(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
結合材、有機充填材、無機充填材、及び繊維基材を含有する摩擦材組成物であり、上記摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、上記無機充填材として平均粒子径(D50)が0.1〜4μmである酸化ジルコニウムを3〜20質量%含有し、粒子径が30μm以上の酸化ジルコニウムを実質的に含有せず、上記有機充填材としてカシューダストを2〜8質量%含有する摩擦材組成物。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の摩擦材組成物、これを用いた摩擦材及び摩擦部材について詳述する。なお、本発明の摩擦材組成物は、ノンアスベスト摩擦材組成物である。
【0014】
<摩擦材組成物>
本発明の摩擦材組成物は、結合材、有機充填材、無機充填材、及び繊維基材を含有する摩擦材組成物であり、上記摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、上記無機充填材として平均粒子径(D50)が0.1〜4μmである酸化ジルコニウムを3〜20質量%含有し、上記有機充填材としてカシューダストを2〜8質量%含有する摩擦材組成物である。上記構成により、本発明の摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材は、従来品と比較して制動時に生成する摩耗粉中の銅が少ないことから環境に優しく、かつ安定した摩擦係数を発現する。また上記構成により、良好な耐摩耗性、及び鳴き特性を発現することもできる。
【0015】
[結合材]
本発明の摩擦材組成物は結合材を含有する。結合材は、摩擦材組成物に含まれる有機充填材及び繊維基材等を一体化して、強度を与えるものである。本発明の摩擦材組成物に含まれる結合材は、通常、摩擦材に用いられる熱硬化性樹脂を用いることができる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂や、アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、カシュー変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂等の各種変性フェノール樹脂等が挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。良好な耐熱性、成形性及び摩擦係数を与えることから、フェノール樹脂、アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0016】
本発明の摩擦材組成物における、結合材の含有量は、5〜20質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましく、5〜10質量%であることがさらに好ましい。結合材の含有量を5〜20質量%の範囲とすることで、摩擦材の強度低下をより抑制でき、また、摩擦材の気孔率が減少し、弾性率が高くなることによる鳴き等の音振性能悪化をより抑制できる。
【0017】
[有機充填材]
本発明の摩擦材組成物は有機充填材を含有する。有機充填材は、摩擦材の音振性能や耐摩耗性等を向上させるための摩擦調整材として含まれるものである。本発明の摩擦材組成物に含まれる有機充填材としてはカシューダストが挙げられ、さらにゴム成分等を含ませることができる。
上記カシューダストは、カシューナッツシェルオイルを硬化させたものを粉砕して得られる、通常、摩擦材に用いられるものであればよい。
上記カシューダストの含有量は、2〜8質量%であり、2〜7質量%であることが好ましく、3〜7質量%であることがより好ましい。カシューダストの含有量が2〜8質量%の範囲外であると、摩擦材の弾性率が高くなることによる鳴き等の音振性能が悪化し、また耐熱性が悪化し、熱履歴により強度が低下する。
【0018】
上記ゴム成分としては、例えば、タイヤゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)等が挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
また、カシューダストとゴム成分とを併用してもよく、カシューダストをゴム成分で被覆したものを用いてもよいが、音振性能の観点から、カシューダストとゴム成分とを併用することが好ましい。
カシューダストとゴム成分とを併用する場合、カシューダストとゴム成分とは、質量比で1:4〜10:1の割合であることが好ましく、1:3〜9:1であることがより好ましく、1:2〜8:1であることがさらに好ましい。
【0019】
本発明の摩擦材組成物中における、有機充填材の含有量は、1〜20質量%であることが好ましく、1〜15質量%であることがより好ましく、2〜10質量%であることがさらに好ましい。有機充填材の含有量を1〜20質量%の範囲とすることで、摩擦材の弾性率が高くなることによる鳴き等の音振性能の悪化を避けることができ、また耐熱性の悪化、熱履歴による強度低下を避けることができる。
【0020】
[無機充填材]
本発明の摩擦材組成物は無機充填材を含有する。無機充填材は、摩擦材の耐熱性の悪化を抑制するために摩擦調整材として含まれるものである。
本発明の摩擦材組成物は、無機充填材として平均粒子径(D50)が0.1〜4μmである酸化ジルコニウムを3〜20質量%含有する。
【0021】
上記酸化ジルコニウムの含有量が3質量%未満であると、摩擦係数、特に高負荷制動時の摩擦係数の低下を抑制することができず、また耐摩耗性を発現することができない。酸化ジルコニウムの含有量が20質量%を超えると、摩擦係数の安定性が悪くなり、耐摩耗性を発現することができない。酸化ジルコニウムの含有量は3〜19質量%であることが好ましく、5〜19質量%であることがより好ましく、7〜17質量%であることがさらに好ましい。
【0022】
また上記酸化ジルコニウムの平均粒子径(D50)が0.1μm未満であると、摩擦係数の安定性が悪くなり、耐摩耗性を発現することができない。また、酸化ジルコニウムの平均粒子径(D50)が4μmを超えると、耐摩耗性が悪化する。
酸化ジルコニウムの平均粒子径(D50)は、0.1〜3μmであることが好ましく、0.1〜2.5μmであることがより好ましく、0.1〜2μmであることがさらに好ましい。なお、酸化ジルコニウムの平均粒子径(D50)は、レーザー回折粒度分布測定等の方法を用いて、粒子径分布を測定することで求めることができる。
具体的には、粒子径分布積算曲線を描いた時に粒子径の最も小さい粒子から順次積算して全体の50%に達するところの粒子径を、平均粒子径(D50)とする。体積分布は、例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置 LA・920((株)堀場製作所製)で測定することができる。
【0023】
また、摩擦材組成物は粒子径が30μm以上の酸化ジルコニウムを実質的に含有しないことが好ましい。粒子径が30μm以上の酸化ジルコニウムを実質的に含有しないことで、良好な摩擦係数が発現し、耐摩耗性の悪化を避けることができる。さらに、粒子径が20μm以上の酸化ジルコニウムを実質的に含有しないことがより好ましく、粒子径が10μm以上の酸化ジルコニウムを実質的に含有しないことがさらに好ましい。
上記「実質的に含有しない」とは、本発明の摩擦材組成物に含有される酸化ジルコニウムのうち、その含有量が1.0質量%以下であることをいい、好ましくは0.5質量%以下であることをいう。特に好ましくは30μmを超える酸化ジルコニウムを含有しないことである。
【0024】
なお、粒子径が30μm以上の酸化ジルコニウムを実質的に含有するかどうかは、レーザー回折粒度分布測定等の方法を用いて、粒子径の分布を測定することで求めることができる。具体的には、粒子径分布積算曲線を描いた時に粒子径の最も小さい粒子から順次積算して全体の99.9%に達するところの粒子径が30μmより小さければ、粒子径が30μm以上の酸化ジルコニウムを含有しないといえる。
粒子径分布は例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置 LA・920((株)堀場製作所製)で測定することができる。
【0025】
本発明の摩擦材組成物は、さらに、無機充填材として黒鉛を含有することが好ましい。黒鉛を含有することで、対面材への攻撃性を低下することができる。また黒鉛の平均粒子径(D50)は、1〜100μmであることが好ましい。黒鉛の平均粒子径を1μm以上とすることでより良好な摩擦係数、耐摩耗性が発現し、100μm以下とすることで、摩擦材の熱伝導率の低下をより避けることができる。黒鉛の平均粒子径は1〜50μmであることがより好ましく、1〜30μmであることがさらに好ましい。
なお、平均粒子径(D50)は、上記酸化ジルコニウムの平均粒子径(D50)と同様の方法で求めることができる。
【0026】
本発明の摩擦材組成物は、さらに無機充填材としてチタン酸塩を含有することが好ましい。チタン酸塩を含有することで摩擦係数の安定性を向上することができる。
なお、本発明において、チタン酸塩を含有する場合、針状のチタン酸塩は発癌性の観点から摩擦材に実質的に含有しないこと(例えば、5質量%以下、好ましくは含まないこと)が望まれている。チタン酸塩を含有する場合、チタン酸塩の形状は、柱状、板状、粒子状又は鱗片状のもの等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
チタン酸塩の形状は、例えば走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)観察から解析することができる。
【0027】
ここで、チタン酸塩の形状についての定義の一例を記載する。チタン酸塩に外接する直方体のうち最小の体積をもつ直方体(外接直方体)の最も長い辺を長径L、次に長い辺を短径B、最も短い辺を厚さTとして(B>Tとする)、チタン酸塩の形状をアスペクト比(L/T、L/B)で定義する。
針状のチタン酸塩とは、L/Tが10よりも大きく、L/Bが10よりも大きいチタン酸塩である。例えば、ティスモD、ティスモN(いずれも、大塚化学(株)製)等が挙げられる。
柱状のチタン酸塩とは、L/T=2〜10、L/B=2〜10であるチタン酸塩である。TOFIX−S(東邦マテリアル(株)製)等が挙げられる。
板状のチタン酸塩とは、L/Tが10よりも大きく、L/Bが10よりも小さいチタン酸塩である。例えば、TXAX−A、TXAX−MA、TXAX−KA、TXAX−CT(いずれも、(株)クボタ製)等が挙げられる。
【0028】
粒子状のチタン酸塩とは、L/Tが10よりも小さく、L/Bが2よりも小さいチタン酸塩である。例えば、TOFIX−SGL(東邦マテリアル(株)製)、GTX−C((株)クボタ製)等が挙げられる。
また、粒子状のチタン酸塩のうち、鱗のような薄板状の形状のものを鱗片状のチタン酸塩といい、例えば、テラセスPS、テラセスPM、テラセスL、テラセスTF−S(いずれも、大塚化学(株)製)等が挙げられる。
また、粒子状のチタン酸塩の平均粒子径が1〜50μm、比表面積が0.5〜10m
2/gのものが好ましい。なお、平均粒子径はメジアン径で表され、メジアン径とは、レーザー回折法の体積分布から求めた50%径をいう。また、比表面積は吸着ガスとして窒素ガスを用いたBET法等により求めることができる。
上記の様な柱状、板状、粒子状又は鱗片状等のチタン酸塩を用いることで、高い環境適合性と摩擦係数の安定性を両立することができる。
【0029】
本発明において好適に用いられるチタン酸塩としては、具体的には、柱状、板状、粒子状又は鱗片状のチタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム及びチタン酸マグネシウムカリウムが挙げられる。
またチタン酸塩を含有する場合、チタン酸塩の含有量は、摩擦材組成物中に10〜20質量%であることが好ましい。
【0030】
また、本発明の効果を損なわない程度であれば、本発明の摩擦材組成物に、上記酸化ジルコニウム、黒鉛及びチタン酸塩以外の、通常、摩擦材に用いられる無機充填材を組み合わせて用いることができる。
上記酸化ジルコニウム、黒鉛及びチタン酸塩以外の無機充填材としては、例えば、三硫化アンチモン、硫化スズ、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化ビスマス、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ドロマイト、コークス、黒鉛、マイカ、酸化鉄、バーミキュライト、硫酸カルシウム、タルク、クレー、ゼオライト、珪酸ジルコニウム、ムライト、クロマイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、シリカ、γ−アルミナ等の活性アルミナ等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。本発明において、無機充填材としては、対面材への攻撃性低下の観点から、硫酸バリウム、三硫化アンチモン、水酸化カルシウム、ゼオライト、珪酸ジルコニウム及びアルミナから選ばれる1種類又は2種類以上を含有することが好ましい。
【0031】
無機充填材の総含有量は、酸化ジルコニウムを含め、摩擦材組成物において20〜80質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることがより好ましく40〜70質量%であることがさらに好ましい。無機充填材の含有量を20〜80質量%とすると、耐熱性の悪化を避けることができる。
【0032】
[繊維基材]
本発明の摩擦材組成物は繊維基材を含有する。繊維基材は摩擦材において補強作用を示すものである。繊維基材としては、有機繊維、金属繊維、無機繊維等が挙げられる。
【0033】
本発明の摩擦材組成物は有機繊維としてアラミド繊維、アクリル繊維、セルロース繊維、フェノール樹脂繊維等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。この中でも、耐熱性、補強効果の観点から、アラミド繊維を用いることが好ましい。
【0034】
金属繊維としては銅繊維、黄銅繊維、青銅繊維、鉄繊維、チタン繊維、亜鉛繊維、アルミ繊維等を用いることができ、1種又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。この中でも、熱伝導率、融点、延性、引っ張り強度等の観点からは、銅繊維を用いることが好ましいが、環境への優しさの観点から、本発明では摩擦材組成物中、銅の含有量が銅元素として5質量%以下であること(銅繊維は実質的に含有しないこと)を要する。
本発明の摩擦材組成物は、銅繊維を実質的に含有しない場合でも、良好な摩擦係数の安定性を示し、また、良好な耐摩耗性、鳴き特性を発現することができる。
【0035】
無機繊維としては、セラミック繊維、生分解性セラミック繊維、鉱物繊維、炭素繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、アルミノシリケート繊維等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、耐摩耗性の観点から、鉱物繊維を用いることが好ましい。一方、環境への優しさ及び人体への影響の観点から、吸引性のチタン酸カリウム繊維等を含有しないことが好ましい。
【0036】
なお、ここでいう鉱物繊維とは、スラグウール等の高炉スラグ、バサルトファイバー等の玄武岩、その他の天然岩石等を主成分として溶融紡糸した人造無機繊維であり、Al元素を含む天然鉱物であることがより好ましい。具体的には、SiO
2、Al
2O
3、CaO、MgO、FeO、Na
2O等が含まれるもの、又はこれら化合物が1種又は2種以上含有されるものを用いることができ、より好ましくはこれらのうちAl元素を含むものが、鉱物繊維として用いることができる。摩擦材組成物中に含まれる鉱物繊維全体の平均繊維長が大きくなるほど摩擦材組成物中の各成分との接着強度が低下する傾向があるため、鉱物繊維全体の平均繊維長は500μm以下が好ましく、より好ましくは100〜400μmである。ここで、平均繊維長とは、該当する全ての繊維の長さの平均値を示した数平均繊維長のことをいう。例えば200μmの平均繊維長とは、摩擦材組成物原料として用いる鉱物繊維を無作為に50個選択し、光学顕微鏡で繊維長を測定し、その平均値が200μmであることを示す。
【0037】
本発明で用いられる鉱物繊維は、人体有害性の観点で生体溶解性であることが好ましい。ここでいう生体溶解性の鉱物繊維とは、人体内に取り込まれた場合でも短時間で一部分解され体外に排出される特徴を有する鉱物繊維である。具体的には、化学組成がアルカリ酸化物、アルカリ土類酸化物総量(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムの酸化物の総量)が18質量%以上で、かつ呼吸による短期バイオ永続試験で、20μm以上の繊維の質量半減期が40日以内又は腹膜内試験で過度の発癌性の証拠がないか又は長期呼吸試験で関連の病原性や腫瘍発生がないことを満たす繊維を示す(EU指令97/69/ECのNota Q(発癌性適用除外))。このような生体分解性鉱物繊維としては、SiO
2−Al
2O
3−CaO−MgO−FeO−Na
2O系繊維等が挙げられ、SiO
2、Al
2O
3、CaO、MgO、FeO、Na
2O等を任意の組み合わせで含有した繊維が挙げられる。市販品としてはLAPINUS FIBERS B.V製のRoxulシリーズ等が挙げられる。「Roxul」は、SiO
2、Al
2O
3、CaO、MgO、FeO、Na
2O等が含まれる。
【0038】
本発明の摩擦材組成物における繊維基材の含有量は、5〜40質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましく、5〜18質量%であることがさらに好ましい。繊維基材の含有量を5〜40質量%とすると、効き特性の著しい低下等の弊害を与えることなく、適度な補強効果を摩擦材に付与することができる。
【0039】
[その他の成分]
また、本発明の摩擦材組成物は、前記の材料以外に、必要に応じてその他の材料を配合することができ、例えば、銅粉、黄銅粉、亜鉛粉等の金属粉末等を配合することができ、これらの中では亜鉛粉が好ましい。
銅を含有する場合は、環境への優しさの観点から、摩擦材組成物中の銅の含有量を銅元素として5質量%以下とする必要がある。また、銅を多量に含有すると、金属皮膜による寄与が過剰となり、逆に熱履歴後の摩擦係数が上昇することで、効きの安定性が損なわれる傾向があるため、銅の含有量は上記含有量としている。
【0040】
<摩擦材及び摩擦部材>
本発明の摩擦材組成物は、これを成形することにより、自動車等のディスクブレーキパッドやブレーキライニング等の摩擦材として使用することができる。また本発明の摩擦材組成物を目的形状に成形、加工、貼り付け等の工程を施すことによりクラッチフェーシング、電磁ブレーキ、保持ブレーキ等の摩擦材としても使用することができる。本発明の摩擦材は摩擦係数の安定性に優れているため、制動時に負荷の大きいディスクブレーキパッドの摩擦材に好適である。
さらに、上記摩擦材を用いることにより、該摩擦材を摩擦面となるように形成した摩擦部材を得ることができる。摩擦材を用いて形成することができる摩擦部材としては、例えば、下記の構成等が挙げられる。
(1)摩擦部材のみの構成
(2)裏金と、該裏金の上に形成させ、摩擦面となる本発明の摩擦材組成物からなる摩擦部材とを有する構成
(3)上記(2)の構成において、裏金と摩擦部材との間に、裏金の接着効果を高めるための表面改質を目的としたプライマー層、裏金と摩擦部材の接着を目的とした接着層をさらに介在させた構成、等が挙げられる。
上記裏金は、摩擦部材の機械的強度の向上のために、通常、摩擦部材として用いるものであり、材質としては、金属又は繊維強化プラスチック等を用いることができ、例えば、鉄、ステンレス、無機繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック等が挙げられる。プライマー層及び接着層としては、通常、ブレーキシュー等の摩擦部材に用いられるものであればよい。
【0041】
本発明の摩擦材は、一般に使用されている方法を用いて製造することができ、本発明の摩擦材組成物を加熱加圧成形等して製造することができる。
詳細には、例えば、本発明の摩擦材組成物をレディーゲミキサー、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー等の混合機を用いて均一に混合し、この混合物を成形金型にて予備成形し、得られた予備成形物を成形温度130〜160℃、成形圧力20〜50MPaの条件で2〜10分間成形し、得られた成形物を150〜250℃で2〜10時間熱処理することにより本発明の摩擦材を得ることができる。なお、必要に応じて塗装、スコーチ処理、研磨処理等を行ってもよい。
【0042】
本発明の摩擦材組成物は、高負荷制動時及び熱履歴後の摩擦係数の低下を抑制し、かつ低温放置後の摩擦係数の上昇を抑制できる摩擦材を与えることから、ディスクブレーキパッドやブレーキライニング等の摩擦部材の「上張り材」として有用であり、さらに摩擦部材の「下張り材」として成形して用いることもできる。
なお、「上張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材であり、「下張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材と裏金との間に介在する、摩擦材と裏金との接着部付近の剪断強度、耐クラック性向上を目的とした層のことである。
【0043】
本発明によれば、自動車用ディスクブレーキパッドやブレーキライニング等の摩擦材に用いた際に、高負荷制動時、熱履歴後の摩擦係数の低下を抑制し、かつ低温放置後の摩擦係数の上昇を抑制する、つまり様々な制動条件で安定した摩擦係数を発現することができる。また、本発明の摩擦材組成物は、耐摩耗性にも優れ、さらに鳴き特性も優れる。また、本発明によれば、上記特性を有する摩擦材及び摩擦部材を提供することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0045】
<実施例1〜6及び比較例1〜8>
[ディスクブレーキパッドの作製]
表1及び2に示す配合量に従って材料を混合し、実施例1〜6及び比較例1〜8の摩擦材組成物を得た。なお、表1及び2の各成分の配合量の単位は、摩擦材組成物中の質量%である。
【0046】
この摩擦材組成物をレディーゲミキサー((株)マツボー社製、商品名:レディーゲミキサーM20)で混合し、この混合物を成形プレス(王子機械工業(株)製)で予備成形し、得られた予備成形物を成形温度145℃、成形圧力35MPaの条件で5分間成形プレス(三起精工(株)社製)を用いて、日立オートモティブシステムズ(株)製の裏金と共に加熱加圧成形し、得られた成形品を200℃で4.5時間熱処理し、ロータリー研磨機を用いて研磨し、500℃のスコーチ処理を行って、ディスクブレーキパッド(摩擦材の厚さ9.5mm、摩擦材投影面積52cm
2)を得た。
【0047】
なお、実施例及び比較例において使用した各種材料は次のとおりである。
(結合材)
・フェノール樹脂:日立化成(株)製(商品名:HP491UP)
(有機充填材)
・カシューダスト:東北化工(株)製(商品名:FF−1056)
・SBR粉:ミサワ東洋(株)製(商品名:粉末TPA)
(無機充填材)
・黒鉛:TIMCAL社製(商品名:KS15);平均粒子径(D50)=8.5μm
・チタン酸カリウム:大塚化学(株)製(商品名:テラセスTF−S、鱗片状)
・硫酸バリウム:堺化学(株)製(商品名:BA)
・アルミナ:昭和電工(株)製(商品名:A−43−M)
・珪酸ジルコニウム:第1稀元素化学工業(株)製(商品名:MZ1000B)
・三硫化アンチモン:Chemtall Ges.m.b.H製(商品名:FRICSTAR)
・水酸化カルシウム:秩父石炭工業(株)製(商品名:SA149)
・ゼオライト:水澤化学工業(株)製(商品名:シルトンB)
・酸化ジルコニウムA:第一稀元素化学工業(株)製(商品名:BR3QZ);平均粒子径(D50)=2.5μm
・酸化ジルコニウムB:第一稀元素化学工業(株)製(商品名:BRQZ);平均粒子径(D50)=5.7μm
・酸化ジルコニウムC:第一稀元素化学工業(株)製(商品名:BR12QZ);平均粒子径(D50)=6.7μm
・酸化ジルコニウムD:ユニバーサルアメリカ製(商品名:Z99 2−2.6);平均粒子径(D50)=1.4μm
・酸化ジルコニウムE:ユニバーサルアメリカ製(商品名:Z99 2−3.5);平均粒子径(D50)=2.9μm
・酸化ジルコニウムF:ユニバーサルアメリカ製(商品名:Z99 3−5);平均粒子径(D50)=4.1μm
【0048】
なお、酸化ジルコニウムCは、粒子径が30μm以上の酸化ジルコニウムを実質的に含み、酸化ジルコニウムB、Fは、粒子径が30μm以上の酸化ジルコニウムを実質的に含まず、酸化ジルコニウムEは粒子径が20μm以上の酸化ジルコニウムを実質的に含まず、酸化ジルコニウムA、Dは粒子径が10μm以上の酸化ジルコニウムを実質的に含まない。
なお、粒子径が30μm以上の酸化ジルコニウムを実質的に含有するかどうかは、レーザー回折粒度分布測定等の方法を用いて、粒子径の分布を測定することで求めた。具体的には、粒子径分布積算曲線を描いた時に粒子径の最も小さい粒子から順次積算して全体の99.9%に達するところの粒子径が30μより小さければ、粒子径が30μm以上の酸化ジルコニウムを実質的に含有しないといえる。20、10μm以上の酸化ジルコニウムを実質的に含有するかどうかについても同様の手法で求めることができる。粒子径分布は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置 LA・920((株)堀場製作所製)で測定した。
また、酸化ジルコニウムの平均粒子径(D50)は、粒子径分布積算曲線を描いた時に粒子径の最も小さい粒子から順次積算して全体の50%に達するところの粒子径を、平均粒子径(D50)とした。粒子径分布は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置 LA・920((株)堀場製作所製)で測定した。
【0049】
(繊維基材)
・アラミド繊維(有機繊維):東レ・デュポン(株)製(商品名:1F538)
・銅繊維(金属繊維):Sunny Metal製(商品名:SCA−1070)
・鉱物繊維(無機繊維):LAPINUS FIBERS B.V製(商品名:RB240 Roxul 1000)
(亜鉛粉)
・亜鉛粉:福田金属箔粉工業(株)製(商品名:Zn−At−200)
【0050】
[性能評価]
前記の方法で形成した実施例1〜6及び比較例1〜8のディスクブレーキパッドを、ブレーキダイナモ試験機(新日本特機(株)製)を用いて次に示す各種性能の評価を行った。実験には、一般的なピンスライド式のコレット型キャリパー及びキリウ社製ベンチレーテッドディスクローター(FC250)を用い、日産自動車(株)製スカイラインV35の慣性モーメントで評価を行った。評価結果を表1及び2に示した。
【0051】
(鳴き特性の評価)
ブレーキ鳴きを顕著に発生させるため、ディスクブレーキパッドには、一般的に鳴き防止のために装着される減衰シムを用いずに鳴き試験を行った。これにより、条件間の鳴き特性を効果的に比較評価できる。
低温鳴き特性の評価に関して説明する。最初に、JASO C427に準拠したすり合わせ(初速度50km/h、減速度0.3G、制動前ブレーキ温度100℃、制動回数200回)を行った。その後、温度−5℃、湿度40%RHの環境で2時間放置し、120秒のインターバルで車速10km/h、ブレーキ液圧0.5MPaの制動を10回繰り返した。上記の10回制動を1サイクルとし、各サイクル間で30分放置をはさんで計5サイクル実施した。計50回制動の内、70dB以上の音圧で計測されたブレーキ鳴きの発生率を、実施例1〜6及び比較例1〜8のディスクブレーキパッドについてそれぞれ評価し、低温鳴き性能とした。
低温鳴き発生率=((70dB以上の音圧が発生した回数)÷50)×100(%)
【0052】
(耐摩耗性(摩耗特性)の評価)
試験はJASO C427に準拠し、制動前ブレーキ温度が100、200、300、400℃におけるディスクパッドの摩耗量をそれぞれ計測し、耐摩耗性として評価した。
【0053】
(効き特性の評価)
摩擦係数:
摩擦係数は、自動車技術会規格JASO C406に準拠し、第2効力試験(通常制動時)、第2フェード試験(高負荷制動時)及び第3効力試験(熱履歴後)を行なった。
第2効力試験及び第3効力試験における、摩擦係数の平均値をそれぞれ算出した。また、第2フェード試験における摩擦係数のmin−minμ値(制動開始時から車両停止0.5秒前までの摩擦係数の最低値)を高負荷制動時の摩擦係数として評価した。
摩擦係数の変化率:
第2効力試験及び第3効力試験の間にフェード試験を実施するため、第2効力試験の摩擦係数及び第3効力試験の摩擦係数結果を比較することで、熱履歴前後での摩擦係数の変動を評価できる。第2効力試験の摩擦係数と比較した第3効力試験の摩擦係数の変化率は、熱履歴前後での摩擦係数安定性の観点から、95〜105%であることが望ましい。
さらに、上記の鳴き特性評価試験の−5℃条件における摩擦係数を低温時効力(低温時の摩擦係数)とした。この低温時効力と、上記の第2効力試験の摩擦係数とを比較することで、低温条件における摩擦係数の変動を評価できる。第2効力試験の摩擦係数と比較した低温時効力の変化率は、低温時の摩擦係数安定性、及び鳴き特性の観点から、100〜120%であることが望ましい。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
実施例1〜6は、元素としての銅を5質量%を超えて含有する比較例8と同水準の耐摩耗性を有しており、さらに低温時や熱履歴後における摩擦係数の安定性は比較例8より良好であった。また、メジアン半径が4μmを超える酸化ジルコニウムを含む比較例1〜3、酸化ジルコニウムの含有量が20質量%を超える比較例4、酸化ジルコニウムの含有量が3質量%未満である比較例5、カシューダストを8質量%より多く含有する比較例6、カシューダストを3質量%より少なく含有する比較例7と比較して、実施例1〜6は低温時鳴き発生率が低く、耐摩耗性も良好で、高負荷制動(フェード)時の摩擦係数が高く、低温時や熱履歴後でも摩擦係数安定性に優れることは明らかである。