(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記負帯電処理が、アルキルシラン、ジメチルシラン、オクチルシラン、メタクリルシラン、フルオロアルキルシラン、およびヘキサメチルジシラザンのうちの少なくとも1種の被覆処理であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の粉末混合物。
前記粉末混合物が副原料粉末を含み、前記副原料粉末の全部が、前記鉄粉末もしくは鉄基合金粉末の表面に前記黒鉛粉末とともにポリオレフィン系ワックスからなる結着剤で固着されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の粉末混合物。
前記粉末混合物が副原料粉末を含み、前記副原料粉末の一部が、前記鉄粉末もしくは鉄基合金粉末の表面に前記黒鉛粉末とともにポリオレフィン系ワックスからなる結着剤で固着され、かつ前記副原料粉末の残部が遊離粉末として含まれていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の粉末混合物。
【背景技術】
【0002】
粉末冶金法による焼結機械部品の製造は、
図4に示すように、ダイ10の型孔11と下パンチ20とで形成されるキャビティに原料粉末を充填した後、原料粉末を下パンチ20と上パンチ30とで圧縮成形して成形体を作製(いわゆる押型法)し、得られた成形体を焼結炉中で加熱して焼結することで行われる。このような押型法は、焼結機械部品をニアネットシェイプに造形することができることに加え、一度押型を作製すれば同形状の製品を多量に生産可能であり、製造コストが低廉であるという利点を有していることから、種々の分野で利用されている。
【0003】
押型法において用いられる原料粉末は、目的とする機械部品に望まれる特性に応じて、主原料粉末が選択され、これに副原料粉末を添加、混合して調整される。例えば、構造用機械部品においては、鉄粉末もしくは鉄基合金粉末を主原料粉末とし、黒鉛粉末、および必要に応じて銅粉末やニッケル粉末等の副原料粉末を添加するとともに、ステアリン酸亜鉛等の成形潤滑剤を添加、混合して調整される。また、上記の原料粉末においては、必要に応じて機械部品の切削性を改善する目的で、珪酸マグネシウム系鉱物粉末や硫化物粉末等の切削性改善粉末を上記副原料粉末として用いることも行われている。
【0004】
ところで、原料粉末は、一般に、ホッパー40に貯留され、ホース50を介して下面が開放するフィーダ60に重力落下により搬送される。このフィーダ60がダイ10上を前進して型孔11であるキャビティ上に位置した際に、フィーダ60の開放する下面からキャビティに原料粉末が充填される。このため、原料粉末は、円滑な充填性を保つとともに充填量のバラツキを抑制するため、流動性が高いことが求められる。
【0005】
また、原料粉末は、上記のように主原料粉末に黒鉛粉末、および必要に応じて副原料粉末を添加、混合することから、大きさ、形状、比重の異なる粉末から構成されるが、黒鉛粉末や副原料粉末の偏析が生じると組成にバラツキを生じ、寸法変化および強度等の特性のバラツキが大きくなって不良品の原因となるため、黒鉛粉末および副原料粉末の偏析が生じないことが求められる。特に、黒鉛粉末は、主原料粉末である鉄粉末もしくは鉄基合金粉末に比べて比重が小さいため、ホッパー40内で充填による粉末の滑落が生じた際に、比重が小さい黒鉛粉末が舞い上がり易く、黒鉛粉末の偏析を防止することが強く望まれている。
【0006】
このような偏析の問題については、成形潤滑剤を溶融して黒鉛粉末および副原料粉末を主原料粉末表面に固着することにより偏析を防止(特許文献1等)したり、バインダ成分を添加して黒鉛粉末および副原料粉末を主原料粉末表面に固着することにより偏析を防止(特許文献2等)する等の各種提案がなされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の各種提案においては、主原料粉末表面への黒鉛粉末および銅粉末やニッケル粉末等の副原料粉末の固着が不充分であったり、主原料粉末表面への黒鉛粉末および副原料粉末の固着が充分であっても原料粉末の流動性が低下したりするものであり、主原料粉末表面への黒鉛粉末および副原料粉末の固着が充分であって、かつ原料粉末の流動性が高い粉末冶金用原料粉末が求められている。このような背景から、本発明は、黒鉛粉末の偏析が抑制され、流動性等の粉末特性に優れた粉末混合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明者らが検討を重ねてきたところ、まず、主原料粉末表面へ黒鉛粉末および副原料粉末を固着するにあたり、ポリオレフィン系ワックスと主原料粉末を撹拌しながら、ポリオレフィン系ワックスの融点以上まで昇温させて、主原料粉末の表面に溶融したポリオレフィン系ワックスを被覆し、次いで、黒鉛粉末と副原料粉末を添加して撹拌しつつポリオレフィン系ワックスの融点以下に降温して、ポリオレフィン系ワックスを用いて主原料粉末表面へ黒鉛粉末および副原料粉末を固着した粉末は、固着性が良好であることを見出した。しかしながら、上記の溶融混合法により黒鉛粉末および副原料粉末を主原料粉末表面へ固着した原料粉末は、流動性が低下する。この流動性低下の原因について本発明者らが検討したところ、次のような知見を得た。
【0010】
すなわち、
図3に模式的に示すように、撹拌混合時において、一部粉末において、主原料粉末1、黒鉛粉末2および副原料粉末3の表面の一部でポリオレフィン系ワックス4の剥離が生じ、主原料粉末1が完全にポリオレフィン系ワックス4で被覆された状態とすることが難しい。ところで、
図4に示すように、原料粉末はホッパー40からホース50およびフィーダ60を経由してキャビティに充填されるが、この間、原料粉末は互いに接触し摩擦しあいながら流動するとともに、一部はホッパー40の内壁、ホースの内表面およびフィーダの内壁と接触し摩擦しながら搬送される。
【0011】
図2はそのときの摩擦による帯電状況を示している(各符号は
図3と同一)。ポリオレフィン系ワックスは、負帯電し易い物質であり、かつ絶縁性を有する物質であるため、搬送時の摩擦により、表面が負帯電する。また、副原料粉末として用いられる銅粉末も負帯電し易い物質であるとともに、絶縁性を有するポリオレフィン系ワックスにより鉄粉末または鉄合金粉末と絶縁された状態で結着されており、表面に露出した銅粉末表面は搬送時の摩擦により表面が負帯電する。
【0012】
その一方で、主原料粉末である鉄粉末または鉄合金粉末は、摩擦により正帯電し易い物質であり、搬送時の摩擦により、露出した表面が正帯電する。この正帯電した鉄粉末または鉄合金粉末の露出部に、
図2(a)に示すように他の粉末の負帯電したポリオレフィン系ワックス表面や負帯電した銅粉末表面が電気的に引き付け合って凝集する結果、流動性が低下するものと考えられる。
【0013】
そこで、本発明者らは、
図2(b)に示すように、高負帯電した微粒子5を添加すれば、正帯電した鉄粉末または鉄合金粉末の露出部に、高負帯電した微粒子が選択的に吸引されて、他の粉末の吸引を防止して凝集の発生を防止するとともに、吸引されずに残った高負帯電した微粒子と各粉末が電気的に反発しあう斥力により原料粉末の流動性をいっそう向上できるのではと考え、試験による効果を得ることで本発明を完成させた。
【0014】
上記知見による本発明の粉末混合物は、請求項1に特定したごとく
鉄粉末もしくは鉄基合金粉末に、ポリオレフィン系ワックスからなる結着剤で黒鉛粉末を表面に固着した
ポリオレフィン系ワックス被覆鉄粉末もしくは
ポリオレフィン系ワックス被覆鉄基合金粉末に、負帯電処理を施した鉄粉末もしくは鉄基合金粉末からなる負帯電粉末が混入されている粉末混合物であって、前記ポリオレフィン系ワックスからなる結着剤の重量平均分子量Mwが1000〜40000であり、前記負帯電粉末の最大粒径が1〜15μmであり、かつ、前記負帯電粉末の添加量が、
ポリオレフィン系ワックス被覆鉄粉末もしくは
ポリオレフィン系ワックス被覆鉄基合金粉末100質量部に対し0.02〜0.5質量部であることを特徴とする。
【0015】
また、粉末混合物が銅粉末やニッケル粉末等の副原料粉末を含む場合、請求項2に特定したごとく
鉄粉末もしくは鉄基合金粉末に、ポリオレフィン系ワックスからなる結着剤で黒鉛粉末および副原料粉末を表面に固着した
ポリオレフィン系ワックス被覆鉄粉末もしくは
ポリオレフィン系ワックス被覆鉄基合金粉末に、負帯電処理を施した鉄粉末もしくは鉄基合金粉末からなる負帯電粉末が混入されている粉末混合物であって、前記ポリオレフィン系ワックスからなる結着剤の重量平均分子量Mwが1000〜40000であり、前記負帯電粉末の最大粒径が1〜15μmであり、かつ、前記負帯電粉末の添加量が、
ポリオレフィン系ワックス被覆鉄粉末もしくは
ポリオレフィン系ワックス被覆鉄基合金粉末100質量部に対し0.02〜0.5質量部であることを特徴とする。
さらに、粉末混合物が銅粉末やニッケル粉末等の副原料粉末を含む場合、請求項3に特定したごとく
鉄粉末もしくは鉄基合金粉末に、ポリオレフィン系ワックスからなる結着剤で黒鉛粉末および副原料粉末を表面に固着した
ポリオレフィン系ワックス被覆鉄粉末もしくは
ポリオレフィン系ワックス被覆鉄基合金粉末に、負帯電処理を施した銅粉末からなる負帯電粉末が混入されている粉末混合物であって、前記ポリオレフィン系ワックスからなる結着剤の重量平均分子量Mwが1000〜40000であり、前記負帯電粉末の最大粒径が1〜15μmであり、かつ、前記負帯電粉末の添加量が、
ポリオレフィン系ワックス被覆鉄粉末もしくは
ポリオレフィン系ワックス被覆鉄基合金粉末100質量部に対し0.1〜0.5質量部であることを特徴とする。
【0016】
以上の各本発明の粉末混合物は、請求項
4に特定したごとく前記ポリオレフィン系ワックスがポリエチレンワックスおよび/またはポリプロピレンワックスであることを好ましい態様とする。
【0017】
また、各本発明の粉末混合物は、請求項
5に特定したごとく前記負帯電処理が、アルキルシラン、ジメチルシラン、オクチルシラン、メタクリルシラン、フルオロアルキルシラン、およびヘキサメチルジシラザンのうちの少なくとも1種の被覆処理であることを好ましい態様
とする。
【0018】
また、各本発明の粉末混合物は、請求項
6から
8に特定したごとく副原料粉末を含む場合に、その副原料粉末を黒鉛粉末とともに鉄粉末もしくは鉄基合金粉末表面にポリオレフィン系ワックスからなる結着剤で固着する態様を好ましい態様とするが、その副原料粉末の一部もしくは全部が遊離粉末として含まれる態様であってもかまわない。また、各本発明の粉末混合物は、請求項
9に特定したごとく成形潤滑剤粉末を含む場合に、その成形潤滑剤粉末が、全て遊離粉末として含まれることを好ましい態様とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1と
3の各発明では、粉末混合物として、固着性が優れるポリオレフィン系ワックスを用いて主原料粉末の表面に黒鉛粉末を固着したことから、混合粉末中の黒鉛粉末の偏析を確実に抑制することができる。同時に、ポリオレフィン系ワックス帯電による凝集を負帯電特性を持つ粉末を混合粉末に添加して解砕することにより、高い流動性を得ることができる。
【0020】
請求項
4と
5の各発明では、ポリオレフィン系ワックスとして、あるいは負帯電処理用被覆材料として共に一般的なものを使用するため実施容易となる。
【0021】
請求項
6から
8の各発明では、副原料粉末を含む態様において、その全部または一部が主原料粉末の表面に黒鉛粉末とともに固着されている仕様、残部が遊離粉末として含まれる仕様、さらに副原料粉末が全て遊離粉末として含まれる仕様でもよい。また、請求項
9の発明では、成形潤滑剤粉末を含む態様において、その成形潤滑剤粉末の全てが遊離粉末として含まれる仕様である。これらは上記の各発明の細部を確認的に明らかにしたものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の最適な形態について説明した後、実施例を挙げて有用性を明らかにする。
図1の模式図は本発明の粉末混合物の構造の一例を示している。同図において、粉末混合物は、鉄粉末もしくは鉄基合金粉末からなる主原料粉末1と、黒鉛粉末2と、銅粉末からなる副原料粉末3と、成形潤滑剤粉末6と、負帯電特性を持つ粉末5と、結着剤4とからなる
【0024】
黒鉛粉末2と副原料粉末3は、主原料粉末1の表面にポリオレフィン系ワックスからなる結着剤4で固着されている。また、負帯電特性を持つ粉末5と、成形潤滑剤粉末6は、主原料粉末に結着されておらず、遊離粉末として存在している。
【0025】
ここで、結着剤4は、第1の要求特性として、搬送から成形段階までの間、黒鉛粉末の主原料粉末の表面への固着を持続する必要がある。このため、この結着剤としては、高い固着力のみならず、搬送時の振動等に耐える強度を有することが重要となる。例えば、特許文献1の結着剤(潤滑剤)は脆く、一時的に黒鉛粉末を主原料粉末表面に固着できても、搬送時の振動等により容易に剥離するため黒鉛粉末の偏析を抑制することができない。本発明において、結着剤として用いるポリオレフィン系ワックスは、固着力が高いとともに、ある程度の伸びを有し、搬送時の振動等に充分に耐える強度を有している。
【0026】
結着剤は、第2の要求特性として、成形体を焼結する際には焼結の加熱時に容易に分解して、焼結体に全く影響を与えないものである必要がある。また、このように消失させるものであるため、できるだけ安価なものであることが求められる。この点で、本発明において、結着剤として用いるポリオレフィン系ワックスは、例えばポリエチレンワックスやポリプロピレンワックスから分かるごとく、構造が比較的単純であり、安価であるとともに、加熱より容易に分解して消失し、焼結体に全く影響を与えない。
【0027】
結着剤は、第3の要求特性として、主原料粉末の表面に黒鉛粉末を容易に固着することができる性質を有している必要がある。この点、ポリオレフィン系ワックスは、融点が低く、容易に溶融させることができるため、低い温度で溶融混合を行って主原料粉末の表面に黒鉛粉末を固着することができる。
【0028】
結着剤として用いるポリオレフィン系ワックスは、分子量が大きいものほど固着性および強度が増加する。この観点から、ポリオレフィン系ワックスは、重量平均分子量Mwが1000以上のものが好ましい。その一方で、分子量が大きいものほど融点および分解温度が上昇するため、重量平均分子量Mwが40,0000以下のものを用いることが好ましい。これらのことから、ポリオレフィン系ワックスのうち、ポリエチレンワックス(重量平均分子量Mw:1,000〜10,000程度)やポリプロピレンワックス(重量平均分子量Mw:10,000〜35,000程度)を用いることが好ましい。ポリエチレンワックスおよびポリプロピレンワックスは、それぞれ重量平均分子量が異なる2種以上のものを混合して用いると、焼結時の結着剤の分解が一度に生じず、段階的に行われるようになるため好ましい。
【0029】
結着剤として用いるポリオレフィン系ワックスは、焼結時に消失させて焼結体の特性に影響を与えないことが必要であるため、使用する量は黒鉛粉末を充分に主原料粉末となる鉄粉末もしくは鉄基合金粉末の表面に固着できる量とする。例えば、結着剤は比重が小さいため、多量に使用すると、成形体に含まれる結着剤の量が多くなり、その分、成形体密度が低下することとなって、原料粉末の成形性が低下することとなる。このため、結着剤として用いるポリオレフィン系ワックスの使用量は、黒鉛粉末の添加量により調整されるべきものであり、黒鉛粉末の添加量に対して、10〜80質量%となるよう使用することが好ましい。
【0030】
ポリオレフィン系ワックスは主原料粉末の表面を完全に被覆する状態となることが好ましいが、このような状態とすることは難しく、一部表面に主原料粉末の表面が露出することとなる。本発明において、主原料粉末は鉄粉末もしくは鉄基合金粉末を用いるが、このため、一部表面に、鉄粉末もしくは鉄基合金粉末が露出することとなる。
【0031】
このようなポリオレフィン系ワックスで表面を被覆して黒鉛粉末を固着した粉末は、搬送時の摩擦により、ポリオレフィン系ワックス表面は負の電荷に摩擦帯電する。また、ポリオレフィン系ワックスは絶縁性が高いので、ポリオレフィン系ワックス表面は負帯電した状態となる。その一方で、一部表面に露出する鉄粉末もしくは鉄基合金粉末は、搬送時の摩擦により正帯電するので、負帯電した周囲のポリオレフィン系ワックス被覆粉末を電気的に吸引する力が働く。
【0032】
このポリオレフィン系ワックス被覆粉末どうしの電気的吸引を防止するため、本発明においては、負帯電特性を持つ粉末を遊離粉末として添加する。負帯電特性を持つ粉末は、固着されていない遊離粉末であるので、正帯電した鉄粉末もしくは鉄基合金粉末の露出部に、電気的に吸引され鉄粉末もしくは鉄基合金粉末の露出部を覆う。このため、負帯電特性を持つ粉末が吸着したポリオレフィン系ワックス被覆粉末は表面全体が負電荷となり、ポリオレフィン系ワックス被覆粉末どうしの電気的吸引が防止される。
【0033】
さらに、鉄粉末もしくは鉄基合金粉末の露出部に電気的に吸引されていない余剰の負帯電特性を持つ粉末は、表面全体が負電荷となっているポリオレフィン系ワックス被覆粉末に対して電気的に反発しあう斥力が働き、粉末混合物の流動性を向上させる。
【0034】
なお、鉄粉末もしくは鉄基合金粉末の表面をポリオレフィン系ワックスで完全に被覆できた場合、上記のポリオレフィン系ワックス被覆粉末どうしの電気的吸引は生じないが、この場合であっても、負帯電特性を持つ粉末を添加すると、負帯電特性を持つ粉末とポリオレフィン系ワックス被覆粉末との間で電気的に反発しあう斥力が働くため、粉末混合物の流動性を向上させる作用を得ることができることになる。
【0035】
負帯電特性を持つ粉末は、鉄粉末もしくは鉄基合金粉末の露出部に積極的に吸引される作用を発揮するため、摩擦帯電したポリオレフィン系ワックスの負電荷よりも、大きい負電荷を有するものを用いる。これには、アルキルシラン、ジメチルシラン、オクチルシラン、メタクリルシラン、フルオロアルキルシラン、およびヘキサメチルジシラザンは高い負帯電性を有しているため、これらのうち少なくとも1種を表面に被覆した粉末を用いることが好ましい。
【0036】
アルキルシラン等を被覆する負帯電処理には、アルキルシラン等と酸化物微粉とを撹拌しながら、アルキルシラン等の融点以上まで昇温する混合工程を行う。この混合工程により、溶融したアルキルシラン等が酸化物微粉の表面に被覆され、その後、アルキルシラン等の融点以下まで冷却することにより、酸化物微粉の表面にアルキルシラン等の固化した被膜が形成される。
【0037】
なお、負帯電特性を持つ粉末は、焼結を阻害したり、焼結体に影響を与えるものは好ましくない。この点から、上記負帯電処理する粉末は、鉄粉末および鉄基合金粉末のうちの少なくとも1種とする。主原料粉末は鉄粉末もしくは鉄基合金粉末であるから、鉄粉末および鉄基合金粉末のうちの少なくとも1種からなる負帯電処理する粉末は、容易に主原料粉末と相互に拡散して接合するとともに、焼結体の金属組織に好ましくない影響を与えない。ここで、負帯電処理する粉末として、主原料粉末と同一の粉末を用いると、焼結体の金属組織への影響が全くなくなるため好ましい。
【0038】
また、負帯電特性を持つ粉末は、細かいほど比表面積が増加するとともに、質量が小さくなって、上記の正帯電した鉄粉末または鉄合金粉末つまり主原料粉末1の露出部に吸引され易くなる。また、負帯電特性を持つ粉末が粗大となると焼結性を阻害する虞もある。このため、負帯電特性を持つ粉末は、最大粒径15μm以下とすることが好ましい。その一方で、あまりに微小になると、単未粉末の形態で添加された負帯電特性を持つ粉末が、ダイとパンチの隙間等に浸入する虞があり、型カジリが生じ易くなる。このため、負帯電特性を持つ粉末の最
大粒径は1μm以上とすることが好ましい。
【0039】
さらに、負帯電特性を持つ粉末の添加量は、鉄粉末および/または鉄基合金粉末100質量部に対し0.02〜0.5質量部であることが好ましい。これは、負帯電特性を持つ粉末の添加量が0.02質量部未満であるとその効果を確実に得ることが困難となり、また、添加量が0.5質量部を超えると粉末を成形した後の圧粉体の抜き出し圧力が非常に増加するからである。
【0040】
副原料粉末は、主原料粉末により形成される焼結体の基地に拡散して焼結体基地を固溶強化したり、化合物を形成して焼結体の基地を強化して焼結体の強度を向上させる作用、主原料粉末により形成される焼結体の基地に拡散して焼結体基地の焼入れ性等の特性を改善する作用、焼結を活性にして焼結を促進し焼結体の強度を向上させる作用、焼結体中に分散して焼結体の耐摩耗性や焼結体の被削性等の特性を改善する作用等を有する粉末である。
【0041】
また、主原料粉末として鉄粉末または鉄合金粉末を用いる場合、副原料粉末としては、例えば、黒鉛粉末、銅粉末や銅錫合金粉末等の銅合金粉末、ニッケル粉末、モリブデン粉末、鉄燐合金粉末等の鉄合金粉末、各種硬質相形成粉末、珪酸マグネシウム系鉱物粉末、弗化カルシウム粉末、硫化物粉末等が用いられる。副原料粉末は、主原料粉末に対し30質量%以下、好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下が用いられる。
【0042】
このような副原料粉末は、黒鉛粉末と同様に、
図1の副原料粉末3のように、主原料粉末となる鉄粉末もしくは鉄基合金粉末の表面に固着して与えると好ましい。特に、例示した珪酸マグネシウム系鉱物粉末、弗化カルシウム粉末や一部硫化物粉末のような、比重が主原料粉末となる鉄粉末もしくは鉄基合金粉末に比して小さい副原料粉末を用いる場合や、副原料粉末として粒径が小さい粉末を用いる場合は、黒鉛粉末と同様に偏析が生じ易いため、黒鉛粉末とともに副原料粉末を主原料粉末となる鉄粉末もしくは鉄基合金粉末の表面に固着して与えることが好ましい。
【0043】
その一方で、比重が鉄粉末もしくは鉄基合金粉末に近い金属粉末であってある程度の大きさを有する副原料粉末を用いる場合、偏析が生じ難いので遊離粉末の形態で付与しても差し支えない。この場合、副原料粉末を固着する必要がないので、その分だけポリオレフィン系ワックスの量を少なくすることができる。
【0044】
このため、副原料粉末が複数種の粉末からなり、一部が偏析し易い粉末である場合、偏析が生じ易い一部の副原料粉末のみを鉄粉末もしくは鉄基合金粉末の表面に固着して与え、偏析が生じ難い残部の副原料粉末を遊離粉末として与えると、ポリオレフィン系ワックスの量を必要量のみとできるので好ましい。
【0045】
上記のように副原料粉末を用いる場合、負帯電処理した粉末として、鉄粉末および鉄基合金粉末のうちの少なくとも1種に替えてもしくは加えて副原料粉末を用いてもよい。これは、副原料粉末を負帯電処理した粉末として用いた場合も、容易に主原料粉末と相互に拡散して接合するとともに、焼結体の金属組織に好ましくない影響を与えないからである。
【0046】
ポリオレフィン系ワックスは成形潤滑剤としても使用されるものであるが、本発明の混合粉末において、ポリオレフィン系ワックスは結着剤として用いられるため、成形潤滑剤としての機能は低い。このため、金型の壁面を粉体あるいは液体の潤滑剤を塗布して成形を行う金型潤滑法(外部潤滑法)を用いた場合は、そのまま使用できるが、金型の壁面を粉体あるいは液体の潤滑剤を塗布せず成形する場合は、成形潤滑剤の粉末を原料粉末に混合して与える混入潤滑法(内部潤滑法)とする必要がある。
【0047】
成形潤滑剤としては従来から用いられているものを使用することができる。例えば、ステアリン酸等の高級脂肪酸、ステアリン酸亜鉛やステアリン酸リチウム等の高級脂肪酸の金属塩等を用いることができる。成形潤滑剤は、溶融して付与すると潤滑特性が低下するため、遊離粉末として与えることが好ましい。また、成形潤滑剤粉末の添加量は、従来から行われているように、粉末混合物100質量部に対し0.1〜1.5質量部程度である。
【0048】
上記の粉末混合物は、例えば、次のようにして製造することができる。すなわち、製造方法としては、黒鉛粉末、または、黒煙粉末または副原料粉末を、結着剤であるポリオレフィン系ワックスを介して鉄粉末もしくは鉄基合金粉末の表面に固着する工程と、前記工程で得られた原料粉末に負帯電処理を施した鉄粉末もしくは鉄基合金粉末からなる遊離粉末を添加し混合する工程とを経ることである。
【0049】
詳述すると、まず、結着剤であるポリオレフィン系ワックスと、主原料粉末である鉄粉末もしくは鉄基粉末の混合物を撹拌しながら、ポリオレフィン系ワックスの融点以上まで昇温する一次混合工程を行う。この一次混合工程により、鉄粉末もしくは鉄基粉末の表面に溶融したポリオレフィン系ワックスが鉄粉末もしくは鉄基粉末の表面に被覆される。
【0050】
次いで、一次混合工程により得られた粉末混合物をポリオレフィン系ワックスの融点以上で黒鉛粉末を添加し、撹拌する二次混合工程を行う。この二次混合工程により、鉄粉末もしくは鉄基粉末の表面を被覆する溶融したポリオレフィン系ワックスに黒鉛粉末を付着する。この状態から、冷却してポリオレフィン系ワックスの融点以下の温度とすれば、鉄粉末もしくは鉄基粉末の表面にポリオレフィン系ワックスを結着剤として黒鉛粉末が固着された粉末混合物を得ることができる。一次混合工程の後、いったん冷却して粉末混合物とした後、これを別途再加熱して二次混合工程を行ってもよいが、冷却の手間と再加熱のエネルギーのロスを考えると、一次混合工程の後、冷却せず引き続き黒鉛粉末を添加して二次混合工程を行うことが好ましい。
【0051】
二次混合工程の後、得られた粉末混合物をポリオレフィン系ワックスの融点以下の温度で、負帯電特性を持つ粉末を添加し、混合する三次混合工程を行う。このようにポリオレフィン系ワックスの融点以下の温度で三次混合工程を行うことで、負帯電特性を持つ粉末を遊離粉末として与えることができる。三次混合工程は、二次混合工程の後の冷却過程でポリオレフィン系ワックスの融点以下の温度になった段階で開始してもよいが、二次混合工程で得られた粉末混合物を室温まで冷却した後、室温で、負帯電特性を持つ粉末を添加し混合してもよい。成形潤滑剤を添加する場合、この三次混合工程で添加して混合を行うことにより、成形潤滑剤を遊離粉末として与えることができる。
【0052】
粉末混合物が副原料粉末を含む場合、二次混合工程で副原料粉末を添加して混合すると、副原料粉末を鉄粉末もしくは鉄基粉末の表面に固着して与えることができる。また、三次混合工程で副原料粉末を添加して混合すると、副原料粉末を遊離粉末として与えることができる。
【実施例】
【0053】
[第1実施例]
鉄粉末(−300メッシュ)、電解銅粉末(−200メッシュ)、黒鉛粉末(−325メッシュ)および成形潤滑剤としてステアリン酸亜鉛粉末を用意するとともに、重量平均分子量Mwが8,000のポリオレフィン系ワックス(ポリエチレンワックス)を用意した。また、負帯電特性を持つ粉末として、表面をアルキルシランで被覆した鉄粉末および表面をヘキサメチルジシラザンで被覆した鉄粉末(いずれも最大粒径5μm)を用意した。
【0054】
鉄粉末100質量部に対し、0.5質量%のポリオレフィン系ワックスを添加して、ヘンシェルミキサに投入し、ミキサ内で加熱しつつ混合してポリオレフィン系ワックスの融点(110℃)より高い130℃まで昇温し、溶融したポリオレフィン系ワックスを鉄粉末表面に被覆する一次混合工程を行った。次いでポリオレフィン系ワックスが溶融した状態において、銅粉末1.5質量%、黒鉛粉末1.0質量%になるように、それぞれ混合物に添加し混合して、溶融しているポリオレフィン系ワックスにより鉄基粉末に銅粉末と黒鉛粉末を十分に付着させ、均質に分散させて二次混合工程を行った。この後撹拌しつつ室温まで冷却を行い二次混合物を得た。
【0055】
得られた二次混合物に負帯電特性を持つ粉末を表1に示す割合で添加(添加割合は鉄粉末に対する質量部)するとともに、成形潤滑剤粉末0.8質量%を添加してV型ミキサで混合し試料番号01〜17の粉末混合物を作製した。また、比較のため、鉄粉末100質量部に対し銅粉末1.5質量%、黒鉛粉末1.0質量%および成形潤滑剤粉末0.8質量%を添加してV型ミキサで混合し試料番号18の粉末混合物を作製した。
【0056】
これらの粉末混合物について、黒鉛粉末の付着量、流動度および抜き出し圧力(抜出力MPa)を測定した。
【0057】
このうち、付着率は、まず、負帯電粉末を添加しない粉末混合物(試料番号01)について、JIS規格のG1211に規定された高周波誘導加熱炉燃焼−赤外線吸収法により炭素量分析を行って炭素量を測定した。この炭素量は固着できず遊離した黒鉛粉末を含む粉末混合物試料全体の炭素量(黒鉛粉末およびワックスの炭素成分合計の炭素量)である。次いで、各粉末混合物試料について、固着できず遊離した黒鉛粉末等や遊離して与えた負帯電粉末の影響を避けるため、混合粉末を100メッシュおよび200メッシュの篩で篩い分け、100メッシュの篩を通過し200メッシュの篩を通過しない粉末(粒径75〜150μmの粉末)を採取し、この粉末についてJIS規格のG1211に規定された高周波誘導加熱炉燃焼−赤外線吸収法により炭素量分析を行って炭素量を測定した。この炭素量は、鉄粉にワックスを介して付着した黒鉛粉末の炭素量(黒鉛粉末およびワックスの炭素成分合計の炭素量)である。黒鉛粉末の付着率は、このように測定した遊離した黒鉛粉末を含む粉末混合物試料全体の炭素量と、鉄粉にワックスを介して付着した黒鉛粉末の炭素量を用い、遊離した黒鉛粉末を含む粉末混合物試料全体の炭素量に対する、鉄粉にワックスを介して付着した黒鉛粉末の炭素量の割合として求めた。
【0058】
粉末混合物の流動度の測定はJIS規格のZ2502に規定された流動度試験方法により行った。
【0059】
流動度試験方法において、抜き出し圧力は、ダイをスプリングにより支持し下パンチ固定のフローティングダイ方式のダイセットとし、下パンチの受圧板にロードセルを組み込んだ構造のダイセットを用い、アムスラー型万能試験機により直径11.3mm、高さ10mmの円柱状成形体を700MPaの圧力で成形し、金型から抜き出す際の抜き出し荷重を測定し、成形体の外周面積で除して求めた。これらの値を表1に併せて示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1は負帯電粉末の添加量の影響を調べたものであり、試料番号01〜09は表面をアルキルシランで被覆した鉄粉末、試料番号01、10〜17は表面をヘキサメチルジシラザンで被覆した鉄粉末を用いた場合の例である。
【0062】
表1の試料番号18は、ポリオレフィン系ワックスを用いない通常の単純混合した粉末混合物の例であるが、100メッシュの篩を通過し200メッシュの篩を通過しない粉末(粒径75〜150μmの粉末)において、黒鉛粉末の付着率は30%と低い値となっている。なお、この30%の黒鉛粉末は、不規則形状の鉄粉末の窪み等に嵌って存在する黒鉛粉末である。一方、試料番号01の粉末混合物試料は、鉄粉末表面にポリオレフィン系ワックスにより黒鉛粉末が付着し、黒鉛粉末の付着率が97%と高い付着率を示す。しかしながら、試料番号01の粉末混合物試料は、流動度が試料番号18の通常の単純混合した粉末混合物に対し低下している。
【0063】
このような鉄粉末表面にポリオレフィン系ワックスにより黒鉛粉末を付着させた粉末混合物に負帯電粉末を0.02質量%添加した粉末混合物試料(試料番号02および10)は、粉末混合物の流動性が向上し、試料番号18の通常の単純混合した粉末混合物よりも流動度が小さくなっている。また、負帯電粉末の添加量が増加するにしたがい粉末混合物の流動性はさらに向上し、流動度がさらに小さくなっている。ただし、負帯電粉末を0.3質量%を超えて粉末混合物に添加してもそれ以上の流動性の向上は認められない。
【0064】
以上のことから、ポリオレフィン系ワックスを用いて黒鉛粉末を鉄粉末の表面に付着することで黒鉛粉末の付着率を大幅に向上できるが、流動性が低下すること、この流動性の低下は、ポリオレフィン系ワックスを用いて黒鉛粉末を鉄粉末の表面に付着した粉末混合物に負帯電粉末を0.1質量%以上添加することにより向上でき、この場合、流動性を通常の単純混合した粉末混合物よりも向上することができることが確認された。
【0065】
また、以上の負帯電粉末の効果は、負帯電粉末として、アルキルシラン被覆鉄粉末およびヘキサメチルジシラザン被覆鉄粉末のいずれを用いた場合でも同様の効果があることが確認され、負帯電特性を持つ粉末であれば同様の効果が得られることが確認された。
【0066】
なお、鉄粉末表面にポリオレフィン系ワックスにより黒鉛粉末を付着させた粉末混合物(試料番号01)は、ワックスが潤滑剤として機能して通常の単純混合した粉末混合物(試料番号18)に比して抜き出し圧力が7割程度に低減するが、鉄粉末表面にポリオレフィン系ワックスにより黒鉛粉末を付着させた粉末混合物に負帯電粉末を添加すると、抜き出し圧力が増加する。また、負帯電粉末の添加量が増加するにしたがい抜き出し圧力が増加する傾向が認められ、負帯電粉末の添加量が0.5質量%の試料(試料番号08および16)の粉末混合物は、抜き出し圧力が、通常の単純混合した粉末混合物(試料番号18)の8割程度にまで低減し、負帯電粉末の添加量が0.5質量%を超える(試料番号17)と、抜き出し圧力が、通常の単純混合した粉末混合物(試料番号18)の9割程度にまで低減することとなる。以上のことから鉄粉末表面にポリオレフィン系ワックスにより黒鉛粉末を付着させた粉末混合物への負帯電粉末の添加量は0.5質量%以下とすることが好ましいことが分かった。
【0067】
[第2実施例]
第2実施例は、上記の第1実施例の鉄粉末、銅粉末、黒鉛粉末、成形潤滑剤粉末を用いるとともに、負帯電特性を有する粉末としてアルキルシランで被覆した鉄粉末を用い、ポリオレフィン系ワックスを表2の重量平均分子量Mwのものに変更した以外は第1実施例と同様にして試料番号19〜29の粉末混合物を作製した。得られた粉末混合物について、第1実施例と同様にして付着率、流動度および抜き出し圧力を測定した。これらの結果を表2に併せて示す。
【0068】
【表2】
【0069】
表2より、ポリオレフィン系ワックスの重量平均分子量Mwによらず、ポリオレフィン系ワックスを用いて鉄粉末表面に黒鉛粉末を付着させた粉末混合物は、通常の単純混合した粉末混合物(試料番号18)に比べて高い黒鉛粉末の付着率を示す。
【0070】
なお、ポリオレフィン系ワックスの重量平均分子量Mwが500の粉末混合物試料(試料番号19)は、鉄粉末表面に被覆したワックスが軟らかく、このため付着率が若干低く、かつ流動度が通常の単純混合した粉末混合物(試料番号18)と同程度である。一方、ポリオレフィン系ワックスの重量平均分子量Mwが1000以上の粉末混合物試料(試料番号05、20〜29)では、鉄粉末表面に被覆したワックスが試料番号19の粉末混合物試料よりも硬くなるため、付着率が向上し、かつ流動度が通常の単純混合した粉末混合物(試料番号18)よりも向上する。このことから、重量平均分子量Mwが1000以上のポリオレフィン系ワックスを用いると、黒鉛粉末の付着率のみならず流動度をも向上でき、望ましいことが分かった。
【0071】
その一方で、ポリオレフィン系ワックスの重量平均分子量Mwが増加するにしたがい、抜き出し圧力は増加する傾向を示している。ただし、ポリオレフィン系ワックスの重量平均分子量Mwが40,000の粉末混合物試料(試料番号29)は、未だ通常の単純混合した粉末混合物(試料番号18)より抜き出し圧力が低い値である。しかしながら、ポリオレフィン系ワックスの重量平均分子量Mwが40,000を超えると、通常の単純混合した粉末混合物(試料番号18)と同程度まで低下すると考えられる。このため、抜き出し圧力を考慮すると、ポリオレフィン系ワックスの重量平均分子量Mwは、40,000以下のものを用いることが望ましい。
【0072】
[第3実施例]
第3実施例は、第1実施例の鉄粉末、銅粉末、黒鉛粉末、成形潤滑剤粉末を用いるとともに、負帯電特性を有する粉末としてアルキルシランで被覆した銅粉末(最大粒径5μm)を用い、表3に示す配合割合とし、第1実施例と同様にして試料番号30〜37の粉末混合物を作製した。得られた粉末混合物について、第1実施例と同様にして付着率、流動度および抜き出し圧力を測定した。これらの結果を表3に併せて示す。
【0073】
【表3】
【0074】
表3は負帯電処理した粉末として副原料粉末を用いた場合の影響を調べたものであり、試料番号30〜37は、第1実施例の鉄粉末に替えて表面をアルキルシランで被覆した銅粉末を用いた場合の例である。
【0075】
表3より、鉄粉末表面にポリオレフィン系ワックスにより黒鉛粉末を付着させた粉末混合物に副原料粉末を用いた負帯電処理粉末を0.02質量%添加した粉末混合物試料(試料番号30)は、粉末混合物の流動性が向上し、試料番号18の通常の単純混合した粉末混合物よりも流動度が小さくなっている。また、負帯電処理粉末の添加量が増加するにしたがい粉末混合物の流動性はさらに向上し、流動度がさらに小さくなっている。ただし、負帯電粉末を0.3質量%を超えて粉末混合物に添加してもそれ以上の流動性の向上は認められない。
【0076】
また、鉄粉末表面にポリオレフィン系ワックスにより黒鉛粉末を付着させた粉末混合物に副原料粉末を用いた負帯電処理粉末を添加すると、抜き出し圧力が増加する。また、負帯電処理粉末の添加量が増加するにしたがい抜き出し圧力が増加する傾向が認められ、負帯電粉末の添加量が0.5質量%の試料(試料番号36)の粉末混合物は、抜き出し圧力が、通常の単純混合した粉末混合物(試料番号18)の8割程度にまで低減し、負帯電粉末の添加量が0.5質量%を超える(試料番号37)と、抜き出し圧力が、通常の単純混合した粉末混合物(試料番号18)の9割程度にまで低減することとなる。
【0077】
以上より、負帯電処理を行った粉末を鉄粉末(主原料粉末)から銅粉末(副原料粉末)に変更しても同様な結果が得られることが分かった。