特許第6176066号(P6176066)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6176066
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20170731BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20170731BHJP
   C08G 64/06 20060101ALI20170731BHJP
   C08K 5/5393 20060101ALI20170731BHJP
【FI】
   C08L69/00
   C08K5/13
   C08G64/06
   C08K5/5393
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-232430(P2013-232430)
(22)【出願日】2013年11月8日
(65)【公開番号】特開2015-93888(P2015-93888A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】西原 涼平
(72)【発明者】
【氏名】角田 守男
(72)【発明者】
【氏名】白石 義隆
【審査官】 岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−014728(JP,A)
【文献】 特開2011−168764(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0077331(US,A1)
【文献】 特開平05−310906(JP,A)
【文献】 米国特許第05391690(US,A)
【文献】 国際公開第2010/137729(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0095141(US,A1)
【文献】 特開2002−194200(JP,A)
【文献】 特開2011−246628(JP,A)
【文献】 特開2012−236990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08G 64/06
C08K 5/13
C08K 5/5393
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、ホスホナイト化合物(B)0.001〜0.5質量部、及び融点100℃以下のヒンダードフェノール系熱安定剤(C)0.01〜0.5質量部を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
【請求項2】
ホスホナイト化合物(B)が、下記式(2)で表されることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】

(式(2)中、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立に水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
【請求項3】
下記式(3)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が0.5ppm以上30ppm以下である請求項1または請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化3】
(式(3)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
【請求項4】
ホスホナイト化合物(B)の融点が100℃以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
ポリカーボネート樹脂(A)の末端OH基量が、100ppm以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
ポリカーボネート樹脂(A)が、式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとの溶融重合法により得られたポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物に関する。より詳しくは、表面硬度、耐擦傷性、熱安定性、色相、及び機械的強度に優れたポリカーボネート樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、機械的強度、電気的特性、透明性などに優れ、エンジニアリングプラスチックとして、電気・電子機器分野、自動車分野等様々な分野において幅広く利用されている。近年、これら用途分野においては、成形加工品の薄肉化、小型化、軽量化が進展し、成形素材のさらなる性能向上が要求され、その中でも薄肉でも高硬度であるポリカーボネート樹脂の開発が望まれるようになり、いくつかの提案がなされている。
【0003】
例えば、ビスフェノールC等の従来のビスフェノールAとは異なる特定の構造を有する芳香族ジヒドロキシ化合物を用いて表面硬度に優れたポリカーボネートやコポリカーボネートとする方法(特許文献1、特許文献2)、ジメチルビスフェノールシクロヘキサンタイプのポリカーボネートとビスフェノールAタイプのポリカーボネートとのブレンドにより流動性や硬度のバランスを取る方法(特許文献3)等が知られている。
【0004】
ポリカーボネート樹脂の製造に際し、成形時等における分子量の低下や透明性の悪化を防止するために、安定剤を含有させることがある。例えば、特許文献4には、安定剤として、リン酸系安定剤を使用した例が開示されている。
また、特許文献5には、ビスフェノールC系芳香族ジヒドロキシ化合物を構造単位として含むポリカーボネート樹脂組成物が開示されており、任意に添加される安定剤として、リン酸系安定剤やヒンダードフェノール系安定剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭64−069625号公報
【特許文献2】特開平08−183852号公報
【特許文献3】国際公開第2009/083933号パンフレット
【特許文献4】特許第4183340号公報
【特許文献5】特開2013−64046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、原料モノマーとして上述の特定の構造を有するビスフェノール類を使用する際に、上述の安定剤を使用した場合は、成形、押出の際の色相及び透明性の悪化が十分に抑制できないことが判明した。
かかる状況下、本発明の目的は、特定の構造を有する芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有するポリカーボネート樹脂を原料とした場合においても、成形、押出の際等における色相、透明性の悪化が抑制され、表面硬度、耐擦傷性、熱安定性、色相、及び機械的強度に優れたポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
[1] 下記式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、ホスホナイト化合物(B)0.001〜0.5質量部、及び融点100℃以下のヒンダードフェノール系熱安定剤(C)0.01〜0.5質量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)

[2] ホスホナイト化合物(B)が、下記式(2)で表される前記[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】
(式(2)中、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立に水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)

[3] 下記式(3)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が0.5ppm以上30ppm以下である前記[1]または[2]記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化3】
(式(3)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
[4] ホスホナイト化合物(B)の融点が100℃以下である前記[1]乃至[3]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[5] ポリカーボネート樹脂(A)の末端OH基量が、100ppm以上である前記[1]乃至[4]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[6] ポリカーボネート樹脂(A)が、式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとの溶融重合法により得られたポリカーボネート樹脂である前記[1]乃至[5]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、成形、押出の際等における色調、透明性の悪化が抑制され、表面硬度、耐擦傷性、熱安定性、色相、及び機械的強度に優れたポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0011】
本発明は、下記式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、ホスホナイト化合物(B)0.001〜0.5質量部、及び融点100℃以下のヒンダードフェノール系熱安定剤(C)0.01〜0.5質量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【化4】

(式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
【0012】
以下、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の構成成分について詳細に説明する。
【0013】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂(A)は、上記式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む。
式(1)において、R1及びR2の、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、sec−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられ、置換若しくは無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基、4−メチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0014】
これらの中でも、R1及びR2は、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、4−メチルフェニル基が好ましく、特に水素原子が好ましい。
【0015】
式(1)で表される化合物として、例えば、下記式(1a)や(1b)等が挙げられる。
【化5】

【化6】
【0016】
これらの中でも、式(1a)に示すビスフェノールC(以下、「BPC」と記載する場合がある。)が良好な色相と表面硬度が得られるため好適である。
【0017】
ポリカーボネート樹脂では、その末端水酸基量が、熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼすため、ポリカーボネート樹脂(A)の末端OH基量は、通常100ppm以上であることが好ましく、より好ましくは、200ppm以上、さらに好ましくは400ppm以上、最も好ましくは500ppm以上である。但し、通常2000ppm以下、好ましくは1800ppm以下、さらに好ましくは1200ppm以下、最も好ましくは1000ppm以下である。ポリカーボネート樹脂(A)の末端水酸基濃度が過度に小さいと、成形時の初期色相が悪化する傾向がある。末端水酸基濃度が過度に大きいと、滞留熱安定性が低下する傾向がある。
ポリカーボネート樹脂(A)の末端OH基量の具体的な求め方は、実施例で後述する。
【0018】
ポリカーボネート樹脂(A)は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記式(1)で示される化合物に由来する構造単位以外のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(以下、「その他の構造単位」と称す。)を含んでいてもよい。
【0019】
その他の構造単位として、例えば、1,2−ジヒドロキシベンゼン、1,3−ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、1,4−ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
【0020】
2,5−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
【0021】
2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチル、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
【0022】
2,2’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル、1,4−ビス(3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0023】
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、
1,3−ビス[2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)(4−プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、
1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−ナフチルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,10−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0024】
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,4−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,5−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−プロピル−5−メチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
【0025】
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
【0026】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
【0027】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
【0028】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;等が挙げられる。
【0029】
その他の構造単位としては、なかでもビスフェノールA(以下、「BPA」と記載する場合がある。)に由来する構造単位が耐熱性、耐衝撃性の観点より好ましい。
ポリカーボネート樹脂(A)におけるその他の構造単位の割合は、式(1)で示される化合物に由来する構造単位100質量部に対して、5〜50質量部程度である。
【0030】
ポリカーボネート樹脂(A)は、式(1)で表される化合物に由来する構造単位に含むポリカーボネート樹脂に加え、必要に応じて、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)に由来する構造単位を主成分とするポリカーボネート樹脂を含むことができる。
式(1)で表される化合物に由来する構造単位に含むポリカーボネート樹脂(A)の含有量が、全ポリカーボネート樹脂中の10重量%以上であるのがより好ましく、20重量%以上がさらに好ましく、30重量%以上が最も好ましい。また、99重量%以下が好ましく、90重量%以下がより好ましい。式(1)で表される化合物に由来する構造単位に含むポリカーボネート樹脂の含有量が多すぎると耐衝撃性が低下する可能性があり、少なすぎると色調が悪化し、鉛筆硬度が下がる可能性があり好ましくない。
【0031】
ポリカーボネート樹脂(A)は、更に、下記式(3)で表される化合物に由来する構造単位を特定量含むことが好ましい。本発明において、本発明のポリカーボネート樹脂(A)が含有する、前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位の量は、本発明のポリカーボネート樹脂(A)を後述の方法によりアルカリ加水分解した際に、液体クロマトグラフィーにて測定された値で定義される。
【0032】
【化7】
(式(3)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
【0033】
ポリカーボネート樹脂(A)において、前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位を含有する場合の含有量は、0.5ppm以上30ppm以下であることが好ましく、1ppm以上27ppm以下がより好ましく、2ppm以上24ppm以下がさらに好ましい。前記式(3)で表される化合物の含有量は、ポリカーボネート樹脂の黄色み及び明度に与える影響が大きく、この前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が多すぎる場合、黄色化しやすく明度が低下する原因となる。
【0034】
・式(3)で表される化合物
式(3)で表される化合物において、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、式(1)に示すR1及びR2と同様である。
【0035】
この式(3)で表される化合物は、ポリマーの原料が加温下であり、かつ原料を混合する工程において酸素に接することにより、生成していると推測される。また、式(3)で表される化合物が直接色調を悪化させているのではなく、式(3)で表される化合物が生成する際に、同時にさらに微量の着色原因成分が生成していると推測される。着色成分は非常に微量であるため、通常の方法では検出が困難であるが、これらの式(3)で表される化合物の発生量および残存量を調整することで、色調及び明度を良化させることができる。これら式(3)で表される化合物の構造は、ポリカーボネート樹脂中ではその構造より分岐点となっていると推測される。これら式(3)で表される化合物で表される構造は、いわゆるビスフェノールAを原料としたポリカーボネートでは観測されておらず、本発明のポリカーボネート樹脂特有の構造と考えられる。このため、この式(3)で表される化合物の量を低減させるためには、後述するような製造時の条件を調節することが効率的である。
【0036】
・アルカリ加水分解による定量方法
ポリカーボネート樹脂(A)の有する、前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位の量は、本発明のポリカーボネート樹脂をアルカリ加水分解した際に、液体クロマトグラフィーにて測定された値で定義される。その測定方法としては、ポリカーボネート樹脂0.5gを塩化メチレン5mLに溶解した後、メタノール45mLおよび25重量%水酸化ナトリウム水溶液5mLを加え、70℃で30分間攪拌して得られた溶液を、液体クロマトグラフィーにて分析し、式(3)で表される化合物に由来する構造単位の量を定量する。
【0037】
液体クロマトグラフィーによる、前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位の量の測定は、例えば以下の条件で可能である。
(分析条件)
液体クロマトグラフィー装置:(株)島津製作所製
システムコントローラ:CBM−20A
ポンプ:LC−10AD
カラムオーブン:CTO−10ASvp
検出器:SPD−M20A
分析カラム:YMC−Pack ODS−AM 75mm×Φ4.6mm
オーブン温度:40℃
検出波長:280nm
溶離液:A液:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液、B液:アセトニトリル
A/B=60/40(vol%)からA/B=95/5(vol%)まで
25分間でグラジエント
流量:1mL/min
試料注入量:20μL
【0038】
また、より具体的に、式(1)で表される化合物が2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンである場合を例にとると、式(3)で表される化合物に由来する構造単位である化合物は、上記液体クロマトグラフィー条件にて、下記リテンションタイムに観測される。
【0039】
式(3)で表される化合物:14.4 分
各化合物の特定は、上記リテンションタイムに観測されるピークに相当する部分を分取し、分取したサンプルの1H NMR、13C NMR、質量分析法(MS)、赤外線吸収スペクトル(IRスペクトル)等により実施することができる。
【0040】
<ポリカーボネート樹脂(A)の物性>
ポリカーボネート樹脂(A)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)が、3.0以上5.0以下の範囲であることが好ましい。さらに、(Mw/Mn)は、3.0以上4.0以下の範囲がより好ましい。(Mw/Mn)が過度に小さいと、溶融状態での流動性が増大し成形性が低下する傾向にある。一方、(Mw/Mn)が過度に大きいと、溶融粘度が増大し成形困難となる傾向がある。
【0041】
ポリカーボネート樹脂(A)は、JIS K5400に準拠した鉛筆硬度が、HB以上であることが好ましい。ポリカーボネート樹脂の鉛筆硬度は、より好ましくは、F以上であり、さらに好ましくはH以上であり、最も好ましくは2H以上である。但し、通常、3H以下である。鉛筆硬度がHB未満のポリカーボネート樹脂では表面が傷つきやすく、従来のビスフェノールA型のポリカーボネート樹脂では鉛筆硬度は2Bであり不十分である。
【0042】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、通常12,000以上、好ましくは15,000以上、より好ましくは18,000以上、特に好ましくは20,000以上、最も好ましくは22,000以上である。また、通常100,000以下、好ましくは50,000以下、より好ましくは40,000以下、特に好ましくは35,000以下である。粘度平均分子量が低すぎると、難燃性および機械的物性が低下する虞がある。また、粘度平均分子量が高すぎると、流動性が低下し、異物量が多くなる虞がある。
【0043】
ポリカーボネート樹脂(A)から成形された厚さ3mmの成形体のYI値が0以上4以下、且つL*値が96.0以上96.5以下であることが好ましい。このような、YI値、L*値のポリカーボネート樹脂とし、樹脂自体の黄色みを低下させ明度を向上させることで、この樹脂から成型される成型品等は、色調が優れかつくすみが少ないものとすることができる。さらに、この樹脂にブルーイング剤等を加えた樹脂組成物とする時、色調の改善(黄色みを帯びた状態から無色に近い状態)のために添加するブルーイング剤の量を低減することができる。これは、ブルーイング剤の使用量の低減に加えて、さらに、L*値に代表されるような明度の低下の効果もあり、得られる樹脂組成物およびその成型品の色調、くすみといった点から優れた樹脂成型品とすることにも資する。
ポリカーボネート樹脂(A)および、ブルーイング剤等の着色剤が含まれていない本願規定のポリカーボネート樹脂組成物から成形された厚さ3mmの成形体のYI値は、0以上3.5以下が好ましく、0.5以上3.0以下がさらに好ましく、1.0以上2.0以下が最も好ましい。YI値が大きすぎると成形品が黄色くなり好ましくない。
ポリカーボネート樹脂(A)および、ブルーイング剤等の着色剤が含まれていない本願規定のポリカーボネート樹脂組成物から成形された厚さ3mmの成形体のL*値は、95.0以上96.5以下が好ましく、95.5以上96.4以下が好ましく、96.0以上96.3以下が最も好ましい。L*値が低すぎると成形品がくすんでしまい好ましくない。
【0044】
ポリカーボネート樹脂(A)は、長周期型周期表第1族および第2族の金属の含有量総量がポリカーボネート樹脂を構成する全ジヒドロキシ化合物に由来する繰返し単位1モルに対して5.0×10-6モル以下であることが好ましい。より好ましくは1.0×10-7〜5.0×10-6モルの範囲内、さらに好ましくは0.5×10-6〜4.0×10-6モルの範囲内であり、特に好ましくは1.0×10-6〜3.0×10-6モルの範囲内である。上記下限量より少なければ、色調や明度が悪化する虞があり、多い場合は、ポリマー色相が悪化し、溶媒に不溶のゲル状物や異物が発生して外観不良およびポリカーボネート樹脂の機械物性が低下する虞がある。
【0045】
<ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法>
本発明に使用するポリカーボネート樹脂(A)を製造する方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融重合法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
以下、これらの方法のうち特に好適なものについて、具体的に説明する。
【0046】
・界面重合法
まず、ポリカーボネート樹脂(A)を界面重合法で製造する場合について説明する。
界面重合法では、反応に不活性な有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、前記式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(好ましくは、ホスゲン)とを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによってポリカーボネート樹脂を得る。なお、反応系には、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)を存在させてもよく、ジヒドロキシ化合物の酸化防止のために酸化防止剤を存在させてもよい。
【0047】
反応に不活性な有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;などが挙げられる。なお、有機溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0048】
アルカリ水溶液に含有されるアルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられるが、なかでも水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。なお、アルカリ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
アルカリ水溶液中のアルカリ化合物の濃度に制限は無いが、通常、反応のアルカリ水溶液中のpHを10〜12にコントロールするために、5〜10質量%で使用される。また、例えばホスゲンを吹き込むに際しては、水相のpHが10〜12、好ましくは10〜11になる様にコントロールするために、ビスフェノール化合物とアルカリ化合物とのモル比を、通常1:1.9以上、なかでも1:2.0以上、また、通常1:3.2以下、なかでも1:2.5以下とすることが好ましい。
【0049】
重合触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン等の脂肪族三級アミン;N,N’−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N’−ジエチルシクロヘキシルアミン等の脂環式三級アミン;N,N’−ジメチルアニリン、N,N’−ジエチルアニリン等の芳香族第三級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等;ピリジン;グアニン;グアニジンの塩;等が挙げられる。なお、重合触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0050】
分子量調節剤としては、例えば、一価のフェノール性水酸基を有する芳香族フェノール;メタノール、ブタノールなどの脂肪族アルコール;メルカプタン;フタル酸イミド等が挙げられるが、なかでも芳香族フェノールが好ましい。
このような芳香族フェノールとしては、具体的に、m−メチルフェノール、p−メチルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等のアルキル基置換フェノール;イソプロパニルフェノール等のビニル基含有フェノール;エポキシ基含有フェノール;o−オキシン安息香酸、2−メチル−6−ヒドロキシフェニル酢酸等のカルボキシル基含有フェノール;等が挙げられる。なお、分子量調整剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0051】
分子量調節剤の使用量は、ジヒドロキシ化合物100モルに対して、通常0.5モル以上、好ましくは1モル以上であり、また、通常50モル以下、好ましくは30モル以下である。分子量調整剤の使用量をこの範囲とすることで、ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性及び耐加水分解性を向上させることができる。
【0052】
反応の際に、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。例えば、カーボネート前駆体としてホスゲンを用いた場合には、分子量調節剤はジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン化)の時から重合反応開始時までの間であれば任意の時期に混合できる。
なお、反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は通常は数分(例えば、10分)〜数時間(例えば、6時間)である。
【0053】
・溶融重合法
次に、ポリカーボネート樹脂(A)を溶融重合法(溶融エステル交換法)で製造する場合について説明する。溶融重合交換法では、例えば、式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応を行う。
【0054】
ジヒドロキシ化合物は、それぞれ前述の通りである。
一方、炭酸ジエステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物;ジフェニルカーボネート;ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートなどのジアリールカーボネートが挙げられる。なかでも、ジアリールカーボネートが好ましく、ジフェニルカーボネートが特に好ましい。なお、炭酸ジエステルは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0055】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの比率は所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であるが、ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを等モル量以上用いることが好ましく、なかでも1.01モル以上用いることがより好ましい。なお、上限は通常1.30モル以下である。このような範囲にすることで、末端水酸基量を好適な範囲に調整できる。
【0056】
ポリカーボネート樹脂では、その末端水酸基量が、熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼす傾向がある。このため、公知の任意の方法によって末端水酸基量を必要に応じて調整してもよい。エステル交換反応においては、通常、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物との混合比率、エステル交換反応時の減圧度などを調整することにより、末端水酸基量を調整したポリカーボネート樹脂を得ることができる。なお、この操作により、通常は得られるポリカーボネート樹脂の分子量を調整することもできる。
【0057】
炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物との混合比率を調整して末端水酸基量を調整する場合、その混合比率は前記の通りである。
また、より積極的な調整方法としては、反応時に別途、末端停止剤を混合する方法が挙げられる。この際の末端停止剤としては、例えば、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類などが挙げられる。なお、末端停止剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0058】
溶融エステル交換法によりポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は任意のものを使用できる。なかでも、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。なお、エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0059】
溶融重合法において、反応温度は通常100〜320℃である。また、反応時の圧力は通常2mmHg以下(267Pa以下)の減圧条件である。具体的操作としては、この範囲の条件で、ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
【0060】
溶融重縮合反応は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。ただし、ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の安定性等を考慮すると、溶融重縮合反応は連続式で行うことが好ましい。
【0061】
溶融重合法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いても良い。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物及びその誘導体などが挙げられる。なお、触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
触媒失活剤の使用量は、前記のエステル交換触媒が含有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上であり、また、通常10当量以下、好ましくは5当量以下である。更には、ポリカーボネート樹脂に対して、通常1質量ppm以上であり、また、通常100質量ppm以下、好ましくは20質量ppm以下である。
【0062】
次に、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれるホスホナイト化合物(B)、ヒンダードフェノール系熱安定剤(C)及び必要に応じて添加される添加剤について説明する。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、以下のホスホナイト化合物(B)、ヒンダードフェノール系熱安定剤(C)の両方を必須成分として所定の割合で含有することに特徴がある。このような熱安定剤を併用することにより、上記特定の構造単位を有するポリカーボネート樹脂(A)を原料としても、成形時等の際における透明性の悪化が抑制され、表面硬度、耐擦傷性、熱安定性、色相、及び機械的強度に優れたポリカーボネート樹脂組成物となる。
【0063】
[ホスホナイト化合物(B)]
ホスホナイト化合物(B)は、下記式(5)または(6)で表されるリン系化合物である。
【化8】

【化9】
【0064】
式(5)中、R7は、置換若しくは無置換のアリール基を示し、R8及びR9は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。
また、式(6)中、R10は、置換若しくは無置換のアリール残基を示し、R11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。
【0065】
このような式(5)で表されるホスホナイト化合物としては、例えば、
ビス(2,4−ジ−iso−プロピルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,4−ジ−n−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイトビス(2,6−ジ−iso−プロピルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト等が挙げられる。
【0066】
また、式(6)で表されるホスホナイト化合物としては、例えば、
テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−1,3’−フェニレンホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−1,4’−フェニレンホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−1,2’−フェニレンホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、
テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、
等が挙げられる。
【0067】
式(6)で表されるホスホナイト化合物としては、特に下記式(2)で表されるビフェニレン系ホスホナイト化合物は、耐熱性が良好で、本発明の樹脂組成物の色相が良好になるため好ましい。
【化10】
【0068】
式(2)中、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。
【0069】
このようなビフェニレン系ホスホナイト化合物の具体例は、上述のとおりだが、なかでも、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイトが好ましい。
【0070】
ホスホナイト化合物(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)の合計100質量部に対して、0.001〜0.5質量部であり、好ましくは0.005〜0.4質量部であり、より好ましくは0.01〜0.3質量部であり、最も好ましくは0.015〜0.25質量部である。
ホスホナイト化合物(B)の含有量が多すぎると耐湿熱性が低下したり、成型時に金型に汚れが付着しやすく好ましくない。また、ホスホナイト化合物(B)の含有量が少なすぎると透明性や色相が悪化する可能性があり好ましくない。
【0071】
[ヒンダードフェノール系熱安定剤(C)]
ヒンダードフェノール系熱安定剤(C)は、融点が100℃以下であるヒンダードフェノール系熱安定剤であり、具体的には、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル]プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ビス(3−t−ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルベンゼンプロパン酸)エチレンビス(オキシエチレン)、下記式(4)で表される化合物が挙げられる。
【0072】
【化11】
【0073】
式(4)中、nは、1以上25以下の整数であり、好ましくは15以上20以下の整数である。
【0074】
式(4)で表される化合物としては、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオートが挙げられる。
【0075】
ヒンダードフェノール系熱安定剤(C)としては、なかでもオクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオート、又はビス(3−t−ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルベンゼンプロパン酸)エチレンビス(オキシエチレン)が好ましく、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオートがより好ましい。
【0076】
ヒンダードフェノール系熱安定剤(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)の合計100質量部に対して、0.01〜0.5質量部であり、好ましくは0.02〜0.45質量部、より好ましくは0.05〜0.4質量部、最も好ましくは0.08〜0.3質量部である。
ヒンダードフェノール系熱安定剤(C)の含有量が多すぎても少なすぎても透明性や色相が悪化する可能性があり好ましくない。
【0077】
[その他の添加剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じて、ホスホナイト化合物(B)やヒンダードフェノール系熱安定剤(C)以外の添加剤(以下、「その他の添加剤」と称す。)を配合することもできる。その他の添加剤としては、例えば、特開2013−64046号公報等で開示された難燃剤、滴下防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、ワラストナイト、珪酸カルシウム、硼酸アルミニウムウィスカー等が挙げられる。
なお、ポリカーボネート樹脂組成物に対する、その他の添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜決定すればよい。
【0078】
<ポリカーボネート樹脂組成物の製造>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造する際、ポリカーボネート樹脂(A)、ホスホナイト化合物(B)及びヒンダードフェノール系熱安定剤(C)、さらに必要に応じて配合される上記添加剤等の混合方法は特に限定されず、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用できる。
具体例を挙げると、ポリカーボネート樹脂(A)、ホスホナイト化合物(B)及びヒンダードフェノール系熱安定剤(C)、必要に応じて配合される上記添加剤等の各成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
【0079】
また、例えば、各成分を予め混合せずに、または、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
また、例えば、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによって本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
【0080】
<ポリカーボネート樹脂成形体>
上述した本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いて、ポリカーボネート樹脂成形体が製造される。ポリカーボネート樹脂成形体の成形方法は特に限定されず、例えば、射出成形機、押出成形機等の従来公知の成形機を用いて成形する方法等が挙げられる。
本発明の樹脂組成物を成形してなるポリカーボネート樹脂成形体は、高い表面硬度と高い耐衝撃性を併せ有し、かつ透明性にも優れる成形体である。
【0081】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記したように表面硬度、耐擦傷性、熱安定性、色相、及び機械的強度に優れた樹脂成形体が得られるので、例えば、表示装置用部材または表示装置用カバー、保護具、電気電子機器の筐体またはそのカバー、車載用部品、単層または多層シートとして、特に好適である。
【0082】
表示装置用部材としては、例えば、各種表示(ディスプレイ)装置(液晶パネル、タッチパネル)の構成部材等、また表示装置用カバーとしては、これら各種表示装置或いは、多機能携帯、スマートホン、PDA、タブレット型端末、パソコン等々の保護カバーや前面パネル等が、また例えば次世代電力計の表示部のカバー等も挙げられる。
透明保護具としては、例えば、ヘルメット等のフェイスカバー(フェイスガード)や透明シールド等が挙げられる。
電気・電子機器の筐体またはそのカバーとしては、例えば、テレビ、ラジオカセット、ビデオカメラ、オーディオプレーヤー、DVDプレーヤー、多機能携帯、スマートホン、PDA、タブレット型端末、パソコン、電卓、複写機、プリンター、ファクシミリ等の電気・電子機器の筐体またはカバーが挙げられる。
また、車載用透明部品としては、例えば、グレージング、樹脂窓、ヘッドランプレンズ、カーナビ(カーオーディオ、カーAV等)の前面(外側)部材、筐体等、またコンソールボックス、センタークラスター、メータークラスターの前面部材等の自動車内装部品が挙げられる。
さらに、単層または多層の押出成形により単層または多層シートとして、硬度・耐衝撃性・透明性が求められる用途(液晶表示装置部材、透明シート、建材等)に好適である。
【実施例】
【0083】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例で使用したポリカーボネート樹脂組成物の物性は、下記の方法により評価した。
【0084】
(1)粘度平均分子量(Mv)
ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解し(濃度6.0g/L)、溶液とした。該溶液を用い、ウベローデ粘度管により20℃における比粘度(ηsp)を測定し、下記の式により粘度平均分子量(Mv)を算出した。
ηsp/C=[η](1+0.28ηsp)
[η]=1.23×10-4Mv0.83
【0085】
(2)末端水酸基量
ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は、四塩化チタン/酢酸法(Makromol. Chem. 88, 215(1965)参照)に準拠し、比色定量を行うことにより測定した。
【0086】
(3)式(3)で表される化合物に由来する構造単位の定量
ポリカーボネート樹脂0.5gを塩化メチレン5mLに溶解した後、メタノール45mLおよび25重量%水酸化ナトリウム水溶液5mLを加え、70℃で30分間攪拌する。得られた溶液を液体クロマトグラフィーにて分析し、式(3)で表される化合物に由来する構造単位を定量する。尚、定量は式(1)で表される繰り返し単位の定量にて作成した検量線を用いて行った。
【0087】
液体クロマトグラフィー測定は、以下の方法で実施した。
装置:(株)島津製作所製
システムコントローラ:CBM−20A
ポンプ:LC−10AD
カラムオーブン:CTO−10ASvp
検出器:SPD−M20A
分析カラム:YMC−Pack ODS−AM 75mm×Φ4.6mm
オーブン温度:40℃
検出波長:280nm
溶離液:A液:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液、B液:アセトニトリル
A/B=60/40(vol%)からA/B=95/5(vol%)まで25分間でグラジエント
流量:1mL/min
試料注入量:20μL
また、式(3)で表される化合物に由来する構造単位である化合物は、上記液体クロマトグラフィー条件にて、下記リテンションタイムに観測された。
【0088】
式(3)で表される化合物:14.4分
各化合物の特定は、上記リテンションタイムに観測されるピークに相当する部分を分取
し、分取したサンプルの1H NMR、13C NMR、二次元NMR法、質量分析法(MS)、赤外線吸収スペクトル法(IRスペクトル)により実施した。
【0089】
式(3)で表される化合物は、上記分取したサンプルの質量分析法による分子量と、各NMRスペクトルシグナル、さらにIRスペクトルにおいてカルボン酸に由来するシグナルが観測されたことから特定した。
【0090】
(4)ポリカーボネート樹脂組成物表面の鉛筆硬度
射出成形機(株式会社日本製鋼所製J50E2)を用い、バレル温度280℃、金型温度90℃の条件下にて、厚み3mm、縦60mm、横60mmのポリカーボネート樹脂のプレート(成形品)又はポリカーボネート樹脂組成物のプレート(成形体)を射出成形した。この成形体について、ISO 15184に準拠し、鉛筆硬度試験機(東洋精機株式会社製)を用いて、750g荷重にて測定した鉛筆硬度を求めた。
【0091】
(5)ポリカーボネート樹脂組成物のイエローインデックス(YI)、L*
前記(1)で成形した成形体を用いて分光測色計(ミノルタ株式会社製CM−3700d)によりイエローインデックス(YI)、L*値を測定した。数値が小さいほど色調が良好であることを示す。
【0092】
なお、実施例、比較例で使用したポリカーボネート樹脂は、次の通りである。
【0093】
(i)ポリカーボネート樹脂(A)
(参考例1)PC(A1)の合成BPCホモポリマー(Mv=26,000)の合成(溶融重合法):
ジヒドロキシ化合物として、2,2−ビス(4−ヒドロキシ-3−メチルフェニル)プロパン(BPC)(本州化学社製)360kgを原料受入サイロに投入し、窒素置換を5回実施した。次に原料調整槽にジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と略記する場合がある。)(三菱化学社製)を310kg(BPC1モルに対し1.03モル)投入し、140℃に加温した。この原料調整槽に上述のBPCを原料受入サイロから投入、攪拌し原料調整液を得た。このとき原料調整槽には不活性ガスを1時間当たりの不活性ガスの流量(標準状態)が前記原料調製槽の気相部の容積に対して7倍流通させた。さらにこの原料調整液を移送管を介して接続されている140℃に加温された原料貯槽に移送した。原料貯槽には不活性ガスを1時間当たりの不活性ガスの流量(標準状態)が前記原料調製槽の気相部の容積に対して7倍流通させた。尚、前記原料調整槽の平均滞留時間は2時間、前記原料貯槽の平均滞留時間は4時間であった。
次に、竪型攪拌反応器3器及び横型攪拌反応器1器を有する連続製造装置により、以下の条件でポリカーボネートを製造した。先ず、各反応器を下記のとおり、予め反応条件に応じた内温・圧力に設定した。

第1竪型反応器:内温220℃ 圧力 13.3kPa 平均滞留時間 80分
第2竪型反応器:内温260℃ 圧力 4kPa 平均滞留時間 67分
第3竪型反応器:内温272℃ 圧力 200Pa 平均滞留時間 67分
第4横型反応器:内温282℃ 圧力 120Pa 平均滞留時間 74分
【0094】
続いて、この原料調整液を原料貯槽より第1竪型反応器内に連続供給した。流量は理論生成ポリマー量が45kg/hrとなるように設定した。
第1竪型反応器の平均滞留時間が80分になるように、槽底部のポリマー排出ラインに設けたバルブの開度を制御しつつ、液面レベルを一定に保った。また、上記原料混合溶融液の供給開始と同時に、第1竪型攪拌反応器内に触媒供給口から触媒として炭酸セシウム水溶液を、BPC1molに対し、炭酸セシウムが3.0μmolとなるよう連続供給した。
【0095】
第1竪型反応器の槽底から排出された重合反応液は、引き続き、第2竪型反応器、第3竪型反応器、第4横型反応器(2軸メガネ翼型攪拌翼、L/D=4)に、逐次、連続供給された。重合反応の間、前述の平均滞留時間となるように各反応器の液面レベルを制御した。
【0096】
第4横型攪拌反応器から抜き出された溶融ポリカーボネートは、ギヤポンプにより押出機に移送された。該押出機((株)日本製鋼所製:2軸押出機TEX30α:L/D=42)は3つのベント口を有し、真空ポンプを用いてベント口より脱揮を行った。この時のベント部の圧力は絶対圧力で1kPa以下であった。
【0097】
押出機の樹脂の排出側にギヤポンプを配置し、さらにその下流に、格納容器内部に外径112mm、内径38mm、99%の濾過精度として20μmであるリーフディスクフィルター(日本ポール(株)製)を23枚装着したポリマーフィルターを配置した。ポリマーフィルターの排出側には、ストランド化するためのダイを装着した。排出される樹脂はストランドの形態で水冷、固化させた後、回転式カッターでペレット化した。ストランド化からペレット化までの工程はクリーンルーム内で実施された。続いて、ペレットは気力移送によって、製品ホッパーに送られた。得られたポリカーボネート樹脂(PC(A1))を上記(2)の方法で評価したところ、PC(A1)の末端水酸基量は、800ppmであった。
【0098】
(ii)ホスホナイト化合物(B)
(B2)テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト(融点:90℃、アデカ社製)、本願式(2)で規定する構造に該当
(B5)テトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト(融点:100℃、堺化学社製)、本願式(2)で規定する構造に該当
【0099】
(iii)ヒンダードフェノール系熱安定剤(C)
(C1)オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオート(融点:50℃、BASF社製)
(C2)ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルベンゼンプロパン酸)エチレンビス(オキシエチレン) (融点:78℃、BASF社製)
(C3)ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(融点:120℃、BASF社製)
(C4)1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)ベンゼン(融点:240℃、BASF社製)
【0100】
(iv)一般的に使用されるリン系熱安定剤
(B1)オクタデシルペンタエリスリトールジホスファイト(融点:52℃、アデカ社製)
(B3)ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオート(融点:183℃、アデカ社製)
(B4)ペンタエリスリトールビス[(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト](融点:240℃、アデカ社製)
【0101】
「実施例1」
ポリカーボネート樹脂(PC(A1))を1つのベント口を有する日本製鋼所製2軸押出機(LABOTEX30HSS−32)にて溶融混練し、2軸押出機の出口からストランド状に押し出し、水で冷却固化させた後、回転式カッターでペレット化し、ポリカーボネート樹脂ペレットを得た。2軸押出機には15kg/hrにてポリカーボネート樹脂を供給し、同時に表1に示す通りの熱安定剤を添加した。このとき、2軸押出機のバレル温度は280℃、2軸押出機の出口におけるポリカーボネート樹脂温度は305℃であった。なお、溶融混練時は、2軸押出機のベント口は真空ポンプに連結し、前記ベント口での圧力が500Paになるように制御した。
このポリカーボネート樹脂を上記の手順に従い、各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0102】
「実施例2〜5、及び比較例1〜10」
実施例1と同様の方法で、表1に示す組成のポリカーボネート樹脂組成物を作製し、上記の手順に従い、各評価を実施した。結果を表1に示す。
表1を見ると、実施例1〜5のように本願規定の特定のリン系熱安定剤と本願規定の特定のヒンダードフェノール系熱安定剤を組み合わせることにより、比較例1〜3の様に一般的なポリカーボネートに使用されるリン系熱安定剤とヒンダードフェノール系熱安定剤を使用した場合に比べてYI値およびL*値が良好であり、また比較例4〜9の様にリン系熱安定剤もしくはヒンダードフェノール系熱安定剤単独で使用した場合や比較例10の様に熱安定剤を使用しなかった場合よりも大幅にYI値およびL*値が良好となっていることがわかる。
【0103】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明によれば、表面硬度、耐擦傷性、熱安定性、色相、及び機械的強度に優れ、表示装置用部材、保護具、電気電子機器の筐体、車載用部品、単層または多層シート等の様々な用途に適したポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品を得ることができる。