特許第6173338号(P6173338)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6173338
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】潤滑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   B26B 21/44 20060101AFI20170724BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20170724BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20170724BHJP
【FI】
   B26B21/44 B
   C08L101/00
   C08L71/02
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-545654(P2014-545654)
(86)(22)【出願日】2013年10月28日
(86)【国際出願番号】JP2013079154
(87)【国際公開番号】WO2014073411
(87)【国際公開日】20140515
【審査請求日】2016年8月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-244336(P2012-244336)
(32)【優先日】2012年11月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001454
【氏名又は名称】株式会社貝印刃物開発センター
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】小澤 仁
(72)【発明者】
【氏名】増田 剛
(72)【発明者】
【氏名】幅 大介
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−517959(JP,A)
【文献】 特開平8−280952(JP,A)
【文献】 特開平7−24156(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/132615(WO,A1)
【文献】 特表2005−515868(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/150875(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26B 21/44
A45D 27/38
A61K 8/00
C08G 18/00
C08L 71/02
C08L 101/00
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デュロメータA硬さ(HDA)が10〜40の熱可塑性エラストマー100質量部と水溶性ポリエチレンオキシド10〜40質量部と吸水性ポリアルキレンオキシド変性物20〜60質量部とを含むパーソナルケア用潤滑性樹脂組成物。
【請求項2】
水溶性ポリエチレンオキシドの使用量(A)と吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の使用量(B)がB≧Aである請求項1記載のパーソナルケア用潤滑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマーがスチレン系エラストマーである請求項1または2に記載のパーソナルケア用潤滑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記水溶性ポリエチレンオキシドの粘度平均分子量が10万〜500万である請求項1〜3のいずれか1項に記載のパーソナルケア用樹脂組成物。
【請求項5】
前記吸水性ポリアルキレンオキシド変性物が、ポリアルキレンオキシド化合物とジオール化合物とジイソシアネート化合物とを反応させて得られる、吸水能が10〜40[g/g]のポリアルキレンオキシド変性物である請求項1〜4のいずれか1項に記載のパーソナルケア用潤滑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の水溶性成分比率が、5〜30質量%である請求項1〜5のいずれか1項に記載のパーソナルケア用潤滑性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿潤時に潤滑性を発現する潤滑性樹脂組成物、特に、皮膚と接触して使用するためのパーソナルケア用品に用いられる潤滑性樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、熱可塑性エラストマーと水溶性ポリエチレンオキシドと吸水性ポリアルキレンオキシド変性物とを混合して得られるパーソナルケア用潤滑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、かみそりのようなパーソナルケア用品において、かみそりの一部と顔面等との間の抵抗力を減じるために、プラスチック製のかみそり刃カートリッジの一部分に、ポリアルキレンオキシド等の水溶性樹脂からなるシェービングエイドを取り付けたかみそり刃カートリッジが提案されている(例えば、特許文献1)。
また、水溶性固形化シェービングエイドとして、ポリアルキレンオキシド化合物と、ジイソシアネートとを反応させて得られる重量平均分子量1万以上の高分子量化合物(水溶性樹脂)を用いることが知られている(特許文献2)。
【0003】
また、水溶性ポリマー(水溶性樹脂)と水膨潤性ポリマーの混合により、水へ浸漬させた際に水膨潤性ポリマーが膨潤し、様々な助剤を放出させるような複合体もウェットシェービング用のスムーサー(潤滑剤)として用いられることもある(特許文献3)。
また、ウェットシェービング器具および医療器具等に用いるポリマー複合材として、水不溶性ポリマーならびに、アルキレンオキシドモノマーおよびエポキシ官能性モノマーから重合された感水性コポリマー(水溶性樹脂)を含むポリマー複合材が開示されている(特許文献4)。
さらに剃られている皮膚の外形に応じてたわむことができる材として熱可塑性エラストマーと水溶性ポリエチレンオキシドを混合した組成物をガードとして用いることも提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭54−94961号公報
【特許文献2】特開平7−24156号公報
【特許文献3】特表平9−502632号公報
【特許文献4】特表2004−509207号公報
【特許文献5】特開2003−19372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のカミソリ刃カートリッジ、特許文献2に記載のシェービングエイド、特許文献3に記載の複合体、特許文献4に記載のポリマー複合材、特許文献5に記載のガードは、湿潤時に水溶性樹脂が溶け出ることを利用して、それぞれの表面に潤滑性を与えている。
しかしながら、前記水溶性樹脂と熱可塑性樹脂とを溶融混合して所望の部材を形成する場合、水溶性樹脂と熱可塑性樹脂との相溶性が低いため、当該部材表面において水溶性樹脂が塊状で点在している。そのため、使用し始めた初期段階の潤滑性には優れるが、繰り返し使用すると点在している水溶性樹脂が塊状で抜け落ちて、その潤滑性が短期間で失われてしまう。
【0006】
特許文献2記載の高分子量化合物からなるシェービングエイドについても、水溶解性に優れるために一度に必要以上の水溶性成分が流れでてしまい、肌がヌメヌメする、繰り返し使用すると、成形体の水溶性成分が抜け落ちて減縮してしまいその耐久性が劣る等の課題があった。耐久性を向上させるために、他樹脂との混合も考えられたが、相溶性が低い課題もあった。
【0007】
また、一般にポリアルキレンオキシド等の水溶性樹脂は、高分子量になるほど潤滑性に優れるが、湿潤時の糸曳きが顕著になって使用感が悪くなる、さらに、その溶融粘度が高くなり、加工する際に温度を高くする必要がある。そのため、高分子量水溶性樹脂は、加工温度が高いポリスチレンや耐衝撃性ポリスチレン等の親水性が低く、かつ可撓性に乏しいポリマーと混合されることが多かった。そのようにして得られた混合物は、湿潤時の潤滑性には優れるが、ポリスチレンや耐衝撃性ポリスチレン自体が、硬くて可撓性に乏しく肌への密着性が少なく、繰返し使用した際に水溶性樹脂成分が抜け落ちて表面にざらつき感が生じて耐ざらつき性が悪くなる等の問題があった。また、良好な潤滑性を維持するために、水溶性樹脂を増量すると、湿潤時の膨張倍率が高くなり、その後、繰り返し使用時に乾燥させたとき、組成物の表面が凸凹状に変形する等の課題があった。
【0008】
また、皮膚との密着性の改良を図るために熱可塑性樹脂として熱可塑性エラストマーを用いた特許文献5が提案されているが、熱可塑性エラストマーと親水性ポリマーの相溶性が悪いため、水溶性成分が一度に抜け落ちてしまい、繰返し使用時に表面に細孔が生じて肌触りが悪くなる、耐久性に劣る等の課題もあった。
【0009】
本発明の目的は、繰り返しの使用によっても湿潤時の優れた潤滑性および耐ざらつき性が維持されるだけでなく、湿潤時において膨潤率が小さく、かつヌメリ感が少ないパーソナルケア用潤滑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の熱可塑性エラストマーと水溶性ポリエチレンオキシドと吸水性ポリアルキレンオキシド変性物とを混合した潤滑性樹脂組成物が、柔軟性に優れると共に繰返し使用時の耐久性にも優れることを見出して本発明を完成した。
【0011】
本発明は、以下に示すパーソナルケア用潤滑性樹脂組成物に関する。
すなわち、
項1.デュロメータA硬さ(HDA)が10〜40の熱可塑性エラストマー100質量部に対して水溶性ポリエチレンオキシド10〜40質量部と吸水性ポリアルキレンオキシド変性物20〜60質量部とを含むパーソナルケア用潤滑性樹脂組成物;
項2.水溶性ポリエチレンオキシドの使用量(A)と吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の使用量(B)がB≧Aである項1記載のパーソナルケア用潤滑性樹脂組成物;
項3.前記熱可塑性エラストマーがスチレン系エラストマーである項1または2に記載のパーソナルケア用潤滑性樹脂組成物;
項4.前記水溶性ポリエチレンオキシドの粘度平均分子量が10万〜500万である項1〜3のいずれか1項に記載のパーソナルケア用樹脂組成物;
項5.前記吸水性ポリアルキレンオキシド変性物が、ポリアルキレンオキシド化合物とジオール化合物とジイソシアネート化合物とを反応させて得られる、吸水能が10〜40[g/g]のポリアルキレンオキシド変性物である項1〜4のいずれか1項に記載のパーソナルケア用潤滑性樹脂組成物;および
項6.前記吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の水溶性成分比率が、5〜30質量%である項1〜5のいずれか1項に記載のパーソナルケア用潤滑性樹脂組成物;
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の潤滑性樹脂組成物は、柔軟性に優れ、繰り返しの使用によっても湿潤時の優れた潤滑性を維持できる。しかも本発明の潤滑性樹脂組成物は、湿潤時における膨潤率も比較的小さく、乾燥時において良好な耐変形性を示す。これらの結果として、本発明の潤滑性樹脂組成物は、パーソナルケア用品、例えば、カミソリに代表されるウェットシェービング器具に広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】平均摩擦係数(MIU)を求める方法を示す概略図。
図2】平均摩擦係数の変動(MMD)を求める方法を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の潤滑性樹脂組成物は、熱可塑性エラストマーと水溶性ポリエチレンオキシドと吸水性ポリアルキレンオキシド変性物とを含んでいる。
【0015】
本発明の潤滑性樹脂組成物に用いられる熱可塑性エラストマーとしては、一般的なスチレン系、オレフィン系、PVC系、ポリエステル系、ウレタン系、アミド系のいずれも使用できる。この熱可塑性エラストマーとして、高弾性で軽量なスチレン系エラストマーが最適に用いられる。スチレン系エラストマーの中でも、耐候性、耐熱性に優れていることから、低硬度の水添スチレン系エラストマーが好ましい。
低硬度の水添スチレン系エラストマーとしては、ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック−ポリスチレン(SEBS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン(SEPS)やそれらの混合物を最適に用いることができる。
このような、SEBS、SEPSとして市販されている具体的な商品名としては、「セプトンCJ103」「セプトンJS20N」(以上クラレプラスチック株式会社製)、「サーモラストK」(クライブルグ社製)、「ダイナロンSEBC」(JSR株式会社製)などが挙げられる。
本発明において用いられる熱可塑性エラストマーは、デュロメータA硬さ(HDA)の下限値は10以上、好ましくは15以上であり、上限値は40以下、好ましくは30以下であり、範囲としては10〜40の範囲にあること、好ましくは15〜30の範囲にあることを条件とする。HDAが40を超える熱可塑性エラストマーを使用した場合、得られる潤滑性樹脂組成物の柔軟性が悪く、折り曲げ性が悪くなる。HDAが10未満の場合、水溶性ポリエチレンオキシド、吸水性ポリアルキレンオキシド変性物との相溶性が悪く、得られた潤滑性樹脂組成物の繰り返し使用時の潤滑性が悪くなる。なお、熱可塑性エラストマーが2種以上の混合物である場合は、この混合物のHDAが10〜40の範囲にあることを条件とする。
【0016】
本発明の潤滑性樹脂組成物に用いられる水溶性ポリエチレンオキシドはエチレンオキシドを重合してなる水溶性樹脂である。この水溶性ポリエチレンオキシドは、特に限定されず、公知の製造方法により合成しても、または一般に市販されている製品のいずれであってもよい。一般に市販されている製品として、例えば、住友精化株式会社「PEO」)を使用することができる。
水溶性ポリエチレンオキシドの粘度平均分子量の下限値は好ましくは10万以上、より好ましくは15万以上、上限値は好ましくは500万以下、より好ましくは400万以下、範囲としては好ましくは10万〜500万、より好ましくは15万〜400万の範囲である。
粘度平均分子量が10万未満の場合、初期の潤滑性が劣るおそれがある。粘度平均分子量が500万を超えると、溶融粘度が高くなり、熱可塑性樹脂との相溶性が悪くなり、繰り返し使用時の潤滑性を維持しにくくなるおそれがある。また、これらの水溶性ポリエチレンオキシドは、異なる粘度平均分子量を有するものを混合して使用することによって、その加工性、使用感を変更することができる。
【0017】
本発明に用いられる吸水性ポリアルキレンオキシド変性物は、例えば、ポリアルキレンオキシド化合物とジオール化合物とジイソシアネート化合物とを反応させて得られるポリアルキレンオキシド変性物である。このような吸水性ポリアルキレンオキシド変性物はその溶融粘度が低く、熱可塑性エラストマーと水溶性ポリエチレンオキシドに対して良好な相溶性を示す。
【0018】
前記吸水性ポリアルキレンオキシド変性物を製造するためのポリアルキレンオキシド化合物は、好ましくは炭素原子数2〜9、より好ましくは炭素原子数2〜4のアルキレンオキシド基からなる群から選択される1種または2種以上のアルキレンオキシド基を含む単独重合体または共重合体である。
そのようなアルキレンオキシド基の好ましい具体例としては、エチレンオキシド、1,2−プロピレンオキシド、1,3−プロピレンオキシド、イソブチレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、1,3−ブチレンオキシド、トリメチルエチレンオキシド、テトラメチルエチレンオキシド、シクロヘキセンオキシド、オキセタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,2−ペンテンオキシド、1,2−ヘキセンオキシド等が挙げられる。ポリアルキレンオキシド化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
前記ポリアルキレンオキシド化合物としては、潤滑性樹脂組成物の初期潤滑性のさらなる向上の観点から、エチレンオキシド基を90質量%以上有するポリアルキレンオキシド化合物が好ましく、エチレンオキシド基を95質量%以上有するポリアルキレンオキシド化合物がより好ましい。このような割合はポリアルキレンオキシド化合物の全質量に対する値である。
【0020】
前記ポリアルキレンオキシド化合物としては、潤滑性樹脂組成物の初期および繰り返し使用時における潤滑性のさらなる向上の観点から、数平均分子量5,000〜50,000のポリアルキレンオキシド化合物が好ましく、数平均分子量10,000〜30,000のポリアルキレンオキシド化合物がより好ましい。
ここで数平均分子量は、水酸基価法(日本工業規格:JIS K 1557−1(2007年)、プラスチック−ポリウレタン原料ポリオール試験方法−第1部:水酸基価の求め方)により以下の式から算出した値である。
数平均分子量=56110×2/水酸基価
【0021】
前記吸水性ポリアルキレンオキシド変性物を製造するためのジオール化合物は、好ましくは炭素原子数2〜9、より好ましくは2〜5のジオールからなる群から選択される1種または2種以上のジオールである。そのようなジオール化合物の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールおよび1,9−ノナンジオール等の脂肪族ジオール化合物が挙げられる。これらのジオール化合物の中でも、得られる吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の吸水能に優れる観点、水溶性成分の溶出を制御する観点、および安定性に優れる観点から、エチレングリコールおよび1,4−ブタンジオールが好適に用いられる。これらのジオール化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
前記ジオール化合物の使用量は吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の吸水能の観点から、前記ポリアルキレンオキシド化合物1モルに対して、好ましくは0.8〜2.5モル、より好ましくは1.0〜2.0モルである。なお、ポリアルキレンオキシド化合物のモル数は、その質量を数平均分子量で除することにより求めることができる。
【0023】
前記ジイソシアネート化合物としては、同一分子内にイソシアネート基(−NCO)を2個有する化合物であれば特に限定されず、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,8−ジメチルベンゾール−2,4−ジイソシアネートおよび2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)などの芳香族ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などの脂肪族ジイソシアネート、ならびにジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネ−ト(HMDI)および3−イソシアナ−トメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネ−ト(IPDI)などの脂環式ジイソシアネート等が挙げられる。これらのジイソシアネート化合物の中でも、熱可塑性エラストマーとの相溶性の観点、水溶性成分の溶出を制御する観点および安定性に優れる観点から、脂肪族ジイソシアネートおよび脂環式ジイソシアネートが好適に用いられ、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネ−ト(HMDI)および1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)がより好適に用いられる。これらのジイソシアネート化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
前記ポリアルキレンオキシド化合物とジオール化合物とジイソシアネート化合物のそれぞれの使用割合は、繰り返し使用時の潤滑性および吸水性ポリアルキレンオキシド変性物と熱可塑性エラストマーとの相溶性のさらなる向上の観点から、ポリアルキレンオキシド化合物の末端水酸基およびジオール化合物の水酸基の合計モル数に対する、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基のモル数の比[R値=(−NCO基/−OH基)]が、好ましくは0.7〜1.2、より好ましくは0.8〜1.05の範囲にあるように決定される。なお、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基のモル数は、その質量を数平均分子量で除した値を2倍することにより求めることができる。
【0025】
ポリアルキレンオキシド化合物とジオール化合物とジイソシアネート化合物とを反応させる方法としては、例えば、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド等の反応溶媒に全ての化合物を溶解または分散させて反応させる方法;粉末状または固体状で全ての化合物を均一に混合した後、所定の温度に加熱して溶融状態で反応させる方法等が挙げられる。工業的実施の見地からは、各原料を溶融状態で連続的に供給し多軸押出機中で混合、反応させる方法が好ましい。前記反応の温度としては、70〜210℃であることが好ましい。
【0026】
吸水性ポリアルキレンオキシド変性物を製造する際、反応を促進させる観点から、反応系内に、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、2−エチルヘキサン酸スズ、トリエチレンジアミン等を少量添加することもできる。
【0027】
かくして、ポリアルキレンオキシド化合物とジオール化合物とジイソシアネート化合物とを反応させることにより、吸水性ポリアルキレンオキシド変性物を得ることができる。吸水性ポリアルキレンオキシド変性物にはイソシアネート基と水酸基との反応に基づいてウレタン基が形成され、当該ウレタン基と、前述の熱可塑性エラストマーの極性基間で相互作用が働いて、吸水性ポリアルキレンオキシド変性物と熱可塑性エラストマーとの間で相溶性が改善される。また、水溶性ポリエチレンオキシドとは、吸水性ポリアルキレンオキシド変性物のポリアルキレンオキシド部分と水溶性ポリエチレンオキシドのエチレンオキシド部分間の相互作用により相溶性が良い。このような相溶性が改善されることによって、繰り返しの使用時における優れた潤滑性、湿潤時における比較的小さな膨潤率が達成されるものと考えられる。
【0028】
本発明の潤滑性樹脂組成物に用いられる吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の吸水能の下限値は好ましくは10[g/g]以上、より好ましくは15[g/g]以上、上限値は好ましくは40[g/g]以下、より好ましくは35[g/g]以下、範囲としては好ましくは10〜40[g/g]であり、15〜35[g/g]であることがより好ましい。吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の吸水能が10[g/g]未満の場合、得られる潤滑性樹脂組成物の初期および繰り返し使用時において、潤滑性が低くなるおそれがある。
吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の吸水能が40[g/g]を超える場合、得られる潤滑性樹脂組成物を繰り返し使用した際に、潤滑性を維持する程度が劣るおそれがある。なお、本発明において吸水能とは、後述の方法により測定した値である。
【0029】
本発明で用いる吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の水溶性成分比率は、得られる潤滑性樹脂組成物の潤滑性を向上させる観点から、吸水性ポリアルキレンオキシド変性物自体の質量に対して、下限値は好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、上限値は好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、範囲としては好ましくは5〜30質量%であり、より好ましくは10〜20質量%である。
なお、本発明において水溶性成分比率とは、後述の方法により測定した値である。水溶性成分比率が5質量%未満の場合、得られる潤滑性樹脂組成物の潤滑性が低くなるおそれがある。水溶性成分比率が30質量%を超える場合、得られる潤滑性樹脂組成物の繰返し使用時において潤滑性の維持が低下するおそれがある。
【0030】
本発明の潤滑性樹脂組成物に用いられる吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の溶融粘度は、初期の潤滑性および水溶性ポリエチレンオキシドとの相溶性のさらなる向上の観点から、フローテスターを用いて測定した際(条件:170℃、5.0MPa、直径1mm×長さ1mmのダイを使用)、100〜800[Pa・s]であることが好ましく、100〜400[Pa・s]であることがより好ましい。
【0031】
前記、熱可塑性エラストマーと水溶性ポリエチレンオキシドの使用割合は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、10質量部以上、好ましくは20質量部以上である。また、熱可塑性エラストマーと水溶性ポリエチレンオキシドの使用割合は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、40質量部以下、好ましくは30質量部以下である。
前記、熱可塑性エラストマーと吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の使用割合は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、20質量部以上、好ましくは25質量部以上である。また、熱可塑性エラストマーと吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の使用割合は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、60質量部以下、好ましくは50質量部以下である。
【0032】
熱可塑性エラストマーと水溶性ポリエチレンオキシドおよび吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の使用割合は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、水溶性ポリエチレンオキシドが10〜40質量部、好ましくは20〜30質量部であり、吸水性ポリアルキレンオキシド変性物が20〜60質量部、好ましくは25〜50質量部の範囲にある。
水溶性ポリエチレンオキシドの使用割合が、熱可塑性エラストマー100質量部に対して10質量部未満の場合、初期の潤滑性が悪くなるおそれがある。水溶性ポリエチレンオキシドの使用割合が、熱可塑性エラストマー100質量部に対して40質量部を超えると、湿潤時のヌメリ感が増えて触感が悪化すると共に、繰返し使用時の潤滑性が悪くなるおそれがある。
【0033】
吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の使用割合が、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、20質量部未満の場合、繰返し使用時の潤滑性が悪くなるおそれがある。吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の使用割合が、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、60質量部を超えると湿潤時における膨潤率も大きくなるおそれがある。
【0034】
また、本発明の潤滑性樹脂組成物中、水溶性ポリエチレンオキシドの使用量(A)と吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の使用量(B)がB≧Aである場合が好ましい。本発明の潤滑性樹脂組成物中、水溶性ポリエチレンオキシドの使用量(A)と吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の使用量(B)がB<Aである場合、繰返し使用時の潤滑性が悪くなるおそれがある。
【0035】
本発明の潤滑性樹脂組成物を製造する方法としては、1)前記熱可塑性エラストマーおよび水溶性ポリエチレンオキシド、吸水性ポリアルキレンオキシド変性物を所定量で、ヘンシェルミキサーやブレンダー等の混合機により予め混合した後、ニーダー、ロール、押出機等に供給して、溶融混合する方法、2)前記熱可塑性エラストマー、水溶性ポリエチレンオキシド、吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の所定量を定量フィダー等でニーダー、ロール、押出機等に供給して、溶融混合する方法等が挙げられる。
【0036】
前記溶融混合工程、溶融工程および/または反応工程を行う機器としては、前記各成分の混合性に優れる観点から、2軸押出機が好適に用いられる。
前記溶融混合工程後または前記反応工程後は、射出成型や押出成型することにより、ペレット状、シート状、棒状、繊維状等の所望の形状に成型してもよい。従って、本発明の潤滑性樹脂組成物は、ペレット状等の原料形態を有していてもよいし、シート状、棒状、繊維状等の所望の成形体の形態を有していてもよい。
【0037】
本発明にかかる潤滑性樹脂組成物を製造する際、前記各成分および得られる潤滑性樹脂組成物の分解を防ぐ観点から安定剤;得られる潤滑性樹脂組成物の耐候性を向上させる観点から紫外線吸収剤;得られる潤滑性樹脂組成物を着色する観点から顔料、着色料等;得られる潤滑性樹脂組成物に泡立ち性を付与する観点から石鹸素地等を添加してもよい。
【0038】
本発明の潤滑性樹脂組成物は、湿潤時に潤滑性を発現させることが必要な用途に有用であり、例えば、カミソリに代表されるウェットシェービング器具などのパーソナルケア用途に有用である。
【0039】
例えば、ウェットシェービング器具(カミソリ)に本発明の潤滑性樹脂組成物が使用される場合、当該潤滑性樹脂組成物は、カミソリまたはそのカートリッジ(以下、カミソリ等という)におけるカミソリ刃の取り付け面において、該カミソリ刃と略平行に配置される、いわゆるシェービングエイド部を構成する。これによって、本発明の潤滑性樹脂組成物を用いたカミソリ等は、繰り返しの使用によっても湿潤時の優れた潤滑性を維持できる。しかも当該カミソリ等においてシェービングエイド部は、湿潤時における膨潤率が比較的小さいので、乾燥時において良好な耐変形性を示す。またシェービングエイド部は柔軟性と屈曲性を有するため良好な感触、肌触り感を有する。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
[評価方法]
製造例に記載の吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の吸水能、水溶性成分比率、溶融粘度、実施例および比較例の水溶性ポリエチレンオキシドの粘度平均分子量、潤滑性樹脂組成物のデュロメータ硬さ(HDA)の測定、湿潤性樹脂組成物のシートの膨潤率、減少率(厚み変化)、ヌメリ感および摩擦物性について、以下の方法に従って測定および評価した。
【0042】
(1)吸水能(吸水性ポリアルキレンオキシド変性物)
吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の吸水能は、以下の方法により測定した。
約1[g]の吸水性ポリアルキレンオキシド変性物を秤量(A[g])した後、200mL容のビーカーに計りとった100[mL]のイオン交換水に、室温下(22℃)で、24時間浸漬してゲル化させた。その後、200mesh(孔径:75μm)の金網にてゲルをろ過し、その質量(B[g])を測り、次式により、吸水能を算出した。
吸水能[g/g]=B/A
【0043】
(2)水溶性成分比率
前記(1)吸水能の測定により得られたゲルを、105℃に設定した熱風乾燥機にて恒量(C[g])になるまで乾燥し、次式により、水溶性成分比率を算出した。ただし、Aは前記(1)吸水能の測定のAと同様である。
水溶性成分比率[質量%]=(A−C)/A×100
【0044】
(3)溶融粘度
吸水性ポリアルキレンオキシド変性物1.5gを、フローテスター(株式会社島津製作所製、型番:CFT−500C)を用いて、以下に示す条件で測定した。
荷重 :5.0MPa
測定温度:170℃
ダイ直径:1mm
ダイ長さ:1mm
【0045】
(4)水溶性ポリエチレンオキシドの粘度平均分子量
水溶性ポリエチレンオキシドの粘度平均分子量は、以下の粘度式を用いて決定する。
【0046】
【数1】
【0047】
上記式中、[η]は極限粘度、Kおよびaは溶媒と高分子の種類によって決定される係数、Mは粘度平均分子量を示す。
ここで、オストワルド粘度計を用いて、純水中種々の高分子濃度c(g/dl)の水溶液の比粘度ηspを35℃にて測定し、比粘度を高分子濃度で割って得られた還元粘度(ηsp/c)と高分子濃度cとの関係に基づき高分子濃度cを0に補外することによって、極限粘度[η]を算出した。次に、純水中のポリエチレンオキシドのKおよびaの値として、それぞれ、6.4×10−5(dl/g)および0.82を適用して、水溶性ポリエチレンオキシドの粘度平均分子量を決定した。
【0048】
(5)デュロメータ硬さ(HDA)
日本工業規格:JIS K 7215(1986年)(対応国際規格:ISO/DIS 868 Plastics and ebonite−Determination of indentation hardness by means of a durometer(Shore hardness))に記載されている「プラスチックのデュロメータ硬さ試験方法」に従い、「デュロメータのタイプA」において測定される「硬さ」を意味し、デュロメータ保持台上で、樹脂組成物の厚みが6mm以上の厚みになるように重ねて測定した。潤滑性樹脂組成物のHDAが75未満の場合は、シェービングエイドがかみそりで剃られる皮膚の形状に応じてたわむことができるため、十分柔らかいと判断できる。
【0049】
(6)折り曲げ試験
実施例および比較例により得られた湿潤性樹脂組成物のシートを2cm(幅:W)×5cm(長さ:L)に切断し、測定サンプルとした。
測定サンプルの端部(2cm幅の短辺)から1cmの部分(残り4cm)で90度に折り曲げ、折り曲げ部分について以下の基準に従って評価した。
また、別途、同様の測定サンプルを用いて、折り曲げる角度を180度に変更して、同様の評価を行った。
(評価基準)
A:折り曲げ部の白化がなく、元のシート形状に戻る(復元力がある)。
B:折り曲げ部は白化するが、元のシート形状に戻る(復元力がある)。
C:折り曲げ部に白化があり、元のシート形状に戻らない(復元力がない)。
【0050】
(7)膨潤率と減少率
実施例および比較例により得られた潤滑性樹脂組成物のシートを2cm(W)×5cm(L)に切断し、測定サンプルとした。
測定サンプルの質量(E[g])を測定した後、200mL容のビーカーに計りとった100[mL]のイオン交換水に、室温下(22℃)で所定時間(0.5、8、12時間)浸漬して膨潤させた。その後、測定サンプルを取り出し、ペーパータオルを用いて表面の水を拭い、その質量(F[g])を測定した。なお、12時間後の膨潤率が160%以下の場合、膨潤による寸法の変化が少ないと判断できる。
膨潤率[%]=(F−E)/E×100
所定時間での膨潤率を測定した後のサンプルについてそれぞれ、室温下(22℃)で24時間放置してその質量(G)を測定した。
減少率[%]=(E−G)/E×100
減少率がプラスマイナス2%未満の場合(増量時はマイナス)、その使用変形割合が少ないと判断できる。
【0051】
(8)摩擦物性
実施例および比較例により得られた潤滑性樹脂組成物のシートを2cm(W)×5cm(L)に切断し、測定サンプルとした。
測定サンプルの塗布表面に0.2mLのイオン交換水を滴下して30秒間静置した後に、摩擦感テスター(カトーテック株式会社製、型式:KES−SE)を用いて、以下の試験条件下、摩擦係数μをモニターした。
センサー:シリコーン
荷重 :50[g]
速度 :10[mm/秒]
【0052】
(i)平均摩擦係数(MIU)(潤滑性)
平均摩擦係数は、表面をこする時に感じるすべりやすさおよびすべりにくさと相関性がある。この値が大きくなるほどすべりにくくなる。
摩擦係数μのモニター結果から平均摩擦係数(MIU)を求める概略図を、図1に示す。
図1に示すように、測定サンプルの表面をスキャンして、表面の摩擦係数μをモニターする。次に、20mmのモニター幅において、摩擦係数μについて積分する(図1の斜線部分)。積分値をモニター幅(20mm)で除することによって、平均摩擦係数(MIU)を求める。
MIUの値は0.30以下のとき潤滑性が良好であり、0.25以下のとき潤滑性が最良と判断できる。
【0053】
(ii)平均摩擦係数の変動(MMD)(耐ざらつき性))
平均摩擦係数の変動は、表面をこする時に感じるなめらか感およびざらつき感と相関性がある。この値が大きいほど表面がざらざらしている。
摩擦係数のモニター結果から平均摩擦係数の変動(MMD)を求める概略図を、図2に示す。
図2に示すように、20mmのモニター幅において、平均摩擦係数(MIU)と摩擦係数μとの差異の絶対値について積分する(図2の斜線部分)。積分値をモニター幅(20mm)で除することによって、平均摩擦係数の変動(MMD)を求める。
MMDの値が0.009〜0.015のとき、表面のなめらかさが良好といえる。
MMDの値は0.015以下のとき実用上問題のない範囲内であり、0.010以下のとき表面のなめらかさが良好であり、0.005以下のとき表面のなめらかさが最良である。
【0054】
(iii)耐久性試験
所定時間における膨潤率、減少率を測定した後のサンプルについても、上記と同様の条件にて、平均摩擦係数とその変動を求めた。
【0055】
製造例1 吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の製造
80℃に保温された攪拌機を備えた貯蔵タンクAに、十分に脱水した数平均分子量20,000のポリエチレンオキシド100質量部、1,4−ブタンジオール0.90質量部およびジオクチルスズジラウレート0.1質量部の割合で投入し、窒素ガス雰囲気下で攪拌して均一な混合物とした。これとは別に、30℃に保温された貯蔵タンクBにジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートを投入し、窒素ガス雰囲気下で貯蔵した。
定量ポンプを用いて、貯蔵タンクAの混合物を500[g/分]の速度にて、貯蔵タンクBのジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートを19.4[g/分]の速度にて、110〜140℃に設定した2軸押出機に連続的に供給し(R値=1.00)、押出機中で混合して反応を行い、押出機出口からストランドを出し、ペレタイザーによりペレット化(4×4×2.5mm角状)して、吸水性ポリアルキレンオキシド変性物を得た。
得られた吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の吸水能は25[g/g]、水溶性成分比率は15.5[質量%]、溶融粘度は320[Pa・s]であった。
【0056】
製造例2 吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の製造
数平均分子量15,000のエチレンオキシド/プロピレンオキシド(質量比:90/10)共重合体を250[g/分]の速度にて、40℃に加熱したエチレングリコールを2.1[g/分]の速度にて、それぞれ直径40mmの単軸押出機(L/D=40、設定温度:90℃)に供給して両者を溶融混合した。
吐出口から得られる混合物(均一な溶融状態で吐出しており、LCにて分析して仕込み比で混合していることを確認した)を、直径30mmの2軸押出機(L/D=41.5)のホッパー口(設定温度:80℃)へ連続的に供給した。同時に2軸押出機のホッパー口にはジオクチルスズジラウレートを0.5[g/分]の速度にて供給した。
これとは別に、前記2軸押出機のホッパー口の下流側に位置するスクリューバレル部に、30℃に調整したジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートを12.4[g/分]の速度にて供給し(R値=0.95)、窒素雰囲気下で連続的に反応させた(設定温度:180℃)。2軸押出機出口から得られるストランドを冷却後、ペレタイザーによりペレット化(4×4×2.5mm角状)して吸水性ポリアルキレンオキシド変性物を得た。
得られた吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の吸水能は20[g/g]、水溶性成分比率は11.3[質量%]、溶融粘度は150[Pa・s]であった。
【0057】
実施例1
熱可塑性エラストマー(SEBS/SEPS クライブルグ社製 サーモラストK TF23ADG、デュロメータA硬さ(HDA)=30)を6[kg/hr]、水溶性ポリエチレンオキシドとして「PEO18P」(住友精化株式会社製 粘度平均分子量 450万)と「PEO8P」(住友精化株式会社製 粘度平均分子量 200万)の1/1混合品を1.2[kg/hr]、製造例1と同様にして得られた吸水性ポリアルキレンオキシド変性物を1.5[kg/hr]の割合にて、180℃に設定した直径28mmの2軸押出機(L/D=40)に供給し、潤滑性樹脂組成物を得た。潤滑性樹脂組成物の組成割合を表1に示す。
得られた潤滑性樹脂組成物を、180℃に設定したホットプレス(ゴンノ水圧機製作所製 40tプレス、圧力:4.9MPa・G)を用いて、10cm×10cm×0.1cmのシートに成型した。
得られた潤滑性樹脂組成物のシートを所定の大きさに切断し、前記各種測定および評価を行った。結果を表3に示す。
【0058】
実施例2
熱可塑性エラストマー(SEPS クラレプラスチック社製 セプトンCJ103、デュロメータA硬さ(HDA)=15)を8[kg/hr]、水溶性ポリエチレンオキシドとして「PEO8P」(住友精化株式会社製 粘度平均分子量 200万)を2[kg/hr]、製造例2と同様にして得られた吸水性ポリアルキレンオキシド変性物を2.4[kg/hr]の割合にて、180℃に設定した直径28mmの2軸押出機(L/D=40)に供給し、潤滑性樹脂組成物を得た。潤滑性樹脂組成物の組成割合を表1に示す。
得られた潤滑性樹脂組成物を、180℃に設定したホットプレス(ゴンノ水圧機製作所製 40tプレス、圧力:4.9MPa・G)を用いて、10cm×10cm×0.1cmのシートに成型した。
得られた潤滑性樹脂組成物のシートを所定の大きさに切断し、前記各種測定および評価を行った。結果を表3に示す。
【0059】
実施例3
熱可塑性エラストマー(SEBS/SEPS クライブルグ社製 サーモラストK TF23ADG、デュロメータA硬さ(HDA)=30)を9[kg/hr]、水溶性ポリエチレンオキシドとして「PEO18P」(住友精化株式会社製 粘度平均分子量 450万)と「PEO8P」(住友精化株式会社製 粘度平均分子量 200万)の3/1混合品を1.8[kg/hr]、製造例1と同様にして得られた吸水性ポリアルキレンオキシド変性物を2.7[kg/hr]の割合にて、180℃に設定した直径28mmの2軸押出機(L/D=40)に供給し、潤滑性樹脂組成物を得た。潤滑性樹脂組成物の組成割合を表1に示す。
得られた潤滑性樹脂組成物を、180℃に設定したホットプレス(ゴンノ水圧機製作所製 40tプレス、圧力:4.9MPa・G)を用いて、10cm×10cm×0.1cmのシートに成型した。
得られた潤滑性樹脂組成物のシートを所定の大きさに切断し、前記各種測定および評価を行った。結果を表3に示す。
【0060】
実施例4
熱可塑性エラストマー(SEBS/SEPS クライブルグ社製 サーモラストK TF23ADG、デュロメータA硬さ(HDA)=30)を5[kg/hr]、水溶性ポリエチレンオキシドとして「PEO18P」(住友精化株式会社製 粘度平均分子量 450万)と「PEO8P」(住友精化株式会社製 粘度平均分子量 200万)、「PEO1P」(住友精化株式会社製 粘度平均分子量 20万)の1/1/1混合品を1.5[kg/hr]、製造例2と同様にして得られた吸水性ポリアルキレンオキシド変性物を2[kg/hr]の割合にて、180℃に設定した直径28mmの2軸押出機(L/D=40)に供給し、潤滑性樹脂組成物を得た。潤滑性樹脂組成物の組成割合を表1に示す。
得られた潤滑性樹脂組成物を、180℃に設定したホットプレス(ゴンノ水圧機製作所製 40tプレス、圧力:4.9MPa・G)を用いて、10cm×10cm×0.1cmのシートに成型した。
得られた潤滑性樹脂組成物のシートを所定の大きさに切断し、前記各種測定および評価を行った。結果を表3に示す。
【0061】
比較例1
実施例1において、製造例1と同様にして得られた吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の添加量を0.6[kg/hr]に変更した以外は、実施例1と同様にして潤滑性樹脂組成物を得た。組成割合を表2に、結果を表4に示す。
【0062】
比較例2
実施例2において、水溶性ポリエチレンオキシドの添加量を0.4[kg/hr]に、製造例2の吸水性ポリアルキレンオキシド変性物の添加量を4[kg/hr]にそれぞれ変更した以外は、実施例2と同様にして潤滑性樹脂組成物を得た。組成割合を表2に、結果を表4に示す。
【0063】
比較例3
実施例3において、水溶性ポリエチレンオキシドの添加量を4.5[kg/hr]に変更した以外は、実施例3と同様にして潤滑性樹脂組成物を得た。組成割合を表2に、結果を表4に示す。
【0064】
比較例4
実施例4において、熱可塑性エラストマーを耐衝撃性ポリスチレン[略号:HIPS、BASF社製:476L、HDA>99]に変更し、直径28mmの2軸押出機とホットプレスの設定温度を220℃に変更した以外は、実施例4と同様にして潤滑性樹脂組成物を得た。組成割合を表2に、結果を表4に示す。
【0065】
比較例5
実施例4において、吸水性ポリアルキレンオキシド変性物を添加しない以外は実施例4と同様にして潤滑性樹脂組成物を得た。組成割合を表2に、結果を表4に示す。
【0066】
比較例6
実施例4において、水溶性ポリエチレンオキシドを添加しない以外は実施例4と同様にして潤滑性樹脂組成物を得た。組成割合を表2に、結果を表4に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
表3、4に示された結果から明らかなように、デュロメータA硬さ(HDA)が10〜40の範囲にある熱可塑性エラストマーと水溶性ポリエチレンオキシドと吸水性ポリアルキレンオキシド変性物をそれぞれ特定量で含む本発明の潤滑性樹脂組成物は、膨潤による寸法変化が少なく、湿潤時、乾燥時、繰り返し使用時においてもその潤滑性が維持され、その耐ざらつき性の変化もない。
【0072】
比較例1は、吸水性ポリアルキレンオキシド変性物が20〜60質量部の範囲になく、吸水性ポリアルキレンオキシド変性物10質量部を含む。この場合、水浸漬時間12時間後、乾燥したサンプルの平均摩擦係数および平均摩擦係数の変動が高くなり、湿潤性および耐ざらつき性が低い結果となった。
比較例2は、水溶性ポリエチレンオキシドが10〜40質量部の範囲になく、水溶性ポリエチレンオキシド(PEO18P)5質量部を含む。この場合、水浸漬時間12時間後の膨潤率および減少率が高くなった。また、180度の折り曲げ試験がBとなり、折り曲げ性が低い結果となった。
比較例3は、水溶性ポリエチレンオキシドが10〜40質量部の範囲になく、水溶性ポリエチレンオキシド(PEO18P/PEO8P)37.5/12.5質量部を含む。この場合、水浸漬時間12時間後の膨潤率および減少率が高くなった。また、180度の折り曲げ試験がBとなり、折り曲げ性が悪化した。さらに、水浸漬時間12時間後、乾燥したサンプルの平均摩擦係数および平均摩擦係数の変動が高くなり、湿潤性および耐ざらつき性が低い結果となった。
比較例4は、熱可塑性エラストマーのHDAが10〜40の範囲になく、HDAが>99である熱可塑性エラストマー(HIPS)を含む。この場合、水浸漬時間12時間後の平均摩擦係数および平均摩擦係数の変動が高くなり、湿潤性および耐ざらつき性が低くなった。また、90℃および180℃の折り曲げ試験はそれぞれCとなり、折り曲げ性が悪化した。
比較例5は、吸水性ポリアルキレンオキシド変性物が20〜60質量部の範囲になく、吸水性ポリアルキレンオキシド変性物を含まない。この場合、水浸漬時間12時間後の減少率が低くなった。また、水浸漬時間12時間後、乾燥したサンプルの平均摩擦係数および平均摩擦係数の変動が高くなり、湿潤性および耐ざらつき性が特に低い結果となった。
比較例6は、水溶性ポリエチレンオキシドが10〜40質量部の範囲になく、水溶性ポリエチレンオキシドを含まない。この場合、水浸漬時間12時間後、乾燥したサンプルの平均摩擦係数および平均摩擦係数の変動が高くなり、湿潤性および耐ざらつき性が低い結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明にかかる潤滑性樹脂組成物は、湿潤、乾燥時、繰り返し使用時においてもその潤滑性が維持され、湿潤時の潤滑性が要求される分野、例えばカミソリに代表されるウェットシェービング器具に最適に広く用いることができる。
図1
図2