(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6179209
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】フリップチップ実装方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20170807BHJP
【FI】
H01L21/60 311Q
H01L21/60 311T
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-125571(P2013-125571)
(22)【出願日】2013年6月14日
(65)【公開番号】特開2015-2240(P2015-2240A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2015年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正宣
【審査官】
工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−107078(JP,A)
【文献】
特開2006−19342(JP,A)
【文献】
特開2003−347362(JP,A)
【文献】
特開2003−163240(JP,A)
【文献】
特開2003−203953(JP,A)
【文献】
特開2001−298251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/60−21/607
H01L23/12−23/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子を吸引ノズルで吸引把持して基板上に配置し、前記吸引ノズルを前記半導体素子に接触させて前記基板側に加重しつつ超音波振動を加えることで、前記半導体素子を前記基板にフリップチップ実装するフリップチップ実装方法において、
実装前の前記半導体素子の前記吸引ノズルとの接触面の表面粗さRaを、ラップ処理を行うことにより0.1μm以上0.5μm未満に粗化した
ことを特徴とするフリップチップ実装方法。
【請求項2】
実装後の前記接触面の表面粗さRaは、0.1〜0.2μmである
請求項1記載のフリップチップ実装方法。
【請求項3】
前記接触面が、GaAs基板またはシリコン基板から構成される
請求項1または2記載のフリップチップ実装方法。
【請求項4】
前記吸引ノズルとして、前記半導体素子を吸着把持する吸着面の表面粗さRaが0.35μmのものを用いる
請求項1〜3いずれかに記載のフリップチップ実装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いたフリップチップ実装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フリップチップ実装は低コスト化、省スペース化に有効であり、半導体素子(半導体チップ)を実装する際に広く用いられている。
【0003】
半導体素子をフリップチップ実装する際のフリップチップ実装方法として、従来より、超音波を用いたフリップチップ実装方法(超音波フリップチップ実装)が知られている。
【0004】
超音波フリップチップ実装では、半導体素子を吸引ノズル(超音波ツール)で吸引把持して基板上に配置し、加重しながら熱や超音波振動を加えて実装を行う。
【0005】
吸引ノズルと半導体素子間の滑りを抑制し超音波振動の伝達性を向上させるために、吸引ノズルの半導体素子を吸着把持する吸着面は、表面に凹凸のある粗面に形成されるのが一般的である。しかし、吸引ノズルの吸着面が粗面であるが故に、超音波フリップチップ実装時に半導体素子の接触面が傷つき易く、半導体素子にチッピングやクラックが発生し、信頼性や歩留りが低下してしまうという問題があった。
【0006】
この問題を解決するために、半導体素子を樹脂封止する方法や、半導体素子の接触面に樹脂コーティングしたり、保護用のフィルムを貼るなどして保護膜を形成する方法が提案されている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−28396号公報
【特許文献2】特開2005−26311号公報
【特許文献3】特開2002−83839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の樹脂で封止する方法や保護膜を形成する方法では、樹脂で封止したり保護膜を形成するための設備を追加する必要があり、設備コストが高くなり、作業に手間がかかってしまうという問題がある。また、保護膜を形成する場合、膜厚制御が難しいという問題もある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、超音波フリップチップ実装時に半導体素子にチッピングやクラックが発生することを簡単に抑制することが可能なフリップチップ実装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、半導体素子を吸引ノズルで吸引把持して基板上に配置し、半導体素子を基板側に加重しつつ超音波振動を加えることで、前記半導体素子を前記基板にフリップチップ実装するフリップチップ実装方法において、実装前の前記半導体素子の前記吸引ノズルへの接触面の表面粗さRaを、0.1μm以上0.5μm未満としたフリップチップ実装方法である。
【0011】
前記半導体素子の前記接触面にラップ処理を行うことで、前記接触面の表面粗さRaを、0.1μm以上0.5μm未満としてもよい。
【0012】
前記半導体素子の前記接触面が、GaAs基板またはシリコン基板から構成されてもよい。
【0013】
前記吸引ノズルとして、前記半導体素子を吸着把持する吸着面の表面粗さRaが0.35μmのものを用いてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、超音波フリップチップ実装時に半導体素子にチッピングやクラックが発生することを簡単に抑制することが可能なフリップチップ実装方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るフリップチップ実装方法を説明する図である。
【
図2】(a)は、表面粗さRaの異なる半導体素子を使用して超音波フリップチップ実装を実施し、実装前と実装後の半導体素子の接触面の表面粗さRaを比較したグラフ図であり、(b)は、実装前の接触面の表面粗さRaを0.1μm以上0.5μm未満とした場合の実装前と実装後の接触面の状態を説明する図、(c)は、実装前の接触面の表面粗さRaを0.1μm未満とした場合の実装前と実装後の接触面の状態を説明する図である。
【
図3】本発明において、チッピングを説明する写真である。
【
図4】本発明において、クラックを説明する写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態に係るフリップチップ実装方法を説明する図である。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態に係るフリップチップ実装方法では、半導体素子1を吸引ノズル(超音波ツール)2で吸引把持して基板3上に配置し、半導体素子1を基板3側に加重しつつ超音波振動を加えることで、半導体素子1を基板3にフリップチップ実装する。
【0019】
半導体素子1に設けられた電極4には、金などからなるバンプ5が設けられており、半導体素子1を基板3側に加重しつつ超音波振動を加えることで、バンプ5が摩擦により溶融され、基板3に形成された電極6と半導体素子1の電極4とが接合される。図示していないが、吸引ノズル2には、超音波振動手段が取り付けられており、吸引ノズル2を介して半導体素子1側に超音波振動が伝えられるようになっている。
【0020】
吸引ノズル2と半導体素子1間の滑りを抑制し超音波振動の伝達性を向上させるために、吸引ノズル2の半導体素子1を吸着把持する吸着面2aは、表面に凹凸のある粗面に形成される。本実施の形態では、吸引ノズル2として、吸着面2aの表面粗さ(算術平均粗さ)Raが0.35μmの超硬合金からなるものを用いた。
【0021】
さて、本実施の形態に係るフリップチップ実装方法では、実装前の半導体素子1の吸引ノズル2への接触面1aの表面粗さ(算術平均粗さ)Raを、0.1μm以上0.5μm未満としている。
【0022】
半導体素子1の接触面1aの表面粗さRaは、半導体素子1を製造する際の研磨工程にて行われるラップ処理(ラッピング処理)にて制御することができる。ラップ処理では、ラップ盤上に液体研磨剤(遊離砥粒)を供給しつつ擦り合わせながら研磨を行うが、この際に用いる液体研磨剤を適宜選択することで、実装前の半導体素子1の接触面1aの表面粗さRaを、0.1μm以上0.5μm未満とすることができる。
【0023】
接触面1aの表面粗さRaを0.1μm以上とするのは、接触面1aの表面粗さRaを0.1μm未満とすると、超音波フリップチップ実装時に接触面1aに傷がつきやすくなり、半導体素子1にチッピングやクラックが発生し易くなるためである。
【0024】
また、接触面1aの表面粗さRaを0.5μm未満とするのは、接触面1aの表面粗さRaを0.5μm以上とした場合、ラップ処理(研磨工程)の段階で微小なチッピングやクラックが発生し易くなり、信頼性や歩留りが低下してしまうためである。
【0025】
なお、エッチングを用いた方法やサンドブラストを用いた方法など、ラップ処理以外の方法により接触面1aの粗化を行う場合、歩留り等を低下させることなく接触面1aの表面粗さRaを0.5μm以上とすることも可能である。しかし、この場合、接触面1aの粗化を行う工程を研磨工程とは別に備える必要が生じる。そのため、設備コストや作業の手間という観点からは、通常一般に研磨工程として行っているラップ処理により接触面1aの表面粗さRaを制御することが望ましい。
【0026】
本実施の形態では、半導体素子1として、その接触面1aがGaAs基板またはシリコン基板から構成されるものを用いた。なお、半導体素子1の種類は特に限定されない。
【0027】
次に、半導体素子1の接触面1aの表面粗さRaを、0.1μm以上0.5μm未満とする理由について、より詳細に説明する。
【0028】
表面粗さRaの異なる半導体素子1を使用して超音波フリップチップ実装を実施し、実装前と実装後の半導体素子1の接触面1aの表面粗さRaを比較し、チッピングやクラックの有無を確認した。
【0029】
半導体素子1としては、その接触面1aがGaAs基板から構成されるものを用いた。また、吸引ノズル2としては、吸着面2aの表面粗さRaが0.35μmのものを用いた。
【0030】
超音波フリップチップ実装時の超音波条件としては、超音波ツール(吸引ノズル2)振幅を5μm、超音波ツール振動周波数を60kHz、超音波印加時間を0.3秒、超音波印加時の荷重をバンプ5ひとつあたり30gとした。
【0031】
接触面1aの表面粗さRaは、レーザ顕微鏡により測定(500倍、基準長さ50μm)した。測定結果を
図2(a)に示す。
【0032】
図2(a)に示すように、実装前の接触面1aの表面粗さRaが0.1μm以上であれば、実装後の接触面1aの表面粗さRaは0.1〜0.2μm程度となった。
図2(b)に示すように、実装前の接触面1aの表面粗さRaが0.1μm以上であれば、超音波フリップチップ実装時に接触面1aの表面の凹凸が削られて、実装後に0.1〜0.2μm程度の表面粗さRaになると考えられる。
【0033】
なお、上述のように、半導体素子1の接触面1aの表面粗さRaが0.5μm以上になるようにラップ処理により研磨を行うと、研磨時に微小なクラック等が発生し易く信頼性や歩留りが低下してしまうので、ここでは実装前の接触面1aの表面粗さRaを0.5μm未満としている。
【0034】
実装前の半導体素子1の接触面1aの表面粗さRaを0.1μm以上0.5μm未満とした場合、チッピングやクラックの発生は確認できなかった。
【0035】
これに対して、接触面1aの表面粗さRaを0.1μm未満の平滑面とした場合(
図2(a)にて破線で囲った部分)では、
図2(c)に示すように、実装後に接触面1aの表面粗さRaが大きくなった。実装後の接触面1aを確認したところ、明らかに超音波フリップチップ実装時に発生したと思われる微小な傷が確認できた。また、吸引ノズル2と半導体素子1とが局所的に接触することによりチッピングやクラックが発生した。
【0036】
なお、ここでいうチッピングとは、
図3に示すように、半導体素子1の端部が貝殻状に欠けることであり、その欠けの深さが、半導体素子1の側面高さ(図示の場合0.2mm)の1/4以上となったときに、チッピングが発生したと判断した。また、クラックとは、
図4に示すように、吸引ノズル2による傷が起点となり、半導体素子1が断裂すること(ひび割れること)であり、明らかな断裂が確認できる場合にクラックが発生したと判断した。
【0037】
なお、超音波フリップチップ実装前に既に半導体素子1にクラックが入っている場合には、超音波を印加することでそのクラックが起点となって半導体素子1が破断するため、超音波フリップチップ実装を行うことで不具合品も検出することも可能である。
【0038】
以上説明したように、本実施の形態に係るフリップチップ実装方法では、実装前の半導体素子1の吸引ノズル2への接触面1aの表面粗さRaを、0.1μm以上0.5μm未満としている。
【0039】
半導体素子1の接触面1aの表面粗さRaは研磨工程のラップ処理で容易に制御できることから、接触面1aの表面粗さRaを0.1μm以上0.5μm未満とすることで、超音波フリップチップ実装時に半導体素子1にチッピングやクラックが発生することを簡単に抑制することが可能になり、高い信頼性と歩留りを実現できる。
【0040】
また、本実施の形態では、半導体素子1の接触面1aにラップ処理を行うことで、接触面1aの表面粗さRaを0.1μm以上0.5μm未満としているため、通常一般に研磨工程で行っているラップ処理にて表面粗さRaを制御することができ、接触面1aの粗化を行う工程を別途備える必要がない。よって、設備コストや製造コストを抑制し、低コスト化を図ることが可能になる。
【0041】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0042】
例えば、上記実施の形態では、半導体素子1の接触面1aが、GaAs基板またはシリコン基板から構成される場合について説明したが、これに限定されず、半導体素子1の接触面1aが超音波フリップチップ実装時にチッピングやクラックが発生し易い材質からなる場合であれば、本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 半導体素子
1a 接触面
2 吸引ノズル
2a 吸着面
3 基板
4 電極
5 バンプ
6 電極