特許第6170404号(P6170404)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6170404
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】切削装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20170713BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20170713BHJP
   B24B 55/02 20060101ALI20170713BHJP
   B24B 55/04 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   H01L21/78 F
   B24B27/06 M
   B24B55/02 D
   B24B55/04 Z
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-221424(P2013-221424)
(22)【出願日】2013年10月24日
(65)【公開番号】特開2015-82646(P2015-82646A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2016年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】瓜田 直功
(72)【発明者】
【氏名】新田 秀次
(72)【発明者】
【氏名】八木原 惇
(72)【発明者】
【氏名】江角 和也
【審査官】 川原 光司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−021557(JP,A)
【文献】 実開昭59−042042(JP,U)
【文献】 特開2000−033346(JP,A)
【文献】 特開2007−059432(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0269980(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 27/06
B24B 55/02
B24B 55/04
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物を切削する切削手段と、該チャックテーブルを該切削手段に対して相対的に切削送りする切削送り手段と、該切削手段を該チャックテーブルに対して相対的に割り出し送りする割り出し送り手段とを少なくとも備えた切削装置であって、
該切削手段は、スピンドルと、該スピンドルを回転可能に支持するスピンドルハウジングと、該スピンドルの先端に装着される切削ブレードと、該切削ブレードに切削水を供給する切削水供給ノズルを備えると共に該スピンドルハウジングに固定され該切削ブレードを覆うブレードカバーとを含み、
該ブレードカバーには、前記切削ブレードによる切削に起因して切削水が飛散する側の反対側に配設され且つアースに接続された導電性ノズルを備え、
該導電性ノズルは、該チャックテーブルに保持された被加工物の上面に導電性液体を供給する供給口を有し、該供給口から供給された該導電性液体により該供給口から被加工物の上面まで連通する水柱を形成し、被加工物の上面に帯電した静電気を該水柱を通して除電することを特徴とする切削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエーハ等の被加工物を切削する切削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエーハ等の被加工物を切削する切削装置では、切削ブレードを高速回転させて被加工物を切削加工する。その際に、切削ブレードと被加工物との間に生じる摩擦熱が切削ブレードの磨耗や破損を増大させ、被加工物の加工面上のチッピングの発生や異常切削の原因となる。そこで、切削ブレードや加工点に切削水を供給し、切削ブレード及び加工点を冷却する方法が採用されている。切削水の供給方法としては、シャワーノズル(切削水ノズル)を用いて切削方向前方からブレード外周縁に切削水を供給する方法、切削ブレードを挟むように配設された一対の側面ノズルを用いて切削水を供給する方法、更にブレード外周面全体に切削水を供給する方法等が採用されている。様々な位置から噴射される切削水は高速回転する切削ブレードの連れ回りにより、ブレードの回転方向の下流側に勢いよく排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−91120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記排出とともに多量の噴霧も発生し、かかる噴霧がウエーハ表面に噴射され摩擦等の影響により、ウエーハ表面が帯電し、デバイスが損傷してしまうという問題がある。この現象は、ウエーハの表面状態が撥水性が高い膜で覆われている際には、帯電低減のために純水に炭酸ガスを熔解させ比抵抗値を下げた切削液を使用しても生じている。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、撥水性の高い表面状態を有する被加工物であっても静電気を帯電させないようにすることによりデバイスの損傷を抑制できる切削装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の切削装置は、被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物を切削する切削手段と、該チャックテーブルを該切削手段に対して相対的に切削送りする切削送り手段と、該切削手段を該チャックテーブルに対して相対的に割り出し送りする割り出し送り手段とを少なくとも備えた切削装置であって、該切削手段は、スピンドルと、該スピンドルを回転可能に支持するスピンドルハウジングと、該スピンドルの先端に装着される切削ブレードと、該切削ブレードに切削水を供給する切削水供給ノズルを備えると共に該スピンドルハウジングに固定され該切削ブレードを覆うブレードカバーとを含み、該ブレードカバーには、前記切削ブレードによる切削に起因して切削水が飛散する側の反対側に配設され且つアースに接続された導電性ノズルを備え、該導電性ノズルは、該チャックテーブルに保持された被加工物の上面に導電性液体を供給する供給口を有し、該供給口から供給された該導電性液体により該供給口から被加工物の上面まで連通する水柱を形成し、被加工物の上面に帯電した静電気を該水柱を通して除電することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の切削装置においては、ブレードカバーにアースに接続された導電性ノズルを装着し、導電性液体を供給して導電性ノズルの供給口から被加工物の上面との間に水柱を形成することで、水柱を通して上面に帯電した静電気を確実にアースに除電できる。したがって、切削加工時に発生する静電気が帯電しても直後にすぐに除電することが可能になり、帯電によるデバイスの静電破壊を極力抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る切削装置の構成例を示す斜視図である。
図2図2は、実施形態に係る切削装置の切削手段の構成例を示す斜視図である。
図3図3は、実施形態に係る切削装置の切削中の切削手段などを示す側面図である。
図4図4は、実施形態に係る切削装置の切削中の切削手段などを示す平面図である。
図5図5は、実施形態に係る切削装置の切削中の切削手段の切削ブレードなどの正面図である。
図6図6は、本発明の原理を確認した実験に用いられた装置の概略の構成を模式的に示す図である。
図7図7は、本発明の原理を確認した実験の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0010】
〔実施形態〕
実施形態に係る切削装置を、図1から図5に基づいて説明する。図1は、実施形態に係る切削装置の構成例を示す斜視図である。図2は、実施形態に係る切削装置の切削手段の構成例を示す斜視図である。図3は、実施形態に係る切削装置の切削中の切削手段などを示す側面図である。図4は、実施形態に係る切削装置の切削中の切削手段などを示す平面図である。図5は、実施形態に係る切削装置の切削中の切削手段の切削ブレードなどの正面図である。
【0011】
実施形態に係る切削装置1は、被加工物Wを個々のデバイスDに分割する装置である。なお、本実施形態に係る切削装置1により個々のデバイスDに分割される被加工物Wは、本実施形態ではシリコン、サファイア、ガリウムなどを母材とする円板状の半導体ウエーハや光デバイスウエーハである。被加工物Wは、図1に示すように、上面Waに格子状に形成された分割予定ラインLで区画された各領域にデバイスDが形成されている。被加工物Wは、上面Waの裏側の裏面WbにダイシングテープTが貼着され、ダイシングテープTに環状フレームFが貼着されて、ダイシングテープTを介して環状フレームFに貼着される。被加工物Wは、切削装置1により分割予定ラインLに沿って切削溝S(図4及び図5に示す)が形成されて個々のデバイスDに分割される。また、本発明では、被加工物Wは、電子部品に使用される各種セラミック基板、樹脂基板、ガラス基板などであってもよい。なお、ダイシングテープTは、電気的に絶縁性を有する合成樹脂などで構成されている。
【0012】
切削装置1は、図1に示すように、被加工物Wを保持するチャックテーブル10と、チャックテーブル10に保持された被加工物Wを切削する切削手段20と、切削手段20をチャックテーブル10に対して相対的に切削送りするX軸移動手段30(切削送り手段に相当)と、切削手段20をチャックテーブル10に対して相対的に割り出し送りするY軸移動手段40(割り出し送り手段に相当)とを少なくとも備える。切削装置1は、図1に示すように、切削手段20を2つ備えた、即ち、2スピンドルのダイサ、いわゆるフェイシングデュアルタイプの切削装置である。
【0013】
また、切削装置1は、図1に示すように、チャックテーブル10と、切削手段20と、X軸移動手段30と、Y軸移動手段40とに加えて、Z軸移動手段50(切り込み送り手段に相当)と、図示しない制御手段とを備えている。
【0014】
チャックテーブル10は、切削加工前の被加工物Wが載置されて、ダイシングテープTを介して環状フレームFの開口に貼着された被加工物Wを保持するものである。チャックテーブル10は、表面を構成する部分がポーラスセラミック等から形成された円盤形状であり、図示しない真空吸引経路を介して図示しない真空吸引源と接続され、表面に載置された被加工物Wを吸引することで保持する。なお、チャックテーブル10は、X軸移動手段30によりX軸方向に移動自在に設けられかつ回転駆動源(図示せず)により中心軸線(Z軸と平行である)回りに回転自在に設けられている。また、チャックテーブル10は、図示しないアースに電気的に接続されている。また、チャックテーブル10の周囲には、エアーアクチュエータにより駆動して被加工物Wの周囲の環状フレームFを挟持するクランプ部11が複数設けられている。
【0015】
切削手段20は、チャックテーブル10に保持された被加工物Wに切削水P(図3及び図4に示す)を供給しながら切削するものである。切削手段20は、それぞれ、チャックテーブル10に保持された被加工物Wに対して、Y軸移動手段40によりY軸方向に移動自在に設けられ、かつ、Z軸移動手段50によりZ軸方向に移動自在に設けられている。
【0016】
一方の切削手段20は、図1に示すように、Y軸移動手段40、Z軸移動手段50などを介して、装置本体2から立設した一方の柱部3aに設けられている。他方の切削手段20は、図1に示すように、Y軸移動手段40、Z軸移動手段50などを介して、他方の柱部3bに設けられている。
【0017】
切削手段20は、Y軸移動手段40及びZ軸移動手段50により、チャックテーブル10の表面の任意の位置に切削ブレード21を位置付け可能となっている。また、一方の切削手段20は、被加工物Wの上面Waを撮像する図示しない撮像手段が一体的に移動するように固定されている。撮像手段は、チャックテーブル10に保持された分割加工前の被加工物Wの分割すべき領域を撮像するCCDカメラを備えている。CCDカメラは、チャックテーブル10に保持された被加工物Wを撮像して、被加工物Wと切削ブレード21との位置合わせを行なうアライメントを遂行するための画像を得、得た画像を制御手段に出力する。
【0018】
切削手段20は、図2に示すように、スピンドル22と、スピンドル22を回転可能に支持するスピンドルハウジング23と、スピンドル22の先端に装着される切削ブレード21と、ブレードカバー24とを含んで構成されている。
【0019】
切削ブレード21は、略リング形状を有する極薄の切削砥石である。スピンドル22は、切削ブレード21を回転させることで被加工物Wを切削する。スピンドル22は、スピンドルハウジング23内に収容され、スピンドルハウジング23は、Z軸移動手段50に支持されている。切削手段20のスピンドル22及び切削ブレード21の軸心は、Y軸方向と平行に設定されている。
【0020】
ブレードカバー24は、スピンドルハウジング23の前端部に固定され、切削ブレード21の下方を除く外周を覆うものである。ブレードカバー24は、図2図3及び図4に示すように、切削ブレード21に切削水Pを供給する一対の切削水供給ノズル25と、切削ブレード21の上流側に切削水Pを供給する前方噴射ノズル26(切削水供給ノズルに相当)と、一対の導電性ノズル27と、を備えている。
【0021】
切削水供給ノズル25は、ブレードカバー24の下端部に切削ブレード21を挟んでY軸方向の両側に配設され、切削ブレード21の両側方に切削水Pを供給するためのものである。切削水供給ノズル25は、ブレードカバー24の下端部に装着され、X軸方向と平行に水平方向に延伸し、且つその側面に切削水Pを噴射する図示しない噴射スリットを有する円筒形状に形成されている。切削水供給ノズル25には、ブレードカバー24の上端部に取り付けられた連結部28a(図2に示す)及びブレードカバー24の内部に形成された図示しない切削水供給路を介して、切削水源80からの切削水Pが供給される。
【0022】
前方噴射ノズル26は、ブレードカバー24の下端部の切削時のチャックテーブル10のX軸方向の移動方向Xa(図3及び図4に示す)の上流側に配設され、切削ブレード21の上流側に切削水Pを供給するためのものである。前方噴射ノズル26には、ブレードカバー24の上端部に取り付けられた連結部28b及びブレードカバー24の内部に形成された図示しない切削水供給路を介して、切削水源80からの切削水Pが供給される。なお、本実施形態で用いられる切削水Pは、純水に二酸化炭素が適量付加されて、全体としての電気的な比抵抗が例えば0.5〜1.0MΩm(メガオームメートル)に調整されている。
【0023】
一対の切削水供給ノズル25及び前方噴射ノズル26は、被加工物Wを切削する際には、切削水源80からの切削水P1(図3に示す)を切削ブレード21に供給する。このとき、切削ブレード21は、スピンドル22によりR方向に回転されているので、図3及び図4に示すように、チャックテーブル10のX軸方向の移動方向Xaの下流側に向けて切削水Pが飛散される。このとき、飛散された切削水Pが被加工物Wに衝突して、衝突時の摩擦などにより静電気を被加工物Wの上面Waに発生させることになる。
【0024】
一対の導電性ノズル27は、ブレードカバー24の下端部の切削ブレード21による切削に起因して、切削水Pが飛散する側の反対側に配設されている。即ち、導電性ノズル27は、ブレードカバー24の下端部の切削時のチャックテーブル10のX軸方向の移動方向Xaの上流側に配設されている。一対の導電性ノズル27は、チャックテーブル10に保持された被加工物Wの上面Waに導電性液体CL(図3図4及び図5に示す)を供給するものである。一対の導電性ノズル27は、導電性を有する金属で構成され、図3に示すように、アースGに接続されている。導電性ノズル27は、図5に示すように、切削ブレード21を挟んでY軸方向の両側に配設されている。
【0025】
導電性ノズル27は、チャックテーブル10に保持された被加工物Wの上面Waに導電性液体CLを供給する供給口27aを有している。導電性ノズル27の供給口27aは、図5に示すようにチャックテーブル10に保持された被加工物Wの上面Waに近づくのにしたがって徐々にY軸方向に切削ブレード21から近づく方向に傾斜している。また、導電性ノズル27は、切削ブレード21が切削する分割予定ラインLの隣の分割予定ラインLに対向する位置に配設されている。
【0026】
導電性ノズル27には、ブレードカバー24の上端部に取り付けられた連結部28c(図2に示す)及びブレードカバー24の内部に形成された図示しない導電性液体供給路を介して、導電性液体源90からの導電性液体CLが供給される。なお、本実施形態で用いられる導電性液体CLは、純水に二酸化炭素が適量付加されて、全体としての電気的な比抵抗が例えば0.5〜1.0MΩm(メガオームメートル)に調整されている。また、導電性液体CLは、切削水Pよりも比抵抗が小さいこと、即ち、純水に付加される二酸化炭素の量が多いことが望ましい。
【0027】
一対の導電性ノズル27は、切削手段20が切削する際には、導電性液体CLに気体を合流させることなく、供給口27aから導電性液体CLを被加工物Wの上面Waに供給する。一対の導電性ノズル27は、供給口27aから供給された導電性液体CLにより供給口27aから被加工物Wの上面Waまで連通する水柱CW(図3図4及び図5に示す)を形成する。導電性ノズル27は、供給口27aから被加工物Wの上面Waまで途切れることなく連続する水柱CWを、極力導電性液体CLのみにより形成する。導電性ノズル27は、導電性液体CLにより形成される水柱CWにより被加工物Wの上面Waと電気的に接続されて、被加工物Wの上面WaとアースGとを電気的に接続する。
【0028】
なお、切削装置1は、切削手段20が切削する際には、切削ブレード21がY軸移動手段40により移動される方向Ya(図5に示す)の上流側の一方の導電性ノズル27の供給口27aから導電性液体CLを被加工物Wの上面Waに供給して、水柱CWを形成する。こうすることで、導電性ノズル27は、切削手段20により既に切削溝Sが形成された分割予定ラインL上に水柱CWを形成する。
【0029】
制御手段は、切削装置1を構成する上述した構成要素をそれぞれ制御して、被加工物Wに対する分割加工を切削装置1に行わせるものである。なお、制御手段は、例えばCPU等で構成された演算処理装置やROM、RAM等を備える図示しないマイクロプロセッサを主体として構成されており、加工動作の状態や前記画像などを表示する表示手段や、オペレータが加工内容情報などを登録する際に用いる図示しない操作手段と接続されている。
【0030】
次に、実施形態に係る切削装置1を用いた切削方法について説明する。切削方法では、オペレータが加工内容情報を制御手段に登録し、オペレータから加工動作の開始指示があった場合に、切削装置1が加工動作を開始する。まず、オペレータが切削手段20から離間したチャックテーブル10の表面に被加工物Wを載置し、制御手段が、チャックテーブル10の表面に被加工物Wを吸引保持し、クランプ部11で環状フレームFを挟持する。
【0031】
次に、制御手段は、X軸移動手段30によりチャックテーブル10を切削手段20の下方に向かって移動して、一方の切削手段20に固定された撮像手段の下方にチャックテーブル10に保持された被加工物Wを位置付け、撮像手段に撮像させる。撮像手段は、撮像した画像の情報を制御手段に出力する。そして、制御手段が、チャックテーブル10に保持された被加工物Wの分割予定ラインLと、切削手段20の切削ブレード21との位置合わせを行なうためのパターンマッチング等の画像処理を実行し、チャックテーブル10に保持された被加工物Wと切削手段20との相対位置を調整する。
【0032】
そして、制御手段は、加工内容情報に基づいて、X軸移動手段30とY軸移動手段40とZ軸移動手段50と回転駆動源により切削手段20とチャックテーブル10に保持された被加工物Wとを相対的に移動させて、各分割予定ラインLに順に切削溝Sを形成する。この際、制御手段は、切削水源80から切削水P,P1を一対の切削水供給ノズル25及び前方噴射ノズル26から被加工物Wの上面Waに供給する。被加工物Wの上面Waに供給された切削水Pは、切削ブレード21などを冷却した後に、切削フレード21の回転によりチャックテーブル10のX軸方向の移動方向Xaの下流側に飛散される。そして、飛散された切削水Pは、被加工物Wの上面Waに衝突し、被加工物Wの上面Waとの摩擦により静電気を発生する。発生した静電気は、ダイシングテープTが絶縁性を有するために、チャックテーブル10などを介してアースに導かれることなく、被加工物Wの上面Waに帯電する。
【0033】
また、制御手段は、切削手段20の切削中には、切削ブレード21がY軸移動手段40により移動される方向Yaの上流側の一方の導電性ノズル27の供給口27aから導電性液体CLを被加工物Wの上面Waに供給する。そして、制御手段は、図3図4及び図5に示すように、導電性液体CLを供給口27aから被加工物Wの上面Waに供給し、供給口27aと被加工物Wの上面Waの間に水柱CWを形成する。そして、切削ブレードの移動方向Xaの下流側に飛散された切削水Pと被加工物Wの上面Waとの摩擦により発生し被加工物Wの上面Waに帯電した静電気は、導電性液体CLの水柱CWと導電性ノズル27を介してアースGに導かれる。こうして、切削装置1は、被加工物Wの上面Waに帯電した静電気を水柱CWを通して除電する。
【0034】
制御手段は、全ての分割予定ラインLを切削して、全ての分割予定ラインLに切削溝Sを形成して、被加工物Wを複数のデバイスDに分割すると、チャックテーブル10を切削手段20の下方から退避させた後、チャックテーブル10の吸引保持及びクランプ部11の挟持を解除する。そして、オペレータが分割された複数のデバイスDなどをチャックテーブル10上から取り除くとともに、切削前の被加工物Wを再度、チャックテーブル10上に載置し、前述の工程を繰返して、被加工物Wを個々のデバイスDに分割する。
【0035】
以上のように、実施形態に係る切削装置1によれば、ブレードカバー24にアースGに接続された導電性ノズル27を装着し、導電性液体CLを供給して導電性ノズル27の供給口27aから被加工物Wの上面Waとの間に導電性液体CLにより水柱CWを形成する。このために、切削装置1は、水柱CWを通して被加工物Wの上面Waに帯電した静電気を確実にアースGに除電できる。したがって、切削装置1は、切削加工時に発生する静電気が帯電しても直後にすぐに除電することが可能になり、帯電によるデバイスDの静電破壊を極力抑制することができる。よって、切削装置1は、撥水性の高い表面状態を有する被加工物Wであっても静電気を帯電させないようにすることにより、デバイスDの損傷を抑制することができる。
【0036】
また、切削装置1は、一対の導電性ノズル27を切削ブレード21による切削に起因して切削水Pが飛散する側の反対側に配設し、一対の導電性ノズル27を切削ブレード21を挟んでY軸方向の両側に配設している。このために、切削装置1は、被加工物Wの上面Waの切削ブレード21により切削水Pが飛散されていない領域に導電性ノズル27の供給口27aを位置付けることとなる。したがって、切削装置1は、導電性ノズル27の供給口27aと被加工物Wの上面Waとの間に水柱CWを確実に形成することができ、被加工物Wの上面Waに帯電した静電気を確実にアースGまで除電することができる。
【0037】
さらに、切削装置1は、一対の導電性ノズル27のうちの切削ブレード21がY軸移動手段40により移動される方向Yaの上流側の一方の導電性ノズル27の供給口27aから導電性液体CLを供給する。このために、切削装置1は、分割予定ラインLに既に形成された切削溝S上に水柱CWを形成することができる。よって、切削装置1は、特に切削溝Sの周りに帯電した静電気を確実に除電することができる。
【0038】
また、切削装置1は、導電性ノズル27の供給口27aが被加工物Wの上面Waに近づくのにしたがって徐々にY軸方向に切削ブレード21に近づく方向に傾斜している。このために、切削装置1は、導電性ノズル27の供給口27aから供給された導電性液体CLが切削ブレード21に付着することを抑制でき、切削ブレード21の導電性液体CLによる腐食を抑制することができる。
【0039】
次に、本発明の発明者らは、導電性液体CLで水柱CWを形成することにより被加工物Wの上面Waを除電できる本発明の原理を実験により確認した。図6は、本発明の原理を確認した実験に用いられた装置の概略の構成を模式的に示す図である。図7は、本発明の原理を確認した実験の実験結果である。なお、図6において、実施形態と対応する部分には、同一符号を付して説明を省略している。
【0040】
実験に用いられた装置100は、図6に示すように、切削ブレード21により飛散される切削水Pと同様の状態で、切削水噴射ノズル103から銅などで構成された導電性の棒部材Waに向けて切削水Pを噴射させた。また、装置100は、導電性ノズル27から導電性液体CLを供給して、導電性ノズル27と棒部材Waとの間に水柱CWを形成した。また、導電性の棒部材Waは、抵抗101を介してアースGに接続し、抵抗101の電圧値を電圧計102で測定することで、被加工物Wの上面Waの帯電状況を示す棒部材Waの電位を測定した。また、実験では、比抵抗が例えば0.5MΩm(メガオームメートル)の導電性液体CLを用いた。
【0041】
また、図7に示された実験結果では、横軸が実験開始からの経過時間を示し、縦軸が被加工物Wの上面Waの帯電状況を示す棒部材Waの電位を示している。なお、縦軸では、アースGの電位を零Vとしている。図7では、実験開始から時間t1までの間及び時間t2から時間t3までの間には、導電性ノズル27から導電性液体CLを棒部材Waに供給していない。また、時間t1から時間t2までの間、時間t3以降には、導電性ノズル27から導電性液体CLを棒部材Waに供給して水柱CWを形成した。図7の実験結果によれば、実験開始から時間t1までの間及び時間t2から時間t3までの間の棒部材Waの電位が5Vから7Vの間であるのに対して、時間t1から時間t2までの間、時間t3以降の棒部材Waの電位が殆ど零Vであることが明らかとなった。即ち、図7の実験結果によれば、導電性ノズル27から導電性液体CLを棒部材Waに供給して水柱CWを形成することで、棒部材Wa即ち被加工物Wの上面Waに帯電した静電気を除電できることが明らかとなった。
【0042】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 切削装置
10 チャックテーブル
20 切削手段
21 切削ブレード
22 スピンドル
23 スピンドルハウジング
24 ブレードカバー
25 切削水供給ノズル
26 前方噴射ノズル(切削水供給ノズル)
27 導電性ノズル
27a 供給口
W 被加工物
Wa 上面
P 切削水
CL 導電性液体
CW 水柱
G アース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7