(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6172011
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】石膏の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 11/46 20060101AFI20170724BHJP
【FI】
C01F11/46 102F
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-60614(P2014-60614)
(22)【出願日】2014年3月24日
(65)【公開番号】特開2015-182921(P2015-182921A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】鶴見 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】窪田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々井 茂
(72)【発明者】
【氏名】近藤 悦夫
(72)【発明者】
【氏名】田邉 秋宏
【審査官】
山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−116239(JP,A)
【文献】
特開2006−143503(JP,A)
【文献】
特開2001−151740(JP,A)
【文献】
特開2002−029740(JP,A)
【文献】
特開昭51−083094(JP,A)
【文献】
J. F. ADAMS et al.,Optimum reactor configuration for prevention of gypsum scaling during continuous sulphuric acid neutralization,Hydrometallurgy,2007年,89,269-278.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F1/00−17/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸製造工程において発生する廃酸にカルシウム化合物を添加した混合物を、複数の反応槽を流通させながら石膏粒子とし、最下流の前記反応槽で得た前記石膏粒子の一部を、種晶として最上流の反応槽へ再流入させながら継続する石膏の製造方法であって、
複数の前記反応槽のうちから適宜選択される一の反応槽である前記カルシウム化合物を添加する反応槽を、所定操業時間経過毎に、より上流側の他の反応槽に変更する石膏の製造方法。
【請求項2】
前記他の反応槽が、上記廃酸と上記種晶を混合させるための最上流の反応槽以外の複数の反応槽のうち、最も上流側の反応槽である請求項1に記載の石膏の製造方法。
【請求項3】
前記他の反応槽が、複数の前記反応槽のうち、もっとも長時間、カルシウム化合物を添加していない反応槽である請求項1又は2に記載の石膏の製造方法。
【請求項4】
前記複数の反応槽を結ぶ前記混合物の流路の接続を切り替えることにより、前記混合物の流通経路上における前記複数の反応槽の流通順序の変更を行い、
前記カルシウム化合物を投入する反応槽を、前記流通順序の変更によって、より上流側の反応槽となった他の槽へと変更する請求項1から3のいずれかに記載の石膏の製造方法。
【請求項5】
前記カルシウム化合物は、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムのうち、少なくとも1つを含む化合物である請求項1から4のいずれかに記載の石膏の製造方法。
【請求項6】
前記硫酸製造工程が銅製錬工程の製錬排ガスが投入される工程である請求項1から5のいずれかに記載の石膏の製造方法。
【請求項7】
硫酸製造工程において発生する廃酸にカルシウム化合物を添加した混合物を、複数の反応槽を流通させながら石膏粒子とし、最下流の前記反応槽で得た前記石膏粒子の一部を、種晶として最上流の反応槽へ還流させながら継続操業する石膏の製造設備であって、
少なくとも3つ以上の反応槽を備え、
前記反応槽を結ぶ前記混合物の流路の接続を切り替えることにより、前記混合物の流通経路上での前記複数の反応槽の流通順序の変更を行うことができる流路切り替え手段を有する石膏製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製錬排ガスから生成される廃酸を原材料とする石膏の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、硫酸製造工場においては、併設される銅製錬工場の製錬工程から排出される製錬排ガスを原材料とした硫酸製造が広く行われている。そして、そのような硫酸製造の実施に伴って、上記の製錬排ガスから副次的に生成される廃酸を原材料とした石膏製造も同様に広く行われている。
【0003】
図1は、上記態様で実施されている、銅製錬及び硫酸製造を含む全体プロセスのフローを示すチャート図である。銅製錬工場P1では製錬工程S1が行われ、硫酸製造工場P2では、硫酸製造工程S2及び石膏製造工程S4等が行われている。この全体プロセスにおいては、銅製錬工場P1の製錬工程S1において発生する製錬排ガス1(SO
2)は、硫酸製造工程S2に送られ、同工程において硫酸2が製造される。
【0004】
ここで、製錬工程S1で発生する製錬排ガス1(SO
2)のうち、凡そ1〜3%程度は、製錬工程S1においてSO
2からSO
3に転化されて、硫酸製造工程S2におけるガス精製処理ST21に送られる。よって、ガス精製処理ST21の冷却段階でも硫酸が生成する。しかし、製錬排ガス1の中には重金属を含む煙灰やヒュームが含有されているため、ガス精製処理ST21で得られた上記の硫酸は重金属等の不純物を多く含有する。このため、上記の硫酸は製品にすることはできない。製錬排ガス由来の硫酸であって、不純物を多く含有するため製品化ができない上記の硫酸のことを廃酸と言う。一般的な例として、ガス精製処理ST21において生成される廃酸は、H
2SO
4を100〜200g/リットル含む他、重金属成分として、As、Cu、Zn、Cd等をそれぞれ0.1〜1.0g/リットル含むものである。本発明の石膏の製造方法はこのような廃酸を原材料として石膏を製造する方法である。
【0005】
石膏製造工程S4に投入された廃酸4は、例えば石灰石を粉砕した炭酸カルシウムを用いて中和することにより、石膏(廃酸石膏)5が製造されている。この廃酸石膏5は、粒子内に重金属を含有しているか、或いは、粒子表面に重金属が付着していて、一般的な石膏と比較して不純物品位が高い。このような廃酸から製造された不純物品位の高い石膏のことを、石膏の中でも特に廃酸石膏と称する場合があるが、本発明における石膏とはこの廃酸石膏を含むものとする。
【0006】
廃酸からの石膏の製造方法の具体例として、特許文献1には、水硫化ソーダを用いて廃酸中に含まれる重金属類を効率良く除去することができる低不純物品位石膏の製造方法が開示されている。
【0007】
図2は、従来公知の一般的方法による廃酸からの石膏の製造方法の処理工程図である。特許文献1記載の上記方法も含め、廃酸から石膏を製造するプロセスにおいては、
図2に示す通り、通常、廃酸4を、炭酸カルシウム(CaCO
3)7によって中和し、発生したスラリーを、シックナーで沈降分離した後、脱水機によって脱水することにより廃酸石膏5を製造している。
【0008】
そして、廃酸4から石膏を製造するプロセスにおいては、廃酸4を添加した石灰石等のスラリーを、通常、複数の反応槽1、2、3、…n、を順次巡回させながら各反応槽で中和反応を進行させている。これらの複数の反応槽は、最上流の槽で、廃酸と種晶の混合を行い、続く最上流から二番目の槽で中和剤を添加して石膏粒子を生成し、更に続く3番目以降の槽では、生成した上記石膏粒子の成長を促進させる構成とすることが一般的である。又、上流から3番目以降に配置される石膏粒子の成長促進を主たる目的とする槽については、この槽を、複数配置することが多い。石膏粒子の十分な成長に必要な槽内滞留時間を確保する上で、複数槽を巡回させる構成の方が有利であるためである。このように廃酸4から石膏を製造するプロセスにおいては、少なくとも4つ、乃至はそれ以上の適当な数の反応槽を用いて石膏製造を行う方法が一般的に採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−286413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の石膏製造においては、複数の反応槽のうち、特にCaCO
3等の中和剤を添加する反応槽において、廃酸と中和剤の反応が急速に進行する。即ち、この中和剤を添加する反応槽においては、種晶から結晶が成長して石膏粒子となった後、石膏粒子が急速に成長する。この成長した石膏粒子の大部分は次の反応槽に送られて徐々に成長していくが、その一部分は元の反応槽に滞留してしまう。そして、この滞留した石膏粒子が、堆積、或いは付着することで、中和剤を添加する反応槽の容積が著しく縮小してしまう現象が発生する。この現象は、各反応槽での均一な反応を阻害するだけでなく、当該反応槽から液が溢れる等の問題が発生するため、適宜反応槽内部の付着物を除去することが必要であり、これによる生産の中断が、石膏製造の生産性を低下させる要因となっていた。
【0011】
本発明は、銅製錬等の製錬排ガスから副次的に生成される廃酸を原材料とする石膏製造方法において、中和剤を添加する反応槽の容積縮小を抑制することにより、石膏製造の生産性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記のように製錬排ガス由来の廃酸を含む材料を、複数の反応槽を順次巡回させながら中和することにより石膏を製造する方法について、中和剤を添加する反応槽を、適宜変更しながら操業を行うことによって、上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0013】
(1) 硫酸製造工程において発生する廃酸にカルシウム化合物を添加した混合物を、複数の反応槽を流通させながら石膏粒子とし、最下流の前記反応槽で得た前記石膏粒子の一部を、種晶として最上流の反応槽へ再流入させながら継続操業する石膏の製造方法であって、複数の前記反応槽のうちから適宜選択される一の反応槽である前記カルシウム化合物を添加する反応槽を、所定操業時間経過毎に、より上流側の他の反応槽に変更する石膏の製造方法。
【0014】
(2) 前記他の反応槽が、上記廃酸と上記種晶を混合させるための最上流の反応槽以外の複数の反応槽のうち、最も上流側の反応槽である(1)に記載の石膏の製造方法。
【0015】
(3) 前記他の反応槽が、複数の前記反応槽のうち、もっとも長時間、カルシウム化合物を添加していない反応槽である(1)又は(2)に記載の石膏の製造方法。
【0016】
(4) 前記複数の反応槽を結ぶ前記混合物の流路の接続を切り替えることにより、前記混合物の流通経路上における前記複数の反応槽の流通順序の変更を行い、前記カルシウム化合物を投入する反応槽を、前記流通順序の変更によってより上流側の反応槽となった他の槽へと変更する(1)から(3)のいずれかに記載の石膏の製造方法。
【0017】
(5) 前記カルシウム化合物は、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムのうち、少なくとも1つを含む化合物である(1)から(4)のいずれかに記載の石膏の製造方法。
【0018】
(6) 前記硫酸製造工程が銅製錬工程の製錬排ガスが投入される工程である(1)から(5)のいずれかに記載の石膏の製造方法。
【0019】
(7) 硫酸製造工程において発生する廃酸にカルシウム化合物を添加した混合物を、複数の反応槽を流通させながら石膏粒子とし、最下流の前記反応槽で得た前記石膏粒子の一部を、種晶として最上流の反応槽へ還流させながら継続操業する石膏の製造設備であって、少なくとも3つ以上の反応槽を備え、前記反応槽を結ぶ前記混合物の流路の接続を切り替えることにより、前記混合物の流通経路上での前記複数の反応槽の流通順序の変更を行うことができる流路切り替え手段を有する石膏製造設備。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、銅製錬等の製錬排ガスから副次的に生成される廃酸を原材料とする石膏製造方法において、中和剤を添加する反応槽の容積縮小を抑制することができる。そして、これにより廃酸からの石膏製造の生産性を顕著に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】製錬工程、硫酸製造工程、及び本発明の製造方法を適用することができる石膏製造工程を含む全体プロセスのフローを示すチャート図である。
【
図2】一般的な廃酸からの石膏の製造方法の処理工程図である。
【
図3A】本発明の石膏の製造方法の処理工程図である。
【
図3B】本発明の石膏の製造方法の処理工程図である。
【
図4】本発明の石膏の製造方法の他の実施態様に係る処理工程及び処理設備の概略を模式的に示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<全体プロセス>
本発明の石膏の製造方法は、
図1に示す全体プロセスの中で、製錬排ガス1由来の廃酸4から石膏(廃酸石膏)5を製造する工程である石膏製造工程S5を、高い生産性の下で実施できる製造方法である。但し、本発明は、上記の全体プロセスの中で石膏の製造が行われる態様に限定されるものではない。廃酸4、若しくは、実質的にそれと同一の硫化物から石膏を製造する方法であって、本願発明の構成要件を備える方法である限り、全て本発明の範囲である。以下、先ずは、本発明に係る製造方法を好的に用いることができる石膏製造工程S5を含む全体プロセスの概要について
図1を参照しながら説明する。
【0023】
図1における製錬工程S1は、代表的な具体例として銅製錬工場で行われるものを例示したものである。銅製錬工場P1で行われる製錬工程S1においては、硫黄成分を含む原料が連続的に炉内に装入されるため、SO
2濃度が高い製錬排ガス1が連続的に発生する。このような製錬排ガス1から硫酸2或いは廃酸4が生成される。但し、本発明における製錬工程とは、SO
2濃度が高い製錬排ガスを排出する工程であれば、その他の金属製錬工程であってもよく、必ずしも銅製錬工場P1で行われる製錬工程S1(銅製錬工程)に限られるものではない。
【0024】
硫酸製造工程S2においては、製錬排ガス1に対して、ガス精製処理ST21、乾燥処理ST22、転化処理ST23、吸収処理ST24の各処理が順次行われることにより硫酸2が製造される。それらの処理を経て、SO
2濃度が低下した製錬排ガス1は、硫酸製造排ガス3として、最終吸収工程S3へと送られる。
【0025】
又、製錬排ガス1の不純物を分離して精製する工程であるガス精製処理ST21で、製錬排ガス1の一部から廃酸4が副次的に生成され、この廃酸4は分離回収されて石膏製造工程S4に投入される。
【0026】
最終吸収工程S3においては、硫酸製造排ガス3を脱硫処理して十分に無害化した上で大気中に放出する。
【0027】
本発明の製造方法を好適に用いることができる石膏製造工程S4は、硫酸製造工程S2のガス精製処理ST21において生成され分離回収された廃酸4から廃酸石膏5を製造する工程である。石膏製造工程S4では、廃酸4の中和処理等によって廃酸石膏5が製造される。石膏製造工程S4の詳細については後述する。尚、石膏製造工程S4から排出される石膏ろ液6は、排水処理工程S6へ送られる。そして、排水処理工程S6においては、石膏ろ液6を十分に無害化した上で放流する。
【0028】
<石膏の製造方法>
以下、本発明の石膏の製造方法の好ましい実施態様の一例として、本発明の石膏の製造方法を、上記の石膏製造工程S4に適用して実施する場合について、
図2〜4を参照しながら詳しく説明する。
【0029】
図2に示す通り、本発明の製造方法においては、硫酸製造工程S2で発生した廃酸4を、複数の反応槽1、2、3、…、nのうち、先ず最上流の反応槽1に投入する。そして、反応槽1の下流側に接続されているいずれかの反応槽において、更に中和剤として、CaCO
37を添加する。複数の反応槽のうち、この中和剤を添加する反応槽を本明細書においては、「中和剤添加槽」と言うものとする。
図2の示すプロセスにおいては、反応槽2が中和剤添加槽である。この場合は、この中和剤添加槽(反応槽2)以降、順次下流側に向けて、複数の反応槽を、廃酸4とCaCO
3混合物、及びそれらからなる石膏粒子が流通していく。
【0030】
上記の流通の過程で、先ず中和剤添加槽内で、廃酸4に含まれる硫酸と、中和剤として添加される炭酸カルシウムとのCaCO
3+H
2SO
4→CaSO
4+CO
2+H
2Oの中和反応が進行する。この中和反応によって生成された石膏粒子は、複数の反応槽を経て随時成長していき、最下流の反応槽nからシックナーを経て回収され、脱水機による脱水処理を経て廃酸石膏5となる。尚、最下流の反応槽nから得た石膏粒子の一部は、種晶として最上流の反応槽1へと再流入し、かかる態様で、石膏製造の操業を繰返し継続する。
【0031】
図3A及び
図3Bは、本発明の廃酸からの石膏の製造方法の処理工程図であるが、本発明の説明の便宜上、反応槽の数を反応槽1〜4の4つとした場合の本発明の実施態様を示している。本発明の特徴的な構成要件である「中和剤添加槽の変更」とは、複数の反応槽が流路で結ばれてなる廃酸混合物の流通経路上における流通順序が異なる他の反応槽への中和剤添加槽の変更のことを言う。例えば、継続的な石膏製造の操業の第1のサイクルでは、
図3Aに示す通り、反応槽3を中和剤添加槽として操業し、所定時間経過後の第2のサイクルにおいては、
図3Bに示す通り、中和剤添加槽を反応槽2に変更して操業を行うことによってこの「中和剤添加槽の変更」を行うことができる。
【0032】
「中和剤添加槽の変更」によって、本発明の製造方法が生産性向上という特段の効果を奏することができる理由について説明する。
図3Aに示すように、反応槽3を中和剤添加槽としたまま、上記の「中和剤添加槽の変更」を行わずに、石膏製造の操業を所定期間以上継続すると、この中和剤添加槽とされた反応槽3には、廃酸4と炭酸カルシウム7との中和反応によって生じる石膏粒子のうち、下流側の反応槽4に適切に流出しなかった一部粒子が、滞留し内壁に付着した状態で成長してしまう。
【0033】
本発明の製造方法においては、
図3Bに示す通り、所定操業時間経過時に、中和剤添加槽を、石膏成長粒子の付着が著しい反応槽3から、上流側の反応槽2に変更する。この変更により、反応槽2で生成された新たな石膏粒子を含むスラリーが、下流側の反応槽3に流れ込み、これにより、上流側の反応槽2から流れ込んだ硬度の高い石膏粒子を含むスラリーが、下流側の反応槽3の内壁に付着してその実質的な容積を縮小させていた石膏成長粒子を研磨して、これらの付着成長粒子が反応槽3の内壁から除去することができる。
【0034】
「中和剤添加槽の変更」は、より上流側の槽への変更であればよいが、廃酸4と種晶を混合させるための最上流の反応槽1以外の複数の反応槽のうち、最も上流側の反応槽2への変更であることが好ましい。「中和剤添加槽の変更」をそのように行うことにより、反応槽2より下流側の全ての反応槽を、未反応の廃酸とカルシウム化合物を反応させるための槽、又は、石膏粒子が成長するための槽とすることができ、より効率良く石膏を得ることができる。
【0035】
又、「中和剤添加槽の変更」は、複数の反応槽のうち、もっとも長時間、カルシウム化合物を添加していない反応槽への変更であることが好ましい。このような反応槽は、付着した石膏が最も多く除去され、石膏の付着が少なくなっている槽であるため、「中和剤添加槽の変更」を上記態様で行うことにより、「中和剤添加槽の変更」の頻度をより少なくすることができる。
【0036】
又、「中和剤添加槽の変更」は、複数の反応槽の間における前記混合物の流路の切り替えを伴う手順によって、より好ましい態様で行うことができる。即ち、流路の切り替えによって複数の反応槽の流通順序を変更して、そのような流路の切り替えによって流通経路上におけるより上流側の槽となった他の反応槽を、新たな中和剤添加槽とする手順によってである。この実施態様は、本発明の製造方法を実施する石膏製造設備において、上記の流路の切り替えを行う切り替え手段を、反応槽とそれを結ぶ流路からなる予め設置してある製造設備において実施することができる。
【0037】
流路の切り替えを伴う手順によって行う本発明の好ましい実施態様について
図4を参照しながら更に具体的に説明する。この実施態様による場合、先ず、継続的な石膏製造の操業の第1のサイクルでは、経路Aにより廃酸4を含む混合物を流通させ、その間、反応槽2を中和剤添加槽とする(
図4の(a)の位置)。そして、所定操業時間経過後の第2のサイクルにおいては、流路を切り替えて、経路Bにより廃酸4を含む混合物を流通させ、当該切り替えに伴い、中和剤添加槽を反応槽3に変更する(
図4の(b)の位置)。ここで、第1のサイクルにおいて反応槽2は流路R1Aを経て2番目に廃酸を含む混合物が投入される槽となっているが、続く第2のサイクルにおいては、反応槽2は流路R2Bを経て3番目に廃酸を含む混合物が流入する槽となっている。即ち、この流路の切り替えによって、流通経路上における流通順序の変更が行われている。そして、この流通順序の変更と、実際に中和剤を添加する反応槽の変更とを適切に組合せて行うことによって、反応槽の数に限定されずに、より上流の反応槽への「中和剤添加槽の変更」を繰返すことができる。例えば、中和剤添加槽を、
図3A、
図3Bに示すように、下流側の反応槽から所定操業時間経過毎に、随時、上流側の反応槽に変更してゆき、反応槽2を中和剤添加槽として所定操業時間、操業した後は、流路の切り替えによって、反応槽2を実質的に最下流側の反応槽とし、その後、切り替え後の上流側の槽に向けて、又、所定操業時間毎に、随時「中和剤添加槽の変更」を行っていく。同様のプロセスを繰返すことにより、長期間に渡って、操業を中断することなく、高い生産性の下で石膏製造の操業を継続することができ、それによる生産性向上の顕著な効果を享受することができる。
【0038】
ここで、反応槽の変更のタイミングの目安となる上記の「所定操業時間」とは、反応槽の大きさや数、各材料の添加量等の製造諸条件によって異なる操業設備毎の相対的な値として、予め得ておくことができる時間である。そのような「所定操業時間」を、予め所与の操業条件として規定しておき、操業状態の変動に応じて必要な微調整を行うことにより、本発明の実施による生産性向上の効果を容易に享受することができる。
【0039】
尚、中和剤として添加するカルシウム化合物は、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムのうち、少なくとも1つを含むことが好ましい。更に前記カルシウム化合物は少なくとも炭酸カルシウムを含むことが、より好ましい。酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムは、カルシウム化合物の内、安価にかつ容易に入手できるので好ましい。炭酸カルシウムは、特に安価にかつ容易に入手できるのでより好ましい。
【0040】
以上説明した本発明の製造方法及び製造設備は、製錬工程が、SO
2ガスを大量に排出する銅製錬工程である場合に特に好適な態様で実施することができるものである。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例)
上記において説明した本発明の石膏の製造方法を実施可能な4つの反応槽を有する石膏製造設備において、廃酸からの石膏の製造を以下の通り行った。4つの反応槽は、いずれも内径2.5m、深さ2.5mの概略円筒形であり、上流側から順次、反応槽1、2、3、4とし、反応槽間を結ぶ流路を設けた石膏製造設備とした。
【0043】
先ず、種晶については、最上流側から反応槽1に添加した。そして、上流側の2つの反応槽(反応槽1及び2)において、添加された種晶と廃酸を混合し種晶と廃酸の混合スラリーを得た。この種晶は、4つの反応槽を経て得られた石膏スラリーがシックナーにより濃縮されたものである。この種晶と廃酸の混合スラリーに対して、種晶と廃酸を混合した反応槽の次の反応槽3(
図3Aの(A)の示す位置)に、中和剤として炭酸カルシウムスラリーの添加を行い、石膏生成反応を起こし、石膏粒子を生成させた。即ち、中和剤添加槽を反応槽3として本発明の製造方法を実施した。
【0044】
中和剤添加槽とした反応槽3の下流側に接続された反応槽4においては、石膏粒子を含むスラリーを滞留させる時間を設けた。この滞留時間を設けることで、石膏粒子の成長を促すと共に、pHの測定を行い、その測定値が2〜3となるように炭酸カルシウムスラリーの添加量を制御した。
【0045】
4つの反応槽を経て生成した石膏粒子を含むスラリーは、4つの反応槽の下流側に設けられたシックナーにおいて沈降分離され、オーバーフローは排水処理工程へ送液した。一方、前記シックナーのアンダーフローについては、その一部を種晶として4つの反応槽の上流側から反応槽1へ再添加し、残りの部分については脱水機を使用して脱水し、廃酸石膏5とした。
【0046】
上記操業を1年間継続させた結果、中和剤添加槽とした反応槽3の内部には、平均厚さ500mm程度の石膏スラリーが付着した。
【0047】
次に、炭酸カルシウムスラリーを添加する中和剤添加槽を、反応槽3の1つ上流の槽である反応槽2(
図3Bの(B)の示す位置)に、変更した。当該変更後の状態で、石膏製造の操業を更に2ヶ月間継続した。
【0048】
上記操業を2ヶ月継続した後、2か月前まで中和剤添加槽としていた反応槽3の内部に付着した石膏の上記厚さは、上記の中和剤添加槽変更前には、上述の通り500mmであったものが、上記厚さ50mmにまで減少していた。更に、1ヶ月操業を継続した後、反応槽3内部に付着した石膏の厚さは、依然50mmのままであり、新たな付着が発生していることはなかった。
【0049】
(比較例)
中和剤添加槽の上記変更を行わないことの他は、全て実施例と同様の製造条件で石膏製造を行った場合には、1年間継続させた時点で反応槽3の内部に厚さ500mmの石膏スラリーが同様に付着していたが、その後、操業を継続すると、1カ月後には、反応槽3から石膏粒子を含むスラリーが溢れ始めたため、操業を中断して付着した石膏の除去作業を行わざるを得ない状況となった。
【0050】
以上より、本発明の石膏の製造方法によれば、銅製錬等の製錬排ガスから副次的に生成される廃酸を原材料として石膏を製造する方法において、中和剤を添加する反応槽の容積縮小を抑制することがでる。そして、これにより廃酸からの石膏製造の生産性を顕著に向上させることができることが分る。
【符号の説明】
【0051】
P1 銅製錬工場
S1 製錬工程
P2 硫酸製造工場
S2 硫酸製造工程
ST21 ガス精製処理
ST22 乾燥処理
ST23 転化処理
ST24 吸収処理
S3 最終吸収工程
S4 石膏製造工程
S5 排水処理工程
1 製錬排ガス
2 硫酸
3 硫酸製造排ガス
4 廃酸
5 廃酸石膏
6 石膏ろ液