【実施例】
【0052】
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0053】
(1)LiMn
2O
4(スピネル)と導電性カーボンとの複合材料
a.複合材料の製造
実施例1:
特開2007−160151号公報の
図1に示されている、外筒と内筒の同心円筒からなり、内筒の側面に貫通孔が設けられ、外筒の開口部にせき板が配置されている反応器の内筒に、2.45gのMn(CH
3COO)
2・4H
2O及び0.225gのケッチェンブラック(粒径約40nm)を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させ、Mn(CH
3COO)
2・4H
2Oを溶解させると共にケッチェンブラックを分散させた。一旦内筒の旋回を停止し、内筒内に0.6gのLiOH・H
2Oを水に溶解させた液を添加した。液のpHは10であった。次に、再び70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。この間に、外筒の内壁と内筒の外壁との間でMn水酸化物の核が形成され、この核が成長してケッチェンブラックの表面に担持された。内筒の旋回停止後に、ケッチェンブラックをろ過して回収し、空気中100℃で12時間乾燥した。ろ液をICP分光分析により確認したところ、Mn(CH
3COO)
2・4H
2O原料に含まれるMnの95%以上が担持されていることがわかった。次いで、乾燥後の粉末と、Mn:Liが2:1になる量のLiOH・H
2Oを含む水溶液を混合して混練し、乾燥後に、空気中280℃で1時間加熱処理し、複合材料を得た。
【0054】
実施例2
空気中280℃での1時間の加熱処理の代わりに、空気中300℃で1時間加熱処理したことを除いて、実施例1の手順を繰り返した。
【0055】
実施例3
空気中280℃での1時間の加熱処理の代わりに、空気中350℃で1時間加熱処理したことを除いて、実施例1の手順を繰り返した。
【0056】
実施例4
0.225gのケッチェンブラックの代わりに、質量比でケッチェンブラック(粒径約40nm):カーボンナノチューブ(直径約20nm、長さ数百nm)=3:1に混合したカーボン混合物0.225gを使用したことを除いて、実施例2の手順を繰り返した。
【0057】
実施例5
0.225gのケッチェンブラックの代わりに、質量比でケッチェンブラック(粒径約40nm):カーボンナノチューブ(直径約20nm、長さ数百nm)=1:1に混合したカーボン混合物0.225gを使用したことを除いて、実施例2の手順を繰り返した。
【0058】
実施例6
実施例2の複合材料に、導電剤としてのアセチレンブラックを複合材料の5質量%の量で混合した。
【0059】
比較例1
実施例1において用いた反応器の内筒に、2.45gのMn(CH
3COO)
2・4H
2O、0.33gのCH
3COOLi(Mn:Li=2:1)及び0.225gの質量比でケッチェンブラック(粒径約40nm):カーボンナノチューブ(直径約20nm、長さ数百nm)=1:1に混合したカーボン混合物を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。内筒の旋回停止後、液体部分を採取してICP分光分析により確認したところ、Mn(CH
3COO)
2・4H
2O原料に含まれるMnの約30%しかカーボン混合物に担持されていなかった。そのため、反応器の内容物の全てを回収し、空気中100℃で蒸発乾固させた。次いで、空気中300℃で1時間加熱処理し、複合材料を得た。
【0060】
図1に、担持工程後熱処理工程前の材料のSEM写真を示す。(a)は比較例1における材料のSEM写真であり、(b)は実施例5における材料のSEM写真である。(b)のSEM写真より、実施例5では、水酸化物の微粒子が担持されたカーボン混合物が、1000nm以下の直径を有する比較的均一な大きさの凝集体を形成しているのがわかる。これに対し、(a)のSEM写真より、比較例1では、部分的に凝集体が認められるものの、ほとんどの化合物が無定形であり、この無定形の化合物がカーボン混合物を覆っているのがわかる。
【0061】
図2に、実施例1〜3の複合材料のX線粉末回折図を示す。いずれの温度においてもLiMn
2O
4の結晶が認められた。特に300℃以上の加熱処理を行った実施例2,3の複合材料におけるLiMn
2O
4は高い結晶性を示した。
図3には、実施例1〜3の複合材料について、TG測定を空気雰囲気中で昇温速度1℃/分の条件で行い、重量減少量を炭素分として評価した結果を示す。350℃で熱処理を行った実施例3の複合材料では、もはや重量損失がほとんど認められず、ケッチェンブラックが加熱処理の過程で焼失していると判断された。したがって、空気中300℃での加熱処理が特に好ましいことがわかった。
【0062】
図4に、熱処理工程後の複合材料のSEM写真を示す。(a)は比較例1の複合材料のSEM写真であり、(b)は実施例5の複合材料のSEM写真である。(b)のSEM写真より、実施例5では、均一な大きさの粒子が形成されていることがわかる。
図5は、実施例5の複合材料のTEM写真であるが、直径10〜40nmのLiMn
2O
4の一次粒子が分散性良く形成されていることがわかる。これに対し、
図4の(a)のSEM写真より、比較例1の複合材料には、様々な大きさの粒が含まれており、大きな凝集体も含まれており、LiMn
2O
4の分散性が不十分であることがわかる。この差は、
図1に示した、担持工程後熱処理工程前の材料における導電性カーボン粉末上の化合物の形態の差を反映していると考えられる。
【0063】
b.半電池として評価
実施例2,4〜6及び比較例1の複合材料にポリフッ化ビニリデンを全体の10質量%加えて成形したものを正極とし、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとした半電池を作成した。得られた半電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。この評価は半電池としての評価であるが、負極を用いた全電池においても同様の効果が期待できる。
【0064】
図6は、実施例2、実施例6及び比較例1の複合材料を用いた半電池についての、レートと放電容量との関係を示した図であり、
図7は、実施例2,4,5及び比較例1の複合材料を用いた半電池についての、レートと放電容量との関係を示した図である。
【0065】
図6から把握されるように、LiMn
2O
4の分散性が不十分である比較例1の複合材料を用いる場合に比較して、実施例2の複合材料を用いることにより、半電池の放電容量及びレート特性を向上させることができた。また、実施例2の複合材料に導電剤を混合することにより(実施例6)、半電池の放電容量を向上させることができ、レートの増加につれてなだらかな容量の低下を示す、レート特性の良好な半電池を得ることができた。また、
図7から把握されるように、実施例2の複合材料のケッチェンブラックの一部をカーボンナノチューブに変更する(実施例4,5)ことにより、複合材料に導電剤を混入しなくても、半電池の放電容量及びレート特性を大幅に向上させることができた。これは、カーボンナノチューブの高い導電性に起因していると考えられる。これに対し、LiMn
2O
4の分散性が不十分である比較例1の複合材料を用いた半電池では、複合材料中にカーボンナノチューブが含まれているにもかかわらず、容量が著しく小さく、また、レートの増加につれて容量が急速に低下した。実施例5と比較例1とは、いずれも、ケッチェンブラック:カーボンナノチューブ=1:1に混合したカーボン混合物を複合材料の製造に用いているが、実施例5の複合材料を用いた半電池の放電容量及びレート特性と、比較例1の複合材料を用いた半電池の放電容量及びレート特性と、の差は、
図4,5に示した、複合材料中のLiMn
2O
4の分散性の差を反映したものであると考えられる。
【0066】
(2)0.7Li
2MnO
3・0.3LiNi
0.5Mn
0.5O
2と導電性カーボンとの複合材料
a.複合材料の製造
実施例7:
実施例1において用いた反応器の内筒に、1.54gのMn(CH
3COO)
2・4H
2O、0.274gのNi(CH
3COO)
2及び0.21gの質量比でケッチェンブラック(粒径約40nm):カーボンナノチューブ(直径約20nm、長さ数百nm)=1:1に混合したカーボン混合物を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させ、Mn(CH
3COO)
2・4H
2O及びNi(CH
3COO)
2を溶解させると共にカーボン混合物を分散させた。一旦内筒の旋回を停止し、内筒内に0.6gのLiOH・H
2Oを水に溶解させた液を添加した。液のpHは10であった。次に、再び70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。この間に、外筒の内壁と内筒の外壁との間でMn水酸化物及びNi水酸化物の核が形成され、この核が成長してカーボン混合物の表面に担持された。内筒の旋回停止後に、カーボン混合物をろ過して回収し、空気中100℃で12時間乾燥した。ろ液をICP分光分析により確認したところ、Mn(CH
3COO)
2・4H
2O原料及びNi(CH
3COO)
2原料に含まれるMn及びNiの95%以上が担持されていることがわかった。次いで、乾燥後の粉末にMn:Liが1:2になる量のLiOH・H
2Oの水溶液を混合して混練し、乾燥後に空気中250℃で1時間加熱処理した。さらに、オートクレーブ中に加熱処理後の粉末と2mol/LのLiOH水溶液とを導入し、飽和水蒸気中200℃で12時間水熱処理することにより、複合材料を得た。
【0067】
比較例2
実施例1において用いた反応器の内筒に、1.54gのMn(CH
3COO)
2・4H
2O、0.274gのNi(CH
3COO)
2、0.78gのCH
3COOLi(Mn:Li=1:2)及び0.21gの質量比でケッチェンブラック(粒径約40nm):カーボンナノチューブ(直径約20nm、長さ数百nm)=1:1に混合したカーボン混合物を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。内筒の旋回停止後、液体部分を採取してICP分光分析により確認したところ、Mn(CH
3COO)
2・4H
2O原料及びNi(CH
3COO)
2原料の約30%のMn及びNiしかカーボン混合物に担持されていなかった。そのため、反応器の内容物の全てを回収し、空気中100℃で蒸発乾固させ、次いで、空気中250℃で1時間加熱処理し、複合材料を得た。
【0068】
図8は、実施例7と比較例2の複合材料についてのTEM写真である。実施例7の複合材料には、粒径が約20nmの均一な結晶が含まれていることがわかる。これに対し、比較例2の複合材料には、粒径5nm以下の結晶や長さ100nm程度の大きな結晶も含まれており、結晶の大きさがふぞろいであった。これは、担持工程において、実施例7では、水酸化物の微粒子がカーボン混合物に分散性良く担持されるが、比較例2では、ふぞろいな大きさの凝集体と無定形の化合物がカーボン混合物を覆っている材料しか得られないことを反映したものであると考えられる。すなわち、実施例7では、加熱処理及び水熱処理において、均一な反応が進行して均一な大きさを有する複合酸化物のナノ粒子が分散性良く形成されるものの、比較例2では、熱処理工程において、不均一な反応が進行してふぞろいな大きさの複合酸化物が形成されるものと考えられる。
【0069】
b.半電池として評価
実施例7及び比較例2の複合材料にポリフッ化ビニリデンを全体の10質量%加えて成形したものを正極とし、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとした半電池を作成した。得られた半電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。この評価は半電池としての評価であるが、負極を用いた全電池においても同様の効果が期待できる。
【0070】
図9は、実施例7と比較例2の複合材料を用いた半電池についての、レートと放電容量との関係を示した図である。比較例2の複合材料を用いた半電池は、実施例7の複合材料を用いた半電池に比較して、著しく小さい容量を示した上に、レートの増加につれて容量が大きく低下し、30Cを超える領域ではほとんど容量を示さなかった。これに対し、実施例7の複合材料を用いた半電池は、レート特性が極めて良好であり、レート100Cでも50mAhg
−1を超える容量を有していた。
【0071】
(3)Mn
3O
4と導電性カーボンとの複合材料
実施例8:
実施例1において用いた反応器の内筒に、2.41gのMn(CH
3COO)
2・4H
2O及び0.5gのケッチェンブラック(粒径約40nm)を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させ、Mn(CH
3COO)
2・4H
2Oを溶解させると共にケッチェンブラックを分散させた。一旦内筒の旋回を停止し、内筒内に0.3NのNaOH水溶液を添加した。液のpHは10.5であった。次に、再び70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。この間に、外筒の内壁と内筒の外壁との間でMn水酸化物の核が形成され、この核が成長してケッチェンブラックの表面に担持された。内筒の旋回停止後に、ケッチェンブラックをろ過して回収し、空気中100℃で12時間乾燥した。さらに、空気中130℃で16時間加熱処理し、複合材料を得た。
【0072】
比較例3
実施例1において用いた反応器の内筒に、2.41gのMn(CH
3COO)
2・4H
2O及び0.5gのケッチェンブラック(粒径約40nm)を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。ケッチェンブラックをろ過して回収し、乾燥した後、空気中130℃で16時間加熱処理し、複合材料を得た。
【0073】
図10には、実施例8と比較例3の複合材料についてのTG−DTA測定を空気雰囲気中で昇温速度1℃/分の条件で行った結果を示す。また、
図11には、実施例8の複合材料のX線粉末回折図を示す。
図11から把握されるように、実施例8の複合材料中にはMn
3O
4が生成していた。
図10より、比較例3の複合材料については約90%の重量損失が認められ、実施例8の複合材料については約40%の重量損失が認められたことがわかる。この重量損失は、ケッチェンブラックの焼失によるものである。比較例3では、実施例8と同じ量のMn(CH
3COO)
2・4H
2Oを使用したにもかかわらず、ほとんどのMnがケッチェンブラックに担持されなかったことがわかる。これに対し、実施例8では、Mn(CH
3COO)
2・4H
2O中のMnのほとんどがケッチェンブラックに担持されていた。
【0074】
実施例8の複合材料にポリフッ化ビニリデンを全体の10質量%加えて成形したものを正極とし、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとした半電池を作成した。得られた半電池について、充放電特性を評価した。その結果を
図12に示す。Li/Li
+に対して0〜2.5Vの範囲で約800mAhg
−1の容量が認められ、リチウムイオン二次電池における負極のために好適であることがわかった。