【実施例】
【0045】
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0046】
(1)Leq、アモルファス成分率及び微小細孔減少率の影響/第1の製造方法
実施例1
60%硝酸300mLにケッチェンブラック(商品名ECP600JP、ケッチェンブラックインターナショナル社製)10gを添加し、得られた液に超音波を10分間照射した後、ろ過してケッチェンブラックを回収した。回収したケッチェンブラックを3回水洗し、乾燥することにより、酸処理ケッチェンブラックを得た。この酸処理ケッチェンブラック0.5gと、Fe(CH
3COO)
21.98gと、Li(CH
3COO)0.77gと、C
6H
8O
7・H
2O1.10gと、CH
3COOH1.32gと、H
3PO
41.31gと、蒸留水120mLとを混合し、得られた混合液をスターラーで1時間攪拌した後、空気中100℃で蒸発乾固させて混合物を採集した。次いで、得られた混合物を振動ボールミル装置に導入し、20hzで10分間の粉砕を行なった。粉砕後の粉体を、窒素中700℃で3分間加熱し、ケッチェンブラックにLiFePO
4が担持された複合体を得た。
【0047】
濃度30%の塩酸水溶液100mLに、得られた複合体1gを添加し、得られた液に超音波を15分間照射させながら複合体中のLiFePO
4を溶解させ、残った固体をろ過し、水洗し、乾燥させた。乾燥後の固体の一部を、TG分析により空気中900℃まで加熱し、重量損失を測定した。重量損失が100%、すなわちLiFePO
4が残留していないことが確認できるまで、上述の塩酸水溶液によるLiFePO
4の溶解、ろ過、水洗及び乾燥の工程を繰り返し、LiFePO
4フリーの導電性カーボンを得た。
【0048】
次いで、使用したケッチェンブラックと得られた導電性カーボンについて、比表面積及び細孔分布を測定し、半径1.2nmの細孔の数の比を算出した。得られた導電性カーボンの40mgを純水40mLに添加し、30分間超音波照射を行ってカーボンを純水に分散させた。上澄み液を採取し、この上澄み液を遠心分離し、固相部分を採取し、乾燥して親水性固相成分を得た。得られた親水性固相成分について、顕微ラマン測定装置(励起光:アルゴンイオンレーザ;波長514.5nm)を用いてラマンスペクトルを測定した。得られたラマンスペクトルから、グラフェン面方向のねじれを含まない結晶子サイズLa、グラフェン面方向のねじれを含む結晶子サイズLeq、及びLeq/La、さらにはアモルファス成分率を算出した。
【0049】
Fe(CH
3COO)
2と、Li(CH
3COO)と、C
6H
8O
7・H
2Oと、CH
3COOHとH
3PO
4とを蒸留水に導入し、得られた混合液をスターラーで1時間攪拌した後、空気中100℃で蒸発乾固させた後、窒素中700℃で3分間加熱することにより、一次粒子径100nmのLiFePO
4の微小粒子を得た。次いで、市販のLiFePO
4(一次粒子径0.5〜1μm、二次粒子径2〜3μm)と、得られた微小粒子と、上記導電性カーボンとを90:9:1の割合で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池の正極を得た。アルミニウム箔上の電極材料の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。
【0050】
実施例2
実施例1における手順のうち、酸処理ケッチェンブラック0.5gと、Fe(CH
3COO)
21.98gと、Li(CH
3COO)0.77gと、C
6H
8O
7・H
2O1.10gと、CH
3COOH1.32gと、H
3PO
41.31gと、蒸留水120mLとを混合する部分を、酸処理ケッチェンブラック1.8gと、Fe(CH
3COO)
21.98gと、Li(CH
3COO)0.77gと、C
6H
8O
7・H
2O1.10gと、CH
3COOH1.32g、とH
3PO
41.31gと、蒸留水250mLとを混合する手順に変更した点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。
【0051】
実施例3
実施例1における手順のうち、酸処理ケッチェンブラック0.5gと、Fe(CH
3COO)
21.98gと、Li(CH
3COO)0.77gと、C
6H
8O
7・H
2O1.10gと、CH
3COOH1.32gと、H
3PO
41.31gと、蒸留水120mLとを混合する部分を、酸処理ケッチェンブラック1.8gと、Fe(CH
3COO)
20.5gと、Li(CH
3COO)0.19gと、C
6H
8O
7・H
2O0.28gと、CH
3COOH0.33gと、H
3PO
40.33gと、蒸留水250mLとを混合する手順に変更した点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。
【0052】
比較例1
実施例1において得られた酸処理ケッチェンブラックを、振動ボールミル装置に導入し、20hzで10分間の粉砕を行なった。粉砕後の粉体を、窒素中700℃で3分間加熱した。次いで、得られた導電性カーボンについて、比表面積及び細孔分布を測定し、半径1.2nmの細孔について、原料として用いたケッチェンブラックにおける細孔の数との比を算出した。得られた導電性カーボンの40mgを純水40mLに添加し、実施例1における手順と同じ手順で、親水性固相成分のLa、Leq、Leq/La、及びアモルファス成分率を算出した。また、得られた導電性カーボンを用いて、実施例1における手順と同じ手順でLiFePO
4含有正極を作成し、電極密度を算出した。
【0053】
比較例2
実施例1で用いたケッチェンブラック原料の40mgを純水40mLに添加し、実施例1における手順と同じ手順で、親水性固相成分のLa、Leq、Leq/La、及びアモルファス成分率を算出した。また、このケッチェンブラック原料を用いて、実施例1と同じ手順でLiFePO
4含有正極を作成し、電極密度を算出した。
【0054】
表1には、実施例1〜3及び比較例1,2の導電性カーボンについての、得られる導電性カーボンとカーボン原料との半径1.2nmの細孔の数の比、La、Leq、Leq/La、アモルファス成分率及び電極密度の値を、比表面積の値と共にまとめて示す。細孔数の比が0.6より大きく、親水性固相成分のLa、Leqが、1.3
nm≦La≦1.5
nm、且つ、1.5
nm≦Leq≦2.3
nm、且つ、1.0≦Leq/La≦1.55の関係を満たさず、親水性固相成分のアモルファス成分率が13%未満である比較例1,2の導電性カーボンを使用しても、電極密度が上がらず、言い換えると電極材料中の活物質粒子の量を増加させることができないことがわかる。また、表1より、細孔数比の減少と共に、比表面積も大きく減少していることがわかる。
【表1】
【0055】
比較例2の導電性カーボン(ケッチェンブラック原料)と、実施例1で得られた導電性カーボンと、を比較することにより、実施例1におけるカーボン原料酸処理→金属化合物混合→粉砕→窒素中加熱の工程(以下、「強酸化工程」と表わす)の効果を確認することができる。
【0056】
図1は、比較例2と実施例1の導電性カーボンについての細孔分布測定結果を示した図である。強酸化工程の結果、A領域に現れる、発達したストラクチャを有するカーボンに認められる約25nm以上の半径を有する細孔がほとんど消失し、B領域に現れる、一次粒子内に認められる約5nm以下の半径を有する細孔の数が大きく減少していることがわかる。したがって、強酸化工程により、ストラクチャが切断され、一次粒子内の細孔が潰れることがわかった。
【0057】
図2は、比較例2と実施例1の導電性カーボンの50μmの凝集体に関する圧入解析結果を示した図である。比較例2の導電性カーボンの測定では、押し込み深さ約10μmの付近で押し込み荷重が急激に増加しており、凝集体のカーボン粒子が変形しにくいことがわかる。これに対し、実施例1の導電性カーボンの測定では、押し込み深さ0〜20μmの範囲で、数回の荷重の上下動を示しながら、押し込み荷重がなだらかに上昇した。押し込み深さ約4〜約9μmに認められる荷重の上下動は、一次粒子間の結合のうちの脆弱部分が切断されたことによる荷重変動に対応し、押し込み深さ約9μm以上の範囲におけるなだらかな荷重の上昇は一次粒子の柔軟な変形に対応していると考えられる。そして、この柔軟な変形が、本発明の導電性カーボンの大きな特徴である。
【0058】
強酸化工程の処理はカーボンの表面官能基の変化を伴い、この表面官能基の変化は導電性カーボンの親水性部分を分析することにより確認することができることから、導電性カーボンの親水性固相成分を採取した残りの部分(上澄み液の液相部分)について、紫外可視スペクトルを測定した。
図3に、比較例2と実施例1の導電性カーボンについて、上記液相部分の紫外可視スペクトルを示した。実施例1についてのスペクトルには、比較例2についてのスペクトルには認められない小画分(小サイズのグラフェン)のπ→π
*遷移が明確に認められ、強酸化工程によりグラフェンが小さなサイズに切断されたことがわかった。
【0059】
図4は、比較例2と実施例1の導電性カーボンの親水性固相成分の、980〜1780cm
−1のラマンスペクトルと、その波形分離結果を示す。実施例1についてのスペクトルでは、比較例2についてのスペクトルと比べて、理想黒鉛に由来する成分dのピーク面積が減少し、アモルファス成分に由来する成分cのピーク面積、及び、表面酸化黒鉛に由来する成分eのピーク面積が増大していることがわかる。このことは、強酸化工程の過程で、カーボン原料のグラフェンの共役二重結合(SP
2混成)が強く酸化され、炭素単結合(SP
3混成)部分、すなわちアモルファス成分が多く生成したことを示している。
【0060】
図5は、実施例1の導電性カーボン、比較例2の導電性カーボン、及び実施例1の導電性カーボンの親水性固相成分をそれぞれ分散媒に分散し、得られた分散物をアルミニウム箔上に塗布し、乾燥した塗膜を撮影したSEM写真、及び、塗膜に300kNの力の圧延処理を行った後に撮影したSEM写真を示す。比較例2の導電性カーボンの塗膜は、圧延処理の前後で、大きな変化を示さなかった。しかし、実施例1の導電性カーボンの塗膜では、SEM写真より把握されるように、圧延処理により表面の凹凸が顕著に減少し、カーボンが糊状に広がっていた。従って、強酸化処理により、カーボンの性状が大きく変化したことがわかる。実施例1の導電性カーボンの親水性固相成分の塗膜のSEM写真と実施例1の導電性カーボンの塗膜のSEM写真とを比較すると、親水性固相成分の塗膜の表面が圧延処理によりさらに平坦になり、カーボンがさらに糊状に広がっていることがわかる。このことから、実施例1の導電性カーボンにおける糊状に広がる性状は、親水性固相成分に主に起因すると考えられた。
【0061】
図6には、実施例1〜3及び比較例1,2の導電性カーボンの親水性固相成分のLeqと電極密度との関係を示した。この図から明らかなように、Leqが2.35nm(比較例1)から2.20nm(実施例3)に減少する過程で、電極密度が顕著に増加している。このことから、グラフェン面方向の結晶子のねじれ部分が所定量以上に破壊されることが、電極密度の増大に大きく寄与していると考えられた。
【0062】
図7には、実施例1〜3及び比較例1,2の導電性カーボンの親水性固相成分のアモルファス成分率と電極密度との関係を示した。この図から明らかなように、アモルファス成分率が増加するにつれ、電極密度が顕著に増加するものの、アモルファス成分率が13%以上になると、電極密度の増加率が飽和する傾向がある。このことから、アモルファス成分を13%以上にすることにより、高い電極密度を有するリチウムイオン二次電池の電極が再現性良く安定に得られることがわかった。
【0063】
(2)ストラクチャの影響
比較例3
上述したように、強酸化工程ではカーボンのストラクチャが切断される。ストラクチャ低下の影響を調査するため、実施例1の導電性カーボンのDBP吸油量130mL/100gとほとんど同じDBP吸油量を有するものの、親水性固相成分のLeqが本発明の範囲より大きく、アモルファス成分率が本発明の範囲より小さい、市販の導電性カーボン(DBP吸油量=134.3mL/100g)を実施例1の導電性カーボンの代わりに使用し、実施例1における手順と同様にしてLiFePO
4含有正極を製造し、電極密度を算出した。得られた電極密度は2.4g/cm
3であった。この結果から、ストラクチャの低下だけでは、電極密度の向上が達成されないことがわかった。
【0064】
(3)カーボン原料の影響
比較例4
実施例1でカーボン原料として使用したケッチェンブラックに代えて、中実のアセチレンブラック(一次粒子径40nm)を使用し、実施例1の手順を繰り返した。その結果、強酸化処理によっても親水性固相成分のLeqが本発明の範囲まで低下せず、アモルファス成分率が本発明の範囲まで増大せず、電極密度は2.35g/cm
3であり、電極密度の向上が達成されなかった。従って、原料として空隙を有するカーボン材料を使用することが重要であることがわかった。
【0065】
(4)第2の製造方法
実施例4
ケッチェンブラック(EC300J、ケッチェンブラックインターナショナル社製)0.45gと、Co(CH
3COO)
2・4H
2Oの4.98gと、LiOH・H
2O1.6gと、蒸留水120mLとを混合し、得られた混合液をスターラーで1時間攪拌した後、ろ過により混合物を採集した。次いで、エバポレーターを用いてLiOH・H
2O1.5gを混合した後、空気中、250℃で、30分間加熱し、ケッチェンブラックにリチウムコバルト化合物が担持された複合体を得た。濃度98%の濃硫酸、濃度70%の濃硝酸及び濃度30%の塩酸を体積比で1:1:1に混合した水溶液100mLに、得られた複合体1gを添加し、得られた液に超音波を15分間照射させながら複合体中のリチウムコバルト化合物を溶解させ、残った固体をろ過し、水洗し、乾燥させた。乾燥後の固体の一部を、TG分析により空気中900℃まで加熱し、重量損失を測定した。重量損失が100%、すなわちリチウムコバルト化合物が残留していないことが確認できるまで、上述の塩酸水溶液によるリチウムコバルト化合物の溶解、ろ過、水洗及び乾燥の工程を繰り返し、リチウムコバルト化合物フリーの導電性カーボンを得た。
【0066】
次いで、使用したケッチェンブラックと得られた導電性カーボンについて、比表面積及び細孔分布を測定し、半径1.2nmの細孔の数の比を算出した。得られた導電性カーボンの40mgを純水40mLに添加し、30分間超音波照射を行ってカーボンを純水に分散させた。上澄み液を採取し、この上澄み液を遠心分離し、固相部分を採取し、乾燥して親水性固相成分を得た。得られた親水性固相成分について、顕微ラマン測定装置(励起光:アルゴンイオンレーザ;波長514.5nm)を用いてラマンスペクトルを測定した。得られたラマンスペクトルから、La、Leq、及びLeq/La、さらにはアモルファス成分率を算出した。得られた導電性カーボンは、実施例1の導電性カーボンと略同一の半径1.2nmの細孔数減少率、La、Leq、及びLeq/La、さらにはアモルファス成分率を示した。