(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エバポレータから落下する使用済殺菌用洗浄液を受けて装置外に排出するためのドレンパンを更に有し、当該ドレンパンの表面に前記深紫外光を照射するようにしたことを特徴とする、請求項1又は2に記載の自動車用空気調和装置。
自動車の駆動エンジン又は駆動モーターの起動及び/又は停止を検知する検知手段と、該検知手段からの信号により前記殺菌機構を所定時間稼働させる制御手段と、を更に有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の自動車用空気調和装置。
前記殺菌用洗浄液供給手段が、前記殺菌用洗浄液を貯留するためのタンクと、前記殺菌用洗浄液をエバポレータに向かって噴出するノズルと、当該ノズルと前記タンクとを連結するホースと、ポンプと、を有し、
前記タンク、前記ホース及び前記ノズルから選ばれる少なくとも一つの内部には、前記深紫外光源から導光された深紫外光を出射する出射部、又はピーク波長が210〜240nmである一つ以上の深紫外発光ダイオードを用いた前記深紫外光源とは別の光源が配置されており、
前記ポンプの駆動時において、前記タンク、前記ホース及び前記ノズルから選ばれる少なくとも一つの内部に存在する前記殺菌用洗浄液に対して前記出射部又は前記別の光源から前記深紫外光を照射するようにしたことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の自動車用空気調和装置。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−262937号公報
【特許文献2】特開2008−64343号公報
【特許文献3】登録実用新案第3007375号公報
【特許文献4】特許第4803684号公報
【特許文献5】特許第4332107号公報
【特許文献6】特開2012−205615号公報
【特許文献7】国際公開第2010/140581号パンフレット
【特許文献8】特開2006−237563号公報
【特許文献9】特許第5591305号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】飯島崇文 他,「難分解性有害有機物処理への適用を目指すOHラジカル発生装置」,東芝レビューVol.61,No.8(2006).
【非特許文献2】Jorge L. Lopez et al., "Hydroxyl radical initiated photodegradation of 4-chloro-3,5-dinitrobenzoic acid in aqueous solution", Journal of Photochemistry and Photobiology A: Chemistry, Vol.137, pp.177-184, 2000.
【非特許文献3】Soo-Myung Kim et al., "Degradation of Organic Pollutants by the Photo-Fenton-Process", Chem. Eng. Technol. Vol. 21, pp.187-191, 1998.
【非特許文献4】Hyun-Seok Son, et al., "Effect of Nitrite and Nitrate as the Source of OH Radical in the O3/UV Process with or without Benzene", Bull. Korean Chem. Soc. 2011, Vol. 32, No. 8, 3039-3044.
【非特許文献5】Guus F. IJpelaar, et al., "UV disinfection and UV/H2O2 oxidation: by-product formation and control", Techneau, D2.4.1.1, 1-27.
【非特許文献6】Yoshiko YANO, et al., "Reducing Nitrogen Content in Industrial Wastewater by Ultraviolet Irradiation", Journal of Japan Society on Water Environment 2007, Vol.30, No.11, pp.661-664.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2に記載されている技術では、抗菌性金属やポリアニリン等のエバポレータの表面に析出した成分により抗菌効果を奏するが、該成分がドレン排水とともに析出し、経時的に抗菌効果が低下してしまうことがあった。また、該抗菌効果は上記成分が析出している表面で奏されるため、一旦汚れ等が付着して表面が被覆されてしまうと、該汚れ等の上からさらに付着した有害微生物に対しては抗菌作用を及ぼすことができず、有害微生物が繁殖してしまうことがあった。また、エバポレータに直接紫外線を照射して殺菌を行うことも考えられるが、カビ等を紫外線で死滅させるためには紫外線の積算照射量を大きくする必要があるばかりでなく、エバポレータは複雑な形状をしているため紫外線が当たらない部分があること、表面に埃などの遮蔽物が付着することから、十分な殺菌を行うことは困難である。
【0007】
そこで本発明は、エバポレータ表面の抗菌性に依らず、長期継続的にエバポレータ表面を殺菌することが可能な殺菌機構を備えた自動車用空気調和装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、エバポレータ表面に有害微生物が付着し繁殖する前の段階で、セルフクリーニングによりこれらを死滅除去することができれば前記課題を解決することができると考えた。たとえば、エバポレータ表面を光触媒でコーティングし、定期的に水の存在下で光触媒を励起する光を照射すれば有害微生物が繁殖する前に死滅除去することができる。
しかしながら、エバポレータ表面を光触媒でコーティングした場合には、熱伝導率が低下することにより熱交換効率が低下してしまうばかりでなく、金属炭酸塩等のミネラル分が光触媒表面に付着することにより失活し、機能が低下するという問題がある。
【0009】
そこで、本発明者らは、ヒドロキシルラジカル(OHラジカルともいう。)の酸化作用を利用したセルフクリーニング機構に着目し、光触媒を用いずにエバポレータ表面にヒドロキシルラジカルを供給する方法を検討した。
【0010】
OHラジカルについて、例えば特許文献4には、水不溶性のリグニンを含むリグニン粉末を、リグニンの低分子化物が溶解しリグニンが溶解しない溶媒の共存下に亜硝酸ナトリウム水溶液中で懸濁させながら、紫外線、電子線、またはガンマ線を照射して発生させたヒドロキシルラジカルと反応させる、リグニンの低分子化方法が記載されている。
【0011】
特許文献5には、表面に水を粒状に保持可能な保水面に形成した保水体に水を供給し、該保水面を水滴で濡れた状態に保持する保水工程と、該保水面に付着させた水滴に対し、10mm以内の至近距離から波長が254nmの紫外線を、近傍を10℃〜40℃の温度域に制御しつつ照射して、該照射紫外線のエネルギーで水滴にOHラジカルを生成させる照射工程と、該OHラジカルを含む水滴を保持している保水面に対してエチレンガスを含む気体を通風させてOHラジカルに該エチレンガスを接触させる反応工程と、から成り、OHラジカルにエチレンガスを接触反応させてエタンと水に改質する、エチレンガスの改質方法が記載されている。
【0012】
特許文献6には、ポリウレタンフォームなどの高分子多孔体に波長254nmの紫外線を照射してOHラジカルを発生させながら、該多孔体の内部にエチレンガスを流通させて、該エチレンガスを分解する技術が開示されている。
【0013】
特許文献7には、オゾンと、過酸化水素と、水溶性有機物、無機酸、該無機酸の塩、及びヒドラジンからなる群より選択される少なくとも1種以上の添加物質とを純水に溶解させてヒドロキシルラジカル含有水を生成する生成工程と、生成したヒドロキシルラジカル含有水をユースポイントに移送する移送工程と、移送後のヒドロキシルラジカル含有水をユースポイントで供給する供給工程とを含む、ヒドロキシルラジカル含有水供給方法が開示されている。
【0014】
非特許文献1には、酸素と水を含むガス中でコロナ放電を行うことによって発生したOHラジカルを処理水に溶解させて処理水中の有機物を分解する技術が開示されている。
【0015】
非特許文献2及び3には、水(H
2O)やFe(OH)
2+が紫外線照射によってOHラジカルを発生させることが記載されている。
【0016】
ところが、特許文献4、5及び6に開示されている技術は、特定の物質や有害物質を分解することを目的とするものであり、物品に付着した有機汚れの除去技術に直接関係するものではない。また、特許文献7や非特許文献1に記載されている方法では、OHラジカルやその前駆体となるオゾンを発生させるために特殊な装置が必要である。さらに、特許文献7に開示されている方法では、環境基準の観点から許容濃度が極めて低いオゾンを使用しなければならないという問題もある。加えて、特許文献5に開示されている技術は、有機汚れが付着したエバポレーター(被洗浄体)の表面を保水面とすれば汎用的な洗浄方法となり得ると考えられるが、紫外線照射により水から高濃度のOHラジカルを生成させることは困難である。
【0017】
そこで、本発明者等は、エバポレーターの表面に保持される水に紫外線照射によりOHラジカルを発生する物質を添加すると共に照射する紫外線のエネルギーを高めることを着想し、本発明を完成するに至った。
【0018】
本発明は、エバポレータの殺菌機構を備えた自動車用空気調和装置であって、前記殺菌機構は、水の共存下における紫外線照射によってヒドロキシルラジカルを生成する物質又はイオンが溶解した水溶液からなる殺菌用洗浄液を前記エバポレータ表面に供給可能な殺菌用洗浄液供給手段と、波長250nm以下の深紫外光を前記エバポレータ表面に照射可能な深紫外光源と、を備え、前記エバポレータ表面に供給される前記殺菌用洗浄液に、前記深紫外光を照射することにより、前記エバポレータの殺菌を行う、自動車用空気調和装置である。
【0019】
本発明において、前記殺菌用洗浄液が、硝酸イオン、亜硝酸イオン
及び過酸化水素
から選ばれる少なくとも1種が溶解した水溶液からなることが好ましい。
【0020】
本発明において、前記殺菌用洗浄液中においてOHラジカルを発生させるために250nm以下の波長を有する深紫外光を照射する必要がある。深紫外光の波長は短ければ短いほどエネルギーが高くOHラジカルの発生にとっては都合が良いが、210nm未満の短波長の深紫外光を比較的高強度で出射することができる光源を準備することは困難である。したがって、210nm以上、240nm以下の波長を有する深紫外光を照射することが好ましい。また、装置を小型化でき、メンテナンスを容易化できるという観点から、光源としては、210nm以上240nm以下の波長領域にピークを有する深紫外光を出射する深紫外線発光ダイオード(DUV−LED)を使用することが好ましい。
【0021】
本発明の自動車用空気調和装置においては、前記エバポレータから落下する使用済殺菌用洗浄液を受けて装置外に排出するためのドレンパンを更に有し、当該ドレンパンの表面に前記深紫外光を照射するようにすることが好ましい。エバポレータから落下する使用済殺菌用洗浄液の液滴中では有害微生物は死滅していると考えられるため、ドレンパンでも有害微生物は繁殖し難いが、こうすることにより、ドレンパンでの有害微生物の繁殖をより確実に防止することができる。
【0022】
また、自動車の駆動エンジン又は駆動モーターの起動及び/又は停止を検知する検知手段と、該検知手段からの信号により前記殺菌機構を所定時間稼働させる制御手段と、を更に有することが好ましい。こうすることによりエバポレータの殺菌がこまめに確実に行われるので、常に清浄な状態を長期にわたって保つことができる。有害微生物の繁殖は主に自動車が長時間停止している間に起こるので、停止時に前記殺菌機構を作動させるのがより好ましい。
【0023】
さらにまた、本発明の自動車用空気調和装置においては、前記殺菌用洗浄液供給手段が、前記殺菌用洗浄液を貯留するためのタンクと、前記殺菌用洗浄液をエバポレータに向かって噴出するノズルと、当該ノズルと前記タンクとを連結するホースと、ポンプと、を有し、前記タンク、前記ホース及び前記ノズルから選ばれる少なくとも一つの内部には、前記光源から導光された深紫外光を出射する出射部、又はピーク波長が210〜240nmである一つ以上の深紫外発光ダイオードを用いた前記光源とは別の光源が配置されており、前記ポンプの駆動時において、前記タンク、前記ホース及び前記ノズルから選ばれる少なくとも一つの内部に存在する前記殺菌用洗浄液に対して前記出射部又は前記別の光源から前記深紫外光を照射するようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、強力な酸化作用を有するヒドロキシルラジカルによって有害微生物を確実に死滅させることが可能である。しかも、紫外線(UV)が照射された部分のみで殺菌効果を示すUV殺菌と比べて、本発明では深紫外光照射によってヒドロキシルラジカルを含むようになった殺菌用洗浄液(深紫外光照射後の殺菌用洗浄液を殺菌液ともいう。)は表面に埃などが付着していても内部に浸透して全体に濡れ広がることができるので、むらなくエバポレータ表面の全体を殺菌することが可能である。
また、本発明では、エバポレータの表面に特殊なコーティングなどを施す必要が無いので熱交換効率を下げることが無い。さらに、光源として長寿命が期待できるLEDを用いているため、適宜タンクに殺菌用洗浄液を補充するだけで、長期継続的にエバポレータ表面を殺菌することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の上記した作用および利得は、以下に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。なお、図面は必ずしも正確な寸法を反映したものではない。また図では、一部の符号を省略することがある。本明細書においては特に断らない限り、数値A及びBについて「A〜B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。また「又は」及び「若しくは」の語は、特に断りのない限り論理和を意味するものとする。本明細書において、「紫外光」と「紫外線」とは同義である。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係る自動車用空気調和装置100を模式的に説明する断面図である。自動車用空気調和装置100は、公知の自動車用空気調和装置と同様に、自動車のダッシュボード下部に設置される。
図1において、紙面右側が自動車前方、紙面左側が自動車後方である。
自動車用空気調和装置100は、内部が2分割されたケース1を有し、一方の領域A(紙面右側)にブロアファン2、エバポレータ3、及び、後述する殺菌機構20の殺菌用洗浄液供給手段11の一部が配置されており、他方の領域B(紙面左側)にヒーターコア4が配置されている。一方の領域Aと他方の領域Bとはエアミックスドア5により連通しており、ケース1内部には
図1にI〜IVで示した空気が流通する経路(以下、「空気流路I〜IV」という。)が形成されている。
【0028】
自動車用空気調和装置100の運転が開始されると、ブロアファン2が回転することにより、外気又は車内空気が、空気流路Iによりケース1内に導入される。空気流路Iにはフィルタ6が配置されており、これによりゴミ等の所定サイズ以上の異物がケース1内に侵入することを防止する。フィルタ6を通過した空気は、空気流路IIにより、エバポレータ3へと送られる。
【0029】
エバポレータ3は周知の冷凍サイクルを構成するものであり、空気流路IIで送られてきた空気を除湿冷却する冷却機として機能する。該冷却過程において、空気中に含まれていた水分が冷却されて凝縮し、エバポレータ3表面に付着する。付着した凝縮水は所定量集まると重力によりケース1の底部へと滴下し、ケース1の下部に配置されているドレンパン8へと集められ、ドレンパン8に設けられた排水口9から、
図1及び
図2に矢印D
1で示した流路を通して車外へ捨てられる。
【0030】
エバポレータ3の下流側には、エバポレータ3を通過した空気を、空気流路IIIcと空気流路IIIhとに振り分けるエアミックスドア5が配置されており、空気流路IIIhにより領域Bに送られた空気は全てヒーターコア4へと送られ、空気流路IIIcにより領域Bに送られた空気はヒーターコア4をバイパスする。ヒーターコア4は自動車が内燃機関(エンジン)を有する場合にはエンジンの冷却水を、電気自動車である場合には電熱ヒーターを熱源として、空気流路IIIhにより該ヒーターコア4を通過する空気を加熱する加熱器である。該構成によれば、空気流路IIIcを通過した空気はエバポレータ3により冷却されたまま領域Bへと送られ、空気流路IIIhを通過した空気はヒーターコア4により加熱されて領域Bへと送られ、これらは領域Bの下流において混合される。エアミックスドア5は空気流路IIIhを通過する空気の量と空気流路IIIcを通過する空気の量とを調節可能となっており、該2つの流路を通過する空気の量を調節することにより、領域Bにおいて所望の温度に調節された空気を得ることが可能となっている。所望の温度に調節された空気は、空気流路IVによりフロントガラス内側のデフロスタ吹出口(DEF)へ、空気流路Vにより搭乗者の顔面方向吹出口(FACE)へ、空気流路VIにより足元方向吹出口(FOOT)へとそれぞれ排出される。なお、図示しない吹出モード切替ドアにより、空気流路IV〜VIのうち一つ又は複数の流路から選択的に空気を排出することができる。
【0031】
上記のように、エバポレータ3周辺は凝縮水の存在により常に多湿な環境にあり、空気流路Iから吸入される空気に含まれる有害微生物が繁殖し易い環境にある。殺菌機構20を備える自動車用空気調和装置100によれば、有害微生物の繁殖を予防すること、及び、ある程度有害微生物が繁殖してしまった後にも事後的に殺菌することが可能である。
【0032】
本発明の一実施形態に係る自動車用空気調和装置100が備える殺菌機構20は、水の共存下における紫外線照射によってヒドロキシルラジカルを生成する物質又はイオンが溶解した水溶液からなる殺菌用洗浄液をエバポレータ3表面に供給可能な殺菌用洗浄液供給手段11と、波長250nm以下の深紫外光をエバポレータ3表面に照射可能な深紫外光源12とを備え、エバポレータ3表面に供給された上記殺菌用洗浄液に、上記深紫外光を照射することにより、エバポレータ3の殺菌を行う。
【0033】
ここで、水の共存下における紫外線照射によってヒドロキシルラジカル(OHラジカル)を生成する物質又はイオンとしては、オゾン以外の物質であって、このような性質を有する物質又はイオンを特に制限なく用いることができる。そのような物質及びイオンの例としては、硝酸イオン、亜硝酸イオン、ウレタン化合物、セルロース誘導体及び過酸化水素などを挙げることができる。これらの中でも、取り扱いの容易さ及びOHラジカル発生効率の観点から、該物質又はイオンは、硝酸イオン、亜硝酸イオン及び過酸化水素から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンであるか又は過酸化水素であることが最も好ましい。
【0034】
前記殺菌用洗浄液中における前記物質又はイオンの濃度が高いほどOHラジカルは生成し易いが、該濃度が高すぎると折角生成したOHラジカルどうしが反応して消滅するため効率的ではなく、また溶質が析出するという問題も発生する。このような理由から前記殺菌用洗浄液中における該物質又はイオンの濃度は、0.01mM〜10Mであることが好ましく、0.05mM〜5Mであることがより好ましく、0.1mM〜1Mであることが特に好ましい。なお、ここでMは(mol/リットル)を表す。
【0035】
なお、水の共存下における紫外線照射によってヒドロキシルラジカル(OHラジカル)を生成するイオンを水溶液中に存在させるためには、該イオンの共役酸又は塩を水に溶解させればよい。溶解して硝酸イオンを与える物質としては、硝酸、及び、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸カルシウム、硝酸リチウムなどの硝酸塩が好適に使用でき、溶解して亜硝酸イオンを与える物質としては、亜硝酸、及び、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウムなどの亜硝酸塩が好適に使用できる。
【0036】
硝酸イオンは240nm以下の波長を有する紫外線の照射によって直接OHラジカルを生成する反応を起こすことが知られている(非特許文献4及び5参照)。また、一旦、亜硝酸イオンに還元されてからOHラジカルを生成し、該還元反応がエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリシン、グリコール酸などの共存によって促進されることも知られている(非特許文献6)。実際に紫外線を照射したときには恐らく両方の反応が起こるものと考えられる。
【0037】
一方、特許文献4に示されるように亜硝酸イオンは波長300〜400nmに吸収を有し、結合エネルギーの観点からは、硝酸イオンから直接OHラジカルを生成するより亜硝酸イオンからOHラジカルを生成する方が有利である。更に、エネルギーの高い(短波長の)紫外線を照射することにより、その光反応の量子効率は更に高くなると考えられる(非特許文献2及び3参照)。
【0038】
したがって、殺菌用洗浄液の溶質として硝酸イオンを用いる場合には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリシン、グリコール酸などの、硝酸イオンの還元反応を促進する物質を、硝酸イオンの量(モル又はグラムイオン)に対して0.1〜1.2倍程度の量(モル又はグラム分子)で共存させることが好ましい。
【0039】
また、過酸化水素は波長290nm以下の紫外線を吸収してOHラジカルを発生する。そして、過酸化水素が水溶性有機物や炭酸塩などの無機酸の塩と共存する場合には、これらの物質が関与する連鎖反応により、発生したOHラジカルの見かけ上の寿命が長くなる(特許文献5参照)。したがって前記殺菌用洗浄液が過酸化水素を含む場合には、該殺菌用洗浄液は更に、水溶性有機物(例えば、イソプロピルアルコールなどの低級(炭素数1〜5の)アルコール等。)及び/又は炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム等。)を、殺菌用洗浄液全量基準で1〜100質量ppm含むことが好ましい。
【0040】
水溶性有機物が関与する連鎖反応によるOHラジカルの長寿命化は、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを用いた場合にも期待することができる。したがって、洗浄液が硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含む場合にも、該洗浄液は水溶性有機物(例えば、イソプロピルアルコールなどの低級(炭素数1〜5の)アルコール等。)を、洗浄液全量基準で1〜100質量ppm含むことが好ましい。
【0041】
前記殺菌用洗浄液は、水の共存下における紫外線照射によってOHラジカルを生成する物質又は水の共存下における紫外線照射によってOHラジカルを生成するイオンを与える物質を、所定量水に溶解させることにより調製することができる。このとき、濃度の高い原液を準備し、該原液を適宜水で希釈することにより殺菌用洗浄液を調製してもよい。また、これら殺菌用洗浄液及び原液は、それ自体を商品として流通させることもできる。その場合には、該洗浄液または原液の変質等を防止することができるという観点から、該殺菌用洗浄液または原液を紫外線遮蔽性の容器内に収容密閉し、冷暗所で保存することが好ましい。但し、OHラジカルを生成する前記物質が変質し上記容器内の圧力が上昇する場合は、例えば通気孔を有する蓋により栓をする等により、上記容器の密閉を避けることが好ましい。該殺菌用洗浄液または原液を保存する容器の形態は特に限定されず、ボトルやパウチなどが採用できる。
【0042】
本発明において、前記殺菌用洗浄液においてOHラジカルを発生させるために250nm以下の波長を有する紫外線を照射する必要がある。紫外線の波長は短ければ短いほどエネルギーが高いのでOHラジカルの発生にとっては都合が良いが、210nm未満の短波長の紫外線を比較的高強度で出射することができる光源を準備することは困難である。したがって、210nm以上、240nm以下の波長を有する紫外線を照射することが好ましい。また、装置を小型化でき、メンテナンスを容易化できるという観点から、光源としては、210nm以上240nm以下の波長領域にピークを有する紫外線を出射する紫外線発光ダイオード(UV−LED)を使用することが好ましい。
【0043】
本発明の方法においては、連鎖反応によるOHラジカルの長寿命化が図られる殺菌用洗浄液を使用すると共に、エバポレータ表面への殺菌用洗浄液の供給を開始する前から前記殺菌用洗浄液に対する紫外線照射を開始することが好ましい。かかる形態によれば、紫外線照射時間を長くすることができ、前記殺菌用洗浄液に対する積算照射量を高くできるので、紫外線照射によるOHラジカルの発生をより確実に行って、エバポレータ表面におけるOHラジカル濃度を高くすることができる。エバポレータ表面への殺菌用洗浄液の供給を開始する前から紫外線照射を開始するためには、たとえば、タンクに貯留した殺菌用洗浄液を、ポンプを用いて導管(ホース)を経由して移送し、ノズルから噴霧することによりエバポレータ表面に付着させる場合には、導管内および/またはノズル内に配置された光源から、該光源の箇所を通過する殺菌用洗浄液に紫外線を照射するようにすればよい。また、導管およびノズルの外部に配置された光源と、導管および/またはノズルの内部に配置された出射部と、光源から出射部に紫外線を導く導光部(例えば光ファイバなど。)とを用いて、該出射部から殺菌用洗浄液へUVを照射することによっても、エバポレータ表面への殺菌用洗浄液の供給を開始する前から紫外線照射を開始することができる。出射部は、光ファイバ用コリメータ、レンズ拡散板、拡散レンズ又は導光板であることが好ましく、照射領域を広くすることができるという理由からレンズ拡散板、拡散レンズ又は導光板であることが特に好ましい。本明細書において、「光ファイバコリメータ」とは、光ファイバからの出射光をコリメート光(平行光)とする部材である。光ファイバコリメータとしては、例えば、光ファイバ用フェルールに非球面レンズを組み込んだコネクタタイプの部材を好適に使用できる。「レンズ拡散板」(Light Shaping Diffuser)とは、拡散フィルム、拡散フィルター又は拡散シートとも呼ばれるものであり、表面にランダムに形成される微小なレンズの作用等により、光を円形や楕円形などに拡散整形して均一な照射を可能にする部材である。また、商業的に入手可能な拡散レンズの好ましい一例としては、株式会社エンプラス社製Light Enhancer Cap(登録商標)を挙げることができる。導光板の好ましい一例としては、たとえば特開2006−237563号公報(特許文献8)に開示されている面発光デバイスを挙げることができる。
【0044】
紫外線照射に際しては、光源の出力に応じて光源とエバポレータとの距離及び照射時間を制御することにより、エバポレータ表面の少なくとも一部における積算照射量を50mJ/cm
2以上とすることが好ましく、100mJ/cm
2以上とすることが特に好ましい。
【0045】
なお、高強度の紫外線を出射できるという理由から、光源としては、特許第5591305号公報(特許文献9)に開示されているような光源を使用することが好ましい。すなわち、特許第5591305号公報(特許文献9)に開示されている光源は、紫外線を出射する棒状光源と、該棒状光源から出射された深紫外線を集光する集光装置とを有し、前記棒状光源は、円筒状または多角柱状の基体と、複数の紫外発光ダイオードとを有する棒状光源であって、該複数の紫外発光ダイオードが、各紫外発光ダイオードの光軸が前記円筒状または多角柱状の基体の中心軸を通るように前記円筒状または多角柱状の基体の側面に配置されていることにより、前記中心軸に対して放射状に紫外線を出射し、前記集光装置が、長楕円反射ミラーを有し、前記長楕円反射ミラーの焦点軸上に前記棒状光源が配置され、前記長楕円反射ミラーは、該長楕円反射ミラーの集光軸において集光された紫外線を出射するための紫外線出射用開口部を有し、前記紫外線出射用開口部に、前記集光された紫外線の指向性を高めるコリメート光学系を有する光源であり、集光により高強度の紫外線を出射することができる。該光源を紫外線光源として用いる形態によれば、瞬時に高濃度のOHラジカルを発生でき、高い洗浄効果が期待できる。該光源は、紫外線を帯状の光束として出射するので、該帯状の光束を順次ずらしながら被洗浄体表面の全面に紫外線を照射することによって、広い面積を有するエバポレータに対しても、確実な洗浄効果を得ることができる。
【0046】
紫外線照射により発生するヒドロキシラジカルは、いわゆる活性酸素と呼ばれる分子種の中でも最も酸化力が強く、脂質やタンパク質、糖質などと反応することが知られており(高柳輝夫,大坂武男(編)(1998),活性酸素,日本化学会,丸善(株)出版 参照)、オゾンでは分解不可能な難分解性有機物も処理が可能であることが知られている(山竹厚(2007),水中マイクロプラズマの安定生成とラジカル反応に関する研究,東京工業大学,博士論文 参照)。このような事実からも分かるように、OHラジカルは有害微生物が生成する代謝物をも分解することができるため、本発明によれば、エバポレータ表面に形成されたバイオフィルムを除去することも可能である。
【0047】
以下、
図2を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る自動車用空気調和装置100が備える殺菌機構20について説明する。
図2は
図1と同一の視点から見た図であり、本発明の一実施形態に係る自動車用空気調和装置100が備える殺菌機構20が作動している様子を模式的に説明する図である殺菌機構20は、亜硝酸塩を含む水溶液からなる殺菌用洗浄液をエバポレータ3表面に供給可能な殺菌用洗浄液供給手段11と、波長250nm以下、好ましくは210nm以上240nm以下の深紫外光をエバポレータ3表面に照射可能な深紫外光源12とを備える。
【0048】
殺菌用洗浄液供給手段11は、殺菌用洗浄液をエバポレータ3表面に供給可能な部材であれば特に限定されない。本形態において、殺菌用洗浄液供給手段11はエバポレータ3表面に殺菌用洗浄液を噴射するノズル11a、殺菌用洗浄液タンク7からノズル11aへと殺菌用洗浄液を送る供給管11b、及び、殺菌用洗浄液を送るための圧力を付加するポンプ11cとを有する。殺菌用洗浄液タンク7、ノズル11a、供給管11bの材質は、例えば、ポリオレフィンや塩化ビニル等の樹脂製とすることができる。
【0049】
ノズル11aからエバポレータ3表面に殺菌用洗浄液を供給する方法は、特に限定されないが、殺菌用洗浄液がエバポレータ3の表面全体に行き渡ることが好ましい。かかる観点から、ノズル11aをシャワーヘッドとし、ポンプ11cの圧力により、
図2に示すように放射状に噴射する方法や、ノズル11aにおいて超音波により殺菌用洗浄液を微細な液滴とし、噴霧する方法等を用いることが好ましい。なお、
図2に示すように、殺菌用洗浄液をエバポレータ3の少なくとも上部に供給することにより、供給された殺菌用洗浄液は重力によりエバポレータ3の下部へと滴下するため(矢印D
2参照)、エバポレータ3の表面全体に殺菌用洗浄液を行き渡らせることが可能となる。これにより限られた量の殺菌用洗浄液を有効利用でき、殺菌用洗浄液タンク7及び殺菌用洗浄液供給手段11を小型化することができる。
【0050】
本形態において、殺菌用洗浄液は、矢印D
1の流路を通ってドレンパン8の排出口9から車外へ廃棄される。
【0051】
深紫外光源12は、波長250nm以下、好ましくは210nm以上240nm以下の深紫外光をエバポレータ3表面に照射可能な光源である。深紫外光源12は、波長250nm以下の深紫外光をエバポレータ3表面に照射可能な光源であれば特に限定されないが、一つ以上の深紫外発光ダイオード(DUV−LED)を用いることが好ましい。深紫外発光ダイオードは半値幅が狭いことから波長250nm以下の深紫外光を選択的に照射し易く、長寿命で消費電力が小さいという利点を有する。深紫外光源12として、深紫外発光ダイオードを用いる場合には、例えば、基板上に深紫外発光ダイオードを、出射光がエバポレータ3に向かうように、配置すればよい。深紫外発光ダイオードは、パッケージ化またはモジュール化されていることが好ましく、平行光のような指向性の強められた光を出射するような構造、例えばコリメートレンズを有するパッケージ内に収納されていることが好ましい。
【0052】
エバポレータ3の表面に付着する殺菌用洗浄液、すなわち噴霧直前及び/又は噴霧途中の殺菌用洗浄液及び/又は噴霧によってエバポレータ3の表面に付着した殺菌用洗浄液に波長250nm以下、好ましくは210〜240nmの紫外線が照射されると、殺菌用洗浄液中でOHラジカルが発生し、OHラジカルの作用によりエバポレータ3表面の有害微生物が死滅させられ、更に有機物汚れも分解される。OHラジカルをより効率的に発生させる観点から、上記波長250nm以下、好ましくは210〜240nmの紫外線の放射照度は、エバポレータ3の表面において、1mW/cm
2以上であることが好ましく、50mW/cm
2以上であることがより好ましい。波長250nm以下、好ましくは210〜240nmの紫外線の放射照度が上記下限値以上であることにより、より多くのOHを同時に発生させることができるので、より効率的に殺菌及び有機物汚れを分解することが可能になる。放射照度の上限は特に制限されるものではないが、通常5000mW/cm
2以下である。
【0053】
深紫外光源12は、自動車のバッテリーから電力を供給されて発光し、エバポレータ3へと深紫外光を照射する。深紫外光源12から照射された光は紫外線透過窓13を通過してケース1内に進入し、エバポレータ3に照射される。
図2にケース1内における光の進行方向を白抜き矢印で示した。
図2に一点鎖線で示したように、エバポレータ3の上流側(紙面右側)全面を殺菌する観点から、深紫外光はエバポレータ3の上流側全面に照射されることが好ましい。深紫外光の照射面積がエバポレータ3の上流側全面の面積よりも狭い場合には、紫外線透過窓13のケース1内面又は外面に光拡散フィルムを配置し、照射範囲を広げてもよい。
【0054】
本発明においては、前記エバポレータ3から落下する使用済殺菌用洗浄液を受けて装置外に排出するためのドレンパン8を更に有し、当該ドレンパンの表面に前記深紫外光を照射するようにすることが好ましい。こうすることにより、ドレンパンでの有害微生物の繁殖をより確実に防止することができる。
【0055】
本発明において、殺菌機構20は、自動車の駆動エンジン又は駆動モーターの起動及び/又は停止を検知する検知手段と、該検知手段からの信号により前記殺菌機構20を所定時間稼働させる制御手段と、を更に有することが好ましい。こうすることによりエバポレータ3の殺菌がこまめに確実に行われるので、常に清浄な状態を長期にわたって保つことができる。有害微生物の繁殖は主に自動車が長時間停止している間に起こるので、停止時に前記殺菌機構を作動させるのがより好ましい。
【0056】
また、本発明においては、任意のタイミングで、殺菌機構20により、殺菌を行うことも勿論可能である。
【0057】
本発明に関する上記説明では、深紫外光源12がケース1の外部に配置されている形態の自動車用空気調和装置100を例示したが、本発明はこれに限定されず、深紫外光源はケース1の内部に設けられ、紫外線透過窓13を介さずに直接エバポレータ3に照射される形態としてもよい。
【0058】
本発明に関する上記説明では、ブロアファン2、エバポレータ3、ヒーターコア4が同一のケース2内に収められている形態の自動車用空気調和装置100を例示したが、本発明はこれに限定されず、これら部材は異なるケース内に収められていてもよい。この場合、エバポレータを収容するケースに上記例示した殺菌機構を備えさせることが可能である。
【0059】
本発明に関する上記説明では、エバポレータ3の上流側(
図1の紙面右側)側から、殺菌用洗浄液の供給及び深紫外光の照射を行う形態の自動車用空気調和装置100を例示したが、本発明はこれに限定されず、エバポレータ3の下流側(
図1の紙面左側)から、エバポレータに殺菌用洗浄液の供給及び深紫外光の照射を行う形態としてもよい。