特許第6174673号(P6174673)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6174673
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】構造用接着剤に基づく形状記憶材料
(51)【国際特許分類】
   C09J 163/00 20060101AFI20170724BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20170724BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20170724BHJP
   C09J 7/00 20060101ALI20170724BHJP
   C08L 63/00 20060101ALN20170724BHJP
   B62D 25/00 20060101ALN20170724BHJP
【FI】
   C09J163/00
   C09J11/08
   C09J11/06
   C09J7/00
   !C08L63/00
   !B62D25/00
【請求項の数】7
【外国語出願】
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-253367(P2015-253367)
(22)【出願日】2015年12月25日
(62)【分割の表示】特願2013-501772(P2013-501772)の分割
【原出願日】2011年3月25日
(65)【公開番号】特開2016-56377(P2016-56377A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2016年1月22日
(31)【優先権主張番号】10158077.7
(32)【優先日】2010年3月26日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506416400
【氏名又は名称】シーカ テクノロジー アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン・フィンター
(72)【発明者】
【氏名】マティアス・ゲーシ
【審査官】 佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−197413(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/129681(WO,A1)
【文献】 特開平03−294329(JP,A)
【文献】 特表2001−503099(JP,A)
【文献】 特開2003−201325(JP,A)
【文献】 特開2001−131354(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/016106(WO,A1)
【文献】 特表2009−520086(JP,A)
【文献】 特表2001−519845(JP,A)
【文献】 特表2011−529117(JP,A)
【文献】 特開昭62−240315(JP,A)
【文献】 特開平09−316169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
C08L 1/00−101/16
B62D25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i) 少なくとも1つのエポキシ樹脂Aと、加熱により活性化される、エポキシ樹脂用の少なくとも1つの硬化剤Bとを含む熱硬化性エポキシ樹脂組成物である、少なくとも一つの硬化性構造用接着剤、及び
ii) 少なくとも一つの化学的に架橋されたエラストマー
を含むこと
前記化学的に架橋されたエラストマーは貫入ポリマーネットワークとして前記構造用接着剤中に存在すること、並びに
前記架橋されたエラストマーは、
・少なくとも1つの天然ゴム又は合成ゴム、及び少なくとも1つのゴムのための架橋剤;及び
・少なくとも1つのポリイソシアネート、及び少なくとも1つのポリオール、
からなる群から選択されたエラストマーから形成されていることを特徴とする構造用部品のキャビティを補強するための補強要素に使用される形状記憶材料用の組成物。
【請求項2】
i) 少なくとも1つのエポキシ樹脂Aと、加熱により活性化される、エポキシ樹脂用の少なくとも1つの硬化剤Bとを含む熱硬化性エポキシ樹脂組成物である、少なくとも一つの硬化性構造用接着剤、及び
ii) 少なくとも一つの化学的に架橋されたエラストマー、
を含むこと、
前記化学的に架橋されたエラストマーは貫入ポリマーネットワークとして前記構造用接着剤中に存在すること、並びに
前記架橋されたエラストマーは、
・少なくとも1つの天然ゴム又は合成ゴム、及び少なくとも1つのゴムのための架橋剤であるエラストマーから形成されていることを特徴とする、組成物。
【請求項3】
前記架橋されたエラストマーは、
・少なくとも1つのポリイソシアネート、及び少なくとも1つのポリオールであるエラストマーから形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
・エポキシ樹脂Aを少なくとも1つの硬化剤Bと混合する段階、
・以下から選択されるエラストマーを添加し、かつ混合する段階
少なくとも1つの天然ゴム又は合成ゴム、及び少なくとも1つのゴムのための架橋剤;及び
少なくとも1つのポリイソシアネート、及び少なくとも1つのポリオール、
・前記エポキシ樹脂Aと前記エラストマーとを貫入ポリマーネットワークにする段階、
を含む、請求項1に記載の組成物を製造する方法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載の組成物を含む、成形された物品(3)。
【請求項6】
請求項5に記載の成形された物品(3)が取り付けられる支持体(5)を含む構造用部品のキャビティを補強する補強要素。
【請求項7】
支持体(5)が金属で覆われたプラスチックから作られることを特徴とする、請求項6に記載の補強要素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる形状記憶材料として形成される、硬化性構造用接着剤を含む組成物の範疇にある。さらに、本発明は、例えば車体などにおいて使用されるような、構造用部品のキャビティを補強するための補強要素に関する。
【背景技術】
【0002】
中空の構造用部品は様々な種類の構造体において頻繁に使用される。この種の構造体は、設計物の重量及び材料の消費を低く抑えることを可能にするが、この種の構造体において、安定性及び強度はしばしば損なわれる。さらに、キャビティは、中空部品の表面が大きいことに起因して、もしも水分又は泥が入った場合、腐食に対して大きな接触表面を提供する。例えば風又は振動によって起こる雑音も、キャビティ内で又はキャビティに沿って伝達され得る。
そのようなキャビティの形状及び/又は限られた寸法に起因して、それらを効果的に補強すること、それらを絶縁すること、又は雑音の伝導を制御することが難しい場合も多い。
【0003】
特に中空構造用部品の機械的性質を改良するために、部品内に局所的な補強要素を使用したり又は一体化することが非常に一般的である。そのような補強要素は、典型的には金属又はプラスチック又はこれらの材料の組み合わせからなる。接近するのが困難な位置において(これは例えば部品を設置した後にのみ補強又は密封され得る)、構造用発泡体がしばしば使用される。これは、例えば、車両構造又は車体の製造の場合である。膨らんでいない状態でキャビティ内に導入することができ、特に温度の増加によって後から発泡させることができるのが構造用発泡体の利点である。
【0004】
このようにして、キャビティの内壁は、カソードディップコーティングによる補強要素の取り付け後、かつ構造用接着剤の発泡によって補強された後でのみ、例えば完全に被覆され得る。このために、発泡は、オーブン中でカソードディップコーティング層を硬化する間典型的に実施される。
【0005】
そのような補強要素の不利な点は、構造用接着剤の機械的性質が発泡プロセスによって影響を受けることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許第EP08168009.2号明細書
【特許文献2】米国特許第6,322,890号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】IUPAC Compendium of Chemical Terminology,2nd Edition(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、従来技術の欠点を克服し、かつ構造用接着剤の機械的性質に影響を与えることなく、キャビティと補強要素との間のギャップを閉じることを可能にする補強要素を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
予想外なことに、この目的は下記の態様1に記載の組成物によって解決することができることが見出された。
【0010】
本発明による組成物が形状記憶材料を実現し得ることが見出され、この材料は特に温度の影響に起因してその形状を変化させ、結果的に、それに伴う体積の増加なしで、例えば発泡プロセスを通じて所定の方向に膨張する。
【0011】
本発明のさらなる局面は、追加の従属的態様の発明特定事項である。本発明の特に好ましい実施形態は、従属的態様の発明特定事項である。
すなわち、本発明の態様としては、以下の態様を挙げることができる:
《態様1》
i) 少なくとも一つの硬化性構造用接着剤、及び
ii) 少なくとも一つの化学的に架橋されたエラストマー、を含み、
化学的に架橋されたエラストマーは貫入ポリマーネットワークとして構造用接着剤中に存在することを特徴とする組成物。
《態様2》
硬化性構造用接着剤が、少なくとも1つのエポキシ樹脂Aと、高い温度で活性化される、エポキシ樹脂のための少なくとも1つの硬化剤Bとを含む熱硬化性エポキシ樹脂組成物であることを特徴とする、態様1に記載の組成物。
《態様3》
・少なくとも1つの硬化性構造用接着剤をエラストマー形成成分と混合する段階、
・混合物中のエラストマー形成成分をエラストマーに架橋して、構造用接着剤中で貫入ポリマーネットワークが形成されるようにする段階、によって得られる態様1又は2に記載の組成物。
《態様4》
エラストマー形成成分が、
・少なくとも1つの天然ゴム又は合成ゴム、及び少なくとも1つのゴムのための架橋剤、及び
・少なくとも1つのポリイソシアネート、及び少なくとも1つのポリオール、
からなる群から選択されることを特徴とする、態様3に記載の組成物。
《態様5》
貫入ポリマーネットワークとして構造用接着剤中に存在する化学的に架橋されたエラストマーが、エポキシ樹脂A及びエポキシ樹脂のための少なくとも一つのさらなる硬化剤Hから形成され、
・硬化剤Hは分子又はポリマーであり、エポキシド基と反応する官能基を有し、2よりも大きく5までの中程度の官能性及び平均等価重量40から2000g/eqを有し、
・硬化剤Hの活性化温度は硬化剤Bの活性化温度よりも低く、
・エポキシ樹脂Aのエポキシド基に対する硬化剤H及び硬化剤Bの全反応性基の化学量論比が0.9:1以上の範囲である、
ことを特徴とする態様2に記載の組成物。
《態様6》
硬化剤Bの反応性基に対する硬化剤Hの反応性基の化学量論比が1:1以上の範囲であることを特徴とする、態様5に記載の組成物。
《態様7》
硬化剤Hがアミノ基又はカルボキシ基を有するポリマーであり、前記ポリマーがポリオレフィン、ポリエーテル、ポリエステル、脂肪酸、脂肪酸アミド、及びアクリロニトリル比率が25mol%以上のアクリロニトリルブタジエンゴムからなる群から選択されることを特徴とする、態様5に記載の組成物。
《態様8》
硬化剤Hがポリエーテルポリアミンであることを特徴とする、態様7に記載の組成物。
《態様9》
・エポキシ樹脂Aを少なくとも1つの硬化剤Bと混合する段階、
・硬化剤Hを添加し、かつ混合する段階、
・エポキシ樹脂Aを硬化剤Hと変換させる段階、
又は、
・エポキシ樹脂Aを少なくとも1つの硬化剤H及び1つの硬化剤Bと混合する段階、
・エポキシ樹脂Aを硬化剤Bの活性化温度よりも低い温度で硬化剤Hと変換させる段階
を含む、態様5に記載の組成物を製造する方法。
《態様10》
・態様1から8の何れか一項に記載の組成物を、そのガラス転移温度Tgよりも高い温度に加熱する段階、
・化学的に架橋されたエラストマーの張力の下で、組成物を変形する段階、
・変形された組成物をそのガラス転移温度Tgよりも低い温度に冷却する段階、
を含む可逆的成形がされたことを特徴とする、成形された物品(3)。
《態様11》
態様10に記載の成形された物品(3)が取り付けられる支持体(5)を含む構造用部品のキャビティを補強する補強要素。
《態様12》
支持体(5)が金属で覆われたプラスチックから作られることを特徴とする、態様11に記載の補強要素。
【0012】
本発明の例示的な実施形態が図においてさらに詳細に説明される。異なる図面に示される同じ要素は、同じ参照記号で示される。もちろん、本発明はここに示されかつ記載される例示的実施形態に限定されない。
【0013】
図は本発明を直接理解するための重要な要素のみを示す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】その一時的な形状にある成形された物品又は組成物の製造の概略図である。
図2】補強要素の概略図である。
図3】組成物の形状変化及び硬化の概略図である。
図4】構造用部品のキャビティの補強の概略図である。
図5】構造用部品のキャビティ内の補強要素の概略図である。
図6】強化された構造用部品の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
第1の局面において、本発明は以下を含む組成物に関し、
i) 少なくとも一つの硬化性構造用接着剤、及び
ii) 少なくとも一つの化学的に架橋されたエラストマー、
ここで化学的に架橋されたエラストマーは貫入ポリマーネットワークとして構造用接着剤内に存在する。
【0016】
本明細書において、用語「貫入ポリマーネットワーク」には、IUPAC Compendium of Chemical Terminology,2nd Edition(1997)に従って、セミ相互貫入ポリマーネットワーク(SIPN)の以下の定義が使用される。それによれば、SIPNは少なくとも一つのネットワーク及び少なくとも一つの線形又は分岐ポリマーを含み、このポリマーは少なくとも部分的にネットワークに貫入する。本発明による組成物においては、エラストマーがネットワークを形成し、ポリマーは硬化性構造用接着剤の一部である。
【0017】
本明細書において、「化学的に架橋されたエラストマー」は、共有化学結合を通じて架橋されたエラストマーであると理解される。対照的に、熱可塑性エラストマーの架橋は物理的相互作用に基づく。化学的に架橋されたエラストマーは、それが適当な溶媒で膨潤するが溶解されない事実に起因して、熱可塑性エラストマーとは異なる。それとは逆に、熱可塑性エラストマーは適当な溶媒に完全に溶解する。
【0018】
化学的に架橋されたエラストマーの存在は、例えばASTM D 2765に従って、決定することができる。
【0019】
本明細書において、組成物のガラス転移温度Tgは、どちらが高いかに依存して、(特にエポキシ樹脂Aの)硬化性構造用接着剤のガラス転移温度、又は化学的に架橋されたエラストマーのガラス転移温度として理解される。固体エポキシ樹脂に基づく硬化性構造用接着剤の実施形態において、組成物のガラス転移温度Tgは通常固体エポキシ樹脂のガラス転移温度Tgに関連する。液体エポキシ樹脂に基づく硬化性構造用接着剤の実施形態において、組成物のガラス転移温度Tgは通常化学的に架橋されたエラストマーのガラス転移温度Tgに関連する。
【0020】
ガラス転移温度Tg及び融点は典型的にはDSC(示差走査熱量計)によって測定され、測定は5mgのサンプルで、180℃まで、10℃/分の加熱速度で、Mettler Toledo 822e装置で実施される。測定値はDSCソフトウエアを利用して測定されたDSC曲線から決定される。
【0021】
本発明による組成物は、「形状記憶材料」を表し、その製造及び加工の間特定の形状(「元々の形状」)に形成することができ、この形成の後、固体の整合性を有する、すなわち組成物はそのガラス転移温度Tgよりも低い温度で存在する。
【0022】
この形状において、構造用接着剤中に貫入ポリマーネットワークとして存在する化学的に架橋されたエラストマーは本質的に緩和される。必要に応じて、組成物はその後そのガラス転移温度Tgよりも高い温度に加熱され、任意の形状に成形される(「一時的形状」)。この一時的な形状において、エラストマーは歪んだ状態で存在する。組成物はこの一時的な形状に保たれ、組成物の温度は構造用接着剤のガラス転移温度Tgよりも低く、又は融点よりも低く、再度下げられ、組成物を一時的な形状で硬化させる。この一時的な形状において、組成物は保管されるとき安定であり、例えばパンチング又はカッティングなどの加工を施すことができる。もしも、その後になって、組成物がそのガラス転移温度Tgよりも高い温度に再加熱される場合、エラストマーはその緩和された形状を回復し、結果的に組成物全体がその元々の形状に変形される。
【0023】
したがって本発明は、本発明による組成物を含む形状記憶材料にも関する。
【0024】
特に、本発明による組成物は、室温(23℃)において固体であり、その元々の形状及びその一時的な形状における材料の最適な取り扱いを可能にする形状記憶材料である。
室温において固体である本発明による組成物は、室温よりも高いガラス転移温度Tgを有するべきである。他の方法では、その一時的な形状にされた後、本発明による組成物は、室温でのこの形状において、この一時的な形状において歪んだエラストマーを保持することができなかった。
好ましくは、本発明による組成物は23℃から95℃、好ましくは30℃から80℃、より好ましくは35℃から75℃の範囲のガラス転移温度Tgを有する。
さらに、好ましくは、本発明による組成物の表面は室温において粘着性ではなく、したがって取り扱いが容易である。
【0025】
特に、硬化性構造用接着剤は熱硬化構造用接着剤であり、好ましくは120℃から220℃の範囲、さらに好ましくは160℃から200℃の範囲の硬化温度を有する。
【0026】
もしも硬化性構造用接着剤が熱硬化性構造用接着剤である場合、組成物の加工中、一時的な形状に形成される間、組成物が硬化工程の開始する点まで加熱されないことを念頭に置いておかなくてはならない。
【0027】
最も好ましくは、硬化性構造用接着剤は少なくとも1つのエポキシ樹脂A、及び高い温度で活性化されるエポキシ樹脂のための少なくとも1つの硬化剤Bを含むエポキシ樹脂組成物である。特に、それは1成分エポキシ樹脂組成物である。
【0028】
エポキシ樹脂Aは、平均して、1分子あたり2つ以上のエポキシ基を有し、特に固体エポキシ樹脂又は固体エポキシ樹脂と液体エポキシ樹脂との混合物である。用語「固体エポキシ樹脂」はエポキシに関する当業者にはよく知られており、「液体エポキシ樹脂」の対語として使用される。固体エポキシ樹脂のガラス転移温度Tgは室温よりも高い。
【0029】
好ましい固体エポキシ樹脂は以下の化学式(I)を有する。
【化1】
【0030】
ここで、置換基R’及びR”は互いに独立に各々H又はCHを表す。さらに、記号sは1以上の値、特に1.5以上の値、より好ましくは2から12の値を表す。
【0031】
好ましい固体エポキシ樹脂は23℃から95℃、特に30℃から80℃、好ましくは35℃から75℃の範囲のガラス転移温度Tgを有する。
【0032】
そのような固体エポキシ樹脂は、例えばDow Chemical Company(USA)、Huntsman International LLC(USA)、又はHexion Specialty Chemicals Inc(USA)から市販されている。
【0033】
好ましい液体エポキシ樹脂は、特に固体エポキシ樹脂とともに使用することができ、以下の化学式(II)を有する。
【化2】
【0034】
ここで、置換基R’及びR”は互いに独立に各々H又はCHを表す。さらに、記号rは0から1の値を表す。好ましくは、rは0.2以下の値を表す。
【0035】
好ましくは、これらはビスフェノールAのジグリシジルエーテル(DGEBA)、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル、及びビスフェノールA/Fのジグリシジルエーテルである。ここで、用語「A/F」はアセトンと、その製造において開始材料として使用されるホルムアルデヒドとの混合物を示す。そのような液体樹脂は、例えばHuntsman International LLC(USA)から商品名Araldite(商標)GY250、Araldite(商標)PY304、Araldite(商標)GY282で、又はDow Chemical Company(USA)からD.E.R.(商標)331若しくはD.E.R.(商標)330で、又はHexion Specialty Chemicals Inc(USA)から商品名Epikote(商標)828若しくはEpikote(商標)862で市販されている。
【0036】
実施形態によれば、硬化性構造用接着剤において開始材料の一つとして使用されるエポキシ樹脂は液体エポキシ樹脂であってもよい。これは典型的には、硬化性構造用接着剤が形状記憶材料を形成するために少なくとも一つの化学的に架橋されたエラストマーを含むとき、このエラストマーの製造のためのポリマー成分、すなわちエラストマー形成成分、の化学的架橋が組成物のガラス転移温度Tgの増加をもたらし、それが材料の取り扱いに関して適切な範囲にあるようにするときの場合である。例えばこれは、もしも化学的に架橋されたエラストマーが少なくとも部分的に使用される液体エポキシ樹脂から形成される場合である。
【0037】
さらなる適切なエポキシ樹脂はいわゆるノボラックである。特に以下の化学式(III)を有する。
【化3】
【0038】
ここで、部分Xは水素原子又はメチル基を表す。部分Yは−CH−又は化学式(IV)の部分を表す。
【化4】
【0039】
さらに、添え字zは0から7の値、特に3以上の値を表す。
【0040】
特に、これらはフェノール又はクレゾールノボラックである(Yは−CH−を表す)。そのようなエポキシ樹脂は、Huntsman International,LLC,USAから商品名EPN又はECN及びTactix(商標)556として、又はDow Chemical Company,USAから製品シリーズD.E.N.(商標)として市販されている。
【0041】
好ましくは、エポキシ樹脂Aは化学式(I)の固体エポキシ樹脂を構成する。さらに好ましい実施形態において、熱硬化性エポキシ樹脂組成物は少なくとも一つの化学式(I)の固体エポキシ樹脂及び化学式(II)の少なくとも一つの液体エポキシ樹脂を含む。
【0042】
エポキシ樹脂Aの量の比率は、硬化性構造用接着剤の全重量に対して、好ましくは2から90重量%、特に5から70重量%、好ましくは10から60重量%である。
【0043】
エポキシ樹脂の硬化剤Bは高い温度によって活性化される。好ましくは、硬化剤Bは、ジシアンジアミド、グアナミン、グアニジン、アミノグアニジン、及びそれらの誘導体、置換された尿素、特に3−(3−クロロ−4−メチル−フェニル)−1,1−ジメチル尿素(クロロトルロン)、又はフェニル−ジメチル−尿素、特にp−クロロ−フェニル−N,N−ジメチル−尿素(モニュロン)、3−フェニル−1,1−ジメチル−尿素(フェヌロン)、3,4−ジクロロフェニル−N,N−ジメチル尿素(ジウロン)、及びイミダゾール及びアミン錯体からなる群から選択される硬化剤である。硬化剤Bとして特に好ましいのは、特に置換尿素と組み合わせた、ジシアンジアミドである。ジシアンジアミドを置換尿素と組み合わせる利点は、組成物の硬化を加速することである。
【0044】
好ましくは、硬化剤Bの比率は、硬化性構造用接着剤の全重量に対して、0.05から8重量%、特に0.1から6重量%、好ましくは0.2から5重量%である。
本明細書において用語「硬化剤」には触媒及び触媒活性を有する化合物も含まれる。この場合、触媒又は触媒活性を有する化合物が硬化剤Bとして使用されるとき、全硬化性構造用接着剤における硬化剤Bの比率が上述の数値範囲のうち低い範囲にあることは、当業者には明らかである。
【0045】
さらに、エポキシ樹脂組成物は少なくとも一つの耐衝撃性改良剤を含んでよい。
本明細書において、「耐衝撃性改良剤」はエポキシ樹脂マトリックスへの有機ポリマーの添加を意味し、添加は少量(すなわち典型的には0.1から20重量%)であり、強度の有意な増加をもたらし、したがって材料が裂けたり破れたりする前に高い衝突又は衝撃応力を受け入れることが可能である。
【0046】
適切な耐衝撃性改良剤は、当業者には知られている、特にニトリルゴム又はポリエーテルポリオールポリウレタン誘導体に基づく反応性液体ゴム、コアシェルポリマー及び同様のシステムを含む。適切な耐衝撃性改良剤は、参照によってここに含まれる欧州特許第EP08168009.2号明細書に耐衝撃性改良剤として記載される。
【0047】
硬化性構造用接着剤は、通常硬化性構造用接着剤において使用される、さらなる成分を含むことができる。
特に、硬化性構造用接着剤は少なくとも一つのフィラーをさらに含む。好ましくは、それはマイカ、滑石、カオリン、珪灰石、長石、閃長岩、緑泥石、ベントナイト、モンモリロナイト、炭酸カルシウム(沈殿又は粉砕)、ドロマイト、石英、ケイ酸(発熱性又は沈殿)、クリストバライト、酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、中空セラミック球、中空ガラス球、中空有機物球、ガラス球、顔料である。フィラーは、当業者に知られるような市販の形態の、有機物でコーティングされたもの、又はコーティングされていないものの双方を意味する。他の例としては、その内容が参照によってここに含まれる米国特許第6,322,890号明細書に記載されるような官能化アルモキサンが挙げられる。
有利には、フィラーの量の比率は、全硬化性構造用接着剤の重量に対して、1から60重量%、好ましくは5から50重量%、特に10から35重量%である。
【0048】
さらなる成分として、硬化性構造用接着剤は、特に例えばエアロゾル又はナノクレイなどのチキソトロピー剤、強度改良剤、反応性希釈剤、並びに当業者に知られる他の成分を含む。
典型的には、本発明による組成物は、組成物を発泡させる化学的推進剤又は他の物質を含まない。
【0049】
より好ましくは、硬化性構造用接着剤は1成分熱硬化性エポキシ樹脂組成物である。
【0050】
本発明による組成物は、貫入ポリマーネットワークとして構造用接着剤中に存在する少なくとも一つの化学的に架橋されたエラストマーを有する。
【0051】
化学的に架橋されたエラストマーは、硬化性構造用接着剤中にエラストマー形成成分を混合し、その後混合物内で架橋することによって組成物に添加され、貫入ポリマーネットワークをもたらす。
この目的で、エラストマー形成成分は、制御されたやり方で硬化性構造用接着剤の機能に悪影響を与えることなく、硬化性構造用接着剤との混合物中で架橋することができるどのような成分であってもよい。
特に、エラストマー形成成分は下記からなる群から選択される。
・少なくとも一つの天然又は合成ゴム、及び少なくとも一つのゴム用硬化剤、及び
・少なくとも一つのポリイソシアネート、及び少なくとも一つのポリオール。
【0052】
天然ゴム(すなわちイソプレン)に加えて、適切な合成ゴムとして典型的にはスチレンブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、特にアクリロニトリルの比率が25mol%以上の、アクリロニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、及びエチレンプロピレンジエンゴムが挙げられる。成分は硫黄によりラジカル的に又は当業者に知られる他の方法で架橋することができる。
【0053】
さらに、エラストマー形成成分はポリイソシアネート及びポリオールであってよく、これらは当業者にはよく知られている。特にポリイソシアネートは、例えばジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、1,6−ヘキサメチレン−ジイソシアネート(HDI)、又は1−イソシアナト−3,3,5−トリメチル−5−イソシアナト−メチルシクロヘキサン(IPDI)などの商業用ジイソシアネートである。
これらのポリオールは特に重合ポリオールであり、特に2官能又は3官能ポリオールである。適切な高分子ポリオールとして、典型的にはポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びこれらのポリオールの混合物が挙げられる。特に高分子ポリオールは500から5000g/molの分子量を有する。
【0054】
本発明による組成物を調製するとき、硬化性構造用接着剤は均一な混合物が得られるまでエラストマー形成組成物と混合される。もしも硬化性構造用接着剤がエポキシ樹脂Aとして固体エポキシ樹脂を含む場合、混合は固体エポキシ樹脂のガラス転移温度Tgよりも高い温度で行われる。
【0055】
もしも硬化性構造用接着剤が熱硬化性エポキシ樹脂組成物である場合、硬化剤が添加される前に、エラストマー形成成分と混合してよい。結果的に、混合の間、構造用接着剤を硬化させることなく、温度を熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化温度に、又はそれよりも高い温度に設定することができる。一般的には、温度が高いほどより効果的な混合が得られる。
【0056】
均一な混合物が得られた後、エラストマー形成成分は架橋され、それらが構造用接着剤中で貫入ポリマーネットワークとして存在するエラストマーを形成するようにする。
【0057】
化学的に架橋されたエラストマーの量の比率は、組成物の全重量に対して、好ましくは1から40重量%、特に10から20重量%である。
【0058】
本発明の好ましい実施形態において、化学的に架橋されたエラストマーは硬化性構造用接着剤の成分で形成される。
【0059】
この実施形態において、本発明による組成物は貫入ポリマーネットワークとして構造用接着剤中に存在する化学的に架橋されたエラストマーを有し、これはエポキシ樹脂A及びエポキシ樹脂のための少なくとも一つのさらなる硬化剤から形成される。
【0060】
硬化剤Hは分子又はポリマーであり、エポキシ基と反応する官能基を有し、特に2よりも大きく5までの中程度の官能性及び平均等価重量40から2000g/eqを有する。この場合、官能性はエポキシ基に対する官能性であると理解される。
さらに、硬化剤Hの活性化温度は上述の硬化剤Bの活性化温度よりも低い。好ましくは、硬化剤Hの活性化温度は少なくとも10℃、特に少なくとも20℃、好ましくは少なくとも30℃、硬化剤Bの活性化温度よりも低い。
また、エポキシ樹脂Aのエポキシ基に対する硬化剤H及び硬化剤Bの全反応性基の化学量論比は0.9:1以上の範囲である。
【0061】
硬化剤Hは分子又はポリマーであり、エポキシ基と反応する官能基を有する。典型的には、それはポリマーであり、このポリマーは特にポリオレフィン、ポリエーテル、ポリエステル、脂肪酸、脂肪酸アミド、及びアクリロニトリル比率が25mol%以上のアクリロニトリルブタジエンゴムからなる群から選択される。
本発明に関して、硬化剤Hが、組成物の残りの部分、特にエポキシ樹脂Aと混在する、エポキシ樹脂組成物に対する耐衝撃性改良剤として通常添加される既知のエラストマーで知られるような、ベース構造を有することが重要である。例えば、これはアクリロニトリル比率が特に25mol%未満の低いアクリロニトリル比率を有するアクリロニトリルブタジエンゴムの場合である。
典型的には、そのような硬化剤Hは柔軟性を高める。
【0062】
エポキシ基と反応する硬化剤Hの官能基は、特にアミノ基、カルボキシル基、カルボキシルアミド基、ヒドロキシ基、又は無水物基である。好ましくは、それらはアミノ基又はカルボキシ基又はフェノリックヒドロキシ基、好ましくはアミノ基又はカルボキシ基である。硬化剤Hと架橋された後、ただし硬化剤Bと架橋される前、組成物が良好な保存安定性を有するのでカルボキシ基は特に好ましい。この理由は、反応したアミン(したがって組成物中に3級アミンとして存在する)がエポキシ基のホモ重合を触媒し得るためである。
【0063】
ポリマーの平均官能性は2より大きく5までの範囲であり、特に2.5から5、好ましくは3から5の範囲である。ポリマーの平均等価重量は40から1000g/eq、特に40から1000、好ましくは50から800の範囲である。この意味において、等価重量は全ポリマーすなわち硬化剤Hの分子量の、その官能性すなわちエポキシ基と反応する官能基の数に対する比である。
【0064】
より好ましくは、硬化剤Hは、Huntsman International LLC、USAから例えば商品名Jeffamine(商標)、特にJeffamine(商標)D−230又はT−403で市販される、4,9−ジオキサドデカン−1,12−ジアミン又はポリエーテルポリアミンなどのジアミンであり、Croda International PLC、Englandから例えば商品名Pripol(商標)、特にPripol(商標)1040とで市販される、2量体又は3量体の脂肪酸である。
【0065】
本発明による組成物のこの好ましい実施形態においても使用される硬化剤Bは既に上述したとおりである。
特に、硬化剤Bの反応性基に対する硬化剤Hの反応性基の化学量論比は1:1以上の範囲である。
【0066】
形状記憶材料を作るための本発明による組成物に関して、一時的形状において可能な限り高い形態安定性を有すること、及び可能な限り完全な弾性回復を有することは必須である。具体的には、これは本発明による組成物が可能な限り長く、典型的には6月以上、一時的形状を保持することができること、かつもしも必要である場合、組成物のガラス転移温度Tgを超える温度に加熱することによって、組成物がその元々の形状を回復できること、を意味する。十分な弾性回復とは、典型的には、もしも5から10mmの高さを有する本発明による組成物の試験片が、高さにおいて50%まで変形されるとき、必要に応じて、元々の高さの80から100%に戻ることができる場合である。
【0067】
これは、本発明の好ましい実施形態に関して、本発明による組成物が、エポキシ樹脂A及びエポキシ樹脂のための少なくとも一つの硬化剤Hから形成される化学的に架橋されたエラストマーを有し、エポキシ樹脂Aと硬化剤Hとの架橋がこれらの性質を生じなくてはならないことを意味する。
逆に、エポキシ樹脂Aの残りのエポキシ基と硬化剤Bとの架橋が、構造用接着剤の十分な接着を生じることが確実にされる。理想的には、この実施形態において、本発明による組成物中の硬化剤Hの比率が、前記性質を有する形状記憶材料を形成するのに十分高い程度であればよく、可能な限り多くのエポキシ樹脂Aのエポキシ基が、硬化剤Bと硬化するために、すなわち接着を実現するために、使用できるようにする。
【0068】
好ましい実施形態を示す、本発明による組成物は以下の段階からなる方法で製造される。
・エポキシ樹脂Aを少なくとも1つの硬化剤Bと混合する段階、
・硬化剤Hを添加し、かつ混合する段階、
・エポキシ樹脂Aを硬化剤Hと反応させる段階、
又は、
・エポキシ樹脂Aを少なくとも1つの硬化剤H及び1つの硬化剤Bと混合する段階、
・エポキシ樹脂Aを硬化剤Bの活性化温度よりも低い温度で硬化剤Hと反応させる段階。
【0069】
特に、硬化剤Hは室温において、又は硬化剤Bよりも有意に低い温度でエポキシ樹脂と反応する硬化剤であり、本発明による組成物、すなわち形状記憶材料を製造するために熱エネルギーが全く必要ないか、又は殆ど必要ないようにする。
【0070】
他の局面において、本発明は可逆的な成形を施された成形された物品に関し、この成形は以下の段階を含む。
a)そのガラス転移温度Tgよりも高い温度に、上述のように、組成物を加熱する段階、
b)化学的に架橋されたエラストマーの張力の下で、組成物を変形する段階、
c)変形された組成物をそのガラス転移温度Tgよりも低い温度に冷却する段階。
【0071】
図1は、上述のような、エポキシ樹脂組成物に基づく組成物からの本発明による成形された物品の製造の概略を示す。
ここで、固体組成物1は、例えば製造においてそれが成形された元々の形状を有して、その初期状態Z1で存在する。第1段階において、組成物はその後温度ΔTだけ、そのガラス転移温度Tgよりも高い温度に、ただし熱硬化性エポキシ樹脂組成物の場合その硬化温度よりも低い温度に、加熱される。組成物がこの状態Z2にあるとき、力Fの衝撃によって、それはその一時的な、ただし未だ変形可能な形状2に成形される。状態Z3で示されるこの一時的な、未だ変形可能な形状において、化学的に架橋されたエラストマーは歪んだ形状を有する。組成物はこの一時的な形状に保持され、かつ組成物の温度は、そのガラス転移温度Tgよりも低い温度に、温度ΔTだけ再度下げられる。この工程において、組成物は硬化し、状態Z4で示されるその固体の一時的形状3で存在するようになる。この状態において、成形された物品として、保管されるとき組成物は安定であり、かつさらに加工することができる。例えば、成形された物品は、穿孔され、又は切断され、及び/又は、特に支持体に取り付けることができ、又は強化を必要とする構造用部品のキャビティ内に配置することができる。
【0072】
本発明による組成物の変形は、その一時的な形状に成形されるとき、典型的にはプレス、ロール、押出などにより行われる。変形に関して、変形された状態にある組成物を、それがその一時的な形状を保つように、そのガラス転移温度Tgよりも低い温度に冷却できることが重要である。
【0073】
他の局面において、本発明は上述のように成形された物品が取り付けられる支持体を含む構造用部品のキャビティを補強するための補強要素に関する。
【0074】
この支持体はどのような材料からなるものでもよい。特に、支持体はプラスチック、金属、又はプラスチックと金属との組合せからなる。
好ましいプラスチックは、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、及びポリオレフィン、及びポリオレフィンコポリマー、特にポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、又はポリエーテルスルホンなどの高温耐性ポリマーである。最も好ましいプラスチックは、PA6又はPA66などのポリアミド(PA)、ポリエチレン及びポリプロピレン、及びポリスチレン、及びアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)などのコポリマーである。好ましい金属はアルミニウム、鋼、ニッケル、及びそれらの合金である。さらに、金属は未処理の形態で存在してよく、又は、例えば腐食を防ぐために、若しくは接着性を改良するために、適切な物質で前処理されてよい。
さらに、支持体は任意の組成及び任意の構造を有してよい。それは、例えば、固体、中空、又は発泡体であってよく、又は格子構造を有してよい。典型的には、支持体の表面は平滑であってよく、凹凸を有してよく、又は構造を有してよい。
本発明による組成物のための、又はそれから製造される成形された物品のための、支持体としての機能に加えて、支持体は構造的な補強、又は部品の密閉、又は雑音の低減にも寄与することができる。
さらに支持体は、キャビティ内に補強要素を固定し、かつ配置する少なくとも一つの固定手段、特にクリップを有してよい。クリップによる補強要素の固定は、部品の全表面(すなわちキャビティ壁の内側に関しても)が例えばディップコーティングによって処理可能である用途に特に適する。そのような場合、コーティングが結合場所に達することができないので、例えば接着剤による固定は適していない。
【0075】
より好ましくは、支持体は金属で覆われたプラスチックからなる。ここで、上述の材料はプラスチック及び金属として好ましい。ここで、プラスチックを覆う金属は、どのような方法でプラスチックに付着されてもよい。固定は、例えば、鋲、ねじ、リベット、機械クリップ、クランプ、フランジなど固定のための機械的手段によって、又は金属とプラスチックの接着によって行われる。さらに、金属はプラスチックめっきによってプラスチックに塗布されてもよい。
【0076】
最も好ましくは、プラスチック支持体上の金属層の層厚が0.03から1.5mmである。
【0077】
支持体はプラスチックで作られ、金属で覆われ、完全に金属である支持体と比較して軽く、かつプラスチックの性質及び材料の選択及びその加工により、その機械的性質及び構造を非常に幅広く変えることができるという利点を有する。完全にプラスチックである支持体と比較した金属被覆の利点は、金属が通常より容易に接着するという事実である。金属被覆の他の利点は、熱硬化構造用接着剤の場合、金属層が非常に局所的かつ効果的な誘導によって加熱し得るという事実である。
【0078】
図2は、金属8で覆われた、プラスチックでできた支持体5を示す。ここで、金属は支持体に鋲9で取り付けられている。金属層の上に、その一時的な形状にある、本発明による組成物からなる成形された物品3が存在する。
【0079】
図3は、支持体5からなる、その初期状態Z4にある補強要素を概略的に示し、そこに本発明による組成物で作られた成形された物品3が、構造用接着剤としての熱硬化性エポキシ樹脂組成物で取り付けられ、化学的に架橋されたエラストマーはその一時的な形状にある。第1の段階において、成形された物品3は組成物のガラス転移温度Tgよりも高い温度に、温度ΔT加熱され、ここでエラストマーは緩和し成形された物品又は組成物1の、その元々の形状への変形をもたらす。これは図3のZ5に対応する。次いで、温度は、組成物が硬化する温度まで、さらにΔT増加される。硬化された組成物4は状態Z6に示される。
【0080】
温度の増加は、成形された物品の変形をもたらし、かつ構造用接着剤を硬化するために行われるが、2つの段階で起こる必要はない。2つの段階が安定した温度上昇により連続的に生じ得ることは明らかである。
【0081】
さらに、本発明は構造用部品のキャビティを補強するための上述のような補強要素の使用を含む。好ましくは、そのような構造用部品は車の車体及び/又はフレーム、及び特に水、陸、又は空の輸送手段に使用される。好ましくは、本発明は、自動車、トラック、鉄道車両、小型船、大型船、ヘリコプター、及び飛行機、最も好ましくは自動車における本発明による補強要素の使用を含む。
【0082】
本発明の他の局面は、構造用部品のキャビティを補強する方法に関し、以下の段階を含む。
a’)構造用部品のキャビティ内に上述の補強要素を配置する段階、
b’)補強要素上の成形された物品3を、組成物のガラス転移温度Tgを超える温度に加熱する段階であって、ここで成形された物品がその成形前の形状、すなわち元々の形状に戻る段階、
c’)硬化性構造用接着剤を硬化する段階。
【0083】
構造用部品のキャビティを補強するための前述の方法の実施形態において、補強要素の支持体が誘導加熱可能な金属又は誘導加熱可能な金属で被覆された材料で作られるという条件で、かつ硬化性構造用接着剤が熱硬化性構造用接着剤であるという条件で、段階b’)及びc’)は誘導により、すなわち誘導コイルの電磁交流場を用いて実施される。
【0084】
図3と同様に、図4は構造用部品6のキャビティ内の補強を概略的に示し、構造用部品の内側上に、支持体5及び熱硬化性構造用接着剤及びその一時的な形状にある化学的に架橋したエラストマーを有する本発明による組成物から作られた幾つかの成形された物品3を含む補強要素が取り付けられる。ここで、補強要素の支持体がクリップ7で構造用部品に取り付けられる。ここで、成形された物品又は組成物はその一時的形状(状態Z4)にあり、その後組成物のガラス転移温度Tgよりも高い温度に、温度ΔT加熱される。この工程において、エラストマーは緩和し、かつその元々の形状への成形された物品又は組成物1の変形をもたらし、それによって補強要素とキャビティとの間で開いていたギャップ10を閉じ、本発明による組成物はキャビティの内壁に付着する(状態Z5)。温度ΔTのさらなる温度上昇の後、熱硬化構造用接着剤は硬化する。図4、状態Z6、は硬化された組成物4を有する強化された構造用部品を示す。
【0085】
図5は、支持体5上に配置され、その一時的な形状3にある成形された物品又は本発明による組成物の変形の前に、構造用部品6のキャビティ10内に使用されるときの、補強要素を示す。
図6は、構造用部品6のキャビティに挿入された図5の補強要素を示し、この場合本発明による成形された物品又は組成物は既にその元々の形状に戻っており、構造用部品6の内壁に付着する。さらに、図6は硬化された組成物4を示す。
本発明による補強要素の形状及び構造は、その使用する場所に望ましいように選択することができる。
【0086】
さらに本願発明は、特に熱硬化によって、上述の組成物から、硬化工程から使用可能であるとき、硬化された組成物に関する。
【実施例】
【0087】
例示的な実施形態が以下に列記され、それらは上述の発明を詳細に説明する。もちろん、この発明は上述の例示的実施形態に限定されない。
【0088】
試験方法
一時的な形状にある材料の形態安定性は、標準天候(23℃/湿度50%)において7日間測定され(「緩和」)、元々の形状への弾性回復は標準天候での7日間の保管の後測定された。試験片の元々の形状の寸法は、10×10×6mm(l×w×h)であった。すなわち元々の形状の高さ(H)は6mmであった。高温で加圧しその後冷却することによって、試験片は高さ3mm(HTemp)を有する一時的形状に成形された。これは、50%の圧縮に相当し、結果的に回復のとき100%の高さに達することを可能にする。
【0089】
ここで緩和は、以下のように定義される。
【0090】
【数1】
【0091】
弾性回復は以下のように決定される。
【0092】
【数2】
【0093】
試験片の作成
例1及び2は、エポキシ樹脂組成物及びエポキシ樹脂成分から形成された化学的に架橋されたエラストマーに基づく構造用接着剤を表す。
【0094】
組成物1及び2は、40℃において高速ミキサーを用いて各々の重量%で表1による成分を混合することによって製造された。
【0095】
組成物3から6、並びに参照発泡体Refは、固体樹脂のガラス転移温度よりも高い温度で、又は化学的推進剤(Ref)の分解温度よりも低い温度で、二軸スクリュー押出機を用いて対応する重量パーセンテージで表2による成分を混合することによって製造された。
【0096】
例5及び6において、ポリオールは、当業者に知られる方法により、各々の組成物に添加する前に、ジイソシアネート、及び適切な場合には触媒と反応された。
【0097】
製造された組成物は、10×10×6mmの寸法を有する元々の形状にある試験片に加工される。その後、各々のエラストマーは90℃で1時間化学的に架橋された。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【符号の説明】
【0100】
1 元々の形状の組成物
2 組成物(変形可能)
3 成形された物品(一時的な形状)
4 硬化された組成物
5 支持体
6 構造用部品
7 クリップ
8 金属層
9 鋲
10 キャビティ
Z1 元々の形状にある組成物の状態
Z2 変形可能な組成物の状態
Z3 一時的な形状にある組成物の状態(成形された物品)
Z4 硬化された組成物の状態
ΔT 組成物のTgよりも低い温度と組成物のTgよりも高い温度との間の温度差
ΔT 組成物のTgよりも高い温度と組成物の硬化温度との間の温度差
図1
図2
図3
図4
図5
図6