(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示される恒温槽では、試料を目標温度までに変温させた後、試料の温度が目標温度から揺らぐことがあった。詳細には、温度制御手段が恒温槽内の温度を目標温度に維持しようとして、目標温度からの偏差分を打ち消すように変温した空気を送り出している。この送り出した空気が試料に当たると、試料の温度が目標温度から揺らぐことがある。試料を目標温度に素早く変温させ、且つ、変温後においては試料の温度を一定に保つことのできる恒温槽が求められている。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、試料を目標温度に素早く変温させ、且つ、変温後においては試料の温度を一定に保つことのできる恒温槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる恒温槽は、
気体の温度が設定された温度になるように加熱又は冷却する変温手段と、
前記変温手段が設けられ、前記変温手段にて温度調整される恒温室と、
前記恒温室とは熱伝導壁で区切られており、内部に試料を収容する試料保持室と、
前記恒温室と前記試料保持室との間を連通状態又は遮断状態とに切り替える連通遮断手段と、を備える。
【0008】
このような構成によれば、試料を目標温度に素早く変温させ、且つ、変温後においては試料の温度を一定に保つことができる。
【0009】
また、上記した恒温槽において、前記変温手段で温度調整された気体を主として前記恒温室内に向けて送風する第1送風手段を備えることを特徴としてもよい。また、上記した恒温槽において、さらに、前記恒温室と前記試料保持室との間で気体の出入り口となる通気孔と、前記通気孔を介して前記恒温室の気体を前記試料保持室に流入するように送風する第2送風手段と、前記通気孔を介して前記試料保持室の気体を前記恒温室に向けて排出するように送風する第3送風手段と、を備えることを特徴としてもよい。また、上記した恒温槽において、前記熱伝導壁は、前記恒温室の側に向けて突起した放熱板、及び、前記試料保持室の側に向けて突起した放熱板、の少なくともいずれかを有することを特徴としてもよい。上記した恒温槽において、前記試料保持室は、測定子を内部に挿入するための開閉可能な測定子導入孔を有することを特徴としてもよい。また、上記した恒温槽において、前記試料保持室は、前記試料の光学的測定に対応するための光透過窓を有することを特徴としてもよい。また、上記した恒温槽において、前記連通遮断手段は、板状体を回転させて開閉する開閉シャッタであって、前記板状体は、気体が通過することのできる通気性板状体であることを特徴としてもよい。
【0010】
他方、本発明にかかる線膨張係数測定装置は、
上記した恒温槽と、
異なる温度下における前記試料の長さを測定する測定手段と、
各温度下における前記試料の長さに基づいて前記試料の線膨張係数を算出する算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、各温度下における前記試料の線膨張係数を測定することができる。
【0012】
他方、本発明にかかる恒温槽の温度制御方法は、
気体の温度が設定された温度になるように加熱又は冷却する変温手段と、
前記変温手段が設けられ、前記変温手段にて温度調整される恒温室と、
前記恒温室とは熱伝導壁で区切られており、内部に試料を収容する試料保持室と、
前記恒温室と前記試料保持室との間を連通状態又は遮断状態とに切り替えられる連通遮断手段と、を備える恒温槽の制御方法であって、
前記試料の温度を変化させる際には、前記恒温室と前記試料保持室との間で気体の出入り口となる通気孔を連通状態とし、
前記試料の温度を一定に保持する際には、前記通気孔を遮断状態とする
ことを特徴とする。
【0013】
このような構成によれば、試料を目標温度に素早く変温させ、且つ、変温後においては試料の温度を一定に保つことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、試料を目標温度に素早く変温させ、且つ、変温後においては試料の温度を一定に保つことのできる恒温槽を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
図1〜4を用いて第1実施形態にかかる恒温槽システムについて説明する。
図1は第1実施形態にかかる恒温槽システムの構成図を示す。
図2及び3は第1実施形態にかかる恒温槽の断面図を示す。
図4は第1実施形態にかかる恒温槽システムのブロック図を示す。
【0017】
図1に示すように、恒温槽システム100は、恒温槽101と、制御装置102とを備える。恒温槽システム100は、測定子Pを備える線膨張係数測定装置に組み込まれて使用される。線膨張係数測定装置は、複数の温度において、測定子Pにより試料SAの長さを測定して、この測定結果に基づいて試料SAの線膨張係数を算出できる。
【0018】
図2及び3に示すように、恒温槽101は、筐体110と、試料保持板120と、試料温度検出部130と、恒温室温度検出部140と、変温手段150と、送風手段160と、連通遮断手段170、171とを備える。
【0019】
図1及び2に示すように、筐体110は、例えば、断熱材からなる略直方体状の筐体である。筐体110は、その上面に試料SAを導入するための試料導入口111を有する。試料導入口111は、試料導入口フタ112により密閉される。筐体110は、試料SAの形状及びサイズ、送風手段160の送風能力に応じて、適宜形状及びサイズを変更してもよい。試料導入口フタ112は、測定子Pを筐体110に導入するための測定子導入口114と、測定子導入口114を閉めるための測定子導入口フタ113とを備える。
【0020】
試料保持板120は、支持脚121、121によって支持され、筐体110の内部を上下2つに区切るように設置されている。試料保持板120は、試料保持台122を介して試料SAを保持する。ここで、筐体110の内部空間は、試料保持板120により、2つの空間に区画されている。ただし、筐体110と試料保持板120との間には、2箇所で隙間が開いている。これらの隙間をそれぞれ第1通気口125、第2通気口126とする。筐体110の内部空間のうち、上側の空間は、試料保持室123として機能し、下側の空間は、恒温室124として機能する。試料保持室123はその内部に試料SAを収容する。試料保持板120は、熱伝導性の高い熱伝導材料からなる。試料保持板120は恒温室124と試料保持室123とを熱伝導壁として区切る。このような熱伝導材料としては、例えば、銅又は銅合金が挙げられる。試料保持板120は、熱が恒温室124から試料SAに緩やかに伝導するように所定の厚みを有するとよい。また、試料保持板120は、恒温室124の側に向けて突起した放熱板、又は、試料保持室123の側に向けて突起した放熱板の少なくともいずれかを有してもよい。
【0021】
試料温度検出部130は、試料SAに密着して設置されて、試料SAの試料温度を検出する。試料温度検出部130は、試料温度についての信号を生成する。
【0022】
恒温室温度検出部140は、恒温室124に設置されて、恒温室124の恒温室温度を検出する。恒温室温度検出部140は、恒温室温度についての信号を生成する。
【0023】
変温手段150は、筐体110のうち、恒温室124(つまり、下側空間)と外部とを区切る壁に埋め込まれるように設置されている。変温手段150は、第1通気口125よりも第2通気口126に近い。変温手段150は、試料保持室123ではなく、主として恒温室124の温度を変える。変温手段150としては、例えば、熱交換器を利用することができる。変温手段150は、制御信号を受けて、恒温室124の気体を加熱又は冷却して、所定の温度に変温する。この気体として、例えば、空気が挙げられる。
【0024】
送風手段160は、変温手段150近傍に設置されて、変温手段150により変温された気体を送風することができる。送風手段160は、筐体110の内部において、気体を少なくとも循環させることができる送風能力を有する。送風手段160の送風方向は、恒温室124(つまり下側空間)に向く。送風手段160により送風された気体が、試料SAに当たるには、主として送風手段160から遠い方の通気口である第1通気口125を通る。送風手段160は変温手段150に従属して動作する。送風手段160として、例えば、変温手段150としての熱交換器に一般的に付属するファンを利用してもよい。
【0025】
連通遮断手段170、171は、試料保持板120と筐体110との間に設置され、試料保持室123と恒温室124とを遮断(
図2参照)、又は、連通(
図3参照)することができる。連通遮断手段170、171は、試料保持板120とほぼ同じ高さの位置において、試料保持板120を間にして両側にそれぞれ設けられている。連通遮断手段170、171は、第1通気口125、第2通気口126をそれぞれ閉じたり、開いたりすることができる。ここでは、連通遮断手段170、171としては、例えば、バタフライバルブのように、弁体のその弁軸を中心に90度回転させることで開閉する開閉シャッタを利用してもよい。この弁体として、気体が通過し難い非通気性材料からなる板状体を利用するとよい。
図3は、開閉シャッタが開いた状態を示す図である。
図3に示すように、連通遮断手段170、171が両方とも開のとき、送風手段160からの風は、恒温室124、第1通気口125、試料保持室123、第2通気口126、恒温室124の順に通過して、筐体110内部を循環する。一方、連通遮断手段170、171が閉じると、
図2に示すように、送風手段160が風を送っても、この風が恒温室124に流れるだけで、試料保持室123の内部や試料SAに直接当たらない。
【0026】
次に、制御装置102について説明する。
【0027】
図4に示すように、制御装置102は、操作部190と、制御部180と、表示部191とを含む。
【0028】
操作部190は、例えば、キーボード、マウスなどの入力装置である。操作部190は、使用者による入力を受け付ける。使用者が入力すべき指令としては、例えば、目標温度、閾値、許容範囲がある。ここで、目標温度は、温度制御により達成すべき試料の温度である。また、しきい値は、連通遮断手段170、171の動作に必要な値であって、目標温度に近い温度である。また、許容範囲は、試料温度が定常状態に遷移したか否かを確認するための範囲であって、目標温度を含む所定の範囲である。
【0029】
制御部180は、メモリ181と、CPU182と、送風連通遮断コントローラ183と、変温コントローラ184とを含む。
【0030】
CPU182は、送風連通遮断コントローラ183及び変温コントローラ184を介して、変温手段150、及び、連通遮断手段170、171をそれぞれ制御する。また、CPU182は表示部191を制御する。メモリ181は、CPU182から、温度制御のために必要なデータを格納する。送風連通遮断コントローラ183は、CPU182からの信号と、試料温度検出部130からの試料温度についての信号とに基づいて連通遮断手段170、171を制御する。変温コントローラ184は、恒温室温度検出部140から恒温室温度についての信号を受けて、変温手段150を制御する。
【0031】
表示部191は、制御部180から表示信号を受けて、恒温槽101を温度制御するための情報を表示する。表示部191として、例えば、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなどの表示装置を利用することができる。なお、操作部190及び表示部191として、タッチパネルディスプレイを利用してもよい。このような情報として、例えば、試料温度、恒温室温度、目標温度、しきい値、許容範囲などが挙げられる。
【0032】
(温度制御方法)
次に、
図5を参照しつつ
図6を用いて、温度制御方法について説明する。
図5は、第1実施形態にかかる恒温槽システムの温度制御方法のフローチャートを示す。
図6は、時間に対する試料の温度変化とシャッタ動作との関係を表す図を示す。
【0033】
まず、使用者が指令を入力すると、操作部190が温度制御するための条件についての情報の入力を受け付ける(温度制御条件入力ステップS1)。ここでは、試料温度を現在よりも高い目標温度Tg1に変化させたいとする。温度制御を開始する(運転指令ステップS2)。次いで、変温コントローラ184による変温手段150の制御と、送風連通遮断コントローラ183による連通遮断手段170、171との制御を並行して行う。
【0034】
まず、変温コントローラ184による変温手段150の制御(SH1〜SH4)について説明する。変温コントローラ184にはCPU182から動作指令が与えられる。すると、変温コントローラ184は、変温手段150としての熱交換器を運転させて、変温を開始する(変温開始ステップSH1)。変温手段150の運転に伴って、送風手段160が送風を開始する。次いで、恒温室温度を検出する(恒温室検温ステップSH2)。恒温室温度と目標温度との差を算出する(目標温度確認ステップSH3)。恒温室温度と目標温度との差に基づいて、恒温室温度を目標温度に近づけるように熱交換器の出力を調整する(変温手段出力調整ステップSH4)。
【0035】
次に、
図2、3、5及び6を参照しつつ、送風連通遮断コントローラ183による連通遮断手段170、171の制御(SF1〜SF7)について説明する。
【0036】
送風連通遮断コントローラ183には、CPU182から動作指令が与えられる。すると、送風連通遮断コントローラ183は、連通遮断手段170、171に制御信号を送って第1通気口125及び第2通気口126をそれぞれ開かせる(試料保持室連通ステップSF1)。具体的には、
図6(B)に示すように、時刻t1で制御信号の信号電圧値をVhighにする。Vhighは開であるとする。ここで、
図3に示すように、連通遮断手段170、171としての開閉シャッタが開く。すると、試料保持室123と恒温室124とが連通した状態になる。変温手段150が気体を変温しつつ、送風手段160が引き続き送風する。すると、気体が恒温室124と試料保持室123とを循環する。このとき、変温された気体が直接試料SAに当たり、熱を与える。
図6(A)に示すように、t1〜t2では、試料SAの温度は、目標温度Tg1に向けて素早く変化していく。
【0037】
送風連通遮断コントローラ183は、試料温度検出部130を介して試料温度を検出し(第1試料温度検出ステップSF2)、試料温度が、しきい値Th1まで到達しているか否かを確認する(しきい値到達確認ステップSF3)。試料温度が、しきい値Th1以上になっていれば(しきい値到達確認ステップSF3:OK)、試料温度は目標温度に達しており、風を直接当てての急速な変温は、もはや必要ない。したがって、連通遮断手段170、171にて恒温室124と試料保持室123とを遮断させる(試料保持室遮断ステップSF4)(
図2参照)。その後は、恒温室124の温度が試料保持板120及び試料保持台122を介して、試料保持室123の気体及び試料SAに緩やかに伝わる。試料SAの温度は、目標温度から揺らぐことを抑制されて、一定に保たれるようになる(t2〜t3)。
【0038】
そして、試料温度が目標温度Tg1で安定しているかを検出する。すなわち、試料温度を検出する(第2試料温度検出ステップSF5)。試料温度が許容範囲R1に所定時間継続して収まっているかを確認する(許容範囲確認ステップSF6)。試料温度が許容範囲R1に所定時間継続して収まっている場合には、(許容範囲確認ステップSF6:OK)、変温・安定化完了を表示部191に表示する(完了表示ステップSF7)。最後に、温度制御の終了条件の充足を確認し(終了条件充足確認ステップSH5)、温度制御を終了する。
【0039】
上記したように、変温手段150の制御と、連通遮断手段170、171の制御とを並行して行う。
【0040】
なお、上記の例(t1〜t3)では、試料SAの温度を上げるように変温したが、試料SAの温度を下げるように変温する場合も同じである。すなわち、目標温度を目標温度Tg2に再設定するとともに、しきい値をしきい値Th2に再設定し、上記したステップ(S1、S2、SH1〜SH5、SF1〜SF7)を再び経る。すると、
図6のt3〜t5に示すように、t3〜t4において試料SAの温度を目標温度Tg2に変温させ、t4〜t5において定常状態に至らせるのである。つまり、試料温度は、目標温度Tg2から揺らぐことなく、一定に保たれるのである。
【0041】
以上より、本実施形態によれば、試料保持室123と恒温室124とが連通した状態で、変温手段150が気体を変温しつつ送風手段160が送風することで、変温した気体が試料SAに直接当たる。これにより、試料SAを目標温度Tg1に素早く変温させることができる。さらに、試料SAを目標温度Tg1に変温させた後において、試料保持室123と恒温室124とが遮断した状態で、変温手段150が恒温室124の温度を一定に保つようにする。すると、恒温室124の気体の熱が試料保持板120及び試料保持台122を介して、試料保持室123の気体及び試料SAに緩やかに伝わる。これにより、試料SAの温度は、目標温度から揺らぐことを抑制されて、一定に保たれる。
【0042】
また、第1実施形態にかかる恒温槽システム100は、線膨張係数測定装置(図示略)に組み込まれて、使用される。かかる線膨張係数測定装置によれば、試料SAを目標温度に素早く変温して、変温後においては一定に保って、試料SAの線膨張係数を素早く正確に測定し得る。
【0043】
さらに、本実施形態において、試料保持板120は熱伝導材料からなる。これにより、試料SAを目標温度Tg1に変温させた後において、試料SAの温度は、目標温度から揺らぐことをさらに抑制され得て、短時間で一定になる。また、試料保持板120が放熱板を有すると、試料SAの温度は、さらに短時間で一定になり得る。
【0044】
また、筐体110は、断熱材からなるので、恒温室124及び試料保持室123は外気から熱の影響を受けにくく、さらに、熱を筐体110の外へ逃がさないので、目標温度により安定して変温しつつ、一定に保つことができる。
【0045】
(第2実施形態)
次に、
図7〜11を用いて、第2実施形態にかかる恒温槽について説明する。
図7は、第2実施形態にかかる恒温槽の斜視図を示す。
図8及び10は、第2実施形態にかかる恒温槽の正断面図を示す。
図9は、第2実施形態にかかる恒温槽の側断面図を示す。
図11は、第2実施形態にかかる恒温槽の内部空間を示す。第2実施形態にかかる恒温槽は、第1実施形態にかかる恒温槽101と、筐体、試料保持室、送風手段のみ異なる。その他の構成は共通するため、同一の符号を付して説明する。
【0046】
図7、8、9及び11に示すように、恒温槽201は、筐体210と、試料保持室220とを含む。恒温槽201は、恒温槽101と同様に、制御装置(図示略)により制御される。筐体210は、筐体110と同様に、断熱材からなる略直方体状の筐体である。また、筐体210は、光透過窓211を側壁に有する。光透過窓211は、試料SAの光学的測定に対応するために、適宜、その設置位置や材料を変更してよい。筐体210は、試料保持室220の外側の空間を有する。この空間は恒温室224として機能する。
【0047】
試料保持室220は、支持脚121、121に支持されて筐体210の内部に設置されている。試料保持室220には、第1通気口125、第2通気口126が形成されている。試料保持室220は、試料保持板120と同様に、熱伝導性の高い熱伝導材料からなる。試料保持室220は、熱が恒温室224から試料SAに緩やかに伝導するように所定の厚みを有するとよい。また、試料保持室220は、可視光を透過する光透過窓221を側壁に有する。光透過窓221は、光透過窓211と同様に、試料SAの光学的測定に対応するために、適宜、その設置位置や材料を変更してよい。光学的測長手段を用いると、光透過窓211及び光透過窓221を介して、フタを開ける必要なく試料SAの長さを測定することができる。
【0048】
送風手段160は、筐体210の内部において、気体を少なくとも循環させることができる送風能力を有する必要なく、少なくとも恒温室224の気体を攪拌する程度の送風能力を有すればよい。送風手段160の送風方向は、恒温室224に向く。
【0049】
第2送風手段262は、第1通気口125に設置され、恒温室224の気体を試料保持室220に流入するように送風する。恒温室224の気体は試料保持室220に流入した後で、試料SAに当たる。また、第3送風手段263は、第2通気口126に設置され、試料保持室220の気体を恒温室224に向けて排出するように送風する。第2送風手段262及び第3送風手段263はそれぞれ制御信号を受けて、送風を開始、又は、停止する。
【0050】
連通遮断手段270、271は、試料保持室220の側壁に設置され、試料保持室220と恒温室224とを遮断(
図10参照)、又は連通(
図8参照)することができる。ここでは、連通遮断手段270、271としては、例えば、ブラインド型シャッタを利用する。ブラインド型シャッタは、開閉シャッタと比較して、小さなスペースで開閉動作を行うことができる。
図8は、ブラインド型シャッタが開いた状態を示す図である。
図8に示すように、連通遮断手段270、271が両方とも開のとき、送風手段160からの風は恒温室224に流れる。次いで、第2送風手段262からの風は第1通気口125を介して試料保持室220に流れる。最後に、第3送風手段263からの風は第2通気口126を介して恒温室224に流れる。以上より、送風手段160からの風は、恒温室224、第1通気口125、試料保持室220、第2通気口126、恒温室224の順に通過して、筐体110内部を循環する。一方、連通遮断手段270、271が閉じると、
図10に示すように、送風手段160が風を送っても、この風が恒温室124に流れるだけで、試料保持室220の内部や試料SAに直接当たらない。
【0051】
次に、恒温槽201の制御装置202(図示略)について説明する。制御装置202は、制御装置102と、送風連通遮断コントローラのみ異なる。恒温槽201の送風連通遮断コントローラ283(図示略)は、連通遮断手段270、271に加えて、第2送風手段262及び第3送風手段263を制御する。
【0052】
次に、第2実施形態にかかる温度制御方法について説明する。第2実施形態にかかる温度制御方法は、第1実施形態にかかる温度制御方法と、試料保持室連通ステップSF1、及び、試料保持室遮断ステップSF4にのみ異なる。試料保持室連通ステップSF1、及び、試料保持室遮断ステップSF4のみ説明する。
【0053】
試料保持室連通ステップSF1では、
図8に示すように、送風手段160が送風し、連通遮断手段270、271が試料保持室220と恒温室224とを連通し、さらに、第2送風手段262、第3送風手段263が送風を開始する。
【0054】
試料保持室遮断ステップSF4では、
図10に示すように、連通遮断手段270、271が試料保持室220と恒温室224とを遮断しつつ、さらに、第2送風手段262及び第3送風手段263が送風を停止する。
【0055】
以上より、第2実施形態にかかる恒温槽201によれば、上記した第1実施形態と同様に、試料保持室220と恒温室224とが連通した状態で、変温手段150が気体を変温しつつ、送風手段160、第2送風手段262、及び、第3送風手段263が気体を送風することで、変温した気体が試料SAに直接当たる。これにより、試料SAを目標温度Tg1に素早く変温させることができる。さらに、試料SAを目標温度Tg1に変温させた後において、試料保持室220と恒温室224とが遮断した状態で、変温手段150が恒温室124の温度を一定に保つようにする。すると、恒温室224の気体の熱が試料保持室220及び試料保持台122を介して、試料保持室123の気体及び試料SAに緩やかに伝わる。これにより、試料SAの温度は、目標温度から揺らぐことを抑制されて、一定に保たれる。
【0056】
また、第2実施形態にかかる恒温槽201は、上記した第1実施形態と同様に、制御装置(図示略)と共に、線膨張係数測定装置に組み込まれて使用される。線膨張係数測定装置は、上記した第1実施形態と同様に、複数の温度において、測定子Pにより試料SAを計測して、試料SAの線膨張係数を測定できる。
【0057】
また、第2実施形態にかかる恒温槽201では、送風手段160と第2送風手段262と第3送風手段263とが気体を循環させる送風能力を有していればよく、第2実施形態にかかる送風手段160の送風能力は、第1実施形態にかかる送風手段160と比較して、小さくても構わない。また、第1及び第2実施形態にかかる送風手段160の送風能力が同じであれば、筐体210は筐体110と比較して大きいものであってもよい。すなわち、恒温槽201は、恒温槽101と比較して、多種多様の形状及びサイズの試料について、適用することができる。
【0058】
なお、第2実施形態では、第3送風手段263を第2通気口126に設置したが、送風手段160と第2送風手段262とが気体を循環させる送風能力を有するのであれば、第3送風手段263の設置を省略しても構わない。
【0059】
(第3実施形態)
次に、
図12及び13を用いて、第3実施形態にかかる恒温槽について説明する。
図12及び13は、第3実施形態にかかる恒温槽の断面図を示す。第3実施形態にかかる恒温槽は、第1実施形態にかかる恒温槽101と、連通遮断手段のみ異なる。その他の構成は共通するため、同一の符号を付して説明する。
【0060】
図12に示すように、恒温槽301は、連通遮断手段370、371を含む。連通遮断手段370、371は、連通遮断手段170、171と同様に、試料保持板120と筐体110との間に設置される。連通遮断手段370、371は、試料保持室123と恒温室124とを遮断(
図12参照)、又は、連通(
図13参照)することができ、試料保持板120とほぼ同じ高さの位置において、試料保持板120を間にして両側にそれぞれ設けられている。連通遮断手段370、371は、第1通気口125、第2通気口126をそれぞれ閉じたり、開いたりすることができる。連通遮断手段370、371として、バタフライバルブのように、弁体をその弁軸を中心に90度回転させることで開閉する開閉シャッタを利用する。この弁体は、気体が通過することのできる通気性板状体を利用する。通気性板状体としては、例えば、パンチングメタルからなる板状体、金網からなる板状体、細かい穴を無数に有する穴開き板、又は、多孔質材料からなる板状体が挙げられる。
図13は、開閉シャッタが開いた状態を示す図である。
図13に示すように、連通遮断手段370、371が両方とも開のとき、恒温槽101と同様に、送風手段160からの風は、恒温室124、第1通気口125、試料保持室123、第2通気口126、恒温室124の順に通過して、筐体110内部を循環する。一方、連通遮断手段370、371が閉じると、
図12に示すように、送風手段160が風を送ると、この風の一部が恒温室124に流れる。一方で、送風手段160からの残りの風は連通遮断手段370を通過し、試料保持室123の内部や試料SAに直接当たる。
【0061】
以上より、第3実施形態にかかる恒温槽301によれば、恒温槽101と同様に、試料保持室123と恒温室124とが連通した状態で、変温手段150が気体を変温しつつ送風手段160が送風することで、変温した気体が試料SAに直接当たる。これにより、試料SAを目標温度Tg1に素早く変温させることができる。さらに、試料SAを目標温度Tg1に変温させた後において、試料保持室123と恒温室124とが遮断した状態で、変温手段150が恒温室124の温度を一定に保つようにする。すると、恒温室124の気体の熱が試料保持板120及び試料保持台122を介して、試料保持室123の気体及び試料SAに緩やかに伝わる。また、変温手段150が気体を変温しつつ送風手段160が送風することで、変温した気体の一部が試料SAに直接当たる。これにより、試料保持室123に流れる気体が減じ、試料SAに直接当たる風の量が減じ、試料SAの温度は、目標温度から揺らぐことを抑制されて、一定に保たれる。すなわち、試料保持室123に流れる気体の量の調整を適切にし得て、安定した温度制御を実現し得る。
【0062】
また、第1及び第2実施形態では、試料温度に基づいて変温手段150を制御したが、恒温室温度に基づいて変温手段150を制御してもよい。また、第1実施形態では、連通遮断手段170、171として開閉シャッタを用いたが、ブラインド型シャッタを用いてもよい。また、第2実施形態では、連通遮断手段270、271としてブラインド型シャッタを用いたが、開閉シャッタを用いてもよい。風が循環することを考慮すると、第1通気口125、第2通気口126の2つの通気口が有った方が好ましいが、気体が出入りすればよいので、第1通気口125、第2通気口126のいずれか一方を設置するだけでも構わない。
【0063】
また、第1及び第2実施形態では、変温手段150が恒温室124の気体を加熱又は冷却して、所定の温度に変温したが、変温手段150が筐体110自体を加熱又は冷却して、恒温室124の温度を変温してもよい。このように変温手段150が筐体110自体を加熱又は冷却する場合、筐体110としては、例えば、略直方体状の内側筐体と、この内側筐体を包む略直方体状の外側筐体とを備える二重構造の筐体を利用することができる。詳細には、内側筐体は熱伝導材料からなり、外側筐体は断熱材料からなる。また、変温手段150としては、例えば、ペルチェ素子を利用することができる。ペルチェ素子は内側筐体に設置され、恒温槽101の外部の電源に接続されており、電流を供給される。このような構成によれば、ペルチェ素子が内側筐体を加熱又は冷却することで、筐体110自体を加熱又は冷却して、恒温室124の温度を変温することができる。