【実施例】
【0045】
本発明の実施例を比較例とともに説明する。
【0046】
[実施例1−1]
<原材料M>
化合物半導体として硫化亜鉛(ZnS)を用いる。また、賦活剤として、硫酸マンガン(MnSO
4)、塩化イリジウム(IrCl
3)、焼結助剤として、酸化亜鉛(ZnO)、フッ化バリウム(BaF
2)、塩化マグネシウム(MgCl
2)、塩化ナトリウム(NaCl)を用いる。そして、これらZnS、MnSO
4、ZnO、BaF
2、MgCl
2、IrCl
3、NaClを、下記の表1に示す重量%で混合したものを原材料Mとした。
【0047】
【表1】
【0048】
<高エネルギ物質>
硝酸ヒドラジン63.5重量%と、飽水ヒドラジン36.5重量%とを混合したもの(HN/HH)を高エネルギ物質Eとした。
【0049】
<無機化合物の作製>
上記した重量比(重量%)で混合した原材料M:68.0gと、高エネルギ物質E:20gとを、
図1に示す密閉容器1内に封入し、その密閉容器1を加熱炉2内に収容した状態で、ガスバーナ3により密閉容器1を加熱し当該密閉容器1内の高エネルギ物質Eを熱分解させる処理(ドーピング処理)を行って無機化合物(青色蛍光体)を作製した。加熱は密閉容器1内の温度が約200℃になるまで加熱し続け、反応の終了は密閉容器1内部の圧力の上昇をモニターすることで確認を行った。次に、密閉容器1の冷却及びガス抜きを行い、その後に無機化合物を密閉容器1から取り出して水洗浄を行った。
【0050】
以上の処理により作製した無機化合物についてPL(フォトルミネッセンス)強度を測定した。PL強度は、He−Cdレーザから励起波長325nmの光を無機化合物に照射し、その蛍光を、分光器:USB4000(オーシャンオプティクス社製)を用いて測定した。その結果を
図3に示す。なお、
図3においては、下記の[比較例1−2]で作製した無機化合物のPL強度を「1」とした相対強度で表している。
【0051】
また、X線回折装置:RINT2200(株式会社リガク製)を用い、X線回折法[θ−2θ法、ターゲット:Cu、管電圧:40kV、管電流:30mA]によって、上記無機化合物のX線回折ピーク(XRDピーク)を測定した。そのX線回折結果を
図4に示す。
【0052】
[比較例1−1]
上記した[実施例1−1]において、高エネルギ物質として硝酸ヒドラジン(20g)のみを用いたこと以外は、[実施例1−1]と同じとして無機化合物(青色蛍光体)を作製した。
【0053】
このようにして作製した無機化合物(比較例1−1)のPL強度を上記した[実施例1−1]と同じ方法で測定した。その結果を
図3に示す。また、上記した[実施例1−1]と同じ方法で無機化合物(比較例1−1)のX線回折ピークを測定した。そのX線回折結果を
図4に示す。
【0054】
[比較例1−2]
上記した[実施例1−1]において、高エネルギ物質としてTNT(20g)を用いたこと以外は、[実施例1−1]と同じとして無機化合物(青色蛍光体)を作製した。
【0055】
このようにして作製した無機化合物(比較例1−2)のPL強度を上記した[実施例1−1]と同じ方法で測定した。その結果を
図3に示す。また、上記した[実施例1−1]と同じ方法で無機化合物(比較例1−2)のX線回折ピークを測定した。そのX線回折結果を
図4に示す。
【0056】
[評価1]
<外観検査>
上記[実施例1−1]で作製した無機化合物、上記[比較例1−1]及び[比較例1−2]の各例で作製した無機化合物について、目視にて観察したところ、[実施例1−1]及び[比較例1−1]の無機化合物は白色であり、カーボンによる汚染はなかった。一方、[比較例1−2]の無機化合物については黒色であり、カーボンによる汚染が確認できた。
【0057】
<発光強度>
図3に示すPL強度測定結果から、高エネルギ物質として硝酸ヒドラジンと飽水ヒドラジンとの混合物(HN/HH)を用いた場合(実施例1−1)、TNTを用いた場合(比較例1−2)に対して約16倍の発光強度が得られることが判る。また、硝酸ヒドラジン単体の高エネルギ物質(HN)を用いた場合(比較例1−1)、TNTを用いた場合(比較例1−2)に対して約5倍の発光強度が得られることが判る。なお、硝酸ヒドラジンに飽水ヒドラジンを混合した場合、硝酸ヒドラジン単体の場合よりも高い発光強度が得られることも判る。
【0058】
以上の結果から、カーボンを含まない高エネルギ物質を用いることにより、カーボンの黒色汚染による発光吸収がなくなって、高い発光強度が得られることが確認できた。
【0059】
<XRD評価>
図4に示すX線回折結果から判るように、上記[実施例1−1]、[比較例1−1]及び[比較例1−2]の各例で作製した全ての無機化合物において、硫化亜鉛(ZnS)のX線回折ピークが現れており、これにより、[実施例1−1]、[比較例1−1]及び[比較例1−2]の全てにおいて、ZnSをベースとした無機化合物(青色蛍光体)が作製できていることが確認できた。
【0060】
ただし、硝酸ヒドラジン単体の高エネルギ物質(HN)を用いて作製した無機化合物(比較例1−1)には、硫酸バリウム(BaSO
4)のX線回折ピーク(
図4の破線矢印で示すピーク)が現れており、上記加熱処理(ドーピング処理)の際の反応副生成物である硫酸バリウムが生成されていることが確認できた。
【0061】
[実施例2−1]
上記した[実施例1−1]と同じ条件・処理で無機化合物を作製した。すなわち、高エネルギ物質として、硝酸ヒドラジン63.5重量%と飽水ヒドラジン36.5重量%とを混合したもの(HN:HH=63.5:36.5 酸素バランス=−18.0% 20g)を用いて無機化合物を作製した。このようにして作製した無機化合物[実施例2−1]のX線回折ピークを[実施例1−1]と同じ方法で測定した。そのX線回折結果を
図5に示す。
【0062】
[実施例2−2]
上記した[実施例1−1]において、高エネルギ物質として、硝酸ヒドラジン55.0重量%と飽水ヒドラジン45.0重量%とを混合したもの(HN:HH=55.0:45.0 酸素バランス=−24.1% 20g)を用いたこと以外は、[実施例1−1]と同じとして無機化合物を作製した。このようにして作製した無機化合物[実施例2−2]のX線回折ピークを[実施例1−1]と同じ方法で測定した。そのX線回折結果を
図5に示す。
【0063】
[比較例2−1]
上記した[実施例1−1]において、硝酸ヒドラジンの重量比が100重量%の高エネルギ物質(HN:HH=100:0 酸素バランス=+8.4% 20g)を用いたこと以外は、[実施例1−1]と同じとして無機化合物を作製した。このようにして作製した無機化合物[比較例2−1]のX線回折ピークを[実施例1−1]と同じ方法で測定した。そのX線回折結果を
図5に示す。
【0064】
[評価2]
図5に示すX線回折結果から、[比較例2−1]で作製した無機化合物(青色蛍光体)(硝酸ヒドラジン単体の高エネルギ物質(HN)を用いて作製した無機化合物)のX線回折ピークには、硫酸バリウム(BaSO
4)のピーク(
図5の破線矢印で示すピーク)が現れており、上記加熱処理(ドーピング処理)の際の反応副生成物である硫酸バリウムが混在していることが判る。これに対し、[実施例2−1]及び[実施例2−2]で作製した無機化合物(青色蛍光体)(高エネルギ物質(HN/HH)を用いて作製した無機化合物)のX線回折ピークには、いずれも、硫酸バリウム(BaSO
4)のピークは現れておらず、硫酸バリウムが存在していないことが判る。
【0065】
[評価3]
[比較例2−1]で作製した無機化合物(青色蛍光体)を、ITO製透明電極が形成されたガラス基板上に1000nm成膜して発光層を作製した。成膜装置にはEB蒸着装置を用いた。また、成膜条件は、蒸着チャンバ内の真空度を8×10
-6Torr(1.1×10
-3Pa)、ガラス基板の温度を300℃とした。そして、成膜後、発光層の結晶性の向上のために600℃の温度で1時間のアニール処理を施した。
【0066】
このような処理にて作製した発光層(蒸着膜)について、上記した[実施例1]と同じ方法でX線回折ピークを測定したところ、硫酸バリウム(BaSO
4)のピークが現れた。これに対し、[実施例2−1]及び[実施例2−2]で作製した無機化合物(青色蛍光体)を同条件でITO製透明電極上に1000nm成膜して発光層を作製し、上記した[実施例1]と同じ方法でX線回折ピークを測定したところ、いずれも、硫酸バリウム(BaSO
4)のピークは現れなかった。
【0067】
以上の結果(XRD評価)から、高エネルギ物質の酸素バランスをマイナスとすることにより、作製した無機化合物(青色蛍光体)及びその無機化合物を用いて成膜した発光層からは、反応副生成物が生成されないことが確認できた。
[まとめ]
以上の実施例及び比較例から、無機組成物(化合物半導体を含有)に高温・高圧を印加する高エネルギ物質として、カーボンを含まない硝酸ヒドラジンを用いて無機化合物(無機蛍光体)を作製することにより、カーボンを含むTNTを用いた場合と比較して、無機化合物の発光強度が大幅に向上することが確認できた。
【0068】
また、硝酸ヒドラジン単体の高エネルギ物質を用いた場合には、その高エネルギ物質の酸素バランスがプラスであり、加熱処理時の雰囲気(密閉容器内の雰囲気)が酸素雰囲気となるため、反応副生成物(硫酸バリウム)が生成される。これに対し、硝酸ヒドラジンに飽水ヒドラジンを混合し、その混合比を選択して高エネルギ物質の酸素バランスをマイナスとすること(加熱処理時の雰囲気を還元雰囲気とすること)により、反応副生成物が存在しない無機化合物(無機蛍光体)を製造できることが確認できた。
【0069】
したがって、本発明の製造方法を用いて無機化合物(無機蛍光体)を製造することにより、発光強度が強くて反応副生成物(不純物)が存在しない無機化合物を得ることができる。さらに、無機化合物に反応副生成物が存在しないことから、EL素子作製時における成膜処理(蒸着等)を安定して行うことが可能となり、無機EL素子を効率よく生産することができる。