を保持することができる。」
このように構成された加湿エレメントに対し、水噴霧制御手段は、当該加湿エレメントの上流側及び下流側の温度、及び上流側の相対湿度に基づいて水噴霧手段による水噴霧状態を制御するから、例えば、加湿前の空気(導入空気)の温度・相対湿度、及び加湿後の空気の温度から、ドレン水の発生を予測して、当該予測に基づいて水噴霧状態を制御することで、ドレン水の発生を良好に制御できる。
以上より、本発明によれば、使用者に水補給や洗浄等の手間をとらせることなく、所望の空気風量において当該空気を十分に加湿することができながらも、ドレン水の発生を防止可能な加湿器を実現できる。
【0013】
本発明の加湿器の更なる特徴構成は、
前記水噴霧制御手段は、前記水噴霧手段による水噴霧を間欠的に噴霧動作制御可能に構成され、
前記水噴霧制御手段は、前記温度測定手段により測定された前記加湿エレメントの上流側の温度、前記加湿エレメントの下流側の温度、及び前記湿度測定手段により測定された前記加湿エレメントの上流側の相対湿度に基づいて、前記加湿エレメントでの前記加湿対象の空気の飽和効率を導出すると共に、前記飽和効率が100未満の目標飽和効率となるように、前記水噴霧手段による水噴霧の間欠時間間隔を制御する点にある。
【0014】
上記特徴構成によれば、加湿器の加湿エレメントからドレン水が発生する状態か否かを判断する指標として、従来から加湿器の加湿性能を示す指標として用いられている飽和効率を採用している。
説明を追加すると、上記特徴構成によれば、水噴霧制御手段が、水噴霧手段による水噴霧の間欠時間間隔を制御する間欠動作制御を、加湿対象の空気の流れ方向で、加湿エレメントの上流側の温度、加湿エレメントの下流側の温度、及び加湿エレメントの上流側の相対湿度とから導出される飽和効率(加湿エレメントを通過前後での加湿程度を示す指標)に基づいて実行する。
ここで、飽和効率は、以下の式(1)により導出されるものである。
【0015】
〔数1〕
飽和効率〔%〕=(Tin−Tout)/(Tin−Tsat)×100・・式(1)
ただし、
Tin=加湿前の空気の温度(℃)
Tout=加湿後の空気の温度(℃)
Tsat=加湿前の空気と等エンタルピーの露点温度(℃)
【0016】
尚、本発明の如く、気化式の加湿器にあっては、
図3の空気線図に示すように、加湿前の空気(1)、加湿後の空気(2)、及び加湿後の空気で露点まで加湿された空気(3)は、同一のエンタルピー(
図3でh)となる。このため、加湿前の空気の温度及び相対湿度がわかれば、Tsatは、
図3の空気線図から導出される。
当該飽和効率は、その値が高いほど、加湿器にて加湿され難い状態であることを示しており、加湿エレメントにてドレン水が発生する可能性が高くなると考えられる。少なくとも、飽和効率が100%となっている場合には、加湿エレメントからドレン水が発生している(又は、その後しばらくして発生する)と考えられる。
そこで、本発明にあっては、当該飽和効率が、100%未満の目標飽和効率(例えば、30〜90%程度)となるように、水噴霧手段による水噴霧の間欠時間間隔を制御することで、加湿エレメントからのドレン水の流出を適切に防止しているのである。
このように、従来から加湿器にて採用される飽和効率を、加湿エレメントでのドレン水の発生の有無の判断指標とすることにより、新たにドレン水を検知するセンサ等を設けることなく、従来からの簡易な構成を維持しながらも、ドレン水の発生を適切に防止できる。
【0017】
本発明の加湿器の更なる特徴構成は、
前記水噴霧制御手段は、前記水噴霧手段による水噴霧を間欠的に噴霧動作制御可能に構成され、
前記水噴霧制御手段は、前記温度測定手段により測定される前記加湿エレメントの上流側の空気の温度が判定温度閾値より高く、前記湿度測定手段により測定される前記加湿エレメントの上流側の空気の相対湿度が判定湿度閾値より低い場合に、前記水噴霧手段による水噴霧を実行する点にある。
【0018】
上記特徴構成によれば、加湿エレメントの上流側の空気の温度と相対湿度から求まる絶対湿度が、例えば、8.2g/kg乾燥空気より低い条件となる場合、即ち、加湿エレメントの上流側の空気の温度が判定温度閾値(例えば、温度15℃)より高く、加湿エレメントの上流側の空気の相対湿度が判定湿度閾値(例えば、相対湿度50%)よりも低い場合に、水噴霧手段による水噴霧を実行するように構成しているから、噴霧された水が加湿対象の空気の湿分として適切に蒸発する条件で水噴霧を実行することがで、ドレン水の発生をより効果的に防止できる。
尚、上述した絶対湿度8.2g/kgの乾燥空気は、室温22℃、相対湿度50%の状態に対応するものである。当該乾燥空気は、上述した非特許文献3によれば、冬季における乾燥を防ぎ、肌や喉に潤いをもたらすとともに、インフルエンザウイルス等の生存率が下がると言われている。
【0019】
本発明の加湿器の更なる特徴構成は、
前記水噴霧制御手段は、前記水噴霧手段による水の噴霧を間欠的に噴霧動作制御可能に構成され、
前記加湿エレメントを通過する加湿対象の空気の流量を測定する空気流量測定手段を備え、
前記水噴霧制御手段は、前記空気流量測定手段による空気の流量の測定結果、及び予め求められている空気の流量と前記水噴霧手段による水噴霧の間欠時間間隔との関係に基づいて、加湿後の空気の加湿状態が目標とする加湿状態となるように、前記間欠時間間隔を制御する点にある。
【0020】
上記特徴構成によれば、水噴霧制御手段は、空気流量測定手段による空気の流量の測定結果、及び予求められている空気の流量と水噴霧手段による水噴霧の間欠時間間隔との関係に基づいて、水噴霧手段による水噴霧の間欠時間間隔を制御するから、使用者により空気流量が変更される場合にも、当該変更に伴って水噴霧の間欠時間間隔を変更することで、加湿後の空気を目標の加湿状態へ近づけることができる。
尚、上記制御は、加湿対象の空気の温度及び相対湿度が略一定である場合を想定した制御であるが、本願の加湿器を、加湿対象の空気の温度及び相対湿度が大きく変動する環境で使用する場合、加湿対象の空気の温度及び相対湿度毎に、予め求められる空気の流量と水噴霧手段による水噴霧の間欠時間間隔との関係を保持しておき、これらに基づいて、水噴霧制御手段が水の噴霧を制御するように構成すれば良い。
【0021】
本発明の加湿器においては、
前記水噴霧制御手段による前記噴霧動作制御は、単位噴霧当たりの前記水噴霧手段による水噴霧量を一定とするとともに、前記単位噴霧動作を行う時間間隔を前記間欠時間間隔として制御することが好ましい。
当該噴霧動作制御により、単位噴霧動作を行う時間間隔である間欠時間間隔を制御するという比較的簡易な制御により、所定時間当たりの水の噴霧量を調整して、加湿エレメントからのドレン水の発生を防止できる。