(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電力供給システムを構築するにあたっては、電力送電網をさらに安定的に拡張していくことはもちろん、今後は大量の自然エネルギーを導入できるシステムにすることも大事な課題となってきている。そこで、新たな電力網としてデジタルグリッド(登録商標)という電力ネットワークシステムが提案されている(特許文献1:特許4783453号、非特許文献1:デジタルグリッドコンソーシアムのウェブサイト参照、http://www.digitalgrid.org/index.php/jp/)。
デジタルグリッド(登録商標)とは、電力網を小規模なセルに細分化し、それらを非同期に相互接続した電力ネットワークシステムである。各電力セルは、小さなものとしては一つの家やビル、商業施設であり、大きなものとしては県や市町村といった規模になる。各電力セルは、その中に負荷を有することはもちろん、発電設備や電力貯蔵設備を有する場合もある。発電設備としては、太陽光発電や風力発電、地熱発電などの自然エネルギーを利用する発電設備が例として挙げられる。
【0003】
各電力セルの内部で自由に発電したり、さらに、電力セル間でスムースに電力を融通し合うようにしたりするため、電力セル同士は非同期で接続されている。(すなわち、複数の電力セルが相互に接続されているとしても、それぞれの電力セルで使用される電力の電圧、位相および周波数は他の電力セルとは非同期である。)
図12に電力ネットワークシステム10の例を示す。
図12において、基幹系統11は大規模発電所12からの基幹電力を送電する。そして、複数の電力セル21−24が配置されている。各電力セル21−24は、家31やビル32などの負荷や、発電設備33、34や、電力貯蔵設備35、を有している。
発電設備としては、太陽光発電パネル33や風力発電機34などが例として挙げられる。電力貯蔵設備とは蓄電池
35などのことである。本明細書では、発電設備と電力貯蔵設備とを総称して、分散電源ということがある。
【0004】
さらに、各電力セル21−24は、他の電力セルや基幹系統11と接続されるための接続口(接続ポート)となる電力ルータ41−44を備えている。電力ルータ41−44は複数のレグ(LEG)を有している。(紙幅の都合上、図
12中ではレグの符号を省略した。電力ルータ41−44に付属している白丸が各レグの接続端子であると解釈してほしい。)
ここで、レグとは、接続端子と電力変換部とを有しており、各レグにはアドレスが付されている。なお、レグによる電力変換とは、交流から直流へまたは直流から交流への変換や、電力の電圧、周波数、位相を変化させることをいう。
【0005】
すべての電力ルータ41−44は通信網51によって管理サーバ50に繋がっており、管理サーバ50によってすべての電力ルータ41−44は統合的に運用制御される。例えば、管理サーバ50から各電力ルータ41−44に対し、各レグに付されたアドレスを用いてレグごとに電力の送電または受電を指示する。これにより、電力ルータ41−44を介し、電力セル間での電力融通が行われる。
【0006】
電力セル間での電力融通が実現することにより、例えば、一つの発電設備33、34や一つの電力貯蔵設備35を複数の電力セルで共有することができるようになる。電力セル間で互いに余剰電力を融通し合うようになれば、設備コストを大幅に削減しながらも電力需給バランスを安定的に保つことができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態として、電力ルータ100の概略構成を示す図である。また、
図2は、電力ルータ100の内部構成をやや詳しく示す図である。
電力ルータ100は、概略、直流母線101と、複数のレグ110−160と、制御部190と、を備えている。
なお、制御部190は、CPU、ROM、RAMを有するいわゆるコンピュータである。
【0018】
電力ルータ100は直流母線101を有し、この直流母線101に複数のレグ110−160が並列に接続されている。直流母線101は直流電力を流すためのものであり、直流母線101の電圧が所定の一定を保つようにコントロールされる。
(直流母線101の電圧がどのようにして一定に保たれるのかは後述する。)
各レグ110−160を介して電力ルータ100は外部に繋がるのであるが、外部とやり取りする電力を一旦総て直流に変換して直流母線101にのせる。このように一旦直流を介することにより、周波数や電圧、位相の違いが無関係になり、電力セル同士を非同期で接続することができるようになる。ここでは、直流母線101は、
図2に示すように、平滑コンデンサー102を有する並列型であるとする。直流母線101には電圧センサ103が接続されており、この電圧センサ103によって検出された直流母線101の電圧値は制御部190に送られる。
【0019】
次に、レグ110−160について説明する。複数のレグ110−160が直流母線に対して並列に設けられている。
図1においては、6つのレグ110−160を示した。六つのレグ110−160を、
図1に示すように、第1レグ110、第2レグ120・・・第6レグ160とする。なお、
図1では、紙幅の都合上、第1レグ110はレグ1と示し、第2レグ120はレグ2のように示している。また、
図2においては、第3レグ130と第4レグ140とを省略している。
【0020】
第1レグ110から第5レグ150は同じ構成であるのに対し、第6レグ160は電力変換部を有していないという点で第1から第5レグ110−150と異なっている。まずは、第1レグ110から第5レグ150の構成について説明する。第1レグ110から第5レグ150は同じ構成であるので、代表して第1レグ110の構成を説明する。
第1レグ110は、電力変換部111と、電流センサ112と、開閉器113と、電圧センサ114と、接続端子115と、を備えている。電力変換部111は、交流電力を直流電力に、あるいは、直流電力を交流電力に変換する。直流母線101には直流電力が流れているので、電力変換部111は、直流母線101の直流電力を定められた周波数および電圧の交流電力に変換して、接続端子115から外部に流す。あるいは、電力変換部111は、接続端子115から流入する交流電力を直流電力に変換して、直流母線101に流す。
【0021】
電力変換部111は、インバータ回路の構成をとっており、すなわち、サイリスタ111Tと帰還ダイオード111Dとで構成される逆並列回路111Pを三相ブリッジ接続したものである。
(すなわち、一のインバータ回路に対して6個の逆並列回路111Pが設けられる。)
ここでは、三相交流を使用しているので三相インバータ回路としたが、場合によっては単相インバータ回路としてもよい。二つの逆並列回路111Pの間のノードから引き出され、前記ノードと接続端子とを結ぶ配線を支線BLと称することにする。(三相交流であるので、一のレグは三つの支線BLを有する。)
【0022】
電力の向きや交流電力の周波数等は制御部190によって制御される。すなわち、サイリスタ111Tのスイッチングは、制御部190によって制御される。制御部190による運転制御は後述する。
【0023】
電力変換部111と接続端子115との間には開閉器113が配設されている。この開閉器113の開閉によって、支線BLが開閉され、すなわち、外部と直流母線101とが遮断されたり、接続されたりする。また、支線BLの電圧は電圧センサ114によって検出され、支線BLを流れる電流の電流値は電流センサ112で検出される。開閉器113の開閉動作は制御部190によって制御され、電圧センサ114および電流センサ112による検出値は制御部190に出力される。
【0024】
上記説明では、電力変換部をインバータ回路とし、レグの接続相手は交流を使用するとしたが、レグの接続相手が蓄電池35のような直流を使用するものである場合もある。(例えば
図1中の第3レグ130は蓄電池35に接続している。)
この場合の電力変換とは、DC−DC変換ということになる。図中には記載がないが、直流電源である太陽電池、燃料電池なども接続可能である。
したがって、電力変換部にインバータ回路とコンバータ回路とを並列に設け、接続相手が交流か直流かに応じてインバータ回路とコンバータ回路と使い分けるようにしてもよい。
あるいは、電力変換部がDC−DC変換部であるDC−DC変換専用のレグを設けるようにしてもよい。
すべてのレグのなかにインバータ回路とコンバータ回路とを並列に設けるよりは、AC−DC変換専用のレグとDC−DC変換専用のレグとを併せ持つ電力ルータとする方がサイズやコスト面で有利な点も多々ある。
【0025】
第1レグ110から第5レグ150の構成は以上の通りである。
【0026】
次に、第6レグ160について説明する。第6レグ160には、電力変換部がなく、すなわち、第6レグ160の接続端子165は、直流母線101に繋がっているわけではない。第6レグ160は、第5レグ150の支線BLに接続されているのである。第6レグ160の内部配線についても、支線BLと称することとする。第6レグ160の支線BLは、第5レグ150に対し、第5レグ150の接続端子155と開閉器153との間に接続されている。
【0027】
第6レグ160は、開閉器163と、電圧センサ164と、電流センサ162と、接続端子165と、を備える。第6レグ160の支線BLは、開閉器163を介して、第5レグ150の支線BLに繋がっている。すなわち、第6レグ160の接続端子165が第5レグ150の接続端子155に接続されている。第6レグ160の接続端子165と第5レグ150の接続端子155との間には開閉器163があるだけで、第6レグ160は電力変換器を持たないので、第6レグ160の接続端子165と第5レグ150の接続端子155との間では何等の変換も受けずに電力が導通することになる。そこで、第6レグ160のように電力変換器を持たないレグのことをACスルーレグと称することがある。
【0028】
電流センサ162および電圧センサ164は、支線BLの電流値および電圧値を検出し、制御部190に出力する。開閉器163の開閉動作は制御部190で制御される。
【0029】
(レグの運転モードについて)
第1レグ110から第5レグ150は電力変換器111−151を有しており、電力変換器内のサイリスタは制御部190によってそのスイッチング動作を制御されるものであることは既に述べた。
ここで、電力ルータ100は、電力ネットワーク10のノードにあって、基幹系統11、負荷30、分散電源および電力セルなどを互いに結びつける重要な役割を持つ。このとき、各レグ110−160の接続端子115−165がそれぞれ基幹系統11や負荷30、分散電源、他の電力セルの電力ルータに接続されるわけである。本発明者らは、接続相手によって各レグ110−160の役割は異なるものであり、各レグ110−160が役割に応じた適切な運転を行わなければ電力ルータが成り立たないことに気付いた。本発明者らは、レグの構造自体は同じであるが、接続相手によってレグの運転の仕方を変えるようにした。
レグの運転の仕方を、運転モードと称する。
本発明者らは、レグの運転モードとして3種類を用意しておき、接続相手によってモードを切り換えるようにした。
レグの運転モードとしては、
マスターモードと、
自立モードと、
指定電力送受電モードと、がある。
以下、順番に説明する。
【0030】
(マスターモード)
マスターモードとは、系統など安定した電力供給源に接続される場合の運転モードであり、直流母線101の電圧を維持するための運転モードである。
図1では、第1レグ110の接続端子115が基幹系統11に接続されている例を示している。
図1の場合、第1レグ110は、マスターモードとして運転制御され、直流母線101の電圧を維持する役目を担うことになる。直流母線101には他の多くのレグ120−150が接続されているところ、レグ120−150から直流母線101に電力が流入することもあれば、レグ120−150から電力が流出することもある。マスターモードとなるレグ110は、直流母線101から電力が流出して直流母線101の電圧が定格から下がった場合、流出で不足した電力分を接続相手(ここでは基幹系統11)から補てんする。または、直流母線101に電力が流入して直流母線101の電圧が定格から上がった場合、流入で過剰になった電力分を接続相手(ここでは基幹系統11)に逃がす。このようにして、マスターモードとなるレグ110は、直流母線101の電圧を維持するのである。
したがって、一の電力ルータにおいて、少なくとも一つのレグはマスターモードとして運転されなければならない。さもなくば、直流母線101の電圧が一定に維持されなくなるからである。逆に、一の電力ルータにおいて二つ以上のレグがマスターモードで運転されてもよいが、やはり、マスターモードのレグは一つの電力ルータには一つであった方がよい。
また、マスターモードとなるレグは、基幹系統の他、安定した出力を持つ直流電源(燃料電池、蓄電池等)にレグを直流接続してもよい。また、例えば、自励式インバータを搭載する分散電源(蓄電池も含む)に交流接続してもよい。ただし、他励式インバータを搭載する分散電源とマスターモードとなるレグとは接続できない。
【0031】
以下の説明において、マスターモードで運転されるレグのことを、マスターレグということがある。
【0032】
マスターレグの運転制御について説明する。
マスターレグを起動させる際には次のようにする。
まず、開閉器113を開(遮断)状態にしておく。この状態で接続端子115を接続相手に繋ぐ。ここでは、接続相手は基幹系統11である。
電圧センサ114によって接続先の系統の電圧を測定し、PLL(Phase−Locked−Loop)などを用いて系統の電圧の振幅、周波数および位相を求める。その後、求めた振幅、周波数および位相の電圧が電力変換部111から出力されるように、電力変換部111の出力を調整する。すなわち、サイリスタ111Tのオン/オフパターンを決定する。この出力が安定するようになったら、開閉器113を投入し、電力変換部111と系統11とを接続する。この時点では、電力変換部111の出力と系統11の電圧とが同期しているため、電流は流れない。
【0033】
マスターレグを運用する時の運転制御を説明する。
直流母線101の電圧を電圧センサ103によって測定する。直流母線101の電圧が所定の定格母線電圧を上回っていたら、マスターレグ110から系統に向けて送電が行われるように、電力変換部111を制御する。(電力変換部111から出る電圧の振幅および位相の少なくともいずれか一方を調整して、マスターレグ110を介して直流母線101から系統11に向けて送電が行われるようにする。)なお、直流母線101の定格電圧は、予め設定によって定められているものである。
【0034】
一方、直流母線101の電圧が所定の定格母線電圧より下回っていたら、このマスターレグ110が系統11から受電できるように、電力変換部111を制御する。(電力変換部111から出る電圧の振幅および位相の少なくともいずれか一方を調整して、マスターレグ110を介して系統11から直流母線101に送電が行われるようにする。)このようなマスターレグの運転が行われることにより、直流母線101の電圧が予め定められた定格を維持できるようになることが理解されるであろう。
【0035】
(自立モード)
自立モードとは、管理サーバ50から指定された振幅・周波数の電圧を自ら作り出し、接続相手との間で送受電する運転モードである。
例えば負荷30などの電力を消費するものに向けて電力を供給するための運転モードとなる。あるいは、接続相手から送電されてくる電力をそのまま受け取るための運転モードとなる。
図1では、第2レグ120の接続端子125が負荷30に接続されている例を示している。第2レグ120が自立モードとして運転制御され、負荷30に電力を供給することになる。
また、第4レグ140や第5レグ150のように他の電力ルータと接続される場合に、他の電力ルータから要求される電力分を送電するためのモードとして第4レグ140や第5レグ150を自立モードで運転する場合もある。
または、第4レグ140や第5レグ150のように他の電力ルータと接続される場合に、他の電力ルータから送電されてくる電力を受電するためのモードとして第4レグ140や第5レグ150を自立モードで運転する場合もある。
また、図に示していないが、負荷30に代えて、第2レグを発電設備に接続する場合も第2レグを自立モードで運転することもできる。ただし、この場合には発電設備に他励式インバータを搭載するようにする。
電力ルータ同士を接続する場合の運転モードについては後述する。
【0036】
自立モードで運転されるレグを自立レグと称することにする。一つの電力ルータにおいて、自立レグは複数あってもよい。
【0037】
自立レグの運転制御について説明する。
まず開閉器123を開(遮断)にしておく。接続端子125を負荷30に接続する。管理サーバ50から電力ルータ100に対し、負荷30に供給すべき電力(電圧)の振幅および周波数が指示される。そこで、制御部190は、指示された振幅および周波数の電力(電圧)が電力変換部121から負荷30に向けて出力されるようにする。(すなわち、サイリスタ121Tのオン/オフパターンを決定する。)この出力が安定するようになったら、開閉器123を投入し、電力変換部121と負荷30とを接続する。あとは、負荷30で電力が消費されれば、その分の電力が自立レグ120から負荷30に流れ出すようになる。
【0038】
(指定電力送受電モード)
指定電力送受電モードとは、指定によって定められた分の電力をやり取りするための運転モードである。すなわち、接続相手に指定電力を送電する場合と、接続相手から指定電力を受電する場合と、がある。
図1では、第4レグ140および第5レグ150が他の電力ルータと接続されている。
このような場合に、決まった分の電力を一方から他方へ融通するようなことが行われる。
または、第3レグ130は蓄電池35に接続されている。
このような場合に、決まった分の電力を蓄電池35に向けて送電して、蓄電池35を充電するというようなことが行われる。
また、自励式インバータを搭載する分散電源(蓄電池も含む)と指定電力送受電レグとを接続してもよい。ただし、他励式インバータを搭載する分散電源と指定電力送受電レグとは接続できない。
【0039】
指定電力送受電モードで運転されるレグを指定電力送受電レグと称する。一つの電力ルータにおいて、指定電力送受電レグは複数あってもよい。
【0040】
指定電力送受電レグの運転制御について説明する。起動時の制御についてはマスターレグと基本的に同じであるので、割愛する。
【0041】
指定電力送受電レグを運用する時の運転制御を説明する。
(説明には、第5レグ150に付した符号を使用する。)
電圧センサ154によって接続相手の系統の電圧を測定し、PLL(Phase−Locked−Loop)などを用いて接続相手の電圧の周波数・位相を求める。管理サーバ50から指定された有効電力値および無効電力値と、接続相手の電圧の周波数および位相と、に基づいて、電力変換器151が入出力する電流の目標値を求める。電流センサ152によって電流の現在値を測定する。目標値と現在値との差分に相当する電流が追加で出力されるように、電力変換器151を調整する。(電力変換部151から出る電圧の振幅および位相の少なくともいずれか一方を調整して、指定電力送受電レグと接続相手との間で所望の電力が流れるようにする。)
【0042】
以上の説明により、同じ構成である第1レグから第5レグが運転制御の仕方によって3パターンの役割を果たせることが理解されるであろう。
【0043】
(接続制約)
運転モードの違いによってレグの働きが違ってくるので、接続相手の選択と運転モードの選択との間には自ずと制約が発生する。すなわち、接続相手が決まれば選択できる運転モードが決まり、逆に、運転モードが決まれば選択できる接続相手が決まる。(接続相手が変われば、それに合わせてレグの運転モードを変更する必要がある。)
可能な接続組み合わせのパターンを説明する。
【0044】
以後の説明にあたって、図中の表記を
図3のように簡略化する。
すなわち、マスターレグをMで表す。
自立レグをSで表す。
指定電力送受電レグをDで表す。
ACスルーレグをACで表す。
また、必要に応じてレグの肩に「#1」のように番号を付してレグを区別することがある。
また、
図3以降では、図面ごとに系統立てた符号を付すが、必ずしも図面を跨がって同じ要素に同じ符号を付しているわけではない。
例えば、
図3の符号200と
図4Aの符号200とが全く同じものを指しているわけではない。
【0045】
図3に示した接続組み合わせはいずれも可能な接続である。第1レグ210がマスターレグとして基幹系統11に接続されている。これは既に説明した通りである。
第2レグ220が自立レグとして負荷30に接続されている。これも既に説明した通りである。
第3レグ230および第4レグ240が指定電力送受電レグとして蓄電池35に接続されている。これも既に説明した通りである。
【0046】
第5レグ250はACスルーレグである。ACスルーレグ250が他の電力ルータ300の指定電力送受電レグと繋がり、ACスルーレグ250は第4レグ240の接続端子245を介して蓄電池35に繋がっている。ACスルーレグ250は電力変換部を持たないのであるから、この接続関係は、他の電力ルータ300の指定電力送受電レグが蓄電池35に直接に繋がっていることと等価になる。このような接続が許されることは理解されるであろう。
【0047】
第6レグ260は、指定電力送受電レグとして基幹系統11に繋がっている。第6レグ260を介して基幹系統11から決まった電力を受電するとすれば、このような接続が許容されるのは理解されるであろう。
なお、第1レグ210がマスターレグとなっていることの関係でいうと、第6レグ260による受電電力が直流母線201の定格維持に足りなければ、マスターレグ210は、基幹系統11から必要な電力を受電することになる。逆に、第6レグ260による受電電力が直流母線201の定格維持に必要な量を超過してしまった場合、マスターレグ210は、過剰な電力を基幹系統11に逃がすことになる。
【0048】
次に、電力ルータ同士を接続する場合を説明する。電力ルータ同士を接続するということは、一の電力ルータのレグと他の電力ルータのレグとを接続するということである。レグ同士を接続する場合、組み合わせられる運転モードには制約がある。
【0049】
図4Aおよび
図4Bに示す接続の組み合わせはいずれも可能な組み合わせの例である。
図4Aにおいては、第1電力ルータ100のマスターレグ110と第2電力ルータ200の自立レグ210とが接続されている。詳しく説明しないが、第2電力ルータ200のマスターレグ220は、基幹系統11に繋がり、これにより第2電力ルータ200の直流母線201の電圧が定格に維持されるものとする。
【0050】
図4Aにおいて、第1電力ルータ100から負荷30に対して電力供給を行うと、直流母線101の電圧が下がることになる。マスターレグ110は、直流母線101の電圧を維持するように接続相手から電力を調達する。すなわち、マスターレグ110は、足りない分の電力を第2電力ルータ200の自立レグ210から引き込むことになる。第2電力ルータ200の自立レグ210は、接続相手(ここではマスターレグ110)から要求される分の電力を送出する。第2電力ルータ200の直流母線201では、自立レグ210から電力を送出した分だけ電圧が下がることになるが、これはマスターレグ220によって基幹系統11から補てんされる。このようにして、第1電力ルータ100は、必要な分を電力を第2電力ルータ200から融通してもらえる。
【0051】
このように、第1電力ルータ100のマスターレグ110と第2電力ルータ200の自立レグ210とを接続したとしても、マスターレグ110と自立レグ210とで役割が整合しているので、どちらの動作にも不都合は生じない。したがって、
図4Aのようにマスターレグと自立レグとを接続してもよいことがわかる。
【0052】
図4Bにおいては、第3電力ルータ300の指定電力送受電レグ310と第4電力ルータ400の自立レグ410とが接続されている。詳しく説明しないが、第3電力ルータ300のマスターレグ320と第4電力ルータ400のマスターレグ420とはそれぞれ基幹系統11に繋がっており、これにより、第3電力ルータ300および第4電力ルータ400のそれぞれの直流母線301、401は定格の電圧を維持するものとする。
【0053】
ここで、管理サーバ50からの指示によって第3電力ルータ300の指定電力送受電レグ310は指定の電力を受電するように指示されているものとする。指定電力送受電レグ310が第4電力ルータ400の自立レグ410から指定の電力を引き込むようにする。第4電力ルータ400の自立レグ410は、接続相手(ここでは指定電力送受電レグ310)から要求される分の電力を送出する。第4電力ルータ400の直流母線401では、自立レグ410から送出した電力分だけ電圧が下がることになるが、これはマスターレグ420によって基幹系統11から補てんされる。
【0054】
このように、第3電力ルータ300の指定電力送受電レグ310と第4電力ルータ400の自立レグ410とを接続したとしても、指定電力送受電レグ310と自立レグ410とで役割が整合するので、どちらの動作にも不都合は生じない。したがって、
図4Bのように指定電力送受電レグと自立レグとを接続してもよいことがわかる。
【0055】
なお、第3電力ルータ300が第4電力ルータ400から電力を融通してもらう場合を例に説明したが、逆に、第3電力ルータ300から第4電力ルータ400に向けて電力を融通する場合でも同じように不都合が無いことは理解されるであろう。
【0056】
このようにして、第3電力ルータ300と第4電力ルータ400との間で指定電力を融通し合うことができるわけである。
【0057】
電力変換部を有するレグ同士を直接に接続する場合には、
図4Aと
図4Bとに挙げた2パターンだけが許される。
すなわち、マスターレグと自立レグとを接続する場合と、指定電力送受電レグと自立レグとを接続する場合と、だけが許される。
【0058】
次に、互いに接続できない組み合わせを挙げる。
図5Aから
図5Dは、互いに接続してはいけないパターンである。
図5A、
図5B、
図5Cを見てわかるように、同じ運転モードのレグ同士を接続してはいけない。
例えば、
図5Aの場合、マスターレグ同士を接続している。
マスターレグは、運転動作の説明で前述したように、接続相手の電圧、周波数および位相に同期した電力を作り出す処理をはじめに行う。
ここで、接続相手もマスターレグである場合、お互いに相手の電圧および周波数に同期しようとするが、マスターレグは電圧および周波数を自立的に確立しないため、このような同期処理は成功し得ない。
従って、マスターレグ同士を接続できないのである。
またさらに、次のような理由もある。
マスターレグは、直流母線の電圧を維持するために接続相手から電力を引き込まなければならない。(あるいは、直流母線の電圧を維持するために、過剰な電力は接続相手に逃がさなければならない。)マスターレグ同士が接続されてしまっては、互いに接続相手の要求を満たすことはできない。(仮にマスターレグ同士を接続してしまうと、両方の電力ルータで直流母線の電圧を維持できなくなる。すると、それぞれの電力セル内で停電などの不具合が発生するかもしれない。)このように、マスターレグ同士では互いの役割が衝突してしまうので(整合しないので)、マスターレグ同士を接続してはいけない。
【0059】
図5Bでは、指定電力送受電レグ同士を接続しているが、これも成り立たないことは理解できるであろう。
前記マスターレグと同じことであるが、運転動作の説明で前述したように、指定電力送受電レグも接続相手の電圧、周波数および位相に同期した電力を作り出す処理をはじめに行う。
ここで、接続相手も指定電力送受電レグである場合、お互いに相手の電圧および周波数に同期しようとするが、指定電力送受電レグは電圧および周波数を自立的に確立しないため、このような同期処理は成功し得ない。
従って、指定電力送受電レグ同士を接続できないのである。
またさらに、次のような理由もある。
仮に、一方の指定電力送受電レグ510が送電すべき指定送電電力と、他方の指定電力送受電レグ610が受電すべき指定受電電力と、を一致させたとしても、このような指定電力送受電レグ同士を接続してはいけない。例えば、一方の指定電力送受電レグ510が指定送電電力を送電しようとして電力変換部を調整するとする。(例えば、接続相手よりも所定値だけ出力電圧を高くする。)その一方、他方の指定電力送受電レグ610が指定受電電力を受電しようと電力変換部を調整する。(例えば、接続相手よりも所定値だけ出力電圧が低くなるようにする。)同時にこのような調整動作が両方の指定電力送受電レグ510、610で行われてしまっては、互いに制御不能に陥ってしまうことは理解されるであろう。
【0060】
図5Cでは、自立レグ同士を接続しているが、このような接続はしてはいけない。
自立レグは自ら電圧・周波数を作り出すものである。
仮に自立レグ同士を繋いだ状態で2つの自立レグが作り出す電圧、周波数および位相のいずれかが少しでも乖離すると、2つの自立レグの間に意図しない電力が流れてしまうことになる。
2つの自立レグが作り出す電圧、周波数および位相を完全に一致させ続けるというのは無理なのであり、したがって、自立レグ同士を接続していけない。
【0061】
図5Dにおいては、マスターレグと指定電力送受電レグとを接続している。
これまでの説明から、これも成り立たないことは理解できるであろう。マスターレグ510が直流母線501の電圧を維持するように接続相手に対して電力を送受電しようとしても、指定電力送受電レグ610はマスターレグ510の要求に応じて送受電しない。したがって、マスターレグ510は直流母線501の電圧を維持できない。また、指定電力送受電レグ610が接続相手(510)に指定電力を送受電しようとしても、マスターレグ510は指定電力送受電レグ610の要求に応じて送受電しない。したがって、指定電力送受電レグ610は接続相手(ここではマスターレグ510)に指定電力を送受電することはできない。
【0062】
ここまでは、電力変換部を有するレグ同士を接続する場合を考えたが、ACスルーレグを考慮にいれると、
図6Aから
図6Dのパターンも可能である。ACスルーレグとは、電力変換部を有していないことから、単なるバイパスである。したがって、
図6Aや
図6Bのように、第1電力ルータ100のマスターレグ110が第2電力ルータ200のACスルーレグ250を介して基幹系統11に繋がるというのは、マスターレグ110が基幹系統11に直結していることと本質的に変わりがない。同じように、
図6Cや
図6Dのように、第1電力ルータ100の指定電力送受電レグ110が第2電力ルータ200のACスルーレグ250を介して基幹系統11に繋がるというのは、指定電力送受電レグ110が基幹系統11に直結していることと本質的に変わりがない。
【0063】
それでも、ACスルーというのは設けておくと便利である。例えば、
図7のように、第1電力ルータ100から基幹系統11までの距離が非常に長く、第1電力ルータ100を基幹系統11に接続するためにはいくつかの電力ルータ200、300を経由しなければならないという場合が考えられる。
仮にACスルーレグが無いとすると、
図4Aで示したように、一または複数の自立レグを経由しなければならなくなる。電力変換部をもつレグを経由すると、交流電力から直流電力への変換および直流電力から交流電力への変換を経由することになる。電力変換にはやはり数%とはいえどもエネルギーロスが発生するので、単に基幹系統に接続するためだけに複数回の電力変換を必要とするのは効率が悪い。
したがって、電力ルータに電力変換部を有さないACスルーレグを設けておくことには意味があるのである。
【0064】
ここまでに説明したことを
図8にまとめた。
また、
図9に、4つの電力ルータ100−400を相互に接続した場合の一例を挙げる。
いずれの接続関係もこれまでの説明中に登場したので、一つ一つの接続先を細かく説明することはしないが、いずれも許容される接続関係であることは理解されるであろう。
【0065】
ここで、電力ルータと接続相手とを繋ぐ接続線について補足しておく。
電力ルータ同士を繋ぐ接続線を送電線と称するとすると、送電線は基幹系統の一部となっていてもよいし、基幹系統から切り離されていてもよい。
(
図9においては、基幹系統の一部となっている送電線に71Aの符号を付し、基幹系統から切り離された送電線に71Bの符号を付した。)
すなわち、基幹系統に対して複数の電力ルータが接続されていてもよい。このように基幹系統を介して二以上の電力ルータを接続することにより、複数の電力ルータ間で基幹系統を介した電力融通が可能となり、融通される電力の過不足を基幹系統で補填するようにもできる。その一方、基幹系統を介さないで二以上の電力ルータ同士を接続してもよい。
また、電力ルータと負荷(または分散電源)とを繋ぐ接続線を配電線72と称するとすると、配電線72は基幹系統11から切り離されたものである。すなわち、電力ルータと負荷(または分散電源)とを繋ぐ配電線72は基幹系統11に繋がらない。
【0066】
また、
図10に図示するように、電力ルータ100−400をバス接続のようにして接続するようにしてもよい。
各レグの運転モードについては説明を省略するが、電力融通の方向とこれまでに説明した接続制約とを考慮して適切に各レグの運転モードを選択しなければならないことはもちろんである。
なお、
図10において、基幹系統11を、蓄電池や発電設備などの分散電源に代えてもよいことはもちろんである。すなわち、複数の電力ルータを分散電源にバス接続してもよい。
【0067】
また、
図11に示す例は、二つの電力ルータ100、200を基幹系統11に接続した接続形態の一例である。
図11において、基幹系統11を分散電源に代えてもよい。
【0068】
これまで説明したように、電力ルータの接続相手としては、基幹系統、蓄電池や発電設備を含む分散電源、および、他の電力ルータが挙げられるところ、本明細書および特許請求の範囲においてこれらを電力系統と称する。
【0069】
以上に説明したように、本実施形態の電力ルータによれば、次の効果を奏することができる。
すなわち、本実施形態の電力ルータにより、電力セル同士を非同期に相互接続した電力ネットワークシステムを構築することができる。そして、本実施形態に説明した接続制約に従うことによって、互いの役割が矛盾しないようにレグ同士を接続していくことができる。これにより、電力ネットワークシステムを拡張し、また、全体を安定的に運用することができるようになる。
【0070】
以上、実施の形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記によって限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
本発明は、任意の処理を、CPU(Central Processing Unit)にコンピュータプログラムを実行させることにより実現することも可能である。また、プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD−ROM(Read Only Memory)CD−R、CD−R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0071】
この出願は、2012年10月19日に出願された日本出願特願2012−231590を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。