(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6179010
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】製麺方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/109 20160101AFI20170807BHJP
【FI】
A23L7/109 C
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-140712(P2013-140712)
(22)【出願日】2013年7月4日
(65)【公開番号】特開2015-12820(P2015-12820A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】日本製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】新海 陽介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 武弘
【審査官】
松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−135919(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/090337(WO,A1)
【文献】
特開2008−212090(JP,A)
【文献】
特開平09−220063(JP,A)
【文献】
特開2004−357571(JP,A)
【文献】
特開平05−336911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1〜1000ppmの濃度のエチレンガス環境下、1〜14日間保存した小麦粉を原料として使用することを特徴とする麺類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエチレンガス処理小麦粉を使用した製麺方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、製麺方法において、得られる麺類の食感や色調を改良するために様々な試みが行われてきた。例えば麺類の食感を改良するためには例えば切り出した麺線を酸性水溶液などで処理して麺類を製造する方法(特許文献1)、こんにゃく粉及び澱粉を合わせて調製した乾燥こんにゃく加工品と増粘多糖類などの添加物を使用する方法(特許文献2)等が提案されている。また麺類の色調を改良するためには、小麦粉の空気輸送中に特定の混合比、空気温度、加熱時間により小麦粉を熱処理する方法(特許文献3)、めん原料粉に花粉を配合する方法(特許文献4)等が提案されている。しかしながら近年の健康志向や食品の安全性の観点から、極力添加物を使用しない方法、そしてより簡便な方法が望まれている。
エチレンは植物ホルモンの一種として知られており、一般的には植物の生長を阻害し、花芽形成を抑制する。例えば、ジャガイモの場合、エチレンにより萌芽が抑制される性質がある。この性質を利用し、ジャガイモの発芽抑制方法が提案されている(特許文献5)。
また、エチレンは果実の「色づき」「軟化」といった成熟にも関与しており、この性質を利用して柑橘類のカロテノイド色素の増強方法が提案されている(特許文献6)。
しかしながら、小麦粉の品質改良方法として、小麦粉をエチレンで処理する方法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-172217
【特許文献2】特開2008-43326
【特許文献3】特開2012-143159
【特許文献4】特開2003-47417
【特許文献5】特開2011-072261
【特許文献6】特開2011-213381
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明者等は、エチレンガスで処理した小麦粉を使用することにより、硬さと粘弾性のバランスが良くつるみがある食感を有し、黄色味が強く明るい色調を有する麺類を製造することができることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は以下の通りである。
(1)0.1〜1000ppmの濃度のエチレンガス環境下、1〜14日間保存した小麦粉を含む麺類。
(2)0.1〜1000ppmの濃度のエチレンガス環境下、1〜14日間保存した小麦粉を原料として使用することを特徴とする麺類の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
エチレンガスで処理した小麦粉を使用することにより、本発明の製麺方法により得られた麺類の食感を硬さと粘弾性のバランスが良くつるみがあるものとし、色調を黄色味が強く明るいものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の製麺方法において、使用する小麦粉は特に限定なく使用でき、例えば強力粉、中力粉、薄力粉、全粒粉、デュラム粉等が使用できる。
【0008】
本発明において、小麦粉は0.1〜1000ppmの濃度のエチレンガス環境下で保存する。好ましくは、小麦粉は10〜100ppmの濃度のエチレンガス環境下で保存する。エチレンガス濃度が0.1ppm未満の場合、本発明の効果は得られない。またエチレンガス濃度が1000ppmを越える場合、食感が硬くなりすぎるため不適である。
【0009】
本発明において、小麦粉は上記エチレンガス環境下で1日〜14日間保存する。好ましくは、小麦粉は上記エチレンガス環境下で3日〜7日間保存する。保存期間が1日未満の場合、本発明の効果は得られない。またエチレンガス濃度が14日を超える場合、食感が硬くなりすぎるため不適である。
【0010】
本発明において、小麦粉のその他の保存条件として、保存温度は通常の小麦粉の保存温度であれば特に限定なく設定できるが、低温では効果が少なく3℃以上で保存することが好ましい。より好ましくは3〜35℃、さらに好ましくは15〜25℃で保存する。
【0011】
本発明において、小麦粉の保存方法としては、小麦粉を所定のエチレン環境下において保存することができる方法であれば特に限定されない。例えば密閉された容器又は装置に小麦粉を入れ、容器又は装置内が所定の濃度になるようにエチレンガスを注入することにより行う。
【0012】
密閉容器又は装置としては、エチレンガス濃度を一定期間、一定の範囲に保つことが出来れば特に限定されず、例えばアルミ蒸着袋や鉄、ステンレス等の金属性容器又は装置が挙げられる。また容器の大きさは限定されず、粉タンク、粉サイロなどの既存の小麦粉の保管施設を使用することもできる。
【0013】
本発明において、保存時に小麦粉は容器又は装置内に静置のままでよい。また容器又は装置内において通常の小麦粉の保存形態であるクラフト紙(25kg)で保存してもよい。但し粉タンク、粉サイロに保存するなど大量の小麦粉がある場合は、十分にエチレンガスに触れさせるため攪拌することが望ましい。
【0014】
本発明において、エチレンガスは、工業的に入手できるものに限られず、天然由来のものでも良い。例えばリンゴ、ナシなどエチレンガスを発生する果物を小麦粉と共に保存しても良い。
【0015】
本発明の麺類は、本発明の条件のエチレンガス環境下で保存した小麦粉を用いる以外は、常法の製麺方法により得ることができる。例えば小麦粉を含む穀物粉に水分、塩などを加えて混捏し生地を作成し、得られた生地を熟成した後、製麺ロールにより成形、複合および圧延して麺帯を製造し、切歯で切り出し麺線とする、又は押出し製麺により麺線を得る。
【0016】
本発明の麺類の製造方法においては、小麦粉以外にも、麺の種類などに応じて、大麦粉、大豆粉、そば粉等などの穀粉類;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉など及びこれらにα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理等を行った加工澱粉類;乳化剤;食塩等の無機塩類;保存料;かんすい;ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸類等の強化剤等、通常麺の製造に用いる副原料を使用することができる。
【0017】
本発明の製造方法により得られる麺類としては、うどん、冷麦、そうめん、ラーメン、日本そば、パスタ、ビーフンなどの麺線や、餃子、春巻の皮などの麺皮が挙げられる。
【実施例】
【0018】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
試験例1 [小麦粉のエチレン環境下での保存]
アルミ蒸着パック(容量6L)に小麦粉2kgを直接入れ、容器内が所定の濃度になるようにエチレンガスを注入し、20℃の室温に保存した。
所定の保存期間後、ガスを抜き製麺試験を実施した。
エチレン濃度と保存日数を表2に記載の通り変えて各エチレン処理小麦粉を得た。
【0019】
試験例2 [製麺試験]
試験例1で得たエチレン処理小麦粉を用いて、うどんを製造した。
(1)小麦粉100質量部に食塩2質量部、水36質量部を加えて、13分間ミキシングを行い生地とした。
(2)前記生地を製麺ロールにより成形1回、複合2回、圧延3回行い、最終の麺帯の厚みを2.5mmとし、10番(角)の切歯で切り出し麺線とした。麺線の長さは約25cmとした。
(3)前記麺線を麺線質量の約15倍の茹で水(pHを5.5〜6.0に調整)で22分間茹で、冷水で締めてからざるに盛った。
【0020】
得られた各うどんについて、表1に示す評価基準により生地性及び食感を10名のパネラーで評価した。食感及び色調については未処理の小麦粉を使用した場合と比較した。得られた結果を下記の表2に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
実施例1〜12は、食感、色調ともに未処理の小麦粉を使用した場合と比べ優れていた。
これに対し、エチレン濃度が0.1ppm未満である比較例1〜3及び保存日数が1日未満である比較例4、6及び7は食感及び色調の何れも未処理の小麦粉を使用した場合と大差がなく不適であった。またエチレン濃度が1000ppmを越える比較例9〜12及び保存日数が14日を越える比較例5及び8では食感については硬くなりすぎ不適であり、さらに色調については改善の効果が見られず不適であった。