【文献】
E. Hashimoto et al.,Purification of Ultra-High Purity Aluminum,JOURNAL DE PHYSIQUE IV,フランス,1995年,vol.5,No.C7,pp153-157,ISSN:1155-4339
【文献】
上田善武 他,超高純度金属の物性−格子欠陥制御によってみえた新しい電子輸送現象−,日本物理学会講演概要集,日本,日本物理学会,1996年10月 1日,1996年秋の分科会第2分冊,p33(2a-N-11)
【文献】
Eiji HASHIMOTO et al,Zone Refining of High-Purity Aluminum,Materials Transactions, JIM,日本,日本金属学会,1994年 4月,Vol.35,No.4,p262-265,ISSN:0916-1821
【文献】
橋本英二 他1名,ITと高純度金属 高純度金属の残留抵抗と純度評価,金属,日本,2002年 8月 1日,Vol.72 No.8,Page.764-769
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本願発明のアルミニウム材は、残留抵抗比のサイズ効果補正値が10万より大きく、より好ましくは12万以上であるアルミニウム材である。残留抵抗比のサイズ効果補正値は、通常、15万までである。したがって、本願発明のアルミニウム材は、典型的には10万より大きく15万以下の残留抵抗比のサイズ効果補正値を有するアルミニウム材である。
ここで、用語「残留抵抗比のサイズ効果補正値」について説明する。
金属等の材料の純度を示す指標として、残留抵抗比(RRR)が知られている。残留抵抗比(RRR)とは、同一の材料(試料)の絶対温度4.2Kでの電気抵抗測定値と室温での電気抵抗測定値の比(室温での電気抵抗測定値を4.2Kでの電気抵抗測定値で除した値)であり、高純度アルミニウムは低温で電気抵抗が小さいために、通常、1より大きい値を示す。残留抵抗比(RRR)はアルミニウムの純度が上がるほど大きくなることが知られている。
ここで室温での電気抵抗測定値としては、20℃から27℃程度の任意の温度での測定値で良いが、300K(27℃)や296K(23℃)等の一定温度での測定値が解析精度を高めるためにより好ましい。
例えば、不純物含有量が10質量 ppm以下のような高純度アルミニウムでは、測定試料表面での電子散乱に起因する残留抵抗比(RRR)の測定値の低下が無視できなくなり、同じ不純物含有量であっても測定試料形状により残留抵抗比(RRR)の値が変化する。
この現象はサイズ効果と呼ばれ、板材でのサイズ効果に関する理論計算の結果が、K.Fuchs,Proc.Camb.Phil.Soc.,34(1938)100およびE.H.Sondheimer,Adv.Phys.,1(1952)1.に示されており、実用上使いやすい形でY.Ueda,J.Sci.Hiroshima Univ.,Ser.A,47(1984)p.305−340にも示されている。これらの文献の記載にしたがって計算することで、残留抵抗比(RRR)の測定値からサイズ効果による影響を取り除き、測定試料寸法に依存しない残留抵抗比のサイズ効果補正値を評価することができる。
そこで、本願発明者らは、この計算方法を用いて残留抵抗比のサイズ効果補正値を得た。
【0017】
本願発明に係るアルミニウム材は、好ましくは、35元素合計値が0.16質量 ppm以下である。典型的には、下限値は0.07質量 ppm程度であり、35元素合計値が0.07質量 ppm〜0.16質量 ppmのものが例示される。
ここで、本明細書において用語「35元素」は、Li、Be、B、Na、Mg、Si、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Co、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Zr、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ba、La、Ce、Pt、Hg、Pb、Biの35元素を意味する。
また、本明細書における「ppm」は、特に明記しない場合でも、質量比で示したppm(質量 ppm)である。
本願発明に係る前記アルミニウム材は、好ましくは、包晶系5元素合計値が0.06ppm以下、より好ましくは0.04ppm以下である。
ここで、本明細書において用語「包晶系5元素」は、Ti,V、Cr、Zr、Moの5つの元素を意味する。なお、今回の分析対象元素の「35元素」のうち、As、Seも包晶系元素に一般に分類され、合わせて「包晶系7元素」と扱う場合もある。AsおよびSeは含有量が極めて小さいために影響を無視することができ、今回は「包晶系5元素」について考察した。また、「35元素」から「包晶系7元素」を除く元素が「共晶系」と呼ばれ、純アルミニウムで主要な不純物であるSi、Fe、Cu等が含まれる。
また本願発明に係るアルミニウム材は、好ましくは、包晶系5元素合計値の35元素合計含有量に占める割合が40%以下である。
【0018】
本願発明者は、アルミニウム中の不純物を帯溶融精製(zone melting process)により除去する際に、用いる精製素材中の包晶系5元素合計値が0.06ppmより小さく、好ましくは0.04ppm以下のものを使用することで、上述の本願発明に係るアルミニウム材を得ることができることを見出した。
【0019】
以下に本願に係るアルミニウム材の製造方法の詳細を示す。
【0020】
アルミニウム原料:
詳細を後述する帯溶融精製時にその一部分に溶融した溶融部を形成して不純物を除去するアルミニウム原料として、純度5N(99.999%以上、質量比)以上のアルミニウムを使用するのが好ましい。
アルミニウム材の純度を予め高めておくことにより、帯溶融精製をより効率的に行えるからである。
【0021】
このような純度5N以上のアルミニウムは、比較的純度の低い市販のアルミニウム(例えば、純度99.9%のJIS−H2102の特1種程度のグレード)を精製することによって得ることができる。
精製方法としては、特に制限されないが、好ましくは、三層電解法による精製、一方向凝固法による精製、偏析精製、これらの手法を組み合わせた製法が用いられる。二つ以上の精製法を組み合わせる場合、実施順序は特に制限されず、また、複数の精製法を交互に繰り返し行ってもよく、またいずれか一方もしくは両方を各々繰り返し行ってもよい。
【0022】
なお、三層電解法、一方向凝固法および偏析法による精製の具体的な手法や条件などは、当該技術分野で通常行われている方法や条件等を適宜採用すればよい。例えば、三層電解法によって得られるアルミニウム材の成分は、電解浴の成分、厚み、温度などの操業条件、精製用アルミニウム地金の成分、炉体構造物の材質や状況など多くの条件が複雑に関係して決まるものであり、これらの条件を適切に制御することで、包晶系元素の少ない5Nアルミニウム材を得ることが可能である。
得られたアルミニウム原料は、後述の前処理、真空溶解に適した形状に加工することができる。アルミニウム原料の形状はペレット、棒、板、ブロック状などである。
【0023】
前処理:
アルミニウム原料は、帯溶融精製に供せられる前に、前処理することが好ましい。大気雰囲気中で表面に生じた酸化膜等およびアルミニウム原料を加工する際にその表面に付着した不純物元素を予め除去することで帯溶融精製をより効率的に行えるからである。
【0024】
前処理の方法は特に限定されるものでなく、アルミニウム原料の表面層を除去するために当該技術分野で用いられている各種の処理を用いることができる。
前処理として、例えば酸処理、電解研磨などが挙げられる。
【0025】
好適な酸処理の例として、以下の条件でアルミニウム原料を酸に浸漬してよい。
酸の種類および濃度: 純水で希釈した約20%塩酸水溶液
温度: 20℃〜40℃
時間: 1〜5時間
【0026】
好適な電解研磨の例として以下の条件を挙げることができる。
電解研磨液: 過塩素酸およびエタノール1:6混合液
温度: 19〜23℃
電圧: 25V(定電圧電解)
時間: 1〜10分
【0027】
帯溶融精製:
アルミニウム原料の不純物を除去し、目的の不純物レベルに到達したアルミニウム材を得るために帯溶融精製(帯溶融法)を行う。
帯溶融精製は、ボート上に配置したアルミニウム原料の一部分にアルミニウムが溶融した溶融部を形成し、この溶融部を所定の方向に移動させることにより行う。
以下に帯溶融精製の詳細を示す。
【0028】
・ボート上のアルミナ層の形成
使用するボートは、帯溶融法で通常使用可能な各種のボートが使用可能である。このようなボートの例として、ステンレス鋼より成るボート、タングステン(W)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)またはこれら金属の炭化物より成るボートおよびアルミナより成るボートがある。
好適なボートはグラファイトボートである。高純度で大型の素材が容易に入手でき、また真空中およびアルゴン、窒素などの不活性ガス雰囲気中で安定であり、溶融アルミニウムとも反応しないためである。
【0029】
そして、ボートの上にアルミナを塗布して、アルミナ層を形成してよい。アルミナ層はボートの全面に形成してもよいが、アルミニウム原料が配置される原料配置部にのみ形成してもよい。
アルミナ層の塗布はアルミナ粉末を有機溶剤等の液体中に分散させ、このアルミナ粉末を含む液体をボートに塗布した後、液体を蒸発させることにより行ってもよい。また、アルミナの固体粉末を直接ボート表面に塗布してもよい。後者の方が、より簡便に塗布できるため好ましい。
【0030】
アルミナ層は帯溶融を行って得られたアルミニウム材を取り出しやすくする離型剤の働きに加えて、ボートから不純物元素がアルミニウム材に侵入するのを防止する働きがある。アルミナからの不純物の侵入を防止するように、塗布するアルミナは例えば住友化学株式会社製高純度アルミナ粉末AKPシリーズ(純度99.99%)のような高純度のアルミナが好ましい。
従って、アルミニウム原料はボートのアルミナ層以外の部分とは接触しないように配置されるのが好ましい。
【0031】
アルミナ層を形成した後、ボートは好ましくは不活性ガスまたは真空中(減圧下)でベーキングされる。ボートおよびアルミナ層に付着している水分や不純物成分を高温でかつ真空または不活性ガス雰囲気で除去するためである。ベーキングは真空熱処理炉や雰囲気熱処理炉を用いることができる。またベーキングは、帯溶融に用いるチャンバー内で高周波加熱にて行っても良く、高周波加熱コイルを30〜200mm/時間程度の移動速度にて移動させるのが好ましい。
【0032】
・アルミニウム原料の配置
上述したボートのアルミナ層上にアルミニウム原料を配置する。アルミニウム原料は、その形状にもよるが1本または複数本配置される。アルミニウム原料の形状(複数本用いる場合は合わせた形状)は、棒状が好ましく、また概ね四角柱あるいは円柱が簡便で好ましいが他の形状でもよい。
【0033】
また、複数本のアルミニウム原料を用いる場合、長手方向(後述する溶融部が移動する方向)に複数のアルミニウム原料を配置してもよい。
【0034】
・帯溶融
本願発明では、アルミニウム表面の酸化を抑制するように、好ましくは、帯溶融をアルゴンガス、窒素ガス等の不活性雰囲気下で行い、より好ましくは、高真空もしくは超高真空条件下で行う。好ましくは圧力を3×10
−5Pa以下とし、さらに好ましくは圧力を3×10
−6Pa以上かつ2×10
−5Pa以下である。
このような高真空もしくは超高真空条件は、アルミニウム原料が配置された上述のボートが内部に配置されているチャンバの排気を、例えばターボ分子ポンプと油回転ポンプとの両方を用いて行うことで実現できる。これ以外にも油拡散ポンプおよびクライオポンプ等を他の真空ポンプと組み合わせて排気する方法も好ましい。
【0035】
原料となるアルミニウム材(精製素材)をボート上に配置し、その一部分にアルミニウムが溶融した溶融部を形成する。溶融部の形成にはアルミニウム原料の一部のみを加熱する必要があることから、好ましくは高周波加熱(高周波誘導加熱)により行う。例えばアルミニウム原料の一部分のみが高周波コイルの内側になるように配置することで高周波コイルの内側に溶融部を形成することができる。加熱は、抵抗加熱を用いてもよい。抵抗加熱する部分を移動させることで溶融部を容易に移動できる。
【0036】
溶融部の温度は、660℃以上900℃以下であることが、精製効果の点で好ましい。
【0037】
溶融部を所定の温度まで加熱する昇温は装置に依存するが、20分以上で行うことが望ましい。昇温が速いほうが、生産性が高くなるが、真空度や溶融領域の制御を容易に行うのに適した速度で行われる。
【0038】
溶融帯幅(溶融部の移動方向に沿った長さ)は、装置等の条件にも依存するが30mm以上120mm以下が好ましく、50〜100mmがより好ましい。
広い溶融帯幅を得るためには、例えば、高周波コイル等の溶融部を加熱する手段の出力を大きくすることが、通常行われる。従って、120mmを超える溶融帯幅を得るように加熱手段の出力を大きくすると、溶融部(溶融帯)の中心部の温度が融点よりもかなり高くなり、雰囲気や周辺部材からの汚染が生じやすくなる。
また溶融帯幅が30mmより狭い場合、試料形状の不均一に起因する溶融帯幅の時間的変動が大きくなりやすく、極端な場合には溶融部が凝固し(フリーズと呼ばれる)、精製効果が低減する。
従って、フリーズを生じない安定した溶融部を形成するとともに、汚染を抑制して良好な精製結果を得るためには、溶融帯幅が前述の範囲内であることが好ましい。
溶融帯幅は、後述する帯溶融精製装置100のように高周波誘導加熱により溶融部を加熱する場合には高周波コイル出力を調節することにより、あるいは抵抗加熱により溶融部を加熱する場合には溶融部に流す電流を調節することにより制御できる。
【0039】
次にアルミニウム溶融部の幅(溶融帯幅)を所定の値とした後、溶融部を所定の位置まで移動させる。アルミニウム原料の形状が棒状の場合、通常、溶融部の移動は、アルミニウム原料の長手方向の一方の端から他方の端まで行う。また溶融部の移動はアルミニウム原料または高周波コイルの少なくとも一方を移動して、アルミニウム原料の加熱されている部分を移動させることにより行うことができる。溶融帯の移動速度は、小さいほど1パス当りの精製効果が大きくなる一方、生産性が低下するため、目標濃度や所望の生産性に応じて、設定することができる。移動速度は、好ましくは、毎時30mm以上200mm以下、より好ましくは毎時30mm以上100mm以下である。
【0040】
本願発明者は、帯精製工程に用いる精製素材中に含まれる包晶系元素の含有量が、最終的に得られる残留抵抗比のサイズ効果補正値に大きく関係していることを見出し、包晶系元素が少ないアルミニウム材を用いることで、残留抵抗比のサイズ効果補正値が極めて高い高純度のアルミニウム材を得ることができることを見出した。
具体的には、包晶系5元素の合計値が0.06ppm以下、より好ましくは0.04ppm以下のアルミニウム材が用いられる。得られるアルミニウム材の残留抵抗比のサイズ効果補正値は、10万を越え15万以下の値へ顕著に向上し、かつアルミニウム材の金属35元素の合計含有量についても0.16ppm以下に制御できる。
さらに、包晶系5元素が不純物35元素合計に占める比率が、小さいほど、優れた帯溶融精製の効果が得られやすい。
【0041】
帯溶融精製工程に用いる精製素材中に含まれる包晶系元素の含有量を0.06ppmより小さくすることで、残量抵抗比をより顕著に向上させ、不純物である35元素の合計も顕著に減少させることができる。つまり、帯溶融精製によって、共晶系元素((前記35元素のうち包晶系元素を除くもの))は溶融最終部(tail側、エンド側とも言う)へ、包晶系元素は溶融開始部(スタート側)へ移動する。本発明者らの帯溶融精製の検討の結果、帯溶融精製において共晶系元素と包晶系元素の精製効率には大きな差があることを見出した。例えば、パス数10の条件での精製結果の一例として、共晶系元素合計の含有量は、溶融最終部では、溶融開始部と比べて130倍程度高くなる。具体例としては、共晶系元素合計は溶融開始部で0.095ppm、溶融最終部で12.7ppmとなる精製結果が例示される。一方、包晶系元素合計は、同じ帯溶融精製に結果の一例として示すと、溶融開始部の含有量は、溶融最終部での含有量の5倍程度にしかならない。具体例としては、溶融開始部での包晶系元素の合計は、0.20ppm、溶融最終部で0.040ppmとなる精製結果が例示される。種々の精製条件での結果を見ると、共晶系元素は溶融開始部と溶融最終部とで3桁以上の濃度差が生じることもある一方、包晶系元素は1桁以上の濃度差が生じにくく、したがって包晶系元素をいかに低減するかが重要である。
従来、精製素材として、不純物元素総量(例えば、35元素合計)が少ない素材を用いることが一般的であった。例えば、工業的なアルミニウム材のなかで最高純度クラスである6Nアルミニウム(アルミニウム純度99.9999%、不純物1ppm、包晶系元素合計0.1ppm)が選定されていた。ところが、不純物元素総量が1ppmよりも多くても包晶系元素が少ない素材、例えば、35元素が数ppm(例えば、5〜7ppm程度)、包晶系元素合計0.06ppm以下の素材であれば、帯溶融精製により不純物を低減して残留抵抗比のサイズ効果補正値を高めることが可能である。かくして、帯溶融精製素材の包晶系5元素合計を0.06ppm以下、より好ましくは0.04ppm以下とすることで、溶融精製により、精製されたアルミニウム材が得られる。
【0042】
帯溶融を複数パス行う場合、通常、溶融部の移動方向は、全てのパスで同じ方向である。
【0043】
帯溶融(帯溶融精製)は、例えば、横型の高周波加熱式の装置などを使って行うことができる。帯溶融精製装置チャンバの内部に配置されたボートにアルミニウム原料を入れ、チャンバ内を密閉して排気装置により減圧した後、アルミニウム原料を高周波加熱により加熱し、アルミニウム原料の長手方向の一方の端部近傍を溶融し溶融部を形成する。
【0044】
図1は、帯溶融精製装置の一例である帯溶融精製装置100を示す断面図である。
一方の端部がシールされ他方が真空ポンプ(排気装置)20に繋がる真空チャンバ14が、その長手方向が水平になるように配置されている。
真空チャンバ14は、好ましくはその内部を視認できるように石英等の透明な材料より成る。
【0045】
真空チャンバ14の内部にはグラファイトボート16が配置されている。グラファイトボート16の原料配置部はアルミナ層18により覆われている。そして、アルミナ層18を介して、グラファイトボート16の原料配置部にアルミニウム原料10が配置されている。
【0046】
アルミニウム原料10の一部を加熱し、溶融部10bを形成するように、真空チャンバ14を取り囲むように高周波コイル12が配置されている。高周波コイル12は図示しない高周波電源に繋がれている。
高周波コイル12は、図中の矢印の向きに移動速度毎時30mm以上200mm以下で移動しており、これによりコイル内部に位置するアルミニウム原料10の一部を溶融して形成した溶融部10bが移動速度毎時30mm以上200mm以下で移動する。
このように高周波コイル12が移動することで、アルミニウム原料10は、溶融部10bの前方(高周波コイル12の進行方向)に未溶融部10cを有し、溶融部10bの後方に溶融凝固部(精製部)10aを有している。
【0047】
図2は、帯溶融精製装置100に複数のアルミニウム原料10を配置した例を示す断面図である。複数のアルミニウム原料10が長手方向(高周波コイル12の進行方向)に、互いの端部を接触させた状態で配置されている。
図2に示す例では、まだ溶融が行われておらずアルミニウム原料10は全て未溶融部10cとなっている。
高周波コイル12を
図2の左から右に(
図2の4つのアルミニウム原料10の左端から右端)に移動することにより、溶融部は複数のアルミニウム原料10を横断して移動する。この結果、複数のアルミニウム原料10は1つに接合される。
【0048】
高周波加熱のための高周波コイルを移動することで、溶融部を他方の端部に向けて移動させ、試料全体を帯溶融精製することができる。金属元素成分のうち包晶系成分は溶融開始部に、共晶系成分(35元素から包晶系を除いた元素)は溶解終了部に濃縮する傾向があるため、アルミニウム原料の両端部を除く領域で高純度アルミニウムを得ることが可能である。
【0049】
溶融部を例えばアルミニウム原料の長手方向の一端から他端までの間のように所定の間移動させた後は、高周波加熱を終了し、溶融部を凝固させる。凝固後、アルミニウム材を切り出す(例えば両端部を切り落とす)ことにより、精製された高純度のアルミニウム材が得られる。
【0050】
長手方向(溶融部の移動方向)に複数本のアルミニウム原料を配置している場合は、長手方向のアルミニウム原料を接触させて、長手方向に1個のアルミニウム原料として、一方の端部(すなわち、複数のアルミニウム原料の端部のうち長手方向に隣接するアルミニウム原料がない2つの端部の一方)から他方の端部(すなわち、複数のアルミニウム原料の端部のうち長手方向に隣接するアルミニウム原料がない2つの端部の他方)に移動させるのが好ましい。
接触するアルミニウム原料の端部同士が帯溶融時に接合し、長い一本のアルミウム材を得ることができるからである。
【0051】
なお、上述したようにアルミニウム原料の一方の端から他方の端まで帯溶融(帯溶融精製)した後、再度、一方の端から他方の端まで同じ方向に帯溶融を繰り返すことができる。繰り返し数(パス数)は通常1以上20以下である。パス数をこれ以上多くしても、精製効果の向上は限定的である。
【0052】
包晶系元素を効果的に精製するため、パス数は3以上が好ましく、5以上がさらに好ましい。パス数がこれより少ないと、包晶系元素は移動しにくいため、十分な精製効果が得られない場合がある。
また、長手方向に複数のアルミニウム原料を互いに接触させて配置した場合、パス数が3より少ないと接合後の精製材(アルミニウム材)の形状(特に高さ寸法)が不均一となって、精製中に溶融帯幅が変動して均一な精製効果が得られにくい場合があるからである。
【0053】
35元素の総含有量を低減するため、ボート、高周波コイル、チャンバ内部の洗浄を行い、事前に真空中でベーキングを行い、周辺部材からの汚染を抑制することが好ましい。
鉄(Fe)と珪素(Si)と銅(Cu)の3元素は高純度アルミニウム中の主要不純物であり、精製用素材を切出準備する際に混入しやすい。これらの元素をチャンバ内に持ち込まないように、精製原料を前処理し、精製原料表面の汚染成分を除去することが好ましい。
【0054】
得られたアルミニウム材は、標準的な精製方法では達成困難な10万を越える残留抵抗比のサイズ効果補正値を示す。言い換えれば、標準的な精製方法では達成困難な高純度化ができる。
【0055】
そして、得られたアルミニウム材は、MBEによる半導体結晶成長用原料(成膜原料)として使用することができ、例えば高品質なAlN、AlGaNエピタキシャル層を形成(成膜)することができる。
成膜法はMBEに限定されず、アルミニウムを含有する半導体材料の成膜方法であれば、例えば、HVPE法(ハイドライド気相成長法)のような他の成膜法でも利用可能であり、これにより不純物の少ない高品質な成膜が可能である。
【0056】
また、AlNおよびAlGaN等の半導体層の成膜に限定されず、AlNおよびAlGaN等のような、アルミニウムを含有する半導体のバルク単結晶の製造方法においても利用可能である。
このような半導体のバルク単結晶の製造方法の具体例として、フラックス法、昇華再結晶法、HVPE法が挙げられ、これらを含む半導体のバルク単結晶の製造方法において、本願発明のアルミニウム材を用いることでアルミニウムを含有する半導体のバルク単結晶を得ることができる。
【0057】
さらに、このような不純物の少ない高純度のアルミニウムは、低温での電気抵抗が少ないことから、例えば低抵抗が必要な超電導安定化材のような用途に使用することが可能である。また、超電導応用機器のような低温での熱伝達材にも使用できる。
【実施例】
【0058】
実施例1
純度99.9%(質量比、以下同じ)のアルミニウムを三層電解法により精製して純度が99.999%以上で、かつ包晶系元素が少ない5Nアルミニウム材を得た。このアルミニウム材の分析結果は、Si=0.60ppm、Cu=0.46ppm、Fe=0.11ppm、Mg=0.85ppm、これら以外の他の31元素(すなわち、Li、Be、B、Na、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Co、Zn、Ga、Ge、As、Se、Zr、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ba、La、Ce、Pt、Hg、Pb、Bi。以下、単に「31元素」という場合がある。)が0.74ppmでありこれら不純物35元素の合計が2.76ppmであった。なお不純物総量が3ppm以下であり、一般的な5Nアルミニウムと区別するために、本明細では以後、低包晶系素材、あるいは5N7アルミニウム材と言う場合がある。包晶系5元素合計は0.02ppm以下と極めて小さい。
【0059】
この低包晶系素材のGDMS分析値の例を表1に示す。35元素合計は、3ppm以下であり、包晶系5元素合計は、0.02ppm以下であった。比較例で用いた6NアルミニウムのGDMS分析値をあわせて示す。表1の分析値は、質量 ppmである。
【0060】
表1
【0061】
上記で得られた低包晶系素材から、約18mm×18mm×850mmの四角柱切削加工で切出し、純水で希釈した20%塩酸水溶液で3時間酸洗浄したアルミニウム原料を得た。
【0062】
帯溶融精製:
帯溶融精製装置の真空チャンバ(外径50mm、内径46mm、長さ1400mmの石英管)内部に、グラファイトボートを配置した。グラファイトボートの原料配置部には、住友化学株式会社製の高純度アルミナ粉末AKPシリーズ(純度99.99%)を押圧しながら塗布してアルミナ層を形成した。
【0063】
グラファイトボートを真空下にて高周波加熱しベーキングした。
ベーキングは10
−5〜10
−7Paの真空中で、帯溶融に用いる高周波加熱コイル(加熱コイル巻数3、内径70mm、周波数約100kHz)にて加熱し、100mm/時間の速度でボートの一端から他端まで移動して、グラファイトボート全体を順に加熱して行った。
【0064】
上記のアルミニウム原料1本、合計重量約740gを、グラファイトボートに設けた20×20×1000mmの原料配置部に配置した。
【0065】
チャンバ内を密閉し、ターボ分子ポンプおよび油回転ポンプにより圧力が1×10
−5Pa以下になるまで排気した。その後、高周波加熱コイル(高周波コイル)によりアルミニウム原料の長手方向の一端を加熱し溶融させ溶融部を形成した。
溶融部の溶融帯幅(溶融部の移動方向に沿った長さ)が約90mmとなるように高周波電源(周波数100kHz、最大出力5kW)の出力を調整した。そして高周波コイルを毎時60mmの速度で移動させ、溶融部を約900mm移動させた。移動距離が素材長さ850mmより大きいのは、素材溶融部が坩堝内に流れ、全長が大きくなるためである。溶融時のチャンバ内の圧力は5×10
−6〜9×10
−6Paであった。溶融部の温度を放射温度計にて測定した結果、660℃〜800℃であった。
【0066】
その後、徐々に高周波出力を下げて溶融部を凝固させた。
そして、高周波コイルを溶融開始位置(最初に溶融部を形成した位置)まで移動させ、チャンバ内を真空に維持したまま、溶融開始位置で再度アルミニウム原料を加熱溶融させて溶融部を形成した。この溶融部を移動させて帯溶融精製を繰り返した。溶融帯幅約90mm、溶融部の移動速度毎時60mmでの帯溶融精製を、合計10回(10パス)実施した。溶融帯幅は目標値90mmに対し精製中に増減するが、84〜99mmの範囲内であった。
10パス終了後にチャンバを大気開放し、アルミニウムを取り出し、長さ約950mmの精製アルミニウム材を得た。
【0067】
得られたアルミニウム材から角柱形状の試料を切り出し、電解研磨により表面の加工変質層を除去し、500℃にて熱処理を行い、残留抵抗測定に供した。四端子法にて液体ヘリウム浸漬状態での電気抵抗を測定し、室温(27℃)で測定した電気抵抗に対する液体ヘリウム浸漬状態での電気抵抗の比を計算してサイズ効果補正をしていない残留抵抗比を得た。次に角柱試料の寸法を測定し、その寸法値を用いてサイズ効果補正計算を行い、残留抵抗比のサイズ効果補正値を得た。得られた結果を表2に示す。残留抵抗比測定用サンプルは、溶融開始端から90mm、210mm、330mm、450mm、570mm、690mm、810mmの7箇所より採取した。
溶融開始端690mm、810mmの領域を除き、残留抵抗比のサイズ効果補正値は10万以上の高い値を示した。特に溶融開始端から450mmの領域で11万以上(11万〜14万の範囲)の極めて高い値を示し、極めて高い純度に精製されたことが確認できた。
なお精製素材である5N7アルミニウム材の残留抵抗比のサイズ効果補正値は13600であったので、帯溶融精製により最大10倍に向上した。
【0068】
得られたアルミニウム材組成分析を行った。不純物35元素合計と溶融開始側からの距離との関係を
図3に示す。組成分析はグロー放電質量分析法(サーモエレクトロン社製VG9000を使用)により行った。組成分析用サンプルは、溶融開始端から10mm、30mm、90mm、210mm、330mm、450mm、570mm、690mm、810mm、910mmの10箇所より採取した。包晶系5元素の合計含有量(濃度)および金属35元素の合計含有量(濃度)の算出に際して、検出限界以下の濃度の元素、すなわち含有量が0.001ppm未満の元素については0.001ppmとして計算を行った。
溶融開始側より10mmから570mmの広い範囲で、35元素合計がおよそ0.1ppmと、極めて高い純度に精製されたことが確認できた。
なお、35元素全てが検出限界0.001ppm以下に精製された場合、35元素の合計含有量の計算結果は0.035ppm(0.001ppm×35)となる。本願発明に係るアルミニウム材の35元素の合計含有量は、特に残留しやすい包晶系5元素もふくめ、さらに低減させる必要があるので、その下限値は、好ましくは、0.05ppmである。
【0069】
包晶系5元素合計と溶融開始側からの距離との関係を
図4に示す。全ての分析箇所で0.03ppm以下と少ないことが判る。
また包晶系5元素合計が35元素合計に占める割合と、溶融開始側からの距離との関係を
図5に示す。溶融開始側から600mmまでの範囲で、包晶系元素の割合が比較的大きいが、40%以下である。包晶系元素の比率が小さいため、帯溶融精製によって包晶系元素以外の元素が大きく低減し、不純物総量も効果的に低減したと考えられる。
【0070】
以上より、実施例1のサンプルにおいて、エンド側(溶融開始端より690mm以降の領域)を取り除くことで、本願発明の目的とする高純度アルミニウム材を得ることができる。
【0071】
実施例2
溶融帯幅の目標値90mmは実施例1と同じであるが、変動幅が88〜99mmの範囲内となったことを除き、実施例1と同じ条件で実験を行った。
結果、表2、
図3、
図4、
図5に示すように、帯溶融精製材の広い範囲で、残留抵抗比のサイズ効果補正値が10万を越える高純度材が得られた。
【0072】
比較例1、比較例2
精製素材と溶融幅以外の条件を実施例1および2と同じ条件で帯溶融精製を行った。
用いた精製素材について説明する。純度99.93%のアルミニウムを三層電解法により精製して純度が99.999%以上の5Nアルミニウムを得た。この5Nアルミニウムの成分分析結果は、Si=2.4ppm、Cu=0.47ppm、Fe=0.30ppm、Mg=0.54ppm、これら以外の他の31元素(すなわち、Li、Be、B、Na、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Co、Zn、Ga、Ge、As、Se、Zr、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ba、La、Ce、Pt、Hg、Pb、Bi。以下、単に「31元素」という場合がある。)が0.33ppmであり、これら不純物35元素の合計が4.0ppmであった。
この5Nアルミニウムを原料として、以下のように、一方向凝固により精製して、純度99.9999%の6Nアルミニウムを得た。
すなわち、黒鉛製ルツボ(内寸法:幅65mm×長さ400mm×高さ35mm)の中に1.8kgの5Nアルミニウムを原料として配置し、これを、炉体移動式管状炉の炉心管(石英製、内径100mm×長さ1000mm)の内部に収容し、1×10
−2Paの減圧雰囲気にて炉体を700℃に温度制御して、5Nアルミニウムを溶解させた。その後、炉体を30mm/時間の速度で炉心管から引き抜くことにより一方の端部(凝固開始端)から他方の端部に向けて一方向に凝固させた。そして、長さ方向において凝固開始端より50mmの位置から凝固開始端より250mmの位置までを切出し、幅65mm×長さ200mm×厚さ26mmの塊状の6Nアルミニウムを得た。
この6Nアルミニウムの主要不純物元素含有量は、Si=0.33ppm、Fe=0.043ppm、Cu=0.059ppm(すなわち、FeとSiとCuの合計含有量が、0.43ppm)、Mg=0.11ppm、31元素=0.11ppm、これら35元素合計で0.65ppmであった。
上記で得られた6Nアルミニウム塊から、約18mm×18mm×100mmの四角柱あるいは類似形状に切削加工で切出し、純水で希釈した20%塩酸水溶液で3時間酸洗浄したアルミニウム原料を得た。6Nアルミニウム9本を黒鉛坩堝に配置し、以下は実施例1と同様に帯溶融精製に供した。
溶融帯幅について、比較例1では55mm、比較例2では80mmとなるように制御して帯溶融精製を行った。溶融帯の移動速度は実施例1と同様に毎時60mmとした。
結果、表2に示すように、残留抵抗比のサイズ効果補正値は、最高でも66000程度であった。
図3に示すように、比較例で得られたアルミニウム材の35元素合計は約0.2ppm以上で、実施例に劣る。
図4に示すように、比較例では、包晶系5元素合計は、試料全域に渡って0.04ppm以上である。
図5に示すように、比較例では、溶融開始部から600mmの領域では、35元素合計に占める包晶系5元素の割合が50%以上の高い値を示す。
【0073】
比較例3
比較例1、2と同様に、6Nアルミニウムを精製素材とし、溶融帯幅を70mm、溶融帯移動速度を毎時100mmとして帯溶融精製を行った。溶融帯幅および溶融帯移動速度を前記のとおりとする以外は、他の条件は、比較例1、2と同様の条件で精製を行った。
結果を表2、
図3、
図4、
図5に合わせて示すが、比較例1、比較例2と同様に、残留抵抗比のサイズ効果補正値が60000以下であった。不純物35元素合計は最も高純度の領域においても0.17ppmであった。