特許第6170994号(P6170994)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6170994-粉末積層造形に用いるための造形用材料 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6170994
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】粉末積層造形に用いるための造形用材料
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/16 20060101AFI20170713BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20170713BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20170713BHJP
   B33Y 70/00 20150101ALI20170713BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20170713BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20170713BHJP
   B28B 1/00 20060101ALI20170713BHJP
   C22C 29/08 20060101ALI20170713BHJP
   C22C 32/00 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   B22F3/16
   B22F3/105
   B28B1/30
   B33Y70/00
   B33Y80/00
   B33Y10/00
   B28B1/00 G
   C22C29/08
   C22C32/00 P
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-250694(P2015-250694)
(22)【出願日】2015年12月22日
(65)【公開番号】特開2017-115194(P2017-115194A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2017年4月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】伊部 博之
(72)【発明者】
【氏名】山田 純也
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006-521264(JP,A)
【文献】 特開2015-218368(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/056231(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/105
B22F 3/16
C04B 35/00
C04B 35/622〜35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末積層造形に用いる造形用材料であって、
セラミックを含む造粒粉末である第1粉末と、
金属を含む第2粉末と、を含み、
前記第1粉末と前記第2粉末との合計に対する前記第2粉末の割合は、10質量%超過90質量%未満である、造形用材料。
【請求項2】
前記第1粉末の平均粒子径は、1μm以上100μm以下である、請求項1に記載の造形用材料。
【請求項3】
前記第2粉末の平均粒子径は、0.1μm以上100μm以下である、請求項1または2に記載の造形用材料。
【請求項4】
前記第1粉末は、前記セラミックからなる粉末と、第2の金属からなる粉末とが造粒された造粒粉末である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の造形用材料。
【請求項5】
前記第1粉末において、前記造粒粉末を構成する一次粒子は焼結により一体化されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の造形用材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の造形用材料の三次元造形物である、物品。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の造形用材料を用いて三次元造形を行う、三次元造形物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末積層造形に用いるための造形用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
付加製造(Additive manufacturing)技術では、材料を付着することによって3次元形状の数値表現(典型的には3DCADデータ)をもとに物体を作製する。典型的には、造形用材料(Additive Manufacturing materials)を造形すべき造形物の断面に対応する形状の薄層として接合または焼結し、この薄層を順次積み重ねていくことで、目的の三次元形状を造形する。この付加製造においては、これまで、その扱いやすさから樹脂材料を使用した樹脂製品の造形が広く行われていた。しかしながら、近年では、金属やサーメットを含む粉末材料を用い、成形型を必要とせずに金属やサーメットからなる部材を直接造形する、粉末積層造形技術の向上が求められている(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】S. Kumar, J. MATER. PROCESS. TECHNOL 209(2009)3840-3848
【非特許文献2】近畿大学次世代基盤技術研究所報告 Vol.2 (2011)95-100
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなサーメットを含む粉末材料は、一般に、金属材料や樹脂材料と比較して融点および機械的強度が高いこと等から、粉末を構成する粒子の接合状態を制御することが困難である。したがって、高品質な造形物を得るためには、粉末材料の性状を調整することが重要である。例えば、積層造形に使われる粉末は、粒度がそろい、各粒子が真球状に近く、粒子の内部にポロシティ(気孔)の少ないことが要求されている。しかしながら、このような従来の粉末材料を用いて造形された造形物の相対密度は、粉末を構成する粒子間に必然的に空隙が生じることから、100%には満たないという問題があった。
【0005】
具体的には、例えば、金属部材の粉末積層造形において、必ずしも全範囲で高い相対密度が要求されるわけではない場合には、例えば金属部材の内部のコア(核)は低密度の造形を行い、表面部分のシェル(殻)のみを高密度に造形することが行われている。この場合、例えば、低密度のコアは、熱源として高出力レーザを使用して1走査あたりの積層厚みを比較的大きく(例えば、90μm程度)として造形するのに対し、高密度のシェル部分はやや低出力なレーザを用い、1走査あたりの積層厚みを薄く(例えば、30μm以下)として造形するなどの工夫が為されている。
【0006】
したがって、中心部にまで高密度を要求される部材の製造に際しては、長大な時間をかけて積層厚の薄い造形を繰り返し行う必要があった。あるいは、他の手法として、造形後のポーラスな造形物にブロンズなどを溶浸させて相対密度を高めたり、粉末材料にレーザ吸収剤をコーティングしてレーザ吸収率を高めるなどの対策がとられたりもしている。
このような問題は、一般に金属よりも融点の高いセラミックを含む部材の造形においてより一層顕著となり得る。したがって、例えば、セラミックを含む粉末積層造形物の相対密度については、様々な造形条件や粉末材料の性状を厳格に調整した場合であっても、90%程度に達しないのが現状である。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、粉末積層造形に用いるための粉末状の造形用材料であって、セラミックを含みながらも高密度な造形物をより効率的に造形することが可能な新規な造形用材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、ここに開示される技術は、粉末積層造形に用いる造形用材料を提供する。この造形用材料は、セラミックを含む造粒粉末である第1粉末と、金属を含む第2粉末と、を含む。そして上記第1粉末と上記第2粉末との合計に対する上記第2粉末の割合は、10質量%超過90質量%未満であることを特徴としている。
【0009】
従来の粉末状の造形用材料の常識では、造形物中の気孔の形成を避けるために、造形用材料についてもポロシティ(気孔)の少ないものであることが重要な条件の一つであった。これに対し、ここに開示される材料は、上記のとおり、セラミック成分を造粒粉末の形態で含むようにしている。換言すると、第1粉末において、セラミック成分は、例えば、1次粒子として含まれる。また、第1粉末は、この1次粒子が結合した2次粒子の形態を有している。ここで、1次粒子同士の間には間隙が存在し得る。第1粉末がこのような形態を有することにより、セラミックを含む造形用材料であっても溶融され易くなり、緻密な造形物の造形が可能とされる。あるいは、金属を含む第2粒子は、より少ないエネルギーで溶融して、第1粉末の溶融を促し得る。または、金属を含む第2粒子が溶融されてセラミックを含む第1粉末の間隙に好適に濡れ広がる。このことによって、緻密な造形物の造形が可能とされる。例えば、レーザ走査速度を低下させる必要なく、緻密な造形物の造形が可能とされる。
【0010】
ここに開示される技術の好ましい態様において、上記第1粉末の平均粒子径は、1μm以上100μm以下である。このことにより、汎用されている造形装置に適した性状の造形用材料が提供される。
【0011】
ここに開示される技術の好ましい態様において、上記第2粉末の平均粒子径は、0.1μm以上100μm以下である。このことにより、造形に際して溶融され易く緻密な造形物の造形が可能な造形用材料が提供される。例えば、レーザ走査速度を低下させる必要なく、緻密な造形物の造形が可能な造形用材料が提供される。
【0012】
ここに開示される技術の好ましい態様において、上記第1粉末は、上記セラミックからなる粉末と、第2の金属からなる粉末とが造粒された造粒粉末である。このことにより、第1粉末におけるセラミックからなる粉末の間に第2の金属が濡れ広がりやすくなり、第2の金属がセラミックからなる粉末のバインダとして好適に機能し得るために好ましい。また、例えばサーメットからなる造形物を好適に造形することができる。
【0013】
ここに開示される技術の好ましい態様において、上記第1粉末において、上記造粒粉末を構成する一次粒子は焼結により一体化されている。これにより、例えば高出力のレーザを用いて造形を行った場合であっても、粉末の飛散が好適に抑制されて、造形レートの低下を抑制することができる。
【0014】
以上の造形用材料は、構成成分としてセラミックを含みながらも、かかるセラミックは造形用材料中に造粒粉末を構成する一次粒子の形態で含まれる。そのため、一般的な条件での粉末積層造形により、緻密な造形物を造形することが可能となる。このような観点から、ここに開示される技術は、上記の造形用材料の三次元造形物をも提供する。
また、他の側面において、ここに開示される技術は、上記の造形用材料を用いて三次元造形を行うことを特徴とする三次元造形物の製造方法をも提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】粉末積層造形を実施するための装置を説明する断面簡略図である。
図2】(a)比較例と(b)実施例に係る造形物の断面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、本明細書に記載された発明の実施についての教示と当該分野における出願時の技術常識とに基づいて当業者に理解され、実施することができる。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」および「重量部」と「質量部」は同義語として扱う。
【0017】
(造形用材料)
ここに開示される「造形用材料」は、粉末積層造形に用いるための粉末状の材料である。粉末積層造形とは、付加製造技術において造形物の材料として粉末状の材料を用いる各種の造形手法を広く包含する。具体的には、例えば、バインダジェット法に代表される結合剤噴射(Binder jetting)法、レーザ肉盛り溶接,電子ビーム肉盛り溶接,アーク溶接等に代表される指向性エネルギー堆積(Directed energy deposition)法、レーザ焼結法,レーザ選択焼結(Selective Laser Sintering:SLS)法,電子ビーム焼結法等に代表される粉末床溶融結合(Powder bed fusion)法等と呼ばれるものが含まれる。この造形用材料は緻密な造形物の造形に好適であるとの観点から、指向性エネルギー堆積法、粉末床溶融結合法を採用することがより好ましい。
【0018】
ここに開示される造形用材料は、セラミックを含む造粒粉末である第1粉末と、金属を含む第2粉末と、を含んでいる。第1粉末と第2粉末とは、混合状態で存在し得る。好適には、第1粉末と第2粉末とは、均一に混合されている。
【0019】
(第1粉末)
第1粉末は本質的にセラミックを含む。第1粉末は、典型的には、主成分としてセラミックを含む。ここでいう主成分とは、第1粉末の60質量%以上を占める成分を意味する。第1粉末は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、特に好ましくは80質量%以上(典型的には90質量%以上)がセラミックからなることが好ましい。この第1粉末は、造粒粒子の形態を為している。第1粉末においてセラミック以外の成分が含まれる場合は、当該成分としては、樹脂やセラミック以外の無機材料、金属等が挙げられる。これらのセラミック以外の成分については特に制限されないが、例えば、後述する金属成分であり得る。セラミック以外の成分は、セラミックと共に造粒粉末を構成するものであり得る。
【0020】
ここで第1粉末におけるセラミックは、一次粒子として存在し、この一次粒子同士が三次元的に結合されて造粒粒子(延いては造粒粉末)を構成している。このことは、セラミック成分が、2次粒子の少なくとも一部を構成しているものとして理解することができる。なお、このような造形用材料において、セラミックは、造粒粉末の形態ではなく、単一粒子の形態での存在が許容(例えば10質量%以下)されることは言うまでもない。
【0021】
セラミックとしては、例えば、各種金属の酸化物からなるセラミック(酸化物系セラミック)材料であってもよいし、炭化物、ホウ化物、窒化物、アパタイト等の非酸化物からなるセラミック材料であってよい。
ここで、酸化物系セラミックとしては、特に限定されることなく各種の金属の酸化物とすることができる。かかる酸化物系セラミックを構成する金属元素としては、例えば、B、Si、Ge、Sb、Bi等の半金属元素、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Al、Ga、In、Sn、Pb等の典型元素、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Au等の遷移金属元素、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Er、Lu等のランタノイド元素から選択される1種または2種以上が挙げられる。なかでも、Mg、Y、Ti、Zr、Cr、Mn、Fe、Zn、Al、Erから選択される1種または2種以上の元素であることが好ましい。
【0022】
酸化物系セラミックとして、より具体的には、例えば、アルミナ、ジルコニア、イットリア、クロミア、チタニア、コバルタイト、マグネシア、シリカ、カルシア、セリア、フェライト、スピネル、ジルコン、酸化ニッケル、酸化銀、酸化銅、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化ストロンチウム、酸化スカンジウム、酸化サマリウム、酸化ビスマス、酸化ランタン、酸化ルテチウム、酸化ハフニウム、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タングステン、マンガン酸化物、酸化タンタル、酸化テルピウム、酸化ユーロピウム、酸化ネオジウム、酸化スズ、酸化アンチモン、アンチモン含有酸化スズ、酸化インジウム、スズ含有酸化インジウム、酸化ジルコニウムアルミネート、酸化ジルコニウムシリケート、酸化ハフニウムアルミネート、酸化ハフニウムシリケート、酸化チタンシリケート、酸化ランタンシリケート、酸化ランタンアルミネート、酸化イットリウムシリケート、酸化チタンシリケート、酸化タンタルシリケート等が挙げられる。
【0023】
また、非酸化物系セラミックとしては、例えば、炭化タングステン、炭化クロム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化モリブデン、炭化タンタル、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素などの炭化物、ホウ化モリブデン、ホウ化クロム、ホウ化ハフニウム、ホウ化ジルコニウム、ホウ化タンタル、ホウ化チタンなどのホウ化物、窒化ホウ素、窒化チタン、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の窒化物、フオルステライト、ステアタイト、コーディエライト、ムライト、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、Mn−Znフェライト、Ni−Znフェライト、サイアロン等の複合化物、ハイドロキシアパタイト、リン酸カルシウム等のリン酸化合物等が挙げられる。
【0024】
以上のセラミックは、任意の元素がドープ又は置換されていてもよい。また、これらのセラミックは、いずれか1種を単独で含まれていてもよいし、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。例えば、2種以上のセラミックが含まれる場合には、その一部または全部が複合化物を形成していても良い。このような複合化されたセラミックの例としては、例えば、具体的には、イットリア安定化ジルコニア、部分安定化ジルコニア、ガドリニウムドープセリア、ランタンドープチタン酸ジルコン酸鉛や、上記のサイアロン、上記複合酸化物等が挙げられる。第1粉末がかかるセラミックを含む造粒粉末からなることで、当該セラミックを含む造形物を造形することができる。
【0025】
(造粒粉末)
第1粉末は、造粒粉末から構成されている。換言すると、第1粉末は、上記のとおり二次粒子の形態を有する造粒粒子の集合として構成されている。ここで造粒粒子とは、一次粒子が三次元的に結合され、一体となって一つの粒のように振る舞う粒子状物(粒子の体をなしたもの)をいう。そしてここでいう「結合」とは、直接的または間接的に、2つ以上の一次粒子が結びつくことを意味する。例えば、化学反応による一次粒子同士の結合、単純吸着によって一次粒子同士が引き合う結合、一次粒子表面の凹凸に接着材等を入り込ませるアンカー効果を利用した結合、静電気により引き合う効果を利用した一次粒子同士の結合、一次粒子の表面が融着または焼結して一体化した結合、バインダ(接着剤)による結合等が含まれる。
【0026】
このような第1粉末は、例えば、顆粒粒子(以下、単に「造粒粒子」という場合がある。)、顆粒粒子(造粒粒子)を構成する個々の粒子が焼結されている造粒焼結粒子(前記顆粒粒子としての造粒粒子に対し、以下、単に「造粒焼結粒子」という場合がある。)、コア粒子の周りに微粒子が結合されてなる微粒子被覆粒子等の集合として実現され得る。なお、特に三次元造形に適した流動性に優れる第1粉末が実現されるとの観点から、第1粉末は造粒粒子または造粒焼結粒子から構成されることが好ましい。さらには、エネルギー源として高強度レーザ等を照射された場合であっても、造形用材料における第1粉末の崩壊および飛散等が生じ難くなることから、第1粉末は造粒焼結粒子から構成される造粒焼結粉であることがより好ましい。
【0027】
このような第1粉末は、造粒粉末を構成する粒子(典型的には一次粒子である)の間に間隙が存在し得る。また、造粒粒子の表面は一次粒子の形態を反映して凹凸を有している。これによって、第1粉末は、造形のためのエネルギー源(熱源)からエネルギーを受け取りやすく、溶解しやすいという利点がある。あるは、後述の第2粉末が溶解されて第1粉末を構成する粒子間に浸透しやすいという利点がある。その結果、造粒粉末における間隙は容易に消失されて、例えば鋳型を使用して製造する焼結体(バルク体)に近い、緻密性の高い高硬度な造形物を得ることができる。また、数値的な厳密な定義は困難ではあるが、このような造粒粒子は、滑らかな表面を有する球状粒子とは、外見がミクロなレベルで明瞭に区別され得る。
【0028】
(第1粉末の平均粒子径)
第1粉末の平均粒子径は特に制限されず、例えば、使用する粉末積層造形装置の規格に適した大きさとすることができる。例えば、粉末積層造形における造形用材料の供給に適した大きさであり得る。第1粉末の平均粒子径の上限は、より大きいものとする場合には、例えば、100μm超過とすることができるが、典型的には100μm以下とすることができ、好ましくは75μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは40μm以下とすることができる。第1粉末は、平均粒子径が小さくなるにつれて、例えば造形エリアにおいて第1粉末の充填率が向上し得る。その結果、造形される三次元造形物の緻密度を好適に増すことができる。また、造形される三次元造形物の表面粗さ(Ra)を小さくできるとともに、寸法精度を向上させるという効果を得ることもできる。さらに、本発明における造形用材料は間隙を備えているため、積層造形において付着させた造形用材料を固化する際の固化効率が向上されるという利点もある。
【0029】
また、第1粉末の平均粒子径の下限は、造形用材料の流動性に影響を与えない範囲であれば特に制限されない。これに限定されるものではないが、より小さいものとする場合には、例えば、10μm以下、さらには5μm以下等とすることができる。しかしながら、ここに開示される第1粉末は、造粒粉末の形態を有しているため必ずしも平均粒子径を小さくする必要はない。したがって、例えば、造形物を形成する際のハンドリングや造形用材料の流動性を考慮した場合には、第1粉末の平均粒子径の下限を1μm以上とすることができ、5μm以上が適切であり、10μm以上が好ましく、例えば、20μm以上がより好ましい。第1粉末の平均粒子径が大きくなるにつれて、造形用材料の流動性が向上する。その結果、造形装置への造形用材料の供給を良好に実施することができ、作製される三次元造形物の仕上がりが良好となるために好ましい。
【0030】
なお、通常、例えば平均粒子径が10μm未満程度の微細な粉末材料は、粒子形状の制御が困難となり、また、比表面積の増大に伴って流動性が低下する。そのため、このような粉末材料を粉末積層造形に用いると、粉末材料の供給の際の平坦化が困難となりがちである。そしてさらに、その質量の小ささから、かかる粉末材料の飛散等が発生し、ハンドリングが困難となり得る。これに対し、ここに開示される造形用材料では、第1粉末が平均粒子径の小さい複数の一次粒子が3次元的に結合された造粒粉末で構成されている。これにより、一次粒子の形態は維持しつつも、重みづけを実現することができる。また、上記のとおり、組成の異なる第1粉末と第2粉末とを含んでいても、造形用材料における成分濃度を均一に保つことができる。これによって、より平均粒子径の小さい二次粒子を用いることによる利点と、より平均粒径の大きな二次粒子を用いることによる利点とを両方兼ね備えた、全く新しい粉末積層造形用の造形用材料が提供され得る。
【0031】
(一次粒子の平均粒子径)
ここに開示される造形用材料において、第1粉末における造粒粒子(二次粒子)を構成する一次粒子の平均粒子径は、例えば、20μm以下(20μm未満)であることが好ましく、10μm以下(10μm未満)であることがより好ましく、例えば10μm以下とすることができる。このように一次粒子の平均粒子径を微細にすることで、より一層緻密で微細な三次元造形物を作製することが可能となる。また、第1粉末の一次粒子の平均粒子径は、例えば、1nm以上とすることができ、200nm以上であることがより好ましく、例えば500nm以上とすることができる。このように一次粒子の平均粒子径を微細にすることで、より一層緻密で微細な三次元造形物を作製することが可能となる。
【0032】
また、従来の粉末積層造形で使用されてきた粉末材料は、平均粒子径が小さく(例えば20μm以下)なると粉末を構成する粒子間の接触面積の影響が大きくなるため、流動中の抵抗が増大し、流動性が低下する傾向にあった。これに対し、ここに開示される造形用材料の第1粉末は、たとえ一次粒子の平均粒子径が小さくても、この一次粒子が二次粒子の形態で造形用材料を構成しているため、二次粒子の平均粒子径に対応した良好な流動性を備えることができる。
【0033】
なお、第1粉末は、二次粒子を構成する一次粒子の間に間隙が備えられ得る。このような「間隙」とは、例えば、一次粒子が最密充填された場合に必然的に形成される空間よりも、より広い空間を意味している。かかる「間隙」は、好ましくは、当該一次粒子が最密充填された場合に必然的に形成される空間の、1.1倍(典型的には1.2倍)以上の空間であり得る。この間隙については、例えば、比表面積・細孔分布測定装置等で確認することができる。
【0034】
このように第1粉末において一次粒子の平均粒子径を微細にすることで、例えば、セラミックを含む第1粉末を、当該セラミック自体の融点よりも低い温度で軟化または溶融させることができる。このことは、これまでに予想されていない、全く新しい知見であり得る。したがって、かかる第1粉末を含む造形用材料は、例えば、粉末積層造形において従来のレーザ出力よりも低い状態で軟化または溶融させることができ、プロセスのコストダウンが可能となる。また、二次粒子の軟化または溶融効率が上がるため、気孔率の少ない緻密な三次元造形物の作製が可能となる。これにより、例えば、当該造形用材料またはセラミック材料のバルクに近い特性を有する三次元造形物の作製が可能となる。
【0035】
なお、本明細書において、造形用材料、第1粉末、後述の第2粉末に関する「平均粒子径」とは、特筆しない限り、レーザ回折・散乱法に基づく粒度分布測定装置により測定された体積基準の粒度分布における積算値50%での粒子径(50%体積平均粒子径;D50)を意味する。しかしながら、例えば、平均粒子径が1μmに満たない粒子群については、動的光散乱法や、電子顕微鏡観察に基づいて、その平均粒子径を測定することができる。この場合、本明細書においては、典型的には、電子顕微鏡等の観察手段により観察された100個以上の粒子の平面視像(例えば、二次電子像等)について求めた円相当径の算術平均値を平均粒子径として採用している。
【0036】
なお、第1粉末を構成する一次粒子(結合状態にある)に関する「平均粒子径」は、例えば、比表面積から算出される球形粒子の直径(球相当径)として算出される値を採用することができる。かかる一次粒子の平均粒子径(Dave)は、造形用材料全体の比表面積をSm、密度をρとしたとき、次式:Dave=6/(ρSm);に基づき求めることができる。ここで、造形用材料の密度ρは、第1粉末の全体の平均組成を算出した値を採用することができる。
【0037】
なお、比表面積は、例えば、比表面積測定装置(マイクロメリティックス社製、FlowSorbII 2300)を用い、連続流動法により測定されたN等のガス吸着量から、BET法により算出した値とすることができる。この比表面積測定は、JIS Z 8830:2013(ISO9277:2010)に規定される「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」に準じて測定することができる。
【0038】
<比表面積>
なお、第1粉末の比表面積については、特に限定はされないものの、例えば、0.1m/gより大きいことが好ましい。すなわち、かかる造形用材料は、比表面積が(極めて)大きい二次粒子を主として構成されているほうが好ましい。具体的には、例えば、シリカ(SiO)の比重が2.2g/mlであることから、半径がrmの真球のシリカ粒子の比表面積は1.36/r×10−6/gで表される。したがって、例えば、半径が30μmの真球のシリカ粒子の比表面積は0.045m/gで表される。また、αアルミナ(Al)の比重が3.98g/mlであることから、半径がrmの真球のアルミナの比表面積は0.75/r×10−6/gで表される。したがって、例えば、半径が30μmの真球のアルミナ粒子の比表面積は0.025m/gで表される。これに対し、ここに開示される第1粉末の比表面積は0.1m/g以上が好ましい。このような比表面積の増大に伴い、ここに開示される造形用材料は、表面形態が三次元的に入り組んだ複雑な形状(構造)を有することになる。すなわち、実質的な寸法(例えば、表面の凹凸部分の厚み等)は、造形用材料自体の平均粒子径に拘束されることなく、大幅に低減され得る。したがって、このような極めて大きな比表面積を有することにより、融点の高いセラミックを含む第1粉末であっても、比較的低温のレーザ等の熱源の熱を効率良く吸収して十分な軟化および溶融が実現され得る。延いては、セラミックを含む三次元造形物を効率良く作製することが可能な造形用材料が提供される。
【0039】
また、比較的低温の熱で積層が可能とされるため、粒成長が抑制され得る温度における積層造形が可能とされる。加えて、融点の低い元素を含む二次粒子であっても熱により造形用材料の組成が変化され難い。したがって、作製される三次元造形物の組成を簡便に制御することが可能となる。よって、かかる二次粒子の比表面積は、特に範囲は制限されないものの、より広大であることが望ましく、0.1m/g以上であることが好ましい。
【0040】
<圧縮強度>
第1粉末を構成する造粒粒子(二次粒子)の圧縮強度の下限は、厳密には制限されない。熱源としてレーザを用いる粉末積層造形に使用する造形用材料においては、好ましくは、造形用材料に用いる造粒−焼結セラミック粒子の圧縮強度の範囲であることが好ましい。造形用材料を構成する二次粒子の圧縮強度は、好ましくは1MPa以上であり、より好ましくは10MPa以上であり、さらに好ましくは100MPa以上であり、特に好ましくは1000MPa以上である。造粒粒子の圧縮強度が高くなるにつれて、第1粉末を構成する二次粒子の形態の保持力が高まり、二次粒子の崩壊を防止できる。その結果、造形エリアへの材料粉末の供給が安定する。
【0041】
また、造形用材料を構成する造粒粒子(二次粒子)の圧縮強度の上限も、一般的な粉末材料に用いる二次粒子の圧縮強度の範囲であれば特に制限はなく、好ましくは3000MPa以下であり、より好ましくは2500MPa以下であり、さらに好ましくは2000MPa以下である。二次粒子の圧縮強度が低くなるにつれて、造形用材料の造形効率が向上する。
【0042】
本明細書において、第1粉末を構成する造粒粒子の「圧縮強度」は、電磁力負荷方式の圧縮試験機を用いて測定される破壊強度を採用することができる。具体的には、加圧圧子と加圧板との間に一つの造粒粒子を固定し、電磁力により加圧圧子と加圧板との間に一定の増加割合で圧縮の負荷力を与えていく。圧縮は定負荷速度圧縮方式で行い、その際の測定試料の変形量を測定していく。測定した試料の変形特性結果を専用のプログラムで処理することで、造粒粒子の圧縮強度(破壊強度)を計算することができる。本明細書において、造粒粒子の圧縮強度は、微小圧縮試験装置(株式会社島津製作所製、MCT−500)を用いて測定した破壊強度の算術平均値を採用することができる。具体的には、各造粒焼結粒子について、圧縮試験にて得られた臨界荷重をL[N]、平均粒子径をd[mm]としたとき、造粒焼結粒子の圧縮強度σ[MPa]は、次式:σ=2.8×L/π/d;で算出される。
【0043】
<粒度範囲>
第1粉末の粒度範囲は、粉末積層造形に使用される装置の種類や条件に応じて適宜設定されることが好ましい。例えば、具体的には、第1粉末の粒度範囲は、5〜20μm、45〜150μm、5〜75μm、32〜75μm、15〜45μm、20〜63μm、あるいは25〜75μmのように適宜調整することができる。
なお、第1粉末の粒度範囲は、その第1粉末を構成する粒子群(即ち造粒粒子群)に、どの様な大きさ(粒子径)の粒子が、どの様な割合(第1粉末の全体を100体積%としたときの相対粒子量)で含まれているかを示す。また「粒度範囲」とは、その第1粉末の粒子径の下限と上限までの幅(広がり)を示す指標である。本明細書における粒度範囲の下限の値は、第1粉末中に占めるその値以下の粒子径を有する粒子の割合が5%以下であることを意味している。また、粒度範囲の上限の値は、第1粉末中に占めるその値以上の粒子径を有する粒子の割合が5%以下であることを意味している。なお、第1粉末の粒度分布については、当該第1粉末の粒度に応じた適切な粒度分布測定装置により測定することができる。例えば、ロータップ試験機(JIS R6002参照)や、レーザ回折/散乱方式を採用する測定器を用いて求められる。また、例えば粒度範囲が5〜75μmである第1粉末であれば、5μm以下の粒子径を有する粒子の割合が5%以下であり、かつ、75μm以上の粒子径を有する粒子の割合は5%以下であることを意味する。
【0044】
<真円度>
さらに、第1粉末を構成する造粒粒子(二次粒子)は、平均真円度が1.5未満(例えば、1以上1.5未満)であるのが好ましい。なお、かかる平均真円度は、第1粉末を構成する二次粒子の平均真球度を間接的に表し得る指標として採用されたものであり、当該二次粒子を任意の方向から平面視した場合の平均真円度を意味している。したがって、かかる平均真円度は、当該二次粒子が、必ずしも二次元的に真円に近い形態であることを意図するものではなく、本質的には、三次元的に真球に近い形態であることを意図するものである。
【0045】
特に、第1粉末はセラミックを含んでいる。一般に、球形化処理が施されていないセラミックは、結晶性が高いことから結晶系の外形がそのまま粒子の形態となって表れやすい傾向がある。とりわけ、粉砕物であるセラミック粒子は、結晶面に沿って破砕されているためにその傾向が強かった。また、理想的な結晶系の外形を示さない場合であっても、特定の結晶面が組み合わされてなる多面体に近い形態をその外形に表し得るものであった。したがって、結晶系に由来する稜や隅角(頂点であり得る)や角部を有するセラミックを含む粒子は、そのままで用いると流動性が低下しがちであった。つまり、造形エリアへの供給の際に、セラミックを含む二次粒子同士が互いにかみ合ったりして、平坦化が困難となり得る。
【0046】
これに対し、この第1粉末は、造粒粒子の形態であるため、全体として外形が真球に近くなり、例えば、当該粒子を構成するセラミックの結晶性を反映した結晶面や稜、隅角、角部等の影響が低減される。これにより、セラミックを含むにもかかわらず、第1粉末の、延いては造形用材料全体の流動性を著しく高めることができる。換言すると、ここに開示される第1粉末において、セラミックを含む一次粒子は、セラミックの高い結晶性が反映された形態であってよく、例えば、角柱状、塊状等の外形であってもよい。そして造粒粒子として、上記の平均真円度を満たすことで、高い流動性を確保することが可能とされる。なお、かかる平均真円度は、例えば、平均アスペクト比等の指標では表し得ないレベルの平均真球度を反映し得る指標であり得る。これにより、粉末積層造形の平坦化工程において、その流動性が高められる。かかる造形用材料の平均真円度は、可能な限り1に近いことが好ましく、1以上の値であり得る。また、平均真円度は、2.7以下であるのが好ましく、2.0以下がより好ましく、1.5以下、例えば、1.2以下であり得る。
【0047】
本明細書における、第1粉末を構成する造粒粒子の「真円度」とは、電子顕微鏡等の観察手段により観察された100以上の造粒粒子(二次粒子)の平面視像(例えば、二次電子像等)について求められた真円度の算術平均値を意味する。また、真円度は、二次粒子の平面視像において、当該二次粒子の輪郭の長さである周囲長と、かかる輪郭で囲まれた面積とから、下記式により規定される値である。なお、かかる真円度は、二次粒子の表面形態の滑らかさをより反映しやすい指標であり、幾何学的円(真円)は真円度=1となり、真円から離れるにつれて真円度は1より大きな値となる。かかる平均真円度は、例えば、適切な倍率で取得した電子顕微鏡像を画像処理ソフト等を用いて解析することで求めることができる。
真円度=(周囲長)÷(4×π×面積)
【0048】
<アスペクト比>
なお、第1粉末を構成する造粒粒子(二次粒子)の外形については、平面視における平均アスペクト比が1.4未満であるとより好ましい。というのは、上記のとおり、平均真円度がより1に近い二次粒子において、真円度は、二次粒子の全体的な形態よりも表面形態をより反映するものであり得る。換言すると、上述の真円度は、真円に近い二次粒子を評価する場合については、二次粒子の平面視における輪郭線がミクロなレベルで複雑になればなるほど、その値は二次粒子の全体の外形の変化の度合いを超えて大きくなりやすい傾向にある。したがって、真円度に加えて、さらにアスペクト比により二次粒子の外形について規定することで、全体としての外形がより真球に近い、すなわち平面視においては真円に近い、二次粒子とすることができる。
かかる平均アスペクト比は、第1粉末の流動性を考慮すると、1.5以下であるのが好ましく、1.3以下であるのがより好ましい。さらには、例えば、1.15以下とすることができ、1あるいは1により近いことが望ましい。
【0049】
本明細書において「アスペクト比」とは、電子顕微鏡等の観察手段により観察された100以上の第1粉末を構成する造粒粒子(二次粒子)の平面視像(二次電子像等)について求められたアスペクト比の算術平均値を意味する。かかるアスペクト比は、当該二次粒子の相当楕円における長軸の長さをa、短軸の長さをbとしたとき、a/bで定義される。また、相当楕円とは、当該二次粒子と同面積で、かつ一次および二次モーメントが等しい楕円をいう。かかる平均アスペクト比は、例えば、適切な倍率で取得した電子顕微鏡像を画像処理ソフト等を用いて解析することで求めることができる。
【0050】
<フラクタル次元>
また、この第1粉末を構成する造粒粒子(二次粒子)については、平均フラクタル次元が1.5未満であることも好ましい態様の一つである。かかる二次粒子は、表面形態がミクロなレベルで複雑なものであり得る。したがって、かかる粒子表面の複雑な形態を更に多様な指標で規定することで、外形がより真球に近い造粒粒子とすることができる。フラクタル次元は、個々の粒子表面の複雑な形態を測るために広く一般に利用される指標であり、平均フラクタル次元はここに開示される第1粉末の表面の滑らかさを指し図るには好適な指標であり得る。平均フラクタル次元を1.5未満に規定することで、さらに流動性の向上された第1粉末、延いては造形用材料を実現し得る。かかる平均フラクタル次元は、第1粉末(延いては造形用材料)の流動性を考慮すると、1.1以下であるのが好ましく、1.05以下であるのがより好ましい。
【0051】
本明細書において、「フラクタル次元」とは、電子顕微鏡等の観察手段により観察された100以上の造形粒子(二次粒子)の平面視像(二次電子像等)について求められたフラクタル次元の算術平均値を意味する。また、本明細書において、フラクタル次元は、ディバイダーズメソッドにより求められる値を採用しており、二次粒子の平面視像における当該二次粒子の周囲長とストライド長の対数を関連づける関数の、線形部分の傾きとして定義される。かかるフラクタル次元の測定値は、1(=実線)以上2(=平面)未満の値となり、1に近い程二次粒子の表面が滑らかなことを意味する。かかる平均フラクタル次元は、例えば、適切な倍率で取得した電子顕微鏡像を画像処理ソフト等を用いて解析することで求めることができる。
【0052】
<安息角>
加えて、ここに開示される第1粉末については、安息角が39度未満であることも好ましい態様の一つである。安息角は、従来より粉体の流動性を示すために広く採用されてきた指標の一つであり得る。そして、例えば、第1粉末が供給装置内および造形装置内を搬送される際の、自発的な流動性を実際的に反映し得る指標であり得る。したがって、かかる安息角を小さく規定することで、流動性が高い第1粉末(延いては造形用材料)を実現することができる。延いては、均質な三次元造形物をより生産性良く作製することができる造形用材料であり得る。
かかる安息角は、第1粉末(延いては造形用材料)の流動性を考慮すると、36度以下であるのが好ましく、32度以下であるのがより好ましい。さらには、例えば、30度以下とすることもできる。安息角の下限に特に制限はないが、安息角が小さすぎると第1粉末が飛散し易くなったり、第1粉末の供給量の制御が困難になったりする場合がある。したがって、おおよその目安として、安息角は20度以上とすることが例示される。
【0053】
<フローファンクション>
なお、特に制限されるものではないが、ここに開示される第1粉末は、フローファンクションが5.5以上であることが好ましい。
上記の安息角は、無荷重状態での第1粉末の流動性を評価し得る指標であった。一方で、このフローファンクションは、第1粉末を圧密した状態でせん断応力を測定することによりその流動特性を評価するものであって、第1粉末(延いては造形用材料)のハンドリング性をより実際的に表現し得る指標となり得る。したがって、かかる構成によっても、例えば、平均粒子径が30μm未満の第1粉末について流動性が高いと判断することができ、三次元造形物をより一層生産性良く作製し得る第1粉末(延いては造形用材料)を提供することができる。
【0054】
(第2粉末)
第2粉末は本質的に金属を含む。第2粉末は、典型的には、主成分として金属を含む。ここでいう主成分とは、第2粉末の70質量%以上を占める成分を意味する。第2粉末は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上(典型的には98質量%以上)が金属からなることが好ましい。
【0055】
金属としては特に制限されず、例えば、上記のセラミックの構成元素として挙げた各種の金属元素の単体や、これらの元素と他の1種以上の元素とからなる合金等であってよい。金属の単体としては、例えば、典型的には、マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),チタン(Ti), クロム(Cr),マンガン(Mn),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),銅(Cu),亜鉛(Zn),ジルコニウム(Zr),金(Au),銀(Ag),白金(Pt),イリジウム(Ir),ビスマス(Bi),ニオブ(Ni),モリブデン(Mo),錫(Sn),タングステン(W)および鉛(Pb)等が例示される。
また、合金としては、一例として、Cu−Al合金,Cu−Al−Fe合金,Cu−Ni合金,Cu−Ni−In合金等に代表される銅合金、Ni−Al合金,Ni−Cr合金(例えば、Ni−20Cr合金、Ni−50Cr合金、インコネル),Ni−Cr−Fe合金(例えばインコロイ),Ni−Cr−Al合金,ハステロイ(Ni−Fe−Mo合金, Ni−Cr−Mo合金),Ni−Cu合金(例えば、モネル)等に代表されるニッケル合金、コバルトを主成分とし、Co−Cr−W合金(例えば、ステライト),Co−Cr−Ni−W−C合金,Co−Mo−Cr−Si合金,Co−Cr−Al−Y合金等に代表されるコバルト合金、Ni−Cr−Fe−Si−B−C合金,Ni−Cr−Mo−Cu−Fe−Si−B−C合金等に代表されるNi自溶合金、Co−Ni−Cr−Mo−Fe−Si−B−Cに代表されるCo自溶合金、マルエージング鋼に代表される低炭素鋼、炭素鋼、SUS304,SUS316,SUS410,SUS420J2,SUS431等に代表されるステンレス鋼、Ti−6Al−4Vに代表されるチタン合金等が挙げられる。なお、ここでいう合金とは、上記の金属元素と、他の1種以上の元素からなり、金属的な性質を示す物質を包含する意味であって、その混ざり方は、固溶体、金属間化合物およびそれらの混合のいずれであってもよい。
以上の金属および合金は、いずれか1種が単独で含まれていてもよいし、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0056】
第2粉末の平均粒子径は特に制限されない。例えば、均一な混合を容易にすることから、上記の第1粉末と同程度の大きさとすることもできる。第2粉末の平均粒子径は、例えば、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、例えば10μm以下とすることができる。また、第2粉末の平均粒子径は、例えば、1nm以上とすることができ、100nm以上であることが好ましく、500nm以上がより好ましく、例えば1μm以上とすることができる。なおここで、より積層粉末造形に適した造形用材料を構成するとの観点から、第2粉末の平均粒子径Dは、上記第1粉末の平均粒子径Dよりも小さくすることが好ましい態様であり得る。第1粉末の平均粒子径Dと第2粉末の平均粒子径Dとは、これに限定されるものではないが、例えば、D>Dを満たすことが好ましく、D≦0.7×Dがより好ましく、D≦0.5×Dが特に好ましくい。例えば、D≦0.4×Dとすることができる。また、第1粉末の平均粒子径Dと第2粉末の平均粒子径Dとは、0.05×D≦Dが好ましく、0.07×D≦Dがより好ましく、0.1×D≦Dが特に好ましい。
【0057】
以上の構成の造形用材料は、セラミックを含む造粒粉末である第1粉末のみではなく金属を含む第2粉末を含んでいる。金属は、一般にセラミックよりも融点が低い。このことにより、造形用材料においては第1粉末よりも第2粉末の溶融が先行し、第2粉末の融液が第1粉末の表面に濡れ広がって、第1粉末の溶融を促進させる。あるいは、第2粉末が溶融してなるマトリックス内に第1粉末を分散状態で取り込み、金属相中にセラミック相が分散された形態の緻密な造形物を得ることができる。例えば、サーメットや超硬合金の形態の緻密な造形物を得ることができる。
【0058】
ここで、第1粉末と前記第2粉末との合計に対する第2粉末の割合は、10質量%を超過している。このことにより、十分に溶融し難い第1粉末の表面に第2粉末が好適に濡れ広がり、緻密な造形を可能とすることができる。第2粉末の割合は、所望の造形物の物性に応じて適宜調整することができるものの、例えば、12質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上が特に好ましい。しかしながら、第2粉末が多すぎると、セラミックを含む第1粉末の特徴が損なわれ得るために好ましくない。そこで、第1粉末と前記第2粉末との合計に対する第2粉末の割合は、90質量%未満に規定している。第2粉末の割合は、所望の造形物の物性に応じて適宜調整することができるものの、85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、75質量%以下が特に好ましい。
【0059】
(造形用材料の製造方法)
本実施形態における造形用材料は、上記の第1粉末と第2粉末とを混合(ブレンド)することで用意することができる。金属を含む第2粉末としては、上記の性状の金属粉を用意すればよい。また、セラミックを含む第1粉末としては、上記の性状を有するセラミック粉末(一次粒子に相当)を原料粉末とし、このセラミック粉末を造粒もしくは、造粒焼結することで用意することができる。なお、市販等されている造粒粉末の形態の第1粉末を入手して用いても良い。第1粉末については、一次粒子が三次元的に結合された造粒修理の形態を有し得る限り、その製造方法は特に制限されない。例えば、好適な例として、以下に、造粒法、および造粒焼結法により造形用材料を製造する場合について説明する。しかしながら、ここに開示される造形用材料の製造方法は、これに限定されるものではない。
【0060】
(造粒法)
造粒法は、原料粉末を二次粒子の形態に造粒する手法である。造粒法としては、公知の各種の手法を適宜利用することができる。例えば、造粒法として、乾式造粒あるいは湿式造粒等の造粒方法を利用して実施することができる。具体的には、例えば、転動造粒法、流動層造粒法、撹枠造粒法、破砕造粒法、溶融造粒法、噴霧造粒法、マイクロエマルション造粒法等が挙げられる。なかでも好適な造粒方法として、噴霧造粒法が挙げられる。
【0061】
噴霧造粒法によると、例えば、以下の手順で造形用材料を製造することができる。すなわち、まず、所望の組成および寸法を有する第1粉末の原料粉末を用意する。原料粉末は、上記のとおり、少なくともセラミック粉末を含む。原料粉末は、必要に応じてその表面を保護剤等により安定化させる。そしてかかる安定化された原料粉末中の原料粒子としての粉末を、例えばバインダと、必要に応じて含まれる有機材料等からなるスペーサー粒子等とともに適切な溶媒に分散させて噴霧液を用意する。原料粒子の溶媒への分散には、例えば、ホモジナイザー、翼式撹拌機等の混合機、分散機等を用いて実施することができる。そしてこの噴霧液を、超音波噴霧機等を利用して噴霧し、液滴を形成する。かかる液滴を、例えば、気流に載せて連続炉を通過させることで溶媒成分を除去して乾燥させる。これにより、第1粉末および第2粉末がバインダにより間隙をもって3次元的に結合された造形用材料を得ることができる。
【0062】
(造粒焼結法)
造粒焼結法では、上記で用意した造粒粉末を焼成して、原料粒子同士を強固に結合(焼結)させる。この造粒焼結法では、例えば、上記の造粒法において超音波噴霧した液滴を乾燥させた後、さらに気流に載せて連続炉を通過させながら焼結させればよい。具体的には、例えば、超音波噴霧した液滴を、連続炉内を搬送させながら、炉内の比較的上流に設けられる低温ゾーンで乾燥させて溶媒成分を除去し、次いで、炉内の比較的下流に設けられる高温ゾーンで焼成する。このとき、造粒された原料粒子は互いの接点で焼結されて、造粒形状を概ね維持して焼結される。焼結に際してバインダは消失する。これにより、一次粒子が焼結された二次粒子の形態の造粒焼結粒子からなる造形用材料を得ることができる。
【0063】
なお、上記の製造工程において、原料粒子とともにスペーサー粒子を使用して造粒粒子を作製しても良い。噴霧された液滴が乾燥された状態では、原料粒子とバインダとが均一な混合状態になり、原料粒子はバインダにより結着されて混合粒子を構成している。したがって、原料粒子とともにスペーサー粒子を使用する系では、原料粒子とスペーサー粒子とが均一な混合状態でバインダにより結着されて混合粒子を構成している。そして、この混合粒子が焼成されることで、バインダ(およびスペーサー粒子)が消失する(燃えぬける)とともに、原料粒子が焼結される。このことにより、一次粒子が十分な間隙をもって結合された形態の二次粒子が形成される。
【0064】
なお、焼結に際し、原料粒子はその組成や大きさによっては一部が液相となって他の粒子との結合に寄与し得る。そのため、出発材料の原料粒子よりも一次粒子の平均粒子径は大きくなる場合がある。したがって、造形用材料における一次粒子である第1粉末および第2粉末は、原料粒子とほぼ同等の寸法および形状を有していてもよいし、原料粒子が焼成により成長・結合されていてもよい。例えば、複数の原料粒子が焼結により一体化されて、造粒粒子における一次粒子を構成していても良い。また、乾燥から焼結までの間に、原料粒子以外の成分の消失および焼成による原料粒子の焼き締まりなどから、液滴のサイズよりも得られる二次粒子の平均粒子径のほうが大幅に小さくなり得る。これら、二次粒子および一次粒子の平均粒子径や、一次粒子間に形成される間隙の大きさおよび割合は、所望の二次粒子の形態に応じて適宜設計することができる。
【0065】
また、上記の製造工程において、特に限定されるものではないが、調製される噴霧液の原料粒子の濃度は、10〜40質量%であることが好ましい。添加されるバインダとしては、例えばカルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。添加するバインダは、原料粒子の質量に対して0.05〜10質量%の割合で調整されることが好ましい。焼成される環境は、特に制限はされないが、大気中、真空中もしくは不活性ガス雰囲気中であってもよく、600℃以上1700℃以下の温度で焼結されることが好ましい。特に、有機材料等からなるスペーサー粒子、バインダ等を用いる場合は、造粒粒子中の有機材料を除去する目的で酸素が存在する雰囲気下で焼結されてもよい。必要に応じて、製造された二次粒子を、解砕および分級してもよい。
【0066】
(三次元造形物の製造方法)
以上のようにして得られた造形用材料は、各種の粉末積層造形に適用することができる。そこで、ここに開示される三次元造形物の製造方法の好適例として、レーザ選択焼結法(SLS)を主として採用した場合を例に、粉末積層造形について説明する。
ここに開示される三次元造形物の製造方法は、一般的に、以下の工程を含む。
(1)粉末積層造形装置の造形エリアに造形用材料を供給する
(2)当該供給された造形用材料を、造形エリアに均一に薄く堆積させる。これにより、造形用材料の薄層を形成する。
(3)形成された造形用材料の薄層に、造形用材料を溶融するためのエネルギー手段を与えて、造形用材料を結合する工程
(4)固化した造形用材料の上に、新たな造形用材料を供給し(上記工程(1))、以後、工程(2)〜(4)を繰り返すことで積層し、目的の三次元造形物を得る。
【0067】
図1は粉末積層造形のための積層造形装置の簡略図の一例を示しており、大まかな構成として、粉末積層造形が行われる空間である造形エリア10と、造形用材料を貯留しておくストック12と、造形エリア10への造形用材料の供給を補助するワイパ11と、造形用材料を固化するための固化手段(レーザ発振器等のエネルギー供給手段)13と、を備えている。造形エリア10は、典型的には、外周が囲まれた造形空間内を造形面より下方に有し、この造形空間内に昇降可能な昇降テーブル14を備えている。この昇降テーブル14は、所定厚みΔt1ずつ下方に移動することができ、この昇降テーブル14上に目的の造形物を造形してゆく。ストック12は、造形エリア10の傍に配置され、例えば、外周が囲まれた貯留空間内に、シリンダー等によって昇降可能な底板(昇降テーブル)を備えている。底板が上昇することで、所定量の造形用材料を造形面に供給(押し出し)することができる。
【0068】
1.造形用材料の供給
このような積層造形装置では、昇降テーブル14を造形面より所定厚みΔt1だけ下げた状態で造形エリア10へ造形用材料を供給することで、所定厚みΔt1の造形用材料層20を用意することができる。
【0069】
2.造形用材料の薄層を形成
このとき、造形面にワイパ11を走査させることで、ストック12から押し出された造形用材料を造形エリア10上に供給するとともに、造形用材料の上面を平坦化して、均質な造形用材料層20を形成することができる。
【0070】
3.造形用材料の結合
そして、例えば、形成された第1層目の造形用材料層20に対し、第1層目のスライスデータに対応した固化領域にのみ、固化手段13を介してエネルギーを与えることで、造形用材料を所望の断面形状に溶融または焼結させ、第1層目の粉末固化層21を形成することができる。
【0071】
4.繰り返し積層造形
この後、昇降テーブル14を所定厚みΔt1だけ下げて再度造形用材料を供給し、ワイパ11でならすことで第2層目の造形用材料層20を形成する。そしてこの造形用材料層20の第2層目のスライスデータに対応した固化領域にのみ、固化手段13を介して熱源や固化組成物等を与えて造形用材料を固化させて第2層目の粉末固化層21を形成する。このとき、第2層目の粉末固化層21と、下層である第1層目の粉末固化層21とが一体化されて、第2層目までの積層体を形成する。
【0072】
引き続き、昇降テーブル14を所定厚みΔt1だけ下降させて新たな造形用材料層20を形成し、固化手段13を介して熱源や固化組成物等を与えて所要箇所を粉末固化層21とする、との工程を繰り返すことで、目的とする三次元造形物を製造することができる。
【0073】
なお、造形用材料を固化するための手段としては、例えば、インクジェットにより造形用材料を固化するための組成物を噴射する方法や、レーザにより熱を与えて造形用材料を溶融固化する方法、または造形用材料が光硬化の性質をもつものであれば、その光硬化の特性に合わせて紫外線の照射等が選択される。より好ましくは、造形用材料を溶融固化する方法であり、例えば、具体的には、造形用材料を固化するための手段がレーザの場合は、例えば炭酸ガスレーザやYAGレーザを公的に用いることができる。なお、造形用材料を固化するための手段がインクジェットによる組成物の噴射である場合は、接着剤としてポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸誘導体、ポリアミド等を含む組成物や、例えば重合開始剤等を含む組成物を使用することができる。さらに、造形用材料として光硬化の性質を持つものを使用する場合は、紫外線の波長領域を持つエキシマレーザ(308nm)、He−Cdレーザ(325nm)、Arレーザ(351〜346nm)、可視光硬化樹脂を使用する場合はArレーザ(488nm)等を使用することができる。つまりは、使用する造形用材料の特性に応じて、適切な造形用材料を固化するための手段を選択することがよい。
【0074】
SLS法とは、3D CAD等から作成したスライスデータに基づき、造形用材料を堆積させた粉末層にレーザ光を走査させ、粉末層を所望形状に溶融・凝固する操作を、1断面(1スライスデータ)ごとに繰り返して積層させることで三次元的な構造体を造形する技術である。また、EBM法とは、同様に3D CAD等から作成したスライスデータを基に、電子ビーム用いて上記粉末層を選択的に溶融・凝固させ、積層することで3次元的な構造体を造形する技術である。いずれの技術においても、構造体の原料である造形用材料を所定の造形位置に供給するという工程を含む。特に、SLS法やEBM法においては、構造体を造形する造形エリア全体に、造形用材料を1断面厚さに対応する厚みで、均一に薄く堆積する平坦化工程を繰り返す必要がある。この造形用材料の平坦化工程において、造形用材料の流動性は重要なパラメータであり、作製する三次元造形物の仕上がりに大きく影響する。それに対して、本発明における粉末積層造形に用いる造形用材料は、流動性が良好であることから、仕上がりの良好な三次元造形物を作製できる。
【0075】
レーザメタルデポジション法とは、具体的には、構造物の所望の部位に造形用材料を提供して、そこにレーザ光を照射することで造形用材料を溶融・凝固させ、当該部位に肉盛りを行う技術である。この手法を利用することで、例えば、構造物に摩耗等の物理的な劣化が発生した場合に、当該劣化部位に造形用材料として当該構造物を構成する材料または補強材料等を供給し、その造形用材料を溶融・凝固させることで劣化部位等に肉盛りを行うことができる。
【0076】
前記実施形態は次のように変更してもよい。
・ 造形用材料中およびそれを構成する二次粒子、さらには二次粒子を構成する一次粒子は、不可避不純物あるいは添加剤などの主となる成分以外の成分を含有してもよい。つまり、純度は特に制限されない。しかしながら、例えば、より機能性の高い三次元造形物を形成する用途の場合には、意図しない物質(元素)の混入は避けることが好ましく、造形用材料の純度は高い方が好ましい。かかる観点においては、二次粒子およびそれを構成する一次粒子の純度は高い方が好ましい。例えば、純度が95質量%以上であることが好ましく、さらには99質量%以上、より好ましくは99.9質量%以上、例えば99.99質量%以上とすることができる。
・ これらの造形用材料は、例えば、形成される三次元造形物の色調を調整する目的で他の元素(例えば、セラミックであれば、移金属元素や、Na、K、Rb等の元素)が導入されたり、機能性を高める目的で他の元素が導入されるなどしてもよい。また、上記の造形用材料を構成する元素は、一部がイオンまたは錯体等の形態で含まれていても良い。
【0077】
・ 造形用材料において、第1粉末は、一次粒子が間隙をもって三次元的に結合されてなる二次粒子の形態を有している粒子から構成されている粉末であるが、前記二次粒子以外の形態を有する粒子を含有してもよい。ただし、前記二次粒子以外の粒子の含有量はできるだけ少ないことが好ましい。その理由としては、まず、本発明は、一次粒子が間隙をもって三次元的に結合されてなる二次粒子から構成されている造形用材料を粉末積層造形に用いることで、従来よりも緻密な造形物を造形できることを見出したものである。よって、造形用材料の全体量に対して、特定の形態を示す二次粒子の比率が多いほど、本発明の効果は大きくなる。換言すれば、造形用材料の全体量に対して、特定の形態を示す二次粒子の比率が少なくなると、本発明の効果が得にくくなる。
【0078】
また、本発明の特定の形態を示す二次粒子は、次のような考え方に基づき、さらに良い効果を発揮する。例えば、金属粒子、セラミック粒子等の複数種類の単一粒子を単に混合して造形用材料とすると、比重が異なるため、比重の大きな材料からなる粒子は下へ、逆に比重の小さな粒子は上へ行く傾向にあり、造形用材料中で成分の偏りが生じる。一方で、本発明のように特定の形態を示す二次粒子とすれば、例えば、金属粒子とセラミック粒子が混在するサーメット粒子を第1粉末とする場合や、複数の材料粒子を混合して第1粉末を形成する場合においても、二次粒子としての比重は均一であるため、造形用材料中で成分の偏りが生じることは少なく、製造される三次元造形物の仕上がりが向上する。このことからも、造形用材料の全体量に対して、特定の形態を示す二次粒子の比率が多い方が好ましい。よって、二次粒子の造形用材料に対する含有量の下限は、好ましくは90重量%であり、より好ましくは95重量%である。また、上限は通常98重量%であり、添加剤などの二次粒子以外の成分の混合により本発明の効果を損なわない程度に適宜調整されてもよい。
【0079】
<実施例>
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0080】
第1粉末として、タングステンカーバイド(WC)からなる粉末に、12質量%となるようコバルト(Co)粉末を配合して造粒したサーメット(WC/12Co)からなる造粒粉末を用意した。この造粒粉末の平均粒子径は30μmに調整されており、嵩密度は5.1g/cmであった。
第2粉末として、ステライト(ステライトNo.6)の粉末を用意した。この粉末の平均粒子径は9μmに調整されており、嵩密度は4.0g/cmであった。
用意したサーメット粉末と金属粉末とを、表1に示す配合で撹拌混合することで、例1〜8の造形用材料を用意した。
【0081】
なお、上記で用意した粉末の平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒度測定器(株式会社堀場製作所製、LA−300)を用いて測定した体積基準に基づく粒度分布の累積50%粒径(D50)である。上記サーメット粉末は、必要に応じて分級(ふるい分け)することで、平均粒子径が30μmとなるように粒度を調整したものである。
嵩密度は、JIS Z2504:2012に規定される金属粉−見掛密度測定方法に準じて測定した。具体的には、直径2.5mmのオリフィスから自然に流れ出す粉末により、所定の容量の容器を自然充填の状態で満たしたときの、当該粉末の質量を測定することで、嵩密度を算出した。嵩密度の測定には、金属粉用のJISカサ比重測定器(筒井理化学器械株式会社製)を用いた。
【0082】
[選択的レーザ溶融法(セレクトレーザメルティング法;SLM)]
上記で用意した造形材料を、粉末積層造形である選択的レーザ溶融法により積層造形することで三次元造形物を得た。積層造形には、レーザ焼結型粉末積層造形システム(SLM solution社製、SLM125HL)を用いた。具体的には、上記の造形材料を1層あたり50μmの厚みで造形エリアに供給し、装置に付随のワイパで造形材料を平坦化して造形材料の堆積層(薄層)を形成した。その造形材料からなる薄層に対してファイバーレーザを2次元的に照射し、まずは層状の造形物を形成した。そして、造形用材料の供給と平坦化の工程、それに対してレーザ照射する工程を繰り返すことで、三次元造形物(設計:20層(1mm))を得た。なお、加工時の条件として、レーザ焦点は約150φμm、レーザ出力は100W、レーザ走査速度は300mm/sec、温度環境は常温、造形用材料周囲の雰囲気はArガスとした。
【0083】
[気孔率]
作製した三次元造形物の仕上がりを評価する指標として、三次元造形物の気孔率を測定した。気孔率は、それぞれの三次元造形物を造形方向(厚み方向)で切断した研磨断面に対して、画像解析法により測定された値を求めた。具体的には、三次元造形物の断面の画像を取得し、画像解析ソフトを用いて三次元造形物の断面を気孔部と固相部(造形された造形物部分)とに分離する2値化を行い、全断面積に占める気孔部の面積の割合を気孔率として算出した。
【0084】
なお、気孔率の測定には、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM、株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S−3000N)による観察像(好適には、二次電子像、組成像あるいはX線像のいずれかであり得る。)を用いた。参考のため、例1および例5の造形物についてのSEM像を図2(a)および(b)に順に示した。また、画像解析ソフトとしては、Image−Pro(Media Cybernetics社製)を使用した。三次元造形物の気孔率の測定結果を、表1の「気孔率」の欄に示した。
【0085】
[硬度]
それぞれの造形物に対して、JIS Z2244:2009に規定されるビッカース硬さ試験方法に基づき硬度を測定した。具体的には、硬微小硬度測定器(株式会社島津製作所製、HMV−1)を用い、造形物の表面に対面角136°のダイヤモンド圧子を試験力1.96Nで押圧したときに得られる圧痕から、ビッカース硬さ(Hv0.2)を算出した。その結果を、表1の「硬度」の欄に示した。
【0086】
[1層あたりの造形厚み]
造形精度や造形速度を評価する指標として、レーザ1走査あたり(すなわち1層あたり)の造形厚みを求めた。1層あたりの造形厚みは、得られた造形物の全厚みを測定し、これを積層数(厚み方向でのレーザ走査回数)で除することで算出される値を採用した。造形物の全厚みは、上記の気孔率の測定の際に行ったSEM観察により、造形方向(厚み方向)で切断した研磨断面における造形物の厚みを測定することで得た。造形物の全厚みは、各造形物に対して、3視野以上のSEM観察像について、各視野ごとに3点以上で測定し、その平均値を採用した。その結果を、表1の「1層厚み」の欄に示した。
【0087】
【表1】
【0088】
[評価]
サーメット粉末(ここではWC/12Co)に対して金属粉末(ここではステライト6)を含まない例1の造形用材料を用いた場合は、得られる造形物の気孔率が15%と高く、図2(a)に示すようなポーラスな組織を有する造形物しか得られないことがわかった。そして例2〜8に示されるように、サーメット粉末に金属粉末を混合して造形用材料とすることで、造形物の気孔率を低減できることがわかった。ここで、造形用材料における金属粉末の割合を増大させるにつれて、得られる造形物の気孔率も徐々に低減される。そして金属粉末の割合が10質量%を超えると、造形物の気孔率が10%未満となり、(サーメットとして)セラミック成分を含む造形用材料を用いた場合であっても緻密な造形物の造形が可能であることが確認された。
【0089】
また同時に、造形用材料における金属粉末の割合を増大させるにつれて、1層あたりの厚みが徐々に増大されることも確認された。このことは、造形用材料の粉末積層造形において、金属粉末が比較的低温から軟化溶融し、サーメット粉末のバインダとして作用することに加え、サーメット粉末や金属粉末自身の飛散を防止することに寄与しているものと考えらえる。
【0090】
上記のように、造形用材料における金属粉末の割合が多くなればなるほど、金属材料からなる造形溶材料を用いた場合と同様に、造形物の気孔率が低減され易くなる。しかしながら、造形物の硬度については、金属粉末の割合が0質量%から増えるにつれて50質量%程度までは上昇するものの、金属粉末の割合が更に増えると減少に転じることがわかった。これは、金属粉末の割合が50質量%程度まではバインダの増加効果が良好に作用するのに対し、過剰な金属の存在が造形物の組織を軟質化してしまうことによるものと考えらえる。例えば、金属粉末の割合が90質量%程度にまで達すると、造形物の硬度は金属材料の物性に大きく依存し、サーメット粉末を用いることの利点が失われてしまうために好ましくないといえる。
【0091】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、種々の改変が可能であることはいうまでもない。なお、具体的には示さないが、第1粉末としてセラミック粉末のみからなる造粒粒子を用いた場合にも、上記と同様に造形用材料を構成することができることは、当業者であれば十分に理解できる。また、かかる造形用材料を用いて粉末積層造形により造形物を造形し得ることも理解され得る。ここに開示される技術の本質とその利点については、様々な態様を含めて実現し得ることを当業者は理解できる。
【符号の説明】
【0092】
10 造形エリア
11 ワイパ
12 ストック
13 造形用材料を固化するための手段
14 昇降テーブル
20 造形用材料層
21 粉末固化層

図1
図2