特許第6175769号(P6175769)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6175769
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】重合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/28 20060101AFI20170731BHJP
   C08F 2/38 20060101ALI20170731BHJP
   G03F 7/039 20060101ALI20170731BHJP
【FI】
   C08F220/28
   C08F2/38
   G03F7/039 601
【請求項の数】8
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2012-530001(P2012-530001)
(86)(22)【出願日】2012年5月30日
(86)【国際出願番号】JP2012063918
(87)【国際公開番号】WO2012165473
(87)【国際公開日】20121206
【審査請求日】2015年5月27日
(31)【優先権主張番号】特願2011-120850(P2011-120850)
(32)【優先日】2011年5月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-276658(P2011-276658)
(32)【優先日】2011年12月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】押切 友也
(72)【発明者】
【氏名】安田 敦
【審査官】 久保田 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−268661(JP,A)
【文献】 特開2005−156726(JP,A)
【文献】 特開2007−065504(JP,A)
【文献】 特開2009−009114(JP,A)
【文献】 特表2004−501249(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0097674(US,A1)
【文献】 特開2002−241568(JP,A)
【文献】 特開2010−100744(JP,A)
【文献】 特開2003−212912(JP,A)
【文献】 特表2002−508409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 12/00−34/04
C08F 2/00− 2/60
G03F 7/039
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸により変性する基を有する構成単位を含む重合体であって、重合体の全成長末端基に対して、チオカルボニルチオ構造を有する末端基の割合が0.001〜30モル%であり、全構成単位数に対して、有機酸として働く構成単位数の割合が2モル%以下であり、前記酸により変性する基を有する構成単位が、2−メチル−2−アダマンチル(メタ)アクリレート、2−エチル−2−アダマンチル(メタ)アクリレート、1−(1’−アダマンチル)−1−メチルエチル(メタ)アクリレート、1−メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、1−エチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、1−メチルシクロペンチル(メタ)アクリレート、1−エチルシクロペンチル(メタ)アクリレート、イソプロピルアダマンチル(メタ)アクリレート、及び1−エチルシクロオクチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種から誘導される構成単位であり、
重合体の末端基にジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)からなる群から選択される少なくとも1種の重合開始剤由来の構造を含み、
ランダム重合体であり、
前記末端基が下式(10)で表される基である、重合体。
【化1】
[式(10)中、Arは芳香族基又は置換芳香族基(ただしヘテロ原子を含む基を除く)である。]
【請求項2】
示差屈折率検出器を用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定され、ポリスチレン換算で求められる重量平均分子量が2,500〜1,000,000であり、溶出曲線における分子量1000以下に相当するピーク面積が、全体に相当するピーク面積に対して1.0%以下である、請求項1記載の重合体。
【請求項3】
リソグラフィー用途で使用される、請求項1または2記載の重合体。
【請求項4】
ラクトン骨格を含む基を有する構成単位を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の重合体。
【請求項5】
親水性基を有する構成単位を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の重合体。
【請求項6】
反応器内で、単量体、重合開始剤、およびチオカルボニルチオ構造を有する連鎖移動剤を含む反応溶液を、予め設定された重合温度に保持して前記単量体を重合反応させた後、反応を停止させる工程を経て請求項1〜5のいずれか一項に記載の重合体を製造する方法であって、
前記反応器内に、少なくとも前記単量体および前記連鎖移動剤が供給され、かつ該反応器内の液の温度が前記重合温度に達した時点を開始時刻Tとし、
前記重合反応を停止させる操作を開始した時点を終了時刻Tとするとき、
から[(T−T)/2]の直前までの間に、前記反応器内に重合開始剤を供給する工程と、[(T−T)/2]からTまでの間に、前記反応器内に重合開始剤を供給する工程を有し、
からTまでに、前記反応器内に供給される重合開始剤の合計質量をI、[(T−T)/2]からTまでに供給される重合開始剤の合計質量をIとするとき、前記Iは、反応器内に供給される重合開始剤の全量のうちの50〜100質量%であり、かつ下記式(I)を満足する、重合体の製造方法。
0.50<I/I<1.00 ・・・(I)
【請求項7】
反応器内で、単量体、重合開始剤、およびチオカルボニルチオ構造を有する連鎖移動剤を含む反応溶液を、予め設定された重合温度に保持して前記単量体を重合反応させた後、反応を停止させる工程を経て請求項1〜5のいずれか一項に記載の重合体を製造する方法であって、前記重合反応を塩基性化合物の存在下で行う、重合体の製造方法。
【請求項8】
前記反応を停止させる工程の後に精製工程を有し、該精製工程が、重合体を含む混合物を、プロトン性極性貧溶媒に接触させる工程と、非プロトン性非極性貧溶媒に接触させる工程を含む、請求項6または7に記載の重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重合体、およびその製造方法に関する。
本願は、2011年5月30日に日本に出願された特願2011−120850号、および2011年12月19日に日本に出願された特願2011−276658号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子、液晶素子等の製造工程においては、近年、リソグラフィーによるパターン形成の微細化が急速に進んでいる。微細化の手法としては、照射光の短波長化がある。
最近では、KrFエキシマレーザー(波長:248nm)リソグラフィー技術が導入され、さらなる短波長化を図ったArFエキシマレーザー(波長:193nm)リソグラフィー技術及びEUV(波長:13.5nm)リソグラフィー技術が研究されている。
また、例えば、照射光の短波長化およびパターンの微細化に好適に対応できるレジスト組成物として、酸の作用により酸脱離性基が脱離してアルカリ可溶性となる重合体と、光酸発生剤とを含有する、いわゆる化学増幅型レジスト組成物が提唱され、その開発および改良が進められている。
ArFエキシマレーザーリソグラフィーにおいて用いられる化学増幅型レジスト用重合体としては、波長193nmの光に対して透明なアクリル系重合体が注目されている。
【0003】
また、近年では付加開裂型連鎖移動反応(Reveresible Addition−Fragmen tation Chain Transfer:RAFT法)による高分子化合物の製造方法が注目されている。RAFT法とは、リビングラジカル重合法のひとつで、可逆的に付加−開裂−連鎖移動反応を起こしうる化合物を連鎖移動剤(以下、RAFT剤ということもある。)として用いて重合する方法であり、分子量分布が極めて狭い重合体が得られる重合法である。例えば、下記特許文献1、2には、各種のチオカルボニルチオ化合物をRAFT剤として用いた高分子化合物の合成法に関する発明が記載されている。
また、下記特許文献3には、RAFT剤を用いて重合体を合成して単離した後、重合体の末端に残存したRAFT剤を切断する方法に関する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−526496号公報
【特許文献2】特開2008−268661号公報
【特許文献3】特表2007−515538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載されている方法では、リソグラフィー用重合体の溶解性、またはレジスト組成物の感度が不十分となる場合がある。
すなわち、上記のようなリビングラジカル重合法により得られる重合体は末端(成長末端)にドーマント種としてのRAFT剤残基が残るため、このRAFT剤残基に起因して重合体の溶解性の低下またはレジスト組成物の感度低下が生じると考えられる。例えば感度については、構造中に不飽和結合を有するRAFT剤残基は紫外領域に強い吸収帯を有するため、これを使用した重合体は紫外線の透過を阻害し、結果的に該重合体をレジスト組成物に用いた際の感度が低下すると考えられる。上記特許文献3には係る課題を解決すべく、RAFT剤残基の除去方法について記載されているものの、操作が煩雑である為に生産性において課題がある。
また、末端のRAFT剤残基は経時劣化して酸などの不純物が生じやすく、重合体の安定性を低下させる。特に、酸により変性する基を有する構成単位を含む重合体にあっては、かかる酸の発生によって、該酸により変性する基の変性が促進されるため、安定性が低下しやすい。
また、一般にRAFT法は通常のラジカル重合と比較して成長反応速度に乏しく、十分な重合率が得られない場合がある。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、下記課題の少なくとも1つを解決することを目的とする。
重合体末端に残存するRAFT剤残基が低減され、分子量のばらつきが改善した重合体が高重合率で得られる、重合体の製造方法を提供する。
分子量のばらつきが改善され、安定性が良好な重合体が得られる、重合体の製造方法を提供する。
分子量のばらつきが改善した重合体が高重合率で得られ、溶媒への溶解性、およびレジスト組成物に用いたときのフォトリソグラフィー用露光光に対する透過率を向上できる重合体の製造方法を提供する。
酸により変性する基を有する構成単位を含む重合体であって、分子量のばらつきが小さく、重合体末端に残存するRAFT剤残基が低減され、安定性が良好な重合体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は下記の<1>〜<9>の本発明で解決される。
<1>酸により変性する基を有する構成単位を含む重合体であって、重合体の全成長末端基に対して、チオカルボニルチオ構造を有する末端基の割合が0.001〜30モル%であり、全構成単位数に対して、有機酸として働く構成単位数の割合が2モル%以下である重合体。
【0008】
<2>示差屈折率検出器を用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定され、ポリスチレン換算で求められる重量平均分子量が2,500〜1,000,000であり、溶出曲線における分子量1000以下に相当するピーク面積が、全体に相当するピーク面積に対して1.0%以下である、<1>記載の重合体。
<3>リソグラフィー用途で使用される、<1>または<2>記載の重合体。
<4>前記酸により変性する基が、酸脱離性基である<1>〜<3>のいずれかに記載の重合体。
<5>ラクトン骨格を含む基を有する構成単位を含む<1>〜<3>のいずれかに記載の重合体。
<6>親水性基を有する構成単位を含む<1>〜<3>のいずれかに記載の重合体。
【0009】
<7>反応器内で、単量体、重合開始剤、およびチオカルボニルチオ構造を有する連鎖移動剤を含む反応溶液を、予め設定された重合温度に保持して前記単量体を重合反応させた後、反応を停止させる工程を経て重合体を製造する方法であって、
前記反応器内に、少なくとも前記単量体および前記連鎖移動剤が供給され、かつ該反応器内の液の温度が前記重合温度に達した時点を開始時刻Tとし、
前記重合反応を停止させる操作を開始した時点を終了時刻Tとするとき、
から[(T−T)/2]の直前までの間に、前記反応器内に重合開始剤を供給する工程と、[(T−T)/2]からTまでの間に、前記反応器内に重合開始剤を供給する工程を有し、
からTまでに、前記反応器内に供給される重合開始剤の合計質量をI、[(T−T)/2]からTまでに供給される重合開始剤の合計質量をIとするとき、前記Iは、反応器内に供給される重合開始剤の全量のうちの50〜100質量%であり、かつ下記式(I)を満足する、重合体の製造方法。
0.50<I/I<1.00 ・・・(I)
【0010】
<8> 反応器内で、単量体、重合開始剤、およびチオカルボニルチオ構造を有する連鎖移動剤を含む反応溶液を、予め設定された重合温度に保持して前記単量体を重合反応させた後、反応を停止させる工程を経て重合体を製造する方法であって、前記重合反応を塩基性化合物の存在下で行う、重合体の製造方法。
<9>前記反応を停止させる工程の後に精製工程を有し、該精製工程が、重合体を含む混合物を、プロトン性極性貧溶媒に接触させる工程と、非プロトン性非極性貧溶媒に接触させる工程を含む、<7>または<8>に記載の重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の重合体の製造方法によれば、分子量のばらつきが改善した重合体を高重合率で得ることができるとともに、重合体末端に残存する連鎖移動剤残基を低減させることができる。これにより重合体の溶媒への溶解性、およびレジスト組成物に用いたときのフォトリソグラフィー用照射光に対する透過率を向上させることができる。
本発明によれば、酸により変性する基を有する構成単位を含む重合体であって、分子量のばらつきが小さく、重合体末端に残存する連鎖移動剤残基が低減され、かつ酸の含有量が良好に低減された重合体が得られる。
酸により変性する基を有する構成単位を含む重合体中に存在する、酸が少ないほど、重合反応時や保存時の安定性に優れる。
本発明の重合体はリソグラフィー用重合体として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味し、「(メタ)アクリロイルオキシ」は、アクリロイルオキシまたはメタクリロイルオキシを意味する。
本発明における重合体の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で求めた値である。
【0013】
本発明の重合体の好ましい実施形態を説明する。
<重合体>
本実施形態の重合体は構成単位α’〜α’(ただし、α’〜α’は単量体α〜αからそれぞれ導かれる構成単位を表す。nは2以上の整数を表す。)からなる共重合体である。nの上限は、本発明による効果が得られやすい点で6以下が好ましい。特に重合体がレジスト用重合体である場合には、5以下がより好ましく、4以下がさらに好ましい。
例えば、n=3である場合は、重合体は構成単位α’、α’、α’からなる三元系重合体P(α’/α’/α’)であり、n=4の場合は、構成単位α’、α’、α’、α’からなる四元系重合体P(α’/α’/α’/α’)である。
本実施形態の重合体の重量平均分子量(Mw)は、2,500〜1,000,000の範囲内であることが好ましく、3,000〜500,000がより好ましく、3,500〜250,000がさらに好ましい。
【0014】
本実施形態の重合体の用途は特に限定されない。例えば、リソグラフィー用途(リソグラフィー工程)で用いられるリソグラフィー用重合体が好ましい。リソグラフィー用重合体としては、レジスト膜の形成に用いられるレジスト用重合体、レジスト膜の上層に形成される反射防止膜(TARC)、またはレジスト膜の下層に形成される反射防止膜(BARC)の形成に用いられる反射防止膜用重合体、ギャップフィル膜の形成に用いられるギャップフィル膜用重合体、トップコート膜の形成に用いられるトップコート膜用重合体が挙げられる。
リソグラフィー用重合体の重量平均分子量(Mw)は2,500〜200,000が好ましく、2,500〜40,000がより好ましい。
分子量分布(Mw/Mn)は1.0〜2.0が好ましく、1.01〜1.5がより好ましい。
【0015】
重合体の構成単位は、特に限定されず、用途および要求特性に応じて適宜選択される。
酸により変性する基を有する構成単位を含む重合体が好ましい。酸により変性する基とは、酸によってその化学構造が変化する官能基を意味する。酸により変性する基の具体例としては、後述の酸脱離性基、酸によって縮合する基、酸により加水分解する基、酸と結合する基等が挙げられる。
【0016】
レジスト用重合体は、酸脱離性基を有する構成単位および極性基を有する構成単位を有することが好ましく、この他に、必要に応じて公知の構成単位を有していてもよい。
レジスト用重合体の重量平均分子量(Mw)は2,500〜100,000が好ましく、3,000〜30,000がより好ましい。
分子量分布(Mw/Mn)は1.0〜2.0が好ましく、1.01〜1.5がより好ましい。
【0017】
反射防止膜用重合体は、例えば、吸光性基を有する構成単位を有するとともに、レジスト膜との混合を避けるため、硬化剤などと反応して硬化可能なアミノ基、アミド基、ヒドロキシル基、エポキシ基等の反応性官能基を有する構成単位を含むことが好ましい。
吸光性基とは、レジスト組成物中の感光成分が感度を有する波長領域の光に対して、高い吸収性能を有する基であり、具体例としては、アントラセン環、ナフタレン環、ベンゼン環、キノリン環、キノキサリン環、チアゾール環等の環構造(任意の置換基を有していてもよい。)を有する基が挙げられる。特に、照射光として、KrFレーザ光が用いられる場合には、アントラセン環又は任意の置換基を有するアントラセン環が好ましく、ArFレーザ光が用いられる場合には、ベンゼン環又は任意の置換基を有するベンゼン環が好ましい。
上記任意の置換基としては、フェノール性水酸基、アルコール性水酸基、カルボキシ基、カルボニル基、エステル基、アミノ基、又はアミド基等が挙げられる。
特に、吸光性基として、保護された又は保護されていないフェノール性水酸基を有する反射防止膜用重合体が、良好な現像性又は高解像性の観点から好ましい。
上記吸光性基を有する構成単位または単量体として、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、p−ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0018】
ギャップフィル膜用重合体は、例えば、狭いギャップに流れ込むための適度な粘度を有するとともに、レジスト膜や反射防止膜との混合を避けるため、硬化剤などと反応して硬化可能な反応性官能基を有する構成単位を含むことが好ましい。
具体的にはヒドロキシスチレンと、スチレン、アルキル(メタ)アクリレート、およびヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等から選択される少なくとも1種の単量体との共重合体が挙げられる。
液浸リソグラフィーに用いられるトップコート膜用重合体の例としては、カルボキシル基を有する構成単位を含む共重合体、水酸基が置換したフッ素含有基を有する構成単位を含む共重合体等が挙げられる。
【0019】
<構成単位又は単量体>
重合体は、その構成単位α’〜α’にそれぞれ対応する単量体α〜αを重合させて得られる。単量体はビニル基を有する化合物が好ましく、ラジカル重合しやすいものが好ましい。特に(メタ)アクリル酸エステルは波長250nm以下の露光光に対する透明性が高いため、波長250nm以下の光を用いるリソグラフィー用途において好ましい。
以下、重合体がレジスト用重合体である場合に、好適に用いられる構成単位およびそれに対応する単量体について説明する。
【0020】
[酸脱離性基を有する構成単位又は単量体]
レジスト用重合体は、酸脱離性基を有することが好ましい。「酸脱離性基」とは、酸により開裂する結合を有する基であり、該結合の開裂により酸脱離性基の一部または全部が脱離する基である。酸脱離性基を有する構成単位を有する重合体は、酸の作用によりアルカリ性水溶液に対する溶解速度が増大する。酸の作用により酸脱離性基の一部または全部が脱離した後の構成単位は、有機酸として働く。
レジスト用組成物において、酸脱離性基を有する構成単位を有する重合体は、酸成分と反応してアルカリ現像液(アルカリ性水溶液)に可溶となり、レジストパターン形成を可能とする作用を奏する。
アルカリ現像液の例としては、濃度が2.38質量%のテトラメチルアンモニウムハイドロキサイド水溶液、0.001規定の水酸化ナトリウム水溶液等が挙げられる。
酸脱離性基を有する構成単位の割合は、感度および解像度の点から、重合体を構成する全構成単位(100モル%)のうち、20モル%以上が好ましく、25モル%以上がより好ましい。また、基板等への密着性の点から、60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましい。
全構成単位に対する酸脱離性基を有する構成単位の含有量は、20〜60モル%が好ましく、25〜55モル%がより好ましく、25〜50モル%がさらに好ましい。
【0021】
酸脱離性基を有する単量体は、酸脱離性基および重合性多重結合を有する化合物であればよく、公知のものを使用できる。重合性多重結合とは重合反応時に開裂して共重合鎖を形成する多重結合であり、エチレン性二重結合が好ましい。
酸脱離性基を有する単量体の具体例として、炭素数6〜20の脂環式炭化水素基を有し、かつ酸脱離性基を有している(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。該脂環式炭化水素基は、(メタ)アクリル酸エステルのエステル結合を構成する酸素原子と直接結合していてもよく、アルキレン基等の連結基を介して結合していてもよい。
該(メタ)アクリル酸エステルには、炭素数6〜20の脂環式炭化水素基を有するとともに、(メタ)アクリル酸エステルのエステル結合を構成する酸素原子との結合部位に第3級炭素原子を有する(メタ)アクリル酸エステル、または、炭素数6〜20の脂環式炭化水素基を有するとともに、該脂環式炭化水素基に−COOR基(Rは置換基を有していてもよい第3級炭化水素基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基、またはオキセパニル基を表す。)が直接または連結基を介して結合している(メタ)アクリル酸エステルが含まれる。該連結基の例としてはアルキレン基、脂環炭化水素構造を有する2価の連結基、単結合、エーテル基(−O−)、エステル基(−COO−)、カルボニル基(−CO−)、又はこれらを組み合わせた2価の基等が挙げられる。
【0022】
特に、波長250nm以下の光で露光するパターン形成方法に適用されるレジスト組成物を製造する場合には、酸脱離性基を有する単量体の好ましい例として、例えば、2−メチル−2−アダマンチル(メタ)アクリレート、2−エチル−2−アダマンチル(メタ)アクリレート、1−(1’−アダマンチル)−1−メチルエチル(メタ)アクリレート、1−メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、1−エチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、1−メチルシクロペンチル(メタ)アクリレート、1−エチルシクロペンチル(メタ)アクリレート、イソプロピルアダマンチル(メタ)アクリレート、1−エチルシクロオクチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中でも、1−エチルシクロヘキシルメタクリレート、2−エチル−2−アダマンチルメタクリレート、1−エチルシクロペンチルメタクリレート、イソプロピルアダマンチルメタクリレートがより好ましい。
酸脱離性基を有する単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
[極性基を有する構成単位又は単量体]
「極性基」とは、極性を持つ官能基または極性を持つ原子団を有する基であり、具体例としては、ヒドロキシ基、シアノ基、アルコキシ基、カルボキシ基、アミノ基、カルボニル基、フッ素原子を含む基、硫黄原子を含む基、ラクトン骨格を含む基、アセタール構造を含む基、エーテル結合を含む基などが挙げられる。
これらのうちで、波長250nm以下の光で露光するパターン形成方法に適用されるレジスト用重合体は、極性基を有する構成単位として、ラクトン骨格を含む基を有する構成単位、または後述の親水性基を有する構成単位を有することが好ましい。ラクトン骨格を含む基を有する構成単位、および後述の親水性基を有する構成単位の両方を有することがより好ましい。
【0024】
酸により変性する基を有する構成単位を含む重合体において、ラクトン骨格を含む基を有する構成単位を含まれていると、基板等への密着性の点に優れる。
酸により変性する基を有する構成単位を含む重合体において、親水性基を有する構成単位が含まれていると、現像液への濡れ性が良く、レジストパターン矩形性に優れる。
【0025】
(ラクトン骨格を含む基を有する構成単位又は単量体)
ラクトン骨格としては、例えば、4〜20員環程度のラクトン骨格が挙げられる。ラクトン骨格は、ラクトン環のみの単環であってもよく、ラクトン環に脂肪族または芳香族の炭素環または複素環が縮合していてもよい。
共重合体がラクトン骨格を含む基を有する構成単位を含む場合、その含有量は、基板等への密着性の点から、全構成単位(100モル%)のうち、20モル%以上が好ましく、35モル%以上がより好ましい。また、感度および解像度の点から、60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましい。
全構成単位に対する、ラクトン骨格を含む基を有する構成単位の含有量は、20〜60モル%が好ましく、20〜55モル%がより好ましく、35〜50モル%がさらに好ましい。
【0026】
ラクトン骨格を含む基を有する単量体としては、基板等への密着性に優れる点から、置換あるいは無置換のδ−バレロラクトン環を有する(メタ)アクリル酸エステル、置換あるいは無置換のγ−ブチロラクトン環を有する単量体からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、無置換のγ−ブチロラクトン環を有する単量体が特に好ましい。
【0027】
ラクトン骨格を含む基を有する単量体の具体例としては、β−(メタ)アクリロイルオキシ−β−メチル−δ−バレロラクトン、4,4−ジメチル−2−メチレン−γ−ブチロラクトン、β−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン、β−(メタ)アクリロイルオキシ−β−メチル−γ−ブチロラクトン、α−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン、2−(1−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル−4−ブタノリド、(メタ)アクリル酸パントイルラクトン、5−(メタ)アクリロイルオキシ−2,6−ノルボルナンカルボラクトン、8−メタクリロキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカン−3−オン、9−メタクリロキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカン−3−オン等が挙げられる。また、類似構造を持つ単量体として、メタクリロイルオキシこはく酸無水物等も挙げられる。
これらの中でも、α−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン、α−アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン、5−メタクリロイルオキシ−2,6−ノルボルナンカルボラクトン、8−メタクリロキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカン−3−オンがより好ましい。
ラクトン骨格を含む基を有する単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
(親水性基を有する構成単位又は単量体)
本明細書における「親水性基」とは、−C(CF−OH、ヒドロキシ基、シアノ基、メトキシ基、カルボキシ基およびアミノ基の少なくとも1種である。
これらのうちで、波長250nm以下の光で露光するパターン形成方法に適用されるレジスト用重合体は、親水性基としてヒドロキシ基またはシアノ基を有することが好ましい。
共重合体における親水性基を有する構成単位の含有量は、レジストパターン矩形性の点から、全構成単位(100モル%)に対して、5〜50モル%が好ましく、10〜25モル%がより好ましい。
【0029】
親水性基を有する単量体としては、例えば、末端ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;単量体の親水性基上にアルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基等の置換基を有する誘導体;環式炭化水素基を有する単量体(例えば(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸1−イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンチル、(メタ)アクリル酸2−メチル−2−アダマンチル、(メタ)アクリル酸2−エチル−2−アダマンチル等。)が置換基としてヒドロキシ基、カルボキシ基等の親水性基を有するもの;が挙げられる。
【0030】
親水性基を有する単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシ−n−プロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシアダマンチル、2−または3−シアノ−5−ノルボルニル(メタ)アクリレート、2−シアノメチル−2−アダマンチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。基板等に対する密着性の点から、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシアダマンチル、2−または3−シアノ−5−ノルボルニル(メタ)アクリレート、2−シアノメチル−2−アダマンチル(メタ)アクリレート等が好ましい。
これらの中でも、メタクリル酸3−ヒドロキシアダマンチルがより好ましい。
親水性基を有する単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
<重合開始剤>
重合開始剤は、熱により分解して効率的にラジカルを発生するものが好ましく、10時間半減期温度が重合温度以下であるものを用いることが好ましい。例えばリソグラフィー用重合体を製造する場合の、好ましい重合温度は40〜150℃であり、10時間半減期温度が40〜70℃の重合開始剤を用いることが好ましい。また重合開始剤が効率的に分解するためには、重合開始剤の10時間半減期温度と重合温度との差が10℃以上であることが好ましい。
重合開始剤の例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]等のアゾ化合物;2,5−ジメチル−2,5−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ(4−tert−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等の有機過酸化物;が挙げられる。アゾ化合物がより好ましい。
これらは市販品から入手可能である。例えばジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート(和光純薬工業社製、V601(商品名)、10時間半減期温度66℃)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製、V65(商品名)、10時間半減期温度51℃)等を好適に用いることができる。
【0032】
<チオカルボニルチオ構造を有する連鎖移動剤(RAFT剤)>
単量体を重合反応させる際に、重合開始剤と合わせてチオカルボニルチオ構造(−S−C(=S)−)を有する連鎖移動剤(RAFT剤)を用いることで狭分散性の重合体を得ることができる。
本実施形態において使用する、チオカルボニルチオ構造を有する連鎖移動剤としては特に限定されないが、入手性、重合性の点で以下の下記式(1)〜(9)で表される化合物が好ましい。
【0033】
【化1】
【0034】
式(1)〜(9)において、Arは芳香族基又は置換芳香族基を表し、該置換基はハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、−CORaで示されるカルボニル含有基(Raは炭素原子数1〜8のアルキル基、アリール基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基、またはアリーロキシ基)、スルホニル基、またはトリフルオロメチル基を表す。Rは、炭素原子数1〜8のアルキル基またはアリール基を表す。
一分子中に、Arが2個存在するとき、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0035】
これらのうち、特に重合の制御性と反応性が良好である点で、式(3)で表される化合物または式(4)で表される化合物が好ましい。RAFT剤として式(3)または(4)で表される化合物を用いた場合、重合体の末端に残存するRAFT剤残基は下式(10)で表される。
【0036】
【化2】
【0037】
<重合溶媒>
単量体を重合反応させる際に、重合溶媒を用いてもよい。重合溶媒としては、例えば、下記のものが挙げられる。
エーテル類:鎖状エーテル(例えばジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等。)、環状エーテル(例えばテトラヒドロフラン(以下、「THF」と記すこともある。)、1,4−ジオキサン等。)等。
エステル類:酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、「PGMEA」と記すこともある。)、γ−ブチロラクトン等。
ケトン類:アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等。
アミド類:N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等。
スルホキシド類:ジメチルスルホキシド等。
芳香族炭化水素:ベンゼン、トルエン、キシレン等。
脂肪族炭化水素:ヘキサン等。
脂環式炭化水素:シクロヘキサン等。
重合溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
重合溶媒の使用量は特に限定されないが、例えば、重合反応終了時の反応器内の液(重合反応溶液)の固形分濃度が20〜60質量%程度となる量が好ましい。
上記重合溶媒のうち、高純度の溶剤を入手しやすく、RAFT剤の制御機能を阻害しない点で、PGMEA、γ―ブチロラクトン、またはメチルエチルケトンが好ましい。さらに、広い範囲の極性の重合体を溶解可能な点で、PGMEA、γ―ブチロラクトン、メチルエチルケトンのうち、任意の2種以上を組み合わせることが好ましい。
【0038】
本発明の重合体の製造方法の実施形態を説明する。
<重合体の製造方法>
本実施形態の重合体の製造方法は、反応器内で、単量体、重合開始剤、およびチオカルボニルチオ構造を有する連鎖移動剤(RAFT剤)を含む反応溶液を予め設定された重合温度で前記単量体を重合反応させた後、反応を停止させる工程を経て重合体を製造する方法である。
重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合方法が挙げられる。これらのうち、光線透過率を低下させないために、反応終了後に残存する単量体を除去する工程を容易に行える点、重合体の分子量を比較的低くできる点から、溶液重合法が好ましい。
本実施形態の重合体の製造方法は、好ましくは、反応器内に、少なくとも単量体および連鎖移動剤(RAFT剤)を供給する工程と、反応器内の液を予め設定された重合温度に加温する工程と、反応器内に重合開始剤を供給する工程と、反応器内の液の温度を該重合温度に保持して重合反応を行う工程と、該重合反応を停止させる工程を有する。少なくとも単量体と重合開始剤を含む液が、重合温度に保持されると重合反応が進行する。
【0039】
本実施形態では、反応器内に、少なくとも単量体および連鎖移動剤(RAFT剤)が供給され、かつ反応器内の液の温度が予め設定された重合温度に達した時点を開始時刻Tとし、反応を停止させる操作を開始した時点を終了時刻Tとする。
本実施形態において、反応器内の液の温度が「重合温度に達した時点」とは、反応器内の液を加熱して昇温させて、予め設定された重合温度に保持して重合反応させるとき、当該重合温度(設定値)に達した時点を意味する。例えば反応器内の温度を80℃で重合反応させるという場合は、重合温度(設定値)が80℃であることを意味し、反応器内の液温が80℃に達した時点を開始時刻Tとする。
なお、本実施形態において、重合反応中の反応器内の液温は、所望の組成の重合体を得るための重合反応を行える温度であれば、ある程度幅があってもよいが、所望の分子量が得られ、複数回製造した際の分子量や組成などの品質のばらつきが少ない観点から、予め設定された重合温度の±5℃以内で保持することが好ましく、より好ましくは±3℃以内、さらに好ましくは±1℃以内で保持することが好ましい。
【0040】
本実施形態における重合温度には特に限定はなく任意の範囲で設定できる。用いる溶剤の沸点及び重合開始剤の半減期に基づいて選択して設定することが好ましい。但し、重合温度が高すぎると単量体及び生成する重合体の安定性の点で問題があることから、一般には、重合温度は40〜150℃が好ましく、40〜140℃がより好ましく、50〜120℃が更に好ましい。
【0041】
反応を停止させる方法としては、反応器内の液を冷却する方法、反応器内に重合禁止剤を投入する方法、反応器内に酸素を含む気体を吹き込む方法、反応器内に重合体の貧溶媒を投入して重合体を析出させる方法等が挙げられる。これらのうち、反応器内に不純物が混入しにくく、簡便である点から反応器内を冷却する方法が好ましい。
いずれの方法であっても、停止のための操作を開始した時点を終了時刻Tとする。具体的には、冷却により反応を停止させる場合、冷却を開始した時点を終了時刻Tとする。反応器内に重合禁止剤、酸素、貧溶媒等を投入または吹き込む方法で反応を停止させる場合、投入または吹き込みを開始した時点を終了時刻Tとする。
開始時刻Tから終了時刻Tまでの時間(T−T)は、単量体の重合率、および製造効率の観点から1〜24時間が好ましく、2〜18時間がより好ましい。
【0042】
反応器への単量体の供給方法は、所定の量を一括的に投入する方法でもよく、滴下する方法でもよく、これらの組み合わせでもよい。重合溶媒と混合して供給してもよい。
開始時刻Tの時点で反応器内に単量体は存在する。すなわち、開始時刻Tより前に、重合反応に用いる単量体の一部または全量を反応器内へ供給する。開始時刻Tの時点で反応器内に存在する単量体は、重合反応に用いる単量体の全量を100質量%とすると、そのうちの10質量%以上であることが好ましく、25質量%以上がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると重合が効率的に進行しやすく、十分な重合率が得らやすい。
【0043】
反応器へのRAFT剤の供給方法は、所定の量を一括的に投入する方法でもよく、滴下する方法でもよく、これらの組み合わせでもよい。重合溶媒と混合して供給してもよい。RAFT剤の使用量は、単量体の量、および得ようとする重合体の分子量に応じて決められる。
開始時刻Tの時点で反応器内にRAFT剤は存在する。すなわち、開始時刻Tより前に、重合反応に用いるRAFT剤の一部または全量を反応器内へ供給する。開始時刻Tの時点で反応器内に存在するRAFT剤は、重合反応に用いるRAFT剤の全量を100質量%とすると、そのうちの50質量%以上であることが好ましく、75質量%以上がより好ましく、100質量%が最も好ましい。上記範囲の下限値以上であると分子量の分散が狭く、分子量ばらつきの小さい重合体が得られやすい。
すなわち、RAFT剤の全量を開始時刻T直前までに反応器内に供給することが特に好ましい。
【0044】
本実施形態は、Tから[(T−T)/2]の直前までの間(以下「(T−T)の前半」ということもある。)に、反応器内に重合開始剤を供給する工程と、[(T−T)/2]からTまでの間(以下「(T−T)の後半」ということもある。)に、反応器内に重合開始剤を供給する工程を有する。[(T−T)/2]の時点は(T−T)の後半に含まれるものとする。
[(T−T)/2]の直前までに、反応器内に供給される重合開始剤は、主に単量体の重合反応に寄与し、(T−T)の後半に、反応器内に供給される重合開始剤は、主に重合体の末端から連鎖移動剤残基(RAFT剤残基)を脱離させる反応に寄与する。
[(T−T)/2]の直前までに、反応器内に供給される重合開始剤は1種でもよく、2種以上でもよい。(T−T)の後半に反応器内供給される重合開始剤は1種でもよく、2種以上でもよい。
[(T−T)/2]の直前までに、反応器内に供給される重合開始剤と、(T−T)の後半に反応器内供給される重合開始剤とは同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0045】
開始時刻Tの時点で、反応器内に重合開始剤の一部が既に供給されていてもよいが、反応器内に重合開始剤を供給してから反応器内の液を加熱すると、重合体の製造安定性が低下しやすい。かかる製造安定性の低下は、開始時刻Tより前に反応器内に供給された重合開始剤が、反応器内の液を昇温させる際の熱履歴を受けることが原因の1つと考えられる。
したがって、開始時刻Tより前に反応器内に供給される重合開始剤の量は少ない方が好ましい。具体的には、反応器内に供給される重合開始剤の全量を100質量%とすると、そのうちTからTまでに反応器内に供給される重合開始剤の合計質量(後述のI)は50〜100質量%が好ましく、75〜100質量%がより好ましく、100質量%が最も好ましい。すなわち、反応器内への重合開始剤の供給は、開始時刻T以降に開始することが特に好ましい。
【0046】
(T−T)の前半において、開始時刻Tから反応器内へ重合開始剤を供給開始するまでの時間は、反応器内の単量体及びRAFT剤を安定に用いる点で、60分以下が好ましく、30分以下がより好ましい。0分すなわち開始時刻Tと重合開始剤の供給開始が同時でもよい。
(T−T)の後半において、反応器内へ重合開始剤を供給開始してから終了時刻Tまでの時間は、重合体の末端のRAFT剤残基を低減する効果が十分に得られやすい点で、30分以上が好ましく、45分以上がより好ましい。また製造工程期間の短縮や重合体の安定性の点で300分以下が好ましく、150分以下がより好ましい。好ましい範囲は30〜300分であり、45〜150分がより好ましい。
(T−T)の前半において、開始時刻Tから反応器内へ重合開始剤を供給開始するまでの時間が30分以下で、(T−T)の後半において、反応器内へ重合開始剤を供給開始してから終了時刻Tまでの時間が45〜150分であることがより好ましい。
【0047】
本実施形態においてTからTまでに、反応器内に供給される重合開始剤の合計質量をI、[(T−T)/2]からTまで、すなわち(T−T)の後半に供給される重合開始剤の合計質量をIとするとき、下記式(I)を満足する。
0.50<I/I<1.00 ・・・(I)
/Iの値が上記の範囲内であると、重合体の末端に残存するRAFT剤残基が効果的に低減されるとともに、高い重合率が得られる。0.60≦I/I≦0.99を満たすことが好ましく、0.80≦I/I≦0.99を満たすことがより好ましい。
【0048】
該(T−T)の後半に、反応器内に供給される重合開始剤の量(I)はRAFT剤の全量(100モル%)に対して25〜2000モル%が好ましく、500〜2000モル%がより好ましい。
(T−T)の後半に反応器へ重合開始剤を供給する方法は、重合体末端のRAFT剤残基を脱離させる効果が良好に得られやすい点で、その全量を一括的に投入する方法、または複数回に分けて投入する方法が好ましい。重合溶媒と混合して供給してもよく、粉体で供給してもよい。
【0049】
[(T−T)/2]の直前までに、反応器内に供給される重合開始剤の量(重合開始剤の全量−I)はRAFT剤の全量(100モル%)に対して10〜100モル%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。
[(T−T)/2]の直前までに、反応器へ重合開始剤を供給する方法は、その全量を一括的に投入する方法でもよく、複数回に分けて投入する方法でもよく、または滴下する方法でもよく、これらの組み合わせでもよい。重合を効率的に進行させる点で、一括的に投入する方法が好ましい。重合溶媒と混合して供給してもよく、粉体で供給してもよい。
【0050】
本実施形態の重合体の製造方法の好ましい実施形態として、以下の方法が挙げられる。
予め反応器内に単量体の全量とRAFT剤の全量と、必要に応じて重合溶媒を投入し、好ましくは不活性ガス(例えば窒素ガス)を吹き込んで反応器内の気体を不活性ガスで置換(ガスパージ)した後、反応器内の液を加熱して昇温させる。反応器内の液の温度が、予め設定された重合温度に達した(開始時刻T)後、(T−T)の前半に供給する重合開始剤の全量を一括的に供給し、所定の重合温度で重合反応させる。[(T−T)/2]以降に(T−T)の後半に供給する重合開始剤の全量を、一括的にまたは複数回に分けて供給する。所定の重合温度で反応させた後、反応を停止させる。
【0051】
<塩基性化合物>
反応器内で、単量体、重合開始剤、およびチオカルボニルチオ構造を有する連鎖移動剤(RAFT剤)を含む反応溶液を予め設定された重合温度で前記単量体を重合反応させた後、反応を停止させる工程を経て重合体を製造する方法において、単量体を重合反応させる際に塩基性化合物を共存させることが好ましい。
重合反応系に塩基性化合物を存在させることにより、重合反応系内に生じた、酸を速やかに中和することができる。具体的には、RAFT剤に由来するチオカルボニルチオ構造が、貯蔵中または重合反応中に分解して酸が発生すると、発生した酸によってチオカルボニルチオ構造の分解が促進されると同時に、酸によって変性する基が系内に存在する場合には、その基の変性も促進される。系内の酸を塩基性化合物によって中和することにより、チオカルボニルチオ構造の分解、および酸によって変性する基の変性を抑制し、設計どおりの重合体が得られ、所望の特性を得ることができる。
【0052】
塩基性化合物としては、例えば、2−アミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、αーピコリン、βーピコリン、γ−ピコリン、ピペリジン、ピリジン、ベンジルアミン、メトキシエチルアミン、アミノピリジン、エチレンジアミン等が挙げられる。RAFT剤の制御性を阻害しない観点から、3級アミンが好ましく、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、αーピコリン、βーピコリン、γ−ピコリン、ピペリジン、ピリジンが特に好ましい。塩基性化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。重合反応で使用される塩基性化合物の量は特に限定されないが、例えば、該重合反応に使用されるRAFT剤の全量(100モル%)に対して、1〜100モル%が好ましく、5〜75モル%がより好ましい。
重合反応系への塩基性化合物の供給方法は、例えば、重合反応開始前に予め反応器に存在させておいてもよく、重合反応開始後にその全量を一括的に投入する方法でもよく、複数回に分けて投入する方法でもよく、または滴下する方法でもよく、これらの組み合わせでもよい。RAFT剤の分解を効率的に抑制する観点から、重合反応開始後にその全量を一括的に投入する方法が好ましい。
塩基性化合物は、重合溶媒や単量体と混合して供給してもよく、単独で供給してもよい。
【0053】
反応を停止させて得られた重合反応溶液は、必要に応じて精製を行う(精製工程)。精製は公知の方法を用いて行うことができる。例えば、必要に応じて希釈溶媒で適当な溶液粘度に希釈した後、貧溶媒中に滴下し、重合体を析出させる(再沈殿工程)。析出物をろ別して湿粉を得、十分に乾燥することにより、乾燥粉末状の重合体を得ることができる。
また、ろ別後の湿粉を再び貧溶媒に分散させて重合体分散液を得た後、重合体をろ別する操作を1回以上繰り返すこともできる(リスラリ工程)。
【0054】
精製工程が、重合体を含む混合物を、プロトン性極性貧溶媒に接触させる工程と、非プロトン性非極性貧溶媒に接触させる工程を含むことが好ましい。
該重合体を含む混合物とは、目的の重合体と不純物を含む被精製物を意味し、例えば前記重合反応溶液、前記重合体分散液、前記重合体を不純物を含む粉体、前記重合体を良溶媒に再度溶解した溶液等である。
プロトン性極性貧溶媒とは、プロトン供与性を有し、ヒルデブランドの溶解パラメーター(以下、SP値という。)が20(MPa1/2)以上である溶媒を指す。1気圧20℃で、精製しようとする重合体と等重量混合した際に混合物が不均一となる溶媒が好ましい。
プロトン性極性貧溶媒の好ましい例としては、水(SP値47.9)、メタノール(SP値29.7)、エタノール(SP値26.0)、1−プロパノール(SP値24.3)、2−プロパノール(SP値23.5)、1−ブタノール(SP値23.3)、2−メチル−1−プロパノール(SP値21.5)、2−メチル−2−プロパノール(SP値21.7)等が挙げられる。
非プロトン性非極性貧溶媒とは、プロトン供与性を有さず、ヒルデブランドのSP値が20(MPa1/2)未満である溶媒を指す。1気圧20℃で、精製しようとする重合体と等重量混合した際に混合物が不均一となる溶媒が好ましい。
非プロトン性非極性貧溶媒の好ましい例としては、ジイソプロピルエーテル(SP値14.1)、ペンタン(SP値14.3)、イソプロピルエーテル(SP値14.5)、ヘキサン(SP値14.9)、ジエチルエーテル(SP値15.1)、ヘプタン(SP値15.1)等が挙げられる。
【0055】
プロトン性極性貧溶媒に接触させる工程と、非プロトン性非極性貧溶媒に接触させる工程の順序は限定されず任意である。目的の重合体と不純物を含む混合物を、プロトン性極性貧溶媒と非プロトン性非極性貧溶媒の両方に接触させることにより、極性の低いRAFT断片、低極性の単量体、高極性の単量体等の低分子化合物を効率的に除くことができる。その結果、未反応の単量体(残存単量体)、残溶剤、脱離したRAFT断片等の低分子量の不純物が良好に低減された重合体を得ることができる。
プロトン性極性貧溶媒に接触させる工程と、非プロトン性非極性貧溶媒に接触させる工程は、重合体溶液を上記貧溶媒と混合して重合体を沈殿させる方法、重合体を上記貧溶媒と混合して洗浄した後に固液分離する方法、重合体を前記貧溶媒によるリパルプやリンスによって洗浄する方法等によって行うことができる。
重合体中に残存する上記貧溶媒の量を低減する点では、非プロトン性非極性貧溶媒に接触させた後に、プロトン性極性貧溶媒に接触させる方法が好ましい。
【0056】
本実施形態の製造方法によれば、重合体の末端に残存するRAFT剤残基を効果的に低減させることができる。
また重合反応系に塩基性化合物を存在させることにより、重合体中の酸の含有量を低減させることができる。
好ましくは、重合体の全成長末端基のうち、チオカルボニルチオ構造を有する末端基の割合が0.001〜30モル%であり、かつ全構成単位数(100モル%)に対する酸の含有率が2モル%以下である重合体を得ることができる。
重合体の全成長末端基(100モル%)に対する、チオカルボニルチオ構造を有する末端基の割合は、0.001〜15モル%がより好ましく、0.001〜10モル%が特に好ましい。
本実施形態の重合体は、製造上不可避の不純物を含有してもよい。かかる不純物としては、例えば未反応の単量体(残存単量体)、残溶剤、脱離したRAFT断片等が挙げられる。
【0057】
重合体の全成長末端基とは、付加重合の進行中に単量体が連続的に付加し、重合体連鎖が伸張した側の最も端の官能基を意味する。RAFT剤を用いた重合反応により得られる重合体の成長末端基は、重合開始剤残基(硫黄原子を含まない)またはRAFT剤残基(硫黄原子を含む)のいずれか一方からなる。両者の合計が全成長末端基である。重合体の全成長末端基のうちチオカルボニルチオ構造を有する末端基の割合は、硫黄原子を含まない末端基(重合開始剤残基)と硫黄原子を含む末端基(RAFT剤残基)の存在量をH−NMRを用いて分析することにより、求めることができる。
【0058】
本発明において、重合体中の酸は有機酸であり、重合体中の酸の存在量は、有機酸として働く構成単位の存在量で表すことができる。
有機酸とは、水中で酸性(pH<7)を示す有機化合物の総称で、カルボキシル基(−COOH)、スルホ基(−SOH)、フェノール性ヒドロキシル基(−ArOH:Arはフェニル基等のアリール基)、メルカプト基(−SH)等の酸性の官能基を持つ有機化合物を意味する。有機酸として働く構成単位は、該酸性の官能基を有する構成単位である。
重合体の全構成単位数に対する、有機酸として働く構成単位数の割合(単位:モル%)は、以下により求められる値である。
すなわち、重合体の全構成単位数(単位:モル)を、核磁気共鳴(NMR)スペクトル法、赤外(IR)スペクトル法等により求める。これとは別に、有機酸として働く構成単位の存在量(単位:モル)を核磁気共鳴(NMR)スペクトル法、赤外(IR)スペクトル法、滴定法等により求め、全構成単位数に対する、有機酸として働く構成単位数の割合(単位:モル%)を算出する。
該有機酸として働く構成単位数の割合が2モル%以下であると、反応系内におけるチオカルボニルチオ構造の分解が良好に抑制され、所期の特性に優れた重合体が得られやすい。また、反応系内に酸によって変性する基が存在する場合には、該基の変性が良好に抑制され、所期の特性に優れた重合体が得られやすい。
【0059】
重合体の全成長末端基のうち、チオカルボニルチオ構造を有する末端基の割合が0.001モル%以上であることは、該重合体がRAFT剤を用いて製造された重合体であることを意味する。RAFT剤を用いて重合体を製造することにより、重合体の分子量のばらつきを改善し、分子量分布を低減させることができる。
重合体の全成長末端基のうち、チオカルボニルチオ構造を有する末端基の割合が30モル%以下であり、かつ全構成単位数に対する有機酸として働く構成単位数の割合が2モル%以下であると、重合体中に残存したRAFT剤残基が十分に少なく、重合体の溶媒への溶解性向上効果、およびレジスト組成物に用いたときのフォトリソグラフィー用照射光に対する透過率向上効果が十分に得られやすい。
【0060】
好ましい実施形態の重合体は、酸により変性する基を有する構成単位を含む重合体であって、重合体の全成長末端基(100モル%)に対して、チオカルボニルチオ構造を有する末端基の割合が0.001〜30モル%であり、全構成単位数に対する有機酸として働く構成単位数の割合が2モル%以下である。
酸により変性する基を有する構成単位を含む重合体であっても、重合体の全構成単位数に対する有機酸として働く構成単位数の割合が2モル%以下であると、重合反応時や保存時における、酸により変性する基の変性が生じ難く、良好な安定性が得られやすい。
重合体の全成長末端基(100モル%)に対する、チオカルボニルチオ構造を有する末端基の割合は、0.001〜15モル%がより好ましく、0.001〜10モル%が特に好ましい。
【0061】
本発明において、重合体の、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定され、示差屈折率計によって検出される溶出曲線において、分子量1000以下のピーク面積が、全体のピーク面積に対して1.0%以下であることが好ましい。
上記分子量1000以下のピーク面積の、全体のピーク面積に対する割合は、以下の方法で求められる値である。
一般に、GPCを用いて、重合体の分子量分布の測定を行う場合、溶出体積(溶出速度×溶出時間)が増大するにしたがって、検出器を通過する溶離液中の重合体の分子量の対数が単調に減少する。すなわち分子量が大きいほど、カラムからの溶出が早い。また信号強度は、検出器を通過する溶離液中における重合体の存在量に比例する。標準ポリスチレンを用いて溶出時間と分子量との関係を表す較正曲線を作成することにより、示差屈折率計によって検出される溶出曲線を、縦軸に信号強度、横軸にポリスチレン換算の分子量の対数を持った曲線(以下、微分分子量曲線と呼ぶ)に変換することができる。
本発明では、微分分子量曲線にベースラインを引いたとき、全ての正のピークの面積(ベースラインよりも信号強度が大きい側の面積)を足し合わせたものを全体のピーク面積、全ての正のピークのうち、分子量1000以下における正のピークの面積(ベースラインよりも信号強度が大きい側の面積)を足し合わせたものを分子量1000以下のピーク面積とする。これらに基づいて、分子量1000以下のピーク面積の、全体のピーク面積に対する割合を求める。
上記微分分子量曲線への変換、ピーク面積の算出等は例えば東ソー株式会社製、GPC8020 model II データ解析version6.00などで行うことができる。
分子量1000以下の低分子化合物には、未反応の単量体(残存単量体)、残溶剤、脱離したRAFT断片等が含まれ得る。重合体中における、これらの低分子化合物の含有量を1%以下という十分に小さい値に制御することにより、所望の特性が安定的に得られやすい。
【0062】
<レジスト組成物>
本実施形態のレジスト組成物は、少なくとも本実施形態の製造方法で得られるリソグラフィー用重合体、および活性光線又は放射線の照射により酸を発生する化合物(以下、光酸発生剤という。)を含有する、化学増幅型レジスト組成物である。前記レジスト組成物は、好ましくはレジスト溶媒をさらに含む。レジスト溶媒としては、上記重合溶媒と同様のものが挙げられる。
本実施形態のレジスト組成物は、本実施形態の製造方法で得られるリソグラフィー用重合体を用いた、化学増幅型レジスト組成物であり、レジスト溶媒への溶解性に優れ、高い透過率が得られ、感度に優れる。
【0063】
(光酸発生剤)
光酸発生剤は、化学増幅型レジスト組成物において公知の光酸発生剤の中から任意に選択できる。光酸発生剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
光酸発生剤としては、例えば、オニウム塩化合物、スルホンイミド化合物、スルホン化合物、スルホン酸エステル化合物、キノンジアジド化合物、ジアゾメタン化合物等が挙げられる。
レジスト組成物における光酸発生剤の含有量は、重合体100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、0.5〜10質量部がより好ましい。
【0064】
(含窒素化合物)
化学増幅型レジスト組成物は、含窒素化合物を含んでいてもよい。含窒素化合物を含むことにより、レジストパターン形状、引き置き経時安定性等がさらに向上する。すなわち、レジストパターンの断面形状が矩形により近くなる。また半導体素子の量産ライン等では、レジスト膜に光を照射し、次いでベーク(PEB)した後、次の現像処理までの間に数時間放置されることがあるが、そのような放置(経時)によるレジストパターンの断面形状の劣化の発生がより抑制される。
含窒素化合物としては、アミンが好ましく、第2級低級脂肪族アミン、第3級低級脂肪族アミンがより好ましい。
レジスト組成物における含窒素化合物の含有量は、重合体100質量部に対して、0.01〜2質量部が好ましい。
【0065】
(有機カルボン酸、リンのオキソ酸またはその誘導体)
化学増幅型レジスト組成物は、有機カルボン酸、リンのオキソ酸またはその誘導体(以下、これらをまとめて酸化合物と記す。)を含んでいてもよい。酸化合物を含むことにより、含窒素化合物の配合による感度劣化を抑えることができ、また、レジストパターン形状、引き置き経時安定性等がさらに向上する。
有機カルボン酸としては、マロン酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、安息香酸、サリチル酸等が挙げられる。
リンのオキソ酸またはその誘導体としては、リン酸またはその誘導体、ホスホン酸またはその誘導体、ホスフィン酸またはその誘導体等が挙げられる。
レジスト組成物における酸化合物の含有量は、重合体100質量部に対して、0.01〜5質量部が好ましい。
【0066】
(添加剤)
本実施形態のレジスト組成物は、必要に応じて、界面活性剤、その他のクエンチャー、増感剤、ハレーション防止剤、保存安定剤、消泡剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。該添加剤は、当該分野で公知のものであればいずれも使用可能である。また、これら添加剤の量は、特に限定されず、適宜決めればよい。
【0067】
<パターンが形成された基板の製造方法>
本実施形態の、パターンが形成された基板の製造方法は、本実施形態のレジスト組成物を、基板の被加工面上に塗布してレジスト膜を形成する工程と、該レジスト膜に対して、露光する工程と、露光されたレジスト膜を現像液を用いて現像する工程とを含む。
各工程は、公知の方法で行うことができる。
本実施形態の基板の製造方法によれば、高精度の微細なレジストパターンを安定して形成できる。
【0068】
本実施形態の、パターンが形成された基板の製造方法の一実施形態について説明する。
まず、所望の微細パターンを形成しようとするシリコンウエハー等の基板の被加工面上に、本実施形態のレジスト組成物をスピンコート等により塗布する。そして、該レジスト組成物が塗布された基板を、ベーキング処理(プリベーク)等で乾燥することにより、基板上にレジスト膜を形成する。
ついで、レジスト膜に対して、フォトマスクを介して露光を行い潜像を形成する。露光光としては、250nm以下の波長の光が好ましい。例えばKrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザー、Fエキシマレーザー、EUV光が好ましく、ArFエキシマレーザーが特に好ましい。また、電子線を照射してもよい。
また、該レジスト膜と露光装置の最終レンズとの間に、純水、パーフルオロ−2−ブチルテトラヒドロフラン、パーフルオロトリアルキルアミン等の高屈折率液体を介在させた状態で光を照射する液浸露光を行ってもよい。
【0069】
露光後、適宜熱処理(露光後ベーク、PEB)し、レジスト膜にアルカリ現像液を接触させ、露光部分を現像液に溶解させ、除去する(現像)。アルカリ現像液としては、公知のものが挙げられる。
現像後、基板を純水等で適宜リンス処理する。このようにして基板上にレジストパターンが形成される。
レジストパターンが形成された基板は、適宜熱処理(ポストベーク)してレジストを強化し、レジストのない部分を選択的にエッチングする。
エッチング後、レジストを剥離剤によって除去することによって、微細パターンが形成された基板が得られる。
【0070】
本実施形態の製造方法により得られるリソグラフィー用重合体は、溶媒への溶解性に優れるとともに、レジスト組成物に用いたときのフォトリソグラフィー用照射光に対する高い透過率が得られる。照射光に対する透過率が向上すると、感度が向上する。
また溶媒への溶解性が良好であると、レジスト組成物を調製する際のレジスト溶媒への重合体の溶解を容易にかつ良好に行うことができる。またレジスト組成物はアルカリ現像液に対する優れた溶解性が得られ、感度の向上に寄与する。またレジスト組成物中の不溶分が少ないため、パターン形成において、該不溶分に起因する欠陥が生じにくい。
したがって本実施形態の基板の製造方法によれば、本実施形態のレジスト組成物を用いることによって、基板上に欠陥の少ない、高精度の微細なレジストパターンを安定して形成できる。また、高感度および高解像度のレジスト組成物の使用が要求される、波長250nm以下の露光光を用いるフォトリソグラフィーまたは電子線リソグラフィー、例えばArFエキシマレーザー(193nm)を使用するリソグラフィーによる、パターン形成にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、各実施例、比較例中「部」とあるのは、特に断りのない限り「質量部」を示す。測定方法および評価方法は以下の方法を用いた。
<分子量の測定>
重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)は、下記の条件(GPC条件)でゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより、ポリスチレン換算で求めた。
[GPC条件]
装置:東ソー社製、東ソー高速GPC装置 HLC−8220GPC(商品名)、
分離カラム:昭和電工社製、Shodex GPC K−805L(商品名)を3本直列に連結したもの、
測定温度:40℃、
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)、
試料(重合体の場合):重合体の約20mgを5mLのTHFに溶解し、0.5μmメンブレンフィルターで濾過した溶液、
試料(重合反応溶液の場合):サンプリングした重合反応溶液の約30mgを5mLのTHFに溶解し、0.5μmメンブレンフィルターで濾過した溶液、
流量:1mL/分、
注入量:0.1mL、
検出器:示差屈折計(示差屈折率検出器)。
【0072】
検量線I:標準ポリスチレンの約20mgを5mLのTHFに溶解し、0.5μmメンブレンフィルターで濾過した溶液を用いて、上記の条件で分離カラムに注入し、溶出時間と分子量の関係を求めた。標準ポリスチレンは、下記の東ソー社製の標準ポリスチレン(いずれも商品名)を用いた。
F−80(Mw=706,000)、
F−20(Mw=190,000)、
F−4(Mw=37,900)、
F−1(Mw=10,200)、
A−2500(Mw=2,630)、
A−500(Mw=682、578、474、370、260の混合物)。
【0073】
<分子量1000以下のGPC面積値比の測定>
上記と同様に分子量の測定を行い、示差屈折計にて検出した溶出曲線におけるピークのうち、分子量1000以下に相当する正のピーク面積の、測定した重合体の全体に相当するピーク面積に対する比率(分子量1000以下のGPC面積値比、単位:%)を求めた。
【0074】
<重合率の定量>
重合反応溶液中に残存する単量体量は次の方法で求めた。
反応器内の重合反応溶液を0.5g採取し、これをアセトニトリルで希釈し、メスフラスコを用いて全量を50mLとした。この希釈液を0.2μmのメンブレンフィルターで濾過し、東ソー社製、高速液体クロマトグラフHPLC−8020(製品名)を用いて、該希釈液中の未反応単量体量(残存単量体量)を、単量体ごとに求めた。
反応器に供給した単量体量と残存単量体量とを差し引いて重合反応した単量体量を算出し、供給した単量体の合計質量に対する、重合反応した単量体の合計質量の割合を重合率(単位:質量%)として求めた。
【0075】
この測定において、分離カラムはジーエルサイエンス社製、Inertsil ODS−2(商品名)を1本使用し、移動相は水/アセトニトリルのグラジエント系、流量0.8mL/min、検出器は東ソー社製、紫外・可視吸光光度計UV−8020(商品名)、検出波長220nm、測定温度40℃、注入量4μLで測定した。なお、分離カラムであるInertsil ODS−2(商品名)は、シリカゲル粒径5μm、カラム内径4.6mm×カラム長さ450mmのものを使用した。また、移動相のグラジエント条件は、A液を水、B液をアセトニトリルとし、下記の通りとした。また、未反応単量体量を定量するために、濃度の異なる3種類の各単量体溶液を標準液として用いた。
【0076】
測定時間0〜3分:A液/B液=90体積%/10体積%。
測定時間3〜24分:A液/B液=90体積%/10体積%から、50体積%/50体積%まで。
測定時間24〜36.5分:A液/B液=50体積%/50体積%から、0体積%/100体積%まで。
測定時間36.5〜44分:A液/B液=0体積%/100体積%。
【0077】
<チオカルボニルチオ構造を有する末端基の定量>
重合体の約5部を重ジメチルスルホキシドの約95部に溶解して試料溶液を調製した。この試料溶液をNMRチューブに入れ、H−NMR(JEOL社製、共鳴周波数:270MHz)を用いて分析した。重合体末端に存在するチオカルボニルチオ構造に由来するシグナルの積分強度比から、重合体の全末端基のうちの、チオカルボニルチオ構造を有する末端基の割合を算出した。この値は、重合体の全末端基のうちの、チオカルボニルチオ構造(RAFT剤残基)を有する末端基の割合に相当する。
以下の例において、重合体末端(成長末端)は重合開始剤残基(硫黄原子を含まない)またはRAFT剤残基(硫黄原子を含む)のいずれか一方からなる。したがって、硫黄原子を有する末端基のモル数が、チオカルボニルチオ構造を有する末端基のモル数となる。
硫黄原子を含まない末端基と硫黄を含む末端基の合計が全成長末端基であり、そのうちの硫黄原子を有する末端基の割合が低いほど、重合体の末端に残存するRAFT剤残基が少ないことを表す。
【0078】
<有機酸(有機酸として働く構成単位)の定量>
以下の例において、重合体中の、有機酸を発生し得る基は、酸脱離性基と、重合体末端に組み込まれたRAFT剤残基のみである。前記酸脱離性基或いはRAFT剤残基が熱あるいは酸によって分解した結果、カルボン酸あるいはジチオカルボン酸が発生する。したがって、重合体中に存在する、カルボキシル構造を有する構成単位とジチオカルボキシル構造を有する構成単位の合計のモル数が、重合体中の有機酸として働く構成単位のモル数となる。
以下の方法で、重合体中の全構成単位数に対する、有機酸として働く構成単位数の割合(有機酸の含有量)を求めた。すなわち、重合体の約5部を重ジメチルスルホキシドの約95部に溶解して試料溶液を調製した。この試料溶液をNMRチューブに入れ、H−NMR(JEOL社製、共鳴周波数:270MHz)を用いて分析した。カルボキシル構造とジチオカルボキシル構造に由来するシグナルの積分強度比から、全構成単位数に対する、有機酸として働く構成単位数の割合(単位:モル%)を算出した。なお、カルボキシル構造とジチオカルボキシル構造に由来するシグナルはH−NMRにおいて近傍に観測される。
【0079】
<重合体の溶解性の評価>
重合体の10部とPGMEAの90部とを混合し、25℃に保ちながら一定の条件で撹拌を行い、目視で完全溶解を判断し、撹拌開始から完全溶解するまでの時間を計測した。該完全溶解までの時間が短いほど溶解性に優れることを表す。
【0080】
<レジスト組成物の透明性の評価>
レジスト組成物を4インチ石英ウエハー上に回転塗布し、ホットプレート上で120℃、60秒間のプリベーク(PAB)を行い、厚さ1000nmのレジスト膜を形成した。
紫外可視分光光度計(島津製作所製、UV-3100(商品名))にて193nmの透過率を測定した。193nmはArFエキシマレーザー光の波長である。
【0081】
<レジスト組成物の感度の評価>
レジスト組成物を6インチシリコンウエハー上に回転塗布し、ホットプレート上で120℃、60秒間のプリベーク(PAB)を行い、厚さ300nmのレジスト膜を形成した。
そして、ArFエキシマレーザー露光装置(リソテックジャパン社製、製品名:VUVES−4500)を用い、露光量を変えながら10mm×10mmの面積の18ショットを露光した。
次に、110℃、60秒間のポストベーク(PEB)を行った後、レジスト現像アナライザー(リソテックジャパン社製、製品名:RDA−806)を用い、23.5℃にて2.38%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液で65秒間現像した。各露光量のレジスト膜それぞれについて、現像中のレジスト膜厚の経時変化を測定した。
【0082】
得られたレジスト膜厚の経時変化のデータを基に、露光量(単位:mJ/cm)の対数と、初期膜厚に対する30秒間現像した時点での残存膜厚の割合率(単位:%、以下残膜率という。)との関係をプロットして、露光量−残膜率曲線作成した。この曲線に基づいて、残膜率0%とするための必要露光量(Eth)の値を求めた。すなわち、露光量−残膜率曲線が、残膜率0%の直線と交わる点における露光量(mJ/cm)をEthとして求めた。このEthの値は感度を表し、この値が小さいほど、感度が高いことを示す。
【0083】
以下の例で用いた単量体(m−1)、(m−2)、(m−3)、(m−4)、RAFT剤(R−1)、重合開始剤(I−1)、(I−2)は以下の通りである。
単量体(m−1):下記式(m−1)で表される化合物。
単量体(m−2):下記式(m−2)で表される化合物。
単量体(m−3):下記式(m−3)で表される化合物。
単量体(m−4):下記式(m−4)で表される化合物。
RAFT剤(R−1):下記式(R−1)で表される化合物。
重合開始剤(I−1):ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート(和光純薬工業社製、V601(商品名))。
重合開始剤(I−2):2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製、V65(商品名))。
【0084】
【化3】
【0085】
【化4】
【0086】
<実施例1>
25mLのシュレンクフラスコ中に、PGMEAを8.4部、単量体(m−1)を2.72部、単量体(m−2)を3.07部、単量体(m−3)を1.89部、RAFT剤(R−1)を0.18部(0.8mmol)入れた後、フラスコ内の溶液中に200mL/分で1分間窒素を吹き込んだ。次にこのフラスコを80℃の湯浴上に置き、フラスコ内温を80℃(予め設定された重合温度)まで昇温した。
80℃に達してから10分後、PGMEA1.0部と重合開始剤(I−1)0.050部(0.2mmol)とトリエチルアミン0.002部(0.02mmol)からなる溶液を一気にフラスコ内に供給した後、温度を保持しながら5時間撹拌した。
次いで、PGMEA0.5部と重合開始剤(I−2)0.992部(4mmol)からなる溶液を一気にフラスコ内に供給し、温度を保持しながら1時間攪拌した後、さらにPGMEA0.5部と重合開始剤(I−2)0.992部(4mmol)からなる溶液を一気にフラスコ内に供給し、温度を保持しながら1時間攪拌し、反応溶液を室温まで冷却して反応を停止した。このときの反応溶液中の残存単量体量を定量し、重合率を求めた。結果を表1に示す。
本例において、フラスコ内温が80℃に達した時点がT、フラスコ内の反応溶液の冷却を開始した時点がTである。T〜Tまでの間に供給された重合開始剤の質量Iは、0.05部+0.992部+0.992部である。(T−T)/2〜Tの間に供給された重合開始剤の質量Iは、0.992部+0.992部である。したがってI/I=0.975である。
【0087】
[重合体の精製]
フラスコ内の重合反応溶液を、約10倍量のヘプタンに撹拌しながら滴下し、白色の析出物(重合体A−1)の沈殿を得た。沈殿を濾別し、再度、前記と同じ量のメタノールへ投入し、撹拌しながら沈殿の洗浄を行った。そして、洗浄後の沈殿を濾別し、重合体湿粉を得た。この重合体湿粉を減圧下40℃で約40時間乾燥した。得られた重合体A−1について、Mw、Mw/Mn、分子量1000以下のGPC面積値比、重合末端の硫黄原子含有率(重合体の全成長末端基のうち硫黄原子を有する末端基の割合)、有機酸含有率を測定し、重合体の溶解性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
[レジスト組成物の製造]
得られた重合体A−1の100部と、光酸発生剤であるトリフェニルスルホニウムトリフレートの2部と、溶媒であるPGMEAとを、重合体濃度が10.0質量%になるように混合して均一溶液とした後、孔径0.1μmのメンブレンフィルターで濾過し、レジスト組成物を得た。得られたレジスト組成物について上記の方法で透明性及び感度を評価した。結果を表1に示す。
【0089】
<実施例2>
シュレンクフラスコ中に、PGMEA、単量体(m−1)、(m−2)、(m−3)、RAFT剤(R−1)入れ、窒素を吹き込み、フラスコ内温を80℃に昇温する工程までは実施例1と同様に行った。
80℃に達してから10分後、PGMEA1.0部と重合開始剤(I−1)0.050部(0.2mmol)とトリエチルアミン0.002部(0.02mmol)からなる溶液を一気にフラスコ内に供給した後、温度を保持しながら5時間撹拌した。
次いで、PGMEA1.0部と重合開始剤(I−1)1.84部(8mmol)からなる溶液を一気にフラスコ内に供給し、温度を保持しながら2時間攪拌し、反応溶液を室温まで冷却して反応を停止した。このときの反応溶液中の残存単量体量を定量し、重合率を求めた。結果を表1に示す。
本例において、T〜Tまでの間に供給された重合開始剤の質量Iは、0.05部+1.84部である。(T−T)/2〜Tの間に供給された重合開始剤の質量Iは、1.84部である。したがってI/I=0.974である。
実施例1と同様にして精製し、重合体A−2を得た。実施例1と同様に測定または評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
<実施例3>
シュレンクフラスコ中に、PGMEA、単量体(m−1)、(m−2)、(m−3)、RAFT剤(R−1)入れ、窒素を吹き込み、フラスコ内温を80℃に昇温する工程までは実施例1と同様に行った。
80℃に達してから10分後、PGMEA1.0部と重合開始剤(I−2)0.050部(0.2mmol)とトリエチルアミン0.002部(0.02mmol)からなる溶液を一気にフラスコ内に供給した後、温度を保持しながら4時間撹拌した。
次いで、PGMEA1.0部と重合開始剤(I−2)0.055部(0.22mmol)からなる溶液を一気にフラスコ内に供給し、温度を保持しながら3時間攪拌し、反応溶液を室温まで冷却して反応を停止した。このときの反応溶液中の残存単量体量を定量し、重合率を求めた。結果を表1に示す。
本例において、T〜Tまでの間に供給された重合開始剤の質量Iは、0.05部+0.055部である。(T−T)/2〜Tの間に供給された重合開始剤の質量Iは、0.055部である。したがってI/I=0.524である。
実施例1と同様にして精製し、重合体A−3を得た。実施例1と同様に測定または評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
<実施例4>
窒素導入口、撹拌機、コンデンサー、滴下漏斗、および温度計を備えたフラスコに、窒素雰囲気下で、PGMEAを42.0部、 単量体m−1を13.60部、単量体m−2を15.68部、 単量体m−3を9.44部、RAFT剤(R−1)を1.77部(8mmol)入れた。フラスコを湯浴に入れ、フラスコ内を撹拌しながら湯浴の温度を80℃に上げた。
フラスコ内温が80℃に達してから10分後、PGMEA4.4部と重合開始剤(I−1)0.23部(1mmol)とトリエチルアミン0.081部(0.8mmol)からなる溶液を一気にフラスコ内に供給するとともに、 単量体m−1を13.60部、単量体m−2を15.68部、 単量体m−3を9.44部、PGMEAが47.3部、重合開始剤(I−1)0.23部(1mmol)入った滴下装置から一定速度で4時間かけてフラスコ内に滴下した。次いで、温度を保持しながら1時間攪拌した。 次いで、PGMEA27.6部と重合開始剤(I−2)18.4部(80mmol)が入った滴下装置から一定速度で10分間フラスコ内に滴下した後、温度を保持しながら1時間50分間攪拌し、反応溶液を室温まで冷却して反応を停止した。このときの反応溶液中の残存単量体量を定量し、重合率を求めた。結果を表1に示す。
本例において、T〜Tまでの間に供給された重合開始剤の質量Iは、0.23部+0.23部+18.4部である。(T−T)/2〜Tの間に供給された重合開始剤の質量Iは、0.029部+18.40部である。したがってI/I=0.977である。
実施例1と同様にして精製し、重合体A−4を得た。実施例1と同様に測定または評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
<実施例5>
シュレンクフラスコ中に、PGMEAを4.2部、単量体(m−1)を1.36部、単量体(m−4)を1.98部、単量体(m−2)を0.94部、RAFT剤(R−1)を0.09部(0.4mmol)入れた後、フラスコ内の溶液中に200mL/分で1分間窒素を吹き込んだ。次にこのフラスコを80℃の湯浴上に置き、フラスコ内温を80℃(予め設定された重合温度)まで昇温した。
80℃に達してから10分後、PGMEA1.0部と重合開始剤(I−1)0.023部(0.1mmol)とトリエチルアミン0.008部(0.08mmol)からなる溶液を一気にフラスコ内に供給した後、温度を保持しながら5時間撹拌した。
次いで、PGMEA1.0部と重合開始剤(I−1)1.84部(8mmol)からなる溶液を一気にフラスコ内に供給し、温度を保持しながら2時間攪拌し、反応溶液を室温まで冷却して反応を停止した。このときの反応溶液中の残存単量体量を定量し、重合率を求めた。結果を表1に示す。
本例において、T〜Tまでの間に供給された重合開始剤の質量Iは、0.023部+1.84部である。(T−T)/2〜Tの間に供給された重合開始剤の質量Iは、1.84部である。したがってI/I=0.988である。
フラスコ内の重合反応溶液を、約10倍量のヘプタン/イソプロパノール混合物(体積比70/30)に撹拌しながら滴下し、白色の析出物(重合体A−5)の沈殿を得た。沈殿を濾別し、再度、前記と同じ量のメタノールへ投入し、撹拌しながら沈殿の洗浄を行った。そして、洗浄後の沈殿を濾別し、重合体湿粉を得た。この重合体湿粉を減圧下40℃で約40時間乾燥した。得られた重合体A−5について、実施例1と同様に測定または評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
<実施例6>
シュレンクフラスコ中に、PGMEAを4.2部、単量体(m−1)を1.36部、単量体(m−4)を1.98部、単量体(m−2)を0.94部、RAFT剤(R−1)を0.09部(0.4mmol)入れた後、フラスコ内の溶液中に200mL/分で1分間窒素を吹き込んだ。次にこのフラスコを80℃の湯浴上に置き、フラスコ内温を80℃まで昇温した。
80℃に達してから10分後、PGMEA1.0部と重合開始剤(I−1)0.023部(0.1mmol)とトリエチルアミン0.008部(0.08mmol)からなる溶液を一気にフラスコ内に供給した後、温度を保持しながら7時間撹拌し、反応溶液を室温まで冷却して反応を停止した。このときの反応溶液中の残存単量体量を定量し、重合率を求めた。結果を表1に示す。
本例において、T〜Tまでの間に供給された重合開始剤の質量Iは、0.023部である。(T−T)/2〜Tの間に供給された重合開始剤の質量Iは、ゼロである。したがってI/I=0である。
実施例5と同様にして精製し、重合体A−6を得た。実施例1と同様に測定または評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
<比較例1>
シュレンクフラスコ中に、PGMEA、単量体(m−1)、(m−2)、(m−3)、RAFT剤(R−1)入れ、窒素を吹き込み、フラスコ内温を80℃に昇温する工程までは実施例1と同様に行った。
80℃に達してから10分後、PGMEA1.0部と重合開始剤(I−1)0.050部(0.2mmol)からなる溶液を一気にフラスコ内に供給した後、温度を保持しながら7時間撹拌し、 反応溶液を室温まで冷却して反応を停止した。このときの反応溶液中の残存単量体量を定量し、重合率を求めた。結果を表1に示す。
本例において、T〜Tまでの間に供給された重合開始剤の質量Iは、0.05部であり、(T−T)/2〜Tの間に供給された重合開始剤の質量Iはゼロである。したがってI/I=0である。
実施例1と同様にして精製し、重合体B−1を得た。実施例1と同様に測定または評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
<比較例2>
シュレンクフラスコ中に、PGMEA、単量体(m−1)、(m−2)、(m−3)、RAFT剤(R−1)入れ、窒素を吹き込み、フラスコ内温を80℃に昇温する工程までは実施例1と同様に行った。
80℃に達してから10分後、PGMEA1.0部と重合開始剤(I−2)0.050部(0.2mmol)からなる溶液を一気にフラスコ内に供給した後、温度を保持しながら7時間撹拌し、反応溶液を室温まで冷却して反応を停止した。このときの反応溶液中の残存単量体量を定量し、重合率を求めた。結果を表1に示す。
本例において、T〜Tまでの間に供給された重合開始剤の質量Iは、0.05部であり、(T−T)/2〜Tの間に供給された重合開始剤の質量Iはゼロである。したがってI/I=0である。
実施例1と同様にして精製し、重合体B−2を得た。実施例1と同様に測定または評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
<比較例3>
シュレンクフラスコ中に、PGMEAを8.4部、単量体(m−1)を2.72部、単量体(m−2)を3.07部、単量体(m−3)を1.89部、RAFT剤(R−1)を0.18部(0.8mmol)、重合開始剤(I−2)0.050部(0.2mmol)入れた後、フラスコ内の溶液中に200mL/分で1分間窒素を吹き込んだ。次にこのフラスコを80℃の湯浴上に置き、フラスコ内温を80℃まで昇温した。フラスコ内温が80℃に到達するのに要した時間は1時間であった。
80℃に達してから温度を保持しながら5時間撹拌した。
次いで、PGMEA0.5部と重合開始剤(I−2)0.050部(0.2mmol)からなる溶液を一気にフラスコ内に供給し、温度を保持しながら2時間攪拌した後、反応溶液を室温まで冷却して反応を停止した。このときの反応溶液中の残存単量体量を定量し、重合率を求めた。結果を表1に示す。
本例において、フラスコ内温が80℃に達した時点がT、フラスコ内の反応溶液の冷却を開始した時点がTである。T〜Tまでの間に供給された重合開始剤の質量Iは、0.050部であり、(T−T)/2〜Tの間に供給された重合開始剤の質量Iは0.050部である。したがってI/I=1である。
実施例1と同様にして精製し、重合体B−3を得た。実施例1と同様に測定または評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
<比較例4>
シュレンクフラスコ中に、PGMEA、単量体(m−1)、(m−4)、(m−3)、RAFT剤(R−1)入れ、窒素を吹き込み、フラスコ内温を80℃に昇温する工程までは実施例5と同様に行った。
80℃に達してから10分後、PGMEA1.0部と重合開始剤(I−1)0.023部(0.1mmol)からなる溶液を一気にフラスコ内に供給した後、温度を保持しながら7時間撹拌し、反応溶液を室温まで冷却して反応を停止した。重合開始剤を投入後2.5時間で反応溶液中に白色固体が析出し、不均一系で反応を続行した。反応停止後の反応溶液中の残存単量体量を定量し、重合率を求めた。結果を表1に示す。
本例において、T〜Tまでの間に供給された重合開始剤の質量Iは、0.023部であり、(T−T)/2〜Tの間に供給された重合開始剤の質量Iはゼロである。したがってI/I=0である。
実施例1と同様にして精製し、重合体B−4を得た。実施例1と同様に測定または評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
表1の結果に示されるように、0.50<I/I<1.00を満たす実施例1〜5で得られた重合体A−1〜A−5は、分子量分布が小さくて分子量のばらつきが小さく、かつ硫黄原子を有する末端基の割合が小さく、重合体末端に残存するRAFT剤残基が少ない。
また、精製工程において被精製物をプロトン性極性貧溶媒と非プロトン性非極性貧溶媒の両方に接触させた実施例1〜5は、分子量1000以下のGPC面積値比が小さく、重合体の溶解性に優れ、レジスト膜はArFエキシマレーザー光の波長(193nm)における透過率が高く、透明性及び感度に優れている。
【0100】
反応系中に塩基性化合物を共存させた、実施例1〜6では、得られた重合体A−1〜A−6中に有機酸(有機酸として働く構成単位)は観測されず、重合反応中における酸脱離性基の分解が抑制されたことがわかる。
【0101】
これらに比べて、反応系中に塩基性化合物を共存させず、重合反応の後半で重合開始剤を追加供給しなかった(すなわちI/I=0である)比較例1、2および4は、酸脱離性基の分解に由来する有機酸(有機酸として働く構成単位)が観測され、重合率が低く、硫黄原子を有する末端基の割合が高い。特に比較例4では重合中に多量の有機酸(有機酸として働く構成単位)が発生したために均一系での反応が継続できず、レジスト溶剤へ溶解しなかったために透明性及び感度の評価が行えなかった。
また、反応系中に塩基性化合物を共存させず、反応器内の液の温度が前記重合温度に達するより前に重合開始剤を供給して重合反応を進行させ重合反応の後半で重合開始剤を追加供給した(すなわちI/I=1である)比較例3は、酸脱離性基の分解に由来する有機酸(有機酸として働く構成単位)が観測され、分子量分布が大きく、重合率が低く、硫黄原子を有する末端基の割合が高い。