【実施例1】
【0018】
<装置構成>
本実施例では、基本的な実施形態について説明する。
図1には、本実施例の荷電粒子顕微鏡の全体構成図を示す。
【0019】
図1に示される荷電粒子顕微鏡は、主として、荷電粒子光学鏡筒2、荷電粒子光学鏡筒2と接続されこれを支持する筐体(真空室)7、大気雰囲気下に配置される試料ステージ5、およびこれらを制御する制御系によって構成される。荷電粒子顕微鏡の使用時には荷電粒子光学鏡筒2と筐体7の内部は真空ポンプ4により真空排気される。真空ポンプ4の起動・停止動作も制御系により制御される。図中、真空ポンプ4は一つのみ示されているが、二つ以上あってもよい。荷電粒子光学鏡筒2及び筺体7は図示しない柱等がベース270によって支えられているとする。
【0020】
荷電粒子光学鏡筒2は、荷電粒子線を発生する荷電粒子源8、発生した荷電粒子線を集束して鏡筒下部へ導き、一次荷電粒子線として試料6を走査する光学レンズ1などの要素により構成される。荷電粒子光学鏡筒2は筐体7内部に突き出すように設置されており、真空封止部材123を介して筐体7に固定されている。荷電粒子光学鏡筒2の端部には、上記一次荷電粒子線の照射により得られる二次的荷電粒子(二次電子または反射電子)を検出する検出器3が配置される。検出器3は荷電粒子光学鏡筒2の外部にあっても内部にあってもよい。荷電粒子光学鏡筒には、これ以外に他のレンズや電極、検出器を含んでもよいし、一部が上記と異なっていてもよく、荷電粒子光学鏡筒に含まれる荷電粒子光学系の構成はこれに限られない。
【0021】
本実施例の荷電粒子顕微鏡は、制御系として、装置使用者が使用するコンピュータ35、コンピュータ35と接続され通信を行う上位制御部36、上位制御部36から送信される命令に従って真空排気系や荷電粒子光学系などの制御を行う下位制御部37を備える。コンピュータ35は、装置の操作画面(GUI)が表示されるモニタと、キーボードやマウスなどの操作画面への入力手段を備える。上位制御部36、下位制御部37およびコンピュータ35は、各々通信線43、44により接続される。
【0022】
下位制御部37は真空ポンプ4、荷電粒子源8や光学レンズ1などを制御するための制御信号を送受信する部位であり、さらには検出器3の出力信号をディジタル画像信号に変換して上位制御部36へ送信する。図では検出器3からの出力信号をプリアンプなどの増幅器154を経由して下位制御部37に接続している。もし、増幅器が不要であればなくてもよい。
【0023】
上位制御部36と下位制御部37ではアナログ回路やディジタル回路などが混在していてもよく、また上位制御部36と下位制御部37が一つに統一されていてもよい。荷電粒子顕微鏡には、このほかにも各部分の動作を制御する制御部が含まれていてもよい。上位制御部36や下位制御部37は、専用の回路基板によってハードウェアとして構成されていてもよいし、コンピュータ35で実行されるソフトウェアによって構成されてもよい。ハードウェアにより構成する場合には、処理を実行する複数の演算器を配線基板上、または半導体チップまたはパッケージ内に集積することにより実現できる。ソフトウェアにより構成する場合には、コンピュータに高速な汎用CPUを搭載して、所望の演算処理を実行するプログラムを実行することで実現できる。なお、
図1に示す制御系の構成は一例に過ぎず、制御ユニットやバルブ、真空ポンプまたは通信用の配線などの変形例は、本実施例で意図する機能を満たす限り、本実施例のSEMないし荷電粒子線装置の範疇に属する。
【0024】
筐体7には、一端が真空ポンプ4に接続された真空配管16が接続され、内部を真空状態に維持できる。同時に、筐体内部を大気開放するためのリークバルブ14を備え、メンテナンス時などに、筐体7の内部を大気開放することができる。リークバルブ14は、なくてもよいし、二つ以上あってもよい。また、筐体7におけるリークバルブ14の配置箇所は、
図1に示された場所に限られず、筐体7上の別の位置に配置されていてもよい。
【0025】
筐体下面には上記荷電粒子光学鏡筒2の直下になる位置に隔膜10を備える。この隔膜10は、荷電粒子光学鏡筒2の下端から放出される一次荷電粒子線を透過または通過させることが可能であり、一次荷電粒子線は、隔膜10を通って最終的に試料台52に搭載された試料6に到達する。隔膜10によって隔離された構成される閉空間(すなわち、荷電粒子光学鏡筒2および筐体7の内部)は真空排気可能である。本実施例では、隔膜10によって真空排気される空間の気密状態が維持されるので、荷電粒子光学鏡筒2を真空状態に維持できかつ試料6を大気圧に維持して観察することができる。また、荷電粒子線が照射されている状態でも試料が設置された空間が大気雰囲気であるまたは大気雰囲気の空間と連通しているため、観察中、試料6を自由に交換できる。
【0026】
<隔膜および隔膜取付部材>
隔膜10は土台9上に成膜または蒸着されている。隔膜10はカーボン材、有機材、金属材、シリコンナイトライド、シリコンカーバイド、酸化シリコンなどである。土台9は例えばシリコンや金属部材のような部材である。隔膜10部は複数配置された多窓であってもよい。一次荷電粒子線を透過または通過させることが可能な隔膜の厚みは数nm〜数μm程度である。隔膜は大気圧と真空を分離するための差圧下で破損しないことが必要である。そのため、隔膜10の面積は数十μmから大きくとも数mm程度の大きさである。
【0027】
通常、隔膜10は土台9に保持された状態で販売される。荷電粒子顕微鏡のユーザは土台9に保持された状態で隔膜を購入し、隔膜保持部材155を介して荷電粒子顕微鏡の筐体に取り付ける。
【0028】
既に述べたように、隔膜は荷電粒子線を透過させることができる薄さと真空と大気圧環境とを隔離する耐圧性を備えている必要があり、大気圧観察可能なSEM装置専用の隔膜を製造するにはコストがかかり、その結果消耗部品としての隔膜は高価なものになってしまう。
【0029】
そこで、本実施例では、透過電子顕微鏡(TEM)の環境セル向けメンブレンとして一般的に市販されている薄膜を隔膜10として用いる場合について説明する。TEM用のメンブレンは、φ3mm程度、厚さ200μm程度のSi材等の土台(グリッド)部分の上にSiN等の薄膜を有するものである。TEM用メンブレンは、TEMホルダの形状に合わせるように製造されている。そのため、TEM用メンブレンが円形の場合には直径約3mm、矩形状の場合には対角線の最大長さが約3mm、かつ厚さが約200μmとなるように作られている。ここで上記のTEM用メンブレンのサイズおよび厚さには製造誤差があるが、約3mmとは例えば2.8mm以上3.2mm以下のことである。TEM用メンブレンの薄膜は荷電粒子線を透過し、かつ真空空間と非真空空間を隔離する耐圧性能があるため、本実施例の荷電粒子顕微鏡に好適である。また、TEM用メンブレンは多くの種類が販売されており、薄膜部の形状や数、材質などをユーザが自由に選択可能である。
【0030】
しかしながら、一般的な透過電子顕微鏡と本実施例の荷電粒子顕微鏡、特に走査電子顕微鏡ではその構造が大きく異なっており、TEM用メンブレンを本実施例の荷電粒子顕微鏡にそのまま取り付けるのは困難である。また仮に取り付けられたとしても取付作業が煩雑となり利便性が良くない。
【0031】
そこで、TEM用メンブレンを本実施例の荷電粒子顕微鏡、特に走査電子顕微鏡に取り付けるための隔膜取付部材(隔膜保持部材または接続部材とも言う)について説明する。
【0032】
本実施例の隔膜取付部材は、TEM用メンブレンが取り付けられる隔膜設置部位と、荷電粒子線顕微鏡の筐体に取り付けられる筐体固定部位を有する。隔膜設置部位には隔膜を取り付けたときに隔膜の直下になる位置に開口部が設けられている。この開口部は隔膜取付部材の厚さ方向に貫通しており、隔膜を通過する荷電粒子線はこの開口部を通って試料または検出器に入射する。また、この開口部は隔膜が設置される面の面積より、その反対側の面の面積の方が大きく形成されていることが望ましい。例えば、隔膜が設置される面から放射状に広がる円錐形状の開口部である。上述したように検出器が隔膜を挟んで試料と反対側にある場合には、開口部をこのような形状にすることで試料から発生した二次的荷電粒子を効率よく検出することができる。
【0033】
TEM用メンブレンの土台は上記のようにほぼ全てのものが外形の最長長部が2.8mm以上3.2mm以下という形状をしているため、隔膜設置部位はこのサイズのTEM用メンブレンの土台を取付可能な大きさとする。具体的には隔膜設置部位の対角線の最大の長さが2.8mm以上3.2mm以下であるとよい。例えば、隔膜設置部位が
図2〜4で後述するように凹部または凸部である場合には、凹部または凸部の対角線の最大の長さが2.8mm以上3.2mm以下であるとよい。また、
図3を用いて後述するように、TEM用メンブレンを隔膜として用いる際には隔膜設置部位は凸形状とするとよい。隔膜取付部材はネジなどの固定部材や嵌め合い構造によって筐体に取り付けられるため筐体固定部位は筐体側が有する取付構造と対応する形状となっている必要がある。なお、隔膜取付部材はさらにその他の部材を介して筐体に取り付けられてもよいし、筐体7の一部を構成していてもよい。
【0034】
<位置決め構造>
隔膜10を支持する土台9は隔膜保持部材155上に具備され、接着剤200等により気密に固定される。隔膜10の開口部と隔膜保持部材155の開口部が偏心した場合、隔膜10の開口部を透過する一次荷電粒子線または二次的荷電粒子線の一部または全部が隔膜保持部材155の構造体により遮蔽される恐れがある。これによりS/N比の悪化が生じ荷電粒子顕微鏡の性能低下が生じる。そこで、隔膜保持部材155に位置決め構造155aを備える。例えば、位置決め構造155aを窪みとし隔膜10を支持する土台9を位置決め構造155aに挿入し、隔膜10の位置合わせを行うことができる。
【0035】
図2に、
図1のA−A矢視図を示す。位置決め構造155aは、土台9の外形と対をなす形状であればよく、土台9の形状に合わせて任意に設定可能である。例えば、
図2aに示すように、四角形の土台の場合、位置決め構造155aを、隔膜保持部材155の直交する2面を有する窪み形状としてもよい。言い換えれば、当該位置決め構造155aは隔膜保持部材155の厚さ方向(隔膜面に対して垂直方向)に壁面を持つ2つの段差構造である。窪み形状は、隔膜保持部材の開口部の中心と隔膜10の中心を一致させた状態において土台9の直交する2辺に沿うように形成されている。この場合、隔膜保持部材155上の面を位置決め構造155aである窪み形状の一辺の側面と土台9の一辺とを接触させて滑らせながら、窪み形状の別の一辺に土台9の一辺が突き当たるまで移動させる。このため、隔膜交換のたびに毎回隔膜保持部材の同じ位置に土台9を取り付けることができ、作業性が向上する。なお、上記2辺の交差角は直交に限らず互いが平行でなければ良い。この場合にも2辺のそれぞれに土台9の外周の少なくとも1点ずつが接するように固定されることで、土台9を所定の位置に設置可能である。また、窪み形状(段差構造)の数は2辺に限られず3つ以上の辺から構成されていてもよい。
【0036】
また別の例として、位置決め構造155aを丸型の窪みとしてもよい。この場合、土台9の四隅が丸型の窪みの円周上に位置するように位置合わせをしてもよい(
図2b)。言い換えれば、位置決め構造155aの丸型の窪みとは、土台の外形の対角線の最大の長さと同じまたは同等の直径の円形状の凹部である。なお、以下、本明細書において、「同じまたは同等」とは互いの部材が嵌めあいによって結合される程度に同じという意味であり、寸法公差や製造誤差を許容するものである。
図2bの例の場合、隔膜保持部材155を旋盤工程で製作する際に、同一工程で位置決め構造155aの加工が可能なため製造作業の簡略化が可能となり、結果として隔膜保持部材を安価に抑えることができる。
【0037】
また別の例として、土台9が丸型の場合にも、
図2a,bと同様に、位置決め構造155aとして形成された二面に押し当てる構成としてもよいし(
図2c)、土台9の外形と同等の形状の凹部である丸型の窪みにはめ合わせてもよい(
図2d)。
【0038】
図2a〜dにおいて、機械加工時の刃物の逃げ形状155b等を設けることもできる。特に
図2aまたはbのような形状の場合には逃げ形状155bを備えることで、放電加工等の加工工程を用いず、旋盤やフライス盤等隔膜保持部材155の機械加工と同一行程で加工することが可能となり、寸法精度や加工性の向上が見込まれる。また、刃物先端形状155eより生じるエッジ部のR155dによる土台9の位置決めのずれを防止できる。
【0039】
図3に、隔膜10にTEM用メンブレンを使用する場合の構成図を示す。本構成の荷電粒子顕微鏡において、隔膜10と試料6間の距離は数十μm程度まで接近させる必要がある。隔膜10(すなわち図示X)より試料側(
図3右図における左方向)に突起物が存在すると隔膜10に試料6を接近させることができず荷電粒子顕微鏡観察が困難となる。したがって、位置決め構造155aを
図2a,cのような窪みとしたときに窪みの深さを土台9より浅くせざるを得ない。しかし、土台9の厚さが薄い場合、窪みはさらに浅くする必要がある。このため窪みを土台9が容易に乗り越える可能性があり位置決めが困難となる恐れがある。また、極端に浅い窪みの加工等、薄膜保持部材155の加工が困難である。例えば上記のTEM用メンブレンの土台の厚さは200μm等であるため、この問題が顕著となる。
【0040】
この問題を解決するために
図3に示す構成では、位置決め構造155aを隔膜および土台の取り付け側に凸の突起形状とし、突起形状の凸部に土台9を具備する。すなわち凸部が試料側になるように隔膜保持部材が取り付けられる。本構成によれば、ユーザは突起形状を目安に土台9の固定位置を容易に決定することができる。例えば、土台9および位置決め構造155aが円形の場合には、土台9の直径(D1)と位置決め構造155aの直径(D2)を製造誤差を除き同じまたは同等(D1≒D2)とした場合、土台9を位置決め構造155a上に配置し、土台9と位置決め構造155aの外周部をそろえることで軸合わせが可能である。土台9および位置決め構造155aが矩形である場合には、上記の「直径」を「対角線の最大の長さ」と読み替えればよい。それ以外の形状であれば「土台9の外形の外接矩形の長辺の長さ」と読み替えればよい。以下
図4,5の説明においても同様である。土台9と隔膜保持部材155の位置合わせがされた後、土台9は接着剤200等により気密に固定される。真空空間に配置された検出器3により二次的電粒子線信号を取得するため、隔膜保持部材155の開口は荷電粒子光学鏡筒側(
図3右図における右方向)の開口が大きいテーパ形状155cを成してもよい。これにより検出できる二次的荷電粒子が増えるため荷電粒子顕微鏡のS/Nが向上する。
【0041】
また、
図4に示すように、土台9の直径(D1)よりも位置決め構造155aの直径(D2)を小さく(D1>D2)してもよい。接着剤200等を塗布する際に、土台9の隔膜保持部材側に接着剤を塗布すれば、土台9自体が接着剤に対して「堤防」のような役割をし、隔膜10の試料側(
図3右図におけるXより左側)に接着材200が付着したり回り込んで隔膜を汚染したりすることを防止できる。
【0042】
また、
図5に示すように、土台9の直径(D1)よりも位置決め構造155aの直径(D2)を大きく(D1<D2)してもよい。土台9を固定する際に、位置決め構造155aの突起形状の、土台9と接する面から土台9がはみ出さないように固定するようにする。特に、隔膜10の中心軸10aと隔膜保持部材155の開口中心軸155cの位置ずれ量Aの限度範囲B(隔膜の取り付け位置の誤差の許容量)分だけ、位置決め構造155aの直径(D2)を土台9の外形(D1)より大きくするとよい。土台9を位置決め構造の凸部からはみ出さないように設置することで、隔膜の取り付け位置の誤差の許容量を容易に指定、確認することができる。なお、これ以上大きくしすぎると隔膜と隔膜保持部材の中心軸が合わせにくくなるので、位置決め構造の直径は土台9の直径より大きくなりすぎないことが望ましい。
【0043】
すなわち、位置ずれ許容範囲の確認や接着剤の回り込み防止等目的によって、土台9に対して位置決め構造155aの寸法を調整することで各種機能を発現させることが可能である。
【0044】
<取り付けジグ>
図6に、隔膜を隔膜保持部材に取り付ける際のジグの構成図を示す。ジグは隔膜を押さえて固定する押さえ部材201、押さえ部材を支持する構造体202および203、構造体202および203を支持するベースプレート204から構成される。押さえ部材201は隔膜保持部材が載置される部位の鉛直上方に設置され、構造体202に対し図示上下垂直方向に移動自在に保持される。少なくとも押さえ部材201の隔膜に対向する端が鉛直上下方向に動作することが必要である。押さえ部材201が隔膜保持部材155および土台9の鉛直上方から鉛直下方に動作させることで、隔膜保持部材155に対して隔膜10が保持された土台9を押さえつけてその位置を固定することができる。押さえ部材201は先端部に中心が凹形状の逃げ部201aを有する。これにより押さえ部材201の先端が隔膜10に接触するのを避けることができる。また、安定的に荷重を加えるため、押さえ部材201は錘201bを有してもよい。
【0045】
ベースプレート204は隔膜保持部材155を設置するための設置部位を有する。この設置部位には隔膜保持部材155の位置決めを行う位置決め構造204aが設けられている。位置決め構造204aは、例えば直径が隔膜保持部材155と同じ溝部である。この場合、隔膜保持部材を当該溝部にはめ込むことで、隔膜保持部材の開口部の中心をジグの押さえ部材201の中心軸に合わせることができる。位置決め構造204aはこれに限られず、例えば
図2に示したような構造であっても良い。隔膜保持部材の開口部の中心が毎回押さえ部材201の中心軸に合うことが重要である。
【0046】
図6では、位置決め構造204aである溝部の底に真空封止部材205を有する。隔膜保持部材155を溝部にはめ込むことで隔膜保持部材155とベースプレート204の間は真空封止部材205により気密される。ベースプレート204の隔膜保持部材155の設置部位には貫通孔210が設けられている。貫通孔の開口は隔膜に対向する面に位置している。開口の大きさは隔膜面積より大きくかつ隔膜保持部材より小さいことが望ましい。この貫通孔210の一端は隔膜保持部材155および隔膜10が設置された土台9が載置されることによって閉じられる。また、貫通孔の別の一端には開口の周囲に設けられた真空封止部材206を介して継ぎ手207が接続される。継ぎ手207には配管208を介し真空ポンプ209が接続される。これにより、
図6中、隔膜保持部材155より下側の空間を真空引きすることが可能となる。なお、継ぎ手207はベースプレート204の一部として形成され、真空ポンプ209をベースプレート204に直接取り付けられる構成になっていてもよい。真空引きされる空間の真空到達度を確認するため、真空計により真空引きされる空間の気圧を測定する。真空計は真空ポンプ209に付属していてもよいし、別に設けられていてもよい。
【0047】
また、本実施例では隔膜保持部材155の上に隔膜10が保持された土台9を載置することで、真空引きされる空間を閉じているが、隔膜の検査をするためのジグの構造は
図6に限られない。真空引きされる空間が閉空間となっており、その空間の側面の少なくとも一部が隔膜で構成されていることが重要である。
【0048】
なお、ジグの構造は上記に限られず様々な変形が可能である。例えば、真空引きするためのベースプレート204の開口は隔膜直下になくてもよく、隔膜より図中下側の空間が真空ポンプとつながっており、気密に保持されれば良い。また、押さえ部材201は棒状である必要はなく、例えばL字型であってもよい。
【0049】
ベースプレート204に対し継ぎ手207を着脱自在としてもよい。隔膜10を設置する際に継ぎ手207を取り外して、貫通孔210を通じて図面下側から覗き込んで隔膜10の位置を確認できる。または、貫通孔210部の周辺に隔膜10を観察するための鏡やカメラを有してもよい。これにより組立の際の隔膜10の位置確認を容易に行うことができる。
【0050】
図7に隔膜10を隔膜保持部材155に取り付ける際の組立フローを示す。第1のステップ250では、隔膜保持部材155をベースプレート204の所定の位置にセットする。上述のようにベースプレート204に位置決め構造204aが設けられている場合にはこの位置決め構造によって規定される位置に隔膜保持部材155を配置する。これによって、隔膜保持部材の開口部の中心が押さえ部材201の中心軸上に位置するように、隔膜保持部材が載置された状態になる。第2のステップ251では、隔膜保持部材155の上に隔膜10が保持された状態の土台9をセットする。この際、
図2〜5を用いて前述したように隔膜10及び土台9の位置決めを行い、隔膜保持部材155に対して所定の位置に隔膜10及び土台9が設置されるようにする。第3のステップ252では、押さえ部材201を鉛直下方に動作させることにより隔膜10が保持された土台9を隔膜保持部材155に押しつけて固定する。第4のステップ253では、隔膜10が保持された土台9を隔膜保持部材155に対して押さえ部材201で押さえつけたまま、土台9と隔膜保持部材155の間に接着剤を塗布し硬化させる。
【0051】
第5のステップ254では、真空ポンプ209を作動させて隔膜10とベースプレート204の開口部内壁を含む壁面で囲まれた空間(
図6中隔膜10の下側の空間)の真空引きを行い、その空間の真空度を確認する。その空間が所望の真空度になっているか否かの確認ができればよいので、真空度の計測は精密なものでなくてもよい。上述のように、真空引きされる空間の側面の少なくとも一部は隔膜10で構成されている。隔膜10に傷や破れがある場合には十分な真空度に達しないため、この作業によって隔膜の品質確認を行うことができる。破れた隔膜を誤って荷電粒子顕微鏡に設置して真空引きしてしまうと、試料が荷電粒子光学鏡筒の内部に飛散し、装置が汚染されてしまう。本ステップで隔膜の品質確認を行うことで、荷電粒子顕微鏡に隔膜を取り付ける前に品質チェックをすることができるので、確実に真空と大気圧の差圧に耐えられる隔膜のみを選択して荷電粒子顕微鏡に取り付けることができる。
【0052】
第6のステップ255では、真空ポンプを停止し、
図6中隔膜10の下側の空間を大気開放する。第7のステップ256では、押さえ部材201を持ち上げ、隔膜10と隔膜保持部材155を一体に取り外す。なお、図示したフローは一例であり、順序は適宜入れ替えてよい。このように、組立用のジグを用いることで利便性よく組立および隔膜の検査が可能となる。
【0053】
図8に隔膜台156を使用する構成を示す。これまでに説明した構成においては隔膜10の土台9を隔膜保持部材155に接着等により固定した。そのため、接着剤の種類によっては剥離が困難となり、結果として隔膜保持部材155は消耗品となる。そのためランニングコストの増加や、廃棄物の増加といったことが問題となる。
【0054】
本構成では、土台9は隔膜台156に固定される。隔膜台156は隔膜台固定部品157を介し鋲螺等の固定部材158により隔膜保持部材155に取り付けられる。隔膜台156はOリング等の真空封止部材159を介して気密にかつ着脱自在に保持される。隔膜台156は、隔膜保持部材155の図示しない穴、窪み等に嵌めあい、隔膜保持部材155に対して所定の位置で固定することができる。
【0055】
本構成では隔膜台156が消耗品となるが、隔膜台156として隔膜保持部材155から分離することにより、隔膜台156の形状に対する要件は緩和され、より小型で単純な形状とすることが可能で、消耗品価格の低下や廃棄物の減量等が可能となる。本構成の隔膜台156を用いる場合には、
図6,7の説明における「隔膜保持部材」は「隔膜台」と読みかえれば、同様に位置合わせおよび取付けを簡便に行うことが可能である。
【実施例3】
【0062】
図10には、本実施例の荷電粒子顕微鏡の全体構成図を示す。実施例1、2と同様、本実施例の荷電粒子顕微鏡も、荷電粒子光学鏡筒2、該荷電粒子光学鏡筒を装置設置面に対して支持する第1筐体(真空室)7、第1筐体7に挿入して使用される第2筐体(アタッチメント)121、制御系などによって構成される。これらの各要素の動作・機能あるいは各要素に付加される付加要素は、実施例1や2とほぼ同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0063】
本実施例の荷電粒子顕微鏡の場合、第2筐体121の少なくとも一側面をなす開放面を蓋部材122で蓋うことができるようになっており、種々の機能が実現できる。以下ではそれについて説明する。
【0064】
<試料ステージに関して>
本実施例の荷電粒子顕微鏡は、試料位置を変更することで観察視野を移動する手段としての試料ステージ5を蓋部材122に備えている。試料ステージ5には、面内方向へのXY駆動機構および高さ方向へのZ軸駆動機構を備えている。蓋部材122には試料ステージ5を支持する底板となる支持板107が取り付けられており、試料ステージ5は支持板107に固定されている。支持板107は、蓋部材122の第2筐体121への対向面に向けて第2筐体121の内部に向かって延伸するよう取り付けられている。Z軸駆動機構およびXY駆動機構からはそれぞれ支軸が伸びており、各々蓋部材122が有する操作つまみ108および操作つまみ109と繋がっている。装置ユーザは、これらの操作つまみ108および109を操作することにより、試料6の第2筐体121内での位置を調整する。
【0065】
<試料近傍雰囲気に関して>
本実施例の荷電粒子顕微鏡においては、第2筐体内に置換ガスを供給する機能または第一の空間11や装置外部である外気とは異なった気圧状態を形成可能な機能を備えている。荷電粒子光学鏡筒2の下端から放出された荷電粒子線は、高真空に維持された第1の空間を通って、隔膜10を通過し、試料6に荷電粒子線が照射される。大気空間では荷電粒子線は気体分子によって散乱されるため、平均自由行程は短くなる。つまり、隔膜10と試料6の距離が大きいと一次荷電粒子線または荷電粒子線照射により発生する二次電子、反射電子もしくは透過電子等が試料及び検出器3まで届かなくなる。一方、荷電粒子線の散乱確率は、気体分子の質量数や密度に比例する。従って、大気よりも質量数の軽いガス分子で第2の空間を置換するか、少しだけ真空引きすることを行えば、荷電粒子線の散乱確率が低下し、荷電粒子線が試料に到達できるようになる。また、第2の空間の全体ではなくても、少なくとも第2の空間中の荷電粒子線の通過経路、すなわち隔膜10と試料6との間の空間の大気をガス置換または真空引きできればよい。
【0066】
以上の理由から、本実施例の荷電粒子顕微鏡では、蓋部材122にガス供給管100の取り付け部(ガス導入部)を設けている。ガス供給管100は連結部102によりガスボンベ103と連結されており、これにより第2の空間12内に置換ガスが導入される。ガス供給管100の途中には、ガス制御用バルブ101が配置されており、管内を流れる置換ガスの流量を制御できる。このため、ガス制御用バルブ101から下位制御部37に信号線が伸びており、装置ユーザは、コンピュータ35のモニタ上に表示される操作画面で、置換ガスの流量を制御できる。また、ガス制御用バルブ101は手動にて操作して開閉してもよい。
【0067】
置換ガスの種類としては、窒素や水蒸気など、大気よりも軽いガスであれば画像S/Nの改善効果が見られるが、質量のより軽いヘリウムガスや水素ガスの方が、画像S/Nの改善効果が大きい。
【0068】
置換ガスは軽元素ガスであるため、第2の空間12の上部に溜まりやすく、下側は置換しにくい。そこで、蓋部材122でガス供給管100の取り付け位置よりも下側に第2の空間の内外を連通する開口を設ける。例えば
図10では圧力調整弁104の取り付け位置に開口を設ける。これにより、ガス導入部から導入された軽元素ガスに押されて大気ガスが下側の開口から排出されるため、第2筐体121内を効率的にガスで置換できる。なお、この開口を後述する粗排気ポートと兼用しても良い。
【0069】
上述の開口の代わりに圧力調整弁104を設けても良い。当該圧力調整弁104は、第2筐体121の内部圧力が1気圧以上になると自動的にバルブが開く機能を有する。このような機能を有する圧力調整弁を備えることで、軽元素ガスの導入時、内部圧力が1気圧以上になると自動的に開いて窒素や酸素などの大気ガス成分を装置外部に排出し、軽元素ガスを装置内部に充満させることが可能となる。なお、図示したガスボンベまたは真空ポンプ103は、荷電粒子顕微鏡に備え付けられる場合もあれば、装置ユーザが事後的に取り付ける場合もある。
【0070】
また、ヘリウムガスや水素ガスのような軽元素ガスであっても、電子線散乱が大きい場合がある。その場合は、ガスボンベ103を真空ポンプにすればよい。そして、少しだけ真空引きすることによって、第2の筐体内部を極低真空状態(すなわち大気圧に近い圧力の雰囲気)にすることが可能となる。つまり、隔膜10と試料6との間の空間を真空にすることが可能である。例えば、第2の筐体121または蓋部材122に真空排気ポートを設け、第2筐体121内を少しだけ真空排気する。その後置換ガスを導入してもよい。この場合の真空排気は、第2筐体121内部に残留する大気ガス成分を一定量以下に減らせればよいので高真空排気を行う必要はなく、粗排気で十分である。
【0071】
このように本実施例では、試料が載置された空間を大気圧(約10
5Pa)から約10
3Paまでの任意の真空度に制御することができる。従来のいわゆる低真空走査電子顕微鏡では、電子線カラムと試料室が連通しているので、試料室の真空度を下げて大気圧に近い圧力とすると電子線カラムの中の圧力も連動して変化してしまい、大気圧(約10
5Pa)〜10
3Paの圧力に試料室を制御することは困難であった。本実施例によれば、第2の空間と第1の空間を薄膜により隔離しているので、第2の筐体121および蓋部材122に囲まれた第2の空間12の中の雰囲気の圧力およびガス種は自由に制御することができる。したがって、これまで制御することが難しかった大気圧(約10
5Pa)〜10
3Paの圧力に試料室を制御することができる。さらに、大気圧(約10
5Pa)での観察だけでなく、その近傍の圧力に連続的に変化させて試料の状態を観察することが可能となる。
【0072】
また、図示しないが、ボンベ103部はガスボンベと真空ポンプを複合的に接続した、複合ガス制御ユニット等でもよい。
【0073】
本実施例による構成は前述までの構成と比べて、第2筺体内部の第2の空間12が閉じられているという特徴を持つ。そのため、隔膜10と試料6の間にガスを導入し、または真空排気することが可能な荷電粒子線装置を提供することが可能となる。
【0074】
<その他>
以上説明したように、本実施例では、試料ステージ5およびその操作つまみ108、109、ガス供給管100、圧力調整弁104が全て蓋部材122に集約して取り付けられている。従って装置ユーザは、上記操作つまみ108、109の操作、試料の交換作業、またはガス供給管100、圧力調整弁104の操作を第1筐体の同じ面に対して行うことができる。よって、上記構成物が試料室の他の面にバラバラに取り付けられている構成の荷電粒子顕微鏡に比べて操作性が非常に向上している。
【0075】
以上説明した構成に加え、第2筐体121と蓋部材122との接触状態を検知する接触モニタを設けて、第2の空間が閉じているまたは開いていることを監視してもよい。
【0076】
また、二次電子検出器や反射電子検出器に加えて、X線検出器や光検出器を設けて、EDS分析や蛍光線の検出ができるようにしてもよい。X線検出器や光検出器の配置としては、第1の空間11または第2の空間12のいずれに配置されてもよい。
【0077】
実施例1と同様に隔膜保持部材155に位置決め構造155aを有する。位置決め構造155aに関する構成は実施例1と同様であるため詳細な説明は省略する。
【0078】
以上、本実施例により、実施例1や2の効果に加え、大気圧から置換ガスが導入可能である。また、第一の空間とは異なった圧力の雰囲気下での試料観察が可能である。また、隔膜を取り外して第1の空間と第2の空間を連通させることにより、大気または所定のガス雰囲気下での観察に加えて第一の空間と同じ真空状態での試料観察も可能なSEMが実現される。
【0079】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【0080】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、光ディスク等の記録媒体に置くことができる。
【0081】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。