特許第6178554号(P6178554)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6178554金属酸化物と導電性カーボンとの複合材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178554
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】金属酸化物と導電性カーボンとの複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20170731BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20170731BHJP
   H01M 4/50 20100101ALI20170731BHJP
   H01M 4/52 20100101ALI20170731BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170731BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20170731BHJP
【FI】
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/50
   H01M4/52
   H01M4/36 C
   H01M4/62 Z
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-193592(P2012-193592)
(22)【出願日】2012年9月3日
(65)【公開番号】特開2014-49395(P2014-49395A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504358517
【氏名又は名称】有限会社ケー・アンド・ダブル
(74)【代理人】
【識別番号】100115509
【弁理士】
【氏名又は名称】佐竹 和子
(72)【発明者】
【氏名】直井 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】直井 和子
(72)【発明者】
【氏名】久保田 智志
(72)【発明者】
【氏名】米倉 大介
(72)【発明者】
【氏名】石本 修一
(72)【発明者】
【氏名】玉光 賢次
【審査官】 小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−228062(JP,A)
【文献】 特開2009−044009(JP,A)
【文献】 特開2009−004371(JP,A)
【文献】 特表2012−521639(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/147766(WO,A1)
【文献】 特開2013−211114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/50
H01M 4/52
H01M 4/36
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、Mn、Fe、Co及びNiから成る群から選択された遷移金属を含む少なくとも一種の水溶性塩と、導電性カーボン粉末と、アルカリ金属の水酸化物、酸化アルカリ、アミン及びアンモニアから成る群から選択された少なくとも一種の化合物の水溶液と、を混合することによって得られた、9〜11の範囲のpHを有する反応液を、旋回可能な反応器内に導入する調製工程、
前記反応器を旋回させて前記反応液にずり応力と遠心力とを加えることにより、前記遷移金属の水酸化物の核を生成させ、この生成した遷移金属の水酸化物の核と前記導電性カーボン粉末とを分散させると同時に前記導電性カーボン粉末に前記遷移金属の水酸化物を担持させる担持工程、及び、
前記遷移金属の水酸化物を担持させた導電性カーボン粉末を加熱処理することにより、前記導電性カーボン粉末に担持された前記遷移金属の水酸化物を酸化物のナノ粒子に転化する熱処理工程
を含む、金属酸化物と導電性カーボンとの複合材料の製造方法。
【請求項2】
水と、Mn、Fe、Co及びNiから成る群から選択された遷移金属を含む少なくとも一種の水溶性塩と、導電性カーボン粉末と、アルカリ金属の水酸化物、酸化アルカリ、アミン及びアンモニアから成る群から選択された少なくとも一種の化合物の水溶液と、を混合することによって得られた、9〜11の範囲のpHを有する反応液を、旋回可能な反応器内に導入する調製工程、
前記反応器を旋回させて前記反応液にずり応力と遠心力とを加えることにより、前記遷移金属の水酸化物の核を生成させ、この生成した遷移金属の水酸化物の核と前記導電性カーボン粉末とを分散させると同時に前記導電性カーボン粉末に前記遷移金属の水酸化物を担持させる担持工程、及び、
前記遷移金属の水酸化物を担持させた導電性カーボン粉末と、周期表の1族及び2族に属する元素から成る群から選択された典型金属を含む少なくとも一種の化合物と、を混合して加熱処理することにより、前記導電性カーボン粉末に担持された前記遷移金属の水酸化物と前記典型金属の化合物とを反応させて、複合酸化物のナノ粒子に転化する熱処理工程
を含む、金属酸化物と導電性カーボンとの複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記反応液が、水に前記導電性カーボン粉末と前記遷移金属の水溶性塩とを添加して該水溶性塩を溶解させた液と、水にアルカリ金属の水酸化物を溶解させた液と、を混合することにより得られた液である、請求項1又は2に記載の金属酸化物と導電性カーボンとの複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記担持工程において前記反応液に加えられる遠心力が1500kgms−2以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属酸化物と導電性カーボンとの複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記反応器が外筒と内筒の同心円筒からなり、内筒の側面に貫通孔が設けられ、外筒の開口部にせき板が配置されており、
前記担持工程において、内筒の旋回による遠心力によって、内筒内の前記反応液を前記貫通孔を通じて外筒に移動させ、内筒外壁面と外筒内壁面の間で前記遷移金属の水酸化物の核を生成させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属酸化物と導電性カーボンとの複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記反応器の内筒外壁面と外筒内壁面との間隔が5mm以下である、請求項5に記載の金属酸化物と導電性カーボンとの複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理工程における加熱処理を酸素含有雰囲気中で200〜300℃の温度で行う、請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属酸化物と導電性カーボンとの複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記導電性カーボン粉末の少なくとも一部にカーボンナノチューブが含まれている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属酸化物と導電性カーボンとの複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記典型金属の化合物がリチウム化合物であり、前記複合酸化物のナノ粒子が、層状岩塩型LiMO、層状LiMnO−LiMO固溶体、又はスピネル型LiM(式中のMは、Mn、Fe、Co、Ni又はこれらの組み合わせを意味する)のナノ粒子である、請求項2に記載の金属酸化物と導電性カーボンとの複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記典型金属の化合物が水酸化リチウムであり、前記複合酸化物のナノ粒子が、層状岩塩型LiMO、層状LiMnO−LiMO固溶体(式中のMは、Mn、Fe、Co、Ni又はこれらの組み合わせを意味する)であり、前記熱処理工程において、酸素含有雰囲気中での200〜300℃の温度での加熱処理に続いて水熱処理を行う、請求項2に記載の金属酸化物と導電性カーボンとの複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fe、Ni、Co、Mnのいずれかを含む金属酸化物のナノ粒子と導電性カーボン粉末との複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物と導電性カーボンとを含む複合材料は、燃料電池、二次電池、電気化学キャパシタ、帯電防止材料等のために広く応用されている。特に、Mn、Ni、Co、Fe等の遷移金属とLi、Mg等の周期表の1族又は2族に属する典型金属との複合酸化物は、リチウムイオン二次電池、マグネシウムイオン二次電池等の二次電池の正極活物質として期待されており、これの複合酸化物と導電性カーボンとの複合材料が頻繁に検討されてきた。
【0003】
ところで、これらの複合材料は一般に、金属酸化物粒子と導電性カーボン粉末とを混合する方法、或いは、金属酸化物の生成工程において導電性カーボン粉末に生成物を担持させる方法、により製造されている。
【0004】
例えば、特許文献1(特開平2−109260号公報)には、硝酸リチウム、水酸化リチウム等のリチウム源を水に溶解させ、マンガン源としての硝酸マンガンを添加した後、加熱処理を施すことにより得られたLiMnを、導電剤としてのアセチレンブラック等と混合して加圧成形した、リチウムイオン二次電池の正極が開示されている。また、特許文献2(特開2005−63677号公報)には、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化ニッケルのような金属酸化物の粉末と導電性カーボンブラック粉末のような導電剤とを混合し、得られた混合物を導電性多孔質基材上に塗布することにより製造した、燃料電池の電極触媒が開示されている。
【0005】
金属酸化物の生成工程において導電性カーボン粉末に生成物を担持させる方法として、出願人は、特許文献3(特開2007−160151号公報)において、旋回する反応器内で反応物にずり応力と遠心力を加えて化学反応を進行させる反応方法を提案している。この文献には、ずり応力と遠心力を加えて加速化したゾルゲル反応により導電性カーボン粉末上に酸化チタン、酸化ルテニウム等のナノ粒子を高分散担持させた複合材料が、電池や電気化学キャパシタの正極又は負極のために適していることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−109260号公報
【特許文献2】特開2005−63677号公報
【特許文献3】特開2007−160151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特に電池や電気化学キャパシタの電極材料として使用される金属酸化物と導電性カーボンとを含む複合材料において、金属酸化物が微細で高い表面積を有していれば、高い反応活性が期待される。また、特許文献1のように2種類の金属化合物を反応させて複合酸化物を得る場合にも、原料となる化合物が微細であれば、均質な複合酸化物が迅速に得られると期待される。
【0008】
この点に関し、特許文献3に開示された旋回する反応器内で反応物にずり応力と遠心力を加える反応方法は、一種又は二種以上の金属酸化物のナノ粒子を導電性カーボン粉末に担持させることができるため、好適である。また、導電性カーボン粉末上に金属酸化物が担持されているため、導電剤をさらに混合する工程も不要であるか、或いは導電剤の量を減少させることができる。しかしながら、特許文献3に具体的に示されているのは、ずり応力と遠心力を加えて加速化したゾルゲル反応であり、この反応方法の応用が未だ十分に検討されていない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、この旋回する反応器内で反応物にずり応力と遠心力を加える反応方法を利用して、均一な大きさの金属酸化物ナノ粒子を導電性カーボン粉末に効率よく且つ分散性良く付着させることができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、特許文献3の技術を基礎として鋭意検討した。その結果、水に、Mn、Fe、Co及びNiから成る群から選択された遷移金属の化合物と、導電性カーボン粉末とを添加して上記遷移金属の化合物を水に溶解させ、液のpHを9〜11の範囲に調整した後、この液に旋回する反応器内でずり応力と遠心力を加えると、上記遷移金属の水酸化物の核が生成し、この核が均一な大きさの微粒子として導電性カーボン粉末上に担持されること、また、原料に含まれる遷移金属のほとんど全てが効率よく水酸化物として導電性カーボン粉末上に担持されることを発見した。発明者らはまた、この水酸化物を担持した導電性カーボン粉末を加熱処理すると、均一な大きさの金属酸化物ナノ粒子と導電性カーボン粉末とを分散性良く含む複合材料が得られることを発見した。
【0011】
したがって、本発明はまず、
水と、Mn、Fe、Co及びNiから成る群から選択された遷移金属を含む少なくとも一種の化合物と、導電性カーボン粉末とを含み、9〜11の範囲のpHを有する反応液を、旋回可能な反応器内に導入する調製工程、
上記反応器を旋回させて上記反応液にずり応力と遠心力とを加えることにより、上記遷移金属の水酸化物の核を生成させ、この生成した遷移金属の水酸化物の核と上記導電性カーボン粉末とを分散させると同時に上記導電性カーボン粉末に上記遷移金属の水酸化物を担持させる担持工程、及び、
上記遷移金属の水酸化物を担持させた導電性カーボン粉末を加熱処理することにより、上記導電性カーボン粉末に担持された上記遷移金属の水酸化物を酸化物のナノ粒子に転化する熱処理工程
を含む、金属酸化物と導電性カーボンとの複合材料の製造方法(以下、「第1の製造方法」という。)に関する。
【0012】
本発明はまた、
水と、Mn、Fe、Co及びNiから成る群から選択された遷移金属を含む少なくとも一種の化合物と、導電性カーボン粉末とを含み、9〜11の範囲のpHを有する反応液を、旋回可能な反応器内に導入する調製工程、
上記反応器を旋回させて上記反応液にずり応力と遠心力とを加えることにより、上記遷移金属の水酸化物の核を生成させ、この生成した遷移金属の水酸化物の核と上記導電性カーボン粉末とを分散させると同時に上記導電性カーボン粉末に上記遷移金属の水酸化物を担持させる担持工程、及び、
上記遷移金属の水酸化物を担持させた導電性カーボン粉末と、周期表の1族及び2族に属する元素から成る群から選択された典型金属を含む少なくとも一種の化合物と、を混合して加熱処理することにより、上記導電性カーボン粉末に担持された上記遷移金属の水酸化物と上記典型金属の化合物とを反応させて、複合酸化物のナノ粒子に転化する熱処理工程
を含む、金属酸化物と導電性カーボンとの複合材料の製造方法(以下、「第2の製造方法」という。)に関する。
【0013】
本発明では、実在しないものの慣用的に水酸化物として表される、Mn(OH)(Mn・nHO)、Fe(OH)(Fe・nHO)、Co(OH)(Co・nHO)、Ni(OH)(Ni・nHO)のような酸化水酸化物或いは水和酸化物も、水酸化物の範囲に含まれる。また、ナノ粒子とは、1〜100nm、好ましくは5〜50nm、特に好ましくは10〜40nmの粒径を有する粒子を意味する。また、本発明では、固溶体も金属酸化物及び複合酸化物の範囲に含まれる。
【0014】
Mn、Fe、Co及びNiから成る群から選択された遷移金属の化合物を水に溶解させた液のpHを上げていくと、Mn、Fe、Co及びNiにOHが配位するようになり、さらにpHを上げると、やがてはこれらの遷移金属の水酸化物が不溶化する。本発明の調製工程では、pHを9〜11の範囲に調整した反応液を旋回可能な反応器内に入れ、或いは、旋回可能な反応器内で上記反応液を調製する。反応液中に不溶化した上記遷移金属の水酸化物が認められる場合があるが、調製段階では、反応液中の遷移金属のほとんどは導電性カーボン粉末上に担持されていない。
【0015】
次いで、担持工程において、反応器を旋回させると、この旋回によるずり応力と遠心力により、すなわち、機械的エネルギーにより、水酸化物の核が生成する。この核は、旋回している反応器内で、分散されつつ均一に成長し、均一な大きさの微粒子として導電性カーボン粉末上に担持される。また、反応液中の遷移金属のほとんど全てが水酸化物として導電性カーボン粉末上に担持されるため、効率が良い。反応液のpHが9未満では、反応液にずり応力と遠心力とを加える工程における水酸化物の核の生成効率及び生成した水酸化物の導電性カーボン粉末への担持効率が低く、pHが11を超えると、担持工程における水酸化物の不溶化速度が速すぎて、微細な水酸化物が得られにくい。したがって、反応液のpHを9〜11の範囲に調整した上で、この反応液に旋回する反応器中で機械的エネルギーを印加することにより、反応液中に水酸化物の核を効率よく生成させることができ、ひいては水酸化物を均一な大きさの微粒子として導電性カーボン粉末に担持させることができる。
【0016】
そして、本発明の第1の製造方法では、熱処理工程において、水酸化物が均一な大きさの微粒子として担持された導電性カーボン粉末を加熱処理することにより、導電性カーボン粉末上で水酸化物を酸化物ナノ粒子に転化する。この第1の製造方法では、水酸化物が均一な大きさの微粒子として担持された導電性カーボン粉末を使用するため、水酸化物の酸化反応が迅速且つ均一に進み、得られる酸化物のナノ粒子も微細で均一な大きさとなる。また、本発明の第2の製造方法では、熱処理工程において、水酸化物が均一な大きさの微粒子として担持された導電性カーボン粉末を、周期表の1族及び2族に属する典型金属の化合物、好ましくは水酸化物、特に好ましくは水酸化リチウム、と混合して加熱処理することにより、遷移金属の水酸化物と典型金属の化合物とを反応させて、導電性カーボン粉末上で複合酸化物のナノ粒子を形成させる。この第2の製造方法では、水酸化物が均一な大きさの微粒子として担持された導電性カーボン粉末を使用するため、遷移金属の水酸化物と典型金属の化合物との反応が迅速且つ均一に進み、得られる複合酸化物のナノ粒子も微細で均一な大きさを有する。
【0017】
本発明において、調製工程において旋回可能な反応器に導入される反応液は、pHが9〜11の範囲であれば、その製造方法に特に限定がないが、水に上記導電性カーボン粉末と上記遷移金属の水溶性塩とを添加して該水溶性塩を溶解させた液と、水にアルカリ金属の水酸化物、好ましくは水酸化リチウムを溶解させた液と、を混合することにより調製するのが、反応液のpHを効率よく調製することができるため好ましい。
【0018】
本発明において、担持工程において上記反応器の旋回により上記反応液に印加される遠心力は、一般に「超遠心力」といわれる範囲の遠心力であり、好ましくは1500kgms−2以上、特に好ましくは70000kgms−2以上の遠心力である。この範囲の遠心力により、水酸化物が均一な大きさの微粒子として導電性カーボン粉末上に担持される。本明細書において、旋回する反応器内で反応液にずり応力と遠心力とを印加する処理を、「超遠心処理」ということがある。
【0019】
上記旋回可能な反応器としては、反応液に超遠心力を印加可能な反応器であれば特に限定なく使用することができるが、特許文献3の図1に記載されている、外筒と内筒の同心円筒からなり、旋回可能な内筒の側面に貫通孔が設けられ、外筒の開口部にせき板が配置されている反応器が好適に使用される。特許文献3における反応器に関する記載は、参照により本明細書に組み入れられる。この反応器を使用すると、内筒の旋回による遠心力によって、内筒内の反応液が上記貫通孔を通じて外筒に移動し、内筒外壁面と外筒内壁面の間で反応液が外筒内壁上部にずり上がる。その結果、反応液にずり応力と遠心力が加わり、この機械的なエネルギーにより、内筒外壁面と外筒内壁面の間で、上記遷移金属の水酸化物の核が生成する。そしてこの核が反応器の旋回により分散されつつ均一に成長し、成長した水酸化物が導電性カーボン粉末に均一な大きさの微粒子として担持される。
【0020】
上述した外筒と内筒とを有する反応器において、内筒外壁面と外筒内壁面との間隔が狭いほど、反応液に大きな機械的エネルギーを印加できるため好ましい。内筒外壁面と外筒内壁面との間隔は、5mm以下であるのが好ましく、2.5mm以下であるのがより好ましい。
【0021】
本発明において、熱処理工程の加熱処理条件には、酸化物が得られれば特に限定がないが、酸素含有雰囲気中で200〜300℃の温度で加熱処理を行うのが好ましい。300℃以下であれば、酸素含有雰囲気においても導電性カーボン粉末が焼失せず、金属酸化物が結晶性良く得られるからである。酸素を含まない雰囲気で加熱処理を行うと、酸化物が還元され、目的の酸化物が得られない場合がある。
【0022】
本発明の方法により得られた金属酸化物と導電性カーボンとの複合材料は、燃料電池における電極触媒、リチウムイオン二次電池やマグネシウムイオン二次電池等の二次電池の電極活物質、電気化学キャパシタの電極活物質、帯電防止材料等として好適に使用することができる。特に、本発明の第2の製造方法において、熱処理工程において上記典型金属の化合物としてリチウム化合物を用いることによって得られる、層状岩塩型LiMO、層状LiMnO−LiMO固溶体、又はスピネル型LiM(式中のMは、Mn、Fe、Co、Ni又はこれらの組み合わせを意味する)のナノ粒子、好ましくは10〜40mの一次粒子径を有するナノ粒子を担持したカーボン粉末は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として極めて好適であり、レート特性に優れたリチウムイオン二次電池を与える。また、層状岩塩型LiMO、層状LiMnO−LiMO固溶体の製造において、熱処理工程において、酸素含有雰囲気中での200〜300℃の温度での加熱処理に続いて水熱処理を行うのが好ましい。熱処理工程において層状構造を有する複合酸化物と共にスピネルが発生する場合があるが、水熱処理によりスピネルが層状構造体に転化され、純度の良い層状構造体を得ることができる。
【0023】
カーボン粉末としては、導電性を有していれば特に限定なく使用することができるが、上記導電性カーボン粉末の少なくとも一部としてカーボンナノチューブを使用するのが好ましい。導電性に優れた複合材料が得られ、特に優れたレート特性を有するリチウムイオン二次電池へと導く正極活物質が得られるからである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の旋回する反応器内で反応物にずり応力と遠心力を加えて金属酸化物と導電性カーボンとの複合材料を製造する方法によると、均一な金属酸化物のナノ粒子を導電性カーボン粉末に効率良く且つ分散性良く付着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】LiMnと導電性カーボンとの複合材料の製造途中における粉末のSEM写真であり、(a)は比較例についての写真であり、(b)は実施例についての写真である。
図2】本発明の実施例のLiMnと導電性カーボンとの複合材料についてのX線粉末回折図である。
図3】本発明の実施例のLiMnと導電性カーボンとの複合材料についてのTG分析結果である。
図4】LiMnと導電性カーボンとの複合材料のSEM写真であり、(a)は比較例についての写真であり、(b)は実施例についての写真である。
図5】本発明の実施例のLiMnと導電性カーボンとの複合材料についてのTEM写真である。
図6】LiMnと導電性カーボンとの複合材料を正極活物質とした半電池のレート特性を評価した結果である。
図7】LiMnと導電性カーボンとの複合材料を正極活物質とした半電池のレート特性を評価した結果である。
図8】0.7LiMnO・0.3LiNi0.5Mn0.5と導電性カーボンとの複合材料のTEM写真である。(a)は比較例についての写真であり、(b)は実施例についての写真である。
図9】0.7LiMnO・0.3LiNi0.5Mn0.5と導電性カーボンとの複合材料を正極活物質とした半電池のレート特性を評価した結果である。
図10】Mnと導電性カーボンとの複合材料についてのTG−DTA分析結果であり、(a)は比較例についての結果であり、(b)は実施例についての結果である。
図11】本発明の実施例のMnと導電性カーボンとの複合材料についてのX線粉末回折図である。
図12】本発明の実施例のMnと導電性カーボンとの複合材料を正極活物質とした半電池の充放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の第1の製造方法と第2の製造方法とは、調製工程と担持工程とが共通であり、熱処理工程のみが異なる。以下では、第1の製造方法と第2の製造方法における調製工程と担持工程をまとめて説明し、熱処理工程についてのみ別々に説明する。
【0027】
(1)調製工程
調製工程では、水と、Mn、Fe、Co及びNiから成る群から選択された遷移金属を含む少なくとも一種の化合物と、導電性カーボン粉末とを含み、9〜11の範囲のpHを有する反応液を、旋回可能な反応器内に導入する。本発明では、水を溶媒として使用する。本発明に影響しない範囲内で有機溶媒が含まれていてもよいが、溶媒は水のみであるのが好ましい。
【0028】
カーボン粉末としては、導電性を有しているカーボン粉末であれば特に限定なく使用することができる。例としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラックなどのカーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、無定形炭素、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック、活性炭、メソポーラス炭素などを挙げることができる。また、気相法炭素繊維を使用することもできる。これらのカーボン粉末は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。カーボン粉末の少なくとも一部がカーボンナノチューブであるのが好ましい。
【0029】
Mn、Fe、Co及びNiから成る群から選択された遷移金属を含む少なくとも一種の化合物としては、水溶性の化合物を特に限定なく使用することができる。例としては、上記遷移金属のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩等の無機金属塩、ギ酸塩、酢酸塩等の有機金属塩、或いはこれらの混合物を使用することができる。これらの化合物は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。異なる遷移金属を含む化合物を所定量で混合して使用しても良い。
【0030】
反応液のpHの調整は、アルカリ金属、すなわち、Li、Na、K、Rb、Cs、Frの水酸化物を溶解させた水溶液により行うのが好ましい。アルカリ金属の水酸化物は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。このほか、酸化アルカリ、アンモニア及びアミンの水溶液を使用することもできる。pHの調整のために単独の化合物を用いても良く、2種以上の化合物を混合して用いても良い。
【0031】
超遠心処理に付すための反応液は、水に上記導電性カーボン粉末と上記遷移金属の水溶性塩とを添加して該水溶性塩を溶解させた液と、水にアルカリ金属の水酸化物を溶解させた液と、を混合することにより容易に調製することができる。このとき、反応液のpHを、9〜11の範囲に調整する。pHが9未満では、以下の担持工程における水酸化物の核の生成効率及び生成した水酸化物の導電性カーボン粉末への担持効率が低く、pHが11を超えると、担持工程における水酸化物の不溶化速度が速すぎて、微細な水酸化物が得られにくい。
【0032】
旋回可能な反応器としては、反応液に超遠心力を印加可能な反応器であれば特に限定なく使用することができるが、特許文献3の図1に記載されている、外筒と内筒の同心円筒からなり、旋回可能な内筒の側面に貫通孔が設けられ、外筒の開口部にせき板が配置されている反応器が好適に使用される。以下、この好適な反応器を使用する形態について説明する。
【0033】
超遠心処理に付すための反応液は、上記反応器の内筒内に導入される。予め調整した反応液を内筒内に導入しても良く、内筒内で反応液を調製することにより導入しても良い。内筒内に水と導電性カーボン粉末と遷移金属の水溶性塩とを入れ、内筒を旋回させて遷移金属の水溶性塩を水に溶解させるとともに導電性カーボン粉末を液中に分散させた後、内筒の旋回を一旦停止させ、次いで、水にアルカリ金属の水酸化物を溶解させた液を内筒内に入れてpHを調整し、再度内筒を旋回させるのが好ましい。最初の旋回により導電性カーボン粉末の分散が良好になり、結果的に担持される金属酸化物ナノ粒子の分散性が良好になるからである。
【0034】
(2)担持工程
担持工程では、反応器を旋回させて反応液にずり応力と遠心力とを加えることにより、遷移金属の水酸化物の核を生成させ、この生成した遷移金属の水酸化物の核と導電性カーボン粉末とを分散させると同時に導電性カーボン粉末に遷移金属の水酸化物を担持させる。
【0035】
水酸化物の核の生成は反応液に加えられるずり応力と遠心力の機械的エネルギーによって実現されると考えられるが、このずり応力と遠心力は内筒の旋回により反応液に加えられる遠心力によって生じる。内筒の反応液に加えられる遠心力は、一般に「超遠心力」といわれる範囲の遠心力であり、一般には1500kgms−2以上、好ましくは70000kgms−2以上、特に好ましくは270000kgms−2以上である。
【0036】
上述した外筒と内筒とを有する好適な反応器を使用する形態について説明すると、反応液を導入した反応器の内筒を旋回させると、内筒の旋回による遠心力によって、内筒内の反応液が貫通孔を通じて外筒に移動し、内筒外壁と外筒内壁の間の反応液が外筒内壁上部にずり上がる。その結果、反応液にずり応力と遠心力が加わり、この機械的なエネルギーにより、内筒外壁面と外筒内壁面の間で、上記遷移金属の水酸化物の核が生成する。そしてこの核が反応器内で分散されつつ成長し、導電性カーボン粉末上に担持される。
【0037】
上記反応において、内筒外壁面と外筒内壁面との間隔が狭いほど、反応液に大きな機械的エネルギーを印加できるため好ましい。内筒外壁面と外筒内壁面との間隔は、5mm以下であるのが好ましく、2.5mm以下であるのがより好ましく、1.0mm以下であるのが特に好ましい。内筒外壁面と外筒内壁面との間隔は、反応器のせき板の幅及び反応器に導入される反応液の量によって設定することができる。
【0038】
内筒の旋回時間には厳密な制限がなく、反応液の量や内筒の旋回速度(遠心力の値)によっても変化するが、一般的には0.5分〜10分の範囲である。超遠心処理により、短時間で、反応液に含まれる遷移金属のほとんどが水酸化物として導電性カーボン粉末に担持される。
【0039】
反応終了後に、内筒の旋回を停止し、均一な大きさを有する上記遷移金属の水酸化物の微粒子を担持させた導電性カーボン粉末を回収する。回収物において、水酸化物の微粒子を担持させた導電性カーボン粉末は一般に、1000nm以下の小さな直径を有し且つ比較的均一な大きさを有する凝集体を形成している。
【0040】
(3)熱処理工程
a.第1の製造方法における熱処理工程
第1の製造方法では、回収した上記遷移金属の水酸化物の微粒子を担持させた導電性カーボン粉末を、必要に応じて洗浄した後、加熱処理して、導電性カーボン粉末上で水酸化物を酸化物ナノ粒子に転化する。この第1の製造方法では、水酸化物が均一な大きさの微粒子として導電性カーボン粉末上に担持されている複合材料を使用するため、遷移金属の水酸化物の酸化反応が迅速且つ均一に進み、得られる酸化物のナノ粒子も微細で均一な大きさを有する。
【0041】
加熱処理の雰囲気には厳密な制限がない。真空中での加熱処理でも良く、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中での加熱処理でも良く、酸素、空気等の酸素含有雰囲気中での加熱処理でも良い。加熱処理の温度及び時間にも厳密な制限がなく、目的とする酸化物の組成や処理量によっても変化するが、一般には、酸素含有雰囲気中での加熱処理は200〜300℃の温度で10分〜10時間、不活性雰囲気中での加熱処理は250〜600℃の温度で10分〜10時間、真空中での熱処理は常温〜200℃の温度で10分〜10時間の範囲である。
【0042】
加熱処理は、酸素含有雰囲気中で200〜300℃の温度で加熱処理を行うのが好ましい。300℃以下であれば、酸素含有雰囲気においても導電性カーボン粉末が焼失せず、金属酸化物が結晶性良く得られるからである。酸素を含まない雰囲気で加熱処理を行うと、酸化物が還元され、目的の酸化物が得られない場合がある。
【0043】
本発明の第1の製造方法により得られた金属酸化物と導電性カーボンとの複合材料は、電池や電気化学キャパシタの電極材料として好適であり、特に、Fe、MnO、MnO、Mn、Mn、CoO、Co、NiO、Niと導電性カーボンとの複合材料はリチウムイオン二次電池における負極活物質として好適である。
【0044】
b.第2の製造方法における熱処理工程
第2の製造方法では、回収した上記遷移金属の水酸化物の微粒子を担持させた導電性カーボン粉末を、必要に応じて洗浄した後、周期表の1族及び2族に属する元素から成る群から選択された典型金属を含む少なくとも一種の化合物と混合して加熱処理することにより、上記導電性カーボン粉末に担持された上記遷移金属の水酸化物と上記典型金属の化合物とを反応させて、複合酸化物のナノ粒子に転化する。この製造方法では、水酸化物が均一な大きさの微粒子として担持されている導電性カーボン粉末を使用するため、遷移金属の水酸化物と典型金属の化合物との反応が迅速且つ均一に進み、得られる複合酸化物のナノ粒子も微細で均一な大きさを有する。
【0045】
周期表の1族に属する典型金属、すなわち、Li、Na、K、Rb、Cs、Frの化合物、或いは、周期表の2族に属する典型金属、すなわち、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Raの化合物としては、これらの金属を含んでいる化合物を特に限定なく使用することができ、例えば、これらの金属の水酸化物、炭酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩等の無機金属塩、ギ酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩等の有機金属塩、或いはこれらの混合物を使用することができる。これらの化合物は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。異なる典型金属を含む化合物を所定量で混合して使用しても良い。水酸化物を使用すると、イオウ化合物、窒素化合物等の不純物が残留しない上に、複合酸化物が迅速に得られるため好ましい。
【0046】
上記担持工程で得られた遷移金属の水酸化物の微粒子を担持させた導電性カーボン粉末と、上記典型金属の化合物とを、必要に応じて適量の分散媒と組み合わせ、必要に応じて分散媒を蒸発させながら混錬することにより、混錬物を得る。混錬のための分散媒としては、複合材料に悪影響を及ぼさない媒体であれば特に限定なく使用することができ、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどを好適に使用することができ、水を特に好適に使用することができる。
【0047】
加熱処理の雰囲気には厳密な制限がない。真空中での加熱処理でも良く、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中での加熱処理でも良く、酸素、空気等の酸素含有雰囲気中での加熱処理でも良い。加熱処理の温度及び時間にも厳密な制限がなく、目的とする酸化物の組成や処理量によっても変化するが、一般に、酸素含有雰囲気中での加熱処理は200〜300℃の温度で10分〜10時間、不活性雰囲気中での加熱処理は約250〜600℃の温度で10分〜10時間、真空中での熱処理は常温〜約200℃の温度で10分〜10時間の範囲である。
【0048】
加熱処理は、酸素含有雰囲気中で200〜300℃の温度で加熱処理を行うのが好ましい。300℃以下であれば、酸素含有雰囲気においても導電性カーボン粉末が焼失せず、複合酸化物が結晶性良く得られるからである。酸素を含まない雰囲気で加熱処理を行うと、複合酸化物が還元され、目的の複合酸化物が得られない場合がある。
【0049】
本発明の第2の製造方法により得られた複合酸化物と導電性カーボンとの複合材料は、電池や電気化学キャパシタの電極材料として好適である。特に、熱処理工程において上記典型金属の水酸化物として水酸化リチウムを用いることによって得られる、層状岩塩型LiMO、層状LiMnO−LiMO固溶体、又はスピネル型LiM(式中のMは、Mn、Fe、Co、Ni又はこれらの組み合わせを意味する)のナノ粒子と導電性カーボンとの複合材料は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として好適である。
【0050】
層状岩塩型LiMO、層状LiMnO−LiMO固溶体、スピネル型LiMの例としては、LiCoO、LiNiO、LiNi4/5Co1/5、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi1/2Mn1/2、LiFeO、LiMnO、LiMnO−LiCoO2、LiMnO−LiNiO、LiMnO−LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMnO−LiNi1/2Mn1/2、LiMnO−LiNi1/2Mn1/2−LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMn、LiMn3/2Ni1/2が挙げられる。本発明の第2の製造方法により、これらの複合酸化物のナノ粒子と導電性カーボン粉末とを分散性良く含む複合材料が得られる。特に、10〜40mの一次粒子径を有するナノ粒子を含む複合材料は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として極めて好適であり、レート特性に優れたリチウムイオン二次電池を与える。中でも、導電性カーボン粉末の少なくとも一部としてカーボンナノチューブを用いた複合材料は、導電性が高く、特に優れたレート特性を有するリチウムイオン二次電池へと導く正極活物質である。
【0051】
熱処理工程において、層状岩塩型LiMO、層状LiMnO−LiMO固溶体を得たい場合でも、スピネルが同時に生成する場合がある。この場合には、上述した加熱処理、好ましくは酸素含有雰囲気中での200〜300℃の温度での加熱処理に続いて、水熱処理を行うのが好ましい。水熱処理によりスピネルが層状構造体に変性し、純度の良い層状構造体を得ることができる。水熱処理は、オートクレーブ中に熱処理後の粉末と水、好ましくは水酸化リチウム水溶液を導入した後、100℃以上、1気圧以上の熱水下で行うことができる。
【実施例】
【0052】
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0053】
(1)LiMn(スピネル)と導電性カーボンとの複合材料
a.複合材料の製造
実施例1:
特開2007−160151号公報の図1に示されている、外筒と内筒の同心円筒からなり、内筒の側面に貫通孔が設けられ、外筒の開口部にせき板が配置されている反応器の内筒に、2.45gのMn(CHCOO)・4HO及び0.225gのケッチェンブラック(粒径約40nm)を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させ、Mn(CHCOO)・4HOを溶解させると共にケッチェンブラックを分散させた。一旦内筒の旋回を停止し、内筒内に0.6gのLiOH・HOを水に溶解させた液を添加した。液のpHは10であった。次に、再び70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。この間に、外筒の内壁と内筒の外壁との間でMn水酸化物の核が形成され、この核が成長してケッチェンブラックの表面に担持された。内筒の旋回停止後に、ケッチェンブラックをろ過して回収し、空気中100℃で12時間乾燥した。ろ液をICP分光分析により確認したところ、Mn(CHCOO)・4HO原料に含まれるMnの95%以上が担持されていることがわかった。次いで、乾燥後の粉末と、Mn:Liが2:1になる量のLiOH・HOを含む水溶液を混合して混練し、乾燥後に、空気中280℃で1時間加熱処理し、複合材料を得た。
【0054】
実施例2
空気中280℃での1時間の加熱処理の代わりに、空気中300℃で1時間加熱処理したことを除いて、実施例1の手順を繰り返した。
【0055】
実施例3
空気中280℃での1時間の加熱処理の代わりに、空気中350℃で1時間加熱処理したことを除いて、実施例1の手順を繰り返した。
【0056】
実施例4
0.225gのケッチェンブラックの代わりに、質量比でケッチェンブラック(粒径約40nm):カーボンナノチューブ(直径約20nm、長さ数百nm)=3:1に混合したカーボン混合物0.225gを使用したことを除いて、実施例2の手順を繰り返した。
【0057】
実施例5
0.225gのケッチェンブラックの代わりに、質量比でケッチェンブラック(粒径約40nm):カーボンナノチューブ(直径約20nm、長さ数百nm)=1:1に混合したカーボン混合物0.225gを使用したことを除いて、実施例2の手順を繰り返した。
【0058】
実施例6
実施例2の複合材料に、導電剤としてのアセチレンブラックを複合材料の5質量%の量で混合した。
【0059】
比較例1
実施例1において用いた反応器の内筒に、2.45gのMn(CHCOO)・4HO、0.33gのCHCOOLi(Mn:Li=2:1)及び0.225gの質量比でケッチェンブラック(粒径約40nm):カーボンナノチューブ(直径約20nm、長さ数百nm)=1:1に混合したカーボン混合物を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。内筒の旋回停止後、液体部分を採取してICP分光分析により確認したところ、Mn(CHCOO)・4HO原料に含まれるMnの約30%しかカーボン混合物に担持されていなかった。そのため、反応器の内容物の全てを回収し、空気中100℃で蒸発乾固させた。次いで、空気中300℃で1時間加熱処理し、複合材料を得た。
【0060】
図1に、担持工程後熱処理工程前の材料のSEM写真を示す。(a)は比較例1における材料のSEM写真であり、(b)は実施例5における材料のSEM写真である。(b)のSEM写真より、実施例5では、水酸化物の微粒子が担持されたカーボン混合物が、1000nm以下の直径を有する比較的均一な大きさの凝集体を形成しているのがわかる。これに対し、(a)のSEM写真より、比較例1では、部分的に凝集体が認められるものの、ほとんどの化合物が無定形であり、この無定形の化合物がカーボン混合物を覆っているのがわかる。
【0061】
図2に、実施例1〜3の複合材料のX線粉末回折図を示す。いずれの温度においてもLiMnの結晶が認められた。特に300℃以上の加熱処理を行った実施例2,3の複合材料におけるLiMnは高い結晶性を示した。図3には、実施例1〜3の複合材料について、TG測定を空気雰囲気中で昇温速度1℃/分の条件で行い、重量減少量を炭素分として評価した結果を示す。350℃で熱処理を行った実施例3の複合材料では、もはや重量損失がほとんど認められず、ケッチェンブラックが加熱処理の過程で焼失していると判断された。したがって、空気中300℃での加熱処理が特に好ましいことがわかった。
【0062】
図4に、熱処理工程後の複合材料のSEM写真を示す。(a)は比較例1の複合材料のSEM写真であり、(b)は実施例5の複合材料のSEM写真である。(b)のSEM写真より、実施例5では、均一な大きさの粒子が形成されていることがわかる。図5は、実施例5の複合材料のTEM写真であるが、直径10〜40nmのLiMnの一次粒子が分散性良く形成されていることがわかる。これに対し、図4の(a)のSEM写真より、比較例1の複合材料には、様々な大きさの粒が含まれており、大きな凝集体も含まれており、LiMnの分散性が不十分であることがわかる。この差は、図1に示した、担持工程後熱処理工程前の材料における導電性カーボン粉末上の化合物の形態の差を反映していると考えられる。
【0063】
b.半電池として評価
実施例2,4〜6及び比較例1の複合材料にポリフッ化ビニリデンを全体の10質量%加えて成形したものを正極とし、1MのLiPFのエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとした半電池を作成した。得られた半電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。この評価は半電池としての評価であるが、負極を用いた全電池においても同様の効果が期待できる。
【0064】
図6は、実施例2、実施例6及び比較例1の複合材料を用いた半電池についての、レートと放電容量との関係を示した図であり、図7は、実施例2,4,5及び比較例1の複合材料を用いた半電池についての、レートと放電容量との関係を示した図である。
【0065】
図6から把握されるように、LiMnの分散性が不十分である比較例1の複合材料を用いる場合に比較して、実施例2の複合材料を用いることにより、半電池の放電容量及びレート特性を向上させることができた。また、実施例2の複合材料に導電剤を混合することにより(実施例6)、半電池の放電容量を向上させることができ、レートの増加につれてなだらかな容量の低下を示す、レート特性の良好な半電池を得ることができた。また、図7から把握されるように、実施例2の複合材料のケッチェンブラックの一部をカーボンナノチューブに変更する(実施例4,5)ことにより、複合材料に導電剤を混入しなくても、半電池の放電容量及びレート特性を大幅に向上させることができた。これは、カーボンナノチューブの高い導電性に起因していると考えられる。これに対し、LiMnの分散性が不十分である比較例1の複合材料を用いた半電池では、複合材料中にカーボンナノチューブが含まれているにもかかわらず、容量が著しく小さく、また、レートの増加につれて容量が急速に低下した。実施例5と比較例1とは、いずれも、ケッチェンブラック:カーボンナノチューブ=1:1に混合したカーボン混合物を複合材料の製造に用いているが、実施例5の複合材料を用いた半電池の放電容量及びレート特性と、比較例1の複合材料を用いた半電池の放電容量及びレート特性と、の差は、図4,5に示した、複合材料中のLiMnの分散性の差を反映したものであると考えられる。
【0066】
(2)0.7LiMnO・0.3LiNi0.5Mn0.5と導電性カーボンとの複合材料
a.複合材料の製造
実施例7:
実施例1において用いた反応器の内筒に、1.54gのMn(CHCOO)・4HO、0.274gのNi(CHCOO)及び0.21gの質量比でケッチェンブラック(粒径約40nm):カーボンナノチューブ(直径約20nm、長さ数百nm)=1:1に混合したカーボン混合物を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させ、Mn(CHCOO)・4HO及びNi(CHCOO)を溶解させると共にカーボン混合物を分散させた。一旦内筒の旋回を停止し、内筒内に0.6gのLiOH・HOを水に溶解させた液を添加した。液のpHは10であった。次に、再び70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。この間に、外筒の内壁と内筒の外壁との間でMn水酸化物及びNi水酸化物の核が形成され、この核が成長してカーボン混合物の表面に担持された。内筒の旋回停止後に、カーボン混合物をろ過して回収し、空気中100℃で12時間乾燥した。ろ液をICP分光分析により確認したところ、Mn(CHCOO)・4HO原料及びNi(CHCOO)原料に含まれるMn及びNiの95%以上が担持されていることがわかった。次いで、乾燥後の粉末にMn:Liが1:2になる量のLiOH・HOの水溶液を混合して混練し、乾燥後に空気中250℃で1時間加熱処理した。さらに、オートクレーブ中に加熱処理後の粉末と2mol/LのLiOH水溶液とを導入し、飽和水蒸気中200℃で12時間水熱処理することにより、複合材料を得た。
【0067】
比較例2
実施例1において用いた反応器の内筒に、1.54gのMn(CHCOO)・4HO、0.274gのNi(CHCOO)、0.78gのCHCOOLi(Mn:Li=1:2)及び0.21gの質量比でケッチェンブラック(粒径約40nm):カーボンナノチューブ(直径約20nm、長さ数百nm)=1:1に混合したカーボン混合物を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。内筒の旋回停止後、液体部分を採取してICP分光分析により確認したところ、Mn(CHCOO)・4HO原料及びNi(CHCOO)原料の約30%のMn及びNiしかカーボン混合物に担持されていなかった。そのため、反応器の内容物の全てを回収し、空気中100℃で蒸発乾固させ、次いで、空気中250℃で1時間加熱処理し、複合材料を得た。
【0068】
図8は、実施例7と比較例2の複合材料についてのTEM写真である。実施例7の複合材料には、粒径が約20nmの均一な結晶が含まれていることがわかる。これに対し、比較例2の複合材料には、粒径5nm以下の結晶や長さ100nm程度の大きな結晶も含まれており、結晶の大きさがふぞろいであった。これは、担持工程において、実施例7では、水酸化物の微粒子がカーボン混合物に分散性良く担持されるが、比較例2では、ふぞろいな大きさの凝集体と無定形の化合物がカーボン混合物を覆っている材料しか得られないことを反映したものであると考えられる。すなわち、実施例7では、加熱処理及び水熱処理において、均一な反応が進行して均一な大きさを有する複合酸化物のナノ粒子が分散性良く形成されるものの、比較例2では、熱処理工程において、不均一な反応が進行してふぞろいな大きさの複合酸化物が形成されるものと考えられる。
【0069】
b.半電池として評価
実施例7及び比較例2の複合材料にポリフッ化ビニリデンを全体の10質量%加えて成形したものを正極とし、1MのLiPFのエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとした半電池を作成した。得られた半電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。この評価は半電池としての評価であるが、負極を用いた全電池においても同様の効果が期待できる。
【0070】
図9は、実施例7と比較例2の複合材料を用いた半電池についての、レートと放電容量との関係を示した図である。比較例2の複合材料を用いた半電池は、実施例7の複合材料を用いた半電池に比較して、著しく小さい容量を示した上に、レートの増加につれて容量が大きく低下し、30Cを超える領域ではほとんど容量を示さなかった。これに対し、実施例7の複合材料を用いた半電池は、レート特性が極めて良好であり、レート100Cでも50mAhg−1を超える容量を有していた。
【0071】
(3)Mnと導電性カーボンとの複合材料
実施例8:
実施例1において用いた反応器の内筒に、2.41gのMn(CHCOO)・4HO及び0.5gのケッチェンブラック(粒径約40nm)を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させ、Mn(CHCOO)・4HOを溶解させると共にケッチェンブラックを分散させた。一旦内筒の旋回を停止し、内筒内に0.3NのNaOH水溶液を添加した。液のpHは10.5であった。次に、再び70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。この間に、外筒の内壁と内筒の外壁との間でMn水酸化物の核が形成され、この核が成長してケッチェンブラックの表面に担持された。内筒の旋回停止後に、ケッチェンブラックをろ過して回収し、空気中100℃で12時間乾燥した。さらに、空気中130℃で16時間加熱処理し、複合材料を得た。
【0072】
比較例3
実施例1において用いた反応器の内筒に、2.41gのMn(CHCOO)・4HO及び0.5gのケッチェンブラック(粒径約40nm)を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。ケッチェンブラックをろ過して回収し、乾燥した後、空気中130℃で16時間加熱処理し、複合材料を得た。
【0073】
図10には、実施例8と比較例3の複合材料についてのTG−DTA測定を空気雰囲気中で昇温速度1℃/分の条件で行った結果を示す。また、図11には、実施例8の複合材料のX線粉末回折図を示す。図11から把握されるように、実施例8の複合材料中にはMnが生成していた。図10より、比較例3の複合材料については約90%の重量損失が認められ、実施例8の複合材料については約40%の重量損失が認められたことがわかる。この重量損失は、ケッチェンブラックの焼失によるものである。比較例3では、実施例8と同じ量のMn(CHCOO)・4HOを使用したにもかかわらず、ほとんどのMnがケッチェンブラックに担持されなかったことがわかる。これに対し、実施例8では、Mn(CHCOO)・4HO中のMnのほとんどがケッチェンブラックに担持されていた。
【0074】
実施例8の複合材料にポリフッ化ビニリデンを全体の10質量%加えて成形したものを正極とし、1MのLiPFのエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとした半電池を作成した。得られた半電池について、充放電特性を評価した。その結果を図12に示す。Li/Liに対して0〜2.5Vの範囲で約800mAhg−1の容量が認められ、リチウムイオン二次電池における負極のために好適であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明により、燃料電池、二次電池、電気化学キャパシタ、帯電防止材料等のために好適である金属酸化物と導電性カーボンとの複合材料が得られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12