(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0023】
<カメラモジュール用液晶性樹脂組成物>
本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物は、(A)液晶性樹脂、(B)板状充填剤、及び(C)共重合体を含有する。
【0024】
[(A)液晶性樹脂]
本発明で使用する(A)液晶性樹脂とは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーを指す。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することが出来る。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明に適用できる液晶性ポリマーは直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0025】
上記のような(A)液晶性樹脂の種類としては特に限定されないが、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましい。また、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルもその範囲にある。これらは60℃でペンタフルオロフェノールに濃度0.1重量%で溶解したときに、好ましくは少なくとも約2.0dl/g、更に好ましくは2.0〜10.0dl/gの対数粘度(I.V.)を有するものが好ましく使用される。
【0026】
本発明に適用できる(A)液晶性樹脂としての芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドとして特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンの群から選ばれた少なくとも1種以上の化合物を構成成分として有する芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルアミドである。
【0027】
より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上からなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(d)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド等が挙げられる。更に上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0028】
本発明に適用できる(A)液晶性樹脂を構成する具体的化合物の好ましい例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(I)で表される化合物、及び下記一般式(II)で表される化合物等の芳香族ジオール;テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、及び下記一般式(III)で表される化合物等の芳香族ジカルボン酸;p−アミノフェノール、p−フェニレンジアミン等の芳香族アミン類が挙げられる。
【化1】
(X:アルキレン(C
1〜C
4)、アルキリデン、−O−、−SO−、−SO
2−、−S−、及び−CO−より選ばれる基である)
【化2】
【化3】
(Y:−(CH
2)
n−(n=1〜4)及び−O(CH
2)
nO−(n=1〜4)より選ばれる基である。)
【0029】
本発明に用いられる(A)液晶性樹脂の調製は、上記のモノマー化合物(又はモノマーの混合物)から直接重合法やエステル交換法を用いて公知の方法で行うことができるが、通常は溶融重合法やスラリー重合法等が用いられる。エステル形成能を有する上記化合物類はそのままの形で重合に用いてもよく、また、重合の前段階で前駆体から該エステル形成能を有する誘導体に変性されたものでもよい。これらの重合に際しては種々の触媒の使用が可能であり、代表的なものとしては、ジアルキル錫酸化物、ジアリール錫酸化物、二酸化チタン、アルコキシチタンけい酸塩類、チタンアルコラート類、カルボン酸のアルカリ及びアルカリ土類金属塩類、BF
3の如きルイス酸塩等があげられる。触媒の使用量は一般にはモノマーの全重量に対して約0.001〜1質量%、特に約0.01〜0.2質量%が好ましい。これらの重合方法により製造されたポリマーは更に必要があれば、減圧又は不活性ガス中で加熱する固相重合により分子量の増加を図ることができる。
【0030】
上記のような方法で得られた(A)液晶性樹脂の溶融粘度は特に限定されない。一般には成形温度での溶融粘度が剪断速度1000sec
−1で10MPa以上600MPa以下のものが使用可能である。しかし、それ自体あまり高粘度のものは流動性が非常に悪化するため好ましくない。なお、上記(A)液晶性樹脂は2種以上の液晶性樹脂の混合物であってもよい。
【0031】
本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物において、(A)液晶性樹脂の含有量は、64〜78質量%である。(A)成分の含有量が64質量%以上であれば流動性、成形体表面の起毛抑制という理由で好ましく、(A)成分の含有量が78質量%以下であれば耐熱性という理由で好ましい。また、(A)成分の好ましい含有量は、66〜72質量%である。
【0032】
[(B)板状充填剤]
(B)板状充填剤は、平均粒子径が20〜50μmである。上記平均粒子径が20μm以上であると、カメラモジュールとして必要な機械強度、荷重たわみ温度が保持されやすく、成形体のそり変形抑制効果が高くなりやすく、50μm以下であると、成形体表面の起毛抑制効果が高くなりやすい。好ましい上記平均粒子径は23〜30μmである。なお、本明細書において、平均粒子径としては、レーザ回折/散乱式粒度分布測定法で測定した値を採用する。
【0033】
以上の形状を満足する板状充填剤であれば、何れの充填剤を用いることもできるが、(B)板状充填剤としては、マイカ、タルク、ガラスフレーク、各種の金属箔等が挙げられる。(B)成分として2種以上を用いてもよい。本発明においては(B)成分として、マイカ及びタルクを使用することが好ましく、マイカを使用することがより好ましい。
【0034】
(B)成分の含有量は、本発明のカメラモジュール用液晶性組成物において、20〜30質量%である。(B)成分の含有量が20質量%以上であると、ブリスターが発生しにくく、30質量%以下であると、成形体表面の起毛抑制効果が高くなりやすい。好ましい上記含有量は23〜27質量%である。
【0035】
[(C)共重合体]
(C)共重合体は、(C1)オレフィン系共重合体及び(C2)スチレン系共重合体から選択される少なくとも1種である。(C)成分をカメラモジュール用液晶性樹脂組成物に配合させることが、当該組成物を成形してなる成形体を超音波洗浄したときの、成形体表面の起毛を抑えることに寄与する。
起毛を抑える理由については明確になっておるわけではないが、ある一定量配合させることにより、成形体表面状態を変化させ、その変化が起毛を抑えることに寄与していると考えている。
【0036】
(C1)オレフィン系共重合体は、α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルとから構成される。
【0037】
α−オレフィンは特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等が挙げられるが、中でもエチレンが好ましく用いられる。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルは下記一般式(IV)で示されるものである。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルユニットは、例えばアクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル、イタコン酸グリシジルエステル等であるが、特にメタクリル酸グリシジルエステルが好ましい。
【化4】
【0038】
(C1)オレフィン系共重合体中の、α−オレフィンの含有量は87〜98質量%、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルの含有量は13〜2質量%であることが好ましい。
【0039】
本発明で用いる(C1)オレフィン系共重合体は、本発明を損なわない範囲で上記2成分以外に第3成分としてアクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、α−メチルスチレン、無水マレイン酸等のオレフィン系不飽和エステルの1種又は2種以上を、上記2成分100質量部に対し0〜48質量部含有してもよい。
【0040】
本発明の(C1)成分であるオレフィン系共重合体は、各成分のモノマー、ラジカル重合触媒を用いて通常のラジカル重合法により容易に調製することができる。より具体的には、通常、α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルをラジカル発生剤の存在下、500〜4000気圧、100〜300℃で適当な溶媒や連鎖移動剤の存在下又は不存在下に共重合させる方法により製造できる。また、α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステル及びラジカル発生剤を混合し、押出機の中で溶融グラフト共重合させる方法によっても製造できる。
【0041】
(C2)のスチレン系共重合体は、スチレン類とα,β−不飽和酸のグリシジルエステルとから構成される。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルについては、(C1)成分で説明したものと同様であるため説明を省略する。
【0042】
スチレン類としては、スチレン、α−メチルスチレン、ブロム化スチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられるが、スチレンが好ましく用いられる。
【0043】
本発明で用いる(C2)スチレン系共重合体は、上記2成分以外に第3成分として他のビニルモノマーを1種以上使用して共重合した多元共重合体であってもよい。第3成分として好適なものは、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、無水マレイン酸等のオレフィン系不飽和エステルの1種又は2種以上である。これらに由来する繰り返し単位を(C2)スチレン系共重合体中に40質量%以下導入した共重合体が(C2)成分として好ましい。
【0044】
(C2)スチレン系共重合体において、α,β−不飽和酸のグリシジルエステル含有量は2〜20質量%であり、スチレン類含有量は80〜98重量%であることが好ましい。
【0045】
(C2)スチレン系共重合体は、各成分のモノマー、ラジカル重合触媒を用いて通常のラジカル重合法により調製することができる。より具体的には、通常、スチレン類とα,β−不飽和酸のグリシジルエステルをラジカル発生剤の存在下、500〜4000気圧、100〜300℃で適当な溶媒や連鎖移動剤の存在下又は不存在下に共重合させる方法により製造できる。また、スチレン類とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル及びラジカル発生剤とを混合し、押出機の中で溶融グラフト共重合させる方法によっても製造できる。
【0046】
なお、(C)共重合体としては、(C1)オレフィン系共重合体が耐熱性の点で好ましいが、(C1)成分と(C2)成分との割合は、適宜、要求される特性に沿って選択することができる。
【0047】
(C)共重合体の含有量((C1)成分と(C2)成分との合計量)は、本発明のカメラモジュール用樹脂組成物において、2〜6質量%である。(C)成分の含有量が2質量%以上であることは、成形体表面の起毛抑制の点で必要であり、6質量%以下であることは流動性を損なわず、良好な成形体を得るという理由で必要である。より好ましい上記含有量は3〜5質量%である。
【0048】
[(D)カーボンブラック]
本発明に任意成分として用いる(D)カーボンブラックは、樹脂着色に用いられる一般的に入手可能なものであれば、特に限定されるものではない。通常、(D)カーボンブラックには一次粒子が凝集して出来上がる塊状物が含まれているが、50μm以上の大きさの塊状物が著しく多く含まれていない限り、本発明の樹脂組成物を成形してなる成形体の表面に多くのブツ(カーボンブラックが凝集した細かいブツブツ状突起物(細かい凹凸))は発生しにくい。上記塊状物粒子径が50μm以上の粒子の含有率が20ppm以下であると、成形体表面の起毛抑制効果が高くなりやすい。好ましい含有率は5ppm以下である。
【0049】
(D)カーボンブラックの配合量としては、カメラモジュール用液晶性樹脂組成物において、1〜5質量%の範囲が好ましい。カーボンブラックの配合量が1質量%未満であると、得られる樹脂組成物の漆黒性が低下し、遮光性に不安が出てくることになり、5質量%を超えると不経済であり、またブツ発生の可能性が高くなる。
【0050】
[その他の成分]
本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物には、本発明の効果を害さない範囲で、その他の重合体、一般に合成樹脂に添加される公知の物質、即ち、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤、及びシリカ、石英粉末等の粉状充填剤等も要求性能に応じ適宜添加することができる。
【0051】
また、本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない限り(B)板状充填剤以外に無機充填剤を含んでもよいし、(B)板状充填剤以外に無機充填剤を含まなくてもよい。(B)板状充填剤以外の無機充填剤としては、例えば、平均繊維径1.0μm以下、且つ平均繊維長が5〜50μmの繊維状充填剤や(B)成分以外の板状充填剤が挙げられる。以下、上記繊維状充填剤について、説明する。
【0052】
上記繊維状充填剤の平均繊維径は1.0μm以下であり、好ましい平均繊維径は0.3〜0.6μmである。上記平均繊維径が1.0μm以下であると、成形体表面の起毛抑制効果が高くなりやすい。なお、本明細書において、平均繊維径としては、実体顕微鏡画像をCCDカメラからPCに取り込み、画像測定機によって画像処理手法により測定された値を採用する。
【0053】
また、上記繊維状充填剤の平均繊維長は5〜50μmであり、好ましい平均繊維長は5〜30μmであり、より好ましい平均繊維長は7〜30μmである。上記平均繊維長が5μm以上であると、カメラモジュールとして必要な機械強度、荷重たわみ温度が保持されやすく、50μm以下であると、成形体表面の起毛抑制効果が高くなりやすい。なお、本明細書において、平均繊維長としては、実体顕微鏡画像をCCDカメラからPCに取り込み、画像測定機によって画像処理手法により測定された値を採用する。
【0054】
以上の形状を満足する繊維状充填剤であれば、何れの繊維を用いることもできるが、上記繊維状充填剤としては、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、更にステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属からなる繊維等の金属繊維等の無機質繊維状物質が挙げられる。上記繊維状充填剤として2種以上を用いてもよい。本発明においては上記繊維状充填剤として、チタン酸カリウム繊維を使用してもよい。
【0055】
上記繊維状充填剤の含有量は、本発明のカメラモジュール用液晶性組成物において、5〜14質量%であることが好ましい。上記含有量が5質量%以上であると、カメラモジュールとして必要な機械強度、荷重たわみ温度が確保されやすく、14質量%以下であると、成形体表面の起毛抑制効果が高くなりやすい。より好ましい上記含有量は7〜12質量%である。
【0056】
[カメラモジュール用液晶性樹脂組成物の調製]
本発明のカメラモジュール用樹脂組成物の調製は特に限定されない。例えば、上記(A)、(B)、及び(C)成分並びに任意で上記(D)成分及びその他の成分を配合して、これらを1軸又は2軸押出機を用いて溶融混練処理することで、カメラモジュール用液晶性樹脂組成物の調製が行われる。
【0057】
[カメラモジュール用液晶性樹脂組成物]
本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物中の(B)成分の形状と、配合される前の(B)成分の形状とは異なる。上述の(B)成分の形状は配合される前の形状である。配合される前の形状が上述の通りであれば、表面が起毛しにくいカメラモジュール用部品が得られる。
【0058】
上記のようにして得られた本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物は、溶融粘度が50Pa・sec以下であることが好ましい。流動性が高く、成形性に優れる点も本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物の特徴の一つである。ここで、溶融粘度は、シリンダー温度350℃、せん断速度1000sec
−1の条件で、ISO 11443に準拠した測定方法で得られた値を採用する。
【0059】
本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物は、荷重たわみ温度が200℃以上であることが好ましい。耐熱性に優れる点も本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物の特徴の一つである。なお、荷重たわみ温度はISO 75−1,2に準拠した方法で測定された値を採用する。
【0060】
<カメラモジュール用部品及びカメラモジュール>
上記カメラモジュール用液晶性樹脂組成物を用いて、カメラモジュール用部品を製造する。本発明の樹脂組成物を原料として用いれば、カメラモジュール用部品の表面が起毛しにくくなる。カメラモジュール用部品は、超音波洗浄されるため、超音波洗浄されても表面が起毛しにくいことが求められる。本発明の樹脂組成物を用いれば、カメラモジュール用部品の超音波洗浄をより強い条件で行っても、ゴミ等の原因となる脱落物が生じないか、ほとんど生じない。したがって、カメラモジュール用部品が完成品に組み込まれた後に、このカメラモジュール用部品の表面が起毛することにより生じるゴミで、完成品の品質に影響を与えることはほとんど無い。
【0061】
本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物を成形してなるカメラモジュール用部品について説明する。一般的なカメラモジュールの断面を
図1に模式的に示した。
図1に示す通り、カメラモジュール1は、基板10と、光学素子11と、リード配線12と、レンズホルダー13と、バレル14と、レンズ15と、IRフィルター16と、ガイド17とを備える。
【0062】
光学素子11は基板10上に配置されており、光学素子11と基板10との間はリード配線12で電気的に接続されている。
【0063】
ガイド17は、基板10上に配置され、レンズホルダー13は、ガイド17上に配置されており、ガイド17及びレンズホルダー13は、光学素子11を覆う。レンズホルダー13は頂部に開口が形成されており、この開口壁面には螺旋状の溝部が形成されている。
【0064】
バレル14は円筒状であり、円筒状の内部にレンズ15が略水平になるように保持されている。また、円筒の一端の側壁には螺旋状の凸部が形成されており、この螺旋状の凸部と、レンズホルダー13の開口壁面に形成された螺旋状の溝部とが螺合することで、バレル14はレンズホルダー13と連結する。また、円筒状のバレル14の一端を閉じるように、IRフィルター16が、バレル14の一端に配置される。
図1に示すように、IRフィルター16とレンズ15は略平行に並ぶ。
【0065】
図1に示すようなカメラモジュール1においては、レンズホルダー13が、レンズホルダー13に巻かれたコイル(図示せず)が発生する磁力とコイルの周囲に配置された永久磁石(図示せず)との作用によってガイド17上を上下することで、レンズ15と光学素子11との間の距離が変化する。この距離を調整することでカメラのフォーカス調整を行うことができる。
【0066】
上記のようなカメラモジュール1において、カメラモジュール用部品であるレンズホルダー13やバレル14を、本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物を原料として製造することができる。一般的な液晶性樹脂組成物はこれらの部品を製造するための原料として適さない。一般的な液晶性樹脂組成物を原料としてレンズホルダー13やバレル14を製造すると以下の問題を生じる。
【0067】
一般的な液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体は、高分子の分子配向が表面部分で特に大きいため成形体表面が起毛しやすく、この起毛は小さなゴミが発生する原因となる。この小さなゴミがレンズ15等に付着するとカメラモジュールの性能が低下する。
【0068】
レンズホルダー13、バレル14等のカメラモジュール用部品は、表面の埃や小さなゴミを除去する目的で、カメラモジュール1に組み込まれる前に超音波洗浄される。しかし、一般的な液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体の表面は起毛しやすいため、超音波洗浄すると表面が毛羽立つ。このような問題が生じることから、通常、液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体を超音波洗浄することはできない。
【0069】
上記のフォーカス調整は、レンズホルダー13が、レンズホルダー13に巻かれたコイル(図示せず)が発生する磁力とコイルの周囲に配置された永久磁石(図示せず)との作用によってガイド17上を上下することで行われる。このとき、一般的な液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体は、上記の通り、表面が起毛しやすいため、表面が剥離して剥離物が生じる可能性がある。この剥離物は小さなゴミとなりレンズ15等に付着してカメラモジュールの性能を低下させる可能性が高い。
【0070】
以上の通り、通常、液晶性樹脂組成物をレンズホルダー13やバレル14の原料として用いると不具合が生じやすいが、本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物は、成形体としたときに、この成形体を超音波洗浄しても起毛の問題がほとんど生じないほど成形体の表面状態が改良されているため、レンズホルダー13やバレル14の原料として好ましく用いることができる。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0072】
<材料>
液晶性樹脂(液晶性ポリエステルアミド樹脂):ベクトラ(登録商標)E950i(ポリプラスチックス(株)製)
繊維状充填剤1:大塚化学(株)製 ティスモN−102(チタン酸カリウム繊維、平均繊維径0.3〜0.6μm、平均繊維長10〜20μm)
繊維状充填剤2:日東紡(株)製 PF70E001(ミルドファイバー、平均繊維径10μm、平均繊維長70μm)
板状充填剤1:(株)山口雲母工業製AB−25S(マイカ、平均粒子径24μm)
板状充填剤2:松村産業(株)製 クラウンタルクPP(タルク、平均粒子径12.8μm、平均アスペクト比6)
オレフィン系共重合体:住友化学(株)製 ボンドファースト2C(エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(グリシジルメタクリレートを6質量%含有))
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製 VULCAN XC305(カーボンブラック、平均粒子径20nm、粒子径50μm以上の粒子の割合が20ppm以下、粒状)
【0073】
<カメラモジュール用液晶性樹脂組成物の製造>
上記成分を、表1に示す割合で二軸押出機((株)日本製鋼所製TEX30α型)を用いて、シリンダー温度350℃にて溶融混練し、カメラモジュール用液晶性樹脂組成物ペレットを得た。
【0074】
<溶融粘度>
実施例及び比較例のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物の溶融粘度を、上記ペレットを用いて測定した。具体的には、キャピラリー式レオメーター(東洋精機製キャピログラフ1D:ピストン径10mm)により、シリンダー温度350℃、せん断速度1000sec
−1の条件で、見かけの溶融粘度をISO 11443に準拠して測定した。測定には、内径1mm、長さ20mmのオリフィスを用いた。結果を表1に示す。
【0075】
<曲げ試験>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業社製 「SE100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、130mm×13mm×0.8mmの曲げ試験片を作製した。この試験片を用いて、ASTM D790に準拠し、曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。結果を表1に示す。
〔成形条件〕
シリンダー温度: 350℃
金型温度: 90℃
射出速度: 33mm/sec
保圧: 50MPa
【0076】
<荷重たわみ温度>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業社製 「SE100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、測定用試験片(4mm×10mm×80mm)を得た。その後、ISO 75−1,2に準拠した方法で荷重たわみ温度を測定した。なお、曲げ応力としては、1.8MPaを用いた。結果を表1に示す。
〔成形条件〕
シリンダー温度: 350℃
金型温度: 80℃
射出速度: 33mm/sec
【0077】
<成形体表面の起毛状態(表面起毛抑制効果)の評価>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業社製 「SE30DUZ」)を用いて、以下の成形条件で成形し、12.5mm×120mm×0.8mmの成形体を得た。この成形体を半分に切断したものを試験片として使用した。
〔成形条件〕
シリンダー温度: 350℃
金型温度: 90℃
射出速度: 80mm/sec
〔評価〕
半分に切断した成形体を3分間、室温の水中で超音波洗浄機(出力300W、周波数45kHz)にかけた。その後、超音波洗浄機にかける前後の成形体を比較して、成形体表面の毛羽立った部分の面積(起毛面積)を画像測定器((株)ニレコ製LUZEXFS)にて評価した。なお、評価面積は750mm
2(12.5mm×60mm)であり、上記評価面積に対する上記起毛面積の割合(%)を結果として用いた。結果を表1に示す。
起毛面積が少ないほど、起毛抑制効果が高い評価となる。
【0078】
<ブリスター発生サンプル数>
実施例及び比較例のペレットを、成形機((株)ソディック製 「TR−100EH」)を用いて、以下の成形条件で成形し、
図2に示す成形体サンプル(最大面積を有する部分の寸法:50mm×5mm×0.2mm)を得た。その際、ガスベントをグリスで塞いで、ガスの排出を困難にすることで、ブリスターを発生させやすくした。20個の成形体サンプルについて、ブリスターが発生しているか否かを目視で観察し、ブリスター発生サンプル数を確認した。結果を表1に示す。
〔成形条件〕
シリンダー温度: 350℃
金型温度: 140℃
射出速度: 150mm/sec
保圧: 75MPa
【0079】
<成形収縮率>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE−100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、測定用試験片(80mm×80mm×1mmt)を得た。1日静置したこの試験片の寸法を、
図3に示す流動方向測定箇所及び直角方向測定箇所で測定した。測定された試験片寸法と、上記測定箇所に対応する金型上の箇所における金型寸法とから、式:(金型寸法−試験片寸法)/金型寸法×100に従い、成形収縮率を求めた。なお、金型寸法は、流動方向で79.981mm、直角方向で79.994mmであった。結果を表1に示す。
〔成形条件〕
シリンダー温度: 350℃
金型温度: 80℃
射出速度: 33mm/sec
保圧: 50MPa
【0080】
<平面度>
【0081】
[平面度]
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE−100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、80mm×80mm×1mmの平板状試験片を5枚作製した。1枚目の平板状試験片を水平面に静置し、(株)ミツトヨ製のCNC画像測定機(型式:QVBHU404−PRO1F)を用いて、上記平板状試験片上の9箇所において、上記水平面からの高さを測定し、得られた測定値から平均の高さを算出した。高さを測定した位置は、平板状試験片の主平面上に、この主平面の各辺からの距離が3mmとなるように、一辺が74mmの正方形を置いたときに、この正方形の各頂点、この正方形の各辺の中点、及びこの正方形の2本の対角線の交点に該当する位置である。上記水平面からの高さが上記平均の高さと同一であり、上記水平面と平行な面を基準面とした。上記9箇所で測定された高さの中から、基準面からの最大高さと最小高さとを選択し、両者の差を算出した。同様にして、他の4枚の平板状試験片についても上記の差を算出し、得られた5個の値を平均して、平面度の値とした。結果を表1に示す。
〔成形条件〕
シリンダー温度: 350℃
金型温度: 80℃
射出速度: 33mm/sec
保圧: 50MPa
【0082】
【表1】
【0083】
表1に記載の結果から明らかなように、実施例のペレットを用いて製造した成形体は、超音波洗浄しても表面が毛羽立たないことが確認された。また、上記成形体は、ブリスター発生サンプル数が少なく、流動方向の成形収縮率が正であることが確認された。更に、上記成形体は、平面度の数値が小さかった。これらの結果から、実施例のペレットを成形してなる成形体は、比較例等の通常の液晶性樹脂組成物ペレットを成形してなる成形体と比較して、表面状態が大きく異なり、ブリスターが発生しにくく、寸法安定性が高く、そり変形が抑制されているといえる。
【0084】
また、実施例のペレットを用いて製造した成形体は、耐熱性に優れることが確認された。
【0085】
更に、実施例のペレットを用いて製造した成形体は、機械強度が高いことが確認された。よって、実施例のペレットを成形することで、機械強度が高く、具体的には、例えば、駆動の衝撃によって割れてしまう不具合が起こりにくいカメラモジュール用部品を製造することができる。