【実施例】
【0049】
以下、実施例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0050】
[実施例1−1]
(1)ニッケル粉に対して分散移行促進剤をコーティングする工程
まず、JFEミネラル社製ニッケル超微粉100g(規格名:NFP401、平均粒径0.4μm、比表面積1.7m
2/g)を水に混合し20質量%のスラリー濃度としたニッケル粉水スラリーを500g作製した。
【0051】
次に、有機溶剤としてジヒドロターピネオール(日本香料株式会社製)30gを用意し、次に分散移行促進剤として川研ファインケミカル株式会社製の陰イオン界面活性剤であるラウロイルサルコシン(商品名、ソイポンSLA)粉末0.4gを溶解し、分散移行促進剤有機溶液30.4gを調製した。
【0052】
その後、上記のニッケル粉水スラリーを500gに、分散移行促進剤溶液30.4gを加え、エクセルオートホモジナイザー(日本精機社製)で周速10m/sの回転速度で2分間混合撹拌して、分散移行促進剤をニッケル粉にコートした。このようにして、理論計算値の1.68倍量の分散移行促進剤をコートしたニッケル粉有機スラリーを得た(S
1/W=0.076)
【0053】
なお、上記処理条件は、Ni粉100gの表面積は1.7×100=170m
2で、このニッケル粉の表面1m
2をコートするための分散移行促進剤の添加量は、前述したとおり0.00182g/m
2であり、理論計算量X値は170×0.00182g/m
2=0.31gと算出され、実施例1で添加した分散移行促進剤ソイポンSLA粉末0.40gは、理論計算量X値の1.29倍量である。
【0054】
次に、ジヒドロターピネオールにエチルセルロースを投入し、撹拌しながら80℃に加熱して有機ビヒクル(16.7質量%エチルセルロース)を得た。次に、有機ビヒクル36gと、分散移行促進剤をコートしたニッケル粉有機スラリーの130gを三本ロールにて十分に混錬し、ニッケルペーストを得た。
【0055】
(水分率の測定)
得られたニッケルペーストについて、水分率を、電量滴定式カールフィッシャー水分計(京都電子工業製)を用いて180℃における残留水分を測定した結果、0.38質量%と極め少なかった。
【0056】
〈乾燥膜密度の測定〉
得られたペーストをPETフィルム上にアプリケーターを用いて200μmの厚さに塗布し、120℃で40分間乾燥させた。得られた膜について、φ40mmになるように切り抜き、面積、膜厚及び重量を測定し、これらのデータから乾燥膜密度を算出した結果、5.7g/cm
3と高い膜密度が得られた。
【0057】
[実施例1−2]
分散移行促進剤の添加量を0.60gとし、使用するニッケル粉をJFEミネラル社製ニッケル超微粉(規格名:NFP301S、平均粒径0.3μm、比表面積2.6m
2/g)とした以外は実施例1−1と同様にしてニッケルペーストを作製した。理論計算量X値は0.47gであり、添加した分散移行促進剤の添加量は理論計算量X値の1.28倍量であった。
【0058】
[実施例1−3]
分散移行促進剤の添加量を0.85gとし、使用するニッケル粉をJFEミネラル社製ニッケル超微粉(規格名:NFP201S、平均粒径0.2μm、比表面積3.7m
2/g)とした以外は実施例1−1と同様にしてニッケルペーストを作製した。理論計算量X値は0.67gであり、添加した分散移行促進剤の添加量は理論計算量X値の1.27倍量であった。
【0059】
[実施例1−4]
有機ビヒクル濃度を25質量%とし、20gを添加した以外は実施例1−1と同様にしてニッケルペーストを得た。
【0060】
[実施例1−5]
分散移行促進剤の添加量を0.80gとし、理論計算量X値の2.59倍量になるように添加した以外は、実施例1−1と同様にしてニッケルペーストを得た。
【0061】
[実施例1−6]
分散移行促進剤の添加量を0.40gとし、水スラリーと混合撹拌するときのS1/W比を0.076から0.15とした以外は、実施例1−1と同様にしてニッケルペーストを得た。
【0062】
[比較例1−1]
実施例1と同様の処理によりニッケル有機スラリーを得て、その後、自然濾過及び脱水(東洋油圧機械社製:ホットプレートプレスESE−377−00:室温、0.6MPa×30sec、2回)を行い、分散移行促進剤をコーティングしたニッケル粉ケーキを得た。このニッケル粉ケーキでは、残留水分は15.2質量%と極めて高いことがわかり、以後の評価を行わなかった。
【0063】
[比較例1−2]
実施例1−1と同じ材料を使用したが、分散移行促進剤であるソイポンSLA粉末を有機溶剤に溶解させずに直接ニッケル粉水スラリーに添加した。粉末が溶解せずNi粉表面にコーティングできていないため、以後の評価を行わなかった。
【0064】
[比較例1−3]
有機溶剤としてのジヒドロターピネオール(日本香料株式会社製)を200gとし、ニッケル粉水スラリーとの混合するときのS
1/W比を0.075から0.50とした以外は、実施例1−1と同様にしてニッケルペーストを得た。S
1量が多すぎ、有機ビヒクルと混練しても水が分離できないため、以後の評価を行わなかった。
【0065】
[比較例1−4]
分散移行促進剤の添加量を0.10gとし、理論計算量X値の0.32倍量になるように添加した以外は、実施例1−1と同様にしてニッケルペーストを得た。分散移行促進剤の添加量が少な過ぎるため、残留水分量が22.3質量%ときわめて高くペースト化ができなかった。
【0066】
[比較例1−5]
分散移行促進剤の添加量を1.50gとし、理論計算量X値の4.85倍量になるように添加した以外は、実施例1−1と同様にしてニッケルペーストを得た。分散移行促進剤の添加量が多すぎるため、残留水分量が16.7質量%ときわめて高くペースト化ができなかった。
【0067】
[比較例1−6]
有機溶剤としてのジヒドロターピネオール(日本香料株式会社製)を5gとし、ニッケル粉水スラリーとの混合するときのS
1/W比を0.075から0.013とした以外は、実施例1−1と同様にしてニッケルペーストを得た。S
1量が少なすぎるため水が多く残留し、有機ビヒクルと混練しても混ざらなかった。
【0068】
[比較例1−7]
有機ビヒクル濃度を9.1質量%とし、66g添加した以外は比較例6と同様にしてニッケルペーストを得た。比較例1−6に対して有機ビヒクル濃度が低いものを使用して混練したので、混練はできたが水分量が17.5質量%ときわめて高く、乾燥膜密度も2.3g/cm
3と低かった。
【0069】
以上の実施例1−1〜1−6及び比較例1−1〜1−7の結果を、まとめて表1から表4に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
次に、分散移行促進剤として、ラウロイルメチル−β−アラニン(商品名アラノンALA、川研ファインケミカル株式会社製、ニッケル粉の表面1m
2を被覆するのに必要な分散移行促進剤の量は0.00195g/m
2)を使用した実施例2−1〜2−5及び比較例2−1〜2−6について示す。
【0075】
[実施例2−1]
まず、住友金属鉱山製湿式還元法の平均粒径0.07μmのニッケル超微粉(NR707、平均粒径0.07μm、比表面積14.7m
2/g)100gの水系ニッケルスラリー(ニッケル粉濃度20質量%)を500gを作製した。次に、作製した水系ニッケルスラリー500gに、有機溶剤(ジヒドロターピネオール、日本香料株式会社製)50gに分散移行促進剤アラノンALA粉末(川研ファインケミカル株式会社製)4.0gを溶解したものを全量添加した。その後、エクセルオートホモジナイザー(日本精機社製)で周速10m/sの回転速度で2分間混合撹拌し、理論計算量X値の1.40倍量の分散移行促進剤をコートしたニッケル有機スラリーを得た。
【0076】
次に、ジヒドロターピネオールにエチルセルロースを投入し、撹拌しながら80℃に過熱して有機ビヒクル(25.0質量%エチルセルロース)を得た。次に、有機ビヒクル20gと、分散移行促進剤をコートしたニッケル粉有機スラリーを三本ロールにて十分に混錬してニッケルペーストを得た。実施例1と同様に得られたニッケルペーストを水分率(カールフィッシャー法)、乾燥膜密度を測定した。
【0077】
[実施例2−2〜2−5]
実施例2-2では、使用するニッケル粉をJFEミネラル社製ニッケル超微粉(規格名:NFP201S、平均粒径0.2μm、比表面積3.7m
2/g)として、分散移行促進剤を、表5に示す所定量で調製し、理論計算量X値の1.40倍量とした。また、S
1/W比を0.125とし、得られたニッケルペーストのビヒクル濃度は25質量%とした。
【0078】
実施例2-3では、分散移行促進剤を、表2−1に示す所定量で調製し、理論計算量X値の3.50倍量とした以外は実施例2−1と同様にした。
【0079】
実施例2-4では、使用するニッケル粉をJFEミネラル社製ニッケル超微粉(規格名:NFP401S、平均粒径0.4μm、比表面積1.7m
2/g)として、分散移行促進剤を、表5に示す所定量で調製し、理論計算量X値の2.41倍量とした。また、S
1/W比を0.075とし、得られたニッケルペーストのビヒクル濃度は16.7質量%とした。
【0080】
実施例2-5では、使用するニッケル粉をJFEミネラル社製ニッケル超微粉(規格名:NFP401S、平均粒径0.4μm、比表面積1.7m
2/g)として、分散移行促進剤を、表5に示す所定量で調製し、理論計算量X値の1.20倍量とした。また、S
1/W比を0.150とし、得られたニッケルペーストのビヒクル濃度は16.7質量%とした。
【0081】
また、比較例2−1〜比較例2−4として、表7に示した所定の調製条件にてニッケルペーストを作製した。
【0082】
以上の実施例2−1〜2−5及び比較例2−1〜2−4の結果を、まとめて表5から表8に示す。
【0083】
【表5】
【0084】
【表6】
【0085】
【表7】
【0086】
【表8】
【0087】
次に、分散移行促進剤として、ミリストイルメチル−β−アラニン(商品名アラノンAMA、川研ファインケミカル株式会社製、ニッケル粉の表面1m
2を被覆するのに必要な分散移行促進剤の量は0.00214g/m
2)を使用した実施例3−1〜3−5及び比較例3−1〜3−4について示す。
【0088】
[実施例3−1]
まず、ニッケル粉をJFEミネラル社製ニッケル超微粉(規格名:NFP401S、平均粒径0.4μm、比表面積1.7g/m
2)を使用し、水系ニッケルスラリー(ニッケル粉濃度20質量%)を500g作製した。次に、作製した水系ニッケルスラリー500gに、有機溶剤(ジヒドロターピネオール、日本香料株式会社製)20gに分散移行促進剤アラノンAMA粉末(川研ファインケミカル株式会社製)0.4gを溶解したものを20.4g全量添加した。その後、エクセルオートホモジナイザー(日本精機社製)で周速10m/sの回転速度で2分間混合撹拌し、理論計算量X値の1.1倍量の分散移行促進剤をコートした処理したニッケル有機スラリーを得た。
【0089】
次に、ジヒドロターピネオールにエチルセルロースを投入し、撹拌しながら80℃に過熱して有機ビヒクル(16.7質量%エチルセルロース)を得た。次に、有機ビヒクル36gと、分散移行促進剤をコートしたニッケル粉有機スラリーを三本ロールにて十分に混錬し、ニッケルペーストを得た。実施例1と同様に得られたニッケルペーストを水分率(カールフィッシャー法)、乾燥膜密度を測定した。
【0090】
[実施例3−2〜3−5]
実施例3-2では、使用するニッケル粉をJFEミネラル社製ニッケル超微粉(規格名:NFP301S、平均粒径0.3μm、比表面積2.6g/m
2)として、分散移行促進剤を、表9に示す所定量で調製し、理論計算量X値の1.1倍量とした。また、S
1/W比を0.05とし、得られたニッケルペーストのビヒクル濃度は16.7質量%とした。
【0091】
実施例3-3では、使用するニッケル粉をJFEミネラル社製ニッケル超微粉(規格名:NFP201S、平均粒径0.2μm、比表面積3.7g/m
2)として、分散移行促進剤を、表9に示す所定量で調製し、理論計算量X値の1.1倍量とした。また、S
1/W比を0.05とし、得られたニッケルペーストのビヒクル濃度は16.7質量%とした。
【0092】
実施例3-4では、使用するニッケル粉をJFEミネラル社製ニッケル超微粉(規格名:NFP201S、平均粒径0.2μm、比表面積3.7g/m
2)として、分散移行促進剤を、表9に示す所定量で調製し、理論計算量X値の1.1倍量とした。また、S
1/W比を0.025とし、得られたニッケルペーストのビヒクル濃度は16.7質量%とした。
【0093】
実施例3-5では、使用するニッケル粉をJFEミネラル社製ニッケル超微粉(規格名:NFP201S、平均粒径0.2μm、比表面積3.7g/m
2)として、分散移行促進剤を、表9に示す所定量で調製し、理論計算量X値の3.8倍量とした。また、S
1/W比を0.05とし、得られたニッケルペーストのビヒクル濃度は16.7質量%とした。
【0094】
また、比較例3−1〜比較例3−4として、表11に示した所定の調製条件にてニッケルペーストを作製した。
【0095】
以上の実施例3−1〜3−5及び比較例3−1〜3−4の結果を、まとめて表9から表12に示す。
【0096】
【表9】
【0097】
【表10】
【0098】
【表11】
【0099】
【表12】
【0100】
以上の実施例及び比較例の結果からもわかるように、本発明の条件の範囲内で得られたニッケルペーストは、水分率はいずれも極めて少なく、乾燥膜密度も高い緻密な膜が得られていることがわかり、これらのペーストには凝集粉がなく、分散性に優れていることがわかる。