(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面等を参照しつつ説明する。但し、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0019】
また、図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。
【0020】
なお、以下の説明において、成形体の密度及び焼結体の密度を相対密度で示した。相対密度は、理論密度及び測定された密度によって、相対密度=(測定密度/理論密度)×100(%)で表される。理論密度とは、用いた原料から算出される密度の値であり、酸化インジウムが90質量%、酸化スズが10質量%となるように原料を秤量した場合、(In
2O
3の密度(g/cm
3)×90+SnO
2の密度(g/cm
3)×10)/100として算出する。In
2O
3の密度は7.18g/cm
3、SnO
2の密度は6.95g/cm
3として計算し、理論密度は7.15(g/cm
3)と算出される。一方、測定密度とは、重量を体積で割った値である。成形体の場合は、寸法を実測して算出した体積を用いて算出する。焼結体の場合は、アルキメデス法により体積を求めて算出する。
【0021】
〈実施形態1〉
[円筒型スパッタリングターゲット100の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る円筒型スパッタリングターゲットを示す斜視図である。また、
図2は、本発明の一実施形態に係る円筒型スパッタリングターゲットを示す断面図である。
【0022】
本実施形態に係る円筒型スパッタリングターゲット100は、円筒型の基材110と、円筒型の焼結体120とを含んで構成される。基材110は、焼結体120の内側表面に接合材130を介して接合される。接合材130は、基材110と焼結体120との間に設けられた間隙を充填するように設けられる。焼結体120及び基材110は、その円筒の内側に空間が設けられた、いわゆる中空構造である。
【0023】
図2に示すように、基材110及び焼結体120は保護部材140によって覆われる。保護部材140は焼結体120の円周面122及び側面124と、基材110の焼結体120から露出された円周面112、側面114、及び開口部116と、を覆う。保護部材140によって基材110の両端の開口部116が覆われることで、基材110の内側表面側の空間150は密閉される。この密閉された空間150にはガスが充填される。
【0024】
上記の構造を換言すると、円筒型スパッタリングターゲット100は、円筒型の焼結体120と、焼結体120の内側表面に接合材130を介して接合された円筒型の基材110と、基材110の両端の開口部116を覆い、ガスが充填された基材110の内側表面側の空間150を密閉する保護部材140と、を有する。
【0025】
ここで、空間150に充填されたガスについて詳しく説明する。空間150に充填されるガスとしては、例えばアルゴン(Ar)又は窒素(N
2)を用いることができる。空間150に充填されるガスの圧力は、30kPa以上60kPa以下であることが好ましい。より好ましくは、40kPa以上50kPa以下であるとよい。
【0026】
ガスの圧力が下限値よりも低いと、空間150の圧力と外部の大気圧との差が大きくなる。したがって、開口部116に配置された保護部材140が空間150の内側に押圧され、特に基材110の側面114の内側表面側の端部において保護部材140は強く圧力を受ける。そのため、側面114の内側表面側の端部付近の保護部材140に僅かでも傷がつくと、その傷をきっかけに保護部材140が破けてしまう場合がある。一方、ガスの圧力が上限値よりも高いと、保護部材140が膨張してしまい、僅かな傷で破裂してしまう場合がある。特に、スパッタリングターゲットは航空輸送される場合がある。したがって、ガスの圧力が上限値よりも高いと輸送時のガスの体積膨張によって保護部材140が破けてしまう場合がある。
【0027】
また、空間150は水分量が少ないことが好ましい。つまり、空間150に充填されたガスの露点温度は−50℃以下であることが好ましい。より好ましくは、−80℃以下であるとよい。露点温度が上限値よりも高いと、保管環境によっては保護部材140の内側が結露してしまう場合がある。保護部材140の内側が結露すると、結露した水分によって焼結体120の表面に変質層が形成されてしまう。この変質層はスパッタリングターゲット使用時におけるアーキングの発生原因となり得る。
【0028】
[基材110]
基材110は、焼結体120の円筒の内側表面に沿うような外面形状を有することが好ましい。基材110の外径は、焼結体120の内径よりも僅かに小さく、基材110及び焼結体120を同軸に重ねたときに、基材110と焼結体120との間に間隙ができるように調整される。この間隙には、接合材130が設けられる。
【0029】
基材110は、接合材130とぬれ性がよく、接合材130との間に高い接合強度が得られる金属が好ましい。例えば、基材110を構成する材料としては、銅(Cu)又はチタン(Ti)、もしくは銅合金、チタン合金、又はステンレス(SUS)を用いることが好ましい。銅合金としては、クロム銅などの銅(Cu)を主成分とする合金を適用することができる。また、基材110としてチタン(Ti)を用いれば、軽量で剛性のある基材とすることができる。
【0030】
[焼結体120]
図1及び
図2で示すように、焼結体120は、基材110の円周面を囲むように設けられる。焼結体120は、基材110の中心軸に対して同軸または略同軸に設けられることが好ましい。このような構成により、円筒型スパッタリングターゲット100をスパッタリング装置に装着して、基材110を中心に回転させたとき、焼結体120の表面と被成膜面(試料基板)との間隔を一定に保つことができる。
【0031】
また、焼結体120は中空の円筒形状に成形される。焼結体120の相対密度は、99.0%以上99.9%以下であるとよい。好ましくは、焼結体120の相対密度は99.7%以上99.9%以下であるとよい。なお、本発明の実施形態に係るターゲット部材又は成形体の相対密度は、アルキメデス法によって評価された値である。また、焼結体120の厚さは6.0mm以上15.0mm以下とすることができる。焼結体120の厚み部分をターゲット部材として利用することができる。また、焼結体120の円筒軸方向の長さは150mm以上380mm以下とすることができる。ここで、スパッタリングを行う前(プラズマ雰囲気に曝される前、又はスパッタリングターゲット使用前)の状態において、焼結体120の表面粗さは平均面粗さ(Ra)が0.5μm未満であるとよい。
【0032】
さらに、焼結体120はスパッタリング成膜が可能な各種材料を用いて形成される。例えば、焼結体120は、セラミックスであってもよい。セラミックスとしては、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物の焼結体などを用いることができる。金属酸化物としては、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ガリウムなど典型元素に属する金属の酸化物を用いることができる。
【0033】
具体的には、酸化スズと酸化インジウムの化合物(Indium Tin Oxide:ITO)、酸化亜鉛(Zinc Oxide:ZnO)、酸化インジウムと酸化亜鉛の化合物(Indium Zinc Oxide:IZO)、酸化インジウム、酸化亜鉛及び酸化ガリウムの化合物(Indium Gallium Zinc Oxide:IGZO)から選ばれた化合物などを焼結体120として用いることができる。
【0034】
[接合材130]
接合材130は、基材110と焼結体120との間に設けられる。接合材130は、基材110と焼結体120とを接合するとともに、耐熱性と熱伝導性が良好であることが好ましい。また、スパッタリング中は真空下に置かれるため、真空中でガス放出が少ない特性を有することが好ましい。
【0035】
さらに、製造上の観点から、接合材130は、基材110と焼結体120とを接合するときに流動性を有することが好ましい。これらの特性を満足するために、接合材130としては、融点が300℃以下の低融点金属材料を用いることができる。例えば、接合材130として、インジウム(In)、スズ(Sn)などの金属、またはこれらのうちいずれか一種の元素を含む金属合金材料を用いてもよい。具体的には、インジウム又はスズの単体、インジウムとスズの合金、スズを主成分とするはんだ合金などを用いてもよい。
【0036】
[保護部材140]
保護部材140は、フィルム状の樹脂が用いられる。保護部材140の材料としては、性質の異なる複数のフィルムを積層させた積層フィルムを用いることができる。例えば、2つのポリエチレンフィルムで機能性フィルムを挟んだ積層フィルムを用いることができる。ポリエチレンフィルムは、機能性フィルムに比べて熱による融解温度が低い材料を用いることができる。ポリエチレンフィルムが機能性フィルムを挟む構成によって、ヒートシールの際にポリエチレンフィルム同士が確実に融解するため、確実に保護部材140の密封を行うことができる。機能性フィルムは、酸素透過度および透湿度の少なくともいずれか1つがポリエチレンフィルムよりも低いことが好ましい。また、機能性フィルムは、突き刺し強度および引張強度の少なくともいずれか1つがポリエチレンフィルムよりも高いことが好ましい。
【0037】
具体的には、保護部材140の機能性フィルムとして出光ユニテック製ユニロン(登録商標)を用いることができ、好ましくは旭化成製サランラップ(登録商標)を用いることができ、さらに好ましくはクラレ製エバール(登録商標)フィルムを用いることができる。ここで、ユニロン、サランラップ、およびエバールフィルムの物性は下記の通りである。
【0038】
[ユニロン]
・酸素透過度(20℃ 90%RH):37cc/d・atm
・透湿度(40℃ 90%RH):90g/m
2・day
・突き刺し強度:16.0kgf(10.9×10
−3MPa)
・引張強度:260MPa
【0039】
[サランラップ]
・酸素透過度(20℃ 90%RH):60cc/d・atm
・透湿度(40℃ 90%RH):12g/m
2・day
・引張強度:470MPa
【0040】
[エバールフィルム]
・酸素透過度(20℃ 90%RH):30cc/d・atm
・透湿度(40℃ 90%RH):5.3g/m
2・day
・突き刺し強度:11.1kgf(10.9×10
−3MPa)
・引張強度:40MPa
【0041】
なお、機能性フィルムは上記のフィルムに限定されず、目的に応じて多様なフィルムを用いることができる。
【0042】
なお、上記の具体例は一例であり、本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、ターゲット部材として各種スパッタリング材料を用いることができる。
【0043】
基材110に対して焼結体120を装着する際、焼結体120の中空部分に基材110が挿入され、その後、接合材130によって両者は接合される。すなわち、焼結体120の内径(中空部分の径)よりも基材110の外径の方が小さく、基材110及び焼結体120は所定の間隔をおいて配置され、この間隙を充填するように接合材130が設けられる。焼結体120と基材110とを安定的に保持するために、その間隙において接合材130に隙間がないように設けられる。
【0044】
[スパッタリングターゲットの製造方法]
次に、本実施形態に係る円筒型スパッタリングターゲット100の製造方法について詳細に説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法を示すプロセスフローである。
【0045】
本実施形態では、酸化インジウムスズ(ITO)焼結体を焼結体120とした例を示すが、焼結体120の材料はITOに限定されず、IZO、IGZOその他の酸化金属化合物を用いることもできる。
【0046】
まず、焼結体120を構成する原材料を準備する。本実施形態では、酸化インジウムの粉末と酸化スズの粉末を準備する(S301、S302)。これらの原料の純度は、通常2N(99質量%)以上、好ましくは3N(99.9質量%)以上、さらに好ましくは4N(99.99質量%)以上であるとよい。純度が2Nより低いと焼結体120に不純物が多く含まれてしまうため、所望の物性を得られなくなる(例えば、形成した薄膜の透過率の減少、抵抗値の増加、アーキングに伴うパーティクルの発生)という問題が生じ得る。
【0047】
次に、これら原材料の粉末を粉砕し混合する(S303)。原材料の粉末の粉砕混合処理は、ジルコニア、アルミナ、ナイロン樹脂等のボールやビーズ(いわゆるメディア)を用いた乾式法を使用したり、前記ボールやビーズを用いたメディア撹拌式ミル、メディアレスの容器回転式ミル、機械撹拌式ミル、気流式ミルなどの湿式法を使用したりすることができる。ここで、一般的に湿式法は、乾式法に比べて粉砕及び混合能力に優れているため、湿式法を用いて混合を行うことが好ましい。
【0048】
原材料の組成については特に制限はないが、目的とする焼結体120の組成比に応じて適宜調整することが望ましい。
【0049】
次に、原材料の粉末のスラリーを乾燥、造粒する(S303)。このとき、急速乾燥造粒を用いてスラリーを急速乾燥してもよい。急速乾燥造粒は、スプレードライヤを使用し、熱風の温度や風量を調整して行えばよい。
【0050】
次に、上述した混合及び造粒して得られた混合物(仮焼成を設けた場合には仮焼成されたもの)を加圧成形して円筒型の成形体を形成する(S304)。この工程によって、目的とする焼結体120に好適な形状に成形する。成形処理としては、例えば、金型成形、鋳込み成形、射出成形等が挙げられるが、円筒型のように複雑な形状を得るためには、冷間等方圧加工法(Cold Isostatic Pressing:CIP)等で成形することが好ましい。CIPによる成形の圧力は、好ましくは100MPa以上200MPa以下であるとよい。上記のように成形の圧力を調整することによって、54.5%以上58.0%以下の相対密度を有する成形体を形成することができる。成形体の相対密度を上記の範囲にすることで、その後の焼結によって得られる焼結体120の相対密度を99.7%以上99.9%以下にすることができる。
【0051】
次に、成形工程で得られた円筒型の成形体を焼結する(S305)。焼結には電気炉を使用する。焼結条件は焼結体の組成によって適宜選択することができる。例えばSnO
2を10wt.%含有するITOであれば、酸素ガス雰囲気中において、1400℃以上1600℃以下の温度下に10時間以上30時間以下置くことにより焼結することができる。焼結温度が下限よりも低い場合、焼結体120の相対密度が低下してしまう。一方、1600℃を超えると電気炉や炉材へのダメージが大きく頻繁にメンテナンスが必要となるため、作業効率が著しく低下する。また、焼結時間が下限よりも短いと焼結体120の相対密度が低下してしまう。また、焼結時の圧力は大気圧であってもよく、又は加圧雰囲気であってもよい。
【0052】
次に、形成された円筒型の焼結体を、平面研削盤、円筒研削盤、旋盤、切断機、マシニングセンタ等の機械加工機を用いて、円筒型の所望の形状に機械加工する(S306)。ここで行う機械加工は、円筒型の焼結体を所望の形状、表面粗さとなるように加工する工程であり、最終的にこの工程を経て焼結体120が形成される。
【0053】
次に、機械加工された焼結体120を純水中で超音波洗浄処理することで、焼結体120の表面に付着した機械加工の研削屑を除去する。続いて、
焼結体120を接合材130を介して基材110に接合(ボンディング)する(S307)。例えば、接合材130としてインジウムを使用する場合、焼結体120と基材110との間隙に溶融させたインジウムを注入する。このようにして、円筒型スパッタリングターゲット100を得ることができる。
【0054】
次に、上記の円筒型スパッタリングターゲット100を保護部材140を用いて梱包する。少なくとも焼結体120の円周面122及び側面124、並びに基材110の開口部116を覆うように保護部材140を形成する。保護部材140によって開口部116を覆うことで、空間150を密閉する。ここで、空間150を保護部材140で密閉する前に基材110の空間150に上記のガスを充填する。空間150へのガスの充填方法については後述する。
【0055】
そして、上記のようにして保護部材140によって梱包された円筒型スパッタリングターゲット100を保管する(S308)。
【0056】
[空間150へのガスの充填方法]
ここで、空間150へのガスの充填方法について詳細に説明する。
図4は、本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法において、ガスを充填される方法を示すプロセスフローである。
【0057】
まず、空間150に存在する気体を所望のガスに置換するために、空間150の気体を排気し、排気された空間150に不活性ガスを導入する。そして、空間150に導入された不活性ガスを排気した後に上記のガスを空間150に充填する(S401、S402)。上記の「排気、不活性ガス導入、排気」の工程は排気を複数回繰り返すことからサイクル排気という。なお、空間150の気体の排気及び不活性ガスの導入を複数回繰り返してもよい。このようにすることで、空間150に充填されるガスの純度を、供給されるガスの純度に近づけることができる。その結果、ゴミ及び水分が少ない良質なガスを空間150に充填することができる。そして、ガスが充填された状態で保護部材140によって円筒型スパッタリングターゲット100を梱包する(S403)。
【0058】
サイクル排気は、円筒型スパッタリングターゲット100の一方の開口部116を保護部材140で覆った状態で、他方の開口部116から排気またはガス導入する。具体的には、袋状の保護部材140の底部によって上記一方の開口部116が覆われる。保護部材140は、保護部材140の開口端側(他方の開口部116側)において、保護部材140の内側に向けて配管が挿入された状態でヒートシーラーによって挟み込まれる。上記の排気またはガス導入は当該配管を介して行われる。例えば、排気およびガス導入を3回繰り返した後に、空間150に所望のガスが導入される。配管がヒートシーラーから抜かれた後に、ヒートシーラーによって保護部材140の開口端が閉じられる。このようにして、空間150は保護部材140によって密閉される。
【0059】
以上のように、本実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法によると、基材110の空間150にガスが充填されることで、開口部116に配置された保護部材140の空間150の内側への押圧が抑制されるため、保護部材140の破れを抑制することができる。したがって、保管中に円筒型スパッタリングターゲット100にゴミや水分が付着することを抑制することができる。その結果、スパッタリング中のアーキング発生を抑制することができるスパッタリングターゲットを提供することができる。
【0060】
〈実施形態2〉
図5を用いて、本発明の実施形態2に係る円筒型スパッタリングターゲットについて説明する。
図5は、本発明の一実施形態に係る円筒型スパッタリングターゲットを示す断面図である。実施形態2の円筒型スパッタリングターゲット200は、円筒型の基材110に対して複数の円筒型の焼結体120a、120bが接合される点において実施形態1の円筒型スパッタリングターゲット100とは相違する。以下の説明において、実施形態1の円筒型スパッタリングターゲット100と同様の構造については説明を省略し、相違点について説明する。
【0061】
図5に示すように、保護部材140は焼結体120aの円周面122a及び側面124aと、焼結体120bの円周面122b及び側面124bと、基材110の焼結体120から露出された円周面112、側面114、及び開口部116と、を覆う。ここで、焼結体120aと焼結体120bとの間の領域には、空間160が設けられる。空間160は、これらの焼結体から露出された基材110の円周面112c、保護部材140、側面124a、及び側面124bによって囲まれた領域である。空間160には、空間150と同様のガスが充填される。
【実施例】
【0062】
[実施例1]
本発明者らは、
図3に示すプロセスフローにおける保護部材形成の工程(S308)において、異なる4つの方法で円筒型スパッタリングターゲットを梱包して保管し、保護部材140の破けやすさを調査した。調査に用いたターゲットサンプルは以下の通りである。
【0063】
[ターゲット形状(全ターゲットサンプルに共通)]
・基材110の円筒軸方向の長さ:2525mm
・基材110の円筒外径:153mm
・基材110の円筒内径:135mm
・焼結体120の円筒軸方向の長さ:2619mm
・焼結体120の円筒外径:133mm
・焼結体120の円筒内径:125mm
【0064】
[保護部材140の梱包条件]
・実施例1:空間150にArを充填して保護部材140で梱包
・実施例2:空間150にN
2を充填して保護部材140で梱包
・比較例1:空間150を減圧(1Pa以下)にして保護部材140で梱包
・比較例2:空間150に湿度調整を行っていない大気を充填して保護部材140で梱包
なお、実施例1および実施例2のガス充填の前に、上記の排気および不活性ガス導入をそれぞれ3回繰り返した。上記のArおよびN
2の露点温度は約−50℃であり、大気の露点温度は約10℃であった。また、空間150に充填するAr、N
2、および大気の圧力は、50kPaである。
【0065】
[調査結果]
上記の条件で梱包したターゲットサンプルに対して保護部材140の破れの有無を調査した。上記の各サンプルについて保護部材140の破れが発生したサンプル個数は下記の通りである。
・実施例1:保護部材140が破けたサンプル数=1/100個
・実施例2:保護部材140が破けたサンプル数=2/100個
・比較例1:保護部材140が破けたサンプル数=45/100個
・比較例2:保護部材140が破けたサンプル数=3/100個
【0066】
以上のように、空間150に少なくとも50kPaの圧力のガスを充填して保護部材140で梱包したサンプルは、保護部材140が破けにくいことが判明した。
【0067】
[実施例2]
次に、各梱包方法と初期累積アーキング発生回数との相関関係を調査した結果について説明する。実施例2で用いたサンプルは実施例1のサンプルと同じである。初期累積アーキング発生回数とは、スパッタリングターゲットをスパッタリング装置に装着して真空引きを行い、当該スパッタリング装置が製造ラインにおける稼働状態に到達するまでのプレスパッタリングの間に発生したアーキング発生回数の累積数である。
【0068】
ここで、上記のプレスパッタリングの間に発生するアーキングについて詳細に説明する。スパッタリングターゲットをスパッタリング装置に装着するためには、スパッタリングを行う真空チャンバを大気開放する必要がある。真空チャンバが大気開放されると、真空チャンバ内壁に大気中の水分、ガス及び有機物質が付着する。また、同様にスパッタリングターゲット表面にも大気中の水分、ガス及び有機物質が付着する。上記のように、真空チャンバ及びスパッタリングターゲット表面に水分、ガス及び有機物質が付着した状態でプレスパッタリングを行うと、プラズマ中から放出された電子が上記の付着物に帯電し、その帯電量が限界に達することでアーキングを引き起こす。したがって、プレスパッタリング中は稼働状態に比べてアーキングが多く発生する。
【0069】
このプレスパッタリング中のアーキングはプレスパッタリングを継続すると徐々に減少し、やがてアーキングの発生頻度は一定の範囲で安定する。そして、アーキングの発生頻度が安定したところでプレスパッタリングを終了する。つまり、上記の初期累積アーキング発生回数は、プレスパッタリング中に発生したアーキングの発生数の累積数である。
【0070】
本実施例では、保護部材による円筒型スパッタリングターゲットの梱包方法と初期累積アーキング発生回数及び成膜後の薄膜中のパーティクル発生数との相関関係について説明する。
【0071】
初期累積アーキング発生回数の評価を行ったスパッタリング条件について説明する。本実施例における初期累積アーキング発生回数の評価を行ったターゲット及びスパッタリング条件は以下の通りである。
(評価ターゲット)
ターゲット材質:ITO(SnO
2=10%)
(スパッタリング条件)
スパッタリングガス:Ar
スパッタリング圧力:0.6Pa
スパッタリングガス流量:300sccm
スパッタリング電力:4.0W/cm
2
【0072】
[調査結果]
実施例1に記載した条件で梱包し、保管したターゲットサンプルを用いた初期累積アーキング発生回数は下記の通りである。なお、アーキング発生回数は、積算電力量が30Whr/cm
2になるまでに発生した累積アーキング回数である。なお、比較例1は、保管後に保護部材140に破れが確認されたサンプルを用いた結果である。
・実施例1:226個
・実施例2:285個
・比較例1:1,049個
・比較例2:1,124個
なお、比較例2では、ターゲット表面に3mm程度のアーキング痕が点在していた。これは、保管中に付着した微細な水滴起因のアーキングによるものと推測される。
【0073】
以上のように、空間150に充填するガスとして、少なくとも露点温度が−50℃のガスを用いることで、水滴起因のアーキングを抑制することができることが判明した。
【0074】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。また、各実施形態の表示装置を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略もしくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0075】
また、上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、又は、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【解決手段】円筒型スパッタリングターゲットは、円筒型の焼結体と、焼結体の内側に接合材を介して接合された円筒型の基材と、基材の両端の開口部を覆い、ガスが充填された基材の中空部を密閉する保護部材と、を有する。また、円筒型スパッタリングターゲットの梱包方法は、円筒型の基材の中空部にガスを充填し、基材の両端の開口部を覆い、中空部を密閉するように保護部材を形成する。