特許第6174518号(P6174518)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6174518硬質または半硬質ナチュラルチーズ及びその製造方法
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  • 特許6174518-硬質または半硬質ナチュラルチーズ及びその製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6174518
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】硬質または半硬質ナチュラルチーズ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/068 20060101AFI20170724BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20170724BHJP
   A23C 19/08 20060101ALI20170724BHJP
   A23L 35/00 20160101ALI20170724BHJP
【FI】
   A23C19/068
   A21D13/00
   A23C19/08
   A23L35/00
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-96673(P2014-96673)
(22)【出願日】2014年5月8日
(62)【分割の表示】特願2010-518920(P2010-518920)の分割
【原出願日】2009年6月30日
(65)【公開番号】特開2014-158499(P2014-158499A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2014年6月4日
【審判番号】不服-6429(P-6429/J1)
【審判請求日】2016年4月28日
(31)【優先権主張番号】特願2008-171013(P2008-171013)
(32)【優先日】2008年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】川端 史郎
(72)【発明者】
【氏名】城ノ下 兼一
(72)【発明者】
【氏名】小森 素晴
【合議体】
【審判長】 鳥居 稔
【審判官】 中村 則夫
【審判官】 莊司 英史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平2−308756(JP,A)
【文献】 特開平10−165092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10℃〜12℃で2〜3ヶ月熟成したときのホスホタングステン酸可溶性窒素含量がチーズ1gあたり2.0mg以上であり、ガラクトース含量が0.21重量%以上である、200℃〜300℃で2〜5分間の加熱調理により少なくとも一部又は全部に焼き目を生ずる、加熱調理食品用の硬質または半硬質ナチュラルチーズ。
【請求項2】
ガラクトース含量が0.32重量%以上である、請求項1に記載の硬質または半硬質ナチュラルチーズ。
【請求項3】
ガラクトース資化性を有しない乳酸菌の生菌を含む、請求項1または2に記載の硬質または半硬質ナチュラルチーズ。
【請求項4】
乳酸菌がラクトバチルス・ブルガリカスである、請求項3に記載の硬質または半硬質ナチュラルチーズ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の硬質または半硬質ナチュラルチーズを含む、加熱調理食品。
【請求項6】
ピザまたはグラタンである、請求項5に記載の加熱調理食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質または半硬質ナチュラルチーズ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々なナチュラルチーズが市場に流通しており、それぞれ特徴のある品質を有している。また、市場拡大を目的として消費者の要望に応じた品質を有するチーズが開発されている。そのような食品素材としてのナチュラルチーズの品質は、風味と加工調理特性とに大別される。
【0003】
チーズ品質を構成する風味としては、フレッシュ(非熟成)タイプのチーズにおいては「新鮮な乳の風味」や「さわやかな発酵風味」が主立ったものであり、熟成タイプのチーズにおいては「旨味成分や香りからなる熟成風味」として知られている。ここで「熟成風味」は、チーズカードを構成する乳脂肪や乳タンパク質が原料乳中の酵素、凝乳酵素、有用微生物由来の酵素等の働きにより分解され、様々な呈味物質や芳香物質に変化することにより生じる。有用微生物としては、乳酸菌、カビが例示されるが、多くのナチュラルチーズに共通して使用される乳酸菌の酵素が、チーズの風味形成に果たす役割は特に重要である。
【0004】
一般に、熟成に関与するペプチダーゼなどの酵素の種類は、乳酸菌の種類によって異なっており、また、その1菌体あたりの酵素量は、同じ菌種であっても株によって異なっている。従って、所望のチーズ風味を短期間で発現するために、チーズ製造者は乳酸菌の種類や株を選択してチーズ製造に使用している。
例えば、チェダーチーズやゴーダチーズのような硬質・半硬質チーズの製造に最もよく使用される乳酸菌スターターは、ラクトコッカス・ラクティス(具体的には、例えばLactococcus lactis subsp. lactisやLactococcus lactis subsp. cremoris)であり、優良株を選択して使用することで4から6ヶ月の間に十分に熟成されたチーズを製造することができる。
【0005】
一方で、この熟成期間を短縮したり、同じ期間内で熟成風味が更に向上したチーズを製造する、いわゆる熟成促進の技術が種々検討されており、例えば、乳酸菌スターターと同時に補助的な役割として、他の乳酸菌(アジャンクトスターターあるいはアジャンクトカルチャーと称される)を別途使用する製造方法がある(例えば、特許文献1〜3)。
【0006】
特許文献1においては、スターターとは別にラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)を用いることで、チェダータイプチーズの熟成を促進している。ただし、この文献では、ラクトバチルス・ヘルベティカスAGC1という特定の菌体のみについて扱っており、これ以外の菌体については比較検討を行っておらず、その効果については不明である。
【0007】
特許文献2には、スターターとは別に、150MPaにて加圧処理した乳酸菌の菌体を酵素調製物として添加し、チーズ製造における酸生成を抑制し且つ風味向上を図っている。酵素調製物として、ラクトバチルス・ヘルベティカスやラクトバチルス・ブルガリカスの加圧処理物が用いられている。加圧処理という特殊な処理を施すことで、菌体の酸生成能を消失させ、生成する酸による風味低下を抑制し風味向上を図っている。この場合、この方法で得られたチーズはチーズ中にガラクトースが蓄積しないため、チーズを調理した際には焼き目は付かない。
【0008】
また、特許文献3では、0.3%〜1.5%の低脂肪乳を原料としてスターターに加えて、ラクトバチルス・ブルガリカス、ストレプトコッカス・サーモフィラス、及びラクトバチルス・カゼイとを同時に併用し、これらが相俟って芳香成分の向上と早期熟成を達成している。この文献におけるチーズの製造方法は、スターターとは別に、3種の菌体を添加しなければならず、また、低脂肪乳を用いた際に問題となる風味向上を、この3種の菌体併用によって達成するものであり、ラクトバチルス・ブルガリカスのペプチダーゼ活性およびガラクトース資化性について何らの検討もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,976,975号明細書
【特許文献2】特開平7−236484号公報
【特許文献3】国際公開第82/03971号パンフレット
【0010】
これら従来技術においては、早期熟成や熟度を向上させることを目的としているが、低脂肪乳による風味低下を補う目的であったり、特殊な処理や複数種の組成が必要であったり、さらには所定の成果は収めているが、未だそのレベルはなお不十分であるなど、改善すべき課題はなお存在する。
【0011】
さらにまた、硬質または半硬質ナチュラルチーズにおいては、先に述べたようにチーズの品質としては熟成風味に加えて、加工調理特性も重要な要素であるところ、例えばスライス、シュレッド、粉状化といった加工のしやすさ、加熱したときの溶融性(とろけやすさ)や糸曳き、焼き目の付きやすさなどにおいても従来技術では改善すべき問題が存在しており、とりわけゴーダチーズ等の硬質または半硬質チーズにおいて加熱調理した際に焼き目を生じる適当なナチュラルチーズは存在しない。このため、焼き目を生じるチーズを別途ブレンドしたり、キシロースやデキストロースなどの他の食品素材や食品添加物を別途添加するなどの試みもあるといわれるが、この場合には、ゴーダチーズの熟成風味が弱められたり、製造コストが上がってしまうという問題点がある。なお、加熱調理した際に焼き目を生じるといわれる、フレッシュナチュラルチーズであるモッツァレラチーズを製造する際にラクトバチルス・ブルガリカスやストレプトコッカス・サーモフィラスなどが用いられるが、そもそもフレッシュナチュラルチーズの製造には、ペプチダーゼ活性を要さないため、一般にこれらの菌は同活性を有しない菌であり、したがって、硬質または半硬質ナチュラルチーズには適用されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の課題は、前記の問題を解決し、旨味成分や香りからなる熟成風味を十分に有するとともに、優れた加工調理特性と加熱調理時に所望の焼き目がつく硬質または半硬質ナチュラルチーズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意研究を進める中で、従来のゴーダチーズやチェダーチーズを製造する際に用いられてきたラクトコッカス・ラクティスは、原料乳中の乳糖を資化する際に、その構成糖であるグルコースとガラクトースの双方を利用してしまうために、これらのチーズでは、焼き目の原因といわれる所謂メーラード反応を起こさないことを見出したのを契機に、ペプチダーゼ活性を有しつつも、ガラクトース資化性を有しない乳酸菌を選択してチーズの製造に使用すれば、既存のアジャンクトスターター用乳酸菌と同様のチーズの熟成促進効果ばかりでなく、熟成風味が強く、また加熱調理時に焼き目の付く硬質または半硬質ナチュラルチーズが得られるとの新たな発想のもと、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、ペプチダーゼ活性を有し、ガラクトース資化性を有しないラクトバチルス・ブルガリカスを原料乳に添加することを含む、加熱調理により少なくとも一部又は全部に焼き目を生ずる硬質または半硬質ナチュラルチーズを製造する方法に関する。
【0015】
また本発明は、ラクトバチルス・ブルガリカスのペプチダーゼ活性が1.0E−09ABS/hr・CFU以上である、前記方法に関する。
【0016】
さらに本発明は、ラクトバチルス・ブルガリカスの生菌数が、チーズの1gあたり1.0E+06CFU以上である、前記方法に関する。
【0017】
また本発明は、ラクトバチルス・ブルガリカスがLactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus OLL1255株、または、Lactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus OLL1067株である、前記方法に関する。
【0018】
さらに本発明は、脂肪を除いた全重量中の水分率が45〜65%である、前記方法に関する。
【0019】
また本発明は、ホスホタングステン酸可溶性窒素含量がチーズ1gあたり2.5mg以上である、前記方法に関する。
【0020】
さらに本発明は、ガラクトースの含有量がチーズの1gあたり1.2mg以上である、前記方法に関する。
【0021】
また本発明は、原料乳にラクトコッカス・ラクティスを含んでなる乳酸菌スターターと、レンネットと、ペプチダーゼ活性を有するラクトバチルス・ブルガリカスとを添加してカードを調製し、得られたカードを成形し、成形したカードを熟成させることを含む、前記方法に関する。
【0022】
さらに本発明は、加熱調理が、シュレッドしたチーズをオーブンを用いて250℃〜270℃で3分間の加熱によるものである、前記方法に関する。
【0023】
また本発明は、前記の製造方法により製造された、硬質または半硬質ナチュラルチーズに関する。
【0024】
さらに本発明は前記の硬質または半硬質ナチュラルチーズを原料とするプロセスチーズ類に関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ペプチダーゼ活性を有するラクトバチルス・ブルガリカス、例えば、Lactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus OLL1255株、または、Lactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus OLL1067株を、アジャンクトスターターとして原料乳に添加してカードを作り、次いで成形したカードを所定条件下にて熟成することで、熟成風味が強く、かつ、好ましい焼き目を生じる硬質または半硬質ナチュラルチーズを提供することができる。
【0026】
とくに、本発明の方法によれば、短期間であっても十分な熟成が可能となる。
さらにまた、本発明による硬質または半硬質ナチュラルチーズは、シュレッド加工やスライス加工に適しており、ピッツァやグラタンなどの各種食品の素材として利用したり、プロセスチーズの原料に利用することで、食品に豊かな熟成風味と加熱調理時の焼き目を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1はチーズ中の熟度指標物質の変化を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に述べる個々の形態には限定されない。
【0029】
本発明において、焼き目(あるいは焦げ目)とは、所定温度以上、所定時間以上の条件下で、例えば、シュレッドしたチーズをオーブンを用いて、200℃〜300℃で2〜5分間、好ましくは250℃〜270℃で3分間、加熱調理した時にチーズ表面の一部または全部がうすく焦げてきつね色になることを意味する。
【0030】
チーズにおける焼き目の発現メカニズムについては、加熱調理した際に、チーズ中の糖とアミノ酸とがメーラード反応を起こすことによるが、例えば、モッツァレラチーズを製造する際に用いられる、ラクトバチルス・ブルガリカスやストレプトコッカス・サーモフィラスは、原料乳中の乳糖を資化する際に、その構成糖であるグルコースのみを利用し、ガラクトースは利用しないために、チーズ中にガラクトースが残存し、加熱調理した際に焼き目を生じることが、本発明者らの研究においても分かっている。
【0031】
また、本発明において、硬質または半硬質ナチュラルチーズとは、熟成工程、圧搾工程などを含む従来の製法により製造されるナチュラルチーズを意味し、ゴーダチーズ、チェダーチーズ、エダムチーズなどの熟成硬質または半硬質チーズなどが例示され、典型的には、脂肪を除いた全重量中の水分率(NFFB%)が45〜65%であることが好ましく、更には50〜60%であることがより好ましい。また一般的に、NFFB%が49〜56%であるものを硬質ナチュラルチーズといい、またNFFB%が54〜69%であるものを半硬質ナチュラルチーズという。これらの範囲より低い場合には硬質すぎてしまい、反対にこの範囲以上の水分を含有すると軟らかすぎる。したがって、シュレッド加工、スライス加工に適していないチーズとなってしまう。
一般的には、パルメザンチーズのような一部の長期熟成特別硬質チーズは、熟成風味が強く、その硬くもろい組織のために、粉状に加工するのには適しているが、シュレッドしたりスライスしたりすることはできないところ、これらは本発明でいう硬質または半硬質ナチュラルチーズには当たらない。
【0032】
本発明において、ペプチダーゼ活性とは、硬質または半硬質ナチュラルチーズを製造する際に、タンパク質(ペプチド)を分解し、熟成風味に寄与する短鎖ペプチドやアミノ酸を生成する酵素の活性を意味し、ペプチダーゼ活性を有するとは、硬質または半硬質ナチュラルチーズ製造に必要な熟成をもたらすために十分なペプチダーゼ活性を有することを意味する。
【0033】
乳酸菌の一菌体あたりのペプチダーゼ活性は次のように測定した。乳酸菌を液体培地中で中和培養し、その定常期において菌体を回収した後、菌体を物理的に破砕し、菌体外に放出された酵素活性を測定した。これを破砕前後の菌数差で除して、一菌体あたりのペプチダーゼ活性を算出した。一菌体あたりのペプチダーゼ活性が高いラクトバチルス・ブルガリカスをアジャンクトスターター用乳酸菌の候補とし、これを用いて定法に従い、チーズを試作した。
【0034】
こうして求めたペプチダーゼ活性を指標として評価したところ、ペプチダーゼ活性が1.0E−09ABS/hr・CFU以上、好ましくは1.1E−09ABS/hr・CFU以上、さらに好ましくは1.2E−09ABS/hr・CFU以上のラクトバチルス・ブルガリカスを用いることで、本発明の加熱調理時に所望の焼き目を生じ、かつ十分な熟成風味を有する硬質または半硬質ナチュラルチーズを得ることができる。
【0035】
本発明において製造される硬質または半硬質ナチュラルチーズは、ラクトバチルス・ブルガリカスを生菌数として、好ましくは1.0E+06CFU/g(対チーズ)以上、より好ましくは1.0E+07CFU/g(対チーズ)以上、さらに好ましくは1.0E+08CFU/g(対チーズ)以上含む。この数以上の菌体となるように、スターター培養液を添加し、熟成することにより、好ましい熟成促進効果および熟成風味が得られる。
【0036】
本発明で用いるラクトバチルス・ブルガリカスとしては、Lactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus OLL1255株、または、Lactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus OLL1067株が挙げられる。
【0037】
本発明で用いるLactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus OLL1255株は下記の条件で国際寄託されている。
(1) 受領機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター
(2) 連絡先:〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8
電話番号0438−20−5580
(3) 受領番号:NITE BP−76
(4) 識別のための表示:Lactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus OLL1255
(5) 原寄託日: 平成17年 2月10日
(6) 国際寄託日: 平成21年 4月 30日
【0038】
本発明で用いるLactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus OLL1067株は下記の条件で寄託されている。
(1) 受領機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター
(2) 連絡先:〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8
電話番号0438−20−5580
(3) 受領番号:NITE BP−732
(4) 識別のための表示:Lactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus OLL1067
(5) 原寄託日: 平成21年 4月1日
(6) 国際寄託日: 平成21年 4月 30日
【0039】
本発明において、ラクトバチルス・ブルガリカスと組み合わせて、1または2以上の乳酸菌を用いてもよい。本発明において乳酸菌とは、乳酸を多量に産生する菌を全て含み、具体的には、Lactobacillus属、Lactococcus属、Streptococcus属、Enterococcus属、Pediococcus属、Leuconostoc属、Bifidobacterium属に属する菌などが例示でき、目的とするチーズに合わせて適宜組み合わせることができる。本発明では、例えば、ラクトバチルス・ブルガリカスと組み合わせてLactococcus属を用いることが好ましく、中でも、風味の観点から、ラクトコッカス・ラクティス、ラクトコッカス・ラクティス・クレモリスが好ましい。
【0040】
本発明において用いられるラクトバチルス・ブルガリカスと他の乳酸菌との配合比は特に限定されず、目的とするチーズに合わせて適宜組み合わせることができる。例えば、熟成をより促進したい場合や焼き目を強くしたい場合には、他の乳酸菌よりもラクトバチルス・ブルガリカスの配合比を高めれば良い。
【0041】
本発明のチーズは、熟成チーズの風味と好ましい焼き目を生じる品質を併せ持っており、ピザ・グラタン等の加熱調理食品に利用できる。また、熟成チーズの豊潤な風味やコクを併せ持っていることから、そのまま喫食しても美味なチーズである。
【0042】
本発明よる硬質または半硬質ナチュラルチーズの脂肪分は特に限定されないが、例えば固形分中脂肪分として2〜65%であり、好ましくは10〜60%であり、さらに好ましくは40〜55重量%である。
【0043】
本発明において、原料乳とは、牛乳、やぎ乳、生めん羊乳などが挙げられるが、これら全乳だけでなく、濃縮乳、成分調整乳、部分脱脂乳、脱脂乳あるいはバターミルク、クリーム等も用いることができる。
本発明において用いられる原料乳の乳脂肪分は特に限定されないが、例えば0.1〜4重量%であり、好ましくは0.5〜4重量%であり、さらに好ましくは1〜4重量%である。
【0044】
本発明による硬質あるいは半硬質ナチュラルチーズのホスホタングステン酸(以下PTAと略称する)可溶性窒素含量は、2.0mg/g以上(対チーズ)であり、好ましくは2.5mg/g以上(対チーズ)であり、さらに好ましくは3.0mg/g(対チーズ)以上である。PTA可溶性窒素含量がこの範囲にある場合に、本発明のチーズは高く深みのある熟成風味を呈することになる。
硬質あるいは半硬質ナチュラルチーズは、通常の熟成工程の条件下、例えば10℃で熟成した場合、通常では8〜9ヶ月で上記のPTA可溶性窒素含量を達成するが、本発明による硬質あるいは半硬質ナチュラルチーズでは2〜3ヶ月の熟成期間で達成することができる。また、12℃で熟成した場合では、通常では5〜6ヶ月の熟成期間を要するところが、本発明では2〜3ヶ月に短縮できる。
【0045】
本発明において用いられるPTA可溶性窒素とは、タンパク質が酵素によって分解されることで生成された、分子量約600以下の短鎖ペプチドやアミノ酸に含まれる窒素を定量化したものであって、熟成の進行と共に増加する。これらの短鎖ペプチドやアミノ酸は、熟成チーズのコクのある風味に寄与しているために、PTA可溶性窒素は熟成度合いの指標となる。
【0046】
なおPTA可溶性窒素は以下の方法によって測定し、得られた値がチーズ1g当たりのアミノ態窒素となる。
(1) 試料5gに、約50℃に加温した0.05Mクエン酸ナトリウム・二水和物溶液を60ml加え、回転式ホモゲナイザーUltra Traxを用いて8000rpmで約3分間、ホモジナイズする。
(2) ホモゲナイザーを蒸留水で洗いこみながら試料を100gとする。
(3) スターラーで攪拌しながら、6規定塩酸溶液でpH4.40±0.05に調整し、生じた脂肪層を除く。残った溶液を3000rpm、5分間の遠心分離にかける。
(4) 上清を東洋ろ紙No.5Aで濾過し、濾液から10mlを採取する。
(5) これに25%硫酸溶液を6ml、12.5%PTA溶液を4ml加えてよく攪拌した後、16時間、室温で放置する。
(6) これを再び東洋ろ紙No.5Aで濾過し、濾液を2ml取り、ケルダール法により窒素を定量する。
【0047】
本発明による硬質または半硬質ナチュラルチーズは、従来のゴーダチーズやチェダーチーズなどでは得られなかった、加熱調理時の焼き目を生じるものである。特別な焼き目を付与するための食品添加物などを用いず、アジャンクトスターターとして、本発明の所定のペプチダーゼ活性を有するラクトバチルス・ブルガリカスを併用することで、好ましい焼き目を生じるチーズを製造することができる。
【0048】
本発明による硬質または半硬質ナチュラルチーズは、ガラクトース含量が0.12重量%以上であり、好ましくは0.15重量%以上、さらに好ましくは0.20重量%以上である。ガラクトース含量がこの範囲にある場合に、本発明のチーズは加熱調理時の適度な焼き目を生じるものとなる。
【0049】
本発明による硬質または半硬質ナチュラルチーズの製造方法としては、所定のペプチダーゼ活性を有するラクトバチルス・ブルガリカスをチーズの製造に際して添加し、その後熟成することで得ることができる。添加の時期については、製造工程中のどの時期であってもよいが、よりチーズ内に均一に取り込ませる観点から、レンネット添加以前に原料乳に添加してよく撹拌するのが望ましい。
【0050】
ナチュラルチーズにはその種類に応じて固有の製造方法があり、特に製造工程中の温度、時間、pHの履歴を従来の標準的な範囲内に調整して製造されることが多い。本発明で得られるチーズは、熟成後に施されるシュレッド加工やスライス加工における加工適性が優れていることが望ましい。そのためには、従来からあるゴーダチーズやチェダーチーズと同様の適正な物性、つまり硬さや弾力性を有している必要がある。それには、チーズ製造の各工程における酸生成の度合いがコントロールされていることが望ましい。例えば、チェダーチーズでは原料乳にレンネットを添加してから、4ないし5時間後にカードのpHが5.40から5.30に達しており、そこに食塩を添加するのが一般的である。添加する乳酸菌の量によってチーズ製造中の酸生成は影響を受けるため、ラクトバチルス・ブルガリカスの添加量は、この製造工程中の標準的な温度、時間、pHの履歴を外れないように決定するのが望ましい。
【0051】
また、本発明の硬質または半硬質ナチュラルチーズを主原料に使用したプロセスチーズ類とは、プロセスチーズ、プロセスチーズフード、チーズスプレッド、チーズディップ、チーズデザート等の製品をいう。
本発明の硬質または半硬質ナチュラルチーズを主原料に使用したプロセスチーズ類は、通常のプロセスチーズ類と同様にして製造することが可能である。原料チーズとしては、本発明によるの硬質または半硬質ナチュラルチーズを少なくとも1種以上用いる。また、安定剤、溶融剤、食塩、香料、着色料等、プロセスチーズ製造において常用される原料を用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、本明細書において%表示は明示しない場合には重量%を示す。
【0053】
[実施例1:ペプチダーゼ活性の測定]
ラクトバチルス・ブルガリカス菌を表1に示した培地に接種し37℃で攪拌しながらpH5.0において中和培養を行なった。中和には6規定の水酸化ナトリウムを使用した。22時間後に培養物を遠心分離(10000G、10分間)して約10倍の菌体濃縮液を得た。この菌体濃縮物20gに直径0.3mmのガラスビーズ15gを加えて、ビーズショッカーにて2500rpm、10分間の破砕操作を行ない、菌体破砕液を得た。この菌体破砕物2gに37℃に保温した抽出用バッファー8mlを加え、ホモゲナイザーUltraTraxRにより9500rpmで1分間ホモゲナイズした。なお、抽出用バッファーの組成は、50mMリン酸カリウムバッファー(pH7.0、37℃)、30%(w/v)スクロース、150mM塩化ナトリウムである。ホモゲナイズ後、溶液(約10g)を4℃、8000Gで10分間遠心分離し、上清を東洋ろ紙No.2で濾過し、濾液を酵素活性測定用のサンプル液とした。
【0054】
【表1】
【0055】
酵素活性測定の基質には、アミノ酸のp−ニトロアニリド(以下、p−NAと略す)誘導体であるLys−p−NAを用いた。5mlのガラスチューブに、100μlの20mMアミノ酸p−NA溶液、1.8mlの100mMリン酸カリウムバッファー(pH7.0、37℃)を入れ37℃に保温した。ここにサンプル液100μlを注入し、反応を開始した。0、2、4時間後に反応停止液(30%(w/v)酢酸)1.0mlを注入し酵素反応を停止させた。反応停止後10000rpmで5分遠心分離し、上清の410nmの吸光度を測定した。ペプチダーゼ活性によって遊離したp−NAは410nmに極大吸収を持つ。時間当たりの吸光度の変化を菌体破砕前後の菌数差で除して、一菌体あたりのペプチダーゼ活性を算出した。単位は、ABS/hr・cfuとした。
【0056】
4株のラクトバチルス・ブルガリカスについて、一菌体あたりのペプチダーゼ活性を測定した。対照として、チェダーチーズチーズのメインスターターとして使用されることも多いラクトコッカス・ラクティスの複合菌(R−604、クリスチャン・ハンセン社製)、及び、特許文献1に使用されているラクトバチルス・ヘルベティカスAGC1株についてペプチダーゼ活性を測定した。得られた結果を表2に示した。表2に示すように、ラクトコッカス・ラクティスに比べて、ラクトバチルス・ブルガリカスの酵素活性は高いことが判る。さらにラクトバチルス・ブルガリカスのなかでもOLL1255株とOLL1067株は、ラクトバチルス・ヘルベティカスと概ね同等の酵素活性を示すことが判った。
【0057】
【表2】
【0058】
[実施例2:熟成促進効果]
ラクトバチルス・ブルガリカスOLL1255株をアジャンクトスターター用乳酸菌として使用し、以下の方法に従ってチーズを製造した。
チーズ中の固形分中脂肪率が52%となるように調整した原料乳を63℃で30分間の加熱殺菌を行った後、32℃まで冷却し、0.01%塩化カルシウムを添加した。次に、これらの原料乳に市販の乳酸菌スターター(ラクトコッカス・ラクティスの複合菌、R−604、クリスチャン・ハンセン社製)0.7%、ラクトバチルス・ブルガリカスOLL1255株(1.0E+08CFU/g(対スターター培養液))0.7%、及び、力価15,000ユニットのカーフレンネット(クリスチャン・ハンセン社製)0.003%を添加して乳を凝固させた後、カッテングしてホエイpHが6.2〜6.1となるまで攪拌し、ホエイを排出し、カード粒を得た。次にこのカード粒をチェダリングし、pHが5.40になった時点で加塩して型詰めして圧搾し、チェダーチーズタイプのナチュラルチーズを製造した(本発明品1)。なお、製造直後のラクトバチルス・ブルガリカスOLL1255株の生菌数は、1.2E+08CFU/g(対チーズ)であった。
【0059】
同様の手順に従い乳酸菌スターターとして、ラクトバチルス・ブルガリカスOLL1255株に代えて、ラクトバチルス・ブルガリカスOLL1067株(1.0E+08CFU/g(対スターター培養液))を0.7%添加して、チェダーチーズタイプのナチュラルチーズを製造した(本発明品2)。なお、製造直後のラクトバチルス・ブルガリカスOLL1067株の生菌数は、1.6E+08CFU/g(対チーズ)であった。
【0060】
同様の手順に従い乳酸菌スターターとしてR−604を1.4%のみを添加して、チェダーチーズタイプのナチュラルチーズを製造した(対照品)。もう一つの対照品として、ラクトバチルス・ブルガリカスOLL1255株に代えてラクトバチルス・ヘルベティカスAGC1株を0.2%添加したチーズを試作した。
【0061】
本発明品と対照品のチェダータイプナチュラルチーズを12℃で4ヵ月熟成させて、熟成完了チーズとし、チーズの熟度指標として用いられているPTA可溶性窒素含量を測定した。1,2,4ヶ月目におけるPTA可溶性窒素含量の経時変化を図1に示した。あわせて本発明品と対照品について5名の専門パネルによる官能評価を実施した。得られた結果を表3に示した。これによると、本発明によるアジャンクトスターター用乳酸菌を用いていない対照品と比べて、本発明品1及び本発明品2のチーズ中のPTA可溶性窒素含量は約2倍多く、官能評価における熟成風味のスコアも有意に高かった。また本発明品はアジャンクトスターター用乳酸菌として一般的に用いられているラクトバチルス・ヘルベティカスを添加した対照品とも概ね同等のPTA可溶性窒素含量を生成しており、官能評価における熟成風味のスコアも同等であった。尚、実施例2と同様な検討を、本発明品については同菌数の乳酸菌スターター1.0%を、対照品については、R−604を2.0%添加して、チェダータイプのナチュラルチーズを製造したところ、本発明品では、対照品と比較してPTA可溶性窒素含量が高く、強い熟成風味が得られた。さらに、ラクトバチルス・ブルガリカスOLL1255株やラクトバチルス・ブルガリカスOLL1067株を0.7%添加した場合と比較し、同菌株1.0%添加した場合では、よりPTA可溶性窒素含量が高く、熟成風味もより強かった。
【0062】
【表3】
【0063】
* 熟成風味強度のスコアリング方法
3・・・強い熟成風味がある
2・・・標準的な熟成風味がある
1・・・熟成風味に乏しい
0・・・チーズの熟成風味が無い
【0064】
[実施例3:熟成評価と焼き目評価]
実施例2と同様の方法により、チェダーチーズタイプのナチュラルチーズを製造した(本発明品及びアジャンクトスターター無添加の対照品)。これらのチェダータイプナチュラルチーズを12℃で3ヶ月熟成させて、熟成完了チーズとした。これらチーズ中のPTA可溶性窒素含量と糖含量(ガラクトース含量)を測定するとともに、あわせて5名の専門パネラーによる官能評価を行った。またチーズをハンディータイプのチーズシュレッダーでシュレッドし、その加工適性を評価するとともに、焼き目の発生状況を目視にて観察した。具体的には、チーズをチーズシュレッダーで幅約5mmにシュレッドし、その50gを約10cm×10cmの広さにアルミホイルの上で均一な厚さになるように広げた。これをオーブン(リンカーン社製ガス式コンベヤーオーブン、形式TU)を用いて250℃〜270℃で3分間加熱調理し、チーズ表面につく焼き目の程度を専門パネラーが4段階で評価した。
【0065】
また、チーズ中のガラクトース含量を以下の方法で測定した。
(1) 試料5gに、約50℃に加温した蒸留水を45ml加え、回転式ホモゲナイザーUltra Traxを用いて8000rpmで約3分間、ホモジナイズした。
(2) 懸濁液を簡易限外ろ過キット「ULTRACENT」でろ過して除タンパクした。
(3) この透過液をカラム:Shodex製糖分析用カラム「SP810」、移動層:水、検出器:示差屈折計からなる液体クロマトグラフィーで分析し、糖含量を測定した。
【0066】
上記各項目について得られた結果を表4に示した。
【0067】
【表4】
【0068】
* 熟成風味強度のスコアリング方法
3・・・強い熟成風味がある
2・・・標準的な熟成風味がある
1・・・熟成風味に乏しい
0・・・チーズの熟成風味が無い
【0069】
* 焼き目の評価方法
3・・・褐色の焼き目が全面に認められる
2・・・褐色の焼き目が部分的に認められる
1・・・うすい褐色の焼き目が部分的に認められる
0・・・焼き目が認められない
【0070】
表4に示すように、本発明品1は対照品と比べて、チーズ中のPTA可溶性窒素含量が約2倍多く、官能評価における旨味スコアも0.8ポイント高かった。また、チーズ中のガラクトース含量は、対照品では検出されなかったのに対して、本発明品1では0.32%のガラクトースが検出された。シュレッドしたチーズの加熱調理テストでは、本発明品1が好ましいきつね色の焼き目を呈したのに対し、対照品では全く焼き目が認められなかった。これはガラクトースの検出結果からも支持されるデータであることがわかる。なおチーズシュレッダーによる加工適性は、通常のチェダータイプチーズである対照品と同様に、本発明品1は良好であった。
【0071】
表4に示すように、本発明品2は対照品と比べて、チーズ中のPTA可溶性窒素含量が約2.5倍多く、官能評価における旨味スコアも0.9ポイント高かった。また、チーズ中のガラクトース含量は、対照品では検出されなかったのに対して、本発明品2では0.21%のガラクトースが検出された。シュレッドしたチーズの加熱調理テストでは、本発明品2が好ましいきつね色の焼き目を呈したのに対し、対照品では全く焼き目が認められなかった。これはガラクトースの検出結果からも支持されるデータであることがわかる。なおチーズシュレッダーによる加工適性は、通常のチェダータイプチーズである対照品と同様に、本発明品2では良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
上記の実施例が示すように、所定のペプチダーゼ活性を有するラクトバチルス・ブルガリカスを添加することによって、ラクトバチルス・ヘルベティカスを添加したときと同様に熟成促進することができる上、加熱調理した際に適度な焦げ目を呈する、加工適正に優れた硬質または半硬質ナチュラルチーズを製造することができる。よって、この種のチーズ製品に新たな商品価値を付与しうるものであり、産業上の利用可能性は大きい。
図1