(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、トウモロコシ等における不耕起栽培技術が確立されており、耕耘に要する時間や機械を削減できるうえ、耐倒伏性に優れることから、殊に欧米で普及している。ところが、欧米で用いられているトウモロコシ用不耕起播種機は大型であり、狭小な日本国内のほ場に適していないことから、国内では不耕起栽培の普及が進んでいない。
【0003】
不耕起播種機が大型化する原因の一つとして、次のことが挙げられる。従来、一般的に、1枚の円形刃で地面に切れ目を入れ、そのすぐ後方で、2枚の円形刃を、進行方向前方から後方に向けて幅が広がるハ字状に配置し、合わせて3枚の刃で溝を拡幅することが行われているが、3枚の刃を地表に作用させると浮力が生じやすく、機体に上向きの力が作用して、形成される溝が浅くなる。機体が浮くのを防ぐためには、機体の重量を大きくする必要があり、さらにその機体を牽引または持ち上げるために大型のトラクターが必要となる。
【0004】
さらに、欧米等で用いられている不耕起播種機は、欧米の比較的乾燥した土壌で用いることを前提としている。そのため、雨が多い日本の湿潤な土壌で用いた場合、湿った土や草などが回転部分にまとわりついて回転しなくなるなど、意図した通りの溝が成形されず、播種溝の深さが均一に形成されなかったり、溝の上部が土で埋まらずに種子が発芽しないという問題があった。
【0005】
一方、日本国内においても、不耕起ほ場用の溝開け機構を有する播種機の開発が行われており、従来、不耕起ほ場等の表面に、トラクターからPTOを介した動力源を用いてロータリー刃を回転させ、土壌表面に播種用の溝を成形する方法が知られている。
【0006】
例えば特許文献1には、土壌案内用カバーが緩衝部材を介して機体に取り付けられることにより、固く締まった不耕起ほ場で溝を成形する際に、石等の異物を巻き込んでも、機体に損傷を与えないトラクター牽引型直播機が記載されている。また、特許文献2には、耕耘爪を位置調節可能とし、播種条間隔が変更可能な部分耕耘装置が記載されている。
【0007】
一方、特許文献3には、トラクターの動力を利用せずに、牽引のみにより、溝形成、播種、覆土等を行う不耕起播種機が記載されている。
【0008】
また、溝開け機構を備えた播種機においては、種子出口の内部に土が入り、種子出口が詰まるという問題が生じることがある。このような土の侵入を防ぐため、例えば特許文献4では種子の落下口に蓋を取り付けたものが、特許文献5では播種管に可撓性を持たせて土塊を避けることができるものが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1、2のように、ロータリー刃で溝を形成する方式は、土を一旦はね上げてその土を埋め戻すという工程を経た後に播種作業を行うため、高速での作業ができない。また、残渣が多い不耕起ほ場や湿潤なほ場等の場合、残渣や雑草、土等が回転部材に絡みつくことを回避できないため、円滑な播種作業に支障をきたすという問題を有している。したがって、ロータリー刃方式では、トラクターの速度として0.5〜1.0m/s程度が限界であり、2m/s程度の高速作業に対応できないという問題点がある。
【0011】
また、上記特許文献3の場合、高速で移動させると、溝を拡幅するときにダブルディスクで土を大きくはね上げるため、覆土するための土が溝の周辺から無くなり、トラクターによる高速作業に適応できない。また、ダブルディスクではね上げられた土が種子押し込みディスクに付着し、種子押し込みディスクの回転が阻害されやすいという問題がある。
【0012】
また、上記特許文献4、5は、いずれも、種子出口から内部に土が進入した場合に、外へ出す手段を有していない。
【0013】
本発明の目的は、不耕起ほ場等の地中に溝を形成する際に、前作物の残渣や雑草、土等を巻き込んで機体に損傷を与えたり、または回転部の円滑な回転を阻害することがなく、高速で溝を形成できる溝開け機構、およびその溝開け機構を備え、高速で播種作業を行える播種機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記問題を解決するため、本発明は、進行方向に移動しながら土壌に溝を形成する溝開け機構であって、移動時に回転し、外周に設けられた刃先で地表面に対して垂直方向に切り込みを入れる1枚のディスクコールタと、進行方向に対して前記ディスクコールタの後方に設けられ、前記ディスクコールタで切り込んだ溝を拡幅する拡幅部と、を備え、前記拡幅部は、前記ディスクコールタ側の前面に、前記ディスクコールタ側から後方に向けて拡幅する方向にテーパが形成された拡幅部材を有
し、前記拡幅部は、前記ディスクコールタ側に当て板部材を有し、前記当て板部材は、進行方向に対して側面から見て、前記ディスクコールタの外周の一部に重なっていることを特徴とする、溝開け機構を提供する。
【0015】
前記当て板部材は、側面と、前記側面の下端が幅方向中央側へ折れ曲がった底面とを有し、前記底面は、前記ディスクコールタの外周に近接していることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、前記溝開け機構を備えた播種機であって、前記拡幅部の後方に隣接して、スリットを形成する種子誘導部材が設けられ、種子が前記スリットから放出されることを特徴とする、播種機を
提供する。
【0018】
前記播種機においては、前記スリットの幅方向を軸方向とする回転軸と、前記回転軸に固定されたリセットレバーと、前記リセットレバーに一方の端部が固定され、他端は地表面側に延び、前記スリット内に配置されるクリーニング部材と、一方の端部が前記リセットレバーに取り付けられ、他端が前記回転軸に対して前記リセットレバーの反対側に固定された弾性体と、を有するスリットクリーニング機構が設けられていることが好ましい。前記クリーニング部材が、前記種子誘導部材の両側面の内側にそれぞれ接触する2本の線状部材であってもよい。また、前記クリーニング部材の先端部が前記スリットの前端に達する位置と、前記クリーニング部材の先端部が前記スリットの後方よりも外側に出た位置とで、それぞれ前記リセットレバーの回転を停止させるストッパが設けられてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の溝開け機構は、ディスクコールタと拡幅部との簡易な構造であり、牽引するだけで、PTO動力を要することなく溝を形成することができる。また、質量が小さく、大型のトラクターでなくても装着し作業することができる。さらに、溝の拡幅部で土をはね上げる作用が小さく、前作物の残渣や雑草、土等を巻き込む回転部材もないので、残渣が多いほ場や湿潤土壌であっても、高速作業が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。
【0022】
図1は、本発明の溝開け機構を備えた播種機の一例を示し、本実施形態では、不耕起播種機に本発明の溝開け機構を備えた例について説明する。
【0023】
播種機1は、トラクター(図示省略)に装着されて矢印方向に走行する。播種機1に搭載された溝開け機構2は、ディスクコールタ11と、進行方向においてディスクコールタ11の後方に、当て板部材12と拡幅部材13を備えた拡幅部14を有する。さらに、拡幅部14の後方に隣接して、播種部15の種子誘導部材16が設けられている。種子誘導部材16は、拡幅部14の最大幅とほぼ同じ幅に対向して配置された一対の板材からなり、板材同士の間に、種子が通過するスリット17が形成される。種子誘導部材16の後方には、播種機1の本体部に鎮圧輪フレーム3を介して連結された鎮圧輪4を備えている。
【0024】
ディスクコールタ11は、全体が薄い円板状であり、外周全体に、外周側に尖った鋭利な刃先を有している。播種機1が牽引されることにより、ディスクコールタ11が回転し、外周の刃先で、地表面10に対して垂直方向に切り込んで細い溝を形成する。
【0025】
図1〜3に示すように、ディスクコールタ11の進行方向後方に、ディスクコールタ11の外周に近接して、当て板部材12および拡幅部材13が設けられている。播種機1の進行方向に対して側方から見たとき、当て板部材12の進行方向前方は、ディスクコールタ11の外周の一部、例えばディスクコールタ11の全周の1/12〜1/2、好ましくは1/6〜1/4程度の部分に重なっている。当て板部材12の材料としては、焼き入れされた硬度の高い鉄が好ましい。拡幅部材13は、本実施形態では、進行方向側方から見た形状が三角形であり、
図2、3に示すように、地表面側の底面21と、進行方向前方のディスクコールタ11側の前面22に、テーパが形成されている。テーパは、幅方向側方から中央に向けて広がるように、つまり、拡幅部材13の側面の三角形の面積が大きくなる方向に形成される。すなわち、ディスクコールタ11で切り込まれた溝の中に、先ず、拡幅部材13の
図2における右下部から入りこみ、牽引によって進行方向に移動するに従い、テーパに沿って徐々に拡幅部材13の幅の広い部分が溝に侵入していくことで、溝が拡幅される。なお、拡幅部材13は、側面が三角形のものに限ることはなく、ディスクコールタ11側から進行方向後方に向けて拡幅する方向にテーパが形成されていればよい。
【0026】
また、当て板部材12は、
図3に示すように、進行方向側方に配置される側面23と、側面23の下端から幅方向中央側へ折れ曲がった底面24を有している。本実施形態では、側面23と底面24との折れ曲がり角度は概ね直角であり、底面24は水平方向の面である。底面24は、当て板部材12とディスクコールタ11との間に土が入り込むのを防ぐために設けられる。そのため、底面24の進行方向に対する前端25は、ディスクコールタ11の刃先に近接させる。前端25とディスクコールタ11とは、ディスクコールタ11の回転を阻害しないように、僅かな隙間を有していることが好ましい。底面24の幅は、3〜8mmが好ましい。なお、底面24は水平方向の面に限ることはなく、例えば中央側が下方へ突出したV字状でも構わない。この場合には、側面23と底面24との折れ曲がり角度は、60°程度でもよい。
【0027】
本実施形態においては、
図3、
図4に示すように、一対の種子誘導部材16間のスリット17の内側からディスクコールタ11の刃先付近に向けて、例えば鉄製の芯材18が配置され、芯材18を中心として幅方向に対称な一対の拡幅部材13と、芯材18の一方の側面に当て板部材12が取り付けられている。当て板部材12は、ディスクコールタ11の刃先が摩耗しても、側面から見て当て板部材12が常にディスクコールタ11の外周の一部に重なるように、取り付け部を長孔とし、取り付け位置をディスクコールタ11の半径方向に調整可能とすることが好ましい。なお、当て板部材12は両方の側面に設けてもよく、その場合には、少なくとも一方の当て板部材の前方が、前述のようにディスクコールタの外周の一部に重なるようにする。さらに、いずれか一方は、側面と、側面の下端が幅方向中央側へ折れ曲がった底面とを有し、底面の前端がディスクコールタの外周に近接するようにする。また、芯材18と当て板部材12とは、一体に成形されたものでも構わない。さらに、芯材18と拡幅部材13とが一体成形されてもよい。
【0028】
拡幅部材13は、全体、または少なくとも土壌と接する面に、土などが付着するのを防止するとともに耐久性および耐摩耗性に優れた材質が用いられ、例えば超高分子ポリエチレン等の合成樹脂とすることが好ましい。また、種子誘導部材16の外側表面には、例えば厚さ0.5mm程度の超高分子ポリエチレン等の合成樹脂製フィルム19を表面に貼っても良い。
【0029】
播種機1の種子誘導部材16には、スリット17の下部に入り込んだ土等の異物をかき出すスリットクリーニング機構5が設けられている。以下、スリットクリーニング機構5について説明する。
【0030】
図5および
図6は、本発明にかかる播種機1のスリットクリーニング機構5の例を示し、
図5は播種機1の側面方向からスリット17の内部を見た内部構造、
図6はスリット17の幅方向(正面)から見た内部構造の概要を示す。種子誘導部材16の進行方向後方側に、対向する1対のフレーム51,51が取り付けられ、1対のフレーム51,51間を貫通して、スリット17の幅方向を軸方向とする回転軸52が取り付けられている。そして、回転軸52の下側に、断面形状が略U字状のリセットレバー53が例えば溶接により回転軸52に固定されている。さらに、2本の線状のクリーニング部材54,54が、それぞれ一方の端部がリセットレバー53に固定されている。クリーニング部材54,54は、それぞれ、スリット17の両側面である種子誘導部材16の内側に接触するように設けられ、湾曲した形状で、下方の先端が地表面10に接触するように延びている。さらに、一方の端部がリセットレバー53に、他端がフレーム51側に固定された弾性体55が設けられている。弾性体55のフレーム51側への固定は、例えば
図6に示すように、回転軸52よりも上方の、1対のフレーム51,51を連結するボルト56の軸に取り付ける。
【0031】
フレーム51には、リセットレバー53やクリーニング部材54の回転を制限するストッパ57が設けられている。ストッパ57は、例えば
図6に例示したように、1対のフレーム51,51を連結するボルトにより構成することができる。すなわち、例えば
図5に示すように、クリーニング部材54の先端部がスリット17の進行方向最前端に達したときに、リセットレバー53がストッパ57の外周の
図5における左側の面に当たって、リセットレバー53のそれ以上の回転を止める。また、後述する土等の排出が行われ、クリーニング部材54の先端部がスリット17の後方から外に出た位置(
図5の二点鎖線)になると、リセットレバー53がストッパ57の外周の
図5における右側の面に当たって、リセットレバー53のそれ以上の回転を止める。
【0032】
クリーニング部材54には、塑性変形しにくい材質が用いられ、例えばピアノ線等を用いることができる。クリーニング部材54の中間部で2、3回巻回して弾性力を向上させてもよい。また、2本のクリーニング部材54,54がそれぞれ種子誘導部材16の両側壁の内側に確実に接触するために、2本のクリーニング部材54,54の先端部は、スリット17の内側下端にわずかに押しつけられるように取り付けることが好ましい。その場合、クリーニング部材54の先端部がスリット17から外に出た後、リセットレバー53の回転により再びスリット17内に確実に入るために、クリーニング部材54の上部は、常にスリット17内に位置するように、クリーニング部材54の上端部の取り付け位置およびストッパ57の位置を設定する。
【0033】
図7は、播種機1の稼働に伴うスリットクリーニング機構5の動作を示す。
図7(a)に示すように、播種機1が地面から離れているときには、鎮圧輪4が自重で下がる。このとき、鎮圧輪4を播種機1の本体に支持している鎮圧輪フレーム3に取り付けられた横部材3aが、フレーム51の後方に沿って下降し、リセットレバー53を押し下げる。この力により、リセットレバー53は
図7の左回りに回転し、リセットレバー53と弾性体55との接点が回転軸52の中心よりも前方になると、弾性体55に付勢されてさらに回転し、クリーニング部材54の先端部が前方へ押し出されてスリット17の前端に達する。
図5に示すようにフレーム51に凹部58を形成することにより、横部材3aがそれ以上下降してリセットレバー53を押すのを防止することができる。なお、リセットレバー53を押し下げる動作は、手動で行ってもよい。
【0034】
次に、
図7(b)に示すように、播種機1が下降して溝開け機構2が接地すると、横部材3aがフレーム51の凹部58から離れる。この状態では、リセットレバー53を回転させる力が作用しないため、リセットレバー53は
図7(a)と同じ位置で弾性体55に引っ張られ、クリーニング部材54の先端部がスリット17の前端に位置したまま、地表面10に接している。このとき、スリット17内に土等が入り込むことがある。
【0035】
図7(b)の状態から、
図7(c)に示すように播種機1が矢印方向に前進すると、クリーニング部材54の先端が地表面10に接触したまま機体が前進することにより、クリーニング部材54を介してリセットレバー53に力がかかり、リセットレバー53が
図7において右回りに回転する。リセットレバー53と弾性体55との接点が、回転軸52の中心よりも後方になると、弾性体55に付勢されてさらに回転して、ストッパ57の位置で停止する。これにより、クリーニング部材54の先端部が後方へ押し出されてスリット17の後方に突出し、それとともにスリット17に入り込んだ土等が排出される。その後リセットレバー53に力が加わらなければ、弾性体55に引っ張られたリセットレバー53が回転することがないので、クリーニング部材54の位置も変わらない。この状態で、溝開けおよび播種が開始される。クリーニング部材54の先端部がスリット17の外部に出ているため、種子9の排出を邪魔することがなく、また、クリーニング部材54は地面から離れているため、播種された種子に当たることがなく、円滑な播種を行うことができる。
【0036】
図5および
図6に示したスリットクリーニング機構5では、弾性体55とリセットレバー53との接点が回転軸52の中心から前後方向にずれていることにより、トグル機構が形成されている。したがって、
図7(a)に示す横部材3aによる押さえつけや、
図7(c)に示す播種機1の前進によってクリーニング部材54またはリセットレバー53に力が加わると、ストッパ57で停止される位置、すなわちクリーニング部材54の位置が
図7(a)および(b)または
図7(c)に示す位置のいずれかになるように、リセットレバー53の位置が切り替えられる。そのため、例えば
図7(c)の状態で振動等が起こっても、クリーニング部材54の位置が動くことがない。
【0037】
上記のスリットクリーニング機構5においては、クリーニング部材54を弾性のある線材にすることで、回転軸52が偏心しても、種子誘導部材16の側壁に過大な摩擦力が作用せずスムーズに接触させることができる。したがって、殊に本実施形態のように幅の狭いスリット17から種子を放出させる場合に、スリット17内の土等を排出させる機構として好適である。また、種子誘導部材16の両側壁に沿ってクリーニング部材54,54を摺動させれば、スリット17に入りこんだ土等は確実に排出されるので、種子の放出時に土等が邪魔することなく、播種が円滑に行える。また、地表面10に接するクリーニング部材54が弾性を有していることにより、回転時に地表面10にクリーニング部材54の先端が当たり、上方に押される場合でも塑性変形することがなく、地表面10に沿って土等を排出しながら回転することができる。以上のように、スリットクリーニング機構5は、簡単な機構で効果的に土等を排出でき、しかも通常の播種作業中に行われる播種機の上下操作と前進作業のみで、土等の排出が行われる。したがって、このようなスリットクリーニング機構5を備えることにより、溝開け機構2を有する播種機1において、詰まりを防いで高速な播種を行うことができる。
【0038】
播種部15には、所望する粒数の種子を正確且つ高速に繰り出す種子繰り出し機構31を備える。
図8は、種子繰り出し機構31の一例を示し、構成部材の分解図である。種子繰り出し機構31は、回転機構として例えばDCサーボモータ等のモータ32を備え、ホッパ33、供給側枠体34、分配プレート35、受け渡し板36、放出プレート37、放出側枠体38を有している。分配プレート35と放出プレート37は、モータ32の動力を例えばタイミングベルト41で伝えて駆動軸42を回転させ、駆動軸42を介して同軸且つ同速度で同じ方向に回転する。
【0039】
ホッパ33は、種子を一時貯留するとともに、供給側枠体34内へ種子を供給する供給口を備えている。供給側枠体34は、円筒状の中空部43を有する枠体であり、裏面側に、分配プレート35が配置される。中空部43内に種子溜まりを形成するために、供給側枠体34は適宜厚みを有している。供給側枠体34は回転することなく、放出側枠体38に固定される。分配プレート35は、外周部に、種子を一度に播種する粒数ずつ収容するホルダ44が、円周方向に設けられている。ホルダ44の平面形状を、分配プレート35の外周側に向かって開放する三角形状に形成することにより、丸粒および扁平粒の両方の種子に適応できる。分配プレート35と放出プレート37の間に、受け渡し板36が設けられる。受け渡し板36は、回転することなく放出側枠体38に固定される。受け渡し板36の上部、すなわち種子繰り出し機構31として組み上げられた際に上側となる位置に、分配プレート35から放出プレート37へ種子を受け渡す受け渡し穴45が形成されている。放出プレート37の外周には、分配プレート35から受け渡された種子を収容する凹部46が設けられている。放出プレート37は、放出側枠体38の内部に設置される。放出側枠体38は、放出プレート37の外周全体を覆い、下端部に放出口47が設けられている。これにより、放出プレート37の凹部46に収納された種子は、放出プレート37の回転によって下方まで搬送され、放出口47から放出される。
【0040】
種子繰り出し装置31は、播種機1の進行方向に対して種子が後ろ向きに放出されるように設置する。これにより、播種機1全体の速度と、種子の放出時の速度が減殺されて、種子の地面に対する速度が小さくなるうえ、放出位置が横方向にずれることもなく、正確な位置に種子を放出することができる。また、
図1〜4に示すように、種子は、拡幅部材13と同じ幅に配置された一対の種子誘導部材16間のスリット17から放出される。種子は、従来の播種機の種子誘導部に用いられているパイプを通して地面まで誘導すると、パイプの内壁に衝突しながら放出されるため、放出方向や間隔が散乱することがあるが、本発明にかかるスリット17から放出し、自由落下させることにより、種子繰り出し機構31で制御された種子間隔で、正確に種子を放出できる。
【0041】
本発明の溝開け機構は、上記の種子繰り出し機構31が搭載された播種機に限定して使用するものではないが、上記の種子繰り出し機構31を用いることにより、播種機を2m/s以上の高速で牽引しても、所望する間隔に播種することができる。
【0042】
以上説明した本実施形態の播種機1で播種を行う際には、トラクターで播種機1を
図1の矢印方向に牽引することにより、ディスクコールタ11が回転し、不耕起ほ場の表面を切るようにして溝が形成される。このとき、ディスクコールタ11の鋭利な刃先により、ほ場に存在する前作物の残渣や雑草が切断され、ディスクコールタ11の両側に分かれる。また、進行方向前方に石等の障害物がある場合、ディスクコールタ11はそれを乗り越えることができる。ディスクコールタ11で細い溝が切られた後、ディスクコールタ11の後方に近接して設けられた拡幅部14が、先端から溝内に侵入していき、拡幅部材13のテーパに沿って溝が拡幅され、最終的に、幅方向両側の2つの拡幅部材13が形成する最厚部の幅と同じ幅の溝が形成される。そして、種子誘導部材16の内部のスリット17から、種子が放出される。
【0043】
当て板部材12とディスクコールタ11の外周の一部が側面から見て重なっていることにより、ディスクコールタ11と拡幅部14の間に僅かに入り込んだ残渣や雑草は、ディスクコールタ11の外周の刃により切断されて拡幅部14の外へ排出され、残渣等が溜まることがない。
【0044】
ここで、本実施形態における拡幅部14の周辺に関し、播種機1において使用する場合の好ましい寸法範囲について、
図4のB部を拡大した
図9に基づいて説明する。
【0045】
ディスクコールタ11の刃先部と当て板部材12とは、接触していても、双方の部材に摩耗が生じなければよいが、間隔が大きすぎると、隙間に入り込んだ残渣や雑草が切断されないため、寸法aは4mm以下が好ましく、2mm程度またはそれ以下がさらに好ましい。芯材18の厚さbは、当て板部材12を取り付けるための適度の寸法が必要であり、b=5〜10mm程度が好ましい。
【0046】
ディスクコールタ11と当て板部材12とが側面から見て重なる部分の幅cは、小さすぎると残渣や雑草を切断できず、大きすぎると切断した残渣や雑草がディスクコールタ11と当て板部材12との間に堆積し、摩擦抵抗が生じてディスクコールタ11の回転を阻害するため、c=1〜5mm程度が好ましい。当て板部材12の厚さdは、土の抵抗に耐える十分な強度を確保するとともに、ディスクコールタ11で切り込んだ細い溝への侵入時に大きな抵抗を受けない範囲とし、d=4mm以下が好ましい。ディスクコールタ11の刃先の先端と芯材18との間隔eは、小さすぎると互いに摩擦が生じ、大きすぎると残渣を切断できなくなるため、e=0.5mm〜2mm程度が好ましい。
【0047】
また、拡幅される溝幅は、例えば25mm程度とする。本発明は、ほ場の地表面に対して垂直方向に鋭い切り込みを入れる薄板状のディスクコールタ11と、その切り込みを広げる拡幅部14のみのシンプルな構成であり、拡幅部14は、残渣や雑草等が絡まりやすい回転部材としていない。そのため、残渣や雑草、土等の入り込みを低減させることができ、所望する幅の溝を正確且つ高速に連続して形成できる。溝幅が25mm程度であれば、播種機1の鎮圧輪4が通過することで自然に溝が閉じ、別途覆土のための部品を設置する必要がない。そのため、全体の構造がシンプルになり、泥等が付着しやすい覆土のための回転部材等を省略できることから、湿潤な土壌でも高速作業を行える。拡幅部14の幅は25mm以下が好ましく、概ね30mmを超えると、鎮圧輪4だけでは溝が閉じない場合があり、この場合は別途覆土機構が必要になる。溝幅、すなわち拡幅部14の最大幅寸法(
図4の寸法W)は、ディスクコールタ11で切り込まれる溝の深さ寸法(
図1の寸法D)よりも小さくすることが好ましい。
【0048】
上記の各寸法は、トウモロコシ等の粒状の種子を播種する場合に適した数値であり、溝に挿入する物体の種類や用途、土壌や地表面の残渣の種類等によっては、数値が異なることがある。
【0049】
本発明によれば、残渣や雑草、土などが溝開け機構に絡まったり入り込んだりすることを抑制し、仮に残渣等が入り込んだ場合でも、溝開け機構の外側へ容易に排出されるため、残渣が多い不耕起ほ場や湿潤土壌であっても、スムーズな運転が可能であり、安定した播種溝の形成を行うことができる。そのため、従来の播種作業では作業の支障になる要因として問題となっていた残渣等の機体へのからまりや堆積を排除でき、作業速度が2m/s以上の高速運転にも対応できる。
【0050】
また、従来、1枚の円形刃とその後方に配置された進行方向前方から後方に向けて幅が広がるハ字状の2枚の円形刃とで溝を拡幅する場合、高速で運転すると浮力が発生して機体が浮き上がるため、高速作業はできなかった。あるいは、浮き上がりを防止するため、機体を重くしていた。本発明では、薄板状の1枚のディスクコールタで溝を切った後、拡幅部材が回転せずにテーパに沿って地中に潜り込んでいくため、浮力が発生しにくく、機体を重くする必要がない。しかも、溝幅が小さいので溝形成時の抵抗が小さく、通常日本国内で広く用いられている30馬力程度のトラクターに装着して使用可能である。
【0051】
さらに、本発明の溝開け機構では、PTO駆動による動力伝達が不要であり、構造が極めてシンプルであるため、装置のコストを抑制できる。
【0052】
以上のように、本発明は、乾燥したほ場でも湿潤ほ場でも使用でき、さらに、不耕起播種機に限らず、慣行の耕耘整地されたほ場でも同様に使用できる。また、粒状の種子の播種機に限らず、粉体や液体を挿入するための溝を成形する溝開け機構としても使用できる。
【0053】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0054】
例えば、クリーニング部材54は、上記実施形態に示した2本の線材には限らず、1本あるいは3本以上の線材、または板状の部材であっても構わない。