特許第6170657号(P6170657)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6170657薄膜リチウム二次電池製造方法、マスク、薄膜リチウム二次電池製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6170657
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】薄膜リチウム二次電池製造方法、マスク、薄膜リチウム二次電池製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20170713BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20170713BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170713BHJP
【FI】
   H01M10/0562
   H01M10/0585
   H01M10/052
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-189203(P2012-189203)
(22)【出願日】2012年8月29日
(65)【公開番号】特開2014-49205(P2014-49205A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100106666
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100102875
【弁理士】
【氏名又は名称】石島 茂男
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮由
(72)【発明者】
【氏名】浅川 慶一郎
(72)【発明者】
【氏名】神保 武人
(72)【発明者】
【氏名】鄒 弘綱
【審査官】 渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−239840(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/021706(WO,A1)
【文献】 特開平07−226201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 10/0585
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、正極集電層、正極層、固体電解質層、負極集電層、負極層を有する薄膜リチウム二次電池を製造する方法であって、
前記基板上において下地金属層である前記正極集電層又は前記負極集電層上に絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ層を形成する工程を有し、
真空中でマスクのパターン形成用開口部を介してスパッタリングによって前記基板上に前記絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ層を形成する際、前記マスクの成膜側面の前記パターン形成用開口部に隣接する金属部分が前記下地金属層に接触しないように当該金属部分と当該下地金属層との間に隙間を形成する隙間形成用凹部を当該金属部分に設けて成膜を行う工程を有する薄膜リチウム二次電池製造方法。
【請求項2】
前記絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ層が前記固体電解質層である請求項1記載の薄膜リチウム二次電池製造方法。
【請求項3】
前記固体電解質層が、リン酸リチウムオキシナイトライドガラス電解質からなる請求項1又は2のいずれか1項記載の薄膜リチウム二次電池製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載の薄膜リチウム二次電池製造方法を実施するためのマスクであって、
当該マスクの成膜側面の前記パターン形成用開口部に隣接する金属部分に、所定の深さの前記隙間形成用凹部が設けられているマスク。
【請求項5】
スパッタリング用の真空槽を有し、当該真空槽内において、請求項4記載のマスクが基板に対して近接配置するように構成されている薄膜リチウム二次電池製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に固体電解質のような絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ材料を用いたリチウム二次電池を製造する技術に関し、特に真空中で薄膜によってリチウム二次電池を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、携帯電話やパーソナルコンピュータの電源として、リチウムイオン二次電池が広く知られているが、リチウムイオン二次電池は、液体電解質を用いているため、液漏れや発火等が発生する場合があり、安全性についての課題がある。
【0003】
そこで、近年、電解質の材料として固体材料を用いた全固体型のリチウム二次電池が提案されており、その開発が進展している(例えば、特許文献1参照)。
特に、固体材料を用いた全固体型のリチウム二次電池として、薄膜からなる全固体型のリチウム二次電池は、カード型の電子部品等の電源用として期待されている。
【0004】
このような全固体型の薄膜リチウム二次電池は、例えばターゲットとしてLi3PO4を用い、スパッタリングによって、基板上の正極層上にLiPONからなる固体電解質層を形成するものが知られているが、このような従来技術では、マスクを用いてパターン成膜を行う際に、マスクと下地金属層との間にデンドライト状の金属が析出するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−12324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来の技術の課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、真空中でマスクを介してスパッタリングによって基板上に主に固体電解質のような絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ材料からなる層を形成する際、マスクと下地金属層間にデンドライト状の金属が析出することを防止する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意努力を重ねた結果、真空中でマスクを介してスパッタリングによって基板上に絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ層を形成する際、マスクの成膜側面のパターン形成用開口部に隣接する金属部分が下地金属層に接触しないように隙間を設けることにより、マスクと下地金属層間にデンドライト状の金属が析出することを防止しうることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
かかる知見に基づく本発明は、基板上に、正極集電層、正極層、固体電解質層、負極集電層、負極層を有する薄膜リチウム二次電池を製造する方法であって、前記基板上において下地金属層である前記正極集電層又は前記負極集電層上に絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ層を形成する工程を有し、真空中でマスクのパターン形成用開口部を介してスパッタリングによって前記基板上に前記絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ層を形成する際、前記マスクの成膜側面の前記パターン形成用開口部に隣接する金属部分が前記下地金属層に接触しないように当該金属部分と当該下地金属層との間に隙間を形成する隙間形成用凹部を当該金属部分に設けて成膜を行う工程を有する薄膜リチウム二次電池製造方法である。
本発明では、前記絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ層が前記固体電解質層である場合にも効果的である。
本発明では、前記固体電解質層が、リン酸リチウムオキシナイトライドガラス電解質からなる場合にも効果的である。
本発明は、上述したいずれかの薄膜リチウム二次電池製造方法を実施するためのマスクであって、当該マスクの成膜側面の前記パターン形成用開口部に隣接する金属部分に、所定の深さの前記隙間形成用凹部が設けられているものである。
本発明は、スパッタリング用の真空槽を有し、当該真空槽内において、上述したマスクが基板に対して近接配置するように構成されている薄膜リチウム二次電池製造装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、以下の効果を奏するものである。
すなわち、従来技術では、金属部分を有するマスクを用いたスパッタリングによって基板上に固体電解質層のような絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ層を形成する際に、下地金属層である正極又は負極集電層上にマスクを装着するとマスクの金属部分が下地金属層に接触して回路的に接続される。
【0010】
そして、下地金属層上に絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ層を成膜した場合にマスクと下地金属層と絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ層とによって閉回路が形成され、その結果、絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ層に発生する電場によりリチウムイオンの偏りが発生し、イオンマイグレーションによりデンドライト状の金属析出が発生する。
【0011】
これに対し、本発明においては、マスクの成膜側面のパターン形成用開口部に隣接する金属部分が下地金属層である正極又は負極集電層に接触しないように当該金属部分に隙間形成用凹部によって隙間を設けることにより、真空中でマスクのパターン形成用開口部を介してスパッタリングによって基板上に固体電解質層のような絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ層を形成する際に、マスクの金属部分と下地金属層の接触を阻止することができるので、下地金属層上に絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ層を成膜した場合にマスクと下地金属層と絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ層とによる閉回路の形成を防止することができる。
【0012】
これにより、マスクと下地金属層間にデンドライト状の金属が析出することを防止できるので、負極、正極間の短絡が抑えられ、製造工程における歩留まりを向上させることができる。
また、本発明によれば、デンドライト状の金属析出物によって引き起こされる膜質の悪化を防止することができるので、電池の長期信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態のリチウム二次電池製造装置の内部構成を示す断面図
図2】(a)(b):本実施の形態のマスクを示す平面図
図3】本発明によって作成される薄膜リチウム二次電池の構成例を示す断面図
図4】本実施の形態における正極集電層、正極層及び固体電解質層の大小関係を示す平面図
図5】(a):本実施の形態のマスクにおけるパターン形成用開口部及び隙間形成用凹部を示す平面図(b):図5(a)のA−A線断面図
図6】本実施の形態の原理の説明図で、図6(a)は、従来技術を説明するためのもの、図6(b)は、本実施の形態を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施の形態のリチウム二次電池製造装置の内部構成を示す断面図である。
図1に示すように、本実施の形態のリチウム二次電池製造装置1は、例えばターボ分子ポンプ及びドライポンプを有する真空排気系2に接続され接地された真空槽3を有している。この真空槽3は、ガス導入源4を介して窒素ガス等のスパッタガスが導入されるように構成されている。
【0015】
真空槽3内には、一体的に構成されスパッタリングターゲット5を有するカソード電極6が設けられている。
このカソード電極6は、真空槽3の外部に設けられた高周波電源7に接続され、スパッタリングターゲット5に対して例えば13.56Mhzの高周波電力が印加されるように構成されている。
【0016】
真空槽3内のスパッタリングターゲット5と対向する位置にはステージ8が設けられ、このステージ8上に基板9が配置され、さらに、この基板9上には、後述するマスク10が配置されるようになっている。
なお、本実施の形態の場合、基板9は、フローティング電位となるように配置される。
【0017】
図2(a)(b)は、本実施の形態のマスクを示す平面図であり、図2(a)はターゲット側面を示すもの、図2(b)は成膜側面を示すものである。
図2(a)(b)に示すように、本実施の形態のマスク10は、金属からなる例えば平板状のマスク本体11を有し、このマスク本体11に、複数のパターン形成用開口部12が設けられている。
【0018】
そして、本実施の形態では、マスク本体11のターゲット側面13と反対側の面である成膜側面14の、各パターン形成用開口部12の近傍に、後述する隙間形成用凹部15が設けられている。
【0019】
図3は、本発明によって作成される薄膜リチウム二次電池の構成例を示す断面図である。
図3に示すように、本発明によって作成される薄膜リチウム二次電池20は、上述した基板9上に、正極集電層21、正極層22、固体電解質層23、負極集電層24、負極層25、封止層26が順次形成されて構成されるものである。
【0020】
基板9は、例えばガラスからなるもので、例えば矩形形状に形成されている。
基板9としてガラス基板を用いると、基板9上に形成される各層に対する反応性が低いことから好ましい。
【0021】
下地金属層である正極集電層21は、例えば白金/チタン(Pt/Ti)合金等の金属によって形成され、接続端子側の端部21aが露出するように構成されている。
この正極集電層21は、例えば白金からなるターゲットと、チタンからなるターゲットとを用い、DCスパッタリングによって形成することができる。
【0022】
正極層22は、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO2)によって形成されている。
この正極層22は、コバルト酸リチウムからなるスパッタリングターゲットを用い、RFスパッタリングによって形成することができる。
【0023】
絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ層である固体電解質層23は、例えばリン酸リチウムオキシナイトライドガラス電解質(LIPON)によって形成されている。
この固体電解質層23は、リン酸リチウム(Li3PO4)からなるスパッタリングターゲットを用い、RFスパッタリングによって形成することができる。
【0024】
下地金属層である負極集電層24は、例えばニッケル/クロム(Ni/Cr)合金等の金属によって形成されている。
この負極集電層24は、例えばニッケルからなるターゲットとクロムからなるターゲットとを用い、DCスパッタリングによって形成することができる。
【0025】
負極層25は、例えば金属リチウム(Li)によって形成されている。
この負極層25は、蒸発源として金属リチウムを用い、真空蒸着によって形成することができる。
【0026】
封止層26は、例えばアルミナ(Al23)層27とポリ尿素層28が積層されて形成されている。
ここで、アルミナ層27は、例えば酸素(O2)ガス雰囲気下において、アルミニウム(Al)からなるターゲットを用い、RFスパッタリングによって形成することができる。
【0027】
一方、ポリ尿素層28は、例えば蒸着重合法によって形成することができる。
この場合、蒸着重合用の原料モノマーとしては、ジアミンモノマーとして、例えば、1,12−ジアミノドデカン、酸成分モノマーとして、例えば、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンを好適に用いることができる。
【0028】
図4は、本実施の形態における正極集電層、正極層及び固体電解質層の大小関係を示す平面図である。
図4に示すように、本実施の形態においては、長方形形状の正極集電層21の接続端子側の端部21aと反対側の部分に、正極集電層21より長手方向の長さが小さい正極層22が形成され、さらにこの正極層22を全面的に覆うように固体電解質層23が形成される。
【0029】
このような構成においては、上述したマスク10を用いて固体電解質層23を形成する際に、マスク本体11のパターン形成用開口部12の外側の領域、すなわち、正極集電層21の接続端子側の露出領域21bが、マスク10の成膜側面14と対向することになる。
【0030】
そして、成膜の際に正極集電層21の露出領域21bがマスク10に接触すると、マスク10と正極集電層21間にデンドライト状の金属が析出する原因となる。
そこで、本実施の形態においては、マスク10に以下のような手段を設けるようにしている。
【0031】
図5(a)は、本実施の形態のマスクにおけるパターン形成用開口部及び隙間形成用凹部を示す平面図、図5(b)は、図5(a)のA−A線断面図である。
図5(a)(b)に示すように、本実施の形態のマスク10では、上述した正極集電層21の露出領域21bに対応するように、マスク本体11の成膜側面14側でパターン形成用開口部12に隣接する部分、即ち正極集電層21の接続端子側の露出領域21bと対応する部分に、所定の深さの隙間形成用凹部15が設けられている。
【0032】
この場合、マスク10に設ける隙間形成用凹部15の深さは特に限定されることはないが、この深さが所定の値より大きくなると、成膜時のスパッタ粒子の回り込みにより正極集電層21が絶縁体膜によって覆われて抵抗値が大きくなってしまう場合がある。
【0033】
したがって、本発明の場合、正極集電層21の露出領域21bがマスク10に接触せず、かつ、成膜時のスパッタ粒子の回り込みを防止する観点からは、マスク10の隙間形成用凹部15の深さ(図5(b)に示すマスク10の成膜側面14と隙間形成用凹部15の底面の距離d)は、固体電解質層23の厚さより大きく、かつ、1mm以下となるように構成することがより好ましい。
なお、本発明における固体電解質層23は、1〜10μmの範囲で形成されるものである。
【0034】
また、本発明の場合、マスク10の隙間形成用凹部15の縁部と正極集電層21の露出領域21bの縁部との距離(図5(a)に示す距離p)は特に限定されることはないが、成膜時のデンドライト状の金属の析出を確実に防止する観点からは、0.1〜30mmに設定することがより好ましい。
【0035】
このような構成を有する本実施の形態において、基板9上に固体電解質層23を形成する場合には、図1に示すスパッタリング装置を用い、予め正極集電層21及び正極層22を形成しておいた基板9を真空槽3内のステージ8上に配置し、この基板9に対して上述したマスク10を装着する。
【0036】
そして、真空排気系2を動作させて真空槽3内の圧力を超高真空状態にし、真空槽3内に窒素ガスを導入してマグネトロンスパッタリングを行い(例えば圧力0.3Pa、パワー2kW)、基板9上に絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ固体電解質層23(LiPON膜)を形成する。
その後、固体電解質層23上に、上述した負極集電層24、負極層25、封止層26を形成し、これにより目的とする薄膜リチウム二次電池20を得る。
【0037】
以上述べた本実施の形態は、以下の効果を奏するものである。
すなわち、従来技術の場合、図6(a)に示すように、金属からなるマスク10を用いスパッタリングによって基板9上に絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ固体電解質層23を形成する際に下地金属層である正極集電層21上にマスク10を装着することにより、マスク10の成膜側面14が正極集電層21の接続端子側の端部21aに接触して回路的に接続される。
【0038】
そして、正極集電層21上に固体電解質層23を成膜した場合にマスク10と正極集電層21と固体電解質層23とによって閉回路が形成され、その結果、固体電解質層23に発生する電場によりリチウムイオンの偏りが発生し、固体電解質層23とマスク10の界面にイオンマイグレーションによりデンドライト状の金属30が析出する。
【0039】
これに対し、本実施の形態においては、図6(b)に示すように、マスク10の成膜側面14側でパターン形成用開口部12に隣接する部分が下地金属層である正極集電層21に接触しないように隙間形成用凹部15を設けることにより、真空中でマスク10のパターン形成用開口部12を介してスパッタリングによって基板9上に絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ固体電解質層23を形成する際に、マスク10と正極集電層21の接続端子側の端部21aの接触を阻止することができるので、正極集電層21上に固体電解質層23を成膜した場合にマスク10と正極集電層21と固体電解質層23とによる閉回路の形成を防止することができる。
【0040】
その結果、マスク10と正極集電層21間にデンドライト状の金属30が析出することを防止できるので、負極、正極間の短絡が抑えられ、製造工程における歩留まりを向上させることができ、また、デンドライト状の金属析出物によって引き起こされる膜質の悪化を防止することができるので、電池の長期信頼性を向上させることができる。
【0041】
なお、本発明は上述した実施の形態に限られることなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、上記実施の形態では、絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ層の材料としてリン酸リチウムオキシナイトライドガラス電解質(LIPON)からなる固体電解質の場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限られず、リチウムを含む全ての固体電解質(例えばLi2O−B25+N,Li2S−P25,Li2S−SiS等のガラス系固体電解質や、Li2Ti37,Li3N,La0.5Li0.5TiO3等の結晶系固体電解質)、また、絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ材料である例えばリン酸鉄リチウム(LiFePO4)からなる正極層やチタン酸リチウム(Li4Ti512)からなる負極層を成膜する際に適用することができる。
【0042】
また、上記実施の形態では、マスクが金属材料からなる場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限られず、マスクが例えばセラミックスからなり、成膜側面に金属部分を有するマスクにも適用することができる。
【0043】
すなわち、従来技術では、セラミックスからなるマスクを固定する金属と例えば固体電解質層との間においてデンドライト状の金属析出が発生し、パーティクルが発生したり、膜の応力が増加する等の課題があるが、本発明によれば、このような課題を解決することができる。
【0044】
さらに、上記実施の形態では、マスクの成膜側面に隙間形成用凹部を設けることにより、マスクの成膜側面のパターン形成用開口部に隣接する金属部分が絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ層に接触しないように隙間を設けるようにしたが、本発明はこれに限られず、例えばマスクに突起状のスペーサを設けることにより、マスクの成膜側面のパターン形成用開口部に隣接する金属部分が絶縁性とリチウムイオン伝導性を併せ持つ層に接触しないように構成することも可能である。
【符号の説明】
【0045】
1…リチウム二次電池製造装置
3…真空槽
9…基板
10…マスク
11…マスク本体
12…パターン形成用開口部
14…成膜側面
15…隙間形成用凹部
20…薄膜リチウム二次電池
21…正極集電層
22…正極層
23…固体電解質層
24…負極集電層
25…負極層
26…封止層
図1
図2
図3
図4
図5
図6