【実施例】
【0058】
以下、製造例及び試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0059】
〔製造例1〕ダビジゲニンの製造−1
甘草の一種であるグリチルリーザ・インフラータ(Glychyrrhiza inflata)の根茎部を粉砕し、チップ状にした。この甘草チップ1.0kgをフラスコに取り、10Lの50容量%エタノール水溶液を加え、80℃で2時間抽出した後、ろ過した。得られたろ液を40℃以下の温度で減圧下濃縮した後、40℃で減圧乾燥を行い、黄褐色粉末である甘草根茎部50%エタノール抽出物(150g)を得た。
【0060】
このようにして得られた甘草根茎部50%エタノール抽出物10gに水25mLを加えて懸濁させ、次いでエタノール25mLおよび5質量%パラジウムカーボンを加えて撹拌し、室温にて懸濁液中に水素ガスを16時間吹き込んだ。次いで、ろ過により触媒を除去し、ろ液として甘草抽出物の還元処理物(10g)を得た。
【0061】
このようにして得られた甘草抽出物の還元処理物10gに95質量%硫酸5.0mLを加え、80℃で2時間反応させた。得られた反応液を多孔性樹脂(三菱化学社製,Diaion HP−20,500mL)上に付し、水2L、エタノール2Lの順で溶出させた。エタノール2Lで溶出させた画分からエタノールを留去し、エタノール溶出画分2.5gを得た。このエタノール溶出画分2.5gをメタノール:水=60:40(容量比)の混合液に溶解し、ODS(富士シリシア化学社製,クロマトレックスODS DM1020T)を充填したガラス製のカラム上部より流入して、ODSに吸着させた。移動相としてメタノール:水=60:40(容量比)を流し、その溶出液を集め、溶媒を留去し、ダビジゲニン濃縮液300mgを得た。得られたダビジゲニン濃縮液を、下記の条件で液体クロマトグラフィーを用いて分画した。
【0062】
<液体クロマトグラフィー条件>
固定相:JAIGEL GS−310(日本分析工業社製)
カラム径:20mm
カラム長:250mm
移動相流量:5mL/min
検出:RI
【0063】
ここで、保持時間40分〜50分に溶出する画分をリサイクルHPLCにより精製を行い、精製物を得た(220mg)。得られた精製物について、
13C−NMRにより分析した結果を以下に示す。
【0064】
<
13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素)>
205.6(C=O),166.4(4’−C),166.3(2’−C),156.7(4−C),133.7(6’−C),133.2(1−C),130.4(2,5−C),116.2(3,5−C),114.1(1’−C),109.1(5’−C),103.7(3’−C),40.9(α−C),31.0(β−C)
【0065】
以上の結果から、甘草抽出物の還元処理物を多孔性樹脂により分画し、ODSにより分離し、さらに液体クロマトグラフィーにより精製して得られた精製物が、下記式で表されるダビジゲニン(試料1)であることが確認された。
【0066】
【化2】
【0067】
〔製造例2〕ダビジゲニンの製造−2
48%質量水酸化ナトリウム水溶液10mLにイオン交換水10mLを加えて希釈した。これを60℃に加熱し、撹拌しながらp−ヒドロキシベンズアルデヒド1.2gを加えて溶解し、次いで2’,4’−ジヒドロキシアセトフェノン1.5gを加えて溶解した。この反応液を60℃に加熱したまま24時間撹拌し、さらに加熱を止めて室温で48時間撹拌した。得られた反応液を氷浴上で冷却しながら、水80mLを用いて希釈した後、あらかじめ調製した10%硫酸水溶液40mLを加えて黄色結晶を析出させた。この懸濁液からろ紙を用いたろ過によって沈殿部をろ取した。ろ取した沈殿を40℃にて減圧乾燥し、2’,4,4’−トリヒドロキシカルコン500mgを黄色結晶として得た。
【0068】
上記の反応を繰り返すことで得られた2’,4,4’−トリヒドロキシカルコン10gを、密封可能な反応容器内でエタノール50mLに溶解し、5質量%パラジウムカーボン1.0gを加えた。この懸濁液を激しく撹拌しながら、容器内を減圧しては水素ガスを吹き込む操作を数回繰り返し、容器内を水素ガスで充満させた。反応液を4時間激しく撹拌した後に、ろ過によって触媒を除去した。得られたろ液に水100mLを加えた。析出した白色結晶をろ紙ろ過によってろ取し、これを40℃にて減圧乾燥することで白色結晶を得た(9.5g)。
【0069】
得られた白色結晶を
13C−NMRにより分析したところ、試料1の結果と一致し、得られた白色結晶がダビジゲニンであることが確認された。
【0070】
〔試験例1〕皮膚線維芽細胞増殖促進作用試験
製造例1で得られたダビジゲニン(試料1)について、以下のようにして皮膚線維芽細胞増殖促進作用を試験した。
【0071】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(NB1RGB)を10%FBS含有α−MEMを用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を7.0×10
4cells/mLの細胞密度になるように5%FBS含有α−MEMで希釈した後、96ウェルプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、一晩培養した。
【0072】
培養終了後、5%FBS含有α−MEMで溶解した試料溶液(試料1,試料濃度は下記表1を参照)を各ウェルに100μLずつ添加し、3日間培養した。線維芽細胞増殖作用は、MTTアッセイ法を用いて測定した。
【0073】
培養終了後、各ウェルから100μLずつ培地を抜き、終濃度5mg/mLでPBS緩衝液に溶解したMTTを各ウェルに20μLずつ添加した。4.5時間培養した後に、10%SDSを溶解した0.01mol/Lの塩酸溶液を各ウェルに100μLずつ添加し、一晩培養した後、波長570nmにおける吸光度を測定した。同時に濁度として波長650nmにおける吸光度を測定し、両者の差をもってブルーホルマザン生成量とした。また、同様の方法で空試験を行い補正した。得られた結果から、下記の式により線維芽細胞増殖促進率(%)を算出した。
【0074】
線維芽細胞増殖促進率(%)=(St−Sb)/(Ct−Cb)×100
式中、Stは「試料を添加した細胞での吸光度」を表し、Sbは「試料を添加した空試験の吸光度」を表し、Ctは「試料を添加しない細胞での吸光度」を表し、Cbは「試料を添加しない空試験の吸光度」を表す。
結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1に示すように、ダビジゲニンは、優れた線維芽細胞増殖促進作用を有することが確認された。
【0077】
〔試験例2〕MMP−1活性阻害作用試験
製造例1で得られたダビジゲニン(試料1)について、以下のようにしてMMP−1活性阻害作用を試験した。
【0078】
蓋付試験管にて20mmol/Lの塩化カルシウムを含有する0.1mol/LのTris−HCl緩衝液(pH7.1)に溶解した試料溶液(試料1,試料濃度は下記表2を参照)50μL、MMP−1溶液(Sigma社製,COLLAGENASE Type IV from Clostridium histolyticum)50μL、及びPzペプチド溶液(BACHEM Feinchemikalien AG社製,Pz−Pro−Leu−Gly−Pro−D−Arg−OH)400μLを混合し、37℃にて30分反応させた後、25mmol/Lのクエン酸溶液1mLを加え反応を停止した。
【0079】
その後、酢酸エチル5mLを加え、激しく振とうした。これを遠心(1600×g,10分)し、酢酸エチル層の波長320nmにおける吸光度を測定した。また、同様にして空試験を行い補正した。得られた結果から、下記式によりMMP−1活性阻害率(%)を算出するとともに、MMP−1の活性を50%阻害する試料濃度IC
50(μg/mL)を内挿法により求めた。
【0080】
MMP−1活性阻害率(%)={1−(C−D)/(A−B)}×100
式中、Aは「試料無添加、酵素添加での波長320nmにおける吸光度」を表し、Bは「試料無添加、酵素無添加での波長320nmにおける吸光度」を表し、Cは「試料添加、酵素添加での波長320nmにおける吸光度」を表し、Dは、「試料添加、酵素無添加での波長320nmにおける吸光度」を表す。
結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
表2に示すように、ダビジゲニンは、優れたMMP−1活性阻害作用を有することが確認された。また、MMP−1活性阻害作用の程度は、ダビジゲニンの濃度によって調節できることが確認された。
【0083】
〔試験例3〕エラスターゼ活性阻害作用試験
製造例1で得られたダビジゲニン(試料1)について、以下のようにしてエラスターゼ活性阻害作用を試験した。
【0084】
0.2mol/LのTris−HCl(pH8.0)緩衝液に溶解した試料溶液(試料1,試料濃度は下記表3を参照)50μLと、エラスターゼ溶液(Sigma社製)50μLとを96ウェルプレートにて混合した。その後、0.2mol/LのTris−HCl(pH8.0)緩衝液に0.4514mg/mLとなるよう溶解した基質溶液(SIGMA社製,N−サクシニル−Ala−Ala−Ala−p−ニトロアニリド)100μLを添加し、25℃にて15分間反応させた。反応終了後、分光光度計(BIO-TEK INSTRUMENTS, INC社製)を用いて波長415nmにおける吸光度を測定した。また、同様にして空試験を行い補正した。得られた結果から、下記式によりエラスターゼ活性阻害率(%)を算出した。
【0085】
エラスターゼ活性阻害率(%)={1−(A−B)/(C−D)}×100
式中、Aは「試料添加・酵素添加時の波長415nmにおける吸光度」を表し、Bは「試料添加・酵素無添加時の波長415nmにおける吸光度」を表し、Cは「試料無添加・酵素添加時の波長415nmにおける吸光度」を表し、Dは「試料無添加・酵素無添加時の波長415nmにおける吸光度」を表す。
結果を表3に示す。
【0086】
【表3】
【0087】
表3に示すように、ダビジゲニンは、優れたエラスターゼ活性阻害作用を有することが確認された。
【0088】
〔試験例4〕プロフィラグリン・フィラグリン産生促進作用試験
製造例1で得られたダビジゲニン(試料1)について、以下のようにしてプロフィラグリン・フィラグリン産生促進作用を試験した。
【0089】
正常ヒト新生児皮膚表皮角化細胞(NHEK)を75cm
2のフラスコで正常ヒト表皮角化細胞培地(KGM)にて37℃、5%CO
2−95%airの条件下で培養し、常法により細胞を集めた。得られた細胞を同培地にて1.5×10
5個/mLの細胞密度になるように調整し、2mLずつ6穴コラーゲンコートプレートに播種して37℃、5%CO
2−95%airの条件下で3日間培養した。培養後、培地を0.25%DMSOに溶解した試料(試料1,試料濃度は下記表4を参照)を含むKGM2mLに交換し、37℃、5%CO
2−95%airの条件下で5日間培養した。培養終了後、常法により総タンパク質の調製を行った。
【0090】
10μg/列に調整したサンプルをSDS−PAGEにより展開し、PVDF膜に転写した。5%スキムミルクを含むPBS緩衝液でブロッキングを行った後、抗ヒトフィラグリンモノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)、ビオチン標識抗マウスIg(Amersham Biosciences社製,Whole Ab)及びストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ複合体(CALBIOCHEM社製)を、0.1%Tween20、0.3%スキムミルクを含むPBS緩衝液で1000倍に希釈して順次反応させ、ECL Western blotting detection reagents(Amersham Biosciences社製)の発光によりプロフィラグリン及びフィラグリンを画像撮影装置(Bio-Rad Laboratories社製,ChemiDoc XRS Plus)を用いて検出した。検出したバンドをImage Lab Software version2.0(Bio-Rad Laboratories社製)にて定量的に測定した。
【0091】
結果は、試料添加及び無添加で培養した細胞のそれぞれから調製したタンパク質10μg中のプロフィラグリン及びフィラグリンのNet intensity(バンド強度)を合算した値を用いて、試料のプロフィラグリン産生促進作用を評価し、プロフィラグリン産生促進率(%)を下記式に基づいて算出した。
【0092】
プロフィラグリン/フィラグリン産生促進率(%)=A/B×100
式中、Aは「試料添加時のNet intensity(プロフィラグリン及びフィラグリンの合計値)」を表し、Bは「試料無添加時(コントロール)のNet intensity」を表す。
結果を表4に示す。
【0093】
【表4】
【0094】
表4に示すように、ダビジゲニンは、10μg/mLにおいて優れたプロフィラグリン産生促進作用を有することが確認された。なお、フィラグリンは、生体内でプロフィラグリンの加水分解により産生されるものであることから、プロフィラグリン産生促進作用を有するダビジゲニンは、プロフィラグリンの産生を促進し、細胞内におけるプロフィラグリン量を増加させることで、フィラグリン量をも増加させることができ、結果としてフィラグリン産生促進作用を有するものと考えられる。
【0095】
〔配合例1〕
下記組成の乳液を常法により製造した。
ダビジゲニン(製造例1) 0.01g
ホホバオイル 4.0g
黄杞エキス 0.1g
オリーブオイル 2.0g
スクワラン 2.0g
セタノール 2.0g
モノステアリン酸グリセリル 2.0g
ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O) 2.5g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O) 2.0g
グリチルレチン酸ステアリル 0.1g
1,3−ブチレングリコール 3.0g
ヒノキチオール 0.15g
香料 0.05g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0096】
〔配合例2〕
下記組成のクリームを常法により製造した。
ダビジゲニン(製造例1) 0.05g
クジンエキス 0.1g
オウゴンエキス 0.1g
流動パラフィン 5.0g
サラシミツロウ 4.0g
スクワラン 10.0g
セタノール 3.0g
ラノリン 2.0g
ステアリン酸 1.0g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O) 1.5g
モノステアリン酸グリセリル 3.0g
油溶性甘草エキス 0.1g
1,3−ブチレングリコール 6.0g
パラオキシ安息香酸メチル 1.5g
香料 0.1g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0097】
〔配合例3〕
下記組成の美容液を常法により製造した。
ダビジゲニン(製造例1) 0.01g
カミツレエキス 0.1g
ニンジンエキス 0.1g
キサンタンガム 0.3g
ヒドロキシエチルセルロース 0.1g
カルボキシビニルポリマー 0.1g
1,3−ブチレングリコール 4.0g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1g
グリセリン 2.0g
水酸化カリウム 0.25g
香料 0.01g
防腐剤(パラオキシ安息香酸メチル) 0.15g
エタノール 2.0g
精製水 残部(全量を100gとする)